説明

インプラント

【課題】 安全性のある素材を用い、また、薬剤徐放時期、期間を制御することができ、生体適応性に優れたインプラントを提供する。
【解決手段】 本発明のインプラントは、基材と、前記基材表面に設けられた複数層のハイドロキシアパタイト層と、前記ハイドロキシアパタイト層の層間に形成された担持薬剤層と、を有する。このように、生体適合性を有するハイドロキシアパタイトを用いて基材がコーティングされているので、生体適合性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を担持したインプラント、より詳しくは、生体親和性に優れ、薬剤徐放性に優れるインプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
血管狭窄部拡張用ステント、人口骨、人工歯根など生体内挿入留置インプラントの基材としては、チタン(Ti)、チタン合金、ステンレス鋼、コバルト−クロム(Co−Cr)合金などが使用されている。これらの金属で形成されたインプラントを生体内に挿入留置すると、インプラントは、長い時間を経て生体に適合する。
【0003】
しかし、インプラントを挿入直後から、金属周辺で生体反応が起こる。この生体反応は、時間の経過と共に変化していく。生体反応の経過は、埋入直後、数時間、数日、1ヶ月、1年以上と、長期間に渡るとともに、生ずる生体反応も異なる。インプラントは、この間できるだけ事故なく、安定にかつ早期に生体に定着することが望まれる。このために、インプラントを表面処理することが試みられている。
【0004】
例えば、プラズマCVDなどの化学気相成長法や、イオンビームなどの物理気相成長法を用いて、インプラントの表面に、ダイヤモンド・ライク・カーボン(Diamond−like Carbon:以下、「DLC」という)をコーティングすることが行われている(例えば、非特許文献1参照)。このDLCは、生体適合性に優れる。
【0005】
あるいは、インプラントの表面に生体適合性に優れるハイドロキシアパタイトをコーティングすることが行われている(例えば、非特許文献2参照)。
【非特許文献1】アイ.ディ.シェルダー(I.D.Scheerder),「ザ ジャーナル オブ インヴェィシブ カーディオロジー(The Journal of Invasive Cardiology)」、2000年8月、第12巻、第8号、pp389〜
【非特許文献2】青木秀希、「驚異の生体物質アパタイト」、医歯薬出版、1999年
【非特許文献3】ディーン−モ リウ(Dean−Mo Liu)、「バイオマテリアルズ(Biomaterials)」、2002、第23巻、pp691〜698
【非特許文献4】ディ エム ウェラン(D M Whelan)、「ハート(Heart)」、2000年、第83巻、pp338〜345
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さらに、インプラントを生体内に埋入後の生体反応を緩和、治癒されるため、薬剤をインプラントの表面に担持し、生体内に徐放することが試みられている。血管拡張用ステントでは、薬剤溶出性ステント(drug−eluting stent:DES)として製品化されている。
【0007】
しかし、非特許文献1に記載のインプラントでは、コーティングされたDLCの表面は、潤滑性の平滑なものである。また、DLC自体に吸着性はない。このため、DLCの面上に薬剤を密着して担持させることができない。
【0008】
一方、非特許文献2で用いられるハイドロキシアパタイトは、多孔質のものも得られる。これを利用して、インプラント表面に多孔質のハイドロキシアパタイトをコーティングし、焼き付け、このコーティング膜の細孔に薬剤を含浸保持させたものが開示されている(例えば、非特許文献3参照)。このインプラントを生体内に埋入すると、薬剤は細孔から徐放される。これにより、インプラントの生体への適合を順調に行える。
【0009】
しかし、ハイドロキシアパタイトのコーティング膜は表面に開口している。このため、薬剤を含浸したインプラントを生体内に埋入すると、埋入直後から薬剤が生体内への溶出が開始され、薬剤徐放時期の制御ができない。また、多孔質のハイドロキシアパタイトは生体内で経時的に分解される。このため、生体内で、基材が直接曝されるという問題もある。
【0010】
また、薬剤を有機ポリマーに混入してインプラントの表面に塗布したものが開示されている(例えば、非特許文献4参照)。このインプラントでは、インプラントの埋入後、薬剤は担持材である有機ポリマーとともに生体内に溶出し、徐放される。
【0011】
しかし、担持材である有機ポリマーについては、炎症を生起するか否か、長期間使用しても安全性があるかなどが確認されていない。
【0012】
すなわち、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、安全性のある素材を用い、また、薬剤徐放時期、期間を制御することができ、生体適応性に優れたインプラントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、ハイドロキシアパタイトを用い、基材上に複数のハイドロキシアパタイト層を形成したインプラントであって、前記ハイドロキシアパタイト層の層間に担持薬剤層を設けたインプラントを見出し、本発明を完成した。本発明のインプラントは以下のとおりである。
【0014】
本発明のインプラントは、基材と、前記基材表面に設けられた複数層のハイドロキシアパタイト層と、前記ハイドロキシアパタイト層の層間に形成された担持薬剤層と、を有する。また、担持薬剤層が、さらにハイドロキシアパタイト層の最上層表面に形成されていてもよい。
【0015】
本発明のインプラントでは、安全性の高い無機材料であるハイドロキシアパタイトを用いて、積層構造をとる複数のハイドロキシアパタイト層が形成されている。ハイドロキシアパタイトは、生体適合性に優れ、長期間使用しても安全性があることが認められている。また、積層構造をなしているハイドロキシアパタイト層の層間または層表面に薬剤を担持させることができる。これにより、生体反応の経過にしたがって、必要な薬剤を徐放させることができる。
【0016】
前記複数のハイドロキシアパタイト層のうち、基材に直接接触しているハイドロキシアパタイト層は、結晶性の高いハイドロキシアパタイトであると好ましい。結晶性の高いハイドロキシアパタイトは、生体内で溶出しない。すなわち、生体適合性に優れるハイドロキシアパタイトがインプラントの表面に存在し続ける。この結果、インプラントの生体適合性が維持される。
【0017】
前記複数のハイドロキシアパタイト層のうち少なくとも1のハイドロキシアパタイト層は、他のハイドロキシアパタイト層とは異なる結晶構造、組成、層の厚みを有するとよい。これにより、複数のハイドロキシアパタイト層の下側(基材側)に形成された担持薬剤層の薬剤徐放時期を制御できる。
【0018】
なお、本明細書中で、「下側」というときは基材側を、「上側」というときは、インプラントの最表面側を意味する。
【0019】
前記ハイドロキシアパタイト層は、層内で層の厚みが異なっていてもよい。各ハイドロキシアパタイト層は、生体内に露出している面から経時的に溶出する。同一のハイドロキシアパタイト層の層内で厚みを異ならせることで、同一層の溶出時間を変えることができる。この結果、当該ハイドロキシアパタイト層の下側(基材側)に形成された担持薬剤層の薬剤の溶出期間を制御できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のインプラントは、基材と、前記基材表面に設けられた複数のハイドロキシアパタイト層と、前記ハイドロキシアパタイト層の層間に形成された担持薬剤層と、を有する。生体適合性を有するハイドロキシアパタイトを用いて基材がコーティングされているので、生体適合性に優れたインプラントを得ることができる。
【0021】
また、積層構造をとるハイドロキシアパタイト層の層間に担持薬剤層が形成されている。担持薬剤層の上側に形成するハイドロキシアパタイト層の結晶構造、組成、層の厚みを制御することで、薬剤徐放時期を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明を詳細に説明する。
[インプラント]
図1は、本発明のインプラントの構造を説明する概念図である。図1に示すように、本発明のインプラントは、基材1と、前記基材表面に設けられた複数のハイドロキシアパタイト層3、5、7、9と、前記ハイドロキシアパタイト層3、5、7、9の層間に形成された担持薬剤層4、6、8とを有する。なお、この図の例では、ハイドロキシアパタイト層9表面には、担持薬剤層が形成されていない。また、この図においては、基材1とハイドロキシアパタイト層3との間に酸化防止膜2が設けられている。
【0023】
本発明のインプラントは、生体内に挿入または埋入して、生体内に留置するものであれば、その種類は特に制限されない。例えば、血管拡張用ステント、人工骨、人工歯根などである。人工歯根などのようにその一部を生体内に留置するものにおいては、生体内に留置する部分が、本発明のインプラントの構造であればよい。あるいは、生体内に留置するインプラントの一部が、本発明のインプラントの構造であってもよい。
【0024】
本発明のインプラントを構成する基材1としては、公知の材料が用いられる。公知の材料としては、チタン(Ti)、チタン(Ti)合金、ステンレス鋼、コバルト(Co)−クロム(Cr)合金などの金属材料や、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、およびポリエステルなどの高分子材料を用いてもよい。好ましくは、熱に対する安定性を有する金属材料である。
【0025】
本発明のインプラントを構成するハイドロキシアパタイト層は、ハイドロキシアパタイトで構成される。本発明で用いるハイドロキシアパタイトは、Ca10(PO(OH)を基本組成とする。このハイドロキシアパタイトに、さらに、ナトリウム(Na)やマグネシウム(Mg)などをドーピングしたものを用いてもよい。
【0026】
ハイドロキシアパタイトは、上記の組成を有する。ハイドロキシアパタイト層の表面に薬剤をコーティングすると、ハイドロキシアパタイト表面のカルシウムイオン(+)やリン酸基(−)に薬剤が吸着する。これにより、担持薬剤層が形成できる。
【0027】
なお、本明細書中で、「結晶性」とは、アパタイト層を構成するアパタイト結晶単位胞が規則正しく並んだ集まりである。結晶化粒と結晶化していない部分や欠陥部分との比率により、結晶性が高いとは、層全体で結晶化している部分の比率が高いことを意味し、結晶性が低いとは、層全体で結晶化していない部分や欠陥部の比率の比率が高いことを意味する。
【0028】
以下に説明するように、各ハイドロキシアパタイト層3、5、7、9のうち少なくとも1のハイドロキシアパタイト層は、他のハイドロキシアパタイト層とは異なる結晶構造、組成、層の厚みを有する。なお、結晶構造は、結晶性を含む。
【0029】
上記基材に直接接触して設けられているハイドロキシアパタイト層3は、このハイドロキシアパタイト層3の上側に設けるハイドロキシアパタイト層5、7、9が溶出しても基材1表面に残存する必要がある。これにより、インプラントの生体適合性を維持することができる。このため、基材1表面に直接接触して設けられているハイドロキシアパタイト層3は、結晶性が高いハイドロキシアパタイトで構成すると好ましい。
【0030】
なお、基材1とハイドロキシアパタイト層3との密着性を向上させるため、基材1とハイドロキシアパタイト層3との間に、酸化防止膜2として機能するハイドロキシアパタイト薄膜を設けてもよい。この場合においても、上記基材1表面に残存する結晶性の高いハイドロキシアパタイト層3を、基材1に直接接触して設けられているハイドロキシアパタイト層3とする。
【0031】
上記基材1に直接接触して設けられているハイドロキシアパタイト層3の厚さは、50nm〜800nmの範囲であればよい。ハイドロキシアパタイト層3の厚さがこの範囲にあれば、基材1との密着強度を十分に強くすることができる。
【0032】
また、上記基材1に直接接触して設けられているハイドロキシアパタイト層3の表面は活性である。このため、ハイドロキシアパタイト層3の表面に薬剤を担持させることもできる。すなわち、基材1に直接接触して設けられているハイドロキシアパタイト層3上にも、担持薬剤層4を設けることができる。
【0033】
基材1に直接接触して設けられているハイドロキシアパタイト層3表面には、複数のハイドロキシアパタイト層5、7、9が設けられている。ハイドロキシアパタイト層3、5、7、9の各層間に、担持薬剤層4、6、8を設けることができる。これらの複数のハイドロキシアパタイト層5、7、9は、多孔性の結晶性の低いハイドロキシアパタイトを用いると好ましい。ハイドロキシアパタイト層5、7、9の形成の際に、その下側に形成された担持薬剤層に担持された薬剤を損傷しないからである。また、多孔性の結晶性の低いハイドロキシアパタイト層5、7、9では、ハイドロキシアパタイトが溶出するので、その下側に形成された担持薬剤層4、6、8に担持された薬剤を徐放できるからである。
【0034】
また、複数のハイドロキシアパタイト層5、7、9のうち、最も上側(最上層)に形成されたハイドロキシアパタイト層9表面に担持薬剤層が設けられていてもよい。
【0035】
各ハイドロキシアパタイト層5、7、9は、その下側に形成された担持薬剤層4、6、8に担持された薬剤の種類・性状・溶出期間などによって、ハイドロキシアパタイトの結晶構造、組成、層の厚みを変えることができる。例えば、ハイドロキシアパタイトの結晶性が低いと溶出速度が速くなり、結晶性を上げると溶出速度を遅くすることができる。また、ハイドロキシアパタイトにドーピングする、ナトリウム(Na)やマグネシウム(Mg)などの種類、濃度を変えることにより、溶出特性を変えることができる。具体的には、ドーピング濃度を高くするほど、溶出速度は速くなる。結晶性が同一であれば、層の厚みを薄くするとその層の溶出時間が速くなり、厚くすると、その層の溶出時間が遅くなる。
【0036】
また、同じハイドロキシアパタイト層において、層内で層の厚みが異なっていてもよい。ハイドロキシアパタイト層は、生体内に露出している面から経時的に溶出する。層内で層の厚みが異なれば、担持薬剤層が露出する時間が異なる。この結果、同一の薬剤を、時間差をもって徐放させることができる。
【0037】
ハイドロキシアパタイトの結晶構造、組成、層の厚みなどは、担持する薬剤などを考慮して適宜組み合わせて使用すればよい。例えば、ハイドキシアパタイトの結晶性は、ハイドロキシアパタイトを高温で処理するほど、向上する。設けようとするハイドロキシアパタイト層の下に形成されたハイドロキシアパタイト層上に担持した薬剤の耐熱温度以下の温度で、このハイドロキシアパタイト層を形成する必要がある。このため、ハイドロキシアパタイトの組成、層の厚みなどを調整して、担持する薬剤の溶出に必要な厚み、性状を有するハイドロキシアパタイト層を形成すればよい。
【0038】
担持する薬剤は、本発明のインプラントの使用目的により、適宜必要な薬剤を選択して用いればよい。具体的には、トロンビン抑制薬;抗血栓薬;血栓溶解薬;線維素溶解薬;血管攣縮抑制薬;カルシウムチャンネル遮断薬;血管拡張薬;血圧降下薬;抗菌薬たとえば抗生物質(テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、バシトラシン、ネオマイシン、ポリミキシン、グラミシジン、セファレキシン、オキシテトラサイクリン、クロラムフェニコール、リファンピシン、シプロフロキサシン、トブラマイシン、ゲンタマイシン、エリスロマイシン、ペニシリン、スルホンアミド、スルファジアジン、スルファセタミド、スルファメチゾール、スルフィソキサゾール、ニトロフラゾン、プロピオン酸ナトリウムなど)、抗真菌薬(アンホテリシンBやミコナゾールなど)および抗ウイルス薬(イドクスウリジン、トリフルオロチミジン、アシクロビル、ガンシクロビル、インターフェロンなど);表面糖タンパク質受容体の阻害薬;抗血小板薬;細胞分裂抑制薬;微小管阻害薬;抗分泌薬;活性型阻害薬;リモデリング阻害薬;核酸化合物(プラスミドDNA、遺伝子、siRNA、囮型核酸医薬(デコイ)、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプセター、インターロイキン、細胞間情報伝達物質(サイトカイン)など);代謝拮抗薬;抗増殖薬(抗血管新生薬を含む);抗がん化学療法薬;抗炎症薬(ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン21−リン酸、フルオシノロン、メドリゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン21−リン酸、酢酸プレドニゾロン、フルオロメタロン、ベータメタゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロン・アセトニドなど);非ステロイド系抗炎症薬(サリチル酸塩、インドメタシン、イブプロフェン、ジクロフェナク、フルルビプロフェン、ピロキシカムなど);抗アレルギー薬(クロモグリク酸ナトリウム、アンタゾリン、メタピリジン、クロルフェニラミン、セトリジン、ピリラミン、プロフェンピリダミンなど);抗増殖薬(13−cisレチノイン酸など);消炎薬(フェニレフリン、ナファゾリン、テトラヒドラゾリンなど);縮瞳薬および抗コリンエステラーゼ(ピロカルピン、サリチル酸塩、カルバコール、塩化アセチルコリン、フィゾスチグミン、エゼリン、フルオロリン酸ジイソプロピル、ホスホリン・ヨウ素、臭化デメカリウムなど);散瞳薬(atropinsurface、シクロペントレート、ホマトロピン、スコポラミン、トロピカミド、ユーカトロピン、ヒドロキシアンフェタミンなど);交感神経様作用薬(エピネフリンなど);抗新生物薬(カルムスチン、シスプラチン、フルオロウラシルなど);免疫治療薬(ワクチン、免疫刺激薬など);ホルモン剤(エストロゲン、エストラジオール、プロゲステロン剤、プロゲステロン、インスリン、カルシトニン、副甲状腺ホルモン、ペプチドおよびバソプレシン視床下部放出因子など);ベータ遮断薬(マレイン酸チモロール、塩酸レボブノロール、塩酸ベタキソロールなど);免疫抑制剤、成長ホルモン拮抗薬、増殖因子(上皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、トランスフォーミング増殖因子ベータ、ソマトトロピン、フィブロネクチンなど);炭酸脱水酵素阻害薬(ジクロロフェナミド、アセタゾラミド、メタゾラミドなど);血管新生阻害薬(アンジオスタチン、酢酸アネコルタブ、トロンボスポンジン、抗VEGF抗体など);ドーパミン作動薬;放射線治療薬;ペプチド;タンパク質;酵素;細胞外マトリックス成分;ACE阻害薬;フリーラジカル捕捉剤;キレート剤;抗酸化剤;ポリメラーゼ阻害薬;光線力学療法用薬剤;遺伝子療法用薬剤;およびその他の治療薬たとえばプロスタグランジン、抗プロスタグランジン薬、プロスタグランジン前駆体など。
【0039】
特に、核酸化合物をステントに担持させた場合、ステントを利用して狭窄部に安全且つ効率的に核酸化合物を導入可能となる。このため、狭窄部を核酸レベルで治療する再発可能性の少ない有効な治療法となる。核酸化合物としては、プラスミドDNA、遺伝子、デコイ、siRNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプセターが特に好ましい。
【0040】
上記薬剤は、徐放される時期により、ハイドロキシアパタイト層を選択して担持すればよい。例えば、血管拡張用ステントを血管挿入留置後における生体反応は以下のように生じる。
(1期)血小板のトロンビン凝血段階(〜14日)
(2期)急性炎症段階(〜3ヶ月)
(3期)微細組織化段階(〜平滑筋細胞増殖)
(4期)組織細胞増大段階(〜1年以上)
(5期)再組織化段階(〜18ヶ月以上)
【0041】
本発明のインプラントでは、例えば積層されたハイドロキシアパタイト層の上側の層上(基材から離れた側に設けられたハイドロキシアパタイト層7)に、初期段階:(1期)、(2期)の対処治療薬として、抗血栓剤、抗炎症剤などを担持させ、積層されたハイドロキシアパタイト層の内側の層上(基材側に設けられたハイドロキシアパタイト層3、5)に、(3期)、(4期)、(5期)の生体反応に対処できる、抗がん剤、免疫抑制剤、その他細胞増殖抑制剤などの薬剤を担持させる。これにより、生体反応の変化に応じた薬剤を徐放することができる。
【0042】
[インプラントの製造方法]
本発明のインプラントは、例えば以下のようにして製造できる。
本発明のインプラントにおいて、ハイドロキシアパタイト層は、エキシマレーザアブレーション法により形成する。
【0043】
図2は、ハイドロキシアパタイト層を形成するためのエキシマレーザアブレーション装置の概略を説明するための図である。図2のエキシマレーザアブレーション装置は、真空成膜チャンバー11と、真空排気系ポンプ12と、被コーティング物セット台13と、被コーティング物加熱ヒータ14と、コーティングターゲット台15と、ガス導入ノズル16と、ArFエキシマレーザ源17と、温度計23と、膜厚計24とを、含む。
【0044】
例えば、結晶性の高いハイドロキシアパタイトの層を形成する場合は、上記装置の真空成膜チャンバー11内の被コーティング物セット台13にコーティングする基材を設置し、コーティングターゲット台15にハイドロキシアパタイトのターゲット(例えば、リン酸カルシウムなど)を設置する。次に、真空排気系ポンプ12であるロータリーポンプとターボ分子ポンプとを用いて、真空成膜チャンバー11内を、所定の真空度まで排気する。排気後、真空成膜チャンバー11内を、被コーティング物加熱ヒータ14を用いて、所定の温度まで昇温する。被コーティング物加熱ヒータ14には、ヒータ温度制御器22が設けられており、真空成膜チャンバー11内を、所定の温度にすることができる。
【0045】
次に、ガス導入ノズル16から、真空成膜チャンバー11内に、水蒸気または水蒸気含有ガスを導入する。水蒸気含有ガスとしては、例えば、酸素と水蒸気との混合ガス、アルゴンと水蒸気との混合ガス、ヘリウムと水蒸気との混合ガス、窒素と水蒸気との混合ガス、空気と水蒸気との混合ガスなどが挙げられる。水蒸気含有ガスは、例えば以下のようにして作製する。上記ボンベなどのガス供給源25から高純度のガスを、タンク26中の純水中に導き、バブリングする。これにより、水蒸気含有ガスが得られる。
【0046】
次に、ArFエキシマレーザ源17からレーザを発振し、ミラー18で光の方向を変え、レンズ19で集光し、スリット21を通したレーザを真空成膜チャンバー11の窓20から入射し、ハイドロキシアパタイトのターゲットに照射する。このアブレーションによって発生した原子、分子、イオンなどを対向位置に設置した被コーティング物セット台13上の基材へ堆積させる。ハイドロキシアパタイト層が所定の厚みに達したかどうかは、膜厚計24を用いて、測定する。
【0047】
結晶性の高いハイドロキシアパタイトをコーティングするためには、水蒸気または水蒸気含有ガスの雰囲気下で、高いコーティング温度(300℃以上、600℃以下)で行えばよい。このような条件でハイドロキシアパタイトをコーティングすれば、ハイドロキシアパタイトは結晶化しながら基材上で成長していく。
【0048】
一方、結晶性の低いハイドロキシアパタイトをコーティングするためには、水蒸気または水蒸気含有ガスの雰囲気下で、低いコーティング温度(室温以上、300℃未満)で行えばよい。このような条件でハイドロキシアパタイトをコーティングすれば、無定形のハイドロキシアパタイトが基材上で成長する。このような無定形のハイドロキシアパタイト層を形成した後に、水蒸気中で熱処理(ポストアニーリング法)(300℃以上、600℃以下)をすると、無定形のハイドロキシアパタイトを結晶化させることもできる。
【0049】
インプラントに、ハイドロキシアパタイトをどのようにコーティングするかは、特に制限はなく、用いるインプラントによって適宜適切な方法を選択すればよい。例えば、インプラント全面に、ハイドロキシアパタイトをコーティングするためには、インプラントを回転式のセット台13を用いる。インプラント全面がコーティングされるように、回転させながらコーティングすればよい。また、コーティングの不要な部分は、遮蔽スリットを用いて遮蔽してそれ以外の部分をコーティングすればよい。
【0050】
また、層内で層の厚みが異なるハイドロキシアパタイト層を形成するためには、上記対向位置に設置した被コーティング物セット台13を傾斜させて、ハイドロキシアパタイトを堆積すればよい。
【0051】
担持薬剤層の形成は、以下のようにして行う。例えば、ハイドロキシアパタイト層が形成されたインプラントを、薬剤を溶解した液に浸漬して、乾燥させる、あるいはハイドロキシアパタイト層の表面にスプレーなどで、薬剤溶液を吸着・塗布したものを乾燥させるなどにより形成する。同一成分の薬剤を長期にわたって徐放させたい場合は、上記操作を繰り返して、厚みの厚い担持薬剤層を形成する、あるいは、後記するように、同一の担持薬剤層と、この上に形成するハイドロキシアパタイト層とを所望の回数積層することで行える。
【0052】
上記形成した担持薬剤層の上に、ハイドロキシアパタイト層を形成する。ハイドロキシアパタイト層の形成は、上記エキシマレーザアブレーションによって形成すればよい。この場合に、担持した薬剤の耐熱温度以下でコーティングを行う必要がある。したがって、担持した薬剤の溶出を遅らせるためには、ハイドロキシアパタイト層の膜厚を厚くすればよい。
【0053】
コーティングするハイドロキシアパタイト層は、担持薬剤層の上に直接形成しなくてもよい。例えば、別途形成したハイドロキシアパタイト層を担持薬剤層の上に載置することとしてもよい。具体的には以下のように行えばよい。溶剤に可溶な、平滑板または単結晶平板の表面に、上記エキシマレーザアブレーションによってハイドロキシアパタイトをコーティングする。その後、平滑板または単結晶平板を溶剤で溶解させることで、ハイドロキシアパタイトの薄膜(1μm前後の膜厚)を作製する。このハイドロキシアパタイト薄膜を担持薬剤層上面に吸着させて貼り付けることにより、ハイドロキシアパタイト層が形成できる。この方法によれば、担持した薬剤の耐熱温度を考慮せずに、コーティングするハイドロキシアパタイト層を形成することができる。この結果、結晶性を制御したハイドロキシアパタイト薄膜が得られる。これにより、形成するハイドロキシアパタイト層の膜厚が薄くても、担持薬剤層からの薬剤の溶出を遅らせることができる。また、あらかじめ担持薬剤層に貼り付ける面と反対側の面に次の担持薬剤層を形成する薬剤を担持させておいたハイドロキシアパタイト薄膜を担持薬剤層上面に吸着させて貼り付けてもよい。
【0054】
上記した担持薬剤層と、その上にコーティングするハイドロキシアパタイト層の形成を複数回繰り返して、所望の薬剤が担持されたインプラントを得ることができる。
【0055】
担持薬剤層は、単一の薬剤を用いて形成してもよく、複数の薬剤を混合して形成してもよい。また、必要に応じて、同一種の薬剤で構成される担持薬剤層を複数層形成してもよい。
【0056】
上記の方法を用いると、以下に例示する構造のインプラントを得ることができる。
(ステント)
図3は、血管狭窄部拡張用ステントの一例の概略を示す概念図である。この図の例に示す血管狭窄部拡張用ステントは、両端部が開口し、施術部血管に適合する外径を有する略管状体31の形状をしている。このステントは、施術患部に挿入設置後拡張可能になるように、管状体31の表面に細孔30を有する細線網目状となっている。
【0057】
血管狭窄部拡張用ステントは、以下のようにして使用する。バルーンカテーテルのバルーン部に、このようなステントを外挿担持させて、血管狭窄患部に挿入する。血管患部に設置後、バルーンカテーテルに内圧を印加し、バルーン部を拡張する。同時に外挿したステントが拡張され、ステントが血管内の患部に設置される。ステント設置後に、バルーンカテーテルの内圧を減圧し、バルーン部を縮小折りたたむ。この後、バルーンカテーテルを体外に引き抜き、ステントの設置施術を終了する。
【0058】
図4は、血管狭窄部拡張用ステントが本発明のインプラントの積層構成をとる場合の一例を説明する図である。図4において、基材32と、酸化防止膜33と、第1のハイドロキシアパタイト層34と、担持薬剤第1層35と、第2のハイドロキシアパタイト層36と、担持薬剤第2層37と、第3のハイドロキシアパタイト層38と、担持薬剤第3層39と、第4のハイドロキシアパタイト層40とで、構成されている。このようなインプラントは例えば、以下のように作製される。
【0059】
まず、SUS材あるいはCo−Cr合金などの生体適合性の良い金属材料からなるステントの表面を洗浄する。次に、酸洗いあるいは電解研磨を行い、酸化膜を除去する。次に、真空中で昇温処理を行い、ステント中の吸蔵ガスを除去する。
【0060】
上記ステントを、図2に示すエキシマレーザアブレーション装置に設けた真空成膜チャンバー11内の回転式セット台13に設置する。次に、真空排気系ポンプ12を用いて、真空度1.33×10−5Pa(1×10−7Torr)程度に排気する。回転式セット台13の加熱ヒータにより300℃前後の所定温度に昇温する。昇温後、ArFエキシマレーザ源17からレーザを発振し、ターゲットであるハイドロキシアパタイトをステント(基材32)表面にプレコーティングする。このハイドロキシアパタイト層は酸化防止膜33として機能し、本発明のインプラントのハイドロキシアパタイト層に必須な層ではない。酸化防止膜33として設けるハイドロキシアパタイト層は、例えば30nm程度の極薄い薄膜でよい。
【0061】
次に、真空成膜チャンバー11内に、酸素と水蒸気の混合ガスを導入する。真空成膜チャンバー11内の雰囲気圧を1.1Pa(0.8mTorr)程度とする。上記酸化防止膜33上にハイドロキシアパタイトをコーティングし、第1のハイドロキシアパタイト層34を形成する。このコーティングは、100〜300℃の温度で行い、成膜後450℃で熱処理を行う。この結果、得られる第1のハイドロキシアパタイト層34は、結晶性が高い。
【0062】
次に、第1のハイドロキシアパタイト層34が形成されたステントを真空成膜チャンバー11から取り出す。薬剤を溶解した溶液にステントを浸漬する。浸漬後、引き上げ、乾燥させ、担持薬剤第1層35を形成する。薬剤の担持量を上げるためには、浸漬・塗布を繰り返せばよい。この担持薬剤第1層35の最も下側の層である。担持する薬剤は、最終に徐放させたい薬剤である。例えば、(5期)再組織化段階(〜18ヶ月以上)に用いる、抗がん剤、免疫抑制剤、細胞増殖抑制剤などの薬剤を用いればよい。
【0063】
次に、担持薬剤第1層35を設けたインプラントを、再度真空成膜チャンバー11内の回転式セット台13に設置する。次のハイドロキシアパタイトのコーティングは、担持した薬剤の耐熱温度以下で行う。得られた第2のハイドロキシアパタイト層36は、結晶性が低く、アモルファス状態である。この第2のハイドロキシアパタイト層36の厚みにより、担持薬剤第1層35に担持された薬剤の徐放時期を制御する。
【0064】
結晶性が低く、アモルファス状態のハイドロキシアパタイトのコーティングを行うには、酸素と水蒸気の混合ガスを用いて、ガス雰囲気圧を0.1Pa(0.8mTorr)程度で行うとよい。この程度のガス雰囲気圧であれば、ガス圧が比較的高く、コーティングの回り込みがよく、ステントの管状体の表面に存在する網目状細線の内部へも、効率よくコーティングできる。
【0065】
上記と同様に、ステントを薬剤を溶解した溶液中に浸漬することで、この結晶性が低く、アモルファス状態のハイドロキシアパタイトをコーティングした第2のハイドロキシアパタイト層36の上に担持薬剤第2層37を形成する。この担持薬剤第2層37に担持する薬剤は、上記と同一のものであってもよく、異なるものであってもよい。好ましくは、(4期)組織細胞増大段階(〜1年以上)に用いる薬剤である。
【0066】
上記と同様に、担持薬剤第2層37上に、アモルファス状態の第3のハイドロキシアパタイト層38、担持薬剤第3層39、第4のハイドロキシアパタイト層40を順に形成していき、図4に示す積層構造を有する、ステントを得る。担持薬剤第3層39に担持した薬剤は、比較的早期に溶出するので、(1期)血小板のトロンビン凝血段階(〜14日)、(2期)急性炎症段階(〜3ヶ月)に用いる薬剤を担持すればよい。
【0067】
(人工骨)
図5は、股関節用の人工骨の一例を示す概念図である。この図の例で示す人工股関節は、コバルト・クロム合金やチタン合金などの金属製の大腿骨側のステム41と、金属製の殻の中にポリエチレン製の骨盤側のヘッド42とを含み、構成されている。このステム41は、大腿骨の骨髄部に挿入され、留置される。挿入した人工骨挿入部は、周囲の大腿骨組織と新生骨とにより、定着される必要がある。このため、ステム41表面には、抗炎症剤などの薬剤を上記血管狭窄部拡張用ステントの場合と同様に担持した担持薬剤層を含む、積層構造を形成すればよい。
【0068】
(人工歯根インプラントフィクスチャー)
図6は、人工歯根に本発明のインプラントを用いて人工歯を設けた場合の使用態様を示す図である。図6に示すように、セラミックなどで形成され、天然歯44と同様に、歯肉45から出ている部分である、人工歯(上部構造)43と、歯根の部分に該当するインプラントであるインプラント体(フィクスチャー)46と、インプラント体(フィクスチャー)46と上部構造の人工歯をつなげるための部品である、アバットメント47とから構成されている。
【0069】
図7は、インプラント体(フィクスチャー)48の構造を説明するための概念図である。このインプラント体(フィクスチャー)48は、歯肉内の骨粗組織に埋入され、留置される。インプラント体(フィクスチャー)48は、チタン、チタン合金などの生体適合性の良い金属で構成され、その表面に、ハイドロキシアパタイト層と担持薬剤層との積層構造49が形成され、本発明のインプラントを構成している。
【0070】
上記のインプラント体(フィクスチャー)は、例えば、以下のようにして製造することができる。図8は、インプラント体(フィクスチャー)表面に形成するハイドロキシアパタイト層と担持薬剤層との積層構造の一例を示す概念図である。図8の例では、基材50と、酸化防止膜51と、第1のハイドロキシアパタイト層52と、担持薬剤第1層53と、第2のハイドロキシアパタイト層54とで構成されている。
【0071】
まず、インプラント体(フィクスチャー)である基材50表面に、上記血管狭窄部拡張用ステントの場合と同様の条件で、ハイドロキシアパタイトで構成される酸化防止膜51を形成する。次に、この酸化防止膜51表面に、上記血管狭窄部拡張用ステントの場合と同様の条件で、結晶度の高い第1のハイドロキシアパタイト層52を形成する。これらの積層層の厚みは、全体で、2μm程度であればよい。
【0072】
第1のハイドロキシアパタイト層52を形成した、インプラント体(フィクスチャー)を薬剤を溶解した溶液中に浸漬して薬剤を吸着させる。これを乾燥して担持薬剤第1層53を形成する。担持する薬剤としては、生体反応を緩和、治療、定着を早期化し、良好なものとするため、抗炎症剤などを用いる。
【0073】
担持薬剤第1層53上に設ける第2のハイドロキシアパタイト層54は、以下のようにして形成する。まず、ハイドロキシアパタイト薄膜を作製する。例えば、食塩結晶薄板のような水溶性の平滑平板に、エキシマレーザアブレーションによってハイドロキシアパタイトをコーティングする。ハイドロキシアパタイトの膜厚は、1μm以下になるようにする。この後、ハイドロキシアパタイトがコーティングされた平滑平板を水中に投入する。これにより、平滑平板が水に溶解する。ハイドロキシアパタイト薄膜は、水面に浮かぶ。このハイドロキシアパタイト薄膜を、上記担持薬剤第1層53面上に吸着・被覆する。これにより、上記血管狭窄部拡張用ステントの場合と同様に担持した担持薬剤第1層53を含む、積層構造が形成される。
【実施例】
【0074】
以下本発明を詳細に説明するため実施例を挙げて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0075】
(薬剤の溶出試験)
担持薬剤層の薬剤の溶出を以下のようにして測定した。
担持薬剤層の薬剤の溶出は、水晶発振子マイクロバランス(Quarts Crystal Microbalance、以下、「QCM」という)法により測定した。図9は、本測定に用いた水晶発振子の形状を説明する図である。図9において、水晶発振子59(株式会社イニシアム製 AFFINIX−Q)は、水晶発振子の測定子ケース55と、その測定子ケースの水晶発振子表側金電極56と、水晶発振子裏側金電極(図示せず)と、表側金電極端子57と、裏側金電極端子58とを、備える。表側金電極56は、測定子ケース55の表面に露出している。
【0076】
上記表側金電極56表面に薬剤溶出試験に用いる積層構造を形成した。図10は、本実施例で形成した積層構造を示す図である。まず、図2のエキシマレーザアブレーション装置の真空成膜チャンバー11の被コーティング物セット台13上に水晶発振子を設置した。コーティングする水晶発振子59の測定子ケース55は、水晶発振子裏側金電極60、水晶発振子59、水晶発振子表側金電極61とを備える。
【0077】
次に、被コーティング物加熱ヒータ14を通電することなく、常温で水晶発振子表側金電極61表面に、ハイドロキシアパタイト層を形成した(図示せず)。
【0078】
次に、真空排気系ポンプ12を用いて、真空成膜チャンバー11を真空引きした。次に、真空成膜チャンバー11内に、酸素と水蒸気の混合ガスを導入し、ガス圧0.1Pa(0.8mTorr)のガス雰囲気中で、0.25μmの膜厚の第1のハイドロキシアパタイト層62を形成した。この第1のハイドロキシアパタイト層62は、常温で形成するため、アモルファス状であった。
【0079】
担持する薬剤としては、dsDNA(二重鎖デオキシリボ核酸)を用いた。濃度13mg/mLのdsDNAを純水570μLで薄めた(20倍希釈)ものを、薬剤溶液として用いた。
【0080】
前記第1のハイドロキシアパタイト層62を形成した測定子ケースの水晶発振子表側金電極61面を、前記溶液に2時間浸漬し、dsDNAを吸着させた。その後、測定子を引き上げブロワーで水分をとばし、担持薬剤第1層63を形成した。この担持薬剤第1層63へのdsDNA担持量は、17pmol/mmであった。上記水晶発振子表側金電極61の面積は、4.95mmである。これから、この担持薬剤第1層63へのdsDNA担持量は、89pmolとなった。
【0081】
次に、上記と同様にして、第2のハイドロキシアパタイト層64を形成した。さらに、上記と同様にして、担持薬剤第2層65を形成した。この担持薬剤第2層65に担持させた薬剤は、上記と同様にdsDNAである。dsDNA担持量も、上記と同様であった。
【0082】
水晶発振子マイクロバランス(QCM)法(株式会社イニシアム製 AFFINIX−Q)を用いて、上記水晶発振子表側金電極46面上にハイドロキシアパタイト層62、64と担持薬剤層63、65とを形成した水晶発振子の薬剤の溶出を測定した。薬剤溶出測定溶液としては、1モル トリス・塩酸(2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール・塩酸)(pH 8.0)を蒸留水で100倍に希釈した、10mmolトリス溶液8mLを用いた。
【0083】
測定は、以下のようにして行った。図9の測定子の浸漬部を上記測定溶液に漬け、水晶振動子を連続作動させ、水晶振動子の共振周波数を求めた。結果を図11に示す。
【0084】
図11は、QCMの水晶振動子上の担持剤の液中への溶出に伴う水晶振動子の共振周波数の変化を示すグラフである。この図において、横軸は、測定開始からの時間(hr)を示し、縦軸は、水晶振動子の共振周波数(Hz)を示す。QCM法を用いると、分子の溶出を水晶発振子の共振周波数の変化で検出することができる。例えば、水晶発振子の金電極上に積層された担持薬剤層の負荷により共振周波数が変わる。ハイドロキシアパタイト、担持薬剤層の溶液中への溶出による負荷の低減と共に共振周波数が上昇する。これにより、溶液中への溶出量がわかる。また、溶出する物質により、共振周波数の上昇の変化率が変わり、どの層が溶出しているかがわかる。図11においては、水晶発振子の金電極の最表面に形成された担持薬剤層(図中、「DNA」と記載)が、まず35時間かけて溶出している。その後、ハイドロキシアパタイト層(図中、「HAp」と記載)が205時間かけて溶出している。つぎに、担持薬剤層に担持された薬剤が36時間かけて溶出していることがわかる。
【0085】
以上の結果から、ハイドロキシアパタイト層を介して担持薬剤層を設けると、担持した薬剤を時間差を持たせて徐放できることがわかる。また、積層数を変えることで、積層数に応じた回数で順次段階的に薬剤を徐放できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、本発明のインプラントの構造を説明する概念図である。
【図2】図2は、ハイドロキシアパタイト層を形成するためのエキシマレーザアブレーション装置の概略を説明するための図である。
【図3】図3は、血管狭窄部拡張用ステントの一例の概略を示す概念図である。
【図4】図4は、血管狭窄部拡張用ステントが本発明のインプラントの積層構成をとる場合の一例を説明する図である。
【図5】図5は、股関節用の人工骨の一例を示す概念図である。
【図6】図6は、人工歯根に本発明のインプラントを用いて人工歯を設けた場合の使用態様を示す図である。
【図7】図7は、インプラント体(フィクスチャー)の構造を説明するための概念図である。
【図8】図8は、インプラント体(フィクスチャー)表面に形成するハイドロキシアパタイト層と担持薬剤層との積層構造の一例を示す概念図である。
【図9】図9は、本測定に用いた水晶発振子の形状を説明する図である。
【図10】図10は、本実施例で形成した積層構造を示す図である。
【図11】図11は、QCMの水晶振動子上の担持剤の液中への溶出に伴う水晶振動子の共振周波数の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0087】
1 基材
2 酸化防止膜
3 ハイドキシアパタイト層
4 担持薬剤層
5 ハイドキシアパタイト層
6 担持薬剤層
7 ハイドキシアパタイト層
8 担持薬剤層
9 ハイドキシアパタイト層
11 真空成膜チャンバー
12 真空排気系ポンプ
13 被コーティング物セット台
14 被コーティング物加熱ヒータ
15 コーティングターゲット台
16 ガス導入ノズル
17 ArFエキシマレーザ源
18 ミラー
19 レンズ
20 窓
21 スリット
22 ヒータ温度制御器
23 温度計
24 膜厚計
25 ガス供給源
26 タンク
30 細孔
31 管状体
32 基材
33 酸化防止膜
34 第1のハイドキシアパタイト層
35 担持薬剤第1層
36 第2のハイドキシアパタイト層
37 担持薬剤第2層
38 第3のハイドキシアパタイト層
39 担持薬剤第3層
40 第4のハイドキシアパタイト層
41 ステム
42 ヘッド
43 人工歯
44 天然歯
45 歯肉
46 インプラント体(フィクスチャー)
47 アバットメント
48 インプラント体(フィクスチャー)
49 ハイドロキシアパタイト層と担持薬剤層との積層構造
50 基材
51 酸化防止膜
52 第1のハイドキシアパタイト層
53 担持薬剤第1層
54 第2のハイドキシアパタイト層
55 測定子ケース
56 水晶発振子表側金電極
57 表側金電極端子
58 裏側金電極端子
59 水晶発振子
60 水晶発振子裏側金電極
61 水晶発振子表側金電極
62 第1のハイドロキシアパタイト層
63 担持薬剤第1層
64 第2のハイドロキシアパタイト層
65 担持薬剤第2層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材表面に設けられた複数のハイドロキシアパタイト層と、
前記ハイドロキシアパタイト層の層間に形成された担持薬剤層と、
を有する、インプラント。
【請求項2】
担持薬剤層が、さらにハイドロキシアパタイト層の最上層表面に形成されている、請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
前記複数のハイドロキシアパタイト層のうち、基材に直接接触しているハイドロキシアパタイト層は、結晶性の高いハイドロキシアパタイトで構成されている、請求項1または2に記載のインプラント。
【請求項4】
前記複数のハイドロキシアパタイト層のうち少なくとも1のハイドロキシアパタイト層は、他のハイドロキシアパタイト層とは異なる結晶構造、組成、層の厚みを有する、請求項1〜3のいずれかに記載のインプラント。
【請求項5】
前記ハイドロキシアパタイト層は、層内で層の厚みが異なる、請求項1〜4のいずれかに記載のインプラント。
【請求項6】
前記担持薬剤層は、徐放順に従い、前記インプラント表面から基材側に向かい異なる薬剤が担持されている、請求項1〜5のいずれかに記載のインプラント。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−201639(P2009−201639A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45708(P2008−45708)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(390030731)朝日インテック株式会社 (140)
【Fターム(参考)】