インパクト締付け工具
【課題】 打撃の誤検出を確実に防止することのできるインパクト締付け工具を提供する。
【解決手段】 モータ1の回転力をハンマによる打撃と共に出力軸3にまで伝達する打撃機構2と、打撃により生じる締付トルクTを算出する締付トルク算出部12と、打撃機構2の打撃発生を検出する打撃検出部11と、締付トルク算出部12により算出した締付トルクTが規定値に達した時点でモータ1の回転を停止させるモータ制御部6とを具備したインパクト締付け工具において、打撃間隔中に電流検出部13が検出する電流値情報を用いて打撃検出の正誤を判定する打撃正誤判定部14を具備し、上記締付トルク算出部12を、打撃正誤判定部14により誤検出と判定された打撃を無効としたうえで締付トルクを算出するものとする。
【解決手段】 モータ1の回転力をハンマによる打撃と共に出力軸3にまで伝達する打撃機構2と、打撃により生じる締付トルクTを算出する締付トルク算出部12と、打撃機構2の打撃発生を検出する打撃検出部11と、締付トルク算出部12により算出した締付トルクTが規定値に達した時点でモータ1の回転を停止させるモータ制御部6とを具備したインパクト締付け工具において、打撃間隔中に電流検出部13が検出する電流値情報を用いて打撃検出の正誤を判定する打撃正誤判定部14を具備し、上記締付トルク算出部12を、打撃正誤判定部14により誤検出と判定された打撃を無効としたうえで締付トルクを算出するものとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インパクトドライバやインパクトレンチ等のインパクト締付け工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図10には、インパクト締付け工具であるインパクトドライバを示している。このインパクトドライバは図示のように、駆動源であるモータ1と、モータ1の回転力をハンマ(図示せず)による打撃と共に出力軸3にまで伝達する打撃機構2とを備え、その打撃力により強力な締付け作業を行うものであり、高回転且つ高トルクという作業性の良さから建築現場や組立て工場等で幅広く使われている。上記打撃機構2は、特に図示はしないが、減速機を介してモータ1により回転駆動される駆動軸と、駆動軸に嵌合して共に回転駆動されるハンマと、ハンマと係合して共に回転駆動されるアンビルと、アンビルに或る一定以上の荷重が生じた場合にハンマを後退させるカム機構と、ハンマの後退によりアンビルとの係合が外れた後に再び打撃を伴ってハンマをアンビルと係合させるスプリングとで形成されており、チャック4を備えた出力軸3がアンビルと一体に回転駆動されるものである。
【0003】
図中の符号5はトリガスイッチであり、その引き込み量に応じてモータ1の回転数即ちハンマや出力軸3の回転数を調整するものである。また、符号6はモータ制御部であり、電池7を電源としてトリガスイッチ5で設定された印加電圧をモータ1に出力するものである。
【0004】
そして、本出願人はこのようなインパクトドライバの締付トルク制御方法として、締付トルクTを算出する締付トルク算出部を備え、これにより算出した締付トルクTが規定値に達した時点でモータ1の回転を停止させるといった方法を提案している(特許文献1参照)。この締付トルク算出部は、一打撃毎の運動エネルギ収支から締付トルクTを推定するものであり、ハンマの打撃により出力軸3の基部に設けたアンビルに与えられるエネルギと、締付け作業で消費されたエネルギとが略等しいという関係から締付トルクTを算出する方法を用いている。
【0005】
具体的には、ねじが着座した後のアンビル回転角θと締付トルクTの関係が図11の様な関数T=τ(θ)で表せるとし、ハンマによる打撃が、それぞれアンビル回転角θ1、…、θnの地点で発生したものとする。関数τを区間[θn、θn+1]で積分した値Enは締付け作業に消費されたエネルギであり、θn地点で発生したハンマ打撃によりアンビルに与えられたエネルギに等しい。よって、区間[θn、θn+1]における平均の締付トルクTは、Enと打撃間回転角Θn=(θn+1−θn)を用いて、
T=En/Θn …(1)
と求まる。締付トルク制御を行うには、この締付トルクTが設定トルクTs以上となったときに、モータ1の駆動を停止させればよい。Enは、打撃間のアンビルの平均回転速度Ωnと、既知のアンビルの慣性モーメントJaを用いて、
En=1/2×Ja×Ωn2 …(2)
と求めることができる。なお、打撃間のアンビルの平均回転速度Ωnは、アンビルの打撃間回転角Θnを打撃間隔で除したものである。
【0006】
この式(1)で表される方法で締付トルクTを求める時には、信頼性の高い打撃検出部が必須であって、実際には存在しない打撃を誤って検出した場合には、誤った締付トルクT算出の結果として、最適な打撃数でモータ1を停止させることができなくなってしまう。
【0007】
そこで、本出願人は既に、出力軸3の回転速度や打撃間回転角や打撃周期を基に、打撃検出の正誤を判定する方法を提案している(特許文献2参照)。しかしながら、インパクト締付け工具を実際に使用する場合には多様な負荷変動が生じ得るので、上記のように出力軸3の回転や打撃周期といった表面的な現象を捉えた方法では判定精度に問題があるものであった。
【特許文献1】特開2000−354976号公報
【特許文献2】特開2001−246573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みて発明したものであって、打撃の誤検出を確実に防止することで締付トルクを高精度に算出することができ、したがって最適な打撃数で作業を停止させることの可能なインパクト締付け工具を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明を、駆動源であるモータ1と、モータ1の回転力をハンマによる打撃と共に出力軸3にまで伝達する打撃機構2と、打撃により生じる締付トルクTを算出する締付トルク算出部12と、打撃機構2の打撃発生を検出する打撃検出部11と、締付トルク算出部12により算出した締付トルクTが規定値に達した時点でモータ1の回転を停止させるモータ制御部6とを具備したインパクト締付け工具において、モータ1に流れる電流を検出する電流検出部13と、打撃検出部11により検出される打撃間隔中に電流検出部13が検出する電流値情報を用いて打撃検出の正誤を判定する打撃正誤判定部14とを具備し、上記締付トルク算出部12が、打撃正誤判定部14により誤検出と判定された打撃を無効としたうえで締付トルクTを算出していくものであることを、特徴としたものとする。
【0010】
上記構成のインパクト締付け工具にあっては、打撃検出の正誤判定を、出力軸3の回転や打撃周期といった表面的な現象に依るのではなく、モータ1に流れる電流値情報といったより本質的な現象を基に行うことで、多様な負荷変動に対しても打撃の誤検出を確実に防止することができ、これにより締付トルクTを高精度に算出して最適な打撃数でモータ1を停止させることが可能になる。
【0011】
また、上記インパクト締付け工具において、モータ1の回転速度ωを検出する回転速度検出部10を具備するとともに、上記打撃正誤判定部14が、回転速度検出部10により検出される回転速度ωに応じて変更される閾値と電流値情報との比較により打撃検出の正誤を判定するものであることも好適である。電流値情報の最適な閾値は回転速度ωに応じて変化するので、このようにすることで打撃検出の正誤判定を更に高精度で行うことができる。
【0012】
上記打撃正誤判定部14は、電流値情報として最大電流値を用いるとともに該最大電流値が閾値以下となる場合に打撃検出を誤検出と判定するものであることが好適である。このようにすることで、特に高速回転時の打撃検出の正誤判定を、高精度で行うことができる。
【0013】
また、上記打撃正誤判定部14が、電流値情報として電流振幅値を用いるとともに該電流振幅値が閾値以下となる場合に打撃検出を誤検出と判定するものであることも好適である。このようにすることで、特に低速回転時の打撃検出の正誤判定を、高精度で行うことができる。
【0014】
また、モータ1の回転速度ωを検出する回転速度検出部10を具備するとともに、上記打撃正誤判定部14が、最大電流値と電流振幅値のうち少なくとも一方を電流値情報として選択的に用い、且つ該選択を回転速度検出部10により検出される回転速度ωに応じて自動的に行うものであることも好適である。このようにすることで、低速から高速までの広範な速度範囲において、打撃の正誤判定を高精度で行うことができる。
【0015】
そして、金工作業での正誤判定を高精度で行う為に、モータ1の回転角Δrを検出する回転角検出部9を具備するとともに、上記打撃正誤判定部14が、打撃検出部11により検出される打撃間隔中に回転角検出部9が検出する回転角Δrが閾値以上となる場合には、電流値情報を用いた判定に関わらず打撃検出を誤検出と判定するものであることも好適である。金工作業にあっては、ねじ立て時の穴あけ状態で生じる速度変動を基に誤って打撃を検出してしまう場合があるが、上記判定によればこの打撃検出を誤検出として確実に判定し、最適な打撃数でモータ1を停止させることが可能になる。
【0016】
また、金工作業での正誤判定を高精度で行う為に、上記打撃正誤判定部14が、所定回数だけ連続して打撃検出を正検出と判定した場合には、以降の打撃検出を全て正検出と判定するものであることも好適である。これにより、金工作業中の軽負荷状態での打撃検出を全て正検出であると判定させることができ、これにより、過剰な打撃を加えて被締結部材を破壊することがないように、最適な打撃数でモータ1を停止させることができる。
【0017】
なお、以上述べた各構成は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜組合せ可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、打撃の誤検出を確実に防止することで締付トルクを高精度に算出することができ、したがって最適な打撃数で作業を停止させることの可能なインパクト締付け工具を提供することが可能なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明する。なお、本発明の構成のうち図10、11を基に既述した構成と同様の構成については、同一符号を付して詳しい説明を省略する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態における一例のインパクト締付け工具を示すブロック図である。図示のように本例のインパクト締付け工具には、モータ1の1回転当りにAパルスを出力する周波数ジェネレータ等から成る回転センサ8を備えている。回転角検出部9は、回転センサ8から出力されるパルス数をカウントすることでモータ1の回転角Δrを算出し、またこれを基にアンビル回転角θを算出するものである。ここで、打撃機構2の減速機の減速比をKとすると、ハンマによる打撃開始前にはK×Aパルスをカウントした時点でアンビル即ち出力軸3は一回転する(即ちアンビル回転角θ=2π)こととなる。
【0021】
回転速度検出部10は、回転センサ8の出力するパルス幅を測定することで、モータ1の回転速度ωを検出するものである。また、打撃検出部11は、回転速度検出部10が測定したパルス幅の変化量を基に、打撃機構2中のハンマによる打撃を検出するものである。ここでの打撃検出方法は図2に示すようなものであり、パルス幅変化の短期間の移動平均から長期間の移動平均を引くハイパスフィルタ方法を利用する。
【0022】
具体的には図2(a)に示すように測定したパルス幅を順次記憶していくとともに、所定パルス数Pだけの短期間(イ)の移動平均から所定パルス数Q(>P)だけの長期間(ロ)の移動平均を減算し、その結果を図2(b)に示すようなフィルタ処理パルス幅の変化として記憶していく。そして、最新の測定時(ハ)のフィルタ処理パルス幅から、この測定時(ハ)よりも所定パルス前の測定時(ニ)のフィルタ処理パルス幅を減算することで、図2(c)に示すようなパルス幅変化量を得る。打撃発生時のパルス幅変化量は、検出パルス数の増加に伴い図示のような正弦曲線状に変化するものであり、このパルス幅変化量が所定の閾値α1を超えた時点で打撃を検出させる。また、打撃検出の精度を高める為に、パルス幅変化量が上記閾値α1を越えた後に所定の閾値α2(<α1)を下回らない限りは、閾値α1による打撃検出を再度行わないように設定してもよい。この設定により、打撃以外に起因したパルス幅変化を打撃と誤検出する頻度を減少させることができる。
【0023】
なお、打撃検出部11は、上記のようにパルス幅変化量の測定により検出する構成に限らず、マイクやショックセンサ等の他の手段を用いてハンマによる打撃を検出する構成のものであっても構わない。
【0024】
締付トルク算出部12は、回転角検出部9と打撃検出部11の検出結果を用い、既述した式(1)、(2)を基に打撃により生じた平均の締付トルクTを算出するものである。ここで、アンビル即ち出力軸3の打撃間回転角Θnは、減速比Kと、モータ1の打撃間回転角ΔRと、ハンマの空転角RIとを用いて、
Θn=(ΔR/K)−RI …(3)
と求めることができる。空転角RIは、ハンマが1回転当りに加える打撃数Cで2πを除したものであり、1回転当り2回打撃を加える構造であればRI=π、1回転当り3回打撃を加える構造であればRI=2π/3となる。
【0025】
なお、モータ1がブラシレスモータである場合には、上記回転センサ8を配する代わりに該ブラシレスモータのロータ位置を検出する手段を備え、この検出結果を基にモータ1の回転角Δrや回転速度ωを算出してもよい。この場合、一回転当りのロータ位置の検出回数が回転センサ8の出力するパルス数に相当し、ロータ位置の検出幅が回転センサ8のパルス幅に相当する。
【0026】
電流検出部13は、回転センサ8の立ち上がり検出毎にモータ1に流れる電流値を検出し、記憶するものである。そして、打撃正誤判定部14は、打撃検出部11により検出される打撃毎に、前回の打撃検出から今回の打撃検出までの間に電流検出部13にて検出されて記憶された電流値情報を用いて、今回の打撃検出の正誤を判定するものである。上記電流値情報としては、電流平均値、電流最大値、電流振幅値のいずれかを用い、これら電流値情報が閾値を超えれば今回の打撃検出が正検出であると判定し、閾値以下となる場合には今回の打撃検出が誤検出であると判定するように設定している。上記の電流振幅値は、打撃間の電流値の最大値と最小値との差である(図3参照)。
【0027】
なお、この打撃正誤判定部14や、既述した回転角検出部9、回転速度検出部10、打撃検出部11、締付トルク算出部12といった各部は、最適な打撃数でモータ1を自動的に停止させる為の制御回路部19を構成するものである。
【0028】
図4、図5には、電流情報値として電流最大値と電流振幅値を用いた場合の打撃正誤判定を示している。図示のように、一般的にモータ1が高速となる程に打撃間の電流最大値は大きくなり、また、モータ1が高速となる程に打撃間の電流振幅値は小さくなる。電流最大値がこのようになるのは、モータ1の回転が高速となる程に印加電圧を高くするからであり、また電流振幅値がこのようになるのは、モータ1の回転が高速となる程にハンマの慣性力が大きくなり、したがって打撃に伴う速度変化が小さくなるからである。
【0029】
図4には、回転速度検出部10により検出されるモータ1の回転速度ωが所定の閾値以下である低速領域においては電流振幅値を用いて正誤判定を用い、閾値を越える高速領域においては電流最大値を用いて正誤判定を行う場合を示している。この場合、低速領域においては、打撃正誤判定部14において電流振幅値と所定の閾値とを対比し、電流振幅値が閾値以下となる場合にその打撃検出を誤検出と判定する。高速領域においては、打撃正誤判定部14において電流最大値と所定の閾値とを対比し、電流最大値が閾値以下となる場合にその打撃検出を誤検出と判定する。このように、正誤判定に用いる電流値情報をモータ1の回転速度ωに応じて自動的に選択させることで、低速から高速までの広範な速度範囲における高精度での正誤判定が可能になる。また、図5に示すように、低速領域においては電流振幅値を用いて正誤判定を用い、高速領域においては電流振幅値と電流最大値を併用して正誤判定を行い、電流振幅値と電流最大値の少なくとも一方(若しくは両方)が閾値以下となる場合に誤検出と判定してもよい。また、更に電流情報値として電流平均値を用い、電流平均値と所定の閾値とを対比させ、電流平均値が閾値以下となる場合にその打撃検出を誤検出と判定するように正誤判定を行ってもよい。この場合には最大電流値と電流振幅値と電流平均値のうち少なくとも一つをモータ1の回転速度ωに応じて自動的に選択して用いるように、打撃正誤判定部14を設定することが好適である。
【0030】
なお、モータ1の回転速度ωに応じて打撃間の電流平均値、電流最大値、電流振幅値といった各種の電流値情報は変化するので、これら電流値情報との対比に用いる閾値は、図6に例示するように回転速度検出部10の検出結果に応じて自動的に変更させる。
【0031】
締付トルク算出部12は、打撃正誤判定部14により誤検出と判定された打撃を無効としたうえで締付トルクTを算出していく。そして、このように誤検出を排除して算出された締付トルクTが規定値に達した時点で、モータ制御部6がモータ1の回転を停止させる。
【0032】
上記の正誤判定を行う打撃正誤判定部14を備えることで、特に木工作業や化粧材作業においては打撃検出に十分な精度を確保することができる。しかし、図7に示すような金工作業を行うに際しては、打撃検出の精度を確保することが困難な場合がある。これは、図示のように木工用のねじ15とは異なり、金工用ねじ(テクスねじ)16はその先端の180度対称個所に一対の刃部16aを形成しており、この刃部16aを用いて通常二枚の鉄板17,18から成る作業対象部材を削って穴あけを行うとともに、刃部16aよりも基端側に形成してあるねじ切り部16bを用いて穴にねじを切るものであって、図7(b)に示すように穴あけ状態がある程度進行してねじ切りが開始されると急激に負荷が増して打撃状態となり、刃部16aが鉄板17,18を貫通した直後からは、ねじ切りのみの軽負荷となって打撃を発生させないか或いは非常に負荷の小さな打撃を発生させる軽負荷状態となり、金工用ねじ16の頭部16cが着座した時点からは負荷が急激に増加して打撃状態を再開させ、数回の打撃後に最適な作業完了状態になるといった、木工作業とは異なる状態を経るからである。
【0033】
上記の状態を経る金工作業においては、既述した判定方法では図8にX、Yで示すように判定される正誤判定を、図9のように判定させることが好ましい。図中のXで示す状態は、ねじ立て時に刃部16aでの切削を行う穴あけ状態である。この穴あけ状態において金工用ねじ16が多少なりとも傾いていれば、出力軸3即ち金工用ねじ16が一回転する間に、刃部16aの存在を原因として速度変動が生じてしまう。したがって、出力軸3が一回転する間に打撃検出部11はこの速度変動を打撃発生による速度(パルス幅)変動であると誤検出し、しかも既述の電流値情報だけを用いた判定方法では、打撃正誤判定部14にてこの速度変動期間における誤った打撃検出を、誤検出であると判定できない場合がある。
【0034】
そこで、この期間の打撃検出を誤検出であると確実に判定する為に、打撃検出部11により検出された打撃間隔中に回転角検出部9が検出するモータ1の打撃間の回転角Δr(即ち打撃間回転角ΔR)が所定の閾値以上となるときには、電流値情報を用いた判定に関わらずその打撃検出を誤検出と判定するように打撃正誤判定部14を設定する。
【0035】
上記閾値は、アンビル即ち出力軸3の一回転に相当する値とする。通常、出力軸3が固定された状態でのハンマ打撃に起因する速度変化は、出力軸3の一回転相当分だけモータ1が回転する間にC回(2、3回等の複数回)発生するものであり、これに対して刃部16aに起因する速度変化は、出力軸3の一回転相当分だけモータ1が回転する間に一回発生するものであるから、上記のように判定することで、金工作業特有の穴あけ状態での刃部16aに起因する誤った打撃検出を、確実に誤検出であると判定することができる(図9参照)。
【0036】
また、図中のYで示す状態は、着座前に一時的に負荷が軽くなる軽負荷状態であり、この状態においては、電流最大値や電流振幅値等の電流情報値がいずれも閾値未満となって、打撃検出部11で打撃検出があってもこれを打撃正誤判定部14にて誤検出と判定する場合がある。軽負荷状態を経て着座した後は、数回の打撃を加えた時点でモータ1を確実に停止させないと金工用ねじ16の頭部16cを引きちぎってしまうのだが、軽負荷状態での打撃検出を誤打撃と判定した場合には、着座後に再開した打撃状態を新たな作業の打撃状態であると認識して軽負荷状態以前の打撃による締付トルクを無効にしてしまう恐れがあり、この場合には過剰な打撃によって金工用ねじ16を破壊してしまう。
【0037】
そこで、打撃検出部11にて検出した打撃を、所定回数だけ連続して正検出であると判定した場合には、それ以降の打撃検出を全て正検出と判定するように上記打撃正誤判定部14を設定する。これにより、着座後に再開される打撃状態にて過剰な打撃で金工用ねじ16を破壊することを防止するものである。
【0038】
以上、本例においてはインパクト締付け工具としてインパクトドライバを基に説明したが、これに限定されずインパクトレンチ等の他のインパクト締付け工具であっても同様の構成が適用可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態における一例のインパクト締付け工具の基本構成を示すブロック図である。
【図2】同上のインパクト締付け工具の打撃検出方法の説明図であり、(a)、(b)、(c)はそれぞれパルス幅、フィルタ処理後パルス幅、パルス幅変化量の変化を示している。
【図3】同上のインパクト締付け工具の電流サンプリング値と打撃検出との関係を示す説明図である。
【図4】同上のインパクト締付け工具の打撃正誤判定方法を示す説明図である。
【図5】同上のインパクト締付け工具の他の打撃正誤判定方法を示す説明図である。
【図6】同上のインパクト締付け工具の電流値情報と回転速度との関係を示す説明図である。
【図7】同上のインパクト締付け工具による金工作業の説明図であり、(a)は木工用ねじと金工用ねじとの比較、(b)は金工作業の様子を示している。
【図8】同上のインパクト締付け工具による金工作業時の打撃正誤判定方法を示す説明図である。
【図9】同上のインパクト締付け工具による金工作業時の他の打撃正誤判定方法を示す説明図である。
【図10】従来のインパクト締付け工具全体の構成を示す概略図である。
【図11】従来のインパクト締付け工具における締付トルク算出法の説明図である。
【符号の説明】
【0040】
1 モータ
2 打撃機構
3 出力軸
6 モータ制御部
9 回転角検出部
10 回転速度検出部
11 打撃検出部
12 締付トルク算出部
13 電流検出部
14 打撃正誤判定部
T 締付トルク
Δr モータの回転角
ω モータの回転速度
【技術分野】
【0001】
本発明は、インパクトドライバやインパクトレンチ等のインパクト締付け工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図10には、インパクト締付け工具であるインパクトドライバを示している。このインパクトドライバは図示のように、駆動源であるモータ1と、モータ1の回転力をハンマ(図示せず)による打撃と共に出力軸3にまで伝達する打撃機構2とを備え、その打撃力により強力な締付け作業を行うものであり、高回転且つ高トルクという作業性の良さから建築現場や組立て工場等で幅広く使われている。上記打撃機構2は、特に図示はしないが、減速機を介してモータ1により回転駆動される駆動軸と、駆動軸に嵌合して共に回転駆動されるハンマと、ハンマと係合して共に回転駆動されるアンビルと、アンビルに或る一定以上の荷重が生じた場合にハンマを後退させるカム機構と、ハンマの後退によりアンビルとの係合が外れた後に再び打撃を伴ってハンマをアンビルと係合させるスプリングとで形成されており、チャック4を備えた出力軸3がアンビルと一体に回転駆動されるものである。
【0003】
図中の符号5はトリガスイッチであり、その引き込み量に応じてモータ1の回転数即ちハンマや出力軸3の回転数を調整するものである。また、符号6はモータ制御部であり、電池7を電源としてトリガスイッチ5で設定された印加電圧をモータ1に出力するものである。
【0004】
そして、本出願人はこのようなインパクトドライバの締付トルク制御方法として、締付トルクTを算出する締付トルク算出部を備え、これにより算出した締付トルクTが規定値に達した時点でモータ1の回転を停止させるといった方法を提案している(特許文献1参照)。この締付トルク算出部は、一打撃毎の運動エネルギ収支から締付トルクTを推定するものであり、ハンマの打撃により出力軸3の基部に設けたアンビルに与えられるエネルギと、締付け作業で消費されたエネルギとが略等しいという関係から締付トルクTを算出する方法を用いている。
【0005】
具体的には、ねじが着座した後のアンビル回転角θと締付トルクTの関係が図11の様な関数T=τ(θ)で表せるとし、ハンマによる打撃が、それぞれアンビル回転角θ1、…、θnの地点で発生したものとする。関数τを区間[θn、θn+1]で積分した値Enは締付け作業に消費されたエネルギであり、θn地点で発生したハンマ打撃によりアンビルに与えられたエネルギに等しい。よって、区間[θn、θn+1]における平均の締付トルクTは、Enと打撃間回転角Θn=(θn+1−θn)を用いて、
T=En/Θn …(1)
と求まる。締付トルク制御を行うには、この締付トルクTが設定トルクTs以上となったときに、モータ1の駆動を停止させればよい。Enは、打撃間のアンビルの平均回転速度Ωnと、既知のアンビルの慣性モーメントJaを用いて、
En=1/2×Ja×Ωn2 …(2)
と求めることができる。なお、打撃間のアンビルの平均回転速度Ωnは、アンビルの打撃間回転角Θnを打撃間隔で除したものである。
【0006】
この式(1)で表される方法で締付トルクTを求める時には、信頼性の高い打撃検出部が必須であって、実際には存在しない打撃を誤って検出した場合には、誤った締付トルクT算出の結果として、最適な打撃数でモータ1を停止させることができなくなってしまう。
【0007】
そこで、本出願人は既に、出力軸3の回転速度や打撃間回転角や打撃周期を基に、打撃検出の正誤を判定する方法を提案している(特許文献2参照)。しかしながら、インパクト締付け工具を実際に使用する場合には多様な負荷変動が生じ得るので、上記のように出力軸3の回転や打撃周期といった表面的な現象を捉えた方法では判定精度に問題があるものであった。
【特許文献1】特開2000−354976号公報
【特許文献2】特開2001−246573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みて発明したものであって、打撃の誤検出を確実に防止することで締付トルクを高精度に算出することができ、したがって最適な打撃数で作業を停止させることの可能なインパクト締付け工具を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明を、駆動源であるモータ1と、モータ1の回転力をハンマによる打撃と共に出力軸3にまで伝達する打撃機構2と、打撃により生じる締付トルクTを算出する締付トルク算出部12と、打撃機構2の打撃発生を検出する打撃検出部11と、締付トルク算出部12により算出した締付トルクTが規定値に達した時点でモータ1の回転を停止させるモータ制御部6とを具備したインパクト締付け工具において、モータ1に流れる電流を検出する電流検出部13と、打撃検出部11により検出される打撃間隔中に電流検出部13が検出する電流値情報を用いて打撃検出の正誤を判定する打撃正誤判定部14とを具備し、上記締付トルク算出部12が、打撃正誤判定部14により誤検出と判定された打撃を無効としたうえで締付トルクTを算出していくものであることを、特徴としたものとする。
【0010】
上記構成のインパクト締付け工具にあっては、打撃検出の正誤判定を、出力軸3の回転や打撃周期といった表面的な現象に依るのではなく、モータ1に流れる電流値情報といったより本質的な現象を基に行うことで、多様な負荷変動に対しても打撃の誤検出を確実に防止することができ、これにより締付トルクTを高精度に算出して最適な打撃数でモータ1を停止させることが可能になる。
【0011】
また、上記インパクト締付け工具において、モータ1の回転速度ωを検出する回転速度検出部10を具備するとともに、上記打撃正誤判定部14が、回転速度検出部10により検出される回転速度ωに応じて変更される閾値と電流値情報との比較により打撃検出の正誤を判定するものであることも好適である。電流値情報の最適な閾値は回転速度ωに応じて変化するので、このようにすることで打撃検出の正誤判定を更に高精度で行うことができる。
【0012】
上記打撃正誤判定部14は、電流値情報として最大電流値を用いるとともに該最大電流値が閾値以下となる場合に打撃検出を誤検出と判定するものであることが好適である。このようにすることで、特に高速回転時の打撃検出の正誤判定を、高精度で行うことができる。
【0013】
また、上記打撃正誤判定部14が、電流値情報として電流振幅値を用いるとともに該電流振幅値が閾値以下となる場合に打撃検出を誤検出と判定するものであることも好適である。このようにすることで、特に低速回転時の打撃検出の正誤判定を、高精度で行うことができる。
【0014】
また、モータ1の回転速度ωを検出する回転速度検出部10を具備するとともに、上記打撃正誤判定部14が、最大電流値と電流振幅値のうち少なくとも一方を電流値情報として選択的に用い、且つ該選択を回転速度検出部10により検出される回転速度ωに応じて自動的に行うものであることも好適である。このようにすることで、低速から高速までの広範な速度範囲において、打撃の正誤判定を高精度で行うことができる。
【0015】
そして、金工作業での正誤判定を高精度で行う為に、モータ1の回転角Δrを検出する回転角検出部9を具備するとともに、上記打撃正誤判定部14が、打撃検出部11により検出される打撃間隔中に回転角検出部9が検出する回転角Δrが閾値以上となる場合には、電流値情報を用いた判定に関わらず打撃検出を誤検出と判定するものであることも好適である。金工作業にあっては、ねじ立て時の穴あけ状態で生じる速度変動を基に誤って打撃を検出してしまう場合があるが、上記判定によればこの打撃検出を誤検出として確実に判定し、最適な打撃数でモータ1を停止させることが可能になる。
【0016】
また、金工作業での正誤判定を高精度で行う為に、上記打撃正誤判定部14が、所定回数だけ連続して打撃検出を正検出と判定した場合には、以降の打撃検出を全て正検出と判定するものであることも好適である。これにより、金工作業中の軽負荷状態での打撃検出を全て正検出であると判定させることができ、これにより、過剰な打撃を加えて被締結部材を破壊することがないように、最適な打撃数でモータ1を停止させることができる。
【0017】
なお、以上述べた各構成は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜組合せ可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、打撃の誤検出を確実に防止することで締付トルクを高精度に算出することができ、したがって最適な打撃数で作業を停止させることの可能なインパクト締付け工具を提供することが可能なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明する。なお、本発明の構成のうち図10、11を基に既述した構成と同様の構成については、同一符号を付して詳しい説明を省略する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態における一例のインパクト締付け工具を示すブロック図である。図示のように本例のインパクト締付け工具には、モータ1の1回転当りにAパルスを出力する周波数ジェネレータ等から成る回転センサ8を備えている。回転角検出部9は、回転センサ8から出力されるパルス数をカウントすることでモータ1の回転角Δrを算出し、またこれを基にアンビル回転角θを算出するものである。ここで、打撃機構2の減速機の減速比をKとすると、ハンマによる打撃開始前にはK×Aパルスをカウントした時点でアンビル即ち出力軸3は一回転する(即ちアンビル回転角θ=2π)こととなる。
【0021】
回転速度検出部10は、回転センサ8の出力するパルス幅を測定することで、モータ1の回転速度ωを検出するものである。また、打撃検出部11は、回転速度検出部10が測定したパルス幅の変化量を基に、打撃機構2中のハンマによる打撃を検出するものである。ここでの打撃検出方法は図2に示すようなものであり、パルス幅変化の短期間の移動平均から長期間の移動平均を引くハイパスフィルタ方法を利用する。
【0022】
具体的には図2(a)に示すように測定したパルス幅を順次記憶していくとともに、所定パルス数Pだけの短期間(イ)の移動平均から所定パルス数Q(>P)だけの長期間(ロ)の移動平均を減算し、その結果を図2(b)に示すようなフィルタ処理パルス幅の変化として記憶していく。そして、最新の測定時(ハ)のフィルタ処理パルス幅から、この測定時(ハ)よりも所定パルス前の測定時(ニ)のフィルタ処理パルス幅を減算することで、図2(c)に示すようなパルス幅変化量を得る。打撃発生時のパルス幅変化量は、検出パルス数の増加に伴い図示のような正弦曲線状に変化するものであり、このパルス幅変化量が所定の閾値α1を超えた時点で打撃を検出させる。また、打撃検出の精度を高める為に、パルス幅変化量が上記閾値α1を越えた後に所定の閾値α2(<α1)を下回らない限りは、閾値α1による打撃検出を再度行わないように設定してもよい。この設定により、打撃以外に起因したパルス幅変化を打撃と誤検出する頻度を減少させることができる。
【0023】
なお、打撃検出部11は、上記のようにパルス幅変化量の測定により検出する構成に限らず、マイクやショックセンサ等の他の手段を用いてハンマによる打撃を検出する構成のものであっても構わない。
【0024】
締付トルク算出部12は、回転角検出部9と打撃検出部11の検出結果を用い、既述した式(1)、(2)を基に打撃により生じた平均の締付トルクTを算出するものである。ここで、アンビル即ち出力軸3の打撃間回転角Θnは、減速比Kと、モータ1の打撃間回転角ΔRと、ハンマの空転角RIとを用いて、
Θn=(ΔR/K)−RI …(3)
と求めることができる。空転角RIは、ハンマが1回転当りに加える打撃数Cで2πを除したものであり、1回転当り2回打撃を加える構造であればRI=π、1回転当り3回打撃を加える構造であればRI=2π/3となる。
【0025】
なお、モータ1がブラシレスモータである場合には、上記回転センサ8を配する代わりに該ブラシレスモータのロータ位置を検出する手段を備え、この検出結果を基にモータ1の回転角Δrや回転速度ωを算出してもよい。この場合、一回転当りのロータ位置の検出回数が回転センサ8の出力するパルス数に相当し、ロータ位置の検出幅が回転センサ8のパルス幅に相当する。
【0026】
電流検出部13は、回転センサ8の立ち上がり検出毎にモータ1に流れる電流値を検出し、記憶するものである。そして、打撃正誤判定部14は、打撃検出部11により検出される打撃毎に、前回の打撃検出から今回の打撃検出までの間に電流検出部13にて検出されて記憶された電流値情報を用いて、今回の打撃検出の正誤を判定するものである。上記電流値情報としては、電流平均値、電流最大値、電流振幅値のいずれかを用い、これら電流値情報が閾値を超えれば今回の打撃検出が正検出であると判定し、閾値以下となる場合には今回の打撃検出が誤検出であると判定するように設定している。上記の電流振幅値は、打撃間の電流値の最大値と最小値との差である(図3参照)。
【0027】
なお、この打撃正誤判定部14や、既述した回転角検出部9、回転速度検出部10、打撃検出部11、締付トルク算出部12といった各部は、最適な打撃数でモータ1を自動的に停止させる為の制御回路部19を構成するものである。
【0028】
図4、図5には、電流情報値として電流最大値と電流振幅値を用いた場合の打撃正誤判定を示している。図示のように、一般的にモータ1が高速となる程に打撃間の電流最大値は大きくなり、また、モータ1が高速となる程に打撃間の電流振幅値は小さくなる。電流最大値がこのようになるのは、モータ1の回転が高速となる程に印加電圧を高くするからであり、また電流振幅値がこのようになるのは、モータ1の回転が高速となる程にハンマの慣性力が大きくなり、したがって打撃に伴う速度変化が小さくなるからである。
【0029】
図4には、回転速度検出部10により検出されるモータ1の回転速度ωが所定の閾値以下である低速領域においては電流振幅値を用いて正誤判定を用い、閾値を越える高速領域においては電流最大値を用いて正誤判定を行う場合を示している。この場合、低速領域においては、打撃正誤判定部14において電流振幅値と所定の閾値とを対比し、電流振幅値が閾値以下となる場合にその打撃検出を誤検出と判定する。高速領域においては、打撃正誤判定部14において電流最大値と所定の閾値とを対比し、電流最大値が閾値以下となる場合にその打撃検出を誤検出と判定する。このように、正誤判定に用いる電流値情報をモータ1の回転速度ωに応じて自動的に選択させることで、低速から高速までの広範な速度範囲における高精度での正誤判定が可能になる。また、図5に示すように、低速領域においては電流振幅値を用いて正誤判定を用い、高速領域においては電流振幅値と電流最大値を併用して正誤判定を行い、電流振幅値と電流最大値の少なくとも一方(若しくは両方)が閾値以下となる場合に誤検出と判定してもよい。また、更に電流情報値として電流平均値を用い、電流平均値と所定の閾値とを対比させ、電流平均値が閾値以下となる場合にその打撃検出を誤検出と判定するように正誤判定を行ってもよい。この場合には最大電流値と電流振幅値と電流平均値のうち少なくとも一つをモータ1の回転速度ωに応じて自動的に選択して用いるように、打撃正誤判定部14を設定することが好適である。
【0030】
なお、モータ1の回転速度ωに応じて打撃間の電流平均値、電流最大値、電流振幅値といった各種の電流値情報は変化するので、これら電流値情報との対比に用いる閾値は、図6に例示するように回転速度検出部10の検出結果に応じて自動的に変更させる。
【0031】
締付トルク算出部12は、打撃正誤判定部14により誤検出と判定された打撃を無効としたうえで締付トルクTを算出していく。そして、このように誤検出を排除して算出された締付トルクTが規定値に達した時点で、モータ制御部6がモータ1の回転を停止させる。
【0032】
上記の正誤判定を行う打撃正誤判定部14を備えることで、特に木工作業や化粧材作業においては打撃検出に十分な精度を確保することができる。しかし、図7に示すような金工作業を行うに際しては、打撃検出の精度を確保することが困難な場合がある。これは、図示のように木工用のねじ15とは異なり、金工用ねじ(テクスねじ)16はその先端の180度対称個所に一対の刃部16aを形成しており、この刃部16aを用いて通常二枚の鉄板17,18から成る作業対象部材を削って穴あけを行うとともに、刃部16aよりも基端側に形成してあるねじ切り部16bを用いて穴にねじを切るものであって、図7(b)に示すように穴あけ状態がある程度進行してねじ切りが開始されると急激に負荷が増して打撃状態となり、刃部16aが鉄板17,18を貫通した直後からは、ねじ切りのみの軽負荷となって打撃を発生させないか或いは非常に負荷の小さな打撃を発生させる軽負荷状態となり、金工用ねじ16の頭部16cが着座した時点からは負荷が急激に増加して打撃状態を再開させ、数回の打撃後に最適な作業完了状態になるといった、木工作業とは異なる状態を経るからである。
【0033】
上記の状態を経る金工作業においては、既述した判定方法では図8にX、Yで示すように判定される正誤判定を、図9のように判定させることが好ましい。図中のXで示す状態は、ねじ立て時に刃部16aでの切削を行う穴あけ状態である。この穴あけ状態において金工用ねじ16が多少なりとも傾いていれば、出力軸3即ち金工用ねじ16が一回転する間に、刃部16aの存在を原因として速度変動が生じてしまう。したがって、出力軸3が一回転する間に打撃検出部11はこの速度変動を打撃発生による速度(パルス幅)変動であると誤検出し、しかも既述の電流値情報だけを用いた判定方法では、打撃正誤判定部14にてこの速度変動期間における誤った打撃検出を、誤検出であると判定できない場合がある。
【0034】
そこで、この期間の打撃検出を誤検出であると確実に判定する為に、打撃検出部11により検出された打撃間隔中に回転角検出部9が検出するモータ1の打撃間の回転角Δr(即ち打撃間回転角ΔR)が所定の閾値以上となるときには、電流値情報を用いた判定に関わらずその打撃検出を誤検出と判定するように打撃正誤判定部14を設定する。
【0035】
上記閾値は、アンビル即ち出力軸3の一回転に相当する値とする。通常、出力軸3が固定された状態でのハンマ打撃に起因する速度変化は、出力軸3の一回転相当分だけモータ1が回転する間にC回(2、3回等の複数回)発生するものであり、これに対して刃部16aに起因する速度変化は、出力軸3の一回転相当分だけモータ1が回転する間に一回発生するものであるから、上記のように判定することで、金工作業特有の穴あけ状態での刃部16aに起因する誤った打撃検出を、確実に誤検出であると判定することができる(図9参照)。
【0036】
また、図中のYで示す状態は、着座前に一時的に負荷が軽くなる軽負荷状態であり、この状態においては、電流最大値や電流振幅値等の電流情報値がいずれも閾値未満となって、打撃検出部11で打撃検出があってもこれを打撃正誤判定部14にて誤検出と判定する場合がある。軽負荷状態を経て着座した後は、数回の打撃を加えた時点でモータ1を確実に停止させないと金工用ねじ16の頭部16cを引きちぎってしまうのだが、軽負荷状態での打撃検出を誤打撃と判定した場合には、着座後に再開した打撃状態を新たな作業の打撃状態であると認識して軽負荷状態以前の打撃による締付トルクを無効にしてしまう恐れがあり、この場合には過剰な打撃によって金工用ねじ16を破壊してしまう。
【0037】
そこで、打撃検出部11にて検出した打撃を、所定回数だけ連続して正検出であると判定した場合には、それ以降の打撃検出を全て正検出と判定するように上記打撃正誤判定部14を設定する。これにより、着座後に再開される打撃状態にて過剰な打撃で金工用ねじ16を破壊することを防止するものである。
【0038】
以上、本例においてはインパクト締付け工具としてインパクトドライバを基に説明したが、これに限定されずインパクトレンチ等の他のインパクト締付け工具であっても同様の構成が適用可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態における一例のインパクト締付け工具の基本構成を示すブロック図である。
【図2】同上のインパクト締付け工具の打撃検出方法の説明図であり、(a)、(b)、(c)はそれぞれパルス幅、フィルタ処理後パルス幅、パルス幅変化量の変化を示している。
【図3】同上のインパクト締付け工具の電流サンプリング値と打撃検出との関係を示す説明図である。
【図4】同上のインパクト締付け工具の打撃正誤判定方法を示す説明図である。
【図5】同上のインパクト締付け工具の他の打撃正誤判定方法を示す説明図である。
【図6】同上のインパクト締付け工具の電流値情報と回転速度との関係を示す説明図である。
【図7】同上のインパクト締付け工具による金工作業の説明図であり、(a)は木工用ねじと金工用ねじとの比較、(b)は金工作業の様子を示している。
【図8】同上のインパクト締付け工具による金工作業時の打撃正誤判定方法を示す説明図である。
【図9】同上のインパクト締付け工具による金工作業時の他の打撃正誤判定方法を示す説明図である。
【図10】従来のインパクト締付け工具全体の構成を示す概略図である。
【図11】従来のインパクト締付け工具における締付トルク算出法の説明図である。
【符号の説明】
【0040】
1 モータ
2 打撃機構
3 出力軸
6 モータ制御部
9 回転角検出部
10 回転速度検出部
11 打撃検出部
12 締付トルク算出部
13 電流検出部
14 打撃正誤判定部
T 締付トルク
Δr モータの回転角
ω モータの回転速度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源であるモータと、モータの回転力をハンマによる打撃と共に出力軸にまで伝達する打撃機構と、打撃により生じる締付トルクを算出する締付トルク算出部と、打撃機構の打撃発生を検出する打撃検出部と、締付トルク算出部により算出した締付トルクが規定値に達した時点でモータの回転を停止させるモータ制御部とを具備したインパクト締付け工具において、モータに流れる電流を検出する電流検出部と、打撃検出部により検出される打撃間隔中に電流検出部が検出する電流値情報を用いて打撃検出の正誤を判定する打撃正誤判定部とを具備し、上記締付トルク算出部が、打撃正誤判定部により誤検出と判定された打撃を無効としたうえで締付トルクを算出していくものであることを特徴とするインパクト締付け工具。
【請求項2】
モータの回転速度を検出する回転速度検出部を具備するとともに、上記打撃正誤判定部が、回転速度検出部により検出される回転速度に応じて変更される閾値と電流値情報との比較により打撃検出の正誤を判定するものであることを特徴とする請求項1に記載のインパクト締付け工具。
【請求項3】
上記打撃正誤判定部が、電流値情報として最大電流値を用いるとともに該最大電流値が閾値以下となる場合に打撃検出を誤検出と判定するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のインパクト締付け工具。
【請求項4】
上記打撃正誤判定部が、電流値情報として電流振幅値を用いるとともに該電流振幅値が閾値以下となる場合に打撃検出を誤検出と判定するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のインパクト締付け工具。
【請求項5】
モータの回転速度を検出する回転速度検出部を具備するとともに、上記打撃正誤判定部が、最大電流値と電流振幅値のうち少なくとも一方を電流値情報として選択的に用い、且つ該選択を回転速度検出部により検出される回転速度に応じて自動的に行うものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一方に記載のインパクト締付け工具。
【請求項6】
モータの回転角を検出する回転角検出部を具備するとともに、上記打撃正誤判定部が、打撃検出部により検出される打撃間隔中に回転角検出部が検出する回転角が閾値以上となる場合には、電流値情報を用いた判定に関わらず打撃検出を誤検出と判定するものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のインパクト締付け工具。
【請求項7】
上記打撃正誤判定部が、所定回数だけ連続して打撃検出を正検出と判定した場合には、以降の打撃検出を全て正検出と判定するものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のインパクト締付け工具。
【請求項1】
駆動源であるモータと、モータの回転力をハンマによる打撃と共に出力軸にまで伝達する打撃機構と、打撃により生じる締付トルクを算出する締付トルク算出部と、打撃機構の打撃発生を検出する打撃検出部と、締付トルク算出部により算出した締付トルクが規定値に達した時点でモータの回転を停止させるモータ制御部とを具備したインパクト締付け工具において、モータに流れる電流を検出する電流検出部と、打撃検出部により検出される打撃間隔中に電流検出部が検出する電流値情報を用いて打撃検出の正誤を判定する打撃正誤判定部とを具備し、上記締付トルク算出部が、打撃正誤判定部により誤検出と判定された打撃を無効としたうえで締付トルクを算出していくものであることを特徴とするインパクト締付け工具。
【請求項2】
モータの回転速度を検出する回転速度検出部を具備するとともに、上記打撃正誤判定部が、回転速度検出部により検出される回転速度に応じて変更される閾値と電流値情報との比較により打撃検出の正誤を判定するものであることを特徴とする請求項1に記載のインパクト締付け工具。
【請求項3】
上記打撃正誤判定部が、電流値情報として最大電流値を用いるとともに該最大電流値が閾値以下となる場合に打撃検出を誤検出と判定するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のインパクト締付け工具。
【請求項4】
上記打撃正誤判定部が、電流値情報として電流振幅値を用いるとともに該電流振幅値が閾値以下となる場合に打撃検出を誤検出と判定するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のインパクト締付け工具。
【請求項5】
モータの回転速度を検出する回転速度検出部を具備するとともに、上記打撃正誤判定部が、最大電流値と電流振幅値のうち少なくとも一方を電流値情報として選択的に用い、且つ該選択を回転速度検出部により検出される回転速度に応じて自動的に行うものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一方に記載のインパクト締付け工具。
【請求項6】
モータの回転角を検出する回転角検出部を具備するとともに、上記打撃正誤判定部が、打撃検出部により検出される打撃間隔中に回転角検出部が検出する回転角が閾値以上となる場合には、電流値情報を用いた判定に関わらず打撃検出を誤検出と判定するものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のインパクト締付け工具。
【請求項7】
上記打撃正誤判定部が、所定回数だけ連続して打撃検出を正検出と判定した場合には、以降の打撃検出を全て正検出と判定するものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のインパクト締付け工具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−231446(P2006−231446A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48038(P2005−48038)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
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