説明

エキソ多糖

構造[−β(1,3)−D−GalpNAc−β(1,4)−D−Glcp]を含む、単離された多糖。この多糖はビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)菌株NCIMB41003から得ることができる。この多糖は免疫調節活性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキソ多糖、ならびに炎症性障害の治療および予防におけるそれの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
胃腸管は、体内環境と食物由来の抗原および体外環境の微生物による絶え間ない攻撃との間の防御境界面を提供する(Sanderson et al., 1993)。成体の腸内微生物叢の複雑な生態系には500の異なる細菌種が生息していると推定される。これらの種のうちあるものは、毒素産生、粘膜侵襲、または発癌物質および炎症反応の活性化のため、潜在的に有害であると考えられる(Salminen, 1998)。しかし、健康増進活性をもつ細菌株が同定された。
【0003】
プロバイオティクス(probiotics)は健全な腸内微生物叢に生育する有益な細菌であり、宿主動物の腸内微生物均衡を改善することにより宿主動物に有益に作用する一群の生存微生物と定義されている。それらは、実験室条件で培養され、次いでたとえばストレス、疾病のため、または抗生物質使用の結果として不均衡になった微生物叢の均衡を再建するために用いられる、”友好的な細菌”からなる。重要なことに、プロバイオティック細菌の摂取は、局所炎症性サイトカインの産生を低下させることにより腸管粘膜の免疫バリヤーを安定化しうることが示された(Isolauri, 1993; Majamaa, 1997)。プロバイオティック療法により常在微生物叢を変化させると、クローン病(Malin, 1996)、食物アレルギー(Majamaa, 1997)、およびアトピー性皮膚炎(Isolauri, 2000)に特徴的なある免疫障害が反転することが示された。
【0004】
腸内微生物叢に存在する主要な細菌種のひとつはビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)菌(ビフィズス菌)である。腸内でビフィドバクテリウム菌は糖類を発酵させて乳酸を産生する。ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)のゲノムはオリゴ糖の異化のために特殊化された多数のタンパク質をコードし、この細菌がいわゆる”非消化性”植物ポリマーまたは宿主由来の糖タンパク質および糖複合体を利用できるようにしている。ビフィドバクテリウム菌が他の腸内細菌と競合して胃腸領域の細菌叢において大きな割合を占めることができるのは、一部はそれがエルネギーを得るために利用できる分子の多様性が大きいことによると考えられる。
【0005】
ビフィドバクテリウム・インファンティス(B.infantis)、ビフィドバクテリウム・ブレヴェ(B.breve)およびビフィドバクテリウム・ロングムは乳児の腸内において最大の細菌グループであるが、成体においてはビフィドバクテリウム菌は3番目または4番目に大きなグループにすぎない(かつ成体の便内細菌叢の3〜6%にすぎない)と言われている。これらの細菌の数はヒトの体内では実際に年齢と共に減少する。母乳栄養乳児では、ビフィドバクテリウム菌がそれらの腸内細菌の約90%を構成する;しかし、この数は人工栄養乳児ではより少ない。母乳栄養乳児の食事が牛乳や固形食に変わると、ビフィドバクテリウム菌のほかに、ヒトの体内にみられるバクテロイド(Bacteroides)およびストレプトコッカス(Streptococci)、乳酸杆菌(lactobacilli)などの数が増加する。
【0006】
ビフィドバクテリウム菌は免疫系の調節に役割を果たすことが示されている。ビフィドバクテリウム・ブレヴェは、腸管バリヤーを越えることができる抗−TNF作用を及ぼす代謝産物を放出すると考えられる。インターロイキン−10(IL−10)欠乏マウスにおける粘膜炎症が被験動物に乳酸菌調製物を供給することにより軽減すると報告された(Madsen, K et al., 1997; O'Mahony et al., 2001; McCarthy et al., 2004)。WO 00/41168には、ヒト胃腸管を切除および洗浄することにより分離したビフィドバクテリウム・インファンティスの菌株が開示され、これはヒトに経口摂取された後に有意の免疫調節作用をもつ。
【0007】
微生物叢(消化器系の自然の微生物定住集団)の欠損または撹乱により起きる可能性がある疾患の発症率が増大していることが科学研究により指摘されている:たとえば胃腸管(GIT)感染症、便秘、過敏性腸症候群(IBS)、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病および潰瘍性結腸炎、食物アレルギー、抗生物質誘発性の下痢、心血管疾患、ならびに特定の癌、たとえば結腸直腸癌。ビフィドバクテリウム・インファンティの単一菌株で処置した後にIBS症状の重症度が軽減することを証拠が示している(Whorwell et al., 2006)。有効性は全身免疫応答の調節と関連があり、これは作用機序の一部が免疫仲介によるものであることを指摘している(O'Mahony et al., 2005)。本発明は、ビフィドバクテリウム・インファンティスから単離した化合物であって、インビトロでビフィドバクテリウム・インファンティスの免疫調節活性を再現する化合物を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO 00/41168
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Sanderson et al., Gastroenterology 104:622-39, 1993
【非特許文献2】Salminen, Int J Food Microbiol 20:93-106, 1998
【非特許文献3】Isolauri et al. Pediatr Res. 33:548-53, 1993
【非特許文献4】Majamaa et al., J Allergy Clin Immunol 99:179-86, 1997
【非特許文献5】Malin et al., Br J Rheumatol 35:689-94, 1996
【非特許文献6】Isolauri et al., Clin Exp Allergy 30:1605-10, 2000
【非特許文献7】Madsen et al., Gastroenterology 112:A1030, 1997
【非特許文献8】O'Mahony et al., Aliment Pharmacol Ther 15:1219-25, 2001
【非特許文献9】McCarthy et al., Gut 53:694-700, 2004
【非特許文献10】Whorwell et al., Am J Gastroenterol 101 :1581-90, 2006
【非特許文献11】O'Mahony et al., Gastroenterology 128:541-51, 2005
【発明の概要】
【0010】
本発明は、ビフィドバクテリウム・インファンティスが産生する、免疫調節特性を示す多糖を提供する。この多糖は分泌型(エキソ多糖)または非分泌型であってよい。
本発明の1観点によれば、構造[−β(1,3)−D−GalpNAc−β(1,4)−D−Glcp]を含む単離された多糖が提供される。
【0011】
この多糖はビフィドバクテリウム菌株から単離できる。菌株はNCIMB41003などの菌株であってもよい。
本発明の他の観点によれば、医薬としての本発明の多糖の使用が提供される。
【0012】
本発明の他の観点によれば、望ましくない炎症活性を治療または予防するための医薬の製造における、本発明の多糖の使用が提供される。
本発明の他の観点によれば、望ましくない胃腸炎症活性を治療または予防するための医薬の製造における、本発明の多糖の使用が提供される。
【0013】
1態様において、胃腸炎症活性はクローン病、潰瘍性結腸炎、過敏性腸症候群、嚢炎(pouchitis)、感染後結腸炎、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)関連の下痢、ロタウイルス関連の下痢または感染後下痢である。
【0014】
本発明の他の観点によれば、リウマチ性関節炎を治療または予防するための医薬の製造における、本発明の多糖の使用が提供される。
本発明の他の観点によれば、自己免疫障害を治療または予防するための医薬の製造における、本発明の多糖の使用が提供される。
【0015】
本発明の他の観点によれば、本発明の多糖および医薬的に許容できるキャリヤーを含む医薬組成物が提供される。
さらに他の態様において、本発明は単離された多糖を含む食品をも提供する。たとえば、食品はヨーグルト、シーリアル、飲料などからなる群から選択される1種類以上であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、コンディショニングした培地からのビフィドバクテリウム35624(NCIMB41003)により産生されたエキソ多糖(PS1)の精製スキームを示す。
【図2】図2は、ビフィドバクテリウム35624(NCIMB41003)により産生されたエキソ多糖(PS1)の構造を示す。
【図3】図3は、ビフィドバクテリウム35624[NCIMB41003]から精製したエキソ多糖(PS1)が、インビトロでヒト末梢血単核細胞と共にインキュベートした際に免疫調節活性を示すことを表わす。
【図4】図4は、PS1がインビトロでToll様受容体4(TLR−4)刺激に応答した炎症性サイトカインの放出を制限することを示す。
【図5】図5は、PS1がインビボでToll様受容体4(TLR−4)刺激に応答した炎症性サイトカインの放出を制限することを示す。
【図6】図6は、PS1がインビトロでToll様受容体4(TLR−4)再刺激に応答して炎症性サイトカインの放出を制限することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の好ましい形態および態様を、限定ではない例により以下に記載する。
本発明の実施には、別途指示しない限り、一般的な化学的、微生物学的および免疫学的技術を用い、それらは当業者が容易になしうる範囲のものである。そのような技術は文献中に説明されている。
【0018】
本発明者らはビフィドバクテリウム菌が分泌する、免疫調節特性をもつエキソ多糖を同定した。
エキソ多糖
本発明は、ビフィドバクテリウム・インファンティスにより生合成されるエキソ多糖に関する。多糖類は広範な微生物により合成され、通常は反復糖単位であって細胞表面に会合した状態で留まり、もしくは分泌され、または両者である。それらは細胞ストレス反応において役割を果たし、あるいは病原体の毒性に関与する可能性もある。最近、バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)の多糖について免疫調節の役割が証明された(Mazmanian et al., 2005)。
【0019】
処置
本明細書中で処置という表記はすべて治療処置、対症処置および予防処置を含むことを認識すべきである。哺乳動物の処置が特に好ましい。ヒトおよび動物の処置が共に本明細書の範囲に含まれる。
【0020】
炎症
炎症は細胞傷害に対する局所反応であり、毛細管拡張、白血球浸潤、発赤、発熱、痛み、腫脹、およびしばしば機能喪失を特色とする。炎症反応の制御は多数のレベルで発揮される(概説についてはHenderson B.およびWilson M. 1998を参照)。制御因子にはサイトカイン、ホルモン(たとえばヒドロコルチゾン)、プロスタグランジン、反応性中間体およびロイコトリエンが含まれる。
【0021】
サイトカインは低分子量の生物活性タンパク質であって、免疫応答および炎症反応の発生および制御に関与し、一方では発達、組織修復および造血をも調節する。それらは、白血球自体の間の連絡手段を提供し、また他の細胞タイプとの間の連絡手段も提供する。大部分のサイトカインは多機能性(pleiotrophic)であり、多数のオーバーラップする生物活性を発現する。
【0022】
サイトカインのカスケードおよびネットワークは、特定の細胞タイプに対する特定のサイトカインの作用よりも、むしろ炎症反応を制御する(Arai KI, et al., 1990)。炎症反応が漸減すると、適切な活性化シグナルおよび他の炎症仲介物質の濃度が低下し、これにより炎症反応が停止する。腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)は炎症状態をもたらすサイトカインカスケードおよび生物学的作用を開始させるので、中枢となる炎症性サイトカインである。したがって、TNFαを阻害する薬剤、たとえばインフリキシマブ(infliximab)が炎症性疾患の処置に現在用いられている。
【0023】
炎症性サイトカインは、炎症性腸疾患(IBD)を含めた多数の炎症性疾患の発病において主要な役割を果たすと考えられる。IBDを処置するための現在の療法は、これらの炎症性サイトカインのレベルを低下させることを目標とする。本発明のエキソ多糖は炎症性障害の処置に適用できる可能性をもつ。これは、たとえば非炎症性サイトカイン、たとえばIL−10(これに限定されない)の濃度を高め、および/または炎症性サイトカインの濃度を低下させることにより達成できる。
【0024】
炎症性腸疾患
炎症性腸疾患(IBD)は慢性的に再発する腸の炎症を特徴とする。IBDはクローン病と潰瘍性結腸炎の表現型に小分類される。クローン病は胃腸管のいかなる部分にも関係する可能性があるが、回腸末端および結腸に関係する頻度が最も高い。直腸および結腸に限定した症例の約10%において、クローン病か潰瘍性結腸炎かの決定的な分類ができず、’中間型結腸炎’と表示される。両疾患とも腸管外の皮膚、眼または関節の炎症を含む。
【0025】
クローン病および潰瘍性結腸炎は一般に自己免疫疾患として分類される;両疾患とも身体の免疫系による異常な反応を特色とし、その結果腸管の内張りの慢性炎症が生じるからである。炎症性腸疾患の罹患率は、他の自己免疫疾患、特に強直性脊椎炎、乾癬、硬化性胆管炎および多発性硬化症を伴う個体において増大している。
【0026】
クローン病
クローン病は、免疫系が腸を攻撃し、消化器または胃腸の炎症を引き起こす、慢性障害である。
【0027】
クローン病は回腸終端および結腸開始部を冒すことが最も多いが、胃腸管のいかなる部分にも関係する可能性がある。腸の炎症は貫壁性かつ不連続的である;それは肉芽腫を含む場合があり、あるいは腸瘻または肛門周囲瘻を随伴する場合がある。CARD15遺伝子、およびABCB1遺伝子の対立遺伝子がクローン病の羅病性に関連すると考えられている。
【0028】
潰瘍性結腸炎
潰瘍性結腸炎は、大腸の内張りの炎症およびびらんを引き起こす疾患である。それは腸を冒す非特異的な慢性炎症性疾患である。炎症により細胞内張りが死滅した場所に潰瘍が生じ、出血する。クローン病と異なり、その炎症は連続的であり、直腸および結腸の粘膜層に限定される;瘻および肉芽腫はみられない。
【0029】
遺伝的要因および環境要因の両方がその病因において重要であると思われる。Fussらは潰瘍性結腸炎を伴う患者からの粘膜固有層T細胞を調べて、それらが対照細胞またはクローン病細胞より有意に多量のIL13およびIL5を産生し、IFN−ガンマをほとんど産生しないことを見いだした。彼らは、潰瘍性結腸炎は、IL13を産生して上皮細胞に対し細胞傷害効力をもつ普通型NKT細胞により仲介される、非定型Th2反応に関連すると結論した。
【0030】
嚢炎
回腸の貯留部(reservoir)の慢性および/または急性炎症、いわゆる”嚢炎”は、頻繁にみられる回腸−肛門嚢吻合部の長期合併症である。潰瘍性結腸炎の患者において、嚢炎の罹病率は10%未満から40%を超えるまで変動する。”嚢炎”の定義には、貯留部粘膜の激しい急性炎症の臨床症状、内視鏡検査における肉眼的炎症性病変、および組織学的証拠が含まれる。
【0031】
クロストリジウム・ディフィシレ関連の下痢
クロストリジウム・ディフィシレは、1935年に初めて健康な新生児の便内菌叢から分離された嫌気性、グラム陽性の胞子形成性杆菌である。それと抗生物質誘発性の偽膜性結腸炎(PMC)との関連が1978年になって確立された。ほとんどすべての抗生物質がクロストリジウム・ディフィシレ下痢および結腸炎と関連づけられており、これにはバンコマイシンおよびメトロニダゾール(その治療に用いられる)ならびに癌の化学療法が含まれる。関連度は、使用頻度、投与経路、およびその抗生物質が結腸微生物叢に及ぼす作用と関係がある。
【0032】
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群(IBS)は正常な大腸(結腸)の機能を妨げる慢性障害である。それは一群の症状を特徴とする−痙攣性の腹痛、鼓脹、便秘および下痢。
【0033】
IBSは著しい不快感および窮迫を引き起こすが、腸に永続的な害を及ぼすことはなく、腸出血または癌などの重篤な疾患に至ることはない。IBSの徴候および症状は患者毎に大幅に変動し、他の多くの疾患に伴って起きることが多い。
【0034】
他の有効成分
本発明のエキソ多糖を、予防的に、または治療法として、それ自体で、あるいは他のプロバイオティックおよび/またはプレバイオティック物質と共に投与しうることは認識されるであろう。さらに、その細菌は、炎症その他の障害、特に胃腸管の障害の処置に用いられる他の有効物質を使用する予防または治療計画の一部として使用できる。そのような組合わせは、単一の製剤中において、または同時もしくは異なる時点で同一もしくは異なる投与経路を用いて投与される別個の製剤として投与できる。
【0035】
医薬組成物
医薬組成物は、療法有効量の医薬有効物質を含むかまたはそれからなる組成物である。それは好ましくは、医薬的に許容できるキャリヤー、希釈剤または賦形剤(その組合わせを含む)を含有する。療法用として許容できるキャリヤーまたは希釈剤は医薬技術分野で周知であり、たとえばRemington's Pharmaceutical Sciencesに記載されている。医薬用のキャリヤー、賦形剤または希釈剤の選択は、意図する投与経路および医薬標準法を考慮して選択できる。医薬組成物は、キャリヤー、賦形剤または希釈剤として−またはそれらのほか−いずれか適切な結合剤(1以上)、滑沢剤(1以上)、懸濁化剤(1以上)、コーティング剤(1以上)、可溶化剤(1以上)を含むことができる。
【0036】
医薬的に許容できるキャリヤーの例には、たとえば水、塩類溶液、アルコール類、シリコーン、ろう、ワセリン、植物油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、リポソーム、糖類、ゼラチン、乳糖、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、界面活性剤、ケイ酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸モノグリセリドおよびジグリセリド、ペトロエテラル(petroethral)脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが含まれる。
【0037】
適切な場合、医薬組成物を下記のうちいずれか1以上により投与することができる:吸入により、坐剤または膣坐剤の形で、局所的にローション剤、液剤、クリーム剤、軟膏剤または散粉剤の形で、皮膚パッチの使用により、経口的にデンプンもしくは乳糖などの賦形剤を含有する錠剤の形で、またはカプセル剤もしくは卵形剤中に、単独で、または賦形剤との混合物で、または着香剤もしくは着色剤を含有するエリキシル剤、液剤もしくは懸濁液剤の形で;あるいはそれらを非経口的に、たとえば海綿体内(intracavernosally)、静脈内、筋肉内または皮下に注射することができる。非経口投与のためには、組成物を無菌水性液剤の形で用いるのが最良であろう;これらは他の物質、たとえば液剤を血液と等張にするのに十分な塩類または単糖類を含有することができる。口腔または舌下投与のためには、組成物を錠剤またはトローチ剤の形で投与でき、これらは常法により調製できる。
【0038】
異なる送達システムに応じて異なる組成/配合要件があるであろう。たとえば、本発明の医薬組成物は、ミニポンプを用いて、または粘膜経路で、たとえば鼻内スプレーもしくは吸入用エアゾール剤もしくは経口摂取用液剤として送達するように、あるいは非経口的に、組成物を注射用形態で配合して、たとえば静脈内、筋肉内または皮下経路で送達するように配合できる。あるいは、配合物は両方の経路で送達するように設計できる。
【0039】
本発明の他の好ましい形態および態様を限定ではない実施例により、添付の図面を参照して記載する。
ビフィドバクテリウム35624(NCIMB41003)菌株はWO 00/42168に記載されており、その内容全体を本明細書に援用する。この菌株は1999年1月13日にNCIMBに寄託された。
【実施例】
【0040】
実施例1−コンディショニングした培地からのビフィドバクテリウム35624により産生されたエキソ多糖(PS1)の精製および構造決定
精製. 100mlの、0.05%(w/v)システインを補充した無菌MRS培地(CM359 MRS Broth,Oxoid Ltd.,Basingstoke,英国ハンプシャー州)を、無菌の250mlエルレンマイヤーフラスコに入れ、ビフィドバクテリウム35624を接種した。接種した培地を嫌気性条件下に(10−01 Pack−Anaero,Mitsubishi Gas Chemical Company−America,ニューヨーク州ニューヨーク)37℃で、振とうせずにインキュベートした。接種していないMRS培地試料を培地対照として用い、以下に概説する操作全体を通して、接種した試料と同等に処理した。
【0041】
48時間の増殖後、ビフィドバクテリウム35624培養物は定常期に達し、約3のOD 600nm(2〜3×10コロニー形成単位/ml)を示した。培養物をポリカーボネート遠心管に移し、40,000×gで30分間遠心すると(JA−20ローター,Beckman J2−21遠心機,Beckman Coulter,Inc.,カリフォルニア州フラートン)、透明な上清と密な細胞ペレットが生じた。上清(コンディショニングした培地)を慎重に分離し、エキソ多糖(EPS)の精製に用いた。細胞ペレットを廃棄した。
【0042】
コンディショニングした培地からのビフィドバクテリウム35624により産生されたEPSの精製スキームを図1に示す。別途記載しない限り、すべての工程を氷上または4℃で実施した。80mlの培養上清を、分子量(MW)カットオフ100,000ダルトンをもつ限外濾過装置(VC 1042 Vivacell 100mlコンセントレーター,Vivascience,ドイツ、ハノーバー)に装填した。試料を臨床用遠心機で2000×gでの遠心により濃縮した。体積が約0.5mlに達した後、保持物(高分子量画分)をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で1回透析濾過し、そして元の約0.5mlに濃縮した。保持物を標準15ml遠心管に移した。限外濾過装置を4mlのPBSですすぎ、この洗液を保持物と共にプールして、高分子量の保持画分を得た。
【0043】
100%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を高分子量の保持画分に添加して、最終濃度20%(v/v)TCAにした。試料を氷上で2時間インキュベートし、次いで8000×gで20分間遠心した(JA−20ローター)。EPSを含有する上清を30mlのCorex試験管に移した。タンパク質を含有するペレットを廃棄した。EPSを含有する上清を3体積の氷冷95%エタノールで処理し、−20℃で一夜インキュベートした。次いで試験管を8000×gで20分間遠心した(JA−20ローター)。上清を廃棄した。EPSを含有するペレットを5mlのPBSに再懸濁し、次いで前記に従って3体積のエタノールで再び沈殿させた。ペレットを氷上で60分間風乾し、次いで9mlの10mM MgC1、50mM Tris−HCl(pH7.4)に再懸濁した。
【0044】
核酸を除去するために、デオキシリボヌクレアーゼI(LS006331,Worthington Biochemical Corporation,ニュージャージー州レイクウッド)およびリボヌクレアーゼA(R5250,Sigma−Aldrich Corporation,ミズーリ州セントルイス)をそれぞれ最終濃度0.1mg/mlになるように添加し、37℃で2時間インキュベートした。プロテイナーゼK(P2308,Sigma−Aldrich)を最終濃度0.02mg/mlになるように添加し、次いで混合物を37℃で2時間インキュベートすることにより、残留タンパク質を除去した。70℃で15分間インキュベートし、続いてフェニルメチルスルホニルフルオリド(P7626,Sigma−Aldrich)を最終濃度0.2mMになるまで添加して室温で15分間おくことにより、プロテイナーゼKを不活性化した。精製されたEPSを、前記に従って3体積のエタノールの添加により溶液から沈殿させた。ペレットを9mlのリン酸緩衝化生理食塩水に再懸濁した。再懸濁した試料を、分子量カットオフ3500のSnakeSkin透析チューブ(68035,Pierce Biotechnology,イリノイ州ロックフォード)に装填し、次いで7リットルの水(2回の交換)に対して4℃で48時間透析した。
【0045】
Dubois et al. (Anal. Chem. 28, 350-356 (1956))の標準フェノール/硫酸法を用いて多糖の存在量を定量するために、透析試料の小部分標本を取り出した。EPSの濃度を測定すると、適切な部分標本を調製し、ドライアイスで凍結させ、凍結乾燥した。凍結乾燥した材料を−80℃に保存した。
【0046】
NMR分析. プロトン核磁気共鳴(H−NMR)分析をVarian Inova 600−MHz分光計(Varian Medical Systems,カリフォルニア州パロアルト)で実施した。凍結乾燥試料をDOに溶解し、十分にジュウテリウム交換した後、25℃でスペクトルを求めた。化学シフトは内部TSPを基準とした。1H-1H correlation spectroscopy(COSY)、total correlation spectroscopy(TOCSY)、nuclear Overhauser effect spectroscopy(NOESY)およびproton-carbon heteronuclear single quantum correlation spectroscopy(HSQC)データを、位相感受性モードでStates−Haberkorn−Rubin quadratureにより収集した。すべてのパルスシーケンスが分光計販売業者により提供され、それらを修正せずに用いた。残留HDO信号にLow−power presaturationを施した。一般にデータセットを512回、2,048複合データ点、および16〜32走査/増分で収集した。TOCSYパルスプログラムは60ミリ秒MLEV−17ミキシングシーケンスを含み、NOESYミキシング時間は150ミリ秒であった。
【0047】
炭水化物の分析. グリコシル組成分析は、精製ビフィドバクテリウム35624 EPSから酸性メタノリシスにより製造した単糖メチルグリコシドのペル−O−トリメチルシリル(TMS)誘導体の組合わせガスクロマトグラフィー/質量分光分析(GC/MS)により実施された(York et al., (1986); Merkle, R. K. and Poppe, I. 1994)。グリコシル結合を分析するために、EPS試料を過メチル化、脱重合、還元およびアセチル化した。得られた部分メチル化酢酸アルジトール(PMAA)類を、先の記載に従ってGC−MSにより分析した(York et al, (1986); Merkle and Poppe (1994))。
【0048】
EPSの構造決定
精製したEPSをH−NMRにより分析した。スペクトルはこの物質が炭水化物のみから構成されていることを示した;核酸、タンパク質、脂質、または有機低分子夾雑物を示すものはなかった。当技術分野で既知の前記に述べた実験を用いる二次元NMR(2D−NMR)分析により、存在する大部分の炭水化物は二糖類の反復からなる線状多糖から構成されることが確認された。組成分析および結合分析からのデータと合わせると、この多糖(PSlと命名)の構造は[−β(1,3)−結合−D−N−アセチルガラクトサミンピラノシル−β(1,4)−結合−D−グルコースピラノシル]である;ここでnはこの二糖単位がn回反復していることを示し、これにより100,000ダルトンを超える分子量をもつ多糖が得られる。このPS1の構造は[−β(1,3)−D−GalpNAc−β(1,4)−D−Glcp]と略記することができ、図2に示されている。PS1が培地対照試料中に検出されなかったことは注目される。
【0049】
実施例2−ビフィドバクテリウム・インファンティス35624エキソ多糖(PS1)はインビトロでヒト免疫系細胞と共にインキュベートした際に免疫調節活性をもつ
EPS画分をPBMC(末梢血単核細胞)サイトカイン誘導アッセイによりアッセイした。このアッセイでは、PBMCを血液から密度勾配分離により単離し、37℃で72時間(ペニシリンおよびストレプトマイシンの存在下で)、対照培地と共に、またはビフィドバクテリウム・インファンティス35624から精製した漸増濃度のPSlと共にインキュベートした。上清をIL−Iβ、IL−6、IL−8、IL−10、IL−12、TNF−αおよびIFN−γ濃度についてmesoscale discovery(MSD)キットによりアッセイし、MSDプレートリーダーにより分析した。
【0050】
図3はこのアッセイの結果を示す。PBMCを1〜5μg/mlのPSlで刺激した場合、PS1は試験したすべてのサイトカインの分泌を刺激した。このサイトカイン刺激活性は、10μg/mlのPSlを用いた場合には多くのサイトカインについてバックグラウンドレベルに低下した。
【0051】
静止期PBMCを試験するほか、PS1刺激と共に、または刺激なしで、TLR−4リガンドであるリポ多糖(LPS)を用いてPBMCを活性化した。予備実験で5μg/mlのPSlが最適量であることが認められたので、この量をその後のアッセイに用いた。これらの結果を図4に、LPS+PSlで刺激した細胞についての平均サイトカイン値からLPS単独で刺激した細胞についてのサイトカイン値を差し引いたものとして示す。PSlと共にインキュベートした場合、LPS刺激したPBMCは実質的により少ないIL−6、ならびに有意により少ないIL−8、TNF−αおよびIFN−γを分泌した。
【0052】
実施例3−ビフィドバクテリウム・インファンティス35624エキソ多糖(PS1)は敗血症のネズミモデルに注射した際に抗炎症活性をもつ
PS1を健康なマウスに腹腔内注射し、これらのマウスを24時間観察した。明らかな窮迫の徴候は認められず、これは、この多糖が動物に良好に耐容されたこと、およびPS1が敗血症または炎症促進反応を誘発しなかったことを示唆している。24時間の観察期間後、敗血症様反応を誘発するために動物にリポ多糖(LPS)を腹腔内注射した。2時間後にすべての動物を屠殺し、脾細胞サイトカイン分泌をインビトロで測定した。PS1+LPSで処理したマウスから分離した脾細胞は、LPSのみを投与したマウスと比較して有意に少ないTNF−αを放出した(図5)。さらに、これらの動物からの脾細胞をインビトロでLPSにより再刺激し、この場合も予めPS1に曝露した動物からの脾細胞では炎症性サイトカイン反応の鈍化が認められた(図6)。
【0053】
合わせると、これらのデータはビフィドバクテリウム・インファンティス35624に由来するPS1が免疫調節活性をもち、かつLPSまたはTLR−4が仲介する炎症反応に対して防御することを証明する。
【0054】
前記の実験は分泌型のエキソ多糖(PS1)について記載したが、非分泌型のエキソ多糖、たとえば細胞会合もしくは膜会合/結合型または内包型のエキソ多糖も分泌型EPSと同様な挙動を示すとみられる。本明細書に記載する実験は分泌型EPSを試験するために設計されたが、分泌型EPSのうちある割合は、EPSの生成中またはEPSが細胞から輸送もしくは放出される前に細胞に結合する(たとえば細胞会合型または内包型)可能性があることは当業者には自明であろう。
【0055】
本発明は以上に記載した態様に限定されず、細部において変更できる。
参考文献
【0056】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造[−β(1,3)−D−GalpNAc−β(1,4)−D−Glcp]を含む、単離された多糖。
【請求項2】
構造[−β(1,3)−D−GalpNAc−β(1,4)−D−Glcp]を含む、細菌株から単離された多糖。
【請求項3】
構造[−β(1,3)−D−GalpNAc−β(1,4)−D−Glcp]を含む、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)菌株から単離された多糖。
【請求項4】
構造[−β(1,3)−D−GalpNAc−β(1,4)−D−Glcp]を含む、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)菌株から単離された多糖。
【請求項5】
構造[−β(1,3)−D−GalpNAc−β(1,4)−D−Glcp]を含む、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)菌株NCIMB41003から単離された多糖。
【請求項6】
望ましくない炎症活性を治療または予防するための医薬の製造における、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多糖の使用。
【請求項7】
望ましくない胃腸炎症活性を治療または予防するための医薬の製造における、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多糖の使用。
【請求項8】
胃腸炎症活性が、クローン病、潰瘍性結腸炎、過敏性腸症候群、嚢炎、感染後結腸炎、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)関連の下痢、ロタウイルス関連の下痢または感染後下痢である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
リウマチ性関節炎を治療または予防するための医薬の製造における、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多糖の使用。
【請求項10】
自己免疫障害を治療または予防するための医薬の製造における、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多糖の使用。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の多糖および医薬的に許容できるキャリヤーを含む医薬組成物。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の多糖を含む食品。
【請求項13】
食品がヨーグルト、シーリアル、飲料からなる群から選択される1種類以上である、請求項12に記載の食品。
【請求項14】
実質的に前記のものである単離された多糖。
【請求項15】
実質的に前記のものである単離された多糖の使用。
【請求項16】
実質的に前記のものである医薬組成物。
【請求項17】
実質的に前記のものである食品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4(a)】
image rotate

【図4(b)】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2010−526055(P2010−526055A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504996(P2010−504996)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【国際出願番号】PCT/IE2008/000054
【国際公開番号】WO2008/135959
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(509269850)アリメンタリー・ヘルス・リミテッド (3)
【出願人】(508093078)ザ・プロクター・アンド・ギャンブル・カンパニー (3)
【Fターム(参考)】