説明

ウレアーゼ阻害剤

【課題】 ウレアーゼが有する活性をより効果的に阻害するとともに、生体に対する安全性が向上し、かつその原材料の入手が容易である、ウレアーゼ阻害剤を提供すること。
【解決手段】 食品分野、医薬品分野あるいは化成品分野等で利用可能な、ウレアーゼ阻害剤が開示されている。本発明の血管新生抑制剤は、褐藻類こんぶ目こんぶ科のマコンブ、褐藻類こんぶ目ちがいそ科のアラメ、サガラメ、ツルアラメ、クロメ、カジメ、ワカメ、アオワカメ、ヒロメ、アイヌワカメ、およびチガイソ;褐藻類ひばまた目ほんだわら科のホンダワラ、ヒジキ、およびアカモク;褐藻類まがまつも目もずく科のモズクおよびオキナワモズク;および、紅藻類スギノリ目すぎのり科に属する海藻;からなる群より選択される少なくとも1種の海藻由来の抽出物を有効成分として含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウレアーゼ阻害剤に関し、より詳細には、尿素の加水分解を触媒し、アンモニアの産生を促すウレアーゼの活性を効果的に阻害する、ウレアーゼ阻害に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレアーゼは尿素の加水分解を触媒し、アンモニアを産生させる酵素である。ウレアーゼが有するこのような活性は、種々の局面において問題を来たすと言われている。
【0003】
一つの問題として、胃炎が指摘されている。胃の中に生存するヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori;H.pylori)は、それ自身が有するウレアーゼによって、尿素をアンモニアに分解し、その結果としてH.pylori陽性者は陰性者に比べて胃液中のアンモニア濃度が有意に高く、これによって胃粘膜が傷害される危険性が指摘されている。実際の臨床においては、胃液中のアンモニア濃度と胃炎スコアとの間には有意な相関性が認められることが報告されている。また、インビトロにおいても胃上皮細胞に対するアンモニア傷害が証明されている。そこで、H.pylori陽性胃炎または胃潰瘍患者において予測される長期アンモニア曝露による胃粘膜傷害の治療薬として、ウレアーゼ阻害薬の開発が考えられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
他の問題として、肝硬変に基づく肝性昏睡が指摘されている。肝性昏睡は、肝硬変等の肝障害時に認められる意識障害であり、主因子はアンモニアであると考えられている。肝臓において合成された尿素の約70%はそのまま腎臓を経て尿中に排泄され、残りの約30%の尿素は消化管内に分泌される。消化管内に分泌された尿素が消化管内に存在するウレアーゼによって分解されるとアンモニアが生成される。その後、生成されたアンモニアは生体内に吸収され、その大部分は肝臓にて尿素に再合成される。しかし、肝硬変等の肝疾患を患った患者の場合、肝臓における尿素合成能が低下しているため、血中アンモニア濃度が上昇し、意識障害(肝性昏睡)に発展し得ることが考えられている。このように肝性昏睡の原因がアンモニアであり、血中アンモニア濃度増大の原因の一つとして消化管ウレアーゼが指摘されている点から、ウレアーゼの阻害が肝性昏睡の治療に有効であると考えられている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
さらに他の問題として、オムツ臭いおよびオムツかぶれが指摘されている。糞便中に存在するウレアーゼは尿中の尿素を分解し、アンモニアを産生させる。オムツの中で糞便と尿とが混合されると、ウレアーゼと尿素との反応によりアンモニアが産生され、それが大気中に拡散して悪臭を放つ。また、産生されるアンモニアによって皮膚pHが上昇し、糞便中のプロテアーゼやリパーゼを活性化させ、オムツかぶれを誘発させることが知られている。このようなアンモニア臭およびオムツかぶれを抑制または防止するために、特許文献2は、フラボン類、フラボノール類、ジヒドロフラボノール類、カテキン類などの化合物を有効成分として含有するアンモニア臭抑制剤およびオムツかぶれ防止剤を開示している。
【0006】
上記のように種々の問題が指摘されている一方、ウレアーゼの活性を阻害する目的で、様々なウレアーゼ阻害剤が提案かつ開発されている。代表的なウレアーゼ阻害剤としては、例えば、ベンツイミダゾール系化合物を用いるもの(特許文献3)、カルボスチル誘導体を用いるもの(特許文献4)、ジチオジベンゾヒドロキサム酸誘導体を用いるもの(特許文献5)、イソチアゾール誘導体を用いるもの(特許文献6)、ルスカスなどの植物抽出物を用いるもの(特許文献7)、ダイオウ属等の植物抽出物を用いるもの(特許文献8)、およびアカシア属等の植物抽出物を用いるもの(特許文献9)が挙げられる。
【0007】
しかし、上記のような成分を用いるウレアーゼ阻害剤は、生体に対する副作用有無の点で、すべてが必ずしも安全とはいえず、かつ植物抽出物由来の成分を用いるウレアーゼ阻害剤においては、工業生産に際し、原料となる植物体自体の入手が比較的容易であるか否か、かつウレアーゼの活性に対して効果的な阻害効果を有しているか否かを考慮すれば、この点で未だ充分とは言い難い。
【0008】
【非特許文献1】高橋ら、「アルサー・リサーチ(Ulcer Research)」,2003年,第30巻,第2号,pp.106−109
【特許文献1】特開平6−256375号公報
【特許文献2】特開2004−091338号公報
【特許文献3】特開平7−025767号公報
【特許文献4】特開平7−101862号公報
【特許文献5】特開平10−316651号公報
【特許文献6】特開2001−247462号公報
【特許文献7】特開平8−019595号公報
【特許文献8】特開2000−154145号公報
【特許文献9】特開2002−029978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、ウレアーゼが有する活性をより効果的に阻害するとともに、生体に対する安全性が向上し、かつその原材料の入手が容易である、ウレアーゼ阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、褐藻類こんぶ目こんぶ科のマコンブ(Laminaria japonica)、褐藻類こんぶ目ちがいそ科のアラメ(Eisenia bicyclis)、サガラメ(Eisenia arborea)、ツルアラメ(Ecklonia stlonifera)、クロメ(Ecklonia kurome)、カジメ(Ecklonia cava)、ワカメ(Undaria pinnatifida)、アオワカメ(Undaria peterseniana)、ヒロメ(Undaria undarioides)、アイヌワカメ(Alaria praelomga)、およびチガイソ(Alaria crassifolia);褐藻類ひばまた目ほんだわら科のホンダワラ(Sargassum fuluvellum)、ヒジキ(Hizikia fusiforme)、およびアカモク(Sargassum horneri);褐藻類まがまつも目もずく科のモズク(Nemacystus decipieus)およびオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus);および、紅藻類スギノリ目すぎのり科に属する海藻;からなる群より選択される少なくとも1種の海藻由来の抽出物を有効成分として含有する、ウレアーゼ阻害剤である。
【0011】
1つの実施形態では、上記抽出物は、上記海藻を水で抽出して得られた水粗抽出物を含有する、50(v/v)%以上のC1〜C3アルコール液の上清由来のもの、あるいは該海藻を10(v/v)%以上のC1〜C3アルコールまたはアルコール水溶液中で抽出して得られたアルコール抽出物由来のものである。
【0012】
さらなる実施形態では、上記抽出物は、上記上清または上記アルコール抽出物を濃縮し、かつ40(v/v)%以上のC1〜C3アルコールまたはアルコール水溶液を溶出液として用いるカラムクロマトグラフィーにかけることにより得られた画分由来のものである。
【0013】
さらに別の実施形態では、上記カラムクロマトグラフィーに用いる吸着剤はスチレン−ジビニルベンゼン系吸着剤である。
【0014】
本発明はまた、フロロタンニンを有効成分として含有する、ウレアーゼ阻害剤である。
【0015】
1つの実施形態では、上記フロロタンニンは海藻由来のものである。
【0016】
本発明はまた、ウレアーゼ阻害剤の製造方法であって、
褐藻類こんぶ目こんぶ科のマコンブ(Laminaria japonica)、褐藻類こんぶ目ちがいそ科のアラメ(Eisenia bicyclis)、サガラメ(Eisenia arborea)、ツルアラメ(Ecklonia stlonifera)、クロメ(Ecklonia kurome)、カジメ(Ecklonia cava)、ワカメ(Undaria pinnatifida)、アオワカメ(Undaria peterseniana)、ヒロメ(Undaria undarioides)、アイヌワカメ(Alaria praelomga)、およびチガイソ(Alaria crassifolia);褐藻類ひばまた目ほんだわら科のホンダワラ(Sargassum fuluvellum)、ヒジキ(Hizikia fusiforme)、およびアカモク(Sargassum horneri);褐藻類まがまつも目もずく科のモズク(Nemacystus decipieus)およびオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus);および、紅藻類スギノリ目すぎのり科に属する海藻;からなる群より選択される少なくとも1種の海藻を、水で抽出して水粗抽出物を得る工程;
該水粗抽出物に、C1〜C3アルコールまたはC1〜C3アルコール水溶液と合わせて、50(v/v)%以上の該アルコールを含有するC1〜C3アルコール液を得る工程;ならびに
該C1〜C3アルコール液の上清を分取する工程;
を包含する、方法である。
【0017】
1つの実施形態では、さらに、上記上清を濃縮して、該上清の濃縮物を得る工程;および該上清の濃縮物を、40(v/v)%以上のC1〜C3アルコールまたはアルコール水溶液を溶出液として用いるカラムに通す工程;を包含する。
【0018】
さらなる実施形態では、上記カラムはスチレン−ジビニルベンゼン系吸着剤を含有する。
【0019】
本発明はまた、ウレアーゼ阻害剤の製造方法であって、
褐藻類こんぶ目こんぶ科のマコンブ(Laminaria japonica)、褐藻類こんぶ目ちがいそ科のアラメ(Eisenia bicyclis)、サガラメ(Eisenia arborea)、ツルアラメ(Ecklonia stlonifera)、クロメ(Ecklonia kurome)、カジメ(Ecklonia cava)、ワカメ(Undaria pinnatifida)、アオワカメ(Undaria peterseniana)、ヒロメ(Undaria undarioides)、アイヌワカメ(Alaria praelomga)、およびチガイソ(Alaria crassifolia);褐藻類ひばまた目ほんだわら科のホンダワラ(Sargassum fuluvellum)、ヒジキ(Hizikia fusiforme)、およびアカモク(Sargassum horneri);褐藻類まがまつも目もずく科のモズク(Nemacystus decipieus)およびオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus);および、紅藻類スギノリ目すぎのり科に属する海藻;からなる群より選択される少なくとも1種の海藻を、10(v/v)%以上のC1〜C3アルコールまたはアルコール水溶液で抽出してアルコール抽出物を得る工程;
を包含する、方法である。
【0020】
1つの実施形態では、さらに、上記アルコール抽出物を濃縮して、該アルコール抽出物の濃縮物を得る工程;および該アルコール抽出物の濃縮物を、40(v/v)%以上のC1〜C3アルコールまたはアルコール水溶液を溶出液として用いるカラムに通す工程;を包含する。
【0021】
さらなる実施形態では、上記カラムはスチレン−ジビニルベンゼン系吸着剤を含有する。
【0022】
本発明はまた、海藻由来の抽出物を有効成分として含有する、ウレアーゼの活性を阻害するための食品である旨を表示を付した飲食物であって、該海藻由来の抽出物が、褐藻類こんぶ目こんぶ科のマコンブ(Laminaria japonica)、褐藻類こんぶ目ちがいそ科のアラメ(Eisenia bicyclis)、サガラメ(Eisenia arborea)、ツルアラメ(Ecklonia stlonifera)、クロメ(Ecklonia kurome)、カジメ(Ecklonia cava)、ワカメ(Undaria pinnatifida)、アオワカメ(Undaria peterseniana)、ヒロメ(Undaria undarioides)、アイヌワカメ(Alaria praelomga)、およびチガイソ(Alaria crassifolia);褐藻類ひばまた目ほんだわら科のホンダワラ(Sargassum fuluvellum)、ヒジキ(Hizikia fusiforme)、およびアカモク(Sargassum horneri);褐藻類まがまつも目もずく科のモズク(Nemacystus decipieus)およびオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus);および、紅藻類スギノリ目すぎのり科に属する海藻;からなる群より選択される少なくとも1種の海藻由来の抽出物である、飲食物である。
【0023】
本発明はまた、ウレアーゼの活性を阻害するための食品である旨の表示を付した飲食物であって、フロロタンニンを有効成分として含有する、飲食物である。
【0024】
1つの実施形態では、上記フロロタンニンが海藻由来のものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、尿素の加水分解を触媒しアンモニアを産生させるというウレアーゼの活性をより効果的に阻害するとともに、生体に対する安全性をも向上させることができる。このため、本発明のウレアーゼ阻害剤は日常的な使用がより可能となり、食品分野、医薬分野などの種々の分野における汎用性を高めることができる。本発明のウレアーゼ阻害剤はまた、胃炎、肝硬変に基づく肝性昏睡、オムツ臭い・オムツかぶれのような、ウレアーゼが触媒して尿素をアンモニアに分解することより生じ得る各種疾患等の予防または治療の目的に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
まず、本発明の第一のウレアーゼ阻害剤について説明する。
【0027】
本発明の第一のウレアーゼ阻害剤は、海藻由来の抽出物を有効成分として含有する。
【0028】
本発明に用いられる海藻の例としては、褐藻類のこんぶ目こんぶ科、褐藻類こんぶ目ちがいそ科、褐藻類ひばまた目ほんだわら科、褐藻類ながまつも目もずく科、または紅藻類スギノリ目すぎのり科に属する海藻が挙げられる。
【0029】
上記海藻に包含される、具体的な例としては、褐藻類こんぶ目こんぶ科のマコンブ(Laminaria japonica)、褐藻類こんぶ目ちがいそ科のアラメ(Eisenia bicyclis)、サガラメ(Eisenia arborea)、ツルアラメ(Ecklonia stlonifera)、クロメ(Ecklonia kurome)、カジメ(Ecklonia cava)、ワカメ(Undaria pinnatifida)、アオワカメ(Undaria peterseniana)、ヒロメ(Undaria undarioides)、アイヌワカメ(Alaria praelomga)、およびチガイソ(Alaria crassifolia);褐藻類ひばまた目ほんだわら科のホンダワラ(Sargassum fuluvellum)、ヒジキ(Hizikia fusiforme)、およびアカモク(Sargassum horneri);褐藻類まがまつも目もずく科のモズク(Nemacystus decipieus)およびオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus);ならびに紅藻類スギノリ目すぎのり科に属する海藻;が挙げられる。本発明に用いられる海藻としては、特に、海藻自体の生産量が比較的多く入手が容易であり、かつ後述するウレアーゼに対する阻害作用を有する抽出物の画分がより得られ易いという理由から、アラメ、クロメ、ワカメ、ヒジキが好ましい。
【0030】
本明細書において、海藻とは、これらの海藻の全草自体、あるいは根、茎、および葉を包含する少なくとも一つの部位を包含していう。本発明に用いられる海藻の形態は、未加工のもの、断片、細片または粉末を包含する。さらに、本発明に用いられる海藻は、乾燥物または生の状態のもののいずれをも包含する。
【0031】
また、本発明において、抽出物とは、上記のような海藻を、水、極性または非極性の溶媒、あるいはこれらの混合物を抽出溶媒として用い適切な条件で抽出された抽出物を意味する。抽出物の形態は特に限定されず、抽出液、あるいは当該抽出液を当業者が通常用いる手段により濃縮または乾燥して得られる粉末またはペースト状物も含まれる。
【0032】
本発明に用いられる海藻由来の抽出物は、好ましくは(1)上記海藻を水で抽出して得られた水粗抽出物を含有する、50(v/v)%以上のC1〜C3アルコール液の上清由来のもの;であるか、あるいは(2)上記海藻を、10(v/v)%以上のC1〜C3アルコールまたはアルコール水溶液中で抽出して得られたアルコール抽出物由来のもの;である。
【0033】
本発明に用いられ得る上記(1)「海藻を水で抽出して得られた水粗抽出物を含有する、50(v/v)%以上のC1〜C3アルコール液の上清由来のもの」は、上記海藻を、後述するような操作を通じて水中で一旦抽出して水粗抽出物を得た後、次いで、これにC1〜C3アルコールまたはC1〜C3アルコール水溶液と合わせた、80%(v/v)%以上のC1〜C3アルコール液から、上清を分取して得ることができる。C1〜C3アルコールの例としては、メタノール、エタノール、およびプロパノールが挙げられる。
【0034】
他方、本発明に用いられ得る上記(2)「海藻を、10(v/v)%以上のC1〜C3アルコールまたはアルコール水溶液中で抽出して得られたアルコール抽出物由来のもの」は、上記海藻を、後述するような操作を通じてC1〜C3アルコールそのもの、あるいは所定濃度(好ましくは10(v/v)%〜80(v/v)%、より好ましくは15(v/v)%〜50(v/v)%)に調整されたC1〜C3アルコール水溶液中で抽出することにより得ることができる。C1〜C3アルコールの例としては、メタノール、エタノール、およびプロパノールが挙げられる。
【0035】
本発明のウレアーゼ阻害剤において、上記海藻由来の抽出物は、当該抽出物に含まれる固形分の重量を基準として、フロロタンニンを好ましくは10%以上、より好ましくは15%〜100重量%、さらにより好ましくは30重量%〜99重量%、さらにより好ましくは60重量%〜99重量%の割合で含有する。ここで、本明細書中に用いられる用語「抽出物に含まれる固形分の重量」とは、上記抽出物から、当該抽出物に含まれる液体成分を取除く(例えば、蒸発させる)ことにより、固体成分として残存し得る物質の重量を指して言う。当該抽出物がこのような範囲でフロロタンニン含量を満足することにより、ウレアーゼに対する阻害作用は著しく向上する。なお、本明細書中に用いられる用語「フロロタンニン」とは、一般に海藻タンニンとも呼ばれるポリフェノールの一種であり、フロログルシノールを基本骨格単位とする、フロロタンニン類全体を包含する化合物を指して言う。本発明に用いられ得るフロロタンニンは、1種の当該フロロタンニン類または複数の当該フロロタンニン類でなる混合物のいずれをも包含する。
【0036】
次に、本発明の第二のウレアーゼ阻害剤について説明する。
【0037】
本発明の第二のウレアーゼ阻害剤は、海藻由来の抽出物を有効成分として含有し、該抽出物は該抽出物に含まれる固形分の重量を基準としてフロロタンニンを10重量%以上、好ましくは15重量%〜100重量%、より好ましくは30重量%〜99重量%、さらにより好ましくは60重量%〜99重量%の割合で含有する。
【0038】
本発明の第二のウレアーゼ阻害剤は、海藻中に含まれるフロロタンニンが上記範囲の含有量を満足する限り、使用され得る海藻の種類は特に限定されない。本発明の第二のウレアーゼ阻害剤に含まれる抽出物として使用可能な海藻の例としては、褐藻類または紅藻類に属する海藻が挙げられる。また、これら褐藻類または紅藻類のより具体的な例としては、褐藻類のこんぶ目こんぶ科、褐藻類こんぶ目ちがいそ科、褐藻類ひばまた目ほんだわら科、褐藻類ながまつも目もずく科、または紅藻類スギノリ目すぎのり科に属する海藻が挙げられるが、これらもまた特に限定されない。
【0039】
本発明の第二のウレアーゼ阻害剤に用いられ得る海藻のさらに具体的な例としては、上記本発明の第一のウレアーゼ阻害剤に用いられる海藻と同様のものが包含される。
【0040】
本発明の第一および第二のウレアーゼ阻害剤において、当該阻害剤に用いられる海藻由来の抽出物は、特に限定されないが、例えば、以下の第一の方法または第二の方法を用いて製造することができる。
【0041】
本発明の第一の方法について説明する。
【0042】
第一の方法においては、まず、上記海藻を水中に所定時間浸漬することにより、水粗抽出物が製造される。
【0043】
この浸漬における当該海藻と水との量比(抽出容量)は特に限定されないが、例えば、海藻100g(乾燥重量)に対して、好ましくは1リットル〜10リットル、より好ましくは2リットル〜5リットルの水が使用される。
【0044】
使用される水は、例えば、室温の(特に加熱も冷却もなされていない)水または熱水であり、特に熱水を用いる場合、その温度(抽出温度)は、好ましくは60℃〜100℃、より好ましくは80℃〜100℃、さらにより好ましくは90℃〜100である。なお、上記海藻を浸漬している間は、本発明に用いられる有効成分がより抽出されやすくする目的で、熱水の温度を低下させることのないよう、当業者に公知の手段を用いて加熱することにより温度を維持することが好ましい。
【0045】
水中に浸漬する時間(抽出時間)は、使用する抽出温度によって変化するため、必ずしも限定されないが、例えば、熱水をほぼ100℃に維持する場合、好ましくは1分〜120分、より好ましくは10分〜60分である。抽出時間をこのような範囲内で行うことにより、本発明に用いられる有効成分がより効率良く抽出され得るとともに、不要物の過度の抽出を防止することができる。
【0046】
上記浸漬の後、例えば、室温まで放冷され、濾過または遠心分離により海藻が取り除かされる。こうして水粗抽出物を得ることができる。なお、得られた水粗抽出物は、その後、予め不純物を除去する目的で、ヘキサン、クロロホルムなどの有機溶媒と合わせ、有機層が取り除かれた水層由来のものであってもよい。さらに、得られた水粗抽出物は、後述の工程に対し、そのまま用いられてもよく、あるいは必要に応じ、当業者に公知の手段を用いて水分を蒸発させた乾固物またはペースト状物の形態で用いられてもよい。
【0047】
次いで、当該水粗抽出物に上記C1〜C3アルコールまたはC1〜C3アルコール水溶液が合わされ、好ましくは50(v/v)%以上、より好ましくは60(v/v)%〜98(v/v)%の当該アルコール濃度を有するC1〜C3アルコール液が調製される。ここで、調製され得るC1〜C3アルコール液の濃度は、好ましくはこのような範囲において、当業者によって任意の濃度に設定され得る。すなわち、使用する海藻の種類、使用部位、産地、採取時期、採取後の保存状態等によって、本発明において有用な、ウレアーゼを阻害する成分の含量が変動することがある。また、後述する一連の抽出操作においても、得られる成分含量に誤差が生じることもある。よって、当業者は、このような条件に応じて、当該調製され得るアルコール液の濃度を好ましくはこのような範囲内で任意に設定することができる。
【0048】
より具体的には、当該水粗抽出物を、1個〜3個の炭素原子を有するアルコールまたは所定濃度に調製された1個〜3個の炭素数を有するアルコール水溶液(含水アルコール)と合わすことにより、上記のようなアルコール濃度を有するアルコール液が調製される。このような操作において使用可能な1個〜3個の炭素原子を有するアルコールの例としては、メタノール、エタノールおよびプロパノール、ならびにそれらの組合わせが挙げられる。生体に対する安全性をさらに向上させることを考慮すれば、エタノールを用いることが好ましい。このようなアルコールまたは含水アルコールの使用量は、合わせる水粗抽出物の量によって変化するため特に限定されない。
【0049】
その後、このC1〜C3アルコール液の上清が分取される。
【0050】
上記アルコール濃度に設定されたアルコール液を調製することにより、当該アルコール液に不溶な物質が沈殿する場合がある。上清の分取はこの沈殿物を除去する目的で行われ、上清は当業者に周知の方法(例えば、濾過または遠心分離)によって取り出すことができる。
【0051】
次に本発明の第二の方法について説明する。
【0052】
本発明の第二の方法においては、上記海藻を10(v/v)%以上のC1〜C3アルコールまたはアルコール水溶液中に所定時間浸漬することにより抽出が行われ、アルコール抽出物が製造される。
【0053】
上記に使用されるC1〜C3アルコールまたはアルコール水溶液は、好ましくは10(v/v)%〜80(v/v)%、より好ましくは15(v/v)%〜50(v/v)%に設定されたC1〜C3アルコール水溶液であることが好ましい。
【0054】
この浸漬における当該海藻と熱水との量比(抽出容量)は特に限定されないが、例えば、海藻100g(乾燥重量)に対して、好ましくは0.5リットル〜5リットル、より好ましくは0.5リットル〜2リットル,さらにより好ましくは1リットルの上記C1〜C3アルコールまたはアルコール水溶液が使用される。
【0055】
使用されるアルコールの温度(抽出温度)は特に限定されないが、好ましくは0℃〜50℃、より好ましくは1℃〜30℃であり、さらにより好ましくは15℃〜25℃である。
【0056】
上記C1〜C3アルコールまたはアルコール水溶液に浸漬する時間(抽出時間)は、好ましくは2時間〜48時間、より好ましくは4時間〜24時間である。抽出時間をこのような範囲内で行うことにより、本発明に用いられる有効成分がより効率良く抽出され得るとともに、不要物の過度の抽出を防止することができる。
【0057】
上記浸漬の後、遠心分離または濾過により海藻が取り除かされる。こうしてアルコール抽出物を得ることができる。なお、得られたアルコール抽出物は、その後、予め不純物を除去する目的で、ヘキサン、クロロホルムなどの有機溶媒と合わせ、有機層が取り除かれた水層由来のものであってもよい。さらに、得られたアルコール抽出物は、後述の精製工程に対し、そのまま用いられてもよく、あるいは必要に応じ、当業者に公知の手段を用いてアルコール分あるいは水分を蒸発させた濃縮物の形態で用いられてもよい。
【0058】
このようにして、上記第一の方法および第二の方法のいずれを用いても、本発明に用いられる海藻由来の抽出物を製造することができる。なお、得られた海藻由来の抽出物は、本発明におけるウレアーゼ阻害作用を高める目的で精製が行われてもよい。この精製は、例えば、上記で得られた上清を、当業者に周知の手段を用いて濃縮することにより濃縮物を得た後、好ましくは40(v/v)%〜90(v/v)%、より好ましくは50(v/v)%〜80(v/v)%のC1〜C3アルコール(好ましくはエタノール)水溶液を溶出液として用いるカラムに通すことによって行われる。このカラムクロマトグラフィーに有用な吸着剤は、好ましくは芳香族系吸着剤であり、より具体的な例としては、スチレン−ジビニルベンゼン系吸着剤が挙げられる。スチレン−ジビニルベンゼン系吸着剤は、例えば、ダイヤイオンHP20という商品名で三菱化学(株)より市販されている。
【0059】
上記クロマトグラフィーを行うことにより、よりウレアーゼ阻害作用が高められた画分を抽出することができる。得られた画分は、本発明のウレアーゼ阻害剤としてそのまま使用することができる。
【0060】
本発明のウレアーゼ阻害剤は、経口による投与または摂取を目的としたもの、あるいは皮膚外用剤を目的としたもののいずれの目的にも使用することができる。また、本発明のウレアーゼ阻害剤は、例えば、衛生用品(例えば、紙オムツ、生理用品、ウェットティッシュ)等における、消臭または防臭用の添加剤、および/またはかぶれまたは肌荒れ防止のための添加剤として使用することができる。本発明のウレアーゼ阻害剤は、このような衛生用品のみに限定されず、尿素からウレアーゼの作用によってアンモニアが発生する場所において、その発生またはその発生により生じる不快臭(アンモニア臭)の防止または低減、あるいは皮膚に接触して生じる皮膚障害の抑制または低減のために使用することができる。
【0061】
本発明のウレアーゼ阻害剤はまた、有効成分である上記海藻由来の抽出物以外に、目的に応じて他の成分を含有していてもよい。本発明に含有され得る他の成分の例としては、水;アルコール;食肉加工品;米、小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、スイートポテト、大豆、コンブ、ワカメ、テングサなどの一般食品材料およびそれらの粉末;デンプン、水飴、乳糖、グルコース、果糖、スクロース、マンニトールなどの糖類;香辛料、甘味料、食用油、ビタミン類などの一般的な食品添加物;界面活性剤;賦形剤;着色料;保存料;コーティング助剤;ラクトース;デキストリン;コーンスターチ;ソルビトール;結晶性セルロース;ポリビニルピロリドン;油分;保湿剤;増粘剤;防腐剤;香料;ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。本発明のウレアーゼ阻害剤はさらに、必要に応じて他の薬剤(漢方薬を包含する)を含有していてもよい。このような他の成分および/または他の薬剤の含有量は、特に限定されず、当業者によって適切な量が選択され得る。
【0062】
さらに、本発明のウレアーゼ阻害剤は、必ずしもインビボまたはインビトロのいずれに限定されることなく、さらにウレアーゼに対する活性を阻害させたい任意の用途において広範に利用され得る。すなわち、本発明のウレアーゼ阻害剤は、特に限定されないが、例えば、健康食品などの食品組成物に添加される添加物の一種として使用されてもよく、家畜または養殖魚などの生産分野に利用される飼料組成物として、そのままあるいは他の飼料用材料と組み合わせて使用されてもよく、あるいは医薬品、医薬部外品などの医薬組成物として、そのままあるいは他の医薬組成物と組み合わせて使用されてもよく、さらに、オムツ、ウェットティッシュ、生理用品等の衛生用品を構成する基材(化成品基材)に添加される添加物の一種として使用されてもよい。
【0063】
本発明のウレアーゼ阻害剤が食品組成物として使用される場合、その形態には固定食品に限定されず、飲料(例えば、液体飲料)のようなものを包含される。より具体的な例としては液状、ペースト状、固形状等の形態でなる、茶飲料、コーヒー飲料、清涼飲料、乳飲料、菓子類、シロップ類、果実加工品、野菜加工品、漬物類、畜肉製品、魚肉製品、珍味類、缶・ビン詰類、即席飲食物、内服液、肝油ドロップ、口中清涼剤、ゼリーなどが挙げられるが特にこれらに限定されない。本発明のウレアーゼ阻害剤を含有するこのような食品組成物は、当業者に公知の手法を用いて製造され得る。
【0064】
本発明のウレアーゼ阻害剤が外用剤として使用される場合、その形態は特に限定されず、液状、ゲル状、粉末状、等の形態で使用することができ、また、当該阻害剤をローション剤、スプレー剤、ムース剤等に配合することもできる。
【0065】
本発明のウレアーゼ阻害剤が化成品基材に対して使用される場合、使用可能な基材は特に限定されないが、例えば、織物、編物、不織布などの布帛;紙;吸水性プラスチックが挙げられる。
【0066】
なお、本発明のウレアーゼ阻害剤、あるいは上記海藻由来の抽出物および/またはフロロタンニンが食品組成物中に含有される場合、当該食品組成物は、各種機能を有する旨の表示を付した食品(例えば、特定保険用食品または特別用途食品)として使用することができる。このような表示に付される機能の例としては、表現方法自体は特に限定されないが、ウレアーゼの活性を阻害する;胃炎を予防する;胃の不快感を予防、解消または緩和する;胃の調子を整える;胃痛、胃の不快感など、胃の調子が気になる方に適した食品;肝性昏睡を予防または治療する;などが挙げられる。表示は、使用者にとって上記のような機能が実質的に理解され得る様式で表されておればよく、例えば、当該食品の外装または内装パッケージ、商品カタログ、ポスターなどに対して行われ得る。
【0067】
本発明のウレアーゼ阻害剤が医薬組成物として使用される場合、その投与剤形は特に限定されず、日本薬局方に記載の方法にしたがって適切な剤形に加工される。投与剤形のより具体的な例としては、経口投与を目的とする医薬組成物の場合、カプセル剤、錠剤、粉剤、顆粒剤、細粒剤、徐放剤、液剤などの剤形が挙げられ、そして非経口投与を目的とする医薬組成物の場合、注射剤、輸液剤、点眼剤、軟膏剤、クリーム剤、貼付剤などの剤形が挙げられる。用量は、対象となる者の体重等の条件によって容易に変動し得るため、当業者によって適宜選択され得る。
【0068】
本発明のウレアーゼ阻害剤は、その使用形態に応じて当該分野で通常用いる方法によって製造され、その形態に応じた方法で適宜に適量摂取または適用することができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例によって具体的に記述する。しかし、これらによって本発明は制限されるものではない。
【0070】
<実施例1:種々の海藻抽出物の製造とそれらのウレアーゼ阻害活性評価>
クロメ、ワカメ、ホンダワラ、アカモクおよびヒジキの乾燥粉末(5g)を、それぞれ25(v/v)%エタノール水溶液50ml中に添加し、室温にて24時間抽出した。次いで、遠心分離(3000rpm,20分間)することにより、各粗抽出物を分取し、ロータリーエバポレーターにて濃縮し、凍結乾燥して各海藻抽出物(k1)、(k2)、(k3)、(k4)および(k5)を得た。使用した当該海藻の乾燥粉末の重量に対する、各海藻抽出物の収率を表1に示す。
【0071】
<実施例2:種々の海藻抽出物のウレアーゼ阻害活性評価>
上記実施例1で得られた各種海藻抽出物(k1)、(k2)、(k3)、(k4)および(k5)を蒸留水で溶解し、蒸留水を用いて2倍段階で順次希釈し、当該海藻抽出物(k1)、(k2)、(k3)、(k4)および(k5)の希釈サンプル溶液列(Sk1)、(Sk2)、(Sk3)、(Sk4)および(Sk5)を得た。
【0072】
上記サンプル溶液(Sk1)、(Sk2)、(Sk3)、(Sk4)および(Sk5)をそれぞれ10μlづつマイクロプレートに入れ、そして当該マイクロプレートに、47.5U/mlのナタマメ由来のウレアーゼ(和光純薬工業(株)製)をそれぞれ10μlづつ添加し、37℃で10分間プレインキュベートした。次いで、各マイクロプレートに、尿素含有反応溶液(尿素107mgを10mLのリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解した溶液、サリチル酸ナトリウム2gおよび0.1gのニトロプルシドナトリウムを50mlのリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解した溶液の混合溶液でその容量比が1:7のもの)80μlを添加して、37℃で30分間インキュベートした。その後、各マイクロプレートに、アンモニア反応試薬(50mlのリン酸緩衝液(pH7.0)に50μlの次亜塩素酸と0.75gの水酸化ナトリウムとを溶解してなる溶液)80μlを添加し、25℃で10分間インキュベートした後、得られた各評価サンプル溶液(S’k1)、(S’k2)、(S’k3)、(S’k4)および(S’k5)の570nmにおける吸光度をそれぞれ測定した。
【0073】
一方、コントロールとして、各種海藻抽出物(k1)、(k2)、(k3)、(k4)または(k5)を添加しなかったこと以外は、上記評価方法と同様にして、コントロール評価を行った。さらに、ブランクとして、ウレアーゼ溶液の代わりに、10μlのリン酸緩衝液(pH7.0)を用いたこと以外は、上記評価方法と同様にして、ブランク評価を行った。
【0074】
上記で得られた評価サンプル溶液(S’k1)、(S’k2)、(S’k3)、(S’k4)および(S’k5)、コントロール評価溶液、ならびにブランク評価溶液の吸光度に対し、以下の式:
【0075】
【数1】

【0076】
を用いて、各種海藻抽出物(k1)、(k2)、(k3)、(k4)および(k5)のウレアーゼ阻害率(%)を算出し、各海藻抽出物の使用濃度と阻害率との関係から、使用したウレアーゼを50%阻害する各種海藻抽出物の濃度(IC50)を求めた。得られたIC50値を表1に示す。
【0077】
<実施例3:各種海藻抽出物中のフロロタンニンの定量>
上記実施例1で得られた各種海藻抽出物(k1)、(k2)、(k3)、(k4)および(k5)をそれぞれ10mgづつ正確に量りとり、各抽出物の総フロロタンニン量を、フロログルシノールを標準物質として用いるFolin−Denis法(日本食品科学工学会誌,2002年,第49巻,pp.507−511)により測定した。得られたそれぞれの総フロロタンニン量(%)を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
表1に示されるように、実施例1で得られた海藻抽出物はいずれも優れたウレアーゼ阻害活性を有していることがわかる。特に、クロメ抽出物は非常に優れたウレアーゼ阻害活性を有しており、より高含有量のフロロタンニンを有していることがわかる。
【0080】
<実施例4:クロメ抽出物(1)の製造>
乾燥クロメパウダー10gを量り取り、20倍容量の50(v/v)%エタノール水溶液で24時間抽出操作を行った。次いで、遠心分離(3000rpm,20分間)することにより、粗抽出物を分取し、ロータリーエバポレーターにて濃縮乾固してクロメ抽出物(A1)を得た。このクロメ抽出物(A1)に、120mlのメタノール、240mlのクロロホルムおよび90mlの蒸留水を順次添加し、分液して、上層を取り出した。その後、取り出された当該上層に、150mlの酢酸エチルを加え、分液して酢酸エチル層を得た。この酢酸エチルによる分液操作を2回行った。合わせた酢酸エチル層を、ロータリーエバポレーターで乾固し、乾固物(A2)を得た。この乾固物(A2)を蒸留水に再懸濁させ、凍結乾燥することにより、クロメ抽出物(1)0.30gを粉末品として得た。
【0081】
<実施例5:クロメ抽出物(2)の製造>
乾燥クロメパウダー10gを量り取り、20倍容量の50(v/v)%エタノール水溶液で24時間抽出操作を行った。次いで、濾過にて抽出液を回収し、これをエバポレーションして乾固して、乾固物(B1)を得た。得られた乾固物(B1)を少量の蒸留水に溶解させ、500mlのスチレン−ジビニルベンゼン吸着剤(三菱化学(株)製ダイヤイオンHP20)を含有するカラム(φ3.8cm×30cm)に充填し、溶出液として100(v/v)%のエタノール(1000ml)を用いて溶出し、粗画分を得た。次いで、粗画分をエバポレーションにて乾固し、乾固物(B2)を得た。この乾固物(B2)を蒸留水に再懸濁させ、凍結乾燥することにより、クロメ抽出物(2)0.55gを粉末品として得た。
【0082】
<実施例6:クロメ抽出物(3)の製造>
乾燥クロメパウダー10gを量り取り、20倍容量の蒸留水で24時間抽出操作を行った。次いで、遠心分離にて抽出液を回収し、これをエバポレーションにより濃縮して濃縮物(C1)を得た。次いで、濃縮液(C1)に、最終濃度が90%(v/v)となるようにC1に対して9倍容量の100%エタノールをゆっくりと添加して、得られた沈殿物を濾過にて除去し、エタノール可溶画分である、クロメ抽出物(3)1.3gを得た。
【0083】
<実施例7:各種クロメ抽出物のウレアーゼ阻害活性評価>
実施例1で得られた各種海藻抽出物の代わりに、実施例4、実施例5および実施例6で得られたクロメ抽出物(1)、(2)および(3)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、吸光度を測定し、クロメ抽出物(1)、(2)および(3)のウレアーゼ阻害率(%)を算出し、各種クロメ抽出物の使用濃度と阻害率の関係から、使用したウレアーゼを50%阻害する各種クロメ抽出物の濃度(IC50)を求めた。得られたIC50値を表2に示す。
【0084】
<実施例8:フロログルシノールのウレアーゼ阻害活性評価>
実施例1で得られた各種海藻抽出物の代わりにフロログルシノールを用いたこと以外は実施例2と同様にして、希釈したサンプル溶液列を調製し、ウレアーゼ阻害率(%)を算出し、フロログルシノールの使用濃度と阻害率との関係から、使用したウレアーゼを50%阻害する各種海藻抽出物の濃度(IC50)を求めた。得られたIC50値を表2に示す。
【0085】
<実施例9:クロメ抽出物中のフロロタンニンの定量>
実施例4、実施例5および実施例6で得られた各種クロメ抽出物(1)、(2)および(3)について、実施例3と同様の操作方法により、フロロタンニンの定量を行った。得られたそれぞれの総フロロタンニン量(%)を表2に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
表1および表2に示されるように、実施例1および実施例4〜6で得られたクロメ抽出物(k1)および(1)〜(3)は、いずれも優れたウレアーゼ阻害活性を有していることがわかる。さらに、実施例8で使用したフロログルシノールもまた、優れたウレアーゼ阻害活性を有しており、フロロタンニン自体に優れたウレアーゼ阻害活性があることがわかる。さらに、実施例1および実施例4〜6で得られたクロメ抽出物(k1)および(1)〜(3)において、各ウレアーゼ阻害率と、総フロロタンニン量との関係を比較した場合、非常に優れたウレアーゼ阻害活性を有するクロメ抽出物(1)および(2)は、多くのフロロタンニンを含有しており、当該抽出物中に含まれるフロロタンニンがウレアーゼ阻害に寄与していることがわかる。
【0088】
<実施例10:食品組成物の調製>
上記実施例5で得られたクロメ抽出物(2)を用いて、以下の組成を有する食品組成物を調製した。
【0089】
成分 重量(g)
クロメ抽出物(2) 0.6
大豆サポニン 2.0
黒酢エキス 2.0
リンゴファイバー 2.0
レシチン 1.0
フラクトオリゴ糖 2.0
果糖 1.0
粉末酢 0.1
シクロデキストリン 1.0
蜂蜜 1.0
骨粉 1.0
デキストリン 4.9。
【0090】
各成分を流動造粒機中で混合した後、水を噴霧して造粒を行い、入風温度80℃で乾燥して、顆粒状食品を得た。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のウレアーゼ阻害剤は、食品として広く用いられ得る海藻に由来する抽出物を有効成分として含有するため、安全性が高く、日常的な使用が可能であり、食品分野、医薬分野あるいは化成品分野などの種々の分野における汎用性を高めることができる。本発明のウレアーゼ阻害剤はまた、胃炎、肝硬変に基づく肝性昏睡、オムツ臭い・オムツかぶれのような、ウレアーゼが触媒して尿素をアンモニアに分解することより生じ得る各種疾患等の予防または治療あるいはアンモニア臭の消臭による不快感の排除等の目的に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
褐藻類こんぶ目こんぶ科のマコンブ(Laminaria japonica)、褐藻類こんぶ目ちがいそ科のアラメ(Eisenia bicyclis)、サガラメ(Eisenia arborea)、ツルアラメ(Ecklonia stlonifera)、クロメ(Ecklonia kurome)、カジメ(Ecklonia cava)、ワカメ(Undaria pinnatifida)、アオワカメ(Undaria peterseniana)、ヒロメ(Undaria undarioides)、アイヌワカメ(Alaria praelomga)、およびチガイソ(Alaria crassifolia);褐藻類ひばまた目ほんだわら科のホンダワラ(Sargassum fuluvellum)、ヒジキ(Hizikia fusiforme)、およびアカモク(Sargassum horneri);褐藻類まがまつも目もずく科のモズク(Nemacystus decipieus)およびオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus);および、紅藻類スギノリ目すぎのり科に属する海藻;からなる群より選択される少なくとも1種の海藻由来の抽出物を有効成分として含有する、ウレアーゼ阻害剤。
【請求項2】
前記抽出物が、前記海藻を水で抽出して得られた水粗抽出物を含有する、50(v/v)%以上のC1〜C3アルコール液の上清由来のもの、あるいは該海藻を10(v/v)%以上のC1〜C3アルコールまたはアルコール水溶液中で抽出して得られたアルコール抽出物由来のものである、請求項1に記載のウレアーゼ阻害剤。
【請求項3】
前記抽出物が、前記上清または前記アルコール抽出物を濃縮し、かつ40(v/v)%以上のC1〜C3アルコールまたはアルコール水溶液を溶出液として用いるカラムクロマトグラフィーにかけることにより得られた画分由来のものである、請求項2に記載のウレアーゼ阻害剤。
【請求項4】
前記カラムクロマトグラフィーに用いる吸着剤がスチレン−ジビニルベンゼン系吸着剤である、請求項3に記載のウレアーゼ阻害剤。
【請求項5】
フロロタンニンを有効成分として含有する、ウレアーゼ阻害剤。
【請求項6】
前記フロロタンニンが海藻由来のものである、請求項5に記載のウレアーゼ阻害剤。
【請求項7】
ウレアーゼ阻害剤の製造方法であって、
褐藻類こんぶ目こんぶ科のマコンブ(Laminaria japonica)、褐藻類こんぶ目ちがいそ科のアラメ(Eisenia bicyclis)、サガラメ(Eisenia arborea)、ツルアラメ(Ecklonia stlonifera)、クロメ(Ecklonia kurome)、カジメ(Ecklonia cava)、ワカメ(Undaria pinnatifida)、アオワカメ(Undaria peterseniana)、ヒロメ(Undaria undarioides)、アイヌワカメ(Alaria praelomga)、およびチガイソ(Alaria crassifolia);褐藻類ひばまた目ほんだわら科のホンダワラ(Sargassum fuluvellum)、ヒジキ(Hizikia fusiforme)、およびアカモク(Sargassum horneri);褐藻類まがまつも目もずく科のモズク(Nemacystus decipieus)およびオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus);および、紅藻類スギノリ目すぎのり科に属する海藻;からなる群より選択される少なくとも1種の海藻を、水で抽出して水粗抽出物を得る工程;
該水粗抽出物に、C1〜C3アルコールまたはC1〜C3アルコール水溶液と合わせて、50(v/v)%以上の該アルコールを含有するC1〜C3アルコール液を得る工程;ならびに
該C1〜C3アルコール液の上清を分取する工程;
を包含する、方法。
【請求項8】
さらに、前記上清を濃縮して、該上清の濃縮物を得る工程;および該上清の濃縮物を、40(v/v)%以上のC1〜C3アルコールまたはアルコール水溶液を溶出液として用いるカラムに通す工程;を包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記カラムがスチレン−ジビニルベンゼン系吸着剤を含有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ウレアーゼ阻害剤の製造方法であって、
褐藻類こんぶ目こんぶ科のマコンブ(Laminaria japonica)、褐藻類こんぶ目ちがいそ科のアラメ(Eisenia bicyclis)、サガラメ(Eisenia arborea)、ツルアラメ(Ecklonia stlonifera)、クロメ(Ecklonia kurome)、カジメ(Ecklonia cava)、ワカメ(Undaria pinnatifida)、アオワカメ(Undaria peterseniana)、ヒロメ(Undaria undarioides)、アイヌワカメ(Alaria praelomga)、およびチガイソ(Alaria crassifolia);褐藻類ひばまた目ほんだわら科のホンダワラ(Sargassum fuluvellum)、ヒジキ(Hizikia fusiforme)、およびアカモク(Sargassum horneri);褐藻類まがまつも目もずく科のモズク(Nemacystus decipieus)およびオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus);および、紅藻類スギノリ目すぎのり科に属する海藻;からなる群より選択される少なくとも1種の海藻を、10(v/v)%以上のC1〜C3アルコールまたはアルコール水溶液で抽出してアルコール抽出物を得る工程;
を包含する、方法。
【請求項11】
さらに、前記アルコール抽出物を濃縮して、該アルコール抽出物の濃縮物を得る工程;および該アルコール抽出物の濃縮物を、40(v/v)%以上のC1〜C3アルコールまたはアルコール水溶液を溶出液として用いるカラムに通す工程;を包含する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記カラムがスチレン−ジビニルベンゼン系吸着剤を含有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
海藻由来の抽出物を有効成分として含有する、ウレアーゼの活性を阻害するための食品である旨の表示を付した飲食物であって、該海藻由来の抽出物が、褐藻類こんぶ目こんぶ科のマコンブ(Laminaria japonica)、褐藻類こんぶ目ちがいそ科のアラメ(Eisenia bicyclis)、サガラメ(Eisenia arborea)、ツルアラメ(Ecklonia stlonifera)、クロメ(Ecklonia kurome)、カジメ(Ecklonia cava)、ワカメ(Undaria pinnatifida)、アオワカメ(Undaria peterseniana)、ヒロメ(Undaria undarioides)、アイヌワカメ(Alaria praelomga)、およびチガイソ(Alaria crassifolia);褐藻類ひばまた目ほんだわら科のホンダワラ(Sargassum fuluvellum)、ヒジキ(Hizikia fusiforme)、およびアカモク(Sargassum horneri);褐藻類まがまつも目もずく科のモズク(Nemacystus decipieus)およびオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus);および、紅藻類スギノリ目すぎのり科に属する海藻;からなる群より選択される少なくとも1種の海藻由来の抽出物である、飲食物。
【請求項14】
ウレアーゼの活性を阻害するための食品である旨の表示を付した飲食物であって、フロロタンニンを有効成分として含有する、飲食物。
【請求項15】
前記フロロタンニンが海藻由来のものである、請求項14に記載の飲食物。

【公開番号】特開2006−219376(P2006−219376A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31280(P2005−31280)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】