説明

エアバッグケース

【課題】エアバッグ展開時の、下面板部材の変形を抑制する。
【解決手段】収納したエアバッグ1にガスを供給するインフレータ5の取付けを行うエアバッグケース12であり、ファブリック製ハウジング11を挿入する開口12aaを備え、この開口12aa部にインストルメントパネルへの係合用フック12abを設けた係合部材12aと下面板部材12cを、エアバッグ1の展開時に、エアバッグケース12に作用する回転モーメントを抑制できる位置で、ブリッジ機構12bにより連結した構成である。
【効果】エアバッグの展開時における下面板部材の変形を抑制でき、展開方向が変化することを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車に設置されるエアバッグ装置の、エアバッグの収納と、このエアバッグにガスを供給するインフレータの取付けを行うエアバッグケースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗員の安全確保を目的として、自動車には、幾つかの安全装置が設置されている。衝突などの緊急時に、インフレータで発生させたガスによってエアバッグを展開させるエアバッグ装置も安全装置の1つである。
【0003】
このエアバッグ装置のうち、助手席用のエアバッグ装置は、図5に示すように、インストルメントパネル4の内側に設けた立壁4aの係合孔4aaに、エアバッグケース2の一方側壁2aの開口近傍に取付けたフック2bを係合させて取付けている(例えば特許文献1)。なお、図5中の1はエアバッグ、3はエアバッグ1を覆う帯状のフラップ、5はインフレータである。
【0004】
ところで、前記エアバッグ装置は、車両への搭載時におけるエアバッグの折り畳み形状の保持と、展開時における展開方向の規制のため、天井面が開口した箱状の金属製又は樹脂製エアバッグケースによって、エアバッグの全周を覆っている。
【0005】
しかしながら、前記構成のエアバッグケースは、重量が重たいので、近年の軽量化の傾向に反することになる。また、必要とする資源も多くなって、省資源化の傾向に反することになる。さらに、エアバッグ装置の取付け部の強度も、前記エアバッグケースの重量増加に伴って大きな強度が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−110737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする問題点は、従来の金属製又は樹脂製の箱状エアバッグケースを採用する場合は、必要とする資源が増加して重量も増加するので、省資源化、軽量化に反するという点である。また、エアバッグ装置の取付け部も、前記の重量増加に伴って大きな強度が必要になるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明では、エアバッグの収納と、インフレータの取付けを行うエアバッグケースを、係合部材と下面板部材をブリッジ機構で連結する構成とし、その連結位置を最適に規定することで、エアバッグ展開時の、下面板部材の変形を抑制するものである。
【0009】
すなわち、本発明のエアバッグケースは、
エアバッグの収納と、収納したエアバッグにガスを供給するインフレータの取付けを行うエアバッグケースであって、
前記エアバッグを挿入する開口を備え、この開口部にはインストルメントパネルへの係合用フックを設けた係合部材と、この係合部材にブリッジ機構を介して連結される下面板部材を含み、
エアバッグの展開時に、エアバッグケースに作用する回転モーメントを抑制できる位置で、前記ブリッジ機構による連結を行ったことを最も主要な特徴としている。
【0010】
本発明では、エアバッグの展開時に、エアバッグケースに作用する回転モーメントを抑制できる位置で、前記ブリッジ機構による連結を行うので、エアバッグの展開時における下面板部材の変形を抑制できる。
【0011】
本発明において、ブリッジ機構とは、前記係合部材と前記下面板部材をブリッジのように橋渡しをして互いに係止するものである。このブリッジ機構は、前記係合部材と前記下面板部材が、ファブリック製ハウジングを保持するように構成される。
【0012】
このブリッジ機構としては、例えば次のようなものがある。
a)前記係合部材12a又は前記下面板部材12cから、折り畳まれたエアバッグの厚み方向に延びた板状の部材12baが、相互に前記エアバッグ厚み方向の中間部位で連結するように形成されたもの(図4(a)参照)。
b)前記係合部材12aや前記下面板部材12cとは別の第三の板状部材12bbが、前記係合部材12aと前記下面板部材12cそれぞれに連結するように形成されたもの(図4(b)(c)参照)。
c)前記係合部材12a又は前記下面板部材12cの一方から、折り畳まれたエアバッグの厚み方向に他の一方まで延びた部分12bcが、前記下面板部材12c又は前記係合部材12aと連結するように形成されたもの(図4(d)(e)参照)。
前記係合部材12a又は下面板部材12cと、板状の部材12ba12bb、12bcは、半径10mm以上の湾曲部を介して連続することが望ましい。
【0013】
本発明において、前記係合部材と前記下面板部材を別部材で構成した場合は、どちらか一方の部材を変更するだけで、異なる車両への取付けが可能になる。その際、エアバッグの展開時における下面板部材の変形を抑制できるので、下面板部材の厚さを係合部材の厚さよりも薄くすることで、更なる重量軽減が図れる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、エアバッグの展開時に、エアバッグケースに作用する回転モーメントを抑制できる位置で、ブリッジ機構による連結を行うので、エアバッグの展開時における下面板部材の変形を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のエアバッグケースを備えた助手席に備えるエアバッグ装置の組立て状態の一例を説明する斜め上方から見た斜視図である。
【図2】図1に示す本発明のエアバッグケースを備えたエアバッグ装置の分解斜視図である。
【図3】本発明のエアバッグケースの特徴を説明する側面図である。
【図4】(a)〜(e)はブリッジ機構の各種の態様を説明する図である。
【図5】従来のエアバッグ装置のインストルメントパネルへの取付け状態を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
従来の金属製又は樹脂製の箱状エアバッグケースの場合、必要とする資源が増加して重量も増加するので、省資源化、軽量化に反する。また、エアバッグ装置の取付け部も、前記の重量増加に伴って大きな強度が必要になる。
【0017】
本発明は、エアバッグケースの側壁を可能な限り省略して、資源と重量の軽減しつつ、エアバッグケースの係合部材と下面板部材を連結するブリッジ機構での連結位置を最適に規定することで、エアバッグ展開時に、下面板部材の変形の抑制を実現するものである。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態例について、図1〜図3を用いて説明する。
図1〜図3は本発明のエアバッグケースを備えた助手席に備えるエアバッグ装置について説明した図である。
【0019】
11はエアバッグケース12への収納時にエアバッグ1を保持するハウジングで、例えばエアバッグ1と同じファブリックを用いて、折り畳み状態のエアバッグ1が収納可能なように、エアバッグ1と略同形状の、天井が開口した有底箱体に縫製している。
【0020】
このファブリック製ハウジング11には、床面にインフレータ5との接続用孔11aと取付け用孔11bが設けられている。また、図2の例では、前記開口の一方両側に、後述するエアバッグケース12のフック12abに係合する切込み11cを設けている。
【0021】
このようなファブリック製ハウジング11を備えたエアバッグ装置では、エアバッグ1が床面及び全側面に亘ってファブリック製ハウジング11に覆われることになる。
【0022】
従って、本発明のエアバッグケース12にエアバッグ1を組み込む際、エアバッグケース12との擦過からエアバッグ1を保護することができる。また、車両への搭載時には、ファブリック製ハウジング11によってエアバッグ1の折り畳み状態を保持することができる。
【0023】
一方、エアバッグ1の展開時には、ファブリック製ハウジング11がエアバッグ1をエアバッグケース12の内部に保持し、さらにブリッジ機構12b、係合部材12a及び下面板部材12cが、ファブリック製ハウジング11の弾性的な変形を抑制する。従って、エアバッグ1の展開方向を正しく規制しながら、乗員拘束に十分なエアバッグ1の展開性能を確保することができる。
【0024】
このようなファブリック製ハウジング11を採用することで、本発明では、エアバッグケース12の側壁を可能な限り省略することができる。
【0025】
すなわち、開口12aaの例えば乗員側とこれに対向する側に係合用フック12abを設けただけの係合部材12aに、ブリッジ機構12bを介して下面板部材12cを連結するだけでエアバッグケース12を構成できるようになる。
【0026】
従って、エアバッグケース12を製作するための資源を減少でき、エアバッグケース12自体の重量も軽減することができる。
【0027】
図1〜図3の例では、係合部材12aと下面板部材12cを別部材で構成し、これら係合部材12aと下面板部材12cの相対する一方側面に、各2個のブリッジ機構12bを構成するそれぞれの板状の部材12baを一体に形成している。このように係合部材12aと下面板部材12cを別部材で構成すれば、どちらか一方の部材を変更するだけで、異なる車両への取付けが可能になる。
【0028】
別部材で構成したブリッジ機構12bを構成する板状の部材12ba同士は溶接やボルト等によって締結する。一方、エアバッグ1の展開時、各係合用フック12abには引張方向の力F1〜F5がほぼ均等に作用する。
【0029】
これら引張方向の力F1〜F5は、ブリッジ機構12bを構成する板状の部材12ba同士の締結部12bdに曲げモーメントとして作用するので、締結部12bdの位置によっては、下面板部材12cを変形させることになる。
【0030】
そこで、本発明では、ブリッジ機構12bを構成する板状の部材12ba同士の締結部12bdを、エアバッグ1の展開時に、エアバッグケース12に作用する回転モーメントを抑制できる位置とするのである。
【0031】
すなわち、図1〜図3に示すような、乗員側とこれに対向する側に、各5個の係合用フック12abが等間隔位置に設けられている場合、図3の紙面左半分の回転モーメントは、以下のように計算できる(図3の紙面右半分の回転モーメントも同様に計算できる)。
【0032】
各係合用フック12abに作用する引張方向の力を、図3の紙面左側から順にF1〜F5とする。また、各係合用フック12ab間の距離をr1、図3の紙面左から2番目の係合用フック12abから前記締結部12bdまでの距離をr2とする。この場合、以下の数式を満足する点の近傍に前記締結部12bdを設ければ、図3の紙面左半分の回転モーメントを抑制できる。
【0033】
(r1−r2)F1=r2F2+(r1+r2)(F3/2)
【0034】
従って、上記の数式を満足する点の近傍から垂直となる直線L上に前記締結部12bdを設ければ、図3の紙面左半分の回転モーメントを抑制できて、下面板部材12cに発生する撓みを抑制できる。
【0035】
なお、上記の数式を満足する点の近傍とは、上記の数式を満足する点から図3の紙面左右方向に各5mm程度の範囲を含むことを意味している。発明者らの実験によれば、この程度の範囲であれば、仮に下面板部材12cに撓みが発生しても撓みを最小限にすることが可能で、エアバッグ1の安全展開につなげることが可能だからである。
【0036】
このような本発明では、下面板部材12cに発生する撓みを抑制できるので、下面板部材12cの厚さを係合部材12aの厚さよりも薄くでき、更なる重量軽減が図れる。
【0037】
図1〜図3の例では、係合部材12aの開口12aaの全周に立壁12acをプレス成形することで、係合部材12aの剛性を増加させ、展開時におけるエアバッグ1の展開方向の規制をより確実に行えるものを示している。その際、立壁12acのコーナ部となる箇所に逃げ部12adを設け、立壁12acをプレス成形又は絞り成形する場合の加工歪みを分散するようにしている。
【0038】
さらに、前記フック12abの、前記開口12aaと水平な平面部分の長手方向全長と、前記フック12abが突出した立壁12ac部に、フック12abの剛性増加と、インストルメントパネルへの取付け部の強度増加のための、ビード12aeを形成している。
【0039】
このように、フック12ab部と立壁12ac部にビード12aeを形成することで、必要な強度を保ちながら係合部材12aの厚さを薄くでき、さらなる重量の軽減を図ることができる。
【0040】
なお、図1〜3中の12caは下面板部材12cに設けたインフレータ5の嵌合用孔、12cbは同じくインフレータ5の取付け用孔、図2中の6はエアバッグ1とインフレータ5をエアバッグケース12に固定するためのリテーナリングである。
【0041】
以上のような構成のエアバッグ装置では、有底箱体に形成したファブリック製ハウジング11により、車両への搭載時にはエアバッグ1の折り畳み形状を保持することができる。また、緊急時にエアバッグ1が展開した場合は、展開方向の規制を行うことができる。
【0042】
また、上記構成のファブリック製ハウジング11を採用することによって、エアバッグケース12の側壁を可能な限り省略できるようになって、資源の減少と重量の軽減を図ることができる。
【0043】
加えて、本発明では、エアバッグケース12の係合部材12cと下面板部材12cを連結するブリッジ機構12bの締結部12bdの位置を最適に規定することで、エアバッグ1の展開時に、下面板部材12cの変形を抑制でき、展開方向の変化を防止できる。
【0044】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良い。
【0045】
すなわち以上で述べたエアバッグケースは、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定する主旨の記載がない限り、本発明は添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨のない限り、それに限定されるものではない。
【0046】
例えばエアバッグケース12のブリッジ機構12bは、開口12aaの全ての側にブリッジ機構12bを取付けるようにしても良い。
【0047】
また、係合部材12a、ブリッジ機構12b、下面板部材12cを一体に形成したものでも、係合部材12a又は下面板部材12cのどちらか一方にブリッジ機構12bを一体形成したものでも良い。
【0048】
さらに、インフレータ5も円盤状タイプのものに限らず、円柱状タイプのものを使用しても良い。円柱状タイプのインフレータを使用する場合、下面板部材12cは円柱状の凹み部を設けた形状のものを使用する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のエアバッグケースは、自動車に設置して用いるが、車両以外に航空機や船舶等の乗物に設けることも可能であり、同様な効果が発揮される。
【符号の説明】
【0050】
1 エアバッグ
5 インフレータ
11 ファブリック製ハウジング
12 エアバッグケース
12a 係合部材
12aa 開口
12ab フック
12b ブリッジ機構
12bd 締結部
12c 下面板部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグの収納と、収納したエアバッグにガスを供給するインフレータの取付けを行うエアバッグケースであって、
前記エアバッグを挿入する開口を備え、この開口部にはインストルメントパネルへの係合用フックを設けた係合部材と、この係合部材にブリッジ機構を介して連結される下面板部材を含み、
エアバッグの展開時に、エアバッグケースに作用する回転モーメントを抑制できる位置で、前記ブリッジ機構による連結を行ったことを特徴とするエアバッグケース。
【請求項2】
前記係合部材と前記下面板部材は、それぞれが別部材で構成されたものであることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグケース。
【請求項3】
前記下面板部材の厚さは、前記係合部材の厚さよりも薄くなされていることを特徴とする請求項2に記載のエアバッグケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−35747(P2012−35747A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177548(P2010−177548)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(503358097)オートリブ ディベロップメント エービー (402)
【復代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
【復代理人】
【識別番号】100116344
【弁理士】
【氏名又は名称】岩原 義則
【復代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
【Fターム(参考)】