説明

インクセット及びインクジェット記録方法

【課題】硬化性に優れ、被記録媒体への密着性に優れるインクセット、及び、該インクセットを使用したインクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】カチオン重合性化合物、カチオン重合開始剤、及び、着色剤を含有する着色液と、光酸発生剤を含有する下塗り液とを含むことを特徴とするインクセット。被記録媒体上に下塗り液を付与する下塗り液付与工程と、前記下塗り液を半硬化させる下塗り液半硬化工程と、半硬化された前記下塗り液上に着色液を吐出して画像形成を行う画像形成工程と、前記下塗り液及び前記着色液を完全に硬化させる完全硬化工程とを含み、前記下塗り液及び着色液を含むインクセットとして、前記インクセットを使用することを特徴とするインクジェット記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセット及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インク吐出口からインクを液滴で吐出するインクジェット方式は、小型で安価であり、被記録媒体に非接触で画像形成が可能である等の理由から多くのプリンタに用いられている。これらインクジェット方式の中でも、圧電素子の変形を利用しインクを吐出させるピエゾインクジェット方式、及び、熱エネルギーによるインクの沸騰現象を利用しインクを液滴吐出する熱インクジェット方式は、高解像度、高速印字性に優れるという特徴を有する。
【0003】
現在、インクジェットプリンタにより、普通紙あるいは、プラスチックなど非吸水性の被記録媒体にインクを打滴して印字する際のインクの高感度化や被記録媒体への定着性が重要な課題となっている。
また、インクジェット記録は、インクの液滴を画像データに従って吐出し、被記録媒体上にこれら液滴にてラインを形成したり、画像を形成するものである。特に高画質化を目指した検討のひとつとして、着色剤の高濃度化の検討も行われているが、インク深部への光透過性が減少するため十分な硬化感度が得られないという問題を抱えている。
【0004】
その例として、高精細な描画性を付与するために、反応性を有する2液式のインクを用い、被記録媒体上において両者を反応させるものがあり、例えば、塩基性ポリマーを有する液体を付着させた後、アニオン染料を含有するインクを記録する方法(例えば、特許文献1参照)や、カチオン性物質を含む液体組成物を適用した後、アニオン性化合物と色材を含有するインクを適用する方法(例えば、特許文献2参照)等が開示されている。
また、インクとして紫外線硬化型インクを適用し、被記録媒体上に吐出した紫外線硬化型色インクのドットにそれぞれの吐出タイミングに合わせて紫外線を照射し、増粘させて隣接するドットが互いに混合しない程度にプレ硬化させ、その後さらに紫外線を照射して本硬化させるインクジェット記録方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
さらに、透明又は半透明な非吸収性被記録媒体上に、放射線硬化型白色インクを下塗り層として均一に塗設し、放射線照射により固化あるいは増粘させた後に、放射線硬化型色インクセットを用いたインクジェット記録を行うことにより色インクの視認性、滲み、種々の被記録媒体間での画像が異なってしまう問題を改良する技術(例えば、特許文献4及び5参照)が提案されている。また、上記放射線硬化型白色インクに変えて、実質上、透明な活性光線硬化型インクをインクジェットヘッドにより塗設する技術(例えば、特許文献6、7及び8参照)も提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開昭63−60783号公報
【特許文献2】特開平8−174997号公報
【特許文献3】特開2004−42548号公報
【特許文献4】特開2003−145745号公報
【特許文献5】特開2004−42525号公報
【特許文献6】特開2005−96254号公報
【特許文献7】特開2006−137185号公報
【特許文献8】特開2006−137183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、硬化性に優れ、被記録媒体への密着性に優れるインクセット、及び、該インクセットを使用したインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、以下の<1>、<8>及び<9>に記載の手段により解決された。好ましい実施態様である<2>〜<7>及び<10>とともに以下に記載する。
<1> カチオン重合性化合物、カチオン重合開始剤、及び、着色剤を含有する着色液と、光酸発生剤を含有する下塗り液とを含むことを特徴とするインクセット、
<2> 前記下塗り液が、さらにカチオン重合性化合物を含有する、<1>に記載のインクセット、
<3> 前記カチオン重合性化合物が、少なくとも1種のオキセタン基含有化合物、及び、少なくとも1種のオキシラン基含有化合物を含む、<1>又は<2>に記載のインクセット、
<4> 前記下塗り液が、さらにラジカル重合開始剤及びラジカル重合性化合物を含有する、<1>に記載のインクセット、
<5> 前記下塗り液が界面活性剤を含有する、<1>〜<4>いずれか1つに記載のインクセット、
<6> 着色液の表面張力γAと下塗り液の表面張力γBとが、γA>γBの関係式を満たす、<1>〜<5>いずれか1つに記載のインクセット、
<7> インクジェット記録用である、<1>〜<6>いずれか1つに記載のインクセット、
<8> 被記録媒体上に下塗り液を付与する下塗り液付与工程と、前記下塗り液に光照射して酸を発生させる光照射工程と、前記下塗り液上に着色液を吐出して画像形成を行う画像形成工程と、前記下塗り液及び前記着色液を完全に硬化させる完全硬化工程とを含み、前記下塗り液及び着色液を含むインクセットとして、<1>〜<7>いずれか1つに記載のインクセットを使用することを特徴とするインクジェット記録方法、
<9> 被記録媒体上に下塗り液を付与する下塗り液付与工程と、前記下塗り液を半硬化させる下塗り液半硬化工程と、半硬化された前記下塗り液上に着色液を吐出して画像形成を行う画像形成工程と、前記下塗り液及び前記着色液を完全に硬化させる完全硬化工程とを含み、前記下塗り液及び着色液を含むインクセットとして、<1>〜<7>いずれか1つに記載のインクセットを使用することを特徴とするインクジェット記録方法、
<10> 前記下塗り液半硬化工程、及び/又は、前記完全硬化工程において、前記下塗り液を半硬化させる領域及び/又は完全硬化させる領域の湿度をコントロールする手段を有する、<9>に記載のインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、硬化性に優れ、被記録媒体への密着性に優れるインクセット、及び、該インクセットを使用したインクジェット記録方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(1)インクセット
本発明のインクセットは、少なくともカチオン重合性化合物、カチオン重合開始剤、及び、着色剤を含有する着色液と、光酸発生剤を含有する下塗り液とを少なくとも含むことを特徴とする。
前記インクセットは、インクジェット記録用として好適であり、このインクセットを用いることによって、インク深部における高感度化、及び被記録媒体への定着性(密着性)に優れたインクセットを提供することが可能となる。
本発明のインクセットを構成する主要用件について、以下に詳細に説明する。
【0010】
(着色液)
本発明のインクセットを構成する液体組成物のうち、着色液は、少なくともカチオン重合性化合物、カチオン重合開始剤、及び、着色剤を含有する。必要に応じて、上記成分に加えて、増感色素、界面活性剤等を含有していてもよい。
着色液に含有する重合性化合物をカチオン重合性化合物にすることによって、高濃度な画像や彩度高い画像を印字するために単位画素当たりに付与するインク液量を上げたり、インクに含まれる着色剤濃度を上げたりした場合でも、十分な膜内部の硬化性が得られる。
【0011】
カチオン重合性化合物は画像定着性の観点から、該着色液への添加濃度として、着色液の総重量に対して、40重量%以上98重量%以下であることが好ましく、50重量%以上95重量%以下であることがより好ましく、60重量%以上90重量%以下であることが特に好ましい。カチオン重合性化合物の添加量が上記範囲内であると、硬化性に優れ、また、粘度が適切であるので好ましい。
【0012】
カチオン重合開始剤の添加濃度としては、着色液の総重量に対して、0.1〜20.0重量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜18.0重量%、さらに好ましくは1.0〜15.0重量%である。カチオン重合開始剤の添加量が上記範囲内であると、硬化性に優れ、また、表面ベトツキ低減の観点から適切であるので好ましい。
【0013】
着色剤は、該着色液の添加濃度として、着色液の総重量に対して50重量%以下であることが好ましく、1重量%以上30重量%以下であることがより好ましく、2重量%以上20重量%以下であることが特に好ましい。着色剤の添加量が上記範囲内であると良好な画像濃度及び保存安定性が得られるので好ましい。
【0014】
該着色液は、増感色素を含有することも好ましく、該増感色素の添加濃度としては、着色液の総重量に対して、0.1〜15.0重量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜10.0重量%、さらに好ましくは1.0〜8.0重量%である。添加量が上記範囲内であると、良好な膜内部の硬化性を得ることができるので好ましい。
【0015】
該着色液体は、室温で液体であればよいが、インクジェットによる打滴適正の観点から、25℃における粘度は100mPa・s以下又は60℃における粘度が30mPa・s以下であることが好ましく、25℃における粘度は60mPa・s以下又は60℃における粘度が20mPa・s以下であることがより好ましく、25℃における粘度は40mPa・s以下又は60℃における粘度が15mPa・s以下であることが特に好ましい。
同じく、インクジェットによる打滴適正の観点から、該着色液の25℃における表面張力は18mN/m以上40mN/m以下が好ましく、20mN/m以上35mN/m以下がより好ましく、22mN/m以上32mN/m以下がさらに好ましい。
ここでの「粘度」は、東機産業(株)製のRE80型粘度計を用いて求めた粘度である。RE80型粘度計は、E型に相当する円錐ロータ/平板方式粘度計であり、ロータコードNo.1番のロータを用い、10rpmの回転数にて測定を行った。但し、60mPa・sより高粘度なものについては、必要により回転数を5rpm、2.5rpm、1rpm、0.5rpm等に変化させて測定を行った。
また、ここで、前記表面張力は、一般的に用いられる表面張力計(例えば、協和界面科学(株)製、表面張力計CBVP−Z等)を用いて、ウィルヘルミー法で液温25℃にて測定した値である。
【0016】
(下塗り液)
本発明のインクジェット記録用インクセットを構成する液体組成物のうち、下塗り液は、光酸発生剤を含有することを特徴とする。
下塗り液が光の照射によって酸を発生する光酸発生剤を含有することによって、着色液の高感度化が可能になり、特に着色液深部の高感度化の向上が可能となり、基材密着性に優れたインクセット及び画像形成方法を提供することができる。
【0017】
光酸発生剤は着色液感度向上の観点から、該下塗り液への添加濃度として、下塗り液の総重量に対して、0.1〜30.0重量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜25.0重量%、さらに好ましくは1.0〜20.0重量%である。光酸発生剤の添加量が上記範囲内であると、着色液深部の硬化性に優れるので好ましい。
【0018】
なお、下塗り液は、光酸発生剤及びカチオン重合性化合物を含有することが好ましい。この場合、カチオン重合性化合物の含有量は、下塗り液の総重量に対して、80重量%以上99.9重量%以下であることが好ましく、82重量%以上99.5重量%以下であることがより好ましく、85重量%以上99重量%以下であることがさらに好ましい。カチオン重合性化合物の含有量が上記範囲内であると、硬化性に優れるので好ましい。また下塗り液に含まれる光酸発生剤の含有量は、下塗り液の総重量に対して、0.1重量%以上20.0重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以上18.0重量%以下であることがより好ましく、1.0重量%以上15.0重量%以下であることがさらに好ましい。光酸発生剤の含有量が上記範囲内であると、硬化性に優れるので好ましい。
【0019】
また、下塗り液は、光酸発生剤、ラジカル重合開始剤及びラジカル重合性化合物を含有することもできる。この場合、光酸発生剤の含有量は、下塗り液の総重量に対して、0.1重量%以上20.0重量%以下とすることが好ましく、0.5重量%以上18.0重量%以下とすることがより好ましく、1.0重量%以上15.0重量%以下とすることがさらに好ましい。また、ラジカル重合性化合物の含有量は80.0重量%以上99.9重量%以下とすることが好ましく、82.0重量%以上99.5重量%以下とすることがより好ましく、85.0重量%以上99.0重量%以下とすることがさらに好ましい。この場合、ラジカル重合開始剤の含有量は、0.5重量%以上18.0重量%以下とすることがより好ましく、1.0重量%以上15.0重量%以下とすることがさらに好ましい。光酸発生剤、ラジカル重合開始剤及びラジカル重合性化合物の添加量が上記範囲内であると、硬化性に優れるので好ましい。
【0020】
さらに、下塗り液が、光酸発生剤及び溶剤を含有する態様とすることもできる。この場合、使用する溶剤としては光酸発生剤を溶解し、かつ光により発生した酸を失活させない有機溶媒であれば、特に制限はないが、このような観点から溶解性にも優れ、かつ発生酸を阻害しないケトン類、エステル類、エーテル類、グリコールエーテル類、アルコール類などを例示できる。また、印刷物の画質性能の観点からは揮発性の高い溶媒が好ましく、大気圧(1atm)における沸点が40℃〜160℃とすることが好ましく、50℃〜150℃の範囲であることがさらに好ましい。
【0021】
これらの中でも、下塗り液は、少なくとも光酸発生剤及びカチオン重合性化合物を含む、光硬化性組成物であることが好ましく、これらの成分に加えて、界面活性剤を含有することがより好ましい。
【0022】
被記録媒体上に均一に塗設する観点から、下塗り液の25℃における粘度は1,000mPa・s以下又は60℃における粘度が300mPa・s以下であることが好ましく、25℃における粘度は600mPa・s以下又は60℃における粘度が200mPa・s以下であることがより好ましく、25℃における粘度は400mPa・s以下又は60℃における粘度が150mPa・s以下であることが特に好ましい。
【0023】
同じく、被記録媒体上に均一に塗設する観点から、下塗り液の25℃における表面張力は16mN/m以上38mN/m以下が好ましく、18mN/m以上33mN/m以下がより好ましく、20mN/m以上30mN/m以下がさらに好ましい。
また、画像の色再現性を高める観点から、該下塗り液は実質的に着色剤は含有しないか、もしくは、白色顔料を含有することが好ましい。なお、前記「着色剤を実質的に含有しない」とは、これは無色透明の染料・顔料の含有や、視認できない程度のごく微量の顔料の含有をも除外するものではない。その許容量としては、下塗り液全重量に対して1重量%以下であることが好ましく、含有しないことが特に好ましい。また、好ましく用いることができる白色顔料は、(着色剤)の項目に記載する。
以下、着色液及び下塗り液に使用される各種成分について説明する。
【0024】
(カチオン重合性化合物)
本発明におけるカチオン重合性化合物としては、何らかのエネルギー付与によりカチオン重合反応を生起し、硬化する化合物であれば特に制限はなく、モノマー、オリゴマー、ポリマーの種を問わず使用することができるが、特に、後述する光酸発生剤を含むカチオン重合開始剤から発生する開始種により重合反応を生起する、光カチオン重合性モノマーとして知られる各種公知のカチオン重合性のモノマーを使用することができる。また、カチオン重合性化合物は単官能化合物であっても、多官能化合物であってもよい。
【0025】
本発明におけるカチオン重合性化合物としては、硬化性及び耐擦過性の観点から、オキセタン環含有化合物及びオキシラン環含有化合物が好適であり、オキセタン基含有化合物(オキセタン環含有化合物)及びオキシラン基含有化合物(オキシラン環含有化合物)の両方を含有する態様がより好ましい。
ここで、着色液が含有するカチオン重合性化合物をカチオン重合性化合物(1)、下塗り液が含有するカチオン重合性化合物をカチオン重合性化合物(2)としたとき、カチオン重合性化合物(1)及び/又はカチオン重合性化合物(2)が、少なくとも1種のオキセタン基含有化合物及び少なくとも1種のオキシラン基含有化合物を含有する態様が好ましい。
【0026】
ここで、本明細書において、オキシラン環含有化合物(以下、適宜「オキシラン化合物」と称する場合がある。)とは、分子内に、少なくとも1つのオキシラン環(オキシラニル基、エポキシ基)を含む化合物であり、具体的にはエポキシ樹脂として通常用いられているものの中から適宜選択することができ、例えば、従来公知の芳香族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂が挙げられる。モノマー、オリゴマー及びポリマーのいずれであってもよい。また、オキセタン環含有化合物(以下、適宜「オキセタン化合物」と称する場合がある。)とは、分子内に少なくとも1つのオキセタン環(オキセタニル基)を含む化合物である。
【0027】
以下、本発明に適用し得るカチオン重合性化合物について詳細に説明する。
カチオン重合性モノマーとしては、例えば、特開平6−9714号、特開2001−31892号、同2001−4006号8、同2001−55507号、同2001−310938号、同2001−310937号、同2001−220526号などの各公報に記載されているエポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物などが挙げられる。
【0028】
本発明に用い得る単官能エポキシ化合物の例としては、例えば、フェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、1,2−ブチレンオキサイド、1,3−ブタジエンモノオキサイド、1,2−エポキシドデカン、エピクロロヒドリン、1,2−エポキシデカン、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、3−メタクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−アクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−ビニルシクロヘキセンオキサイド等が挙げられる。
【0029】
また、多官能エポキシ化合物の例としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールSジグリシジルエーテル、エポキシノボラック樹脂、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールSジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−7,8−エポキシ−1,3−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンオキサイド、4−ビニルエポキシシクロヘキサン、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−3',4’−エポキシ−6'−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールのジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,13−テトラデカジエンジオキサイド、リモネンジオキサイド、1,2,7,8−ジエポキシオクタン、1,2,5,6−ジエポキシシクロオクタン等が挙げられる。
これらのエポキシ化合物の中でも、芳香族エポキシド及び脂環式エポキシドが、硬化速度に優れるという観点から好ましく、特に脂環式エポキシドが好ましい。
【0030】
本発明に用い得る単官能ビニルエーテルの例としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、n−ノニルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルメチルビニルエーテル、4−メチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、ジシクロペンテニルビニルエーテル、2−ジシクロペンテノキシエチルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、ブトキシエチルビニルエーテル、メトキシエトキシエチルビニルエーテル、エトキシエトキシエチルビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールビニルエーテル、テトラヒドロフリフリルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、4−ヒドロキシメチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル、クロロブチルビニルエーテル、クロロエトキシエチルビニルエーテル、フェニルエチルビニルエーテル、フェノキシポリエチレングリコールビニルエーテル等が挙げられる。
【0031】
また、多官能ビニルエーテルの例としては、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ブチレングリコールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、ビスフェノールAアルキレンオキサイドジビニルエーテル、ビスフェノールFアルキレンオキサイドジビニルエーテルなどのジビニルエーテル類;トリメチロールエタントリビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、グリセリントリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、ジペンタエリスリトールペンタビニルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル、エチレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテルなどの多官能ビニルエーテル類等が挙げられる。
ビニルエーテル化合物としては、ジ又はトリビニルエーテル化合物が、硬化性、被記録媒体との密着性、形成された画像の表面硬度などの観点から好ましく、特にジビニルエーテル化合物が好ましい。
【0032】
本発明におけるオキセタン化合物としては、特開2001−220526号、同2001−310937号、同2003−341217号の各公報に記載される如き、公知のオキセタン化合物を任意に選択して使用できる。
【0033】
本発明に使用し得るオキセタン化合物としては、その構造内にオキセタン環を1〜4個有する化合物が好ましい。このような化合物を使用することで、インクジェット記録用液体の粘度をハンドリング性の良好な範囲に維持することが容易となり、また、硬化後のインクの被記録媒体との高い密着性を得ることができる。
【0034】
本発明で用いられる単官能オキセタン化合物の例としては、例えば、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−(メタ)アリルオキシメチル−3−エチルオキセタン、(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチルベンゼン、4−フルオロ−[1−(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル[ベンゼン、4−メトキシ−[1−(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、[1−(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)エチル]フェニルエーテル、イソブトキシメチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、イソボルニルオキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、イソボルニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−エチルヘキシル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、エチルジエチレングリコール(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンタジエン(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニルオキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、テトラヒドロフルフリル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、テトラブロモフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−テトラブロモフェノキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリブロモフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−トリブロモフェノキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−ヒドロキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−ヒドロキシプロピル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ブトキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタクロロフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタブロモフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ボルニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等が挙げられる。
【0035】
多官能オキセタン化合物の例としては、例えば、3,7−ビス(3−オキセタニル)−5−オキサ−ノナン、3,3’−(1,3−(2−メチレニル)プロパンジイルビス(オキシメチレン))ビス−(3−エチルオキセタン)、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、1,2−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]エタン、1,3−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]プロパン、エチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニルビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリシクロデカンジイルジメチレン(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリメチロールプロパントリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、1,4−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ブタン、1,6−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ヘキサン、ペンタエリスリトールトリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ポリエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールペンタキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジトリメチロールプロパンテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、エチレンオキサイド(EO)変性ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、プロピレンオキサイド(PO)変性ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、EO変性水添ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、PO変性水添ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、EO変性ビスフェノールF(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等の多官能オキセタンが挙げられる。
【0036】
このようなオキセタン化合物については、前記特開2003−341217号公報、段落0021乃至0084に詳細に記載され、ここに記載の化合物は本発明にも好適に使用し得る。
本発明で使用するオキセタン化合物の中でも、インクジェット記録用液体の粘度と粘着性の観点から、オキセタン環を1〜2個有する化合物を使用することが好ましい。
【0037】
本発明においては、これらのカチオン重合性化合物は、1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0038】
(カチオン重合開始剤及び光酸発生剤)
本発明において、着色液は、カチオン重合開始剤を含有する。カチオン重合開始剤としては、放射線の照射により酸を発生する化合物(以下、酸発生剤又は光酸発生剤ともいう。)であることが好ましい。また、本発明において、下塗り液は光酸発生剤を含有する。
下塗り液が光酸発生剤を含有することにより、光の照射により下塗り液中に酸が発生し、これにより、着色液の硬化性が高まるとともに、基材密着性が向上する。
本発明に用いることのできるカチオン重合開始剤、好ましくは光酸発生剤としては、光カチオン重合の光開始剤、あるいはマイクロレジスト等に使用されている光(400〜200nmの紫外線、遠紫外線、特に好ましくは、g線、h線、i線、KrFエキシマレーザー光)、ArFエキシマレーザー光、電子線、X線、分子線又はイオンビームなどの照射により酸を発生する化合物を適宜選択して使用することができる。
【0039】
このような光酸発生剤としては、放射線の照射により分解して酸を発生する、ジアゾニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩、ヨードニウム塩などのオニウム塩化合物、イミドスルホネート、オキシムスルホネート、ジアゾジスルホン、ジスルホン、o−ニトロベンジルスルホネート等のスルホネート化合物などを挙げることができる。
【0040】
また、その他の光酸発生剤としては、例えば、S. I. Schlesinger, Photogr. Sci. Eng., 18, 387 (1974)、T. S. Bal et al, Polymer, 21, 423 (1980)等に記載のジアゾニウム塩、米国特許第4,069,055号、同4,069,056号、同 Re 27,992号、特開平3−140140号等に記載のアンモニウム塩、D. C. Necker et al, Macromolecules, 17, 2468 (1984)、C. S. Wen et al, Teh, Proc. Conf. Rad. Curing ASIA, p478 Tokyo, Oct (1988)、米国特許第4,069,055 号、同4,069,056号等に記載のホスホニウム塩、J. V. Crivello et al, Macromorecules, 10(6), 1307 (1977)、Chem. & Eng. News, Nov. 28, p31 (1988)、欧州特許第104,143号、同第339,049号、同第410,201号、特開平2−150848号、特開平2−296514号等に記載のヨードニウム塩、
【0041】
J. V. Crivello et al, Polymer J. 17, 73 (1985)、J. V. Crivello et al, J. Org. Chem., 43, 3055 (1978)、W. R. Watt et al, J. Polymer Sci., Polymer Chem. Ed., 22, 1789 (1984)、J. V. Crivello et al, Polymer Bull., 14, 279 (1985)、J. V. Crivello et al, Macromorecules, 14(5), 1141 (1981)、J. V. Crivello et al, J. Polymer Sci., Polymer Chem. Ed., 17, 2877 (1979)、欧州特許第370,693号、同161,811号、同410,201号、同339,049号、同233,567号、同297,443号、同297,442号、米国特許第3,902,114号、同4,933,377号、同4,760,013号、同4,734,444号、同2,833,827号、独国特許第2,904,626号、同3,604,580号、同3,604,581号、特開平7−28237号、同8−27102号等に記載のスルホニウム塩、
【0042】
J. V. Crivello et al, Macromorecules, 10(6), 1307 (1977)、J. V. Crivello et al, J. Polymer Sci., Polymer Chem. Ed., 17, 1047 (1979)等に記載のセレノニウム塩、C. S. Wen et al, Teh, Proc. Conf. Rad. Curing ASIA, p478 Tokyo, Oct (1988)等に記載のアルソニウム塩等のオニウム塩、米国特許第3,905,815号、特公昭46−4605号、特開昭48−36281号、特開昭55−32070号、特開昭60−239736号、特開昭61−169835号、特開昭61−169837号、特開昭62−58241号、特開昭62−212401号、特開昭63−70243号、特開昭63−298339号等に記載の有機ハロゲン化合物、K. Meier et al, J. Rad. Curing, 13(4), 26 (1986)、T. P. Gill et al, Inorg. Chem., 19, 3007 (1980)、D. Astruc, Acc. Chem. Res., 19(12), 377 (1986)、特開平2−161445号等に記載の有機金属/有機ハロゲン化物、
【0043】
S. Hayase et al, J. Polymer Sci., 25, 753 (1987)、E. Reichmanis et al, J. Polymer Sci., Polymer Chem. Ed., 23, 1 (1985)、Q. Q. Zhu et al, J. Photochem., 36, 85, 39, 317 (1987)、B. Amit et al, Tetrahedron Lett., (24) 2205 (1973)、D. H. R. Barton et al, J. Chem. Soc., 3571 (1965)、P. M. Collins et al, J. Chem. Soc., Perkin I, 1695 (1975)、M. Rudinstein et al,Tetrahedron Lett., (17), 1445 (1975)、J. W. Walker et al, J. Am. Chem. Soc., 110, 7170 (1988)、S. C. Busman et al, J. Imaging Technol., 11 (4), 191 (1985)、H. M. Houlihan et al, Macromolecules, 21, 2001 (1988)、P. M. Collins et al, J. Chem. Soc., Chem. Commun., 532 (1972)、S. Hayase et al, Macromolecules, 18, 1799 (1985)、E. Reichmanis et al, J. Electrochem. Soc., Solid State Sci. Technol., 130(6)、F. M. Houlihan et al, Macromolcules, 21, 2001 (1988)、欧州特許第0290,750号、同046,083号、同156,535号、同271,851号、同0,388,343号、米国特許第3,901,710号、同4,181,531号、特開昭60−198538号、特開昭53−133022号等に記載のO−ニトロベンジル型保護基を有する重合開始剤、
【0044】
M. TUNOOKA et al, Polymer Preprints Japan, 35(8)、G.Berner et al, J. Rad. Curing, 13(4)、W. J. Mijs et al, Coating Technol., 55 (697), 45 (1983)、Akzo H. Adachi et al, Polymer Preprints, Japan, 37(3)、欧州特許第0199,672号、同84515号、同044,115号、同第618,564号、同0101,122号、米国特許第4,371,605号、同4,431,774号、特開昭64−18143号、特開平2−245756号、特開平3−140109号等に記載のイミノスルフォネ−ト等に代表される光分解してスルホン酸を発生する化合物、特開昭61−166544号、特開平2−71270号等に記載のジスルホン化合物、特開平3−103854号、同3−103856号、同4−210960号等に記載のジアゾケトスルホン、ジアゾジスルホン化合物を挙げることができる。
【0045】
また、これらの光により酸を発生する基、あるいは化合物をポリマーの主鎖又は側鎖に導入した化合物、たとえば、M. E. Woodhouse et al, J. Am. Chem. Soc., 104, 5586 (1982)、S. P. Pappas et al, J. Imaging Sci., 30(5), 218 (1986)、S. Kondo et al, Makromol. Chem., Rapid Commun., 9, 625 (1988)、Y. Yamada et al, Makromol. Chem., 152, 153, 163 (1972)、J. V. Crivello et al, J. Polymer Sci., Polymer Chem. Ed., 17, 3845 (1979)、米国特許第3,849,137号、独国特許第3,914,407号、特開昭63−26653号、特開昭55−164824号、特開昭62−69263号、特開昭63−146038号、特開昭63−163452号、特開昭62−153853号、特開昭63−146029号等に記載の化合物を用いることができる。たとえば、ジアゾニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、セレノニウム塩、アルソニウム塩等のオニウム塩、有機ハロゲン化合物、有機金属/有機ハロゲン化物、o−ニトロベンジル型保護基を有する重合開始剤、イミノスルフォネート等に代表される光分解してスルホン酸を発生する化合物、ジスルホン化合物、ジアゾケトスルホン、ジアゾジスルホン化合物を挙げることができる。
【0046】
さらにV. N. R. Pillai, Synthesis, (1), 1 (1980)、A. Abad et al, Tetrahedron Lett., (47) 4555 (1971)、D. H. R. Barton et al, J. Chem. Soc., (C), 329 (1970)、米国特許第3,779,778号、欧州特許第126,712号等に記載の光により酸を発生する化合物も使用することができる。
【0047】
本発明に用いることができる光酸発生剤として好ましい化合物として、下記式(b1)、(b2)、(b3)で表される化合物を挙げることができる。
【0048】
【化1】

【0049】
式(b1)において、R201、R202及びR203は、各々独立に有機基を表す。
-は、非求核性アニオンを表し、好ましくはスルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、ビス(アルキルスルホニル)アミドアニオン、トリス(アルキルスルホニル)メチドアニオン、BF4-、PF6-、SbF6-や以下に示す基などが挙げられ、好ましくは炭素原子を有する有機アニオンである。
【0050】
【化2】

【0051】
好ましい有機アニオンとしては下式に示す有機アニオンが挙げられる。
【0052】
【化3】

【0053】
Rc1は、有機基を表す。
Rc1における有機基として炭素数1〜30のものが挙げられ、好ましくはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又はこれらの複数が、単結合、−O−、−CO2−、−S−、−SO3−、−SO2N(Rd1)−などの連結基で連結された基を挙げることができる。
Rd1は、水素原子、アルキル基を表す。
Rc3、Rc4、Rc5は、各々独立に、有機基を表す。
Rc3、Rc4、Rc5の有機基として、好ましくはRc1における好ましい有機基と同じものを挙げることができ、最も好ましくは炭素数1〜4のパーフロロアルキル基である。
Rc3とRc4が結合して環を形成していてもよい。
Rc3とRc4が結合して形成される基としてはアルキレン基、アリーレン基が挙げられる。好ましくは炭素数2〜4のパーフロロアルキレン基である。
Rc1、Rc3〜Rc5の有機基として、最も好ましくは1位がフッ素原子又はフロロアルキル基で置換されたアルキル基、フッ素原子又はフロロアルキル基で置換されたフェニル基である。フッ素原子又はフロロアルキル基を有することにより、光照射によって発生した酸の酸性度が上がり、感度が向上する。
【0054】
201、R202及びR203としての有機基の炭素数は、一般的に1〜30、好ましくは1〜20である。
また、R201〜R203のうち2つが結合して環構造を形成してもよく、環内に酸素原子、硫黄原子、エステル結合、アミド結合、カルボニル基を含んでいてもよい。R201〜R203の内の2つが結合して形成する基としては、アルキレン基(例えば、ブチレン基、ペンチレン基)を挙げることができる。
201、R202及びR203としての有機基の具体例としては、後述する化合物(b1−1)、(b1−2)、(b1−3)における対応する基を挙げることができる。
【0055】
なお、式(b1)で表される構造を複数有する化合物であってもよい。例えば、式(b1)で表される化合物のR201〜R203のうち少なくともひとつが、式(b1)で表される他の化合物におけるR201〜R203の少なくともひとつと直接、又は、連結基を介して結合した構造を有する化合物であってもよい。
【0056】
さらに好ましい(b1)成分として、以下に説明する化合物(b1−1)、(b1−2)、及び(b1−3)を挙げることができる。
化合物(b1−1)は、上記式(b1)のR201〜R203の少なくとも1つがアリール基である、アリールスルホニム化合物、即ち、アリールスルホニウムをカチオンとする化合物である。
アリールスルホニウム化合物は、R201〜R203の全てがアリール基でもよいし、R201〜R203の一部がアリール基で、残りがアルキル基、シクロアルキル基でもよい。
アリールスルホニウム化合物としては、例えば、トリアリールスルホニウム化合物、ジアリールアルキルスルホニウム化合物、アリールジアルキルスルホニウム化合物、ジアリールシクロアルキルスルホニウム化合物、アリールジシクロアルキルスルホニウム化合物等を挙げることができる。
アリールスルホニウム化合物のアリール基としてはフェニル基、ナフチル基などのアリール基、インドール残基、ピロール残基、などのヘテロアリール基が好ましく、さらに好ましくはフェニル基、インドール残基である。アリールスルホニム化合物が2つ以上のアリール基を有する場合に、2つ以上あるアリール基は同一であっても異なっていてもよい。
【0057】
アリールスルホニウム化合物が必要に応じて有しているアルキル基としては、炭素数1〜15の直鎖又は分岐状アルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等を挙げることができる。
アリールスルホニウム化合物が必要に応じて有しているシクロアルキル基としては、炭素数3〜15のシクロアルキル基が好ましく、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。
【0058】
201〜R203のアリール基、アルキル基、シクロアルキル基は、アルキル基(例えば炭素数1〜15)、シクロアルキル基(例えば炭素数3〜15)、アリール基(例えば炭素数6〜14)、アルコキシ基(例えば炭素数1〜15)、ハロゲン原子、水酸基、フェニルチオ基を置換基として有してもよい。好ましい置換基としては、炭素数1〜12の直鎖又は分岐状アルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数1〜12の直鎖、分岐又は環状のアルコキシ基であり、最も好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基である。置換基は、3つのR201〜R203のうち、いずれか1つに置換していてもよいし、3つ全てに置換していてもよい。また、R201〜R203がアリール基の場合に、置換基はアリール基のp−位に置換していることが好ましい。
【0059】
次に、化合物(b1−2)について説明する。
化合物(b1−2)は、式(b1)におけるR201〜R203が、各々独立に、芳香環を含有しない有機基を表す場合の化合物である。ここで芳香環とは、ヘテロ原子を含有する芳香族環も包含するものである。
201〜R203としての芳香環を含有しない有機基は、一般的に炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20である。
201〜R203は、各々独立に、好ましくはアルキル基、シクロアルキル基、アリル基、ビニル基であり、より好ましくは直鎖、分岐、環状2−オキソアルキル基、アルコキシカルボニルメチル基、特に好ましくは直鎖、分岐2−オキソアルキル基である。
【0060】
201〜R203としてのアルキル基は、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、好ましくは、炭素数1〜10の直鎖又は分岐アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基)を挙げることができ、直鎖、分岐2−オキソアルキル基、アルコキシカルボニルメチル基がより好ましい。
201〜R203としてのシクロアルキル基は、好ましくは、炭素数3〜10のシクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボニル基)を挙げることができ、環状2−オキソアルキル基がより好ましい。
201〜R203の直鎖、分岐、環状2−オキソアルキル基としては、好ましくは、上記のアルキル基、シクロアルキル基の2位に>C=Oを有する基を挙げることができる。
201〜R203としてのアルコキシカルボニルメチル基におけるアルコキシ基としては、好ましくは炭素数1〜5のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基)を挙げることができる。
201〜R203は、ハロゲン原子、アルコキシ基(例えば炭素数1〜5)、水酸基、シアノ基、ニトロ基によってさらに置換されていてもよい。
【0061】
化合物(b1−3)とは、以下の式(b1−3)で表される化合物であり、フェナシルスルフォニウム塩構造を有する化合物である。
【0062】
【化4】

【0063】
式(b1−3)において、R1c〜R5cは、各々独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を表す。
6c及びR7cは、各々独立に、水素原子、アルキル基又はシクロアルキル基を表す。
x及びRyは、各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アリル基、又はビニル基を表す。
1c〜R5c中のいずれか2つ以上、R6cとR7c、及びRxとRyは、それぞれ結合して環構造を形成してもよい。
Zc-は、非求核性アニオンを表し、式(b1)におけるX-の非求核性アニオンと同様のものを挙げることができる。
【0064】
1c〜R7cとしてのアルキル基は、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、例えば炭素数1〜20個、好ましくは炭素数1〜12個の直鎖及び分岐アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、直鎖又は分岐プロピル基、直鎖又は分岐ブチル基、直鎖又は分岐ペンチル基)を挙げることができる。
1c〜R7cのシクロアルキル基として、好ましくは、炭素数3〜8個のシクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基)を挙げることができる。
1c〜R5cとしてのアルコキシ基は、直鎖、分岐、環状のいずれであってもよく、例えば炭素数1〜10のアルコキシ基、好ましくは、炭素数1〜5の直鎖及び分岐アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、直鎖又は分岐プロポキシ基、直鎖又は分岐ブトキシ基、直鎖又は分岐ペントキシ基)、炭素数3〜8の環状アルコキシ基(例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基)を挙げることができる。
【0065】
1c〜R5c中のいずれか2つ以上、R6cとR7c、及びRxとRyが結合して形成する基としては、ブチレン基、ペンチレン基等を挙げることができる。この環構造は、酸素原子、硫黄原子、エステル結合、アミド結合を含んでいてもよい。
【0066】
好ましくはR1c〜R5cのうちいずれかが直鎖状若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基又は直鎖、分岐、環状アルコキシ基であり、さらに好ましくはR1cからR5cの炭素数の和が2〜15である。これにより、溶剤溶解性がより向上し、保存時にパーティクルの発生が抑制されるので好ましい。
【0067】
x及びRyとしてのアルキル基、シクロアルキル基は、R1c〜R7cとしてのアルキル基、シクロアルキル基と同様のものを挙げることができる。
x及びRyは、2−オキソアルキル基、アルコキシカルボニルメチル基であることが好ましい。
2−オキソアルキル基は、R1c〜R5cとしてのアルキル基、シクロアルキル基の2位に>C=Oを有する基を挙げることができる。
アルコキシカルボニルメチル基におけるアルコキシ基については、R1c〜R5cとしてのアルコキシ基と同様のものを挙げることができる。
x、Ryは、好ましくは炭素数4個以上のアルキル基、シクロアルキル基であり、より好ましくは6個以上、さらに好ましくは8個以上のアルキル基、シクロアルキル基である。
【0068】
式(b2)、(b3)中、R204〜R207は、各々独立に、アリール基、アルキル基又はシクロアルキル基を表す。X-は、非求核性アニオンを表し、式(b1)におけるX-の非求核性アニオンと同様のものを挙げることができる。
204〜R207のアリール基としてはフェニル基、ナフチル基が好ましく、さらに好ましくはフェニル基である。
204〜R207としてのアルキル基は、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、好ましくは、炭素数1〜10の直鎖又は分岐アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基)を挙げることができる。R204〜R207としてのシクロアルキル基は、好ましくは、炭素数3〜10のシクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボニル基)を挙げることができる。
204〜R207が有していてもよい置換基としては、例えば、アルキル基(例えば炭素数1〜15)、シクロアルキル基(例えば炭素数3〜15)、アリール基(例えば炭素数6〜15)、アルコキシ基(例えば炭素数1〜15)、ハロゲン原子、水酸基、フェニルチオ基等を挙げることができる。
【0069】
使用してもよい活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物として、さらに、下記式(b4)、(b5)、(b6)で表される化合物を挙げることができる。
【0070】
【化5】

【0071】
式(b4)〜(b6)中、Ar3及びAr4は、各々独立に、アリール基を表す。
206、R207及びR208は、各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基を表す。
Aは、アルキレン基、アルケニレン基又はアリーレン基を表す。
【0072】
前記光酸発生剤の中でも好ましいものとしては、式(b1)〜(b3)で表される化合物を挙げることができる。
本発明に用いることのできる光酸発生剤の好ましい化合物例〔(b−1)〜(b−96)〕を以下に挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
【化6】

【0074】
【化7】

【0075】
【化8】

【0076】
【化9】

【0077】
【化10】

【0078】
【化11】

【0079】
【化12】

【0080】
【化13】

【0081】
【化14】

【0082】
【化15】

【0083】
また、特開2002−122994号公報、段落番号〔0029〕乃至〔0030〕に記載のオキサゾール誘導体、s−トリアジン誘導体なども好適に用いられる。
特開2002−122994号公報、段落番号〔0037〕乃至〔0063〕に例示されるオニウム塩化合物、スルホネート系化合物も本発明に好適に使用し得る。
【0084】
光酸発生剤及びカチオン重合開始剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0085】
(着色剤)
本発明においては、着色液は、少なくとも着色剤を含有する。一方、下塗り液には、着色剤を含有していてもよいが、実質的に着色剤を含有しないか、又は、白色顔料を含有することが好ましい。
本発明において用いることのできる着色剤には、特に制限はなく、用途に応じて公知の種々の顔料、染料を適宜選択して用いることができる。中でも、着色液に含まれる着色剤としては、特に耐光性に優れるとの観点から顔料であることが好ましい。
【0086】
本発明に好ましく使用される顔料について述べる。
顔料としては、特に限定されるものではなく、一般に市販されているすべての有機顔料及び無機顔料、また、樹脂粒子を染料で染色したもの等も用いることができる。さらに、市販の顔料分散体や表面処理された顔料、例えば、顔料を分散媒として不溶性の樹脂等に分散させたもの、あるいは顔料表面に樹脂をグラフト化したもの等も、本発明の効果を損なわない限りにおいて用いることができる。
これらの顔料としては、例えば、伊藤征司郎編「顔料の辞典」(2000年刊)、W. Herbst, K. Hunger, Industrial Organic Pigments、特開2002−12607号公報、特開2002−188025号公報、特開2003−26978号公報、特開2003−342503号公報に記載の顔料が挙げられる。
【0087】
本発明において使用できる有機顔料及び無機顔料の具体例としては、例えば、イエロー色を呈するものとして、C.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG等)、C.I.ピグメントイエロー74の如きモノアゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー12(ジスアジイエローAAA等)、C.I.ピグメントイエロー17の如きジスアゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー200(Novoperm Yellow 2HG)の如き非ベンジジン系のアゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー100(タートラジンイエローレーキ等)の如きアゾレーキ顔料、C.I.ピグメントイエロー95(縮合アゾイエローGR等)の如き縮合アゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー115(キノリンイエローレーキ等)の如き酸性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントイエロー18(チオフラビンレーキ等)の如き塩基性染料レーキ顔料、フラバントロンイエロー(Y−24)の如きアントラキノン系顔料、イソインドリノンイエロー3RLT(Y−110)の如きイソインドリノン顔料、キノフタロンイエロー(Y−138)の如きキノフタロン顔料、イソインドリンイエロー(Y−139)の如きイソインドリン顔料、C.I.ピグメントイエロー153(ニッケルニトロソイエロー等)の如きニトロソ顔料、C.I.ピグメントイエロー117(銅アゾメチンイエロー等)の如き金属錯塩アゾメチン顔料等が挙げられる。
【0088】
赤あるいはマゼンタ色を呈するものとして、C.I.ピグメントレッド3(トルイジンレッド等)の如きモノアゾ系顔料、C.I.ピグメントレッド38(ピラゾロンレッドB等)の如きジスアゾ顔料、C.I.ピグメントレッド53:1(レーキレッドC等)やC.I.ピグメントレッド57:1(ブリリアントカーミン6B)の如きアゾレーキ顔料、C.I.ピグメントレッド144(縮合アゾレッドBR等)の如き縮合アゾ顔料、C.I.ピグメントレッド174(フロキシンBレーキ等)の如き酸性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントレッド81(ローダミン6G’レーキ等)の如き塩基性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントレッド177(ジアントラキノニルレッド等)の如きアントラキノン系顔料、C.I.ピグメントレッド88(チオインジゴボルドー等)の如きチオインジゴ顔料、C.I.ピグメントレッド194(ペリノンレッド等)の如きペリノン顔料、C.I.ピグメントレッド149(ペリレンスカーレット等)の如きペリレン顔料、C.I.ピグメントバイオレット19(無置換キナクリドン、CINQUASIA Magenta RT−355T;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、C.I.ピグメントレッド122(キナクリドンマゼンタ等)の如きキナクリドン顔料、C.I.ピグメントレッド180(イソインドリノンレッド2BLT等)の如きイソインドリノン顔料、C.I.ピグメントレッド83(マダーレーキ等)の如きアリザリンレーキ顔料等が挙げられる。
【0089】
青あるいはシアン色を呈する顔料として、C.I.ピグメントブルー25(ジアニシジンブルー等)の如きジスアゾ系顔料、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:3(IRGALITE BLE GLO;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)(フタロシアニンブルー等)の如きフタロシアニン顔料、C.I.ピグメントブルー24(ピーコックブルーレーキ等)の如き酸性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントブルー1(ビクロチアピュアブルーBOレーキ等)の如き塩基性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントブルー60(インダントロンブルー等)の如きアントラキノン系顔料、C.I.ピグメントブルー18(アルカリブルーV−5:1)の如きアルカリブルー顔料等が挙げられる。
緑色を呈する顔料として、C.I.ピグメントグリーン7(フタロシアニングリーン)、C.I.ピグメントグリーン36(フタロシアニングリーン)の如きフタロシアニン顔料、C.I.ピグメントグリーン8(ニトロソグリーン)等の如きアゾ金属錯体顔料等が挙げられる。
オレンジ色を呈する顔料として、C.I.ピグメントオレンジ66(イソインドリンオレンジ)の如きイソインドリン系顔料、C.I.ピグメントオレンジ51(ジクロロピラントロンオレンジ)の如きアントラキノン系顔料が挙げられる。
【0090】
黒色を呈する顔料として、カーボンブラック、チタンブラック、アニリンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしてはSPECIAL BLACK 250(デグサ社製)が例示できる。
白色顔料の具体例としては、塩基性炭酸鉛(2PbCO3Pb(OH)2、いわゆる、シルバーホワイト)、酸化亜鉛(ZnO、いわゆる、ジンクホワイト)、酸化チタン(TiO2、いわゆる、チタンホワイト)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3、いわゆる、チタンストロンチウムホワイト)などが利用可能である。
ここで、酸化チタンは他の白色顔料と比べて比重が小さく、屈折率が大きく化学的、物理的にも安定であるため、顔料としての隠蔽力や着色力が大きく、さらに、酸やアルカリ、その他の環境に対する耐久性にも優れている。したがって、白色顔料としては酸化チタンを利用することが好ましい。もちろん、必要に応じて他の白色顔料(列挙した白色顔料以外であってもよい。)を使用してもよい。
【0091】
着色剤の分散には、例えばビーズミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、ジェットミル、ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ニーダー、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル等の分散装置を用いることができる。
着色剤の分散を行う際には、界面活性剤等の分散剤を添加することができる。
また、着色剤を添加するにあたっては、必要に応じて、分散助剤として、各種着色剤に応じたシナージストを用いることも可能である。分散助剤は、着色剤100重量部に対し、1重量部以上50重量部以下添加することが好ましい。
【0092】
着色液において着色剤などの諸成分の分散媒としては、溶剤を添加してもよく、また、無溶媒で、低分子量成分である前記重合性化合物を分散媒として用いてもよいが、着色液は、活性エネルギー線硬化型の液体であることが好ましく、着色液を被記録媒体上に適用後、硬化させるため、無溶剤であることが好ましい。これは、硬化された着色液から形成された画像中に、溶剤が残留すると、耐溶剤性が劣化したり、残留する溶剤のVOC(Volatile Organic Compound)の問題が生じるためである。このような観点から、分散媒としては、重合性化合物を用い、中でも、最も粘度が低い重合性化合物を選択することが分散適性や着色液のハンドリング性向上の観点から好ましい。
【0093】
ここで用いる着色剤の平均粒径は、微細なほど発色性に優れるため、0.01μm以上0.4μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.02μm以上0.2μm以下の範囲である。最大粒径は3μm以下、好ましくは1μm以下となるよう、着色剤、分散剤、分散媒の選定、分散条件、ろ過条件を設定することが好ましい。この粒径管理によって、ヘッドノズルの詰まりを抑制し、着色液の保存安定性、着色液の透明性及び硬化感度を維持することができる。本発明においては分散性、安定性に優れた前記分散剤を用いることにより、微粒子着色剤を用いた場合でも、均一で安定な分散物が得られる。
着色液中における着色剤の粒径は、公知の測定方法で測定することができる。具体的には遠心沈降光透過法、X線透過法、レーザー回折・散乱法、動的光散乱法により測定することができる。本発明においては、レーザー回折・散乱法を用いた測定により得られた値を採用する。
【0094】
(増感剤)
本発明における着色液及び下塗り液には、特定の活性放射線を吸収して上記重合開始剤の分解を促進させるために増感剤を添加してもよい。増感剤は、特定の活性放射線を吸収して電子励起状態となる。電子励起状態となった増感剤は、重合開始剤と接触して、電子移動、エネルギー移動、発熱などの作用が生じる。これにより重合開始剤は化学変化を起こして分解し、ラジカル、酸或いは塩基を生成する。
本発明に用いることができる増感剤としては、増感色素が好ましい。
好ましい増感色素の例としては、以下の化合物類に属しており、かつ350nmから450nm域に吸収波長を有するものを挙げることができる。
多核芳香族類(例えば、ピレン、ペリレン、トリフェニレン)、キサンテン類(例えば、フルオレッセイン、エオシン、エリスロシン、ローダミンB、ローズベンガル)、シアニン類(例えばチアカルボシアニン、オキサカルボシアニン)、メロシアニン類(例えば、メロシアニン、カルボメロシアニン)、チアジン類(例えば、チオニン、メチレンブルー、トルイジンブルー)、アクリジン類(例えば、アクリジンオレンジ、クロロフラビン、アクリフラビン)、アントラキノン類(例えば、アントラキノン)、スクアリウム類(例えば、スクアリウム)、クマリン類(例えば、7−ジエチルアミノ−4−メチルクマリン)。
【0095】
より好ましい増感色素の例としては、下記式(IX)〜(XIII)で表される化合物が挙げられる。
【0096】
【化16】

【0097】
式(IX)中、A1は硫黄原子又はNR50を表し、R50はアルキル基又はアリール基を表し、L2は隣接するA1及び隣接炭素原子と共同して色素の塩基性核を形成する非金属原子団を表し、R51、R52はそれぞれ独立に水素原子又は一価の非金属原子団を表し、R51、R52は互いに結合して、色素の酸性核を形成してもよい。Wは酸素原子又は硫黄原子を表す。
【0098】
【化17】

【0099】
式(X)中、Ar1及びAr2はそれぞれ独立にアリール基を表し、−L3−による結合を介して連結している。ここでL3は−O−又は−S−を表す。また、Wは式(IX)に示したものと同義である。
【0100】
【化18】

【0101】
式(XI)中、A2は硫黄原子又はNR59を表し、L4は隣接するA2及び炭素原子と共同して色素の塩基性核を形成する非金属原子団を表し、R53、R54、R55、R56、R57及びR58はそれぞれ独立に一価の非金属原子団の基を表し、R59はアルキル基又はアリール基を表す。
【0102】
【化19】

【0103】
式(XII)中、A3、A4はそれぞれ独立に−S−、−NR62−又は−NR63−を表し、R62、R63はそれぞれ独立に置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアリール基を表し、L5、L6はそれぞれ独立に、隣接するA3、A4及び隣接炭素原子と共同して色素の塩基性核を形成する非金属原子団を表し、R60、R61はそれぞれ独立に水素原子又は一価の非金属原子団であるか又は互いに結合して脂肪族性又は芳香族性の環を形成することができる。
【0104】
【化20】

【0105】
式(XIII)中、R66は置換基を有してもよい芳香族環又はヘテロ環を表し、A5は酸素原子、硫黄原子又は=NR67を表す。R64、R65及びR67はそれぞれ独立に水素原子又は一価の非金属原子団を表し、R67とR64、及びR65とR67はそれぞれ互いに脂肪族性又は芳香族性の環を形成するため結合することができる。
【0106】
式(IX)〜(XIII)で表される化合物の好ましい具体例としては、以下に示す(E−1)〜(E−20)が挙げられる。なお、下記具体例中、Phはフェニル基を表し、Meはメチル基を表す。
【0107】
【化21】

【0108】
【化22】

【0109】
前記着色液に増感剤を用いる場合、該増感剤の添加濃度としては、着色液の総重量に対して、0.1〜15.0重量%であることが好ましく、0.5〜10.0重量%であることがより好ましく、1.0〜8.0重量%であることがさらに好ましい。添加量が上記範囲内であると、良好な膜内部の硬化性を得ることができる。
該下塗り液に増感剤を用いる場合、該増感剤の添加濃度としては、下塗り液の総重量に対して、0.1〜15.0重量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜10.0重量%、さらに好ましくは1.0〜8.0重量%である。添加量が上記範囲内であると、良好な膜内部の硬化性を得ることができる。
【0110】
(界面活性剤)
着色液及び下塗り液は、界面活性剤を含有することが好ましく、本発明に使用される界面活性剤は、下記の界面活性剤が例示できる。例えば、特開昭62−173463号、同62−183457号の各公報に記載されたものが挙げられる。具体的には、例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類、第4級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤が挙げられる。なお、前記公知の界面活性剤として、有機フルオロ化合物を用いてもよい。前記有機フルオロ化合物は、疎水性であることが好ましい。前記有機フルオロ化合物としては、例えば、フッ素系界面活性剤、オイル状フッ素系化合物(例、フッ素油)及び固体状フッ素化合物樹脂(例、四フッ化エチレン樹脂)が含まれ、特公昭57−9053号(第8から17欄)、特開昭62−135826号の各公報に記載されたものが挙げられる。
特に本発明において使用される界面活性剤は、上記界面活性剤に限定されることはなく、添加濃度に対して効率的に表面張力を低下させる能力のある添加剤であればよい。
【0111】
(ラジカル重合性化合物)
下塗り液に使用することができるラジカル重合性化合物について説明する。
重合性化合物としては、各種(メタ)アクリレートモノマーが好ましく使用できる。
例えば、イソアミルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、イソアミルスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコールアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ブトキシエチルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイキシエチルコハク酸、2−アクリロイキシエチルフタル酸、2−アクリロイキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸、ラクトン変性可とう性アクリレート、t−ブチルシクロヘキシルアクリレート等の単官能モノマーが挙げられる。
【0112】
また、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジアクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の多官能モノマーが挙げられる。
【0113】
この他、重合性のオリゴマー類も、モノマー同様に配合可能である。重合性オリゴマーとしては、エポキシアクリレート、脂肪族ウレタンアクリレート、芳香族ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、直鎖アクリルオリゴマー等が挙げられる。
【0114】
下塗り液を構成することができるラジカル重合性化合物としては、上記に挙げるラジカル重合性化合物を適宜用いることができるが、硬化物の柔軟性及び耐擦性を向上させる観点から、該ラジカル重合性化合物は、単官能環状アクリレート類であることが好ましく、さらに、好ましくは、下記のうちいずれかの化合物(M−1乃至M−29)である。
【0115】
【化23】

【0116】
【化24】

【0117】
(ラジカル重合開始剤)
本発明で使用され得る好ましいラジカル重合開始剤としては(a)芳香族ケトン類、(b)芳香族オニウム塩化合物、(c)有機過酸化物、(d)チオ化合物、(e)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(f)ケトオキシムエステル化合物、(g)ボレート化合物、(h)アジニウム化合物、(i)メタロセン化合物、(j)活性エステル化合物、(k)炭素ハロゲン結合を有する化合物、並びに(l)アルキルアミン化合物等が挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は、上記(a)〜(l)の化合物を単独若しくは組み合わせて使用してもよい。本発明におけるラジカル重合開始剤は単独若しくは2種以上の併用によって好適に用いられる。
【0118】
(その他添加剤)
本発明における着色液及び下塗り液には、前記重合性化合物、重合開始剤など加え、目的に応じて種々の添加剤を併用することができる。例えば、得られる画像の耐候性向上の観点から、紫外線吸収剤を用いることができる。また、着色液及び下塗り液の安定性向上のため、酸化防止剤を添加することができる。
さらに、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤、吐出安定性の制御を目的としたチオシアン酸カリウム、硝酸リチウム、チオシアン酸アンモニウム、ジメチルアミン塩酸塩などの導電性塩類、基材との密着性を改良するため、極微量の有機溶剤を添加することができる。
また、膜物性を調整するため、各種高分子化合物を添加することができる。高分子化合物としては、アクリル系重合体、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、シェラック、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類、その他の天然樹脂等が使用できる。また、これらは2種以上併用してもかまわない。
この他にも、必要に応じて、例えば、レベリング添加剤、マット剤、膜物性を調整するためのワックス類、ポリオレフィンやPET等への密着性を改善するために、重合を阻害しないタッキファイヤーなどを含有させることができる。
【0119】
(着色液と下塗り液の表面張力の関係)
被記録媒体上に付与した着色液の硬化を開始するまでの間、形成された画像の滲みを長時間防止する観点から、着色液の表面張力をγAとし、下塗り液の表面張力をγBとしたとき、γAとγBとの関係は、γA>γBを満たすことが好ましく、γA−γB≧1を満たすことがさらに好ましく、γA−γB≧2を満たすことが特に好ましい。
前記表面張力は、一般的に用いられる表面張力計(例えば、協和界面科学(株)製、表面張力計CBVP−Z等)を用いて、ウィルヘルミー法で液温25℃にて測定される値である。
【0120】
(2)インクジェット記録方法
本発明のインクジェット記録方法においては、画像を形成するための着色液と下塗り液として用いる下塗り液で構成されるインクセットを用いる。
該記録方法は、被記録媒体上に下塗り液を付与する下塗り液付与工程と、前記下塗り液に光照射して酸を発生させる光照射工程と、前記下塗り液上に着色液を吐出して画像形成を行う画像形成工程と、前記下塗り液及び前記着色液を完全に硬化させる完全硬化工程とを含むものであることが好ましい。光照射工程において、下塗り液が含有する光酸発生剤から酸を発生させ、該下塗り液の上に着色液を吐出することで、着色液の硬化性が向上する。
下塗り液が光酸発生剤及びカチオン重合性化合物を含む場合、並びに、下塗り液が光酸発生剤、ラジカル重合性化合物、及びラジカル重合開始剤を含む場合、被記録媒体上に下塗り液を付与した後、着色液を付与する前に、下塗り液を半硬化させる工程を含むことが好ましい。前記半硬化させる工程は、光照射工程により下塗り液を半硬化させる工程であることが好ましい。なお、半硬化工程と光照射工程を別の工程で行うこともできるが、光照射工程により下塗り液を半硬化させることが好ましい。
すなわち、本発明において、インクジェット記録方法は、被記録媒体上に下塗り液を付与する下塗り液付与工程と、前記下塗り液上に着色液を吐出して画像形成を行う画像形成工程と、前記下塗り液及び着色液を完全に硬化させる完全硬化工程とを少なくとも含み、前記画像形成工程の前に、下塗り液を半硬化させる下塗り液半硬化行程を有することが好ましい。
従って、本発明において、インクジェット記録方法は、
(i)被記録媒体上に下塗り液を付与する下塗り液付与工程と、
(ii)前記下塗り液を半硬化させる下塗り液半硬化工程と、
(iii)半硬化された前記下塗り液上に着色液を吐出して画像形成を行う画像形成工程と、
(iv)前記下塗り液及び前記着色液を完全に硬化させる完全硬化工程とを含み、
前記下塗り液及び着色液を含むインクセットとして、上記本発明のインクジェット記録用インクセットを使用することが特に好ましい。
【0121】
また、本発明における着色液は、複数色の着色液を多色インクセットとして用いることが好ましい。このように多色インクセットを用いる場合、本発明のインクジェット記録方法は、着色液を被記録媒体に付与した後に、その付与した着色液を半硬化させる工程を含んでもよく、各色の着色液についてそれぞれ付与した後半硬化させる工程を含むことが好ましい。例えば、異なる色相を有する着色液Aと着色液Bを用いて2次色を形成する場合は、着色液Aと着色液Bの吐出を連続して行うこともできるし、着色液Aの吐出後、着色液Aを半硬化させる工程を行い、その後で、半硬化された前記着色液A上に着色液Bを吐出する工程を行うこともできる。
【0122】
また、画像の硬化状態を制御する観点から、下塗り液を半硬化させる工程及び/又は画像を完全に硬化させる工程において、下塗り液を半硬化させる領域及び/又は画像を完全に硬化させる領域の湿度をコントロールして行うことが好ましい。
下塗り液を半硬化させる領域の好ましい湿度は、好ましい半硬化状態が得られる観点から、空気中の相対湿度が40%以上80%以下であることが好ましく、空気中の相対湿度が50%以上70%以下であることがさらに好ましく、空気中の相対湿度が55%以上65%以下であることが特に好ましい。なお、ここで好ましい半硬化状態は後述する。
画像を完全に硬化させる領域の好ましい湿度は、画像の硬化性を向上させる観点から、空気中の相対湿度が50%以下であることが好ましく、空気中の相対湿度が40%以下であることがさらに好ましく、空気中の相対湿度が30%以下であることが特に好ましい。
湿度をコントロールする手段としては、特に限定されることはないが、市販の加湿器や除湿器などを用いることができる。装置の省スペース化や制御のし易さの観点から、市販の空調ユニットを用いることが好ましい。市販の空調ユニットの例としては、アピステ社製の精密空調ユニット(温度・湿度コントロールユニット)PAUシリーズ(PAU−300S−HC、PAU−A920S−HC、PAU−A1400S−HC、PAU−A2600S−HC、PAU−A3500S−HC)などが挙げられる。
【0123】
図1に本発明に好適に使用できるインクジェット記録方法の概念図を示す。図1を参照しながら以下に詳説する。
被記録媒体6は、被記録媒体搬送手段7A及び7Bにより搬送され、図1では、左から右方向に搬送されている。
被記録媒体及び被記録媒体搬送手段は特に限定されるものではないが、図1に示す本実施形態では被記録媒体としてプラスチックフィルムを使用しており、また、被記録媒体搬送手段としてフィルム巻き出し機(7A)、フィルム巻き取り機(7B)を使用している。
第一工程にて、下塗り液を付与する手段1により、被記録媒体6上に下塗り液を付与する。下塗り液を付与する手段としては、ロールコーターが例示できる。なお、図1において、下塗り液は、光酸発生剤及びカチオン重合性化合物を含有する。
続いて、第二工程にて、下塗り液を半硬化させる手段2により、被記録媒体6上に付与された下塗り液を半硬化させる。下塗り液を半硬化させる手段としては、紫外線光源が例示できる。ここで、半硬化させる領域の空気中の相対湿度は精密空調ユニットによって55%以上65%以下に調整する。
第三工程において、被記録媒体6上で半硬化させた下塗り液の膜上に着色液を付与する手段3Cで着色画像を形成する。図1では、シアン着色液を付与し、シアン画像を形成している。シアン着色液を付与する手段3Cとしては、シアン用インクジェット記録ヘッドが例示できる。第四工程では、第三工程で付与された着色液を半硬化させる手段4Cにより、シアン着色液を半硬化させる。図1では、着色液を半硬化させる手段として紫外線光源が使用されており、下塗り液の膜上に付与されたシアン着色液を半硬化させている。
第五工程において、被記録媒体上で半硬化させた下塗り液及び/又はシアン着色液の膜上にマゼンタ着色液を付与する手段3Mにより、マゼンタ着色液を付与し、マゼンタ画像を形成する。マゼンタ着色液を付与する手段3Mとしては、マゼンタ用インクジェット記録ヘッドが例示できる。第六工程では、第五工程で付与された着色液を半硬化させる。図1では、マゼンタ着色液を半硬化させる手段4Mとして、紫外線光源が使用されており、下塗り液及び/又はシアン着色液の膜上に付与されたマゼンタ着色液を半硬化させている。
同様にして、第七工程においては、イエロー着色液を付与する手段3Yにて下塗り液、シアン着色液、マゼンタ着色液のいずれかの膜上にイエロー画像を形成後、第八工程において、イエロー着色液を半硬化させる手段4Yにより、付与したイエロー着色液を半硬化させる。
さらに、第九工程においては、下塗り液、シアン着色液、マゼンタ着色液、イエロー着色液のいずれかの膜上にブラック着色液を付与する手段3Kにてブラック画像を形成する。第十工程において、ブラック着色液を半硬化させる手段4Kにより、ブラック着色液を半硬化させる。
続いて、第十一工程において、形成されたフルカラーの画像を完全に硬化させる手段5により、形成されたフルカラーの画像を完全に硬化させる。ここで、画像を完全に硬化させる領域の空気中の相対湿度は、精密空調ユニットによって30%以下に調整されている。
なお、ここで、第十工程を省略することも可能であり、その場合は最後の着色液が付与された被記録媒体は、半硬化させる工程を経ることなく、完全に硬化される。
また、着色液にて画像を形成した後、下塗り液をさらにオーバーコート層として吐出又は塗布する等、当業者に公知の方法を適宜行ってもよい。
【0124】
<被記録媒体上に下塗り液を付与する工程>
前記、被記録媒体上に下塗り液を付与する工程にて、下塗り液は、被記録媒体上に着色液の液滴の吐出によって形成される画像と同一領域もしくは該画像より広い領域に付与することが好ましい。
また、下塗り液の付与量(単位面積あたりの重量比)としては、着色液の最大付与量(1色あたり)を1とした場合に0.05以上5以下の範囲内であることが好ましく、0.07以上4以下の範囲内がより好ましく、0.1以上3以下の範囲内が特に好ましい。
【0125】
本発明のインクジェット記録方法においては、被記録媒体上に下塗り液を付与する手段としては、塗布装置又はインクジェットノズル等を用いることができる。
前記塗布装置としては、特に制限はなく、公知の塗布装置の中から目的等に応じて適宜選択することができ、例えば、エアドクターコーター、ブレードコーター、ロットコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、含浸コーター、リバースロールコーター、トランスファーロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、キャストコーター、スプレイコーター、カーテンコーター、押出コーター等が挙げられる。詳しくは、原崎勇次著「コーティング工学」を参照できる。
中でも、装置コストの点で、下塗り液の被記録媒体上への付与は、比較的安価なバーコーター又はスピンコーターを用いた塗布、あるいはインクジェット法による付与が好ましい。
【0126】
<被記録媒体上に着色液を付与する工程>
本発明において、被記録媒体上における半硬化した下塗り液及び/又は着色液の膜上に吐出を行う着色液は、0.1pL(ピコリットル;以下同様)以上100pL以下の液滴サイズにて(好ましくはインクジェットノズルにより)打滴されることが好ましい。液滴サイズが前記範囲内であると、高鮮鋭度の画像を高い濃度で描写できる点で有効である。また、より好ましくは0.5pL以上50pL以下である。
また、被記録媒体上に付与する着色液の最大液量は、着色液に含有する着色剤の濃度によって任意に選択することができるが、色再現性、硬化性、画像表面の平滑性の観点から、0.01g/cm2以上0.200g/cm2以下が好ましく、0.02g/cm2以上0.150g/cm2以下が好ましく、0.03g/cm2以上0.100g/cm2以下が特に好ましい。
なお、「被記録媒体上」とは、被記録媒体の上部であればよく、必ずしも被記録媒体に接している必要はない。
下塗り液の付与後、着色液滴が打滴されるまでの打滴間隔としては、5μ秒以上10秒以下の範囲内であることが好ましい。打滴間隔が前記範囲内であると、本発明の効果を顕著に奏し得る点で有効である。着色液滴の打滴間隔は、より好ましくは10μ秒以上5秒以下であり、特に好ましくは20μ秒以上5秒以下である。
【0127】
着色液を付与する手段としては、特に限定されないが、インクジェットヘッドを用いることが好ましい。インクジェットヘッドとしては、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変え、インクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、インクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のヘッドが好適である。
【0128】
<下塗り液を半硬化させる工程、及び、着色液を硬化させる工程>
本発明において、「半硬化」とは、部分的な硬化(partially cured; partial curing)を意味し、下塗り液及び/又は着色液が部分的に硬化しているが完全に硬化していない状態をいう。被記録媒体(基材)上に適用された下塗り液又は下塗り液上に吐出された着色液が半硬化している場合、硬化の程度は不均一であってもよい。例えば、下塗り液及び/又は着色液は深さ方向に硬化が進んでいることが好ましい。
【0129】
下塗り液及び/又は着色液を半硬化させる方法としては、(1)酸性ポリマーに対して、塩基性化合物を付与する、又は塩基性ポリマーに対して、酸性化合物、金属化合物を付与するなど、いわゆる凝集現象を用いる方法、(2)下塗り液及び/又は着色液を予め高粘度に調製し、これに低沸点有機溶媒を添加することによって低粘化しておき、低沸点有機溶媒を蒸発させて元の高粘度に戻す方法、(3)高粘度に調製した下塗り液及び/又は着色液を加熱しておき、冷却することによって元の高粘度に戻す方法、(4)下塗り液及び/又は着色液に活性エネルギー線又は熱を与えて硬化反応を起こさせる方法など、既知の増粘方法が挙げられる。中でも(4)下塗り液及び/又は着色液に活性エネルギー線又は熱を与えて硬化反応を起こさせる方法が好ましく、特に活性エネルギー線の照射(光照射)を行って硬化反応を起こさせる方法が好ましい。
【0130】
活性エネルギー線又は熱を与えて半硬化反応を起こさせる方法とは、被記録媒体に付与された下塗り液及び/又は着色液の表面における重合性化合物の重合反応を不充分に行う方法である。
【0131】
ラジカル重合性の下塗り液を、空気中又は部分的に不活性ガスで置換した空気中等の酸素を多く含む雰囲気中で重合させる場合には、酸素のラジカル重合抑制作用のために、被記録媒体上に適用された下塗り液層の表面においてラジカル重合が阻害される傾向がある。この結果、半硬化は不均一となり、下塗り液層の内部でより硬化が進行し、表面の硬化が遅れる傾向となる。ここで、下塗り液層とは、基材上に付与された下塗り液の層である。
【0132】
カチオン重合性の下塗り液又は着色液を、湿気を有する雰囲気中で重合させる場合にも、水分のカチオン重合阻害作用があるために、被記録媒体上に適用された下塗り液層又は着色液液滴の内部でより硬化が進行し、表面の硬化が遅れる傾向となる。
【0133】
これらの中でも、活性エネルギー線の照射により半硬化させることが好ましい。活性エネルギー線としては、α線、γ線、電子線、X線、紫外線、可視光又は赤外光などが使用され得る。これらの中でも紫外線又は可視光であることが好ましく、紫外線であることがより好ましい。さらに、活性放射線のピーク波長は、増感色素の吸収特性にもよるが、例えば、200〜600nmであることが好ましく、300〜450nmであることがより好ましく、350〜420nmであることがさらに好ましい。
【0134】
下塗り液及び/又は着色液の半硬化に必要なエネルギー量は、重合開始剤の種類や含有量などによって異なるが、活性エネルギー線によりエネルギーを付与する場合には、1〜500mJ/cm2程度が好ましい。また、加熱によりエネルギーを付与する場合は、被記録媒体の表面温度が40〜80℃の温度範囲となる条件で0.1〜1秒間加熱することが好ましい。
【0135】
活性光や加熱などの活性エネルギー線又は熱の付与により、重合開始剤の分解による活性種の発生が促進されると共に、活性種の増加や温度上昇により、活性種に起因する重合性又は架橋性材料の重合もしくは架橋による硬化反応が促進される。
また、増粘(粘度上昇)も、活性光の照射、又は加熱によって好適に行うことができる。
【0136】
半硬化の状態の下塗り液上に着色液が打滴され、又は、半硬化の状態の着色液上に、これとは異なる着色液(特に色相の異なる着色液)が打滴されると、得られる印刷物の品質に好ましい技術的効果をもたらす。また、その作用機構を印刷物の断面観察により確認できる。
【0137】
基材上に設けられた、厚さが約5μmの厚さの半硬化状態の下塗り液上に約12pLの着色液を打滴した場合の高密度に打滴された部分(高濃度部分)を一例として説明する。
図2は、半硬化状態の下塗り液層上に着色液を打滴して得られた印刷物の一実施態様を示す断面模式図である。図2の印刷物の製造時において、下塗り液は半硬化され、基材16側の方が表面層よりも硬化が進行している。図2では、半硬化状態の下塗り液層に着色液を付与された下塗り層14が示されている。
この場合には、得られる画像10の断面には、以下の3つの特徴が観察される。
(1)着色液硬化物12の一部は表面に出ている、
(2)着色液硬化物12の一部は下塗り層14に潜り込んでいる、かつ、
(3)着色液硬化物12の下側と基材16の間には下塗り層14が存在する。
すなわち、半硬化状態の下塗り液層上に着色液を付与することによって得られた印刷物は、図2で模式的に示されるような断面を有している。上記の(1)、(2)及び(3)の状態を満たす場合には、半硬化した下塗り液に着色液が付与されたといえる。この場合には、高密度に打滴された着色液の液滴は相互に繋がって着色膜を形成しており、均一で高い色濃度を与える。なお、下塗り層とは、下塗り液層を硬化して得られた層の意である。
【0138】
図3及び図4は、未硬化状態の下塗り液層上に着色液を打滴して得られた印刷物の一実施態様を示す断面模式図である。図3及び図4では、未硬化状態の下塗り液層に着色液を付与された下塗り層18が示されている。
未硬化状態の下塗り液層に着色液を打滴した場合は、着色液の全部が下塗り液層に潜り込むか、及び/又は、着色液の下部には下塗り液が存在しない状態となる。具体的には、図3においては、得られる画像10の断面切片において、着色液硬化物12が、下塗り層18に完全に潜り込んでおり、着色液硬化物12の一部が表面にでていない。また、図4に示すように、得られる画像10の断面切片において、着色液硬化物12の下部には、下塗り層18が存在しない。
この場合は、高密度に着色液を付与しても、液滴同士が独立するため、色濃度が低下する原因となる。
【0139】
図5は、完全硬化状態の下塗り液層上に着色液を打滴して得られた印刷物の一実施態様を示す断面模式図である。図5では、完全硬化状態の下塗り液層に着色液を付与された下塗り層20が示されている。
完全に硬化した下塗り液層に着色液を打滴した場合は、着色液は下塗り液層に潜り込まない状態となる。具体的には図5に示されるように、着色液硬化物12は、下塗り層20に潜り込んでいない。
このような状態は、打滴干渉の発生の原因となり、均一な着色液膜層が形成できず、色再現性の低下を招く。
【0140】
高密度に着色液液滴を付与した場合に液滴同士が独立することなく、均一な着色液の液層(着色膜)を形成する観点、及び、打滴干渉の発生を抑制する観点から、単位面積当たりの下塗り液の転写量は、単位面積当たりに付与する着色液の最大液滴量よりも十分に少ないことが好ましい。すなわち、下塗り液層の単位面積当たりの転写量(重量)をM(下塗り液)とし、単位面積当たりに付与する着色液の最大重量をm(着色液)とすると、M(下塗り液)、m(着色液)は、以下の関係を満たすことが好ましい。
〔m(着色液)/30〕≦〔M(下塗り液)〕≦〔m(着色液)〕
また、〔m(着色液)/20〕≦〔M(下塗り液)〕≦〔m(着色液)/3〕であることがより好ましく、〔m(着色液)/10〕≦〔M(下塗り液)〕≦〔m(着色液)/5〕であることがさらに好ましい。ここで、単位面積当たりに付与する着色液の最大重量は1色当たりの最大重量である。
〔m(着色液)/30〕≦〔M(下塗り液)〕であると、打滴干渉の発生を抑制することができ、さらにドットサイズの再現性に優れるので好ましい。また、M(下塗り液)≦m(着色液)であると、均一な着色液の液層の形成ができ、濃度の高い画像を得ることができるので好ましい。
【0141】
なお、単位面積当たりの下塗り液層の転写量は、以下に述べる転写試験により求めたものである。半硬化過程の終了後(例えば、活性エネルギー線の照射後)であって着色液の液滴を打滴する前に、普通紙などの浸透媒体を半硬化状態の下塗り液層に押し当てて、浸透媒体に転写した下塗り液の量の重量測定によって定義するものである。
例えば、着色液の最大吐出量が、600×600dpiの打滴密度で、1画素(ドット)当たり12ピコリットルであったとすると、単位面積当たりに付与する着色液の最大重量m(着色液)は、0.74mg/cm2となる(ここでは、着色液の密度を約1.1g/cm3と仮定した。)。従って、下塗り液層の転写量は、単位面積当たり0.025mg/cm2以上0.74mg/cm2以下であることが好ましく、より好ましくは0.037mg/cm2以上0.25mg/cm2以下であり、さらに好ましくは0.074mg/cm2以上0.148mg/cm2以下である。
【0142】
着色液A及び着色液Bで2次色を形成する時は、半硬化状態の着色液A上に着色液Bを付与することが好ましい。
図6は、半硬化状態の着色液A上に着色液Bを打滴して得られた印刷物の一実施態様を示す断面模式図である。図6では、半硬化状態の着色液Aに着色液Bを付与されて得られた着色液A硬化物24及び着色液B硬化物22が示されている。
半硬化状態の着色液A上に着色液Bを打滴した場合は、着色液Bの一部が着色液Aに潜り込み、かつ、着色液Bの下部には着色液Aが存在する状態となる。すなわち、半硬化状態の着色液A上に着色液Bを付与することによって得られた印刷物は、図6で示されるように、着色液B硬化物22の一部が表面にでており、また、着色液B硬化物22の一部は着色液A硬化物24に潜り込んでいる。また、着色液B硬化物22の下部には着色液A硬化物が存在している。着色液Aの硬化膜(着色膜A、図6の着色液A硬化物24)及び着色液Bの硬化膜(着色膜B、図6の着色液B硬化物22)が積層された状態になり、良好な色再現が可能となる。
【0143】
図7及び図8は、未硬化状態の着色液A上に着色液Bを打滴して得られた印刷物の一実施態様を示す断面模式図である。図7では、未硬化状態の着色液Aに着色液Bを付与されて得られた着色液A硬化物26及び着色液B硬化物22が示されている。
未硬化状態の着色液Aに着色液Bを打滴した場合は、着色液Bの全部が着色液Aに潜り込むか、及び/又は、着色液Bの下部には着色液Aが存在しない状態となる。即ち、得られた画像の断面図を観察すると、図7に示すように、着色液B硬化物22の全部が着色液A硬化物26に潜り込んでいる、及び/又は図8に示すように、着色液B硬化物22の下層には着色液A硬化物26が存在しない。この場合は、高密度に着色液Bの液滴を付与しても、液滴同士が独立するため、2次色の彩度低下の原因となる。
【0144】
図9は、完全硬化状態の着色液A上に着色液Bを打滴して得られた印刷物の一実施態様を示す断面模式図である。図9では、完全硬化状態の着色液Aに着色液Bを付与されて得られた着色液A硬化物28及び着色液B硬化物22が示されている。完全に硬化した着色液Aに着色液Bを打滴した場合は、着色液Bは着色液Aに潜り込まない状態となる。図9に示すように、得られる画像の断面図では、着色液B硬化物22が着色液A硬化物28に潜り込んでいない。このような状態は、打滴干渉の発生の原因となり、均一な着色液膜層が形成できず、色再現性の低下を招く。
【0145】
高密度に着色液B液滴を付与した場合に液滴同士が独立することなく、均一な着色液Bの液層を形成する観点、及び、打滴干渉の発生を抑制する観点から、単位面積当たりの着色液Aの転写量は、単位面積当たりに付与する着色液Bの最大液滴量よりも十分に少ないことが好ましい。すなわち、着色液A層の単位面積当たりの転写量(重量)をM(着色液A)とし、単位面積当たりに吐出する着色液Bの最大重量をm(着色液B)とすると、M(着色液A)とm(着色液B)は、以下の関係を満たすことが好ましい。
〔m(着色液B)/30〕≦〔M(着色液A)〕≦〔m(着色液B)〕
また、〔m(着色液B)/20〕≦〔M(着色液A)〕≦〔m(着色液B)/3〕であることがより好ましく、〔m(着色液B)/10〕≦〔M(着色液A)〕≦〔m(着色液B)/5〕であることがさらに好ましい。
〔m(着色液B)/30〕≦〔M(着色液A)〕であると、打滴干渉の発生を抑制することができ、さらに、ドットサイズ再現性に優れるので好ましい。また、〔M(着色液A)〕≦〔m(着色液B)〕であると、均一な着色液の液層の形成ができ、濃度の高い画像を得ることができるので好ましい。
【0146】
なお、単位面積当たりの着色液Aの転写量(重量)は、以下に述べる転写試験により求めたものである。半硬化過程の終了後(例えば、活性エネルギー線の照射後)であって着色液Bの液滴を打滴する前に、普通紙などの浸透媒体を半硬化状態の着色液A層に押し当てて、浸透媒体に転写した着色液Aの量の重量測定によって定義するものである。
例えば、着色液Bの最大吐出量が、600×600dpiの打滴密度で、1画素当たり12ピコリットルであったとすると、単位面積当たりに吐出する着色液Bの最大重量m(着色液)は、0.74mg/cm2となる(ここでは、着色液Bの密度を約1.1g/cm3と仮定した。)。従って、着色液A層の転写量は、単位面積当たり0.025mg/cm2以上0.74mg/cm2以下であることが好ましく、より好ましくは0.037mg/cm2以上0.25mg/cm2以下であり、さらに好ましくは0.074mg/cm2以上0.148mg/cm2以下である。
【0147】
エチレン性不飽和化合物又は環状エーテルに基づく硬化反応の場合には、未重合率をエチレン性不飽和基又は環状エーテル基の反応率により定量的に測定することができる(後述)。
【0148】
前記下塗り液及び/又は着色液の半硬化状態を活性エネルギー線の照射や加熱によって重合を開始する重合性化合物の重合反応によって実現する場合は、印刷物の擦過性を向上させる観点から、未重合率(A(重合後)/A(重合前))は、0.2以上0.9以下であることが好ましく、0.3以上0.9以下であることがより好ましく、0.5以上0.9以下であることが特に好ましい。
【0149】
ここで、A(重合後)は、重合反応後の重合性基による赤外吸収ピークの吸光度であり、A(重合前)は、重合反応前の重合性基による赤外吸収ピークの吸光度である。例えば、下塗り液及び/又は着色液の含有する重合性化合物がアクリレートモノマー又はメタクリレートモノマーである場合は、810cm-1付近に重合性基(アクリレート基、メタクリレート基)に基づく吸収ピークが観測でき、該ピークの吸光度で、前記未重合率を定義することが好ましい。また、重合性化合物がオキセタン化合物である場合は、986cm-1付近に重合性基(オキセタン環)に基づく吸収ピークが観測でき、該ピークの吸光度で、前記未重合率を定義することが好ましい。重合性化合物がエポキシ化合物である場合は、750cm-1付近に重合性基(エポキシ基)に基づく吸収ピークが観測でき、該ピークの吸光度で、前記未重合率を定義することが好ましい。
【0150】
また、赤外吸収スペクトルを測定する手段としては、市販の赤外分光光度計を用いることができ、透過型及び反射型のいずれでもよく、サンプルの形態で適宜選択することが好ましい。例えば、BIO−RAD社製赤外分光光度計FTS−6000を用いて測定することができる。
【0151】
<画像を完全に硬化させる工程>
本発明における「完全硬化」とは、下塗り液及び着色液の内部及び表面が完全に硬化した状態をいう。具体的には、完全硬化の工程の終了後(例えば、活性エネルギー線の照射後や加熱後)、普通紙などの浸透媒体を押し当てて、浸透媒体に下塗り液又は着色液表面が転写したかどうかによって判断することができる。すなわち、全く転写しない場合を完全に硬化した状態という。
画像を完全硬化させる硬化手段には活性エネルギー線を照射する光源、電気ヒータやオーブン等の加熱器などを目的等に応じて選択することができる。
前記活性エネルギー線としては、紫外線のほか例えば可視光線、α線、γ線、X線、電子線などが使用可能である。これらのうち、活性エネルギー線としては、コスト及び安全性の点で、電子線、紫外線、可視光線が好ましく、紫外線が特に好ましい。
完全硬化反応に必要なエネルギー量は、組成、特に重合開始剤の種類や含有量などによって異なるが、一般には100mJ/cm2以上10,000mJ/cm2以下程度であることが好ましい。
活性エネルギー線を照射する好適な装置としては、メタルハライドランプ、水銀灯、LED光源等が挙げられる。
【0152】
また、前記加熱によりエネルギーを付与する場合は、加熱手段として熱を発する装置を用いることができる。この場合、下塗り液及び着色液が付与された基材に対し、該基材の表面温度が50℃以上100℃以下の温度範囲となる条件で0.5秒間以上10秒間以下加熱することが好ましい。
加熱による場合、温度上昇により、重合性化合物の重合もしくは架橋による硬化反応が促進され、液滴の衝突により形成された形状は、より強固となる。これにより、強固な画像が得られるので好ましい。
加熱は、非接触型の加熱手段を使用して行うことができ、オーブン等の加熱炉内を通過させる加熱装置や、紫外光〜可視光〜赤外光等の全面露光による加熱装置等が好適である。
加熱手段としての露光に好適な光源としては、メタルハライドランプ、キセノンランプ、タングステンランプ、カーボンアーク灯、水銀灯等が挙げられる。
【0153】
<湿度をコントロールする手段>
また、画像の硬化状態を制御する観点から、下塗り液の半硬化させる工程及び/又は画像を完全に硬化させる工程において、下塗り液の半硬化させる領域及び/又は画像を完全に硬化させる領域の湿度をコントロールする手段を有することが好ましい。
下塗り液の半硬化させる領域の好ましい湿度は、好ましい半硬化状態が得られる観点から、空気中の相対湿度が40%以上80%以下であることが好ましく、空気中の相対湿度が50%以上70%以下であることがさらに好ましく、空気中の相対湿度が55%以上65%以下であることが特に好ましい。なお、ここで好ましい半硬化状態は前述の通りである。
画像を完全に硬化させる領域の好ましい湿度は、画像の硬化性を向上させる観点から、空気中の相対湿度が50%以下であることが好ましく、空気中の相対湿度が40%以下であることがさらに好ましく、空気中の相対湿度が30%以下であることが特に好ましい。
湿度をコントロールする手段としては特に限定されることはないが、市販の加湿器や除湿器などを用いることが出来る。装置の省スペース化や制御のし易さの観点から、市販の空調ユニットを用いることが好ましい。市販の空調ユニットの例としては、アピステ社製の精密空調ユニット(温度・湿度コントロールユニット)PAUシリーズ(PAU−300S−HC、PAU−A920S−HC、PAU−A1400S−HC、PAU−A2600S−HC、PAU−A3500S−HC)などが挙げられる。
【0154】
なお、図1ではシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色の着色液を使用したが、これに限定されるものではなく、ホワイト着色液を使用することもできる。吐出する着色液の順番は特に限定されるわけではないが、明度の低い着色液から被記録媒体に付与することが好ましく、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色を使用する場合には、シアン→マゼンタ→イエロー→ブラックの順で被記録媒体上に付与することが好ましい。また、これにホワイトを加えた5色の着色液を使用する場合にはホワイト→シアン→マゼンタ→イエロー→ブラックの順で被記録媒体上に付与することが好ましい。
着色液は少なくとも1種を使用すればよいが、フルカラー画像を得るためには、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4つの着色液又はシアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、ホワイトの5つの着色液を使用することが好ましい。さらに、本発明はこれに限定されず、シアン、ライトシアン、マゼンタ、ライトマゼンタ、グレー、ブラック、ホワイト、イエローの8つの着色液を使用することもできる。
【0155】
なお、本発明において、図1及び図10(A)に示すフルラインヘッド方式に代えて、図10(B)に示す着色液の半硬化工程を有さないフルラインヘッド方式とすることもできるし、図10(C)に示すように、シャトルスキャン方式とすることできる。なお、図10(A)〜図10(C)では、下塗り層塗布工程及び下塗り液の半硬化工程又は下塗り液への光照射工程を省略している。
なお、図10(A)において、被記録媒体70は、矢印Dの方向に搬送されており、シアンインクジェットヘッド40Cにより、被記録媒体70上にシアン着色液が吐出される。続いて、紫外線照射装置(半硬化装置)50Cによりシアン着色液は半硬化状態とされる。同様にして、マゼンタインクジェットヘッド40Mによるマゼンタ着色液の吐出、吐出されたマゼンタ着色液の紫外線照射装置50Mによる半硬化、イエローインクジェットヘッド40Yによるイエロー着色液の吐出、吐出されたイエロー着色液の紫外線照射装置50Yによる半硬化、ブラックインクジェットヘッド40Kによるブラック着色液の吐出が行われる。最後に、紫外線照射装置(完全硬化装置)60により、下塗り液及び着色液の完全硬化が行われる。なお、紫外線照射装置(半硬化装置)50及び紫外線照射装置(完全硬化装置)60は、ランプハウス52の中に、紫外線を発生する熱陰極管56を備え、該熱陰極管56を冷却するための冷却ファン54を備える。
図10(B)に示すフルラインヘッド方式では、紫外線照射装置(半硬化装置)50C、50M、50Yが設けられていない他は、図10(A)に示すフルラインヘッド方式と同様である。
図10(C)に示すシャトルスキャン方式では、紙面の手前から奥へと被記録媒体70が搬送されており、搬送される被記録媒体の紙幅方向にキャリッジが移動しながら画像形成が行われる。なお、キャリッジの搬送方向を矢印Cで示している。図10(C)に示すシャトルスキャン方式では、着色液の半硬化は行われず、紫外線照射装置60による完全硬化が行われる。
【0156】
また、(1)光酸発生剤とカチオン重合性化合物とを含む下塗り液、(2)光酸発生剤と、ラジカル重合性化合物と、ラジカル重合開始剤とを含む下塗り液を使用する場合には、上記下塗り液を半硬化させる工程を有することが好ましく、特に、光照射により半硬化する工程を有することが好ましい。これにより、着色液の基材密着性を高めることができるとともに、半硬化工程において、光酸発生剤から酸が発生し、着色液の内部硬化性が向上するので好ましい。
一方、(3)光酸発生剤と溶剤とを含む下塗り液を使用する場合には、溶剤を除去する工程、及び、光照射する工程を有することが好ましい。この場合、光照射する工程により光酸発生剤から酸が発生し、着色液の内部硬化性が向上するので好ましい。なお、(3)の態様の場合、下塗り層を半硬化する工程を有していない。
これらの中でも、(1)光酸発生剤とカチオン重合性化合物とを含む下塗り液、及び、(2)光酸発生剤と、ラジカル重合性化合物と、ラジカル重合開始剤とを含む下塗り液を使用することが好ましく、特に好ましくは、(1)光酸発生剤とカチオン重合性化合物とを含む下塗り液を使用する態様である。
【0157】
<被記録媒体>
本発明において、被記録媒体に用いる材料としては、特に限定されずいずれの材料を使用してもよい。例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)、上述した金属がラミネートされ又は蒸着された紙又はプラスチックフィルム等が挙げられる。好ましい支持体としては、ポリエステルフィルム及びアルミニウム板が挙げられる。
本発明において、被記録媒体として、非吸収性被記録媒体が好適に使用される。前記インクジェット記録方法では、下塗り液を付与した後に着色液を付与することにより、これまで打滴干渉によって精細な画像の形成が困難であった様々な非吸収性被記録媒体に対して高精細な画像が形成可能である。
【実施例】
【0158】
以下、本発明を、実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
本発明に使用した素材は以下に示す通りである。
PB15:3(IRGALITE BLUE GLO;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、シアン顔料)
PV19(CINQUASIA MAGENTA RT−355D;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、マゼンタ顔料)
PY120(NOVOPERM YELLOW H2G;クラリアント社製、イエロー顔料)
カーボンブラック(SPECIAL BLACK 250;デグサ社製、ブラック顔料)
BYK−168(ビックケミー社製、分散剤)
ソルスパース5000(ノベオン社製、分散剤)
Rapicure DVE3(トリエチレングリコールジビニルエーテル;GAF社製,希釈剤)
DPGDA(ジプロピレングリコールジアクリレート;ダイセル・サイテック(株)製、多官能モノマー)
【0159】
(シアン顔料分散物の作製)
PB15:3(IRGALITE BLUE GLO) 30重量部
Rapicure DVE3 50重量部
BYK−168 20重量部
以上の成分を混合し、1時間スターラー撹拌した。撹拌後の混合物をビーズミル分散にて分散し、顔料分散物Aを得た。分散条件は直径0.65mmのジルコニアビーズを70%の充填率で充填し、周速を9m/sとし、分散時間、3時間で行った。以上の工程を経てシアン顔料分散物Aを得た。
【0160】
(マゼンタ顔料分散物の作製)
PV19(CINQUASIA MAGENTA RT−355D)30重量部
Rapicure DVE3 28重量部
BYK−168 42重量部
以上の成分を混合し、1時間スターラー撹拌した。撹拌後の混合物をビーズミル分散にて分散し、顔料分散物Aを得た。分散条件は直径0.65mmのジルコニアビーズを70%の充填率で充填し、周速を9m/sとし、分散時間、6時間で行った。以上の工程を経てマゼンタ顔料分散物Aを得た。
【0161】
(イエロー顔料分散物の作製)
PY120(NOVOPERM YELLOW H2G) 30重量部
Rapicure DVE3 28重量部
BYK−168 42重量部
以上の成分を混合し、1時間スターラー撹拌した。撹拌後の混合物をビーズミル分散にて分散し、顔料分散物Aを得た。分散条件は直径0.65mmのジルコニアビーズを70%の充填率で充填し、周速を9m/sとし、分散時間、6時間で行った。以上の工程を経てイエロー顔料分散物Aを得た。
【0162】
(ブラック顔料分散物の作製)
カーボンブラック(SPECIAL BLACK 250) 40重量部
Rapicure DVE3 29重量部
BYK−168 30重量部
ソルスパース5000 1重量部
以上の成分を混合し、1時間スターラー撹拌した。撹拌後の混合物をビーズミル分散にて分散し、顔料分散物Aを得た。分散条件は直径0.65mmのジルコニアビーズを70%の充填率で充填し、周速を9m/sとし、分散時間、3時間で行った。以上の工程を経てブラック顔料分散物Aを得た。
【0163】
(着色液及び下塗り液の作製)
表1に示す成分(単位は重量部)を撹拌混合溶解し着色液及び下塗り液(両方を総称して液体組成物ともいう。)を得た。なお、これらの液体組成物の表面張力を、表面張力計(協和界面科学(株)製、表面張力計CBVP−Z等)を用いて、ウィルヘルミー法で液温25℃にて測定したところ、いずれの着色液の表面張力も、25〜27mN/mの範囲内であった。一方、下塗り液の表面張力は、21〜22mN/mの範囲内であった。
【0164】
【表1】

【0165】
【表2】

【0166】
【表3】

【0167】
【表4】

【0168】
上記の表で使用した各成分を以下に記載する。
重合性化合物A:OXT−221(ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル;東亞合成(株)製、オキセタン環を有する化合物)
重合性化合物B:OXT−101(3−エチルー3−ヒドロキシメチルオキセタン;東亞合成(株)製、オキセタン環を有する化合物)
重合性化合物C:OXT−211(3−フェニル−3−フェノキシメチルオキセタン;東亞合成(株)製、オキセタン環を有する化合物)
重合性化合物D:Cel3000(1,2:8,9ジエポキシリモネン ;ダイセル化学工業(株)製、オキシラン基を有する化合物)
重合性化合物E:DPGDA(ジプロピレングリコールジアクリレート;ダイセル・サイテック(株)製、多官能モノマー)
重合性化合物F:A−DPH(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート;新中村化学工業(株)製、多官能モノマー)
界面活性剤A:BYK―307(ビックケミー社製、界面活性剤)
重合禁止剤A:FIRSTCURE ST−1(Albemarle社製)
重合開始剤A:IRGACURE 250(ヨードニウム,(4−メチルフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]−ヘキサフルオロフォスフェート(1−)及びプロピレンカーボネートの混合物;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、光重合開始剤)
重合開始剤B:IRGACURE 819(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、光重合開始剤)
重合開始剤C:Benzophenone(和光純薬工業(株)社製、光重合開始剤)
増感剤A:9,10−ジブトキシアントラセン
増感剤B:Speedcure DETX(2,4−ジエチルチオキサントン;Lambson社製、増感剤)
有機溶剤A:MMPG(ダイセル化学工業(株)製、1−メトキシ−2−プロパノール)
【0169】
(画像記録装置)
調製した4色分の着色液(C1又はC2、M1又はM2、Y1又はY2、Bk1又はBk2)は、インクジェットプリンタ(東芝テック社製ヘッド搭載=打滴周波数:6.2KHz、ノズル数:636、ノズル密度:300npi(ノズル/インチ、以下同様)、ドロップサイズ:6pl〜42plを7段階に可変のヘッドを2つ配列して600npiにしたものをフルライン配列したヘッドセットを4組搭載)に装填した。
ヘッドは記録媒体搬送方向上流からシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックという順で機体に固定して、さらシアン用ヘッドの上流に下塗り液のロールコーター及び半硬化用光源(光照射用光源)(超高圧水銀灯:光強度100mW/cm2)を設置した。なお、ここで下塗り液としては、下塗り液(L1〜L4)を使用した。
なお、下塗り液L4を使用する場合には、下塗り液を塗布後、光照射を行う前に、溶剤除去を行うために乾燥工程を行った。
ヘッドの直下を被記録媒体が移動可能な構造に構成すると共に、着色液(C1又はC2、M1又はM2、Y1又はY2、Bk1又はBk2)が装填されたシアン、マゼンタ、イエロー各ヘッドに対して被記録媒体の進行方向にそれぞれピニング硬化用光源(半硬化用光源、超高圧水銀灯:光強度100mW/cm2)を配置し、ブラックインクヘッド下流にはメタルハライドランプ(光強度3000mW/cm2)を5基設置した。なお、メタルハライドランプによる照射エネルギーは、点灯するメタルハライドランプの数によって、300〜1,500mJ/cm2まで調整することができる。具体的には、300mJ/cm2(1基点灯)、600mJ/cm2(2基点灯)、900mJ/cm2(3基点灯)、1,200mJ/cm2(4基点灯)、1,500mJ/cm2(5基点灯)となる。
被記録媒体の搬送はロール搬送とし、記録媒体上には600dpi×600dpiの画像を形成した。なお、ここで被記録媒体はプラスチックフィルムA(厚み50μm;透明ポリエチレン)、プラスチックフィルムB(厚み100μm;透明PET)を使用した。
【0170】
(実施例1)
まず、上記の実験機を用い、プリント物A(600dpi×600dpiの2次色(シアンとマゼンタ、イエローとシアン、イエローとマゼンタ)の背景、もしくは、600dpi×600dpiの1次色(シアン、マゼンタ、イエロー)の背景にブラック文字「Fuji」(Times New Roman、30pt))、プリント物B(600dpi×600dpiの2次色(シアンとマゼンタ、イエローとシアン、イエローとマゼンタ)の背景、もしくは、600dpi×600dpiの1次色(シアン、マゼンタ、イエロー)の背景に抜け文字「Fuji」(Times New Roman、30pt))を作製した。なお、ここで画像Bの抜け文字部は下塗り液硬化膜が表面に出ている。
図11には、実施例で作成したプリント物A及びプリント物Bを示している。プリント物A(図11(A))は、背景400に、ブラック文字401が形成されており、プリント物B(図11(B))では、背景400に、抜け文字402が形成されている。
【0171】
印字手順は下記の通り(1)〜(10)である。
(1)ロールコーターにより下塗り液(L1)を5μmの厚みに均一に付与した(塗布速度400mm/s)。
(2)下塗り液(L1)を付与後に半硬化用光源で露光を行い(光強度100mW/cm2)、付与された下塗り液(下塗り液L1)を半硬化状態にした。
(3)シアンヘッドによって、被記録媒体上にシアン着色液(C1)を付与してシアン画像を形成した。
(4)ピニング用光源にて露光を行い(光強度100mW/cm2)、シアン着色液をピニング硬化状態(半硬化状態)にした。
(5)マゼンタヘッドによって、被記録媒体上にマゼンタ着色液(M1)を付与してマゼンタ画像を形成した。
(6)ピニング用光源にて露光を行い(光強度100mW/cm2)、マゼンタ着色液をピニング硬化状態(半硬化状態)にした。
(7)イエローヘッドによって、被記録媒体上にイエロー着色液(Y1)を付与してイエロー画像を形成した。
(8)ピニング用光源にて露光を行い(光強度100mW/cm2)、イエロー着色液をピニング硬化状態(半硬化状態)にした。
(9)ブラックヘッドによって、被記録媒体上にブラック着色液(Bk1)を付与してブラック画像を形成した。
(10)メタルハライドランプにて露光を行い(光強度3,000mW/cm2)、画像を完全に硬化させた。また、点灯させるメタルハライドランプの数によって、300〜1,500mJ/cm2まで露光エネルギーを調整した。
【0172】
なお、ここで被記録媒体の搬送速度は400mm/s、1ドットあたりのインク液量は約18ピコリットルとした。3次色(例えば、シアンとマゼンタとイエロー)の画像を形成する場合は、上記手順にて(8)と(9)を省略した。また、2次色(例えば、シアンとマゼンタ)の画像を形成する場合は、上記手順にて(6)〜(9)を省略した。1次色(例えば、イエロー)の画像を形成する場合は、上記手順にて(3)〜(6)及び(8)、(9)を省略した。
また、下塗り液L4を使用する場合には、塗布量を5g/m2とし、ロールコーターによる下塗り液の塗布後、溶剤除去工程(乾燥工程)を行い、(2)と同様にして光照射を行った。
【0173】
(インクの硬化性評価)
下記評価基準に従って、官能評価を実施した。
露光後における印刷物の印刷面の官能評価を下記基準に従って行った。
○:表面、及び、内部まで完全に硬化しており、使用上問題がない。
△:表面は硬化しているものの、内部が半硬化の状態。
×:表面がべたついており、色移りがするなど、使用上問題がある。
【0174】
(基材に対する定着性)
印刷後のギターピック擦りによる膜の剥がれや破れが無くなる露光エネルギーによって画像の定着性を定義した。印刷後に印刷物をギターピックによって5回擦り、膜の剥がれや破れが起きない場合は、爪擦りによる膜の剥がれや破れが無しと判断した(ここで膜の破れは主に内部硬化の不良に起因するものであった。)。
なお、露光エネルギーは、200mJ/cm2、400mJ/cm2、600mJ/cm2、800mJ/cm2、1,000mJ/cm2と変化させた。
ここでは、露光エネルギーは低い方が好ましく、特に、600mJ/cm2以下であることが好ましい。
【0175】
(基材のカール)
印刷物はポリエチレンフィルムを用いて評価を行った。
○:基材のカールがほとんどみられず、そのまま使用しても問題ない。
△:基材のカールが見られる。
×:基材が内側に大きくカールし、使用上問題があるレベル。
なお、インクの硬化性評価、密着性評価はPET(ポリエチレンテレフタレート、東山フイルム(株)製)の基材を用い評価を行った。また、基材のカール試験はポリエチレンフィルムを用いて評価を行った。
【0176】
手塗布品は以下の手順に従って作製した。
基材に下塗り液を適量載せ、K2又はK3バーを(RKプリントコート社製)を用いて下塗り層(10μm又は16μm)を形成後、ピニング用光源にてピニング露光を行った(400mW/cm2)。続いて、着色液を適量のせ、K2、K3バー(RKプリントコート社製)を用い、二種類の膜厚のベタ膜を作製し、インクの硬化性評価を行った。
なお、下塗り液L4を使用した場合には、同様にして下塗り層を形成後、溶媒除去工程(乾燥工程)を行った後、光照射(400mW/cm2)を行った。
【0177】
(実施例1〜6、比較例1〜3)
使用する下塗り液及び着色液を以下の表5のように変更した以外は、実施例1と同様にして評価を行った。
結果を以下の表に示す。
【0178】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1】本発明に好適に使用できるインクジェット記録方法の概念図である。
【図2】半硬化状態の下塗り液層上に着色液を打滴して得られた印刷物の一実施態様を示す断面模式図である。
【図3】未硬化状態の下塗り液層上に着色液を打滴して得られた印刷物の一実施態様を示す断面模式図である。
【図4】未硬化状態の下塗り液層上に着色液を打滴して得られた印刷物の他の一実施態様を示す断面模式図である。
【図5】完全硬化状態の下塗り液層上に着色液を打滴して得られた印刷物の一実施態様を示す断面模式図である。
【図6】半硬化状態の着色液A上に着色液Bを打滴して得られた印刷物の一実施態様を示す断面模式図である。
【図7】未硬化状態の着色液A上に着色液Bを打滴して得られた印刷物の一実施態様を示す断面模式図である。
【図8】未硬化状態の着色液A上に着色液Bを打滴して得られた印刷物の他の一実施態様を示す断面模式図である。
【図9】完全硬化状態の着色液A上に着色液Bを打滴して得られた印刷物の一実施態様を示す断面模式図である。
【図10】本発明に好適に使用できる着色液吐出工程の概念図である。
【図11】実施例で形成した画像を示す概念模式図である。
【符号の説明】
【0180】
1 下塗り液を付与する手段
2 下塗り液を半硬化させる手段
3Y イエロー着色液を付与する手段
3C シアン着色液を付与する手段
3M マゼンタ着色液を付与する手段
3K ブラック着色液を付与する手段
4Y イエロー着色液を半硬化させる手段
4C シアン着色液を半硬化させる手段
4M マゼンタ着色液を半硬化させる手段
4K ブラック着色液を半硬化させる手段
6 被記録媒体
7A 被記録媒体搬送手段(フィルム巻き出し機)
7B 被記録媒体搬送手段(フィルム巻き取り機)
40C、40M、40Y、40K インクジェットヘッド
50C、50M、50Y 紫外線照射装置(半硬化装置)
52 ランプハウス
54 冷却ファン
56 熱陰極管
60 紫外線照射装置(完全硬化装置)
70 被記録媒体
400 背景
401 ブラック文字
402 抜け文字

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン重合性化合物、カチオン重合開始剤、及び、着色剤を含有する着色液と、
光酸発生剤を含有する下塗り液とを含むことを特徴とする
インクセット。
【請求項2】
前記下塗り液が、さらにカチオン重合性化合物を含有する、請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記カチオン重合性化合物が、少なくとも1種のオキセタン基含有化合物、及び、少なくとも1種のオキシラン基含有化合物を含む、請求項1又は2に記載のインクセット。
【請求項4】
前記下塗り液が、さらにラジカル重合開始剤及びラジカル重合性化合物を含有する、請求項1に記載のインクセット。
【請求項5】
前記下塗り液が界面活性剤を含有する、請求項1〜4いずれか一項に記載のインクセット。
【請求項6】
着色液の表面張力γAと下塗り液の表面張力γBとが、γA>γBの関係式を満たす、請求項1〜5いずれか一項に記載のインクセット。
【請求項7】
インクジェット記録用である、請求項1〜6いずれか一項に記載のインクセット。
【請求項8】
被記録媒体上に下塗り液を付与する下塗り液付与工程と、
前記下塗り液に光照射して酸を発生させる光照射工程と、
前記下塗り液上に着色液を吐出して画像形成を行う画像形成工程と、
前記下塗り液及び前記着色液を完全に硬化させる完全硬化工程とを含み、
前記下塗り液及び着色液を含むインクセットとして、請求項1〜7いずれか一項に記載のインクセットを使用することを特徴とする
インクジェット記録方法。
【請求項9】
被記録媒体上に下塗り液を付与する下塗り液付与工程と、
前記下塗り液を半硬化させる下塗り液半硬化工程と、
半硬化された前記下塗り液上に着色液を吐出して画像形成を行う画像形成工程と、
前記下塗り液及び前記着色液を完全に硬化させる完全硬化工程とを含み、
前記下塗り液及び着色液を含むインクセットとして、請求項1〜7いずれか一項に記載のインクセットを使用することを特徴とする
インクジェット記録方法。
【請求項10】
前記下塗り液半硬化工程、及び/又は、前記完全硬化工程において、前記下塗り液を半硬化させる領域及び/又は完全硬化させる領域の湿度をコントロールする手段を有する、請求項9に記載のインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−76138(P2010−76138A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244405(P2008−244405)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】