説明

インライン式成膜装置及び磁気記録媒体の製造方法

【課題】キャリアを高速で搬送することができ、なお且つ成膜室内の排気能力が高く、高真空度を短時間で容易に実現できるインライン式成膜装置を提供する。
【解決手段】キャリア25に接触可能に設けられて、駆動機構により駆動されるキャリア25を水平方向にガイドする水平ガイド機構と、キャリア25に接触可能に設けられて、駆動機構により駆動されるキャリア25を鉛直方向にガイドする鉛直ガイド機構とを備え、水平又は鉛直ガイド機構は、キャリア25の搬送方向に並ぶ複数の支軸209に制振部材を介して回転自在に取り付けられた複数のベアリング210を有し、且つ、これら複数のベアリング210の外周部には、キャリア25と接触可能な当接部材213が制振部材214を介して取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の成膜室の間で成膜対象となる基板を順次搬送させながら成膜処理を行うインライン式成膜装置及びこのインライン式成膜装置を用いた磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスク装置等に用いられる磁気記録媒体の分野においては記録密度の向上が著しく、特に最近では、記録密度が10年間で100倍程度と、驚異的な速度で伸び続けている。
【0003】
このような磁気記録媒体は、例えば非磁性基板の両面又は片面に、シード膜、下地膜、磁気記録膜、保護膜及び潤滑剤膜が順次積層された構造を有しており、一般的には、複数の成膜室の間で成膜対象となる基板を順次搬送させながら成膜処理を行うインライン式成膜装置を用いて製造される。
【0004】
ところで、インライン式成膜装置では、基板を保持するキャリアを搬送する方法として、例えば、キャリア側に設けた磁石と、成膜室側に設けた磁石との磁気的な吸引作用を用いてキャリアを搬送させる搬送機構が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0005】
具体的に、この特許文献1には、キャリアの下部に複数の磁石をN極とS極とが交互に並ぶように配置し、その下方にN極とS極とが螺旋状に交互に並ぶ回転磁石を搬送路に沿って配置して、キャリア側の磁石と回転磁石とを非接触で磁気的に結合させながら、回転磁石を軸回りに回転させることにより、キャリアを搬送する搬送機構が記載されている。
【0006】
しかしながら、この特許文献1に記載される搬送機構では、回転磁石をキャリアの下面に対して上方向に回転させた場合に、キャリアが両磁石間の吸引力により上方向に持ち上げられてキャリアが大きく振動することがある。一方、回転磁石をキャリアの下面に対して下方向に回転させた場合には、キャリアを保持するベアリングにキャリアが押しつけられて、キャリアの動きが悪くなることがある。
【0007】
このような問題を解消するために、キャリアが上方向に動かないようにベアリング等でキャリアをガイドしたり、下方向のベアリングを増やしたりする方法が考えられる。しかしながら、キャリアを保持するベアリングの数が増えると、キャリアの動きが悪くなったり、ベアリングからの脱ガスにより成膜室の真空度が悪化したりするおそれがある。
【0008】
また、成膜室の下部には重量物である真空ポンプを配置することが望ましいものの、成膜室の下部に回転磁石やそれを回転させる駆動機構等を設けた場合、それらが真空ポンプに接続される排気管を覆ってしまい、真空ポンプによる成膜室内の排気が阻害されるおそれもある。
【0009】
さらに、インライン式成膜装置を用いた磁気記録媒体の製造では、生産能力を高めるために、キャリアの搬送速度を高めることが求められる。しかしながら、上記特許文献1に記載の搬送機構では、回転磁石の回転速度を上げるのに限界があるため、キャリアの搬送速度を高めることは困難である。
【0010】
また、上記特許文献1に記載の搬送機構では、キャリアの自重による落下をベアリングによって支える必要があるものの、真空中で使用されるベアリングには液体潤滑剤を使用することが難しいため、ベアリングに大きな加重が加わった場合にベアリングの回転特性が悪くなる。したがって、この場合もキャリアを高速で移動させることは困難である。
【0011】
さらに、成膜室内の真空度を高めるためには、回転磁石やその駆動機構を成膜室の外側に配置することが望ましいが、成膜装置内の構造が複雑となり、これらの機構やそのシール部分からのリークにより成膜室の高真空度を確保することが困難となる。
【0012】
なお、キャリアを搬送する方法としては、ディスク基板の搬送系の能力を向上させるため、リニアモータを用いることも提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−288888号公報
【特許文献2】特開平8−335620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、キャリアを高速で搬送することができ、なお且つ成膜室内の排気能力が高く、高真空度を短時間で容易に実現できるインライン式成膜装置、並びにそのようなインライン式成膜装置を用いた磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、以下の手段を提供する。
(1) 成膜処理を行う複数の成膜室と、
前記複数の成膜室内で成膜対象となる基板を縦置きで保持するキャリアと、
前記キャリアを前記複数の成膜室の間で順次搬送させる搬送機構とを備え、
前記搬送機構は、前記キャリアを非接触状態で駆動する駆動機構と、前記キャリアに接触可能に設けられて、前記駆動機構により駆動されるキャリアを水平方向にガイドする水平ガイド機構と、前記キャリアに接触可能に設けられて、前記駆動機構により駆動されるキャリアを鉛直方向にガイドする鉛直ガイド機構とを有し、
前記水平ガイド機構又は前記鉛直ガイド機構は、前記キャリアの搬送方向に並ぶ複数の支軸に回転自在に取り付けられた複数のベアリングを有し、且つ、これら複数のベアリングの外周部には、前記キャリアと接触可能な当接部材が制振部材を介して取り付けられていることを特徴とするインライン式成膜装置。
(2) 前記制振部材がOリングであることを特徴とする前項(1)に記載のインライン式成膜装置。
(3) 前記駆動機構がリニアモータであることを特徴とする前項(1)又は(2)に記載のインライン式成膜装置。
(4) 前記リニアモータは、前記キャリアの側面部に設けられた磁性体と、前記磁性体と対向する位置において前記キャリアの搬送方向に並ぶ複数の電磁石とを有して構成されていることを特徴とする前項(3)に記載のインライン式成膜装置。
(5) 前記磁性体が永久磁石であることを特徴とする前項(4)に記載のインライン式成膜装置。
(6) 前記電磁石が前記成膜室の大気側に臨んで設けられていることを特徴とする前項(4)又は(5)に記載のインライン式成膜装置。
(7) 前記鉛直ガイド機構を構成する複数のベアリングの1個当たりに加わる荷重が0N、又は前記キャリアが接触したベアリングの1個当たりに加わる荷重が9.8N以下であることを特徴とする前項(3)〜(6)の何れか一項に記載のインライン式成膜装置。
(8) 前記水平ガイド機構を構成する複数のベアリングのうち、前記キャリアが接触したベアリングの1個当たりに加わる荷重が98N以下であることを特徴とする前項(3)〜(7)の何れか一項に記載のインライン式成膜装置。
(9) 前項(1)〜(8)の何れか一項に記載のインライン式成膜装置を用いて、前記基板の表面に少なくとも磁性層を形成する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、キャリアを高速で搬送することができ、成膜室内の排気能力を高めて、高真空度を短時間で容易に実現できることから、磁気記録媒体の製造能力を高めると共に、高品質の磁気記録媒体を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を適用して製造される磁気記録媒体の一例を示す断面図である。
【図2】本発明を適用して製造される磁気記録媒体の他例を示す断面図である。
【図3】磁気記録再生装置の一例を示す断面図である。
【図4】本発明を適用したインライン式成膜装置の構成を示す平面図である。
【図5】本発明を適用したインライン式成膜装置のキャリアを示す側面図である。
【図6】図5に示すキャリアを拡大して示す側面図である。
【図7】本願発明をインライン式成膜装置の搬送機構を示す斜視図である。
【図8】図7に示す搬送機構のキャリアを除いた状態を示す斜視図である。
【図9】図8に示す搬送機構の電磁石カバーを取り外した状態を示す斜視図である。
【図10】(a)は搬送機構の正面図、(b)はそのA−A断面図である。
【図11】水平ガイド機構を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態では、複数の成膜室の間で成膜対象となる基板を順次搬送させながら成膜処理を行うインライン式成膜装置を用いて、ハードディスク装置に搭載される磁気記録媒体を製造する場合を例に挙げて説明する。
【0019】
本発明を適用して製造される磁気記録媒体は、例えば図1に示すように、非磁性基板80の両面に、軟磁性層81、中間層82、記録磁性層83及び保護層84が順次積層された構造を有し、更に最表面に潤滑膜85が形成されてなる。また、軟磁性層81、中間層82及び記録磁性層83によって磁性層810が構成されている。
【0020】
非磁性基板80としては、Alを主成分とした例えばAl−Mg合金等のAl合金基板や、通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、各種樹脂からなる基板など、非磁性基板であれば任意のものを用いることができる。
【0021】
その中でも、Al合金基板や、結晶化ガラス等のガラス製基板、シリコン基板を用いることが好ましく、また、これら基板の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5nm以下であり、その中でも特に0.1nm以下であることが好ましい。
【0022】
磁性層810は、面内磁気記録媒体用の面内磁性層でも、垂直磁気記録媒体用の垂直磁性層でもかまわないが、より高い記録密度を実現するためには垂直磁性層が好ましい。また、磁性層810は、主としてCoを主成分とする合金から形成するのが好ましい。例えば、垂直磁気記録媒体用の磁性層810としては、例えば軟磁性のFeCo合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCuなど)、FeTa合金(FeTaN、FeTaCなど)、Co合金(CoTaZr、CoZrNB、CoBなど)等からなる軟磁性層81と、Ru等からなる中間層82と、60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金からなる記録磁性層83とを積層したものを利用できる。また、軟磁性層81と中間層82との間にPt、Pd、NiCr、NiFeCrなどからなる配向制御膜を積層してもよい。一方、面内磁気記録媒体用の磁性層810としては、非磁性のCrMo下地層と強磁性のCoCrPtTa磁性層とを積層したものを利用できる。
【0023】
磁性層810の全体の厚さは、3nm以上20nm以下、好ましくは5nm以上15nm以下とし、磁性層810は使用する磁性合金の種類と積層構造に合わせて、十分なヘッド出入力が得られるように形成すればよい。磁性層810の膜厚は、再生の際に一定以上の出力を得るにはある程度以上の磁性層の膜厚が必要であり、一方で記録再生特性を表す諸パラメーターは出力の上昇とともに劣化するのが通例であるため、最適な膜厚に設定する必要がある。
【0024】
保護層84としては、炭素(C)、水素化炭素(HC)、窒素化炭素(CN)、アルモファスカーボン、炭化珪素(SiC)等の炭素質層やSiO、Zr、TiNなど、通常用いられる保護膜材料を用いることができる。また、保護層84は、2層以上の層から構成されていてもよい。保護層84の膜厚は、10nm未満とする必要がある。保護層84の膜厚が10nmを越えるとヘッドと記録磁性層83との距離が大きくなり、十分な出入力信号の強さが得られなくなるからである。
【0025】
潤滑膜85に用いる潤滑剤としては、フッ素系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤及びこれらの混合物等を挙げることができ、通常は1〜4nmの厚さで潤滑膜85を形成する。
【0026】
また、本発明を適用して製造される磁気記録媒体は、例えば図2に示すように、上記記録磁性層83に形成された磁気記録パターン83aが非磁性領域83bによって分離されてなる、いわゆるディスクリート型の磁気記録媒体であってもよい。
【0027】
また、ディスクリート型の磁気記録媒体については、磁気記録パターン83aが1ビットごとに一定の規則性をもって配置された、いわゆるパターンドメディアや、磁気記録パターン83aがトラック状に配置されたメディア、その他、磁気記録パターン83aがサーボ信号パターン等を含んでいてもよい。
【0028】
このようなディスクリート型の磁気記録媒体は、記録磁性層83の表面にマスク層を設け、このマスク層に覆われていない箇所を反応性プラズマ処理やイオン照射処理等に曝すことによって記録磁性層83の一部を磁性体から非磁性体に改質し、非磁性領域83bを形成することにより得られる。
【0029】
また、上記磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置としては、例えば図3に示すようなハードディスク装置を挙げることができる。このハードディスク装置は、上記磁気記録媒体である磁気ディスク96と、磁気ディスク96を回転駆動させる媒体駆動部97と、磁気ディスク96に情報を記録再生する磁気ヘッド98と、ヘッド駆動部99と、記録再生信号処理系100とを備えている。そして、磁気再生信号処理系100は、入力されたデータを処理して記録信号を磁気ヘッド98に送り、磁気ヘッド98からの再生信号を処理してデータを出力する。
【0030】
上記磁気記録媒体を製造する際は、例えば図4に示すような本発明を適用したインライン式成膜装置(磁気記録媒体の製造装置)を用いて、成膜対象となる非磁性基板80の両面に、少なくとも軟磁性層81、中間層82及び記録磁性層83を順次積層し、磁性層810を形成する工程を経ることによって、品質の高い磁気記録媒体を安定して得ることができる。
【0031】
具体的に、本発明を適用したインライン式成膜装置は、ロボット台1と、ロボット台1上に截置された基板カセット移載ロボット3と、ロボット台1に隣接する基板取付けロボット室2と、基板取付けロボット室2内に配置された基板取付けロボット34と、基板取付けロボット室2に隣接する基板取付け取外し室3Aと、キャリア25を回転させるコーナー室4、7、14、17と、各コーナー室4、7、14、17の間に配置された複数のチャンバ5、6、8〜13、15、16、18〜20と、基板取付け取外し室3Aに隣接して配置された基板取外しロボット室22と、基板取外しロボット室22内に設置された基板取外しロボット49と、これら各室の間で搬送される複数のキャリア25とを有して概略構成されている。
【0032】
また、各室は、隣接する2つの壁部にそれぞれ接続されており、これら各室の接続部には、ゲートバルブ55〜72が設けられ、これらゲートバルブ55〜72が閉状態のとき、各チャンバ内は、それぞれ独立の密閉空間となる。
【0033】
また、各室には、それぞれ真空ポンプ(図示せず。)が接続されており、これらの真空ポンプの動作によって減圧状態となされた各室内に、後述する搬送機構によりキャリア25を順次搬送させながら、各室内において、キャリア25に保持された非磁性基板80の両面に、上述した軟磁性層81、中間層82及び記録磁性層83、及び保護層84を順次成膜することによって、最終的に上記図1に示す磁気記録媒体が得られるように構成されている。また、各コーナー室4、7、14、17は、キャリア25の移動方向を変更する室であり、その内部にキャリア25を回転させて次のチャンバに移動させる機構が設けられている。
【0034】
基板カセット移載ロボット3は、成膜前の非磁性基板80が収納されたカセットから、基板取り付け室2に非磁性基板80を供給するとともに、基板取付取外室3Aで取り外された成膜後の非磁性基板80(磁気記録媒体)を取り出す。この基板取付取外室3Aの一側壁には、外部に開放された開口と、この開口を開閉する51、54が設けられている。
【0035】
基板取付けロボット室2の内部では、基板取付けロボット34を用いて成膜前の非磁性基板80がキャリア25に保持される。一方、基板取外しロボット室22の内部では、基板取り外しロボット49を用いて、キャリア25に保持された成膜後の非磁性基板80(磁気記録媒体)が取り外される。
【0036】
ここで、上記図2に示すディスクリート型の磁気記録媒体を上記インライン式成膜装置を用いて製造する場合は、例えば、複数のチャンバ5、6、8〜13、15、16、18〜20のうち、チャンバ6、8によってパターニングチャンバが構成されている。パターニングチャンバには、マスク層をパターニングする機構が備えられている。一方、チャンバ10、11、12によって改質チャンバが構成されている。改質チャンバには、記録磁性層83のうち、パターンニング後のマスク層によって覆われていない箇所に対し、反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行って非磁性体に改質させ、残存した磁性体からなる磁気記録パターン83aを形成する機構が備えられている。一方、チャンバ16、18によって除去チャンバが構成されている。除去チャンバには、マスク層を除去する機構が備えられている。一方、チャンバ19、20によって保護層形成チャンバが構成されている。保護層形成チャンバには、記録磁性層83上に保護層84を形成する機構が備えられている。
【0037】
また、各チャンバ5、6、8〜13、15、16、18〜20には、処理用ガス供給管が設けられ、供給管には、図示しない制御機構によって開閉が制御されるバルブが設けられ、これらバルブ及びポンプ用ゲートバルブを開閉操作することにより、処理用ガス供給管からのガスの供給、チャンバ内の圧力及びガスの排出が制御される。
【0038】
キャリア25は、図5及び図6に示すように、支持台26と、支持台26の上面に設けられた複数の基板装着部27とを有している。なお、本実施形態では、基板装着部27を2基搭載した構成のため、これら基板装着部27に装着される2枚の非磁性基板80を、それぞれ第1成膜用基板23及び第2成膜用基板24として扱うものとする。
【0039】
基板装着部27は、第1及び第2成膜用基板23,24の厚さの1〜数倍程度の厚さを有する板体28に、これら成膜用基板23、24の外周より若干大径となされた円形状の貫通穴29が形成されて構成され、貫通穴29の周囲には、該貫通穴29の内側に向かって突出する複数の支持部材30が設けられている。この基板装着部27には、貫通穴29の内部に第1及び第2成膜用基板23、24が嵌め込まれ、その縁部に支持部材30が係合することによって、これら成膜用基板23、24が縦置き(基板23,24の主面が重力方向と平行となる状態)に保持される。すなわち、この基板装着部27は、キャリア25に装着された第1及び第2成膜用基板23、24の主面が支持台26の上面に対して略直交し、且つ、略同一面上となるように、支持台26の上面に並列して設けられている。
【0040】
また、上述したチャンバ5、6、8〜13、15、16、18〜20には、キャリア25を挟んだ両側に2つの処理装置がある。この場合、例えば、図5中の実線で示す第1処理位置にキャリア25が停止した状態において、このキャリア25の左側の第1成膜用基板23に対して成膜処理等を行い、その後、キャリア25が図5中の破線で示す第2処理位置に移動し、この第2処理位置にキャリア25が停止した状態において、キャリア25の右側の第2成膜用基板24に対して成膜処理等を行うことができる。
【0041】
なお、キャリア25を挟んだ両側に、それぞれ第1及び第2成膜用基板23、24に対向した4つの処理装置がある場合は、キャリア25の移動は不要となり、キャリア25に保持された第1及び第2成膜用基板23、24に対して同時に成膜処理等を行うことができる。
【0042】
本発明を適用したインライン式成膜装置は、このようなキャリア25を搬送させる搬送機構200を備えている。この搬送機構200は、例えば図6、図7及び図8に示すようなキャリア25を非接触状態で駆動するリニアモータ駆動機構201である。
【0043】
具体的に、このリニアモータ駆動機構201は、キャリア25の側面部に設けられた磁性体202と、磁性体202と対向する位置においてキャリア25の搬送方向に並ぶ複数の電磁石203とを有して構成されている。
【0044】
磁性体202には、電磁石203に吸引する鉄、コバルト等の磁性材料を用いることができるが、電磁石203による高速な呼応を確保するためには、電磁石203に対して吸引、反発力を有する永久磁石を用いるのが好ましい。また、永久磁石としては、フェライト磁石、希土類磁石等を用いるのが好ましい。この中でもフェライト磁石は、加工が容易であり、また靱性が高いため、キャリア25の部分にネジ等で保持するのが容易であるとの利点がある。また、希土類磁石は、加工が難しく脆いものの、電磁石203に対する吸引力、反発力が強力であるため、リニアモータ駆動機構201に用いた場合に、キャリア25をより高速で移動させることが可能である。なお、希土類磁石は、キャリア25の箇所にネジ止め等で保持することが難しいため、その表面をステンレス板等の非磁性材料で覆い、磁性体202をキャリア25の内部に埋め込む構造とすることが好ましい。また、永久磁石としては、SmCo系、NdFeB系の焼結磁石を用いるのが、その吸引力、反発力の強さから好ましい。
【0045】
一方、キャリア25には、アルミニウム合金を用いることが好ましい。アルミニウム合金は、軽いためリニアモータ駆動機構201による制動が容易であり、また非磁性材料であるため、これに磁性体202を取り付けて制動するのに好都合である。加えて、真空中での脱ガスが少なく各室2、52、4〜20、54、3A内の高真空を維持するのに好都合である。但し、アルミニウム合金は、耐摩耗性が低いため、キャリア25の後述するベアリングと接触する部分には、高剛性で表面が平滑なステンレス等を用いることが好ましい。
【0046】
電磁石203は、磁心に電線をコイル状に巻いたものであるが、磁心や電線は真空中で用いられる部材ではない場合が多く、また電線の絶縁被覆も樹脂等が用いられ真空中で用いることが好ましくない場合が多い。そこで、本発明では、各室2、52、4〜20、54、3Aの側壁部に設けられたフレーム204に複数の電磁石203をキャリア25の搬送方向に並べて配置し、これを電磁石カバー205で覆う構造とした。これにより、電磁石203を各室2、52、4〜20、54、3Aの外部(大気側)に臨んで配置することが可能となり、各室内の高真空度を容易に達成することが可能となっている。なお、電磁石カバー205は、電磁石203と磁性体202との距離をなるべく近づけるため、薄くするのが好ましく、また、電磁石カバー205の材質としては、非磁性で磁界の通りやすい材料を用いることが好ましい。
【0047】
このようなリニアモータ駆動機構201では、磁性体202と電磁石203との磁気的な吸引又は反発作用を用いて、キャリア25を非接触状態で駆動又は停止(保持)することができる。また、このリニアモータ駆動機構201では、キャリア25が自重により落下しないように、キャリア25の自重のほとんどを磁性体202と電磁石203との間で働く磁気的な吸引力によって支えるため、キャリア25を搬送する際の抵抗がなくなり、電磁石203のS極、N極、消磁の高速変化に呼応して、磁性体202が取り付けられたキャリア25を高速度で移動させることが可能である。なお、リニアモータ駆動機構201の有するキャリア25の吸引力は、キャリア25の重さによるが、数kg程度の重さのキャリア25の場合は、30kgf(約294N)程度が必要である。
【0048】
また、搬送機構200は、図9に示すように、キャリア25の側面部に接触可能に設けられて、リニアモータ駆動機構201により駆動されるキャリア25を水平方向にガイドする水平ガイド機構206と、キャリア25の下端部に接触可能に設けられて、リニアモータ駆動機構201により駆動されるキャリア25を鉛直方向にガイドする鉛直ガイド機構207とを有している。
【0049】
水平ガイド機構206は、フレーム204に固定されてキャリア25の搬送方向に平行に並ぶ上下一対のサブフレーム208a,208bと、これらサブフレームの上端部に取り付けられてキャリア25の搬送方向に等間隔に並ぶ複数の支軸209と、これら複数の支軸209に回転自在に取り付けられた複数のベアリング210とから構成されている。
【0050】
鉛直ガイド機構207は、下側のサブフレーム208aと、サブフレームの側面部に取り付けられてキャリア25の搬送方向に等間隔に並ぶ複数の支軸211と、これら複数の支軸211に回転自在に取り付けられた複数のベアリング212とから構成されている。
【0051】
また、これら水平ガイド機構206及び鉛直ガイド機構207を構成するベアリング210,212は、機械部品の摩擦を減らし、スムーズな機械の回転運動を確保する軸受であって、具体的には転がり軸受からなる。
【0052】
搬送機構200では、図10(a),(b)に示すように、これら複数のベアリング210,212のうち、水平ガイド機構206を構成するベアリング210がリニアモータ駆動機構201により駆動又は停止されるキャリア25(支持台26)の側面部に接触して、このキャリア25の電磁石カバー205に接近する方向への移動を規制すると共に、鉛直ガイド機構207を構成するベアリング212がリニアモータ駆動機構201により駆動又は停止されるキャリア25(支持台26)を下部からガイドして、このキャリア25の自重により落下する方向への移動を規制する。
【0053】
これにより、搬送機構200では、キャリア25との接触によりベアリング212に加わる荷重を極限まで減らす一方、キャリア25がベアリング212から受ける摩擦力を極限まで減らすことができ、その結果、キャリア25をリニアモータ駆動機構201により高速で駆動することが可能となっている。
【0054】
具体的に、この搬送機構200では、リニアモータ駆動機構201によりキャリア25を非接触状態で駆動又は停止(保持)することができるが、このようなリニアモータ駆動機構201を採用すると、キャリア25の搬送中にキャリア25が振動する場合がある。この振動は比較的低い周波数での振動となるが、これよりキャリア25から第1及び第2成膜用基板23、24が脱落したり、成膜時においてプラズマ等が不安定となったりするなど悪影響が生ずる場合がある。
【0055】
また、高度な真空度が要求されるインライン式成膜装置で用いられるベアリング210,212には、摺動特性や回転特性を高めるために、液体の潤滑剤等を用いることは好ましくなく、また使える潤滑剤にも制限がある。このため、キャリア25の自重の多くをベアリング等により支持しながらキャリア25を搬送する場合は、キャリア25の高速度での搬送が困難となる。
【0056】
これに対して、本発明では、水平ガイド機構206及び鉛直ガイド機構207を構成するベアリング210,212によって、搬送中にキャリア25が振動することを防ぐと共に、鉛直ガイド機構207を構成する複数のベアリング212の1個当たりに加わる荷重を0N、又はキャリア25が接触したベアリング212の1個当たりに加わる荷重を9.8N以下とすることによって、キャリア25をリニアモータ駆動機構201により高速で駆動することが可能である。
【0057】
なお、本願発明者の解析によると、数kgの重さのキャリア25を、約1.5mの距離を搬送するに際し、キャリア25を下から支えるベアリング212の1個あたりに加わる力を9.8N(1kgf)以下とすることにより、搬送時間として約0.5秒以下を実現できることが明らかになった。また、キャリア25を横から支えるベアリング210については、1個あたりに加わる力を98N(10kgf)以下とすることにより、同様の搬送時間を実現できることが明らかとなった。
【0058】
また、本発明では、図11に拡大して示す水平ガイド機構206のように、ベアリング210の外周部にキャリア25の側面部と接触可能な当接部材213が制振部材214を介して取り付けられている。
【0059】
具体的に、本発明において、支軸209は、一端に設けられたボルト部分をサブフレーム208aの上端部に設けられたボルト穴に締結することにより取り付けられている。ベアリング210は、その内輪をワッシャ215a,215bで挟み込んだ状態でボルト216を支軸209のボルト穴に締結することによって、その外輪が回転自在な状態で支軸209に取り付けられている。
【0060】
当接部材213は、制振部材214を介してベアリング210の周囲を囲むように取り付けられたリング状の部材であり、キャリア25との接触面積を小さくするため、キャリア25と当接される面が外側に向かって湾曲した形状を有している。
【0061】
制振部材214には、フッ素ゴム等のゴム製又は樹脂製のOリングなどを用いることができる。この制振部材213は、断面が矩形状を為しており、ベアリング210の外周面に設けられた溝部と当接部材213の内周面に設けられた溝部との間に嵌合された状態で取り付けられている。
【0062】
これにより、水平ガイド機構206では、当接部材213にキャリア25の側面部が接触した際に、制振部材214が弾性変形することで、当接部材213との接触によりキャリア25に伝わる振動を吸収することができ、特に金属が伝えやすい高周波領域の振動を吸収して、そのような振動が搬送中にキャリア25に伝わることを防止することができる。
【0063】
また、本発明では、制振部材(Oリング)214の弾性による変形量を大きくできるため、より大きな制振効果を得ることができ、また、支軸209にベアリング210が直接取り付けられた構成のため、支軸209に対するベアリング210の回転振れ(センターズレ)を小さく抑えることができる。
【0064】
なお、本発明では、鉛直ガイド機構207についても上記水平ガイド機構206と同様に、ベアリング212の外周部にキャリア25の下端部と接触可能な当接部材213が制振部材214を介して取り付けられた構成となっている。したがって、本発明では、鉛直ガイド機構207側でも、上記水平ガイド機構206側と同様の効果を得ることができる。
【0065】
以上のように、本発明を適用したインライン式成膜装置では、キャリア25の搬送速度を高速化できるため、磁気記録媒体の製造能力を高めることが可能である。また、チャンバ内の排気能力を高めることが可能なため、処理チャンバへのプロセスガスの導入又は排気を高速で行うことが可能となり、磁気記録媒体の成膜プロセスを円滑に行うことが可能となり、その結果、磁気記録媒体の製造能力を高めることが可能である。さらに、処理チャンバの高い真空度を容易に確保できるため、品質の高い磁気記録媒体の製造が可能となると共に、反応性スパッタ等のより高度な成膜技術にも対応することが可能となる。
【0066】
なお、本発明を適用したインライン式成膜装置では、上記リニアモータ駆動機構201を備えた構成に必ずしも限定されるものではなく、例えば、キャリア25の下部に複数の磁石をN極とS極とが交互に並ぶように配置し、その下方にN極とS極とが螺旋状に交互に並ぶ回転磁石を搬送路に沿って配置して、キャリア25側の磁石と回転磁石とを磁気的に結合させながら、回転磁石を軸回りに回転させることにより、キャリア25を非接触状態で駆動する駆動機構を備えた構成とすることも可能である。
【符号の説明】
【0067】
1…基板カセット移載ロボット台
2…基板取付けロボット室
3…基板カセット移載ロボット
3A…基板取付け取外し室
4、7、14、17…コーナー室
5、6、8〜13、15、16、18〜20…処理チャンバ
22…基板取外しロボット室
23…第1成膜用基板
24…第2成膜用基板
25…キャリア
26…支持台
27…基板装着部
28…板体
29…円形状の貫通穴
30…支持部材
34…基板供給ロボット
49…基板取り外しロボット
80…非磁性基板
81…軟磁性層
82…中間層
83…記録磁性層
84…保護層
85…潤滑膜
810…磁性層
200…搬送機構
201…リニアモータ駆動機構
202…磁性体
203…電磁石
204…フレーム
205…電磁石カバー
206…水平ガイド機構
207…鉛直ガイド機構
208a,208b…サブフレーム
209…支軸
210…ベアリング
211…支軸
212…ベアリング
213…当接部材
214…制振部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜処理を行う複数の成膜室と、
前記複数の成膜室内で成膜対象となる基板を縦置きで保持するキャリアと、
前記キャリアを前記複数の成膜室の間で順次搬送させる搬送機構とを備え、
前記搬送機構は、前記キャリアを非接触状態で駆動する駆動機構と、前記キャリアに接触可能に設けられて、前記駆動機構により駆動されるキャリアを水平方向にガイドする水平ガイド機構と、前記キャリアに接触可能に設けられて、前記駆動機構により駆動されるキャリアを鉛直方向にガイドする鉛直ガイド機構とを有し、
前記水平ガイド機構又は前記鉛直ガイド機構は、前記キャリアの搬送方向に並ぶ複数の支軸に回転自在に取り付けられた複数のベアリングを有し、且つ、これら複数のベアリングの外周部には、前記キャリアと接触可能な当接部材が制振部材を介して取り付けられていることを特徴とするインライン式成膜装置。
【請求項2】
前記制振部材がOリングであることを特徴とする請求項1に記載のインライン式成膜装置。
【請求項3】
前記駆動機構がリニアモータであることを特徴とする請求項1又は2に記載のインライン式成膜装置。
【請求項4】
前記リニアモータは、前記キャリアの側面部に設けられた磁性体と、前記磁性体と対向する位置において前記キャリアの搬送方向に並ぶ複数の電磁石とを有して構成されていることを特徴とする請求項3に記載のインライン式成膜装置。
【請求項5】
前記磁性体が永久磁石であることを特徴とする請求項4に記載のインライン式成膜装置。
【請求項6】
前記電磁石が前記成膜室の大気側に臨んで設けられていることを特徴とする請求項4又は5に記載のインライン式成膜装置。
【請求項7】
前記鉛直ガイド機構を構成する複数のベアリングの1個当たりに加わる荷重が0N、又は前記キャリアが接触したベアリングの1個当たりに加わる荷重が9.8N以下であることを特徴とする請求項3〜6の何れか一項に記載のインライン式成膜装置。
【請求項8】
前記水平ガイド機構を構成する複数のベアリングのうち、前記キャリアが接触したベアリングの1個当たりに加わる荷重が98N以下であることを特徴とする請求項3〜7の何れか一項に記載のインライン式成膜装置。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載のインライン式成膜装置を用いて、前記基板の表面に少なくとも磁性層を形成する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−192073(P2010−192073A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38424(P2009−38424)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】