説明

インモールド成形用導電性フィルム

【課題】 射出成形や型押し成形や真空成形や圧空成形などの成形時に金型内にセットし、インモールド成形後の成形品に帯電防止性能、静電気除去性能、導電性能、電磁波シールド性能を付与するインモールド成形用導電性フィルムを提供する。
【解決手段】 合成樹脂基材1の片面に極細導電繊維3を含んだ導電層2が形成されたフィルムであって、導電層2が、極細導電繊維が凝集することなく分散して互いに接触しているか、或は、1本ずつ分離した状態で、もしくは、複数本集まって束になったものが1束ずつ分離した状態で分散して互いに接触していて、1.0〜5.0の成形倍率でインモールド成形された後の表面抵抗率が10〜1011Ω/□であるインモールド成形用導電性フィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形や型押し成形や真空成形や圧空成形などの成形時に金型内にセットし、インモールド成形後の成形品に帯電防止性能、静電気除去性能、導電性能、電磁波シールド性能を付与するインモールド成形用導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、クリーンルーム内で使用する、射出成形や型押し成形された合成樹脂成形品に発生する静電気を逃がして塵埃の付着を防止するために、成形品表面に帯電防止処理が施されている。また、電磁波シールドをするために、成形品内面に導電性の処理が施されている。
【0003】
かかる帯電防止処理方法として、成形後の成形品の表面に、後から帯電防止剤を塗布して成形品表面に帯電防止層を形成するという方法が知られている。また、成形時に、あらかじめ金型表面に帯電防止剤を塗布しておき、成形後の成形品表面に帯電防止層を形成するという方法が知られている。また、永久帯電防止性能を持った合成樹脂を成形するという方法が知られている。さらに、帯電防止層を有する転写箔を射出成形の金型内に挟み込み、転写側に溶融樹脂を射出して成形品の表面に帯電防止層を転写することも知られている(特許文献1)。
【0004】
一方、導電性処理方法として、成形後の成形品の内側表面に、銅やニッケルなどの金属を溶射したり、銅や銀などの金属粉末あるいはカーボンの粉末を混入した導電性塗料を塗布する方法が知られている。
【特許文献1】特開2002−321497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方法では、帯電防止剤や導電性塗料を成形品表面や金型表面に塗布する作業が必要であり、手間がかかるとともに、塗布時に帯電防止剤や導電性塗料が飛散し、有効に使用される量が少なく、無駄が多いという問題があった。また、飛散した過剰の帯電防止剤や導電性塗料を処理する必要があり、環境上も問題があった。さらに、帯電防止剤の性能は湿度に対する依存性があり、低湿度下では帯電防止性能を発揮しないという問題があった。また、永久帯電防止性能を持った合成樹脂は、種類が限定されており、製品設計上の制約があるという問題点があった。また、金属溶射や導電性塗料を塗布した電磁波シールド成形品は不透明であり、透明性を必要とする用途には使用できないという問題点があった。
【0006】
一方、特許文献1の帯電防止層はアンチモンドープ二酸化スズなどの導電性無機充填剤を含有しており、このような帯電防止層では成形時の伸びに追随できず、クラックが生じて白濁したり、導電層が断裂して帯電防止性能又は静電気除去性能、あるいは導電性能を保持できないという問題があった。
【0007】
本発明は上記の問題に対処するためになされたもので、帯電防止剤や導電性塗料を塗布する工程が不要で、成形時の伸びに追随し、湿度に依存せずに十分な帯電防止性能、静電気除去性能を発揮したり、透明な電磁波シールド性能を発揮するインモールド成形用導電性フィルムを提供することを解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のインモールド成形用導電性フィルムは、合成樹脂基材の片面に極細導電繊維を含んだ導電層が形成されたフィルムであって、該フィルムが1.0〜5.0の成形倍率でインモールド成形された後の表面抵抗率が10〜1011Ω/□であることを特徴とするものである。
【0009】
本発明において、極細導電繊維が凝集することなく分散して互いに接触していること、或は、極細導電繊維が1本ずつ分離した状態で、もしくは、複数本集まって束になったものが1束ずつ分離した状態で分散して互いに接触していることが好ましい。また、これらの極細導電繊維がカーボンナノチューブであることが好ましい。そして、導電層の550nm波長の光線透過率が50%以上の透明層であることが好ましく、さらに、合成樹脂基材の片面に形成された導電層の上に接着剤層が形成されていることも好ましい。
【0010】
なお、本発明で「凝集することなく」とは、導電層を光学顕微鏡で観察し、平均径が0.5μm以上の凝集塊がないことを意味する用語である。また、「接触」とは、極細導電繊維が現実に接触している場合と、極細導電繊維が導通可能な微小間隔をあけて近接している場合の双方を意味する用語である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のインモールド成形用導電性フィルムは、導電層に含まれる極細導電繊維相互の接触がインモールド成形時の成形倍率によっても外れることがないし、該繊維の切断もなく、導電性を維持して10〜1011Ω/□の表面抵抗率を有するインモールド成形体とすることができる。
【0012】
そして、極細導電繊維が凝集することなく分散して互いに接触していると、該繊維が凝集していない分だけ、極細導電繊維が解けて相互の十分な導通を確保できるので良好な導電性を得ることができる。そのため、極細導電繊維量を少なくしても導電性を確保でき、極細導電繊維量が減少した分だけ透明性を向上させることができるし、導電層の厚みを薄くすることもできる。この極細導電繊維がカーボンナノチューブであると、該カーボンナノチューブが細くて長いので、これら相互の接触がさらに良好に確保でき、表面抵抗率を10〜1011Ω/□に容易にコントロールできるし、また高い透明性も保持できる。
【0013】
また、極細導電繊維が1本ずつ分離した状態で、もしくは、複数本集まって束になったものが1束ずつ分離した状態で分散して互いに接触していると、分散した1本若しくは1束の極細導電繊維相互の接触機会が多くなり、十分な導通を確保でき良好な導電性を得ることができる。そのため、極細導電繊維量を少なくしても導電性を確保できるので、極細導電繊維量が減少した分だけ透明性を向上させることができるし、導電層の厚みを薄くすることもできる。そして、極細導電繊維としてカーボンナノチューブを用いると、さらに上記の接触機会が増加し、高透明の、導電性を向上させたフィルムとすることが可能となる。
【0014】
さらに、導電層の上に接着剤層を形成していると、該接着剤層で成形体に強固に接着して剥離を防止でき、長期に亘り10〜1011Ω/□の表面抵抗率を有するインモールド成形体とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の代表的な実施形態を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
図1は本発明のインモールド成形用導電性フィルムの一実施形態を示す概略断面図、図2の(A)は導電層内部における極細導電繊維の分散状態を示す概略断面図、図2の(B)は導電層表面における極細導電繊維の分散状態を示す概略断面図、図3は導電層を平面から見た極細導電繊維の分散状態を示す概略平面図である。
【0017】
このインモールド成形用導電性フィルムは、合成樹脂よりなる基材1の片面(上面)に、極細導電繊維3を含んだ透明な導電層2を積層形成したものである。なお、この導電層2は合成樹脂基材1の上下両面に形成してもよい。
【0018】
上記の合成樹脂基材1は、熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、透明な導電性フィルムを得るためには、透明性を付与できる透明熱可塑性樹脂が使用される。この透明熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリスチレン、ニトロセルロース、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリジメチルシクロヘキサンテレフタレート、ABS樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、これらの樹脂の共重合体樹脂、これらの樹脂の混合樹脂などが使用される。
【0019】
そして、基材1は必ずしも透明である必要はないが、厚さが100μmのときに、90%以上、好ましくは95%以上の全光線透過率を有する樹脂が特に好ましく、このような樹脂としては、環状ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリジメチルシクロヘキサンテレフタレート、あるいはその共重合体樹脂、これらの樹脂の混合樹脂が用いられる。
【0020】
上記合成樹脂基材1には、可塑剤、安定剤、紫外線吸収剤等が適宜配合され、成形性、熱安定性、耐候性等が高められる。更に、これらの基材1に顔料や染料などの着色剤を添加して不透明にしたり、半透明にしたりしてもよく、この場合は不透明或は半透明フィルムとなるが、導電層2が透明であるため、その色調を損なうことがない。
【0021】
基材1の厚さは、用途に応じた厚さとすればよいが、通常は3〜500μm程度の厚さの基材1が使用される。
【0022】
この基材1の片面に形成された導電層2は、極細導電繊維3を含んだ透明層であって、極細導電繊維3が凝集することなく分散して互いに接触している。換言すれば、極細導電繊維3が絡み合うことなく1本ずつ分離した状態で、もしくは、複数本集まって束になった繊維が1束ずつ分離した状態で分散して互いに接触している。導電層2が主に極細導電繊維3と透明なバインダーとで形成されていると、図2の(A)に示すように、該極細導電繊維3はバインダーの内部に上記の分散状態で分散し互いに接触しているか、或は図2の(B)に示すように、極細導電繊維3の一部がバインダー中に入り込み他の部分がバインダー表面から突出ないし露出して上記分散状態で分散し互いに接触しているか、或は極細導電繊維3の一部は図2の(A)のようにバインダーの内部に、他の極細導電繊維3は図2の(B)のように表面から突出乃至露出している状態で分散し互いに接触していることとなる。
【0023】
これらの極細導電繊維3の平面から見た分散状態を図3に概略的に示す。この図3から理解されるように、極細導電繊維3は多少曲がっているが1本ずつ或は1束ずつ分離し、互いに複雑に絡み合うことなく即ち凝集することなく、単純に交差した状態で導電層2の内部に或は表面に分散され、それぞれの交点で接触している。このように分散していると、凝集している場合に比べて、繊維が解れて広範囲に存在しているので、これら繊維同士の接触する機会が著しく増加し、その結果導通して導電性を容易に得ることができる。そのため、極細導電繊維3の量を少なくしても表面抵抗率を10〜1011Ω/□にすることができ、成形倍率を5倍にすることも可能になるのである。また、透明性を阻害する極細導電繊維の量が少なくなった分だけ透明性が向上するし、さらに、導電層2を薄くすることもでき、一層透明性を向上させることができる。
【0024】
導電層2の厚みは、5〜500nmと薄くすることが好ましく、この厚みであっても繊維を分散させることで10〜1011Ω/□の導電性を得ることができる。更に好ましい厚みは10〜300nmである。特に、厚みの下限が50nm以上であると、導電性フィルムを5倍を超える高倍率でインモールド成形した場合でも、10〜1011Ω/□の導電性を確保できる利点がある。
【0025】

なお、極細導電繊維3は完全に1本ずつ或は1束ずつ分離し分散している必要はなく、一部に絡み合った小さな凝集塊があっても良いが、その大きさは平均径が0.5μm以上でないことが好ましい。
【0026】
上記のように、極細導電繊維3が導電層2内で多少曲がっているが1本ずつ或は1束ずつ分離し、互いに複雑に絡み合うことなく即ち凝集することなく分散された状態で接触していると、該導電層2を有する本発明の導電性フィルムをインモールド成形しても、導電層2内の極細導電繊維3同士の接触が外れることがないし、万一外れたとしても近傍の他の極細導電繊維3と接触し、或は曲がった極細導電繊維3が伸びて切断することが殆どなく、導電性を保持することができる。更に、時には導電性フィルムがインモールド成形されて厚みが薄くなると同時に導電層2も薄くなるため、導電層2のバインダー内で上下方向に分散して接触していなかった極細導電繊維3同士が圧縮されて接触したり導通可能な間隔まで狭くなって導通し、表面抵抗率が減少することもあるし、また、極細導電繊維3が導電層2の表面に突出して導通するため表面抵抗率が減少することもある。そのため、本発明の導電性フィルムを、例えば射出成形用金型の内部に配置し、溶融樹脂を射出成形する際に該フィルムが1.0〜5.0倍の成形倍率で成形されても、元の導電性フィルムの表面抵抗率と同等の抵抗率を示し、10〜1011Ω/□の表面抵抗率を維持できるのである。同様に、型押し成形や真空成形や圧空成形などにおいても、成形金型内に本発明の導電性フィルムを配置して成形して、該フィルムが1.0〜5.0倍の成形倍率で成形されても、10〜1011Ω/□の表面抵抗率を維持できるのである。好ましい成形倍率は1.0〜2.0倍である。
【0027】
また、同様の理由で、本発明の導電性フィルムを曲げても、繊維3が伸びるだけで接触が外れたり切断することがないので、インモールド成形時に曲率が小さな曲げが必要な場合でも表面抵抗率が低下することがなく、10〜1011Ω/□の表面抵抗率を維持できる。
【0028】
本発明の導電性フィルムが、5.0倍以上の成形倍率でインモールド成形されても、導電層2の厚さが50nm以上あれば、導電性を保持できるが、5.0倍以上の成形倍率でインモールド成形されると、基材フィルムが成形に追随せず、破断することがあるので望ましくない。
【0029】
このように、インモールド成形する際に、本発明の導電性フィルムが1.0〜5.0倍の成形倍率で成形されても、極細導電繊維が追従して接触が外れたり切断したりすることが無く、元の表面抵抗率を維持して10〜1011Ω/□となるのである。なお、ここで成形倍率とは、成形前の成形面積と成形後の成形面積との比で示す。
【0030】
上記の導電層2に使用される極細導電繊維3は、カーボンナノチューブやカーボンナノホーン、カーボンナノワイヤ、カーボンナノファイバー、グラファイトフィブリルなどの極細長炭素繊維、白金、金、銀、ニッケル、シリコンなどの金属ナノチューブ、ナノワイヤなどの極細長金属繊維、酸化亜鉛などの金属酸化物ナノチューブ、ナノワイヤなどの極細長金属酸化物繊維などの、直径が0.3〜100nmで長さが0.1〜20μm、好ましくは長さが0.1〜10μmである導電性極細繊維が好ましく用いられる。これらの極細導電繊維3は、これが凝集することなく1本ずつ或は1束ずつ分散することにより、該導電層2の表面抵抗率が10〜1011Ω/□である時には光線透過率が50%以上のものが得られる。なお、上記光線透過率は分光光度計による550nmの波長の光の透過率を示す。
【0031】
これらの極細導電繊維3の中でも、カーボンナノチューブは、直径が極めて細く0.3〜80nmであるので、1本ずつ或は1束ずつ分散することで該カーボンナノチューブが光透過を阻害することが少なくなり、光線透過率が50%以上の透明な導電層2を得るうえで特に好ましいのである。これらの極細導電繊維3は、導電層2の内部に或は表面に、凝集することなく、1本ずつ或は1束ずつ分散し、互いに接触して導通性を確保している。そのため、該極細導電繊維3を導電層2に1.0〜450mg/mの目付け量で含ませることで、その表面抵抗率を10〜1011Ω/□の範囲内で自由にコントロールすることができる。該目付け量は、導電層2を電子顕微鏡で観察し、その平面面積に占める極細導電繊維の面積割合を測定し、これに電子顕微鏡で観察した厚みと極細導電繊維の比重(極細導電繊維がカーボンナノチューブである場合は、グラフィトの文献値2.1〜2.3の平均値2.2を採用)を掛けることで計算した値である。
【0032】
ここで、凝集していないとは、導電層2を光学顕微鏡で観察し、凝集している塊があれば、その長径と短径とを測定し、その平均値が0.5μm以上の塊がないことを意味している。
【0033】
また、導電層2の光線透過率は、測定に分光光度計を用い、550nmにおける導電性フィルムの光線透過率を基材のみの光線透過率で補正することにより得ることができる。
【0034】
上記カーボンナノチューブには、中心軸線の周りに直径が異なる複数の円筒状に閉じたカーボン壁を同心的に備えた多層カーボンナノチューブや、中心軸線の周りに単独の円筒状に閉じたカーボン壁を備えた単層カーボンナノチューブがある。
【0035】
前者の多層カーボンナノチューブは、上記のように直径が異なる複数の円筒状に閉じたカーボン壁からなるチューブが中心軸線の周りに多層になって構成されており、カーボン壁は、カーボンの六角網目構造にて形成されている。その他、上記カーボン壁が渦巻き状に多層に形成されているものもある。好ましい多層カーボンナノチューブは、このカーボン壁が2〜30層重なったものであり、そのような多層カーボンナノチューブを上記の如き分散状態で分散させると、光線透過率を良好にすることができる。より好ましくはカーボン壁が2〜15層重なったものが用いられる。該多層カーボンナノチューブは1本ずつ分離した状態で分散しているものが殆どであるが、2〜3層カーボンナノチューブは、束になって分散している場合もある。
【0036】
一方、後者の単層カーボンナノチューブは、上記のように中心軸線の周りに円筒状に閉じた単独のカーボン壁から構成されており、カーボン壁はカーボンの六角網目構造にて形成されている。このような単層カーボンナノチューブは1本ずつ分離した状態では分散されにくく、2本以上集まって束になり、それが1束ずつ分離して、束同士が複雑に絡み合うことなく凝集せずに、単純に交差した状態で導電層の内部若しくは表面に分散され、それぞれの交点で接触している。好ましくは、10〜50本の単層カーボンナノチューブが集まって束になったものが用いられる。
【0037】
上記のように極細導電繊維3が絡み合うことなく凝集せずに導電層2に分散してお互いに接触している本発明の導電性フィルムは、導電層2における極細導電繊維3の目付け量を1.0〜450mg/mとすると、導電層2の厚みを5〜500nmと薄くしても、極細導電繊維3が解れているので相互の十分な導通が確保され、表面抵抗率が10〜1011Ω/□の範囲となって導電性を発現できるようになる。そして、極細導電繊維が解れて凝集塊がなくなり光透過を阻害しないので透明性が良好になると共に、導電層2の厚みを薄くして極細導電繊維3の目付け量を少なくした分だけ透明性が向上するようになる。
【0038】
極細導電繊維3を導電層2中に含ませ、導電性及び透明性を発現させるためには、極細導電繊維3の分散性を高め、さらに作製した塗液の粘度を下げて作業性を向上させて、薄い導電層2を形成することが重要であり、そのためには、分散剤を併用して分散性を向上することが重要である。このような分散剤としては、酸性ポリマーのアルキルアンモニウム塩溶液や3級アミン修飾アクリル共重合物やポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合物などの高分子系分散剤、カップリング剤等が好ましく使用される。
【0039】
なお、この導電層2には紫外線吸収剤、表面改質剤、安定剤等の添加剤を適宜加えて、耐候性その他の物性を向上させても良い。
【0040】
導電層2に使用するバインダーとしては、透明な熱可塑性樹脂、特にポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、弗化ビニリデンなどの透明樹脂が使用され、これらの透明バインダー樹脂と上記極細導電繊維とからなる導電層2が透明層となるようになされている。なお、これらのバインダーにはコロイダルシリカのような無機材が添加されてもよい。基材1が透明な熱可塑性樹脂で形成されていれば、これと同種の透明な熱可塑性樹脂、又は相溶性のある異種の透明な熱可塑性樹脂が、互いの積層性に優れ、本発明の導電性フィルムを得るうえで好ましく使用される。また、バインダーとしてアクリル系、ウレタン系、エポキシ系等の熱や紫外線や電子線や放射線などで硬化する透明な硬化性樹脂やコロイダルシリカを含むバインダーを使用すると耐磨耗性などに優れるフィルムを得ることができる。このように、導電層2は基板1の表面に形成されるものであるから、要求される耐候性、表面硬度、耐摩耗性などに適したバインダーを選択使用することが望ましい。
【0041】
上述したように、導電層2における極細導電繊維3の目付け量を1.0〜450mg/mとし、導電層2の厚みを5〜500nmと薄くして、極細導電繊維3を凝集することなく1本ずつ或は1束ずつ分散させることで、表面抵抗率が10〜1011Ω/□の導電性及び透明性が発現される。より好ましい極細導電繊維3の目付け量は1.0〜200mg/mである。なお、極細導電繊維の他に導電性金属酸化物の粉末を30〜50質量%程度含有させてもよい。
【0042】
以上のような本発明の導電性フィルムは、例えば次の方法で効率良く量産することができる。ひとつの方法は、導電層形成用の前記バインダーを揮発性溶剤に溶解した溶液に極細導電繊維3を均一に分散させて塗液を調製し、この塗液を基材1の片面に塗布、固化させて導電層2を形成することにより本発明の導電性フィルムを製造する方法である。他の方法は、極細導電繊維2を添加した樹脂と基材樹脂との共押し成形で製造する方法である。なお、その他の公知の製法によっても製造され得ることは言うまでもない。
【0043】
図4は、上記の本発明のインモールド成形用導電性フィルムを射出成形によりインサートする方法を示す説明図である。
【0044】
図4に示すように、開いた射出成形金型4の雌金型41の近傍に、本発明の導電性フィルムを導電層2が雌金型41側となるように配置した後に、雄金型42を閉じ、射出成形すると、溶融樹脂で導電性フィルムが押されて延伸されつつ溶融樹脂と積層一体化される。このようにして得られた導電性射出成形体は、たとえ導電性フィルムが引き伸ばされて成形されても10〜1011Ω/□の表面抵抗率を有し、該射出成形体表面に導電層2が位置しているため、表面抵抗率が10〜1011Ω/□の場合には帯電防止能を有して塵などが付着することがないし、表面抵抗率が10〜10Ω/□の場合には電磁波シールド性能を有して電磁波ノイズをカットすることができる。
【0045】
図5は本発明のインモールド成形用導電性フィルムの他の実施形態の断面図である。
【0046】
この導電性フィルムは、導電層2の表面に透明な接着剤層5を形成してなる転写可能な導電性フィルムである。合成樹脂基材1は、導電層2が剥離できる離形性に富んだ樹脂が使用され、代表的な樹脂としてはポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0047】
また、透明な接着剤層5を形成する接着剤は、公知の接着性を発揮するものが全て使用でき、例えば、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリビニールエーテル系、塩ビ系などの接着剤が用いられる。この中でも、耐候性に優れ安価で透明性に優れるアクリル系接着剤が好適に用いられる。
【0048】
この転写可能な導電性フィルムを得るには、ポリエチレンテレフタレートなどの剥離フィルムを基材1とし、この片面に極細導電繊維3を含む塗料を塗布、固化させて導電層2を形成し、さらに接着剤層5を塗布などの方法で形成することで転写可能な本発明の導電性フィルムを作製することができる。
【0049】
なお、導電層2は前記実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0050】
この転写可能な導電性フィルムを、例えば図4に示すような射出成形時に転写させるためには、導電性フィルムの基材1を雌金型41側となるように配置した後に射出成形して、接着層5を成形体と圧着・一体化させ、その後基材1を成形体から剥離することにより、成形体に接着剤層5と制電層2とが転写された射出成形体を得ることができる。
【0051】
次に、本発明の更に具体的な実施例を挙げる。
【0052】
[実施例1]




溶媒としてのイソプロピルアルコール/水混合物(混合比3:1)中に単層カーボンナノチューブ(文献Chemical Physics Letters,323(2000)P580−585に基づき合成した物、直径1.3〜1.8nm)と分散剤としてのポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合物を加えて均一に混合、分散させ、単層カーボンナノチューブを0.003質量%、分散剤を0.05質量%含む塗液を調整した。そしてこの塗液を、市販の厚さ100μmのアクリルフィルム(鐘淵化学工業株式会社製SD014NRT、全光線透過率94.0%、ヘーズ0.6%)の片側の表面に塗布することにより導電層を形成し、本発明のインモールド成形用導電性フィルムを得た。
【0053】
この導電性フィルムの表面抵抗率を三菱化学社製のロレスタ−EPで測定したところ、表面抵抗率が4.8×10Ω/□であった。
【0054】
また、この導電フィルムの全光線透過率とヘーズとを、ASTM D1003に準拠して、スガ試験機社製の直読ヘーズコンピューターHGM−2DPで測定したところ、全光線透過率が81.1%、ヘーズが4.6%であった。
【0055】
また、導電性フィルムの導電層の550nm波長の光線透過率を、島津製作所製島津自記分光光度計UV−3100PCを用いて、導電性フィルムと、元のアクリルフィルムとの波長550nmにおける光線透過率をそれぞれ測定し、それらの差を導電層の光線透過率とした。この光線透過率は、86.5%であった。
【0056】
さらに、この導電性フィルムの導電層を光学顕微鏡で観察したところ、0.5μ以上の凝集塊は存在しておらず、単層カーボンナノチューブの分散が十分に行われていた。そこで、このフィルムの導電層を走査電子顕微鏡で観察したところ、単層カーボンナノチューブの分散が十分に行われていて、この電子顕微鏡観察においても凝集塊は存在していなかった。そして、多数のカーボンナノチューブが1束ずつ分離した状態で均一に分散し、単純に交差した状態で接触していることがわかった。そして、カーボンナノチューブの面積割合を測定したところ68.7%であった。また、導電層の厚さは45nmであった。このことより、導電層の単層カーボンナノチューブの目付け量は面積割合68.7%と厚み45nmと比重(2.2)を掛け合せた68mg/mであった。
【0057】
この導電性フィルムを加熱成形したところ、成形倍率が1.2倍の時に表面抵抗率が1.5×10Ω/□、全光線透過率が83.1%、ヘーズが9.6%になった。また、成形倍率が1.6倍の時に表面抵抗率が9.8×10Ω/□、全光線透過率が86.9%、ヘーズが10.3%になった。表面抵抗率が10Ω/□オーダーであれば電磁波シールド性能があることは公知である。



【0058】
[実施例2]
溶剤としてのシクロヘキサノンに、熱可塑性樹脂として塩化ビニル樹脂の粉末を1.7質量%添加して溶解した。この溶液中に単層カーボンナノチューブ(カーボンナノテクノロジーズ社製、直径0.7〜2nm)と分散剤としての酸性ポリマーのアルキルアンモニウム塩溶液を加えて均一に混合、分散させ、カーボンナノチューブを0.3質量%、分散剤を0.18質量%含む塗液を調整した。この塗液を実施例1で用いたのと同じ市販の厚さ100μmのアクリルフィルムの片側の表面に塗布することにより導電層を形成し、本発明のインモールド成形用導電性フィルムを得た。
【0059】
この導電性フィルムの表面抵抗率を三菱化学社製のハイレスタ−UPで測定したところ、表面抵抗率が7.4×1010Ω/□であった。また、この導電フィルムの全光線透過率は85.9%、ヘーズは3.0%であった。そして、導電性フィルムの導電層の550nm波長の光線透過率は91.4%であった。さらに、この導電性フィルムの導電層には0.5μ以上の凝集塊は存在しておらず、導電層の単層カーボンナノチューブの目付け量は15mg/mであった。
【0060】
この導電性フィルムを加熱成形したところ、成形倍率が2倍の時に表面抵抗率が1.3×10Ω/□、全光線透過率が89.0%、ヘーズが2.9%になり、成形倍率が3倍の時に表面抵抗率が4.7×10Ω/□、全光線透過率が89.2%、ヘーズが3.2%になり、成形倍率が5倍の時に表面抵抗率が2.1×10Ω/□、全光線透過率が88.8%、ヘーズが3.1%になった。
【0061】
本実施例で、熱成形後の表面抵抗率が成形前の表面抵抗率より減少した理由は、導電性フィルムが成形されて厚みが薄くなると同時に導電層も薄くなるため、導電層のバインダー内で上下方向に分散して接触していなかったカーボンナノチューブ同士が圧縮されて接触したり導通可能な間隔まで狭くなって導通し、表面抵抗率が減少した、あるいは、カーボンナノチューブが導電層の表面に突出して導通するため表面抵抗率が減少したと考えられる。


【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明のインモールド成形用導電性フィルムの一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】(A)は本発明の導電層内部における極細導電繊維の分散状態を示す概略断面図であり、(B)は本発明の導電層表面における極細導電繊維の分散状態を示す概略断面図である。
【図3】本発明の導電層を平面から見た極細導電繊維の分散状態を示す概略平面図である。
【図4】本発明のインモールド成形用導電性フィルムを射出成形によりインサートする方法を示す説明図である。
【図5】本発明のインモールド成形用導電性フィルムの他の実施形態の概略断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 基材
2 導電層
3 極細導電繊維
4 射出成形金型
41雌金型
42雄金型
5 接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂基材の片面に極細導電繊維を含んだ導電層が形成されたフィルムであって、該フィルムが1.0〜5.0の成形倍率でインモールド成形された後の表面抵抗率が10〜1011Ω/□であることを特徴とするインモールド成形用導電性フィルム。
【請求項2】
極細導電繊維が、凝集することなく分散して互いに接触していることを特徴とする請求項1に記載のインモールド成形用導電性フィルム。
【請求項3】
極細導電繊維が、1本ずつ分離した状態で、もしくは、複数本集まって束になったものが1束ずつ分離した状態で分散して互いに接触していることを特徴とする請求項1に記載のインモールド成形用導電性フィルム。
【請求項4】
極細導電繊維がカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のインモールド成形用導電性フィルム。
【請求項5】
導電層の550nm波長の光線透過率が50%以上の透明層であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のインモールド成形用導電性フィルム。
【請求項6】
合成樹脂基材の片面に形成された導電層の上に接着剤層が形成されてなる請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のインモールド成形用導電性フィルム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−35772(P2006−35772A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222449(P2004−222449)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【Fターム(参考)】