説明

エタノール含有燃料の製造方法、エタノール含有燃料を高炉用燃料として用いる方法

【課題】エネルギーコストの低い液液抽出手段を用いて、重油等の液状炭化水素に、発酵法により得られるエタノール水溶液からエタノールを抽出することにより、液状炭化水素単独からなる燃料に比べて二酸化炭素の排出量が少ない、燃料を製造する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】発酵法により得られたエタノール水溶液と、液状の炭化水素とを向流多段液液抽出手段により接触させて、エタノールを液状炭化水素に抽出することを特徴とするエタノール含有燃料の製造方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエタノール含有燃料の製造方法、エタノール含有燃料を高炉用燃料として用いる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関、ボイラ、加熱炉、セメントキルン、火力発電所の燃料、製鉄の際の高炉用燃料等として化石燃料である石炭、天然ガス等の炭化水素系燃料が大量に消費されている。前記炭化水素系燃料を燃焼させた後に、大気中に放出される二酸化炭素は、地球温暖化現象の原因物質と考えられており、その放出量の削減が世界的な規模で求められている。また、近年、世界的なエネルギー需要が高まっているが、化石燃料の埋蔵量は有限であり、再生が不可能であるために、将来のエネルギー不足も懸念されている。
【0003】
しかしながら、文明化した世界において、エネルギーの消費量自体を削減することは困難である。従って、エネルギーの質自身を転換することにより二酸化炭素の放出量を削減し、また、化石燃料の消費量を抑制する技術の開発が求められている。
【0004】
化石燃料の各種用途の中で、特に、銑鉄製造の高炉用燃料としての化石燃料の消費は膨大な量である。
【0005】
従来、高炉用燃料の供給は、高炉の炉頂からコークスが装入された高炉において、高炉の送風羽口から重油等の高炉用燃料を噴射注入する方法が採用されていた。
【0006】
しかしながら、1970年代のオイルショックを契機として、石油製品の価格が高騰したために、経済的な理由から、噴射燃料は重油から、より安価な石炭系の燃料である微粉炭へと転換が進んだ。しかしながら、微粉炭等の石炭系燃料は燃料中の炭素の比率が高く、水素の比率が低いために、単位熱量当りの二酸化炭素の排出量が重油よりも多い。従って、地球温暖化問題が深刻化する中で、石炭系燃料は好ましくない。このような背景から、近年、再び、高炉用の噴射燃料として、燃料中の炭素の比率が低く、水素の比率が高い重油が見直されている。高炉には、元来、重油を供給する設備が備えられているために、微粉炭から重油へ転換しても、新たな設備投資が不要な点で、このような燃料転換は、経済的な負担の小さい、地球温暖化の防止策として期待できる。
【0007】
ところで、近年、化石燃料に代わる燃料として、植物由来の燃料であるエタノールが脚光を浴びている。
【0008】
エタノールは、発酵法あるいは化学合成法により製造される。発酵法は農作物等の植物由来の糖分を微生物の代謝活動を利用して発酵させることによりエタノールを製造する方法である。一方、合成法は化石燃料を原料として化学的変換によりエタノールを製造する方法である。世界的には、発酵法により生産されるエタノールがおおよそ95%、合成法により生産されるエタノールが5%と報告されている。
【0009】
発酵法によるエタノールの原料は、サトウキビやトウモロコシ等の農作物が中心であるが、近年では木質バイオマスの構成成分であるセルロースやヘミセルロースを用いる研究も活発に行われている。これらの植物系原料は、植物に由来するものであるために再生可能であり、化石燃料のように有限な資源ではない。また、燃焼により排出される二酸化炭素も、植物が固定した大気中の二酸化炭素に由来するものであるために、地球上の二酸化炭素の総量が増加することにはならない。従って、化石燃料をエタノールに代替することにより、二酸化炭素の排出量を削減することができる。
【0010】
発酵法により得られるエタノールを含有する水溶液のことをモロミというが、モロミ中のエタノール濃度は、典型的には、5〜8質量%と比較的低濃度である。この低濃度のエタノールを含む水溶液から高純度のエタノールを得るためには、蒸留法等の濃縮工程で処理することが必要である。
【0011】
エタノールと水からなる2成分系の水溶液においては、共沸組成が存在し、その組成は、0.1013MPa(絶対圧)において、エタノール濃度が95.8質量%であり、理論的には、蒸留法では、エタノール濃度をこれ以上高めることはできない。そこで、この共沸濃度以上にエタノール濃度を高めるために、さらに、共沸蒸留法、減圧蒸留法、固体脱水剤による脱水法、液体脱水剤による脱水法等の方法が用いられている。このような方法により、発酵法により製造されたエタノールを99質量%以上の高濃度にまで濃縮する方法は知られているが、その濃縮工程は、複雑であり、多くのエネルギーが消費される。
【0012】
また、最近では、膜分離の技術が進歩し、上記の共沸組成のエタノール水溶液を膜分離工程に供給して、水を分離除去し、高濃度エタノールを製造する方法も報告されている(非特許文献1)。
【非特許文献1】化学工学会 第37回秋季大会研究発表講演要旨集,L319,2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のように、二酸化炭素の排出を抑制するために、重油等の化石燃料に代えて、エタノールを用いる場合、エタノールの濃縮コストが大きく、濃縮工程により消費される燃料等により二酸化炭素が放出されるという問題があった。また、上記膜分離工程を用いたエタノールの濃縮において用いられうる膜の価格が高いという問題があった。
【0014】
本発明は、上記問題を解決すべく、エネルギーコストの低い液液抽出手段を用いて、重油等の液状炭化水素に、発酵法により得られるエタノール水溶液からエタノールを抽出することにより、液状炭化水素単独からなる燃料に比べて二酸化炭素の排出量が少ない、燃料を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のエタノール含有燃料の製造方法は、発酵法により得られたエタノール水溶液と、液状の炭化水素とを向流多段液液抽出手段により接触させて、エタノールを液状炭化水素に抽出するものである。エタノールは、その分子構造に、親水性の水酸基(OH)と親油性のエチル基(−C)を有している。従って、液状の炭化水素燃料とエタノールを含有するモロミを接触させて、液液抽出を行うことにより、液状炭化水素の一部をエタノールに置換したエタノール含有燃料が得られる。このような方法により、蒸留工程を簡略化した少ないエネルギー量で、モロミ中からエタノールを抽出することができる。
【0016】
前記液状炭化水素としては重油が好ましい。本発明の液状炭化水素として、重油を用いた場合には、重油のみを用いる場合に比べて、地球環境への負荷を低減できる液状の燃料として使用することが可能になる。
【0017】
また、前記エタノール含有燃料は高炉用燃料、特に、高炉の噴射燃料として好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エタノールを低濃度で含有する水溶液から、エタノールを低エネルギーで液状炭化水素中に取り出すことができる。そして、得られたエタノール含有燃料は、液状炭化水素単独の燃料に比べて、二酸化炭素の排出量が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明を具体的に説明する。
【0020】
本発明のエタノール含有燃料の製造方法は、発酵法により得られたエタノール水溶液と、液状の炭化水素とを向流多段液液抽出手段により接触させて、エタノールを液状炭化水素で抽出するものである。
【0021】
本発明に用いられる液状炭化水素としては、原油を分留することにより得られる重油、軽油、灯油、ガソリン等の液状の炭化水素等が挙げられる。これらの中では、重油が好ましく用いられる。
【0022】
一方、本発明における発酵法により得られるエタノール水溶液とは、植物由来の糖分を微生物により発酵させて得られるエタノールを含有する水溶液であり、発酵後、固形分を除去しただけの、いわゆるモロミと呼ばれる濃縮前のエタノール含有水溶液(エタノール含有量5〜8質量%)のほか、公知の濃縮法により濃縮されたエタノール水溶液(エタノール含有量8〜50質量%)が挙げられる。
【0023】
液状炭化水素中にエタノール含有成分を抽出するための抽出法としては、従来から公知の各抽出法が特に限定なく用いられるが、抽出効率が優れている点で向流多段液液抽出法が好ましく用いられる。
【0024】
向流多段液液抽出法とは、液液抽出を行うための比重の軽い軽液と比重の重い重液とを混合したのち、分離することができる液液抽出手段を複数段接続し、重液と軽液とを対向流として流し、両相間で多段にわたる抽出を繰り返すことにより、有機化合物を含有する混合物を分配係数の大小により分離して有機化合物を抽出する方法である。
【0025】
図1は、n段(nは2以上の整数)の液液抽出手段を備え、前記液液抽出手段を向流方向に配置して構成される向流多段液液抽出手段の模式図である。図1中1は、第1段目の液液抽出手段、2は第i段目の液液抽出手段、3は第n段目の液液抽出手段を示す。また、Sは第n段目の液液抽出手段に導入される液状炭化水素、Eiは第i段目の液液抽出手段から排出される油相、Eは、第1段目の液液抽出手段1から排出されるエタノールを含有する油相であり、また、Fは第1段目の液液抽出手段1へ導入されるエタノール水溶液、Riは第i段目の液液抽出手段から排出される水相、Rnは第n段目の液液抽出手段3から排出される水相である。
【0026】
図1の向流多段液液抽出手段においては、第1段目の液液抽出手段1にエタノール水溶液Fが供給され、第n段目の液液抽出手段3に液状炭化水素Sが供給され、各段の液液抽出手段において、エタノールが油相Eiに抽出される。
【0027】
各段の液液抽出手段としては、例えば、図2に示すようなミキサー・セトラーのように、ミキサー(混合室)5とセトラー(沈降分離室)6とを備え、完全混合した後、静置して液の比重差により油水分離を行う液液抽出装置が好ましく用いられる。
【0028】
図2は、第i段目の液液抽出手段2である液液抽出装置20の模式図を示す。液液抽出装置20においては、液状炭化水素Sを主成分とする油相Ei+1と、エタノールを含有する水を主成分とする水相Ri−1がミキサー5で撹拌混合され、水相Ri―1に含まれるエタノールの一部が油相Ei+1で抽出される。
【0029】
そして、一定の滞留時間を経てミキサーの底部から抜き出された油水混合相は、移送手段7によりセトラー6に移送され、セトラー6において比重差により分離され、その上層から低比重の油相Eiが排出され、下層から高比重の水相Riが排出される。
【0030】
上記のような液液抽出操作を多段に行うことにより、低エネルギーコストでエタノール水溶液中のエタノールを液状炭化水素中に抽出することができる。
【0031】
向流多段液液抽出手段に導入されるエタノール水溶液Fとしては、公知の固液分離手段により、予め固形分が除去された、モロミを用いることが好ましい。また、モロミとしては、発酵された後、濃縮されていないモロミでも、ある程度の濃度にまで濃縮されたモロミを用いてもよい。エネルギーコストをトータルで考えると、公知の蒸留方法を用いてモロミをある程度の濃度、例えば8〜50質量%にまで濃縮したエタノール水溶液を用いることが好ましい。
【0032】
前記濃縮工程は、例えば、図3に示すような蒸留手段30を、上記第1段目の抽出手段の前工程に配設し、蒸留手段30により濃縮してもよい。モロミは、蒸留手段30においてある程度のエタノール濃度にまで濃縮された後、エタノール水溶液Fとして、上記第1段目の液液抽出手段1に導入される。
【0033】
上記のような向流多段液液抽出手段により得られる、第1段目の液液抽出手段1から排出される油相Eがエタノールを含有する液状炭化水素からなる燃料として用いられる。
【0034】
一方、第n段目の液液抽出手段3から排出される水相Rnには、少量のエタノールが残存している場合がある。このような少量のエタノールは液液抽出手段により抽出することは困難である。このような場合においては、上記第n段目の抽出手段の後工程に図4に示すような蒸留手段40を配設し、第n段目の抽出手段から排出される水相Rnを、蒸留することによりエタノールを取り出してもよい。蒸留手段40で得られたエタノールを第1段目の液液抽出手段1から排出される油相Eに混合することにより、油相E中のエタノール濃度をさらに高めることもできる。また、蒸留手段40に代えて、または蒸留手段に加えて、膜分離の手段によりエタノールを分離してもよい。
【0035】
このようにして得られるエタノール含有燃料は、液状炭化水素中にエタノールを含有する。液状炭化水素中のエタノールの含有割合としては、0.5〜4質量%、さらには、2〜4質量%であることが好ましい。エタノールの含有割合の上限値は飽和溶解度である。また、エタノールの含有割合が少なすぎる場合には、二酸化炭素の排出抑制効果や化石燃料の消費抑制効果が充分でなくなる。
【0036】
このようにして得られたエタノール含有燃料は、例えば、内燃機関、ボイラ、加熱炉、セメントキルン、火力発電所の燃料、製鉄の際の高炉用燃料等に用いられる。これらの中でも、本発明のエタノール含有燃料は高炉への噴射燃料として用いることが特に好ましい。高炉への噴射燃料としての使用について、以下に詳しく説明する。
【0037】
図5は高炉1の断面図である。高炉61は、高炉61内の下部からは、還元剤である一酸化炭素ガス62が上昇し、高炉61内の上部からは、鉄鉱石63とコークス64が降下する向流式の気液固3相が共存する巨大で複雑な反応器である。鉄鉱石63は、上昇する高温のガス62によって、塊状帯65で約800℃まで加熱され、軟化融着帯66に入る。ここでは、1000〜1200℃で軟化した鉄鉱石同士が融着する。高炉61内の上部から交互に挿入されたコークス64と鉄鉱石63が層状に保たれるのはここまでである。
【0038】
鉄鉱石63から還元された融けた鉄は、滴下帯67を流下し、約1500℃で下部にたまる。
【0039】
一方、羽口68から微粉炭(PCI:Pulverized Coal Injection)とともに吹き込まれた約1200℃の熱風69は、レースウェイ70でコークス64と微粉炭を燃やし、約2000℃の一酸化炭素ガス62となって上昇する。滴下帯67では、流下する溶銑の中を上昇し、続いて軟化融着体66を通る。ついで、塊状帯65で鉄鉱石63の還元をして、一酸化炭素と二酸化炭素が半々で約200℃の高炉ガスとして、塔頂71から排出される。本発明のエタノール含有燃料は、微粉炭の一部あるいは全部を代替して、羽口68から熱風とともに高炉61に供給される。
【実施例】
【0040】
図6に示したような5段の向流多段液液抽出手段を用いて、エタノール含有燃料を製造した。供給したエタノール水溶液F5としては、22質量%のエタノール水溶液を用いた。なお、22質量%のエタノール水溶液は8質量%のエタノールを含有するモロミを工場における排熱により加熱して発生した蒸気を、工場冷却水で凝縮することにより得られたものである。また、油相として、重油S5を用いた。
【0041】
エタノール水溶液F5は、第1段目の液液抽出手段51に2.08kg/hの供給速度で供給され、重油S5は第5段目の液液抽出手段55に12.91kg/hの供給速度で供給した。上記各供給速度で、エタノール水溶液F5及び重油S5を5段の向流多段液液抽出手段に供給することにより、第5段目の液液抽出手段55から1.71kg/hの流量で水相R5が排出された。このときの水相R5中のエタノール含有割合は5.1質量%であった。そして、第1段目の液液抽出手段51からは、13.28kg/hの流量でエタノール含有燃料として用いられる油相E1が排出された。なお、13.28kg中、12.91kgが重油であり、0.37kgがエタノールであり、油相E1中のエタノール濃度は2.7質量%であった。
【0042】
このようにして得られたエタノール含有燃料の熱量と二酸化炭素排出量を重油単独の熱量と二酸化炭素排出量とを比較した結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1の結果から、本発明の製造方法により得られるエタノール含有燃料は、重油に比べて得られる単位熱量当たりの二酸化炭素の排出量を1.9%低減することができる。
【0045】
すなわち、このように得られたエタノール含有燃料を、高炉の羽口から噴射する噴射燃料として用いることにより、重油単独を使用する場合と比較して、重油の使用量を1.9%低減することができるために、二酸化炭素の使用量を1.9%低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】n段の液液抽出手段を備える向流多段液液抽出手段の模式図である。
【図2】ミキサー・セトラーを備える液液抽出装置の模式図である。
【図3】第1段目の抽出手段の前工程に配設される蒸留手段の模式図である。
【図4】第n段目の抽出手段の後工程に配設される蒸留手段の模式図である。
【図5】高炉の断面図である。
【図6】5段の液液抽出手段を備える向流多段液液抽出手段の模式図である。
【符号の説明】
【0047】
1 第1段目の液液抽出手段
2 第i段目の液液抽出手段
3 第n段目の液液抽出手段
5 ミキサー
6 セトラー
7 移送手段
20 液液抽出手段2である液液抽出装置
30,40 蒸留手段
51 第1段目の液液抽出手段
55 第5段目の液液抽出手段
61 高炉
62 一酸化炭素ガス
63 鉄鉱石
64 コークス
65 塊状帯
66 軟化融着帯
67 滴下帯
68 羽口
69 熱風
70 レースウェイ
71 スラグ
72 炉芯
73 溶銑
Ei 第i段目の液液抽出手段から排出される油相
E1 第1段目の液液抽出手段から排出される油相
F エタノール水溶液
F5 第1段目の液液抽出手段に導入されるエタノール水溶液
Ri 第i段目の液液抽出手段から排出される水相
Rn n第段目の液液抽出手段から排出される水相
R5 第5段目の液液抽出手段から排出される水相
S,S5 液状炭化水素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵法により得られたエタノール水溶液と、液状の炭化水素とを向流多段液液抽出手段により接触させて、エタノールを液状炭化水素に抽出することを特徴とするエタノール含有燃料の製造方法。
【請求項2】
前記液状炭化水素が重油である請求項1に記載のエタノール含有燃料の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2の製造方法により得られた、エタノール含有燃料を高炉用燃料として用いる使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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