説明

エアバッグ基布からのシリコーン除去方法

【課題】ポリアミド繊維の再利用を図るため、シリコーンコーティングされたポリアミド繊維からなるエアバッグ基布から、シリコーンを容易に除去する方法を提供する。
【解決手段】シリコーンコーティングされたポリアミド繊維からなるエアバッグ基布を、アルカリ−イソプロピルアルコール液に浸漬して容易にシリコーンを除去する。この方法は、コーティングされているシリコーンの種類を問わずにエアバッグ基布からシリコーンの除去を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ基布からのシリコーン除去方法に関し、特に、エアバッグ基布を構成するポリアミド繊維の再利用を図るため、シリコーンコーティングされたエアバッグ基布のポリアミド繊維から、シリコーンを除去する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の座席前方又は側方に備えられる安全装置として、エアバッグが広く用いられるようになってきており、エアバッグを搭載した車の比率はここ数年ますます高くなってきている。一方、搭載されたエアバッグは、事故が発生した時に膨張展開して使用されるだけであり、多くの場合は未使用の状態のまま車に搭載されて廃車にされた後、取り外されスクラップとなる。
【0003】
このエアバッグ基布の主要繊維には、機械的強度、耐熱性、柔軟性を有する必要があるためポリアミド繊維であるナイロン66(以下、「ポリアミド66」と記す)が使用されている。また、このエアバッグ基布には耐熱性、難燃性、空気遮断性などの向上のためシリコーンがコーティングされている。このため、そのままでは高価なポリアミド66をナイロン素材として回収再利用することはできず、エアバッグスクラップ布のリサイクルのためにはシリコーンコーティング層を除去する必要がある。シリコーンを除去する技術については、特許文献1にて、エアバッグスクラップ布をアルカリ液浸漬した後、脱水し、容器内で撹拌することによりシリコーン層を剥離除去することが提案されている。これにより、基布のポリアミド66のリサイクルが可能である。また、エアバッグ用基布としてナイロン6やポリエステルを用いたものにも適用可能としている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、エアバッグスクラップ布をアルカリ液浸漬することでシリコーンを基布から浮かせ、そのうえで撹拌することで、その撹拌時の擦れあいにより基布からシリコーンを剥離させるものであるため、撹拌作業が必須のものとなり、作業工程が複雑である。しかも、十分な撹拌を行わないと、シリコーンコーティング層の剥離が十分でなくなる。また、エアバッグ基布がポリエステルの場合、アルカリ水浸漬時にエステルがアルカリによって加水分解されることで、エアバッグ基布が変質し、劣化するので、リサイクルの価値がなく、有用な技術手段とはいえない。すなわち、回収されたエアバッグの基布部をなす繊維材料をリサイクルする効率的な方法は、未だ見出されていない。
【0005】
エアバッグ基布に用いられるポリアミド繊維としては、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610等に代表される脂肪族ポリアミド繊維や、ナイロン6T、ナイロン6I等の芳香族ポリアミド繊維、もしくは、ナイロン66/6I、ナイロン66/610等の共重合ポリマーの繊維、もしくはブレンドポリマーの繊維等が挙げられる。しかし、特に機械的強度、耐熱性、柔軟性の点から、主要繊維にはポリアミド66が最適として使用されている。また、コーティングされているシリコーンも多種にわたるため、シリコーンの種類に関わらず、簡単且つ少工程で、エアバッグ基布からシリコーン層を除去する方法を考える必要がある。
【特許文献1】特開2001−180413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、シリコーンの種類に関わらず、シリコーンコーティングされたポリアミド繊維からなるエアバッグ基布から、容易にシリコーンを除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シリコーンコーティングされたポリアミド繊維からなるエアバッグ基布をアルカリ−イソプロピルアルコール液に浸漬してシリコーンを除去することを特徴とする。
【0008】
エアバッグ基布をアルカリ−イソプロピルアルコール液に浸漬することで、エアバッグ基布にコーティングされたシリコーンは、液に溶解するか、または溶解せずに残ったものも、劣化して剥離しやすい状態になる。この液から、基布を取り出し、水洗、脱水、乾燥することで、容易にシリコーンコーティング層を除去でき、リサイクルに適したポリアミド繊維が得られる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、特許文献1に記載された従来のシリコーンの除去法に比べて、シリコーンの種類に関わらず、シリコーンコーティングされたポリアミド繊維からなるエアバッグ基布から、シリコーンを容易に除去することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明においては、廃車などから排出されたエアバッグスクラップ基布を直接アルカリ−イソプロピルアルコール液に浸漬することも可能である。しかし、適当な大きさに裁断することが、作業性の点で好適である。その場合の裁断寸法は、取り扱い性、除去効率を考慮して30cm角程度が好ましい。
【0011】
必要に応じて裁断したスクラップ布は、アルカリ−イソプロピルアルコール液に浸漬する。この浸漬工程では、処理時間短縮の点を考慮すると、加熱下で撹拌処理をすることが好ましい。
【0012】
本発明においては適宜のアルカリを使用することができる。なかでも、価格、取り扱い性、汎用性の面から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ、特に水酸化ナトリウムが好適である。
【0013】
また、アルコールとしては、イソプロピルアルコール(2−イソプロピルアルコール)を用いることが必要である。イソプロピルアルコール以外の、たとえばエチルアルコールやメチルアルコールでは、実質的なシリコーン除去効果を発揮することができない。
【0014】
アルカリ−イソプロピルアルコール液としては、下記の2種類、すなわち、水を含むものと、水を含まないものとを用いることができる。
(i)水を用いるもの
アルカリを水溶液の形で用いるものである。すなわち、アルカリ−イソプロピルアルコール液の配合比を次の範囲にすることが好適である。
【0015】
アルカリ : 1〜54質量%
水 : 1〜44質量%
イソプロピルアルコール:98〜 2質量%
なかでも、水酸化ナトリウムを用いる場合は、水酸化ナトリウム水溶液として、水酸化ナトリウムの質量濃度が30〜55質量%であるものが効果的である。さらに、常温での飽和溶液である、水酸化ナトリウムの質量濃度が50質量%前後のものが、最も効果的である。
【0016】
この場合は、水酸化ナトリウム水溶液とイソプロピルアルコールとの質量比が、2:98〜98:2という大きな幅の範囲で、実質的な効果を奏することが可能である。なかでも、水酸化ナトリウム水溶液:イソプロピルアルコール=80:20(質量%比)のものが特に効果的である。
【0017】
水酸化ナトリウム水溶液が飽和状態であるときには、イソプロピルアルコールとの間で活性化が起こりやすいので、上記のようにイソプロピルアルコールの量がそれほど多くなくても効果があるものと思われる。
【0018】
なお、水酸化ナトリウム水溶液とイソプロピルアルコール液とは、水酸化ナトリウムの量が一定範囲を超えると、例えば水酸化ナトリウム:水:イソプロピルアルコール=2:49:49(質量%比)では、静置状態で相分離するため、上述の撹拌を行うことが好ましい。
【0019】
また、水酸化ナトリウム水溶液と共にイソプロピルアルコール液を使用することは必須条件であり、水酸化ナトリウム水溶液:イソプロピルアルコール=100:0(質量%比)ではシリコーン剥離効果がない。
【0020】
(ii)水を用いないもの
アルカリを水を用いずにイソプロピルアルコール液に直接溶解した、アルカリのイソプロピルアルコール溶液を使用する。
【0021】
特にアルカリが水酸化ナトリウムである場合は、水酸化ナトリウム:イソプロピルアルコール=1:99〜5:95(質量%比)の範囲であることが好ましい。なかでも、5:
95(質量%比)がもっとも効果的である。
【0022】
スクラップ布のアルカリ−イソプロピルアルコール液への浸漬時間は、アルカリ−イソプロピルアルコール液の最適条件を選べば、コーティングしているシリコーンの種類を問わず、撹拌を伴った条件のもとでは、常温下、約30分で十分である。例えば、水酸化ナトリウム:水:イソプロピルアルコールの組み合わせの場合、アルカリ−イソプロピルアルコール液の最適条件は、水酸化ナトリウム:水:イソプロピルアルコール=40:40:20(質量%比)であり、上述の常温下における約30分の撹拌で、シリコーンの除去が可能となる。撹拌しないで静置する場合、アルカリ−イソプロピルアルコール液への浸漬時間は、約半日を必要とする。尚、アルカリ−イソプロピルアルコール液への浸漬時間を短縮するため、アルカリ−イソプロピルアルコール液中で加熱静置、または加熱撹拌することができる。ただし、その場合には、共沸点以下で還流しながら行う必要がある。
【0023】
浸漬処理を行うことで、エアバッグスクラップ基布に付着していたシリコーンは、その大半または全部が、アルカリ−イソプロピルアルコール液に溶解する。一部が溶解せずに液中に浮遊することがあるが、基布から剥離していれば、浮遊状態でも差し支えない。
【0024】
アルカリ−イソプロピルアルコール液での浸漬処理後は、液から布を取り出して水洗、脱水する。この脱水は、遠心脱水、ベルトプレス脱水等が挙げられるが、脱水機による遠心脱水が好ましい。
【0025】
使用後のアルカリ−イソプロピルアルコール液は、必要に応じて、濾過又はアルカリの補充をしながら再利用が可能である。その後、蒸留釜等でアルカリ−イソプロピルアルコール液を中和した後、蒸留することで、イソプロピルアルコールのみを回収することができる。蒸留後の残渣液の成分は、中和塩が含まれるもののシリコーンが大部分であり、これはシリコーンメーカーにて回収が可能である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例および比較例により本発明を説明する。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0027】
実施例1 厚さ10μmのシリコーンがコーティングされたエアバッグ基布を30cm角に裁断し、浸漬液としてアルカリ−イソプロピルアルコール液(NaOH:水:イソプロピルアルコール=3.4:34.3:62.3(質量%比))へ浸漬し、室温下で24時間静置した結果、シリコーンの剥離を確認した。
【0028】
実施例2 厚さ30μmのシリコーンがコーティングされたエアバッグ基布を30cm角に裁断し、浸漬液としてアルカリ−イソプロピルアルコール液(NaOH:水:イソプロピルアルコール=3.4:34.3:62.3(質量%比))へ浸漬し、室温下で60rpmにて1時間撹拌したが、シリコーンが剥離しなかったため、同条件で4時間撹拌した結果、シリコーンの剥離を確認した。また、撹拌処理を行わず浸漬した場合、24時間後にシリコーンは剥離しなかったが、48時間後にはシリコーンの剥離を確認した。
【0029】
実施例3 実施例2と同じエアバッグ基布を用い、浸漬液としてアルカリ−イソプロピルアルコール液(NaOH:水:イソプロピルアルコール=5:5:90(質量%比))へ浸漬し、室温下で60rpmにて1時間撹拌した結果、NaOHは一部不溶であったが、シリコーンの剥離を確認した。
【0030】
実施例4 実施例2と同じエアバッグ基布を用い、浸漬液としてアルカリ−イソプロピルアルコール液(NaOH:水:イソプロピルアルコール=5:0:95(質量%比))へ浸漬し、室温下で60rpmにて1時間撹拌した結果、NaOHの大部分は不溶であったがシリコーンの剥離を確認した。
【0031】
実施例5 実施例2と同じエアバッグ基布を用い、浸漬液としてアルカリ−イソプロピルアルコール液(NaOH:水:イソプロピルアルコール=2:8:90(質量%比))へ浸漬し、室温下で60rpmにて1時間撹拌したが、シリコーンは剥離しなかったため、同条件で4時間撹拌した結果、僅かではあるがシリコーンの剥離を確認した。
【0032】
実施例6 実施例2と同じエアバッグ基布を用い、浸漬液としてアルカリ−イソプロピルアルコール液(NaOH:水:イソプロピルアルコール=5:10:85(質量%比))へ浸漬し、室温下で60rpmにて1時間撹拌した結果、僅かではあるがシリコーンの剥離を確認した。
【0033】
実施例7 実施例2と同じエアバッグ基布を用い、浸漬液としてアルカリ−イソプロピルアルコール液(KOH:水:イソプロピルアルコール=5:5:90(質量%比))へ浸漬し、室温下で60rpmにて1時間撹拌した結果、シリコーンの剥離を確認した。
【0034】
実施例8 実施例2と同じエアバッグ基布を用い、浸漬液としてアルカリ−イソプロピルアルコール液(KOH:水:イソプロピルアルコール=5:0:95(質量%比))へ浸漬し、室温下で60rpmにて1時間撹拌した結果、シリコーンの剥離を確認した。
【0035】
実施例9 実施例2と同じエアバッグ基布を用い、浸漬液としてアルカリ−イソプロピルアルコール液(KOH:水:イソプロピルアルコール=2:8:90(質量%比))へ浸漬し、室温下で60rpmにて1時間撹拌したが、シリコーンは剥離しなかったため、同条件で4時間撹拌した結果、僅かではあるがシリコーンの剥離を確認した。
【0036】
実施例10 実施例2と同じエアバッグ基布を用い、浸漬液としてアルカリ−イソプロピルアルコール液(KOH:水:イソプロピルアルコール=5:10:85(質量%比))へ浸漬し、室温下で60rpmにて1時間撹拌した結果、僅かではあるがシリコーンの剥離を確認した。
【0037】
実施例11 実施例2と同じエアバッグ基布を用い、浸漬液としてアルカリ−イソプロピルアルコール液(KOH:水:イソプロピルアルコール=20:20:60(質量%比))へ浸漬し、室温下で60rpmにて1時間撹拌した結果、シリコーンの剥離を確認した。
【0038】
実施例12 実施例2と同じエアバッグ基布を用い、浸漬液としてアルカリ−イソプロピルアルコール液(KOH:水:イソプロピルアルコール=1:1:98(質量%比))へ浸漬し、室温下で60rpmにて1時間撹拌した結果、シリコーンの剥離を確認した。
【0039】
実施例13 実施例2と同じエアバッグ基布を用い、浸漬液としてアルカリ−イソプロピルアルコール液(KOH:水:イソプロピルアルコール=40:40:20(質量%比))へ浸漬し、室温下で60rpmにて0.5時間撹拌した結果、シリコーンの剥離を確認した。
【0040】
実施例14 実施例2と同じエアバッグ基布を用い、浸漬液としてアルカリ−イソプロピルアルコール液(KOH:水:イソプロピルアルコール=47.5:47.5:5.0(質量%比))へ浸漬し、室温下で60rpmにて0.5時間撹拌した結果、シリコーンの剥離を確認した。
【0041】
実施例15 実施例2と同じエアバッグ基布を用い、浸漬液としてアルカリ−イソプロピルアルコール液(NaOH:水:イソプロピルアルコール=2:5:93(質量%比))へ浸漬し、室温下で60rpmにて4時間撹拌した結果、シリコーンの剥離を確認した。尚、浸漬時に撹拌しない場合は、室温下、12時間静置後にシリコーンの剥離は確認できなかったが、1日経過後にはシリコーンの剥離を確認した。
【0042】
実施例16 実施例2と同じエアバッグ基布を用い、浸漬液としてアルカリ−イソプロピルアルコール液(NaOH:水:イソプロピルアルコール=2:0:98(質量%比))として、室温下で60rpmにて1時間撹拌した。イソプロピルアルコールに対し、NaOHの大部分は不溶であったものの、シリコーンの剥離は確認できた。ただし、イソプロピルアルコールに不溶のNaOHがポリアミド基布に付着したので、作業上又は取り扱い上、十分な注意が必要であった。
【0043】
実施例1〜16で得られたものを、脱水後、乾燥して得られたポリアミド繊維は、溶融再生ペレット化したうえで、ポリアミド繊維としてリサイクルすることが可能であった。こうして得られたポリアミド66繊維中に残存しているシリコーンの有無を確認するために、DSC法による融点測定を行った結果、260℃にポリアミドのピークを確認したが、浸漬処理の実施前に確認されていたシリコーンのピークは確認できなかった。このため、シリコーンをほぼ除去できたことが確認できた。また得られたポリアミド66の硫酸相対粘度は3.50前後であり、ポリアミド66の使用範囲にあったため、再利用が可能であることが確認できた。
【0044】
比較例1 実施例2と同じエアバッグ基布を用い、浸漬液としてアルカリ−トルエン液(NaOH:トルエン=2:98(質量%比))へ浸漬し、室温下で60rpmにて1時間撹拌した結果、シリコーン剥離は確認できず、またシリコーンが膨潤しているので、擦れば取れるが、実施例1より工程が増えてしまい、有用な除去法ではないことが確認できた。
【0045】
比較例2 実施例2と同じエアバッグ基布を用い、浸漬液としてアルカリ−シクロヘキサン液(NaOH:シクロヘキサン=2:98(質量%比))へ浸漬し、室温下で60rpmにて1時間撹拌した結果、シリコーン剥離は確認できず、またシリコーンが膨潤しているので、擦れば取れるが、実施例1より工程が増えてしまい、有用な除去法ではないことが確認できた。
【0046】
比較例3 比較例1で用いた浸漬液のNaOHを使用せず、溶剤をトルエン単独に変更した以外は、実施例3と同条件で実施した。その結果、シリコーンの顕著な膨潤は認められず、有効なシリコーン除去法ではないことが確認できた。
【0047】
比較例4 比較例1で用いた浸漬液のNaOHを使用せず、溶剤をシクロヘキサン単独に変更した以外は、実施例3と同条件で実施した。その結果、シリコーンの顕著な膨潤は認められず、有効なシリコーン除去法ではないことが確認できた。
【0048】
比較例5 比較例1で用いた浸漬液のNaOHを使用せず、溶剤をメチルアルコール単独に変更した以外は、実施例3と同条件で実施した。その結果、シリコーンの顕著な膨潤は認められず、有効なシリコーン除去法ではないことが確認できた。
【0049】
比較例6 比較例1で用いた浸漬液のNaOHを使用せず、溶剤をエチルアルコール単独に変更した以外は、実施例3と同条件で実施した。その結果、シリコーンの顕著な膨潤は認められず、有効なシリコーン除去法ではないことが確認できた。
【0050】
比較例7 比較例1で用いた浸漬液のNaOHを使用せず、溶剤をイソプロピルアルコール単独に変更した以外は、実施例3と同条件で実施した。その結果、シリコーンの顕著な膨潤は認められず、有効なシリコーン除去法ではないことが確認できた。
【0051】
比較例8 実施例2と同じエアバッグ基布を用い、浸漬液としてアルカリ水溶液50質量%(NaOH:水=50:50(質量%比))に浸漬し、室温下で60rpmにて1時間撹拌した結果、シリコーンの剥離は確認できず、またシリコーンが膨潤しているので、擦れば取れるが、実施例1より工程が増えてしまい、有用な除去法ではないことが確認できた。
【0052】
以上、実施例1〜16及び比較例1〜8の結果から、本発明で浸漬液として使用するアルカリ−イソプロピルアルコール液は、イソプロピルアルコールを含んでいることが必要であり、イソプロピルアルコール以外の溶剤、例えばトルエン、シクロヘキサンではシリコーン剥離効果を発現できない(比較例1、2)。
【0053】
また、アルカリ−イソプロピルアルコール液には、アルカリが必要であり、アルカリを使用しない場合は、イソプロピルアルコールを使用した場合であってもシリコーン剥離効果を発現できない(比較例7)。また、メチルアルコール、エチルアルコール、トルエン、シクロヘキサンを使用した場合であっても、同様にシリコーン剥離効果を発現できない(比較例3〜6)。
【0054】
アルカリ−イソプロピルアルコール液には、水は必ずしも必要ではなく、アルカリとイソプロピルアルコールのみでもシリコーン剥離効果を発現できる(実施例4)。水を使用する場合は、アルカリと水を含むアルカリ水溶液に対するアルカリ量が50質量%以上であるものを使用することが好ましい(実施例3、4、7、8、11〜14、16)。アルカリ50質量%の飽和水溶液であり、この状態がアルコラートとしてシリコーン剥離効果に寄与したと考えられるためである。すなわち、アルカリと水を含むアルカリ水溶液に対するアルカリ量が50質量%未満でもシリコーンの剥離効果は有するものの、アルカリ水溶液が飽和状態でないため、シリコーンの剥離は生じるが、その効果は低い(実施例1、2、5、6、9、10、15)。
【0055】
アルカリ−イソプロピルアルコール液全量に対するイソプロピルアルコール量は、少量であっても良いが、必須である(実施例13、14、比較例8)。但し、アルカリと水を含むアルカリ水溶液に対するアルカリ量が50質量%以上であることが必要である。アルカリ飽和が、イソプロピルアルコールとの活性化に影響を及ぼすためである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、ポリアミド繊維からなるエアバッグ基布にコーティングされたシリコーンを容易に除去する方法を提供する。本発明により、コーティングされたシリコーンの種類に関わらず、容易にその除去が可能となるため、廃車等により回収されたエアバッグから、リサイクルに適したポリアミド繊維が得られ、リサイクルの促進に寄与できる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンがコーティングされたポリアミド繊維からなるエアバッグ基布を、アルカリ−イソプロピルアルコール液に浸漬することにより、エアバッグ基布にコーティングされたシリコーンをエアバッグ基布から除去することを特徴とするエアバッグ基布からのシリコーン除去方法。
【請求項2】
エアバッグ基布を裁断したうえで、アルカリ−イソプロピルアルコール液に浸漬することを特徴とする請求項1記載のエアバッグ基布からのシリコーン除去方法。
【請求項3】
アルカリとして、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを用いることを特徴とする請求項1または2記載のエアバッグ基布からのシリコーン除去方法。
【請求項4】
アルカリ水溶液またはアルカリのイソプロピルアルコール溶液のいずれかを用いてアルカリ−イソプロピルアルコール液を調製することを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載のエアバッグ基布からのシリコーン除去方法。
【請求項5】
アルカリ水溶液を用いるとともに、アルカリ−イソプロピルアルコール液の配合比を次の範囲にすることを特徴とする請求項4記載のエアバッグ基布からのシリコーン除去方法。
アルカリ : 1〜54質量%
水 : 1〜44質量%
イソプロピルアルコール:98〜 2質量%
【請求項6】
アルカリのイソプロピルアルコール溶液を用いるとともに、アルカリ−イソプロピルアルコール液におけるアルカリとイソプロピルアルコールとの配合比を次の範囲にすることを特徴とする請求項4記載のエアバッグ基布からのシリコーン除去方法。
アルカリ:イソプロピルアルコール=1:99〜5:95(質量%比)
【請求項7】
エアバッグ基布をアルカリ−イソプロピルアルコール液に浸漬したうえで撹拌することを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項記載のエアバッグ基布からのシリコーン除去方法。
【請求項8】
エアバッグ基布をアルカリ−イソプロピルアルコール液に浸漬したうえで加熱することを特徴とする請求項1から7までのいずれか1項記載のエアバッグ基布からのシリコーン除去方法。
【請求項9】
シリコーンを除去した後、ポリアミド繊維基布を取り出し、水洗、脱水、乾燥することを特徴とする請求項1から8までのいずれか1項記載のエアバッグ基布からのシリコーン除去方法。

【公開番号】特開2009−269475(P2009−269475A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121732(P2008−121732)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(598173742)寺田紡績株式会社 (2)
【Fターム(参考)】