説明

インク組成物、インクセットおよびインクジェット画像形成方法

【課題】カールの発生を抑制することができ、インクの吐出信頼性が良好で、インクヘッドの撥水性の低下を抑制しうるインク組成物を提供する。
【解決手段】水と、色材と、水溶性有機溶剤と、界面活性剤と、全質量に対し0.0001質量%以上、0.5質量%以下の水可溶性のケイ酸塩とを含有し、前記水溶性有機溶剤のうち、溶解度パラメータ(SP値)が27.5以下の水溶性有機溶剤が40質量%以上であるインク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物、インクセットおよびインクジェット画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法で記録する際の被記録媒体としては普通紙、コート紙、光沢紙、OHPシート、バックプリントフィルムなど様々なものが市販されているが、一般のオフィスでのビジネス用途では低価格の普通紙を用いることが多い。この際の要求特性としては通常要求される特性を満足しながら、紙に多くのインクを付与された際に生じるカール(紙が反る、丸まる)現象を緩和、抑制することが挙げられる。ここでは記録中のカールはもとより、記録後、水分が乾燥、蒸発して起こる記録後カールの緩和、抑制が重要になってくる。
また、形成される画像において、画像変形に由来する画像ムラの発生が抑制されていることも重要である。
【0003】
上記に関連して、画像の抜けやムラがなく定着性の良好なインクとして、ジグリセリン誘導体を含有するインクが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、カールの発生を緩和、抑制する方法として、例えば、低極性の溶剤をインク全質量に対して30%以上含有させた水系インクを使用することでカールを抑制する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
また、ノズル目詰まりの発生を抑制、記録液の変色の防止、及び防黴の発生を抑制する方法として、水溶性染料とケイ酸アルカリである水溶性防黴剤と水を含有するインクジェット用水性記録液が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
また、インクの吐出、溶解及び分散安定性に優れるとして、シリコン、ガラス等が設けられた膜で形成されるインクジェットプリンタに用いられるインクで、pH、ゼータ電位が特定される水性インク組成物が開示されている(例えば、特許文献4。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−168373号公報
【特許文献2】特開2007−152873号公報
【特許文献3】特開2003−165936号公報
【特許文献4】特開平9−279074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のインクではカールの発生を抑制することができなかった。また、特許文献2に記載のインクでは、インクの保存安定性や画像変形性が悪化する傾向があった。
また、特許文献3に記載の水性記録液は、カールの発生を十分に抑制することができなかった。また、特許文献4に記載のインクは、カールの発生の抑制、及び耐光性の向上の点で十分ではなかった。
本発明は、カールの発生を抑制することができ、インクの吐出信頼性が良好で、インクヘッドの撥水性の低下を抑制しうるインク組成物、及び該インク組成物を含むインクセット、並びにインクジェット画像形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1>
水と、色材と、水溶性有機溶剤と、界面活性剤と、全質量に対し0.0001質量%以上、0.5質量%以下の水可溶性のケイ酸塩とを含有し、前記水溶性有機溶剤のうち、溶解度パラメータ(SP値)が27.5以下の水溶性有機溶剤を40質量%以上であるインク組成物。
<2>
前記水可溶性のケイ酸塩が下記一般式(1)で表される化合物である上記<1>に記載のインク組成物。
x(AO)・y(SiO) 一般式(1)
(一般式(1)中、Aはナトリウム、カリウム、テトラアルキルアンモニウム(NR)を表す。xは1又は2、yは1〜4の整数を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
<3>
前記水可溶性のケイ酸塩がケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、及びケイ酸テトラメチルアンモニウムから選択される少なくとも1種である上記<2>に記載のインク組成物。
<4>
前記溶解度パラメータ(SP値)が27.5以下の水溶性有機溶剤は、下記構造式を有する上記<1>〜<3>のいずれか1項に記載のインク組成物。
【0007】
【化1】



【0008】
(構造式中、l、m、及びnは、それぞれ独立に、1以上の整数で、かつ、l+m+n=3〜15を表す。AOは、オキシエチレン基(EO)およびオキシプロピレン基(PO)の少なくとも一方を表す。)
<5>
前記水溶性有機溶剤の含有量は、全質量に対して30質量%以下である上記<1>〜<4>のいずれか1項に記載のインク組成物。
<6>
前記溶解度パラメータ(SP値)が27.5以下の水溶性有機溶剤を前記水溶性有機溶剤全質量に対して50質量%以上含有する上記<1>〜<5>のいずれか1項に記載のインク組成物。
<7>
前記色材は樹脂被覆顔料である上記<1>〜<6>のいずれか1項に記載のインク組成物。
<8>
上記<1>〜<7>のいずれか1項に記載のインク組成物と、前記インク組成物と接触して凝集体を形成可能な処理液と、を含むインクセット。
<9>
上記<1>〜<7>のいずれか1項に記載のインク組成物を、シリコンノズルプレートを備えたインクジェットヘッドから、記録媒体上に吐出して画像を形成するインク吐出工程を含むインクジェット画像形成方法。
<10>
上記<1>〜<7>のいずれか1項に記載のインク組成物と接触して凝集体を形成可能な処理液を、記録媒体上に付与する処理液付与工程をさらに含む上記<9>に記載のインクジェット画像形成方法。
<11>
前記記録媒体は、普通紙または塗工紙である上記<9>または<10>に記載のインクジェット画像形成方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カールの発生を抑制することができ、インクの吐出信頼性が良好で、インジェットヘッドの撥液性の低下を抑制しうるインク組成物、及び該インク組成物を含むインクセット、並びにインクジェット画像形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】インクジェットヘッドの内部構造の一例を示す概略断面図である。
【図2】ノズルプレートの吐出口配列の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<インク組成物>
本発明のインク組成物は、水と、色材と、水溶性有機溶剤と、界面活性剤と、全質量に対し0.0001質量%以上、0.5質量%以下の水可溶性のケイ酸塩とを含有し、前記水溶性有機溶剤のうち、溶解度パラメータ(SP値)が27.5以下の水溶性有機溶剤が40質量%以上である。
上記構成のように特定の溶剤を特定の比率で含み、かつ、水可溶性のケイ酸塩の特定の比率で含有することで、カールの発生を抑制することができ、かつ、インクジェットヘッドの撥液性の低下(インクの接触角の低下)を抑制することができる。特に、インクジェット専用紙以外の普通紙、汎用コート紙等にインクジェット方式で画像形成した場合であっても、カールの発生を抑制することができる。また、インクの吐出信頼性が良好となり、更に、画像形成時における画像変形の発生を抑制することができる。
【0012】
本発明のインク組成物は、上記必須成分に加え必要に応じて、界面活性剤、樹脂粒子、その他の成分を含んで構成することができる。
また、本発明のインク組成物は、フルカラーの画像形成に用いることができる。フルカラー画像を形成するために、マゼンタ色調インク、シアン色調インク、及びイエロー色調インクを用いることができ、また、色調を整えるために、更にブラック色調インクを用いてもよい。また、イエロー、マゼンタ、シアン色調インク以外のレッド、グリーン、ブルー、白色インクやいわゆる印刷分野における特色インク等を用いることができる。
【0013】
[水可溶性のケイ酸塩]
本発明のインク組成物は、水可溶性のケイ酸塩の少なくとも1種を含む。本発明においては、前記水可溶性のケイ酸塩としては、ケイ酸のアルカリ金属塩、及びケイ酸のアンモニウム塩が挙げられる。
ここで、水可溶性とは、20℃の水に1質量%以上溶解することを意味する。
ケイ酸のアルカリ金属塩は、二酸化ケイ素と金属酸化物から構成され、水溶性を有する化合物であれば特に制限なく、メタケイ酸のアルカリ金属塩、オルトケイ酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。
また、ケイ酸のアンモニウム塩としては、メタケイ酸のアンモニウム塩、オルトケイ酸のアンモニウム塩等が挙げられる。
本発明においては、上記水可溶性のケイ酸塩としては、1種を単独で用いても、これらの混合物であってよい。
本発明においては、ケイ酸のアルカリ金属塩、及びケイ酸のアンモニウム塩の少なくとも1種を用いることにより、特に、インクジェットヘッドの撥液性の低下(接触角の低下)を抑制することができる。
【0014】
前記水可溶性のケイ酸アルカリ金属塩、又はケイ酸のアンモニウム塩は、具体的には下記一般式(1)で表される化合物の少なくとも1種であることが好ましい。
x(AO)・y(SiO) 一般式(1)
一般式(1)中、Aはナトリウム、カリウム、テトラアルキルアンモニウム(NR)を表し、xは1又は2、yは1〜4の整数を表す。Rは炭素数1〜4のアルキル基(メチル、エチル、プロピル、又はブチル)を表す。
前記一般式(1)で表されるケイ酸のアルキル金属塩(A=アルカリ金属)の場合、x=1、y=1のときメタケイ酸アルカリ金属塩と、x=2、y=1のときにはオルトケイ酸アルカリ金属塩とそれぞれ呼ばれ、いずれも水溶性を示すケイ酸アルカリ金属塩である。
また、前記一般式(1)で表されるケイ酸のアンモニウム塩は、(A=テトラアルキルアンモニウム)は、x=1、y=1の場合はメタケイ酸のテトラアルキルアンモニウム塩で、x=2、y=1の場合にはオルトケイ酸のテトラアルキルアンモニウム塩であり、いずれも水溶性を示すケイ酸アンモニウム塩である。
【0015】
本発明においては、水可溶性のケイ酸アルカリ金属塩として、市販の化合物(例えば、水ガラス)を用いてもよく、また、ケイ酸と、アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物とを融解して得られるものを用いてもよい。また、水溶性のケイ酸アンモニウム塩としては、市販の化合物であっても、また、調製して得られるものであってもよい。
上記の化合物の中でも、インクジェットヘッドの撥液性低下の抑制の観点から、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及びケイ酸テトラメチルアンモニウムから選択される少なくとも1種が好ましい。
【0016】
本発明のインク組成物に含まれる、水可溶性のケイ酸塩の含有率としては、撥液性の低下抑制の観点から、インク組成物全質量に対して、0.0001質量%以上、0.5質量%以下とする必要があり、0.0001質量%未満であると撥液性の低下(インク組成物の撥液膜に対する接触角の低下)を抑制することができない。また、0.5質量%を超えると吐出信頼性が悪化する。
上記の中でも、0.001〜0.4質量%であることがより好ましく、0.01〜0.3質量%であることが更に好ましい。
【0017】
[水溶性有機溶剤]
本発明のインク組成物は水溶性有機溶剤を少なくとも1種含有し、前記水溶性有機溶剤のうち、溶解度パラメータ(SP値)が27.5以下の水溶性有機溶剤の少なくとも1種の含有率が全水溶性有機溶剤の全質量に対して40質量%以上であることを特徴とする。
本発明のインク組成物は、SP値が27.5以下の水溶性有機溶剤以外に、SP値が27.5を超える水溶性有機溶剤を必要に応じて添加することができる。
本発明において水溶性有機溶剤とは、100gの水に対して5g以上溶解する有機溶剤を意味する。
【0018】
本発明におけるSP値は、有機溶剤の溶解度パラメータ(SP値)を意味し、分子凝集エネルギーの平方根で表される値である。SP値については、Polymer HandBook(Second Edition)第IV章 Solubility Parameter Valuesに記載があり、その値を本発明におけるSP値とする。また、単位は(MPa)1/2であり、25℃における値を指す。
なお、データの記載がないものについては、R.F.Fedors,Polymer Engineering Science,14,p147−154(1974)に記載の方法で計算した値を本発明におけるSP値とする。
【0019】
本発明において、SP値が27.5以下の水溶性有機溶剤の含有率は、全水溶性有機溶剤に対して40質量%以上であるが、カール抑制効果の観点から、全水溶性有機溶剤に対して50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
前記含有率が40質量%未満の場合にはカール抑制効果が低下する。
【0020】
本発明におけるSP値が27.5以下の水溶性有機溶剤(以下、「第1の水溶性有機溶剤」ということがある)としては、SP値が27.5以下であれば特に制限はないが、カール抑制の観点から、そのSP値が16〜27.5であることが好ましく、18〜26.5であることがより好ましい。
ここで、SP値が27.5よりも大きい水溶性有機溶剤を「第2の水溶性有機溶剤」ということがある。
【0021】
以下にSP値が27.5以下の水溶性有機溶剤の具体例をSP値とともに示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル(DEGmEE)(SP値22.4)
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGmBE)(SP値21.5)
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル(TEGmBE)(SP値21.1)
・プロピレングリコールモノエチルエーテール(PGmEE)(SP値22.3)
・ジプロピレングリコール(DPG)(SP値27.1)
・ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPGmME)(SP値21.3)
・トリエチレングリコールモノエチルエーテル(TEGmEE)(SP値21.7)
・トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(TPGmME)(SP値20.4)
・トリエチレングリコールモノメチルエーテル(TEGmME)(SP値22.1)
・トリプロピレングリコール(TPG)(SP値24.7、例えばPP−200(三洋化成工業(株)製))
・ヘプタプロピレングリコール(SP値21.2、例えば、PP−400(三洋化成工業(株)製))、
・1,2−ヘキサンジオール(SP値24.1)
・POP(3)グリセリルエーテル(SP値26.4、例えばGP−250(三洋化成工業(株)製))
・POP(4)グリセリルエーテル(SP値24.9)
・POP(5)グリセリルエーテル(SP値23.9)
・POP(6)グリセリルエーテル(SP値23.2、例えばGP−400(三洋化成工業(株)製))
・POP(7)グリセリルエーテル(SP値22.6)
・POP(8)グリセリルエーテル(SP値22.1)
・POP(9)グリセリルエーテル(SP値21.7、例えばGP−600(三洋化成工業(株)製))
・POP(10)グリセリルエーテル(SP値21.4)
・POP(16)グリセリルエーテル(SP値20.2、例えばGP−1000(三洋化成工業(株)製))
・POP(4)ジグリセリルエーテル(SP値26.1、例えばSC−P400(阪本薬品工業(株)製))、
・POP(9)ジグリセリルエーテル(SP値22.7、例えばSC−P750(阪本薬品工業(株)製))、
・POE(20)ジグリセリルエーテル(SP値22.4、例えばSC−E1000(阪本薬品工業(株)製))、
・POE(40)ジグリセリルエーテル(SP値21.0、例えばSC−E2000(阪本薬品工業(株)製))。
・ジオキシエチレンジオキシプロピレンブチルエーテル(SP値20.1、例えば50HB−55(三洋化成工業(株)製))
・ペンタオキシエチレンペンタオキシプロピレンブチルエーテル(SP値18.8、例えば、50HB−100(三洋化成工業(株)製))、
・デカオキシエチレンヘプタオキシプロピレンブチルエーテル(SP値18.8、例えば、50HB−260(三洋化成工業(株)製))、
・ドデカオキシエチレンドデカオキシプロピレンブチルエーテル(SP値18.8、例えば、50HB−400(三洋化成工業(株)製))、
・デカオキシエチレントリアコンタオキシプロピレンブチルエーテル(SP値18.7、例えば、PE−62(三洋化成工業(株)製))、
・ペンタコサオキシエチレントリアコンタオキシプロピレンブチルエーテル(SP値18.8、例えば、PE−64(三洋化成工業(株)製))。
【0022】
尚、POP(3)グリセリルエーテルは、グリセリンにプロピレンオキシドが3つ付加したグリセリンのエーテル誘導体を意味し、他も同様である。
【0023】
また本発明におけるSP値が27.5以下の水溶性有機溶剤は下記構造式で表される化合物であることもまた好ましい。
【0024】
【化2】

【0025】
構造式中、l、m、及びnは、それぞれ独立に、1以上の整数で、かつ、l+m+n=3〜15を表す。l+m+nが3以上であることで十分なカール抑制効果が得られる。また15以下であることで吐出性が良好になる。中でも、l+m+nが3〜12が好ましく、3〜10がより好ましい。
上記構造式中、AOは、オキシエチレン基(EO)およびオキシプロピレン基(PO)の少なくとも一方を表すが、上記の中でも、オキシプロピレン基が好ましい。また前記(AO)l、(AO)m、及び(AO)nの各AOはそれぞれ同一でも異なってもよい。
【0026】
本発明において、SP値が27.5以下の水溶性有機溶剤は単独で使用しても、2種類以上混合して使用してもよい。
本発明のインク組成物が、SP値が27.5以下の水溶性有機溶剤を2種以上含む場合、それぞれの水溶性有機溶剤の種類については特に制限はない。例えば、上記構造式で表される水溶性有機溶剤とそれ以外の有機溶剤(好ましくは、ポリアルキレングリコール、およびポリアルキレングリコールのアルキルエーテル等)とを組合せて用いることができる。
【0027】
本発明における第1の水溶性有機溶剤としては、カール抑制の観点から、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、およびトリプロピレングリコールモノメチルエーテルから選択される少なくとも1種(以下、「水溶性有機溶剤A」ということがある)と、プロピレンオキシ基の含有数が3〜9であるポリオキシプロピレングリセリルエーテル、およびエチレンオキシ基の含有数とプロピレンオキシ基の含有数の和が3〜20であるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種(以下、「水溶性有機溶剤B」ということがある)とを含むことが好ましく、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコール、およびトリプロピレングリコールモノメチルエーテルから選択される少なくとも1種と、プロピレンオキシ基の含有数が3〜6であるポリオキシプロピレングリセリルエーテル、および、エチレンオキシ基の含有数とプロピレンオキシ基の含有数の和が3〜12であるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種とを含むことがより好ましい。
【0028】
さらに前記水溶性有機溶剤Aと水溶性有機溶剤Bの含有比率については、特に制限はないが、カール抑制の観点から、水溶性有機溶剤A:水溶性有機溶剤Bの含有比が質量基準で、1:3〜3:1であることが好ましく、1:2〜2:1であることがより好ましく、2:3〜3:2であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明のインク組成物においては、SP値が27.5以下の水溶性有機溶剤に加えて、SP値が27.5を超える水溶性有機溶剤を全水溶性有機溶剤に対して60質量%未満の含有率で含んでいてもよい。SP値が27.5を超える水溶性有機溶剤(第2の水溶性有機溶剤)を含むことで、乾燥防止効果、湿潤効果または浸透促進効果を、より効果的に得ることができる。
【0030】
ここで乾燥防止効果、湿潤効果は、ノズルのインク噴射口において該インクジェット用インクが乾燥することによる目詰まりを防止できる効果等を意味する。乾燥防止剤や湿潤剤としては、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。
また浸透促進効果は、インクを紙により良く浸透させる効果を意味し、水溶性有機溶剤が好適に使用される。
【0031】
本発明において第2の水溶性有機溶剤の例としては、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等のアルカンジオール(多価アルコール類);エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、などのグリコールエーテル類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホラン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0032】
中でも乾燥防止剤や湿潤剤の目的としては、多価アルコール類が有用であり、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、テトラエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
また浸透促進剤の目的としては、ポリオール化合物が好ましく、脂肪族ジオールとしては、例えば、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、5−ヘキセン−1,2−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、などが挙げられる。これらの中でも、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールが好ましい例として挙げることができる。
【0034】
本発明に使用される第2の水溶性有機溶剤は、単独で使用しても、2種類以上混合して使用してもよい。
本発明のインク組成物における全水溶性有機溶剤の含有量としては、インクの保存性と吐出性の観点から、インク組成物の全質量に対して、30質量%以下であるが、5〜30質量%であることがより好ましく、5〜25質量%であることが更に好ましい。
【0035】
[顔料]
本発明のインク組成物は、少なくとも1種の色材を含有する。本発明に用いられる色材として水分散性顔料が好ましいが、着色により画像を形成する機能を有するものであればよく、染料や着色微粒子も使用することができる。
【0036】
前記水分散性顔料の具体例として、下記(1)〜(4)の顔料を挙げることができる。
(1)樹脂被覆顔料(以下、「カプセル化顔料」ともいう。)、即ち、ポリマー微粒子に顔料を含有させてなるポリマーエマルションであり、より詳しくは、親水性水不溶性の樹脂で顔料を被覆し顔料表面の樹脂層にて親水化することで顔料を水に分散したものである。
(2)自己分散顔料、即ち、表面に少なくとも1種の親水基を有し、分散剤の不存在下で水分散性及び水溶性の少なくともいずれかを示す顔料、より詳しくは、主にカーボンブラックなどを表面酸化処理して親水化し、顔料単体が水に分散するようにしたものである。
(3)樹脂分散顔料、即ち、重量平均分子量50,000以下の水溶性高分子化合物により分散された顔料である。
(4)界面活性剤分散顔料、即ち、界面活性剤により分散された顔料である。
中でも好ましい例として、(1)カプセル化顔料と(2)自己分散顔料を挙げることができ、特に好ましい例として、(1)カプセル化顔料を挙げることができる。
【0037】
(樹脂被覆顔料)
カプセル化顔料について詳述する。カプセル化顔料の樹脂は、限定されるものではないが、水と水溶性有機の混合溶媒中で自己分散能または溶解能を有し、かつアニオン性基(酸性基)を有する高分子の化合物であるのが好ましい。この樹脂は、通常、数平均分子量が1,000〜100,000範囲程度のものが好ましく、3,000〜50,000範囲程度のものが特に好ましい。また、この樹脂は有機溶剤に溶解して溶液となるものが好ましい。樹脂の数平均分子量がこの範囲であることにより、顔料における被覆膜として、またはインク組成物における塗膜としての機能を十分に発揮することができる。樹脂は、アルカリ金属や有機アミンの塩の形で使用されることが好ましい。
【0038】
カプセル化顔料の樹脂の具体例としては、熱可塑性、熱硬化性あるいは変性のアクリル系、エポキシ系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ポリアミド系、不飽和ポリエステル系、フェノール系、シリコーン系、フッ素系高分子化合物、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニル系、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等のポリエステル系、メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共縮合樹脂、ユリア樹脂、尿素樹脂等のアミノ系の材料、あるいはそれらの共重合体または混合物などのアニオン性基を有する材料などが挙げられる。
上記樹脂の中、アニオン性アクリル系樹脂は、例えば、アニオン性基を有するアクリルモノマー(以下、アニオン性基含有アクリルモノマーという)と、更に必要に応じてこれらのモノマーと共重合し得る他のモノマーを溶媒中で重合して得られる。アニオン性基含有アクリルモノマーとしては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基からなる群から選ばれる1個以上のアニオン性基を有するアクリルモノマーが挙げられ、これらの中でもカルボキシル基を有するアクリルモノマーが特に好ましい。
【0039】
カルボキシル基を有するアクリルモノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられる。これらの中でもアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。
カプセル化顔料は、上記した成分を用いて、従来の物理的、化学的方法によって製造することができる。本発明の好ましい態様によれば、特開平9−151342号、特開平10−140065号、特開平11−209672号、特開平11−172180号、特開平10−25440号、または特開平11−43636号に開示されている方法、好ましくは転相乳化法によって製造することができる。
【0040】
本発明において、自己分散型顔料も好ましい例として挙げることができる。自己分散型顔料とは、顔料表面に多数の親水性官能基および/またはその塩(以降、分散性付与基という)を、直接またはアルキル基、アルキルエーテル基、アリール基等を介して間接的に結合させたもので、分散剤なしに水性媒体中に分散可能な顔料である。ここで「分散剤なしに水性媒体中に分散」とは、顔料を分散させるための分散剤を用いなくても水性媒体中に分散可能な状態をいう。
自己分散型顔料を顔料として含有するインクは、通常の顔料を分散させるために含有させる前述のような分散剤を含む必要が無いため、分散剤に起因する消泡性の低下による発泡がほとんど無く吐出安定性に優れるインクが調製しやすい。
自己分散型顔料の表面に結合される分散性付与基としては、−COOH、−CO−、−OH、−SOH、−PO及び第4級アンモニウム並びにそれらの塩が例示でき、これらは、原料となる顔料に物理的処理または化学的処理を施すことで、分散性付与基または分散性付与基を有する活性種を顔料の表面に結合(グラフト)させることによって製造される。前記物理的処理としては、例えば真空プラズマ処理等が例示できる。また前記化学的処理としては、例えば水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法や、p−アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法等が例示できる。
本発明においては、次亜ハロゲン酸及び/または次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、またはオゾンによる酸化処理により表面処理される自己分散型顔料を好ましい例として挙げることができる。自己分散型顔料としては市販品を利用することも可能であり、マイクロジェットCW−1(商品名;オリヱント化学工業(株)製)、CAB−O−JET200、CAB−O−JET300(以上商品名;キャボット社製)等が例示できる。
【0041】
(顔料)
本発明において用いられる顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機顔料、無機顔料のいずれであってもよい。
前記有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、多環式顔料などがより好ましい。前記アゾ顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、などが挙げられる。前記多環式顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、などが挙げられる。前記染料キレートとしては、例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート、などが挙げられる。
前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックが特に好ましい。なお、前記カーボンブラックとしては、例えば、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたものが挙げられる。
【0042】
黒色系のものとしては、カーボンブラックの具体例は、Raven7000、Raven5750、Raven5250、Raven5000 ULTRAII、Raven 3500、Raven2000、Raven1500、Raven1250、Raven1200、Raven1190 ULTRAII、Raven1170、Raven1255、Raven1080、Raven1060、Raven700(以上コロンビアン・ケミカル社製)、Regal400R、Regal330R、Regal660R、Mogul L、Black Pearls L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400(以上キャボット社製)、Color Black FW1、Color Black FW2,Color Black FW2V、Color Black 18、Color Black FW200、Color Black S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex35、Printex U、Printex V、Printex140U、Printex140V、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black4(以上デグッサ社製)、No.25、No.33、No.40、No.45、No.47、No.52、No.900、No.2200B、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上三菱化学社製)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
本発明において使用可能な有機顔料としては、イエローインクの顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、14C、16、17、24、34、35、37、42、53、55、65、73、74、75、81、83、93、95、97、98、100、101、104、108、109、110、114、117、120、128、129、138、150、151、153、154、155、180等が挙げられる。
【0044】
また、マゼンタインクの顔料としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、39、40、48(Ca)、48(Mn)、48:2、48:3、48:4、49、49:1、50、51、52、52:2、53:1、53、55、57(Ca)、57:1、60、60:1、63:1、63:2、64、64:1、81、83、87、88、89、90、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、163、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、209、219、269等、およびC.I.ピグメントバイオレット19が挙げられ、特に、C.I.ピグメントレッド122が好ましい。
【0045】
また、シアンインクの顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、16、17:1、22、25、56、60、C.I.バットブルー4、60、63等が挙げられ、特に、C.I.ピグメントブルー15:3が好ましい。
上記の顔料は、単独種で使用してもよく、また上記した各群内もしくは各群間より複数種選択してこれらを組み合わせて使用してもよい。
【0046】
(分散剤)
本発明において、カプセル化顔料あるいは樹脂分散顔料で用いられる分散剤としては、ノニオン性化合物、アニオン性化合物、カチオン性化合物、両性化合物等が使用できる。
例えば、α,β−エチレン性不飽和基を有するモノマーの共重合体等が挙げられる。α,β−エチレン性不飽和基を有するモノマーの例としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、酢酸ビニル、酢酸アリル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、クロトン酸エステル、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、フマル酸、フマル酸モノエステル、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホン化ビニルナフタレン、ビニルアルコール、アクリルアミド、メタクリロキシエチルホスフェート、ビスメタクリロキシエチルホスフェート、メタクリロキシエチルフェニルアシドホスフェート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン誘導体、ビニルシクロヘキサン、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、芳香族基を置換してもよいアクリル酸アルキルエステル、アクリル酸フェニルエステル、芳香族基を置換してもよいメタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸フェニルエステル、メタクリル酸シクロアルキルエステル、クロトン酸アルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル、ビニルアルコール、並びに上記化合物の誘導体等が挙げられる。
【0047】
上記α,β−エチレン性不飽和基を有するモノマーの単独若しくは複数を共重合して得られる共重合体が高分子分散剤として使用される。具体的には、アクリル酸アルキルエステル−アクリル酸共重合体、メタクリル酸アルキルエステル−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸アルキルエステル−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸フェニルエステル−メタクリル酸、スチレン−メタクリル酸シクロヘキシルエステル−メタクリル酸共重合体、スチレン−スチレンスルホン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−メタクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ポリスチレン、ポリエステル、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
本発明における分散剤は、重量平均分子量で2,000〜60,000のものが好ましい。本発明における分散剤は、顔料に対する添加量比率が、質量基準で10%以上100%以下の範囲が好ましく、20%以上70%以下がより好ましく、更に好ましくは、40%以上50%以下である。
【0048】
本発明のインク組成物における色材の含有量としては、画像濃度と画像保存性の観点から、0.1〜15質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。
【0049】
[界面活性剤]
本発明のインク組成物は少なくとも1種の界面活性剤を含有する。界面活性剤の添加によってインク組成物の表面張力を調整することができる。界面活性剤としてはノニオン、カチオン、アニオン、ベタイン界面活性剤のいずれであってもよい。界面活性剤の添加量は、インクジェットで良好に打滴するために、本発明のインクの表面張力(25℃)を20〜60mN/mに調整する量が好ましく、より好ましくは20〜45mN/m、更に好ましくは25〜40mN/mに調整できる量である。
本発明における界面活性剤としては、分子内に親水部と疎水部を合わせ持つ構造を有する化合物等が有効に使用することができ、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれも使用することができる。更には、上記高分子物質(高分子分散剤)を界面活性剤としても使用することもできる。
【0050】
アニオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテ硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、t−オクチルフェノキシエトキシポリエトキシエチル硫酸ナトリウム塩等が挙げられ、これらの1種、又は2種以上を選択することができる。
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー、t−オクチルフェノキシエチルポリエトキシエタノール、ノニルフェノキシエチルポリエトキシエタノール等が挙げられ、これらの1種、又は2種以上を選択することができる。
カチオン性界面活性剤としては、テトラアルキルアンモニウム塩、アルキルアミン塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジウム塩、イミダゾリウム塩等が挙げられ、具体的には、例えば、ジヒドロキシエチルステアリルアミン、2−ヘプタデセニル−ヒドロキシエチルイミダゾリン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ステアラミドメチルピリジウムクロライド等が挙げられる。
本発明におけるインク組成物に添加する界面活性剤の量は、特に限定されるものではないが、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは1〜10質量%、更に好ましくは1〜3質量%である。
【0051】
[樹脂粒子]
本発明におけるインク組成物は、少なくとも1種の樹脂粒子を含んでもよい。樹脂粒子を含むことにより、インク組成物の記録媒体への定着性、および記録画像の耐擦過性をより向上させることができる。樹脂粒子は、後述するプリント性を向上させる液体組成物(以下、「処理液」ということがある)と接触した際に凝集、又は分散不安定化してインク組成物を増粘させることにより、インク組成物、すなわち画像を固定化させる機能を有することが好ましい。
【0052】
樹脂粒子としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、パラフィン系樹脂、フッ素系樹脂等の粒子を用いることができる。(メタ)アクリル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂の粒子を用いることが好ましく、特に、(メタ)アクリル系樹脂粒子が好ましい。
(メタ)アクリル系樹脂は、例えば、アニオン性基を有する(メタ)アクリルモノマー(アニオン性基含有(メタ)アクリルモノマー)及び必要に応じて該アニオン性基含有(メタ)アクリルモノマーと共重合可能な他のモノマーを溶媒中で重合して得られる。前記アニオン性基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、及びホスホン酸基からなる群より選ばれる1以上を有する(メタ)アクリルモノマーが挙げられ、中でもカルボキシル基を有する(メタ)アクリルモノマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、フマル酸等)が好ましく、特にはアクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。
【0053】
樹脂粒子としては、具体的にはラテックス(樹脂粒子の水性分散物)を好適に用いることができ、例えば、(メタ)アクリル系ラテックス、酢酸ビニル系ラテックス、スチレン系ラテックス、ポリエステル系ラテックス等、種々のラテックスを好適に用いることができる。特に、(メタ)アクリル系ラテックスが好ましい。
【0054】
樹脂粒子としては、吐出安定性及び顔料を用いた場合の液安定性(特に分散安定性)の観点から、自己分散性ポリマーの粒子が好ましく、カルボキシル基を有する自己分散性ポリマーの粒子がより好ましい。自己分散性ポリマーの粒子(以下、「自己分散性ポリマー粒子」とも称する)とは、他の界面活性剤の不存在下に、ポリマー自身が有する官能基(特に酸性基又はその塩)によって、水性媒体中で分散状態となり得る水不溶性ポリマーであって、遊離の乳化剤を含有しない水不溶性ポリマーの粒子を意味する。
【0055】
ここで分散状態とは、水性媒体中に水不溶性ポリマーが液体状態で分散された乳化状態(エマルション)、及び、水性媒体中に水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態(サスペンション)の両方の状態を含むものである。
水不溶性ポリマーにおいては、インク組成物としたときの凝集速度と定着性の観点から、水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態となりうる水不溶性ポリマーであることが好ましい。
【0056】
自己分散性ポリマー粒子の分散状態とは、水不溶性ポリマー30gを70gの有機溶剤(例えば、メチルエチルケトン)に溶解した溶液、該水不溶性ポリマーの塩生成基を100%中和できる中和剤(塩生成基がアニオン性であれば水酸化ナトリウム、カチオン性であれば酢酸)、及び水200gを混合、攪拌(装置:攪拌羽根付き攪拌装置、回転数200rpm、30分間、25℃)した後、該混合液から該有機溶剤を除去した後でも、分散状態が25℃で少なくとも1週間安定に存在することを目視で確認することができる状態をいう。
【0057】
また、水不溶性ポリマーとは、ポリマーを105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100g中に溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量が好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下である。前記溶解量は、水不溶性ポリマーの塩生成基の種類に応じて、水酸化ナトリウム又は酢酸で100%中和した時の溶解量である。
【0058】
前記水性媒体は、水を含んで構成され、必要に応じて親水性有機溶剤を含んでいてもよい。本発明においては、水と水に対して0.2質量%以下の親水性有機溶剤とから構成されることが好ましく、水から構成されることがより好ましい。
【0059】
前記水不溶性ポリマーの主鎖骨格としては、特に制限は無く、例えば、ビニルポリマー、縮合系ポリマー(エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、セルロース、ポリエーテル、ポリウレア、ポリイミド、ポリカーボネート等)を用いることができる。その中で、ポリマー粒子の分散安定性の観点から、特にビニルポリマーが好ましい。
【0060】
ビニルポリマー及びビニルポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−181549号公報及び特開2002−88294号公報に記載されているものを挙げることができる。また、解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する連鎖移動剤や重合開始剤、イニファーターを用いたビニルモノマーのラジカル重合や、開始剤或いは停止剤のどちらかに解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する化合物を用いたイオン重合によって高分子鎖の末端に解離性基を導入したビニルポリマーも使用できる。
また、縮合系ポリマーと縮合系ポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−247787号公報に記載されているものを挙げることができる。
【0061】
自己分散性ポリマー粒子は、自己分散性の観点から、親水性の構成単位と、疎水性の構成単位とを有する水不溶性ポリマーを含むことが好ましく、前記疎水性の構成単位が芳香族基含有モノマーに由来する構成単位であることがより好ましい。
【0062】
前記親水性の構成単位は、親水性基含有モノマーに由来するものであれば特に制限はなく、1種の親水性基含有モノマーに由来するものであっても、2種以上の親水性基含有モノマーに由来するものであってもよい。前記親水性基としては、特に制限はなく、解離性基であってもノニオン性親水性基であってもよい。
本発明において前記親水性基は、自己分散促進の観点、形成された乳化又は分散状態の安定性の観点から、解離性基であることが好ましく、アニオン性の解離基であることがより好ましい。前記解離性基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基などが挙げられ、中でも、インク組成物を構成した場合の定着性の観点から、カルボキシル基が好ましい。
【0063】
親水性基含有モノマーは、自己分散性と凝集性の観点から、解離性基含有モノマーであることが好ましく、解離性基とエチレン性不飽和結合とを有する解離性基含有モノマーであることが好ましい。
解離性基含有モノマーとしては、例えば、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
【0064】
不飽和カルボン酸モノマーとして具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。不飽和スルホン酸モノマーとして具体的には、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。不飽和リン酸モノマーとして具体的には、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
上記解離性基含有モノマーの中では、分散安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0065】
またノニオン性親水性基を有するモノマーとしては、例えば、2−メトキシエチルアクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチルアクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチルメタクリレート、エトキシトリエチレングリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコール(分子量200〜1000)モノメタクリレート、ポリエチレングリコール(分子量200〜1000)モノメタクリレートなどの(ポリ)エチレンオキシ基またはポリプロピレンオキシ基を含有するエチレン性不飽和モノマーや、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーが挙げられる。
また、ノニオン性親水性基を有するモノマーとしては、末端が水酸基のエチレン性不飽和モノマーよりも、末端がアルキルエーテルのエチレン性不飽和モノマーのほうが、粒子の安定性、水溶性成分の含有量の観点で好ましい。
【0066】
本発明における親水性の構成単位としては、アニオン性の解離性基を有する親水性単位のみを含有する態様、および、アニオン性の解離性基を有する親水性の構成単位と、ノニオン性親水性基を有する親水性の構成単位とを両方含有する態様のいずれかであることが好ましい。
また、アニオン性の解離性基を有する親水性単位を2種以上含有する態様や、アニオン性の解離性基を有する親水性の構成単位と、ノニオン性親水性基を有する親水性の構成単位を2種以上併用する態様であることもまた好ましい。
【0067】
前記自己分散性ポリマーにおける親水性構成単位の含有率は、粘度と経時安定性の観点から、25質量%以下であることが好ましく、1〜25質量%であることがより好ましく、2〜23質量%であることがさらに好ましく、4〜20質量%であることが特に好ましい。
また2種以上の親水性の構成単位を有する場合、親水性の構成単位の総含有率が前記範囲内であることが好ましい。
【0068】
前記自己分散性ポリマーにおけるアニオン性の解離性基を有する構成単位の含有量は、酸価が後述する好適な範囲となるような範囲が好ましい。
また、ノニオン性親水性基を有する構成単位の含有量としては、吐出安定性と経時安定性の観点から、好ましくは0〜25質量%であって、より好ましくは0〜20質量%であって、特に好ましいのは0〜15質量%である。
【0069】
自己分散性ポリマー粒子は、自己分散性と処理液と接触したときの凝集速度の観点から、カルボキシル基を有するポリマーを含むことが好ましく、カルボキシル基を有し、酸価(mgKOH/g)が25〜100であるポリマーを含むことがより好ましい。更に、前記酸価は、自己分散性と処理液と接触したときの凝集速度の観点から、25〜80であることがより好ましく、30〜65であることが特に好ましい。
特に、酸価は、25以上であると自己分散性の安定性が良好になり、100以下であると凝集性が向上する。
【0070】
前記芳香族基含有モノマーは、芳香族基と重合性基とを含む化合物であれば特に制限はない。前記芳香族基は芳香族炭化水素に由来する基であっても、芳香族複素環に由来する基であってもよい。本発明においては水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、芳香族炭化水素に由来する芳香族基であることが好ましい。
また前記重合性基は、縮重合性の重合性基であっても、付加重合性の重合性基であってもよい。本発明においては水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、付加重合性の重合性基であることが好ましく、エチレン性不飽和結合を含む基であることがより好ましい。
【0071】
芳香族基含有モノマーは、芳香族炭化水素に由来する芳香族基とエチレン性不飽和結合とを有するモノマーであることが好ましい。芳香族基含有モノマーは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
前記芳香族基含有モノマーとしては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、スチレン系モノマー等が挙げられる。中でも、ポリマー鎖の親水性と疎水性のバランスとインク定着性の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、及びフェニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが更に好ましい。
なお、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0073】
自己分散性ポリマー粒子は、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含み、その含有量が10質量%〜95質量%であることが好ましい。芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーの含有量が10質量%〜95質量%であることで、自己乳化又は分散状態の安定性が向上し、更にインク粘度の上昇を抑制することができる。
本発明においては、自己分散状態の安定性、芳香環同士の疎水性相互作用による水性媒体中での粒子形状の安定化、粒子の適度な疎水化による水溶性成分量の低下の観点から、15質量%〜90質量%であることがより好ましく、15質量%〜80質量%であることがより好ましく、25質量%〜70質量%であることが特に好ましい。
【0074】
また、芳香族基含有モノマーとしてスチレン系モノマーを用いる場合、自己分散性ポリマー粒子とした際の安定性の観点から、スチレン系モノマーに由来する構成単位は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましく、スチレン系モノマーに由来する構成単位を含まない態様が特に好ましい。
ここで、スチレン系モノマーとは、スチレン、置換スチレン(α-メチルスチレン、クロロスチレンなど)、および、ポリスチレン構造単位を有するスチレンマクロマーのことを指す。
【0075】
自己分散性ポリマーは、疎水性構成単位として前記芳香族基含有モノマーに由来する構成単位に加え、必要に応じて、その他の構成単位を更に含んで構成することができる。前記その他の構成単位を形成するモノマーとしては、前記親水性基含有モノマー、および前記芳香族基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば特に制限はなく、公知のモノマーを用いることができる。
【0076】
前記その他の構成単位を形成するモノマー(以下、「その他共重合可能なモノマー」ということがある)の具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、Nーヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−、イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−、イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0077】
中でも、ポリマー骨格の柔軟性やガラス転移温度(Tg)制御の容易さの観点および自己分散性ポリマーの分散安定性の観点から、炭素数が1〜8の鎖状アルキル基を含有する(メタ)アクリレートの少なくとも1種であることが好ましく、より好ましくは炭素数が1〜4の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートであり、特に好ましくはメチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートである。ここで、鎖状アルキル基とは、直鎖又は分岐鎖を有するアルキル基のことをいう。
【0078】
本発明においてその他共重合可能なモノマーは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
自己分散性ポリマー粒子が、その他の構成単位を含有する場合、その含有量は10〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは15〜75質量%であって、特に好ましいのは20〜70質量%である。その他の構成単位を形成するモノマーを、2種以上を組み合わせて使用する場合、その総含有量が前記範囲であることが好ましい。
【0079】
自己分散性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位(好ましくは、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位)を含む場合は、共重合比率として自己分散性ポリマー粒子の全質量の15〜80質量%を含むことが好ましい。
また、水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜4のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことがより好ましく、更には加えて、酸価が25〜100であって重量平均分子量が3000〜20万であることが好ましく、酸価が25〜95であって重量平均分子量が5000〜15万であることがより好ましい。
【0080】
自己分散性ポリマーは、各構成単位が不規則的に導入されたランダム共重合体であっても、規則的に導入されたブロック共重合体であっても良く、ブロック共重合体である場合の各構成単位は、如何なる導入順序で合成されたものであっても良く、同一の構成成分を2度以上用いてもよいが、ランダム共重合体であることが汎用性、製造性の点で好ましい。
【0081】
自己分散性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーの分子量範囲は、重量平均分子量で、3000〜20万であることが好ましく、5000〜15万であることがより好ましく、10000〜10万であることが更に好ましい。重量平均分子量を3000以上とすることで水溶性成分量を効果的に抑制することができる。また、重量平均分子量を20万以下とすることで、自己分散安定性を高めることができる。
【0082】
なお、重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)で測定される。GPCは、HLC−8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgel SuperHZM−H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ200(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を3本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる。また、条件としては、試料濃度を0.3質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、IR検出器を用いて行なう。また、検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F−40」、「F−20」、「F−4」、「F−1」、「A−5000」、「A−2500」、「A−1000」、「n−プロピルベンゼン」の8サンプルから作製する。
【0083】
また、自己分散性ポリマーのガラス転移点(Tg)は、50℃以上が好ましく、より好ましくは、80℃以上であり、さらに好ましくは、130℃以上であり、特に好ましくは、160℃以上である。ガラス転移点が50℃以上であることで、インク組成物を用いて形成された画像の耐擦性やブロッキング性がより良好になる。
【0084】
以下に、自己分散性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーの具体例として、例示化合物B−01〜B−19を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、括弧内は共重合成分の質量比を表す。
【0085】
B−01:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(50/45/5)
B−02:フェノキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(30/35/29/6)
B−03:フェノキシエチルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(50/44/6)
B−04:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸共重合体(30/55/10/5)
B−05:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(35/59/6)
B−06:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(10/50/35/5)
B−07:ベンジルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(55/40/5)
B−08:フェノキシエチルメタクリレート/ベンジルアクリレート/メタクリル酸共重合体(45/47/8)
B−09:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/ブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(5/48/40/7)
B−10:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(35/30/30/5)
B−11:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/メタクリル酸共重合体(12/50/30/8)
B−12:ベンジルアクリレート/イソブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(93/2/5)
B−13:スチレン/フェノキシエチルメタクリレート/ブチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(50/5/20/25)
B−14:スチレン/ブチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(62/35/3)
B−15:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/51/4)
B−16:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/49/6)
B−17:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/48/7)
B−18:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/47/8)
B−19:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/45/10)
【0086】
自己分散性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーの製造方法としては特に制限はなく、例えば、重合性界面活性剤の存在下に、乳化重合を行い、界面活性剤と水不溶性ポリマーとを共有結合させる方法、上記親水性基含有モノマーと芳香族基含有モノマーとを含むモノマー混合物を溶液重合法、塊状重合法等の公知の重合法により、共重合させる方法を挙げることができる。前記重合法の中でも、凝集速度とインク組成物としたときの打滴安定性の観点から、溶液重合法が好ましく、有機溶剤を用いた溶液重合法がより好ましい。
【0087】
自己分散性ポリマー粒子は、凝集速度の観点から、有機溶剤中で合成されたポリマーを含み、該ポリマーはカルボキシル基を有し、(好ましくは酸価が20〜100であって)該ポリマーのカルボキシル基の一部又は全部は中和され、水を連続相とするポリマー分散物として調製されたものであることが好ましい。すなわち、自己分散性ポリマー粒子の製造は、有機溶剤中でポリマーを合成する工程と、前記ポリマーのカルボキシル基の少なくとも一部が中和された水性分散物とする分散工程とを設けて行なうことが好ましい。
【0088】
前記分散工程は、次の工程(1)及び工程(2)を含むことが好ましい。
工程(1):ポリマー(水不溶性ポリマー)、有機溶剤、中和剤、及び水性媒体を含有する混合物を、攪拌する工程
工程(2):前記混合物から前記有機溶剤を除去する工程
【0089】
前記工程(1)は、まずポリマー(水不溶性ポリマー)を有機溶剤に溶解させ、次に中和剤と水性媒体を徐々に加えて混合、攪拌して分散体を得る処理であることが好ましい。このように、有機溶剤中に溶解した水不溶性ポリマー溶液中に中和剤と水性媒体を添加することで、強いせん断力を必要とせずに、より保存安定性の高い粒径の自己分散性ポリマー粒子を得ることができる。
該混合物の攪拌方法に特に制限はなく、一般に用いられる混合攪拌装置や、必要に応じて超音波分散機や高圧ホモジナイザー等の分散機を用いることができる。
【0090】
有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤及びエーテル系溶剤が好ましく挙げられる。
アルコール系溶剤としては、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、t−ブタノール、エタノール等が挙げられる。ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル系溶剤としては、ジブチルエーテル、ジオキサン等が挙げられる。これらの溶剤の中では、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤とイソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤が好ましい。また、油系から水系への転相時への極性変化を穏和にする目的で、イソプロピルアルコールとメチルエチルケトンを併用することも好ましい。該溶剤を併用することで、凝集沈降や粒子同士の融着が無く、分散安定性の高い微粒径の自己分散性ポリマー粒子を得ることができる。
【0091】
中和剤は、解離性基の一部又は全部が中和され、自己分散性ポリマーが水中で安定した乳化又は分散状態を形成するために用いられる。自己分散性ポリマーが解離性基としてアニオン性の解離基(例えば、カルボキシル基)を有する場合、用いられる中和剤としては有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等の塩基性化合物が挙げられる。有機アミン化合物の例としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチル−エタノールアミン、N,N−ジエチル−エタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。中でも、自己分散性ポリマー粒子の水中への分散安定化の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミンが好ましい。
【0092】
これら塩基性化合物は、解離性基100モル%に対して、5〜120モル%使用することが好ましく、10〜110モル%であることがより好ましく、15〜100モル%であることが更に好ましい。15モル%以上とすることで、水中での粒子の分散を安定化する効果が発現し、100モル%以下とすることで、水溶性成分を低下させる効果がある。
【0093】
前記工程(2)においては、前記工程(1)で得られた分散体から、減圧蒸留等の常法により有機溶剤を留去して水系へと転相することで自己分散性ポリマー粒子の水性分散物を得ることができる。得られた水性分散物中の有機溶剤は実質的に除去されており、有機溶剤の量は、好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0094】
樹脂粒子の重量平均分子量は、1万以上20万以下が好ましく、より好ましくは10万以上20万以下である。
【0095】
樹脂粒子(ラテックス粒子)の平均粒子径は、体積平均粒子径で10nm〜1μmの範囲が好ましく、10〜200nmの範囲がより好ましく、10〜100nmの範囲が更に好ましく、10〜50nmの範囲が特に好ましい。体積平均粒子径は、10nm以上であると製造適性が向上し、1μm以下であると保存安定性が向上する。
また、樹脂粒子の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、水不溶性粒子を2種以上混合して使用してもよく、単分散の粒径分布を持つ樹脂粒子を2種以上混合してもよい。
なお、樹脂粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により粒径を測定することにより求められるものである。
【0096】
樹脂粒子(特に自己分散性ポリマー粒子)は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
樹脂粒子のインク組成物中における含有量は、インク組成物の全質量に対して、0.5〜20質量%が好ましく、2〜20質量%がより好ましく、3〜15質量%がさらに好ましい。
【0097】
[その他成分]
本発明のインク組成物は、上記以外のその他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、褪色防止剤、防黴剤、pH調整剤、防錆剤、酸化防止剤、乳化安定剤、防腐剤、消泡剤、粘度調整剤、分散安定剤、キレート剤、固体湿潤剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0098】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、などが挙げられる。
【0099】
褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。
【0100】
防黴剤としてはデヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、ソルビン酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウムなどが挙げられる。これらはインク中に0.02〜1.00質量%使用するのが好ましい。
【0101】
pH調整剤としては、調合されるインク組成物に悪影響を及ぼさずにpHを所望の値に調整できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、アルコールアミン類(例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−エチル−1,3プロパンジオールなど)、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アンモニウム水酸化物(例えば、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物)、ホスホニウム水酸化物、アルカリ金属炭酸塩などが挙げられる。
【0102】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライトなどが挙げられる。
【0103】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、りん系酸化防止剤などが挙げられる。
【0104】
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0105】
固体湿潤剤としては、例えば、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース等の糖類;糖アルコール類;ヒアルロン酸類;尿素類等が挙げられる。
【0106】
(インク組成物の物性)
本発明のインク組成物の表面張力は、20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。より好ましくは、20mN以上45mN/m以下であり、更に好ましくは、25mN/m以上40mN/m以下である。表面張力は、例えば、界面活性剤を含有することで所望の範囲に調整することができる。
また本発明のインク組成物の20℃での粘度は、1.2mPa・s以上15.0mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは2mPa・s以上13mPa・s未満、更に好ましくは2.5mPa・s以上10mPa・s未満である。粘度は、例えば、水溶性有機溶剤の分子量や含有量等を変更することで所望の範囲に調整することができる。
【0107】
<インクセット>
本発明のインクセットは、前記インク組成物の少なくとも1種と、前記インク組成物と接触して凝集体を形成可能な処理液の少なくとも1種とを含む。
本発明のインクセットは、前記インク組成物を用いる画像形成方法に用いられ、特に後述の画像形成方法に用いるインクセットとして好ましい。
本発明のインクセットはこれらを一体的に若しくは独立に収容したインクカートリッジとして用いることができ、取り扱いが便利である点等からも好ましい。インクセットを含んで構成されるインクカートリッジは当技術分野において公知であり、公知の方法を適宜用いてインクカートリッジにすることができる。
【0108】
[処理液]
本発明における処理液は、前記インク組成物と接触したときに凝集体を形成できる水性組成物であり、具体的には、インク組成物と混合されたときに、インク組成物中の着色粒子(顔料等)などの分散粒子を凝集させて凝集体を形成可能な凝集成分を少なくとも含み、必要に応じて、他の成分を含んで構成することができる。インク組成物と共に処理液を用いることで、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い画像が得られる。
【0109】
(凝集成分)
処理液は、インク組成物と接触して凝集体を形成可能な凝集成分の少なくとも1種を含有する。インクジェット法で吐出された前記インク組成物に処理液が混合することにより、インク組成物中で安定的に分散している顔料等の凝集が促進される。
【0110】
処理液の例としては、インク組成物のpHを変化させることにより凝集物を生じさせることができる液体組成物が挙げられる。このとき、処理液のpH(25℃±1℃)は、インク組成物の凝集速度の観点から、1〜6であることが好ましく、1.2〜5であることがより好ましく、1.5〜4であることが更に好ましい。この場合、吐出工程で用いる前記インク組成物のpH(25℃±1℃)は、7.5〜9.5(より好ましくは8.0〜9.0)であることが好ましい。
中でも、本発明においては、画像濃度、解像度、及びインクジェット記録の高速化の観点から、前記インク組成物のpH(25℃±1℃)が7.5以上であって、処理液のpH(25℃±1℃)が3〜5である場合が好ましい。
前記凝集成分は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0111】
処理液は、凝集成分として、酸性化合物の少なくとも1種を用いて構成することができる。酸性化合物としては、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、又はカルボキシル基を有する化合物、あるいはその塩(例えば多価金属塩)を使用することができる。中でも、インク組成物の凝集速度の観点から、リン酸基又はカルボキシル基を有する化合物がより好ましく、カルボキシル基を有する化合物であることが更に好ましい。
【0112】
カルボキシル基を有する化合物としては、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩(例えば多価金属塩)等の中から選ばれることが好ましい。これらの化合物は、1種類で使用されてもよく、2種類以上併用されてもよい。
【0113】
本発明における処理液は、上記酸性化合物に加えて、水系溶媒(例えば、水)を更に含んで構成することができる。
処理液中の酸性化合物の含有量としては、凝集効果の観点から、処理液の全質量に対して、5〜95質量%であることが好ましく、10〜80質量%であることがより好ましい
【0114】
また、高速凝集性を向上させる処理液の好ましい一例として、多価金属塩あるいはポリアリルアミンを添加した処理液も挙げることができる。多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩、及びポリアリルアミン、ポリアリルアミン誘導体を挙げることができる。金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。
【0115】
金属の塩の処理液中における含有量としては、1〜10質量%が好ましく、より好ましくは1.5〜7質量%であり、更に好ましくは2〜6質量%の範囲である。
【0116】
処理液の粘度としては、インク組成物の凝集速度の観点から、1〜30mPa・sの範囲が好ましく、1〜20mPa・sの範囲がより好ましく、2〜15mPa・sの範囲がさらに好ましく、2〜10mPa・sの範囲が特に好ましい。なお、粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて20℃の条件下で測定されるものである。
また、処理液の表面張力としては、インク組成物の凝集速度の観点から、20〜60mN/mであることが好ましく、20〜45mN/mであることがより好ましく、25〜40mN/mであることがさらに好ましい。なお、表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP−Z(協和界面科学(株)製)を用いて25℃の条件下で測定されるものである。
【0117】
<インクジェット画像形成方法>
本発明のインクジェット画像形成方法は、前記インク組成物を、シリコンノズルプレートを備えたインクジェットヘッドから、記録媒体上に吐出して画像を形成するインク吐出工程を含み、必要に応じてその他の工程を含んで構成される。
本発明においては、前記インク組成物と接触して凝集体を形成可能な処理液を、記録媒体上に付与する処理液付与工程をさらに含むことが好ましい。
【0118】
[インク吐出工程]
インク吐出工程は、既述の本発明のインク組成物を、シリコンノズルプレートを備えたインクジェットヘッドから、記録媒体上にインクジェット法で付与する。本工程では、記録媒体上に選択的にインク組成物を付与でき、所望の可視画像を形成できる。本発明のインク組成物における各成分の詳細及び好ましい態様などの詳細については、既述した通りである。
【0119】
インクジェット法を利用した画像の記録は、具体的には、エネルギーを供与することにより、所望の被記録媒体、すなわち普通紙、樹脂コート紙、例えば特開平8−169172号公報、同8−27693号公報、同2−276670号公報、同7−276789号公報、同9−323475号公報、特開昭62−238783号公報、特開平10−153989号公報、同10−217473号公報、同10−235995号公報、同10−337947号公報、同10−217597号公報、同10−337947号公報等に記載のインクジェット専用紙、フィルム、電子写真共用紙、布帛、ガラス、金属、陶磁器等に液体組成物を吐出することにより行なえる。なお、本発明に好ましいインクジェット記録方法として、特開2003−306623号公報の段落番号0093〜0105に記載の方法が適用できる。
【0120】
インクジェット法は、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。
尚、前記インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0121】
また、インクジェット法で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また、吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げることができるが、いずれの吐出方式を用いても構わない。
尚、前記インクジェット法により記録を行う際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0122】
インクジェットヘッドとしては、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行なうシャトル方式と、記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式とがある。ライン方式では、記録素子の配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行なうことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、キャリッジの移動と記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。本発明のインクジェット記録方法は、これらのいずれにも適用可能であるが、一般にダミージェットを行なわないライン方式に適用した場合に、吐出精度及び画像の耐擦過性の向上効果が大きい。
【0123】
更には、本発明におけるインク吐出工程では、ライン方式による場合に、インク組成物を1種のみ用いるのみならず2種以上のインク組成物を用い、先に吐出するインク組成物(第n色目(n≧1)、例えば第2色目)とそれに続いて吐出するインク組成物(第n+1色目、例えば第3色目)との間の吐出(打滴)間隔を1秒以下にして好適に記録を行なうことができる。本発明においては、ライン方式で1秒以下の吐出間隔として、インク滴間の干渉で生じる滲みや色間混色を防止しつつ、従来以上の高速記録下で耐擦過性に優れ、ブロッキングの発生が抑えられた画像を得ることができる。また、色相及び描画性(画像中の細線や微細部分の再現性)に優れた画像を得ることができる。
【0124】
インクジェットヘッドから吐出されるインクの液滴量としては、高精細な画像を得る観点で、0.5〜6pl(ピコリットル)が好ましく、1〜5plがより好ましく、更に好ましくは2〜4plである。
【0125】
(シリコンノズルプレートを備えたインクジェットヘッド)
本発明の画像形成方法に用いられるインクジェットヘッドは、少なくとも一部がシリコンを含ませて形成されたノズルプレートを備えている。図1は、インクジェットヘッドの内部構造の一例を示す概略断面図である。
【0126】
図1に示すように、インクジェットヘッド100は、吐出口(ノズル)を有するノズルプレート11と、ノズルプレートの吐出方向と反対側に設けられたインク供給ユニット20とを備えている。ノズルプレート11には、インクを吐出する複数の吐出口12が設けられている。
【0127】
ノズルプレート11は、図2に示すように、32×60個の吐出口(ノズル)が2次元配列されて設けられている。このノズルプレートは、少なくとも一部がシリコンで形成されたものであり、ノズル口内壁、及びインク吐出方向側のプレート面はシリコンが露出した構造になっている。また図示しないが、ノズルプレート11のインク吐出方向側のプレート面の少なくとも一部には撥液膜が設けられている。
【0128】
インク供給ユニット20は、ノズルプレート11の複数の吐出口12のそれぞれとノズル連通路22を介して連通する複数の圧力室21と、複数の圧力室21のそれぞれにインクを供給する複数のインク供給流路23と、複数のインク供給流路23にインクを供給する共通液室25と、複数の圧力室21のそれぞれを変形する圧力発生手段30とを備えている。
【0129】
インク供給流路23は、ノズルプレート11と圧力発生手段30の間に形成されており、共通液室25に供給されたインクが送液されるようになっている。このインク供給流路23には、圧力室21との間を繋ぐ供給調整路24の一端が接続されており、インク供給流路23から供給されるインク量を所要量に絞って圧力室21に送液することができる。供給調整路24は、インク供給流路23に複数設けられ、このインク供給流路23を介して圧力発生手段30に隣接して設けられた圧力室21にインクが供給される。
このように、複数の吐出口にインクを多量に供給することが可能である
【0130】
圧力発生手段30は、圧力室21側から振動板31、接着層32、下部電極33、圧電体層34、上部電極35を順に積み重ねて構成されており、外部から駆動信号を供給する電気配線が接続されている。画像信号に応じて圧電素子が変形することで、インクがノズル連通路22を介してノズル12から吐出される。
【0131】
また、吐出口12の近傍には、循環絞り41が設けられており、常時インクが循環路42へ回収されるようになっている。これにより、非吐出時の吐出口近傍のインクの増粘を防止することができる。
【0132】
[処理液付与工程]
処理液付与工程は、インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な処理液(処理液)を記録媒体に付与し、処理液をインク組成物と接触させて画像化する。この場合、インク組成物中のポリマー粒子や色材(例えば顔料)などの分散粒子が凝集し、記録媒体上に画像が固定化される。なお、処理液における各成分の詳細及び好ましい態様については、既述した通りである。
【0133】
処理液の付与は、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用して行なうことができる。塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレッドコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等を用いた公知の塗布方法によって行なうことができる。インクジェット法の詳細については、既述の通りである。
【0134】
処理液付与工程は、インク組成物を用いたインク吐出工程の前又は後のいずれに設けてもよい。
本発明においては、処理液付与工程で処理液を付与した後に、インク吐出工程を設けた態様が好ましい。すなわち、記録媒体上に、インク組成物を吐出する前に、予めインク組成物中の色材(好ましくは顔料)を凝集させるための処理液を付与しておき、記録媒体上に付与された処理液に接触するようにインク組成物を吐出して画像化する態様が好ましい。これにより、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い画像が得られる。
【0135】
処理液の付与量としては、インク組成物を凝集可能であれば特に制限はないが、好ましくは、凝集成分(例えば、2価以上のカルボン酸又はカチオン性有機化合物)の付与量が0.1g/m以上となる量とすることができる。中でも、凝集成分の付与量が0.1〜1.0g/mとなる量が好ましく、より好ましくは0.2〜0.8g/mである。凝集成分の付与量は、0.1g/m以上であると凝集反応が良好に進行し、1.0g/m以下であると光沢度が高くなり過ぎず好ましい。
【0136】
また、本発明においては、処理液付与工程後にインク吐出工程を設け、処理液を記録媒体上に付与した後、インク組成物が吐出されるまでの間に、記録媒体上の処理液を加熱乾燥する加熱乾燥工程を更に設けることが好ましい。インク吐出工程前に予め処理液を加熱乾燥させることにより、滲み防止などのインク着色性が良好になり、色濃度及び色相の良好な可視画像を記録できる。
【0137】
加熱乾燥は、ヒータ等の公知の加熱手段やドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段により行なえる。加熱方法としては、例えば、記録媒体の処理液の付与面と反対側からヒータ等で熱を与える方法や、記録媒体の処理液の付与面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒータを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0138】
[加熱定着工程]
本発明のインクジェット記録方法は、前記インク吐出工程の後、インク組成物の付与により形成されたインク画像に加熱面を接触させて加熱定着する加熱定着工程を有することが好ましい。加熱定着処理を施すことにより、記録媒体上の画像の定着が施され、画像の擦過に対する耐性をより向上させることができる。
【0139】
加熱の方法は、特に制限されないが、ニクロム線ヒーター等の発熱体で加熱する方法、温風又は熱風を供給する方法、ハロゲンランプ、赤外線ランプなどで加熱する方法など、非接触で乾燥させる方法を好適に挙げることができる。また、加熱加圧の方法は、特に制限はないが、例えば、熱板を記録媒体の画像形成面に押圧する方法や、一対の加熱加圧ローラ、一対の加熱加圧ベルト、あるいは記録媒体の画像記録面側に配された加熱加圧ベルトとその反対側に配された保持ローラとを備えた加熱加圧装置を用い、対をなすローラ等を通過させる方法など、接触させて加熱定着を行なう方法が好適に挙げられる。
【0140】
加熱加圧ローラ、あるいは加熱加圧ベルトを用いる場合の記録媒体の搬送速度は、200〜700mm/秒の範囲が好ましく、より好ましくは300〜650mm/秒であり、更に好ましくは400〜600mm/秒である。
【0141】
−記録媒体−
本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体に上に画像を記録するものである。
記録媒体には、特に制限はないが、一般のオフセット印刷などに用いられる、いわゆる上質紙、コート紙、アート紙などのセルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。セルロースを主体とする一般印刷用紙は、水性インクを用いた一般のインクジェット法による画像記録においては比較的インクの吸収、乾燥が遅く、打滴後に色材移動が起こりやすく、画像品質が低下しやすいが、本発明のインクジェット記録方法によると、色材移動を抑制して色濃度、色相に優れた高品位の画像の記録が可能である。
【0142】
記録媒体としては、一般に市販されているものを使用することができ、例えば、王子製紙(株)製の「OKプリンス上質」、日本製紙(株)製の「しおらい」、及び日本製紙(株)製の「ニューNPI上質」等の上質紙(A)、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製の「OKコートL」及び日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+」及び日本製紙(株)製の「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる。また、インクジェット記録用の各種写真専用紙を用いることも可能である。
【0143】
上記の中でも、色材移動の抑制効果が大きく、従来以上に色濃度及び色相の良好な高品位な画像を得る観点からは、好ましくは、水の吸収係数Kaが0.05〜0.5でmL/m・ms1/2の記録媒体であり、より好ましくは0.1〜0.4mL/m・ms1/2の記録媒体であり、更に好ましくは0.2〜0.3mL/m・ms1/2の記録媒体である。
【0144】
水の吸収係数Kaは、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No51:2000(発行:紙パルプ技術協会)に記載されているものと同義であり、具体的には、吸収係数Kaは、自動走査吸液計KM500Win(熊谷理機(株)製)を用いて接触時間100msと接触時間900msにおける水の転移量の差から算出されるものである。
【0145】
記録媒体の中でも、一般のオフセット印刷などに用いられるいわゆる塗工紙が好ましい。塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。塗工紙は、通常の水性インクジェットによる画像形成においては、画像の光沢や擦過耐性など、品質上の問題を生じやすいが、本発明のインクジェット記録方法では、光沢ムラが抑制されて光沢性、耐擦性の良好な画像を得ることができる。特に、原紙とカオリン及び/又は重炭酸カルシウムを含むコート層とを有する塗工紙を用いるのが好ましい。より具体的には、アート紙、コート紙、軽量コート紙、又は微塗工紙がより好ましい。
【実施例】
【0146】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。尚、特に断りの無い限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0147】
<実施例1>
〜インク組成物の調製〜
[顔料(色材)分散液の調製]
(ポリマー分散剤P−1の調製)
攪拌機、冷却管を備えた1000mlの三口フラスコにメチルエチルケトン88gを加え窒素雰囲気下で72℃に加熱し、ここにメチルエチルケトン50gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.85g、ベンジルメタクリレート60g、メタクリル酸10g、メチルメタクリレート30gを溶解した溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間反応した後メチルエチルケトン2gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.42gを溶解した溶液を加え、78℃に昇温し4時間加熱した。得られた反応溶液は大過剰量のヘキサンに2回再沈殿し、析出した樹脂を乾燥してポリマー分散剤P−1を96g得た。
得られた樹脂の組成はH−NMRで確認し、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)は44600であった。さらに、JIS規格(JISK0070:1992)記載の方法により、このポリマーの酸価を求めたところ、65.2mgKOH/gであった。
【0148】
(シアン分散液の調製)
ピグメントブルー15:3(大日精化工業(株)製 フタロシアニンブル−A220)を10部と、上記で得られたポリマー分散剤P−1を5部と、メチルエチルケトンを42部と、1mol/L NaOH水溶液を 5.5部と、イオン交換水87.2部とを混合し、ビーズミルで0.1mmΦジルコニアビーズを使い、2〜6時間分散した。
得られた分散物を減圧下55℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、顔料濃度が10.2質量%のシアン分散液を得た。
上記のようにして、色材としてのシアン分散液を調液した。
【0149】
上記で得られた色材(シアン分散液)を用いて、下記インク組成となるように各成分を混合した。これを5μmのメンブレンフィルターを通過させて、インク1(インク組成物)を作製した。
【0150】
(インク1の組成)
シアン顔料(ピグメントブルー15:3) : 4%
ポリマー分散剤(P−1) : 2%
ケイ酸ナトリウム : 0.01%
サンニックスGP−250(ニューポールGP−250) : 10%
(第1の水溶性有機溶剤、三洋化成工業(株)製)
トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(TPGmME) : 10%
(第1の水溶性有機溶剤、和光純薬工業(株)製)
ジエチレングリコール(DEG) : 5%
オルフィンE1010(日信化学工業(株)製、界面活性剤) : 1%
イオン交換水 :67.99%
【0151】
<実施例2〜11、比較例1〜6>
実施例1において、溶剤及びケイ酸塩の種類および含有量を下記表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、インク2〜インク17を作製した。
【0152】
<評価>
〜曲率の測定方法〜
インクジェット記録液を塗布したサンプル曲率Cを、25℃、相対湿度50%の環境下で測定した。尚、カール値は、カールを半径Rの円の弧とみなして下記式1のように表わされる。
C=1/R(m) (式1)
【0153】
[カール性]
被記録媒体として、特菱アート両面N(三菱製紙(株)製、104.7g/m品)に対して、下記の無色インク組成物(プリント性を向上させる液体組成物)を1g/mとなるように塗布バーで塗布し、100℃温風で4秒間乾燥したものを用いた。
尚、無色インク組成物は、以下の材料を混合して調製した。
(無色インク組成物)
・クエン酸 ・・・15g
・オルフィンE1010(日信化学工業(株)製) ・・・1g
・イオン交換水 ・・・84g
【0154】
後述する吐出性の評価で用いた評価装置を用い、上記で作製したインクジェット記録液(インク1〜インク17)をインク塗設量が5g/mとなる量でベタ印画した後の被記録媒体を、100℃温風で3秒間乾燥し、そのまま1時間静置した後に、カール方向が50mmとなるように5×50mmに裁断してサンプルを作製した。その後、温度25℃、相対湿度50%の条件下に24時間放置し、サンプルの曲率Cを測定した。
【0155】
〜評価基準〜
A:サンプルの曲率Cが5を超えなかった。
B:サンプルの曲率Cが10を超えなかった。
C:サンプルの曲率Cが20を超えなかった。
D:サンプルの曲率Cが20を超えていた。
【0156】
[吐出信頼性]
上記で調製したインク組成物(インク1〜インク17)について、以下のようにしてインクの吐出信頼性を評価した。尚、評価環境は25℃、相対湿度50%であった。
評価装置として、ダイマティクス・マテリアル・カートリッジ DMC−11610(10pl)(富士フイルムダイマティッス社製)を搭載したダイマティクス・マテリアル・プリンター DMP−2831(富士フイルムダイマティッス社製)を用い、以下の(i)〜(iii)の評価項目について評価し、その結果を下記評価基準で評価した。結果を表1に示す。
尚、インクカートリッジは充填液体容量が100mlになるように改造した。また、記録媒体として、上記と同様に5×50mmに裁断したサンプル(特菱アートN(三菱製紙(株)製、84.9g/m)を使用した。
【0157】
〜評価項目〜
(i)画像ムラが見られないものを良好であるとした。
(ii)1分間連続吐出後、30分間アンキャップで放置した後に、再吐出した際の吐出率が90%以上(不吐出率が10%未満)を良好であるとした。
(iii)60分間連続吐出後の吐出率が90%以上(不吐出率が10%未満)を良好であるとした。
【0158】
〜評価基準〜
AA:(i)〜(iii)の全てが満たされていた。
A:(i)、(ii)の2項目が満たされていた。
B:(i)のみが満たされていた。
C:(i)〜(iii)の全てが満たされなかった。
【0159】
[撥液性評価]
〜撥液膜浸漬試験〜
2cm×2cmのシリコン板上にフッ化アルキルシラン化合物を用いて撥液膜(SAM膜)を形成した試験片を作製した。作製した試験片を用いて、以下のようにして撥液膜における水の接触角を測定し、インク組成物による撥液膜の撥液性に対する影響を評価した。
上記で調製したインク組成物30mlを、ポリプロピレン製の50ml広口ビン(アイボーイ広口ビン50ml(アズワン(株)製))にそれぞれ量りとった。次いで上記試験片をインク組成物中に浸漬し、60℃で72時間加熱経時した。試験片を取り出し、超純水で洗浄して、撥液膜表面の水の接触角を測定した。
水の接触角の測定には超純水を使用し、接触角測定装置(協和界面科学(株)製、DM−500)を用いて25℃、50RH%の環境下で常法により測定し、下記評価基準に従って評価した。
尚、インク組成物浸漬前の水の接触角は106.5度であり、評価Dは実用上問題があるレベルである。
〜評価基準〜
AA: 80度以上。
A: 60度以上、80度未満。
B: 40度以上、60度未満。
C: 20度以上、40度未満。
D: 20度未満。
【0160】
【表1】



【0161】
表1から明らかな通り、本発明のインク組成物は、良好なカール抑制効果を示し、かつ、吐出信頼性に優れていることが判る。また、インクジェットヘッド部材の撥液性の低下を抑制できることが分かる。
【符号の説明】
【0162】
11・・・ノズルプレート 12・・・吐出口(ノズル)20・・・インク供給ユニット
21・・・圧力室 22・・・ノズル連通路 23・・・インク供給流路
24・・・供給調整路 25・・・共通液室
30・・・圧電素子(圧電アクチュエータ;圧力発生手段)
31・・・振動板 32・・・接着層 33・・・下部電極
34・・・圧電体層 35・・・上部電極
41・・・循環絞り 42・・・循環路
200・・・インクジェットヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、色材と、水溶性有機溶剤と、界面活性剤と、全質量に対し0.0001質量%以上、0.5質量%以下の水可溶性のケイ酸塩とを含有し、前記水溶性有機溶剤のうち、溶解度パラメータ(SP値)が27.5以下の水溶性有機溶剤が40質量%以上であるインク組成物。
【請求項2】
前記水可溶性のケイ酸塩が下記一般式(1)で表される化合物である請求項1に記載のインク組成物。
x(AO)・y(SiO) 一般式(1)
(一般式(1)中、Aはナトリウム、カリウム、テトラアルキルアンモニウム(NR)を表す。xは1又は2、yは1〜4の整数を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項3】
前記水可溶性のケイ酸塩がケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、及びケイ酸テトラメチルアンモニウムから選択される少なくとも1種である請求項2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記溶解度パラメータ(SP値)が27.5以下の水溶性有機溶剤は、下記構造式を有する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインク組成物。
【化1】


(構造式中、l、m、及びnは、それぞれ独立に、1以上の整数で、かつ、l+m+n=3〜15を表す。AOは、オキシエチレン基(EO)およびオキシプロピレン基(PO)の少なくとも一方を表す。)
【請求項5】
前記水溶性有機溶剤の含有量は、全質量に対して30質量%以下である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項6】
前記溶解度パラメータ(SP値)が27.5以下の水溶性有機溶剤を前記水溶性有機溶剤全質量に対して50質量%以上含有する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項7】
前記色材は、樹脂被覆顔料である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のインク組成物と、前記インク組成物と接触して凝集体を形成可能な処理液と、を含むインクセット。
【請求項9】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のインク組成物を、シリコンノズルプレートを備えたインクジェットヘッドから、記録媒体上に吐出して画像を形成するインク吐出工程を含むインクジェット画像形成方法。
【請求項10】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のインク組成物と接触して凝集体を形成可能な処理液を、記録媒体上に付与する処理液付与工程をさらに含む請求項9に記載のインクジェット画像形成方法。
【請求項11】
前記記録媒体は、普通紙または塗工紙である請求項9または請求項10に記載のインクジェット画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−63725(P2011−63725A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216112(P2009−216112)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】