説明

ウォータポンプ

【課題】メカニカルシールから漏れてポンプ軸を伝った冷却水を効果的に阻止して、ボールベアリング内への浸入を抑制し得るウォータポンプを提供する。
【解決手段】ウォータポンプ1は、内周側に円筒部4cを有するプーリー4と、前記円筒部の内周側の圧入固定部4aに固定されたポンプ軸6と、円筒部の軸方向外端縁からポンプ軸の方向へ折曲形成されたフランジ壁4bと、ポンプ軸の他端部6bに固定されたインペラ7と、ポンプ軸の外周側を囲繞する筒状部10を有するポンプハウジング2と、前記筒状部の内周側とポンプ軸の外周面との間に配置されたメカニカルシール8と、前記プーリーを回転自在に支持するボールベアリング5と、を備え、ポンプ軸は、外周面の環状空間室15に対応した部位に小径軸部21が設けられ、この小径軸部の一端部側に水切り用の第1段差面22と他端部側に第2段差面23がポンプ軸の軸直角方向に沿って形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエンジンを冷却するための冷却水をエンジン内部に供給するために用いられるウォータポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来のウォータポンプとしては、以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
概略を説明すると、ポンプハウジングの内部にプレス成形によってプーリーと一体に形成されたポンプ軸が、ボールベアリングによって回転自在に支持されていると共に、前記ポンプ軸の先端部にインペラが固定されている。
【0004】
前記ボールベアリングは、外輪が前記プーリーの内周部に固定されている一方、内輪がポンプハウジングの筒状部の外周面に固定されている。
【0005】
また、前記ポンプ軸とポンプハウジングとの間には、前記インペラが回転自在に収容されたポンプ室から前記ボールベアリング方向への冷却水の漏れを防止するためのメカニカルシールが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−84610号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記公報記載のウォータポンプにあっては、構造上の点から前記ポンプ室内からの冷却水の漏れを前記メカニカルシールで完全に防止することは困難である。このため、前記メカニカルシールから漏れた冷却水が、前記ポンプ軸の外周面を伝って前記ボールベアリングの内部に浸入してしまうおそれがある。この結果、発錆などによってボールベアリングの耐久性が低下してしまう。
【0008】
本発明は、前記従来のウォータポンプの実情に鑑みて案出されたもので、メカニカルシールから漏れてポンプ軸を伝ってベアリングに向かう冷却水の伝達を阻止してベアリングに伝達されることのないウォータポンプを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、とりわけ、ポンプ軸は、メカニカルシールとフランジ壁との間の部位に、前記メカニカルシールが配置された部位の外周面より小径な小径軸部が設けられ、前記メカニカルシールが配置された部位の外周面から軸方向に延長した部位と前記小径軸部との間に、段差部が形成されていることを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記段差部は、前記ポンプ軸の中心軸線に対して垂直な垂直面に形成されているか、または外周側から内周側にかけて前記メカニカルシールに近づくように鋭角の傾斜面状に形成されていることを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記段差部の重力方向下側に、所定容量の冷却水を貯留可能なドレンチャンバと、前記段差部から滴下した水を前記ドレンチャンバに導くドレン孔が設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、メカニカルシールから漏れた冷却水を、前記段差部によってベアリング方向へ移動を効果的に阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るウォータポンプの第1の実施形態の縦断面図である。
【図2】本実施形態におけるウォータポンプの分解斜視図である。
【図3】第2の実施形態に供されるポンプ軸の要部側面図である。
【図4】第3の実施形態に供されるポンプ軸の要部側断面図である。
【図5】第4の実施形態に供されるポンプ軸の要部側断面図である。
【図6】第5の実施形態に供されるポンプ軸の要部側面図である。
【図7】第6の実施形態に供されるポンプ軸の要部側面図である。
【図8】第7の実施形態に供されるポンプ軸の要部側面図である。
【図9】第8の実施形態に供されるポンプ軸の要部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るウォータポンプの各実施形態を図面に基づいて説明する。〔第1の実施形態〕
図1及び図2は本発明のウォータポンプの第1の実施形態を示し、このウォータポンプ1は、自動車のラジエータとエンジンの間で冷却水である不凍液(エチレングリコール)を循環させる冷却装置に適用されている。
【0015】
このウォータポンプ1は、エンジンの図外のシリンダブロックの側部にボルト固定等により直接取り付けられ、シリンダブロック側の前端部内にポンプ室3が形成されたポンプハウジング2と、該ポンプハウジング2の外周側に、単一のボールベアリング5によって回転自在に支持されたプーリー4と、前記ポンプハウジング2の内部に挿通配置され、一端部6aが前記プーリー4に固定されたポンプ軸6と、該ポンプ軸6の他端部6bに固定されて、前記ポンプ室3内に回転自在に収容されたインペラ7と、前記ポンプハウジング2とポンプ軸6との間に介装されて、ポンプ室3と前記ボールベアリング5との間をシールするメカニカルシール8と、から主として構成されている。
【0016】
前記ポンプハウジング2は、例えばアルミニウム合金材で一体に形成され、ポンプ室3側のハウジング本体9が異形円環状に形成されていると共に、該ハウジング本体9の後端側に段差径状の筒状部10が一体に有している。
【0017】
前記ハウジング本体9は、前端にシリンダブロックの側部に有する平面部に当接する平坦な環状の取付面9aが形成されていると共に、外周にはシリンダブロックに螺着固定される取付ボルトが挿通されるボルト孔9bを構成するボス部9cが複数突設されている。
【0018】
また、このハウジング本体9の内部には、図外のラジエータ側の吸入ポートからポンプ室3に流入した冷却水をインペラ7の回転に伴ってシリンダブロック内のウォータジャケット内に吐出する吐出ポート9dが形成されている。
【0019】
前記筒状部10は、図1及び図2に示すように、ポンプ室3側の大径部10aと、該大径部10aから前記ボールベアリング5方向へ延出した中径部10bと、該中径部10bからポンプ軸6の一端部6a方向へ延出した小径部10cと、から構成され、したがって、内部に段差径状の中空部10dが形成されている。
【0020】
前記中径部1bは、重力方向の下側に前記メカニカルシール8から漏れ出た冷却水の水滴を流下させるドレン孔11が上下方向に貫通形成されていると共に、該ドレン孔11の下側には該ドレン孔11から滴下した水滴を捕集貯留するドレンチャンバ12が前記大径部10aの内部に跨って形成されている。このドレンチャンバ12は、下端開口がドレンキャップ13によって液密的に封止されている。
【0021】
また、前記中径部10bの重力方向の上側には、前記メカニカルシール8から漏出した、あるいは前記ドレンチャンバ12内などに貯留された冷却水の水蒸気を外部に排出する大気開放孔14が穿設されている。さらに、この中径部10bの内周側には、前記ポンプ軸6との間に円環状の環状空間室15が形成されており、この環状空間室15は前記ドレン孔11と大気開放孔14に上下方向で連通している。また、前記中径部10bの外周には、前記大気開放孔14と大気とを連通する大気連通孔18を形成する円筒状の膨出部10fが一体に形成されている。
【0022】
前記プーリー4は、図1及び図2に示すように、金属プレート材をプレス成形によって円盤状に一体に形成されており、前記ポンプ軸6の一端部6aが圧入固定される中央部の円筒状の固定部4aと、該固定部4aの軸方向端縁からポンプ軸6の径方向に延出した円板状のフランジ壁4bと、該フランジ壁4bの外周縁からポンプ軸6の軸方向に折曲された大径状の円筒部4cと、該円筒部4cの軸方向端縁からポンプ軸6の径方向に折曲形成された大径な第2のフランジ壁4dと、該第2のフランジ4dの外周縁から折り返し状に形成されたベルト装着部4eとから構成されている。
【0023】
前記固定部4aは、先端部に前記ポンプ軸6のスムーズな圧入性を確保するための空気抜き孔4eが貫通形成されていると共に、外周に後述するカバー部材17が圧入固定されている。
【0024】
前記フランジ壁4bは、図2にも示すように、径方向のほぼ中央位置に複数の貫通孔16が円周方向のほぼ等間隔位置に穿設されている。この各貫通孔16は、前記筒状部10の小径部10cの外周に前記ボールベアリング5の内輪5aを圧入する際に図外の圧入用治具を挿入する作業用孔としての役割を有していると共に、前記ドレンチャンバ12内などから蒸発して小径部10cの内部に到達した水蒸気を外部に排出させる役割も有している。したがって、前記各貫通孔16は、それぞれの形成位置と内径が前記各役割を果たすに必要な位置と大きさに設定されている。
【0025】
前記円筒部4cは、内周面に前記ボールベアリング5の外輪5bが圧入固定されるようになっており、したがって、その軸方向の長さが前記外輪5bの軸方向の長さよりも僅かに大きく形成されていると共に、内径が前記外輪5bの外径よりも圧入代を考慮して僅かに小さく形成されている。
【0026】
前記第2のフランジ壁4dは、前記インペラ7方向へ膨出状に折曲形成され、これによって剛性を確保するようになっている。
【0027】
前記ベルト装着部4eは、波形歯状に形成された外周に、図外のクランクシャフトの先端部に固定された駆動プーリーに巻回された伝達ベルトが巻回されて回転力が伝達されるようになっている。
【0028】
前記カバー部材17は、薄肉な金属プレートによってほぼ碗状に形成されて、前記プーリー4のフランジ壁4bと円筒部4c及び第2フランジ壁4dの前面を覆う状態に配置されている。また、中央の筒部17aが、前記固定部4aの外周に圧入固定されていると共に、該筒部17aの軸方向端縁から径方向に沿って形成された円板部17bの内面が前記フランジ壁4bの対向面全体を覆いつつ該対向面との間に僅かな隙間Sをもって対向配置されている。さらに、前記円板部17bの外周縁から径方向に延設された大径部17cは、前記第2フランジ壁4d方向へ傾斜状に折曲形成されて、そのほぼ垂直な外周部17dが前記ベルト装着部4eの内周面と隙間S3と前記第2フランジ壁4dの対向面に僅かな円環隙間S1をもって対向配置されている。
【0029】
したがって、このカバー部材17は、前記フランジ壁4bの各貫通孔16の前端開口を閉塞して外部からの塵芥などの浸入を阻止すると共に、前記ドレンチャンバ12などから蒸発して各貫通孔16を通った水蒸気を前記各隙間S、S1、S3を介して外部に排出するようになっている。
【0030】
前記ボールベアリング5は、一般的なもので、前記小径部10に圧入された内輪5aと、前記円筒部4cに圧入された外輪5bと、前記内輪5aと外輪5bとの間に保持器を介して転動自在に設けられた複数のボール5cとから構成されている。
【0031】
前記内輪5aは、その軸方向の最大圧入位置が前記筒状部10の中径部10bの前端縁に設けられた環状突部10eによって規制されている一方、外輪5bは、内輪5aの位置決めによって自ずと前記円筒部4cへの圧入によってその軸方向の位置が設定されている。
【0032】
また、前記ボールベアリング5の前端縁とフランジ壁4bとの間には、前記水蒸気などを前記各貫通孔16方向へ導く円環状の隙間S2が形成されている。
【0033】
前記内輪5aと外輪5bの前後端には、内部に塵芥などの浸入を阻止する一対の環状ゴム材からなるベアリングシール19a、19bがそれぞれ設けられている。この各ベアリングシール19a、19bは、外周部が前記外輪5bの軸方向の各端部に固定されている一方、内周部が前記内輪5aに摺動自在に形成されて、内部をシールするようになっている。
【0034】
また、前記小径部10cの外周には、図2にも示すように、薄肉円環板状の遮蔽板20が前記内輪5aと前記中径部10bの前記環状突部10eに挟まされて固定されている。この遮蔽板20は、前記ボールベアリング5の後端縁側を覆った状態に配置されて、外部からの塵芥などが前記ボールベアリング5へ浸入するのを阻止するようになっている。
【0035】
前記ポンプ軸6は、図1及び図2に示すように、金属材によってほぼ全体が均一な外径に形成されていると共に、外周面6cの軸方向のほぼ中央位置に環状に切り欠かれた環状溝である小径軸部21が形成されている。
【0036】
すなわち、この小径軸部21は、前記メカニカルシール8とフランジ壁4bとの間、つまり、前記環状空間室15に臨む位置に設けられており、前記メカニカルシール8側の一端面が段差部である第1段差面22として構成され、これと反対側の他端面が第2段差面23として構成されている。
【0037】
前記第1、第2段差面22、23は、ポンプ軸6の軸直角方向に形成されて、前記各外周縁が22a、23aが前記環状空間室15を介して前記ドレン孔11や大気開放孔14に臨んでいる。また、小径軸部21は、その軸方向の巾、つまり両段差面22,23間の巾Wが約2mmに設定されていると共に、その深さDが約1mmに設定されている。なお、前記巾Wを2mm以上に、深さDを1mm以上に設定することも可能である。
【0038】
前記インペラ7は、プレス成形によって一体に形成され、前記ポンプ軸6の他端部6bに圧入固定された円筒状の圧入固定部7aと、該圧入固定部7aの軸方向端縁から径方向に延出した複数の羽根部7bとから構成されている。なお、前記圧入固定部7aの中央位置には、ポンプ軸6をスムーズに圧入するための空気抜き孔7cが穿設されている。
【0039】
前記メカニカルシール8は、一般的なものであって、前記筒状部10の中径部10bの内周面に固定されたカートリッジ部8aと、前記ポンプ軸6の外周面6cに支持されたスリーブ部8bと、前記カートリッジ8aの内周側と前記スリーブ部8bの外周側との間に設けられて摺動するシール部8cとから構成されている。
【0040】
したがって、この実施形態によれば、機関のクランクシャフトが回転駆動して前記プーリー4が回転駆動されると、前記ポンプ軸6を介して前記インペラ7が回転してポンプ作用を行い、冷却水を前記吐出ポート9dから機関のウォータジャケットに圧送してエンジンの冷却を行う。
【0041】
このとき、前記高圧となったポンプ室3内の冷却水は、大部分が前記メカニカルシール8によってポンプ軸6の一端側への流入が規制されるが、一部が、例えば、前記メカニカルシール8の摺動するシール部8cから漏れ出してポンプ軸6の外周面6cを伝って一端部6a側に流動する。この流動した冷却水は、第1段差面22に到達すると、ポンプ軸6の回転遠心力の作用に伴って第1段差面22の外周縁22aで切られて、前記環状空間室15を介してドレン孔11からドレンチャンバ12内に滴下してここに捕集貯留される。
【0042】
すなわち、前記第1段差面22では、その外周縁22aがポンプ軸6に対して軸直角に形成されていることから、外周面6cを伝った冷却水はここで速やかに切られてドレン孔11からドレンチャンバ12内に滴下して貯留される。
【0043】
したがって、この漏出したその殆どの冷却水は、前記第1段差面22による効果的な水切り作用によって小径軸部21の外周面を伝って第2段差面23側に到達することがなくなる。
【0044】
また、たとえ、小径軸部21の外周面に付着した冷却水が僅かながらも小径軸部21の外周面を伝って一端部6a方向へ流動した場合は、前記第2段差面23を伝って外周縁23aにより切られてドレンチャンバ12内に滴下する。
【0045】
このドレンチャンバ12に貯留された冷却水が蒸発して水蒸気となり、あるいは、前記メカニカルシール8から漏れ出た水蒸気は、その大部分が前記環状空間室15と大気開放孔14を介して大気連通孔18から外部に排出される。
【0046】
また、この水蒸気が、たとえ前記環状空間室15からポンプ軸6の外周面と筒状部10の小径部10c内周面の間に形成された円筒状の通路24を通って環状隙間S2に流入した場合は、ここから、前記各貫通孔16を通って隙間S内に流入し、さらにここからカバー部材17とプーリー4との間を通って円環隙間S1、S3から外部に排出される。
【0047】
以上のように、前記メカニカルシール8から漏出してポンプ軸6の外周面6cを伝って小径軸部21に流入しようとした冷却水は、その殆どが第1段差面22によって効果的に切られてドレン孔11からドレンチャンバ12内に滴下するため、前記ボールベアリング5内への流入を十分に抑制することが可能になる。
【0048】
しかも、たとえ僅かに小径軸部21の外周面を伝って一端部6a側に流動しても、第2段差面23の外周縁23aで効果的に切られて前記ドレン孔11を介してドレンチャンバ12内に滴下することから、ボールベアリング5内への浸入が十分に阻止される。
【0049】
さらに、前記水蒸気も大気開放孔14や環状隙間S2や貫通孔16及び各隙間S,S1、S3を通って外部に速やかに排出されることから、前記ボールベアリング5内部への浸入が抑制される。
【0050】
また、前記各ベアリングシール19a、19bによって、ボールベアリング5の内部がシールされていることから、該ボールベアリング5内への冷却水や水蒸気の浸入をさらに阻止することが可能になる。
【0051】
さらに、前記カバー部材17によって外部からの塵芥などが前記各貫通孔16からボールベアリング5内部への浸入も抑制できると共に、前記遮蔽板20によって前記中径部10bの外部付近からのボールベアリング5内部への塵芥などの浸入も阻止することができる。
【0052】
この結果、前記ボールベアリング5内部での錆の発生や内部への塵芥の浸入が抑制されることから、該ボールベアリング5の耐久性の向上が図れる。
【0053】
また、前記小径軸部21の外周面は、単純な円筒状に形成されていることから、ポンプ軸6の成形後に研削などによって容易に成形することができる。
〔第2の実施形態〕
以下、図3〜図9は前記ポンプ軸6の小径軸部21の変形例を示し、図3に示す第2の実施形態では、ポンプ軸6の小径軸部21を一端部6aまで延長させたものである。したがって、軸直角方向に形成された第1段差面22のみが存在して第2段差面は存在しないが、前記第1段差面22によって外周面6cを伝った水を効果的に切ることが可能になる。
【0054】
この実施形態によれば、ポンプ軸6の一端部6a側の全体を小径に形成するため、前記作用効果に加えてポンプ軸6の軽量化が図れる。
〔第3の実施形態〕
図4に示す第3の実施形態では、第2の実施形態と同じく小径軸部21を一端部6aまで延長させると共に、前記第1段差面22が、外周縁22aから内周縁に亘ってメカニカルシール8方向へ低くなるテーパ状に形成されて第1段差面22の外周縁22aが断面鋭角状に形成されている。
【0055】
したがって、この実施形態によれば、メカニカルシール8側から外周面6cを伝って小径軸部21方向へ流動した水は、前記第1段差面22の鋭角な外周縁22aによって確実に切られる。このため、水切り作用がさらに向上して小径軸部21外周面への伝達を十分に抑制できる。
〔第4の実施形態〕
図5に示す第4の実施形態では、第1段差面22を第3実施形態と同じく断面鋭角状に形成されている一方、第2段差面23が第1実施形態と同じくポンプ軸6の軸直角方向に形成されている。
【0056】
したがって、第1段差面22では第3実施形態と同様な作用効果が得られると共に、たとえ僅かに小径軸部21の外周面を伝って来た水を第2段差面23によってさらに切ることが可能になる。
〔第5の実施形態〕
図6に示す第5の実施形態では、第1段差面22は第1、2実施形態と同じくポンプ軸6の軸直角方向に形成されているが、第1段差面23が内周縁から外周縁に向かって、つまり、前記フランジ壁4b方向に向かって上り傾斜状のテーパ面に形成されている。
【0057】
この実施形態によれば、第1段差面22による効果的な水切り作用が得られることは勿論のこと、第2段差面23が上りテーパ面に形成されていることから、水切り作用は減少するもののポンプ軸6の剛性が高くなって曲げ方向の集中応力の発生を抑制できる。
〔第6の実施形態〕
図7に示す第6の実施形態では、基本的には第1実施形態のものと同じであるが、ポンプ軸6の外径を一端部6a側から他端部6b側へ暫時小径テーパ状に形成したものである。したがって、それぞれ軸直角方向に形成された前記第1段差面22の外周縁22aが必然的に断面やや鋭角状になっている一方、第2段差面23の外周縁23aが断面やや鈍角状になっている。
【0058】
よって、この実施形態も特に第1段差面22の外周縁22aでの水切り作用が良好になる。
〔第7の実施形態〕
図8に示す第7の実施形態では、第1、第2段差面22,23をそれぞれ2段の階段状に形成したものである。この場合も第1段差面22の内外2つの外周縁22a、22bによって効果的に水切り作用を行うことができると共に、第2段差面23も内外2つの外周縁23a、23bでの水切りが可能になる。しかも、それぞれが階段状に形成されていることから、曲げ変形の集中応力の発生を抑制できる。
〔第8の実施形態〕
図9に示す第8の実施形態では、基本的には第1実施形態の構造と同じであるが、前記小径軸部21の軸方向の中央位置に、環状突起部25を一体に形成したものである。この環状突起部25は、ポンプ軸6の外径と同一に設定されていると共に、両面25a、25bがポンプ軸6の軸直角方向に形成されている。
【0059】
また、前記第1、第2段差面22,23は、前記両面25a、25bと同じく軸直角方向に形成されている。
【0060】
したがって、前記ポンプ軸6の外周面6cを伝って一端部6a方向へ流動した水は、まず、第1段差面22の外周縁22aで殆どが切られるが、たとえ、一部が小径軸部21の外周面を伝って環状突起部25方向に流れた場合でも、環状突起部25の一端面25aの外周縁25cで切られて前記ドレン孔11方向に滴下する。
【0061】
よって、係る二重の水切りによって第2段差面23方向へは流れることは殆どないが、たとえ流れたとしても環状突起部25の他端面25bの外周縁25dと第2段差面23の外周縁23aによってさらに切られるため、一端部6a方向、つまり、ボールベアリング5方向には流動することはない。
【0062】
また、前記環状突起部25によって、ポンプ軸6の小径軸部21の強度が高くなることから、曲げ変形や捩り変形にも十分に対応することが可能になる。
【0063】
本発明は、前記各実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば、小径軸部21の巾Wや深さDをさらに変更することも可能であり、また、第1段差面22と第2段差面23とのテーパ角度も変更することも可能である。
【0064】
また、ベアリングとしては、前記ボールベアリング5に限定されるものではなく、例えばプレーンベアリングあるいはニードルベアリングなどであってもよい。
【0065】
さらに、前記第1段差面22は、第1実施形態などではポンプ軸6の軸直角方向に沿って形成されているが、その面の角度は鋭角あるいは鈍角方向へ僅かなテーパ状に形成されていても良い。
【0066】
前記実施形態から把握される前記請求項以外の発明の技術的思想について以下に説明する。
〔請求項a〕請求項1に記載のウォータポンプにおいて、
前記小径軸部の外周面は円筒状に形成されていることを特徴とするウォータポンプ。
【0067】
この発明によれば、小径軸部の外周面が単に円筒状になっていることから、ポンプ軸の成形後に研削によって容易に成形することができる。
〔請求項b〕請求項1に記載のウォータポンプにおいて、
前記小径軸部は、前記ポンプ軸に部分的に設けられ、前記フランジ壁側に第2の段差部が形成されていることを特徴とするウォータポンプ。
【0068】
この発明によれば、たとえ小径軸部の外周面を伝ってフランジ壁側に移動した水は、前記第2の段差部の外周縁によって切られることから、フランジ壁方向、つまり、ベアリング方向への移動を効果的に規制することができる。
〔請求項c〕請求項bに記載のウォータポンプにおいて、
前記第2の段差部は、前記ポンプ軸の中心軸線に対して垂直な垂直面に形成されているか、または、内周側から外周側に亘って前記フランジ壁に近づくにしたがって拡径となる上り傾斜状に形成されていることを特徴とするウォータポンプ。
【0069】
この発明によれば、第2の段差部が拡径状に形成されていることから、ポンプ軸の強度を確保できる。
〔請求項d〕請求項3に記載のウォータポンプにおいて、
前記ドレンチャンバは、大気に開放されていることを特徴とするウォータポンプ。
【0070】
ドレンチャンバに貯留された水が蒸発して大気に排出させることができる。
〔請求項e〕請求項dに記載のウォータポンプにおいて、
前記小径軸部の外周面と前記筒状部の内周面との間に、環状空間部が形成されていると共に、前記筒状部の前記環状空間部の重力方向下側に前記ドレン孔が形成されている一方、重力方向上側に大気開放孔が形成されていることを特徴とするウォータポンプ。
〔請求項f〕請求項1に記載のウォータポンプにおいて、
前記ポンプ軸は、軸方向の前記フランジ壁側からインペラ側に向かって連続的に小径となるテーパ状に形成されていると共に、前記段差部は、前記ポンプ軸の中心軸線に対して垂直な垂直面に形成されていることを特徴とするウォータポンプ。
【0071】
この発明によれば、メカニカルシール側からポンプ軸のテーパ状外周面を伝って来た冷却水が、該テーパ外周面と段差部の垂直面の外周縁との間の鋭角な端縁によって効果的に切ることが可能になる。
〔請求項g〕請求項1に記載のウォータポンプにおいて、
前記プーリーは、前記円筒部の前記フランジ壁と軸方向反対側の端縁から外周側に延びる第2フランジ壁と、該第2フランジ壁の外周縁から前記フランジ壁方向の軸方向へ折り返し状に形成されたベルト装着部とを備えていることを特徴とするウォータポンプ。
〔請求項h〕請求項1に記載のウォータポンプにおいて、
前記プーリーとフランジ壁は、一体に形成されていることを特徴とするウォータポンプ。
〔請求項i〕請求項hに記載のウォータポンプにおいて、
前記ポンプ軸とフランジ壁とは別体に形成されていると共に、前記ポンプ軸の一端部が前記フランジ壁に固定されていることを特徴とするウォータポンプ。
〔請求項j〕請求項1に記載のウォータポンプにおいて、
前記フランジ壁には、複数の貫通孔が穿設されていることを特徴とするウォータポンプ。
【0072】
この発明によれば、前記複数の貫通孔を利用して、治具によって前記ベアリングを前記円筒部と筒状部との間に軸方向から固定すると共に、前記メカニカルシールを通過した水蒸気を外部に排出することが可能になる。
〔請求項k〕請求項1に記載のウォータポンプにおいて、
前記段差部は、複数段に形成されていることを特徴とするウォータポンプ。
〔請求項l〕請求項kに記載のウォータポンプにおいて、
前記小径軸部を複数設けたことを特徴とするウォータポンプ。
〔請求項m〕請求項1に記載のウォータポンプにおいて、
前記ベアリングの内輪と外輪のいずれか一方側に固定され、他方側に対して摺動するベアリングシールが設けられていることを特徴とするウォータポンプ。
【0073】
このベアリングシールによってベアリング内部への水などの浸入を規制できる。
〔請求項n〕請求項1に記載のウォータポンプにおいて、
前記段差部の高さは、1mm以上に設定されていることを特徴とするウォータポンプ。
〔請求項o〕
駆動源から動力が伝達されて回転し、内周側に円筒部を有するプーリーと、
前記円筒部の内周側に固定されたポンプ軸と、
前記円筒部の軸方向外端縁から前記ポンプ軸の方向へ折曲形成されたフランジ壁と、
前記ポンプ軸の軸方向他端側に設けられたインペラと、
前記ポンプ軸の外周側を囲繞する筒状部を有するポンプハウジングと、
前記筒状部の内周側と前記ポンプ軸の外周面との間に配置されたメカニカルシールと、
前記円筒部の内周面と前記筒状部の外周面との間に設けられて、前記プーリーを回転自在に支持するベアリングと、を備え、
前記ポンプ軸は、前記メカニカルシールと前記フランジ壁との間の部位に、前記メカニカルシール側から前記外周面を伝ってきた付着水のフランジ壁方向への移動を規制する段差部が形成されていることを特徴とするウォータポンプ。
〔請求項p〕
一端部にプーリーが設けられ、他端部にインペラが設けられたポンプ軸と、
該ポンプ軸の外周側を囲繞するポンプハウジングと、
該ポンプハウジングに設けられ、前記ポンプ軸を回転自在に支持するベアリングと、
前記ポンプハウジングと前記ポンプ軸とに固定されて、前記ポンプ軸の軸方向の前記ベアリングよりもインペラ側の位置で摺動するシール部を備えたメカニカルシールと、を備え、
前記ポンプ軸における前記メカニカルシールから前記ベアリングに至る外周面の途中に、付着水のベアリング方向への伝達を妨げる環状溝を形成したことを特徴とするウォータポンプ。
〔請求項q〕請求項pに記載のウォータポンプにおいて、
前記環状溝の軸方向の巾は、2mm以上に設定されていることを特徴とするウォータポンプ。
【符号の説明】
【0074】
1…ウォータポンプ
2…ポンプハウジング
3…ポンプ室
4…プーリー
5…ボールベアリング(ベアリング)
6…ポンプ軸
6a…一端部
6b…他端部
6c…外周面
7…インペラ
8…メカニカルシール
8c…シール部
9…ハウジング本体
10…筒状部
10b…中径部
11…ドレン孔
12…ドレンチャンバ
14…大気開放孔
15…環状空間室
16…貫通孔
17…カバー部材
18…大気連通孔
19a、19b…ベアリングシール
20…遮蔽板
21…小径軸部(環状溝)
22…第1段差面(段差部)
22a…外周縁
23…第2段差面
23a…外周縁
26…環状突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源から動力が伝達されて回転し、内周側に円筒部を有するプーリーと、
前記円筒部の内周側に固定されたポンプ軸と、
前記円筒部の軸方向外端縁から前記ポンプ軸の方向へ折曲形成されたフランジ壁と、
前記ポンプ軸の軸方向他端側に設けられたインペラと、
前記ポンプ軸の外周側を囲繞する筒状部を有するポンプハウジングと、
前記筒状部の内周側と前記ポンプ軸の外周面との間に配置されるメカニカルシールと、
前記円筒部の内周面と前記筒状部の外周面との間に設けられて、前記プーリーを回転自在に支持するベアリングと、を備え、
前記ポンプ軸は、前記メカニカルシールと前記フランジ壁との間の部位に、前記メカニカルシールが配置された部位の外周面より小径な小径軸部が設けられ、前記メカニカルシールが配置された部位の外周面から軸方向に延長した部位と前記小径軸部との間に、段差部が形成されていることを特徴とするウォータポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のウォータポンプにおいて、
前記段差部は、前記ポンプ軸の中心軸線に対して垂直な垂直面に形成されているか、または外周側から内周側にかけて前記メカニカルシールに近づく方向へ下り傾斜状のテーパ面に形成されていることを特徴とするウォータポンプ。
【請求項3】
請求項1に記載のウォータポンプにおいて、
前記段差部の重力方向下側に、所定容量の冷却水を貯留可能なドレンチャンバと、前記段差部から滴下した水を前記ドレンチャンバに導くドレン孔が設けられていることを特徴とするウォータポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−112340(P2012−112340A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263386(P2010−263386)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】