説明

インジェクタの噴孔穿設方法

【課題】噴孔の加工精度を確保し、排気ガス性状のばらつきを低減することを可能とした群噴孔を有するインジェクタにおける噴孔の加工方法を提供する。
【解決手段】インジェクタ1の軸線と、インジェクタ1に穿設される噴孔10aの軸線との交点が複数存在するいわゆる群噴孔10を有するインジェクタ1の噴孔穿設方法において、噴孔10aの穿設部に、噴孔10aと直交しつつ、噴孔10aの開口部を含む平面部10c・10dを形成する。
また、前記穿設部に凹部10bを形成し、平面部10cを、凹部10bの底部に形成し、または、前記穿設部を切削して平面部10c・10dを形成し、あるいは、前記穿設部を鍛造して平面部10c・10dを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コモンレール式燃料噴射装置を有するエンジンのインジェクタの技術に関し、より詳しくは、いわゆる群噴孔を有するインジェクタにおける噴孔の穿設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ディーゼルエンジンに備えられるコモンレール式の燃料噴射装置は周知となっており、前記コモンレールより供給される燃料を噴射するインジェクタの具体的構造についても周知となっている。
また、インジェクタの軸線と、該インジェクタのノズルボディに穿設される噴孔の軸線との交点が複数存在する、いわゆる群噴孔を有するインジェクタは公知となっている。
この群噴孔を有するインジェクタは、同じ噴霧量の群噴孔を有しないインジェクタと比べて、噴孔径を小さくすることができる。このため、群噴孔を有するインジェクタを採用すれば、群噴孔を有しないインジェクタと比べて噴霧燃料が微粒化されて広範囲に拡散し、この効果により、着火性が改善し、エンジンが冷えている場合や、低セタン価燃料を使用した場合であっても、燃焼騒音の少ない良好な燃焼状態を確保できることが知られている。また、群噴孔を有するインジェクタを採用することにより、排気ガス中に含まれる全炭化水素(THC)や粒子状物質(PM)を低減することができるため、排気ガス清浄化の手段としても有効であることが知られている。
例えば、特許文献1にその技術が開示されている。
【特許文献1】特開2006−70802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、群噴孔を有するインジェクタでは、噴孔の穿設位置や、各噴孔の相対位置および相対角度または円周方向へのねじれ等の加工ばらつきが、排気ガス性状に直接影響を及ぼすことが実験結果等から判明している。
そこで、群噴孔を有するインジェクタでは、噴孔の穿設位置や、各噴孔の相対位置および相対角度または円周方向へのねじれ等の加工ばらつきを抑えた高い加工精度を確保することが要求されるが、従来、略球面の曲面上に放電加工により噴孔を穿設しているため、実際の生産行程においては、規定された形状公差を満足し、加工精度を確保することが難しく、そのため、噴霧燃料の分配均等性が低下し、排気ガス性状のばらつきを生じさせていた。そして、このような問題から、群噴孔を有するインジェクタを実用化することが困難であった。
そこで本発明では、このような現状を鑑み、実際の生産行程において、噴孔の加工精度を確保し、排気ガス性状のばらつきを低減することを可能とした群噴孔を有するインジェクタにおける噴孔の穿設方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0005】
即ち、請求項1においては、インジェクタの軸線と、該インジェクタに穿設される噴孔の軸線との交点が、複数存在するインジェクタの噴孔穿設方法において、前記噴孔の穿設部に、該噴孔と直交しつつ、該噴孔の開口部を含む平面部を形成すること、を特徴としたものである。
【0006】
請求項2においては、前記穿設部に凹部を形成し、前記平面部を、前記凹部の底部に形成すること、を特徴としたものである。
【0007】
請求項3においては、前記平面部を、前記穿設部を切削して形成すること、を特徴としたものである。
【0008】
請求項4においては、前記平面部を、前記穿設部を鍛造して形成すること、を特徴としたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0010】
請求項1においては、噴孔の加工公差を縮小することができる。また、排気ガス性状のばらつきを低減し、安定した性能が得られる。
【0011】
請求項2においては、実際の生産工程において、平面部を容易に精度よく形成することができる。
【0012】
請求項3においては、実際の生産工程において、平面部を容易に精度よく形成することができる。
【0013】
請求項4においては、実際の生産工程において、平面部を容易に精度よく形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施例に係るインジェクタの全体構成を示した側面図、図2は同じく群噴孔の詳細を示した側面図、図3は従来の群噴孔および群噴孔穿設部を示す斜視図、図4は実施例1の群噴孔および群噴孔穿設部(平面部)を示す斜視図、図5は実施例2の群噴孔および群噴孔穿設部(平面部)を示す斜視図である。
まず、本発明の要部であるインジェクタの全体構成について、図1を用いて説明をする。
図1に示す如く、インジェクタ1は、インジェクタボディ2と、前記インジェクタボディ2の上部に付設され、コマンドピストン4の背圧を制御して燃料の噴射制御をする電磁弁3と、前記インジェクタボディ2の下部に付設され、内部に前記コマンドピストン4が摺動自在に設けられるコマンドピストンボディ5と、該コマンドピストンボディ5の下部に付設され、内部にニードル弁6が摺動自在に設けられるノズルボディ7とから構成されている。この構成で、図示せぬコモンレールから燃料供給路8へ供給された高圧燃料を、ノズルボディ7の先端に設けた噴孔10a・10aより噴射することとしている。
【0015】
また、図1及び図2に示す如く、前記電磁弁3において、オリフィスプレート12及びバルブシート13がバルブ押え部材11にてインジェクタボディ2に一体化され、該バルブ押え部材11にソレノイドコア14を内装したキャップ15が固定されている。
前記バルブシート13には、軸形状の弁体21が上下摺動自在に設けられている。該弁体21は、ソレノイドコア14のスプリング室14sに内装されたスプリング16の弾性力によって常時下方へ付勢されており、弁体シート面21aをバルブシート13の弁座シート面13aに当着させることで、高圧油路13bから低圧燃料室18への燃料の流出を規制し、制御油路9を介して前記コマンドピストン4の背圧を確保するようにしている。そして、この背圧によってコマンドピストン4は下方に移動されてニードル弁6を下方へ押圧し、燃料の噴射が規制されるようになっている。
【0016】
また、前記弁体21の上部にはアーマチャ22が固定されている。
該アーマチャ22は、前記ソレノイドコア14とバルブシート13の間に形成される低圧燃料室18内に上下移動自在に配置されている。
そして、ソレノイドコイル17が通電されると、前記アーマチャ22が弁体21とともに上方へ移動され、弁体シート面21aが弁座シート面13aから離されて、高圧油路13b内の燃料が低圧燃料室18へと流出される。これにより、制御油路9内の高圧燃料が、低圧燃料室18へと流出し、前記コマンドピストン4の背圧が減少される。そして、前記ニードル弁6がノズル燃料室6aに供給された高圧燃料によってリフトされ、燃料の噴射が行われる。
以上のように、ソレノイドコア14とバルブシート13の間の低圧燃料室18内でアーマチャ22を移動させ、該アーマチャ22と一体的に構成される弁体21にて噴射制御用の燃料の流通を制御し、燃料噴射を制御する構成となっている。
以上が、本発明の要部であるインジェクタの全体構成についての説明である。
【0017】
次に、本発明の一実施例に係る群噴孔の構成について、図2を用いて説明をする。
図2に示す如く、本発明の一実施例にかかるインジェクタ1には、いわゆる、群噴孔10を形成している。
群噴孔10は、ノズルボディ7の軸線(すなわち、インジェクタ1の軸線)を含む平面上に、前記軸線方向に対して位置が異なる軸線を有する複数の噴孔10a・10aを形成して構成している。
つまり、ノズルボディ7の軸線(軸線A)と、噴孔10a・10aの軸線(軸線Bおよび軸線C)との交点(交点Xおよび交点Y)が、ノズルボディ7の軸線方向に複数点存在するように、噴孔10a・10aを配置している。
尚、本実施例では、ノズルボディ7の軸線と、噴孔10a・10aの軸線との交点が、軸線方向に二点存在する例を示しているが、これに限定するものではなく、前記交点が三点以上存在する構成であってもよい。
また、図2においては、任意の断面における群噴孔10を示しているが、ノズルボディ7の全体像としては、ノズルボディ7の軸線を中心とする等間隔の放射線上に複数の群噴孔10を配置するような構成としている。
尚、本実施例では、噴孔10aがサック43と連通する構成を示しているが、これに限定するものではない。
以上が、本発明の一実施例に係る群噴孔の構成についての説明である。
【0018】
次に、本発明の一実施例に係る、群噴孔穿設部に形成する平面部について、図3乃至図5を用いて説明をする。
図3に示す如く、従来の群噴孔を有するインジェクタにおいては、ノズルボディ7の球面状の先端部に群噴孔10を形成している。
噴孔10a・10aは安価な機械加工(例えば、ドリルによる加工)により穿設されるが、外形が曲面であると、滑ったり工具刃先の逃げが発生して、ドリル先端の位置決めが難しく、位置ズレが生じるおそれがあり、噴孔10a・10aの寸法公差を確保することが困難であった。
そこで以下に、容易に加工精度を改善することを可能とした本発明の実施例を示していく。
【実施例1】
【0019】
まず、図4に示す如く、群噴孔10(噴孔10a・10a)の穿設部に凹部10bを設け、該凹部10bの底部に平面部10cを形成し、該平面部10cに群噴孔10を穿設する構成としている。
【0020】
平面部10cは、穿設する噴孔10aの軸線に対して垂直な平面を形成しており、切削や鍛造等の機械加工により容易に形成することが可能である。また、機械加工によれば、各凹部10b・10b・・・や平面部10c・10c・・・の相対的な位置・角度等の寸法公差を確保することも比較的容易である。
そこで、寸法公差が確保されている平面部10cに対して、キリ孔加工により噴孔10a・10aを穿設することにより、加工精度を改善することができる。
【0021】
尚、本実施例では、各平面部10c・10c・・・に対して、キリ孔加工により群噴孔10(噴孔10a・10a)を穿設する例を示しているが、これに限定するものではなく、放電加工により群噴孔10を穿設することも可能である。この場合にも、平面部10cを形成している効果により、火花エネルギーの分散を低減し、高い寸法公差の確保が容易に可能となる。
【実施例2】
【0022】
次に、図5に示す如く、群噴孔10(噴孔10a・10a)の穿設部に平面部10dを設け、該平面部10dに群噴孔10を穿設する構成としている。
【0023】
平面部10dは、穿設する噴孔10aの軸線に対して垂直な平面を形成しており、切削や鍛造等の機械加工により容易に形成することが可能である。また、機械加工によれば、各平面部10d・10d・・・の相対的な位置・角度等の寸法公差を確保することも比較的容易である。
そこで、寸法公差が確保されている平面部10dに対して、キリ孔加工により噴孔10a・10aを穿設することにより、加工精度を改善することができる。
【0024】
尚、本実施例では、各平面部10d・10d・・・に対して、機械加工(例えば、キリ孔加工)により群噴孔10(噴孔10a・10a)を穿設する例を示しているが、これに限定するものではなく、実施例1の場合と同様に、放電加工により群噴孔10を穿設することも可能である。
【0025】
また、本実施例では、平面部10c・10dの機械加工方法として、切削および鍛造による加工を例として示しているが、機械加工方法に係わらず、噴孔の穿設部に平面部を形成することにより、同様の効果が期待できるものである。
以上が、本発明の一実施例に係る、群噴孔穿設部に形成する平面部についての説明である。
【0026】
以上の説明に示す如く、インジェクタ1の軸線と、インジェクタ1に穿設される噴孔10aの軸線との交点が複数存在するいわゆる群噴孔10を有するインジェクタ1の噴孔穿設方法において、噴孔10aの穿設部に、噴孔10aと直交しつつ、噴孔10aの開口部を含む平面部10c・10dを形成している。
これにより、噴孔の加工公差を縮小することができるのである。また、排気ガス性状のばらつきを低減し、安定した性能が得られるのである。
【0027】
また、穿設部に凹部10bを形成し、該凹部10bの底部に、平面部10cを形成している。
これにより、実際の生産工程において、平面部を容易に精度よく形成することができるのである。
【0028】
また、平面部10c・10dを、穿設部を切削して形成する方法を示している。
これにより、実際の生産工程において、平面部を容易に精度よく形成することができるのである。
【0029】
また、平面部10c・10dを、穿設部を鍛造して形成する方法を示している。
これにより、実際の生産工程において、平面部を容易に精度よく形成することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例に係るインジェクタの全体構成を示した側面図。
【図2】同じく群噴孔の詳細を示した側面図。
【図3】従来の群噴孔および群噴孔穿設部を示す斜視図。
【図4】実施例1の群噴孔および群噴孔穿設部(平面部)を示す斜視図。
【図5】実施例2の群噴孔および群噴孔穿設部(平面部)を示す斜視図。
【符号の説明】
【0031】
1 インジェクタ
10 群噴孔
10a 噴孔
10b 凹部
10c 平面部
10d 平面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジェクタの軸線と、
該インジェクタに穿設される噴孔の軸線との交点が、
複数存在するインジェクタの噴孔穿設方法において、
前記噴孔の穿設部に、
該噴孔と直交しつつ、
該噴孔の開口部を含む平面部を形成すること、
を特徴とするインジェクタの噴孔穿設方法。
【請求項2】
前記穿設部に凹部を形成し、
前記平面部を、
前記凹部の底部に形成すること、
を特徴とする請求項1記載のインジェクタの噴孔穿設方法。
【請求項3】
前記平面部を、
前記穿設部を切削して形成すること、
を特徴とする請求項1または請求項2記載のインジェクタの噴孔穿設方法。
【請求項4】
前記平面部を、
前記穿設部を鍛造して形成すること、
を特徴とする請求項1または請求項2記載のインジェクタの噴孔穿設方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−25552(P2008−25552A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−202573(P2006−202573)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】