説明

インバータ装置

【課題】速度センサレス制御により電動機を駆動するものにおいて、フリーラン状態の電動機の回転速度を精度良く同定することができるインバータ装置を提供する。
【解決手段】本実施形態のインバータ装置は、電動機の回転速度を検出する速度検出手段を用いることなく速度センサレス制御により電動機を駆動する電動機制御部を備えたインバータ装置である。電動機制御部は、電動機がフリーラン状態であるときの回転速度を所定のパラメータを用いた条件に基づいて同定する速度サーチ機能と、電動機を実際の運転条件に基づいて運転させながらパラメータをティーチングするティーチング機能とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば瞬時停電などにより、インバータ装置からの電力供給が一時的に遮断されてフリーラン状態になった電動機を再始動する場合、そのフリーラン状態の電動機の回転速度と再始動時における指令回転速度とを一致させる必要がある。そのため、実速度を検出する手段を持たず、速度センサレス制御により電動機を駆動するインバータ装置の場合には、フリーラン状態の電動機の回転速度を同定(推定)する速度サーチが実施される。上記速度サーチとしては様々な手法が用いられるが、電動機の端子間電圧に基づいて間接的に回転速度を検出する手法を除いた各手法においては、速度同定の条件は所定のパラメータにより設定されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−290391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、速度センサレス制御により電動機を駆動するものにおいて、フリーラン状態の電動機の回転速度を精度良く同定することができるインバータ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態のインバータ装置は、電動機の回転速度を検出する速度検出手段を用いることなく速度センサレス制御により電動機を駆動する電動機制御部を備えたインバータ装置である。電動機制御部は、電動機がフリーラン状態であるときの回転速度を所定のパラメータを用いた条件に基づいて同定する速度サーチ機能と、電動機を実際の運転条件に基づいて運転させながらパラメータをティーチングするティーチング機能とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本実施形態を示すもので、インバータ装置の概略構成を示すブロック図
【図2】フリーラン直前の回転方向が正転側である場合において速度サーチを実施する際の各部の動作タイミングを示す図
【図3】フリーラン直前の回転方向が逆転側である場合における図2相当図
【図4】ティーチングの内容を示すフローチャート
【図5】一連の動作が実施されている期間における電動機の回転速度を示す図
【図6】一連の動作が実施されている期間における指令回転速度を示す図
【図7】速度サーチが実施されている期間における指令回転速度を示す図
【図8】速度サーチが実施されている期間における検出d軸電流の波形を示す図
【図9】変形例を示す図1相当図
【図10】速度サーチが実施されている期間における各部の波形を示す図
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、誘導電動機を駆動するインバータ装置の構成を機能ブロックにより示したものである。図1に示すインバータ装置1は、実速度検出手段を有することなく回転速度を推定演算してベクトル制御を実行する。なお、図1では、ダイオードをブリッジ接続して構成されるコンバータ部、スイッチング素子(例えばIGBT)をブリッジ接続して構成される電圧型のインバータ部などを備えた主回路については図示を省略している。
【0008】
電流検出器2は、例えばホールCTから構成されており、三相の誘導電動機である電動機3のU相電流Iu、V相電流IvおよびW相電流Iwを検出する。なお、各相電流のうち、2相の電流を検出し、残りの1相の電流を演算により求める構成であってもよい。電動機3をセンサレスでベクトル制御する電動機制御部4は、高速演算可能なマイクロプロセッサを主体に構成されており、メモリに記憶された制御プログラムに従って処理を実行する。
【0009】
座標変換部5は、U相の検出電流Iu、V相の検出電流IvおよびW相の検出電流Iwを入力して3相−2相変換および回転座標変換を行い、検出d軸電流Idおよび検出q軸電流Iqを得る。d軸は励磁電流軸であり、q軸はトルク電流軸である。座標変換部6は、後述する指令d軸電圧Vd*および指令q軸電圧Vq*を入力として回転座標変換および2相−3相変換を行い、出力すべきU相電圧Vu、V相電圧VvおよびW相電圧Vwを決定するための電圧Vu*、Vv*、Vw*を出力する。電圧Vu*、Vv*、Vw*はPWM発生部7においてPWM信号に変換された後、駆動回路およびインバータ部(いずれも図示せず)を介して電圧Vu、Vv、Vwとして電動機3に与えられる。
【0010】
速度推定部8は、指令d軸電圧Vd*、指令q軸電圧Vq*、検出d軸電流Id、検出q軸電流Iqなどを用いて電動機3の推定回転速度ωsを演算する。電圧指令演算部9は、指令回転速度ωs*、推定回転速度ωs、指令d軸電流Id*、電動機定数の設定値などに基づいて、指令d軸電圧Vd*および指令q軸電圧Vq*を演算する。
【0011】
本実施形態の電動機制御部4は、速度推定部8などを用いてフリーラン状態にある電動機3の回転速度を推定する機能(速度サーチ機能)と、その速度サーチにおける速度同定の条件を決定するためのパラメータである判定閾値をティーチングする機能(ティーチング機能)とを有している。以下、電動機制御部4による速度サーチ機能について説明する。まず、フリーラン直前における電動機3の回転方向が正転側である場合について、図2を参照して説明する。なお、本実施形態において、正転側とは、速度サーチを行う際における指令回転速度ωs*(掃引周波数)の初期値が示す回転方向と同一の回転方向のことを示している。また、逆転側とは上記正転側の反転の回転方向のことを示している。
【0012】
図2は、フリーラン直前の回転方向が正転側である場合において速度サーチを実施する際の各部の動作タイミングを示している。図2において、(a)は運転方向(電動機3の回転方向)、(b)は運転準備ST、(c)は電動機3の回転速度(モータ速度)、(d)は指令回転速度ωs*(速度指令)、(e)は検出d軸電流(励磁電流)、(f)は検出q軸電流(トルク電流)を示している。なお、運転準備STがON(Hレベル)のときにはインバータ装置1に電源が供給されている状態であり、運転準備STがOFF(Lレベル)のときにはインバータ装置1に電源が供給されていない状態(電源遮断状態)である。このように、図2(b)は、インバータ装置1に対する電源(電源電圧)の供給状態を示す。
【0013】
図2に示すように、時刻t1の時点において電源電圧が遮断される(運転準備STがOFFされる)と、電動機3はフリーラン状態となる。そして、時刻t2の時点において電源電圧の供給が復帰(復電)する(運転準備STがONされる)。このように、時刻t1〜t2の間、電源電圧が遮断された状態(停電状態)となる。その後、時刻t2〜t3の間は、電動機3の残留電圧が減衰するまでの待ち時間である。この待ち時間は、残留電圧による検出d軸電流および検出q軸電流の誤差を低減するために設けられている。
【0014】
時刻t3の時点において、指令回転速度ωs*は、最大回転速度(最高周波数)に設定される。この最高周波数とは、実際に想定される電動機3の速度範囲を包含する値に設定される。時刻t3〜t4の間、指令回転速度ωs*は、最高周波数に固定される。これは、電動機3に流れる電流(モータ電流)を安定させるための待ち時間であり、電流振動による速度誤検出を防止するために設けられている。
【0015】
時刻t4の時点以降、最高周波数から一定のレートでの周波数掃引が実施される。つまり、指令回転速度ωs*は、最大回転速度から一定の傾きで低下する。また、この場合、電圧指令は次のように決定される。すなわち、指令q軸電圧Vq*は、掃引周波数(周波数掃引中の指令回転速度ωs*)と電動機3の回転速度とが著しく乖離する状態(脱調状態)であってもトルクが発生することがないように十分に低減された掃引周波数に対応するV/F比に基づいて決定される。また、指令d軸電圧Vd*はゼロにクランプされる。このように、電動機制御部4は、速度サーチを実施する際に周波数掃引を行う周波数掃引手段としての機能を有している。
【0016】
上述したように周波数掃引が実施されている間、検出q軸電流Iqの値が随時確認される。そして、検出q軸電流Iqの極性が反転した場合(Iqがゼロクロスした場合)、検出d軸電流Idの値が確認される。このときの検出d軸電流Idは、V/F比を十分に低減したことにより、無負荷時における値(無負荷電流)と同程度(無負荷電流相当量)となる。つまり、検出d軸電流Idは、比較的低い値となる。そこで、本実施形態では、検出q軸電流Iqがゼロクロスしたときにおける検出d軸電流Idの値が所定の判定閾値以下であれば、電動機3の回転速度(実速度)と指令回転速度(掃引周波数)とが一致したと判断される(速度同定完了)。
【0017】
すなわち、本実施形態では、フリーラン中の電動機3に対して上記したように周波数掃引を行い、その掃引中に検出q軸電流Iqの極性が反転するという第1の条件および検出d軸電流Idの値が判定閾値以下であるという第2の条件の双方を満たすとき(図2の時刻t5の時点)、フリーラン状態における電動機3の回転速度が検出(同定)されることになる。詳細は後述するが、このように2つの条件を設定する理由は、フリーラン直前の回転方向が逆転側である場合であっても速度サーチを精度良く行うことを可能にするためである。また、上述した判定閾値は、インバータ装置1が製造工場から出荷される際には初期値(出荷設定閾値)に設定されているが、後述するティーチングにより、運転条件や駆動する電動機3の各種特性などに対応した最適な値に設定される。
【0018】
時刻t5〜t6の間、指令回転速度ωs*は、時刻t5の時点における値(同定された速度)に固定される。これは、電動機3を再始動(再起動)する際における安定性を高めるための待ち時間である。この待ち時間が設けられることにより、磁束を安定させて再始動時における振動が抑制される。時刻t6の時点において、電動機3は同定された速度でもって再始動され、その後は通常どおり駆動される。
【0019】
続いて、フリーラン直前における電動機3の回転方向が逆転側である場合について、図3を参照して説明する。図3は、フリーラン直前の回転方向が逆転側である場合における図2相当図である。図3に示すように、時刻t1の時点において電源電圧が遮断されると、電動機3はフリーラン状態となる。そして、時刻t2の時点において電源電圧の供給が復帰する。その後の時刻t2〜t3の間は、前述した図2のケースと同様の待ち時間である。
【0020】
時刻t3の時点において、指令回転速度ωs*は、最大回転速度(最高周波数)に設定される。このときの指令回転速度ωs*が示す回転方向は正転側であり、フリーラン直前の指令回転速度ωs*が示す回転方向(逆転側)とは反対となる。その後の時刻t3〜t4の間は、前述した図2のケースと同様の待ち時間である。
【0021】
時刻t4の時点以降、最高周波数から一定のレートでの周波数掃引が実施される。なお、この場合の電圧指令についても図2のケースと同様に決定される。そして、このように周波数掃引が実施されている間、検出q軸電流Iqの値および検出d軸電流Idの値が随時確認される。図3のケースでは、掃引周波数がゼロを通過するとき(時刻ta)、検出q軸電流Iqの極性が正から負に反転する。また、その後の時刻tbにおいて、検出q軸電流Iqの極性が負から正に反転する。
【0022】
しかし、これら時刻ta、tbの時点において、電動機3の回転速度(実速度)と指令回転速度(掃引周波数)との関係は脱調状態であると考えられる。そのため、これら時刻ta、tbの時点における検出d軸電流の値は、実際に電動機3の回転速度と指令回転速度とが一致する(一致したと判断される)時点(時刻t5)における検出d軸電流の値に比べて大きい値を示す。図3のケースでは、これら時刻ta、tbの時点では、検出d軸電流の値が判定閾値を超えているため、速度同定完了とはならない。
【0023】
その後、時刻t5の時点において、第1の条件および第2の条件の双方が満たされることにより、電動機3の回転速度(実速度)と指令回転速度(掃引周波数)とが一致したと判断される(速度同定完了)。このようなことから、判定閾値は、上述した時刻ta、tbなど、脱調状態であるときの検出d軸電流の値を確実に下回るような値に設定されればよいことになる。その後の時刻t5〜t6の間は、前述した図2のケースと同様の待ち時間である。そして、時刻t6の時点において、電動機3は同定された速度でもって再始動され、その後は通常どおり駆動される。
【0024】
次に、判定閾値を最適値にティーチングする方法(ティーチング機能)について、図4〜図8を参照して説明する。上記ティーチングの概要は、以下のとおりである。
[1]判定閾値の仮の値(仮閾値)を設定する。
[2]試験周波数(指令回転速度ωs*)を周波数1〜8のいずれかに設定する。
[3]設定された試験周波数で電動機3を運転する。
[4]電動機をフリーラン状態とする。
[5]速度サーチを開始する。
[6]速度同定が完了した時点での検出d軸電流の値を取得する。
[7]仮閾値および検出d軸電流の値のうち、高い値を新たな仮閾値に設定する。
[8]全ての周波数1〜8が試験周波数に設定されるまで[2]〜[7]を繰り返す。
[9]最終的に設定されていた仮閾値にマージンαを加えた値を判定閾値に設定する。
ただし、周波数1〜8は、それぞれ値の異なる8通りの周波数である。
【0025】
このようなティーチングの詳細について、図4に示すフローチャートに基づいて説明する。まず、ステップS1において、ティーチングを実施するか否かが判断される。例えば、ユーザは、インバータ装置1の図示しない操作部を操作することで実施の可否を入力する。ティーチングを実施する旨の操作がなされない場合(ステップS1で「NO」)、通常運転が開始される(ステップS2)。
【0026】
一方、ティーチングを実施する旨の操作がなされた場合(ステップS2で「YES」)、ステップS3に移行する。ステップS3では、変数nが「1」に設定されるとともに、仮閾値が「出荷設定閾値」に設定される(初期設定)。変数nおよび仮閾値は、以降の処理において使用される。出荷設定閾値は、インバータ装置1が製造工場から出荷される際に設定されている初期値である。続くステップS4では、試験周波数が「周波数n」に設定される。従って、最初にステップS4が実施される場合、試験周波数は周波数1に設定される。
【0027】
ステップS5では、ステップS4において設定された試験周波数で電動機3が運転される。そして、ステップS6において電動機3がフリーラン状態とされ、ステップS7において速度サーチが開始される。続くステップS8では、速度サーチが完了したか否かが判断される。速度サーチが完了したと判断されると(ステップS8で「YES」)、ステップS9に移行する。ステップS9では、速度サーチが完了した時点における検出d軸電流(検出励磁電流)の値が取得される。
【0028】
ステップS10では、ステップS9において取得された検出d軸電流の値(検出値)と仮閾値との比較が行われる。検出値が仮閾値より大きい場合(ステップS10で「YES」)、ステップS11に移行する。ステップS11では、ステップS9において取得された検出値が新たな仮閾値として設定され、ステップS12に移行する。一方、検出値が仮閾値より小さい場合(ステップS10で「NO」)、ステップS11を実行することなくステップS12に移行する。
【0029】
ステップS12では、変数nの値が「1」だけインクリメントされる(n=n+1)。続くステップS13では、変数nの値が「8」より大きいか否かが判断される。この場合、n=2であるため、「NO」となり、ステップS4に戻る。その後は、ステップS13において「YES」となるまで(変数nが9になるまで)、ステップS4〜S13の処理が繰り返し実行される。つまり、8つの周波数1〜8の全てが試験周波数として設定されるまで、ステップS4〜S13の処理が繰り返し実行される。
【0030】
このような処理により、ステップS13で「YES」になった時点における仮閾値は、出荷設定閾値および取得された8つの検出d軸電流の値のうち、最も大きい値と同一の値に設定されていることになる。そして、ステップS14において、仮閾値に対しマージンαを加えた値が判定閾値として設定され、処理が終了する。
【0031】
図5は、上記一連の動作(運転→フリーラン→速度サーチ)が実施されている期間における電動機3の回転速度を示しており、図6は、同期間における指令回転速度ωs*を示している。本実施形態では、図5および図6に示すように、周波数1(f1)は80Hz、周波数2(f2)は70Hz、周波数3(f3)は60Hz、周波数4(f4)は50Hz、周波数5(f5)は40Hz、周波数6(f6)は30Hz、周波数7(f7)は20Hz、周波数8(f8)は15Hzとしている。なお、周波数1〜8の値は、適宜変更可能であり、例えば、実際に想定される電動機3の速度範囲内の任意の8つの周波数などに設定するとよい。また、試験周波数として設定する周波数は8通りに限らずともよく、その数は適宜変更可能である。
【0032】
図7は、速度サーチが実施されている期間における電動機3の指令回転速度を示しており、図8は、同期間における検出d軸電流の波形を示している。図7および図8に示すように、速度サーチが完了した時点における検出d軸電流の値(最小値)、つまりステップS9において取得される検出d軸電流の値は、設定されている試験周波数ごとに異なっていることが分かる。具体的には、試験周波数が低いほど、検出d軸電流の最小値が大きくなっている。つまり、周波数1を試験周波数として速度サーチを実施した場合の検出d軸電流の値が最も小さい値であり、周波数8を試験周波数として速度サーチを実施した場合の検出d軸電流の値が最も大きい値である。
【0033】
このように、速度サーチが実施される際における検出d軸電流の値(状態量)は、周波数などの運転条件に応じて変化する。さらに、上記検出d軸電流の値は、使用される電動機3の特性(例えば、磁気飽和特性など)によっても変化する。そのため、判定閾値として固定の値を用いて速度サーチを実施すると、正しく速度同定が行えない事態が生じる可能性がある。例えば、想定される検出d軸電流の最小値のうち最も小さい値(例えば周波数1のときの値)よりも判定閾値が小さく設定されている場合、第1の条件および第2の条件の双方を満たすことができなくなり、速度同定が完了しない。また、判定閾値がむやみに大きく設定されている場合、前述した電動機3の回転速度と指令回転速度との関係が脱調状態であるときに第1の条件および第2の条件の双方を満たしてしまい、誤った速度同定が行われてしまう。
【0034】
これに対し、本実施形態の電動機制御部4は、速度サーチを行う際に用いられる判定閾値をティーチングする機能を備えている。そして、そのティーチングは、実際に適用される電動機3を実際の運転条件に近い形で運転しながら行われる。上記ティーチングが実施される結果、想定される検出d軸電流の最小値のうち最も大きい値(例えば周波数8のときの値)に対しマージンαを加えた値が判定閾値として設定される。これにより、インバータ装置1は、運転条件や使用される電動機3の特性などに対応した判定閾値を用いた速度サーチを実行することが可能となる。従って、本実施形態によれば、適用する電動機3の特性や運転条件などが変化する場合であっても、フリーラン時における速度サーチを精度良く実施することができる。そのため、電動機3がフリーラン状態となった後の再始動の信頼性を高めることができる。
【0035】
なお、本実施形態は次のように変形してもよい。すなわち、前述した試験周波数および検出d軸電流の最小値の関係を利用し、電動機3の運転周波数に応じて判定閾値を変化させるようにしてもよい。具体的には、運転周波数が低くなるに従って判定閾値を高くするとともに、運転周波数が高くなるに従って判定閾値を低くする。このようにすれば、速度サーチの精度が一層高まるという効果が得られる。
【0036】
また、フリーラン状態の電動機の回転速度を同定する速度サーチの方法については、上述した手法に限らずともよく、電動機の端子間電圧に基づいて間接的に回転速度を検出する手法を除いた様々な手法に変更可能である。その場合、それらの速度サーチにおいて速度同定の条件を設定するために用いられるパラメータをティーチングし、最適化を図ればよい。
【0037】
図9および図10は、速度サーチの方法を変更した一変形例を示している。図9は、本変形例の構成を示す図1相当図である。図9に示すインバータ装置21は、図1に示したインバータ装置1と同様に速度センサレス制御により電動機3を駆動する。インバータ装置21の電動機制御部22は、図1に示したインバータ装置1の電動機制御部4に対し、速度推定部8および電圧指令演算部9に代えて、電圧指令演算部23を備えている点が異なる。電圧指令演算部23は、減算器24、P演算器25、減算器26、PI演算器27、除算器28および加算器29を備えている。
【0038】
減算器24およびP演算器25は、d軸電流制御を行う。すなわち、減算器24は、指令d軸電流Id*から検出d軸電流Idを減じてd軸電流偏差を求める。P演算器25は、d軸電流偏差に対してP演算(比例演算)を行って指令d軸電圧Vd*を出力する。減算器26およびPI演算器27は、q軸電流制御を行う。すなわち、減算器26は、指令q軸電流Iq*から検出q軸電流Iqを減じてq軸電流偏差を求める。PI演算器27は、q軸電流偏差に対してPI演算(比例積分演算)を行って指令q軸電圧Vq*を出力する。除算器28は、指令q軸電圧Vq*を係数Kで除して周波数ωbemfを求める。加算器29は、掃引周波数ωscanに周波数ωbemfを加えて一次周波数ω1を求める。その一次周波数ω1は、座標変換部5、6に与えられ、座標変換の基準とされる。
【0039】
上記構成の電動機制御部22による速度サーチ機能について図10を参照して説明する。図10において、(a)は速度サーチが成功した場合における各部の波形を示し、(b)は速度サーチが失敗した場合における各部の波形を示している。フリーラン状態の電動機3の速度を同定する速度サーチが開始されると、指令q軸電流Iq*がゼロにクランプされるとともに、図10に示すような掃引周波数ωscanが与えられる。すなわち、掃引周波数ωscanは、最高周波数から一定の傾き(低減レート)でもって低減される(周波数掃引)。
【0040】
掃引周波数ωscanが電動機3の実際の回転速度ωrに近づくと、q軸電流制御の結果である指令q軸電圧Vq*が増加する。この状態から掃引周波数ωscanをゼロにしても、一次周波数ω1(=周波数ωbemf)は、電動機3の実際の回転速度ωrに相当する値に収束する。つまり、この状態を以って速度同定が完了したとされる(図10(a)参照)。
【0041】
図10(b)は、図10(a)のケースに比べ、掃引周波数ωscanの低減レートが高くなっている(高速化された事例)。このように低減レートが高い場合には、掃引周波数ωscanおよび回転速度ωrの同期期間が不足することがある。同期期間が不足すると、周波数ωbemfが十分な上昇に至らず、図10(b)に示すように速度サーチが失敗するおそれがある。
【0042】
速度サーチにおける周波数ωbemfの変化(隆起の振る舞い)については、電流制御系の応答、適用する電動機3の特性、掃引周波数ωscanおよび回転速度ωrの同期期間などと相関関係があると考えられる。本変形例では、これらの整合性をティーチングにより最適化する。つまり、本変形例の電動機制御部22は、掃引周波数ωscanの低減レート(パラメータに相当)のティーチングを行うティーチング機能を有している。
【0043】
上記ティーチングの方法の概略は以下のとおりである。すなわち、互いに異なる掃引周波数ωscanの低減レートによる速度サーチを複数回実行する。そして、それら速度サーチが失敗するか成功するかの境界付近の低減レートを求める。その境界付近の低減レートに所定のマージンを加えたレート(マージンαだけ低速化した低減レート)を、ティーチングにより最適化された低減レートとして設定する。このようにティーチングされた掃引周波数ωscanの低減レートでもって速度サーチを実施することにより、速度サーチを確実に成功させることが可能となる。
【0044】
なお、上記実施形態では、電動機3は三相の誘導電動機である例を示したが、例えばブラシレスDCモータなどの永久磁石モータなど、他の電動機であってもよい。
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
図面中、1、21はインバータ装置、3は電動機、4、22は電動機制御部を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の回転速度を検出する速度検出手段を用いることなく速度センサレス制御により電動機を駆動する電動機制御部を備えたインバータ装置であって、
前記電動機制御部は、
前記電動機がフリーラン状態であるときの回転速度を所定のパラメータを用いた条件に基づいて同定する速度サーチ機能と、
前記電動機を実際の運転条件に基づいて運転させながら前記パラメータをティーチングするティーチング機能と、
を有することを特徴とするインバータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−106461(P2013−106461A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249638(P2011−249638)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(302038844)東芝シュネデール・インバータ株式会社 (78)
【Fターム(参考)】