説明

インラインエンジン

【課題】 インラインエンジンであって自動二輪車に適用したときに好適なハンドリング性能を発揮可能でありつつ、V型エンジンのようにトラクション能力において好適な特性を有するエンジンを提供する。
【解決手段】 収容するピストン21a〜21dの往復動方向が一致するように並設された複数のシリンダ26a〜26dと、ピストン21a〜21dを往復動すべく軸芯A1回りに回転するクランクシャフト25とを備え、該クランクシャフト25は、軸芯A1回りにおける互いの位相差がnπ[rad](nは整数)以外の所定値に設定されてピストン21a〜21dに接続される複数のクランクピン30a〜30dを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収容するピストンの往復動方向が互いに略一致するように並設された複数のシリンダを有するインラインエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車に搭載されるエンジンとしては、例えば同一方向へ伸延する複数のシリンダがクランクシャフトの長手方向に沿って配設されたインラインエンジンや、クランクシャフトの長手方向に沿って見たときに後傾シリンダと前傾シリンダとがV字状に配設されたV型エンジンなどが存在する(特許文献1,2参照)。このうちインラインエンジンの場合、クランクシャフトが左右方向へ向くようにして自動二輪車のフレームに搭載することにより、前輪及び後輪間距離(ホイールベース)の短寸化と車体の低重心化とが可能である。従って、インラインエンジンを搭載した自動二輪車は、一般にハンドリング性能が高いといわれる。
【0003】
一方、V型エンジンの場合、クランクシャフトが左右方向へ向くようにして自動二輪車に搭載すると、ホイールベースが比較的長寸になるため、上記インラインエンジンを搭載した自動二輪車に比べるとハンドリング性能が劣る。しかしながら、一般のV型エンジンは、インラインエンジンに比べてトラクション能力(牽引力)に勝るという利点がある。
【0004】
このトラクション能力について2気筒の4ストロークエンジンを例に説明する。まず、インラインエンジンでは、一方のシリンダでの出力後、他方のシリンダの出力は、クランク角においてπ[rad]や2π[rad]の位相変化を経て出力するため、両シリンダは1サイクル(4π[rad])中にπ[rad]や2π[rad]の間隔を空けて出力することとなる。これに対してV型エンジンでは、一方のシリンダでの出力後、他方のシリンダはπ[rad]未満の小さい位相変化を経て出力することができる。そのため、上記インラインエンジンの場合に比べると、V型エンジンでは両シリンダの出力する間隔がより小さくなるため、両シリンダの出力がより重畳されることになる。その結果、1サイクル(4π[rad])中において、V型エンジンはインラインエンジンの最大出力よりも大きな出力を発生することができ、インラインエンジンに比べて高いトラクション能力を発揮することができる。なお、多気筒の2ストロークエンジンにおいても同様であり、V型エンジンはインラインエンジンに比べて高いトラクション能力を発揮することができる。
【特許文献1】特開2005−076609号公報
【特許文献2】特開2005−090268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、ホイールベースの短寸化及び低重心化に起因するハンドリング性能の点ではインラインエンジンを搭載した自動二輪車が好適である一方、各シリンダの出力タイミングに起因するトラクション能力の点ではV型エンジンを搭載した自動二輪車が好適であるというのが一般的である。そして、両タイプのエンジンが有する好適な特性を合わせ持つエンジンを提供することが好ましい。
【0006】
そこで本発明は、インラインエンジンであって自動二輪車に適用したときに好適なハンドリング性能を発揮可能でありつつ、V型エンジンのようにトラクション能力において好適な特性を有するエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述したような事情に鑑みてなされたものであり、本発明に係るインラインエンジンは、収容するピストンの往復動方向が互いに略一致するように並設された複数のシリンダと、前記ピストンを往復動させるべく軸芯回りに回転するクランクシャフトとを備え、該クランクシャフトは前記ピストンに接続される複数のクランクピンを有し、該クランクピンのうち少なくとも1つのクランクピンは他のクランクピンに対して、前記軸芯回りにおける互いの位相差がnπ[rad](nは整数)以外の所定値に設定されている。
【0008】
このような構成とすることにより、インラインエンジンとして自動二輪車に搭載したときの好適なハンドリング特性を維持しつつ、クランクピンの位相差を上記構成とすることによってV型エンジンが有する好適なトラクション能力をも合わせ持つエンジンを実現することができる。
【0009】
また、前記所定値は、π/3[rad]から2π/3[rad]の範囲内に設定されていてもよい。
【0010】
このような構成とすることにより、実在するV型エンジンと同等のトラクション能力の発揮を期待することができる。
【0011】
また、前記シリンダは順に並べられた第1〜第4シリンダを有し、前記クランクシャフトは前記第1〜第4シリンダに対応する第1〜第4クランクピンを有する、4シリンダエンジンであってもよい。
【0012】
このような構成とすることにより、自動二輪車に搭載される4シリンダのインラインエンジンとして上述した好適な特性を有するものを実現することができる。
【0013】
また、両端部に位置する前記第1,第4クランクピンを同位相とし、これらの間に位置する前記第2,第3クランクピンを同位相とし、且つ、前記第1,第4クランクピンとこれらの間に位置する前記第2,第3クランクピンとの位相差が前記所定値に設定されていてもよい。
【0014】
このような構成とすることにより、トラクション能力の高い4シリンダのインラインエンジンを具体的に実現することができる。
【0015】
また、前記第1,第4シリンダからの排気、及び前記第2,第3シリンダからの排気のうち、少なくとも一方の排気を集合して外部へ導く排気管を更に備えていてもよい。
【0016】
このような構成とすることにより、クランクシャフトが2回転(4π[rad])する間に吸気,圧縮,爆発,排気の全行程を一通り終える4ストロークエンジンであれば、2π[rad]間隔で出力するシリンダ(第1,第4シリンダ、又は第2,第3シリンダ)からの排気を排気管により集合させることとなり、クランクシャフトが1回転(2π[rad])する間に全行程を一通り終える2ストロークエンジンであれば同一タイミングで出力するシリンダからの排気を排気管により集合させることとなる。そのため、4ストロークエンジン及び2ストロークエンジンの何れであっても、該排気管では比較的長い2π[rad]の間隔で排気が行われることとなる。従って、特に高速回転時における高い排気脈動効果を期待することができる。
【0017】
また、前記第1,第3クランクピンを同位相とし、前記第2,第4クランクピンを同位相とし、且つ、前記第1,第3クランクピンと前記第2,第4クランクピンとの位相差が前記所定値に設定されていてもよい。
【0018】
このような構成であっても、トラクション能力の高い4シリンダのインラインエンジンを具体的に実現することができる。
【0019】
また、前記第1,第3シリンダからの排気、及び前記第2,第4シリンダからの排気のうち、少なくとも一方の排気を集合して外部へ導く排気管を更に備えていてもよい。
【0020】
このような構成であっても、4ストロークエンジンでは2π[rad]間隔で出力するシリンダ(第1,第3シリンダ、又は第2,第4シリンダ)からの排気を排気管により集合させることとなり、2ストロークエンジンでは同一タイミングで出力するシリンダからの排気を排気管により集合させることとなるため、4ストロークエンジン及び2ストロークエンジンの何れであっても、該排気管では比較的長い2π[rad]の間隔で排気が行われることとなり、特に高速回転時における高い排気脈動効果を期待することができる。
【0021】
また、前記クランクシャフトに同期回転する等速バランサを更に備え、前記クランクシャフトは、前記軸芯に対して前記クランクピンとは反対側へ偏芯して設けられたカウンターウェイトを有し、前記等速バランサは、前記カウンターウェイトにより前記クランクシャフトの前記軸芯回りに生じる遠心力を相殺するウェイトを有していてもよい。
【0022】
このような構成とすることにより、上述したようなクランクピンの配置に伴うクランクシャフト回りの偏った重量バランスを、等速バランサによって是正し、エンジンに生じる振動を低減することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、インラインエンジンであって自動二輪車に適用したときに好適なハンドリング性能を発揮可能でありつつ、V型エンジンのようにトラクション能力において好適な特性を有するエンジンを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係るインラインエンジンについて、これを搭載する自動二輪車を例にとり、図面を参照して説明する。
【0025】
図1は、本実施の形態に係るインラインエンジン(以下、単に「エンジン」と称する)Eを搭載する自動二輪車1の右側面図である。なお、以下の実施の形態で用いる方向の概念は、自動二輪車1の進行方向を前方としてこれを基準とし、その他の方向については自動二輪車1に搭乗したライダー(図示せず)が上記基準に従って見た方向の概念と一致するものとして説明する。
【0026】
図1に示すように、自動二輪車1は前輪2と後輪3とを備え、前輪2は略上下方向に延びるフロントフォーク5の下部にて回転自在に支持され、該フロントフォーク5は、その上端部に設けられたアッパーブラケット(図示せず)と該アッパーブラケットの下方に設けられたアンダーブラケットとを介してステアリング軸(図示せず)に支持されている。ステアリング軸はヘッドパイプ6によって回転自在に支持されており、アッパーブラケットには左右へ延びるバー型のステアリングハンドル4が取り付けられている。従って、ライダーはステアリングハンドル4を回動操作することにより、ステアリング軸を回転軸として前輪2を所望の方向へ転向させることができる。
【0027】
ヘッドパイプ6からは車体の骨格を構成する左右一対のメインフレーム7が後方へ延設されており、該メインフレーム7の後部からは、ピボットフレーム(スイングアームブラケットとも称する)8が下方へ延設されている。このピボットフレーム8にはピボット9が設けられており、該ピボット9には前後方向へ延びるスイングアーム10の前端部が軸支されている。そして、該スイングアーム10の後端部には後輪3が回転自在に支持されている。
【0028】
メインフレーム7の上方であってステアリングハンドル4の後方には燃料タンク12が設けられ、該燃料タンク12の後方には騎乗用のシート13が設けられている。また、左右のメインフレーム7間の下方には4ストロークのエンジンEが搭載されている。エンジンEの出力は、チェーン(図示せず)を介して後輪3へ伝えられ、該後輪3が回転駆動することによって自動二輪車1に推進力が付与される。また、自動二輪車1の前部、具体的には、ヘッドパイプ6、メインフレーム7の前部、エンジンEの側方部分を覆うようにして、一体的に形成されたカウリング14が設けられている。このような自動二輪車1では、ライダーはシート13に跨って自動二輪車1に搭乗し、ステアリングハンドル4の端部に設けられたグリップ4aを握り、且つエンジンEの後部近傍に設けられたステップ(図示せず)に足を載せて走行することができる。
【0029】
また、図1に示すようにエンジンEは、クランク室20a及びミッション室20b(図2参照)を形成する一体のクランクケース20と、該クランクケース20の上部に設けられたシリンダブロック21と、該シリンダブロック21の上部に設けられたシリンダヘッド22及びシリンダヘッドカバー23とから主に構成されている。そして、クランクケース20のクランク室20a内には、軸芯を左右方向へ向けてクランクシャフト25が収容されている。また、シリンダブロック21には上下方向へ伸びる複数のシリンダ26が形成されている。具体的には、本実施の形態に係るエンジンEは4気筒のインラインエンジンであり、4つのシリンダ26a〜26dが、左右方向(即ち、クランクシャフト25の伸延方向)に沿って配設されるようにして、シリンダブロック21内に形成されている(図2参照)。以下、エンジンEのクランクシャフト25及びその周辺の構成について更に詳細に説明する。
【0030】
図2は、図1に示したエンジンEをII-II線に沿って切断したときの断面図、図3は、図1に示したエンジンEをIII-III線に沿って切断したときの断面図、図4は、クランクシャフト25の斜視図を夫々示している。
【0031】
図2に示すように、クランクケース20は、前側のクランク室20aを形成するクランク室形成部20Aと、後側のミッション室20bを形成するミッション室形成部20Bとを有し、更に図3に示すように、クランク室形成部20Aの上方に位置してバランサ50を収容するバランサ収容部20Cを有している。そして、図2に示すように、クランク室20aはミッション室20bに比べて左右方向の寸法が大きく形成されており、且つクランク室20aとミッション室20bとの間には隔壁27が形成されて該隔壁27により両スペースは区分けされている。
【0032】
前側のクランク室20aには軸芯を左右方向へ一致させてクランクシャフト25が収容され、該クランクシャフト25の左右の端部25aが、クランク室形成部20Aの左右の壁部に形成された軸受部28aによって回転自在に支持されている。また、前述のようにエンジンEは4つのシリンダ26a〜26dを有し、これらは図2の左から順に第1シリンダ26a〜第4シリンダ26dを成している。そして、クランクシャフト25には、これら4つの第1シリンダ26a〜第4シリンダ26dに対応して4つのクランクピン30a〜30d(以下、第1クランクピン30a〜第4クランクピン30dとも称する)が順に設けられ、隣り合うクランクピン30a,30b、クランクピン30b,30c、クランクピン30c,30dの間は、互いに同軸上に設けられたクランクジャーナル31によって夫々連結されている(図4も参照)。
【0033】
そして、図4から分かるように、本実施の形態に係るクランクシャフト25の場合、第1クランクピン30a及び第4クランクピン30dと、第2クランクピン30b及び第3クランクピン30cとは、クランクシャフト25の軸芯(即ち、クランクジャーナル31の軸芯)A1回りにπ/2[rad](=90度)だけ位相差を有するようにして設けられている。
【0034】
また、各クランクピン30a〜30dの両端にはクランクウェブ32が取り付けられており、該クランクウェブ32にはカウンターウェイト33が設けられている(図4参照)。更に、第2クランクピン30bの左側と第4クランクピン30dの左側とに設けられた2つのクランクウェブ32は、外形が円盤状の平歯車33a,33bをも成している。
【0035】
一方、図2及び図3に示すように、クランク室20aには、これを左右方向へ並ぶ4つのスペースに区分けする支持隔壁29a〜29cが立設されている。この支持隔壁29a〜29cはクランクケース20の内壁に対して一体的に形成されており、各支持隔壁29a〜29cには軸受部29dが設けられている。そして、上記クランクシャフト25は、クランクジャーナル31が軸受部29dによって回転自在に支持されている。この結果、クランクシャフト25は、両端部25a及び各クランクジャーナル31の計5箇所で軸受部28a,29dによって支持され、この状態でクランク室20a内にて回転自在になっている。
【0036】
図2に示すように、ミッション室20bにはクランクシャフト25の回転を変速して出力するためのトランスミッション40が収容されている。このトランスミッション40は、クランクシャフト25の軸芯A1に対して平行に配設された前側のメインシャフト41とその後側のカウンターシャフト42とを備え、互いに噛合可能な複数種類のギヤ41a,42aが両シャフト41,42に設けられている。これらのシャフト41,42の夫々の両端部は、ミッション室形成部20Bの側壁部に設けられた軸受部28bによって回転自在に支持されている。
【0037】
また、メインシャフト41の右側部分には比較的径の大きな伝達ギヤ43が設けられ、更に右側にはクラッチ44が設けられている。ライダーの操作によってクラッチ44が接続状態になると、伝達ギヤ43は、クランクシャフト25に設けられた平歯車33bと噛合し、クランクシャフト25の回転がトランスミッション40に伝達されるようになっている。また、トランスミッション40は、両シャフト41,42間で噛合するギヤ41a,42aの組み合わせに応じて、クランクシャフト25からの回転を変速する。そして、変速された回転は、カウンターシャフト42の左側端部に設けられた出力ギヤ45へ出力され、更に、該出力ギヤ45からチェーン等を介して後輪3(図1参照)へと伝達される。
【0038】
図3に示すように、バランサ収容部20C内にはバランサ収容室50aが形成され、ここにバランサ50が収容されている。このバランサ50は、バランサシャフト51とこれに取り付けられた2つのウェイト52とから構成され、バランサシャフト51の軸芯が左右方向に沿うように(即ち、クランクシャフト25の軸芯A1と平行に)して設けられている。また、バランサシャフト51はクランクシャフト25に対し、互いの長手方向の中央部分が左右方向の略同一位置にあるようにして配設されている。
【0039】
ここで、バランサ収容部20Cの左右の側壁部53a,53bは、クランク室20a内に形成された左右の支持壁部29a,29cが上方へ延設して形成されたかのように、これらの直上に形成されている。また、バランサ収容室50a内であって中央の支持壁部29bの直上には別の支持壁部53cが設けられており、該支持壁部53cについてもクランク室20a内の支持壁部29bが上方へ延設して形成されたかのようにして、バランサ収容部20Cの内壁と一体的に形成されている。そして、バランサ収容部20Cの側壁部53a,53bとこの支持壁部53cとには軸受部28cが設けられており、バランサシャフト51は、この軸受部28cによって両端部及び左右方向の中央部分が回転自在に支持されている。
【0040】
一方、バランサ50が有する2つのウェイト52は、バランサシャフト51の左右の部分に設けられており、これらのウェイト52は、何れもバランサシャフト51の軸芯A2に対して同一方向へ偏芯して設けられている。また、バランサシャフト51の左端部には、バランサシャフト51と一体的に回転する従動ギヤ54が設けられている。この従動ギヤ54は、クランクシャフト25に設けられた左側の平歯車33aと同一径を成し、これと噛合している。更に、バランサシャフト51の右端部には、小径の駆動ギヤ55が設けられている。バランサ収容部20Cの右の側壁部53bには発電機56が取り付けられており、該発電機56の入力軸56aに取り付けられた入力ギヤ56bが上記駆動ギヤ55と噛合している。従って、クランクシャフト25が回転すると、平歯車33a及び従動ギヤ54を介してバランサ50(バランサシャフト51及びウェイト52)が等速で回転し、更にその回転は駆動ギヤ55及び入力ギヤ56bを介して発電機56へ入力され、電気を発生させる。
【0041】
次に、クランクシャフト25が有するカウンターウェイト33とバランサ50が有するウェイト52との関係について説明する。図5は、図3に示すクランクシャフト25及びバランサ50をV矢視方向に沿って見たときの側面図である。なお、説明の便宜上、図5ではクランクシャフト25及びバランサ50の一部の構成については図示を省略している。
【0042】
図5に示すように、クランクシャフト25が有する第1クランクピン30aの両端に設けられたクランクウェブ32には、クランクシャフト25の軸芯A1に対して第1クランクピン30aの反対側(即ち、軸芯A1回りの位相差π[rad]の位置)にカウンターウェイト33が設けられている。同様に、第2クランクピン30bの両端に設けられたクランクウェブ32にも、軸芯A1に対して第2クランクピン30bの反対側にカウンターウェイト33が設けられている。なお、第3クランクピン30c及び第4クランクピン30dの両端に設けられたクランクウェブ32にも、同様にしてカウンターウェイト33が設けられている。
【0043】
一方、バランサ50が有する2つのウェイト52は、既に説明したように、バランサシャフト51の軸芯A2に対して重心位置が同一方向に偏芯して設けられており、その偏芯方向は、上記カウンターウェイト33に対応するようにして設けられている。
【0044】
より詳しく説明すると、第1クランクピン30a及び第4クランクピン30dに対応して設けられたカウンターウェイト33は、クランクシャフト25が回転すると、軸芯A1に対して図5中に矢印で示す遠心力F1を作用させ、第2クランクピン30b及び第3クランクピン30cに対応して設けられたカウンターウェイト33は、遠心力F1に対して軸芯A1回りにπ/2[rad]の位相差を有する向きの遠心力F2を作用させる。従って、結果的にクランクシャフト25の軸芯A1に対しては、F1及びF2の合力F3が遠心力として作用することとなる。この遠心力F3は、ピストン21a〜21dの往復動がクランクシャフト25に作用する力、換言すれば、エンジンEに生じる1次振動を低減するものであるが、カウンターウェイト33によっては1次振動の一部が残存してしまう。
【0045】
そこで、バランサ50が有するウェイト52によって、エンジンEに生じる1次振動の残存分をほぼ完全に消滅させている。即ち、軸芯A1,A2を通る線分L1に直交し、且つ該線分L1の中央位置を通る直線L2(即ち、線分L1の垂直二等分線L2)を設定した場合、ウェイト52がバランサシャフト51の軸芯A2に作用する遠心力F4は、直線L2に対して上記遠心力F3の線対称となるようになっている。既に説明したように、バランサ50は、等速バランサであってクランクシャフト25と同一周期で回転するため、上記のようにバランサ52を設けることにより、エンジンEに生じる1次振動をほぼ完全に消滅させることができ、クランクシャフト25の回転を円滑にすることができる。
【0046】
ここで、上記説明ではバランサ50としてバランサシャフト51の左右部分の夫々にウェイト52が設けられたものを示しているが、これに代えてバランサシャフト51の中央部分に1つのウェイトを設けるようにしてもよい。なお、左右部分に2つのウェイト52を設けた上記バランサ50の場合、各ウェイト52を小寸法化することができるため、エンジンEの外形寸法の小型化が可能となっている。
【0047】
上述したようなインラインタイプのエンジンEによれば、第1シリンダ26aと第4シリンダ26dとは互いに2π[rad]の間隔を空けて出力する。そして、第1シリンダ26aにて出力した後、π/2[rad]の位相変化を経て第2シリンダ26b及び第3シリンダ26cのうち一方が出力し、第4シリンダ26dにて出力した後、π/2[rad]の位相変化を経て他方が出力する。このように、π[rad]以下の小さい位相変化分だけを空けて第1シリンダ26a〜第4シリンダ26dから連続的に出力するため、エンジンEの1サイクル中に発生するトラクション能力が向上している。また、第1シリンダ26a及び第4シリンダ26dの出力タイミング(即ち、燃焼行程のタイミング)を一致させ、第2シリンダ26b及び第3シリンダ26cの出力タイミングも一致させることにより、エンジンEの1サイクル中に発生するトラクション能力の更なる向上も期待できる。しかも、エンジンEはインラインタイプでもあるため、これを搭載した自動二輪車1は、ホイールベースの短寸化及び低重心化が可能であってハンドリング性能の向上も図ることができる。即ち、本実施の形態に係るエンジンEは、ホイールベースの短寸化及び低重心化に起因するハンドリング性能の優位性というインラインエンジンの特性と、トラクション能力の優位性というV型エンジンの特性とを合わせ持ったものとなっている。
【0048】
なお、上記説明では第1シリンダ26a及び第4シリンダ26dと、第2シリンダ26b及び第3シリンダ26cとの出力タイミングの位相差をπ/2[rad]としたが、これに限られない。例えば、この位相差がnπ[rad](nは整数)以外の所定値に設定されていれば、上述したような作用効果を期待することができる。更に、一般的なV型エンジンにおける前傾シリンダと後傾シリンダとの出力位相差に相当するπ/3[rad]から2π/3[rad]の範囲内に設定すれば、よりV型エンジンに近いトラクション能力を発揮することができる。このように出力位相差を設定するに際しては、各シリンダ26a〜26dに対応するクランクピン30a〜30dが、クランクシャフト25の軸芯A1回りにおいて上記位相差を有して位置するように構成すればよい。
【0049】
また、出力タイミングが異なるシリンダの組み合わせについても、上述したものに限られない。図6は、出力タイミングが異なるシリンダの他の組み合わせを説明するためのクランクシャフトの構成を示す模式図であり、(a)は上述した図4に示すクランクシャフト25の模式図、(b)は他のクランクシャフトの構成を示す模式図、(c)は3シリンダのエンジンに適用可能なクランクシャフトの構成を示す模式図である。
【0050】
図6(a)に示すように、既に説明したクランクシャフト25は、ピストン21a,21dに接続される第1クランクピン30a及び第4クランクピン30dが、ピストン21b,21cに接続される第2クランクピン30b及び第3クランクピン30cに対してπ/2[rad]の位相差を有している。そしてこれにより、第1シリンダ26a及び第4シリンダ26dでの出力が、第2シリンダ26b及び第3シリンダ26cでの出力に対してπ/2[rad]の位相差を有する構成となっている。
【0051】
一方、図6(b)に示すクランクシャフト60の場合、第1クランクピン30a及び第3クランクピン30cが、第2クランクピン30b及び第4クランクピン30cに対してπ/2[rad]の位相差を有している。従って、このようなクランクシャフト60をエンジンEに採用することにより、第1シリンダ26a及び第3シリンダ26cでの出力が、第2シリンダ26b及び第4シリンダ26dでの出力に対してπ/2[rad]の位相差を有することとなる。そして、このような構成のエンジンEであっても、ホイールベースの短寸化及び低重心化に起因するハンドリング性能の優位性というインラインエンジンの特性と、トラクション能力の優位性というV型エンジンの特性とを合わせ持ったものとなる。また、ここでも、第1シリンダ26a及び第3シリンダ26cの出力タイミングを一致させ、第2シリンダ26b及び第4シリンダ26dの出力タイミングを一致させることにより、トラクション能力の更なる向上を期待することができる。
【0052】
また、以上では4シリンダのエンジンEについて説明したが、3シリンダのインラインエンジンについても上述した作用効果を奏することができる。この場合の3シリンダエンジンでは、図6(c)に示すように、クランクシャフト61が有する第1クランクピン61a及び第3クランクピン61cが、第2クランクピン61bに対してnπ[rad]以外の所定の位相差を有するように設定すればよい。なお、図6(c)に示すクランクシャフト61では、この位相差としてπ/2[rad]のものを図示している。
【0053】
ところで、エンジンEのシリンダヘッド22には、各シリンダ26a〜26dに対応して排気ポート22a〜22dが形成されており、該排気ポート22a〜22dには、各シリンダ26a〜26dからの排気を適宜集合させて外部へ排出する排気管70が接続されている。
【0054】
図7は、排気管70の構成を示す斜視図であり、エンジン本体(クランクケース20,シリンダブロック21,シリンダヘッド22,シリンダヘッドカバー23等から成る)EBは二点鎖線で示している。図7に示すように、排気管70は、第1シリンダ26a及び第4シリンダ26d(図2参照)からの排気を集合して外部へ導く管路71と、第2シリンダ26b及び第3シリンダ26c(図2参照)からの排気を集合して外部へ導く管路72とを備えている。
【0055】
このうち管路71は、第1シリンダ26aに対応する排気ポート22aに上流端が接続される枝管路71aと、第4シリンダ26dに対応する排気ポート22dに上流端が接続される枝管路71bとを有している。これら枝管路71a,71bは、排気ポート22a,22dから前方斜め下方へ向かった後、エンジン本体EBの前方を下方へ向かって延設され、エンジン本体EBの前側下方位置にて後方へ向かうように湾曲している。そして、枝管路71a,71bの下流端には、両枝管路71a,71bからの排気を1つに集合する集合管路71cが接続されている。この集合管路71cは、エンジン本体EBの下方を通って後方へ延設されている。
【0056】
同様に、管路72は、第2シリンダ26bに対応する排気ポート22bに上流端が接続される枝管路72aと、第3シリンダ26cに対応する排気ポート22cに上流端が接続される枝管路72bとを有している。これら枝管路72a,72bは、排気ポート22b,22cから前方斜め下方へ向かった後、エンジン本体EBの前方を下方へ向かって延設され、エンジン本体EBの前側下方位置にて後方へ向かうように湾曲している。そして、枝管路72a,72bの下流端には、両枝管路72a,72bからの排気を1つに集合する集合管路72cが接続されている。この集合管路72cは、エンジン本体EBの下方を通って後方へ延設されている。
【0057】
このように排気管70は、第1シリンダ26a及び第4シリンダ26dからの排気を管路71によって集合して排出し、第2シリンダ26b及び第3シリンダ26cからの排気を管路72によって集合して排出する。従って、第1シリンダ26a及び第4シリンダ26dは互いに2π[rad]の位相差を空けて出力するため、管路71には比較的長い2π[rad]という間隔で排気が行われ、同様に第2シリンダ26b及び第3シリンダ26cも互いに2π[rad]の位相差を空けて出力するため、管路72にも比較的長い2π[rad]という間隔で排気が行われることとなり、特にエンジンEの高速回転時における高い排気脈動効果を期待することができる。
【0058】
なお、図6(b)に示すクランクシャフト60を備える場合には、第1シリンダ26a及び第3シリンダ26cの出力タイミングが互いに2π[rad]の位相差を有しており、これらのシリンダ26a,26cからの排気を集合させ、第2シリンダ26b及び第4シリンダ26dの出力タイミングも互いに2π[rad]の位相差を有しており、これらのシリンダ26b,26dからの排気を集合させるような排気管を備えればよい。また、図6(c)に示すクランクシャフト61を備える3シリンダのエンジンの場合には、第1クランクピン61a及び第3クランクピン61cに対応する第1,第3シリンダの出力タイミングが互いに2π[rad]の位相差を有しており、これらのシリンダからの排気のみを集合させる排気管を備えればよい。これにより、図6(b),図6(c)の何れの場合も、2つのシリンダからの排気を集合させた排気管では、比較的長い2π[rad]という間隔で排気されることとなり、高い排気脈動効果を期待することができる。
【0059】
上述した実施の形態では自動二輪車1を例に説明したが、他の乗り物に搭載するインラインエンジンに適用してもよい。また、本発明に係るインラインエンジンの構成は、上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でその構成を変更、追加、又は削除することができる。
【0060】
また、上記実施の形態ではエンジンEとして4ストロークエンジンを例に説明しているが、本発明は2ストロークエンジンに対しても適用可能である。そして、2ストロークエンジンに適用した場合であっても、上記実施の形態に係る4ストロークエンジンEと同様の作用効果を奏することは言うまでもない。
【0061】
例えば、図6(a)の構成を有する2ストロークエンジンであれば、第1シリンダ26a及び第4シリンダ26dが互いに同一タイミングで出力し、第2シリンダ26b及び第3シリンダ26cが互いに同一タイミングで出力する。そして、第1シリンダ26a及び第4シリンダ26dと、第2シリンダ26b及び第3シリンダ26cとは、互いにπ/2[rad]の位相差を有している。従って、上記4ストロークエンジンでの場合と同様に、高いトラクション能力と排気脈動効果とを実現することができる。更に、上述した説明から、図6(b)及び図6(c)の構成を適用した2ストロークエンジンにあっても、同様の作用効果が期待できることは容易に理解される。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、インラインエンジンであって自動二輪車に適用したときに好適なハンドリング性能を発揮可能でありつつ、V型エンジンのようにトラクション能力において好適な特性を有するエンジンに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本実施の形態に係るインラインエンジンを搭載する自動二輪車の右側面図である。
【図2】図1に示したエンジンをII-II線に沿って切断したときの断面図である。
【図3】図1に示したエンジンをIII-III線に沿って切断したときの断面図である。
【図4】クランクシャフトの斜視図である。
【図5】図3に示すクランクシャフト及びバランサをV矢視方向に沿って見たときの側面図である。
【図6】出力タイミングが異なるシリンダの他の組み合わせを説明するためのクランクシャフトの構成を示す模式図であり、(a)は上述した図4に示すクランクシャフトの模式図、(b)は他のクランクシャフトの構成を示す模式図、(c)は3シリンダのエンジンに適用可能なクランクシャフトの構成を示す模式図である。
【図7】排気管の構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0064】
1 自動二輪車
20 クランクケース
20a クランク室
20b ミッション室
21 シリンダブロック
25 クランクシャフト
26,26a,26b,26c,26d シリンダ
30a,30b,30c,30d クランクピン
32 クランクウェブ
33 カウンターウェイト
50 バランサ
51 バランサシャフト
52 ウェイト
70 排気管
E インラインエンジン
B エンジン本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容するピストンの往復動方向が互いに略一致するように並設された複数のシリンダと、前記ピストンを往復動させるべく軸芯回りに回転するクランクシャフトとを備え、該クランクシャフトは前記ピストンに接続される複数のクランクピンを有し、該クランクピンのうち少なくとも1つのクランクピンは他のクランクピンに対して、前記軸芯回りにおける互いの位相差がnπ[rad](nは整数)以外の所定値に設定されていることを特徴とするインラインエンジン。
【請求項2】
前記所定値は、π/3[rad]から2π/3[rad]の範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のインラインエンジン。
【請求項3】
前記シリンダは順に並べられた第1〜第4シリンダを有し、前記クランクシャフトは前記第1〜第4シリンダに対応する第1〜第4クランクピンを有する、4シリンダエンジンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のインラインエンジン。
【請求項4】
両端部に位置する前記第1,第4クランクピンを同位相とし、これらの間に位置する前記第2,第3クランクピンを同位相とし、且つ、前記第1,第4クランクピンとこれらの間に位置する前記第2,第3クランクピンとの位相差が前記所定値に設定されていることを特徴とする請求項3に記載のインラインエンジン。
【請求項5】
前記第1,第4シリンダからの排気、及び前記第2,第3シリンダからの排気のうち、少なくとも一方の排気を集合して外部へ導く排気管を更に備えることを特徴とする請求項4に記載のインラインエンジン。
【請求項6】
前記第1,第3クランクピンを同位相とし、前記第2,第4クランクピンを同位相とし、且つ、前記第1,第3クランクピンと前記第2,第4クランクピンとの位相差が前記所定値に設定されていることを特徴とする請求項3に記載のインラインエンジン。
【請求項7】
前記第1,第3シリンダからの排気、及び前記第2,第4シリンダからの排気のうち、少なくとも一方の排気を集合して外部へ導く排気管を更に備えることを特徴とする請求項6に記載のインラインエンジン。
【請求項8】
前記クランクシャフトに同期回転する等速バランサを更に備え、前記クランクシャフトは、前記軸芯に対して前記クランクピンとは反対側へ偏芯して設けられたカウンターウェイトを有し、前記等速バランサは、前記カウンターウェイトにより前記クランクシャフトの前記軸芯回りに生じる遠心力を相殺するウェイトを有することを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載のインラインエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−150948(P2010−150948A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327637(P2008−327637)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】