説明

エアコン用アルミニウム合金製内面溝付き管の製造方法

【課題】 フィン潰れが発生し難い小さな拡管力であっても、十分な接合状態を得ることのできるアルミニウム合金製内面溝付き管、またはその製造方法を提供する。
【解決手段】 内面長手方向に突状型フィンを有したアルミニウム合金製内面溝付き管において、管外側表面の表面粗度がRaで2μm〜10μmの範囲であることを特徴とする、アルミニウム合金製内面溝付き管を用いる。または、アルミニウム合金製の管に対して、内面溝付け加工を行う工程と、管外側表面の表面粗度がRaで2μm〜10μmの範囲となるように、粗面化処理を行う工程と、を含む、内面長手方向に突状型フィンを有するアルミニウム合金製内面溝付き管の製造方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面溝付きアルミニウム合金製内面溝付き管の製造方法に関するものであり、特に、内面溝付け加工後にショットブラスト加工を実施することにより、拡管加工時のアルミニウム合金製フィン材との接合力を向上させたエアコン用内面溝付き配管材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金製配管材とアルミニウム合金製フィン材で構成される熱交換器の接合方法としては、自動車用熱交換器材で利用されている扁平多穴管とフィン材をろう付け加工するものが良く知られている。一方、家庭用エアコンの熱交換器は、通常、クロスフィン型(別名フィンアンドチューブ型)の熱交換器が利用されている(特許文献1)。一般的に、クロスフィン型熱交換器は、アルミニウム放熱フィンに開口された挿通孔内に銅製の伝熱管を挿通し、次いでその伝熱管の内部にその内径より大きい外径を有する拡管用マンドレルを押込み、伝熱管の径を広げ(拡管加工)て伝熱管の外周面とアルミニウム合金製放熱フィンの挿通孔を密着させる。
【0003】
近年、エアコンのリサイクルの観点から銅製の伝熱管をアルミニウム合金製にする動きがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010―85066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、銅製伝熱管に比べ、アルミニウム合金製伝熱管は強度が劣るため、拡管加工時のマンドレルの挿入により、伝熱管の内面に形成された突起状のフィンが潰れ(フィン潰れ)、これにより熱交換性能が低下してしまう。従って、フィン潰れを発生させないためには拡管力を抑制する必要がある。一方、熱交換性能を高めるためには、伝熱管と放熱フィンとの十分な接合を行い、熱伝導性を確保する必要がある。そのためには、より外径の大きなマンドレルを用いることが好ましい。しかし、その場合、フィン潰れを回避することが困難となる。
【0006】
このため、高い熱交換性能を確保するためには、フィン潰れを発生させないような小さな拡管力で、伝熱管と放熱フィンの十分な接合状態を得る必要があった。しかしながら、それを実現する方法は不明であった。
【0007】
本発明は以上の問題に鑑み、フィン潰れが発生し難い小さな拡管力であっても、十分な接合状態を得ることのできるアルミニウム合金製内面溝付き管、またはその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑み、小さな拡管力で伝熱管と放熱フィンとを接合させた場合でも、高い熱交換性能が得られる方法について鋭意検討を行ったところ、伝熱管の表面粗度が熱交換性能と強く相関していることを見出した。従来、伝熱管の表面粗度と熱交換性能との関連性は不明であり、強い相関性が見られたことは驚くべき結果であった。さらに、この相関関係は、単純に表面粗度を大きくする、または小さくすれば良いというものではなく、Raで2μm〜10μmの範囲という特定の範囲にしたときのみ、熱交換性が良好になるというものであった。
【0009】
即ち、請求項1に係る第1の発明は、内面長手方向に突状型フィンを有したアルミニウム合金製内面溝付き管において、管外側表面の表面粗度がRaで2μm〜10μmの範囲であることを特徴とする、アルミニウム合金製内面溝付き管である。
【0010】
請求項2に係る第2の発明は、請求項1に記載の内面溝付き管において、さらに管外側表面にZn拡散層を有しており、上記アルミニウム合金製内面溝付き管の底肉厚をt(m)、Znの平均付着量をW(g/m)としたとき、15000t−1≦W≦30000tの関係式を満たすことを特徴とする、アルミニウム合金製内面溝付き管である。
【0011】
請求項3に係る第3の発明は、請求項1または2に記載の内面溝付き管において、底肉厚が0.2mm〜1.5mmである、アルミニウム合金製内面溝付き管である。
【0012】
請求項4に係る第4の発明は、請求項1〜3いずれかに記載のアルミニウム合金製内面溝付き管を備える、エアコンである。
【0013】
請求項5に係る第5の発明は、アルミニウム合金製の管に対して、内面溝付け加工を行う工程と、管外側表面の表面粗度がRaで2μm〜10μmの範囲となるように、粗面化処理を行う工程と、を含む、内面長手方向に突状型フィンを有するアルミニウム合金製内面溝付き管の製造方法である。
【0014】
請求項6に係る第6の発明は、請求項5に記載の製造方法において、上記粗面化処理を行う工程が、上記内面溝付け加工を行う工程の後に行われる、アルミニウム合金製内面溝付き管の製造方法である。
【0015】
請求項7に係る第7の発明は、請求項5または6に記載の製造方法において、上記粗面化処理を行う工程が、ショットブラスト加工によって粗面化処理を行う工程である、アルミニウム合金製内面溝付き管の製造方法である。
【0016】
請求項8に係る第8の発明は、請求項5〜7いずれかに記載の製造方法において、上記粗面化処理を行う工程の後、さらにZn溶射法を施し、その際に上記内面溝付き管の底肉厚をt(m)、Znの平均付着量をW(g/m)としたとき、15000t−1≦W≦30000tの関係式を満たすことを特徴とする、アルミニウム合金製内面溝付き管の製造方法である。
【0017】
請求項9に係る第9の発明は、請求項5〜8に記載の製造方法において、上記内面溝付きアルミニウム合金製配管材が、エアコン用の内面溝付きアルミニウム合金製配管材である、アルミニウム合金製内面溝付き管の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱交換性能に優れたアルミニウム合金製内面溝付き管が得られる。または、そのアルミニウム合金製内面溝付き管において、さらに耐食性に優れているアルミニウム合金製内面溝付き管が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態における熱交換器に使用されるアルミニウム配管材の円周方向断面図
【図2】本発明の実施形態における熱交換器に使用されるアルミニウム配管材の長手方向断面図
【図3】内面溝付き管の工程フローチャートの一例を表した図である。
【図4】押出工程の概略図である。
【図5】内面溝付け加工工程の概略図である。
【図6】ショットブラスト加工の概略図である。
【図7】Zn溶射加工の概略図である。
【図8】機械的接合機構図である。
【図9】接合性評価方法を表した図である。
【図10】拡管前後の突状型フィンの変形状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態について詳細に述べる。
【0021】
<内面溝付き管>
本発明は外径が3mm〜20mm、底肉厚0.2mm〜1.5mmの内面溝付き管を、主な対象としたものである。ここで底肉厚とは図1に示すように、内面溝底部と管外表面との距離を示す。内面溝付き管の長手方向断面図は、図2のようになる。
【0022】
本発明の一実施形態は、内面長手方向に突状型フィンを有したアルミニウム合金製内面溝付き管において、管外側表面の表面粗度が特定の範囲であることを特徴とする、アルミニウム合金製内面溝付き管である。ここで、上記表面粗度は、Raで2μm〜10μmの範囲を選択したときに、小さな拡管力でアルミニウム合金製内面溝付き管と放熱フィンとを接合させた場合でも、熱交換性能が良好であることが、後述する実施例で実証されている。従って、上記表面粗度としてはRaで2μm〜10μmの範囲が選択される。また、放熱フィンとの良好な接合状態の確保および生産性の観点からは、好ましくは3μm〜7μmの範囲が良い。
【0023】
また、本実施形態に係るアルミニウム合金製内面溝付き管の製造方法は特に限定しないが、例えば、アルミニウム合金製の管に対して、内面溝付け加工を行う工程と、管外側表面の表面粗度がRaで2μm〜10μmの範囲となるように、粗面化処理を行う工程と、を含む、内面長手方向に突状型フィンを有するアルミニウム合金製内面溝付き管の製造方法によって製造できる。
【0024】
ここで、上記内面溝付け加工を行う工程と、上記粗面化処理を行う工程の順番は特に限定しないが、生産性の観点からは、上記粗面化処理を行う工程が、上記内面溝付け加工を行う工程の後に行われることが好ましい。また、上記粗面化処理を行う工程は特に限定せず、例えば、ショットブラスト加工、ブラッシング加工であってもよい。上記粗面化処理は、生産性の観点からは、ショットブラスト加工によって行うことが好ましいなお、Raが2μm〜10μmの範囲において熱交換性能が良好になった理由は明確ではないが、実施例で得られた結果から、以下の理由が考えられる。
【0025】
ショットブラスト後の表面粗度は、中心線平均高さ粗さであるRaが2μm未満の場合、粗度が低すぎるため、内面溝付き管外表面と放熱フィンとの接触点数が多くなる。その場合、拡管加工時の圧力が分散してしまうため、内面溝付き管と放熱フィン材との接合状態を十分に得ようとすると、大きな拡管力が必要となる。このときの拡管力が増大すると、溝付き管内面のフィン潰れが発生し、熱交換性能の低下を招く。
【0026】
一方、Raが10μmを超える場合、内面溝付き管と放熱フィンとの接触点数が少なくなり、拡管時の圧力が集中し、内面溝付き管と放熱フィン材との接合性は十分に得られる。しかし、10μmを超える表面粗度を得るためには、ショットブラスト用のグリッドの形状を大きくしなければならない。グリッドを大きくした場合、内面溝付き管表面の単位面積当たりに衝突する単位時間当たりのグリッド数が低下するので、溝付き管の外表面全体を均一に粗面化するためには、加工時間を長くする、すなわち製品移動速度を遅くする必要があり、生産性が低下しコストアップに繋がる。また一方では、形状の大きなグリッドの衝突により、溝付き管外表面が加工硬化するため、放熱フィンとの接合時に大きな拡管力が必要となり、結果として突状型フィンの潰れが発生し、熱交換器性能の低下を招く。
【0027】
突状型フィンの潰れを生じずに、大きな拡管力をかける方法としては、液圧拡管方式があるが、その場合、拡管加工時のシール性の確保や、拡管後の液体の処理が必要となり、熱交換器の生産性が低下し、コストアップに繋がる。
【0028】
また、本実施形態に係るアルミニウム合金製内面溝付き管は、さらに管外側表面にZn拡散層を有していてもよい。Znの付着量は、底部の肉厚をt(m)、溶射範囲内でのZnの平均付着量をW(g/m)とした場合、15000t−1≦W≦30000tの関係式が満たされるときに、管材の孔食が少なく、耐圧強度が良好になることが後述する実施例で実証されている。従って、Znの付着量は15000t−1≦W≦30000tの関係式が満たされる範囲であることが好ましい。
【0029】
また、管外側表面にZn拡散層を有している、上記アルミニウム合金製内面溝付き管の製造方法は特に限定しないが、例えば、上記粗面化処理を行う工程の後、さらにZn溶射法を施し、その際に上記内面溝付き管の底肉厚をt(m)、Znの平均付着量をW(g/m)としたとき、15000t−1≦W≦30000tの関係式を満たすことを特徴とする製造方法によって製造できる。なお、上記の関係式が満たされる範囲において管材の孔食が少なく、耐圧強度が良好になる理由は明確ではないが、実施例で得られた結果から、以下の理由が考えられる。
【0030】
Zn溶射により、Znが拡散したアルミニウム製内面溝付き管の外側表面の孔食電位は、Znが拡散していない内面溝付き管の内側の層より卑なため、Znが拡散した部分(Zn拡散層)は管材に対して犠牲防食層として働き、管材自身の貫通寿命を長くする。しかし、内面溝付き管の肉厚によっては、過剰なZnの付着により拡散熱処理後、底部肉厚方向に過度にZnが拡散し、自己腐食や、腐食による肉厚の減少に起因した耐圧性能の低下を招く。
【0031】
Wが15000t−1未満では、Znの付着量不足により犠牲防食層が十分に形成されない。一方、Wが30000tを超えると、Znの過度の付着により、Zn拡散層が厚くなり過ぎ、腐食時の肉厚減量が増大し、耐圧強度が低下する。
【0032】
Znの溶射方向については、溶射後の付着量が満足すれば、2ガンで180°対角配置、3ガンで120°位相配置、4ガンで90°位相配置の何れでも良い。
【0033】
内面溝付き管の外径は、上述の通りφ3mm〜20mmであっても良い。エアコン用として使用する場合、管の製造における生産性の観点からは、φ4mm以上が好ましい。また、熱交換器の小型化・軽量化の観点からはφ10mm以下が好ましい。
【0034】
内面溝付き管の底肉厚は、上述の通り0.2mm〜1.5mmであっても良い。耐圧強度の観点からは、0.3mm以上が好ましい。また、熱交換器の小型化・軽量化の観点からは0.6mm以下が好ましい。
【0035】
内面溝付き管の材質としては、特に限定されるものではないが、加工性や耐食性を考慮した場合、JIS A1050等の純Al系合金、またはJIS A3003等のAl−Mn系合金、またはJIS A6063等のAl−Mg−Si系合金が選択される。また本明細書において「アルミニウム合金」とは、アルミニウムを主成分とする合金であれば特に限定されないが、例えば上記の合金であってもよい。
【0036】
本実施形態において、ショットブラスト加工とは、例えば、粒体を加工物に衝突させ、加工物の加工等を行うことである。また本実施形態に係る内面溝付き管は、熱交換性能が良好であるため熱交換器として使用でき、例えばエアコン用として有用である。
【0037】
<熱交換器>
本発明の他の実施形態は、上記の実施形態に係る内面溝付き管を備える熱交換器である。この熱交換器は、管表面の表面粗度がRaで2μm〜10μmの範囲の内面溝付き管を備えているため、熱交換性能に優れている。または、この熱交換器は管表面の表面粗度がRaで2μm〜10μmの範囲で、且つ15000t−1≦W≦30000tの関係式を満たす内面溝付き管を備えているため、熱交換性能と同時に、耐食性に優れている。
【0038】
<エアコン>
本発明の他の実施形態は、上記の実施形態に係る内面溝付き管、または熱交換器を備えるエアコン(空気調和機)である。このエアコンは、管表面の表面粗度がRaで2μm〜10μmの範囲の内面溝付き管を備えているため、熱交換性能に優れている。または、このエアコンは管表面の表面粗度がRaで2μm〜10μmの範囲で、且つ15000t−1≦W≦30000tの関係式を満たす内面溝付き管を備えているため、熱交換性能と同時に、耐食性に優れている。
【0039】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。また、上記実施形態に記載の構成を組み合わせて採用することもできる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
供試材としてJIS A3003のビレット8を作製し、これを加熱炉により350℃〜550℃に均熱し、図3および4に示すように、コンテナ7内に挿入して、ステム5によりブロック6を介して、ビレット8に加圧して、ダイスリング9内のポートホールメスダイス10とポートホールオスダイス11を通過させ、内面平滑管1aを作製した。その後、20%の断面減少率で抽伸加工および図5の内管溝付け加工を実施し、外径7mm、底肉厚0.5mm、突状型フィン高さ0.25mm、リード角30°の内面溝付き管1を作製した。その後、別ラインで図6のショットブラスト加工を0.5MPaのエアー圧力で表1の粒径範囲のグリッドを使用して実施した。ここで、ショットブラスト加工はサンドブラスト装置(不二製作所社製)を用いて行った。また、中心線表面粗さRaは、JIS B0601−1982に準拠した表面粗度測定装置(小坂研究所製)を用いて測定した。測定条件としては、測定基準長さ:2.5mm、測定速度:2mm/sec、低域カットオフ:0.8mmで行った。
【0042】
その後、図7のZn溶射加工を実施し、Zn拡散のために、500℃で2hrの熱処理を行い、評価用の内面溝付き管1を作製した。ここで、Zn溶射加工はアーク式溶射装置(コーケンテクノ社製)を用いて行った。また、Znの平均付着量W(g/m)は、化学分析法であるIPC(誘導結合プラズマ)分析装置(VARIAN社製:VISTA PRO)を用いて測定した。測定条件としては、切断されたパイプ試料のサイズを測定後、(1+1)HNO 50mLを入れたビーカー中に入れ、45℃のウォーターバス中で約3hr加温してZnを溶解させ、冷却後、溶液を全量フラスコ(200mL)に移し入れ水で定容とし、この液5.0mLを全量フラスコ(100mL) に分取し、(1+1)HNO 15mLを加えた後、水で定容として、ICP測定により実施した。
【0043】
次に外径φ7mmの内面溝付き管1に対し、穴径がφ7.2mmの放熱フィン材23(古河スカイ製、プレコート1200)を組み合わせた後、0.2mm間隔で外径φ5.8mm〜φ6.4mmのマンドレル(拡管用工具)24により、図8に示すように内面溝付き管1と放熱フィン23の機械接合を行い、図9の接合性評価用サンプルおよび図10の耐食性評価用のコアを作成した。
【0044】
表1の各条件で拡管を行い、熱交換性能評価用サンプルコアを作製し、凝縮および蒸発性能を測定した。ここで、冷媒としてR410Aを使用し、凝縮性能は、冷媒平均飽和温度48℃、冷媒入口過熱度35℃、冷媒入口過冷却度5℃での熱伝達率(kWh/mK)を指標とした。蒸発性能は、冷媒平均飽和温度5℃、冷媒入口乾き度0.21、冷媒出口過熱度5℃での熱伝達率(kWh/mK)を指標とした。
【0045】
【表1】

【0046】
熱交換器性能の評価法としては、ショットブラスト加工を施していない内面溝付き管と放熱フィンを液圧拡管方式により、十分に密着させた基準コアを作製し、この基準コアの熱交換器性能を100%とした場合の比率により判定した。熱交換器比率が99.5%以上のものを合格として判定した。
【0047】
一方、内面溝付き管1にZn拡散のための熱処理を実施し、図10に示すような方法で評価用のミニコアを作製した。ミニコアの内面溝付き管1の両端部をマスキングテープおよび接着材にて密閉した後に、JISH8601に準じるCASS試験を2000hrまで行なった。今回の内面溝付き管1においては、腐食深さが500μmに達すると貫通孔食となった。
また、CASS2000hr後の内面溝付き管1に液圧をかけ、耐圧強度を測定した。破裂圧力≧50MPaの範囲は、製品化を考慮した場合に、特に良好な範囲である。
【0048】
以上の結果、実施例1〜6においては、外径の小さな拡管工具24を用いた場合でも、内面溝付き管1と放熱フィン23の接合性が良好となり、結果として、熱交換器特性、生産性(ショットブラスト製品速度)、および耐食性を満足した。このとき、表面粗度はRaで2μm〜10μmの範囲であり、且つZn付着量は15000t−1≦W≦30000tの関係式を満たしていた(底肉厚が0.5mmのため、適正溶射範囲は6.5g/m〜15.0g/m)。
【0049】
実施例7および8においても、表面粗度がRaで2μm〜10μmの範囲内であり、外径の小さな拡管工具24を用いた場合であっても、熱交換器特性、生産性(ショットブラスト製品速度)が良好であった。但し、実施例7においては、Znの付着量が上記適正溶射範囲の下限値以下であったために、十分な耐食性が確保できず、貫通孔食が発生した。また実施例8においては、Znが上記適正溶射範囲の上限値以上付着したため、熱処理後、Znが過剰に拡散したため、試験後の耐圧強度が低くなった。
【0050】
一方、比較例1においては、ショットブラストによる粗面化処理後の表面粗度が不十分(Raで2μm未満)であったため、実施例で良好であったφ5.9mmの拡管工具24では十分な密着性が得られなかったため、熱交換器性能が不十分であった。
【0051】
比較例2〜3においては、内面溝付き管1と放熱フィン23の接合性を上げるために外径がφ6.0とφ6.1の拡管子を使用したが、密着性が向上する反面、突状型フィン2の変形が大きくなり、結果として、熱交換器性能が低下した。
【0052】
比較例4においては、実施例と同等の製品速度で、粒径の大きなグリッドでショットブラスト加工したために、グリッドの衝突密度が粗く、Raの値が小さくなったため(Raで2μm未満)、実施例で良好であった拡管工具24で拡管を行っても、内面溝付き管1と放熱フィン23の接合性が悪く、十分な熱交換器性能が得られなかった。
【0053】
比較例5においては、十分な粗面化状態を得るために、ショットブラストの加工速度を下げたものであり、表面粗度はRaで10μmを超えていた。この場合、実施例で良好であった拡管工具24を使用しても、十分な熱交換器性能が得られなかった。この原因としては、例えば、大径グリッドで処理したために、内面溝付き管の外表面硬度が上昇したことが考えられる。
【0054】
比較例6においては、比較例3と同様に大径の拡管工具24を使用したものであり、表面粗度はRaで10μmを超えていた。これも同様に、熱交換器性能が低下した。この理由としては、例えば、突状型フィンが変形したことが考えられる。
【0055】
次に、上記の内面溝付き管1において、底肉厚を1.0mmに代えたものを作製した。そして、表2の条件で評価した。
【0056】
【表2】

【0057】
実施例9〜11においては、外径の小さな拡管工具24を用いた場合でも、内面溝付き管1と放熱フィン23の接合性が良好となり、結果として、熱交換器特性、生産性(ショットブラスト製品速度)、および耐食性を満足した。このとき、表面粗度はRaで2μm〜10μmの範囲であり、且つZn付着量は15000t−1≦W≦30000tの関係式を満たしていた(底肉厚が1.0mmのため、適正溶射範囲は14.0g/m〜30.0g/m)。
【0058】
実施例12および13においても、表面粗度がRaで2μm〜10μmの範囲内であり、熱交換器特性、生産性(ショットブラスト製品速度)が良好であった。但し、実施例12においては、Znの付着量が上記適正溶射範囲の下限値以下であり、十分な耐食性が確保できなかった。また実施例13においては、Znが上記適正溶射範囲の上限値以上付着したため、熱処理後、Znが過剰に拡散したため、試験後の耐圧強度が低くなった。
【0059】
一方、比較例7においては、ショットブラストによる粗面化処理後の表面粗度が不十分(Raで2μm未満)であったため、実施例で良好であったφ5.9mmの拡管工具24では十分な密着性が得られなかったため、熱交換器性能が不十分であった。
【0060】
比較例8においては、十分な粗面化状態を得るために、ショットブラストの加工速度を下げたものであり、表面粗度はRaで10μmを超えていた。この場合、実施例で良好であった拡管工具24を使用しても、十分な熱交換器性能が得られなかった。この原因としては、例えば、大径グリッドで処理したために、内面溝付き管の外表面硬度が上昇したことが考えられる。
【0061】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解され
るところである。
【符号の説明】
【0062】
1 内面溝付きアルミニウム管
1a 内面平滑アルミニウム管
2 突状型フィン
3 底肉厚
4 リード角
5 ステム
6 ブロック
7 コンテナ
8 ビレット
9 ダイスリング
10 ポートホールメスダイス
11 ポートホールオスダイス
12 ボビン
13 アンコイラー
14 フローティングプラグ
15 抽伸ダイス
16 コネクティングロッド
17 転圧体
18 螺旋形成用プラグ
19 ブラストガン
20 グリッド
21 溶射ガン
22 Zn溶融体
23 放熱フィン
24 拡管工具(マンドレル)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面長手方向に突状型フィンを有したアルミニウム合金製内面溝付き管において、管外側表面の表面粗度がRaで2μm〜10μmの範囲であることを特徴とする、アルミニウム合金製内面溝付き管。
【請求項2】
前記アルミニウム合金製内面溝付き管が、さらに管外側表面にZn拡散層を有しており、
前記アルミニウム合金製内面溝付き管の底肉厚をt(m)、Znの平均付着量をW(g/m)としたとき、15000t−1≦W≦30000tの関係式を満たすことを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金製内面溝付き管。
【請求項3】
底肉厚が0.2mm〜1.5mmである、請求項1または2に記載のアルミニウム合金製内面溝付き管。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載のアルミニウム合金製内面溝付き管を備える、エアコン。
【請求項5】
アルミニウム合金製の管に対して、内面溝付け加工を行う工程と、
管外側表面の表面粗度がRaで2μm〜10μmの範囲となるように、粗面化処理を行う工程と、
を含む、内面長手方向に突状型フィンを有するアルミニウム合金製内面溝付き管の製造方法。
【請求項6】
前記粗面化処理を行う工程が、前記内面溝付け加工を行う工程の後に行われる、
請求項5に記載のアルミニウム合金製内面溝付き管の製造方法。
【請求項7】
前記粗面化処理を行う工程が、ショットブラスト加工によって粗面化処理を行う工程である、
請求項5または6に記載のアルミニウム合金製内面溝付き管の製造方法。
【請求項8】
前記粗面化処理を行う工程の後、さらにZn溶射法を施し、その際に前記内面溝付き管の底肉厚をt(m)、Znの平均付着量をW(g/m)としたとき、15000t−1≦W≦30000tの関係式を満たすことを特徴とする、請求項5〜7いずれかに記載のアルミニウム合金製内面溝付き管の製造方法。
【請求項9】
前記内面溝付きアルミニウム合金製配管材が、エアコン用の内面溝付きアルミニウム合金製配管材である、請求項5〜8に記載のアルミニウム合金製内面溝付き管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−11419(P2013−11419A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145310(P2011−145310)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】