説明

インジウム回収方法

【課題】少なくともインジウムと第二鉄イオンを含有する溶液から、効率良く高純度のインジウムを回収する方法を提供することにある。
【解決手段】第二鉄イオンを第一鉄イオンに還元する工程と、得られた溶液をインジウムに対するキレート基を有する磁気ビーズに接触させる工程と、インジウムを吸着した磁気ビーズを磁気分離する工程と、脱着液を用いて磁気ビーズからインジウムを脱着する工程を含むことを特徴とするインジウム回収方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともインジウムと第二鉄イオンを含有する溶液から、効率良くインジウムを回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
普及が進む液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイには、透明電極としてITO(インジウム・錫・酸化物)材やインジウム・亜鉛・酸化物材が多く用いられている。
【0003】
しかしながら、ここで用いられているインジウムは産出量が少なく、また産出地域に偏りがある希少な金属であることに加えて、近年のフラットパネルディスプレイの普及・大型化に伴い、価格が急騰している。そのため、フラットパネルディスプレイの製造工程から排出されるインジウム含有排水や、使用済みのITO電極やインジウム・亜鉛・酸化物電極から、インジウムを回収・再利用することが試みられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、液晶ディスプレイからインジウムを回収する方法として、液晶ディスプレイを破砕し、破砕物を1〜7%のシュウ酸水溶液に浸漬することによって、液晶ディスプレイ中のITOを溶解させ、次いで疎水性の有機溶媒と接触させ、液晶を有機溶媒相に溶解させて分離した後、インジウムを含有する液を強塩基性陰イオン交換樹脂に接触させて、インジウムをイオン交換樹脂に吸着させることにより、インジウムを分離・回収する方法が明らかにされている。
【0005】
また、特許文献2には、フラットパネルディスプレイを裁断もしくは粉砕し、次いで塩酸を主成分とする酸にその裁断/粉砕物中のITOを溶出させ、不溶物をろ過した後、ITOを含有する酸溶液を、4級アンモニウム基及び3級アンモニウム基のうちの少なくともいずれか一方を有する陰イオン交換樹脂を充填したカラムに通して、インジウムをイオン交換樹脂に吸着させることにより、インジウムを分離・回収する方法が示されている。
【0006】
一方、そのような最終製品であるフラットパネルディスプレイからではなく、フラットパネルディスプレイの製造工程で消費されるインジウムを回収・再利用しようとする技術も、種々開発されて来ている。
【0007】
具体的には、ITO電極やインジウム・亜鉛・酸化物電極の製造工程の一つであるエッチング工程の際に発生するエッチング廃液からインジウムを回収する方法として、特許文献3には、インジウム成分を含有するシュウ酸エッチング廃液を、交換基として4級アンモニウム基を有する強塩基性陰イオン交換樹脂に接触させてインジウム成分を吸着させる工程と、そのインジウム成分を吸着させた強塩基性陰イオン交換樹脂を酸性水溶液に接触させ、インジウム成分を酸性水溶液に移行させることにより回収する工程とを有する、シュウ酸エッチング廃液からのインジウム成分の回収方法が、明らかにされている。また、特許文献4には、シュウ酸エッチング廃液を、イオン交換基として4級アンモニウム基を有する強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させることにより、インジウムを強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させ、高純度シュウ酸水溶液を回収する一方、その吸着が飽和状態となった強塩基性陰イオン交換樹脂を焼成して、インジウムを分離することからなる、シュウ酸エッチング廃液からのインジウムの回収方法が、明らかにされている。
【0008】
フラットパネルディスプレイの製造工程で消費されるインジウムを回収・再利用しようとするための別の技術としては、スパッタリング工程での使用済みITOターゲットからのインジウム回収がある。特許文献5では、使用済みITOターゲットを酸に溶解し、第三級アミノ基を持つ陰イオン交換樹脂を用いてインジウムを回収する方法が提案されている。
【0009】
陰イオン交換樹脂の替わりにキレート樹脂を用いる回収方法も提案されている。例えば、特許文献6では、塩化第二鉄エッチング廃液からポリアミン基またはN−メチルグルカミン基を有するキレート樹脂を用いてインジウムを回収する方法が提案されている。また、特許文献7では、シュウ酸エッチング廃液からポリアミン基またはアミドオキシム基を有するキレート樹脂を用いてインジウムを回収する方法が提案されている。
【0010】
しかしながら、上述したようなイオン交換樹脂やキレート樹脂を用いたインジウムの回収方法は、いずれもインジウムの回収率が充分ではなく、改善の余地が大きいものであった。また、インジウムを含む液をこれらの樹脂を充填した吸着塔で処理するにあたっては、通液時間を短くするためには大量の樹脂を用いる必要があり、使用する樹脂量を少なく保つためには通液時間を長く取る必要があるというジレンマがある。例えば、特許文献1の実施例1では、インジウム濃度274ppmの液100mlを約30分で処理するために、処理液量の30%にも相当する30mlのイオン交換樹脂を用いている。一方、特許文献5の実施例1では、インジウム濃度296ppmの液500mlをイオン交換樹脂40mlで処理するために、通液に約5.6時間をかけている。イオン交換樹脂やキレート樹脂を用いて、インジウムを含有する大量の廃液を処理しようとすると、大量の樹脂を用いるか処理に膨大な時間をかける必要があり、実現性に乏しいのが実情である。さらに、インジウムを含む溶液には、塩化第二鉄エッチング廃液に限らず、しばしば多量の鉄が第二鉄イオンとして溶解していることが多い。インジウムを純度良く回収するためには、第二鉄イオンの混入を防ぐことが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−70534号公報
【特許文献2】国際公開第06/006497号パンフレット
【特許文献3】特開2008−13795号公報
【特許文献4】特開2005−325082号公報
【特許文献5】特開2004−131355号公報
【特許文献6】特開2008−100851号公報
【特許文献7】特開2010−53369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、少なくともインジウムと第二鉄イオンを含有する溶液から、効率良く高純度のインジウムを回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を鋭意研究し、少なくともインジウムと第二鉄イオンを含む溶液からインジウムを回収する方法であって、第二鉄イオンを第一鉄イオンに還元する工程と、得られた溶液をインジウムに対するキレート基を有する磁気ビーズに接触させる工程と、インジウムを吸着した磁気ビーズを磁気分離する工程と、脱着液を用いて磁気ビーズからインジウムを脱着する工程を含むことを特徴とするインジウム回収方法が、前記課題の解決に極めて有効なことを見いだして、本発明に到達した。さらに、磁気ビーズに接触させる溶液のpHを1.5〜2.5とすること、またインジウムに対するキレート基がイミノジ酢酸基であることが好ましいことを見いだした。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、キレート基を有する磁気ビーズをインジウム含有溶液に分散させたのち、磁気分離により回収する。キレート基を有する磁気ビーズは速やかにインジウムを吸着することができるので、イオン交換樹脂塔やキレート樹脂塔を用いる従来法に比べて、極めて短時間かつ簡単な操作によりインジウムを溶液から分離回収することが可能になる。本発明においてはさらに、このインジウムの吸着において妨害要因となる第二鉄イオンを予め第一鉄イオンに還元しておくので、高純度のインジウムが収率良く回収できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明が対象とする、少なくともインジウムと第二鉄イオンを含む溶液の出自について、特に制限はない。例えば、フラットパネルディスプレイを裁断もしくは粉砕し、塩酸を主成分とする酸を用いて、含有されるITOを溶出させた溶液を挙げることができる。またITO電極やインジウム・亜鉛・酸化物電極の製造工程の一つであるエッチング工程の際に発生するエッチング廃液であってもよい。あるいは、亜鉛鉱石から亜鉛を精製する工程において発生する溶液であってもよい。溶液中のインジウムの濃度について特に制限はないが、50〜4,500ppmの範囲が好ましく、150〜1,500ppmの範囲がより好ましい。インジウムの濃度がこの範囲よりも低いと、回収されるインジウムの純度が低下することがあり、インジウムの濃度がこの範囲よりも高いとインジウムの回収率が下がることがある。溶液中の第二鉄イオンの濃度についても特に制限はないが、10,000ppm未満が好ましい。第二鉄イオンの濃度がこの濃度よりも高いと、回収されるインジウムの純度が低下することがある。また、本発明が対象とする溶液には、インジウムと第二鉄イオン以外に、ニッケル、クロム、モリブデン、スズ、亜鉛、銅等の重金属イオンやナトリウムイオン、カリウムイオン、アルミニウムイオン等が含まれていても良い。
【0016】
本発明において、第二鉄イオンを第一鉄イオンに還元する方法について特に制限はないが、インジウムと第二鉄イオンを含む溶液に還元剤を投入して攪拌する方法が、操作性の点から好ましい。還元剤としては、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウムなどの低級酸素酸塩、二酸化イオウ、硫化水素、硫化カリウム、硫化ナトリウム、硫化アンモニウム、硫化水素アンモニウム、チオ硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイトナトリウムなどのイオウ化合物、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、パラホルムアルデヒドなどのアルデヒド類、ギ酸、アスコルビン酸などの有機化合物、アルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、亜鉛などの電気的陽性の大きい金属が挙げられる。これらの中では、チオ硫酸ナトリウムやハイドロサルファイトナトリウムが、取り扱いが容易であると同時に活性が高いので好ましい。還元剤の種類、量、還元に必要な時間は、対象とする溶液の組成などによって異なるので、予備実験によって設定する必要がある。
【0017】
インジウムを含む溶液と磁気ビーズを接触させる際の溶液のpHは、1.5〜2.5とすることが好ましい。pHが1.5を下回ると、インジウムの回収率が低下することがある。pHが2.5を上回ると、還元された第一鉄イオンによる妨害が起きて回収されるインジウムの純度が低下することがある。磁気ビーズの添加量は、溶液に含まれるインジウムに対して、磁気ビーズのキレート基が等量〜500倍量とすることが好ましい。等量未満ではインジウムの回収率が低下することがある。500倍量を超えた場合には、磁気ビーズからのインジウム脱着に多量の脱着液が必要となることがあり好ましくない。インジウムを含む溶液と磁気ビーズを接触させる温度については特に制限がないが、通常5〜70℃である。
【0018】
インジウムを含む溶液と磁気ビーズの接触方法としては、溶液に磁気ビーズを投入して攪拌するバッチ処理が、簡便な装置で実施できるので好ましい。攪拌方法としては、攪拌羽根で攪拌する方法、エアレーションなど曝気による方法、電磁石制御により磁性体粒子を攪拌する方法などを例示することができる。インジウムを含む溶液と磁気ビーズの接触時間は10分〜2時間が好ましい。接触時間が10分より短いとインジウムの吸着が不十分となることがある。2時間より長く接触させても、吸着がすでに平衡に達しているため作業効率上好ましくない上に、磁気ビーズの機械的な強度に悪影響を与えることがある。
【0019】
インジウムを吸着した磁気ビーズは、永久磁石、電磁石、超電導磁石によって短時間に集磁され、インジウムが除かれた溶液から分離される。ここで必要に応じて、インジウムを吸着した磁気ビーズに水洗処理を施しても良い。用いられる磁気分離機に関して特に制限はない。磁気ビーズに吸着されたインジウムは、脱着液に投入されることにより磁気ビーズから脱着され、回収される。脱着液としては、硝酸、塩酸、硫酸等の酸や、硫化ナトリウム溶液を挙げることができる。脱着を終えた磁気ビーズは、水洗され、さらに必要に応じて水酸化ナトリウムや水酸化カリウムの水溶液、あるいは硝酸、塩酸、硫酸等の酸と接触させることにより再生され、インジウム回収のために再使用される。
【0020】
本発明で用いられる磁気ビーズは、好ましくは、ストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトを含有してなる疎水性樹脂粒子を活性基含有モノマーの重合膜で被覆することにより得られた粒子、あるいは、ストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトを活性基含有モノマーの重合膜で被覆することにより得られた粒子に、インジウムに対するキレート基を有する化合物を反応させることによって製造される。
【0021】
疎水性樹脂粒子は、ストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトを、重合開始剤を溶解した疎水性モノマーに分散させ、このモノマーを分散剤含有の水の中に油滴として分散させた分散系で重合を進行させる懸濁重合法によって製造する方法が、特殊な装置を必要とせず、水を主体とする溶媒中で実施できるので有利である。疎水性樹脂粒子を活性基含有モノマーの重合膜で被覆する方法、あるいは、ストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトを活性基含有モノマーの重合膜で被覆する方法としても、懸濁重合法を用いるのが、同様の理由により有利である。本発明で用いられる磁気ビーズの粒子径は、レーザー回折・散乱法による累積50%の平均粒子径をD50とするとき、D50が80〜500μmのものが好ましい。D50が80μmを下回る場合には、吸脱着操作を繰り返すとインジウムの吸着能力が悪化することがある。一方、D50が500μmを超える場合には、磁気ビーズの単位質量あたりのインジウム吸着能力が小さくなってくることがある。
【0022】
本発明で用いられる磁気ビーズの製造に際して使用される分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム等を挙げることができる。分散に用いる攪拌方法としては、ホモミキサーのような乳化機を用いる方法、攪拌翼による攪拌を用いる方法等が挙げられる。これらの中では、攪拌翼による攪拌を用いる方法がよい。攪拌翼としては例えば、ファンタービン翼、ファウドラー翼、パドル翼、タービン翼等を挙げることができる。攪拌翼の回転速度は、反応液量や翼の大きさ等に合わせて、目的とする平均粒子径が得られるように設定すればよく、また、その回転方向や回転速度を変化させてもよい。
【0023】
ストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトの粒径は0.1〜2μmが好ましい。0.1μm未満では、取り扱いに困難が生じることがあり、2μmを超えると、分散性が低下してくる場合がある。
【0024】
ストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトを疎水性樹脂粒子中に含める場合の配合量は、10〜70質量%が好ましい。10質量%未満では磁気に対する感応性が小さくなる場合があり、70質量%を超えると、次の懸濁重合工程に悪影響が出る場合がある。
【0025】
ストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトを活性基含有モノマーの重合膜で被覆する場合の配合量は、5〜60質量%が好ましい。5質量%未満では磁気に対する感応性が小さくなる場合があり、60質量%を超えると被覆が不十分となる場合がある。
【0026】
ストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトから疎水性樹脂粒子を製造する際、あるいは、ストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトを活性基含有モノマーの重合膜で被覆する場合には、ストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトがモノマーに良好に分散することが好ましい。そのため、これらストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトの表面は親油化処理されていることが好ましい。親油化処理の方法としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤などの表面処理剤により処理する方法、脂肪酸塩などを吸着させる方法などがあるが、特に限定されるものではない。
【0027】
ここで、疎水性樹脂とは、疎水性モノマーが51質量%以上含まれる組成物が重合された樹脂をいう。疎水性モノマーとは、25℃におけるイオン交換水に対する溶解度が1質量%未満のモノマーである。疎水性モノマーの具体例としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン及びクロロメチルスチレンなどのスチレン系モノマー、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、デシルアクリレート及びドデシルアクリレートなどのアクリル酸エステル類、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、デシルメタクリレートなどのメタクリル酸エステル類などが挙げられる。上記の疎水性モノマーは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明における検討によれば、最終的に得られる磁気ビーズの耐酸性が高くなることから、疎水性モノマーとしてはスチレンが含まれていることが好ましい。
【0028】
疎水性樹脂粒子の機械的強度向上のため、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート等の多官能性モノマーを併用してもよい。
【0029】
疎水性樹脂粒子は、ストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトを、重合開始剤を溶解した疎水性モノマーに分散させ、このモノマーを分散剤含有の水の中に油滴として分散させた分散系で重合を進行させる懸濁重合法により得られる。重合開始剤は水不溶または難溶のものが好ましい。具体的には例えば、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2−メチルプロパンニトリル)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルペンタンニトリル)、2,2′−アゾビス(2−メチルブタンニトリル)、1,1′−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)等のアゾ系開始剤や、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロペルオキシド、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、t−ブチルペルオクテート、α−クミルペルオキシピバレート等の過酸化物系開始剤が挙げられる。また、重合を進める温度は使用する重合開始剤の種類により定めればよい。例えば、2,2′−アゾビスイソブチロニトリルや過酸化ベンゾイル等では60℃以上の温度が適合する。
【0030】
ストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトを含む疎水性樹脂粒子は、次いで活性基を有するモノマーの重合膜で被覆される。活性基とは、金属に対するキレート基を導入するための基であり、具体的にはエポキシ基、ビニル基、カルボキシル基、エステル基、ヒドロキシル基、アミノ基、ハロゲン原子などを挙げることができる。これらの活性基の中では、金属に対するキレート基を有する化合物との反応性に優れるとともに、活性基自体の安定性が比較的良好であるエポキシ基が好ましい。
【0031】
活性基を有するモノマーの具体例としては、エポキシ基含有化合物としてはグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等、ビニル基含有化合物としてはジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート等、カルボキシル基含有化合物としてはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等、エステル基含有化合物としてはメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート等、ヒドロキシル基含有化合物としては2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリセロールアクリレート、グリセロールメタクリレート等、アミノ基含有化合物としてはアミノメチルアクリレート、アミノメチルメタクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノエチルメタクリレート、ビニルピリジン等、ハロゲン原子含有化合物としてはクロロメチルスチレン等を挙げることができる。これら活性基を有するモノマーは単独で用いてもよいが、2種以上組み合わせて用いても良い。本発明者における検討によれば、活性基を有するモノマーとしてはグリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレートが好ましい。また架橋剤として、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート等の多官能性モノマーを併用してもよい。
【0032】
活性基を有するモノマーの重合膜により、ストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトを含む疎水性樹脂粒子を被覆する方法としては、活性基を有するモノマーに重合開始剤を溶解させ、ここに疎水性樹脂粒子を分散させたものを、分散剤含有の水の中に油滴として分散させた分散系で重合を進行させる懸濁重合法によって製造する方法が好ましい。活性基含有モノマーの重合膜の厚みは、疎水性樹脂粒子に対するモノマーの仕込み比率によって制御され、質量比で疎水性樹脂粒子1質量部に対してモノマーを0.5〜10質量部の範囲とすることが好ましい。0.5質量部未満では、重合膜が薄くなり、機械的な強度が不足して磁気ビーズから重合膜が剥がれてくる場合がある。10質量部を超えると、磁気に対する感応性が小さくなる場合がある。また、ストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトを活性基含有モノマーの重合膜で被覆する方法としては、活性基を有するモノマーに重合開始剤を溶解させ、ここにストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトを分散させたものを、分散剤含有の水の中に油滴として分散させた分散系で重合を進行させる懸濁重合法によって製造する方法が好ましい。
【0033】
重合開始剤としては、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2−メチルプロパンニトリル)、2,2′−アゾビス−(2,4−ジメチルペンタンニトリル)、2,2′−アゾビス−(2−メチルブタンニトリル)、1,1′−アゾビス−(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2′−アゾビス−(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、アゾビスシアノバレリアン酸、アゾビスシアノペンタン酸等のアゾ系開始剤や、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロペルオキシド、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、t−ブチルペルオクテート、α−クミルペルオキシピバレート、過酸化水素等の過酸化物系開始剤が挙げられる。また、重合を進める温度は使用する重合開始剤の種類により定めればよい。例えば、2,2′−アゾビスイソブチロニトリルや過酸化ベンゾイル等では60℃以上の温度が適合する。
【0034】
インジウムに対するキレート基を有する化合物の具体例としては、イミノジ酢酸、アミノメチルホスホン酸、ニトリロトリ酢酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、1,3−プロパンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、イミノジエタノール、チオリンゴ酸等を挙げることができる。また、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン等の多価アミン類、フェニルアラニン、リジン、ロイシン、バリン、プロリン等のアミノ酸類、グルカミン、N−メチルグルカミン等の糖類等を挙げることができる。これらの中でイミノジ酢酸が、インジウムに対する高い吸着性と選択性を有することから好ましい。
【0035】
インジウムに対するキレート基を有する化合物と活性基との反応を行わせる条件について、特に制限はなく、それらの組み合わせに応じて必要な反応条件を用いればよい。例えば、イミノジ酢酸、ジエチレントリアミン、N−メチルグルカミンのようなアミノ基を有する化合物の場合、エポキシ基、エステル基、ハロゲン原子等に対しては、必要に応じて、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等の塩基を併用して加熱することにより導入することができる。反応溶媒としては、水が好ましく、必要に応じてメタノールやエタノール等のアルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の助溶媒を併用することができる。磁気ビーズに導入されるキレート基の量は、磁気ビーズ1gあたり0.5mmol〜2.5mmolとすることが好ましい。0.5mmol未満では吸着処理に多量の磁気ビーズが必要になることがある。2.5mmolを超えるキレート基を導入するためには、活性基を有するモノマーを大量に使用する必要があり、磁気に対する感応性が小さくなる場合がある。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものでない。なお、実施例中の百分率は、特にことわりのない場合、質量基準である。
【0037】
<磁気ビーズ1の合成>
表面疎水化処理したバリウムフェライト(4g)、グリシジルメタクリレート8.8g、エチレングリコールジメタクリレート(0.2g)、過酸化ベンゾイル0.1gの混合物を、1%ポリビニルアルコール(ケン化度98%、重合度1700)水溶液180gに添加し、ファンタービン翼を取り付けたスリーワンモーターを用いて、350rpm×3分間の分散を行った。このものをフラスコに移し、窒素気流下にて80℃、3時間加熱攪拌した。生成物は、水洗後、磁石により集めて乾燥した。このうちの1.0gをイミノジ酢酸ナトリウム2.0g、エタノール8.6ml、水18mlとともに4時間還流した。生成物は水50mlで希釈し、反応容器の底に磁石を当てた状態で上澄みをデカンテーションによって除去した。水50mlを加えてはデカンテーションを行う操作をさらに2回繰り返し、最後に磁石を当てて容器内に残った成分を濾取して、磁気ビーズ1を得た。収量は1.2g、D50は125μmであった。磁気ビーズ1の0.1gを、硝酸インジウムより調製し、pHを2としたインジウム500ppm溶液50mlに加えて攪拌した。1時間後、溶液側に残留したインジウムの濃度をICP−AESを用いて測定することにより磁気ビーズ1のインジウム吸着能力を求めたところ、0.8mmol/gであった。
【0038】
<磁気ビーズ2の合成>
イミノジ酢酸ナトリウム2.0gの替わりにテトラエチレンペンタミン1.4gを用いる他は、磁気ビーズ1の合成と同様に操作して、磁気ビーズ2を1.15g得た。磁気ビーズ1と同様にしてこのもののインジウム吸着能力を求めたところ、0.4mmol/gであった。
【0039】
実施例1
硝酸インジウム3水和物0.62g、塩化第二鉄6水和物4.35g、硫酸カリウムアルミニウム12水和物10.95gを蒸留水に溶かして全量を1リットルとした。チオ硫酸ナトリウム2.98gを粉のまま1回で投入し、20分攪拌後に硫酸を用いてpHを1.5に調整した。100倍に希釈したこの液をICP−AESで測定した結果、もとの液組成はインジウム195ppm、鉄898ppm、アルミニウム623ppmであることがわかった。この液50mlに磁気ビーズ1を0.5g加え、室温にて30分攪拌した。容器の底に磁石を当てた状態で、水相をデカンテーションによって除去し、さらに蒸留水25mlを加えて軽くすすいだ後に同様にして水相を廃棄する操作を2回行った。残留した磁気ビーズに2規定硫酸を50ml加えて10分攪拌後、水相の一部を100倍に希釈してその組成をICP−AESにより求めた。結果を表1に示す。
【0040】
実施例2
pHを2.0に調整する他は実施例1と同様に操作した。結果を表1に示す。
【0041】
実施例3
pHを2.5に調整する他は実施例1と同様に操作した。結果を表1に示す。
【0042】
実施例4
チオ硫酸ナトリウム2.98gの替わりにハイドロサルファイトナトリウム3.28gを用いる他は実施例2と同様に操作した。結果を表1に示す。
【0043】
実施例5
チオ硫酸ナトリウム2.98gの替わりにアスコルビン酸3.32gを用いる他は実施例2と同様に操作した。結果を表1に示す。
【0044】
実施例6
磁気ビーズ1(0.5g)の替わりに磁気ビーズ2(1g)を用いる他は実施例2と同様に操作した。結果を表1に示す。
【0045】
比較例1
チオ硫酸ナトリウムを加えない点を除いては、実施例2と同様に操作した。結果を表1に示す。
【0046】
実施例7
pHを1.3に調整する他は実施例1と同様に操作した。結果を表1に示す。
【0047】
実施例8
pHを2.7に調整する他は実施例1と同様に操作した。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例1〜8の結果から、本発明によれば第二鉄イオンを大量に含有する溶液から、簡単な操作により短時間にインジウムを回収できることがわかる。回収されたインジウムは高純度であり、回収率も高い。実施例2と比較例1の結果から、高純度高回収率を実現するためには還元操作が必須であること、実施例1〜3と実施例7〜8の結果から、磁気ビーズに接触させる溶液のpHは1.5〜2.5にすることが好ましいこと、実施例2と実施例6の結果から、キレート基としてはイミノジ酢酸基が好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、少なくともインジウムと第二鉄イオンを含有する溶液から、簡単な操作により短時間にインジウムを回収することができる。バッチ処理であることから、液量が大量になったとしても、インジウムを含む液と磁気ビーズの接触時間は所定の短い時間に保つことができる。処理液と磁気ビーズの分離も、磁気分離機を用いることにより容易に行うことができる。インジウムに対する磁気ビーズの使用量は、インジウムに対する磁気ビーズ平衡吸着量で定められる量を用いれば充分であるため、通液型のイオン交換樹脂やキレート樹脂よりもはるかに少ない量で済む。回収率は高く、また回収されたインジウムは高純度である。希少金属であるインジウムはさまざまな組成の溶液に溶けて流出しており、本発明はインジウムの回収を工業的に実施する際に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともインジウムと第二鉄イオンを含む溶液からインジウムを回収する方法であって、第二鉄イオンを第一鉄イオンに還元する工程と、得られた溶液をインジウムに対するキレート基を有する磁気ビーズに接触させる工程と、インジウムを吸着した磁気ビーズを磁気分離する工程と、脱着液を用いて磁気ビーズからインジウムを脱着する工程を含むことを特徴とするインジウム回収方法。
【請求項2】
磁気ビーズに接触させる溶液のpHを1.5〜2.5とする請求項1記載のインジウム回収方法。
【請求項3】
インジウムに対するキレート基がイミノジ酢酸基である請求項1記載のインジウム回収方法。

【公開番号】特開2012−180581(P2012−180581A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45884(P2011−45884)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】