説明

インク吸収型記録媒体製造方法およびインク吸収型記録媒体

【課題】 簡易に品質の良いインク吸収型記録媒体を製造するインク吸収型記録媒体製造方法を提供する。
【解決手段】 紙基材上にアルミナまたはアルミナ水和物とポリビニルアルコールを含有して酢酸によりpHが調整されたコート液を塗布してコート層を形成するコーティング処理P1と、形成されたコート層にアンモニア水と硼砂水溶液との混合物を塗布してコート層のアルミナまたはアルミナ水和物とポリビニルアルコールをゲル化させるゲル化処理P2と、ゲル化したコート層をキャストするキャスティング処理P4を行って、インク吸収型記録媒体を製造する。また、ゲル化処理P2とキャスティング処理P4との間に、ゲル化したコート層の余分な硼砂をアンモニア水または水により洗浄する洗浄処理P3を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク吸収型記録媒体を製造するインク吸収型記録媒体製造方法や、インク吸収型記録媒体に関し、特に、簡易に品質の良いインク吸収型記録媒体を製造するインク吸収型記録媒体製造方法や、品質の良いインク吸収型記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、高画質のインクジェット記録媒体として、大きなベーマイト結晶を使用することでインク吸収性を付与したものや、樹脂等で2次凝集により細孔を大きくすることでインクの吸収性を得るものが提案されている。
また、このようなベーマイトとポリビニルアルコールと水の混合物を基材に塗る場合には、塗工層の乾燥によるひび割れを防止するために、例えば、基材となる紙に塗工するときにはあらかじめ基材となる紙にポリビニルアルコールの架橋剤となる硼砂(ホウシャ)水溶液を塗布することが行われ、あるいは、基材となるポリエステルフィルムに塗工するときには塗工直前に塗工液に硼砂を混合することが行われ、また、できるだけ薄厚塗工および乾燥を繰り返して、インク吸収に必要な塗工厚さを得ることが行われる。さらには、フィルム塗工の場合には、乾燥時に埃によるひび割れの発生を防止するために、クリーンルームで塗工乾燥することが通例であった。
【0003】
【特許文献1】特開昭60−245588号公報
【特許文献2】特公平3−24906号公報
【特許文献3】特開平7−76161号公報
【特許文献4】特許第3204749号公報
【特許文献5】特許第2605585号公報
【特許文献6】特許第3069086号公報
【特許文献7】特許第3197286号公報
【特許文献8】特開平5−32414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来例で示した、光の幾何散乱を引き起こすような大きなベーマイト結晶や樹脂による2次凝集体を利用した塗工層では、インクジェットプリンターなどでインク吸収型記録媒体に印字された染料は、その白色光の散乱により、色濃度が低く見える。また、このような大きなベーマイト結晶や樹脂による2次凝集体を透明ポリエステルに塗布したものは、完全な透明にはならず、かなり白濁して見える。このため、インクジェットプリンターで印字してプロジェクター等で投影した場合に、暗くなってしまうといった欠点や、光散乱のために投影画像が赤っぽく見えてしまうといった欠点があった。
また、インク中の溶媒がインク溶液受容層中で大きなベーマイト結晶や樹脂による2次凝集体と一体化するため、印字から数分で色濃度の低下が見られ、その後徐々にインク溶媒の揮発により色濃度の上昇による色変化が数時間から数日以上見られる。
【0005】
また、染料は、印字の順番や染料の分子量により、インク溶液受容層の断面方向に展開する。したがって、インク溶液受容層中のインク溶媒とベーマイトによって生じる白色光散乱面よりも奥に浸透した染料は、印字直後は見ることはできない。その後、時間とともにインク溶媒の蒸散が起きてインク溶液受容層が透明化して、すべての染料の色を見ることができるようになる。このことは、従来の方法で透明なポリエステルフィルムに作成した塗工面を水で湿らせた場合に、水が塗工層の表面まで溢れているときには透明であり、これが乾くとともに白く不透明になるが、さらに乾くとともに透明感が出てくる現象により理解される。
本発明は、このような従来の事情に鑑み為されたもので、このような現象を抑えることを課題とする。
【0006】
以下で、さらに、インク吸収型の記録媒体について、具体例を示す。
記録用シートとして用いられるインク吸収型記録媒体の製造方法や、このようなインク吸収型記録媒体について、従来から、種々な検討が為されている(例えば、特許文献1〜8参照。)。
【0007】
一例として、基材の両面(表面および裏面)にポリオレフィンの光沢フィルムをコーティングしてラミネート加工した後に、表面側から微細なアルミナやシリカなどの無機物とポリビニルアルコールなどの水溶性のバインダーを含有する水分散液をコーティングする方法(以下で、従来方法Aと言う)により、光沢のあるインク吸収型記録媒体が製造されていた。
ここで、従来方法Aでは、実用上で十分に使用することが可能なインク吸収型記録媒体を製造することができるが、アルミナやシリカなどを含有するコート層にしかインクが入らないため、当該コート層を厚くすることが必要である。また、インクが吸収されても、不揮発性の溶媒が残るために、染料がにじみ易く、対ガス性があまり良くないことが知られている。
【0008】
そこで、このような従来方法Aと比べてさらに品質の良いインク吸収型記録媒体を製造する方法として、従来では、例えば、紙基材の表面から紙基材上に乾燥後にひびが入らないようにポリビニルアルコール硼砂水溶液を塗布し、その上からアルミナやポリビニルアルコールを含有するコート液を塗布してコート層を形成し、形成されたコート層を乾燥させて固めた後に再び水分で濡らす処理(いわゆるリウェット法の処理)を行ってから、コート層を光沢のある加熱された金属表面に圧接して乾燥させるキャストを行う方法(以下で、従来方法Bと言う)により、インク吸収型記録媒体が製造されていた。
このような従来方法Bでは、上記した従来方法Aと比べて、品質の良いインク吸収型記録媒体を製造することができ、例えば、インク吸収型記録媒体の表面に対して垂直方向からの入射角が20度での光沢率に関して、従来方法Aでは光沢率が20パーセント(%)程度となるのに対して、従来方法Bでは光沢率として30%以上の値が得られる。
【0009】
しかしながら、従来のインク吸収型記録媒体製造方法として示した上記した従来方法Bでは、形成されたコート層を乾燥させた後に水分で膨潤させるリウェット処理を行ってからキャストしていたため、製造工程が煩雑であり、乾燥させた後に膨潤させるという無駄な処理が行われていたといった不具合があった。
【0010】
また、上記した従来方法Bでは、硼砂水溶液とコート液との両方をコーティングするために2重にコーティング処理を行うことが必要であり、このような2重のコーティングや上記したリウェット処理が行われるために多大なコストがかかってしまうといった不具合があった。
また、上記した従来方法Bでは、コート層の内側(基材側)に硼砂水溶液が塗布されることから、インクの吸収性が悪くなってしまうといった不具合や、オゾン劣化に対する耐候性が悪くなってしまうといった不具合があった。
【0011】
また、従来から、インク吸収型記録媒体について、品質を高めることが常に要求されていた。
本発明は、このような従来の事情に鑑み為されたもので、簡易に品質の良いインク吸収型記録媒体を製造することができるインク吸収型記録媒体製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、品質の良いインク吸収型記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係るインク吸収型記録媒体製造方法では、次のような処理を行って、インク吸収型記録媒体を製造する。
すなわち、まず、基材上に、アルミナまたはアルミナ水和物とポリビニルアルコールを含有して且つ酢酸によりpHが調整されたコート液を塗布して、コート層を形成するコーティング処理を行う。次に、形成されたコート層に、アンモニア水と硼砂水溶液との混合物を塗布して、コート層のアルミナまたはアルミナ水和物とポリビニルアルコールをゲル化させるゲル化処理を行う。そして、ゲル化したコート層をキャストするキャスティング処理を行う。これらの処理により、インク吸収型記録媒体を製造する。
【0013】
したがって、本発明に係るインク吸収型記録媒体製造方法では、例えば従来のように形成されたコート層を乾燥させた後に水分で膨潤させて(リウェット処理して)からキャストするといった煩雑な処理ではなく、アンモニアと硼砂を塗布してコート層をゲル化させるという簡易な処理が採用されているため、製造工程を簡易化して、効率化を図ることができる。
【0014】
特に、本発明に係るインク吸収型記録媒体製造方法では、基材に対してコート液を塗布してゲル化させる工程が採用されているため、上記従来例で示した従来方法Bと比べて、硼砂水溶液とコート液との両方のコーティング処理が行われることは不要であり、これについては1回のコーティング処理が行われるだけでよく、また、コート層をゲル化させることからリウェット処理を行う必要がない。また、本発明に係るインク吸収型記録媒体製造方法では、コート層の表面側からアンモニアおよび硼砂を塗布してゲル化処理が行われるため、インクの吸収性が良く、耐候性が良く、強度などの点で品質の良いインク吸収型記録媒体を製造することができる。
【0015】
具体的には、従来では、例えば基材側から硼砂によりコート層をゲル化させることが行われていたが、この方法ではナトリウム(Na)またはポリビニルアルコールの小さい分子量のものからなる微細粒子が表面側に集まって薄い層を形成(キャッピング)してしまい、インクの吸収性が悪くなってしまうといった不具合があったが、本発明では、表面側からアンモニアと硼砂によりコート層をゲル化させるため、このような不具合が無く、例えば、表面側において大きい粒子と微粒子とが均一となってインクの吸収性が良いインク吸収型記録媒体を製造することができ、さらに言えば、例えば、粒子の分散が均一であり、均一なポア(孔)構造を有するインク吸収型記録媒体を製造することができる。
【0016】
なお、本発明では、アンモニアによりコート層のアルミナまたはアルミナ水和物をゲル化させ、硼砂によりコート層のポリビニルアルコールをゲル化させる。このようなゲル化は、例えば、コート層が固められてキャストが良好に為されることを目的として行われ、つまり、コート層が液状のままだとキャストにおいて不安定となってしまうことを防いでいる。
【0017】
ここで、基材としては、種々なものが用いられてもよく、例えば、紙から構成される基材や、フィルムから構成される基材や、ラミネート加工された紙基材などを用いることができる。
また、ポリビニルアルコールとしては、種々なものが用いられてもよく、例えば、ノニオン性またはアニオン性の(クラレ社製 PVA117)や(日本酢ピ・ポバール株式会社製 JM−26)などを用いることができる。また、ポリビニルアルコールとしては、例えば、カチオン性の(クラレ社製 C506)や(日本合成化学工業株式会社製 ゴーセノールK210)などを用いることができる。
【0018】
また、アルミナ(酸化アルミニウム:Al)またはアルミナ水和物(例えば、Al(OH))としては、例えば種々なインク吸収型記録媒体としての用途に応じて、いずれが用いられてもよく、また、それぞれ種々なものが用いられてもよい。
また、アルミナまたはアルミナ水和物としては、例えば、インクの吸収性を確保するために、基材上に塗布された後に乾燥させられた状態において微細な多孔性のものが用いられるのが好ましい。
【0019】
一例として、染料インクを用いるインクジェット用のコート紙のアルミナ(Al)としては、γ−アルミナが用いられるのが好ましく、例えば、(住友化学社製 AKP15)を用いることができる。
また、一例として、アルミナ水和物としては、結晶性のベーマイト(AlOOH)が用いられるのが好ましく、例えば、(サソール社製 DISPERAL HP 14)を用いることができる。また、(サソール社製 DISPERAL HP 14)としては、例えば、粉末として解析した場合に、BET吸着法により測定される比表面積(Surface Area)が150〜170[m/g]であり、細孔容積(Pore Volume Total)が0.9〜1.2[ml/g]であるものを用いるのが好ましい。
なお、ベーマイトとしては、擬ベーマイトが用いられてもよく、本発明に包含される。
【0020】
また、コート液としては、種々なものが用いられてもよく、例えば、アルミナまたはアルミナ水和物のいずれかの水性コロイドまたは水分散系と、ポリビニルアルコールを含有する水溶液を用い、酢酸により最も分散性がよくなるようにpHが調整されたものを用いる。なお、通常はpH4〜pH5の値にするのが好ましい。
また、重量%濃度を単位として、固形分濃度について、アルミナまたはアルミナ水和物は10%〜25%であるのがよい。
【0021】
なお、酢酸によりコート液のpHを調整した場合には、硼砂によりコート層のポリビニルアルコールがゲル化したが、硝酸によりコート液のpHを調整した場合には、コート層のポリビニルアルコールが十分にゲル化しなかった。
また、硝酸を用いると、例えば、硝酸の酸が強いためにキャスティング処理部に影響を与え得るため、好ましくない。
【0022】
また、コーターとしては、例えば、コンマコーター、キッスコーターなどの種々なものが用いられてもよい。好ましくは、コンマコーターにより、ゾルを塗る構成とする。
また、アンモニアとしては、種々なものが用いられてもよい。
また、硼砂としては、種々なものが用いられてもよく、例えば、硼酸ソーダ(NaBO)を用いることができる。
【0023】
また、キャストとしては、一例として、水による浸潤状態のコート層を、従来から知られているような方法により、加熱した鏡面状の金属面に圧接して乾燥させるような処理を用いることができる。
なお、キャストは、インク吸収型記録媒体に光沢を出すための処理であり、例えば、インク吸収型記録媒体において色を再現よく出すために行われる。
また、本発明に係るインク吸収型記録媒体の用途としては、例えば、インクジェットプリンターの記録媒体やオフセット印刷の用紙など種々なインク吸収型の用途に用いられてもよい。
【0024】
また、本発明に係るインク吸収型記録媒体製造方法では、さらに、ゲル化処理とキャスティング処理との間に、ゲル化したコート層の余分な硼砂をアンモニア水または水により洗浄する洗浄処理を行う。
【0025】
したがって、例えばコート層に余分な硼砂が残ると、キラキラしてつまり孔があまり無いためにインクが吸収されなくなったり、オゾン劣化し易くなり得るが、本発明では、このような余分な硼砂がアンモニア水または水により取り除かれるため、インク吸収型記録媒体の品質を高めることができる。具体的には、オゾン劣化に対する耐候性を高めることや、表面に光沢を出すことができる。
なお、アンモニアや水分は、例えばキャスティング処理における加熱により、蒸発して残らない。
【0026】
また、本発明に係るインク吸収型記録媒体では、基材上にアルミナまたはアルミナ水和物とポリビニルアルコールを含有するコート層を有し、コート層の表面側の硼砂濃度がコート層の基材側の硼砂濃度と比べて高いことを特徴とする。
このようなインク吸収型記録媒体は、例えば、上記のような本発明に係るインク吸収型記録媒体製造方法により製造される。つまり、本発明に係るインク吸収型記録媒体製造方法により製造されるインク吸収型記録媒体では、コート層の中において、硼砂が塗られた表面側の方が、反対側(基材側)と比べて、架橋している硼砂の濃度が高くなる。
【0027】
以下で、さらに、本発明について説明する。
本発明に係るインク吸収型記録媒体では、基材中と基材上のいずれか一方または両方にベーマイトを主としたベーマイト層からなるインク溶液受容層を有する構造において、基材面に対して垂直な方向についてインク溶液受容層の細孔構造が均一である。
例えば、基材中または基材上または基材中と基材上の両方にベーマイトを主としたインク溶液受容層を有する構造において、インク溶液受容層の断面方向の細孔構造が均一である溶液吸収型担持媒体を実現する。
ここで、細孔構造が均一である方向は、例えば、基材の表面と裏面とを垂直に貫く線の方向に相当する。
【0028】
したがって、例えば、従来のように小さく細かい粒子がインク吸収型記録媒体の表面に固まってしまうような構造では無いため、光散乱が大きい小さく細かい粒子による光散乱が少なく、透明性を出すことができる。このため、透明なシートを基板として用いた場合には透明性を確保することができ、また、他の場合においても色劣化を防ぐことができる。また、耐候性が良好であり、コストを安くすることが可能である。
ここで、インク溶液受容層の細孔構造が均一としては、いわゆるキャッピング(上側の表面の膜)が起きない程度であることが好ましく、インクの中の染料(シアン、マゼンタ、イエロー)がすべてインク吸収型記録媒体に入る程度であることが好ましい。
【0029】
また、本発明に係るインク吸収型記録媒体では、X線回折により測定されるベーマイトの(020)面の結晶厚さが60オングストローム以下である。
例えば、基材に含まれるまたは基材上のまたは基材に含まれるのと基材上の両方のベーマイトを主としたインク溶液受容層を有する構造において、そのベーマイトのX線回折によって測定される(020)面の結晶厚さが60オングストローム以下であり、主たるベーマイト層の断面方向の細孔構造が均一である溶液吸収型担持媒体を実現する。
したがって、小さいベーマイトの粒子を使用することができることから、インク吸収型記録媒体の厚さや重さを小さくすることができ、コストを安くすることができる。
【0030】
また、本発明に係るインク吸収型記録媒体では、各層毎に結晶の平均サイズが異なるベーマイトとポリビニルアルコールを主としてなるベーマイト層からなるインク溶液受容層が基材上に2層以上形成され、それぞれのインク溶液受容層毎に基材面に対して垂直な方向の細孔構造が均一である。
例えば、基材上に2種類以上の結晶の平均サイズの異なるベーマイトとポリビニルアルコールを主としてなる2層以上の層が設けられてなり、ベーマイトのサイズが異なるそれぞれのベーマイト層の断面方向の細孔構造が均一であるインク吸収型記録媒体を実現する。
したがって、例えば、インク吸収型記録媒体の上側の層として小さなベーマイト粒子で薄い層を生成して、その層でシアンを吸収するようなことが可能である。
ここで、基材上に形成される2層以上の層の数としては、種々な数が用いられてもよい。
また、各層の厚さとしては、種々な厚さが用いられてもよい。なお、各層において、断面方向の細孔構造が均一である。
【0031】
また、本発明に係るインク吸収型記録媒体では、(020)面の結晶厚さが60オングストローム以下であるベーマイトに対して、アルミナ固形分に対する重量パーセントが8重量パーセント以下であるポリビニルアルコールを含むベーマイト層からなるインク溶液受容層を有する。
例えば、(020)面の結晶厚さが60オングストローム以下のベーマイトに対して8重量%(アルミナ固形分に対する重量%)以下のポリビニルアルコールを含むひび割れの無いインク溶液受容層を有するインク吸収型記録媒体を実現する。なお、ポリビニルアルコールの重量%を4重量%以下とすることも可能である。
したがって、ひび割れを生じさせること無く、ポリビニルアルコールの量を減少させることができ、このため、小さい結晶を使用することができ、透明性やインク吸収性を大きくすることができる。
【0032】
また、本発明に係るインク吸収型記録媒体では、基材の上面または両面が樹脂によりコートされている。
例えば、記録媒体の基材が樹脂コートされたインク吸収型記録媒体を実現する。なお、コート面は両面であってもよく、あるいは、上面だけでもよい。
したがって、通常のレジンコート紙においては、マゼンタのインクの溶媒が残って横方向に動くマイグレーションが起きて色が悪くなって赤がにじむ現象が生じるが、本発明では、インク溶液受容層の細孔構造が均一であるため、このような現象は起こらない。
【0033】
また、本発明に係るインク吸収型記録媒体では、基材が透明なフィルム、または、白色の不透明なフィルムからなる。
例えば、記録媒体の基材が透明フィルムや白色不透明フィルムであるインク吸収型記録媒体を実現する。
【0034】
また、本発明に係るインク吸収型記録媒体では、平均インク打ち込み量が2mg/(cm・sec)以上であるインクジェット記録方式で印字された場合にビーディングが生じない程度で十分なインク溶液受容層を有し、また、アンチブロッキング材を有せず且つヘイズ度が5%以下である。
例えば、平均インク打ち込み量2mg/(cm・sec)以上のインクジェット記録方式で印字された後に、ビーディングが無い十分なインク溶液受容層を有する透明フィルムにおいて、アンチブロッキング材を有せず且つヘイズ度が5%以下である透明インクジェット用記録媒体を実現する。
したがって、ヘイズ度が十分に小さいほどに細孔構造が均一であり、このため、透明性があり、また、基材が白でも色がきれいに見える。
【0035】
また、本発明に係るインク吸収型記録媒体では、染料と水と不揮発性溶媒からなるインクを平均2mg/(cm・sec)で印字するインクジェット記録方式で印字された場合に、印字直後と印字から1日後とで色の濃度および色相の変化が5%以下である。
したがって、例えば、従来においては、インクの溶媒が残った場合に、マゼンタが溶媒の下へ行き、溶媒で光が散乱して白い散乱が起こり、マゼンタが一部見えなくなる現象が起きるが、本発明では、このような現象は起きず、色が変化しない。
【0036】
また、本発明に係るインク吸収型記録媒体では、基材中およびインク溶液受容層に含まれる硼砂の量が、インク溶液受容層に含まれるポリビニルアルコールの架橋当量分以下である。
したがって、基材およびインク受容層の両方に含まれる不要な硼砂が無いインク吸収型記録媒体を提供することができる。
【0037】
また、本発明に係るインク吸収型記録媒体は、例えば、主としてベーマイト、ポリビニルアルコールおよび水からなる塗工液が基材上に塗布された後に、塗布液の表面上に硼砂およびアンモニアを含む水溶液が塗布され、例えば、その後、乾燥させられて製造される。
したがって、例えば、従来においては、乾燥すると小さい粒子が上に上がってキャッピングが起こり黒く見えるため、インクの入る隙間を生成するために70オングストローム以上の大きいベーマイト粒子を使用していたが、本発明では、硼砂とアンモニアが上から塗られることで、ベーマイトおよびポリビニルアルコールがそのままの状態で固まる(ゲル化する)ため、小さいベーマイト粒子を使用してもキャッピングは起きず、細孔構造(孔の分散状態)が均一となる。このため、例えば小さい粒子が上に上がるとガラスのようになってインクが入らないが、本発明では、小さい粒子が上に上がらないためインクが入り、十分なインク吸収性を確保することができる。
【0038】
また、本発明に係るインク吸収型記録媒体は、上記した硼砂およびアンモニアを含む水溶液が塗布された後に、例えば、アンモニアを含む水溶液または水により洗浄され、その後、乾燥させられて製造される。
したがって、例えば、従来においては、紙には過剰な硼砂が入っているが、本発明では、余分な硼砂を洗い流すため、硼砂が少なくて非常に良い。
【0039】
また、本発明に係るインク吸収型記録媒体では、基材はフィルムまたはRCペーパーからなり、また、乾燥させられる工程においてクリーンルームが不要である。
例えば、主としてベーマイトとポリビニールアルコールをフィルムに塗工した後に、乾燥する工程においてクリーンルームを必要としない、埃による欠陥の無い塗工方法を実現する。なお、上記したアンモニアを含む水溶液または水により洗浄する場合には、その後の乾燥においてクリーンルームが不要である。
したがって、従来においては、フィルムは一般に埃に弱いためクリーンルームでゆっくりと乾燥を行うが、本発明では、例えば塗工液を塗った後に直ぐに水がかけられるため、埃に強く、高速で乾かすことができる。
【発明の効果】
【0040】
以上説明したように、本発明に係るインク吸収型記録媒体製造方法では、簡易に、品質の良いインク吸収型記録媒体を製造することができる。
また、本発明では、品質の良いインク吸収型記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明に係る実施例を説明する。
【実施例1】
【0042】
X線回折により測定した値を用いてシェラーの式により求めた(020)面の結晶厚さが43オングストロームである(サソール(Sasol)社製 ベーマイト 23N4)を純水に分散して固形分濃度が30重量%である懸濁液を調整した後、ベーマイト固形分に対して4重量%の(日本ゴーセノール社製 カチオン性ポリビニルアルコール K210)を添加して良く攪拌して均一な分散液を得た。この液をつぼ量130g/mの上質紙にワイアーバーで塗布した後、直ちに硼砂飽和濃度の約5%をアンモニア水でpH11に調整した液をベーマイト塗布面に均一に掛け、そして直ちにpH11に調整した薄いアンモニア水で余分な硼砂を洗い流し、150°Cの熱風乾燥機で乾燥した。
【0043】
このときのベーマイトとポリビニルアルコールの乾燥固形分は25g/mであった。
塗工面はまったく亀裂等は無く均一な塗工面が得られた。
この塗工乃至乾燥した紙に対して、キャノン製のインクジェットプリンターで各種画像を書く印字モードで印字した。その結果と、従来の塗工紙であるキャノン製PR101、SP101およびエプソン(EPSON)PMフォトに同一画像をキャノン製のインクジェットプリンターピクサス(Pixus)950iで印字したものについて、色濃度、色経時変化、インクブリーディング、耐オゾン性、TEM(トランスミッション型顕微鏡)によるインク溶液受容層の断面観察、インク溶液受容層の塗工厚さの測定等を行って、比較した。
【0044】
この比較の結果、インク溶液受容層の厚さは、本実施例品(本発明品)が24ミクロンであるのに対して、他の比較サンプルはいずれも40ミクロンを有している。
断面観察では、本実施例品(本発明品)が断面の内部と表層部が均一であるのに対して、他の比較サンプルにおいては明らかに表層部が緻密化している。
色濃度においては、本実施例品(本発明品)について最も高い値が得られた。
インクのマイグレーションに関しては、印字後にポリエチレン製のクリアケースに一ヶ月保存して観察した結果、SP101およびPMフォトには著しい変化が見られたが、本実施例品(本発明品)においてはまったく変化が見られなかった。
耐オゾン性試験の方法として、簡易的にオゾンを発生する装置の出口に20分間曝露して評価した結果、単色の黒インクで印宇した部分において茶色に変化する量は、本実施例品(本発明品)において最も少なかった。
印字された色の経時変化についても、本実施例品(本発明品)が最も少なかった。
【実施例2】
【0045】
上記した実施例1で調整した塗工液を透明で親水化処理したポリエステルフィルム上にワイヤーバー50#で塗布した後、直ちにアンモニア水でpH11に調整した飽和硼砂溶液中に浸漬し、その後、直ちにpH11のアンモニア水で十分に洗浄した。これを直ちに150度C(°C)にあらかじめ調整しておいた乾燥機ですばやく乾燥した。乾燥後に取り出したフィルムは透明であり、ヘイズ値は5.3%であり、且つひび割れ等の発生は皆無であった。また、乾燥後の塗工量は18g/mであった。このフィルムに対して、キャノン製のインクジェットプリンターピクサス950iを用いて、オーバーヘッドプロジェクター(OHP)モードで標準画像を印字したところ、インクの溢れによるビーディング等は無く、また画像の透明度も高く、OHPでの投影画像においては印字部の透明度は高く本来の色再現性は極めて良好であつた。
【0046】
(比較例1)
上記した実施例1と同じ塗工液を上記した実施例2と同じ透明PET(Polyethylene Terephthalate Resin)上に同様に塗布した後、直ちに150度Cで乾燥を行った。取り出した試料の塗工面には細かいひび割れが見られた。さらに、上記した実施例2と同様に印字した結果、インクの未吸収部分が多く見られた。
【0047】
(比較例2)
ベーマイト結晶の(020)面に垂直な方向の厚さが104オングストロームである(サソール社製 DISPERAL HP14)を酢酸でpH4に調整した水に分散して24%の液を調整した。この液について、上記した実施例1と同じポリビニルアルコール水溶液がベーマイトに対して5重量%となるように塗工液を調整して、上記した実施例2と同じポリエステルフィルムにワイヤーバー#75で塗工し、直ちに150度Cで乾燥した。
その塗工量は、乾燥後に35g/mであった。こうして調整したフィルムのヘイズ値は15%であり、見た目にもかなり白濁していた。また、乾燥によるひび割れおよび埃によるひび割れ等が多数観察された。さらに、上記した実施例2と同じインクジェットプリンターで同じ標準画像を印字した結果、インク吸収不足による現象が多数観察された。また、印字部分は、OHPでの投影画像において、上記した実施例2と比較して、かなり暗いものとなった。
【実施例3】
【0048】
上記した比較例2と同じ塗工液を、両面がポリエチレンコートされた紙および浸水化処理された白いポリエステルフィルムのそれぞれにワイヤーバー#60で塗工した後、直ちにアンモニア水でpH11に調整した飽和硼砂水溶液に浸漬した。その後、直ちにpH11のアンモニア水で過剰の硼砂を洗浄した後、ポリエチレンコート紙を用いた方の試料を100度Cで乾燥し、白フィルムを用いた方の試料を150度Cで乾燥した。
その結果、塗工面にひび割れ等はまったく観察されなかった。
また、乾燥後に、他の実施例および比較例と同じプリンターを用いて、プロフォトモードで標準画像を印字した。その結果、インク吸収不足による現象はまったく観察されなかた。
【0049】
(比較例3)
上記した実施例3とまったく同様にポリエチレンコートされた紙と白フィルムのそれぞれに同一質量分を塗工した後、直ちにそれぞれについて上記した実施例3と同様に乾燥を行った。その結果、それぞれについて大小多数のひび割れを観察した。また、上記した実施例3と同様にインクジェットプリンターで印字した結果、インク吸収不足が観察された。
【実施例4】
【0050】
上記した実施例1の試料と比較に用いたサンプルとキャノン製PR101、Epson製OHPフィルムのそれぞれ10gを100ccの純水に一昼夜浸漬した後、ろ液をEDAXで分析した結果、上記した実施例1のサンプルではまったく硼砂は検出できなかったが、PR101においてはろ液中に130ppmの硼砂が検出され、OHPフィルムのろ液中には50ppmの硼砂が検出された。
【実施例5】
【0051】
以下で、さらに、本発明に係る具体例を示す。
図1には、本発明に係るインク吸収型記録媒体製造方法によりインク吸収型記録媒体を製造する処理の手順の一例を示してある。
図2には、本発明に係るインク吸収型記録媒体を製造する装置(インク吸収型記録媒体製造装置)の一構成例を示してある。
【0052】
図2に示されるように、本例のインク吸収型記録媒体製造装置には、厚紙ロール1と、コンマコーター2およびコーターロール3と、ゲルコーター4と、洗浄用コーター5と、キャスティングロール6および加圧ロール7と、加圧ロール7の軸8およびプレスシリンダー9と、キャスティングロール6のブラシングクリーンロール10と、キッスコーターユニット11と、赤外線ランプ12と、巻取ロール13と、案内ロールR1〜R12と、コーティング用タンク21と、ダンピング用タンク22と、洗浄用タンク23が備えられている。
【0053】
まず、図1および図2を参照して、本例のインク吸収型記録媒体製造装置において、本発明に係るインク吸収型記録媒体製造方法によりインク吸収型記録媒体を製造する処理の全体的な手順の一例を示す。
すなわち、本例では、インク吸収型記録媒体の基材31として紙を用いており、あらかじめ、紙基材31を厚紙ロール1に巻き回しておく。
【0054】
そして、まず、厚紙ロール1から供給される紙基材31が案内ロールR1〜R5によりコンマコーター2およびコーターロール3の間へ案内され、当該紙基材31に対してコンマコーター2およびコーターロール3によりコーティング用タンク21内のコート液を用いてコーティング処理P1が行われる。
次に、コーティング処理P1によりコート層が形成された紙基材31が案内ロールR6によりダンピングユニットのゲルコーター4へ案内され、当該コート層に対してゲルコーター4によりダンピング用タンク22内のゲル化用液を用いてゲル化処理P2が行われる。
【0055】
次に、ゲル化処理P2によりコート層がゲル化させられた紙基材31が案内ロールR7により洗浄用コーター5へ案内され、当該コート層に対して洗浄用コーター5により洗浄用タンク23内の洗浄用液を用いて洗浄処理P3が行われる。
次に、洗浄処理P3によりコート層が洗浄された紙基材31が案内ロールR8によりキャスティングロール6および加圧ロール7の間へ案内され、当該コート層を有する紙基材31に対してキャスティングロール6および加圧ロール7によりキャスティング処理P4が行われる。
【0056】
なお、キャスティング処理P4では、コート層を有する紙基材31が、キャスティングロール6と加圧ロール7との間で圧接されるとともに、キャスティングロール6により加熱乾燥させられる。ここで、加圧ロール7には、軸8およびプレスシリンダー9を用いて圧力が加えられる。
また、キャスティングロール6には、ブラシングによりクリーニングを行うブラシングクリーニングロール10が設けられている。
【0057】
次に、キャスティング処理P4によりキャストされたコート層を有する紙基材31が、案内ロールR9によりキッスコーターユニット11へ案内されて、所定の仕上げ用液によりコーティング処理が行われ、その後、赤外線ランプ12を通過して、案内ロールR10〜R12により巻取ロール13へ案内される。
そして、これらの処理の結果物が、インク吸収型記録媒体として、巻取ロール13により巻き取られる。
【0058】
以下で、本例のインク吸収型記録媒体製造方法およびインク吸収型記録媒体製造装置におけるそれぞれの処理P1〜P4を詳しく説明する。
(1)コーティング処理P1について説明する。
本例のコーティング処理P1では、紙基材31の表面側から紙基材31上にコーターによりコート液を塗布して、紙基材31上にコート層を形成した。
【0059】
ここで、コーターとしては、本例では、コンマコーター2を用いた。
また、コート液としては、ベーマイトとポリビニルアルコールを水に溶かしてベーマイトを分散してコロイド状とした水溶物とし、さらに、分散性およびコロイド状態を保持するために、酢酸を少量加えてpH4〜pH5の範囲内のpH値に調整したものを用いた。
また、重量%濃度を単位として、固形分濃度について、アルミナまたはアルミナ水和物(本例では、ベーマイト)は20%〜25%であるのがよく本例では(サソール社製 DISPERAL HP 14)を水に溶かして23%とし、ポリビニルアルコールは2%〜5%であるのがよい。
また、コート液の全体として、固形分濃度が水に対して15%〜30%(重量%濃度)であるのがよく、粘性が50〜3000センチポアズ(c poise)であるのがよい。
【0060】
(2)ゲル化処理P2について説明する。
本例のゲル化処理P2では、コーティング処理P1により形成されたコート層の表面側からコート層にゲルコーター4によりゲル化用液を塗布して、コート層をゲル化させた。
なお、ゲルコーター4としては、種々なコーターが用いられてもよい。
ここで、ゲル化用液としては、アンモニア水と硼砂(本例では、NaBO)水溶液の混合液を用いており、本例では、重量%濃度を単位として、アンモニア=1.0、硼砂=1.5の割合で水に溶かした水溶液を用いた。なお、(硼砂/アンモニア)の重量比が1.0〜2.0程度の値となるのが好ましく、特に、1.2〜1.6の範囲内の値であるのが好ましい。当該重量比が1.0〜2.0の範囲内の値から大きくずれると、ゲル化が不十分となってキャスティング処理P4がうまく為されなくなる。
【0061】
また、本例では、飽和状態に近いアンモニア水溶液として、アンモニアの固形分濃度が30%であるゲル化用液を用いた。また、本例では、飽和状態に近い硼砂水溶液として、硼砂の固形分濃度が5%であるゲル化用液を用いた。また、本例では、約pH10.0であるゲル化用液を用いた。
なお、アルミナは約pH9.0以上でゲル化する性質を有しており、本例では、アンモニアにより、コート層に含まれるベーマイトをゲル化させる。また、本例では、硼砂により、コート層に含まれるポリビニルアルコールをゲル化させる。
【0062】
(3)洗浄処理P3について説明する。
本例の洗浄処理P3では、ゲル化処理P2によりゲル化したコート層の表面側を、アンモニアを含有する洗浄用液により洗浄した。
これにより、ゲル化したコート層に付着した余分な硼砂を取り除くことができる。
ここで、洗浄用液としては、本例では、アンモニア水を用いた。当該アンモニア水としては、濃すぎるとよくなく、重量%濃度が低いものの方が好ましい。また、水で洗浄することも可能である。
【0063】
(4)キャスティング処理P4について説明する。
本例のキャスティング処理P4では、洗浄処理P3による洗浄後のコート層の表面側を、加熱したキャスティングロール6によりキャストする。これにより、紙基材上のゲル化したコート層が、つまり紙基材上に形成されたベーマイトとポリビニルアルコールを含有するゲル化したコート層が、キャスティングの加熱により、乾燥させられる。
【0064】
ここで、キャスティングロール6としては、種々なものが用いられてもよく、本例では、クロムめっきされて鏡面仕上げされたロールを用いた。そして、本例では、キャスティングロール6をスチームにより加熱し、紙基材31上のゲル化したコート層を加熱したキャスティングロール6の金属面に加圧ロール7により圧接して、当該コート層を乾燥させた。
なお、本例では、キャスティング処理P4により、光沢のあるインク吸収型記録媒体が製造される。
また、本例では、ゲル化処理P2や洗浄処理P3においてコート層に付着したアンモニアや水分が、キャスティング処理P4における加熱により蒸発する。
【0065】
以上のようにして、キャスティング処理P4によるキャスト後の結果物(コート層を有した紙基材31)をインク吸収型記録媒体として得た。当該結果物では、アルミナ水和物とポリビニルアルコールの混合物からなる固形分は25g/mであった。
本例のような処理により製造されたインク吸収型記録媒体では、紙基材31上に、ベーマイトとポリビニルアルコールを含有するコート層を有している。また、エダックス(EDAX)あるいはエスカ(ESCA)を用いて硼素(元素記号B)の濃度を調べたところ、コート層の表面側の硼砂濃度は、当該コート層の紙基材31側の硼砂濃度と比べて、高くなっていた。
【0066】
次に、本例のインク吸収型記録媒体製造方法により製造されたインク吸収型記録媒体(本例のインク吸収型記録媒体)の品質と、上記従来例として示した従来方法Bにより製造されたインク吸収型記録媒体(従来例に係るインク吸収型記録媒体)の品質とを比較した結果例を示す。
【0067】
ここで、従来例に係るインク吸収型記録媒体のコート液では、アルミナまたはアルミナ水和物としてベーマイトである(サソール社製 DISPERAL HP 14)を用い、当該(サソール社製 DISPERAL HP 14)の重量%濃度を23%とし、ノニオン性またはアニオン性のポリビニルアルコールとして(日本酢ピ・ポバール株式会社製 JM−26)を用い、当該(日本酢ピ・ポバール株式会社製 JM−26)の重量%濃度を2.3%とし、残りを水とした。また、従来例に係るインク吸収型記録媒体では、当該(サソール社製 DISPERAL HP 14)と当該(日本酢ピ・ポバール株式会社製 JM−26)の両方の乾燥固形分が紙基材上で25g/mとなった。
【0068】
同様に、本例のインク吸収型記録媒体のコート液では、アルミナまたはアルミナ水和物としてベーマイトである(サソール社製 DISPERAL HP 14)を用い、当該(サソール社製 DISPERAL HP 14)の重量%濃度を23%とし、また、ノニオン性またはアニオン性のポリビニルアルコールとして(日本酢ピ・ポバール株式会社製 JM−26)を用い、当該(日本酢ピ・ポバール株式会社製 JM−26)の重量%濃度を2.3%とし、残りを水とした。また、本例のインク吸収型記録媒体では、当該(サソール社製 DISPERAL HP 14)と当該(日本合成化学工業株式会社製 ゴーセノールK210)との両方の乾燥固形分が紙基材上で25g/mとなった。
【0069】
(比較例4)インク吸収型記録媒体のインクの吸収性を比較した。
本例では、キャノン株式会社のプリンター(BJF870)を使用して、フォトショップにより作成した赤(レッド)、青(ブルー)、緑(グリーン)の3色を最高濃度で、本例のインク吸収型記録媒体および従来例に係るインク吸収型記録媒体に印字した。
この結果、従来例に係るインク吸収型記録媒体では、インクの液滴が吸収前につながってしまうビーディング(印字筋)による色むらが発生したことが観察されたが、本例のインク吸収型記録媒体では、このような色むらは観察されず、色が均一であり、インクの吸収性が非常に良いことが観察された。
【0070】
(比較例5)インク吸収型記録媒体のオゾンに対する耐候性を比較した。なお、このような耐候性の効果は、特に、アンモニア水により洗浄処理P3を行うことにより得られる。
本例では、本例のインク吸収型記録媒体および従来例に係るインク吸収型記録媒体に印字したものを、印字後直ちに日本の東京にある通常の明るさの室内に、最もオゾン等による酸化劣化が激しくなる高湿且つ紫外線が比較的多くなる5月〜6月の季節において、1箇月間展示した。すなわち、天然曝露した場合について、印字された色の濃度の減衰率ΔEを測定した。ここで、当該減衰率ΔEとしては、赤(レッド)、青(ブルー)、緑(グリーン)、黒(ブラック)の4色の平均値を測定した。
この結果、従来例に係るインク吸収型記録媒体では、色の濃度の減衰率ΔE=31%であったのに対して、アンモニア水または水により洗浄処理P3を行った本例のインク吸収型記録媒体では、色の濃度の減衰率ΔE=20%であり、オゾン劣化に対する耐候性が良いことが観察された。
【0071】
ここで、天然曝露以外の方法として、暗い箱に入れて2ppmのオゾンガスを通す方法も知られているが、あまり精度は良くない。
なお、光劣化に対する耐候性は、本例のインク吸収型記録媒体においても従来例に係るインク吸収型記録媒体においても、大きな差は無かった。具体的には、天然曝露またはキセノン(Xe)ランプによる促進試験を行ったところ、本例のインク吸収型記録媒体においても従来例に係るインク吸収型記録媒体においても、使用に十分に耐えられる程度の光に対する耐候性を有していた。
【0072】
次に、本例のインク吸収型記録媒体製造方法およびインク吸収型記録媒体製造装置や、本例のインク吸収型記録媒体製造方法およびインク吸収型記録媒体製造装置により製造されたインク吸収型記録媒体(本例のインク吸収型記録媒体)について、効果を説明する。
(1)本例のインク吸収型記録媒体製造方法およびインク吸収型記録媒体製造装置では、例えば従来のように形成されたコート層を乾燥させた後に水分で膨潤させてからキャストするといった煩雑な処理(リウェット処理)が不要であり、製造工程を簡易化することができ、エネルギーコストを低減することができる。
【0073】
(2)従来では、一例として紙基材となる紙に硼砂を塗って乾燥させた後にコーティング処理を施すことが行われていたが、この方法ではコーティング処理時にコート液がゲル化することから、使用することが可能なコーターやコート液が限定されていた。これに対して、本例のインク吸収型記録媒体製造方法およびインク吸収型記録媒体製造装置では、種々なコーターを使用することが可能であり、種々なコート液を使用することが可能である。
【0074】
(3)従来では、コート液のpHを酢酸で調整すると、製造されるインク吸収型記録媒体に酢酸臭が残ってしまったが、本例のインク吸収型記録媒体製造方法およびインク吸収型記録媒体では、コート液のpHを酢酸で調整しても、当該酢酸とゲル化用あるいは洗浄用のアンモニアとから酢酸アンモニウムが生成されて、当該酢酸アンモニウムがキャスティング処理P4における熱などにより蒸発するため、製造されるインク吸収型記録媒体に酢酸臭は残らない。
【0075】
(4)本例のインク吸収型記録媒体では、表面側において大きい粒子と微粒子とが均一となって、インクの吸収性が良い、と予想される。実際に、本例のインク吸収型記録媒体では、黒色の色濃度が高く、例えば2.5以上となる。また、本例のインク吸収型記録媒体では、インクの液滴が吸収前につながってしまうビーディング(印字筋)の発生を防ぐことができる。
一例として、従来ではA4版のインク吸収型記録媒体1枚当たりで200gのコート液(水溶液)を塗ってもビーディングが生じていたが、本例では1枚当たりで20gのコート液(水溶液)を塗るだけでもビーディングが生じない。
【0076】
(5)本例のインク吸収型記録媒体では、オゾンやNOxに対して、耐候性が強い。特に、アンモニア水により洗浄処理P3が行われることにより、オゾン劣化に対する耐候性を高めることができ、また、インク吸収型記録媒体の表面をつるつるにして光沢を出すことができる。
(6)本例のインク吸収型記録媒体では、例えばコート層の表面側からゲル化処理が行われるため、表面側からのひび割れを防止することができ、強度を高めることができる。
【0077】
(7)本例のインク吸収型記録媒体製造方法では、インクやトナーや染料などの種々なものを用いるプリンターに対応することが可能な良質の印刷用シートを提供することができる。例えば、本例のインク吸収型記録媒体では、トナーの添着率が高く、電子写真の光沢紙として用いられるのにも適している。また、本例のインク吸収型記録媒体では、オフセット印刷したときにオフセットインクの乾燥がきわめて速く、オフセット印刷で用いられるのにも適している。
例えば、本発明は、染料インクや染料インクジェットプリンター、あるいは、顔料インクや顔料インクジェットプリンターに適用することができ、また、トナーに適用することも可能である。
【0078】
なお、本発明は、必ずしも以上に示した実施例に限定されるものではなく、種々な実施態様で実施されてもよい。
また、本発明は、例えば、インク吸収型記録媒体の製造方法などの方法あるいは方式や、インク吸収型記録媒体やインク吸収型記録媒体製造装置などの物などの種々な態様で提供することが可能である。
また、インク吸収型記録媒体の名称としては、他の名称であっても実質的に同様なものについては本発明に包含され、例えば、インクジェット用記録媒体、溶液吸収型担持媒体、インク溶液吸収型記録媒体などの名称のものについても本発明に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の一実施例に係るインク吸収型記録媒体を製造する処理の手順の一例を示す図である。
【図2】本発明の一実施例に係るインク吸収型記録媒体を製造する装置の一構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0080】
P1・・コーティング処理、 P2・・ゲル化処理、
P3・・洗浄処理、 P4・・キャスティング処理、
1・・厚紙ロール、 2・・コンマコーター、
3・・コーターロール、 4・・ゲルコーター、
5・・洗浄用コーター、 6・・キャスティングロール、
7・・加圧ロール、 8・・軸、
9・・プレスシリンダー、 10・・ブラシングクリーンロール、
11・・キッスコーターユニット、 12・・赤外線ランプ、
13・・巻取ロール、 21・・コーティング用タンク、
22・・ダンピング用タンク、 23・・洗浄用タンク、
R1〜R12・・案内ロール、 31・・紙基材、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にアルミナまたはアルミナ水和物とポリビニルアルコールを含有して酢酸によりpHが調整されたコート液を塗布してコート層を形成するコーティング処理と、形成されたコート層にアンモニア水と硼砂水溶液との混合物を塗布してコート層のアルミナまたはアルミナ水和物とポリビニルアルコールをゲル化させるゲル化処理と、ゲル化したコート層をキャストするキャスティング処理を行って、インク吸収型記録媒体を製造することを特徴とするインク吸収型記録媒体製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のインク吸収型記録媒体製造方法において、
ゲル化処理とキャスティング処理との間に、ゲル化したコート層の余分な硼砂をアンモニア水または水により洗浄する洗浄処理を行うことを特徴とするインク吸収型記録媒体製造方法。
【請求項3】
基材上にアルミナまたはアルミナ水和物とポリビニルアルコールを含有するコート層を有し、コート層の表面側の硼砂濃度がコート層の基材側の硼砂濃度と比べて高いことを特徴とするインク吸収型記録媒体。
【請求項4】
基材中と基材上のいずれか一方または両方にベーマイトを主としたベーマイト層からなるインク溶液受容層を有するインク吸収型記録媒体において、
基材面に対して垂直な方向についてインク溶液受容層の細孔構造が均一であることを特徴とするインク吸収型記録媒体。
【請求項5】
請求項4に記載のインク吸収型記録媒体において、
X線回折により測定されるベーマイトの(020)面の結晶厚さが60オングストローム以下であることを特徴とするインク吸収型記録媒体。
【請求項6】
各層毎に結晶の平均サイズが異なるベーマイトとポリビニルアルコールを主としてなるベーマイト層からなるインク溶液受容層が基材上に2層以上形成され、それぞれのインク溶液受容層毎に基材面に対して垂直な方向の細孔構造が均一であることを特徴とするインク吸収型記録媒体。
【請求項7】
請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載のインク吸収型記録媒体において、
(020)面の結晶厚さが60オングストローム以下であるベーマイトに対して、アルミナ固形分に対する重量パーセントが8重量パーセント以下であるポリビニルアルコールを含むベーマイト層からなるインク溶液受容層を有することを特徴とするインク吸収型記録媒体。
【請求項8】
請求項4乃至請求項7のいずれか1項に記載のインク吸収型記録媒体において、
基材の上面または両面が樹脂によりコートされていることを特徴とするインク吸収型記録媒体。
【請求項9】
請求項4乃至請求項8のいずれか1項に記載のインク吸収型記録媒体において、
基材が透明なフィルムまたは白色の不透明なフィルムからなることを特徴とするインク吸収型記録媒体。
【請求項10】
請求項9に記載のインク吸収型記録媒体において、
平均インク打ち込み量が2mg/(cm・sec)以上であるインクジェット記録方式で印字された場合にビーディングが生じない程度で十分なインク溶液受容層を有し、
アンチブロッキング材を有せず且つヘイズ度が5%以下であることを特徴とするインク吸収型記録媒体。
【請求項11】
請求項4乃至請求項10のいずれか1項に記載のインク吸収型記録媒体において、
染料と水と不揮発性溶媒からなるインクを平均2mg/(cm・sec)で印字するインクジェット記録方式で印字された場合に、印字直後と印字から1日後とで色の濃度及び色相の変化が5%以下であることを特徴とするインク吸収型記録媒体。
【請求項12】
請求項4乃至請求項11のいずれか1項に記載のインク吸収型記録媒体において、
基材中およびインク溶液受容層に含まれる硼砂の量が、インク溶液受容層に含まれるポリビニルアルコールの架橋当量分以下であることを特徴とするインク吸収型記録媒体。
【請求項13】
請求項4乃至請求項12のいずれか1項に記載のインク吸収型記録媒体において、
主としてベーマイト、ポリビニルアルコールおよび水からなる塗工液が基材上に塗布された後に、塗布液の表面上に硼砂およびアンモニアを含む水溶液が塗布されて製造されることを特徴とするインク吸収型記録媒体。
【請求項14】
請求項13に記載のインク吸収型記録媒体において、
前記した硼砂およびアンモニアを含む水溶液が塗布された後に、アンモニアを含む水溶液または水により洗浄され、その後、乾燥させられて製造されることを特徴とするインク吸収型記録媒体。
【請求項15】
請求項14に記載のインク吸収型記録媒体において、
基材はフィルムまたはRCペーパーからなり、
乾燥させられる工程においてクリーンルームが不要であることを特徴とするインク吸収型記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−313844(P2007−313844A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148370(P2006−148370)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(503128618)永▲豊▼▲余▼造紙股▲分▼有限公司 (1)
【Fターム(参考)】