説明

インフレーションフィルム

【課題】 高ブロー比においても成形時のバブル安定性が良好で、成形フィルムに皺や弛みがなく、かつ長時間成形してもメヤニや粉吹きの発生が少ないインフレーションフィルムを得る。
【解決手段】 下記(A)〜(E)の要件を満たすポリエチレン系樹脂をインフレーション成形する。
(A)密度が935kg/m以上980kg/m以下、
(B)MFR(g/10分)が0.01以上0.5以下、
(C)炭素数6以上の長鎖分岐数が1,000個の炭素原子当たり0.01個以上3個以下、
(D)溶融張力(MS190)(mN)とMFR(g/10分、190℃)が、下記式(1)
MS190>22×MFR−0.88 (1)
を満たすと共に、溶融張力(MS160)(mN)とMFR(g/10分、190℃)が、下記式(2)を満たし、
MS160>110−110×log(MFR) (2)
(E)TREFによる0℃における溶出割合が0.2重量%未満である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフレーション成形時のバブル安定性が良好で、成形フィルムに皺や弛みがなく、かつ長時間成形してもメヤニや粉吹きの発生が少ないインフレーションフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高密度のポリエチレン樹脂をブロー比3〜7で空冷インフレーション成形法により成形したフィルムは、縦方向と横方向の機械的強度のバランスが良いことから、通称バランスフィルムと呼ばれ、塗装用マスキングフィルム、養生フィルム、ショッピングバック、台所用袋等に利用されている。
【0003】
一方、最近は廃棄物の減量、省エネルギー等の環境問題やコスト削減の観点から、各種フィルムに対する薄肉化の要求が高まっており、バランスフィルム用途においても高ブロー比の薄肉フィルムを高速で生産する傾向にある。しかしながら、従来バランスフィルムに使用されている高密度のポリエチレン樹脂をインフレーション成形法により高速かつ高ブロー比で成形しようとすると、バブルにふらつき等の変動が生じると共に、フィルムに皺や弛みが発生し易く、均一な製品が得られない問題を有する。
【0004】
この問題に関して、特定の低分子量高密度ポリエチレンと特定の高分子量高密度ポリエチレンからなる樹脂組成物とラジカル発生剤とを、特定の酸素濃度雰囲気中で溶融混練することによって得られる樹脂組成物は、フィルムの物性面において問題がなく、安定した高速製膜が可能であることが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、フィルムの生産性や歩留まりを高めるには、長時間にわたり連続生産できることが好ましいが、従来バランスフィルムに使用されている高密度のポリエチレン樹脂は、長時間の連続生産によりダイリップ部にメヤニが発生してフィルムが破断したり、成形機上部の案内板にフィルムから発生する粉が多量に付着して製品フィルムを汚染する等、長時間の連続生産が制約されるという問題を有する。
【0006】
この問題に関して、特定の高密度ポリエチレンに、特定のフッ素系加工剤、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤を特定量添加することで、メヤニの発生を防止し、安定して長時間連続製膜が可能になることが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平8−208898号公報
【特許文献2】特開平9−255820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された樹脂組成物は、分子量が大きく異なった樹脂同士のブレンドであることから、溶融混練によっても完全な分散混合は難しく、両者の混和が不十分であることに起因するフィッシュアイがフィルムに発生し易い等の問題がある。このフィッシュアイの発生はラジカル発生剤を使用することで、樹脂同士の混和の不十分さと相俟ってさらに顕著になる。また、低分子量の樹脂をブレンドすることは、押出負荷の低減等の加工性改良には有効である反面、インフレーション成形時のメヤニや粉吹きが増加し、長時間の連続生産ができない問題が生じる。
【0009】
一方、特許文献2に開示された樹脂組成物は、特定の酸化防止剤を配合することで、樹脂劣化物の発生を抑制すると共に、フッ素系加工剤により樹脂劣化物のダイリップへの蓄積を防止しようとするものであるが、フッ素系加工剤は樹脂中に均一分散させることが困難であり、分散状態の違いによりメヤニ防止効果が大きく異なるという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、インフレーション成形時のバブル安定性が良好で、成形フィルムに皺や弛みがなく、かつ長時間成形してもメヤニや粉吹きの発生が少ないインフレーションフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に関し鋭意検討を行った結果、特定の要件を満たすポリエチレン系樹脂を使用することで、従来のポリエチレン樹脂を使用した場合に比べてインフレーション成形時のバブル安定性が良好で、成形フィルムに皺や弛みがなく、かつ長時間成形してもメヤニや粉吹きの発生が少ないインフレーションフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記(A)〜(E)の要件を満たすポリエチレン系樹脂からなることを特徴とするインフレーションフィルムに関するものである。
(A)密度が935kg/m以上980kg/m以下、
(B)190℃、2.16kg荷重でのMFR(g/10分)が0.01以上0.5以下、
(C)炭素数6以上の長鎖分岐数が1,000個の炭素原子当たり0.01個以上3個以下、
(D)190℃で測定した溶融張力(MS190)(mN)と2.16kg荷重のMFR(g/10分、190℃)が、下記式(1)
MS190>22×MFR−0.88 (1)
を満たすと共に、160℃で測定した溶融張力(MS160)(mN)と2.16kg荷重のMFR(g/10分、190℃)が、下記式(2)を満たし、
MS160>110−110×log(MFR) (2)
(E)温度上昇溶離分別(TREF)による0℃における溶出割合が0.2重量%未満である
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明のインフレーションフィルムに使用されるポリエチレン系樹脂の密度は、JIS K6922−1(1997)に準拠して密度勾配管法で測定した値として、935kg/m以上980kg/m以下であり、好ましくは940kg/m以上970kg/m以下であり、さらに好ましくは945kg/m以上960kg/m以下である。密度が935kg/m未満では得られるインフレーションフィルムの剛性が不十分になる恐れがあり、0.980g/cmを超えると耐衝撃強度が不足する恐れがある。
【0014】
本発明のインフレーションフィルムに使用されるポリエチレン系樹脂の直鎖状ポリエチレン換算の重量平均分子量(M)は、10,000以上1,000,000以下であり、好ましくは20,000以上700,000以下であり、さらに好ましくは25,000以上300,000以下である。Mが10,000未満または1,000,000を越えるとインフレーション成形を行うことが困難になる。
【0015】
本発明のインフレーションフィルムに使用されるポリエチレン系樹脂の190℃、2.16kg荷重におけるMFRは、0.01〜0.5g/10分、好ましくは0.02〜0.3g/10分、さらに好ましくは0.03〜0.1g/10分である。0.01g/10分未満また0.5g/10分を超えるとインフレーション成形を行うことが困難になる。
【0016】
本発明のインフレーションフィルムに使用されるポリエチレン系樹脂の長鎖分岐数は、1,000個の炭素原子当たり0.01個以上3個以下である。0.01個未満では高ブロー比でインフレーション成形を行う場合に、バブルが不安定になるとともに、バブルに皺や弛みが発生し易くなる。また、3個を超えると得られるインフレーションフィルムが力学的性質に劣る恐れがある。なお、長鎖分岐数とは、13C−NMR測定で検出されるヘキシル基以上(炭素数6以上)の分岐の数である。
【0017】
本発明のインフレーションフィルムに使用されるポリエチレン系樹脂の190℃で測定した溶融張力(MS190)(mN)と2.16kg荷重のMFR(g/10分、190℃)は、下記式(1)
MS190>22×MFR−0.88 (1)
で示される関係にあり、好ましくは下記式(1)’
MS190>30×MFR−0.88 (1)’
で示される関係にあり、さらに好ましくは下記式(1)”
MS190>5+30×MFR−0.88 (1)”
で示される関係にある。(1)式を満たさない場合、高ブロー比でインフレーション成形を行う場合に、バブルが不安定になるとともに、バブルに皺や弛みが発生し易くなる。
【0018】
また、本発明のインフレーションフィルムに使用されるポリエチレン系樹脂の160℃で測定した溶融張力(MS160)(mN)と2.16kg荷重のMFR(g/10分、190℃)は、下記式(2)
MS160>110−110×log(MFR) (2)
で示される関係にあり、好ましくは下記式(2)’
MS160>130−110×log(MFR) (2)’
で示される関係にあり、さらに好ましくは下記式(2)”
MS160>150−110×log(MFR) (2)”
で示される関係にある。(2)式を満たさない場合、高ブロー比でインフレーション成形を行う場合に、バブルが不安定になるとともに、バブルに皺や弛みが発生し易くなる。
【0019】
本発明のインフレーションフィルムに使用されるポリエチレン系樹脂は、温度上昇溶離分別(TREF)を用いて測定した0℃における溶出割合が0.2重量%未満、好ましくは0.1重量%未満、さらに好ましくは0.05重量%未満である。0℃における溶出割合が0.2重量%以上の場合は、インフレーション成形時にメヤニおよび粉吹きが発生し、長時間の連続生産が困難になる恐れがある。
【0020】
本発明のインフレーションフィルムに使用されるポリエチレン系樹脂は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)/固有粘度計によって評価した収縮因子(g’値)が0.1以上0.9未満、さらには0.1以上0.7以下であることが好ましく、これによってインフレーション成形する際のバブルの安定性およびフィルムの均一性が向上する。本発明における収縮因子(g’値)とは、長鎖分岐の程度を表すパラメータであり、重量平均分子量(M)の3倍の絶対分子量における本発明のポリエチレン系樹脂の固有粘度と、分岐が全くない高密度ポリエチレン(以下、HDPEと略す)の同じ分子量における固有粘度との比である。また、このg’値とGPC/光散乱計によって評価した収縮因子(g値)との間には、好ましくは式(3)、さらに好ましくは式(3)’で示される関係があり、これによって本発明のポリエチレン系樹脂をインフレーション成形する際のバブル安定性およびフィルムの均一性がさらに向上する。なお、g値はMの3倍の絶対分子量における本発明のポリエチレン系樹脂の慣性半径の二乗平均と、分岐が全くないHDPEの同じ分子量における慣性半径の二乗平均との比である。
【0021】
0.2<log(g’)/log(g)<1.3 (3)
0.5<log(g’)/log(g)<1.0 (3)’
さらに、Mの3倍の絶対分子量におけるg値(g3M)とMの1倍の絶対分子量におけるg値(g)の間には、式(4)、好ましくは式(4)’、さらに好ましくは式(4)”で示される関係があることが、本発明のポリエチレン系樹脂をインフレーション成形する際のバブルの安定性向上やフィルムの均一化のために望ましい。
【0022】
0<g3M/g≦1 (4)
0<g3M/g≦0.9 (4)’
0<g3M/g≦0.8 (4)”
本発明のインフレーションフィルムに使用されるポリエチレン系樹脂は、エチレンを重合することによって得られる末端にビニル基を有するエチレン重合体、またはエチレンと炭素数3以上のオレフィンを共重合することによって得られる末端にビニル基を有するエチレン共重合体であり、
(F)Mが2,000以上であり、
(G)M/Mが2以上5以下である
マクロモノマーの存在下に、エチレンおよび任意に炭素数3以上のオレフィンを重合することによって得られたものであることが望ましい。マクロモノマーとは、末端にビニル基を有するオレフィン重合体であり、好ましくはエチレンを重合することによって得られる末端にビニル基を有するエチレン重合体、またはエチレンと炭素数3以上のオレフィンを共重合することによって得られる末端にビニル基を有するエチレン共重合体であり、さらに好ましくは任意に用いられる炭素数3以上のオレフィンに由来する分岐以外の分岐の内、長鎖分岐(すなわち、13C−NMR測定で検出されるヘキシル基以上の分岐)が、主鎖メチレン炭素1,000個当たり0.01個未満である、末端にビニル基を有する直鎖状エチレン重合体または直鎖状エチレン共重合体である。
【0023】
炭素数3以上のオレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテンもしくはビニルシクロアルカン等のα−オレフィン、ノルボルネンもしくはノルボルナジエン等の環状オレフィン、ブタジエンもしくは1,4−ヘキサジエン等のジエンまたはスチレンを例示することができる。また、これらのオレフィンを2種類以上混合して用いることもできる。
【0024】
マクロモノマーとして、末端にビニル基を有するエチレン重合体または末端にビニル基を有するエチレン共重合体を用いる場合、その直鎖状ポリエチレン換算の数平均分子量(M)は、2,000以上であり、好ましくは3,000以上であり、さらに好ましくは5,000以上である。直鎖状ポリエチレン換算の重量平均分子量(M)は、3,000以上であり、好ましくは5,000以上であり、さらに好ましくは10,000より大きい。また、重量平均分子量(M)とMの比(M/M)は、2以上5以下であり、好ましくは2以上4以下であり、さらに好ましくは2以上3.5以下である。下記一般式(5)
Z=[X/(X+Y)]×2 (5)
(ここで、Xはマクロモノマーの主鎖メチレン炭素1,000個当たりのビニル末端数であり、Yはマクロモノマーの主鎖メチレン炭素1,000個当たりの飽和末端数である。)
で表されるビニル末端数と飽和末端数の比(Z)は0.25以上1以下であり、好ましくは0.50以上1以下である。XおよびYは、H−NMR、13C−NMRまたはFT−IR等で求められる。例えば、13C−NMRにおいて、ビニル末端は114ppm、139ppm、飽和末端は32.3ppm、22.9ppm、14.1ppmのピークにより、その存在および量が確認できる。
【0025】
本発明におけるマクロモノマーの製造方法に関して特に限定はないが、マクロモノマーとして末端にビニル基を有するエチレン重合体または末端にビニル基を有するエチレン共重合体を製造する場合は、例えば周期表第3族、第4族、第5族および第6族から選ばれる遷移金属を含有するメタロセン化合物を主成分として含む触媒を用いてエチレンを重合する方法を用いることができる。助触媒としては、有機アルミニウム化合物、プロトン酸塩、ルイス酸塩、金属塩、ルイス酸および粘土鉱物等が挙げられる。
【0026】
本発明のインフレーションフィルムを構成するポリエチレン系樹脂は、例えば周期表第3族、第4族、第5族および第6族から選ばれる遷移金属を含有するメタロセン化合物を主成分として含む触媒を用いて、マクロモノマーの存在下に、エチレンおよび任意に炭素数3以上のオレフィンを重合することによって得られる。また、マクロモノマーの製造と同様に、助触媒を用いることができる。
【0027】
重合温度は、−70〜300℃、好ましくは0〜250℃、さらに好ましくは20〜150℃の範囲である。エチレン分圧は、0.001〜300MPa、好ましくは0.005〜50MPa、さらに好ましくは0.01〜10MPaの範囲である。また、重合系内に分子量調節剤として水素を存在させても良い。
【0028】
本発明において、マクロモノマーの存在下に、エチレンと炭素数3以上のオレフィンを重合する場合、エチレン/炭素数3以上のオレフィン(モル比)は、1〜200、好ましくは3〜100、さらに好ましくは5〜50の供給割合を用いることができる。
【0029】
本発明のインフレーションフィルムに使用されるポリエチレン系樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤、老化防止剤、耐熱安定剤、耐候性安定剤、紫外線吸収剤、塩素吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、スリップ剤、滑剤、アンチブロッキング剤、核剤、顔料、染料、可塑剤、難燃剤、無機充填剤、有機充填剤等の添加剤が必要に応じて配合されていてもよい。
【0030】
本発明のインフレーションフィルムに使用されるポリエチレン系樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、高密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、ポリ−1−ブテン等の他の熱可塑性樹脂と混合して用いることもできる。
【0031】
本発明のインフレーションフィルムは、公知の方法を利用して成形加工することができる。例えば、空冷インフレーション成形法、水冷インフレーション成形法等によりフィルムを得ることができるが、その中でも空冷インフレーション成形法が特に好ましい。
本発明のインフレーションフィルムを成形する際の加工温度に特に制限はないが、安定した成形加工ができることから150〜250℃の範囲が好ましい。
【0032】
本発明のインフレーションフィルムを成形する際のブロー比は、フィルムの使用目的によっても異なるが、縦方向と横方向の機械的強度のバランスが良いフィルムを得るには、ブロー比を3.0以上にすることが好ましい。
【0033】
本発明のインフレーションフィルムの厚さは、フィルムの使用目的によっても異なるが、経済性や加工性等の点から5μm以上50μm以下の範囲が好ましい。
【0034】
本発明のインフレーションフィルムは、例えば、塗装用マスキングフィルム、養生フィルム、ショッピングバック、ゴミ袋、台所用袋、家屋の断熱材用防湿フィルム、蒸着用フィルム、各種包装用フィルム、紙袋の内側に用いる内袋、各種農業用フィルム等に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明のインフレーションフィルムは、高ブロー比においてもインフレーション成形時のバブル安定性が良好で、成形フィルムに皺や弛みがなく、かつ長時間成形してもメヤニや粉吹きの発生が少ないため、品質の良いフィルム製品が得られ、生産性や歩留まりに優れることから、塗装用マスキングフィルム、養生フィルム、ショッピングバック、台所用袋等として有用である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
変性ヘクトライトの調製、マクロモノマー製造用触媒の調製、マクロモノマーの製造、ポリエチレンの製造および溶媒精製は、全て不活性ガス雰囲気下で行った。変性ヘクトライトの調製、マクロモノマー製造用触媒の調製、マクロモノマーの製造、ポリエチレンの製造に用いた溶媒等は、全て予め公知の方法で精製、乾燥、脱酸素を行ったものを用いた。ジフェニルシランジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシランジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリドは公知の方法により合成、同定したものを用いた。トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714M)は東ソー・ファインケム(株)製を用いた。
【0038】
さらに、実施例および比較例におけるポリエチレン系樹脂の諸物性は、以下に示す方法により測定した。
【0039】
〜分子量および分子量分布〜
重量平均分子量(M)および数平均分子量(M)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。GPC装置としては東ソー(株)製 HLC−8121GPC/HTを用い、カラムとしては東ソー(株)製 TSKgel GMHhr−H(20)HTを用い、カラム温度を140℃に設定し、溶離液として1,2,4−トリクロロベンゼンを用いて測定した。測定試料は1.0mg/mLの濃度で調製し、0.3mL注入して測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリスチレン試料を用いて校正されている。なお、MおよびMは直鎖状ポリエチレン換算の値として求めた。
【0040】
〜収縮因子(g’値)〜
収縮因子(g’値)は、GPCによって分別したポリエチレン系樹脂の[η]を測定する手法で求めたMの3倍の絶対分子量における[η]を、分岐が全くないHDPEの同一分子量における[η]で除した値である。GPC装置としては東ソー(株)製 HLC−8121GPC/HTを用い、カラムとしては東ソー(株)製 TSKgel GMHhr−H(20)HTを用い、カラム温度を145℃に設定し、溶離液として1,2,4−トリクロロベンゼンを用いて測定した。測定試料は2.0mg/mLの濃度で調製し、0.3mL注入して測定した。粘度計は、Viscotek社製 キャピラリー差圧粘度計210R+を用いた。
【0041】
〜収縮因子(g値)〜
収縮因子(g値)は、GPCによって分別したポリエチレン系樹脂を、光散乱によって慣性半径を測定する手法で求めた。本発明の樹脂キャップに用いるポリエチレン系樹脂のMの3倍の絶対分子量における慣性半径の二乗平均を、分岐が全くないHDPEの同一分子量における慣性半径の二乗平均で除した値である。光散乱検出器としては、Wyatt Technology社製 多角度光散乱検出器DAWV EOSを用い、690nmの波長で、29.5°、33.3°、39.0°、44.8°、50.7°、57.5°、64.4°、72.3°、81.1°、90.0°、98.9°、107.7°、116.6°、125.4°、133.2°、140.0°、145.8°の検出角度で測定した。
【0042】
〜Z値〜
ビニル末端、飽和末端などのマクロモノマーの末端構造は、日本電子(株)製 JNM−ECA400型核磁気共鳴装置を用いて、13C−NMRによって測定した。溶媒はテトラクロロエタン−dである。ビニル末端数は、主鎖メチレン炭素(化学シフト:30ppm)1,000個当たりの個数として114ppm、139ppmのピークの平均値から求めた。また、飽和末端数は、同様に32.3ppm、22.9ppm、14.1ppmのピークの平均値から求めた。このビニル末端数(X)と飽和末端数(Y)から、Z=[X/(X+Y)]×2を求めた。
【0043】
〜密度〜
密度は、JIS K6922−1(1997)に準拠して密度勾配管法で測定した。
【0044】
〜MFR〜
MFRは、JIS K6922−1(1997)に準拠して190℃、2.16kg荷重で測定した。
【0045】
〜長鎖分岐数〜
ポリエチレン系樹脂の長鎖分岐数は、日本電子(株)製 JNM−GSX270型核磁気共鳴装置を用いて、13C−NMRによって測定した。
【0046】
〜溶融張力(MS)〜
溶融張力(MS)の測定に用いたポリエチレン系樹脂は、予め耐熱安定剤としてイルガノックス1010TM(チバスペシャリティケミカルズ社製)1,500ppm、イルガフォス168TM(チバスペシャリティケミカルズ社製)1,500ppmを添加し、インターナルミキサー(東洋精機製作所製、商品名:ラボプラストミル)を用いて、窒素気流下、190℃、回転数30rpmで3分間混練したものを用いた。溶融張力(MS)は、バレル直径9.55mmの毛管粘度計(東洋精機製作所、商品名:キャピログラフ)に、長さ(L)が8mm、直径(D)が2.095mm、流入角が90°のダイを装着し測定した。MSは、温度を160℃または190℃に設定し、ピストン降下速度を10mm/分、延伸比を47に設定し、引き取りに必要な荷重(mN)をMSとした。
【0047】
〜温度上昇溶離分別(TREF)による0℃における溶出割合〜
0℃における溶出割合は、クロス分別装置(三菱化学株式会社製、商品名CFC T−150A)を使用し、下記の条件により測定を行った結果から算出した。なお、このクロス分別装置は、試料を溶解度の差を利用して分別する温度上昇溶離分別(TREF)機構と、分別された区分をさらに分子サイズで分別するサイズ排除クロマトグラフをオンラインで接続した装置である。
【0048】
溶離液:ODCB(o−ジクロロベンゼン)、試料濃度:4.0mg/mL、注入量:0.5mL、流速:1.0mL/分、TREFカラムへのコーティング:140℃から0℃まで0.2℃/分の速度で冷却後30分保持、昇温プログラム:0℃、10℃、20℃、30℃、40℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃、73℃、76℃、78℃、80℃、82℃、84℃、86℃、88℃、90℃、92℃、94℃、96℃、98℃、100℃、102℃、104℃、106℃、108℃、110℃、120℃、140℃(31段階)
0℃における溶出割合は、上記条件で測定した0℃での溶出成分の重量を全溶出成分の重量で除した値として算出した。
【0049】
〜フィルムの成形方法〜
フィルム成形は、空冷インフレーション成形機(株式会社プラコー製、型式 HD−50)により行った。押出機のシリンダー温度を200℃に保持して押出した樹脂を200℃に加温したサーキュラーダイ(リップクリアランス1.2mm)に導入し、ブロー比6.0、引取速度50m/分で厚さ6μmの空冷インフレーションフィルムを作製した。
【0050】
〜バブル安定性評価〜
上記、フィルムの成形方法に基づきフィルムを成形する際のバブル安定性の良否を目視で確認した。
【0051】
バブル安定性の良否の判断基準を以下に示す。
○;バブルの揺れ無し
×;バブルの揺れ有り
〜バブル形状(バブルの皺および弛み)評価〜
上記、フィルムの成形方法に基づきフィルムを成形する際の成形開始から2時間経過後のバブル形状を目視で確認した。
【0052】
バブル形状評価の判断基準を以下に示す。
○;バブルに皺および弛み無し
×;バブルに皺または弛み有り
〜メヤニ評価〜
上記、フィルムの成形方法に基づきフィルムを成形する際の成形開始から2時間経過後のダイリップ部におけるメヤニの付着状態を目視で確認した。
【0053】
メヤニ評価の判断基準を以下に示す。
○;ダイリップ部へのメヤニの付着無し
△;ダイリップ部に部分的にメヤニの付着有り
×;ダイリップ部全面にメヤニの付着有り
〜粉吹き評価〜
上記、フィルムの成形方法に基づきフィルムを成形する際に、成形機上部の案内板に黒色の模造紙を取り付け、成形開始から2時間経過後に案内板に取り付けた黒色模造紙への粉の付着状態を目視で確認した。
【0054】
評価の判断基準を以下に示す。
○;黒色模造紙への粉の付着無し
△;黒色模造紙に部分的に粉の付着有り
×;黒色模造紙全面に粉の付着有り
実施例1
[変性ヘクトライトの調製]
水60mLにエタノール60mLと37%濃塩酸2.0mLを加えた後、得られた溶液にN,N−ジメチルオクタデシルアミン 6.55g(0.022mol)を添加し、60℃に加熱することによって、N,N−ジメチルオクタデシルアミン塩酸塩溶液を調製した。この溶液にヘクトライト20gを加えた。この懸濁液を60℃で3時間撹拌し、上澄液を除去した後、60℃の水1Lで洗浄した。その後、60℃、10−3torrで24時間乾燥し、ジェットミルで粉砕することによって、平均粒径5.2μmの変性ヘクトライトを得た。元素分析の結果、変性ヘクトライト1g当たりのイオン量は0.85mmolであった。
【0055】
[マクロモノマー製造用触媒の調製]
上記変性ヘクトライト8.0gをヘキサン29mLに懸濁させ、トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714M)46mLを添加し、室温で1時間攪拌することにより、変性ヘクトライトとトリイソブチルアルミニウムの接触生成物を得た。一方、ジフェニルシランジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド151mg(320μmol)をトルエンに溶解させたものを添加し、室温で一晩攪拌することにより、触媒スラリー(100g/L)を得た。
【0056】
[マクロモノマーの製造]
10Lオートクレーブに、ヘキサン6,000mLとトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714mol/L)5.0mLを導入し、オートクレーブの内温を85℃に昇温した。このオートクレーブに、上記触媒スラリー0.88mLを添加し、エチレンを分圧が1.2MPaになるまで導入して重合を開始した。重合中、分圧が1.2MPaに保たれるようにエチレンを連続的に導入した。また、重合温度を85℃に制御した。重合開始90分後に、内温を50℃まで降温してオートクレーブの内圧を0.1MPaまで脱圧した後、オートクレーブに窒素を0.6MPaになるまで導入して脱圧した。この操作を5回繰り返した。このオートクレーブから抜き出したマクロモノマーはM=14,400、M/M=3.02であり、13C−NMRによりマクロモノマーの末端構造を解析したところ、ビニル末端数と飽和末端数の比(Z)はZ=0.65であった。また、13C−NMRにおいてメチル分岐が1,000炭素原子当たり0.41個、エチル分岐が1,000炭素原子当たり0.96個検出された。さらに、13C−NMRにおいて長鎖分岐は検出されなかった。
【0057】
[ポリエチレンの製造]
上記で製造したマクロモノマーが含まれる10Lオートクレーブに、トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714mol/L)1.4mLとジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド 7μmolを導入し、オートクレーブの内温を60℃に昇温後、30分間攪拌した。続いてオートクレーブの内温を90℃に昇温後、エチレン/水素混合ガス(水素1,000ppm)を分圧が0.3MPaになるまで導入して重合を開始した。重合中、分圧が0.3MPaに保たれるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に導入した。また、重合温度を90℃に制御した。重合開始230分後に、オートクレーブの内圧を脱圧した後、内容物を吸引ろ過した。乾燥後、1,008gのポリマーが得られた。得られたポリエチレンのMFRは0.3g/10分、密度は955kg/m、Mは13.1×10、M/Mは5.7、長鎖分岐数は0.03個/1,000炭素であった。その他の物性を表1〜3に示す。
【0058】
得られたポリエチレンのパウダー100重量部に対して、酸化防止剤としてイルガノックス1076(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を0.04重量部、GSY−P101(エーピーアイコーポレーション社製)を0.08重量部および塩素吸収剤としてDHT−4A(協和化学工業社製)を0.04重量部配合し、ヘンシェルミキサー(三井三池製作所社製 型番FM75C)により820rpmで1分間混合した。その後に50mmφ単軸押出機(プラコー社製 型番PDA−50)を用い、設定温度200℃、回転数100rpmで混練してペレット状にした。
【0059】
得られたポリエチレンを用い、フィルムの成形方法に記載した条件によりインフレーション成形を行い、バブル安定性、バブル形状、メヤニおよび粉吹きの評価を行った。結果を表4に示す。
【0060】
実施例2
[マクロモノマー製造用触媒の調製]
実施例1[変性ヘクトライトの調製]で調製した変性ヘクトライト8.0gをヘキサン29mLに懸濁させ、トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714M)46mLを添加し、室温で1時間攪拌することにより、変性ヘクトライトとトリイソブチルアルミニウムの接触生成物を得た。一方、ジメチルシランジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド111.5mg(320μmol)をトルエンに溶解させたものを添加し、室温で一晩攪拌することにより、触媒スラリー(100g/L)を得た。
【0061】
[マクロモノマーの製造]
10Lオートクレーブに、ヘキサン6,000mLとトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714mol/L)12mLを導入し、オートクレーブの内温を85℃に昇温した。このオートクレーブに、上記触媒スラリー1.25mLを添加し、エチレンを分圧が1.2MPaになるまで導入して重合を開始した。重合中、分圧が1.2MPaに保たれるようにエチレンを連続的に導入した。また、重合温度を85℃に制御した。重合開始90分後に、内温を50℃まで降温してオートクレーブの内圧を0.1MPaまで脱圧した後、オートクレーブに窒素を0.6MPaになるまで導入して脱圧した。この操作を5回繰り返した。このオートクレーブから抜き出したマクロモノマーのMは9,600、M/Mは2.30であり、13C−NMRによりマクロモノマーの末端構造を解析したところ、ビニル末端数と飽和末端数の比(Z)はZ=0.57であった。また、13C−NMRにおいてメチル分岐が1,000炭素原子当たり0.52個、エチル分岐が1,000炭素原子当たり1.22個検出された。さらに、13C−NMRにおいて長鎖分岐は検出されなかった。
【0062】
[ポリエチレンの製造]
上記で製造したマクロモノマーが含まれる10Lオートクレーブに、トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714mol/L)1.4mLとジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド 5μmolを導入し、オートクレーブの内温を85℃に昇温後、エチレン/水素混合ガス(水素1,000ppm)を分圧が0.6MPaになるまで導入して重合を開始した。重合中、分圧が0.6MPaに保たれるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に導入した。また、重合温度を85℃に制御した。重合開始90分後に、オートクレーブの内圧を脱圧した後、内容物を吸引ろ過した。乾燥後、1,685gのポリマーが得られた。得られたポリエチレンのMFRは0.13g/10分、密度は965kg/m、Mは17.4×10、M/Mは14.5、長鎖分岐数は0.03個/1,000炭素であった。その他の物性を表1〜3に示す。
【0063】
得られたポリエチレンを用いて実施例1と同様の方法でインフレーション成形を行い、バブル安定性、バブル形状、メヤニおよび粉吹きの評価を行った。結果を表4に示す。
【0064】
比較例1
市販の高密度ポリエチレン(KEIYOポリエチF3001Y、京葉ポリエチレン(株)製、MFR=0.04g/10分、密度950kg/m)を用いて、実施例1と同様の方法でインフレーション成形を行い、バブル安定性、バブル形状、メヤニおよび粉吹きの評価を行った。結果を表4に示すが、バブルに皺および弛みが発生するとともに、メヤニ、粉吹きが発生し易いものであった。
【0065】
比較例2
市販の高密度ポリエチレン(ハイゼックス7000F、三井化学(株)製、MFR=0.04g/10分、密度952kg/m)を用いて、実施例1と同様の方法でインフレーション成形を行い、バブル安定性、バブル形状、メヤニおよび粉吹きの評価を行った。結果を表4に示すが、バブルに皺および弛みが発生するとともに、メヤニ、粉吹きが発生し易いものであった。
【0066】
比較例3
市販の高密度ポリエチレン(ニポロンハード6100A、東ソー(株)製、MFR=0.35g/10分、密度955kg/m)を用いて、実施例1と同様の方法でインフレーション成形を行い、バブル安定性、バブル形状、メヤニおよび粉吹きの評価を行った。結果を表4に示すが、バブル安定性が悪く、バブルの皺および弛みが発生するとともに、メヤニ、粉吹きが発生し易いものであった。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(E)の要件を満たすポリエチレン系樹脂からなることを特徴とするインフレーションフィルム。
(A)密度が935kg/m以上980kg/m以下、
(B)190℃、2.16kg荷重でのMFR(g/10分)が0.01以上0.5以下、
(C)炭素数6以上の長鎖分岐数が1,000個の炭素原子当たり0.01個以上3個以下、
(D)190℃で測定した溶融張力(MS190)(mN)と2.16kg荷重のMFR(g/10分、190℃)が、下記式(1)
MS190>22×MFR−0.88 (1)
を満たすと共に、160℃で測定した溶融張力(MS160)(mN)と2.16kg荷重のMFR(g/10分、190℃)が、下記式(2)を満たし、
MS160>110−110×log(MFR) (2)
(E)温度上昇溶離分別(TREF)による0℃における溶出割合が0.2重量%未満である
【請求項2】
エチレンを重合することによって得られる末端にビニル基を有するエチレン重合体、またはエチレンと炭素数3以上のオレフィンを共重合することによって得られる末端にビニル基を有するエチレン共重合体であり、
(F)Mが2,000以上であり、
(G)M/Mが2以上5以下である
マクロモノマーの存在下に、エチレンおよび任意に炭素数3以上のオレフィンを重合することにより得られるポリエチレン系樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載のインフレーションフィルム。
【請求項3】
インフレーション成形時のブロー比が3.0以上であることを特徴とする請求項1および2に記載のインフレーションフィルム。
【請求項4】
フィルム厚みが5μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1〜3に記載のインフレーションフィルム。

【公開番号】特開2006−299167(P2006−299167A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125590(P2005−125590)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】