説明

エアバッグ用織物

【課題】低コストで、展開性能に影響する滑脱抵抗及び引裂強力をともに向上させた自動車安全装置の一つであるエアバッグ用織物を提供すること。
【解決手段】ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリアミド系樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性合成樹脂が、乾燥後の質量で0.1〜15g/mの付着量で、少なくとも片面に塗布されてなる合成繊維製織物において、前記熱可塑性合成樹脂の付与によって、織物の滑脱抵抗値及び引裂強力値がともに1.3倍以上となることを特徴とするエアバッグ用織物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低コストで、展開性能に影響する滑脱抵抗及び引裂強力をともに向上させた自動車安全装置の一つであるエアバッグ用織物を提供しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車安全部品の一つとして急速に装着率が向上しているエアバッグは、自動車の衝突事故の際、衝撃をセンサーが感知し、インフレーターから高温、高圧のガスを発生させ、このガスによってエアバッグを急激に展開させて、運転者や同乗者の身体が衝突した方向へ飛び出した際、特に頭部がハンドル、フロントガラス、ドアガラス等に衝突することを防止し保護するものである。従来、エアバッグにはクロロプレン、クロルスルフォン化オレフィン、シリコーンなどの合成ゴムを被覆したコーティング織物が、耐熱性、空気遮断性(低通気度)、難燃性が高いという理由により使用されてきた。
【0003】
しかしながら、これらの合成ゴムをコーティングした織物は織物の重量が増加し、また柔軟性が満足できるものではなく製造コストも高いため、エアバッグ用織物として使用するには不具合な点が多かった。また滑脱抵抗力においても低下するために改善が求められていた。
【0004】
コーティング塗布量を変更し、改良することは従来から知られているが(例えば、特許文献1参照。)、エアバッグ展開性能などに関しての記述はなく、改善が求められている。
【特許文献1】特開平5−16753号公報
【0005】
一方、軽量・良好な収納性に優れるコーティングを施さないノンコートエアバッグ用織物を使用したノンコートエアバッグが主流になっている。(例えば、特許文献2参照。)しかしサイドエアバッグの様に乗員との距離が近いエアバッグではより高速な展開性能が必要であり、そのため高い圧力のインフレータに耐えられるエアバッグ用織物が求められている。
【特許文献2】特開平4−281062号公報
【0006】
現在ノンコート織物の特性である軽量、良好な収納性を維持しつつ、滑脱抵抗力の高いエアバッグ用織物として合成樹脂希釈液での含浸処理が提案されている。(例えば、特許文献3参照。)しかし引裂強力は十分に満足できるものではない。
【特許文献3】特開平11−222776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の方法では解決できていない低コストで、燃焼性が自己消火性で低通気度を有するエアバッグ用織物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記従来の方法では達成できなかった課題を解決するために、次のような構成を有する。即ち、本発明は以下の構成よりなる。
1. 熱可塑性合成樹脂が少なくとも片面に塗布されてなる合成繊維製織物において、前記熱可塑性合成樹脂の付与によって、織物の滑脱抵抗値及び引裂強力値が、塗布前の織物に対してともに1.3倍以上であることを特徴とするエアバッグ用織物。
2. 熱可塑性合成樹脂の付着量が、乾燥後の質量で0.1〜15g/mであることを特徴とする上記第1に記載のエアバッグ用織物。
3. 熱可塑性合成樹脂が、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリアミド系樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種の樹脂である上記第1または第2に記載にエアバッグ用織物。
4. 上記熱可塑性合成樹脂が、ポリアミド系樹脂であり、ポリマー中に分子量100〜5000のソフトセグメントを有することを特徴とする上記第3に記載のエアバッグ用織物。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、低コストで展開性能に影響する滑脱抵抗及び引裂強力をともに向上させた自動車安全装置の一つであるエアバッグ用織物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、合成繊維としては特に素材を限定するものではないが、特にナイロン66、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン12等の脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維のような芳香族ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維が使用される。他には全芳香族ポリエステル繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリパラフェニン・ベンゾビス・オキサゾール繊維(PBO繊維)、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエーテルケトン繊維等が挙げられる。ただし、経済性を勘案するとポリエステル繊維、ポリアミド繊維が特に好ましい。またこれらの繊維はその一部または全部が再利用された原材料より得られるものでもよい。また、これらの合成繊維には原糸製造工程や後加工工程での工程通過性を向上させるために、各種添加剤を含有していても何ら問題はない。例えば、酸化防止剤、熱安定剤、平滑剤、帯電防止剤、増粘剤、難燃剤等である。また、この合成繊維は原着糸や製糸後染色したものであっても何ら問題はない。また、単糸の断面は通常の丸断面の他、異形断面であっても何ら差し支えない。合成繊維は、マルチフィラメント糸として使用され製織されることが破断強度、破断伸度等の観点から好ましい。
【0011】
本発明において、製織方法は特に限定するものではないが、織物物性の均一性を勘案すると平織りが良い。使用する糸は、経糸・緯糸は単一でなくてもよく、例えば太さや糸本数、繊維の種類が異なっても何ら差し支えはない。織機は、エアージェットルーム、レピアルーム、ウォータージェットルーム等特に限定するものではない。
【0012】
本発明における織物は、例えば、公知の方法で製織した織物に、熱可塑性合成樹脂を塗布することによって製造される。既存のエアバッグ用コート剤としては、熱硬化性シリコーン樹脂が広く使用されているが、硬化のための十分な熱量が必要であるためにコストが上昇するため、本発明においては熱可塑性樹脂を用いることが必須である。塗布の方法については特に限定されるもではなく、公知の方法を用いることができるが、コスト面や塗工後の織物柔軟性を勘案するとナイフコーティングを用いることが好ましい。
【0013】
本発明において、織物に塗布する熱可塑性合成樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリアミド系樹脂を使用することができるが、分子量100〜5000のソフトセグメントを含むポリアミド系樹脂を用いることが好ましい。より好ましくは、分子量300〜3000である。分子量が100より小さいと塗布後の織物柔軟性が乏しくなりやすく、引裂強力が低下しやすくなるためあまり好ましくなく、分子量が5000より大きいと滑脱抵抗力が不足しやすくなるのであまり好ましくない。ここでソフトセグメントとしては、ポリオール全体を指すが、特に線状ポリアルキレングリコールのアミノ変性体が好ましく、より好ましくはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール又はポリブチレングリコールのアミノ変性体である。ソフトセグメントはポリマー中のモル比でポリアミド樹脂に対して25〜50%であることが好ましい。25%未満では塗布後の織物の柔軟性が乏しくなりやすく、引裂強力が低下しやすいのであまり好ましくない。50%を超えると、滑脱抵抗力の観点からあまり好ましくない。またこれらの熱可塑性合成樹脂には、目的となる性能に影響を及ぼさない範囲で劣化防止剤、無機フィラー、着色剤等の添加剤を混合して用いてもよい。
【0014】
ここで、熱可塑性合成樹脂を少なくとも片面に塗布されている織物において、該熱可塑性合成樹脂の付与によって、織物の滑脱抵抗値及び引裂強力値がともに1.3倍以上となることが本発明において好ましい。より好ましくは、1.4倍以上であり、さらに好ましくは1.5倍以上である。上限としては特に定めないが、通常の基布においては縫製等の後工程を香料すると5.0倍以下であることが好ましく、より好ましくは3.0倍以下である。公知の方法では、繊維間の摩擦抵抗を下げる樹脂の場合には、引裂強力は向上するが滑脱抵抗値は低下し、繊維間の摩擦抵抗を上げる樹脂の場合には、滑脱抵抗値は向上するが引裂強力は低下してしまう。このためにエアバッグとした場合、摩擦抵抗を下げる樹脂の場合滑脱抵抗値の低下のために縫製部分の目ずれが大きくなり、その部分でインフレータから発生する高温ガスが外部との熱交換が起き、バーストの原因となっていた。一方で摩擦抵抗を上げる樹脂の場合微小な目ずれ部でも、引裂強力が低いために破断が伝播しバーストの原因となっていた。本発明において、筆者らは鋭意検討を行い、熱可塑性合成樹脂を少なくとも片面に塗布されている織物において、該熱可塑性合成樹脂の付与によって、織物の滑脱抵抗値及び引裂強力値がともに塗布前の織物に対して1.3倍以上となる織物を作製することで、高出力のインフレータにおいてもバーストが生じない、適したエアバッグとなることを見出したものである。
【0015】
本発明において、熱可塑性合成樹脂の乾燥後に質量は0.1−15g/mが好ましく、より好ましくは、1.0−10g/mであり、更に好ましくは1.0−5.0g/mである。乾燥後の質量とは、塗布し乾燥した後のエアバッグ用織物の質量をJIS L1096 8.4.2により測定した値から、塗布前の織物の質量を同じくJIS L1096 8.4.2により測定した値を減算により求めたものである。0.1g/mより少ないと、通気度を達成しづらくなりあまり好ましくなく、15g/mより多いと柔軟性が損なわれるやすく、コストが上昇する為あまり好ましくない。尚、本発明において塗布前の織物とは、まさに樹脂を塗工する前の段階の樹脂の塗工以外の工程を終えた織物を言い、通常は、熱処理による収縮加工や熱セットなどが施されているものである場合が多い。
【実施例】
【0016】
次に実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。なお、実施例中における各種評価は、下記の方法に従い、行った。
引裂強力:JIS L1096 8.15.2 中央値荷重
引裂強力上昇率は(式1)より求めた。
引裂強力上昇率(倍)=(塗布後引裂強力経+塗布後引裂強力緯)
÷(塗布前引裂強力経+塗布前引裂強力緯)―――(式1)
滑脱抵抗力:ASTM D6479
滑脱抵抗力上昇率は(式2)より求めた。
滑脱抵抗力上昇率(倍)=(塗布後滑脱抵抗力経+塗布後滑脱抵抗力緯)
÷(塗布前滑脱抵抗力経+塗布前滑脱抵抗力緯)―――(式2)
【0017】
(実施例1)
総繊度が350dtex、108フィラメントのポリアミド66マルチフィラメント糸を平織りにてウォータージェットルームにて製織後、沸水にて収縮加工し、110℃で乾燥仕上げをし、経密度59本/2.54cm、緯密度59本/2.54cmの織物を得た。この織物の引裂強力及び滑脱抵抗の値を塗布前引裂強力及び塗布前滑脱抵抗力とした。この織物にポリアミド6とポリエチレングリコール-プロピルアミン付加物(分子量600)とアジピン酸がモル比で2.5:1:1となる様調整したポリマーを固形分25%の水系樹脂として調整し、ナイフコートにて塗布し、乾燥後の樹脂量を4g/mにした織物の特性を評価し表1に示した。
【0018】
(実施例2)
総繊度が350dtex、108フィラメントのポリアミド66マルチフィラメント糸を平織りにてウォータージェットルームにて製織後、沸水にて収縮加工し、110℃で乾燥仕上げをし、経密度59本/2.54cm、緯密度59本/2.54cmの織物を得た。この織物にポリアミド6とポリエチレングリコール-プロピルアミン付加物(分子量1500)とアジピン酸がモル比で2.5:1:1となる様調整したポリマーを固形分25%の水系樹脂として調整し、ナイフコートにて塗布し、乾燥後の樹脂量を7g/mにした織物の特性を評価し表1に示した。
【0019】
(実施例3)
総繊度が350dtex、108フィラメントのポリアミド66マルチフィラメント糸を平織りにてウォータージェットルームにて製織後、沸水にて収縮加工し、110℃で乾燥仕上げをし、経密度59本/2.54cm、緯密度59本/2.54cmの織物を得た。この織物にポリアミド6とポリエチレングリコール-プロピルアミン付加物(分子量600)とアジピン酸がモル比で2.5:1:1となる様調整したポリマーを固形分10%の水系樹脂として調整し、含浸処理して乾燥後の樹脂量を7g/mにした織物の特性を評価し表1に示した。
【0020】
(実施例4)
総繊度が470dtex、72フィラメントのポリアミド66マルチフィラメント糸を使用し、仕上げ密度が経密度46本/2.54cm、緯密度46本/2.54cmであり、樹脂量が異なること以外は実施例1と同様である織物の特性を評価し表1に示した。
【0021】
(実施例5)
仕上げ密度が経密度54本/2.54cm、緯密度54本/2.54cmであり、樹脂量が異なること以外は実施例4と同様である織物の特性を評価し表1に示した。
【0022】
(比較例1)
総繊度が350dtex、108フィラメントのポリアミド66フィラメントを平織りにてウォータージェットルームにて製織後、沸水にて収縮加工し、110℃で乾燥仕上げをし、経密度59本/2.54cm、緯密度59本/2.54cmの織物を得た。この織物にポリアミド6とポリエチレングリコール-プロピルアミン付加物(分子量6000)とアジピン酸がモル比で2.5:1:1となる様調整したポリマーを固形分25%の水系樹脂として調整し、ナイフコートにて塗布し、乾燥後の樹脂量を4g/mにした織物の特性を評価し表1に示した。
【0023】
(比較例2)
総繊度が350dtex、108フィラメントのポリアミド66フィラメントを平織りにてウォータージェットルームにて製織後、沸水にて収縮加工し、110℃で乾燥仕上げをし、経密度59本/2.54cm、緯密度59本/2.54cmの織物を得た。この織物にポリアミド6とポリアミド66の共重合ポリマーを固形分25%の水系樹脂として調整し、ナイフコートにて塗布し、乾燥後の樹脂量を4g/mにした織物の特性を評価し表1に示した。
【0024】
(比較例3)
総繊度が350dtex、108フィラメントのポリアミド66フィラメントを平織りにてウォータージェットルームにて製織後、沸水にて収縮加工し、110℃で乾燥仕上げをし、経密度59本/2.54cm、緯密度59本/2.54cmの織物を得た。この織物に無溶剤シリコーン樹脂を、ナイフコートにて塗布し、乾燥後の樹脂量を25g/mにした織物の特性を評価し表1に示した。
【0025】
【表1】

【0026】
実施例1〜5は、比較例1〜3に対して、展開性能に影響する滑脱抵抗及び引裂強力をともに向上させた自動車安全装置の一つであるエアバッグ用織物と言える。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のエアバッグ用織物は、展開性能に影響する滑脱抵抗及び引裂強力をともに向上させ、自動車安全装置の一つであるエアバッグ用途に利用することができ、産業界に寄与することが大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性合成樹脂が少なくとも片面に塗布されてなる合成繊維製織物において、前記熱可塑性合成樹脂の付与によって、織物の滑脱抵抗値及び引裂強力値が、塗布前の織物に対してともに1.3倍以上であることを特徴とするエアバッグ用織物。
【請求項2】
熱可塑性合成樹脂の付着量が、乾燥後の質量で0.1〜15g/mであることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ用織物。
【請求項3】
熱可塑性合成樹脂が、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリアミド系樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種の樹脂である請求項1または2に記載のエアバッグ用織物。
【請求項4】
上記熱可塑性合成樹脂が、ポリアミド系樹脂であり、ポリマー中に分子量100〜5000のソフトセグメントを有することを特徴とする請求項3に記載のエアバッグ用織物。

【公開番号】特開2007−327162(P2007−327162A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160820(P2006−160820)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】