説明

エアバッグカバー用の熱可塑性フィルム

本発明は、カバー層と発泡体層とを備える、エアバッグカバー用の熱可塑性フィルムであって、カバー層が、外層と内層とを有する少なくとも2つの層から形成され、カバー層の内層のおよび発泡体層の破断伸びがカバー層の外層の破断伸びよりも著しく低い熱可塑性フィルムに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下にさらに説明するように、例えばIMGプロセスによって、さもなければエンボス加工工程によって製造された三次元構造の表面を有するコンパクトカバー層を備える、特に自動車の内装トリムのエアバッグカバー用の熱可塑性フィルムに関する。フィルムは、裏面に発泡体層を有し、成形加工ステップにおいて、構成要素の形状に対応する支持体に付与され、これにより、その構成要素の形状を受け入れる。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装トリム用の熱可塑性プラスチック成形体、成形フィルムまたはスラッシュスキンが広く知られており、例えば車両の内装トリムのために、すなわち、ダッシュボード、ドアインサート、サンバイザー等のカバーとして使用される。このような成形体は、通常、多層の裏面発泡体プラスチックフィルムを備え、このプラスチックフィルムの上面は、多様な形状および構成のエンボス加工された三次元構造の表面、すなわち、いわゆるパターンまたはグレインを有する。
【0003】
成形体または成形フィルムは、コンパクトな上層、すなわち、エンボス加工表面または成形表面が設けられる約ショアA60〜ショアD50のショア硬度を有するカバー層または装飾層と、カバーの心地よい感じ、すなわち心地よく「ソフトな」感触を提供する下層として裏面に積層された/接着して取り付けられた低密度の発泡体層とを備える。この場合、上層は「コンパクトフィルム」としても知られている。
【0004】
この場合、成形体/成形フィルムの上層および下層の両方は、異なる組成および異なる基礎原料から、すなわち、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)、PP(ポリプロピレン)、TPO(ポリオレフィン)等のようなプラスチック、またはこのような材料または同様の材料の組み合わせからなり得る。
【0005】
従来技術では、このようなスラッシュスキンを製造するための種々の工程、例えば、「連続的な」フィルムウェブを製造するための圧延工程、または成形で準備された個々のスラッシュスキンを製造するための工程が知られている。この例は、ネガティブ熱成形工程から、特別な工程として進化された「インモールドグレイニングプロセス(IMGプロセス)」である。構成要素の後の輪郭を成形する熱成形型をフィルムに移動させることによって、構成要素の形状に対応する3次元構造への成形が行われる標準的な熱成形工程とは対照的に、ネガティブ熱成形の場合、例えば真空によってフィルムがネガ型に入れられる。インモールドグレイニングは、構成要素の形状に対応する構造だけでなく、その後のグレイン構造もネガティブとして金型の表面に導入されるネガティブ熱成形の特別な改良形態である。
【0006】
本発明の主題のフィルムは、IMGプロセスによる、さもなければ圧延工程またはエンボス加工工程による製造に特に適切であり、そのために設計される。
【0007】
上記成形体または上記成形フィルムを、ダッシュボード支持体に、またはサイドドアインサート用の例えば繊維強化厚紙製の予め製作された支持部に引き続き付与するために、熱成形に加えて、フィルムが金型または前記支持体にプレスされ、その構成要素の形状を受け入れる例えばプレス工程等の別の一連の成形工程が知られている。
【0008】
したがって、既に説明したように、上記フィルム、すなわち上記成形体は、多層の複合体を備え、表面は加工工程に適合された溶融粘度を有し、下部発泡体フィルムは安定して成形される。現在の車両に標準的なものとして装備されているエアバッグ起動装置と共に、支持体のカバーとしての上記フィルムを使用することは、例えばダッシュボード全体を覆い、したがってエアバッグの起動装置にわたるカバーも覆うフィルムが、エアバッグの展開中に開裂するように縫い目/開裂縫い目に沿って弱化される場合にのみ可能である。この弱化は、従来技術では種々の種類の引き続く作業によって行われる。
【0009】
この点に関して、特許文献1は、所定の破断線に沿って延びる弱化構造を形成するための工程を開示しており、ここでは、切削工具および打ち抜き工具としてのブレードを用いて、このブレードが、開裂線に沿って移動され、一定の間欠サイクルでエアバッグトリムを貫通し、再び引っ込められることによって、開裂縫い目がエアバッグカバー/熱可塑性フィルムの後面に配置される。
【0010】
さらに、レーザビームがフィルムの厚さの部分を焼くかまたは切るレーザビーム処理によって、所定の破断線を形成することが知られている。例えば、特許文献2は、穿孔線の形態の弱化構造を形成するためのレーザを有する装置を開示している。この場合、盲孔が所定の間隔でエアバッグトリムに焼き付けられる。
【0011】
開示されている両方の手順の欠点は、時間の経過と共に、後面に形成された材料弱化部が、一般に、材料の劣化により外部から見えてしまうことである。
【0012】
特許文献3は、エアバッグカバーの弱化線を形成するための工程を示しており、この工程において、カバー/フィルムに配置されたソノトロードが超音波によって熱を発生させ、この熱がカバーの繊維外層で機械的弱化を生じさせ、しかし、実際に存在する繊維表面構造が前記弱化によってほんの僅かに妨害されることが意図されるが、多分、この理由は、所定の破断線のパターンが繊維のパターンで特に目立たないからである。しかし、例えば、合成皮革の表面については、はっきりと目立つ弱化線がこの場合明らかである。
【0013】
自動車内装の領域において、品質イメージを向上させる強い傾向を見ることができるので、表面の可視領域の一方の凸凹も他方の凸凹も許容可能でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】独国特許第10055546C2号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第19636428A1号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第1518662A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、品質を損なわない例えば熱成形等の変形作業に適しており、かつ表面の高品質のイメージを有し、多数の追加の作業なしにエアバッグ起動範囲で使用することもできる熱可塑性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、主請求項の特徴によって達成される。別の有利な形態は従属請求項に開示される。同様に、上記フィルムを有する内装トリム部品が開示される。
【0017】
この場合、カバー層は少なくとも2層形態のものであり、したがって、少なくとも1つの外層と、発泡体層に隣接する内層とを備える。カバー層の内層、および発泡体層は、カバー層の外層の破断伸びよりも著しく低い破断伸びを有する。この構造は、エアバッグ発生器が起動されたとき、フィルムが何らの問題もなく開裂し、エアバッグの膨張を可能にするという効果を有する。
【0018】
これまで従来技術では、弱化線がさらに導入されないフィルムの場合にはそうもいかなかった。その理由は、弱化断面なしの通常のフィルムがエアバッグ開口部にわたって延伸され、次に、エアバッグが起動された場合、エアバッグフラップがエアバッグによって発泡体に当たり、発泡体を破壊するためである。従来の層構造では、事象が進行したとき、フラップは、コンパクトな、一般に単層のカバー層に当たり、このカバー層は、その非常に高い耐破断性および伸長性により、すぐには破壊せず、初めは伸びる。これにより、発泡体の上層がフィルムから分離され、この結果、別の伸長可能なフィルム材料が利用可能である。結果として、破壊が生じる前に伸びを全体的に行わなければならない距離、したがってエアバッグの開放に必要な時間ははるかに長くなる。このような構造の試験では、DIN527−3と同様の引張伸び研究において、発泡体の破壊後、フィルムが破断する前にカバー層の伸びが原寸の最大1200%の値になることを観察することが可能であった。このことは望ましくなく、当該技術分野で弱化線が導入された。
【0019】
コンパクトカバー層の内層が、コンパクトカバー層の外層の値よりも十分に低い耐破断性および破断伸びを有するように本発明により提供されるとおり成形されたフィルムでは、弱化線の導入を省略することが今や可能であるが、この理由は、発泡体層も同様に破断するときに構造全体の破断がうまく行われるようになっているからである。
【0020】
記載した3層のフィルム、いわゆるトリラミネートでは、DIN527−3に従った引張伸び試験において、エアバッグカバーフィルムの成形の要件を満たしかつ構造全体の著しく低い破断伸びを有する挙動を観察することが可能であった。具体的には、構造的に安定しておりかつ均一に柔軟な、外見上好ましいフィルムを提供する全体効果を有するような層の成形は、材料の継ぎ目の劣化が見られず、材料構造におよび材料に依存する抵抗および伸び挙動レベルの結果として、エアバッグ起動装置の範囲の利用に特に適切である。
【0021】
有利な発展形態は、破壊に対する内層の破断伸びが、それぞれの原寸の長手方向では600%以下であり、横方向では500%以下であるということにある。この発展形態の特に適切な範囲は、破壊に対する内層の破断伸びが、原寸の長手方向では500%以下、好ましくは400%以下であり、横方向では400%以下、好ましくは300%以下であることによって特徴付けられる。特に、長手方向および横方向の内層の耐破断性が8〜25MPa、好ましくは10〜15MPaであるような有利な形態と共に、用いられた変形工程/熱成形工程に十分な構造強度に関するフィルムの優れた調製を同時に伴うバランスのとれた破断挙動が、従来のフィルムの厚さおよび寸法によって得られる。
【0022】
このことは、コンパクトカバー層の個々の層が、0.2〜0.6mmの厚さ、好ましくは0.2〜0.4mmの厚さをそれぞれ有する別の有利な形態によって補助される。結果として、これらのフィルムは、一方の側面が、IMGプロセスのまたはポジティブ熱成形の優れた品質のグレインを得るために依然としてあまり薄くならず、他方の側面が、依然として材料費に対してあまり大きくない効果を有する厚さを有する。当然ながら、これらのフィルムの厚さ/形状を多様な材料に適合させて製造することが可能である。
【0023】
別の有利な形態は、破壊に対する発泡体層の破断伸びが、それぞれの原寸の長手方向では400%以下であり、横方向では300%以下であるということにある。この発展形態の特に適切な範囲は、破壊に対する発泡体層の破断伸びが、それぞれの原寸の長手方向では300%以下、好ましくは200%以下であり、横方向では200%以下、好ましくは150%以下であることによって特徴付けられる。
【0024】
特に、0.5〜4mmの発泡体層の厚さの有利な形態に関連して、自動車構造における従来の層厚さおよびカバー層材料の伸び挙動の正確に適合された設計が得られる。さらに、このことは、発泡体層が40〜300kg/mの密度、好ましくは40〜200kg/mの密度を有するということにある別の有利な形態によって補助される。このような形態はフィルムの加工および製造を容易にし、これにより、材料の柔軟性と、熱成形に必要な構造強度と、所望の破断挙動とのバランスのとれた比が得られる。
【0025】
上記フィルムは、自動車用の内装トリム部品、好ましくはダッシュボードのカバーに特に適しており、カバーフィルムは、本発明による方法では、少なくともエアバッグカバーの領域でまたはエアバッグカバーの開裂縫い目の領域で多層形態である。
【0026】
例示的な実施形態に基づいて本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による熱可塑性フィルムの構造を示す図である。
【図2】従来技術のフィルムと比較した長手方向の本発明によるフィルムの破断伸び挙動を示す図である。
【図3】従来技術のフィルムと比較した横方向の本発明によるフィルムの破断伸び挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、この場合2層形態であり、すなわち、外層3と、発泡体層5に隣接する内層4とを有する多層カバー層2を有する熱可塑性フィルム1の構造を示している。フィルムは、乗員用エアバッグの領域の自動車ダッシュボードを覆うために使用される。
【0029】
カバー層の内層4、および発泡体層5は、カバー層2の外層3の破断伸びよりも著しく低い破断伸びを有する。熱可塑性フィルム1のカバー外層には、エンボス加工された三次元構造の表面5、すなわち、回転エンボス加工によって外面にエンボス加工されたグレインが設けられる。
【0030】
この場合、カバー層は、0.4mmの下層4の厚さと、同様に0.4mmの上層3の厚さとからなる0.8mmの全厚さを有する。
【0031】
発泡体層2は2mmの層厚さを有する。
【0032】
図2は、従来技術のフィルムと比較した長手方向の本発明によるフィルムの、試験で測定された破断伸び挙動を示している。
【0033】
図3は、横方向の本発明によるフィルムの破断伸び挙動の対応する結果を示している。
【0034】
この場合、長手方向および横方向は互いに垂直であり、フィルムの製造方向(圧延方向、押出方向)が長手方向として規定され、製造方向に対して垂直な方向が横方向として規定される。さらに、エアバッグの起動中における本図に示したそれぞれの破断伸び挙動は、フィルム全体に、すなわち、2層のカバー層と発泡体層とを備えるフィルム積層物全体に関係し、例えば、フィルムの個々の層には関係しない。
【0035】
ここで、曲線6は、引張伸び値に基づく長手方向の従来技術のフィルムの破断伸び挙動を示しており、張力は伸びに対してプロットされている。曲線6’は横方向の対応する値を示している。この場合、約400%の伸びを超えた後に、点7(長手方向)と7’(横方向)で発泡体が破壊した後、フィルムが破断する前にカバー層の伸びが最大1200%の値に増加することが明らかに理解できる。
【0036】
長手方向の曲線8と9および横方向の曲線8’と9’のそれぞれは、本発明による2つのフィルムの破断伸び挙動を示しており、この場合、一方では、発泡体の破壊における顕著な上昇を見ることができず、他方では、発泡体がさらに破断するときに、すなわち300〜600%程度の伸びにおいて、構造全体の破断が生じる。
【符号の説明】
【0037】
1 熱可塑性フィルム
2 カバー層
3 カバー層の外層
4 カバー層の内層
5 発泡体層
6 長手方向の従来技術のフィルムの破断伸び曲線
6’ 横方向の従来技術のフィルムの破断伸び曲線
7 長手方向の発泡体の破壊に関する曲線範囲
7’ 横方向の発泡体の破壊に関する曲線範囲
8 長手方向の本発明による第1のフィルムの破断伸び曲線
8’ 横方向の本発明による第1のフィルムの破断伸び曲線
9 長手方向の本発明による第2のフィルムの破断伸び曲線
9’ 横方向の本発明による第2のフィルムの破断伸び曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元構造の表面と裏面の発泡体層とを有するコンパクトカバー層を備える、特に自動車の内装トリムのエアバッグカバー用の熱可塑性フィルム(1)であって、前記フィルムが、成形加工ステップにおいて、構成要素の形状に対応する支持体に付与され、これにより、前記構成要素の形状を受け入れる熱可塑性フィルム(1)において、
前記カバー層(2)が、外層(3)と、前記発泡体層に隣接する内層(4)とを備える少なくとも2層形態のものであり、前記カバー層の前記内層(4)、および前記発泡体層(5)が、前記カバー層の前記外層(3)の破断伸びよりも著しく低い破断伸びを有することを特徴とする熱可塑性フィルム(1)。
【請求項2】
破壊に対する前記内層(4)の前記破断伸びが、それぞれの原寸の長手方向では600%以下であり、横方向では500%以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性フィルム。
【請求項3】
破壊に対する前記内層(4)の前記破断伸びが、前記それぞれの原寸の前記長手方向では500%以下、好ましくは400%以下であり、前記横方向では400%以下、好ましくは300%以下であることを特徴とする請求項2に記載の熱可塑性フィルム。
【請求項4】
前記長手方向のおよび前記横方向の前記内層(4)の耐破断性が、8〜25MPa、好ましくは10〜15MPaであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱可塑性フィルム。
【請求項5】
前記コンパクトカバー層の前記個々の層(3、4)が、0.2〜0.6mmの厚さ、好ましくは0.2〜0.4mmの厚さをそれぞれ有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱可塑性フィルム。
【請求項6】
破壊に対する前記発泡体層(5)の前記破断伸びが、それぞれの原寸の長手方向では400%以下であり、横方向では300%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性フィルム。
【請求項7】
破壊に対する前記発泡体層(5)の前記破断伸びが、前記それぞれの原寸の前記長手方向では300%以下、好ましくは200%以下であり、前記横方向では200%以下、好ましくは150%以下であることを特徴とする請求項6に記載の熱可塑性フィルム。
【請求項8】
前記発泡体層(5)が0.5〜4mmの厚さを有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の熱可塑性フィルム。
【請求項9】
前記発泡体層(5)が、40〜300kg/mの密度、好ましくは40〜200kg/mの密度を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の熱可塑性フィルム。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の熱可塑性フィルムが設けられた自動車用の内装トリム部品、好ましくはダッシュボードであって、前記カバーフィルムが、少なくともエアバッグカバーの領域でまたは前記エアバッグカバーの開裂縫い目の領域で多層形態である内装トリム部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−517854(P2010−517854A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−548637(P2009−548637)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【国際出願番号】PCT/EP2008/050357
【国際公開番号】WO2008/098809
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(599004139)ベネツケ−カリコ・アーゲー (15)
【氏名又は名称原語表記】Benecke−Kaliko AG
【出願人】(390009195)ジョンソン コントロールズ インテリアズ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (4)
【氏名又は名称原語表記】Johnson Controls Interiors GmbH&Co.KG
【住所又は居所原語表記】Muehlhausener Strasse 35,D−47929 Grefrath,Germany
【Fターム(参考)】