説明

インフレーター

【課題】出力の低減を抑制して、コンパクトにすることができて、かつ、ミストの発生を抑えることが可能なインフレーターを提供すること。
【解決手段】本発明のインフレーターは、ハウジングの内部に、加圧ガスと、燃焼時にガスを発生可能なガス発生剤と、を充填させて構成されるハイブリッドタイプとされている。加圧ガスが、不活性ガスのみから構成される。ガス発生剤が、燃焼時に発生する熱量を、6000〜10000J/gの範囲内に設定される。加圧ガスと、ガス発生剤が燃焼して発生する燃焼ガスと、のモル比が、20〜40の範囲内に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングの内部に、加圧ガスと、燃焼時にガスを発生可能なガス発生剤とを充填させて構成されるハイブリッドタイプのインフレーターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイブリッドタイプのインフレーターは、エアバッグ装置において、エアバッグの膨張用に使用されるもので、作動時に、ガス発生剤を燃焼させて発生した燃焼ガスと、加圧ガスと、を、エアバッグ内に流入させて、エアバッグを膨張させていた。この従来のインフレーターでは、加圧ガスとして、酸素と不活性ガスとを混合させた混合ガスを使用しており、ガス発生剤として、燃焼時に発生する熱量が5000J/g程度に設定されたものを使用していた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−282427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
通常、ハイブリッドタイプのインフレーターでは、作動時に、ガス発生剤が燃焼されると、燃焼ガスが発生するとともに、ガス発生剤の燃えカス(ミスト)も発生することとなり、このようなミストは、加圧ガス及び燃焼ガスからなる膨張用ガスとともに、インフレーターのガス吐出口から、インフレーター外に吐出されることとなる。そして、このようなミストは、エアバッグ側に流入することが望ましくないことから、極力、発生を抑えることが好ましい。また、通常、車両に搭載されるエアバッグ装置のインフレーターは、乗員保護性能を確保するために、高出力であって、かつ、車両自体の軽量化の見地や、搭載位置の自由度を向上させる見地から、極力、軽量でコンパクトにすることが望まれている。
【0004】
上記特許文献1のインフレーターでは、加圧ガスに混合されている酸素は、作動時に、ガス発生剤の燃焼を促進させるための酸化剤として混合されているもので、エアバッグを膨張させるためのものではなかった。本発明者らは、無酸素で燃焼促進することができるガス発生剤を使用することに着目し、さらに、ガス発生剤として、燃焼時の発熱量が大きなものを使用すれば、ガス発生剤の使用量を少なくしても、同等の出力を確保できることに着目して、本発明のインフレーターに想到した。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、出力の低減を抑制して、コンパクトにすることができて、かつ、ミストの発生を抑えることが可能なインフレーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るインフレーターは、ハウジングの内部に、加圧ガスと、燃焼時にガスを発生可能なガス発生剤と、を充填させて構成されるハイブリッドタイプのインフレーターであって、
加圧ガスが、不活性ガスのみから構成され、
ガス発生剤が、燃焼時に発生する熱量を、6000〜10000J/gの範囲内に設定され、
加圧ガスと、ガス発生剤が燃焼して発生する燃焼ガスと、のモル比が、20〜40の範囲内に設定されていることを特徴とする。
【0007】
本発明のインフレーターでは、加圧ガスを、不活性ガスのみから構成していることから、従来加圧ガスとともに充填されていた酸素の容積分、ハウジングをコンパクトにすることができる。また、本発明のインフレーターでは、ガス発生剤として、燃焼時に、6000〜10000J/gの大きな熱量を発生するものを使用していることから、ガス発生剤の配合量(ガス発生剤が燃焼して発生する燃焼ガスの量)を、モル比で加圧ガスの量の1/30程度と、少なくしても、加圧ガスを熱膨張させることにより高い圧力を確保することができて、従来と同等の出力を確保することができる。すなわち、本発明のインフレーターでは、ガス発生剤の配合量を、相対的に低減させることができることから、ガス発生剤を低減させた容積分、ハウジングをコンパクトにすることができ、また、ガス発生剤の燃焼時に生成されるミストの量も低減させることができる。
【0008】
したがって、本発明のインフレーターでは、出力の低減を抑制して、コンパクトにすることができて、かつ、ミストの発生を抑えることができる。
【0009】
また、本発明のインフレーターでは、インフレーターに設けられたガス吐出口から、エアバッグ内に膨張用ガスが吐出される際に、膨張用ガスとともにエアバッグ内に噴出されるミストの量を、低減することができることから、ガス吐出口の周縁でミストを捕捉することを考慮しなくてもよく、ガス吐出口の開口面積を大きく設定することもできる。そのため、ガス吐出口の開口面積を変化させることにより、インフレーターの膨張用ガスの出力特性も適宜変更することができる。例えば、ガス吐出口の開口面積を大きくすれば、多量の膨張用ガスを迅速に吐出させることができ、ガス吐出口の開口面積を小さくすれば、少量の膨張用ガスを緩やかに吐出させることができるが、本発明のインフレーターでは、ガス吐出口の開口面積を変化させることにより、このような出力特性を容易に変更することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明すると、実施形態のインフレーター1は、図1に示すように、外形形状を略円柱状としたシリンダタイプとされるもので、加圧ガスG0と、燃焼時にガスを発生可能なガス発生剤11と、を充填させて構成されるハイブリッドタイプとされている。インフレーター1は、内部に加圧ガスを充填させた略円筒状のハウジング3の前端3a側に、吐出側口金部7を溶接等により固着させ、ハウジング3の後端3b側に、ガス発生剤11とガス発生剤11に着火するスクイブ10とを保持したスクイブ側口金部9を溶接等により固着させて構成されている。吐出側口金部7は、複数のガス吐出口7bを設けた頭部7aを突設させている。
【0011】
ハウジング3は、鋼製の金属パイプから形成されるもので、吐出側口金部7とスクイブ側口金部9との境界部位に、それぞれ、ガス発生剤11の着火に伴う内圧上昇や衝撃波の発生により破裂可能として、ハウジング3側を閉塞する破裂板13,14を、配設させている。また、ハウジング3の所定箇所(実施形態の場合、軸方向の略中央)には、加圧ガス充填用の充填用開口4が設けられている。この充填用開口4は、閉塞ピン5により、閉塞されている。ハウジング3の内部には、加圧ガスG0として、酸素を含まない不活性ガスが、充填されている。不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、またはそれらの混合ガス等を使用することができる。実施形態の場合、具体的には、加圧ガスG0としては、アルゴンガス単体、ヘリウムガス単体、もしくは、アルゴンガスとヘリウムガスとの混合ガスが、使用されている。実施形態の場合、ハウジング3内には、加圧ガスG0が、内圧を35〜70MPaの範囲内として、充填されている。
【0012】
スクイブ10は、スクイブ側口金部9内において、ハウジング3に設けられた破裂板14と対向する位置に、配設されている。スクイブ10は、先端側をスクイブ側口金部9内に挿入させ、元部側をスクイブ側口金部9外へ露出させるようにして、スクイブ側口金部9内に収納されるもので、元部側を、作動信号入力用の図示しないリード線に結線させる構成である。実施形態の場合、スクイブ10は、内部に少量の燃焼ガスを発生可能な薬剤を収納させた構成とされるもので、インフレーター1をエアバッグ装置として車両に搭載させた際に、このリード線を介して、車両の制御装置に電気的に接続され、制御装置からの作動信号を受けて、内部の薬剤を燃焼させるように作動して、ガス発生剤11を燃焼させることとなる。
【0013】
ガス発生剤11は、スクイブ側口金部9内において、スクイブ10と破裂板14との間に、充填されている。ガス発生剤11は、燃焼時に発生する燃焼ガスを、加圧ガスG0とともに、エアバッグの膨張用に使用可能とされるもので、具体的には、燃焼時の発熱量を、6000〜10000J/gの範囲内に設定されているものを使用する。発熱量が6000J/g未満では、燃焼時に発生する熱量が少なすぎて、加圧ガスG0を充分に熱膨張させることができず、所望の出力を得られないためであり、発熱量が10000J/gを超えるものは入手が困難であるためである。
【0014】
実施形態の場合、具体的には、ガス発生剤11として、燃料と酸化剤と金属粉末とを、適宜、結合剤とともに混合して、所定形状に成形(実施形態の場合、球形)としたものを、使用している。燃料としては、トリアジン誘導体、テトラゾール誘導体、トリアゾール誘導体、グアニジン誘導体、アゾジカルボンアミド誘導体、及び、ヒドラジン誘導体等を例示でき、これらを、一種または二種以上混合させて使用することができる。酸化剤としては、硝酸ストロンチウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、過塩素酸カリウム、酸化銅、酸化鉄、塩基性硝酸銅等を例示でき、これらを一種または二種以上混合させて使用することができる。金属粉末としては、ホウ素(他に例示可能な金属があれば教えて下さい)等を例示でき、これらを一種または二種以上混合させて使用することができる。この金属粉末は、燃焼時の発熱量増大のために、点火されているものであって、実施形態の場合、燃焼熱が高く、少量で大きな発熱量を得られる見地から、ホウ素を使用することが好ましい。結合剤としては、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、ヒロドキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、ポリビニルアルコール、グアーガム、微結晶性セルロース、ポリアクリルアミド、ステアリン酸カルシウム等を例示でき、これらを一種または二種以上混合させて使用することができる。
【0015】
そして、実施形態のインフレーター1では、加圧ガスG0と、ガス発生剤11と、が、加圧ガスとガス発生剤11が燃焼して発生する燃焼ガスとのモル比(加圧ガス/燃焼ガス)を、20〜40の範囲内とするように、内部に充填されている。加圧ガス/燃焼ガスのモル比が20未満では、ガス発生剤11の充填量が多すぎて、インフレーター1が嵩張るとともにガス発生剤の燃焼時に生成されるミストが無視できない量となるためである。また、逆に、加圧ガス/燃焼ガスのモル比が40を超えると、ガス発生剤11の充填量が少なすぎて、必要な熱量が得られず、所望の出力を得られないためである。なお、ガス発生剤11の加圧ガスに対する充填量は、ガス発生剤11の発熱量に反比例するものであり、発熱量の大きなガス発生剤11を使用すれば、ガス発生剤11の充填量を減らすことができ、その結果、加圧ガス/燃焼ガスのモル比が大きくなると推測される。
【0016】
実施形態のインフレーター1では、エアバッグ装置とともに車両に搭載された状態で、図示しないリード線を経て、制御装置からの作動信号が入力されると、スクイブ10が作動して、ガス発生剤11が燃焼して燃焼ガスが発生し、発生した燃焼ガスによってスクイブ側口金部9の内圧が高まれば、破裂板14が破裂して、ハウジング3内に、燃焼ガスが流入することとなる。そして、この燃焼ガスによってハウジング3内の加圧ガスG0が加熱され、ハウジング3の内圧が高まれば、破裂板13が破裂して、加圧ガスG0と燃焼ガスとが、膨張用ガスGとして、吐出側口金部7に設けられたガス吐出口7bからインフレーター1外へ流出することとなり、エアバッグ装置のエアバッグを膨張させることとなる。
【0017】
そして、実施形態のインフレーター1では、加圧ガスG0を、酸素を含まない不活性ガスから構成していることから、従来加圧ガスとともに充填されていた酸素の容積分、ハウジング3をコンパクトにすることができる。また、実施形態のインフレーター1では、ガス発生剤11として、燃焼時に、6000〜10000J/gの大きな熱量を発生するものを使用していることから、ガス発生剤11の配合量(ガス発生剤11が燃焼して発生する燃焼ガスの量)を、モル比で加圧ガスG0の量の1/30程度と、少なくしても、加圧ガスG0を熱膨張させることにより高い圧力を確保することができて、従来と同等の出力を確保することができる。すなわち、実施形態のインフレーター1では、ガス発生剤11の配合量を、相対的に低減させることができることから、ガス発生剤11を低減させた容積分、ハウジング3をコンパクトにすることができ、また、ガス発生剤11の燃焼時に生成されるミストの量も低減させることができる。
【0018】
したがって、実施形態のインフレーター1では、出力の低減を抑制して、コンパクトにすることができて、かつ、ミストの発生を抑えることができる。
【0019】
また、実施形態のインフレーター1では、インフレーター1に設けられたガス吐出口7bから、エアバッグ内に膨張用ガスGが吐出される際に、膨張用ガスGとともにエアバッグ内に噴出されるミストの量を、低減することができることから、ガス吐出口7bの周縁でミストを捕捉することを考慮しなくてもよく、ガス吐出口7bの開口面積を大きく設定することもできる。そのため、ガス吐出口7bの開口面積を変化させることにより、インフレーター1の膨張用ガスの出力特性も適宜変更することができる。例えば、ガス吐出口7bの開口面積を大きくすれば、多量の膨張用ガスを迅速に吐出させることができ、ガス吐出口7bの開口面積を小さくすれば、少量の膨張用ガスを緩やかに吐出させることができるが、実施形態のインフレーター1では、ガス吐出口7bの開口面積を変化させることにより、このような出力特性を容易に変更することができる。
【0020】
本発明の要件を満たす複数のインフレーターと、比較例としての複数のインフレーターと、について、それぞれ、作動時の出力を測定した結果を、表1,2に示す。作動時の出力は、タンク燃焼試験によって測定されており、内容積28.3Lのステンレス鋼製のタンク内に、各インフレーターを固定し、タンク内圧の最大値を測定したものである。実施例A〜Cのインフレーターと、比較例A〜Cのインフレーターと、では、加圧ガスの物質量は略同一として、ガス発生剤のみを変更している。実施例A〜Cのインフレーターでは、ガス発生剤として表3に示す組成のもの(発熱量:6300J/g、燃焼ガス発生量:0.014mol/g)を使用し、比較例A〜Cのインフレーターでは、ガス発生剤として、表4に示す組成のもの(発熱量:3200J/g、燃焼ガス発生量:0.023mol/g)を使用している。なお、比較例A〜Cのインフレーターのガス発生剤に使用されている窒化珪素(表4参照)は、燃焼時のミストの発生を抑えるために、スラグを形成させるためのスラグ形成剤である。実施例A〜C及び比較例A〜Cでは、加圧ガスとして、アルゴンとヘリウムとをAr/He=0.94/0.06のモル比で混合させた混合ガスを使用している。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

表1,2に示すように、実施例A〜Cのインフレーターでは、対応する比較例A〜Cのインフレーターに対して、加圧ガスの量を略同一として、ガス発生剤の量を減らしている。具体的には、実施例A〜Cのインフレーターでは、ガス発生剤として、単位重量あたりの燃焼ガスの物質量も、比較例A〜Cのインフレーターで使用されるガス発生剤の2/3程度に設定されたものを使用し、さらに、インフレーターに充填されるガス発生剤の重量も、比較例A〜Cと比較して小さく設定されているが、この実施例A〜Cのインフレーターで使用されるガス発生剤は、比較例A〜Cで使用されるガス発生剤より、発熱量を、2倍程度大きく設定されていることから、比較例A〜Cのインフレーターに対して出力が低減することを抑制されて、比較例A〜Cと略同等のタンク圧力を得られている。具体的には、実施例A〜Cのインフレーターにおいて用いられるガス発生剤は、燃料の配合量を減らし、金属粉末としてホウ素を含有させた点を、比較例A〜Cのインフレーターで使用されるガス発生剤と、異ならせている。この点から、ホウ素が、ガス発生剤の燃焼時における発熱量の増大に寄与していると推測することができる。
【0025】
そして、実施例A〜Cのインフレーターでは、ガス発生剤の量(燃焼時に発生する燃焼ガスの物質量)を、比較例A〜Cのインフレーターの1/2〜2/3程度に低減されている。そのため、実施例A〜Cのインフレーターでは、比較例A〜Cのインフレーターと比較して、ガス発生剤の量を低減できることから、ガス発生剤を低減させた容積分、ハウジングをコンパクトにすることができ、また、ガス発生剤の燃焼時に生成されるミストの量も低減させることができる。実施例A〜Cのインフレーターは、外形形状を、比較例A〜Cのインフレーターの外形形状の1割程度の容積分、コンパクトにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態であるインフレーターの概略縦断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1…インフレーター、
3…ハウジング、
10…スクイブ、
11…ガス発生剤、
G0…加圧ガス、
G…膨張用ガス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングの内部に、加圧ガスと、燃焼時にガスを発生可能なガス発生剤と、を充填させて構成されるハイブリッドタイプのインフレーターであって、
前記加圧ガスが、不活性ガスのみから構成され、
前記ガス発生剤が、燃焼時に発生する熱量を、6000〜10000J/gの範囲内に設定され、
前記加圧ガスと、前記ガス発生剤が燃焼して発生する燃焼ガスと、のモル比が、20〜40の範囲内に設定されていることを特徴とするインフレーター。

【図1】
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