説明

インジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液の再生処理方法および再生処理装置

【課題】少ない労力とエネルギーを用い塩化鉄液中のインジウムおよび/または錫を回収するとともに塩化鉄溶液を再利用することができるインジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液の処理方法および処理装置を提供する。
【解決手段】インジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液の再生処理方法であって、前記塩化鉄溶液中の塩化第二鉄を塩化第一鉄に還元して第1溶液を作製する還元工程と、前記第1溶液中のインジウムおよび/または錫を分離して第2溶液を作製する分離工程と、前記第2溶液中の塩化第一鉄を塩化第二鉄に酸化する酸化工程を含む塩化鉄溶液の再生処理方法と、該方法を行なう再生処理装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインジウムを回収するとともに塩化鉄溶液を再利用することができるインジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液の再生処理方法および再生処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶パネルを用いた家電製品、パソコン、携帯端末等の製品が急速に普及しており、液晶パネルの生産量が急激に増大している。これに伴って、その製造工程において排出される廃棄物も急速に増大している状況である。また、不要になった家電製品や情報機器等の廃棄物に含まれる液晶パネルの量も今後増大すると予想される。環境との共存が期待される循環型社会の形成の中でこれらの廃棄物についてもリサイクルし資源を有効に利用することが望まれている。
【0003】
そして、液晶パネルは省電力、省資源に対応できる表示装置であるので、高度情報化社会の進展に伴って急激に生産量が増大するとともにその表示面積も大型化されることが予想される。このような液晶パネルの中でも透明導電膜として用いられているITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)は希少金属であるインジウムが含まれている。インジウムはITO導電膜として液晶表示装置やプラズマディスプレイパネル等の薄型表示装置に利用されており、近年の薄型テレビの急速な普及により供給が逼迫している。
【0004】
また、近年、液晶パネルに用いられているITO膜のエッチング液として塩化第二鉄液が用いられている。塩化第二鉄は、金属および金属酸化物を溶出する性質を持つため、従来から電子工業におけるエッチングに利用されており、たとえば、プリント基板の製造における銅のエッチングや、テレビのブラウン管のシャドウマスク製造におけるFe−Ni合金のエッチングに利用されてきた。
【0005】
ITO膜を溶出し得られたインジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液(以下、塩化第一鉄、塩化第二鉄のどちらか一方または両方を含む溶液を塩化鉄溶液と称する)には、塩化第二鉄、塩化第一鉄、インジウム化合物、錫化合物などの有価金属や希少金属が含まれており、リサイクルし資源回収、再利用することが特に望まれている。
【0006】
現在、液晶パネルの製造工程において排出されるインジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液の再利用方法として、汚水処理における重金属の凝集沈殿剤として利用する方法が提案されており、一部で実施されている。
【0007】
そして、インジウム含有塩化第二鉄エッチング廃液からインジウムを回収する方法として、エッチング廃液に鉄および2価のニッケルイオンを添加することにより3価のインジウムイオンを金属インジウムに還元し、ニッケルとインジウムを析出させインジウムを回収するとともに塩化第二鉄エッチング液を再生する方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0008】
また、特にインジウムは希少金属であり高価であるため、塩化鉄溶液以外の液に溶解したインジウムを分離する観点からも研究も進められている。インジウムを含有するシュウ酸エッチング廃液からインジウムを回収する方法として、当該溶液を陰イオン交換樹脂と接触処理させて、高純度シュウ酸水溶液を回収する方法が開示されている(特許文献2参照)。
【0009】
また、インジウムまたは錫以外の金属を含有する塩化鉄溶液を再生する観点からも研究が進められている。たとえば、塩化第二鉄と非エッチング材をなす金属とを含むエッチング廃液の再生方法として、電解により塩化第二鉄を塩化第一鉄に還元した後、鉄置換等の方法により被エッチング材をなす金属を還元除去し、続いて電解により塩化第一鉄を塩化第二鉄に酸化する再生方法が開示されている(特許文献3参照)。
【0010】
また、塩化第二鉄エッチング廃液の再生方法として、塩化第二鉄エッチング廃液に鉄粉を反応させ還元反応により塩化第一鉄を主成分とする溶液を得た後、加熱下で酸化性ガスと反応させ塩化第一鉄を塩化第二鉄へと酸化させ塩化第二鉄溶液を再生する方法が開示されている(特許文献4参照)。
【0011】
そして、インジウムイオンは塩化物イオンを含む溶液中で、塩化物イオン錯体を形成しマイナスの電荷を帯びるため、陰イオン交換樹脂に吸着され選択的な回収が可能であることが知られている(非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−75463号公報
【特許文献2】特開2005−325082号公報
【特許文献3】特開平11−36087号公報
【特許文献4】特開2000−264640号公報
【非特許文献1】Symposiumu on Ion Exchange and Chromatography in Analytical Chemistry、pp.27−57、ASTM(1957)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
塩化第二鉄液は、従来からおもに汚水処理の凝集沈殿剤として利用されてきた。汚水処理においては、汚濁物質を非水溶性の沈殿物として固液分離により除去する方法がとられる。2価の鉄イオンは水酸化第二鉄として沈殿する際に、他の金属水酸化物と一緒に沈殿するため、塩化第二鉄は汚水処理の凝集沈殿剤として利用されている。しかしながら、塩化第二鉄は粗大粒子の機械的強度が弱くサイズにも限界があるため、粗大粒子の機械的強度が強くサイズが大きい高分子凝集剤に置き換わりつつあり、凝集沈殿剤として必要とされている塩化第二鉄液の量は減少しつつある。したがって、インジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液の再利用方法としてのニーズは低くなることが予測される。
【0013】
また、現在、希少金属有効活用の観点から製造工程で排出されるインジウムおよび/または錫を含有するエッチング廃液から金属インジウムおよび/または金属錫を高収率で回収することが望まれている。また、製造工場において廃棄される液晶パネルや市場にて廃棄された情報表示装置や映像表示装置等を解体処理して排出される液晶パネル等の不要となった液晶パネルにもITO膜が含まれており、それらから金属インジウムおよび/または金属錫を回収することも望まれている。
【0014】
特許文献1の方法によると、鉄やニッケルといった金属資源を消費するのに加え、再生後の塩化第二鉄としての総量が増加してしまう。
【0015】
特許文献3の方法をインジウムおよび錫を含有する塩化鉄溶液に応用しても、インジウムと鉄の標準電極電位の差が小さいことからインジウムを高収率で回収することは不可能である。
【0016】
特許文献4の方法によると、鉄を消費するのに加え、再生後の塩化第二鉄の総量が増加する。また、酸化性ガスを使用するため大規模な設備を必要とし、この方法をインジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液に応用したとしてもインジウムを回収することはできない。
【0017】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は少ない労力とエネルギーを用いインジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液のインジウムおよび/または錫を高収率で回収するとともに塩化第二鉄溶液を再生することができるインジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液の再生処理方法および処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の再生処理方法はインジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液の再生処理方法であって、塩化鉄溶液中の塩化第二鉄を塩化第一鉄に還元して第1溶液を作製する還元工程と、第1溶液中のインジウムおよび/または錫を分離して第2溶液を作製する分離工程と、第2溶液中の塩化第一鉄を塩化第二鉄に酸化する酸化工程を含むことを特徴とする塩化鉄溶液の再生処理方法に関する。
【0019】
また、本発明の再生処理方法は、還元工程は、前記塩化鉄溶液中の塩化第二鉄を電気分解により塩化第一鉄に還元し、酸化工程は、第2溶液中の塩化第一鉄を電気分解により塩化第二鉄に酸化することが好ましい。
【0020】
また、本発明の再生処理方法は、分離工程は、第1溶液中のインジウムおよび/または錫を電気分解により還元することで析出させることが好ましく、析出させた前記インジウムおよび/または錫を回収する回収工程を含むことが好ましい。
【0021】
また、本発明の再生処理方法は、分離工程は、第1溶液中のインジウムおよび/または錫をイオン交換樹脂により吸着することで、第1溶液から分離することが好ましく、分離工程において、第1溶液中のインジウムおよび/または錫をイオン交換樹脂により吸着する前に第1溶液の塩化物イオン濃度を調整することが好ましく、第1溶液中の塩化物イオン濃度を1〜6mol/Lとすることでインジウムのみをイオン交換樹脂に吸着させることが好ましい。また、イオン交換樹脂に吸着したインジウムおよび/または錫を離脱させて回収する回収工程を含むことが好ましい。
【0022】
また、本発明の再生処理装置は、インジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液の再生処理装置であって、塩化鉄溶液中の塩化第二鉄を塩化第一鉄に還元した第1溶液を作製する還元手段と、第1溶液中のインジウムおよび/または錫を分離した第2溶液を作製する分離手段と、第2溶液中の塩化第一鉄を塩化第二鉄に酸化する酸化手段を備えた塩化鉄溶液の再生処理装置に関する。
【0023】
また、本発明の再生処理装置は、還元手段は、前記塩化鉄溶液を供給する第1電解槽の陰極室であり、分離手段は、前記第1溶液を供給する第2電解槽の陰極室であり、酸化手段は、第2溶液を供給する前記第1電解槽と前記第2電解槽の陽極室であることが好ましい。
【0024】
また、本発明の再生処理装置は、還元手段は、塩化鉄溶液を供給する電解槽の陰極室であり、分離手段は、第1溶液を通過させるイオン交換樹脂塔であり、酸化手段は第2溶液を供給する電解槽の陽極室であることが好ましい。
【0025】
また、本発明の再生処理装置は、イオン交換樹脂塔に水を供給する供給手段と、水を回収する回収槽を備えることが好ましい。
【0026】
また、塩化鉄溶液の再生処理方法において回収したインジウムおよび/または錫を液晶パネルの透明導電膜材料として再利用することが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の塩化鉄溶液の処理方法は、ほとんど廃棄物を発生せず資源を確実かつ効率的に塩化第二鉄を回収することができ、経済的に高純度でインジウムおよび/または錫を分離回収することができる。
【0028】
そして、廃棄物を出さないとともに燃料や還元剤等の資源を必要とせず、炭化物の形成もなく環境に対する負荷を低減することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
<インジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液>
本発明の塩化鉄溶液の再生処理方法および再生処理装置に適用可能なインジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液とは、たとえば、液晶パネルの製造工程においてITO膜のエッチング工程から排出されるエッチング廃液が挙げられる。また、製造工場において廃棄される液晶パネル、液晶表示装置の組立工場にて廃棄された液晶表示装置を分解処理して排出される液晶パネル、液晶を応用した製品の製造工場にて廃棄された製品を分解処理して排出される液晶パネル、および、市場にて廃棄された情報表示装置や映像表示装置等を解体処理して排出される液晶パネルから、塩化鉄溶液を用いてITO膜を溶出させ得られたインジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液が挙げられる。
【0030】
本発明のインジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液とは、塩化第二鉄、塩化第一鉄、インジウム化合物および/または錫化合物を含有している。その他の含有物としては、たとえば液晶パネルからITOを溶出した場合は、液晶パネルの電極材料等に用いられている金属成分などが挙げられるが、その含有量は非常に少ないので本発明の塩化鉄溶液の再生処理方法にとって問題とはならない。
【0031】
<塩化鉄溶液の再生処理方法>
図1は、本発明の塩化鉄溶液の再生処理方法の工程図である。インジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液は、塩化第一鉄、塩化第二鉄、インジウム化合物、たとえばInCl3および/または錫化合物、たとえばSnCl2を含有しており、インジウムおよび/または錫、鉄の各金属イオンを含んでいる。本再生処理方法においては、まず、電気分解によりインジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液中の塩化第二鉄を塩化第一鉄に還元した塩化第一鉄、インジウム化合物および/または錫化合物を含有する第1溶液を作製する(S1、塩化第一鉄の還元工程)。つぎに、第1溶液中のインジウムおよび/または錫を分離した塩化第一鉄を含有する第2溶液を作製する(S2、インジウムおよび/または錫の分離工程)。その後、第2溶液中の塩化第一鉄を塩化第二鉄に酸化し、再生した塩化第二鉄溶液を得る(S3、塩化第一鉄の酸化工程)。また、分離工程で分離したインジウムおよび/または錫を回収する工程を含んでもよい(S2α、回収工程)。
【0032】
以下、再生処理方法について具体的な実施の形態を説明する。
≪実施の形態1≫
以下、図2に示す再生処理装置を用いたインジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液の再生処理方法について図2に基づいて説明する。
【0033】
図2の再生処理装置は、第一電解槽21は酸化手段の陽極室21a、還元手段の陰極室21bが膜で区画されており、第二電解槽22は酸化手段の陽極室22a、分離手段の陰極室22bが膜で区画されている。この膜は、水を通さない隔膜が好ましく、たとえば、高導電率で水を通さない高分子膜を用いる。そして、陽極室21a、陽極室22bには陽極が設けられ、陰極室21bと陰極室22bには陰極が設けられている。陽極、陰極ともに、不溶性の材料を用いることができ、たとえば、白金コーティングをしたチタン板電極や白金焼成したチタンメッシュ電極を用いることができる。また、陰極室21bと陰極室22bはバルブ28を介して接続可能である。また、陰極室22bは、陽極室22a、陽極室21aとバルブ29を介して接続可能である。また、再生塩化鉄溶液回収槽26は、陽極室21a、陽極室22aとバルブ29を介して接続可能である。
【0034】
以下、インジウムおよび錫を含有する塩化鉄溶液を用いて各工程を説明するが、インジウムまたは錫を含有する塩化鉄溶液を用いることも可能である。
【0035】
(S1)還元工程
インジウムおよび錫を含有する塩化鉄溶液は金属イオンとして2価の鉄イオン、3価の鉄イオン、インジウムイオン、錫イオンを含んでいる。3価の鉄イオンは、上記の金属イオンの中で酸化還元電位が最も高く、還元されやすい性質を持つ。3価の鉄イオンの次に酸化還元電位が高いものは錫イオンであり、以下順にインジウムイオン、2価の鉄イオンとなる。本工程ではまず、電気分解による方法で3価の鉄イオンを一旦2価の鉄イオンに還元する。3価の鉄イオンを含有する塩化鉄溶液から直接電気分解によって、インジウムおよび錫イオンを分離することは容易でなく、効率的でないためである。
【0036】
まず、インジウムおよび錫を含有する塩化鉄溶液を第一電解槽21の陰極室21bに導入し、電圧を印加すると上記金属イオンのうち酸化還元電位の最も高い3価の鉄イオンが2価の鉄イオンへと還元される。このときの反応は次の(1)式にしたがって進行する。
【0037】
FeCl3 + e- → FeCl2 + Cl- ・・・ (1)
還元工程は3価の鉄イオンが実質的に2価の鉄イオンに還元されるまで行なう。この工程により、第1溶液が作製される。なお、第一電解槽21の陽極室21aに導入する液とその工程、および化学反応については後述する。
【0038】
(S2)分離工程
次に、インジウムおよび錫の分離工程において、第1溶液中に含まれているインジウムおよび錫イオンを分離除去する。分離の具体的方法としては、電気分解によりインジウムおよび錫イオンを還元し、金属インジウムおよび金属錫として析出除去する方法を用いる。
【0039】
電気分解による還元によりインジウムおよび錫を分離する方法としては、まず、バルブ28を開いて、陰極室21bで作製された第1溶液を第二電解槽22の陰極室22bに導入し電圧を印加する。このとき、第1溶液中、標準還元電位の高い錫イオンが還元され陰極表面に金属錫が析出する。このときの反応は、次の(2)式にしたがって進行する。
【0040】
Sn2+ + 2e- → Sn ・・・ (2)
このとき、錫イオンを実質的に金属錫に還元する。
【0041】
引き続き電圧を印加すると、錫イオンの次に酸化還元電位の高いインジウムイオンが還元され、陰極表面に金属インジウムが析出する。この時の反応は次の(3)式にしたがって進行する。
【0042】
In3+ + 3e- → In ・・・ (3)
還元処理はインジウムイオンが実質的に金属インジウムに還元されるまで行なう。
【0043】
(S2α)回収工程
析出した金属インジウムおよび金属錫は、陽極室22bの陰極から剥離し回収する。回収後インジウム、錫混合物としてそのままITOの原料として利用しても良い。また、金属インジウムと金属錫の混合物を160℃から200℃に加熱し、金属インジウムを融解、固液分離により金属錫と分離回収し、それぞれインジウム、錫として再利用しても良い。あるいは、金属インジウムおよび金属錫を再溶解し、pH調整による水酸化物法等によりインジウムと錫に分離してからそれぞれの金属を再利用しても良い。回収したインジウムおよび/または錫は、液晶パネルの透明導電膜材料として再利用することもできる。インジウムおよび錫を分離し作製された第2溶液は塩化第一鉄を含有している。第2溶液は、引き続き塩化第一鉄の酸化工程に利用する。
【0044】
(S3)酸化工程
塩化第一鉄の酸化工程においては、第2溶液の塩化第一鉄を塩化第二鉄に酸化する。酸化の具体的方法としては、電気分解による方法を用いる。陰極室22bで作製された第2溶液を、第一電解槽21の陽極室21aおよび第二電解槽22の陽極室22aにバルブ29を介して導入し、電圧を印加することにより、それぞれの陽極室で2価の鉄イオンを3価の鉄イオンへと酸化する。この時の反応は下記の(4)式にしたがって進行する。
【0045】
FeCl2 + Cl- → FeCl3 + e- ・・・ (4)
還元工程後の液は、主として塩化第二鉄を含み、バルブ29を介して再生塩化鉄溶液回収槽26に回収され、たとえばエッチング液として再利用することができる。
【0046】
上述のとおり、本発明の塩化鉄溶液の再生処理方法によると、廃棄物をほとんど出さない。
【0047】
≪実施の形態2≫
図3に示す再生処理装置を用いたインジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液の再生処理方法について図3に基づいて説明する。
【0048】
図3の再生処理装置は、電解槽31は酸化手段の陽極室31a、還元手段の陰極室31bが膜で区画されており、この膜は、水を通さない隔膜が好ましく、たとえば、高導電率で水を通さない高分子膜を用いる。そして、陽極室31a、には陽極が設けられ、陰極室31bには陰極が設けられている。陽極、陰極ともに、不溶性の材料を用いることができ、たとえば、白金コーティングをしたチタン板電極や白金焼成したチタンメッシュ電極を用いることができる。また、陰極室31bと塩酸供給装置32、分離手段としての陰イオン交換樹脂塔34はバルブ28を介して接続可能である。陰イオン交換樹脂塔34はバルブを介して、陽極室31aと接続可能である。また、水を供給する供給手段としての純水供給装置33はバルブ38、バルブ37を介して、陰イオン交換樹脂塔34、回収槽としてのインジウム・錫水溶液回収槽35と接続可能である。また、陽極室31aは、再生塩化鉄溶液回収槽36と接続可能である。
【0049】
以下、インジウムおよび錫を含有する塩化鉄溶液を用いて各工程を説明するが、インジウムまたは錫を含有する塩化鉄溶液を用いることも可能である。
【0050】
(S1)還元工程
インジウムおよび錫を含有する塩化鉄溶液、例えば、液晶パネルの製造工程においてITO膜のエッチング工程に用いられた後のエッチング廃液は金属イオンとして2価の鉄イオン、3価の鉄イオン、インジウムイオン、錫イオンを含んでいる。3価の鉄イオンは、1mol/L以上の塩化物イオンの存在下でクロロ鉄錯イオンを形成し、マイナスの電荷を帯びる性質を持つ。2価の鉄イオンは、8mol/L以上の塩化物イオンの存在下でクロロ鉄錯イオンを形成し、マイナスの電荷を帯びる性質をもつ。また、インジウムイオンや錫イオンは、1mol/L以上の塩化物イオンの存在下でそれぞれクロロインジウム錯イオン、クロロ錫錯イオンを形成し、マイナスの電荷を帯びる性質がある。したがってインジウムおよび錫を含有する塩化鉄溶液を酸性溶液中で塩化物イオンの存在下でイオン交換樹脂によって、インジウムおよび錫イオンのみを分離することは容易でなく、効率的ではない。そこで、3価の鉄イオンは一旦2価の鉄イオンに還元する。
【0051】
塩化第二鉄の還元工程において、塩化第二鉄を塩化第一鉄に還元する方法として、実施の形態1と同様の電気分解による方法を用いる。まず、インジウムおよび錫を含有する塩化鉄溶液を電解槽31の陰極室31bに導入し、電圧を印加すると上記金属イオンのうち酸化還元電位の最も高い3価の鉄イオンが2価の鉄イオンへと還元される。この時の反応は前述した(1)式と同様である。
【0052】
なお、還元工程によって第1溶液が作製される。電解槽31の陽極室31aに導入する液とその工程、および化学反応については後述する。
【0053】
(S2)分離工程
インジウムイオンおよび錫イオンは1mol/L以上の酸性溶液中で塩化物イオンの存在下で塩化物錯イオンを形成し、マイナスの電荷を帯びるため、塩酸酸性水溶液中でイオン交換樹脂、特に陰イオン交換樹脂さらに好ましくは、強塩基性の陰イオン交換樹脂と接触させた場合、イオン交換樹脂に吸着される。
【0054】
また、塩化物イオン濃度を1〜6mol/L、より好ましくは2〜4mol/Lに調製することによって特異的に第1溶液中のインジウムおよび錫を陰イオン交換樹脂に吸着させることが可能である。塩化物イオン濃度が1mol/Lより低い場合は、インジウムおよび錫は塩化物イオン錯体を形成せずイオン交換樹脂に吸着せず、6mol/Lより高い場合は、陰イオン交換樹脂塔34に吸着される塩化物イオンが多くなりインジウムおよび錫の吸着が阻害される。そして、塩化物イオン濃度が1〜6mol/Lのとき、インジウムおよび錫が陰イオン交換樹脂塔34に吸着される。
【0055】
そこで、まず、陰極室31bと塩酸供給装置32をバルブ37を介して接続し、塩酸と第1溶液とを接触させ、第1溶液の塩化物イオン濃度を調製した後に、バルブ37を介して陰イオン交換樹脂塔34を流速6L/(L−樹脂・h)(本単位は、1Lの樹脂中を通過する溶液の空間速度を示すものである)以下で通過させる。これにより、陰イオン交換樹脂塔34側にインジウムおよび錫が吸着され、分離することが可能である。ここで、陰イオン交換樹脂塔34とは、陰イオン交換樹脂が充填されたカラム等をさす。
【0056】
マイナスの電荷を帯びていない第1溶液中の2価の鉄イオンは、陰イオン交換樹脂塔34には吸着されずに通過する。
【0057】
(S2α)回収工程
つづいて、インジウムおよび錫を吸着した状態の陰イオン交換樹脂塔34にバルブ38を介して純水供給装置33から純水を流速6L/(L−樹脂・h)以下で接触させると、陰イオン交換樹脂とのイオン結合力が低下するため、インジウムおよび錫を陰イオン交換樹脂塔34から離脱することができ、インジウム・錫水溶液が得られる。このインジウム・錫水溶液は陰イオン交換樹脂塔34からバルブ37を介してインジウム・錫水溶液回収槽35に回収することによりインジウム、錫を選択的に回収することが可能となる。
【0058】
インジウム・錫水溶液回収槽35に回収されたインジウム・錫水溶液は、例えば、まず、pH2〜4程度に調製し、水酸化錫を沈殿させ固液分離し、次にpH4〜6に調整することにより水酸化インジウムを沈殿させ、固液分離し、硫化水素を吹き込む等の方法により還元し金属インジウムとして析出させ回収再利用することができる。
【0059】
そして陰イオン交換樹脂塔34を通過した後の液体を、塩化第一鉄を含有する第2溶液とする。
【0060】
(S3)酸化工程
塩化第一鉄の酸化工程においては、第2溶液の塩化第一鉄を塩化第二鉄に酸化する。酸化の具体的方法としては、実施の形態1と同様に電気分解による方法を用いる。第2溶液を、電解槽31の陽極室31aに導入し、電圧を印加することにより、2価の鉄イオンを3価の鉄イオンへと酸化する。この時の反応は上述した(3)式にしたがって進行する。
【0061】
塩化第一鉄の酸化工程においては、陽極材料として不溶性の材料を用いる。たとえば、白金コーティングをしたチタン板電極や白金焼成したチタンメッシュ電極を用いることができる。
【0062】
還元工程後の液は、主として塩化第二鉄を含み、バルブ39を介して再生塩化鉄溶液回収槽36に回収され、たとえばエッチング液として再利用することができる。
【0063】
上述のとおり、本発明の塩化鉄溶液の再生処理方法によると、廃棄物をほとんど出さない。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
表1に液晶パネルの製造工程においてITO膜のエッチング工程から排出されるエッチング廃液の定量分析結果の一例を示す
【0065】
【表1】

【0066】
表1に示したようにエッチング廃液中には388mg/Lのインジウムが含まれる。1トンのエッチング廃液中には388gのインジウムが含まれており、これは32型の液晶パネルに使用されているITOに換算すると、約1000台分に相当する量が含まれていることになる。
【0067】
以下図2に基づいて、上記エッチング廃液の再生処理方法について説明する。
(S1)還元工程
まず、インジウムおよび錫を含有する塩化鉄溶液であるエッチング廃液を第一電解槽21の表面積が1000cm2の白金コーティングをしたチタン板からなる陰極を備える陰極室21bに1L、導入し、100mA/cm2の電流密度で7.4時間、電気分解を行ない、3価の鉄イオンの還元が完了したことをイオンクロマトグラフィによる分析をすることによって確認した。3価の鉄イオンの還元が完了したものを第1溶液とした。
【0068】
ここで、第一電解槽21の陰極室21bと陽極室21aの間には、陰極室21b中の液と陽極室21a中の液が混ざらないよう水を通さない高分子膜、ネオセプタ(アストム社製)で仕切った。
【0069】
(S2)分離工程
次に、電気分解による還元によりインジウムおよび錫を分離する工程としては、まず、バルブ28を開いて、陰極室21bで作製された第1溶液を第二電解槽22の表面積が1000cm2の白金コーティングをしたチタン板からなる陰極を備える陰極室22bに1L、導入し、10mA/cm2の電流密度で84秒間、電気分解を行ない、錫イオンの還元が完了したことをICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析で、確認した。
【0070】
そして、引き続き電気分解を続行し、10mA/cm2の電流密度で電気分解を行なった場合、98秒経過すればインジウムイオンの還元が完了したことをICP発光分析で確認した。錫イオン、インジウムイオンの還元が完了したものを第2溶液とした。
【0071】
(S2α)回収工程
析出した金属インジウムおよび金属錫は、超音波洗浄することによって陰極から剥離し回収した。
【0072】
(S3)酸化工程
第2溶液は、第一電解槽21の陽極室21aおよび第二電解槽22の陽極室22aにバルブ29を介して陰極室22bから導入した。第一電解槽21の陽極室21aおよび第二電解槽22の陽極室22aはともに、1000cm2の白金コーティングをしたチタン板からなる陰極を備えたものとした。第一電解槽21の陽極室21aにおいては、電流密度100mA/cm2で7.4時間電気分解を行ない、第二電解槽22の陽極室22aにおいては電流密度10mA/cm2で74時間電気分解を行なったとき、第2溶液中の塩化第一鉄が塩化第二鉄と再生が完了したことをイオンクロマトグラフィによる分析をすることで確認した。
【0073】
(実施例2)
実施例1で上述した表1の成分のエッチング廃液について再生処理を行なった。以下図3に示す再生処理装置に基づいて説明する。
【0074】
(S1)還元工程
まず、実施例1と同様の条件で電解槽31の陰極室31bにおいて電気分解により第1溶液を作製した。
【0075】
(S2)分離工程
陰極室31bで作製された第1溶液は、バルブ37を介して塩酸供給装置32から供給する塩酸と接触させ、第1溶液の塩化物イオン濃度を2mol/Lとした。そして、第1溶液を流速6L/(L−樹脂・h)で陰イオン交換樹脂塔34を通過させた。陰イオン交換樹脂塔34を通過した液を第2溶液とした。
【0076】
(S2α)回収工程
つづいて、陰イオン交換樹脂塔34にバルブ38を介して純水供給装置33から純水を接触させるとインジウムおよび錫が陰イオン交換樹脂塔34から離脱することができ、インジウム・錫水溶液が得られた。このインジウム・錫水溶液は陰イオン交換樹脂塔34からバルブ37を介してインジウム・錫水溶液回収槽35に回収した。
【0077】
表2にインジウム・錫水溶液の組成を示す。
【0078】
【表2】

【0079】
インジウム・錫水溶液回収槽35に回収されたインジウム・錫水溶液は、pH3.5に調製し、水酸化錫を沈殿させ固液分離し、次にpH5.5に調整することにより水酸化インジウムを沈殿させ、固液分離し、硫化水素を吹き込む等の方法により還元し金属インジウムとして析出させ回収した。
【0080】
(S3)酸化工程
第2溶液を、電解槽31の白金コーティングをしたチタン板電極を備える陽極室31aに導入し、実施例1における第一電解槽21の陽極室21aと同じ条件で電気分解を行なった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
少ない労力とエネルギーを用いインジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液のインジウムを高収率で回収するとともに塩化第二鉄溶液を再生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施の一形態におけるインジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液の処理方法の概略工程図である。
【図2】本発明の処理方法におけるインジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液の処理装置の一形態の構成を示す概略図である。
【図3】本発明の処理方法におけるインジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液の処理装置の一形態の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0083】
21 第一電解槽、21a,22a,31a 陽極室、21b,22b,31b 陰極室、22 第二電解槽、26,36 再生塩化鉄溶液回収槽、28,29,37,38,39 バルブ、32 塩酸供給装置、33 純水供給装置、34 陰イオン交換樹脂塔、35 インジウム・錫水溶液回収槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液の再生処理方法であって、
前記塩化鉄溶液中の塩化第二鉄を塩化第一鉄に還元して第1溶液を作製する還元工程と、
前記第1溶液中のインジウムおよび/または錫を分離して第2溶液を作製する分離工程と、
前記第2溶液中の塩化第一鉄を塩化第二鉄に酸化する酸化工程、
を含むことを特徴とする前記塩化鉄溶液の再生処理方法。
【請求項2】
前記還元工程は、前記塩化鉄溶液中の塩化第二鉄を電気分解により塩化第一鉄に還元し、
前記酸化工程は、前記第2溶液中の塩化第一鉄を電気分解により塩化第二鉄に酸化することを特徴とする請求項1に記載の塩化鉄溶液の再生処理方法。
【請求項3】
前記分離工程は、前記第1溶液中のインジウムおよび/または錫を電気分解により還元することで析出させることを特徴とする請求項1または2に記載の塩化鉄溶液の再生処理方法。
【請求項4】
析出させた前記インジウムおよび/または錫を回収する回収工程を含むことを特徴とする請求項3に記載の塩化鉄溶液の再生処理方法。
【請求項5】
前記分離工程は、前記第1溶液中のインジウムおよび/または錫をイオン交換樹脂により吸着することで、前記第1溶液から分離することを特徴とする請求項1または2に記載の塩化鉄溶液の再生処理方法。
【請求項6】
前記分離工程において、前記第1溶液中のインジウムおよび/または錫をイオン交換樹脂により吸着する前に前記第1溶液の塩化物イオン濃度を調整することを特徴とする請求項5に記載の塩化鉄溶液の再生処理方法。
【請求項7】
前記第1溶液中の塩化物イオン濃度を1〜6mol/Lとすることでインジウムおよび/または錫を前記イオン交換樹脂に吸着させることを特徴とする請求項6に記載の塩化鉄溶液の再生処理方法。
【請求項8】
前記イオン交換樹脂に吸着したインジウムおよび/または錫を離脱させて回収する回収工程を含むことを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の塩化鉄溶液の再生処理方法。
【請求項9】
インジウムおよび/または錫を含有する塩化鉄溶液の再生処理装置であって、
前記塩化鉄溶液中の塩化第二鉄を塩化第一鉄に還元した第1溶液を作製する還元手段と、
前記第1溶液中のインジウムおよび/または錫を分離した第2溶液を作製する分離手段と、
前記第2溶液中の塩化第一鉄を塩化第二鉄に酸化する酸化手段、
を備えることを特徴とする塩化鉄溶液の再生処理装置。
【請求項10】
前記還元手段は、前記塩化鉄溶液を供給する第1電解槽の陰極室であり、
前記分離手段は、前記第1溶液を供給する第2電解槽の陰極室であり、
前記酸化手段は、前記第2溶液を供給する前記第1電解槽と前記第2電解槽の陽極室、
であることを特徴とする請求項9に記載の塩化鉄溶液の再生処理装置。
【請求項11】
前記還元手段は、前記塩化鉄溶液を供給する電解槽の陰極室であり、
前記分離手段は、前記第1溶液を通過させるイオン交換樹脂塔であり、
前記酸化手段は、前記第2溶液を供給する前記電解槽の陽極室、
であることを特徴とする請求項9に記載の塩化鉄溶液の再生処理装置。
【請求項12】
前記イオン交換樹脂塔に水を供給する供給手段と、
前記水を回収する回収槽、
を備えたことを特徴とする請求項11に記載の塩化鉄溶液の再生処理装置。
【請求項13】
前記塩化鉄溶液の再生処理方法において回収したインジウムおよび/または錫を液晶パネルの透明導電膜材料として再利用することを特徴とする請求項1または2に記載の塩化鉄溶液の再生処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−332006(P2007−332006A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−168584(P2006−168584)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】