説明

インホイールモータ駆動ユニット

【課題】出力軸が軸受異常で大きく変位した時に、この変位がギヤの噛み合い不良を生じさせることのないようにしたインホイールモータ駆動ユニットを提供する。
【解決手段】ケース1内に入力軸2および出力軸3を径方向にオフセットさせると共に平行に配して設け、入力軸2の両端をベアリング4,5によりユニットケース1に対し回転自在に支持し、出力軸3はホイールハブ6を介してハブベアリング7によりユニットケース1に対し回転自在に支持する。入力軸2は、その一端が、車輪12から遠い出力軸3の端部とオーバーラップするよう軸線方向にもオフセットさせ、入力軸2を取り巻くように配置して電動モータ13を設ける。入力軸2および出力軸3は、相互にオーバーラップする端部間を、ユニットケース1内の無端巻き掛け伝動機構14により駆動結合し、この無端巻き掛け伝動機構14は、入力軸2の上記端部に固着したプーリ15と、出力軸3の上記端部に固着したプーリ16と、これらの間に掛け渡したベルト17とにより構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を個々の電動モータにより駆動して走行可能な電気自動車に用いられる車輪ごとの駆動ユニット、所謂インホイールモータ駆動ユニットに関し、特に、
当該インホイールモータ駆動ユニット内における出力軸の軸受部周りの変位による悪影響を回避する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かかるインホイールモータ駆動ユニットとしては従来、例えば特許文献1に記載のようなものが提案されている。
このインホイールモータ駆動ユニットは、電動モータおよびこの電動モータで駆動される入力軸を内蔵し、軸受部を介し回転自在に支持して外部に突出するよう設けた出力軸を具え、これら入力軸および出力軸間を遊星歯車式の減速機により駆動結合し、上記出力軸の突出端部に車輪を結合したものである。
【0003】
かかるインホイールモータ駆動ユニットを駆動車輪ごとに具える電気自動車にあっては、電動モータを駆動するとき、その回転が減速機による減速下で車輪へ伝達され、車両を走行させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−044437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、かかるインホイールモータ駆動ユニットにあっては、出力軸の軸受部と、減速機と、電動モータとが軸線方向に近接配置されていることもあり、出力軸の軸受部が摩耗したり、劣化などによりガタが大きくなって、出力軸が軸受部の周りで大きく変位(傾斜、偏心、軸方向変位)するようになったとき、その影響が減速機などに及んで連鎖し、減速機のギヤが噛み合い不良を生じて、異音や振動の原因となるだけでなく、歯車が損傷されたり、歯面干渉が発生することにより、急減速されることがある。
【0006】
特にインホイールモータ駆動ユニットで車輪を個別に駆動する電気自動車にあっては、上記の急減速が車両挙動を不自然にして運転者を戸惑わせる。
【0007】
そこで従来は、特許文献1にも記載されているとおり、出力軸の軸受部周りにおける変位を吸収、抑制する構造物を歯車減速機に付加して、上記の問題を回避し得るようインホイールモータ駆動ユニットを改良することが提案されている。
【0008】
しかし当該対策はいずれも、インホイールモータ駆動ユニットの歯車減速機に対し構造物を付加して対策するものであって、インホイールモータ駆動ユニットの大型化や、コスト高や、伝動系固有捩り振動特性の変化をもたらし、これに対する別の考慮が必要になって、抜本的な対策たり得ない。
【0009】
本発明は、入出力軸間を駆動結合するための構造自身が、出力軸の軸受部周りにおける変位を吸収して上記の問題を生ずることのないような型式のものとし、これにより当該問題の解決を実現したインホイールモータ駆動ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のため、本発明のインホイールモータ駆動ユニットは、以下のごとくにこれを構成する。
先ず、本発明の前提となるインホイールモータ駆動ユニットを説明するに、これは、
電動モータおよびこの電動モータで駆動される入力軸を内蔵し、ハブベアリングを介し回転自在に支持して外部に突出するよう設けられた出力軸を具え、上記入力軸および出力軸間を駆動結合する入出力軸結合手段を内蔵し、上記出力軸の外部突出端に車輪を結合して用いるものである。
【0011】
本発明は、かかるインホイールモータ駆動ユニットにおける上記の入出力軸結合手段を無端巻き掛け伝動機構により構成した点に特徴づけられる。
【発明の効果】
【0012】
かかる本発明のインホイールモータ駆動ユニットによれば、入力軸および出力軸間を駆動結合する入出力軸結合手段を無端巻き掛け伝動機構により構成したため、
出力軸が、その軸受部を構成するハブベアリングの周りで変位(傾斜、偏心、軸方向変位)するとき、この変位を無端巻き掛け伝動機構における無端巻き掛け部材自身の変形により吸収することができ、入力軸に向かわせないようにし得る。
【0013】
よって、出力軸がハブベアリングの周りで変位しても、入出力軸間における伝動部がギヤの噛み合い不良を生ずることがなく、これに伴う異音や振動、更には歯車の損傷や歯面干渉による急減速(不自然な車両挙動)の発生を防止することができる。
【0014】
更に本発明では、入出力軸結合手段として、構造が相対的に簡単で安価な無端巻き掛け伝動機構を用いることにより上記の効果が得られるようにしたため、
従来のように入出力軸結合手段として歯車伝動機構を用いたまま、これに対し、出力軸のハブベアリング周りにおける変位を吸収するための構造物を付加する対策に比べて、インホイールモータ駆動ユニットの小型化や、低廉化が可能であると共に、ほとんど伝動系固有捩り振動特性を変化させることなく上記の効果を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施例になるインホイールモータ駆動ユニットの概略を示す概略縦断側面図である。
【図2】本発明の第2実施例になるインホイールモータ駆動ユニットの概略を示す概略縦断側面図である。
【図3】本発明の第3実施例になるインホイールモータ駆動ユニットの概略を示す概略縦断側面図である。
【図4】本発明の第4実施例になるインホイールモータ駆動ユニットの概略を示す概略縦断側面図である。
【図5】本発明の第5実施例になるインホイールモータ駆動ユニットの概略を示す概略縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<第1実施例の構成>
図1は、本発明の第1実施例になるインホイールモータ駆動ユニットの要部を示す概略縦断側面図である。
この図において、1は、インホイールモータ駆動ユニットのユニットケースを示し、このユニットケース1内に入力軸2および出力軸3を、相互に径方向にオフセットさせると共に平行に配して設ける。
【0017】
入力軸2は、両端近傍におけるベアリング4,5によりユニットケース1に対し回転自在に支持し、出力軸3はユニットケース1内における部分を、ホイールハブ6を介して、ハブベアリング(複列アンギュラベアリング)7によりユニットケース1に対し回転自在に支持する。
ホイールハブ6は、出力軸3と共に回転するようこれに嵌合し、出力軸3の先端に螺合したロックナット8で抜け止めする。
【0018】
ロックナット8に近い出力軸3およびホイールハブ6の端部をユニットケース1から外部に突出させ、ホイールハブ6の突出端部にホイールボルト9およびホイールナット10でブレーキディスク11および車輪12を同心に共締めする。
【0019】
入力軸2は、その一端のみが、車輪12から遠い出力軸3の端部とオーバーラップするよう軸線方向にもオフセットさせ、入力軸2を取り巻くように配置して電動モータ13を設ける。
この電動モータ13は、ユニットケース1の内周に嵌合して固設した円環状のステータ13sと、かかる円環状ステータ13sの内周にラジアルギャップを持たせて同心に配したロータ13rとで構成し、ロータ13rを入力軸2に結合する。
【0020】
入力軸2および出力軸3は、相互にオーバーラップする端部間を、ユニットケース1内の無端巻き掛け伝動機構14により駆動結合する。
この無端巻き掛け伝動機構14は、本発明における入出力軸結合手段に相当するもので、入力軸2の上記端部に固着したプーリ(またはスプロケット)15と、出力軸3の上記端部に固着したプーリ(またはスプロケット)16と、これらの間に掛け渡した無端可撓体としてのベルト(またはチェーン)17とにより構成する。
【0021】
上記のインホイールモータ駆動ユニットは、ナックルボールジョイント18を含むサスペンション装置により車体に弾支すると共に、ナックルボールジョイント18の中心を通るキングピン軸線Kpの周りで、車輪12と共に転舵し得るよう車体に懸架する。
【0022】
<第1実施例の作用>
電動モータ13のステータ13sに通電すると、これからの電磁力で電動モータ13のロータ13rが回転駆動される。
ロータ13rの回転駆動力は入力軸2を介して無端巻き掛け伝動機構14のプーリ(またはスプロケット)15に向かい、その後、無端巻き掛け伝動機構14のベルト(またはチェーン)17およびプーリ(またはスプロケット)16を経て出力軸3に至る。
【0023】
上記の伝動作用により無端巻き掛け伝動機構14は、電動モータ13から入力軸2への回転を、プーリ(またはスプロケット)15の直径(歯数)およびプーリ(またはスプロケット)16の直径(歯数)により決まる比で減速して出力軸3に伝達する。
出力軸3への回転は、これに結合したホイールハブ6およびホイールボルト9を介して車輪12に伝達され、車両を走行させることができる。
【0024】
<第1実施例の効果>
上記したインホイールモータ駆動ユニットにおいて、無端巻き掛け伝動機構14に代え、入出力軸結合手段として従来のように減速歯車組を用いる場合、
ユニットケース1に対する出力軸3の軸受部(ホイールハブ6およびハブベアリング7)が摩耗したり、劣化などによりガタが大きくなって、出力軸3が軸受部(6,7)の周りで大きく変位(傾斜、偏心、軸方向変位)するようになったとき、その影響が減速歯車組に及び、減速歯車組のギヤが噛み合い不良を生じて、異音や振動の原因となるだけでなく、歯車が損傷されたり、歯面干渉が発生することにより、車輪12が急減速されることがある。
【0025】
特にインホイールモータ駆動ユニットを電気自動車に用いる場合、当該インホイールモータ駆動ユニットが車輪を個別に駆動するため、上記車輪12の急減速が車両挙動を不自然にして運転者を戸惑わせる。
【0026】
ところで本実施例においては、インホイールモータ駆動ユニットの入出力軸結合手段として無端巻き掛け伝動機構14を用いるため、
出力軸3に係わる軸受部(ホイールハブ6およびハブベアリング7)が摩耗や劣化などにより大きなガタを生じ、出力軸3が軸受部(6,7)の周りで大きく変位(傾斜、偏心、軸方向変位)するようになったとき、この変位を無端巻き掛け伝動機構14(無端可撓体17自身)の変形により吸収して、入力軸2に向かわせないようにすることができる。
【0027】
よって、出力軸3が軸受部(ホイールハブ6およびハブベアリング7)の周りで変位しても、入出力軸2,3間の駆動結合を司る無端巻き掛け伝動機構14がギヤの噛み合い不良を生ずることがなく、これに伴う上記した異音や振動、更には歯車の損傷や歯面干渉による急減速(不自然な車両挙動)の発生を防止することができる。
【0028】
更に本実施例では、入出力軸結合手段として、構造が相対的に簡単で安価な無端巻き掛け伝動機構14を用いることにより上記の効果が得られるようにしたため、
従来のように入出力軸結合手段として歯車伝動機構を用いたまま、これに対し、出力軸のハブベアリング周りにおける変位を吸収するための構造物を付加する対策に比べて、インホイールモータ駆動ユニットの小型化や、低廉化が可能であると共に、ほとんど伝動系固有捩り振動特性を変化させることなく上記の効果を達成することができる。
【0029】
また無端巻き掛け伝動機構14は、プーリ(またはスプロケット)15の直径(歯数)およびプーリ(またはスプロケット)16の直径(歯数)間における比を変更するだけで、部品点数の増大なしに伝動比を減速から増速まで任意に設定することができ、設計の自由度が大幅に高まる。
【0030】
更に無端巻き掛け伝動機構14は、無端可撓体17がイナーシャ等に起因した過渡的な過大トルクに対してスリップしたり、切断されるような構造にすることが可能で、これによりインホイールモータ駆動ユニットを容易に、過大トルクによる破損から保護し得る構成にすることができる。
このため無端巻き掛け伝動機構14は、安全を見込んだ高強度に造る必要がなく、その軽量および低廉化を実現可能である。
【0031】
また本実施例の構成によれば、入力軸2を出力軸3に対し径方向上方へオフセットさせたため、インホイールモータ駆動ユニットの下方側に、ナックルボールジョイント18を配置するスペースを確保し易く、車輪12が操舵輪である場合においても本実施例のインホイールモータ駆動ユニットは容易に適用可能である。
【0032】
更に本実施例の構成によれば、入力軸2を出力軸3に対し径方向上方へオフセットさせたため、入力軸2を包囲するよう設ける電動モータ13が路面から遠い上方に位置することとなり、重要部品である電動モータ13が路面干渉や飛石などにより損傷されるリスクを低減して信頼性を高めることができる。
【0033】
また、入力軸2を出力軸3に対し径方向上方へオフセットさせたため、電動モータ13を収納するユニットケース1の箇所が外部に広く露出することとなり、空気との接触による電動モータ13の冷却効率を高め得て、電動モータ13の最大出力持続時間を延長して車両の走行性能を向上させることができる。
【0034】
<第2実施例の構成>
図2は、本発明の第2実施例になるインホイールモータ駆動ユニットで、図2中、図1におけると同様に機能する部分には同一符号を付して示した。
前記した第1実施例では図1に示すごとく、入力軸2および出力軸3を相互に径方向へオフセットさせたが、本実施例では、入力軸2および出力軸3を同軸に突き合わせて配置する。
【0035】
本実施例においても、入力軸2は、両端近傍におけるベアリング4,5によりユニットケース1に対し回転自在に支持し、出力軸3はユニットケース1内における部分を、ホイールハブ6を介して、ハブベアリング(複列アンギュラベアリング)7によりユニットケース1に対し回転自在に支持する。
【0036】
また、入力軸2を取り巻くように配置して電動モータ13を設け、この電動モータ13を、ユニットケース1の内周に嵌合して固設した円環状のステータ13sと、かかる円環状ステータ13sの内周にラジアルギャップを持たせて同心に配したロータ13rとで構成し、ロータ13rを入力軸2に結合する。
【0037】
更に、ユニットケース1から外部に突出する出力軸3およびホイールハブ6の端部にホイールボルト9およびホイールナット10でブレーキディスク11および車輪12を同心に共締めする。
【0038】
ところで、入力軸2および出力軸3の突き合わせ端部間は、以下のような無端巻き掛け伝動機構21により駆動結合する。
つまり、入力軸2および出力軸3の突き合わせ端にそれぞれ、駆動側のプーリ(またはスプロケット)22および従動側のプーリ(またはスプロケット)23を固設し、入力軸2および出力軸3の軸線に対し平行な軸線周りで遊転するアイドラ回転体としてのプーリ(またはスプロケット)24,25を設ける。
【0039】
プーリ(またはスプロケット)24,25は同仕様とし、それぞれ、駆動側のプーリ(またはスプロケット)22および従動側のプーリ(またはスプロケット)23と同じ軸線方向位置に配置すると共に相互に一体結合する。
そして、駆動側のプーリ(またはスプロケット)22と、アイドラ用のプーリ(またはスプロケット)24との間に入力軸側無端可撓体としてのベルト(またはチェーン)26を掛け渡し、また、従動側のプーリ(またはスプロケット)23と、アイドラ用のプーリ(またはスプロケット)25との間に出力軸側無端可撓体としてのベルト(またはチェーン)27を掛け渡す。
【0040】
以上の構成により無端巻き掛け伝動機構21は入力軸2および出力軸3の突き合わせ端部間を駆動結合し、本発明における入出力軸結合手段を構成する。
【0041】
<第2実施例の作用>
電動モータ13(ロータ13r)からの回転駆動力は入力軸2を介して無端巻き掛け伝動機構21のプーリ(またはスプロケット)22に向かい、その後、無端巻き掛け伝動機構21のベルト(またはチェーン)26およびプーリ(またはスプロケット)24,25、並びにベルト(またはチェーン)27およびプーリ(またはスプロケット)23を経て出力軸3に至る。
【0042】
上記の伝動作用により無端巻き掛け伝動機構21は、電動モータ13から入力軸2への回転を、プーリ(またはスプロケット)22の直径(歯数)およびプーリ(またはスプロケット)23の直径(歯数)により決まる比で減速して出力軸3に伝達する。
出力軸3への回転は、これに結合したホイールハブ6およびホイールボルト9を介して車輪12に伝達され、車両を走行させることができる。
【0043】
<第2実施例の効果>
上記したインホイールモータ駆動ユニットにおいても、インホイールモータ駆動ユニットの入出力軸結合手段として無端巻き掛け伝動機構21を用いるため、
出力軸3に係わる軸受部(ホイールハブ6およびハブベアリング7)が摩耗や劣化などにより大きなガタを生じ、出力軸3が軸受部(6,7)の周りで大きく変位(傾斜、偏心、軸方向変位)するようになったとき、この変位を無端巻き掛け伝動機構21(出力軸側無端可撓体27自身)の変形により吸収して、入力軸2に向かわないようにすることができる。
【0044】
よって、出力軸3が軸受部(ホイールハブ6およびハブベアリング7)の周りで変位しても、入出力軸2,3間の駆動結合を司る無端巻き掛け伝動機構21がギヤの噛み合い不良を生ずることがなく、これに伴う前記した異音や振動、更には歯車の損傷や歯面干渉による急減速(不自然な車両挙動)の発生を防止することができる。
【0045】
更に本実施例では、入出力軸結合手段として、構造が相対的に簡単で安価な無端巻き掛け伝動機構21を用いることにより上記の効果が得られるようにしたため、
従来のように入出力軸結合手段として歯車伝動機構を用いたまま、これに対し、出力軸のハブベアリング周りにおける変位を吸収するための構造物を付加する対策に比べて、インホイールモータ駆動ユニットの小型化や、低廉化が可能であると共に、ほとんど伝動系固有捩り振動特性を変化させることなく上記の効果を達成することができる。
【0046】
また無端巻き掛け伝動機構21は、プーリ(またはスプロケット)22〜25の直径(歯数)を変更するだけで、部品点数の増大なしに入出力軸間伝動比を減速から増速まで任意に設定することができ、設計の自由度が大幅に高まる。
【0047】
更に無端巻き掛け伝動機構21は、無端可撓体26,27がイナーシャ等に起因した過渡的な過大トルクに対してスリップしたり、切断されるような構造にすることが可能で、これによりインホイールモータ駆動ユニットを容易に、過大トルクによる破損から保護し得る構成にすることができる。
このため無端巻き掛け伝動機構21は、安全を見込んだ高強度に造る必要がなく、その軽量および低廉化が可能である。
【0048】
また本実施例の構成によれば、入力軸2および出力軸3を同軸に突き合わせて配置し、これら軸の突き合わせ端部を2列の入出力軸側ベルト(またはチェーン)26, 27により駆動結合したため、
アイドラ回転体としてのプーリ(またはスプロケット)24,25と、入出力軸2,3との間における軸間距離を任意に設定することができ、入出力軸間伝動比を大きく設定して動力性能を向上するのに有利である。
【0049】
更に、入力軸2および出力軸3を同軸に突き合わせて配置し、これら軸の突き合わせ端部を駆動結合する無端巻き掛け伝動機構21から遠い入力軸2の側に電動モータ13を配置したため、
電動モータ13の外径を制限するようなものが存在せず、電動モータ13の大径化によりモータトルクの増大が可能であり、この点でも動力性能の向上を実現することができる。
【0050】
また同様な理由から、電動モータ13を収納するユニットケース1の箇所が外部に広く露出することとなり、空気との接触による電動モータ13の冷却効率を高め得て、電動モータ13の最大出力持続時間を延長して車両の走行性能を向上させることができる。
【0051】
<第3実施例の構成>
図3は、本発明の第3実施例になるインホイールモータ駆動ユニットで、図3中、図1におけると同様に機能する部分には同一符号を付して示した。
本実施例においては、前記した第1実施例(図1)と同様、入力軸2および出力軸3を相互に径方向へオフセットさせるが、入力軸2および出力軸3を第1実施例(図1)とは異なり、略同じ軸線方向位置に配置する。
【0052】
入力軸2は、両端近傍におけるベアリング4,5によりユニットケース1に対し回転自在に支持し、出力軸3はユニットケース1内における部分を、一対のベアリング31,32(ベアリング32はハブベアリングとしても機能する)によりユニットケース1に対し回転自在に支持する。
出力軸3の一端はユニットケース1から外部に突出させ、この突出端にホイールハブ6を固着する。
そしてホイールハブ6に、ホイールボルト9およびホイールナット10でブレーキディスク11および車輪12を同心に共締めする。
【0053】
ベアリング4,5間における入力軸2の部分を取り巻くように配置して電動モータ13を設け、そのロータ13rを入力軸2に結合する。
【0054】
入力軸2および出力軸3は、ホイールハブ6から遠い端部間を、ユニットケース1内の無端巻き掛け伝動機構14により駆動結合する。
無端巻き掛け伝動機構14は、本発明における入出力軸結合手段に相当するもので、図1におけると同様、入力軸2の上記端部に固着したプーリ(またはスプロケット)15と、出力軸3の上記端部に固着したプーリ(またはスプロケット)16と、これらの間に掛け渡した無端可撓体としてのベルト(またはチェーン)17とにより構成する。
しかし本実施例における無端巻き掛け伝動機構14は、図1におけると第1実施例と異なり、電動モータ13を挟んでホイールハブ6から遠い側に配置する。
【0055】
上記のインホイールモータ駆動ユニットは、ナックルボールジョイント18を含むサスペンション装置により車体に弾支すると共に、ナックルボールジョイント18の中心を通るキングピン軸線Kpの周りで、車輪12と共に転舵し得るよう車体に懸架する。
【0056】
<第3実施例の作用>
電動モータ13(ロータ13r)の回転駆動力は入力軸2を介して無端巻き掛け伝動機構14のプーリ(またはスプロケット)15に向かい、その後、無端巻き掛け伝動機構14のベルト(またはチェーン)17およびプーリ(またはスプロケット)16を経て出力軸3に至って、車両を走行させることができる。
【0057】
<第3実施例の効果>
上記したインホイールモータ駆動ユニットにおいても、インホイールモータ駆動ユニットの入出力軸結合手段として無端巻き掛け伝動機構14を用いるため、
出力軸3に係わる軸受部(ベアリング31,32)が摩耗や劣化などにより大きなガタを生じ、出力軸3が軸受部(31,32)の周りで大きく変位(傾斜、偏心、軸方向変位)するようになったとき、この変位を無端巻き掛け伝動機構14(出力軸側無端可撓体17自身)の変形により吸収して、入力軸2に向かわないようにすることができる。
【0058】
よって、出力軸3が軸受部(31,32)の周りで変位しても、入出力軸2,3間の駆動結合を司る無端巻き掛け伝動機構14がギヤの噛み合い不良を生ずることがなく、これに伴う前記した異音や振動、更には歯車の損傷や歯面干渉による急減速(不自然な車両挙動)の発生を防止することができるなど、第1実施例によると同様な効果を奏することができる。
【0059】
更に加えて本実施例においては、無端巻き掛け伝動機構14が電動モータ13を挟んで、ホイールハブ6から遠い軸線方向位置に配置されているため、
出力軸3が軸受部(31,32)の周りで変位した時の無端巻き掛け伝動機構14に対する出力軸3の交角変化量が小さくなり、無端巻き掛け伝動機構14(出力軸側無端可撓体17自身)の上記した変形を少なくすることができて、その耐久性を向上させることができる。
【0060】
また出力軸3を、軸線方向に大きく離間させた一対のベアリング31,32でユニットケース1に対し回転自在に支持するため、これらベアリング31,32に対する要求軸受容量が小さくなって、これらベアリング31,32の小径化および小型化が可能である。
【0061】
加えて入力軸2および出力軸3を略同じ軸線方向位置に配置するため、これらの軸1,2が図1のごとく相互に軸線方向へオフセットされていたり、図2のごとく相互に同軸突き合わせ関係に配置されている場合に比べ、インホイールモータ駆動ユニットの軸長を大幅に短縮することができる。
これにより、同じインホイールモータ駆動ユニットの軸長のもとでは、電動モータ13の軸長を長くし得ることとなり、その分だけモータ出力の増大が可能であり、走行性能の向上を図ることができる。
【0062】
<第4実施例の構成>
図4は、本発明の第4実施例になるインホイールモータ駆動ユニットで、図4中、図1,3におけると同様に機能する部分には同一符号を付して示した。
本実施例においては、前記した第1実施例(図1)および第3実施例(図3)と同様、入力軸2および出力軸3を相互に径方向へオフセットさせ、第3実施例(図3)と同様に、入力軸2および出力軸3を略同じ軸線方向位置に配置する。
【0063】
また入力軸2は、第3実施例(図3)と同様に、両端近傍におけるベアリング4,5によりユニットケース1に対し回転自在に支持して、入力軸2を取り巻くように電動モータ13を設け、ロータ13rを入力軸2に結合する。
出力軸3は、第3実施例(図3)と同様に、両端近傍における一対のベアリング31,32によりユニットケース1に対し回転自在に支持する。
【0064】
しかしホイールハブ6は、出力軸3に同軸に突き合わせて相対回転可能に配置し、第1実施例(図1)および第2実施例(図2)におけると同様な複列アンギュラベアリング6によりユニットケース1に対し回転自在に支持する。
ホイールハブ6の一端をユニットケース1から外部に突出させ、この突出端にホイールボルト9およびホイールナット10でブレーキディスク11および車輪12を同心に共締めする。
【0065】
入力軸2および出力軸3は、ホイールハブ6から遠い端部間を、第3実施例(図3)におけると同様に構成、配置した無端巻き掛け伝動機構14により駆動結合する。
出力軸3およびホイールハブ6の同軸突き合わせ端部間に動力断接手段41を介在させ、この動力断接手段41は自動遠心クラッチや、電磁クラッチや、油圧クラッチや、電子制御クラッチなど、出力軸3およびホイールハブ6の同軸突き合わせ端部間を伝達トルク制御下に結合なものとする。
【0066】
ここで動力断接手段41は、上記の伝達トルク制御に際し、無端可撓体17の張力および強度との関連において、または電動モータ13の温度や過負荷や過回転との関連において、或いはアンチスキッド制御装置(ABS)や車両挙動制御装置(VDC)の作動との関連において、受動的または能動的に当該制御を行うものとする。
【0067】
かかる制御の狙いとする処は、無端可撓体17の張力および強度との関連において、その両立を図り、大トルク対応または張力低減によるフリクション低減を可能にすることや、
電動モータ13の温度上昇や過負荷や過回転を防止して電動モータ13の保護を図ることや、
車輪間駆動力差による車両挙動の不安定を回避するために、伝達トルク過大車輪への伝達トルクを制限することや、
アンチスキッド制御装置(ABS)や車両挙動制御装置(VDC)の作動時に、車輪へのモータ伝達トルクを0にして、これら装置の作動応答を高めることにある。
【0068】
上記のインホイールモータ駆動ユニットは、ナックルボールジョイント18を含むサスペンション装置により車体に弾支すると共に、ナックルボールジョイント18の中心を通るキングピン軸線Kpの周りで、車輪12と共に転舵し得るよう車体に懸架する。
【0069】
<第4実施例の作用>
電動モータ13(ロータ13r)の回転駆動力は入力軸2を介して無端巻き掛け伝動機構14のプーリ(またはスプロケット)15に向かい、その後、無端巻き掛け伝動機構14のベルト(またはチェーン)17、プーリ(またはスプロケット)16および動力断接手段41を経てホイールハブ6(車輪12)に至り、車両を走行させることができる。
【0070】
<第4実施例の効果>
上記したインホイールモータ駆動ユニットにおいても、基本的には図3に示した第3実施例と同様な構成であるため、第3実施例の効果を全て奏することができる。
加えて本実施例では、出力軸3およびホイールハブ6の同軸突き合わせ端部間に動力断接手段41を介在させ、その結合力を受動的に制御し得るよう構成したため、
無端可撓体17の張力および強度を両立させて、大トルク対応または張力低減によるフリクション低減が可能になる。
【0071】
また、出力軸3およびホイールハブ6間の結合力を、動力断接手段41により能動的にも制御し得るよう構成したことで、
電動モータ13の温度上昇や過負荷や過回転を防止して電動モータ13の保護を図ることができるほか、
車輪間駆動力差による車両挙動の不安定を回避するために、伝達トルク過大車輪への伝達トルクを制限することや、
アンチスキッド制御装置(ABS)や車両挙動制御装置(VDC)の作動時に、車輪へのモータ伝達トルクを0にして、これら装置の作動応答を高めることができる。
【0072】
<第5実施例の構成>
図5は、本発明の第5実施例になるインホイールモータ駆動ユニットで、図5中、図1,3におけると同様に機能する部分には同一符号を付して示した。
本実施例においては、前記した第1実施例(図1)および第3実施例(図3)と同様、入力軸2および出力軸3を相互に径方向へオフセットさせ、第3実施例(図3)と同様に、入力軸2および出力軸3を略同じ軸線方向位置に配置する。
【0073】
また入力軸2は、第3実施例(図3)と同様に、両端近傍におけるベアリング4,5によりユニットケース1に対し回転自在に支持して、入力軸2を取り巻くように電動モータ13を設け、ロータ13rを入力軸2に結合するが、
入出力軸2,3間を駆動結合する無端巻き掛け伝動機構14のプーリ(またはスプロケット)15は、電動モータ13から遠い入力軸2の端部に同軸に突き合わせて配置する。
【0074】
入力軸2およびプーリ(またはスプロケット)15の同軸突き合わせ端部間に動力断接手段51を介在させ、この動力断接手段51は自動遠心クラッチや、電磁クラッチや、油圧クラッチや、電子制御クラッチなど、入力軸2およびプーリ(またはスプロケット)15間を伝達トルク制御下に結合可能なものとする。
ここで動力断接手段51は、上記の伝達トルク制御に際し、図4における動力断接手段41と同様、無端可撓体17の張力および強度との関連において、または電動モータ13の温度や過負荷や過回転との関連において、或いはアンチスキッド制御装置(ABS)や車両挙動制御装置(VDC)の作動との関連において、受動的または能動的に当該制御を行うものとする。
【0075】
入力軸2に同軸に突き合わせて配置したプーリ(またはスプロケット)15は、その両端におけるベアリング52,53でユニットケース1に対し回転自在に支持する。
【0076】
出力軸3は図3におけると同様、ユニットケース1内における部分を、一対のベアリング31,32(ベアリング32はハブベアリングとしても機能する)によりユニットケース1に対し回転自在に支持する。
出力軸3の一端をユニットケース1から外部に突出させ、この突出端にホイールハブ6を固着する。
そして、ホイールハブ6にホイールボルト9およびホイールナット10でブレーキディスク11および車輪12を同心に共締めする。
【0077】
入力軸2および出力軸3は、ホイールハブ6から遠い端部間を、第3実施例(図3)におけると同様に構成、配置した無端巻き掛け伝動機構14により駆動結合する。
【0078】
上記のインホイールモータ駆動ユニットは、ナックルボールジョイント18を含むサスペンション装置により車体に弾支すると共に、ナックルボールジョイント18の中心を通るキングピン軸線Kpの周りで、車輪12と共に転舵し得るよう車体に懸架する。
【0079】
<第5実施例の作用>
電動モータ13(ロータ13r)の回転駆動力は入力軸2から動力断接手段51を経て無端巻き掛け伝動機構14のプーリ(またはスプロケット)15に向かい、その後、無端巻き掛け伝動機構14のベルト(またはチェーン)17およびプーリ(またはスプロケット)16を経て出力軸3に至って、車両を走行させることができる。
【0080】
<第5実施例の効果>
上記したインホイールモータ駆動ユニットにおいても、基本的には図3に示した第3実施例と同様な構成であるため、第3実施例の効果を全て奏することができる。
加えて本実施例では、入力軸2およびプーリ(またはスプロケット)15の同軸突き合わせ端部間に動力断接手段51を介在させ、その結合力を受動的に制御し得るよう構成したため、
無端可撓体17の張力および強度を両立させて、大トルク対応または張力低減によるフリクション低減が可能になる。
【0081】
また、入力軸2およびプーリ(またはスプロケット)15間の結合力を、動力断接手段51により能動的にも制御し得るよう構成したことで、
電動モータ13の温度上昇や過負荷や過回転を防止して電動モータ13の保護を図ることができるほか、
車輪間駆動力差による車両挙動の不安定を回避するために、伝達トルク過大車輪への伝達トルクを制限することや、
アンチスキッド制御装置(ABS)や車両挙動制御装置(VDC)の作動時に、車輪へのモータ伝達トルクを0にして、これら装置の作動応答を高めることができる。
【符号の説明】
【0082】
1 ユニットケース
2 入力軸
3 出力軸
4,5 ベアリング
6 ホイールハブ
7 複列アンギュラベアリング(ハブベアリング)
8 ロックナット
9 ホイールボルト
10 ホイールナット
11 ブレーキディスク
12 車輪
13 電動モータ
13s ステータ
13r ロータ
14 無端巻き掛け伝動機構(入出力軸結合手段)
15,16 プーリまたはスプロケット
17 ベルトまたはチェーン(無端可撓体)
18 ナックルボールジョイント
21 無端巻き掛け伝動機構(入出力軸結合手段)
22,23 プーリまたはスプロケット
24,25 プーリまたはスプロケット(アイドラ回転体)
26 ベルトまたはチェーン(入力軸側無端可撓体)
27 ベルトまたはチェーン(出力軸側無端可撓体)
32 ベアリング(ハブベアリング)
41,51 動力断接手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータおよびこの電動モータで駆動される入力軸を内蔵し、ハブベアリングを介し回転自在に支持して外部に突出するよう設けられた出力軸を具え、前記入力軸および出力軸間を駆動結合する入出力軸結合手段を内蔵し、前記出力軸の外部突出端に車輪を結合して用いるインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記入出力軸結合手段を無端巻き掛け伝動機構により構成したことを特徴とするインホイールモータ駆動ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載のインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記入力軸および出力軸を径方向にオフセットして相互に平行に配置し、
前記入出力軸結合手段は、これら入力軸および出力軸間を無端可撓体により駆動結合する無端巻き掛け伝動機構により構成されたものであることを特徴とするインホイールモータ駆動ユニット。
【請求項3】
請求項1に記載のインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記入力軸および出力軸を同軸に突き合わせて配置し、
前記入出力軸結合手段は、これら入力軸および出力軸の突き合わせ端間を、入力軸側突き合わせ端とアイドラ回転体とに掛け渡した入力軸側無端可撓体、および、該アイドラ回転体と出力軸側突き合わせ端とに掛け渡した出力軸側無端可撓体により駆動結合する無端巻き掛け伝動機構により構成されたものであることを特徴とするインホイールモータ駆動ユニット。
【請求項4】
請求項2に記載のインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記入出力軸結合手段は、前記ホイールハブから遠い出力軸の端部と、前記入力軸との間を無端可撓体により駆動結合する無端巻き掛け伝動機構により構成されたものであることを特徴とするインホイールモータ駆動ユニット。
【請求項5】
請求項4に記載のインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記電動モータは、前記ホイールハブおよび無端巻き掛け伝動機構間における軸線方向位置に配置したことを特徴とするインホイールモータ駆動ユニット。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記電動モータから前記ホイールハブに至る伝動系に動力断接手段を挿置したことを特徴とするインホイールモータ駆動ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−71687(P2013−71687A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213645(P2011−213645)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】