説明

ウォーム減速機構とそれを用いた雲台装置

【課題】 バックラッシュ調整を行うことなく、なめらかにパンチルト動作することを可能にした雲台装置を提供すること。
【解決手段】 ウォーム減速機構において、ウォームホイールを軸支する第1の筐体と、第1の筐体上に固定される第2の筐体とからなり、第2の筐体には、モーターと、モーター軸と、ウォームと、ウォームと一体的に回転するウォーム軸と、ウォーム軸を回動自在に支持する2つの軸受と、軸受を介してウォーム軸を保持するウォーム保持具と、ウォーム軸を軸方向に付勢する第1の付勢部材と、モーター軸からウォーム軸に回転を伝達し、角度と軸ずれを許容する可撓性カップリングと、一端を第2の筐体に、対向するもう一端をウォーム保持具に固定され、可撓性材料からなる第2の付勢部材とを備え、ウォーム軸は、モーター軸に対して可撓性カップリングを支点に傾くことを特徴とする構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雲台装置に関し、特に雲台装置の駆動部に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、撮像装置を備え、モーターの動力によりパンチルト駆動を行う雲台装置において、歯車による減速機が用いられる。しかし歯車間にバックラッシュが存在すると、出力側の動作が不安定になり、パンチルト動作中の動作ムラなどを引き起こしてしまう。そこで、歯車間のバックラッシュを除去するため、入力側の歯車を、スプリングによって出力側の歯車に押し付けるという技術が広く採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1では付勢部材を用いてウォームをホイールからの反力の反対方向へ付勢する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−008008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された従来技術では、軸受を支点にウォーム軸を傾けるため、継手上でウォーム軸とモーター軸との同軸度のずれが大きくなってしまうと、なめらかな駆動が出来なくなるという問題点があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、バックラッシュ調整を行うことなく、なめらかにパンチルト動作することを可能にした雲台装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、ウォームとウォームホイールとからなる、ウォーム減速機構において、
ウォームホイールを軸支する第1の筐体と、第1の筐体上に固定される第2の筐体とからなり、
第2の筐体には、モーターと、モーター軸と、ウォームと、ウォームと一体的に回転するウォーム軸と、ウォーム軸を回動自在に支持する2つの軸受と、軸受を介してウォーム軸を保持するウォーム保持具と、ウォーム軸を軸方向に付勢する第1の付勢部材と、モーター軸からウォーム軸に回転を伝達し、少なくとも角度と軸ずれを許容する可撓性カップリングと、一端を第2の筐体に、対向するもう一端をウォーム保持具に固定され、ウォーム軸とウォームホイールの回転軸とそれぞれ略平行な面をなす、少なくとも1つの可撓性材料からなる第2の付勢部材とを備え、
ウォーム軸は、モーター軸に対して可撓性カップリングを支点に傾くことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によればバックラッシュ調整を行うことなく、なめらかにパンチルト動作することを可能にした雲台装置を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施例に係る、ウォーム減速機構を備えた雲台装置の斜視図。
【図2】ヘッド2内のパン駆動部。図1のA−A断面図。
【図3】ウォームホイール4の取付け構造を示す図。図2のB−B断面図。
【図4】駆動ユニットzの構造を示す図。図2のC−C断面図。
【図5】駆動ユニットzの分解斜視図。図2のX視図。
【図6】駆動ユニットzの分解斜視図。図2のY視図。
【図7】ヘッド2に取付け前の駆動ユニットzを示す図。
【図8】ヘッド2に取付け後の駆動ユニットzを示す図。
【図9】図4に対し、保持具9の穴9Aと、軸受13Bの外輪に隙間sを設けた図。図4のD部詳細図。
【図10】図2に対し、ストッパー20を加えたヘッド2内のパン駆動部。図1のA−A断面図。
【図11】ウォームホイール401の取付け構造を示す図。図10のE−E断面図。
【図12】図10に対し、外力F4が加えられた図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態にかかわる雲台装置の斜視図である。
【0011】
[実施例1]
以下、図1から図9を参照して、本発明の第1の実施例による、バックラッシュ除去機構を備えたウォーム減速機構ついて説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る雲台装置の斜視図である。図示しない三脚等により支持された台座1には、ヘッド2が水平方向に回動自在に取り付けられ、このヘッド2には撮影装置が搭載されたハウジング3が垂直方向に回動自在に取り付けられている。
【0013】
図2は図1のA−A断面図で、ヘッド2内のパン駆動部を示している。駆動部内の主な構成は、ウォーム5を備える駆動ユニットzと、駆動ユニットzより、駆動力が伝達されるウォームホイール4とからなる。図2のB−B断面図である図3で示されるように、ウォームホイール4は台座1より突設した軸1Aにネジ12Aによって固定されている。軸受16の内輪は、ワッシャ17と台座1の面1Bによって固定し、軸受16の外輪は、ヘッド2の面2Aと、押え環18の面18Aで挟み込んで固定している。駆動ユニットzは、ウォーム5、モーター6、モーター取付け筐体7、カップリング8、保持具9、板ばね10、スプリング11より構成される。モーター6はモーター取付け筐体7に、ネジ12Cによって固定されている。モーター取付け筐体7は、ヘッド2にネジ12Bによって取り付けられている。軸受13Aと軸受13Bを介して保持具9に回転自在に取り付けられたウォーム軸14には、ウォーム5が固定ビス19により取り付けられている。図2のC−C断面図である図4で示されるように、保持具9の一端は、ウォーム軸14に取り付けられたE型止め輪15により軸方向の動きが規制される。また他端にはスプリング11があり、ウォーム軸14に取り付けられたネジ12で挟み込むことで、保持具9をF1方向に付勢する。このことより、保持具9とウォーム軸14のスラスト方向の位置関係は規制される。また保持具9と、モーター取付け筐体7は板ばね10とネジ12Eとネジ12Fによって連結され、板ばね10の付勢力により保持具9がウォームホイール4の中心方向F2へ付勢されるので、ウォーム5とウォームホイール4の噛み合い深さが一定に保持される。
【0014】
次に図5と図6を用いて、モーター軸6Aとカップリング8の接続関係を説明する。図5と図6はそれぞれ、図2のX視方向とY視方向より見た駆動ユニットzの分解斜視図を示す。カップリング8はウォーム軸14との連結部8Aと、モーター軸6Aとの連結部8Bで構成されている。モーター軸6Aとの連結部8Bはゴム等の弾性部材で形成されていて、凹部8Cが設けられている。モーター軸6Aの先端は、角が削られた四角柱になっていて、カップリング8の凹部8Cに挿嵌される。モーター軸6Aとの連結部8Bは、弾性変形することで、モーター軸6Aとウォーム軸14との間に角度ずれや軸ずれが存在する場合も、図4で示すカップリング8上の点Sを中心にウォーム軸14が傾くので、その軸ずれや角度ずれを許容することが出来る。モーター6の駆動力は、モーター軸6Aより、カップリング8を介して、ウォーム軸14に伝達される。よってモーター6が駆動することで、台座1にネジ12Aで固定されたウォームホイール4に駆動力が伝達され、ヘッド2が回動する。
【0015】
次に図7、図8を用いて、モーター軸6Aとウォーム軸14の同軸度について説明する。図7は、ヘッド2に取付け前の駆動ユニットzの状態を表す図である。ヘッド2に取付け前は、板ばね10は付勢されず、ウォーム軸14は図7で示されるように、点Sを支点にモーター軸6Aに対して角度θ1傾いた状態となる。
【0016】
次に図8は、ヘッド2に取付け後の駆動ユニットzの状態を表す図である。ヘッド2に取付け後、ウォームホイール4によりウォーム5がF3方向に押されることで、ウォーム軸14は角度θ1傾くので、モーター軸6Aと略同軸の関係となる。
【0017】
上記のように構成した実施例1の形態において、ウォームホイール4に対し、ウォーム5は板ばね10の付勢力によって、常にF2方向に押し付けられるために、バックラッシュは自動的に零に維持される。また、スプリング11とE型止め輪15によって、ウォーム軸14のスラスト方向の動きが規制されているために、ウォーム軸14と保持具9のガタによるバックラッシュも自動的に零に維持される。また駆動ユニットzは、ヘッド2に取付け前と、取付け後で、モーター軸6Aとウォーム軸14との同軸度が変化し、ヘッド2に取付け後に略同軸になるように構成されている。ウォーム軸14はカップリング8上の点Sを支点に傾くので、駆動時のウォーム5とウォームホイール4の偏心によって生じるウォーム軸14の傾きに対して、カップリング8の径方向の変位が小さくなる。そのためモーター6からの駆動力を、カップリング8を介して、ウォーム5にムラなく伝達するようになるため、なめらかな動作が可能となる。またカップリング8や、軸受13A、軸受13Bへの駆動負荷が軽減するので、駆動ユニットzの耐久性向上に繋がる。さらにウォーム5とカップリング8の間に配置される軸受13Bの外輪と、保持具9の穴9Aとの間に、軸受13Bが径方向に移動可能な隙間を設けてもよい。
【0018】
図9は図4のD部詳細図で、保持具9の穴9Aと、軸受13Bの外輪との間に隙間sを設けた図である。ウォーム軸14は、モーター軸6Aと、軸受13A、軸受13Bの三か所で支持されているので、カップリング8によって許容しきれない軸ずれや角度ずれが生じた場合に、カップリング8や、軸受13A、軸受13Bに大きな駆動負荷が生じる。よってカップリング8が許容しきれない軸ずれ、角度ずれを、隙間sで許容することで、カップリング8や、軸受13A、軸受13Bへの駆動負荷を軽減することが出来る。
【0019】
[実施例2]
以下、図10から図12を参照して、本発明の第2の実施例による、ウォーム減速機構の保護機能について説明する。本実施例は、実施例1の形態の変形例であり、雲台装置の駆動方向に外力が加えられた場合に、ウォーム減速機構を保護するための構造を説明する。実施例1の形態と同様な箇所、部材には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0020】
図10は、図2のヘッド2内のパン駆動部において、ストッパー20を加えた図である。ストッパー20は、モーター取付け筐体7にネジ12Eのネジ頭と隙間tもって取り付けられている。隙間tは、ウォーム5の歯丈よりも小さくなっている。このことから、板ばね10がV1方向に撓んでも、ウォーム5とウォームホイール401の歯が外れるよりも先に、ストッパー20にネジ12Eのネジ頭が接触するので、板ばね10が隙間t以上撓むことを規制している。
【0021】
次に図11を用いて、ウォームホイール401の取付け構造を説明する。図11は、図10のE−E断面図である。図示しない三脚に支持されている台座101より先端にDカット面101Bを持つ、軸101Aが突設し、ワッシャ21と挟み込んで軸受20Aと軸受20Bの内輪を固定している。軸受20Aと軸受20Bの外輪はヘッド2の面2Aと、押え環22の面22Aで挟み込んで固定している。ウォームホイール401は、摩擦部材23を介して、Dカットワッシャ24で挟み込んでいるので、ウォームホイール401の回転方向に摩擦力が加わるようになっている。Dカットワッシャ24の上部には、ウェーブワッシャ25を介して、押え部材26がネジ27によって固定されている。このとき、ウェーブワッシャ25は弾性変形した状態になっており、その復元力によってウォームホイール401と摩擦部材23の間に摩擦力が発生する。本実施例においては、摩擦力は板ばね10が隙間t撓むよりも、大きな力が発生するように設定されている。
【0022】
次に図12を用いて、ウォーム減速機構の保護機能の機構を説明する。図12は図10の状態より、図1に示すヘッド2の点Rに、力F4がヘッド2の回転方向に加えられたときの図である。力F4が加えられると、ウォーム5にはウォームホイール401の噛み合い部より力F5が発生する。またウォームホイール401にも、F5と同じ大きさで逆方向の力F6が発生する。ウォーム5へ、力F5が発生することで、板ばね10はV2方向へ撓む。このとき力F4が、板ばね10が隙間t撓むのに必要な力より大きな場合、ネジ12Eのネジ頭がストッパー20に接触する。また力F4が、ウォームホイール401と摩擦部材23より発生する摩擦力より大きな場合、ネジ12Eのネジ頭がストッパー20に接触後、ウォームホイール401は力F4方向に摩擦力に抗して回転することになる。
【0023】
上記のように構成した実施例2の形態において、ストッパー20は、板ばね10の撓み量を規制しているために、ウォームホイール401とウォーム5の歯の噛み合わせが外れるのを防止している。またウォームホイール401を摩擦部材23によって固定しているために、前記摩擦力以上の外力が作用した場合にも、台座101に対して、ウォームホイール401が摩擦部材23を介して滑る構造となっている。このことより、風や外力が雲台装置に作用した場合にも、ウォームホイール401とウォーム5の歯に摩擦力以上の力がかかることを防止し、歯の破損を防ぐことが出来る。
【0024】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0025】
4 ウォーム
5 ウォームホイール
6 モーター
6A モーター軸
7 モーター取付け筐体
8 カップリング
9 保持具
10 板ばね
11 スプリング
13A 軸受
13B 軸受
14 ウォーム軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォームとウォームホイールとからなる、ウォーム減速機構において、
ウォームホイールを軸支する第1の筐体と、第1の筐体上に固定される第2の筐体とからなり、
第2の筐体には、モーターと、モーター軸と、ウォームと、ウォームと一体的に回転するウォーム軸と、ウォーム軸を回動自在に支持する2つの軸受と、軸受を介してウォーム軸を保持するウォーム保持具と、ウォーム軸を軸方向に付勢する第1の付勢部材と、モーター軸からウォーム軸に回転を伝達し、少なくとも角度と軸ずれを許容する可撓性カップリングと、一端を第2の筐体に、対向するもう一端をウォーム保持具に固定され、ウォーム軸とウォームホイールの回転軸とそれぞれ平行な面をなす、少なくとも1つの可撓性材料からなる第2の付勢部材とを備え、
ウォーム軸は、モーター軸に対して可撓性カップリングを支点に傾くことを特徴とするウォーム減速機構。
【請求項2】
第2の状態のモーター軸とウォーム軸との関係は、第1の状態のモーター軸とウォーム軸との関係より、平行度と同軸度が高いことを特徴とする請求項1に記載のウォーム減速機構。
【請求項3】
ウォームとカップリングの間に配置される軸受の外輪と、ウォーム保持具の穴との間には、軸受が径方向に移動可能な隙間が設けられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のウォーム減速機構。
【請求項4】
ウォームホイールからの反力を受けてウォームが逃げる方向にはウォーム保持具と当接するようにストッパーが設けられ、ウォーム保持具とストッパーとの間隔は、ウォームの歯たけより小さい間隔であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のウォーム減速機構。
【請求項5】
ウォームホイールと出力軸の間にはフリクション機構が設けられ、外力により出力軸から力が伝達された場合、ストッパー、フリクションの順に保護機能が働くよう、付勢部とフリクション力の力が設定される請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のウォーム減速機構。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載のウォーム減速機構を用いた雲台装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−251601(P2012−251601A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124739(P2011−124739)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】