説明

エアバッグ用コーティング基布及びその製造方法

【課題】 樹脂の塗布量が10〜20g/mの少ない量であっても、FMVSS302で規定する燃焼速度が経糸方向及び緯糸方向ともに低く、かつそのバラツキが小さいエアバッグ用コーティング基布及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 合成繊維フィラメントから構成された織物の少なくとも片面に、エラストマー樹脂がナイフコーティングにより塗布されてなるエアバッグ用コーティング基布であって、ナイフコーティングが、ナイフと織物を接触させて行われ、樹脂の塗布量が10〜20g/mの少量であり、かつ織物表面における頭頂部の平均樹脂厚みが経糸方向及び緯糸方向ともに4.0μm〜12.0μmであり、FMVSS302に準拠して測定された燃焼速度の平均値が経糸方向及び緯糸方向ともに60mm/min以下であり、その最大値が経糸方向及び緯糸方向ともにその平均値に対して1.20倍以下であり、織物のカバーファクターが1,800〜2,500である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用エアバッグに用いるコーティング基布及びその製造方法に関し、詳しくは、織物に付着させるコート量を少なくしても、FMVSS302で規定する燃焼速度が低く、かつそのバラツキが小さいエアバッグ用コーティング基布及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車安全部品の一つとして急速に装着率が向上しているエアバッグは、自動車の衝突事故の際、衝撃をセンサーが感知し、インフレーターから高温、高圧のガスを発生させ、このガスによってエアバッグを急激に展開させて、運転者や同乗者の身体、特に頭部がハンドル、フロントガラス、ドアガラス等に衝突することを防止し保護する目的で使用される。近年、自動車用エアバッグは、運転席、助手席用のみならず、ニーエアバッグ、サイドエアバッグ、カーテンエアバッグ等の実用化が進み、複数のエアバッグが装着されることが一般的となっている。
【0003】
搭載されるエアバッグの部位、数量が増えるにつれ、エアバッグシステムの更なる軽量化、コンパクト化の要求が高まり、システムの各部品は小型化、軽量化を目指して設計されてきている。このような背景から、エアバッグについては細繊度糸を使用した基布を用いる方策、あるいはコーティング織物のエラストマーの種類、塗布量を低減する方策が検討されてきた。
【0004】
例えば、エアバッグ用コーティング基布に使用するフィラメントの繊度は、940dtexから470dtexへと細くなり、近年では繊度が350dtexのフィラメントを用いた基布へと変更されている。
【0005】
一方、エアバッグ用コーティング基布に塗布されるエラストマー樹脂についても、クロロプレンからシリコーン樹脂に変更されてきた。また、その塗布量も90〜120g/mから40〜60g/mに変更され、近年では25〜40g/mにまで低減してきた。
【0006】
これらの手段により、収納性の点ではかなり向上したものの、十分に満足できるレベルではなく、更なる塗布量の低減が要望されている。
【0007】
シリコーン樹脂の塗布量を低減したエアバッグ用コーティング基布として、エラストマー樹脂が織物を構成する織糸部1.0に対して、織物目合い部に3.0以上の膜厚比で偏在させたエアバッグが開示されている(特許文献1を参照)。このエアバッグは、収納性については改善されているものの、20g/m以下の塗布量に調整した場合、上記のように樹脂が偏在している状態では、燃焼性を満足させることは困難である。
【0008】
また、合成繊維織物の樹脂被覆面に位置する経糸および緯糸の断面外周が該樹脂により90%以上包囲され、樹脂の塗布量が20g/m以下であるエアバッグ用コーティング基布が開示されている(特許文献2の請求項2を参照)。この基布は、樹脂が含浸することにより、基布と樹脂の接着性が向上するものの、織物表面に位置する樹脂膜が薄いため、樹脂膜に破れが発生し易く、燃焼性が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−8779号公報
【特許文献2】特開2008−138305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、樹脂の塗布量が10〜20g/mの少ない量であっても、FMVSS302で規定する燃焼速度が経糸方向及び緯糸方向ともに低く、かつそのバラツキが小さいエアバッグ用コーティング基布及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の(1)〜(8)の構成を有するものである:
(1)合成繊維フィラメントから構成された織物の少なくとも片面に、エラストマー樹脂が塗布されてなるエアバッグ用コーティング基布であって、
樹脂の塗布量が10g/m〜20g/mであり、かつ織物表面における頭頂部の平均樹脂厚みが経糸方向及び緯糸方向ともに4.0μm〜12.0μmであり、
FMVSS302に準拠して測定された燃焼速度の平均値が経糸方向及び緯糸方向ともに60mm/min以下であり、その最大値が経糸方向及び緯糸方向ともに平均値に対して1.20倍以下であることを特徴とするエアバッグ用コーティング基布。
(2)FMVSS302に準拠して測定された燃焼速度の平均値が経糸方向及び緯糸方向ともに55mm/min以下であり、その最大値が経糸方向及び緯糸方向ともに平均値に対して1.15倍以下であることを特徴とする(1)に記載のエアバッグ用コーティング基布。
(3)エラストマー樹脂が付加重合型の無溶剤シリコーンゴムであることを特徴とする(1)または(2)に記載のエアバッグ用コーティング基布。
(4)織物を構成するフィラメントの総繊度が200〜470dtexであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のエアバッグ用コーティング基布。
(5)織物のカバーファクターが1,800〜2,500であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のエアバッグ用コーティング基布。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載のエアバッグ用コーティング基布の製造方法であって、
エラストマー樹脂がナイフコーティングにより塗布されること、及びエラストマー樹脂の樹脂粘度が10,000〜50,000mPa・sであり、織物とナイフとの接触長さLが0.05〜0.5mmであり、かつ下記式[I]で表される膜厚係数Dが2.7〜7.0であることを特徴とするエアバッグ用コーティング基布の製造方法。
D=(V×η×L)/F ・・・[I]
但し、Vはコーティング時の加工速度(m/sec)、ηは樹脂粘度(mPa・sec)、Lは接触長さ(mm)、Fは接圧(kN/m)を表す。
(7)ナイフコーティングに使用されるナイフ刃の先端部が略半円状であり、その先端部半径が0.05mm以上、0.7mm未満であることを特徴とする(6)に記載の製造方法。
(8)ナイフコーティングに使用されるナイフ刃の先端部が略角状であり、その先端部幅が0.05mm以上、0.5mm以下であることを特徴とする(6)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエアバッグ用コーティング基布は、薄塗りであっても難燃速度が低く、かつその変動が少ないため、信頼性に優れるエアバッグをコンパクトに収納でき、車内デザインの制約を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ナイフコーティングの際のナイフ刃と基布が接触している距離(接触長さL)を示す説明図である。
【図2】ナイフコーティングの際にナイフを押し込んだ際に発生する応力(接圧F)を示す説明図である。
【図3】本発明のエアバッグ用コーティング基布の表面のSEM写真の模式図である。
【図4】図3の破線部で切断した際の断面から、織物表面における頭頂部の位置(斜線部)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、合成繊維フィラメントから構成された織物とは、合成繊維フィラメント糸条を用いて製織される織物を意味する。織物は、機械的強度に優れ、厚さを薄くできるという点で優れている。織物の組織は、例えば、平織、綾織、朱子織およびこれらの変化織、多軸織などが適用でき、なかでも機械的強度により優れる平織物が特に好ましい。
【0015】
合成繊維としては、特にナイロン66、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン12等の脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維のような芳香族ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維が使用される。他には、全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニン・ベンゾビス・オキサゾール繊維(PBO繊維)、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエーテルケトン繊維等が使用可能である。ただし、経済性を勘案すると、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維が好ましく、ポリアミド66が特に好ましい。また、これらの繊維はその一部または全部が再利用された原材料より得られるものでもよい。
【0016】
また、これらの合成繊維には、原糸製造工程や後加工工程での工程通過性を向上させるために、各種添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、平滑剤、帯電防止剤、増粘剤、難燃剤等が挙げられる。また、この合成繊維は原着糸や製糸後染色したものでもよい。また、単糸の断面は、通常の丸断面のほか、異形断面のどのようなものであってもよい。合成繊維は、72フィラメント以上のマルチフィラメント糸を用いることが、柔軟性、コート面の平滑性の点から好ましい。
【0017】
本発明のコーティング基布は、織物の両面にコーティングされた両面コーティング基布であってもよいが、収納性の点から、片面のみにコーティングされる片面コーティング基布がより好ましい。
【0018】
本発明のコーティング基布は、FMVSS302に準拠して測定された燃焼速度の平均値が、経糸方向及び緯糸方向ともに60mm/min以下であり、その最大値が経糸方向及び緯糸方向ともに平均値に対し1.20倍以下である。より好ましくは、燃焼速度の平均値は経糸方向及び緯糸方向ともに55mm/min以下であり、燃焼速度の最大値は経糸方向及び緯糸方向ともに平均値に対して1.15倍以下である。
【0019】
通常、薄塗りタイプのコーティング基布は、樹脂の膜厚が薄いため、FMVSS302燃焼試験時においてコーティング樹脂膜に破れが発生し、燃焼速度が増大する。しかしながら、塗布量が10〜20g/mの少量であっても、織物表面における頭頂部の平均樹脂厚みを4.0〜12.0μmに調整することで、驚くべきことに軽量でありながら燃焼性が大きく改善されることを本発明者らは見出した。
【0020】
一方、コーティング樹脂に難燃性成分を多く含有させて燃焼性を改善する方法もある。しかしながら、織物表面における頭頂部の平均樹脂厚みが4.0μm未満の場合、この方法では所望の難燃性が得られにくい。さらに、難燃成性成分の含有量を増加させると、接着性が悪化する。また、平均樹脂厚みが12.0μmを超えると、ナイフコーティングが困難になる。
【0021】
コーティング樹脂として使用するエラストマー樹脂としては、例えば、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、アクリル系、シリコーン系、ポリスチレン系、スチレンブタジエン系、ニトリルブタジエン系などの樹脂が知られており、所定の性能が得られるならば、いずれの樹脂を使用しても構わない。基布となる織物への接着力、樹脂の伸度等を考慮すると、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂が好ましく、特に、基布の柔軟性の点でシリコーン系樹脂が好ましい。
【0022】
シリコーン系樹脂としては、例えば、ジメチルシリコーンゴム、メチルビニルシリコーンゴム、メチルフェニルシリコーンゴム、トリメチルシリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、メチルシリコーンレジン、メチルフェニルシリコーンレジン、メチルビニルシリコーンレジン、エポキシ変性シリコーンレジン、アクリル変性シリコーンレジン、ポリエステル変性シリコーンレジンなどが挙げられる。なかでも、硬化後にゴム弾性を有し、強度や伸びに優れ、コスト面でも有利な、付加重合型メチルビニルシリコーンゴムが好適である。
【0023】
シリコーン系樹脂を使用する場合には、反応硬化剤を用いても良く、例えば、白金粉末、塩化白金酸、四塩化白金酸等の白金系化合物や、パラジウム化合物、ロジウム化合物、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロルベンゾイルパーオキサイド、オルソクロロパーオキサイドなどの有機過酸化物等を用いることができる。
【0024】
シリコーン系樹脂と基布との接着性を向上させるために、シリコーン系樹脂に接着助剤を含有させることが好ましい。接着助剤としては、例えば、アミノ系シランカップリング剤、エポキシ変性シランカップリング剤、ビニル系シランカップリング剤、クロル系シランカップリング剤、およびメルカプト系シランカップリング剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。
【0025】
シリコーン系樹脂に加える無機質充填剤は、従来からシリコーンゴムの補強、粘度調整、耐熱性向上、難燃性向上などを目的とする充填剤として使用されており、最も代表的な充填剤はシリカ粒子である。シリカ粒子の比表面積は、50m/g以上が好ましく、より好ましくは50〜400m/g、特に好ましくは100〜300m/gである。比表面積がこの範囲にあると、得られたシリコーン硬化物に優れた引裂強度特性を付与しやすい。比表面積はBET法により測定される。シリカ粒子は、単独で用いても二種以上を併用してもよい。本発明で使用できるシリカ粒子としては、例えば、石英、水晶、珪砂、珪藻土等の天然品、乾式シリカ、シリカヒューム、湿式シリカ、シリカゲル、コロイダルシリカ等の合成品が挙げられる。
【0026】
上記のシリカ粒子は、シリコーン系樹脂と添加剤を含む樹脂組成物に対してより良好な流動性を付与させやすくするため、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン等のメチルクロロシラン類、ジメチルポリシロキサン、ヘキサメチルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ジメチルテトラビニルジシラザン等のヘキサオルガノジシラザンなどの有機ケイ素化合物を用いて、粒子の表面を疎水化処理した、疎水性シリカ粒子が好ましい。
【0027】
シリカ粒子の含有量は、全シリコーン系樹脂に対して10〜20質量%が好ましく、より好ましくは12〜20質量%である。シリカ粒子の含有量が上記範囲未満の場合、シリコーンゴムの機械的強度が低下しやすくなる。一方、シリカ粒子の含有量が上記範囲を超える場合、樹脂組成物の流動性が低下しやすくなり、コーティング作業性が悪化するばかりか、樹脂が脆くなり、接着性が低減する傾向がある。
【0028】
本発明において使用するエラストマー樹脂の樹脂粘度は、10,000〜50,000mPa・secが好ましく、より好ましくは15,000〜40,000mPa・secであり、特に好ましくは20,000〜35,000mPa・secである。樹脂粘度が上記範囲未満の場合、樹脂が織物内部に入りこむために、燃焼速度を小さくするのに必要な樹脂厚みを確保することが困難となる。一方、樹脂粘度が上記範囲を超える場合、20g/m以下の少ない塗布量に調整することが困難になる。上記の粘度の範囲内に調整できるのであれば、溶剤系、無溶剤系どちらでも構わないが、環境への影響を考慮すると、無溶剤系が好適である。
【0029】
なお、本発明では、樹脂以外の添加剤を含有する樹脂組成物の場合、樹脂組成物の粘度も「樹脂の粘度」と定義する。
【0030】
樹脂の塗布量が10〜20g/mの少量で、かつ織物表面における頭頂部の平均樹脂厚みが経糸方向及び緯糸方向ともに4.0〜12.0μmである、本発明のコーティング基布を製造するためには、特定の樹脂の塗布方法を採用することが重要である。
【0031】
樹脂の塗布方法としては、従来の公知の方法を用いることができるが、コート量の調整の容易さや異物(突起物)混入時の影響が少ない、ナイフコーティングが最も好ましい。ナイフコーティングの際に使用されるナイフは、その先端部が、略半円状(例えば図1(a)参照)、略角状(例えば図1(b),(c)参照)であることが好ましい。
【0032】
ナイフコーティングにより、樹脂の塗布量を20g/m以下に低減させるためには、接圧、特に進行方向の基布張力を高めることが有効である。しかしながら、ナイフコーティングの際に従来用いられてきたナイフ刃では、先端部が半円状の場合、鋭利なものでも先端部半径が0.7mmである。そのため、樹脂の塗布量を20g/m以下に低減させるためには、進行方向の基布張力を相当高める必要がある。その結果、経糸方向及び緯糸方向のクリンプ率の差が大きくなり、クリンプ率が大きい方向の樹脂膜の厚みが低減し、FMVSS302による燃焼試験において、燃焼速度の平均値が増大するばかりでなく、バラツキが大きくなる。
【0033】
一方、本発明では、ナイフコーティングにより、コーティング基布を製造する際に、基布張力を低減させた条件で、先端部半径が0.05mm以上、0.7mm未満の略半円状の先端部を持つナイフ刃を使用することが好ましい。より好ましくは先端部半径は0.4mm以下である。あるいは、先端部幅が0.05mm以上、0.5mm以下の略角状の先端部を持つナイフ刃を使用することが好ましい。より好ましくは先端部幅は0.4mm以下である。このように、従来のナイフ刃よりも鋭利なナイフ刃を用いることにより、経糸方向及び緯糸方向クリンプ率を均一にすることができる。従来用いられてきた鋭角刃では、半円状・角状に規定されていない場合、20g/m以下の低塗布量の基布では、塗布量の再現性を得ることが困難であった。さらに、この鋭利なナイフ刃により、織物表面における頭頂部の平均樹脂厚みを4.0〜12.0μmに制御することができるため、FMVSS302による燃焼試験で燃焼速度の平均値を低減することができ、かつそのバラツキを抑えることが可能になる。ナイフ刃の先端部半径または先端部幅は、ラディアスゲージや、レーザー光を用いた変位測定装置によって測定することができる。
【0034】
コーティングを行う際のナイフと基布との接触長さLは、織物表面における頭頂部の平均樹脂厚みを4.0〜12.0μmの範囲とするために重要である。本発明において、接触長さLとは、ナイフと基布の接触している距離を意味する(図1の1を参照)。本発明のコーティング基布を製造する際には、接触長さLを0.05〜0.5mmに制御することが有効である。接触長さLが0.05mm未満になると、塗布量を均一に保つことが困難になる。一方、接触長さLが0.5mmを超えると、樹脂が織物内部に入りこむため、燃焼速度を小さくするのに必要な膜厚を確保することが困難になるだけでなく、塗布量を20g/m以下に調整することも困難となる。
【0035】
また、本発明のコーティング基布を製造する際には、下記式[I]で表される膜厚係数Dが、2.7〜7.0となるように、コーティング時の加工速度V、樹脂粘度η、接触長さL、接圧Fを選択することが好ましい。なお、前記のように、樹脂粘度ηは10,000〜50,000mPa・sec、接触長さLは0.05〜0.5mmの範囲から選択することが好ましい。
D=(V×η×L)/F ・・・[I]
但し、Vはコーティング時の加工速度(m/sec)、ηは樹脂粘度(mPa・sec)、Lは接触長さ(mm)、Fは接圧(kN/m)を表す。
【0036】
ここで、接圧とは、ナイフを押し込んだ時に発生する応力を指しており(図2の4を参照)、基布張力とナイフの押し込み角度により計算することができる。膜厚係数Dが2.7未満の場合、燃焼速度を小さくするのに必要な樹脂の膜厚を確保するのが困難になる。膜厚係数が7.0を超えると、樹脂の含浸量が極端に低下し、接着性が明らかに劣ってしまう。
【0037】
ナイフコーティングにおける進行方向の基布張力は、300〜700N/mが好ましく、特に好ましくは400〜650N/mである。進行方向の基布張力が上記範囲未満の場合、ベース織物の耳部の嵩が高くなり、基布中央部と端部の塗布量に大きな差が生じやすくなる。一方、進行方向の基布張力が上記範囲を超える場合、経糸方向及び緯糸方向のクリンプ率のバランスが崩れ、経糸方向及び緯糸方向ともに、織物表面における頭頂部の平均樹脂厚みを4.0μm以上に制御しにくくなる。
【0038】
塗布後のコーティングを乾燥、硬化させる場合は、熱風、赤外光、マイクロウェーブ等など、一般的な加熱方法を使用することができる。加熱温度、時間については、エラストマー樹脂が硬化するのに十分な温度に達していればよく、好ましくは加熱温度が150〜220℃であり、加熱時間が0.2〜5分である。
【0039】
織物を構成するフィラメント糸条の総繊度は、200〜470dtexであることが好ましい。総繊度が470dtexを超えると、基布の厚さが増大し、エアバッグの収納性が悪化しやすくなする。一方、総繊度が200dtex未満では、コーティング基布の引張強力や引裂機械特性などのエアバッグ作動時の機械特性が低下しやすくなる。
【0040】
基布となる織物のカバーファクターは、1,800〜2,500が好ましく、特に好ましくは1,900〜2,450である。カバーファクターが上記範囲未満であると、20g/m以下の塗布量では均一なコート膜が得られないおそれがある。一方、カバーファクターが上記範囲を超える場合には、製織時、並びに収納性による限界が生じうる。なお、カバーファクターCFは、下式により算出する。
CF=√(経糸の総繊度)×経糸密度+√(緯糸の総繊度)×緯糸密度
なお、総繊度の単位はdtex、織密度の単位は本/2.54cmである。
【0041】
織物のカバーファクターが高い場合には、織物の目合い部(織目の穴部分)に樹脂を厚く塗布しなくても、低通気性に優れ、少ない塗布量で難燃性に優れるエアバッグ用コーティング基布が得られる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、実施例中における各種評価は、下記の方法にしたがって評価した。
【0043】
(1)繊度
JIS L−1095 9.4.1に記載の方法で測定する。
【0044】
(2)フィラメント数
フィラメント糸条の断面写真よりフィラメント数を数える。
【0045】
(3)織物の密度
JIS L−1096 8.6.1に記載の方法で測定する。
【0046】
(4)樹脂の粘度
JIS K−7117に記載の方法を用い、B型粘度計で測定する。
【0047】
(5)塗布量
JIS L−1096 8.4.2に記載の方法にしたがって、コーティング基布の質量を測定する。次に、ブランク試料として、樹脂を塗布せずにコーティング時と同じ条件で加工処理を行った後、JIS L−1096 8.4.2に記載の方法にしたがってブランク試料の質量を測定する。その後、コーティング基布の質量とブランク試料の質量との差を塗布量として算出する。なお、塗布量は、1mあたりの質量(g/m)で表した。
【0048】
(6)織物表面における頭頂部の平均樹脂厚み
図3に示す破線部の位置で、カミソリを用いてコーティング基布を切断し、SEMを用いて断面写真を経糸方向及び緯糸方向で撮影し、紙に印刷する。次いで、その断面写真から、樹脂が付着している部分を3等分し、頭頂部(最も樹脂の膜厚が薄い部分:図4の8を参照)の膜厚を算出した。
平均膜厚の算出方法は、樹脂部分を切り取った紙の質量と全体の紙の質量の比より、平均膜厚を経糸方向と緯糸方向で算出した。平均膜厚は、小数第2位の桁まで求め、四捨五入して小数第1位の桁に丸めた。
【0049】
(7)燃焼性
FMVSS302水平法に記載の方法に準拠して測定し、最大値以外に平均値も求めた。なお、長手方向が経糸であれば経サンプル、長手方向が緯糸であれば緯サンプルとした。また、燃焼速度のバラツキを評価するために、最大値と平均値の比(最大値/平均値)を経糸方向と緯糸方向で算出した。
【0050】
(実施例1)
総繊度が470dtex、72フィラメントのポリアミド66マルチフィラメント糸を、平織りにてウォータージェットルームにて製織した。次いで、沸水にて収縮加工した後、110℃で乾燥仕上げをし、経密度46本/2.54cm、緯密度46本/2.54cm、カバーファクターが1,994の織物を得た。この織物の片面に、樹脂粘度を20,000mPa・secに調整した付加重合型無溶剤メチルビニルシリコーンゴムを、先端形状が半円状で、先端部半径が0.3mmのナイフを用い、接触長さLを0.13mm、膜厚係数を4.0に調整して、ナイフコートにて塗布した。さらに、190℃で2分間硬化処理し、塗布量を14g/mにしたコーティング基布を得た。
得られたコーティング基布の特性を評価し、表1に示した。得られた基布は、低塗布量にも関わらず、極めて難燃性に優れていた。
【0051】
(実施例2)
総繊度が470dtex、144フィラメントのポリアミド66マルチフィラメント糸を、平織りにてウォータージェットルームにて製織した。次いで、沸水にて収縮加工した後、110℃で乾燥仕上げをし、経密度51本/2.54cm、緯密度51本/2.54cm、カバーファクターが2,211の織物を得た。この織物の片面に、樹脂粘度を20,000mPa・secに調整した付加重合型無溶剤メチルビニルシリコーンゴムを、先端形状が半円状で、先端部半径が0.3mmのナイフを用い、接触長さLを0.13mm、膜厚係数を3.8に調整して、ナイフコートにて塗布した。さらに、190℃で2分間硬化処理し、塗布量を16g/mにしたコーティング基布を得た。
得られたコーティング基布の特性を評価し、表1に示した。得られた基布は、低塗布量にも関わらず、極めて難燃性に優れていた。
【0052】
(実施例3)
総繊度が470dtex、144フィラメントのポリアミド66マルチフィラメント糸を、平織りにてウォータージェットルームにて製織した。次いで、沸水にて収縮加工した後、110℃で乾燥仕上げをし、経密度54本/2.54cm、緯密度54本/2.54cm、カバーファクターが2,341の織物を得た。この織物の片面に、樹脂粘度を20,000mPa・secに調整した付加重合型無溶剤メチルビニルシリコーンゴムを、先端形状が半円状で、先端部半径が0.3mmのナイフを用い、接触長さLを0.17mm、膜厚係数を3.5に調整して、ナイフコートにて塗布した。さらに、190℃で2分間硬化処理し、塗布量を15g/mにしたコーティング基布を得た。
得られたコーティング基布の特性を評価し、表1に示した。得られた基布は、低塗布量にも関わらず、極めて難燃性に優れていた。
【0053】
(実施例4)
総繊度が470dtex、144フィラメントのポリアミド66マルチフィラメント糸を平織りにてウォータージェットルームにて製織した。次いで、沸水にて収縮加工した後、110℃で乾燥仕上げをし、経密度46本/2.54cm、緯密度46本/2.54cm、カバーファクターが1,994の織物を得た。この織物の片面に、樹脂粘度を20,000mPa・secに調整した付加重合型無溶剤メチルビニルシリコーンゴムを、先端形状が半円状で、先端部半径が0.6mmのナイフを用い、接触長さLを0.38mm、膜厚係数を5.6に調整して、ナイフコートにて塗布した。さらに、190℃で2分間硬化処理し、塗布量を19g/mにしたコーティング基布を得た。
得られたコーティング基布の特性を評価し、表1に示した。得られた基布は、低塗布量にも関わらず、極めて難燃性に優れていた。
【0054】
(実施例5)
実施例1で得られた織物の片面に、樹脂粘度を15,000mPa・secに調整した付加重合型無溶剤メチルビニルシリコーンゴムを、先端形状が半円状で、先端部半径が0.3mmのナイフを用い、接触長さLを0.13mm、膜厚係数を3.0に調整して、ナイフコートにて塗布した。さらに、190℃で2分間硬化処理し、塗布量を16g/mにしたコーティング基布を得た。
得られたコーティング基布の特性を評価し、表1に示した。得られた基布は、低塗布量にも関わらず、極めて難燃性に優れていた。
【0055】
(実施例6)
実施例1で得られた織物の片面に、樹脂粘度を35,000mPa・secに調整した付加重合型無溶剤メチルビニルシリコーンゴムを、先端形状が半円状で、先端部半径が0.3mmのナイフを用い、接触長さLを0.13mm、膜厚係数を6.9に調整して、ナイフコートにて塗布した。次いで、190℃で2分間硬化処理し、塗布量を20g/mにしたコーティング基布を得た。
得られたコーティング基布の特性を評価し、表1に示した。得られた基布は、低塗布量にも関わらず、極めて難燃性に優れていた。
【0056】
(実施例7)
実施例4で得られた織物の片面に、樹脂粘度を20,000mPa・secに調整した付加重合型無溶剤メチルビニルシリコーンゴムを、先端形状が角状で、先端の幅が0.3mmのナイフを用い、接触長さLを0.30mm、膜厚係数を4.8に調整して、ナイフコートにて塗布した。次いで、190℃で2分間硬化処理し、塗布量を18g/mにしたコーティング基布を得た。
得られたコーティング基布の特性を評価し、表1に示した。得られた基布は、低塗布量にも関わらず、極めて難燃性に優れていた。
【0057】
(実施例8)
実施例1で得られた織物の片面に、樹脂粘度が25,000mPa・secに調整した付加重合型無溶剤メチルビニルシリコーンゴムを、先端形状が半円状で、先端部半径が0.15mmのナイフを用い、接触長さLを0.08mm、膜厚係数を3.0に調整して、ナイフコートにて塗布した。次いで、190℃で2分間硬化処理し、塗布量を11g/mにしたコーティング基布を得た。
得られたコーティング基布の特性を評価し、表1に示した。得られた基布は、低塗布量にも関わらず、極めて難燃性に優れていた。
【0058】
(実施例9)
総繊度が350dtex、108フィラメントのポリアミド66マルチフィラメント糸を、平織りにてウォータージェットルームにて製織した。次いで、沸水にて収縮加工した後、110℃で乾燥仕上げをし、経密度55本/2.54cm、緯密度55本/2.54cm、カバーファクター2,058の織物を得た。この織物の片面に、樹脂粘度が20,000mPa・secに調整した付加重合型無溶剤メチルビニルシリコーンゴムを、先端形状が半円状で、先端部半径が0.3mmのナイフを用い、接触長さLを0.13mm、膜厚係数を4.0に調整して、ナイフコートにて塗布した。次いで、190℃で2分間硬化処理し、塗布量を15g/mにしたコーティング基布を得た。
得られたコーティング基布の特性を評価し、表1に示した。得られた基布は、低塗布量にも関わらず、極めて難燃性に優れていた。
【0059】
(実施例10)
総繊度が270dtex、84フィラメントのポリアミド66マルチフィラメント糸を、平織りにてウォータージェットルームにて製織した。次いで、沸水にて収縮加工した後、110℃で乾燥仕上げをし、経密度70本/2.54cm、緯密度70本/2.54cm、カバーファクター2,300の織物を得た。この織物の片面に、樹脂粘度が20,000mPa・secに調整した付加重合型無溶剤メチルビニルシリコーンゴムを、先端形状が半円状で、先端部半径が0.3mmのナイフを用い、接触長さLを0.17mm、膜厚係数を3.5に調整して、ナイフコートにて塗布した。次いで、190℃で2分間硬化処理し、塗布量を14g/mにしたコーティング基布を得た。
得られたコーティング基布の特性を評価し、表1に示した。得られた基布は、低塗布量にも関わらず、極めて難燃性に優れていた。
【0060】
(実施例11)
総繊度が425dtex、144フィラメントのポリエステルマルチフィラメント糸を、平織りにてウォータージェットルームにて製織した。次いで、沸水にて収縮加工した後、110℃で乾燥仕上げをし、経密度55本/2.54cm、緯密度55本/2.54cm、カバーファクター2,268の織物を得た。この織物の片面に、樹脂粘度が20,000mPa・secに調整した付加重合型無溶剤メチルビニルシリコーンゴムを、先端形状が半円状で、先端部半径が0.3mmのナイフを用い、接触長さLを0.17mm、膜厚係数を3.5に調整して、ナイフコートにて塗布した。次いで、190℃で2分間硬化処理し、塗布量を15g/mにしたコーティング基布を得た。
得られたコーティング基布の特性を評価し、表1に示した。得られた基布は、低塗布量にも関わらず、極めて難燃性に優れていた。
【0061】
(比較例1)
実施例1で得られた織物の片面に、樹脂粘度を20,000mPa・secに調整した付加重合型無溶剤メチルビニルシリコーンゴムを、先端形状が半円状で、先端部半径が0.3mmのナイフを用い、接触長さLを0.29mm、膜厚係数を2.0に調整して、ナイフコートにて塗布した。次いで、190℃で2分間硬化処理し、塗布量を16g/mにしたコーティング基布を得た。
得られたコーティング基布の特性を評価し、表1に示した。得られた基布は、緯糸方向の燃焼速度が平均値、バラツキともに高く、難燃性が悪かった。
【0062】
(比較例2)
実施例1で得られた織物の片面に、樹脂粘度を17,000mPa・secに調整した付加重合型無溶剤メチルビニルシリコーンゴムを、先端形状が半円状で、先端部半径が0.8mmのナイフを用い、接触長さLを1.23mm、膜厚係数を5.5に調整して、ナイフコートにて塗布した。次いで、190℃で2分間硬化処理し、塗布量を25g/mにしたコーティング基布を得た。
得られたコーティング基布の特性を評価し、表1に示した。得られた基布は、燃焼速度の平均値は良好であるものの、バラツキが極めて大きかった。
【0063】
(比較例3)
実施例3で得られた織物の片面に、樹脂粘度を9,000mPa・secに調整した付加重合型無溶剤メチルビニルシリコーンゴムを、先端形状が半円状で、先端部半径が0.6mmのナイフを用い、接触長さLを0.38mm、膜厚係数を2.5に調整して、ナイフコートにて塗布した。次いで、190℃×2分硬化処理後の塗布量を19g/mにしたコーティング基布を得た。
得られたコーティング基布の特性を評価し、表1に示した。得られた基布は、燃焼速度の平均値、最大値、バラツキともに高く、難燃性が極めて悪かった。
【0064】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のエアバッグ用コート基布は、低塗布量であっても燃焼速度が低く、変動も小さいため、軽量で収納性にも優れ、かつ難燃性にも優れるエアバッグとして、運転者や助手席の乗員に用いる前面衝突用エアバッグだけでなく、より収納性が要求されるニーエアバッグ、サイドエアバッグ、カーテンエアバッグエアバッグにも広い範囲で使用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 接触長さL
2 樹脂
3 ナイフ押し込み方向
4 接圧
5 基布張力
6 コーティング基布
7 織物の頭頂部の切断位置
8 織物の頭頂部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維フィラメントから構成された織物の少なくとも片面に、エラストマー樹脂がナイフコーティングにより塗布されてなるエアバッグ用コーティング基布であって、
ナイフコーティングが、ナイフと織物を接触させて行われ、
樹脂の塗布量が10g/m〜20g/mであり、かつ織物表面における頭頂部の平均樹脂厚みが経糸方向及び緯糸方向ともに4.0μm〜12.0μmであり、
FMVSS302に準拠して測定された燃焼速度の平均値が経糸方向及び緯糸方向ともに60mm/min以下であり、その最大値が経糸方向及び緯糸方向ともに平均値に対して1.20倍以下であり、
織物のカバーファクターが1,800〜2,500であることを特徴とするエアバッグ用コーティング基布。
【請求項2】
FMVSS302に準拠して測定された燃焼速度の平均値が経糸方向及び緯糸方向ともに55mm/min以下であり、その最大値が経糸方向及び緯糸方向ともに平均値に対して1.15倍以下であることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ用コーティング基布。
【請求項3】
エラストマー樹脂が付加重合型の無溶剤シリコーンゴムであることを特徴とする請求項1または2に記載のエアバッグ用コーティング基布。
【請求項4】
織物を構成するフィラメントの総繊度が200〜470dtexであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエアバッグ用コーティング基布。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−174216(P2011−174216A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89719(P2011−89719)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【分割の表示】特願2010−542420(P2010−542420)の分割
【原出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】