説明

インバートコンクリートの堰止め装置

【課題】インバートコンクリート打設時の堰止めを迅速に行ってセグメントの浮き上がり等を有効に防止する。
【解決手段】トンネルTの底部に打設されるインバートコンクリートの堰止め装置1であって、トンネルT底部の内周面Fに沿った円弧状の下端外周を有する堰止め枠2と、堰止め枠2の背後を支持して内周面F上をトンネルTの長手方向へ移動可能な台車3と、台車3を所定位置で、内周面Fに固定する固定手段とを備える。固定手段は、内周面Fを構成するセグメントSのグラウト注入用ナットに螺入したボルトによってセグメントSに固定される受け枠65を備えており、当該受け枠65に台車3を、伸縮可能な棒ジャッキ64で連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトンネル工事においてインバートコンクリートを打設する際に使用する堰止め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルのシールド工法において、シールドマシンによって掘削された土砂をインバートコンクリートに骨材として使用することによって廃棄物の低減を図ることが行われている。この場合、シールドマシンによって掘削された地山の内周にセグメントを敷設した後、その浮き上がりを防止する等のために可及的速やかにインバートコンクリートを打設する必要があり、打設コンクリートの堰止め作業の迅速化が要請されている。なお、特許文献1にはトンネルのインバート切削作業を迅速に行える切削装置が示されている。
【特許文献1】特開平8−218776
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし従来、インバートコンクリートを打設する際の堰止めは、木製の堰止め枠をその都度組み立てる方法によっているため、迅速な対応が困難であるという問題があった。
【0004】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、インバートコンクリート打設時の堰止めを迅速に行ってセグメントの浮き上がり等を有効に防止できるインバートコンクリートの堰止め装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本第1発明では、トンネル(T)の底部に打設されるインバートコンクリートの堰止め装置(1,7)であって、トンネル(T)底部の内周面(F)に沿った円弧状の下端外周を有する堰止め枠(2,71)と、堰止め枠(2,71)の背後を支持して内周面(F)上をトンネル(T)長手方向へ移動可能な台車(3,8)と、堰止め枠(2,71)ないし台車(3,8)を所定位置で、内周面(F)に固定する固定手段(64,65,72)とを備えている。ここで、「インバートコンクリート」の語は、インバート埋め戻し材を広く含む意である。
【0006】
本第1発明においては、台車によって堰止め枠を所望の位置へ移動させた後、固定手段によって堰止め枠ないし台車をトンネル底部の内周面に固定することによって、打設されたインバートコンクリートの荷重に耐えうる堰止めを迅速に行うことができる。
【0007】
本第2発明では、上記固定手段は、内周面(F)を構成するセグメント(S)のグラウト注入用ナット(66)に螺入したボルト(67)によってセグメント(S)に固定される受け枠(65)を備えており、当該受け枠(65)に台車(3)を、伸縮可能な棒ジャッキ(64)で連結してある。
【0008】
本第2発明においては、グラウト注入用ナットを利用して受け枠をセグメントに固定し、固定された受け枠と台車の相対間隔の変動に応じて棒ジャッキを適当に伸縮して両者を連結することにより、台車をセグメントに迅速かつ確実に固定することができる。
【0009】
本第3発明では、上記固定手段は、堰止め枠(71)に突設された受け梁(72)を備え、当該受け梁(72)が内周面(F)を構成するセグメント(S)に固定され、かつ、上記台車(8)は堰止め枠(71)を搬送するパレットトラック(82)又は自走装置を備えている。
【0010】
本第3発明においては、パレットトラック又は自走装置を使用して堰止め枠を簡易かつ容易に移動させることができるとともに、移動後はグラウト注入用ナットを利用してこれに受け梁をボルト固定することによって、堰止め枠を確実にセグメントに固定することができる。
【0011】
なお、上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明のインバートコンクリートの堰止め装置によれば、インバートコンクリート打設時の堰止めを迅速に行ってセグメントの浮き上がり等を有効に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1実施形態)
図1にはシールド工法や推進工法等で掘削されたトンネルの下半部横断面を示し、図2にはその縦断面を示す。シールドマシンで円形に掘削されたトンネルTの内周面にはこれに沿って、一定厚で適当形状とした多数のセグメントSが公知の方法で互いに連結され敷設されて一次覆工面Fを形成している。シールドマシンが通過しセグメントSが敷設されたトンネルTの一次覆工面F底部には、以下に説明する堰止め装置1を使用してインバートコンクリートが打設される。図2において、符号Cは既設のインバートコンクリートであり、一次覆工面F上に平らな上面を有して一定高さで形成されている。この既設のインバートコンクリート(以下、既設コンクリートという)Cに対して、シールドマシンの側(図2の右方)へ所定間隔離して堰止め装置1が位置させられている。そして、既設コンクリートCの端面とこれに略平行に対向する上記堰止め装置1の堰止め枠2との間の空間Spに、新たなインバートコンクリートが打設される。なお、図1および図2中、符号Bは作業車用のレール等を支持するために一次覆工面Fの内周側面間に架設されたH型鋼よりなる仮設枕木である。
【0014】
上記堰止め枠2は上下に分割された板体で、上板21と下板22はヒンジ機構23によって結合され、台車3との間に配設された棒ジャッキ51によって上板21を後方へ傾倒操作できるようになっている。て上板21を前方(図2の鎖線)へ傾倒させることができるようになっている。上板21を起立させた状態で堰止め枠2は既設コンクリートCの高さとほぼ同じ高さになり、その全体の形状は、下端外周がトンネルT底部のセグメントSの内周面、すなわち一次覆工面Fに沿った円弧状であるとともに、上端面はトンネルT空間を横断する直線状となっている。なお、堰止め枠2の外周には、インバートコンクリートの漏れ防止用としてエア入りのシールチューブ24が装着されて、これが一次覆工面Fに密着している。
【0015】
堰止め枠2の下板22は背後を台車3によって支持されている。台車3は梁材を組み合わせたもので正面視(図1)では、下方へ湾曲する下梁31と水平な上梁32を有し、これらの間を複数の縦梁33が間隔をおいて連結している。台車3は側面視(図2)では斜め梁34を備えた矩形のもので、その上梁35と下梁36の一端が上記堰止め枠2の下板22の背面に固定されている。台車3の頂部中央には容器にコンクリートを詰めたカウンタウエイト37が設けられるとともに、その下方には前後位置に、トンネル幅方向へ水平に延びる支持梁38,39(図1に一方のみ示す)が配設されている。
【0016】
各支持梁38,39の両端には一次覆工面Fに向けて支持脚40が設けられて、これらに前側タイヤ41および後側タイヤ42が回転自在に装着されている(図2)。このうち、左右の後側タイヤ41はモータ43に連結されて回転駆動される。後側タイヤ41を正逆回転させることにより、堰止め装置1は前後のタイヤ41,42で支持されつつ一次覆工面F上をトンネルの長手方向へ正逆移動させられる。
【0017】
前後の上記支持梁38,39の下面左右位置にはブラケット下端に昇降ジャッキ61が吊設してあり、これら昇降ジャッキ61の下側には横行ジャッキ62が設けられている。横行ジャッキ62の下面には一次覆工面Fに向けて脚板63が突設されている。台車3の各縦梁33の下端には棒ジャッキ64の一端が連結されており、各棒ジャッキ64はトンネルT長手方向の前方へ延びて、各他端が受け枠65に結合されている。受け枠65はU型鋼を一次覆工面Fに沿った円弧状に湾曲成形したもので(図1参照)、上記棒ジャッキ64の他端が受け枠65の後側面に結合されている。
【0018】
受け枠65は図3に示すように、その底壁の長手方向複数箇所が、一次覆工面Fを構成する各セグメントSのグラウト注入用ナット66に螺入したボルト67によって上記各セグメントSに固定されている。受け枠65の前側面には適当数の棒ジャッキ68(図2)の一端が連結され、これら棒ジャッキ68のU字形に成形された他端は図4に示すように他のセグメントSに設けたボルト67の棒状部671に後方より係合させてある。なお、台車3上には梯子と手摺を備えた作業台44が設けられている。
【0019】
このような構造の堰止め装置1でインバートコンクリートを打設する場合には堰止め枠2の上板21を前方へ傾倒させた状態で、前側タイヤ41をモータ43で回転駆動して、堰止め枠2を図2に示すように既設コンクリートCに対して所定の前方位置に位置させる。この後、上記上板21を起立させるとともに、昇降ジャッキ61を伸長させて脚板63を一次覆工面Fに圧接させて台車3と堰止め枠2をトンネルTの前後方向で位置決めする。さらにこの状態で横行ジャッキ62によって台車3と堰止め枠2をトンネルTの幅方向で位置決め調整する。次に棒ジャッキ64を伸縮させて、受け枠65を前後方向へ移動させ、その取付穴651(図3)をセグメントSのナット66の雌ネジ部に一致させる。そして、ナット66にボルト67を螺入して受け枠65を固定する。さらに必要な場合には、受け枠65から前方へ延びる棒ジャッキ68(図2)を適当に伸縮させて、その先端をセグメントSに取り付けたボルト67(図4)の棒状部671に後方より係合させる。
【0020】
この状態で、既設コンクリートCと堰止め枠2の間の空間Spに新たなインバートコンクリートを打設すると、打設されたコンクリートは堰止め枠2によって漏れることなく空間Sp内へ貯留される。この際に、堰止め枠2には打設されたコンクリートの大きな荷重が印加するが、これは台車3から棒ジャッキ64を介して、セグメントSに固定された受け枠65によって受けられる。また、コンクリート荷重は、必要な場合は棒ジャッキ68を介してセグメントSのボルト67によっても受けられる。
【0021】
このように本実施形態の堰止め装置1は、一次覆工を終えたトンネル内周面上を速やかに移動して堰止め枠2を所定位置に位置決めし、新たに注入されたインバートコンクリートの荷重を確実に受け止めて、迅速なコンクリート打設作業を可能とし、セグメントSの浮き上がり等を有効に防止することができる。
【0022】
なお、堰止め枠2の下板22外周の、一次覆工面Fに密着するシールチューブ24に穴開き等の損傷が生じた場合に、打設されたインバートコンクリートが漏れないように対策した例を図5に示す。図5に示すように、シールチューブ24の背後に、垂直壁と水平壁を備えたL字形の補助押さえ金具102を位置させて、各壁の表面に貼着したスポンジゴム101によってシールチューブ24背後の、下板22の下方間隙を密閉する。補助押さえ金具102の背後は棒ジャッキ100にて支持させる。
【0023】
(第2実施形態)
図6にはシールド工法で掘削されたトンネルTの下半部に設置された堰止め装置7の背面図を示し、図7、図8にはそれぞれ図6におけるVII-VII線およびVIII-VIII線に沿った垂直断面図を示す。堰止め装置7は堰止め枠71を備えており、堰止め枠71は下端外周がトンネルT底部に配設されたセグメントSの内周面、すなわち一次覆工面Fに沿った円弧状となるとともに、上端面はトンネル空間を横断する直線状となっている。堰止め枠71の下端外周には周方向へ間隔をおいて複数箇所に、U型鋼よりなる受け梁72が前方へ突設してあり(図8)、これら受け梁72の底壁に設けた複数箇所の取付孔721に挿通させたボルト73(図9)が、一次覆工面Fを構成するセグメントSに埋設されたグラウト注入用ナット74に螺入されて受け梁72、すなわち堰止め枠71がセグメントSに固定されている。
【0024】
堰止め枠71の中央部左右位置には一次覆工面Fの上方に一定間隔離れてこれと平行に、下方へ向く一対のU型鋼が主梁75として前方へ向けて延設してある(図7)。主梁75には基端部に、傾倒状態(図7の状態)と起立状態に回動可能な脚アーム751が設けてあり、脚アーム751の先端にはキャスター752が装着されている。主梁75と堰止め枠71との間には斜め梁76が架設されており、また、主梁75の後端部上にはカウンターウエイト81が載置されている。さらに主梁75の下方にはパレットトラック82のフォーク821が差し込まれている。このような主梁75、斜め梁76、キャスター752およびパレットトラック82によって台車8が構成されている。
【0025】
堰止め枠71の前面右半部にはトンネルT幅方向の二箇所に、当該前面から前方へ延びる副梁77が設けられ(図8)、各副梁77と堰止め枠71との間には斜め梁78が架設されている。また、各副梁77の先端下面には一次覆工面Fに向かって突出してこれに当接する脚梁771が設けられている。
【0026】
このような堰止め装置7を使用する場合には、パレットトラック82によって主梁75を介して堰止め枠71を持ち上げる。そして、脚アーム751を起立状態に回動させてキャスター752を主梁75の下方の一次覆工面F上へ突出させる。この状態で堰止め枠71を適当位置へ移動させた後、脚アーム751を傾倒させてキャスター752を上昇後退させ、パレットトラック82によって堰止め枠71を下降させる。これにより、堰止め枠71の下端外周が一次覆工面Fに接する。この後、堰止め枠71を受け梁72を介してセグメントSに固定する。
【0027】
既設コンクリートC(図2参照)と堰止め枠71の間の空間に新たなインバートコンクリートを打設すると、打設されたコンクリートは堰止め枠71によって漏れることなく空間内へ貯留される。この際に、堰止め枠71には打設されたコンクリートの大きな荷重が印加するが、これはセグメントSに固定された受け梁72によって受けられる。本実施形態の堰止め装置7によっても第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0028】
なお、当該堰止め枠71は、施工時の安全管理上の装置として、第1実施形態の堰止め枠1と併用することもある。この場合、堰止め枠1によって新たなインバートコンクリートを打設する際、ボルト67(図4参照)の棒状部671よりもトンネル切羽側に当該堰止め枠71を位置させる。これにより、万一、打設時に堰止め枠1が崩壊してコンクリートが流出しても当該堰止め枠71によって堰止めることができる安全装置として機能する。このような実施では、作業員が堰止め枠1の施工場所へ往来する際の通行上の安全を考慮して、図8に示すように、副梁77、斜め梁78、脚梁771によって強化された堰止め枠71の右半部上に頂部91を位置させて堰止め枠71の前方および後方へ下る作業階段9が設置される。
【0029】
また、第1実施形態及び第2実施形態では、シールド工法において、シールドマシンによって掘削された土砂をインバートコンクリートに骨材として使用するとして説明しているが、シールド工法以外のトンネル掘削工法やその他のトンネル掘進機であっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態における、シールド工法で掘削されたトンネルの下半部横断面である。
【図2】シールド工法で掘削されたトンネルの下半部縦断面図である。
【図3】受け枠固定部の垂直断面図である。
【図4】棒ジャッキ係止部の垂直断面図である。
【図5】堰止め枠の下板下部の拡大垂直断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態における、シールド工法で掘削されたトンネルの下半部に設置された堰止め装置の背面図である。
【図7】図6のVII-VII線に沿った垂直断面図である。
【図8】図6のVIII-VIII線に沿った垂直断面図である。
【図9】受け梁固定部の垂直断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1…堰止め装置、2…堰止め枠、3…台車、41,42…タイヤ、64…棒ジャッキ(固定手段)、65…受け枠(固定手段)、7…堰止め装置、71…堰止め枠、72…受け梁(固定手段)、8…台車、F…一次覆工面(内周面)、T…トンネル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの底部に打設されるインバートコンクリートの堰止め装置であって、トンネル底部の内周面に沿った円弧状の下端外周を有する堰止め枠と、堰止め枠の背後を支持して前記内周面上をトンネル長手方向へ移動可能な台車と、前記堰止め枠ないし台車を所定位置で、前記内周面に固定する固定手段とを備えるインバートコンクリートの堰止め装置。
【請求項2】
前記固定手段は、前記内周面を構成するセグメントのグラウト注入用ナットに螺入したボルトによって前記セグメントに固定される受け枠を備えており、当該受け枠に前記台車を、伸縮可能な棒ジャッキで連結してある請求項1に記載のインバートコンクリートの堰止め装置。
【請求項3】
前記固定手段は、前記堰止め枠に突設された受け梁を備えて、当該受け梁が前記内周面を構成するセグメントに固定され、かつ、前記台車は前記堰止め枠を搬送するパレットトラック又は自走装置を備えている請求項1に記載のインバートコンクリートの堰止め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−75254(P2008−75254A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252331(P2006−252331)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000194756)成和リニューアルワークス株式会社 (32)
【出願人】(000158725)岐阜工業株式会社 (56)
【Fターム(参考)】