説明

エアベアリング式エアシリンダ装置

【課題】パイプ体からなるシリンダ本体と、このシリンダ本体に嵌めた外周面からエアを噴出するエアベアリングを備えたエアピストンと、このエアピストンに結合したピストンロッドとを備えたエアベアリング式エアシリンダ装置において、シリンダ全長に比してロッドストロークを長くする。
【解決手段】従来リジッドであったエアピストン20とピストンロッド30との結合構造をフレキシブルな構造に改め、エアピストン20の軸部に形成した貫通穴21に挿通したピストンロッド30を軸方向に相対移動可能に支持する軸方向弾性結合手段23及び上記エアピストン20と、上記貫通穴21に挿通したピストンロッド30とを径方向に相対移動可能に支持する径方向弾性結合手段22とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアベアリング式エアシリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エアベアリング式エアシリンダ装置は、原理的には、シリンダ本体(パイプ)内に嵌めたピストン(エアピストン)の外周面(エアベアリング)からエアを噴出させてシリンダ内周面とエアピストン外周面との間に数μm程度の膜厚のエア膜を形成することにより、摺動抵抗ゼロを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−11789号公報
【特許文献2】特開2007−229884号公報
【特許文献3】特許第3811284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のエアベアリング式エアシリンダ装置では、短いシリンダ本体によって長いロッド(ピストン)ストロークを得ることが困難であった。これは、短いエアピストンを用いて数μm程度のエア膜を維持するためには、パイプ体(シリンダ本体)の真円度(直線性)を高精度に維持することが必要であるのに対し、現在の機械加工技術では、パイプ体が長くなるほど真円度の確保が困難になることに起因する。このため、従来品では、エア膜切れを防止するために、シリンダ本体長に対して比較的長いエアピストン長を必要とし、このため、シリンダ全長に比してロッドストロークが短いのが実情であった。
【0005】
本発明は、以上の問題意識に基づき、シリンダ全長に比してロッドストロークを長く、別言すると、必要なロッドストロークに対してシリンダ全長を短くすることができるエアベアリング式エアシリンダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、従来リジッドであったエアピストンとピストンロッドとの結合構造をフレキシブルな構造に改めれば、シリンダ本体(パイプ体)の真円度の長さ方向のバラツキ(変化)に対して、エアピストンとピストンロッドの結合部分が追従し、エア膜切れが生じないようにすることができるとの着眼に基づいてなされたものである。
【0007】
本発明は、パイプ体からなるシリンダ本体と、このシリンダ本体に嵌めた外周面からエアを噴出するエアベアリングを備えたエアピストンと、このエアピストンに結合したピストンロッドとを備えたエアベアリング式エアシリンダ装置において、エアピストンの軸部に形成した貫通穴;上記エアピストンと、上記貫通穴に挿通したピストンロッドとを軸方向に相対移動可能に支持する軸方向弾性結合手段;及び上記エアピストンと、上記貫通穴に挿通したピストンロッドとを径方向に相対移動可能に支持する径方向弾性結合手段と、を備えたことを特徴としている。
【0008】
軸方向弾性結合手段は、具体的には例えば、エアピストンの両端部に位置させてピストンロッドに嵌めた一対の弾性リングと、この一対の弾性リングをエアピストンの両端面に隙間なく接触させた状態でピストンロッドに固定する固定手段とから構成することができる。
【0009】
径方向弾性結合手段は、具体的には例えば、エアピストンの貫通穴とピストンロッドとの間に軸方向位置を異ならせて介在させた少なくとも一対の弾性リング(Oリング)から構成することができる。
【0010】
弾性リングあるいはOリングは、ゴム材料から形成するのが実際的である。
【0011】
エアピストンのエアベアリングに対する圧縮エアの供給は、ピストンロッドに形成した軸通路を介して、エアピストンを動作させるピストン動作エアの経路とは別経路で行うことができる。あるいはエアピストンの端面に穿けたエア導入口を介して、エアピストンを動作させるピストン動作エアを用いて行うこともできる。
【0012】
シリンダ本体は、アルミ合金製のパイプとすることが実際的である。エアピストンのエアベアリングは、多孔質体、オリフィス絞り(エア噴出表面が表面絞りの状態となっているエアベアリング)等の周知材料(構造)を用いることができる。
【0013】
ピストンロッドのシリンダ本体からの突出部には、内径摺動型のエアベアリングを設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、パイプ体からなるシリンダ本体と、このシリンダ本体に嵌めた外周面からエアを噴出するエアベアリングを備えたエアピストンと、このエアピストンに結合したピストンロッドとを備えたエアベアリング式エアシリンダ装置において、エアピストンの軸部に形成した貫通穴;上記エアピストンと、上記貫通穴に挿通したピストンロッドとを軸方向に相対移動可能に支持する軸方向弾性結合手段;及び上記エアピストンと、上記貫通穴に挿通したピストンロッドとを径方向に相対移動可能に支持する径方向弾性結合手段と、を備えたので、シリンダ本体(パイプ体)の真円度の長さ方向のバラツキ(変化)に対して、エアピストンとピストンロッドの結合部分が追従し、エアピストン外周面とシリンダ本体内周面との間のエア膜切れが生じにくい。このため、シリンダ全長に比してロッドストロークが長く、あるいは必要なロッドストロークに対してシリンダ全長を短くすることができるエアベアリング式エアシリンダ装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明によるエアベアリング式エアシリンダ装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1のエアベアリング式エアシリンダ装置のエアピストン回りの拡大断面図である。
【図3】図1のエアベアリング式エアシリンダ装置の動作状況を示す拡大断面図である。
【図4】本発明によるエアベアリング式エアシリンダ装置の別の実施形態を示す断面図である。
【図5】図4のエアベアリング式エアシリンダ装置のエアピストン回りの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1ないし図3は、本発明を単動式のエアベアリング式エアシリンダ装置に適用した一実施形態を示している。アルミ合金の高精度パイプからなるシリンダ本体10の両端部には、穴あき端板11と端部ブロック12が設けられており、穴あき端板11の内面には緩衝部材11aが固定されている。
【0017】
端部ブロック12には、その軸部に外端部内方フランジ12aを有する貫通穴12bが形成されており、この貫通穴12bに内径摺動エアベアリング13が挿通されている。内径摺動エアベアリング13の外周面と貫通穴12bの内周面との間には、軸方向に位置を異ならせて一対のOリング14が位置しており、内径摺動エアベアリング13の両端面には、一対の弾性リング15が位置している。この一対の弾性リング15が内径摺動エアベアリング13の一端面とリテーナリング16の間及び内径摺動エアベアリング13の他端面と端部ブロック12の外端部内方フランジ12aの間を隙間なく埋めた状態で(例えば一対の弾性リング15を軸方向に圧縮した状態で)、リテーナリング16を介して内径摺動エアベアリング13が端部ブロック12に支持されている。
【0018】
端部ブロック12には、圧縮空気源Pの圧縮エアをエアベアリングエア供給装置PAを介して、一対のOリング14の間において内径摺動エアベアリング13の外周面に供給するエアベアリングエア供給路17と、圧縮空気源Pの圧縮エアをピストン動作エア供給装置PSを介してシリンダ本体10の内部に供給するピストン動作エア供給路18とが形成されている。
【0019】
シリンダ本体10内には、エアピストン20が嵌まっており、このエアピストン20に結合した中空ピストンロッド30がリテーナリング16及び内径摺動エアベアリング13の軸穴13aを通って外部に突出している。軸穴13aの内径とピストンロッド30の外径は、最小のクリアランスとなるように高精度に加工され、エアベアリングエア供給路17から供給された圧縮エアが内径摺動エアベアリング13の軸穴13aの内周面から噴出することで、ピストンロッド30が非接触で軸穴13a内面に支持される。
【0020】
エアピストン20は、その軸部に貫通穴21を有しており、この貫通穴21内にピストンロッド30が挿通されている。貫通穴21の内周面とピストンロッド30の外周面との間には、軸方向位置を異ならせて一対のOリング(弾性リング)22が介在しており、このOリング22の弾性力で、ピストンロッド30と貫通穴21とが非接触状態でかつ径方向に相対移動可能に結合されている。すなわち、Oリング22は、エアピストン20と、貫通穴21に挿通したピストンロッド30とを径方向に相対移動可能に結合する径方向弾性結合手段を構成している。
【0021】
エアピストン20の両端部には、ピストンロッド30に嵌めた一対の弾性リング23が位置しており、ピストンロッド30には、この一対の弾性リング23をエアピストン20の両端面に隙間なく埋めた状態で(例えば一対の弾性リング23を軸方向に圧縮した状態で)接触させる、固定手段としての端板24とリテーナリング25が固定されている。一対の弾性リング23の弾性力で、エアピストン20はピストンロッド30に対する軸方向への相対移動を可能にして結合されている。すなわち、一対の弾性リング23、及び固定手段としての端板24とリテーナリング25は、エアピストン20と、貫通穴21に挿通したピストンロッド30とを軸方向に相対移動可能に結合する軸方向弾性結合手段を構成している。
【0022】
エアピストン20の外周面には、外径摺動エアベアリング26が設けられている。外径摺動エアベアリング26(及び内径摺動エアベアリング13)としては、焼結金属やカーボンを用いた多孔質タイプ、あるいは、エア噴出表面が表面絞りの状態となるオリフィス絞りタイプが知られており、本発明では、どのタイプも使用できる。そして、この外径摺動エアベアリング26には、圧縮空気源P、エアベアリングエア供給装置PA、ピストンロッド30の軸通路(エアベアリングエア供給路)31、径方向通路(エアベアリングエア供給路)32及びエアピストン20の内部通路27を介して圧縮エアが供給される。
【0023】
上記構成の本エアベアリング式エアシリンダ装置は、圧縮空気源P、エアベアリングエア供給装置PAを介してエアベアリングエア供給路17と軸通路31にエアベアリング用圧縮エアを供給すると、内径摺動エアベアリング13の内周面から噴出する圧縮エアによりピストンロッド30が内径摺動エアベアリング13に対して浮上状態となり、外径摺動エアベアリング26の外周面から噴出する圧縮エアにより、エアピストン20がシリンダ本体10に対して浮上状態となる。エアピストン20は図示しない付勢手段または自重により図の右方に移動付勢されており(図1、図2は左方への移動端を示している)、エアピストン20が図1の右方に存在している状態において、圧縮空気源P、ピストン動作エア供給装置PS及びピストン動作エア供給路18を介してシリンダ本体10内にシリンダ動作用圧縮エアを供給すると、エアピストン20は、付勢手段または自重に抗して左方に移動する。つまり、単動式エアベアリング式エアシリンダ装置として機能する。
【0024】
そして、本実施形態によると、シリンダ本体10内でのエアピストン20の移動の際、エアピストン20は、Oリング22によりピストンロッド30に対する径方向の相対移動が可能であり、弾性リング23によりピストンロッド30に対する軸方向の相対移動が可能である。このため、シリンダ本体10の真円度又は内径(シリンダ本体10の内径とエアピストン20の外径との差)が長さ方向に僅かにばらついたとしても(シリンダ本体10とエアピストン20のクリアランスが変化したとしても)、エア膜切れを生じさせることなく、その真円度変化あるいはクリアランス変化に、エアピストン20が追従移動することができる。
【0025】
図3は、シリンダ本体10の内壁10Sのうねりを誇張して描いたものである。Oリング22と弾性リング23の弾性変形量は、このようなうねり10Sに対応できるように定める。別言すると、Oリング22と弾性リング23は、例えばゴム材料から構成することができ、エアピストン20とピストンロッド30を径方向及び軸方向に相対移動できるように、その弾性及び大きさを定める。
【0026】
以上は、単動式のエアベアリング式エアシリンダ装置に本発明を適用したものであるが、本発明は複動式にも適用可能である。図4と図5は、本発明を複動式のエアベアリング式エアシリンダ装置に適用した別の実施形態を示している。この実施形態は、エアピストン20を移動させるピストン動作エアでエアピストン20の外径摺動エアベアリング26から圧縮エアを噴出させるもので、図5に示すように、エアピストン20の端面(シリンダ本体10内の圧力室に臨む部分)に外径摺動エアベアリング26に圧縮エアを供給するエア導入口28を開口させ、図4に示すように、エアベアリングエア供給装置PA、軸通路31は廃止されている(中空パイプからなる(軸通路31を有する)ピストンロッド30は、中実ロッド30Rに変更されている)。
【0027】
図1、図2の実施形態では、単純に、エアピストン20の左方の圧力室にも圧力を制御した圧縮エアを供給すればよく、図4、図5の実施形態では、エアピストン20の左方の圧力室に、常時右方の圧力室より低圧の制御圧縮エアを供給すればよい。エアピストン20の受圧面積は、右方の端面より左方の端面の方が大きいから、低圧でもエアピストン20を右方に移動させることができ、エアピストン20の外径摺動エアベアリング26から噴出した圧縮エアは、低圧の圧力室側に逃がすことができる。
【0028】
以上の実施形態では、ピストンロッド30のシリンダ本体10から突出部に内径摺動エアベアリング13を用いており、全体の摺動抵抗を限りなくゼロにすることができるという利点があるが、ピストンロッド30のシリンダ本体10からの突出部には、Oリング等の接触型の気密手段を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0029】
10 シリンダ本体
11 穴あき端板
11a 緩衝部材
12 端部ブロック
13 内径摺動エアベアリング
13a 軸穴
14 Oリング
15 弾性リング
16 リテーナリング
17 エアベアリングエア供給路
18 ピストン動作エア供給路
20 エアピストン
21 貫通穴
22 Oリング(径方向弾性結合手段)
23 弾性リング(軸方向弾性結合手段)
24 端板(固定手段、軸方向弾性結合手段)
25 リテーナリング(固定手段、軸方向弾性結合手段)
26 外径摺動エアベアリング
27 内部通路
30 ピストンロッド
31 軸通路
32 径方向通路
P 圧縮空気源
PA エアベアリングエア供給装置
PS ピストン動作エア供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプ体からなるシリンダ本体と、このシリンダ本体に嵌めた外周面からエアを噴出するエアベアリングを備えたエアピストンと、このエアピストンに結合したピストンロッドとを備えたエアベアリング式エアシリンダ装置において、
エアピストンの軸部に形成した貫通穴;
上記エアピストンと、上記貫通穴に挿通したピストンロッドとを軸方向に相対移動可能に結合する軸方向弾性結合手段;及び
上記エアピストンと、上記貫通穴に挿通したピストンロッドとを径方向に相対移動可能に結合する径方向弾性結合手段;
を備えたことを特徴とするエアベアリング式エアシリンダ装置。
【請求項2】
請求項1記載のエアベアリング式エアシリンダ装置において、上記軸方向弾性結合手段は、エアピストンの両端部に位置させてピストンロッドに嵌めた一対の弾性リングと、この一対の弾性リングをエアピストンの両端面に隙間なく接触させた状態でピストンロッドに固定する固定手段とを有するエアベアリング式エアシリンダ装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のエアベアリング式エアシリンダ装置において、上記径方向弾性結合手段は、エアピストンの貫通穴とピストンロッドとの間に軸方向位置を異ならせて介在させた少なくとも一対の弾性リングを有するエアベアリング式エアシリンダ装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載のエアベアリング式エアシリンダ装置において、エアピストンのエアベアリングに対する圧縮エアの供給は、ピストンロッドに形成した軸通路を介して、エアピストンを動作させるピストン動作エアの経路とは別経路で行うエアベアリング式エアシリンダ装置。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項記載のエアベアリング式エアシリンダ装置において、エアピストンのエアベアリングに対する圧縮エアの供給は、エアピストンの端面に穿けたエア導入口を介して、エアピストンを動作させるピストン動作エアを用いて行うエアベアリング式エアシリンダ装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項記載のエアベアリング式エアシリンダ装置において、ピストンロッドのシリンダ本体からの突出部には、内径摺動型のエアベアリングが設けられているエアベアリング式エアシリンダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−57718(P2012−57718A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201529(P2010−201529)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【出願人】(599153116)エヌ・イー有限会社 (4)
【Fターム(参考)】