説明

インサート成形方法

【課題】異方性を有するシート材を用いても、成形品の反りを抑制できるインサート成形方法を提供すること。
【解決手段】このインサート成形方法は、互いに対向配置された下型2および上型3を用いて、下型2の金型面に縦方向と横方向の収縮率が異なる樹脂製のシート材6を配置し、下型2と上型3とを型締めし、その後、シート材6と上型3の金型面との隙間に、溶融樹脂を射出して冷却する。溶融樹脂を射出する際には、下型2と上型3との間に温度差を設けるとともに、シート材6の収縮率が小さい方向に沿って溶融樹脂を流動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサート成形方法に関する。詳しくは、成形品の反りを抑制できるインサート成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高い意匠性が要求される自動車のインスツルメントパネル等の製造工程では、インサート成形が行われている。
インサート成形は、予め成形したシート材等を第1の金型の金型面に配置しておき、このシート材と第2の金型の金型面との隙間に溶融樹脂を充填して冷却する。このようにして、2層のシート状の部材を成形する。
【0003】
ところで、このインサート成形では、成形時に反りが発生する、という問題がある。すなわち、充填した樹脂を冷却する際に、充填した樹脂のシート材側の部分がシート材により略断熱されることとなるため、充填した樹脂の第2の金型側の部分の冷却時間は、シート材側つまり第1の金型側の部分の冷却時間よりも短くなる。すると、充填した樹脂の第2の金型側の部分が、シート材側つまり第1の金型側の部分に比べて大きく収縮し、インサート成形品に反りが生じる。
【0004】
そこで、第1の金型と第2の金型との間に温度差を設定することが提案されている(特許文献1参照)。具体的には、第1の金型の温度を第2の金型の温度よりも高くしておき、充填した樹脂の第2の金型側の部分を迅速に冷却する。これにより、充填した樹脂の第2の金型側の部分が大きく収縮する前に固化するのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−44282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、シート材には異方性がある。よって、シート材を矩形状とした場合、このシート材には、収縮率の大きくなる第1の方向と、この第1の方向に直交し収縮率の小さくなる第2の方向と、がある。そこで、第1の方向の反りを抑制するように第1の金型と第2の金型との温度差を設定すると、第2の方向の反りが残ることになる。一方、第2の方向の反りを抑制するように第1の金型と第2の金型との温度差を設定すると、第1の方向の反りが残ることになる。したがって、成形品の反りを抑制することは、実際には困難であった。
【0007】
本発明は、異方性を有するシート材を用いても、成形品の反りを抑制できるインサート成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のインサート成形方法は、互いに対向配置された第1の金型(例えば、後述の下型2)および第2の金型(例えば、後述の上型3)を用いて、前記第1の金型の金型面に縦方向と横方向の収縮率が異なる樹脂製のシート材(例えば、後述のシート材6)を配置し、前記第1の金型と前記第2の金型とを型締めし、その後、前記シート材と前記第2の金型の金型面との隙間に、溶融樹脂を射出して冷却するインサート成形方法であって、溶融樹脂を射出する際に、前記第1の金型と前記第2の金型との間に温度差を設けるとともに、前記シート材の収縮率が小さい方向に沿って溶融樹脂を流動させることを特徴とする。
【0009】
ここで、本出願人らは、以下のような性質を見出した。すなわち、樹脂を金型内に一方向に流動するように注入すると、この樹脂は、一部の樹脂が金型面に接して固化しながら、金型内を流動する。このとき、固化層と流動層との境界部分で高いせん断応力が生じることにより樹脂の分子鎖が引き延ばされて、分子の配向が揃うことになる。そして、この充填した樹脂の分子の配向方向の収縮率は、分子の配向方向に直交する方向の収縮率よりも、小さくなることを見出したのである。
そこで、この発明によれば、第1の金型と第2の金型との間に温度差を設けるとともに、シート材の収縮率が小さい方向に沿って樹脂を流動させた。これにより、シート材の収縮率が小さい方向に沿って、充填した樹脂の分子が配向する。よって、充填した樹脂は、シート材の収縮率が大きい方向に沿って大きく収縮し、シート材の収縮率が小さい方向に沿って小さく収縮する。したがって、シート材の収縮率が小さい方向、およびシート材の収縮率が大きい方向いずれの方向においても、反りを抑制できる。
【0010】
また、本発明のインサート成形方法は、互いに対向配置された第1の金型および第2の金型を用いて、前記第1の金型の金型面に縦方向と横方向の収縮率が異なる樹脂製のシート材を配置し、前記第1の金型と前記第2の金型とを型締めし、その後、前記シート材と前記第2の金型の金型面との隙間に、溶融樹脂を射出して冷却するインサート成形方法であって、溶融樹脂を射出する際に、前記第1の金型と前記第2の金型との間に温度差を設けるとともに、前記第1の金型および前記第2の金型の金型面のうち前記シート材の収縮率が小さい方向に対向する側面から、溶融樹脂を射出することを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、第1の金型と第2の金型との間に温度差を設けるとともに、第1の金型および第2の金型の金型面のうちシート材の収縮率が小さい方向に対向する側面から、溶融樹脂を射出した。これにより、シート材の収縮率が小さい方向に沿って、充填した樹脂の分子が配向する。よって、上述のインサート成形方法と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、第1の金型と第2の金型との間に温度差を設けるとともに、シート材の収縮率が小さい方向に沿って樹脂を流動させた。よって、充填した樹脂は、シート材の収縮率が大きくなる方向に沿って大きく収縮し、シート材の収縮率が小さくなる方向に沿って小さく収縮する。したがって、シート材の収縮率が小さい方向、およびシート材の収縮率が大きい方向いずれの方向においても、反りを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るインサート成形方法が適用されたプレス機構1の概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるシート材の配置方向を説明するための図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るインサート成形方法の反り抑制の原理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るインサート成形方法が適用されたプレス機構1の概略構成を示す斜視図である。
【0015】
プレス機構1は、上方が開放された箱状の下型2と、この下型2に対向して設けられた上型3と、この上型3を下型2に接近、離隔させる駆動機構4と、を備える。
下型2の内部の側面には、溶融樹脂を射出するゲート5が設けられている。
【0016】
シート材6は、予め矩形状に成形され、下型2の金型面に配置される。シート材6は、異方性を有する樹脂製のシート材であり、縦方向と横方向とで収縮率が異なる。シート材6は、本実施形態に係るインサート成形方法により、後述する溶融樹脂と一体成形され、成形品の表層材を形成する。本実施形態では、例えばシート材6として、非塩ビ系樹脂のサーモプラスチック・オレフィン・エラストマー(TPO)を用いる。
【0017】
溶融樹脂は、シート材6が配置された金型内にゲート5から射出充填された後、冷却によりシート材6と一体成形され、成形品の基材を形成する。本実施形態では、例えば溶融樹脂として、ポリプロピレンを用いる。
【0018】
以下、本実施形態のインサート成形方法の手順について説明する。
先ず、互いに対向配置された下型2と上型3を用いて、下型2の金型面に、予め矩形状に成形されたシート材6を配置する。シート材6を配置する際には、図2に示すように、シート材6の収縮率の小さい方向と、溶融樹脂の射出方向とを一致させて、下型2の金型面7にシート材6を配置する。
【0019】
次いで、下型2と上型3とを型締めする。その後、シート材6と上型3の金型面との間に形成された隙間に、溶融樹脂を射出する。具体的には、下型2および上型3の金型の金型面のうち、シート材6の収縮率が小さい方向に対向する側面から、溶融樹脂を射出する。これにより、溶融樹脂が、シート材6の収縮率の小さい方向に沿って流動する。
【0020】
なお、射出の際には、下型2と上型3との間に温度差を設定する。具体的には、下型2の温度を、上型3の温度よりも高く設定する。これにより、後述する冷却の際に、上型3側の溶融樹脂は、下型2側の溶融樹脂よりも迅速に冷却固化する。
【0021】
溶融樹脂を射出充填した後、充填した樹脂に保圧をかけ、樹脂を補償流動させる。
次いで、樹脂を冷却して固化させる。冷却後、駆動機構4により、上型3を下型2から離隔させ、成形品を取り出す。
【0022】
次に、本実施形態に係るインサート成形方法の反り抑制の原理について、図3を参照しながら説明するとともに、本実施形態の効果について説明する。
図3の(A)は、溶融樹脂を金型内に射出して充填しているときの樹脂の状態を模式的に示している。また、(B)は、溶融樹脂を射出充填した後、保圧をかけて補償流動させているときの樹脂の状態を模式的に示している。また、(C)は、保圧による補償流動後、冷却しているときの樹脂の状態を模式的に示している。
ここで、本出願人らは、以下のような性質を見出した。すなわち、(A)に示すように、溶融樹脂を金型内に一方向に流動するように注入すると、この樹脂は、一部の樹脂が金型面に接して固化しながら、金型内を流動する。このとき、固化層と流動層との境界部分で高いせん断応力が生じることにより樹脂の分子鎖が引き延ばされて、分子の配向が揃うことになる。また、この分子の配向は、(B)に示すように保圧による補償流動によりさらに強められる。そして、(C)に示すように、この充填した樹脂の分子の配向方向の収縮率は、分子の配向方向に直交する方向の収縮率よりも、小さくなることを見出したのである。
そこで、本実施形態によれば、下型2と上型3との間に温度差を設けるとともに、シート材6の収縮率が小さい方向に沿って樹脂を流動させた。具体的には、下型2および上型3の金型面のうちシート材6の収縮率が小さい方向に対向する側面から、溶融樹脂を射出した。これにより、シート材6の収縮率が小さい方向に沿って、充填した樹脂の分子が配向する。よって、充填した樹脂は、シート材6の収縮率が大きい方向に沿って大きく収縮し、シート材6の収縮率が小さい方向に沿って小さく収縮する。したがって、シート材6の収縮率が小さい方向、およびシート材6の収縮率が大きい方向いずれの方向においても、反りを抑制できる。
【0023】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例について説明する。
[実施例]
互いに対向配置された下型および上型を用いて、以下に示す成形条件にしたがって、インサート成形を実施した。シート材を配置する際には、シート材の収縮率が小さい方向と、溶融樹脂の射出方向とを一致させて、シート材を下型の金型面に配置した。
<成形条件>
異方性シート材:サーモプラスチック・オレフィン・エラストマー(厚さ1mm)
溶融樹脂:ポリプロピレン(冷却固化後の厚さ3mm)
溶融樹脂温度:220℃
下型(シート材側)温度:60℃
上型(基材側)温度:30℃
射出速度:30mm/秒
保圧:50MPa
保圧時間:15秒
冷却時間:20秒
【0025】
上記成形条件にしたがってインサート成形した成形品について、シート材の収縮率が小さい方向の曲率と、シート材の収縮率が大きい方向の曲率を測定した。その結果、従来品に比して、シート材の収縮率が小さい方向の曲率、およびシート材の収縮率が大きい方向の曲率いずれも小さく、反りが抑制されていることが確認された。
【符号の説明】
【0026】
1 プレス機構
2 下型(第1の金型)
3 上型(第2の金型)
4 駆動機構
5 ゲート
6 シート材
7 金型面






【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向配置された第1の金型および第2の金型を用いて、前記第1の金型の金型面に縦方向と横方向の収縮率が異なる樹脂製のシート材を配置し、前記第1の金型と前記第2の金型とを型締めし、その後、前記シート材と前記第2の金型の金型面との隙間に、溶融樹脂を射出して冷却するインサート成形方法であって、
溶融樹脂を射出する際に、前記第1の金型と前記第2の金型との間に温度差を設けるとともに、前記シート材の収縮率が小さい方向に沿って溶融樹脂を流動させることを特徴とするインサート成形方法。
【請求項2】
互いに対向配置された第1の金型および第2の金型を用いて、前記第1の金型の金型面に縦方向と横方向の収縮率が異なる樹脂製のシート材を配置し、前記第1の金型と前記第2の金型とを型締めし、その後、前記シート材と前記第2の金型の金型面との隙間に、溶融樹脂を射出して冷却するインサート成形方法であって、
溶融樹脂を射出する際に、前記第1の金型と前記第2の金型との間に温度差を設けるとともに、前記第1の金型および前記第2の金型の金型面のうち前記シート材の収縮率が小さい方向に対向する側面から、溶融樹脂を射出することを特徴とするインサート成形方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−184461(P2010−184461A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31031(P2009−31031)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】