説明

エアクリーナー

【課題】V型ツインエンジンのシリンダヘッド間に設置される気化器又は燃料噴射装置に接続されるエアクリーナーにおいて、該シリンダヘッドから排出されるブローバイガスに含まれるオイルミストを付着させないようにする。
【解決手段】シリンダヘッドのブローバイガス排出口5から中空ボルト6を経由して排出されたブローバイガスをエアクリーナーベース4に入力し、エアクリーナーベース4の気液分離部でブローバイガス中のオイルミストを分離して排気口29からオイルミストが除去されたブローバイガスを排出し、これによりシリンダヘッド間に設けられた気化器2又は燃料噴射装置40にはオイルミストが除去されたブローバイガスと新気のみを吸引させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアクリーナーに関し、特に自動二輪車に使用されるV型ツインエンジンのシリンダヘッド間に設置される気化器又は燃料噴射装置に接続されるエアクリーナーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来例1
図6は、斯かる従来より知られているエアクリーナーを備えたV型ツインエンジンの気化系統を斜視図で分解して示したもので、図中、1はV型ツインエンジン(シリンダヘッド)、2はエンジン1の2つのシリンダヘッド間に設置された気化器、3aは気化器2への吸入外気を濾過するためのエアクリーナーである。
【0003】
エアクリーナー3aは、気化器2から遠ざかる方向にエアクリーナーベース4aとエアクリーナーエレメント8aとエアクリーナーカバー11aとを備えている。
気化器2はエンジン1にゴム製の差込によって接続されているだけなので、何らかの保持手段が必要となる。エンジン1のブローバイガス排出口5は雌ネジにもなっており、これに螺合される中空ボルト6aによりエアクリーナーベース4aはエンジン1に固定される。また、エアクリーナーエレメント8aの内部に排出口(図示せず)のあるチューブ7が中空ボルト6aに接続され、エアクリーナーエレメント8aはボルト9によってエアクリーナーベース4aと共に気化器2のネジ穴10に固定される。カバー11aはボルト12によりエアクリーナーエレメント8aのネジ穴13aに固定される。なお、14は、気化器2のパイロットエア口、15はエアクリーナーベース4aの吸気口である。
【0004】
動作においては、エンジン1のブローバイガス排出口5よりブローバイガスが排出される。エンジン1の内部にはブローバイガスに含まれるオイルミストをトラップする機構が備わっているが、実際はトラップし切れずブローバイガス排出口5から出て来るブローバイガスには多量のオイルミストが含まれる。
ブローバイガス排出口5より排出されたオイルミストを含むブローバイガスは中空ボルト6a及びチューブ7を通ってエアクリーナーエレメント8aの内部に排出される。
【0005】
エアクリーナーエレメント8aの内部に排出されたブローバイガスは、エンジン1の負圧により気化器2に導かれ再燃焼される。
新気はエアクリーナーベース4aの背部にある吸気口15からエアクリーナー3の内部に取り入れられ、エアクリーナーエレメント8aで濾過された後、気化器2に吸入される。
従来例2
図7は、別の従来例を示すもので、図6の従来例と違うところは、カバー11bがエアクリーナーエレメント8bを挟み込んで平板型のエアクリーナーベース4bに固定されるとともに中空ボルト6bが連結部35を介してエンジン1のシリンダヘッドの排出口5に螺合され、ボルト9bはエアクリーナーエレメント8bを介さずエアクリーナーベース4bを気化器2に固定しており、中空ボルト6bには図6のようなチューブが接続されていない点である。
【0006】
この従来例も、エンジン1のシリンダヘッドからのオイルミストを含んだブローバイガスをダイレクトにインテークに放出するものであり、ブローバイガス排出口5より排出されたオイルミストを含むブローバイガスは中空ボルト6bとその側壁穴及びエアクリーナーベース4bの通路(図示せず)を通り、排出口13bから気化器2の吸気口付近に排出される。
気化器2の吸気口付近ではエンジン負圧によって入り込む空気の流速がとても速くなっているため、そこに排出されたブローバイガスはオイルミストと共にエンジン1に吸入される。
【0007】
吸入されたブローバイガスは再燃焼されるが、同時に吸い込んだオイルミストはキャブレターやインテークマニホールド、インテークバルブ等の部品に付着したり、燃焼室まで導かれ燃焼してしまったりする。
新気16は、矢印で示すようにエアクリーナーエレメント8bの外周から内部に入り濾過されて取り入れられる。
【0008】
なお、参考文献として下記のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4425951号
【特許文献2】特許第4432899号
【特許文献3】特許第4092170号
【特許文献4】特許第3669470号
【特許文献5】特開平6−294356号
【特許文献6】実開平6−40352号
【特許文献7】実開平2−61111号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来例1の場合には、オイルミストはエアクリーナーエレメントの内部に排出されるとガスより質量が大きい為、気化器への吸気の影響を受けず、その大部分がエアクリーナーエレメントの側壁に付着する。付着したオイルは重力によってエアクリーナーエレメントの下部に流れ、エアクリーナーエレメントに吸着するが、吸着量の限界を超えるとエアクリーナー全体の外部に垂れてくる。
【0011】
すなわち、ブローバイガスに関しては再燃焼させるようにはなっているが、オイルミストを多量に含んだガスをエアクリーナーエレメント付近に排出するので、溜まったオイルが垂れてきてしまい、最悪の場合路面まで落ちてしまうという環境上の問題がある。
また、従来例2の場合には、オイルミストを分離せずにすべて気化器に吸わせて燃やしてしまって環境に有害な排気ガスが排出されてしまうというやはり環境上の問題があった。
【0012】
また、これは気化器だけではなく、燃料噴射装置の場合も同様であった。
そこで、本発明は、V型ツインエンジンのシリンダヘッド間に設置される気化器又は燃料噴射装置に接続されるエアクリーナーにおいて、該シリンダヘッドから排出されるブローバイガスに含まれるオイルミストをエアクリーナーエレメントに送らず且つエンジンに戻して燃焼させないようにする事を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明のエアクリーナーは、エアクリーナーエレメントと、該エアクリーナーエレメントとV型ツインエンジンのシリンダヘッドとの間に設けられたエアクリーナーベースとを備え、該エアクリーナーベースが、該シリンダヘッドのブローバイガス排出口に固定される中空の固定部、該ブローバイガス排出口から該固定部を経由して排出されたブローバイガスを入力する通路、該ブローバイガス中のオイルミストを分離排出して該ブローバイガスのみを該エアクリーナーエレメントに排出する気液分離部、及び該シリンダヘッド間に設けられた気化器又は燃料噴射装置に該ブローバイガス及び新気を吸引させる開口部を有することを特徴とする。
【0014】
すなわち、本発明では、シリンダヘッドのブローバイガス排出口からエアクリーナーベースの中空の固定部を経由して排出されたブローバイガスをエアクリーナーベースに入力し、エアクリーナーベースの気液分離部で該ブローバイガス中のオイルミストを分離して該ブローバイガスのみを該エアクリーナーエレメントに排出して該シリンダヘッド間に設けられた気化器又は燃料噴射装置に該ブローバイガス及び新気を開口部から吸引させるものである。
【0015】
また、該エアクリーナーベースが円盤状のものであり、該気液分離部が、該オイルミストを円周側壁に付着させる湾曲型狭窄部と、該狭窄部を出た該ブローバイガスを膨張させる膨張部と、該膨張部から該エアクリーナーエレメントへ該ブローバイガスを排気する排気口と、該膨張部の円周側壁を伝わって落ちてくる該オイルミストを排出するドレイン部と、を有することが好ましい。
【0016】
さらに、該膨張部は、該排気口へ該オイルミストが伝わるのを防ぐオイルトラップ部を有することが好ましい。
さらに、該固定部が、該ブローバイガス排出口に中空ボルトが嵌め込まれるようになっているナット部と、該中空ボルトから該通路への開口部とを有することが好ましい。
そして、該エアクリーナーベースが、該気化器又は燃料噴射装置を固定する固定部と、該エアクリーナーエレメントを固定する固定部とをさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明によるエアクリーナーでは、シリンダヘッドにブローバイガス排出口を持つV型エンジンにおいてエンジン内部で完全に除去できなかったオイルミストをエアクリーナーエレメントに送ることなくエアクリーナーベース内で捕捉し排出可能にしたので、オイルミストのエアクリーナーエレメントへの付着を防止できるとともにエンジンではオイルミストが除去された未燃焼ガスのみを再燃焼させるので環境に有害な排気ガスの排出原因を除去する事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るエアクリーナーを備えたV型ツインエンジンの気化系統を示した分解斜視図である。
【図2】本発明に係るエアクリーナーに用いるエアクリーナーベースのカバープレートを取ったときの平面図である。
【図3】本発明に係るエアクリーナーに用いるエアクリーナーベースのカバープレートを被せたときの平面図である。
【図4】本発明に係るエアクリーナーにおける中空ボルトとエアクリーナーベースとの連絡通路を示す断面図である。
【図5】本発明に係るエアクリーナーを備えたV型ツインエンジンの燃料噴射系統を示した分解斜視図である。
【図6】従来のエアクリーナーを備えたV型ツインエンジンの気化系統を示した分解斜視図である。
【図7】別の従来のエアクリーナーを備えたV型ツインエンジンの気化系統を示した分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
*実施例1
(1)全体構成
図1は、本発明に係るエアクリーナーを備えたV型ツインエンジンの気化系統を示した斜視図で分解して示したもので、図6及び図7に示した従来例とは、エンジン1及び気化器2の部分は共通であるが、本発明のエアクリーナー3は、気化器2から遠ざかる方向にエアクリーナーベース4及びそのカバープレート30と、エアクリーナーエレメント8と、エアクリーナーカバー11とを備えている。
【0020】
エアクリーナーベース4は、中空ボルト6により、雌ネジにもなっているブローバイガス排出口5に連結部35を経由して螺合することによりエンジン1のシリンダヘッドに固定されるとともに、ボルト9(3本)によって気化器2のネジ穴10(3箇所)に固定される。これにより、エンジン1のシリンダヘッド間にゴム製の差込によって支えられているだけの気化器2をエンジン1に固定することができる。
【0021】
エアクリーナーベース4の下部にはドレイン部32があり、このドレイン部32は雌ネジになっていてフィッティング16、チューブ17及び栓18が接続されている。
カバープレート30は、長ナット13、ボルト36及びボルト31によってエアクリーナーベース4に固定されて、図2に示す通路27、膨張部(分離室)28、排気口29を形成する。
エアクリーナーエレメント8は、エアクリーナーベース4とカバー11に挟み込まれて、カバー11がボルト12によって長ナット13に固定されることにより、カバープレート30を介してエアクリーナーベース4にボルト31で固定される。
(2)エアクリーナーベース
エアクリーナーベース4の詳細構造が図2及び図3に示されており、この実施例によるエアクリーナーベース4は円盤状のものであり、エンジン1のシリンダヘッドのブローバイガス排出口5に固定される中空の固定部である中空ボルト6と、ブローバイガス排出口5から中空ボルト6を経由して排出されたブローバイガスを排出する排出口22と、ブローバイガス中のオイルミストを分離排出してブローバイガスのみをエアクリーナーエレメントに排出する気液分離部とを備えている。
【0022】
この気液分離部は、排出口22からのオイルミストを含むブローバイガスを通路27を介して円周方向に高速化するとともにオイルミストを円周側壁に付着させる湾曲型(カーブ状)の狭窄部33と、狭窄部33を出たブローバイガスを膨張させる膨張部(分離室)28と、膨張部28からエアクリーナーエレメント8へブローバイガスを排気する排気口29(図3参照)と、膨張部28の円周側壁23を伝わって落ちて来るオイルミストを排出するドレイン部32と、気化器2にブローバイガス及び新気を吸引させる開口部34を有している。
【0023】
なお、図4に示すように、ブローバイガス排出口5より排出されたオイルミストを含むブローバイガス20は、中空ボルト6とその側壁の空いた穴、エアクリーナーベース4の通路21及び排出口22を通り、通路27に排出される。
(3)動作
オイルミストを含むブローバイガスは、エアクリーナーベース4の通路27の流路が狭くなっているため高い流速で狭窄部33に到達し、ここから膨張部28へ排出される。また、狭窄部33が側壁23の方向に向いており、ガスよりも質量のあるオイルミストは運動エネルギーが気体よりも高いため慣性が強く働き側壁23に衝突し更に自らの粘性により付着する。
【0024】
一方、ブローバイガスは膨張部28に放出される。膨張部28は体積を可能な限り大きくとってあり、これにより膨張部28内の流速は通路27内と比べて格段に遅くなる。狭窄部33から排出され側壁23に付着したオイルがガスの流れによって背面壁25及び上壁24などを伝わって排気口29(図3参照)へ導かれる可能性は低いが、仮にそうなったとしてもオイルトラップ部26がオイル分の排出を防いでいる。狭窄部33から側壁23に付着せずにそのまま膨張部28の背面壁25及び上壁24に付着したオイル分についてもオイルトラップ部26がオイル分の排出を防ぐことができる。
【0025】
オイル分が除かれたブローバイガスは排気口29からエアクリーナーエレメント8の内部に放出され、エンジン負圧によって再び気化器2を経て吸引され再燃焼する。
膨張部28の内部の側壁23、背面壁25及び上壁24に付着したオイル分は重力によってドレイン部32に集められる。ドレイン部32にはフィッティング16を介してチューブ17がつながっており、このチューブ17がオイル分を一時保存するタンクの役割をしている。チューブ17内にオイルが溜まった場合は栓18を外し、オイルを廃棄する。
【0026】
一方、新気は、図1に符号19で示すように、エアクリーナーエレメント8の外周から濾過されフィルター内部へ入り気化器2に吸入される。
*実施例2
図5は、燃料噴射(EFI(Electric Fuel Injection))装備車両への装着例を示しており、図1の実施例との大きな違いは気化器2が燃料噴射装置(インジェクションボディー)40になっていることと、パイロットエア穴が無くなっっていることである。
【0027】
燃料噴射装置40は気化器と違いエンジンにゴムのシールを介して比較的しっかりと固定されてはいるが、エアクリーナーや気化器の重さを考えるとやはり気化器装備車両と同様にエアクリーナーベース4による手前側の支持も必要となる。
この場合の、ブローバイガスや新気の流れ等は図1の実施例と同様である。
【符号の説明】
【0028】
1 エンジン
2 気化器
3 エアクリーナー
4 エアクリーナーベース
5, 22 ブローバイガス排出口
6 中空ボルト
8 エアクリーナーエレメント
9, 12, 31, 36 ボルト
10 ネジ穴
11 エアクリーナーカバー
13 長ナット
14 パイロットエア穴
16 フィッティング
17 チューブ
18 栓
19 新気
20 ブローバイガス
21, 27 通路
23 側壁
24 上壁
25 背面壁
26 オイルトラップ部
28 膨張部(分離室)
29 排気口
30 カバープレート(蓋)
32 ドレイン部
33 狭窄部
34 開口部
35 連結部
40 燃料噴射装置(EFI)
図中、同一符号は同一又は相当分を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアクリーナーエレメントと、
該エアクリーナーエレメントとV型ツインエンジンのシリンダヘッドとの間に設けられたエアクリーナーベースとを備え、
該エアクリーナーベースが、該シリンダヘッドのブローバイガス排出口に固定される中空の固定部、該ブローバイガス排出口から該固定部を経由して排出されたブローバイガスを入力する通路、該ブローバイガス中のオイルミストを分離排出して該ブローバイガスのみを該エアクリーナーエレメントに排出する気液分離部、及び該シリンダヘッド間に設けられた気化器又は燃料噴射装置に該ブローバイガス及び新気を吸引させる開口部を有することを特徴としたエアクリーナー。
【請求項2】
請求項1において、
該エアクリーナーベースが円盤状のものであり、該気液分離部が、該オイルミストを円周側壁に付着させる湾曲型狭窄部と、該狭窄部を出た該ブローバイガスを膨張させる膨張部と、該膨張部から該エアクリーナーエレメントへ該ブローバイガスを排気する排気口と、該膨張部の円周側壁を伝わって落ちてくる該オイルミストを排出するドレイン部と、を有することを特徴とした該膨張部エアクリーナー。
【請求項3】
請求項1において、
該膨張部が、該排気口へ該オイルミストが伝わるのを防ぐオイルトラップ部を有することを特徴としたエアクリーナー。
【請求項4】
請求項1において、
該固定部が、該ブローバイガス排出口に中空ボルトが嵌め込まれるようになっているナット部と、該中空ボルトから該通路への開口部とを有することを特徴としたエアクリーナー。
【請求項5】
請求項1又は2において、
該エアクリーナーベースが、該気化器又は燃料噴射装置を固定する固定部と、該エアクリーナーエレメントを固定する固定部とをさらに有することを特徴としたエアクリーナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−77710(P2012−77710A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225458(P2010−225458)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【特許番号】特許第4865077号(P4865077)
【特許公報発行日】平成24年2月1日(2012.2.1)
【出願人】(507004532)株式会社FORK (1)
【Fターム(参考)】