説明

インフレータ及びエアバッグ装置

【課題】 ガス発生剤の発生ガスの圧力上昇の立ち上がりの調整、燃焼時間の調整が行える小型のインフレータを提供する。
【解決手段】 内部に燃焼空間15が形成されたハウジング10と、ベース側ハウジング10Aに形成された取付孔にホルダ17を介して設けられたイニシエータ18と、一端がカバー側ハウジング10Bとの間に所定の隙間を確保するように、他端がホルダ17の一部に係止保持された着火制御スリーブ20と、着火制御スリーブ20で区画された内外の燃焼空間15に充填されたガス発生剤35とを備えたインフレータ1からなる。このインフレータ1は、スリーブ20内のガス発生剤35が着火された後、カバー側ハウジング10B側との隙間を介してスリーブ20の外側のガス発生剤35に着火され、発生ガスが燃焼空間15内の最外側面のフィルタ30を透過して噴出孔13からハウジング10外に噴出するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインフレータ及びエアバッグ装置に係り、特に、コンパクトな形状で、着火開始時間と出力の立ち上がりの傾向を制御可能なインフレータ及びそのインフレータを搭載したエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ装置は、ステアリング基部やインストルメントパネル内に取り付けられ、衝突時等にインフレータからの噴出ガスにより、エアバッグを所定形状に急速膨張させて、対象乗員の拘束を図るようになっている。通常のインフレータは、内部にガス発生剤(プロペラント)を燃焼させる燃焼室を有する各種形状のハウジングと、燃焼室の排気側面に取り付けられたフィルタと、プロペラントに着火して燃焼させる点火装置(イニシエータ)等を備えた構成からなる。動作信号を受けてイニシエータが作動し、燃焼室内に伝火剤を介して火炎が噴射されると、この火炎でプロペラントが着火されて燃焼し、高温・高圧のガスが発生する。このガスは、フィルタを通過した後、ハウジングに形成されたガス噴出孔から外部へ放出され、乗員拘束の目的に応じた展開形状にエアバッグを膨張させる。フィルタは、例えばスチールワイヤーを筒状に成形したものであって、高温のガスの温度を下げるとともに、ガスに混在しているスラグ(燃焼残渣、燃えかす)を取り除く役割を果たす。
【0003】
インフレータのガス発生の反応機構としては、各種の形式が提案されているが、たとえば特許文献1に開示されたガス発生器は、伝火剤(ブースタプロペラント)を装填筒体内に充填し、点火器(イニシエータ)の着火により発火する伝火剤の火炎エネルギーを装填筒体の端面に設けられた火炎噴出口から上蓋に向けて噴射させ、上蓋と火炎噴出口との間の空間に収容されたガス発生剤(メインプロペラント)を選択的に燃焼させ、その後その周囲のガス発生剤の燃焼を進行させることで、効率の良いガス発生を実現している。
【特許文献1】特開2002−370607公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたガス発生器では、装填筒体内に収容される伝火剤として、ガス発生剤よりも敏感に発火するボロン硝石等が用いられるが、発生ガス量が少ないため、ガス発生剤を確実に燃焼させるために伝火剤量を多く必要とする。その分、収容する装填筒体の容積も大きくなり、インフレータ全体としての外観も大きくなってしまうと言う問題がある。
【0005】
特許文献1に開示された従来のインフレータでは、ハウジングの中心部に設けられた筒状体内に収容された伝火剤等の火炎噴射方向を制御することで、ハウジング内に充填されたメインプロペラントを段階的あるいは選択的に燃焼させることにより、メインプロペラントによるガス発生効率を高めるのが特徴であった。そのために、それぞれ燃焼に必要な容量の内容物(点火剤)を充填、収容する仕切空間を設ける必要があるため、インフレータを小型にするのが困難であった。
【0006】
インフレータの小型化のための提案として、伝火剤(ブースタプロペラント)を収容する筒状体を取り除き、イニシエータに、強力なZPP(ジルコニウム/過塩素酸カリウム混合物)等の点火薬を用いて、イニシエータで直接メインプロペラントを着火させる構造とすることも考えられる。しかし、この場合には、メインプロペラントの着火開始時間(TTFG)が遅くなるとともに、着火後の出力の立ち上り傾向が急になるため、ガス圧およびガス発生量の調整が難しく、エアバッグの膨張制御がうまく行えない。そこで、本発明の目的は、上述した問題を解消し、適正なイニシエータを用い、メインプロペラントの着火開始時を遅らせることなく、ガス発生の継続時間の調整が行え、小型化が可能なインフレータ及びエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、略椀状のベース側ハウジングとカバー側ハウジングとを合わせて内部に燃焼空間が形成されたハウジングと、該ハウジング内に前記ベース側ハウジングに形成された取付孔にホルダを介して設けられたイニシエータと、一端が前記カバー側ハウジングとの間に所定の隙間を確保するように、他端が前記ホルダの一部に係止保持された着火制御スリーブと、該着火制御スリーブで区画された内外の燃焼空間に充填されたガス発生剤とを備えてなるインフレータであって、前記着火制御スリーブ内のガス発生剤が前記イニシエータで着火された後、前記カバー側ハウジング側との隙間を介してスリーブ外側のガス発生剤に着火され、発生ガスが前記燃焼空間内の最外側面に保持されたフィルタを透過して、前記カバー側ハウジングに形成された噴出孔からハウジング外に噴出するようにしたことを特徴とする。
【0008】
前記着火制御スリーブの一端とカバー側ハウジング側との隙間量を変更して前記着火制御スリーブ外側のガス発生剤の着火開始時間と、着火開始直後に前記噴出孔から噴出されるガス圧の立ち上がり勾配を制御することができる。これにより、エアバッグの膨張タイミングを調整でき、乗員拘束の最適化が図れる。
【0009】
前記内外の燃焼空間内に、同一種のガス発生剤を充填することが好ましい。ガス発生量が十分確保されるガス発生剤を使用することで、ガス発生剤の充填容積を減らすことができ、インフレータの小型化を図ることができる。
【0010】
前記着火制御スリーブ内に充填するガス発生剤寸法を、前記着火制御スリーブ外に充填するガス発生剤寸法より小さくすることが好ましい。これにより、インフレータのガス発生直後のインフレータからの噴出ガスの圧力の立ち上り傾向を調整することができる。
【0011】
前記フィルタは前記燃焼空間の高さ方向にほぼ等しい幅のリング状体からなり、前記ハウジング内に設けられた略椀状のホルダで、フィルタの幅方向の端部以外がその内外周面からガス透過しないように保持され、前記発生ガスは前記フィルタの幅方向の一端から他端にかけて幅方向の全長を透過させることが好ましい。これにより、高温発生ガスの温度低下およびスラグの除去を確実に行うことができる。
【0012】
上述したインフレータを用いたエアバッグ装置であって、前記インフレータが車体の所定基部に、固定部材を介して保持され、折り畳まれたエアバッグが、その開口部縁が前記インフレータのガス噴出孔を覆うように前記固定部材に固定され、衝突検知時における前記インフレータの噴出孔からのガス発生により、前記エアバッグが所定展開傾向を呈して膨張展開可能なことを特徴とする。このエアバッグ装置によれば、ステアリング基部等に小型のインフレータを用いることができ、衝突時におけるエアバッグの展開傾向の制御が容易に行えるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0013】
以上に述べたように、本発明によれば、ガス発生剤(プロペラント)の発生ガスの圧力上昇の立ち上がりの調整、燃焼時間の調整が行える小型のインフレータを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係るインフレータについて、図1,図2に示した実施例を参照して説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本実施例のインフレータの横断面図である。同図に示したインフレータ1のハウジング10は扁平な円筒形状をなし、それぞれ扁平な円形椀状部を有するベース側ハウジング10Aと、カバー側ハウジング10Bの開口側とを向かい合わせ嵌合させた容器構造からなる。ベース側ハウジング10Aの円椀部の縁辺には周縁フランジ11が形成されている。周縁フランジ11には取付孔12が形成されており、この周縁フランジ11に、折り畳まれたエアバッグ(図示せず)の口元部が図示しない固定ボルト等を介して固定される。また、インフレータ1全体は、この周縁フランジ11に取り付けられたリテーナ(図示せず)を介してステアリング基部(図示せず)等に保持される。カバー側ハウジング10Bの側面には所定ピッチで、後述する発生ガスの噴出孔13が列設され、図1に示したように、噴出孔13がベース側ハウジング10Aの周縁フランジ11から露出するように、ベース側ハウジング10Aの内径部に嵌合して取り付けられ、向かい合わされたハウジング10の内部に燃焼空間15が形成される。何れのハウジング10A、10Bも、板厚2.0mm程度の鋼板を椀状に絞り加工した成形品を使用することができる。
【0016】
ベース側ハウジング10Aの円板部の中心部には、イニシエータ18(後述する)を収容可能な円孔16が形成され、この円孔16から燃焼空間15に向けて略筒状のホルダ17が嵌着されている。このホルダ17の内周部には、電極端子18aが外部に露出するようにイニシエータ18が装着されている。イニシエータ18内には点火薬として所定量のZPPが装薬されている。イニシエータ18の電極端子18aには、図示しないエアバッグ動作制御部(図示せず)からの着火電流が印加されるようになっている。さらにハウジング10内のホルダ17の外周面のカラー17aに接するように着火制御スリーブ20の根元部が嵌着されている。着火制御スリーブ20は、肉厚約1mm、直径φ25mmの炭素鋼製筒状体で、筒長は、図1に示したように、カバー側ハウジング10B(正確にはフィルタホルダ25の外側ホルダ25B)の内面との間にクリアランスdを確保した長さに設定されている。このクリアランスdは、後述するように、プロペラント着火制御を行うパラメータとして、インフレータ1の設計仕様に応じて機能する。ガス発生容量に応じてインフレータ1の大きさも異なり、燃焼空間15の容積も異なる。その際、ホルダ17に嵌合させて使用する着火制御スリーブ20の適正な寸法としては直径φ10〜35mm程度を想定している。また、着火制御スリーブ20内での燃焼時にスリーブ20が変形しないような肉厚とする必要がある。そのため、直径に対応させて肉厚も0.5〜1.5mm程度としてスリーブ20の剛性を保持することが好ましい。
【0017】
燃焼空間15内には、後述するフィルタ30を保持するフィルタホルダ25が収容されている。このフィルタホルダ25は、肉厚0.5mmの低炭素鋼を成形加工した円椀状体で、ほぼ同形、異径の内側ホルダ25Aと外側ホルダ25Bとからなる。内側ホルダ25Aは、ベース側ハウジング10Aの内面とフィルタ30の内周面に接する椀状をなし、ベース側ハウジング10Aの中央に位置するホルダ17のカラー17aの外縁に嵌め込まれ、ベース側ハウジング10A内面に固着されている。外側ホルダ25Bは、カバー側ハウジング10Bの内面とフィルタ30の外周面とに接する椀状をなし、カバー側ハウジング10Bの内面に固着されている。
【0018】
本発明のインフレータ1でも、従来のインフレータと同様に、発生ガスに混在するスラグを除去するためにフィルタ30が装着されている。本実施例のフィルタ30は、従来と同様の形状、材質からなる金属メッシュあるいは細かくランダムに湾曲させたワイヤの束をプレス成形加工した所定幅のリング形状体からなる。リングの直径および幅はハウジングの燃焼空間15の高さに応じて設定されている。
【0019】
本発明ではインフレータ1内で発生したガスの燃焼状態と、発生ガスの外部への排気経路を、図2に示したように設定している(同図では説明のためにプロペラントの図示は省略している)。すなわち、本インフレータ1では、上述の内側ホルダ25Aの周面と外側ホルダ25Bの周面にはガス透過孔が形成されていない。このため、発生ガスは、図2に破線表示したように、内側ホルダ25Aの周面端部の隙間26からフィルタ30の端部に送られ、フィルタ30の幅の長手方向にわたってフィルタ30内を透過し、その後フィルタ30外側端部の隙間27から外側ホルダ25Bの外周面とカバー側ハウジング10Bの内周面との間に形成されたガス通路28を通り、カバー側ハウジング10Bに形成されたガス噴出孔13からインフレータ1の外部に噴出される。このようなガス経路(図2に破線表示)中でフィルタ30を完全透過するため、ガスに混在するスラグを高効率で除去することができる。本実施例では、フィルタ30位置でのガスの透過効率を考慮して、フィルタ30は厚み約3.0〜6.0mm、幅約25〜35mmに成形されている。
【0020】
本発明のインフレータ1では、ガス発生剤としてのプロペラント35がインフレータ1内の着火制御スリーブ20内とその外側の燃焼空間15とに充填されている。本実施例では、扁平なタブレット形状のプロペラント35が用いられ、スリーブ20内とその外側の燃焼空間15に所定割合量がそれぞれ詰められている。特に着火制御スリーブ20内にはイニシエータ18が突出しており、イニシエータ18の点火によって早期にプロペラント35が発火してガス発生するため、プロペラント35はスリーブ20とイニシエータ18との間では間隙充填重量が1.5〜5g程度となるように詰め込まれている。さらにその他のプロペラント35は、フィルタホルダ25の内側ホルダ25Aと着火制御スリーブ20の外周との間の環状の燃焼空間15に所定分量が充填されている。本実施例では、プロペラント35のタブレットの寸法(直径φ,厚さh)は、すべてφ6.35mm×h3.175mmの普通サイズを使用した。このタブレット状のプロペラント35としては、グアニジン−ナイトレート系(Gu−Ni系),アミノテトラゾール系(5AT系),過塩素酸アンモニウム系(AP系),硝酸アンモニウム系(AN系)のガス発生剤を、エアバッグ容積に応じて求められる発生ガス量、火力仕様、薬剤を充填可能な空間の容積等を考慮して適宜選択して使用することが好ましい。
【0021】
図1に示した構成からなるインフレータ1の動作時におけるガス発生機構について、図2を参照して説明する。本発明では、イニシエータ18として比較的強力な点火剤であるZPP(ジルコニウム/過塩素酸カリウム)を所定量装填して、図示しない点火制御部からの点火電流の印加により、点火剤が発火する。その発火時に発生する高熱火炎によって着火制御スリーブ20内のプロペラント35が発火する。そしてスリーブ20内で発生した燃焼火炎および高温ガスがスリーブ20の先端と外側ホルダ25B側の間の円形をなして開放されたクリアランス部分を通じて外周部の燃焼空間15に広がる。これに伴い、外周部の燃焼空間15に充填されたプロペラント35が引き続き燃焼し、最終的に燃焼空間15内のプロペラント35が、図示しないエアバッグを膨張させるだけの容積の燃焼ガスを発生させる。その燃焼ガスは、図2に示したように、内側ホルダ25Aの周面端部の隙間26からフィルタ30の端部に送られ、フィルタ30内を幅方向(長手方向)に沿って透過し、フィルタ30の外周面とカバー側ハウジング10B内周面との間に形成されたガス通路28を通り、カバー側ハウジング10Bに形成されたガス噴出孔13からインフレータ1外に噴出され、折り畳まれたエアバッグが膨張展開する。
【0022】
ここで、スリーブ20内でのプロペラント35の燃焼火炎および高温ガスがスリーブ20の先端とカバー側ハウジング10B側に伝わる際に通過する隙間部分(クリアランス)のガス通過面積(通常、スリーブ20直径が決定しているので、クリアランスdに依存する)の大きさの差による発生ガスの圧力変化について、図5を参照して説明する。同図は、クリアランスdを0.5,1.5,6.0mmと変化させたときの外部燃焼空間15での着火開始時間(TTFG:Time To Fire Gas)から時間経過(ms)の圧力変化(kPa)を示した関係グラフである。同量のプロペラント35を用いて、クリアランスを大きくとった場合(d>4mm)、圧力の立ち上がりとピーク圧力及びピーク到達時間を早くすることができる。これは、たとえば展開の早期から乗員を拘束することが必要なエアバッグ装置において、このタイプのインフレータを用いることが好ましい。一方、車室スペースの関係で、急激な乗員拘束を行わずに、乗員を緩やかに拘束することが求められる場合もある。その場合には、インフレータからのガス圧力の発生の立ち上がりを遅くすることで対応することができる。このように、本発明では、着火制御スリーブ20を設け、その先端位置でのカバー側ハウジング10Bとのクリアランスを調整することで、同じプロペラント35を使用して、その圧力上昇の速遅を制御することができる。このように、本発明のインフレータ1によれば、インフレータを大型化することなく、その圧力上昇の立ち上がりを制御でき、各タイプのエアバッグ装置で要求される展開傾向に沿ったインフレータの出力特性を実現することができる。
【0023】
図3は、着火制御スリーブ20の直径を当初から大きくし、イニシエータ18での点火時に着火する分のプロペラント35iの充填量を多くして、スリーブ20外の燃焼空間15のプロペラント35oの充填量を少なくしてガス発生させることを想定した変形例である。この変形例によれば、クリアランスdが同一である場合も、初期段階で着火制御スリーブ20内で発生する燃焼エネルギーが大きくなり、外部燃焼空間15でのプロペラント35oによる燃焼時の圧力上昇の立ち上がり傾向を変えることができる。具体的には、φ10〜35mmの設定範囲では、径が大きいほど圧力の立ち上り速度は増す。φ35mm以上になると遅くなる傾向がある。このとき着火制御スリーブ20の直径が増せばスリーブ20の容積が大きくなるので、同等の間隙密度でプロペラント35iを詰めれば、スリーブ20内に充填されるプロペラント35iの充填量は増え、外部燃焼空間15内に充填されるプロペラント35oの充填量は少なくなるが、充填時の間隙密度等を調整して各空間に充填されるプロペラント35i,35oの充填量のバランスを調整してもよい。
【0024】
一般に、燃焼速度(図5に示した圧力上昇の立ち上がり傾向)は、充填されたプロペラント35のの総表面積に比例することが知られている。同じ薬剤量(質量)を充填する場合、小さい形状のプロペラント35を使用した方が、総表面積は大きくなり、燃焼速度も速くすることができる。しかし、燃焼時間を、ある程度継続させて、その間に適正なタイミングでエアバッグを所定の形状に膨張させる必要もある。そこで、着火性の向上を図った実施例について、図4及び図6を参照して説明する。
図4に示したインフレータ1は、着火制御スリーブ20内に小粒サイズ(本実施例ではφ4.76mm×h1.524mm)のタブレット形状のプロペラント35sを充填し、外部燃焼空間15内に上述の普通サイズのタブレット形状のプロペラント35nを充填したタイプである。その他の構成は図1に同様である。このインフレータ1を、着火制御スリーブ20のクリアランスd=0.5mmとした場合の着火性状と、従来の全部が普通サイズのものの着火性状とを比較したグラフが図6である。同図に示したように、着火制御スリーブ20内に小粒サイズのタブレット形状のプロペラント35sを充填した方がスリーブ20内に普通サイズのプロペラント35nを充填した場合に比べて、圧力上昇の立ち上がりを早めることができる。本実施例では、ピークまでの立ち上がりを5〜10ms程度短縮でき、初期段階での燃焼速度をより直線的なものとできることにより、この構成によっても、エアバッグの展開時のインフレータの圧力の立ち上りを制御することが可能になる。
【0025】
上述したように、使用するプロペラント35のサイズを小さくして着火制御スリーブ20内に詰めることで、同等の着火性状を求める場合には、着火制御スリーブ20の容積を小さくすることもできるため、インフレータ1全体としての小型化をさらに図ることも可能である。なお、上述の説明は、図1に断面図を示した扁平円筒形状タイプのインフレータ1を例示して説明したが、ガス発生機構が同様のインフレータであれば、着火制御スリーブ20を設け、燃焼時間の制御とを可能であればハウジングは各種の形状とすることができる。
【0026】
以上に述べたインフレータ1は、自動車等の各部に装備される各種のエアバッグ装置に用いることができる。以下、図7,図8を参照してドライバー用のエアバッグ装置40に適用した実施例を示す。図7は、ステアリング基部41に装備されたエアバッグ装置40の概略構成を示した断面図である。同図に示したように、エアバッグ装置40は、モジュールカバー42内に、インフレータ1のハウジング10と、その前面に折り畳まれたエアバッグ43とが収容され、インフレータ1のベース側ハウジング10Aが固定ボルト44により、固定部材としての所定形状のリテーナ45を介してステアリングロッド端のステアリング基部41に、ステアリングホイール46の支持部とともに一体的に固定されている。エアバッグ43の開口部縁43aも、インフレータ1のガス噴出孔13を覆うようにリング状の押さえ板47を固定ボルト48で基部41に密着固定されている。この状態から、図示しない衝突検知部のセンサがエアバッグを展開させる程度の衝突を検知すると、上述したようにインフレータ1内で、所定立ち上がり性状に制御されたガス圧でガスが発生し、ハウジング10のガス噴出孔13からガスが噴出する。これにより、エアバッグ43はモジュールカバー42のテアライン(図示せず)を内方から押し広げて、所定展開傾向を呈して図8に示したような形状に膨張展開することができる。このように、上述のインフレータ1を用いることにより、ステアリング基部に装備するエアバッグ装置40をコンパクトなものにすることができ、また車室空間寸法や形状に合わせてエアバッグ43の適正な膨張展開性状を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のインフレータの一実施例の横断面を示した断面図。
【図2】図1に示したインフレータ内での着火及びガス発生状態を模式的に示した断面図。
【図3】図1に示したインフレータの着火制御スリーブの変形例を示した断面図。
【図4】インフレータ内に充填するプロペラントの充填例を示した断面図。
【図5】クリアランスdを変えたときのインフレータ動作時の経過時間と発生ガス圧力との関係を示したグラフ。
【図6】スリーブ内のプロペラントのサイズを変えたときのインフレータ動作時の経過時間と発生ガス圧力との関係を示したグラフ。
【図7】本発明のインフレータを装備したエアバッグ装置の内部構成を示した断面図。
【図8】図7に示したエアバッグ装置のエアバッグの膨張展開状態を示した一部断面図。
【符号の説明】
【0028】
1 インフレータ
10 ハウジング
10A ベース側ハウジング
10B カバー側ハウジング
13 ガス噴出孔
15 燃焼空間
17 ホルダ
18 イニシエータ
20 着火制御スリーブ
25 フィルタホルダ
25A 内側ホルダ
25B 外側ホルダ
30 フィルタ
35,35i,35o,35s,35n プロペラント
d クリアランス
40 エアバッグ装置
43 エアバッグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略椀状のベース側ハウジングとカバー側ハウジングとを合わせて内部に燃焼空間が形成されたハウジングと、該ハウジング内に前記ベース側ハウジングに形成された取付孔にホルダを介して設けられたイニシエータと、一端が前記カバー側ハウジングとの間に所定の隙間を確保するように、他端が前記ホルダの一部に係止保持された着火制御スリーブと、該着火制御スリーブで区画された内外の燃焼空間に充填されたガス発生剤とを備えてなるインフレータであって、
前記着火制御スリーブ内のガス発生剤が前記イニシエータで着火された後、前記カバー側ハウジング側との隙間を介してスリーブ外側のガス発生剤に着火され、発生ガスが前記燃焼空間内の最外側面に保持されたフィルタを透過して、前記カバー側ハウジングに形成された噴出孔からハウジング外に噴出するようにしたことを特徴とするインフレータ。
【請求項2】
前記着火制御スリーブの一端とカバー側ハウジング側との隙間量を変更して前記着火制御スリーブ外側のガス発生剤の着火開始時間と、着火開始直後に前記噴出孔から噴出されるガス圧の立ち上がり勾配を制御するようにした請求項1に記載のインフレータ。
【請求項3】
前記内外の燃焼空間内に、同一種のガス発生剤が充填された請求項1または請求項2に記載のインフレータ。
【請求項4】
前記着火制御スリーブ内に充填するガス発生剤寸法を、前記着火制御スリーブ外に充填するガス発生剤寸法より小さくした請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のインフレータ。
【請求項5】
前記フィルタは前記燃焼空間の高さ方向にほぼ等しい幅のリング状体からなり、前記ハウジング内に設けられた略椀状のホルダで、フィルタの幅方向の端部以外がその内外周面からガス透過しないように保持され、前記発生ガスは前記フィルタの幅方向の一端から他端にかけて幅方向の全長を透過するようにした請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のインフレータ。
【請求項6】
請求項1に記載されたインフレータが車体の所定基部に、固定部材を介して保持され、折り畳まれたエアバッグが、その開口部縁が前記インフレータのガス噴出孔を覆うように前記固定部材に固定されたエアバッグ装置であって、衝突検知時における前記インフレータの噴出孔からのガス発生により、前記エアバッグが所定展開傾向を呈して膨張展開可能なことを特徴とするエアバッグ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−64668(P2010−64668A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234411(P2008−234411)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】