説明

インバータ一体型電動圧縮機

【課題】半導体スイッチング素子がベアの状態で実装されたパワー系金属基板からの電磁ノイズ干渉を抑制し、インバータ装置の誤動作を防止することができる信頼性の高いインバータ一体型電動圧縮機を提供することを目的とする。
【解決手段】インバータ収容部9にインバータ装置19を収容設置したインバータ一体型電動圧縮機1において、インバータ装置19は、少なくとも半導体スイッチング素子25がベア状態で実装されたパワー系金属基板22と、CPU等の低電圧で動作する素子を有する制御通信回路が実装されたCPU基板23とを樹脂製ケース21を介してモジュール化したインバータモジュール20を備え、該インバータモジュール20は、パワー系金属基板22とCPU基板23との間に、樹脂製ケース21に支持されて介在される金属製シールド板40を有し、該金属製シールド板40は、前記パワー系金属基板22よりも大きくされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータと圧縮機構とが内蔵されるハウジングの外周にインバータ収容部を設け、その内部にインバータ装置が一体に組み込まれて構成される車載空調装置用のインバータ一体型電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に搭載される空調装置用の圧縮機として、インバータ装置を一体に組み込んだインバータ一体型の電動圧縮機が種々提案されている。この車載空調装置用のインバータ一体型電動圧縮機は、電動モータと圧縮機構とが内蔵されるハウジングの外周にインバータ収容部(インバータボックス)を設け、その内部に高電圧電源ユニットから供給される直流電力を三相交流電力に変換し、ガラス密封端子を介して電動モータに給電するインバータ装置を組み込むことにより、空調負荷に応じて電動圧縮機の回転数を可変できるように構成されている。
【0003】
上記のようなインバータ一体型電動圧縮機の一例として、特許文献1に示すものが知られている。この電動圧縮機のインバータ装置は、高電圧の直流電力を三相交流電力に変換する複数個の電力用半導体スイッチング素子(IGBT等)と、CPU等の低電圧で動作する素子が組み込まれる制御通信回路が実装されたCPU基板(プリント基板)と、高電圧系ラインに接続されるヘッドキャパシタ(平滑コンデンサ)、インダクタコイル等の高電圧部品と、これらの間の電気配線をなすバスバーアセンブリ等々を備えており、これらがインバータ収容部(インバータボックスあるいは外枠部)内にコンパクトに収容設置された構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−190525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかして、車載空調装置用の圧縮機については、搭載車両におけるエンジンルーム内のますますの高密度化に伴い、搭載性を確保するために、より一層の小型コンパクト化が求められており、このため、インバータ装置を一体に組み込んで構成されるインバータ一体型電動圧縮機にあっても、インバータ装置を含めたインバータ収容部に対する小型化の要求が極めて高い。この要求を満たすべくインバータ装置およびインバータ収容部の小型コンパクト化の一環として、半導体スイッチング素子が実装されたパワー系回路基板と制御通信回路が実装されたCPU基板(プリント基板)とを一体化したインバータ装置のモジュール化が進められている。
【0006】
この場合、電力用半導体スイッチング素子は、パッケージ品を用いてインバータ収容部の底面に直接設置する構成から、ベアの状態で金属基板上に実装する構成とされる場合が多く、このパワー系金属基板とCPU基板(CPU基板)とを樹脂製ケース等を介して一体化することにより、インバータモジュールが構成されることになる。
【0007】
しかしながら、かかる構成では、高電圧系の電源により駆動されるパワー系金属基板にベアの状態で実装されている半導体スイッチング素子(パワー素子)側から、リップルやサージ電圧が原因となる電磁ノイズが発生され易く、この電磁ノイズが制御通信を司る低電圧系のCPU基板に向けて照射され、通信線等を介してハウジング側に侵入し、パワー系金属基板からパワー部に伝搬される電磁ノイズと共に制御通信回路に伝搬することにより電磁ノイズ干渉を起こすことがある。そして、この電磁ノイズ干渉がインバータ装置の正常動作を妨げ、誤動作発生の原因となるおそれがあった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、半導体スイッチング素子がベアの状態で実装されたパワー系金属基板からの電磁ノイズ干渉を抑制し、インバータ装置の誤動作を防止することができる信頼性の高いインバータ一体型電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のインバータ一体型電動圧縮機は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかるインバータ一体型電動圧縮機は、電動モータと圧縮機構とが内蔵されるハウジングの外周にインバータ収容部を設け、その内部に高電圧電源から供給される直流電力を三相交流電力に変換して前記電動モータに給電するインバータ装置を収容設置してなるインバータ一体型電動圧縮機において、前記インバータ装置は、少なくとも半導体スイッチング素子がベア状態で実装されたパワー系金属基板と、CPU等の低電圧で動作する素子を有する制御通信回路が実装されたCPU基板とを樹脂製ケースを介してモジュール化したインバータモジュールを備え、該インバータモジュールは、前記パワー系金属基板と前記CPU基板との間に、前記樹脂製ケースに支持されて介在される金属製シールド板を有し、該金属製シールド板は、前記パワー系金属基板よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、インバータモジュールの半導体スイッチング素子がベア状態で実装されたパワー系金属基板と、低電圧で動作する制御通信回路が実装されたCPU基板との間に、樹脂製ケースに支持されて介在される金属製シールド板が設けられ、該金属製シールド板がパワー系金属基板よりも大きくされているため、高電圧系の電源により駆動されるパワー系金属基板にベア状態で実装されている半導体スイッチング素子(パワー素子)から発生され、制御通信を司る低電圧系のCPU基板に向けて照射される電磁ノイズを、パワー系金属基板とCPU基板との間に介在されているパワー系金属基板よりも大きい金属製シールド板によって確実に遮蔽することができる。また、通信線等を介してハウジング側に侵入し、パワー系金属基板からパワー部分に伝搬され、さらにCPU基板の低電圧系制御通信回路に伝搬しようとする電磁ノイズを、上記金属製シールド板によってノイズ道筋から回避することができる。これによって、パワー系金属基板とCPU基板との間の電磁ノイズ干渉を抑制し、制御通信回路の誤動作を防止してインバータ装置を正常に動作させることができ、製品の信頼性を向上させることができる。
【0011】
さらに、本発明のインバータ一体型電動圧縮機は、上記のインバータ一体型電動圧縮機において、前記金属製シールド板は、その全周が前記樹脂製ケースにより支持されていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、金属製シールド板の全周が前記樹脂製ケースにより支持されているため、高電圧系のパワー系金属基板からCPU基板に向って照射される電磁ノイズを、その全周が樹脂製ケースにより支持されている金属製シールド板によって、確実に遮蔽することができる。従って、パワー系金属基板とCPU基板との間のノイズ干渉を抑制し、インバータ装置をその誤動作を防止して正常に動作させることができる。
【0013】
さらに、本発明のインバータ一体型電動圧縮機は、上述のいずれかに記載のインバータ一体型電動圧縮機において、前記CPU基板および前記金属製シールド板は、グランド線および前記パワー系金属基板を介して前記ハウジングに筐体接地されていることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、金属製シールド板がCPU基板と共にグランド線およびパワー系金属基板を介してハウジングに筐体接地されているため、金属製シールド板による電磁ノイズのシールド効果およびアース効果を高めることができる。これによって、電磁ノイズ干渉を抑制し、インバータ装置の誤動作を防止することができる。
【0015】
さらに、本発明のインバータ一体型電動圧縮機は、上述のいずれかに記載のインバータ一体型電動圧縮機において、前記金属製シールド板には、前記樹脂製ケースに支持されている端部に、該樹脂製ケース内に埋め込まれ、その底部まで延長されて前記ハウジングに筐体接地される延長部が一体に設けられていることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、金属製シールド板の樹脂製ケースに支持されている端部に、該樹脂製ケース内に埋め込まれ、その底部まで延長されてハウジングに筐体接地される延長部が一体に設けられているため、金属製シールド板による電磁ノイズのシールド効果およびアース効果を一段と向上させることができる。これにより、電磁ノイズ干渉を抑制し、インバータ装置の誤動作を確実に防止することができる。また、樹脂製ケース内に埋め込まれている延長部を補強材として、樹脂製ケースの剛性および強度アップを図ることができるため、インバータモジュールの耐振性を高めることができる。
【0017】
さらに、本発明のインバータ一体型電動圧縮機は、上記のインバータ一体型電動圧縮機において、前記延長部は、前記樹脂製ケース内に埋め込まれて該樹脂製ケース底部の取り付け脚部まで曲げ延長され、前記樹脂製ケースを固定設置するビスを介して前記ハウジングに筐体接地されていることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、金属製シールド板と一体となす延長部が樹脂製ケースの取り付け脚部まで曲げ延長され、樹脂製ケースを固定設置するビスを介してハウジングに筐体接地されているため、金属製シールド板のハウジングに対するアース効果を高めることができる。これによって、金属製シールド板による電磁ノイズのシールド効果およびアース効果をさらに向上させることができる。
【0019】
さらに、本発明のインバータ一体型電動圧縮機は、上述のいずれかのインバータ一体型電動圧縮機において、前記金属製シールド板は、銅板、アルミ板、鉄板等の伝熱、電導材により構成されていることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、金属製シールド板が銅板、アルミ板、鉄板等の伝熱、電導材により構成されているため、CPU基板に向けて照射される電磁ノイズを遮蔽できると同時に、良好な伝熱、伝導性を有する銅板、アルミ板、鉄板等を介してハウジング側にアースおよび伝熱することができる。これにより、電磁ノイズ干渉を抑制し、インバータ装置の誤動作を確実に防止することができる。
【0021】
さらに、本発明のインバータ一体型電動圧縮機は、上述のいずれかのインバータ一体型電動圧縮機において、前記樹脂製ケース内には、少なくともパワー系金属基板の上面を被う位置まで絶縁用樹脂材が充填されていることを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、樹脂製ケース内に少なくともパワー系金属基板の上面を被う位置まで絶縁用樹脂材が充填されているため、絶縁用樹脂材を介して半導体スイッチング素子がベア状態で実装されたパワー系金属基板の絶縁性を確保することができるとともに、パワー系金属基板を防振、防湿することができる。これによって、半導体スイッチング素子がベア状態で実装されたパワー系金属基板の動作、性能に対する信頼性を向上させることができる。
【0023】
さらに、本発明のインバータ一体型電動圧縮機は、上記のインバータ一体型電動圧縮機において、前記絶縁用樹脂材は、前記金属製シールド板の上面を被う位置まで充填されていることを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、絶縁用樹脂材が金属製シールド板の上面を被う位置まで充填されているため、筐体接地されている金属製シールド板を介して絶縁用樹脂材を冷却することができる。これにより、絶縁用樹脂材を介してベア状態で実装されている半導体スイッチング素子の冷却効果を高め、その耐熱性能を一段と向上させることができる。
【0025】
さらに、本発明のインバータ一体型電動圧縮機は、上述のいずれかのインバータ一体型電動圧縮機において、前記パワー系金属基板は、その底面側がヒートシンク部とされ、前記インバータ収容部が設けられた前記ハウジングの外表面に接触設置されていることを特徴とする。
【0026】
本発明によれば、パワー系金属基板の底面側がヒートシンク部とされ、インバータ収容部が設けられたハウジングの外表面に接触設置されているため、半導体スイッチング素子が実装されたパワー系金属基板全体を、ハウジング壁を介してその内部を流通する冷媒により強制冷却することができる。これによって、高発熱部品である半導体スイッチング素子の冷却経路を確立し、インバータモジュールの耐熱信頼性を確保することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、高電圧系の電源により駆動されるパワー系金属基板にベア状態で実装されている半導体スイッチング素子(パワー素子)から発生され、制御通信を司る低電圧系のCPU基板に向けて照射される電磁ノイズを、パワー系金属基板よりも大きくされている金属製シールド板によって確実に遮蔽することができるとともに、通信線等を介してハウジング側に侵入し、パワー系金属基板からパワー部分に伝搬され、さらにCPU基板の低電圧系制御通信回路に伝搬しようとする電磁ノイズを上記金属製シールド板によってノイズ道筋から回避することができるため、パワー系金属基板とCPU基板との間の電磁ノイズ干渉を抑制し、制御通信回路の誤動作を防止してインバータ装置を正常に動作させることができる。従って、製品の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態に係るインバータ一体型電動圧縮機の外観側面図である。
【図2】図1に示すインバータ一体型電動圧縮機のインバータ装置を構成するインバータモジュールの平面図(A)とその下側側面図(B)、左側側面図(C)、および底面図(D)である。
【図3】図2に示すインバータモジュールの縦断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るインバータ一体型電動圧縮機のインバータ装置を構成するインバータモジュールの縦断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係るインバータ一体型電動圧縮機のインバータ装置を構成するインバータモジュールの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図1ないし図3を用いて説明する。
図1には、本発明の第1実施形態にかかるインバータ一体型電動圧縮機の外観側面図が示されている。インバータ一体型電動圧縮機1は、その外殻を構成するハウジング2を備えている。ハウジング2は、電動モータが収容されるモータハウジング3と、図示省略の圧縮機構が収容される圧縮機ハウジング4とをボルト5で一体に締め付け固定することによって構成されている。このモータハウジング3および圧縮機ハウジング4は、耐圧容器であり、アルミ合金を用いたアルミダイカスト製とされている。
【0030】
上記ハウジング2の内部に内蔵される図示省略の電動モータおよび圧縮機構は、モータ軸を介して連結され、電動モータの回転によって圧縮機構が駆動されるように構成されている。モータハウジング3の一端側(図1の右側)には、冷媒吸入ポート6が設けられており、この冷媒吸入ポート6からモータハウジング3内に吸入された低温低圧の冷媒ガスは、電動モータの周囲をモータ軸線L方向に沿って流通後、圧縮機構に吸い込まれて圧縮される。圧縮機構により圧縮された高温高圧の冷媒ガスは、圧縮機ハウジング4内に吐き出された後、圧縮機ハウジング4の一端側(図1の左側)に設けられている吐出ポート7から外部へと送出されるように構成されている。
【0031】
ハウジング2には、例えば、モータハウジング3の一端側(図1の右側)の下部および圧縮機ハウジング4の一端側(図1の左側)の下部の2箇所と、圧縮機ハウジング4の上部側1箇所との計3箇所に、取り付け脚8A,8B,8Cが設けられる。インバータ一体型電動圧縮機1は、この取り付け脚8A,8B,8Cが車両のエンジンルーム内に設置されている走行用原動機の側壁等にブラケットおよびボルトを介して固定設置されることにより搭載される。このインバータ一体型電動圧縮機1は、一般に固定ブラケットを介してそのモータ軸線L方向を車両の前後方向または左右方向に向け、上下3点で片持ち支持されるのが通常である。
【0032】
また、モータ側ハウジング3の外周面には、その上部にボックス形状のインバータ収容部9が一体に成形されている。インバータ収容部9は、上面が開放された所定高さの周囲壁により囲われたボックス構造を有しており、その側面には、2つのケーブル取り出し口10が設けられている。また、インバータ収容部9の上面は、蓋部材11がネジ止め固定されることにより閉鎖されるようになっている。このインバータ収容部9内には、高電圧電源ユニットから高電圧ケーブルを介して供給される直流電力を三相交流電力に変換して電動モータに供給する三相インバータ装置19が収容設置されている。
【0033】
インバータ装置19は、インバータ装置19の中核をなすインバータモジュール20の他に、図示省略の高電圧ケーブルが接続されるP−N端子、高電圧ラインに接続されるヘッドキャパシタおよびインダクタコイル等の高電圧部品、インバータ装置19内のP−N端子と高電圧部品およびインバータモジュール20との間の電気配線をなす複数のバスバーを絶縁用樹脂材でインサート成形して一体化したバスバーアセンブリ、インバータ装置19で変換した三相交流電力を電動モータに給電するガラス密封端子等々の電装部品によって構成される。
【0034】
インバータモジュール20は、図2に示されるように、インバータ収容部9に収容されるボックス形状の樹脂製ケース21を有しており、この樹脂製ケース21内にインバータ装置19を構成するパワー系金属基板22およびCPU基板(プリント基板)23を設けることによりモジュール化したものである。パワー系金属基板22には、IGBT等からなる複数個の半導体スイッチング素子25(図3参照)がベア(ベアチップ)の状態で実装されており、また、CPU基板23には、CPU等の低電圧で動作する素子を有する制御通信回路等が実装されている。
【0035】
半導体スイッチング素子25が実装されているパワー系金属基板22の底面は、樹脂製ケース21の底部から露出され、発熱部品である半導体スイッチング素子25等を冷却するためのヒートシンク部22Aを構成している。このヒートシンク部22Aがインバータ収容部9の底面をなすモータハウジング3のハウジング壁に密着設置され、モータハウジング3内を流通する低温冷媒ガスの冷熱で冷却されることにより、パワー系金属基板22上に実装されている半導体スイッチング素子25等発熱部品の冷却経路を形成している。
【0036】
また、樹脂製ケース21には、パワー系金属基板22と高電圧ラインおよび電動モータとの間を電気的に接続する端子30がインサート成形により一体に設けられている。この端子30には、樹脂製ケース21の一側面に設けられる高電圧ライン用の2本の端子30A,30Bと、樹脂製ケース21の他側面に設けられる電動モータ用の3本のU−V−W端子30C,30D,30Eが含まれる。これらの端子30Aないし30Eは、黄銅製の板を曲げ加工したもので、一端にはパワー系金属基板22側の回路とボンディングワイヤを介して接続される錫メッキ等が施された溶接面が設けられ、他端には電動モータおよび高電圧ラインに繋がる端子もしくはバスバー等が接続されるニッケルメッキ等が施された溶接面が設けられており、それぞれ溶接される相手方部材に適合する異なる溶接メッキが施されている。
【0037】
さらに、樹脂製ケース21には、図3に示されるように、パワー系金属基板22にベア状態で実装されている半導体スイッチング素子25等が高電圧電力により駆動される際に発生し、低電圧系のCPU基板23に向けて照射される電磁ノイズや、通信線等を介してハウジング側に侵入し、パワー系金属基板22からパワー部分に伝搬され、さらにCPU基板23の低電圧系制御通信回路に伝搬しようとする電磁ノイズを遮蔽するための金属製シールド板40が、パワー系金属基板22とCPU基板23との間に介在されて設けられている。この金属製シールド板40は、図示の通り、パワー系金属基板22よりも大きくされており、銅板、アルミ板、鉄板等の伝熱、電導材により構成され、図2から明らかな通り、その端部の全周が樹脂製ケース21に差し込まれて設置され、支持されることによってパワー系金属基板22の上面を覆っている。
【0038】
金属製シールド板40は、CPU基板23と共にグランド線(FG線)41およびその下端に接続されるワイヤーボンダー43を介してパワー系金属基板22上の銅箔パターン24のランドに繋がれ、パワー系金属基板22を介してモータハウジング3に筐体接地されている。グランド線(FG線)41は、その一部が樹脂製ケース21内に埋設されるように一体にインジェクション成形されている。また、これらパワー系金属基板22、CPU基板23および金属製シールド板40が設けられている樹脂製ケース21内には、金属製シールド板40の上面を被う位置までエポキシ樹脂等の絶縁用樹脂材42が充填されている。なお、絶縁用樹脂材42の充填は、必ずしも金属製シールド板40の上面を被う位置までとする必要はなく、少なくともパワー系金属基板22の上部を被う位置まで充填されておればよい。
また、樹脂製ケース21は、図示省略のビスを介してインバータ収容部9の底面に固定設置されるようになっている。
【0039】
以上に説明の構成により、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
車両に搭載の高電圧電源ユニットから高電圧ケーブルを経て電動圧縮機1のインバータ装置19のP−N端子に供給された直流電力は、ヘッドキャパシタ、インダクタコイル等の高電圧部品により調整され、端子30A,30Bを介してインバータモジュール20に入力される。この直流電力は、インバータモジュール20のパワー系金属基板22に実装されている複数個の半導体スイッチング素子25のスイッチング動作により、図示省略の上位制御装置から指令された制御指令周波数の三相交流電力に変換された後、U−V−W端子30C,30D,30Eからガラス密封端子を経てモータハウジング3内の電動モータに給電される。
【0040】
これにより、電動モータが制御指令周波数で回転駆動され、圧縮機構が動作される。圧縮機構の動作により、冷媒吸入ポート6から低温低圧の冷媒ガスがモータハウジング3内に吸い込まれる。この冷媒は、電動モータの周囲をモータ軸線L方向に圧縮機ハウジング4側へと流動されて圧縮機構に吸入され、高温高圧状態に圧縮された後、圧縮機ハウジング4内に吐き出される。この高温高圧冷媒は、吐出ポート7から電動圧縮機1の外部へと送出される。この間、冷媒吸入ポート6からモータハウジング3内に吸い込まれ、モータ軸線L方向に流動される低温低圧の冷媒ガスは、モータハウジング3のハウジング壁を介してその壁面に密着設置されているヒートシンク部22Aを冷却し、パワー系金属基板22を冷却する。これでパワー系金属基板22に実装されている半導体スイッチング素子25等の発熱部品が強制冷却され、それぞれ耐熱性能が確保される。
【0041】
一方、パワー系金属基板22に高電圧の直流電力が供給され、半導体スイッチング素子25がスイッチング動作を行うと、電磁ノイズが発生される。このパワー系金属基板22側で発生した電磁ノイズは、CPU基板23の低電圧系制御通信回路に向って照射されるが、パワー系金属基板22とCPU基板23との間に、パワー系金属基板22よりも大きい金属製シールド板40が樹脂製ケース21によりその全周が支持されて設けられているため、この金属製シールド板40によって電磁ノイズを漏れがないように確実に遮蔽することができる。
【0042】
また、外部制御装置から通信線等を経てハウジング側に侵入した電磁ノイズは、接続されている基板からパワー部分への信号ライン等に伝搬、輻射され、または、パワー系金属基板22からパワー部分に伝搬され、さらにCPU基板23の低電圧系制御通信回路に伝搬、輻射しようとするが、この電磁ノイズもパワー系金属基板22とCPU基板23との間に設けた金属製シールド板(銅板)40によりノイズ道筋から回避することができる。
このため、信号系へのノイズ伝搬、輻射あるいは高電圧系から電磁ノイズがCPU基板23の制御通信回路に伝搬、輻射されることによる電磁ノイズ干渉を抑制し、それが原因となる制御通信回路の誤動作を防止することができる。よって、インバータ装置19を正常に動作させることができ、製品信頼性を向上させることができる。
【0043】
また、金属製シールド板(銅板)40がCPU基板23と共にグランド線41、ワイヤーボンダー43およびパワー系金属基板22を介してモータハウジング3に筐体接地されているため、金属製シールド板40による電磁ノイズのシールド効果およびアース効果を高めることができる。従って、電磁ノイズ干渉によるインバータ装置19の誤動作を確実に防止し、信頼性を高めることができる。
【0044】
また、本実施形態では、樹脂製ケース21内に金属製シールド板40の上面を被う位置まで絶縁用樹脂材42を充填しているため、この絶縁用樹脂材42により半導体スイッチング素子25が実装されたパワー系金属基板22の絶縁性を確保するとともに、パワー系金属基板22を防振、防湿することができる。従って、半導体スイッチング素子25がベアの状態で実装されたパワー系金属基板22の動作、性能に対する信頼性を向上させることができる。同時に、筐体接地されている金属製シールド板40を介して絶縁用樹脂材42を冷却し、この絶縁用樹脂材42を介して半導体スイッチング素子25を冷却することができるため、半導体スイッチング素子25の冷却効果を高め、その耐熱性能を一段と向上させることができる。
【0045】
さらに、半導体スイッチング素子25が実装されているパワー系金属基板22の底面側をヒートシンク部22Aとし、それをインバータ収容部9が設けられたモータハウジング3の外表面に密着設置しているため、半導体スイッチング素子25が実装されたパワー系金属基板22全体を、モータハウジング3の壁面を介してその内部を流通する冷媒により強制冷却することができる。これによって、高発熱部品である半導体スイッチング素子25の冷却経路を確立し、インバータモジュールの耐熱信頼性を確保することができる。
【0046】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について、図4を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第1実施形態に対して、金属製シールド板40の構造および筐体接地構成が異なっている。その他の点については、第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
本実施形態では、樹脂製ケース21に差し込まれている金属製シールド板(銅板)40の端部に、この樹脂製ケース21内に埋め込まれ、その底部まで延長されてモータハウジング3に筐体接地される延長部40Aを一体に設けた構成としている。
【0047】
上記のように、金属製シールド板40の樹脂製ケース21に支持されている端部に、樹脂製ケース21内に埋め込まれ、その底部まで延長されてハウジング3に筐体接地される延長部40Aを一体に設けることによって、金属製シールド板40による電磁ノイズのシールド効果およびアース効果を一段と向上させることができる。このため、パワー系金属基板22とCPU基板23間の電磁ノイズ干渉を抑制し、インバータ装置19の誤動作を確実に防止することができる。また、樹脂製ケース21内に埋め込まれる延長部40Aが補強材となり、樹脂製ケース21の剛性、強度をアップすることができるため、インバータモジュール20の耐振性を高めることができる。
【0048】
なお、本実施形態では、絶縁用樹脂材42の充填をパワー系金属基板22の上面を被う位置までとし、金属製シールド板40が絶縁用樹脂材42の上面から露出されるようにしているが、かかる構成としてもパワー系金属基板22に対する絶縁、防振、防湿機能は損なわれることはなく、特に問題はない。
【0049】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について、図5を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第1および第2実施形態に対して、金属製シールド板40の筐体接地構成が異なっている。その他の点については、第1および第2実施形態と同様であるので説明は省略する。
本実施形態では、金属製シールド板40の延長部40Aに、樹脂製ケース21内に埋め込まれ、樹脂製ケース21底部の取り付け脚部21Aまで延長される折り曲げ部40Bを設け、この折り曲げ部40Bを、樹脂製ケース21を固定設置する図示省略のビスを介してモータハウジング3に筐体接地する構成としている。
【0050】
このように、金属製シールド板40と一体となす延長部40Aに折り曲げ部40Bを設け、この折り曲げ部40Bを樹脂製ケース21の取り付け脚部21Aまで延長し、樹脂製ケース21を固定設置するビスを介してモータハウジング3に筐体接地しているため、金属製シールド板40のモータハウジング3に対するアース効果を一段と高めることができる。従って、金属製シールド板40による電磁ノイズのシールド効果およびアース効果をさらに向上させることができる。
【0051】
なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。例えば、上記実施形態では、インバータ収容部9をモータハウジング3と一体成形した例について説明したが、必ずしも一体に成形する必要はなく、別体のインバータ収容部を一体に組み付けてもよい。また、圧縮機構については、特に制限されるものではなく、如何なる形式の圧縮機構を用いてもよい。さらに、金属製シールド板40については、必ずしも剛性を有する板厚の厚い板材である必要はなく、薄いシート材あるいは箔材であってもよく、本発明の金属製シールド板は、これらシート材あるいは箔材を包含する意味で用いられているものとする。
【符号の説明】
【0052】
1 インバータ一体型電動圧縮機
2 ハウジング
9 インバータ収容部
19 インバータ装置
20 インバータモジュール
21 樹脂製ケース
21A 取り付け脚部
22 パワー系金属基板
22A ヒートシンク部
23 CPU基板
25 半導体スイッチング素子(ベアチップ)
40 金属製シールド板
40A 延長部
40B 折り曲げ部
41 グランド線(FG線)
42 絶縁用樹脂材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと圧縮機構とが内蔵されるハウジングの外周にインバータ収容部を設け、その内部に高電圧電源から供給される直流電力を三相交流電力に変換して前記電動モータに給電するインバータ装置を収容設置してなるインバータ一体型電動圧縮機において、
前記インバータ装置は、少なくとも半導体スイッチング素子がベア状態で実装されたパワー系金属基板と、CPU等の低電圧で動作する素子を有する制御通信回路が実装されたCPU基板とを樹脂製ケースを介してモジュール化したインバータモジュールを備え、
該インバータモジュールは、前記パワー系金属基板と前記CPU基板との間に、前記樹脂製ケースに支持されて介在される金属製シールド板を有し、
該金属製シールド板は、前記パワー系金属基板よりも大きいことを特徴とするインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項2】
前記金属製シールド板は、その全周が前記樹脂製ケースにより支持されていることを特徴とする請求項1に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項3】
前記CPU基板および前記金属製シールド板は、グランド線および前記パワー系金属基板を介して前記ハウジングに筐体接地されていることを特徴とする請求項1または2に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項4】
前記金属製シールド板には、前記樹脂製ケースに支持されている端部に、該樹脂製ケース内に埋め込まれ、その底部まで延長されて前記ハウジングに筐体接地される延長部が一体に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項5】
前記延長部は、前記樹脂製ケース内に埋め込まれて該樹脂製ケース底部の取り付け脚部まで曲げ延長され、前記樹脂製ケースを固定設置するビスを介して前記ハウジングに筐体接地されていることを特徴とする請求項4に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項6】
前記金属製シールド板は、銅板、アルミ板、鉄板等の伝熱、電導材により構成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項7】
前記樹脂製ケース内には、少なくともパワー系金属基板の上面を被う位置まで絶縁用樹脂材が充填されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項8】
前記絶縁用樹脂材は、前記金属製シールド板の上面を被う位置まで充填されていることを特徴とする請求項7に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項9】
前記パワー系金属基板は、その底面側がヒートシンク部とされ、前記インバータ収容部が設けられた前記ハウジングの外表面に接触設置されていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載のインバータ一体型電動圧縮機。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−21918(P2013−21918A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−230896(P2012−230896)
【出願日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【分割の表示】特願2007−337113(P2007−337113)の分割
【原出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】