説明

エアスピンドル

【課題】温度上昇に伴って回転体が膨張して軸方向に伸びた場合でも、静圧気体軸受による良好な軸受性能が発揮できるエアスピンドルを提供する。
【解決手段】固定軸1はラジアル方向への突出部1aと、突出部1aを挟んだ両側の軸受部1bを有する。1対の静圧気体軸受3を、軸受部1bに外嵌し、Oリング5により軸方向で移動可能に取り付ける。これにより、静圧気体軸受3は、ハウジング2の内周面と対向するラジアル軸受面31と、端部材4および突出部1aの端面と対向するアキシアル軸受面32を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エアスピンドル(軸と、ハウジングと、軸とハウジングとの間に配置されて、軸およびハウジングの一方である回転体を他方である固定体に対して回転可能に支持する静圧気体軸受と、を有する回転装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なエアスピンドルにおいて、静圧気体軸受は固定体に固定され、回転体との間にアキシアル軸受面とラジアル軸受面を有する。すなわち、静圧気体軸受は軸方向に移動できない。そのため、エアスピンドルの温度上昇に伴って回転体が膨張して軸方向に伸びた場合、静圧気体軸受のアキシアル軸受面と回転体のアキシアル軸受面との隙間(アキシアル隙間)が広がって、良好な軸受性能が発揮できない場合がある。
【0003】
特許文献1には、エアスピンドルの回転体であるハウジングと非回転体である支持軸との間に温度差が生じた場合に、軸受隙間が無くなることを防止するために、支持軸がアルミニウム製の場合には、ラジアル静圧気体軸受をカーボングラファイト製とし、ハウジングをカーボン繊維とカーボンとの複合材製とすることが記載されている。また、特許文献1に記載されたエアスピンドルでは、回転体がラジアル方向への突出部(スラストランナ)を有し、軸方向でスラストランナを挟んだ両側にスラスト静圧気体軸受が配置されている。
【0004】
特許文献2には、回転軸が受けた外力や振動、共振などを吸収するために、外力や振動が生じた際に回転軸と軸受部材(静圧気体軸受)が共に動くように構成された、回転霧化静電塗装装置が記載されている。また、特許文献2に記載された装置では、回転体(回転軸)がラジアル方向への突出部(フランジ部)を有し、軸方向でフランジ部を挟んだ両側に静圧気体軸受が配置されている。また、静圧気体軸受が固定体(合成樹脂製のハウジング)に対して、Oリング等の弾性支持部材を介して取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−158950号公報
【特許文献2】特開平9−294942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の課題は、温度上昇に伴って回転体が膨張して軸方向に伸びた場合でも、静圧気体軸受による良好な軸受性能が発揮できるエアスピンドルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明のエアスピンドルは、軸と、ハウジングと、軸とハウジングとの間に配置されて、軸およびハウジングの一方である回転体を他方である固定体に対して回転可能に支持する静圧気体軸受と、を有し、前記固定体はラジアル方向(軸に垂直な方向)への突出部を有し、前記静圧気体軸受は、軸方向で前記突出部を挟んだ両側に配置され、前記静圧気体軸受は、前記回転体との間にアキシアル軸受面とラジアル軸受面を有し、前記静圧気体軸受は、前記固定体の前記突出部以外の部分に、軸方向で移動可能に取り付けられていることにより、前記固定体との間にもアキシアル軸受面を有することを特徴とする。
【0008】
この発明のエアスピンドルでは、静圧気体軸受が軸方向で移動可能に取り付けられているため、エアスピンドルの温度上昇に伴って回転体が膨張して軸方向に伸びた場合でも、静圧気体軸受のアキシアル軸受面と回転体および固定体のアキシアル軸受面との隙間(アキシアル隙間)が適切な隙間に保持される。
前記静圧気体軸受は、前記固定体に対して、例えば、弾性支持部材またはラビリンスシールを介して取り付けることで、軸方向で移動可能にできる。
【発明の効果】
【0009】
この発明のエアスピンドルによれば、温度上昇に伴って回転体が膨張して軸方向に伸びた場合でも、静圧気体軸受による良好な軸受性能が発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1実施形態のエアスピンドルを示す断面図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】第2実施形態のエアスピンドルを示す断面図である。
【図4】第3実施形態のエアスピンドルを示す断面図である。
【図5】第4実施形態のエアスピンドルを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施形態について説明する。
[第1実施形態]
この実施形態のエアスピンドルは、軸が固定体でハウジングが回転体の例であり、図1および2に示すように、固定軸(固定体)1と、細長い円筒状のハウジング(回転体)2と、固定軸1とハウジング2との間に配置された1対の静圧気体軸受3と、1対の円環状の端部材(回転体)4と、Oリング(弾性支持部材)5とで構成されている。
固定軸1は、ハウジング2の軸方向中央部に配置される部分に、ラジアル方向への突出部1aを有する。1対の静圧気体軸受3は円筒体からなり、軸方向で固定軸1の突出部1aを挟んだ両側の部分(軸受部)1bに外嵌されている。
【0012】
図2に示すように、固定軸1の軸受部1bの外周面には、各4本の周溝11が形成されている。そして、全ての周溝11にOリング5が配置されている。これらのOリング5により、1対の静圧気体軸受3が固定軸1に対して、軸方向で移動可能に取り付けられている。
静圧気体軸受3は、ハウジング2の内周面と対向するラジアル軸受面31と、端部材4および突出部1aの端面と対向するアキシアル軸受面32を有する。静圧気体軸受3の軸方向中央部に、径方向に貫通する排気穴35が形成されている。排気穴35は周方向の複数箇所に形成されている。静圧気体軸受3の内周面には、軸方向で排気穴35を挟んだ両側に、気体導入用の周溝36が形成されている。固定軸1の周溝11は、静圧気体軸受3の周溝36を挟んだ両側となる位置に形成されている。
【0013】
固定軸1の内部に、軸方向に延びる給気路(気体供給経路)12と排気路(気体排出経路)13が形成されている。固定軸1の突出部1aの軸方向中央位置に、排気路13から分岐して径方向に延び、突出部1aの外周面に至る連通路(気体排出経路)14が形成されている。
固定軸1の内部には、また、静圧気体軸受3の排気穴35の位置に、排気路13から分岐して径方向に延び、固定軸1の外周面に至る回収穴(気体排出経路)15が形成されている。固定軸1の内部には、さらに、静圧気体軸受3の周溝36の位置に、給気路12から分岐して径方向に延びる給気穴(気体供給経路)12aが形成されている。
【0014】
端部材4は、図2に示すように、ハウジング2の軸方向端面との接触面を有する大径部41と、ハウジング2の軸方向端部内に挿入される中径部42および小径部43とからなる。端部材4には、軸方向に延びる排気穴44が形成されている。端部材4は固定軸1を内挿し、ハウジング2の軸方向両端に固定されている。端部材4の小径部43の端面と対向する面が、静圧気体軸受3のアキシャル軸受面32となっている。端部材4の小径部43の外周面とハウジング2の内周面との間に気体排出隙間6が存在する。
【0015】
この実施形態のエアスピンドルでは、外部から固定軸1の給気路12に導入された加圧気体が、給気穴12aから静圧気体軸受3の内周溝36に入り、静圧気体軸受3のラジアル軸受面31とアキシアル軸受面32に供給される。これにより、静圧気体軸受3が機能する。
ラジアル軸受面31とアキシアル軸受面32を通った気体は、排気穴35から回収穴15を介して排気路13に回収される。排気路13に回収された気体は外部に排出される。また、端部材4側のアキシアル軸受面32を通った気体は、主に、気体排出隙間6から端部材4の排気穴44を介して外部に排出される。
【0016】
この実施形態のエアスピンドルによれば、静圧気体軸受3が固定軸1の軸受部1bにOリング5により軸方向で移動可能に取り付けられているため、温度上昇に伴ってハウジング(回転体)2が膨張して軸方向に伸びた場合でも、静圧気体軸受3のアキシアル軸受面31と、端部材(回転体)4の小径部43の端面および固定軸(固定体)1の突出部1aの端面との隙間(アキシアル隙間)が、適切な隙間に保持される。よって、静圧気体軸受3による良好な軸受性能が発揮できる。
【0017】
[第2実施形態]
この実施形態のエアスピンドルは、軸が回転体でハウジングが固定体の例であり、図3に示すように、軸(回転体)7と、軸7に外嵌された円筒体(回転体)71と、1対の端部材(回転体)72と、ハウジング(固定体)8と、円筒体71と端部材72とハウジング8との間に配置された1対の静圧気体軸受9と、Oリング(弾性支持部材)5とで構成されている。
【0018】
ハウジング8は、円筒部81の軸方向中央部の内周面にラジアル方向への突出部82を有する形状である。ハウジング8の軸方向両端部の内周面(突出部82が形成されていない円筒部81の内周面)に、各2本の周溝84が形成されている。そして、全ての周溝84にOリング5が配置されている。これらのOリング5により、1対の静圧気体軸受9がハウジング8に対して、軸方向で移動可能に取り付けられている。
1対の静圧気体軸受9は穴開き円板状で、軸方向でハウジング8の突出部82を挟んだ両側に配置されている。静圧気体軸受9は、円筒体71の外周面と対向するラジアル軸受面91と、端部材72および突出部82の端面と対向するアキシアル軸受面92を有する。静圧気体軸受9の外周面に気体導入用の周溝96が形成されている。
【0019】
ハウジング8には、円筒部81の軸方向に延びる第1の給気路(気体供給経路)81aと、第1の給気路81aと繋がり、円筒部81の径方向に延びて円筒部81の内周面に至る一対の第2の給気路(気体供給経路)81bと、排気路(気体排出経路)83が形成されている。1対の第2の給気路81bは、1対の静圧気体軸受9の周溝96の位置に配置されている。また、一方の第2の給気路81bは円筒部81の外周面で開口し、この開口部が、気体供給管を接続する雌ねじ穴81cとなっている。排気路83は、ハウジング8の軸方向中央(突出部82が形成されている位置)を径方向に沿って貫通している。
【0020】
端部材72の外径は静圧気体軸受9の外径と同じであり、端部材72の内径は軸7の外径と同じである。端部材72はボルトで円筒体71の軸方向両端面に固定されている。
この実施形態のエアスピンドルでは、ハウジング8の雌ねじ穴81cに接続された気体供給管から導入された加圧気体が、第2の給気穴81bから静圧気体軸受9の外周溝96に入り、静圧気体軸受9のラジアル軸受面91とアキシアル軸受面92に供給される。これにより、静圧気体軸受9が機能する。ラジアル軸受面91およびアキシアル軸受面92を通った気体は、円筒体71とハウジング8との間を通って排気路83から外部に排出される。
【0021】
この実施形態のエアスピンドルによれば、静圧気体軸受9がハウジング8の円筒部81に、Oリング5により軸方向で移動可能に取り付けられているため、温度上昇に伴って円筒体(回転体)71が膨張して軸方向に伸びた場合でも、静圧気体軸受9のアキシアル軸受面91と、端部材(回転体)72およびハウジング(固定体)8の突出部82の端面との隙間(アキシアル隙間)が、適切な隙間に保持される。よって、静圧気体軸受9による良好な軸受性能が発揮できる。
【0022】
[第3実施形態]
第1実施形態では、Oリング5により、1対の静圧気体軸受3が固定軸1に対して軸方向で移動可能に取り付けられているが、この実施形態では、Oリング5に代えてラビリンスシール50を使用している。これ以外の点は第1実施形態と同じである。
図4に示すように、この実施形態のエアスピンドルでは、固定軸1の軸受部1bの外周面の各4箇所にラビリンスシール50が形成されている。これらのラビリンスシール50により、1対の静圧気体軸受3が固定軸1に対して、軸方向で移動可能に取り付けられている。ラビリンスシール50は、静圧気体軸受3の周溝36を挟んだ両側となる位置に形成されている。
【0023】
この実施形態のエアスピンドルによれば、静圧気体軸受3が固定軸1の軸受部1bにラビリンスシール50により軸方向で移動可能に取り付けられているため、温度上昇に伴ってハウジング(回転体)2が膨張して軸方向に伸びた場合でも、静圧気体軸受3のアキシアル軸受面31と、端部材(回転体)4の小径部43の端面および固定軸(固定体)1の突出部1aの端面との隙間(アキシアル隙間)が、適切な隙間に保持される。よって、静圧気体軸受3による良好な軸受性能が発揮できる。
【0024】
[第4実施形態]
第2実施形態では、Oリング5により、1対の静圧気体軸受9がハウジング8に対して軸方向で移動可能に取り付けられているが、この実施形態では、Oリング5に代えてラビリンスシール50を使用している。これ以外の点は第2実施形態と同じである。
図5に示すように、この実施形態のエアスピンドルでは、ハウジング8の軸方向両端部の内周面(突出部82が形成されていない円筒部81の内周面)の各2箇所に、ラビリンスシール50が形成されている。これらのラビリンスシール50により、1対の静圧気体軸受9がハウジング8に対して、軸方向で移動可能に取り付けられている。ラビリンスシール50は、静圧気体軸受9の周溝96を挟んだ両側となる位置に形成されている。
【0025】
この実施形態のエアスピンドルによれば、静圧気体軸受9がハウジング8の円筒部81に、ラビリンスシール50により軸方向で移動可能に取り付けられているため、温度上昇に伴って円筒体(回転体)71が膨張して軸方向に伸びた場合でも、静圧気体軸受9のアキシアル軸受面91と、端部材(回転体)72およびハウジング(固定体)8の突出部82の端面との隙間(アキシアル隙間)が、適切な隙間に保持される。よって、静圧気体軸受9による良好な軸受性能が発揮できる。
【符号の説明】
【0026】
1 固定軸(固定体)
1a 固定軸(固定体)の突出部
1b 固定軸の軸受部(固定体の突出部以外の部分)
11 周溝
12 給気路
12a 給気穴
13 排気路
14 連通路
15 回収穴
2 ハウジング(回転体)
3 静圧気体軸受
31 ラジアル軸受面
32 アキシアル軸受面
35 排気穴
36 周溝
4 端部材(回転体)
41 端部材の大径部
42 端部材の中径部
43 端部材の小径部
44 排気穴
5 Oリング(弾性支持部材)
50 ラビリンスシール
6 気体排出隙間
7 軸(回転体)
71 円筒体(回転体)
72 端部材(回転体)
8 ハウジング(固定体)
81 ハウジング(固定体)の円筒部
81a 給気路
81b 給気路
81c 雌ねじ穴
82 ハウジング(固定体)の突出部
83 排気路
84 周溝
9 静圧気体軸受
91 ラジアル軸受面
92 アキシアル軸受面
96 周溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸と、ハウジングと、
軸とハウジングとの間に配置されて、軸およびハウジングの一方である回転体を他方である固定体に対して回転可能に支持する静圧気体軸受と、を有し、
前記固定体はラジアル方向への突出部を有し、
前記静圧気体軸受は、軸方向で前記突出部を挟んだ両側に配置され、
前記静圧気体軸受は、前記回転体との間にアキシアル軸受面とラジアル軸受面を有し、 前記静圧気体軸受は、前記固定体の前記突出部以外の部分に、軸方向で移動可能に取り付けられていることにより、前記固定体との間にもアキシアル軸受面を有することを特徴とするエアスピンドル。
【請求項2】
前記静圧気体軸受は、前記固定体に対して弾性支持部材を介して取り付けられている請求項1記載のエアスピンドル。
【請求項3】
前記静圧気体軸受は、前記固定体に対してラビリンスシールを介して取り付けられている請求項1記載のエアスピンドル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−50149(P2013−50149A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187715(P2011−187715)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】