説明

インク適用に向けた二酸化チタンスラリ

【課題】 二酸化チタンスラリと、このスラリから作製された白色インキと、これに関連するインクジェット印刷用のインクセットを提供すること。
【解決手段】 二酸化チタンスラリは、(a)二酸化チタン顔料と、(b)(1)約90から50重量%のポリマー主鎖とそれに対応してこの主鎖に結合された約10から50重量%のマクロモノマー側鎖とを含み、主鎖がマクロモノマー側鎖に比べて疎水性であり、このポリマー主鎖とマクロモノマー側鎖が100重量%のグラフトコポリマーを構成する、約4,000から100,000の重量平均分子量を有するグラフトコポリマーであって(c)液体担体とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化チタンスラリと、このスラリから作製された白色インキと、これに関連するインクジェット印刷用のインクセットに関する。本発明は、このインクセットを用いたインクジェット印刷の方法にも関する。特定の二酸化チタンスラリは、安定なインクジェットインクを調製するのに利用することができるよう、時間の経過に伴う顔料の集塊および凝集を抑えることにより沈降防止性能を改善している。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、紙やポリマー支持体などの印刷媒体上にインク小滴を付着させて所望の画像を形成する、ノンインパクトプリンティング法である。小滴は、マイクロプロセッサにより発生された電気信号に応答して印刷ヘッドから吐出される。
【0003】
着色されたインクジェットインクは、インクビヒクル中に溶解(例えば染料)および/または分散された(例えば顔料や分散性染料)1種または複数の着色剤を含む。インクビヒクルは、水性(かなりの量の水)または非水性(大部分が有機液体)のものにすることができ、したがって、そのようなインクは、水性インクまたは非水性インクと呼ばれる。
【0004】
水性インクは、水が特に環境に優しいので有利である。しかし、水性インクが不適切であり非水性インクを使用しなければならない多くの適用例がある。これらの非水性インクの適用例のほとんどではないにしても多くの適用例には、日光に曝されることになる印刷物、特にポリマー支持体表面に印刷した物があり、したがって好ましい着色剤は、染料と比較した場合にその退色抵抗性に関して周知の利点があることから、顔料である。
【0005】
非水性ビヒクル中での顔料の分散は、水性ビヒクル中での分散とは実質的に異なる。一般に、水に十分分散させることができる顔料は、非水性溶媒に十分分散せず、その逆もまた同様である。
【0006】
また、インクジェット印刷の要求は非常に厳しく、分散性に関する基準が高い。そのため、他の適用例では「十分に分散させる」ことのできる顔料であっても、インクジェットの適用例ではしばしば不十分である。
【0007】
特にインクジェットインク用の安定な水性インクに用いるため、改善された顔料を選択することが求められている。特に、ある期間にわたり貯蔵した後またはその他の方法で使用しなかった後であっても、得られたインクを効果的に噴出させることができるように、インクジェットに適合した配合物中で十分安定させることのできる白色顔料が求められている。さらに、特により明るい色調および/またはより高い被覆度または不透明度が必要とされる場合、インクセットの他のインクを補うために白色顔料を含有するインクを使用することができると、改善された画像を得ることができる。
【0008】
透明で着色された表面に印刷する場合、白色インクが有用であり、良好な視認性をもたらす。このような表面の白色印刷は、コンピュータ産業(プリント回路基板、コンピュータチップ)やレコード産業(テープ、フィルムなど)、包装、自動車の塗装などの数多くの最終用途に望ましい。白色インクは、自動車にデカール(decals)を施し付加するのに使用できるだけではなく、トラック、飛行機、および列車を含めたその他の自動車両、ならびに自転車などにも使用することができる。白色インクは、実用と装飾の両方の目的で、プラスチックや木、金属、ガラス、繊維素材、ポリマーフィルム、皮革などのその他の表面に役立てても良い。
【0009】
白色インク配合物は、典型的な場合、溶媒(水性または非水性)/樹脂系に分散させた微粒子白色顔料を含有する。現行の白色インク配合物は、主に安定性に乏しいために顔料の沈降および凝集が生ずるので、商用のインクジェット適用例など数多くの適用例で許容されるものではない。安定性に乏しいと、インクジェットノズルの「ノズルアウト」または詰まりが生ずる可能性がある。例えば、工業用プリンタの典型的な印刷ヘッドには256個のノズルがあり、各ノズルヘッドは、そのサイズが直径約50ミクロンである。大きい顔料粒子および集塊は、ノズルを詰まらせる可能性がある。また安定性に乏しいと、印刷面における隠蔽力が乏しくなり、被覆範囲が不均一になり、鮮明度が乏しくなる。
【0010】
二酸化チタン(TiO)などの無機白色顔料をベースとする白色インク配合物は、TiO顔料の安定性が乏しいため、役に立たない可能性がある。顔料の凝集および凝結は、沈降およびノズルの詰まりという問題を引き起こすので、白色インク、特に白色インクジェットインクの不十分な性能という点がしばしば欠点になる。
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,680,352号明細書
【特許文献2】米国特許第4,722,984号明細書
【特許文献3】米国特許第5,231,131号明細書
【特許文献4】米国特許第4,656,226号明細書
【特許文献5】米国特許第5,085,698号明細書
【特許文献6】米国特許第5,026,427号明細書
【特許文献7】米国特許第5,086,698号明細書
【特許文献8】米国特許第5,141,556号明細書
【特許文献9】米国特許第5,169,436号明細書
【特許文献10】米国特許第6,160,370号明細書
【特許文献11】米国特許出願第10/644,323号明細書
【特許文献12】国際公開第2004/018197号パンフレット
【非特許文献1】"The Pigment Handbook", Vol.1, 2nd Ed., John Wiley & Sons, NY (1988)
【非特許文献2】Morton in Anionic Polymerization: Principles and Practice (New York: Academic Press, 1983)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
その結果、白色顔料インク配合物をインクおよびインクジェットシステムに使用するにあたっては、前述の負の属性を回避することが求められている。さらには、インク配合物に取り込まれたときに安定性の問題を引き起こさない二酸化チタンスラリが求められている。本発明は、これらの要求を満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
(a)二酸化チタン顔料と、
(b)(1)約90から50重量%のポリマー主鎖と該主鎖に結合した約10から50重量%のマクロモノマー側鎖とを含み、該ポリマー主鎖およびマクロモノマー側鎖が100重量%のグラフトコポリマーを構成する、約4,000から100,000の重量平均分子量を有するグラフトコポリマーであって、
(i)前記ポリマー主鎖が、前記マクロモノマー側鎖に比べて疎水性であり、1個または複数の重合したエチレン系不飽和疎水性モノマーと、任意選択でグラフトコポリマーの重量に対し最大約20重量%の重合したエチレン系不飽和酸モノマーとを含み、
(ii)前記マクロモノマー側鎖のそれぞれが、親水性であり、単一の末端でポリマー主鎖に結合し、
(A)約1,000から30,000の重量平均分子量を有し、
(B)マクロモノマー側鎖の重量に対して約2重量%から約100重量%の重合したエチレン系不飽和モノマーを含む
グラフトコポリマー、および
(2)タイプAB、ABA、またはABCのブロックコポリマーであって、該ブロックコポリマーのブロックの少なくとも1つが吸着セグメントであり、該ブロックコポリマーのブロックの少なくとも1つが安定化セグメントであるブロックコポリマー
を含む分散剤の組合せと、
(c)液体担体と
を含む二酸化チタンスラリを提供する。
【0014】
二酸化チタンスラリは、当業者に知られている一般的なタイプの様々な任意選択の添加剤をさらに含むことができる。そのような任意選択の添加剤には、例えばその他の分散剤、湿潤剤、およびレオロジー調節剤が含まれる。
【0015】
ある特定の好ましい実施形態では、インクジェットインクがさらに、親水性安定化セグメントおよび疎水性吸着セグメントを含んだグラフトコポリマー(1)またはブロックコポリマー(2)とは異なるリン酸化アクリルコポリマーを第3の分散剤として含む。この第3の分散剤は、二酸化チタンスラリの一部であることが好ましいが、それらとは別に添加することもできる。
【0016】
意外なことに、上記列挙したグラフトコポリマー分散剤とブロックコポリマー分散剤と併せて使用することにより、二酸化チタン粒子の沈降を低減させるインクジェットインクを配合することができる。さらに、予期しなかった粒子沈降の低減は、上記列挙したグラフトコポリマー分散剤と、ブロックコポリマー分散剤と、リン酸化アクリルコポリマーとのブレンドを使用することによって実現される。さらに、沈降が生じた場合であっても、その沈降は「弱い」沈降であり、すなわちインクジェットのプリントヘッドノズルを詰まらせないように低剪断混合することによって、二酸化チタン顔料を容易に再分散させ再活性化させることができることを意味する。低剪断混合には、例えば単純な揺混ぜ(例えば手によって、またはインクジェットのプリントヘッドを動かすことによる)、あるいは粉砕が生じない約500rpm未満の速度での攪拌羽または混合羽根による攪拌が含まれる。対照的に、「強い」沈降は、従来技術の多くの二酸化チタンスラリで生ずる。
【0017】
本明細書で使用する二酸化チタン顔料は白色であり、そのため本発明のインクジェットインクは好ましくは白色である。白色ではない着色インクも、二酸化チタンスラリまたはインクに1種または複数の追加の着色剤を加えたものを利用することによって作製することができる。
【0018】
本発明の水性インクジェットインクは、例えば個人用、ビジネス用、工業用のインクジェットプリンタ、および数多くのその他の印刷適用例で使用するのに適している。さらに、白色ではない紙、トランスペアレンシー、ポリマー支持体、繊維素材などを含む広く様々な支持体に印刷するのに使用することができる。
【0019】
本発明のこれらおよびその他の特徴および利点は、以下の詳細な記述を読むことによって当業者に容易に理解されよう。明確にするために、既に記載されまた以下のそれぞれの実施形態に記載される、本発明のいくつかのある特徴は、単一の実施形態において組み合わせて提供してもよいことが理解される。逆に言えば、簡略化のため単一の実施形態に記載される本発明の様々な特徴は、別々に、または任意の下位の組合せで提供してもよい。さらに、文脈において特に明記されない限り、単数形の表現には複数も含まれる。さらに、複数の範囲で定められた複数の値は、その範囲内でのそれぞれの値およびすべての値を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、二酸化チタンスラリと、好ましくは二酸化チタンスラリから作製されたインク、好ましくは白色インクを提供する。二酸化チタンスラリおよびこれから作製されたインクは、貯蔵時の凝集に対する安定性が改善された。二酸化チタンスラリおよびインクは、スラリ形態にあるときとスラリをその後インク配合物に使用するときの両方について、長時間にわたり顔料を安定させかつ解膠状態に保つ量の複数の分散剤を混合した特定の混合物を利用する。その結果、最終的なインク配合物は、表面に塗布したときに、良好な隠蔽性や均一な被覆範囲、良好な鮮明度などの望ましい性質を提供する。
【0021】
二酸化チタン顔料
本発明に有用な二酸化チタン(TiO)顔料は、ルチルまたはアナターゼ結晶形態にあるものである。これは一般に、塩化物法または硫酸塩法のいずれかによって作製される。塩化物法では、TiClを酸化してTiO粒子にする。硫酸塩法では、硫酸とチタンを含有する鉱石とを溶解し、得られた溶液を、TiOをもたらす一連のステップに通す。硫酸塩法と塩化物法は共に、非常に詳細に記載されており(例えば、非特許文献1参照)、その関連性ある開示を、完全に記述されるようすべての目的で参照により本明細書に援用する。
【0022】
二酸化チタン粒子は、インクの所望の最終用途に応じて約1ミクロン以下の広く様々な平均粒径を有することができる。
【0023】
二酸化チタン顔料は白色、それ自体白色である。
【0024】
高い隠蔽力が求められる適用例または装飾的な印刷の適用例では、二酸化チタン粒子の平均サイズが約1ミクロン(1000ナノメートル)未満であることが好ましい。この粒子の平均サイズは、好ましくは約50から約950ナノメートルであり、より好ましくは約75から約750ナノメートルであり、さらにより好ましくは約100から約500ナノメートルである。このような二酸化チタン粒子を一般に、色素性TiOと呼ぶ。
【0025】
ある程度の透明度を持つ白色が求められる適用例では、選択される顔料は「ナノ」二酸化チタンである。「ナノ」二酸化チタン粒子の平均サイズは、典型的な場合、約10から約200ナノメートルに及び、好ましくは約20から約150ナノメートルであり、より好ましくは約35から約75ナノメートルである。ナノ二酸化チタンを含むインクは、改善された彩度および透明度をもたらすことができ、そのうえ良好な耐光退色性および適切な色相角度を維持する。コーティングを施していないナノグレードの市販されている酸化チタンの例は、Degussa(Parsippany)から入手可能なP−25である。
【0026】
さらに、不透明度やUV保護など、多数の粒径で固有の利点を認めることができる。これらの多数のサイズは、色素性TiOおよびナノグレードTiOを共に添加することによって実現することができる。
【0027】
二酸化チタンは、スラリ濃縮組成物を経由してインク配合物に取り込むことが好ましい。スラリ組成物中に存在する二酸化チタンの量は、スラリの総重量に対して好ましくは約15重量%から約80重量%である。
【0028】
二酸化チタン粒子の大部分が色素性サイズのものであり、好ましくはその平均粒径が約200ナノメートルよりも大きく最大約1ミクロンのものであるスラリでは、スラリ中の二酸化チタンの量は、スラリの総重量に対して約50重量%から約75重量%であることが好ましい。
【0029】
二酸化チタン粒子の大部分が「ナノ」サイズのものであり、好ましくはその平均粒径が約10ナノメートルから約200ナノメートルのものであるスラリでは、スラリ中の二酸化チタンの量は、スラリ重量に対して好ましくは約20重量%から約50重量%、より好ましくは約25重量%から約35重量%である。
【0030】
二酸化チタン顔料は、実質的に純粋な二酸化チタンでよく、またはその他の金属酸化物を含んでよい。このようなその他の金属酸化物は、シリカ、アルミナ、ジルコニア、およびこれらの混合物からなる群から選択された1種または複数であることが好ましい。その他の金属酸化物は、例えばチタン化合物をその他の金属化合物と共に共酸化または共沈させることによって、顔料粒子に組み込むことができる。二酸化チタン顔料が、共酸化または共沈させた金属を含む場合、それらは二酸化チタン顔料の総重量に対して好ましくは約0.1重量%から約20重量%の量で、より好ましくは約0.5重量%から約5重量%の量で、さらにより好ましくは約0.5重量%から約1.5重量%の量で、金属酸化物として存在する。
【0031】
二酸化チタン顔料は、1種または複数の酸化物表面コーティングを有していてもよい。これらのコーティングは、当業者に知られている技法を使用して付着させることができる。これらの金属酸化物コーティングは、例えば、とりわけシリカ、アルミナ、アルミナ−シリカ、およびジルコニアからなる群から選択することができる。そのようなコーティングは、任意選択で、二酸化チタン顔料の総重量に対し約0.1重量%から約10重量%の量で、好ましくは約0.5重量%から約3重量%の量で存在することができる。そのようなコーティングされた二酸化チタンの商用としての例には、R700(アルミナで被覆されたもの、E.I.DuPont de Nemours、Wilmington DEから入手可能)、RDI−S(アルミナで被覆されたもの、Kemira Industrial Chemicals、Helsinki、フィンランドから入手可能)、R−706(DuPont、Wilmington DEから入手可能)、およびW−6042(シリカアルミナ処理したナノグレード二酸化チタン、Tayco Corporation(大阪、日本)製)が含まれる。
【0032】
適切なコーティング付き二酸化チタンの商用としての例には、E.I.du Pont de Nemours and Company、Willmintonから「R700」という名称で市販されているアルミナで被覆された二酸化チタン;Kemira Industrial Chemicals(Helsinki、フィンランド)製の「RDI−S」;E.I.du Pont de Nemours and Company Willmington、DEから「R−706」という名称で市販されているシリカおよびアルミナで被覆された二酸化チタン;Tayco Corporation(大阪、日本)から販売されている、シリカおよびアルミナで被覆されたナノサイズの二酸化チタンが含まれる。
【0033】
二酸化チタン顔料は、1種または複数の有機表面コーティングを持つものでもよい。有機表面コーティングは、例えばカルボン酸、シラン、シロキサン、および炭化水素ワックスと、それらと二酸化チタン表面との反応生成物からなる群から選択することができる。表面コーティングが存在する場合、その量は、顔料の総重量に対して一般に約0.01重量%から約6重量%に及び、好ましくは約0.1重量%から約3重量%、より好ましくは約0.5重量%から約1.5重量%、さらにより好ましくは約1重量%である。
【0034】
分散剤
分散剤の特定の組合せによって、二酸化チタン顔料スラリを安定させる効果を高めることができ、さらに、インク配合物における安定性を高めることができる。本発明のインクと、そのインクを作製するのに利用される二酸化チタンスラリは、グラフトコポリマーである第1の分散剤と、ブロックコポリマーである第2の分散剤と、任意選択でリン酸化ポリマーである第3の分散剤とを含む。グラフトコポリマーとブロックコポリマーは、共に酸官能基を含有することが好ましく、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アミン、例えばジメチルエチルアミンアミン、アミノメチルプロパノールなどからなる群から選択されることが好ましい塩基で酸官能基の少なくとも一部を中和することにより、水溶性または分散性にすることができる。
【0035】
任意選択の第3の分散剤は、第1および第2の分散剤とは異なるリン酸化ポリマーである。
【0036】
ジメチルエチルアミンを使用して中和された構造化(グラフトおよびブロック)アクリルコポリマー分散剤のブレンドが好ましい。
【0037】
本発明の二酸化チタンスラリおよびこのスラリを含むインクは、全体的な分散剤と顔料との重量比(D/P)が約0.0025:1から約0.25:1であることが好ましく、好ましくは約0.05:1から約0.175:1であり、より好ましくは約0.075:1から約0.14:1である。全体的な分散剤と顔料との非は、存在する各分散剤からのD/P寄与率の合計である。
【0038】
第1(グラフトコポリマー)の分散剤と第2(ブロックコポリマー)の分散剤との重量比は、好ましくは約10:90から約90:10であり、より好ましくは約25:75から約75:25であり、さらにより好ましくは約40:60から約60:40である。
【0039】
任意選択の第3のリン酸化分散剤が存在する場合、それは第3の分散剤と顔料との重量比として、約0.0025:1から約0.05:1の量で存在することが好ましく、より好ましくは約0.005:1から約0.04:1であり、さらにより好ましくは約0.005:1から約0.02:1である。
【0040】
第1の分散剤
注記:本明細書で述べるすべての分子量は、標準物質としてポリスチレンを使用するゲル透過クロマトグラフィにより決定する。
【0041】
第1の分散剤は、重量平均分子量が好ましくは約4000から約100000であり、より好ましくは約10000から約40000であるグラフトコポリマー分散剤である。グラフトコポリマー分散剤は、ブロックコポリマーまたは櫛型コポリマーにすることができる。複数のグラフトコポリマーの混合物を使用することもできる。
【0042】
グラフトコポリマーは、ポリマー主鎖を約90重量%から約50重量%と、これに対応して、ポリマー主鎖に結合されたポリマー側鎖を約10重量%から約50重量%含む(主鎖と側鎖を合わせると100重量%になる)。
【0043】
ポリマー主鎖は、疎水性(側鎖に対して)吸着セグメントである。側鎖は、それぞれが親水性安定化セグメントである。側鎖は、単一の末端で主鎖に結合している。
【0044】
主鎖
このように、グラフトコポリマー分散剤の主鎖は、側鎖に対して疎水性である。主鎖は、以下に述べるような、アルキル(メタ)アクリレートや脂環式(メタ)アクリレートなどの、重合した「非官能性」のエチレン系不飽和疎水性モノマーを含む。主鎖はさらに、この主鎖の重量に対して最大約20重量%、好ましくは約1重量%から約10重量%の、以下に述べるような重合したエチレン系不飽和酸モノマー、ならびにこの主鎖の重量に対して最大約30重量%の、以下に述べるような官能基を含有するその他の重合したエチレン系不飽和モノマーを含んでよい。
【0045】
グラフトコポリマーの主鎖は、スラリに使用される顔料の表面に対して親和性を有し、このコポリマーを顔料に固着させ、したがって顔料は分散状態に保たれ、グラフトコポリマーは水相に戻らないようになる。
【0046】
疎水性吸着セグメントを形成するのに使用することができる適切な「非官能性」疎水性モノマーには、アルキル基中に1から12個(好ましくは1から8個)の炭素原子を有するアルキル(メタ)アクリレートと、脂環式(メタ)アクリレートが含まれるが、これらに限定されない。これらの中で、メタクリレートが好ましい。
【0047】
使用することができる典型的なアルキルアクリレートおよびメタクリレートには、例えばアクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、メタクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、メタクリル酸ノニル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリルなどが含まれる。
【0048】
使用することができる典型的な脂環式アクリレートおよびメタクリレートには、例えばアクリル酸トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸トリメチルシクロヘキシル、アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸イソブチルシクロヘキシルなどが含まれる。
【0049】
「非官能性」エチレン系不飽和疎水性モノマーの混合物を使用することができ、例えば上述のアクリレートおよびメタクリレートのいずれか2種またそれ以上の混合物がある。
【0050】
エチレン系不飽和酸モノマーの例には、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸など;エチレン系不飽和スルホン酸およびスルフィン酸およびそのエステルであって、例えばスチレンスルホン酸やアクリルアミドプロパンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸などが含まれる。使用する場合はアクリル酸およびメタクリル酸が好ましい。
【0051】
官能性モノマー(エチレン系不飽和酸モノマー以外)の例には、アクリルアミド、メタクリルアミド、メタクリロニトリル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸t−ブチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸ニトロフェノール、メタクリル酸ニトロフェノール、アクリル酸フタルイミドメチル、およびメタクリル酸フタルイミドが含まれる。
【0052】
側鎖
グラフトコポリマーの側鎖は、重量平均分子量が好ましくは約1000から約30000、より好ましくは約1500から約8000の親水性マクロモノマーである。側鎖は、マクロモノマーの重量に対して好ましくは約2重量%から約100重量%、より好ましくは約20重量%から約60重量%の重合したエチレン系不飽和「親水性」モノマー、例えば酸(イオン性)基または非イオン性親水基を含有するエチレン系不飽和モノマーを含む。側鎖は、イオン性基と非イオン性基の混合物、あるいは同じ側鎖内または異なる側鎖内での混合物にすることができる。
【0053】
適切な量の酸官能基を中和する場合、側鎖は親水性であり、スラリおよび得られたインクに顔料を均一に分散させた状態を維持する。
【0054】
モノマーが酸基を含有する場合、その酸基は、少なくとも一部が塩基で中和される。塩基は、無機塩基、アミン、またはこれらの混合物である。
【0055】
マクロモノマーは、グラフトコポリマーの主鎖と重合する単一末端エチレン系不飽和基を含有する。
【0056】
エチレン系不飽和酸(イオン性)モノマーを使用することが好ましく、より好ましくはメタクリル酸であり、特に、それがマクロモノマーの単一構成成分である場合である。使用することができるその他の酸モノマーには、アクリル酸やイタコン酸、マレイン酸などのエチレン系不飽和カルボン酸;スチレンスルホン酸やアクリルアミドプロパンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸などのエチレン系不飽和スルホン酸やエチレン系不飽和スルフィン酸およびそれらのエステルが含まれる。
【0057】
親水性安定化セグメントに有用な非イオン性親水性モノマーには、モノエチレン系不飽和ポリ(アルキレングリコール)モノマー、例えばアルキル基中に1から4個の炭素原子を有するポリ(エチレングリコール)モノ(メタ)アクリレートやポリ(エチレングリコール)アルキルエーテルなど(International Specialty ChemicalsからBisomer S20Wという商標で供給されるポリ(エチレングリコール)メチルエーテルオリゴマーなど);およびポリ(アルコキシル化)アルキル(メタ)アクリレートなどが含まれる。これらのモノマーは、その重量平均分子量が好ましくは約200から約4000であり、より好ましくは約200から約2000である。
【0058】
マクロモノマーの重量に対して最大約80重量%のその他の疎水性重合化エチレン系不飽和モノマーを、このマクロモノマー中に存在させることができ、これには上述の「非官能性」アルキルアクリレートおよびメタクリレート、脂環式アクリレートおよびメタクリレートが含まれる。
【0059】
1つの好ましいマクロモノマーは、約50重量%から約80重量%の重合したメタクリル酸メチルと、約20重量%から約50重量%の重合したメタクリル酸を含有し(合わせて100重量%)、約2000から約5000の重量平均分子量を有する。
【0060】
マクロモノマーを構成するモノマーは、Co+2基を含有する触媒連鎖移動剤、すなわちコバルト連鎖移動剤を使用して重合することが好ましく、それによって、得られるマクロモノマーは、主鎖モノマーと重合してグラフトコポリマーを形成することになる末端エチレン系不飽和基を1個だけ確実に持つようになる。典型的な場合、マクロモノマーを調製する方法の第1のステップでは、モノマーを、好ましくは水混和性または水分散性の不活性有機溶媒およびコバルト連鎖移動剤とブレンドし、通常は反応混合物の還流温度に加熱する。後続ステップでは、追加のモノマー、コバルト連鎖移動剤、および従来のアゾ型重合触媒(2,2’−アゾビス(2−メチルブタンニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4’−ジメチルペンタニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)など)を添加し、マクロモノマーが所望の分子量に形成されるまで重合を続ける。マクロモノマーが形成された後、溶媒をすべて除去することができ、その後に追加の処理を行って第1の分散剤グラフトコポリマーを作製する。
【0061】
好ましいコバルト連鎖移動剤については特許文献1および2に記載されている(ここでは、その開示内容を、完全に、本明細書中で参照する)。最も好ましいものは、ペンタシアノコバルテート(II)、ジアクアビス(ボロンジフルオロジメチル−グリオキシマト)コバルテート(II)、およびジアクアビス(ボロンジフルオロフェニルグリオキシマト)コバルテート(II)である。典型的には、これらの連鎖移動剤は、使用されるモノマーの重量に対して約5ppmから約1000ppmの濃度で使用する。
【0062】
第1の分散剤の調製
本発明で使用するグラフトコポリマーは特許文献3に記載されている特殊連鎖移動(SCT)法によって調製されることが好ましい(ここでは、その開示内容を、完全に、本明細書中で参照する)。この方法を使用することによって、グラフトコポリマーを作製するのに使用されるその他のプロセスでは一般的であるようなグラフトコポリマー、低分子量主鎖ポリマー、および共重合したマクロモノマーセグメントの混合物ではなく、100%グラフトコポリマーを効率的に調製することができる。しかし、本発明で使用するグラフトコポリマー分散剤は、任意の特定の調製技術に限られるものではないことを理解されたい。その他の知られている重合技術を使用して作製された上述の構造および官能基を有するグラフト分散剤も、本発明の利益をもたらし、したがって本発明の範囲内にあると考えられる。
【0063】
グラフトコポリマーを形成するには、例えば上述のように、溶媒、重合触媒、および調製されたマクロモノマーの存在下で主鎖モノマーを重合する。前述のアゾ型触媒のいずれかを、過酸化物やヒドロパーオキシドなどその他の適切な触媒でできるような重合触媒として使用することができる。そのような触媒で典型的なものは、過酸化ジ−第3ブチル、過酸化ジ−クミル、過酸化第3アミル、クメンヒドロパーオキシド、ジ(n−プロピル)パーオキシジカーボネート、アミルパーオキシアセテートなどのパーエステルである。重合は、通常、グラフトコポリマーが所望の分子量に形成されるまで反応混合物の還流温度で継続させる。
【0064】
マクロモノマーおよび/またはグラフトコポリマーを形成するのに使用することができる典型的な溶媒は、メチルエチルケトンやイソブチルケトン、エチルアミルケトン、アセトンなどのケトン;メタノールやエタノール、イソプロパノールなどのアルコール;酢酸エチルなどのエステル;エチレングリコールやプロピレングリコールなどのグリコール;テトラヒドロフランやエチレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテルなどである。
【0065】
グラフトコポリマーを形成した後、その表面の酸官能基を少なくとも部分的に、例えばアミンまたは水酸化アンモニウムや水酸化ナトリウムなどの無機塩基で中和することができ、次いで水を添加してグラフトコポリマーの分散系を形成する。使用することができる典型的なアミンには、アミノメチルプロパノール、アミノエチルプロパノール、ジメチルエチルアミン、トリエチルアミンなどが含まれる。インクジェットの適用例に好ましいアミンは、ジメチルエチルアミンである。
【0066】
典型的な場合、これらの第1の分散剤グラフトコポリマーおよび以下に述べるその他の分散剤は、これを典型的な溶媒に溶かした約20%から約60%の溶液として使用する。
【0067】
特に有用なグラフトコポリマーには、以下のもの、すなわち
重合したアクリル酸メチルとアクリル酸ブチルの主鎖と、重量平均分子量が約2000から約5000のマクロモノマーの側鎖であってこのマクロモノマーの重量に対して約50重量%から約80重量%の重合したメタクリル酸メチルおよびこのマクロモノマーの重量に対して約20重量%から約50重量%の重合したメタクリル酸を含有するものを有するグラフトコポリマー;
重合したアクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、およびアクリルアミドメチルプロパンスルホン酸の主鎖と、上述のマクロモノマーの側鎖とを有するグラフトコポリマー;
重合したアクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、およびアクリル酸の主鎖と、上述のマクロモノマーの側鎖とを有するグラフトコポリマー;
重合したアクリル酸エチルの主鎖と、上述のマクロモノマーの側鎖とを有するグラフトコポリマー;
重合したアクリル酸エチル、アクリル酸メチル、およびアクリル酸の主鎖と、上述のマクロモノマーの側鎖とを有するグラフトコポリマー;
重合したアクリル酸エチルおよびアクリル酸の主鎖と、上述のマクロモノマーの側鎖とを有するグラフトコポリマー
が含まれる。
【0068】
第2の分散剤
第2の分散剤は、好ましくはタイプAB、ABA、またはABC、あるいはこれらの混合物であるブロックコポリマーである。ブロックA、B、またはCの少なくとも1つは、吸着セグメントである。ブロックA、B、またはCの少なくとも1つは、安定化セグメントである。「吸着セグメント」とは、セグメントが、例えば酸−塩基結合またはその他の結合の相互作用によって、二酸化チタン顔料の表面に吸着するよう設計されていることを意味する。「安定化セグメント」とは、セグメントが、スラリ組成物での凝集に対して顔料粒子の立体安定化をもたらすよう設計されていることを意味する。一般にブロックコポリマーの吸着セグメントは、安定化セグメントに比べて疎水性であり、顔料表面に接着するよう設計されているが、安定化セグメントは一般に親水性であり、例えば粗製二酸化チタン顔料を仕上げるのに使用される媒体などの(水性)処理媒体に溶解し易い。
【0069】
疎水性吸着セグメントは、以下に列挙するような重合した「非官能性」エチレン系不飽和疎水性モノマーを含むことが好ましく、顔料結合力を高める官能基を有する重合したエチレン系不飽和モノマーをさらに含む。官能基を有するモノマーは、吸着セグメントの総重量に対して最大約40重量%の量で存在することが好ましい。例えば、酸官能基を持つモノマーを疎水性部分に取り込んで、二酸化チタン顔料表面の塩基性基と結合させることができる。アミン基を持つモノマーを疎水性部分に取り込んで、二酸化チタン表面に存在する可能性がある酸基に結合させることができる。シラン基を持つような、二酸化チタンに対して既知の親和性を有するその他の官能性モノマーを、疎水性部分に取り込んでもよい。
【0070】
疎水性吸着セグメントを形成するのに使用することができる、適切な「非官能性」疎水性モノマーには、アルキル基中に1から12個(好ましくは1から8個)の炭素原子を有するアルキル(メタ)アクリレート、および脂環式(メタ)アクリレートが含まれるが、これらに限定されない。これらの中で、メタクリレートが好ましい。
【0071】
使用することができる典型的なアルキルアルキレートおよびメタクリレートには、例えばアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、メタクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、メタクリル酸ノニル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリルなどが含まれる。
【0072】
使用することができる典型的な脂環式アクリレートおよびメタクリレートには、例えばアクリル酸トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸トリメチルシクロヘキシル、アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸イソブチルシクロヘキシルなどが含まれる。
【0073】
「非官能性」エチレン系不飽和疎水性モノマーの混合物を使用することができ、例えば、上述のアクリレートおよびメタクリレートのいずれか2種またはそれ以上の混合物がある。
【0074】
エチレン系不飽和酸モノマーの例には、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸など;エチレン系不飽和スルホン酸およびスルフィン酸およびこれらのエステルであって、例えばスチレンスルホン酸、アクリルアミドプロパンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸などが含まれる。メタクリル酸が好ましく、特に単一の酸構成成分である場合である。
【0075】
アミン基を持つエチレン系不飽和モノマーの例には、アルキル基中に1から4個の炭素原子を有するアルキルアミノアルキルメタクリレートモノマーが含まれ、例えばメタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジプロピルアミノエチル、メタクリル酸ジブチルアミノエチルなどである。
【0076】
上述のように、安定化セグメントは、粗製顔料の仕上げ中に曝される選択された(水性)処理媒体に可溶性であることが好ましく、したがって、主に重合したエチレン系不飽和親水性モノマーを含む。安定化セグメントを形成するのに使用することができる適切な親水性モノマーには、上述のような、酸基を持つエチレン系不飽和モノマーならびに非イオン性親水基を持つエチレン系不飽和モノマーが含まれる。
【0077】
酸モノマーを使用する場合、安定化セグメントは、例えばアミン(ジメチルエチルアミンや2−アミノメチルプロパノールなど)および/または無機塩基(水酸化アンモニウムや水酸化ナトリウム)で適切な量の酸官能基を中和することによって親和性になる。
【0078】
前述のモノマーに加え、その他の一般に知られている疎水性モノマーは、選択された処理媒体中での安定化部分の溶解性を著しく変化させない濃度で使用される場合、安定化部分に共重合することができる。いくつかの有用な例には、アクリル(メタ)アクリレートと、上述のその他の疎水性モノマーが含まれる。
【0079】
第2の分散剤は、その数平均分子量が好ましくは約1000から約15000であり、より好ましくは約2000から約5000である。吸着セグメントは、その数平均分子量が好ましくは約1000から約5000であり、より好ましくは約1000から約3000である。安定化セグメントは、その数平均分子量が好ましくは約1000から約5000であり、より好ましくは約1000から約3000である。
【0080】
第2の分散剤の調製方法は、それほど重要ではない。既知の重合技法を使用して作製された上述の構造および官能性を持つブロックコポリマー分散剤は、本発明の利益をもたらし、したがって本発明の範囲内にあると考えられる。第2の分散剤は、例えば特許文献4に報告されている原子団移動重合法(GTP)、または、例えば、非特許文献2に報告されている陰イオン重合法を使用して調製することができる(ここでは、その開示内容を、完全に、本明細書中で参照する)。
【0081】
GTP法が好ましい。GTP法の利点は、構成が精密で多分散性の低いポリマー分散剤を作製できることである。典型的な場合、GTPポリマーの多分散性は、約1.0から約1.25の間である。
【0082】
第3の分散剤
任意選択の第3の分散剤は、親水性安定化セグメントおよび疎水性吸着セグメントを含むリン酸化ポリマー分散剤である。リン酸化ポリマーは、安定化セグメントまたは吸着セグメントあるいはその両方にリン酸官能基を有するグラフトコポリマー、ブロックコポリマー、またはランダムコポリマーとすることができる。
【0083】
リン酸化ポリマーの吸着セグメントは、主に、以下に述べるようなアルキル(メタ)アクリレート、脂環式(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレートなど、重合したエチレン化不飽和「非官能性」疎水性モノマーを含む。(メタ)アクリレートという用語は、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの両方を指す。
【0084】
吸着セグメントは、コポリマーの総重量に対して好ましくは約1重量%から約20重量%、より好ましくは約1重量%から約10重量%の重合したエチレン系不飽和モノマーであって、以下により詳細に論じるようにそこに結合されたリン酸基またはリン酸基に変換することのできる基を有するものをさらに含む。
【0085】
疎水性吸着セグメントを形成するのに使用することができる適切な「非官能性」疎水性モノマーには、上述のように、アルキル基に1から12個(好ましくは1から8個)の炭素原子を有するアルキル(メタ)アクリレート、脂環式(メタ)アクリレート、およびこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0086】
リン酸化分散剤の親水性安定化セグメントは、酸基または非イオン性親水基を含有するエチレン系不飽和モノマーなど、重合したエチレン系不飽和親水性モノマーを含む。
【0087】
エチレン系不飽和酸モノマーの例には、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸など;エチレン系不飽和スルホン酸およびスルフィン酸と、これらエステルであって、例えばスチレンスルホン酸、アクリルアミドプロパンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスホン酸など;エチレン系不飽和リン酸またはホスホン酸およびエステル、ビニルホスホン酸およびそのエステルなどが含まれる。
【0088】
親水性安定化セグメントに有用な非イオン性の親水性モノマーには、モノエチレン系不飽和ポリ(アルキレングリコール)モノマーが含まれ、例えば、ポリ(エチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、アルキル基に1から4個の炭素原子を有するポリ(エチレングリコール)アルキルエーテル(例えばInternational Specialty ChemicalsからBisomer S20Wという商標で供給されるポリ(エチレングリコール)メチルエーテルオリゴマー)など、およびポリ(アルコキシル化)アルキル(メタ)アクリレートなどがある。これらのモノマーは、その重量平均分子量が好ましくは約200から約4000であり、より好ましくは約200から約2000である。非イオン性および陰イオン性の安定化セグメントも好ましい。
【0089】
リン酸基は、ポリマーをリン酸または五酸化リンと反応させることによって、吸着セグメントまたは安定化セグメントに組み込むことができる。未反応のまたは残留するリン酸基は、二酸化チタン顔料を水に分散させるのに使用するときは、アミンまたは無機塩基で中和することが好ましい。ポリマーの残りは、二酸化チタン顔料の分散性が改善されるように、また安定した顔料スラリを形成するためにコポリマーがその他の成分に対して相容性を持つように、調節することができる。
【0090】
あるいはリン酸基は、得られる任意選択の分散剤がリン酸置換分散剤になるように、リン含有反応性基をモノマー、マクロモノマー、またはポリマーと反応させることによって、ポリマーに組み込むことができる。この方策の例は、例えばヒドロキシアルキルメタクリレートまたはアクリレートとのコポリマーを形成し、その後、ヒドロキシ基を五酸化リンと反応させることによって、反応性ヒドロキシル基を有するポリマーを形成することである。リン酸基をアミンまたは無機塩基で中和することは、水性二酸化チタンスラリに好ましい。
【0091】
リン酸基をコポリマーに導入するのに使用することもできる(吸着セグメントまたは安定化セグメント)リン酸基を有する適切なモノマーには、エチレン系不飽和リン酸モノマー(リン酸化ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、リン酸化ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなど)、あるいはアルコール基を含有するエチレン系不飽和モノマー(ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート)またはエポキシ基を含有するエチレン系不飽和モノマー(グリシジルアクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなど)であって、エポキシ基またはアルコール基を使用した場合にはリン酸基が形成されるように重合する前または重合した後に1種または複数のリン酸化剤(リン酸または五酸化リンなど)で処理したものが含まれる。
【0092】
リン酸化コポリマー分散剤は、その数平均分子量が好ましくは約4000から約25000であり、より好ましくは約5000から約20000である。吸着セグメントは、典型的な場合、その数平均分子量が約2000から約10000であり、好ましくは約4000から約7000である。安定化セグメントは、典型的な場合、その数平均分子量が約2000から約15000であり、好ましくは約4000から約7000である。吸着セグメントは、典型的な場合、約20重量%から約80重量%のポリマーを含み、それに対応して安定化セグメントは、典型的な場合、約80重量%から約20重量%のポリマーを含む(吸着セグメントと安定化セグメントは合計で100重量%になる)。
【0093】
前述の分散剤は、先に援用した特許文献4に報告されているGTP(原子団移動重合法);先に援用した特許文献4に報告されている標準的な陰イオンまたはフリーラジカル重合法;または先に援用した特許文献3に報告されているSCT法など、特定の構造に向けて案出された様々な周知の溶液重合技法によって調製することができる。
【0094】
GTP法は、これまでブロックコポリマーを形成するのに使用されている。この方法を使用して、重合中に副反応が生じないようにあらゆる酸またはヒドロキシル含有モノマーをブロックすることが、一般に推奨される。重合の後、酸およびヒドロキシル基は、アルコールまたは水との反応によってブロックを解除する。
【0095】
SCT法は、これまでグラフトコポリマーのマクロモノマー部分を形成するのに使用されている。マクロモノマーは、その他の手段によって供給することもできる。
【0096】
標準的な陰イオン重合は、しばしばランダムコポリマーを形成するのに使用され、本明細書で述べる樹脂の類似体を調製するのに使用することができる。
【0097】
二酸化チタンスラリ
二酸化チタン、グラフトコポリマー分散剤、ブロックコポリマー分散剤、および任意選択のリン酸化ポリマーから形成されたスラリは、安定なスラリである。沈降が生じた場合、その沈降は「弱い」沈降であり、低剪断混合によって二酸化チタン顔料を容易に再分散させ再活性化させることができることを意味する。顔料は、インクジェットノズルに詰まりが生じないように、スラリをインクに配合したときにも同様に安定して分散される。低剪断混合には、例えば手で揺混ぜること、あるいは粉砕が生じない約500rpm未満の速度で攪拌羽または混合羽根により攪拌することが含まれる。対照的に、「強い」沈降は、従来技術の多くの二酸化チタンスラリで生ずる。強い沈降とは、スラリからの二酸化チタン粒子の沈降を、インクジェットインクに許容されるレベルまで再分散できないことを意味する。
【0098】
二酸化チタンスラリを調製するための液体担体
本発明で使用される二酸化チタンスラリは、液体担体を含む。安定なスラリを提供することが可能な任意の液体担体を使用することができる。液体担体は、水性でも非水性でもよい。水性担体には、水、水と少なくとも1種の水溶性有機溶媒との混合物が含まれ、この溶媒は、典型的な場合はグリコールエーテルであるが、任意のその他の水溶性有機物質を用いることができ、またこれらに限定するものではない。非水性担体は、有機溶媒である。使用することのできる代表的な有機溶媒には、アルコール;ケトンまたはケトアルコール;エーテル;多価アルコール;アルキレングリコールの低級アルキルモノまたはジエーテル誘導体であるグリコールエーテル;窒素含有環式化合物;およびジメチルスルホキシドなどのイオウ含有化合物が含まれるが、これらに限定するものではない。二酸化チタンスラリの調製に使用される水は、脱イオン化されていることが好ましい。すなわち水は、スラリの安定性およびその他の性質に影響を及ぼす可能性のある望ましくないイオンが除去されるよう処理されている。例えば、望ましくないイオンを除去するために、水をイオン交換カラムに通すことができる。脱イオン水の金属イオン分は、ASTM法D1125を使用して測定したときに電気抵抗率が約0.05マイクロオームcm未満の電気抵抗をもたらすことが好ましい。
【0099】
二酸化チタンスラリを提供するのに有用なグリコールエーテルには、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルおよびプロピレングリコールノルマルプロピルエーテルが含まれ、例えばそれぞれArcosolv(登録商標)DPMおよびArcosolv(登録商標)PNPという商標でLyondell Chemical Company1から販売されているものがある。
【0100】
二酸化チタンスラリ用の液体担体は水性であることが好ましく、その大部分が水で占められることがより好ましい。
【0101】
二酸化チタンスラリ用の任意選択の添加剤
本発明に使用される二酸化チタンスラリは、任意選択で、インクジェットでの最終用途に適合された1種または複数の任意選択の添加剤を含むことができる。
【0102】
例えば二酸化チタンスラリは、任意選択で保湿剤を含むことができる。保湿剤は、補助溶剤と考えてよい。典型的な場合、常にではないが、保湿剤は、一次溶媒、すなわち液体担体よりも高い沸点を有する。保湿剤は、一般に、保存中の乾燥を防止するために添加する。保湿剤は、沈降を遅らせるのを助けることもできる。
【0103】
保湿剤は、チョーキング(chalking)する傾向を有する配合物に特に有用な添加剤である。チョーキングは、溶媒(すなわ本発明のスラリ用液体担体)が蒸発するときに生じ、顔料、特に二酸化チタン顔料が保存容器の表面および側面で乾燥し、剥げ落ちてスラリに中に落下する可能性がある。チョーキングは深刻な問題である。例えば、乾燥した顔料集塊がインクジェット配合物に導入されると、許容できないレベルのノズルアウトが生ずる可能性がある。保湿剤は溶媒の蒸発を遅らせ、それによってチョーキングを遅らせる。
【0104】
本発明で使用するのに適切な保湿剤の例には、エチレングリコールやジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオールなどの多価アルコール;ジプロピレングリコールモノメチルエーテルやプロピレングリコールノルマルプロピルエーテルなどのグリコールエーテル;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ポリエチレングリコール、およびジプロピレングリコールを含めたその他のものが含まれる。エチレングリコールが好ましい。
【0105】
二酸化チタンスラリは、任意選択でレオロジー調節剤を含むことができる。レオロジー調節剤は、Aveciaから入手可能なSolthix(登録商標)増粘剤など、任意の知られている市販のレオロジー調節剤でよい。その他の有用なレオロジー調節剤には、セルロースおよび合成ヘクトライトクレーが含まれる。合成ヘクトライトは下記の式、
[MgLiSi204−y2−
を有し、ただしw=3から6、x=0から3、y=0から4、z=12−2w−xであり、負の格子電荷が対イオンによって相殺され、対イオンは、Na、K、NH、Li、Mg2+、Ca2+、Ba2+、N(CH、およびこれらの混合物からなる群から選択される。合成ヘクトライトクレーは、例えばSouthern Clay Products,Inc.から市販されており、合成ヘクトライトブランドのLaponite(登録商標);Lucenilte SWN(登録商標)、Laponite S(登録商標)、Laponite XL(登録商標)、Laponite RD(登録商標)、およびLaponite RDS(登録商標)ブランドが含まれる。
【0106】
二酸化チタンスラリの調製
本発明で使用される二酸化チタンスラリは、混合容器内で成分を混合することによって調製することができる。成分は、任意の順序で逐次または同時に添加することができる。スラリを調製する典型的なプロセスを以下に述べるが、それに限定されると考えるべきではない。典型的な場合、第1の混合ステップの後に第2の粉砕ステップを行う2ステップのプロセスを使用する。第1のステップは、成分のすべて、すなわち二酸化チタン顔料、分散剤、液体担体、および任意選択のいずれかの添加剤を混合して、ブレンドされた「プレミックス」を提供することを含む。混合は、一般に攪拌容器内で行う。高速分散器は、混合ステップに特に適切である。分散剤は、その他の成分の混合物に導入する前に一緒にすることが好ましい。一緒にした分散剤は、典型的な場合、逐次増加して添加する。
【0107】
第2のステップは、プレミックスを粉砕して二酸化チタンスラリを生成することを含む。粉砕は、媒体ミリングによって行うことが好ましいが、その他の技法を使用することができる。粉砕ステップの後、スラリを濾過する。濾過は、当技術分野で知られている任意の手段を使用して行うことができ、典型的な場合、サイズが1から10ミクロンの間の標準的な市販のフィルタを使用することによって実現される。
【0108】
インクの調製
本発明のインクは、当技術分野で知られている従来のプロセスによって、上述の二酸化チタンスラリから作製することが好ましい。すなわち、酸化チタンスラリを通常の操作によって処理し、インクジェットシステム内にうまく噴出させることができるインクにする。
【0109】
典型的な場合、インクの調製では、顔料スラリを除くすべての成分を、最初に一緒に混合する。その他の成分を混合した後にスラリを添加する。二酸化チタンスラリと共に有用なインク配合物中の一般的な成分には、1種または複数の保湿剤、補助溶媒、1種または複数の界面活性剤、および殺生剤が含まれる。二酸化チタンスラリを使用する典型的なインクは、以下の式を有することになる。
【0110】
【表1】

【0111】
本発明で使用される二酸化チタンスラリは、特定の量の特定の分散剤の混合物を利用し、それによって、顔料をスラリの形でまたはスラリを引き続き使用するときにはインク配合物の形で、長時間にわたり安定化させかつ解膠状態に保つ。その結果、インク配合物は安定になり、凝集せず塊状にもならず、したがってこれをインクとして表面に付着させた場合にその他の有利な性質を有する。分散剤の中和は、インクでの最終的なビヒクルの使用、印刷支持体などに左右される可能性がある。
【0112】
あるいはインクは、顔料スラリを調製する中間ステップなしで調製することができる。すなわちTiO顔料およびインクのその他の成分は、任意の順序で一緒にすることができ、この混合物を分散混合にかける。混合の強さは、ボールミルを使用するミリングから、より強力なHSDなどの分散混合に及ぶものでよく、ロールミリングまたは媒体ミリングを使用して、最終的なインク配合物を得ることができる。ミリング媒体にはいかなる制約もない。
【0113】
インクビヒクル
インクビヒクルは、典型的な場合、水と、任意選択で1種または複数の水混和性補助溶媒とを含む水性ビヒクルである。水混和性補助溶媒の代表的な例は特許文献5に開示されている種類が含まれるが、これらに限定されない(ここでは、その開示内容を、完全に、本明細書中で参照する)。水性ビヒクルを使用する場合、その水性ビヒクル中の成分の割合は、前に定義した水性インクジェットインクが得られるようなものであるべきである。
【0114】
水と水溶性溶媒との混合物を使用する場合、水性ビヒクルは典型的な場合、約25%から約95%の水と、その残分として(すなわち約75%から約5%)水溶性溶媒を含む。
【0115】
水性ビヒクルを使用する場合、インク中の水性ビヒクルの量(固形分ではない)は、典型的な場合、インクの総重量に対して約70%から約99.8%の範囲内であり、好ましくは約80%から約99.8%である。非水性ビヒクルを使用する場合、その量は同様の範囲にすることができる。
【0116】
その他の成分
インクは、例えば界面活性剤や結合剤、殺菌剤、殺真菌剤、殺藻剤、金属イオン封鎖剤、緩衝剤、腐食防止剤、光安定剤、アンチカール剤、増粘剤、および/またはその他の添加剤と、関連する技術分野で周知の補助剤など、1種または複数のその他の成分を任意選択で含有することができる。
【0117】
追加の分散剤は、安定なインク分散体が得られるよう、インク系に添加することができる。有利に使用することができるその他の分散剤の例は、Byk Chemie製のDisperbyk(登録商標)2000および2001である。
【0118】
これらのその他の成分は、そのような成分がインクの安定性および噴出可能性を妨げない程度までインクに配合することができ、本発明に従って使用することができるが、そのような程度は通常の実験で容易に決定できるものである。インクは、例えば粘度や表面張力などの性質の適切な均衡が保たれるように、これらの添加剤によって特定のインクジェットプリンタの要件に適合させることができ、かつ/または必要に応じてインクの様々な性質または機能を改善するのに使用することができる。
【0119】
各成分の量は適正に決定しなければならないが、典型的な場合、インクの総重量に対して約0から約15重量%の範囲内であり、より典型的な場合は約0.1重量%から約10重量%である。
【0120】
界面活性剤を使用することができ、その有用な例には、エトキシル化アセチレンジオール(例えばAir Products製のSurfynols(登録商標)シリーズ)、エトキシル化第1級(例えばShell製のNeodol(登録商標)シリーズ)および第2級(例えばUnion Carbide製のTergitol(登録商標)シリーズ)アルコール、スルホサクシネート(例えばCytec製のAerosol(登録商標)シリーズ)、有機シリコーン(例えばWitco製のSilwet(登録商標)シリーズ)、およびフルオロ界面活性剤(例えばDuPont製のZonyl(登録商標)シリーズ)が含まれる。界面活性剤は、これを使用する場合、典型的にはインクの総重量に対して約0.01から約5%の量であり、好ましくは約0.2から約2%の量である。
【0121】
結合剤を使用してもよく、これは可溶性または分散性のポリマーにすることができ、顔料の接着性を改善するために添加することができる。使用することができるポリマーの例には、ポリエステル、ポリスチレン/アクリレート、スルホン化ポリエステル、ポリウレタン、ポリイミドなどが含まれる。存在する場合、可溶性ポリマーは、インクの総重量に対して少なくとも約0.3%のレベルで、好ましくは少なくとも約0.6%のレベルで使用することが有利である。上限は、インクの粘度またはその他の物理的限界によって決定される。
【0122】
本発明と共に使用される支持体が、紙や繊維素材などの多孔質である場合、結合剤を添加して、支持体へのインクの浸透を低減させることができる。言い換えれば、これらの添加剤によって、インクは多孔質支持体の表面にさらに留まることになり、インクの不透明度隠蔽力およびその他の印刷パラメータが改善されることになる。
【0123】
インク特性
噴出速度、液滴サイズ、および安定性は、インクの表面張力および粘度から受ける影響が大きい。インクジェットインクは、その表面張力が、典型的な場合に25℃で約20ダイン/cmから約60ダイン/cmである。粘度は、25℃で30cps程度の高さにすることができるが、典型的な場合はやや低い。インクは、ドロップオンデマンドデバイスまたはコンティニュアスデバイスに関する広範囲の放出条件、すなわちピエゾ要素(piezo element)の駆動周波数またはサーマルヘッドの放出条件と、ノズルの形状およびサイズに適合した物理的性質を有する。本発明のインクは、インクジェット装置内でかなりの程度で詰まりを引き起こさないように、長期間にわたり優れた貯蔵安定性を有するべきである。さらに、インクが接触するインクジェット印刷装置の構成材料を変性させるべきではなく、本質的に無臭および無毒性であるべきである。
【0124】
いかなる特定の粘度範囲または印刷ヘッドにも制限されるものではないが、本発明のインクは、少量の液滴、例えば約20pL未満というわずかな体積を噴出するより高い解像度(より高いdpi)の印刷ヘッドに求められるような、低粘度の適用例に適している。そのため、本発明のインクの粘度(25℃で)は約7cps未満にすることができ、好ましくは約5cps未満であり、最も有利な場合は約3.5cpsである。
【0125】
本発明のインクは、有効なインクジェットインクになるのに十分安定である。インクを70℃で1週間加熱することにより試験をした場合、粒径および粘度という物理的パラメータは、通常の範囲内にあるべきである。またインクは、性能の低下が観察されない状態で、数日間にわたって所望の印刷システムから印刷可能であるべきである。
【0126】
インクセット
インクセットには、上述のインクと、1種または複数のその他のインクとを収納する。インクセットの非白色インクは、その他の着色剤、好ましくはその他の顔料着色剤を含有する。定義によれば、顔料は、ビヒクルに溶かした溶液を形成せず(かなりの程度まで)、分散しなければならない。インクジェットの適用例でのその他の顔料は、一般に周知である。そのような顔料の代表的な選択例は、例えば,特許文献6、7、8、9、および10に見出される(ここでは、その開示内容を、完全に、本明細書中で参照する)。顔料を正確に選択できるか否かは、適用例における色の再現および印刷品質の要件に左右されることになる。
【0127】
インクセットのその他のインクに用いられる顔料のレベルは、典型的な場合、印刷画像に所望のODを与えるのに必要とされるレベルである。典型的な場合、そのような顔料レベルは、インクの総重量に対して約0.01から約10重量%の範囲内にある。
【0128】
インクセットのその他のインクは、水性または非水性にすることができる。2種の系からどちらを選択するかは、インク系を印刷支持体に適合させる要件によって決定される。紙および繊維素材の支持体では、典型的な場合、水性の系が好ましい。しかしプラスチックの支持体では、非水性ビヒクルが好ましいと考えられる。
【0129】
インクセットのその他の水性インクは、染料、顔料、またはこれらの組合せを着色剤として含有することができる。このようなその他の水性インクは水性ビヒクルを主成分とし、上述のまたはそれ以外で当業者に知られているその他の成分および添加剤は、一般的な意味で当業者に知られていると見なすことができる。インクセットのその他の水性インクの選択は、所望の最終用途および本発明のインクとの相容性に基づいて容易に行うことができる。
【0130】
非水性インクは、一般に、「非水性ビヒクル」中に着色剤(好ましくは顔料)を含むが、この「非水性ビヒクル」は、実質的に、非水性溶媒またはそのような溶媒の混合物からなるビヒクルを指し、この溶媒は、極性および/または無極性にすることができるものである。極性溶媒の例には、アルコール、エステル、ケトン、およびエーテルが含まれる。特定の例には、グリコールおよびポリグリコールのモノおよびジアルキルエーテルが含まれ、例えばモノ、ジ、およびトリプロピレングリコールのモノメチルエーテルと、エチレン、ジエチレン、およびトリエチレングリコールのモノ−n−ブチルエーテルであり、またグリセロールおよび置換グリセロールも含まれる。無極性溶媒の例には、少なくとも6個の炭素原子を有する脂肪族および芳香族炭化水素とその混合物であって、精製蒸留生成物および副産物を含めたものが含まれる。溶媒は、その一部または全体が、UV光を当てると硬化する(UV硬化性)溶媒などの重合可能な溶媒からなるものでもよい。
【0131】
グリコールエーテルには、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−イソ−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−イソ−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−イソ−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、およびジプロピレングリコールモノ−イソプロピルエーテルが含まれる。前述のグリコールエーテルのエステル、特に酢酸エステルも有用である。
【0132】
水を意図的に非水性ビヒクルに添加しない場合であっても、配合物中には若干の水が外部から持ち込まれるが、一般にその量は、ビヒクルの総重量に対して約2重量%から約4重量%以下になる。定義によれば、本発明の非水性インクは、非水性ビヒクルの総重量に対して約10重量%以下、好ましくは約5重量%以下の水を有することになる。
【0133】
インクジェットの適用例における非水性インクも一般に当業者に周知である。インクセット用の非水性インクの選択は、所望の最終用途および本発明の水性インクとの相容性に基づいて容易に行うことができる。
【0134】
本発明のインクと組み合わせてインクセットで使用される好ましい非水性インクが特許文献11に開示されている(ここでは、その開示内容を、完全に、本明細書中で参照する)。
【0135】
白色インクを収納するインクセットは、印刷能力に著しく新しい幅を提供する。ある好ましい実施形態では、インクセットは、少なくとも4種の異なる着色インクを含むことが好ましく、すなわち白色インクの他に、このインクセットにはシアン、マゼンタ、およびイエローのインクも収納される。白色およびCMYの他、インクセットは黒色インクをさらに含むことも好ましい。
【0136】
別の好ましい実施形態では、インクセットは白色インクおよび黒色インクを含む。
【0137】
印刷方法
本発明のインクおよびインクセットは、任意のインクジェットプリンタによる印刷で利用することができる。
【0138】
本発明による印刷方法は、
(a)デジタルデータ信号に応答するインクジェットプリンタを提供するステップと、
(b)印刷される支持体をプリンタに装着するステップと、
(c)上述のインクおよび/またはインクセットをプリンタに装着するステップと、
(d)デジタルデータ信号に応答して、インクジェットインクセットを使用して支持体表面に印刷するステップと
を含む。
【0139】
ポリビニルブチラールなどの透明な支持体に印刷する場合、画像は、時には片面だけに表れまたは両面から見えることが望ましい。画像を片面だけに見せる場合、白色インクを最初に印刷し、画像の形にかつ調節可能な不透明度で画像が片面だけから見えるように印刷する。不透明度は、インクの二酸化チタン濃度を変化させたり複数回印刷したりするなど、様々な手段によって調節することができる。
【0140】
画像が両面から見えるようにする場合、白色の使用によって画像にさらに自由度が与えられるよう、白色インクを使用することができる。画像の一部に白色インクを包含させることにより、画像領域の白色度、および画像の鮮明度を改善することができる。透明度がより良好なナノグレードの二酸化チタンが、この適用例には好ましいと考えられる。
【0141】
繊維素材に印刷する場合、本発明の白色インクはその他の利点をもたらすことができる。しばしば、繊維素材に印刷する場合、インクは繊維素材に滲みこんで不明瞭な境界を生み出す。白色インクは、あるデザインに対して小さく微細な境界を印刷するのに使用することができ、明確な境界を持つように見せることができる。
【0142】
二酸化チタン白色インクは安定であるので、別のインクに添加して、顔料と二酸化チタン顔料の両方を持つ顔料インクを提供することができる。白色インク/顔料インクは顔料インクよりも薄いが、白色インクを含んでいるので、組み合わせたインクの隠蔽力およびその他の有益な性質を保つことができる。
【0143】
印刷支持体
インクおよびインクセットを使用して、紙、特に着色紙、包装材料、繊維素材、およびポリマー支持体を含めた多くの支持体に印刷することができる。本発明は、ポリビニルブチラール中間層(15および30ミルの厚さを含む);スパンボンデッドポリオレフィン(例えばTyvek(登録商標)およびTyvek(登録商標)JetSmart、DuPont);ポリ塩化ビニル(例えばTedlar(登録商標)、DuPont);ポリエチレンテレフタレートポリエステル;ポリフッ化ビニルポリマー、アクリル(例えばSurlyn(登録商標))などの、ポリマー(非多孔質)支持体表面に印刷するのに特に有利である。
【0144】
本発明のインクセットに特に好ましい使用は、本出願人が所有する「Decorative Laminated Safety Glass」という名称の特許文献12に開示されるような、安全にまたは建築用ガラスの適用例に使用されるポリビニルブチラール中間層の装飾印刷である(ここでは、その開示内容を、完全に、本明細書中で参照する)。
【実施例】
【0145】
これらの実施例で使用される様々な略語を以下に列挙する。
【0146】
【表2】

【0147】
方法
二酸化チタンスラリを、VMA−Getzmann GMBHから入手可能なDispermat(登録商標)High Speed Disperser(HSD)を使用して、二酸化チタン顔料、分散剤、水、および任意選択の添加剤から調製して予備混合し、その後、Eiger Machinery,Inc.から入手可能なEigerミニミルを使用して媒体ミリングを行った。すべてのスラリ成分の予備混合は、典型的な場合、取着された60mmのCowelsブレードで2000rpmで動作するモデルAE5−CEX Dispermatを使用して行った。スラリのプレミックスを、1リットルのステンレス鋼容器に投入して、媒体ミリングにかけた。
【0148】
特定の顔料投入量でのスラリ粘度を使用して、分散剤の効力を評価した。最も有効な分散剤または分散剤の組合せでは、粘度が最も低いスラリが生成された。スラリの粘度は、ブルックフィールド粘度計およびモデルRVTDV−IIを使用して測定し、スピンドル回転数10rpmおよび100rpmで測定値を得た。粘度の単位はセンチポアズ(cps)である。
【0149】
二酸化チタン顔料
市販されている二酸化チタン顔料を使用した。アルミナで被覆された2種の二酸化チタン顔料、R700(E.I.DuPont de Nemours、Willmington DEから入手可能)およびRDI−S(Kemira Industrial Chemicals、Helsinki、フィンランドから入手可能)を使用した。
【0150】
インクの配合および評価
インクは、他に特に指示しない限り、当業者に知られている方法によって調製した。顔料の分散体(顔料スラリ)を最初に調製し、別のステップでインク成分を合わせ、ボールミリング、媒体ミリング、またはその他の混合手段によって一緒に混合した。一般に0.8から1.0ミクロンのジルコニアを使用してミリングを行った。インクのミリングを行った後、1ミクロンの濾紙に通して濾過することにより、媒体を除去した。インクが十分に濾過されなかった場合はプリンタで試験をしなかった。
【0151】
印刷試験
任意のプリンタを使用して、これら白色インクの試験をした。他に特に指示しない限り、以下に述べる実施例は、Epson 3000インクジェットプリンタを使用して行い、様々な支持体表面に印刷を行った。黒色インクの代わりに白色インクを使用し、画像は、PhotoShop Softwareを使用して生成した。
【0152】
分散剤の調製
一般に分散剤は、非中和形態になるよう調製し、中和は、調製の最後に、別の後続のステップで、または分散剤の混合物を調製した後に行った。分散剤は、共通有機溶媒中に25重量%から50重量%として使用した。以下の実施例で列挙される分散剤の量は、添加した溶液の総重量であり、活性成分ではない。分散剤と顔料の比について述べる場合、その比は活性成分として与えられる。
【0153】
第1の分散剤
第1の分散剤である分散剤1は、櫛型構造を持つグラフトコポリマーであり、その分子構成は、
nBA/MA/AA(45.5/45.5/9)//g−MMA/MAA(71.25/28.75)
であった。上述の表示は、ポリマー(nBA/MA/AA)の69%を占めるポリマー主鎖を例示しており、ただしnBAはアクリル酸n−ブチルであり、MAはアクリル酸メチルであり、AAはアクリル酸である。(45.5/45.5/9)という表記は、各モノマーの相対的パーセントを示し、すなわちアクリル酸n−ブチルが45.5%、アクリル酸メチルが45.5%、アクリル酸が9%である。マクロモノマーであるアームは、ポリマーの合計(g−MMA/MAA)が31%であり、ただしg−MMAはメタクリル酸メチルであり、MAAはメタクリル酸であり、それぞれ71.25%および28.75%の量で存在する。この分散剤の表示では、二重斜線がブロック間の分離を示し、単一斜線はブロック内のランダムコポリマーを示す。
【0154】
ポリマー上の酸基を、ジメチルエチルアミン(DMEA)で中和した。
【0155】
第2の分散剤
第2の分散剤は、前に援用したもの(例えば、特許文献4参照)に開示されているGTP法を使用して調製した、3種の異なるブロックコポリマーの1種であった。これら分散剤の1種である分散剤2Aは、
BMA/MAA//MAA 13/5//10
という分子構成を有し、ただしBMAはメタクリル酸ブチルであり、MAAはメタクリル酸であった。
【0156】
グラフトコポリマーの表示とは異なるこの表示において、13/5//10という表記は、ブロックコポリマーをそれぞれのモノマー数で示している。すなわち1つのブロックは、BMAを13モノマー単位、MAAを5モノマー単位有するランダムコポリマーである。第2のブロックは、MAAを10モノマー単位有する。
【0157】
第2のブロックコポリマー分散剤である分散剤2Bは、
BMA//MAA 13//10
という分子構成を有し、ただしBMAおよびMAAは上記定義したものと同様である。13//10という表記は、ブロックコポリマー中にBMAが13モノマー単位、MAAが10モノマー単位あることを示す。
【0158】
第3のブロックコポリマーで分散剤である分散剤2Cは、
BMA//MMA/MAA 10//5/10
という分子構成を有し、ただしBMA、MMA、およびMAAは上記定義したものと同様である。10//5/10という表記は、1つのブロックが、10モノマー単位を有するBMAポリマーであることを示す。第2のブロックは、MMAを5モノマー単位、MAAを10モノマー単位有するランダムコポリマーである。
【0159】
第3の分散剤
第3の分散剤は、顔料吸着主鎖セグメントにリン酸官能基を含有するリン酸化アクリル櫛型コポリマーであり、標準的なフリーラジカル重合法を使用して調製した。得られたリン酸化コポリマーは、以下の組成を有する。
【0160】
nBA/MA/GMA−リン酸化(45.5/45.5/9)//Bisomer 20W
リン酸化部分とBisomerとの重量比は60:40であった。
【0161】
リン酸ポリマーは、ポリマーの安定化アームとしてInternational Specialty Chemicalsから入手可能なマクロモノマー、Bisomer 20Wを使用して調製した。この材料は、ポリ(エチレングリコールモノメタクリレート)のマクロモノマーである。分子量Mw 2000で非イオン性であり、水溶性官能基をポリマーに提供する。Bisomer 20Wマクロモノマーは、その他の成分と共に容器内で反応して、マクロな分枝状グラフトコポリマーを形成した。
【0162】
ポリマーは、スターラ、熱電対、コンデンサ、および窒素ブランケットを備えた反応器に投入し、内容物を加熱還流することによって形成した。反応器には、主鎖モノマーのアクリル酸n−ブチル(nBA)、メタクリル酸グリシジル(GMA)、アクリル酸メチル(MA)、およびBisomer 20Wマクロモノマーを、溶媒としてのイソプロパノールと共に添加した。重合反応は、メチルエチルケトンおよびイソプロパノールの溶液に溶解させた開始剤2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(DuPont Co.製のVazo(登録商標)52)を供給することによって開始した。リン酸化処理は、リン酸HPOでメタクリル酸グリシジル上のエポキシ基をエステル化することによって行った。
【0163】
得られたリン酸アクリルグラフトコポリマーは、変換率が99%に達した。その固形分は、水/イソプロパノールの溶液中で45%であった。ポリマーの分子量は、GPCを使用して得た。このポリマーを、カラムに注入する前にメチル化した。GPCは、数平均分子量が4577であり、多分散性が2.64であることを示した。
【0164】
顔料スラリ実施例(スラリEx)1〜4
分散剤のブレンドを主成分とするスラリを、取着された60mmのCowelsブレードを用い2000rpmで動作するモデルAE5−CEX Dispersmatを使用して調製した。分散剤1と分散剤2Aは、75:25または50:50の配合(分散剤1:分散剤2A)で一緒に混合した。分散剤のブレンドの添加は、二酸化チタンスラリにゆっくりと、逐次増加して行った。組成情報(グラム数で表す)および結果を表3および4に示す。
【0165】
【表3】

【0166】
【表4】

【0167】
表4からわかるように、2種の分散剤を一緒にブレンドすることによって、望ましい粘度が実現される。
【0168】
安定性試験は、各スラリを1週間、70℃に曝すことにより行った。分散剤のブレンドを含有するスラリは、一般に安定であり、貯蔵した後の沈降はそれほど硬いものではなかったが、いくらかチョーキングし易かった。
【0169】
スラリ実施例5
チョーキングを低減させた二酸化チタンスラリを、脱イオン水138.5gと、R700 TiO顔料720g、保湿剤としてのエチレングリコール50g、分散剤1および分散剤2Bの50:50のブレンド18.5g、DMEA 1g、およびDehydran(登録商標)1620 2gとを混合することによって調製した。このスラリを、脱イオン水70.05gで薄めた。ブルックフィールド粘度を表5に示す。
【0170】
【表5】

【0171】
このサンプルは、70℃で1週間加熱した後に、スラリ実施例1〜4のスラリの場合よりも安定性が改善され、チョーキングが少なくなったことを示した。
【0172】
スラリ実施例6
二酸化チタンスラリプレミックスは、水138.45g、DMEAの50%水溶液1g、分散剤1および分散剤2Bの50:50ブレンド20g(固形分37%)、エチレングリコール50g、Dehydran(登録商標)1620 2g、およびR700顔料720gを1リットルのスレンレス鋼容器に投入し、60mmのCowelsブレードと共に構成されたDispermat高速分散器を使用して2000rpmで10分間処理することにより調製した。このプレミックスを68.55gの水で薄め、250rpmで5分間攪拌した。
【0173】
次いでプレミックスを、0.8〜1.0mmジルコニアの480g媒体投入により、Eigerミニミル、モデルMK II M250 VSEEXPで15分間、ディスク速度3250rpmで処理した。粉砕を30分間継続したが、10分、15分、20分、および30分でサンプリングして、粒径を決定した。最終生成物は、固形分が約72%であった。薄める前と薄めた後の結果を表6に示す。
【0174】
【表6】

【0175】
このスラリ生成物は経時的に安定であり、白色インクを調製するのに使用した。
【0176】
インク実施例(インクEx)1、2、および3
スラリ実施例6で調製した二酸化チタンスラリを使用して、インク配合物を調製したが、その配合物への二酸化チタン固形分の投入量は5%(インクEx1)、6%(インクEx2)、および7%(インクEx)であった。スラリ実施例6を、まず脱イオン水で希釈して、TiO含量が15重量%(希釈したスラリの総重量に対して)のスラリを得た。インクプレミックスは、以下の表7に列挙するインク配合物成分を一緒に添加し混合することによって調製した。これらの成分すべてを予備混合した後に、15重量%の二酸化チタンスラリを添加した。5%および6%のインクは、最終的なインクで二酸化チタンの所望の最終濃度を実現するために、希釈したスラリの添加量を調節するだけで同じプロセスにより調製した。
【0177】
【表7】

【0178】
Proxel(登録商標)GXLは、Avecia,Inc.から入手可能な殺生剤である。Silwet L−77(登録商標)は、GE Siliconesから入手可能な界面活性剤である。Surfynol(登録商標)104Eは、Air Productsから入手可能な消泡剤である。
【0179】
プレミックス(二酸化チタンスラリを含まないインク)を1時間混合した。連続混合では、供給管を通して再循環させながらプレミックスを二酸化チタンスラリにポンプ送出することによって、スラリ実施例6の二酸化チタンスラリをプレミックスに添加した。このインクを4時間攪拌した。
【0180】
粘度を測定し、次いでインクを1ミクロン濾過装置に通して濾過し、大きい集塊、凝集物、および微粒子を除去した。表12は、インクの分析を示す。粒径は、Leeds and Northrupから入手可能なMicrotrac(登録商標)超微粒子分析器(UPA)を使用して測定した。
【0181】
【表8】

【0182】
これらのインクについて、サンプルを70℃の炉内に7日間置くことにより、安定性の試験をした。粘度および粒径をその前後で比較して、経時的なインクの安定性を評価した。結果を表9〜10に示す。
【0183】
【表9】

【0184】
【表10】

【0185】
表9〜10に列挙したインク実施例1〜3の結果は、分離および粒子の沈降が観察されなかったことから、インク配合物が安定であることを示している。
【0186】
インク実施例1、2、および3について、それぞれの平均直径が50ミクロンである255個のノズルからなるピエゾドロップオンデマンド(DOD)印刷ヘッドを使用して試験した。各インク液滴の体積は、約35ピコリットルであった。各ノズルを通る速度は約5m/sであった。インクを、透明なオーバーヘッド用トランスペアレンシーの表面に噴出させた。トランスペアレンシーフィルムの隠蔽力および不透明度は優れていると判断し、トランスペアレンシーへの接着性も良好と見なした。インク実施例2および3に関してノズルアウトは生じなかった。インク実施例1では1つのノズルアウトが観察された。
【0187】
インク実施例4
インク実施例4は、固形分15%の二酸化チタンスラリが得られるように、スラリ実施例6を水で希釈することによって調製した(水79.2gをスラリ実施例6 20.8gに添加して、固形分6%のインクを作製した)。この希釈されたスラリを、以下の配合を有するインクに変換した。
【0188】
【表11】

【0189】
インク実施例4を、ポリビニルブチラール中間層に印刷した。中間層は、前に援用した特許文献12に記載されるように装飾ラミネートを生成するのに使用した。ポリビニルブチラール中間層は、複数回走行させて長方形の構成になるよう印刷し、透過率%、ヘーズ%、および鮮明度%の試験をした。印刷後、ポリビニルブチラール中間層を使用して装飾ラミネートを作製した。BKY Gardner Hazegard Plus Instrumentを使用して、透過率%、ヘーズ%、および鮮明度%を測定した。ヘーズ(広角散乱)は、サンプルを通過する際に入射光から2.5°よりも大きく逸れる透過光のパーセンテージと定義する。鮮明度(狭角散乱)は、2.5°未満の散乱とし測定した。
【0190】
【表12】

【0191】
白色インクを印刷した支持体の白色度および黄色度に関する試験
インク実施例4と共に使用したポリビニルブチラール装飾ラミネートに関し、ASTM E 313により測定した白色度と、ASTM D1925により測定した黄色度の試験をした。白色度指数は45.12であり、黄色度指数は−2.2であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)二酸化チタン顔料と、
(b)(1)約90から50重量%のポリマー主鎖と該主鎖に結合した約10から50重量%のマクロモノマー側鎖とを含み、該ポリマー主鎖およびマクロモノマー側鎖が100重量%のグラフトコポリマーを構成する、約4,000から100,000の重量平均分子量を有するグラフトコポリマーであって、
(i)前記ポリマー主鎖が、前記マクロモノマー側鎖に比べて疎水性であり、1個または複数の重合したエチレン系不飽和疎水性モノマーを含み、
(ii)前記マクロモノマー側鎖のそれぞれが、親水性であり、単一の末端でポリマー主鎖に結合し、
(A)約1,000から30,000の重量平均分子量を有し、
(B)マクロモノマー側鎖の重量に対して約2重量%から約100重量%の重合したエチレン系不飽和モノマーを含む
グラフトコポリマー、および
(2)タイプAB、ABA、またはABCのブロックコポリマーであって、該ブロックコポリマーのブロックの少なくとも1つが吸着セグメントであり、該ブロックコポリマーのブロックの少なくとも1つが安定化セグメントであるブロックコポリマー
を含む分散剤の組合せと、
(c)液体担体と
を含むことを特徴とする二酸化チタンスラリ。
【請求項2】
前記二酸化チタン顔料粒子は、約50から約950ナノメートルの平均粒径を有することを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項3】
前記二酸化チタン顔料粒子は、約75から約750ナノメートルの平均粒径を有することを特徴とする請求項2に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項4】
前記二酸化チタン顔料粒子は、約100から約500ナノメートルの平均粒径を有することを特徴とする請求項3に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項5】
前記二酸化チタン顔料粒子は、約10から約200ナノメートルの平均粒径を有することを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項6】
前記二酸化チタン顔料粒子は、約20から約150ナノメートルの平均粒径を有することを特徴とする請求項5に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項7】
前記二酸化チタン顔料粒子は、約35から約75ナノメートルの平均粒径を有することを特徴とする請求項6に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項8】
前記スラリ中に存在する前記二酸化チタン顔料は、前記スラリの総重量に対して約15重量%から約80重量%であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項9】
前記二酸化チタン顔料粒子の大部分は、約200ナノメートルよりも大きく最大で約1ミクロンの平均粒径を有し、前記スラリ中に存在する二酸化チタン顔料の量は、前記スラリの総重量に対して約50重量%から約75重量%であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項10】
前記スラリ中の前記二酸化チタン顔料の量は、前記スラリの総重量に対して約20重量%から約50重量%であることを特徴とする請求項5に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項11】
前記スラリ中の前記二酸化チタン顔料の量は、前記スラリの総重量に対して約25重量%から約35重量%であることを特徴とする請求項10に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項12】
前記二酸化チタン顔料は、シリカ、アルミナ、およびジルコニアからなる群から選択された1種または複数のその他の金属酸化物を含むことを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項13】
前記その他の金属酸化物は、前記二酸化チタン顔料の総重量に対して約0.1重量%から約20重量%の量で存在することを特徴とする請求項12に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項14】
前記その他の金属酸化物は、前記二酸化チタン顔料の総重量に対して約0.5重量%から約5重量%の量で存在することを特徴とする請求項13に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項15】
前記その他の金属酸化物は、前記二酸化チタン顔料の総重量に対して約0.5重量%から約1.5重量%の量で存在することを特徴とする請求項14に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項16】
前記二酸化チタン顔料粒子は、1種または複数の金属酸化物表面コーティングを有することを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項17】
前記金属酸化物表面コーティングは、シリカ、アルミナ、アルミナ−シリカ、およびジルコニアからなる群から選択されることを特徴とする請求項16に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項18】
前記金属酸化物表面コーティングは、前記二酸化チタン顔料の総重量に対して約0.1重量%から約10重量%の量で存在することを特徴とする請求項17に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項19】
前記金属酸化物表面コーティングは、前記二酸化チタン顔料の総重量に対して約0.5重量%から約3重量%の量で存在することを特徴とする請求項18に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項20】
前記二酸化チタン顔料粒子は、1種または複数の有機表面コーティングを有することを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項21】
前記有機表面コーティングは、1種または複数のカルボン酸、シラン、シロキサン、および炭化水素ワックスと、これらの二酸化チタン表面との反応生成物とからなる群から選択されることを特徴とする請求項20に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項22】
前記有機表面コーティングは、前記二酸化チタン顔料の総重量に対して約0.01重量%から約6重量%の量で存在することを特徴とする請求項21に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項23】
前記有機表面コーティングは、前記二酸化チタン顔料の総重量に対して約0.1重量%から約3重量%の量で存在することを特徴とする請求項22に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項24】
前記有機表面コーティングは、前記二酸化チタン顔料の総重量に対して約0.5重量%から約1.5重量%の量で存在することを特徴とする請求項23に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項25】
前記グラフトコポリマーは、約10000から約40000の重量平均分子量を有することを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項26】
前記グラフトコポリマーのポリマー主鎖は、該主鎖の重量に対して約1重量%から約10重量%の重合したエチレン系不飽和酸モノマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項27】
前記グラフトコポリマーのポリマー主鎖は、アルキル基中に1から12個の炭素原子を有するアルキル(メタ)アクリレートを含むことを特徴とする請求項26に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項28】
アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、およびアミンからなる群から選択された塩基で酸官能基の少なくとも一部を塩基で中和することにより、前記グラフトコポリマーの酸官能基を可溶性または分散性にすることを特徴とする請求項26に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項29】
前記アミンはジメチルエチルアミンまたはアミノメチルプロパノールであることを特徴とする請求項28に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項30】
前記側鎖は、単一の末端で前記主鎖に結合した酸基を含むことを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項31】
前記酸基は少なくとも部分的に中和されていることを特徴とする請求項30に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項32】
前記酸基は、無機塩基またはアミンあるいはその両方で少なくとも部分的に中和されていることを特徴とする請求項31に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項33】
前記側鎖は、酸基を含有する重合したエチレン系不飽和モノマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項34】
前記側鎖は、非イオン性基を含有する重合したエチレン系不飽和モノマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項35】
前記側鎖は、酸基および非イオン性基を含有する重合したエチレン系不飽和モノマーの混合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項36】
酸基を含有するエチレン系不飽和モノマーはメタクリル酸であることを特徴とする請求項33または35に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項37】
非イオン性基を含有するエチレン系不飽和モノマーは、モノエチレン系不飽和ポリ(アルキレングリコール)モノマーまたはポリ(アルコキシル化)アルキル(メタ)アクリレートモノマーであることを特徴とする請求項34または35に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項38】
前記ブロックコポリマーの吸着セグメントは、重合した非官能性エチレン系不飽和疎水性モノマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項39】
前記吸着セグメントは、該吸着セグメントの総重量に対して約40重量%までの量で、官能基を有するモノマーをさらに含むことを特徴とする請求項38に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項40】
前記官能基は酸、アミン、またはシランであることを特徴とする請求項39に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項41】
前記ブロックコポリマーの安定化セグメントは、酸基を有する重合したエチレン系不飽和親水性モノマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項42】
前記ブロックコポリマーの安定化セグメントは、1個または複数の非イオン性親水基を有する重合したエチレン系不飽和親水性モノマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項43】
前記グラフトコポリマーおよび前記ブロックコポリマーとは異なるリン酸化ポリマー分散剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項44】
前記分散剤と顔料との重量比(D/P)は約0.0025:1から約0.25:1であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項45】
前記分散剤と顔料との重量比(D/P)は約0.05:1から約0.175:1であることを特徴とする請求項40に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項46】
前記分散剤と顔料との重量比(D/P)は約0.075:1から約0.14:1であることを特徴とする請求項41に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項47】
前記グラフトコポリマーとブロックコポリマーとの重量比は約10:90から約90:10であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項48】
前記グラフトコポリマーとブロックコポリマーとの重量比は約25:75から約75:25であることを特徴とする請求項43に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項49】
前記グラフトコポリマーとブロックコポリマーとの重量比は約40:60から約60:40であることを特徴とする請求項44に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項50】
前記リン酸化分散剤は、約0.0025:1から約0.05:1の量で存在することを特徴とする請求項39に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項51】
前記リン酸化分散剤は、約0.005:1から約0.04:1の量で存在することを特徴とする請求項46に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項52】
前記リン酸化分散剤は、約0.005:1から約0.02:1の量で存在することを特徴とする請求項47に記載の二酸化チタンスラリ。
【請求項53】
前記ポリマー主鎖は、前記グラフトコポリマーの重量に対して約20重量%までの、重合したエチレン系不飽和酸モノマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタンスラリ。

【公開番号】特開2006−37080(P2006−37080A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−180835(P2005−180835)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】