説明

エタノール製造のための同時糖化‐発酵培養基用の栄養剤

炭水化物原料、特にデンプン質原料を基材とするアルコール発酵培養基用の栄養剤であって、糸状菌による発酵に由来する活性成分を含んでなる又は好ましくは当該活性成分からなる栄養剤に関する。当該栄養剤は、液状又は固体状である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、同時糖化‐発酵プロセスに基づくアルコール発酵によるエタノールの工業的製造を促進する栄養剤であって、任意に糖化後、エタノールへの発酵が可能な炭水化物原料、例えば、特に、穀類(特に、小麦)、及び副産物(ビール粕、ふすま)からのデンプン質原料からの栄養剤に係る。本発明は、前記プロセスからのビール粕及び好気的条件下での酵母の製造法にも係る。
【背景技術】
【0002】
デンプン質を溶解し、加水分解してデキストリンとするためのα−アミラーゼによりデンプン質原料を液化する工程を含んでなる酵素作用プロセスによって、デンプン質原料からエタノールを製造することはよく知られている。この工程に続いて、一般に、デキストリンをグルコースに加水分解するためのグルコアミラーゼ(アミログルコシダーゼとも称される)による糖化工程が行われる。糖化終了時のグルコース含量は、実質的のグルコース等価物(前記デンプン質原料のデンプンに相当する)100%である。換言すれば、使用したデンプン質の全てのグルコース素材がグルコースに変換されたことになる。
【0003】
ついで、グルコースは発酵工程において発酵されて、嫌気的条件下において、酵母によってエタノールに変換される。
【0004】
この種の酵素作用プロセスを改良する研究の1つの領域は、発酵工程と糖化工程とを組み合わせる試みからなるものである。研究は、単一工程の間に、同時に、発酵と糖化とを行なおうとするものである(同時糖化‐発酵又はSSFと称される)。この単一工程の開始時(すなわち、液化後)の培養基のグルコース含量は、代表的には、グルコース等価物(前記デンプン質物質のデンプンに相当する)3%未満である。
【0005】
糖化工程の期間を、この工程後のグルコース含量がグルコース等価物(前記デンプン質物質のデンプンに相当する)100%未満となるように制限する試みも行われている。このような糖化工程は、「プレ糖化」又は「部分糖化」と称される。
【0006】
後述の詳細な記載から理解されるように、不完全な糖化工程又は非糖化工程(以後、「不完全糖化工程」と称する)を含んでなるエタノールの製造法は、特殊な制約を伴う。従って、発酵前の完全糖化を含む従来の方法との関連で採用される技術的解決策は、これらの方法では使用されない。
【0007】
不完全糖化法との関連では、用語「同時糖化‐発酵培養基」は、発酵及び少なくとも一部の糖化が行われる培養基を意味する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特に、不完全糖化に基づくエタノールの製造プロセスのエタノール収率を改善することに関する要求は常に存在している。
【0009】
本発明の目的は、この要求に対処することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、この目的は、デンプン質原料からの発酵によるエタノールの製造プロセスにおける同時糖化‐発酵培養基用に栄養剤であって、糸状菌による発酵から誘導された有効成分を含有する又は好ましくは有効成分からなる栄養剤によって達成される。栄養剤は液状又は固状である。
【0011】
後述の詳細な記載から理解されるように、同時糖化‐発酵培養基における栄養剤の存在は、酵母の生育及び能力に、特に有利であることが証明された。これは、デンプン質原料からのエタノールの製造プロセスの収率における顕著な改善をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
好ましくは、本発明による方法は、下記の任意の特性の1つ、又は好ましくはいくつかを含んでなる:
−栄養剤は、前記有効成分及び少なくとも1つの有用な酵素の固体又は液体混合物である。有用な酵素は、特に、アミラーゼ、特にグルコアミラーゼ、タンパク質分解酵素又はキシラナーゼ活性、又はそれらの組み合わせを有する1以上の酵素を含む。
【0013】
−本発明による栄養剤中に存在する有効成分は、粗製状態、すなわち、前記糸状菌による発酵の際に使用された基質を含んでなる状態であるか、又は抽出状態、すなわち、前記基質から単離された状態である。任意に、追加の酵素と混合される。好ましくは、基質はふすまである。
【0014】
−有効成分は、エルゴステロール、N-アセチルグルコサミン、ビタミン(特に、ビタミンB)、核酸、アミノ酸及び、好ましくは、これらの混合物からなる群から選ばれる。アミノ酸の中でも、下記のアミノ酸の1つ以上、好ましくは全てであることが望ましい:アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、バリン、ロイシン、グルタミン酸。ビタミンの中でも、各種のビタミンB(例えば、ビタミンB1、B2、B3、B6及びイノシトール)の存在、他の中では、ビタミンEの存在が望ましい。
【0015】
−栄養剤は、同時糖化−発酵培養基への製造の際の、特に、前記糸状菌の適切な選択のため、下記の酵素活性を有する:
グルコース:乾燥物質1g当たり、少なくとも500 GU、好ましくは750 GU、さらに好ましくは1500 GU、及び/又は好ましくは、
タンパク質分解酵素:乾燥物質1g当たり、少なくとも100 PU、好ましくは、少なくとも400 PU、及び/又は好ましくは、
キシラナーゼ:乾燥物質1g当たり、少なくとも100 XU、好ましくは、少なくとも400 XU。
【0016】
−栄養剤は、好ましくは、基質、好ましくは、ふすまの固体培養基における、特に、アスペルギルス・ニーガー(Aspergillus niger)の菌株(好ましくは、菌株ATCC 201202、ATCC 76060、ATCC76061、MUCL 28815、MUCL 28816、NRRL 3112から選ばれるもの)から、又はアスペルギルス・オリザエの菌株(Asperugillus orizae)(好ましくは、菌株ATCC 22788及びATCC 42149から選ばれるもの)から選ばれる糸状菌による発酵に由来するものである。
【0017】
−栄養剤は、次の下記の工程:
i)ふすまを用意する工程、
ii)前記ふすまを加湿し、好ましくは硝酸(HNO3)にてpH4−5に酸性化し、及び熱処理して、ふすまを殺菌又は無菌化する工程(熱処理は、好ましくは、加湿後である)、
iii)得られたふすまに、ATCC 201202、ATCC 76060、ATCC 76061、MUCL 28815、MUCL 28816、NRRL 3112から選ばれるアスペルギルス・ニーガーの菌株、又はATCC 22786及びATCC 42149から選ばれるアスペルギルス・オリザエの菌株を接種する工程、
iv)反応器において、定期的に撹拌し、湿度を45−65質量%、好ましくは50−60質量%に維持して、ふすまにおける二酸化炭素の恒久的な蓄積を回避するために通気条件下で、温度28−38℃において、発酵生成物が、次の酵素活性値:
グルコース:乾燥物質1g当たり、少なくとも500 GU、好ましくは750 GU、さらに好ましくは1500 GU、及び/又は好ましくは、
タンパク質分解酵素:乾燥物質1g当たり、少なくとも100 PU、好ましくは、少なくとも400 PU、及び/又は好ましくは、
キシラナーゼ:乾燥物質1g当たり、少なくとも100 XU、好ましくは、少なくとも400 XUを有するようになるまで、固体状態のふすまを発酵する工程
を含んでなる、本発明による方法によって得られるものである。
【0018】
−栄養剤は、米国特許出願公開第20020037342号に記載の方法に従って得られた酵素複合体である。
【0019】
本発明は、炭水化物、特にデンプン質物質からエタノールを製造する方法であって、液化工程、糖化工程及びついで発酵工程後に、又は液化工程及び任意にプレ糖化工程後に、同時糖化‐発酵工程培養基(同時糖化‐発酵工程の開始時のグルコース含量は、炭水化物、特に前記デンプン質物質のデンプンに相当するグルコース等価物当量多くとも95%である)における同時糖化‐発酵工程を含んでなるエタノールの製法にも関する。本発明による方法は、本発明による栄養剤を発酵又は同時糖化‐発酵培養基に導入することを特徴とする。この導入は、発酵又は同時糖化‐発酵培養基に対して直接行われてもよく、又は工程開始の間に行われてもよい。
【0020】
驚くべきことには、発酵又は同時糖化‐発酵培養基における本発明の栄養剤、及び特に糸状菌にて発酵させたふすまの存在は、酵母の能力を増大させることに関して特に望ましいことが証明された。酵母は、さらに好ましい速度で、グルコースをエタノールに転化する。
【0021】
好ましくは、本発明による方法は、下記の任意の特性の1つ、さらに好ましくは、いくつかを含む:
−同時糖化‐発酵工程の開始時のグルコース含量は、前記デンプン質物質のでんぷんに相当するグルコース等価物多くとも3%、好ましくは2%、さらに好ましくは多くとも1%である。換言すると、本発明の方法は、糖化工程又はプレ糖化工程を含まない。
【0022】
−栄養剤を粗製状態で導入するため、栄養剤の量は、デンプン1トン当たり、乾燥物質4kg以上、好ましくは、乾燥物質14kg及び/又は60kg以下、好ましくは、乾燥物質34kg、さらに好ましくは、乾燥物質19kg未満、好ましくはデンプン1トン当たり乾燥物質約17kgである。
【0023】
−栄養剤は、エタノールの製造プロセスが適用される炭水化物と同等の基質の発酵によって調製される。
【0024】
−同時糖化‐発酵工程は、もっぱら、空気又は酸素の供給の不存在下(厳密に言えば、非好気的相)で行われる。
【0025】
−同時糖化‐発酵工程は、初期好気的相を含む。
【0026】
−エタノール発酵剤として、酵母、特にサッカロミセス属(Saccharomyces)の酵母、特にサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cereviciae)が使用される。さらに好ましくは、酵母はエタノール濃度95g/lより大で機能する。
【0027】
−プロセスにおいて、前記栄養剤は、酵母の主栄養源及び/又はエルゴステロールの主要な源及び/又は窒素及び/又はアミノ酸及び/又はリン及び/又はイオウ及び/又はビタミンの主要な源を構成する。好ましくは、栄養剤は、エルゴステロール及び/又は窒素及び/又はアミノ酸及び/又はリン及び/又はイオウ及び/又はビタミンの唯一の源を構成する。
【0028】
本発明による方法は、さらに、顕著な栄養価のビール粕を製造することを可能にする。従って、本発明は、さらに、本発明によるエタノールの製造法から誘導されるビール粕であって、ビール粕の乾燥物質1トン当たり、エルゴステロース5g以上、好ましくは20g以上及び/又は100g以下、好ましくは35g未満、さらに好ましくは30g未満を含有するビール粕に関する。
【0029】
好ましくは、前記ビール粕は、乾燥物質基準で、粗製タンパク質40%以上、好ましくは50%以上を含有する。後述の記載から明らかなように、このようなタンパク質含量は、プレ発酵又は同時糖化‐発酵の間におけるヘミセルロース及び繊維質の一部の消費によって可能になる。
【0030】
最後に、本発明は、本発明による栄養剤の、アルコールの製造を目的とするアルコール発酵又は酵母の製造を目的とするプレ発酵を促進するための使用に関する。
【0031】
本発明の他の特性又は利点は、以下の記載から及び添付図面(図1は、本発明によるエタノールの製法の一部のダイアグラムを示す)を検討する際に、さらに明らかになるであろう。
【0032】
デンプン質物質の発酵によるエタノールの製法は、当業者によって、よく知られており、本発明に適合するように変更される。従って、当業者であれば、下記の記載の特定のポイントを、適宜、明白にすることができるであろう。
【0033】
以下に記載する方法は、小麦からのエタノールの製造に関するものであるが、各種のデンプン質物質、特に各種の穀物エキスに応用される。従って、以下に記載する具体例は、単なる例であって、特に技術的に均等物の置き換えによって、本発明の精神を逸脱することなく、変更が可能あろう。
【0034】
本発明による小麦からのエタノールの製法は、例えば、次の工程を含んでなる:
a)小麦を調整して、粉末状小麦デンプンを調製する工程、
b)特にα‐アミラーゼの存在下、デンプンを液化して、デンプンをデキストリンに加水分解する工程、
c)特に組み合わせ酵素により、デキストリンを発酵可能な糖(グルコース、マルトース、マルトトリオース)及び非デンプン成分に加水分解する、任意のプレ糖化工程、
d)デキストリン及び/又は前記発酵可能な糖及び酵母を含有する同時糖化‐発酵培養基において同時糖化‐発酵を行って、エタノールを生成する同時糖化‐発酵工程。
【0035】
これらの各種工程を図1に示す。
【0036】
工程a)は、小麦を調整することによって、粉末状の小麦デンプン、例えば小麦粉を調製することからなる。
【0037】
ついで、ミキサーにおいて、小麦粉を、水、任意に蒸留残渣(vinasse)、酸及び液化酵素と混合して、「マッシュド麦汁」を生成する。
【0038】
マッシュド麦汁は、代表的には、乾燥物質25‐35質量%、好ましくは30‐35質量%を含有する。乾燥物質の百分率は、満足できる流動性を保持しつつ、エネルギー消費を制限するように決定される。経済性を考慮すると、乾燥物質の百分率は、プロセスの残部における蒸留残渣の蒸発のコストを制限するため、可能な限り高いものである。ミキサーに供給される小麦粉の量は、計量装置又は秤量ベルトによって調節される。
【0039】
使用する液化酵素に応じて、酸溶液、例えば、硫酸によってpHを調節する。使用する酵素、一般的に、特殊な熱安定性の細菌性α‐アミラーゼに応じて、任意に、カルシウム塩が使用される。酸の流量は、マッシャー以前の水/蒸留残渣混合物に適用されるpHプローブによって調節される。pHは、使用する酵素に応じて、一般に、5‐6.5の範囲である。
【0040】
ついで、液化(工程b))を温度80‐95℃において行う。パイプ又はジェットクッカーによる液化タンクへのスチームの直接注入を介して、マッシュド麦汁を、この温度に加熱する。第2のケースでは、マッシュド麦汁を、ノズルへのスチームの注入によって、温度100‐150℃で数秒間加熱し、その後、迅速に80‐95℃に冷却する。液化タンクは撹拌されていてもよい。
【0041】
液化工程の好適な特性は次のとおりである:
温度:80‐90℃
pH:5.5‐6.5
乾燥物質:30‐35%
滞留時間:30分‐2時間
工程b)により、デンプンのデキストリンへの加水分解が生ずる。
【0042】
プレ糖化(工程c))のケースでは、液化された麦汁を、プレート交換器又は管交換器対応の熱交換器において、温度50‐60℃に冷却する。
【0043】
いくつかのケースでは、液化された麦汁を、希釈剤、例えば、水又は再循環蒸留残渣又は蒸留酒製造所からの粘液質(phlegmas)によって希釈される。
【0044】
工程c)(任意の工程)では、好ましくは、液化麦汁を、所望の酵素活性を有する酵素複合体と接触させる。
【0045】
酵素の流量は、好ましくは、入ってくる麦汁の流量によって、生成されるグルコースの濃度によって及び残留デンプンの含量によって制御される。この制御の目的は、発酵終了時に、デンプンを含まない溶液を調製することにある。
【0046】
プレ発酵(工程c))の好適な特性は次のとおりである:
温度:50‐60℃
pH:4‐5
滞留時間:所望のグルコース含量が達成されるまで(一般に、24時間未満)
プレ糖化タンクを機械的に撹拌して、糖化の間、麦汁を良好に均質化し、これによって、酵素と加水分解されるデキストリンとの間の接触を容易にする。
【0047】
糸状菌によるふすまの発酵に由来する酵素複合体の使用は、糖化された麦汁の粘度の低減及び麦汁における窒素濃度の増大を可能にする。
【0048】
本発明によれば、糖化は、デキストリンがグルコールに完全に加水分解されるまで行われるわけではなく、加水分解が部分的に行われた段階で中止される。本発明によれば、プレ糖化工程の終了時のグルコースレベルは、95%未満、好ましくは50%未満、さらに好ましくは5%未満である。従って、加水分解は、同時糖化‐発酵工程の間も続けられる。
【0049】
本発明による方法が、部分糖化(すなわち、「プレ糖化」)工程を含まない場合には、同時糖化‐発酵工程(工程d))の開始時のグルコース含量は、前記デンプン質物質のデンプンに相当するグルコース最大3%、好ましくは2%、さらに好ましくは最大1%である。
【0050】
工程d)では、麦汁を、同時糖化‐発酵培養基において、酵母と接触させる。
【0051】
また、本発明による栄養剤と接触される。酵母及び栄養剤の導入順序は重要ではない。
【0052】
工程d)の全期間、全体を撹拌する。
【0053】
エタノールの生産のために使用される酵母の全て、特に、サッカロミセス属の酵母を使用できる。通常、好気的条件下で、酵母を同時糖化‐発酵培養基に導入する。この間に、酵母は、多くの細胞分裂を受ける。このケースでは、酵母はグルコースをエタノールに転化させず、逆に、その成長のためにグルコースを消費する。この細胞の成長を改善するため、同時糖化‐発酵培養基に栄養剤を添加することが知られている。さらに、細胞の成長(これに伴うグルコースの消費がエタノール生産の収率を低減する)を制限するため、同時糖化‐発酵培養基に、酵母を次のような量、すなわち、酵母によるエタノール生産が、迅速に、酵母の細胞成長を阻害する培養基におけるエタノール含量の達成を可能にするような量で接種することが好ましい。
【0054】
第1の特徴によれば、工程d)を好気的条件下で開始し、酵母の充分な増殖に必要な期間持続する。
【0055】
ついで、同時糖化‐発酵培養基を嫌気的条件下に置く。酵母は、グルコースをエタノールに転化する。
【0056】
第2の特徴によれば、工程d)を、全期間、嫌気的条件下で行う。本発明の栄養剤の存在は、初期好気的相を不要にすることを可能にする。
【0057】
同時糖化‐発酵(工程d))の好適な特性は次のとおりである:
温度:30‐35℃
pH:工程d)の開始時、酸(例えば、硫酸)によって、約3.5‐約5、好ましくは約3.8‐約5、さらに好ましくは約4‐約5、さらに好ましくは約4‐約4.5に調節する。
工程d)の開始時、pHを調節した後、栄養剤の緩衝作用のため、工程d)の残りの間、pHの調節は不要である。
酵母の接種:同時糖化‐発酵培養基1ml当たり約10‐約5×10CFU(コロニー形成単位)、好ましくは、同時糖化‐発酵培養基1ml当たり約10CFU
DM20‐35%、特に20‐30%
滞留時間:20‐72時間、特に、20‐60時間。滞留時間はDMよって増大する。
【0058】
本発明による同時糖化‐発酵培養基は、本発明による栄養剤を含有する。この栄養剤は、同時糖化‐発酵培養基に直接導入されるか、又はその上流側の工程の間に導入される。驚くべきことには、このような栄養剤、特に糸状菌によって発酵されたふすまの同時糖化‐発酵培養基への添加は、酵母の能力の増大に特に好適であることが証明された。ついで、酵母は、より良好な速度で、より多量のグルコースをエタノールに転化する。加えて、本発明による栄養剤は、同時糖化‐発酵工程の開始時の好気的相の期間を低減すること、又は排除することを可能にする。有利には、その収率が改善される。さらに有利には、本発明による栄養剤は、細胞の死滅率を、前記栄養剤の不存在下で同じ培養を行った場合と比べて低減することを可能にする。最後に、その存在は緩衝作用を有し、pHを調節する必要性を排除する。
【0059】
本発明によれば、好ましくは、同時糖化‐発酵培養基は、初め、初期導入されるデンプン1000 kg当たり、栄養剤(特に発酵したふすま)約2.5‐35kg、特に、デンプン1000 kg当たり、栄養剤(特に発酵したふすま)8‐10kgを含有する。
【0060】
従って、同時糖化‐発酵培養基における発酵したふすまの存在は、同時糖化‐発酵時間をかなり低減することを可能にする。
【0061】
この栄養剤は、酵母にとって完璧に適合する栄養素を、特に嫌気的培養のために、最適な割合及び最適な形で提供するものと考えられる。
【0062】
理論的に裏付けられたものではないが、発明者らは、これらの結果を次のように考える。本発明は、本発明による栄養剤には、酵母にとって必要なアミノ酸が存在するとの知見を得たことに基づく。これらのアミノ酸が、非常に有効な形、特に、これまで使用されてきた単純なアミノ酸よりもかなり有効な形で、酵母の窒素栄養に貢献し、さらに、グリセロールのような発酵副産物の合成を低減し、これによって、エタノール収率を改善するものと考えられる。
【0063】
本発明による栄養剤におけるビタミンの存在が、酵母のさらに良好な効果をもたらすものとの考えられる。
【0064】
最後に、発明者らは、本発明による栄養剤が、酵母の重要な成分であるエルゴステロール及びN‐アセチルグルコサミンを含有するとの知見を得た。同時糖化‐発酵培養基におけるこれらの存在は、完全な嫌気的条件下における酵母の成長及び機能を補足する。これらの条件下では、酵母によるその合成は、全く不可能である。従って、エルゴステロールの存在は、同時糖化‐発酵開始時において、好気的相を有利に低減、又は排除することを可能にする。
【0065】
しかしながら、下記の表1の試みは、同定された栄養素の添加が、本発明による栄養剤の添加のように効果的な同時糖化‐発酵培養基を導くものではないことを示している。従って、それは、正に、この栄養剤の全成分の、糸状菌による発酵によって生じた割合での組み合わせ及び好ましくは、ふすまの形でのプレゼンテーションであり、これらが、得られるか区別の性能の原因である。
【0066】
栄養剤は、特殊な酵素活性又は最適な酵素活性を持たなくてもよい。酵素の添加は必要である。
【0067】
しかし、好ましくは、本発明による栄養剤も、エタノールの製造プロセスとの関連で有用な酵素活性を有する。特に、栄養剤が、乾燥物質1g当たりグルコアミラーゼ活性500 GUより大を有することが好ましい。さらに好ましくは、栄養剤は、乾燥物質1g当たりタンパク質分解酵素活性100 PUより大及び/又は乾燥物質1g当たりキシラナーゼ活性少なくとも100 XUを有する。
【0068】
このように、他の酵素、例えば、精製酵素又は精製酵素複合体の使用も考えられるが、本発明によれば、前記酵素活性を有することできるような条件下で発酵した栄養剤を使用することが好ましい。好ましくは、この栄養剤を、工程d)において及び/又は好適な部位(例えば、工程c))において、酵素複合体として導入する。
【0069】
好ましくは、栄養剤は、調製された又は本発明による下記の方法に従って得られた、発酵したふすまである。
i)ふすまをタンクに入れる;
ii)前記ふすまを湿潤化し、熱処理して、殺菌又は滅菌する(熱処理は、好ましくは、湿潤化に続いて行われる);
iii)得られたふすまに、菌株ATCC 201202、ATCC 76060、ATCC 76061、MUCL 28815、MUCL 28818、NRRL 3112から選ばれる、さらに好ましくは、ATCC 76061及びNRRL 3112から選ばれるアスペルギルス・ニーガーの菌株(さらに好ましくは、ATCC 76061)又は菌株ATCC 22788及びATCC 42149から選ばれるアスペルギルス・オリザエの菌株を接種する;
iv)反応器(定期的に撹拌する)中、ふすまを固体状、好ましくは厚さ10cm以上の層の形で、温度28‐38℃で、湿度を45‐65%、好ましくは50‐60%に維持しながら、ふすまにおける二酸化炭素の恒久的な蓄積を回避するように通気条件下で、発酵生成物が下記の最少酵素活性値
グルコアミラーゼ:乾燥物質1g当たり、少なくとも500 GU、好ましくは750 GU、さらに好ましくは1500 GU及び好ましくは
タンパク質分解酵素:乾燥物質1g当たり、少なくとも100 PU、好ましくは400 PU、及び
キシラナーゼ:乾燥物質1g当たり、少なくとも100 XU、好ましくは400 XU
を有するようになるまで発酵させる。
【0070】
工程i)では、好ましくは、1mm未満の粒子の割合少なくとも40質量%を有するようにふすまを選択する。
【0071】
工程ii)では、ふすまを殺菌又は滅菌するために、ふすまを湿潤化及び熱処理する。湿潤化する前にふすまを熱処理する場合、観察される発酵の結果が乏しいため、湿潤化以前に熱処理を行わないことが有利である。
【0072】
熱処理は、例えば、オートクレーブでの加熱からなるものでもよい。オートクレーブにおける、120−121℃での20分間の処理が非常に満足できるものであることが認められた。オーブンにおける105℃、15分間の多少過酷さの劣る条件も適当である。ふすまの熱処理を、スチームを注入すること(同時に、ふすまを湿潤することが可能になる)によって行うこともできる。
【0073】
熱処理の殺菌効果及び所望の発酵の開始を改善するため、好ましくは、湿潤化の間に、好ましくは硝酸にて、pHを4‐5.5の範囲に調節する。硝酸の使用は特に有利であり、硝酸は、糸状菌によって、窒素源としても使用される。
【0074】
その殺菌機能に加えて、熱処理は、ふすまに含有されるデンプンのゲル化、従って、糸状菌アスペルギルス・ニーガー又はアスペルギルス・オリザエによるこの基質の利用性(より効果的な発酵を可能にする)を改善する効果を有する。
【0075】
ふすまの湿潤化は、水含量が発酵の性能に影響を及ぼすため重要である。ふすまの水含量が、工程iv)発酵の開始時、ふすま及び水の総質量の50‐60%、好ましくは50‐55%であるように選択される。
【0076】
工程iii)では、各種の好適な接種材料を使用して、ふすまの接種が行われる。当業者であれば、選択した菌株から好適な接種材料を調製するための各種の方法を知っているはずである。接種量は、有利には、少なくとも10個(胞子)/g(初期乾燥物質)である。
【0077】
工程iv)では、各種の好適な反応器において、発酵を行うことができる。使用できる反応器の例としては、Agro-Food-Industry Hi-Tech(1997年5月‐6月号、39‐42頁)に発表されたA. DURANDらの論文に記載されたものがある。
【0078】
発酵は、グルコアミラーゼ活性が、ふすまの乾燥物質1g当たり、少なくとも500 GU、好ましくは、少なくとも750 GU、さらに好ましくは、少なくとも1500 GUとなるまで、すなわち、普通、1‐3日間、好ましくは30‐60時間行われるべきである。1日以下では、発酵は不完全すぎる。3日後では、発酵は完全又は実質的に完全であり、これ以上の期間では不経済である。
【0079】
培養基の温度を、28‐38℃、好ましくは32‐36℃に維持する(これらの温度範囲は、使用する菌株について知られている最適活性範囲に相当する)。有利には、この目的について、空気温度を、胞子の発芽を促進するため、初めの数時間34‐38℃に設定し、ついで、培養基の温度の調節のため、発酵の残りの期間28‐32℃に低減する。
【0080】
ふすまの水分含量は、普通、50‐60%である。しかし、水分レベルは、2つの連続する水分レベル調節の間の比較的短い期間又は発酵の終了時には、50‐60%の範囲から+/−5%で変動してもよい。多くのケースでは、水分レベルが45%より下に落ちないことが賢明である。培養基の水分レベルは、培養の間、菌類の生長によって発生する温度の上昇作用下での蒸発を介して減少する傾向にある(培養基は熱伝導性に乏しい)。従って、発酵の間、培養基からの水の損失を補填するため、例えば、定期的な給水によって水分含量を保持することが必要である。使用する水の品質も重要な役割を果たす。良好な品質の水道水又は蒸留水を使用できる。
【0081】
発酵培養基のpHは、通常、調節されない。上述のように、好ましくは、初めに4‐5に調節される。
【0082】
開始時の値が6.0‐6.4近辺であれば、培養の間に、pHは3.8‐4.2に低下し、ついで、終了時には上昇する。この上昇は、一般に、菌類の胞子形成期に相関する。pHの変化をモニターすることは、培養の状態の良好な指標となる。
【0083】
発酵に必要な酸素を提供し、発酵によって生成する二酸化炭素の過剰な蓄積を回避するために、好ましくは連続的して、発酵槽に通気する。さらに、通気は、培養基の温度及び水分の制御に寄与する。培養基の乾燥する傾向を制限するため、好ましくは、空気に水を実質的に飽和させる。多くの変数、特に、反応器のサイズ及び形状、装填されるふすまの量、等が含まれるため、通気の速度に関する定量的指標を提示することは困難である。しかし、簡単な所定のトライアルにより、当業者であれば、実際の各ケースにおいて好適な通気速度を容易に決定できるであろう。一般に、乾燥物質1kg当たり空気の流量1‐2m3/hが好適であり、過剰圧力は、好ましくは、0.5−1バールである。
【0084】
培養槽に装填されたふすまを、発酵の間、不透過性の塊状物の形成を回避して、通気が、ふすま全体に、できる限り均質に行われるようにするため、撹拌アーム、ブレード又はスパチュラ、又はエンドレススクリューのような撹拌手段によって定期的に撹拌する。驚くべきことには、使用する菌株は撹拌に耐えうる。しかし、過剰に激しい撹拌は避けるべきである。
【0085】
本発明による方法で使用する発酵されたふすまは、必要であれば、その保存のため乾燥又は凍結され、又は冷却され又はさらに処理することなく使用される。
【0086】
乾燥は、好ましくは、酵素活性に影響を及ぼさないように穏和な温度で行われる。オーブンにおける40℃での加熱が好適であることが認められた。工業的レベルでは、使用する糸状菌に応じて、35‐45℃の乾燥空気で換気する。凍結は、湿った生成物について、低温、例えば、−20℃で行われる。
【0087】
米国特許公開第20020037342号には、アスペルギルス属の菌株によるふすまの発酵によって得られたグルコアミラーゼ、タンパク質分解酵素及びキシラナーゼ活性を持つ酵素複合体が開示されている。この複合体は、本発明による栄養剤として使用される。
【0088】
一般に、その使用が別々の糖化工程及び発酵工程を含んでなる方法について知られている酵素又は複合酵素組成物の、少なくとも一部同時的に発酵が行われる糖化工程を含んでなる方法において使用する際の効果を予測することは不可能である。このような事項は、特に、組成物の添加が、米国特許公開第20020037342号の組成物のように、発酵の間に粘性を増大させる可能性がある基質、例えば、ヘミセルロースの使用を伴う場合には本当であることが実証されている。
【0089】
前記米国特許公開の明細書には、この組成物を、糖化工程の条件を改善するために使用することが記載されている。その使用が、糖化工程を含まない、又はプレ糖化工程のみを含んでなる方法についても興味深いものであるどうかについては全く示唆されていない。
【0090】
実際、糖化及び発酵についての最適条件は非常に異なる。特に、糖化は、一般に、約60℃において、すなわち、発酵のために普通に使用される酵母には適さない温度において行われる。逆に、米国特許公開第20020037342号の表7によって示されるように、米国特許公開第20020037342号の組成物の酵素は、糖化温度において最適な酵素活性を有するが、同時糖化‐発酵のケースでは、予測通り、低減された酵素活性を有するものと考えられる。
【0091】
さらに、米国特許公開第20020037342号の組成物の酵素は、糖化温度において、糖化培養基の粘性を低下させることが知られているが、当業者であれば、このような粘性の低減は、発酵温度では生じないこと、いずれにしても、同時糖化‐発酵培養基の粘性を許容されるようなものとする程には生じないこと予測できるであろう。
【0092】
従って、当業者であっても、糖化工程を含まない、又はプレ糖化工程のみを含んでなるエタノールの製法において、米国特許公開第20020037342号の組成物の使用を試みないであろう。このような試みは、糖化工程の除外又はその期間の制限が、時には、同時糖化‐発酵培養基の、多量の静菌剤が添加されない限り許容されないほど汚染を生ずるため、ますます可能性が少ないであろう。実際、糖化温度は、細菌汚染に対する保護を提供する。
【0093】
従って、本発明は、上記方法に従って得られたふすま又は米国特許公開第20020037342号に記載されたふすまの、同時糖化−発酵培養基におけるアルコール発酵の促進のための使用にも関する。好ましくは、工程d)の開始時、同時糖化‐発酵培養基において、このふすまは、デンプン1000g当たり4kg以上で存在する。
【0094】
有利には、本発明の好適な1具体例では、栄養剤は、ふすまの糸状菌での発酵によって得られた多酵素複合体であり、
−小麦粉を調製する工程a)に由来するふすまをアップグレードする手段を構成し、
−同時に、いくつかの有用な酵素を提供し、このようにして方法を単純化し、及び
−酵母用の優秀な栄養剤である。
【0095】
しかし、後者の効果について、多酵素複合体の量(質量)は、従来技術によるよりもかなり大きい。
【0096】
現在の研究は、導入される量を制限するために、ますます濃縮された多酵素複合体を製造する傾向にある。これによって、方法が単純化される。
【0097】
この傾向に対して、発明者らは、原料のデンプン1トン当たり発酵ふすまの乾燥物質4kg以上、好ましくは14kg以上、さらに好ましくは、約19kgを配合することによって、エタノールの製法の全体効率を改善することを可能にするとの知見を得た。
【0098】
工程d)の終了時、同時糖化−発酵に由来する発酵麦汁又は「ワイン」を、熱交換器を通過させた後、蒸留塔に供給する。
【0099】
蒸留塔の基部で放出された蒸留残渣を、ビールの醸造粕を分離するための室に送給して、不溶性物質から可溶性物質を分離するために、遠心分離タイプの一般的な方法によって静澄化する。
【0100】
この分離後に得られた湿潤したビールの醸造粕は、乾燥物質約35%を含んでなり、静澄化された蒸留残渣は乾燥物質約7‐10%を含む。
【0101】
静澄化された蒸留残渣を、真空蒸発によって濃縮して、35%付近の乾燥物含量を持つシロップ又は「濃縮した蒸留残渣」を得る。
【0102】
ついで、得られたシロップを湿潤したビールの醸造粕と混合できる。ついで、混合物を乾燥し、このようにして、小麦1トン当たり乾燥したビールの醸造粕約350 kgが得られ、このビールの醸造粕の乾燥物質含量は約90%である。
【0103】
乾燥後得られたビールの醸造粕は、特に家畜にとって顕著な栄養特性を有しており、本発明の目的の1つでもある。実際、本発明に従って得られたビールの醸造粕350 kgは、エルゴステロール2‐35g、好ましくは約10gを含有する。ここで、エルゴステロールは、ビタミンD2の合成用の前駆体であり、従って、健康にとって有益であり、酵母にとって、特に好気的条件下において、栄養上の利益を有する。
【0104】
さらに、栄養剤が、上記の本発明の方法に従って発酵されたふすまである場合には、得られたビールの醸造粕は余剰のタンパク質を含有する。
【0105】
蒸留塔のアルコール蒸気を、熱交換器において凝縮させる。塔頂で回収された共沸混合物を、一般的な方法、例えば、モレキュラーシーブを使用することによって乾燥する。
【0106】
本発明による方法では、小麦の初期量1000 kgについてエタノール約375‐390 Lが得られ、すなわち、デンプン約60%を含有する小麦について、グルコールのエタノールへの発酵による転化の化学量論的収率の91%以下である。
【0107】
理論的に裏付けられたものではないが、発明者らは、これらの結果は、外来の窒素供給(例えば、硫酸アンモニウムの形)が、アミノ窒素によって置き換えられたことによるものと考えている。この置き換えは、有利には、発酵による副生物、特にグリセロールの合成を低減し、このようにして、収率を増大させる。
【0108】
本発明は、グルコースのエタノールへのアルコール発酵プロセス用の発酵培養基又は同時糖化‐発酵培養基において使用される酵母を調製するために、好気的条件下において酵母を調製する方法、又は特にプレ発酵において使用される「酵母の増殖」方法にも関する。
【0109】
これに関連して、プレ発酵工程の目的は、一般に、プレ発酵培養基における酵母の濃度を、プレ発酵培養基1ml当たり、約10‐10CFUから、少なくとも約10CFU、好ましくは、少なくとも約5×10CFUに増大させることにある。
【0110】
プレ発酵は、温度が、例えば、冷却流体がプレ発酵タンクの内側又は外側で純化する冷却プレートシステムによって厳格に制御及び調節されるプレ発酵槽において行われる。実際、微生物の繁殖によって温度が上昇し、酵母の増殖の妨げとなる。プレ発酵槽における温度は、一般的に、30‐35℃に維持される。
【0111】
酵母の増殖には、例えば、圧縮空気の形の酸素の供給が必須である。
【0112】
酵母の発育を促進するためには、栄養培養基に、次の成分を添加することが知られている:
−各種の形(例えば、尿素、アンモニア、アンモニウム塩)で供給される窒素;
−各種の形(例えば、リン酸、リン酸塩)で供給されるリン;
−各種の形(例えば、硫酸、硫酸塩)で供給されるイオウ;
−必須ミネラル。
【0113】
従来技術によれば、液化、糖化又はプレ糖化工程からの麦汁も栄養培養基に添加される。このようにして、この麦汁は発酵可能な糖を提供するが、アルコール発酵の全体的収率の低減を招く。従って、グルコースのエタノールへのアルコール発酵のための発酵培養基又は同時糖化‐発酵培養基において使用する酵母を調製するために、プレ発酵において使用される好気的条件下での酵母の製造法(収率の低減を制限する)についての要求が存在する。
【0114】
本発明によれば、この目的は、プレ発酵槽に、静澄化された(すなわち、分離工程終了時に得られた)蒸留残渣、及び/又は炭水化物原料物質、特にデンプン質原料物質からのアルコール発酵によるエタノール製造の実施の間に得られた及び/又は本発明によって得られた濃縮した蒸留残渣の少なくとも一部を添加することによって達成される。
【0115】
蒸留残渣は、同時糖化−発酵工程を含んでなる又は糖化及び発酵の工程が完全に分離しているエタノールの製造法から得られる。
【0116】
好ましくは、蒸留残渣は、本発明による栄養剤が導入される本発明によるエタノールの製造法から製造される。
【0117】
このように、本発明は、上述のようなエタノールの製造法であって、上述のような酵母の製造法によって得られた酵母をエタノールの発酵に使用し、この酵母の製造法自体、前記エタノールの製造法から得られる蒸留残渣を使用するものであることを特徴とするエタノールの製造法にも関する。
【0118】
本発明によるアルコールの製造法(本発明の栄養剤が導入される)からの蒸留残渣の、プレ発酵槽内での酵母の製造のための使用は、一方では、酵母によるエタノールの製造を、及び他方では、酵母の細胞成長を分離することを可能にするため、特に有利である。実際、本発明によるエタノールの製造法からの蒸留残渣は、酵母が、発酵又は同時糖化−発酵培養基の高濃度接種(酵母が、発酵又は同時糖化‐発酵培養基中に存在する発酵可能な糖を、上記のように、主としてエタノールの製造に使用し、細胞の生育には使用しないになる)に匹敵するレベルまで生育することを可能にする栄養剤を構成する。このように、原料の炭化水素基質に由来する発酵可能な糖は、主として、エタノール製造のために使用され、一方、細胞の生育に作用するのは、主として、非発酵性の糖である。これによって、炭化水素基質を原料とするエタノール製造の全体的収率は、エタノール製造及び細胞の生育の両方のために、酵母によって、発酵性の糖が使用される方法と比べて改善される。
【0119】
このような特別な具体例を図2に示す。
【0120】
好ましくは、プレ発酵栄養混合物は蒸留残渣を含有し、デンプン質原料物質からのアルコール発酵によるエタノールの製造法を使用する際に得られる中間生成物を含まず、特に蒸留残渣は、デンプン質原料物質からのアルコール発酵によるエタノールの製造法に由来する麦汁と混合されない。
【0121】
他の好適な特徴によれば、プレ発酵栄養培地は、蒸留残渣及び液化麦汁、任意に水の混合物からなる又は含んでなる。
【0122】
本発明のさらに他の好適な特徴によれば、発酵添加剤は、蒸発残渣及び本発明による栄養剤、特に発酵されたふすま、任意に水の混合物からなる又は含んでなる。
【0123】
最後に、上述の全ての成分からなる又は含んでなる栄養剤を形成することもできる。
【0124】
本発明によるプレ発酵栄養培養基は、好ましくは、培養基の撹拌及び/又は通気が最適なエタノールの製造を支持するに充分であるような量、例えば、15‐20%の乾燥物質を含有する。
【0125】
本発明による酵母の製造法について、本発明による栄養剤は、発酵されたふすまでもよい。発酵又は同時糖化−発酵培養基に由来する蒸留残渣は、その糖成分が、特に、好気的条件下で酵母によって使用され、特に、プレ発酵槽での酵母の生育に好ましいものである組成を有する。プレ発酵培養基には、外来の栄養成分(例えば、グリセロール又はグリセロール溶液)及び湿潤したビールの醸造粕から得られた加水分解物が補足される。これにより、有利には、本発明による麦汁においてグルコースが保存され、従って、収率の低減が制限されることを可能にする。
【0126】
好ましくは、蒸留残渣の少なくとも一部は、配合によってプレ発酵栄養培養基に再循環される。プレ発酵槽における栄養培養基の希釈を制限するため、濃縮後、蒸留残渣を再循環することもできる。
【0127】
好ましくは、プレ発酵栄養培養基中に存在する蒸留残渣は、液化、糖化又はプレ糖化工程からの麦汁を置き換える。しかし、この置き換えは一部のみである。
【0128】
本発明による栄養剤、特に発酵したふすまの添加は、栄養培養基において、次の成分を富有化させることによって、プレ発酵を改善することができる:
−窒素(アミノ酸の形で提供される)、
−リン、
−イオウ、
−必須ビタミン及びミネラル、
−タンパク質。
【0129】
この添加は、プレ発酵栄養培養基に対して直接的に、又は液化工程からの麦汁と混合した後に行われ、混合物は、任意に希釈された後、プレ発酵槽に添加される。
【0130】
本発明によるエタノールの製造法に由来する蒸留残渣かのプレ発酵された酵母の使用も、有利には、本発明によるエタノール製造法の終了時に得られた乾燥したビールの醸造粕がタンパク質を富有することを可能にする、前記ビールの醸造粕は、乾燥物質基準で、タンパク質40%以上、好ましくは少なくとも50%を含有しうる。
【0131】
明細書及び請求の範囲に記載する各種の酵素活性は、次の方法によって測定している:
【0132】
グルコアミラーゼ活性
可溶性でんぷんの溶液に対するグルコアミラーゼ(GA)調製物の作用は、還元糖を放出させる。3,5-ジニトロサリチル酸(DNS)の存在下、100℃に加熱する場合、これらの組成物は、分光光度計(Kontron Instruments, ミラノ, イタリヤ)において540 nmで測定して褐色となる。
【0133】
反応混合物は、次の成分を含有する。
−アスペルギルス・ニーガーの場合、1.5%及びアスペルギルス・オリザエの場合、2%のデンプン溶液 1000μl
−クエン酸塩緩衝液(0.1M, pH4.5) 900μl
−酵素溶液 100μl
【0134】
反応は、アスペルギルス・ニーカーの場合には、60℃において20分間、アスペルギルス・オリザエの場合には、50℃において5分間で行われる。反応培養基のサンプル100μlを、アスペルギルス・ニーガーの場合には4分毎に、アスペルギルス・オリザエの場合には毎分ごとに集め、DNS 500μl及びpH4.5のクエン酸塩緩衝液400μlと混合する。ついで、全体を100℃で5分間加熱し、迅速に冷却し、DNS 500μl及びpH4.5のクエン酸緩衝液500μlの混合物からなる対照物を使用して、540 nmでアッセイする。
【0135】
GA調製物の活性に対する温度及びpHの影響を検討した後、これらのアッセイ条件を確立した。この酵素加水分解用の基質として、Merck(Darmstadt, ドイツ)からの可溶性デンプンを使用した。P. Bernfeld, Methods in Enzymology, 1, 149-158 (1955) によって提案されたプロトコルに従ってDNSを調製した。プロトコルは次のとおりである:
−予め3,5-ジニトロサリチル酸10g、2M水酸化ナトリウム200 ml、蒸留水200 mlを溶解する;
−ついで、酒石酸ナトリウムカリウム300gを添加する;
−溶解完了後、容積を蒸留水にて1Lに調整する。
【0136】
調製した後、この試薬を、遮光して保存する。グルコアミラーゼ活性のアッセイのため及び液化−糖化反応をモニターするため、対照物としてグルコールを使用して、及びキシラナーゼ活性を測定するためにキシロースを使用して、校正曲線を確立した。
【0137】
1グルコアミラーゼ活性単位(GU)は、アッセイ条件下、対照としてグルコースを使用して1分当たり還元末端1μモルを放出するに必要な酵素の量に相当する。下記に示す式によって算定して、グルコアミラーゼ活性は、初期の乾燥物質の量(IDM)で表される:
【数1】

ここで、Aは、GU gIDM-1として表示されるGA活性(μモル・分-1・gIDM-1)に相当し;Pは、グルコース等価物を放出する速度(μモル・分−1)に相当し;Venzは、アッセイした酵素溶液の容量(ml)を表し;Vfermは、酵素溶液を抽出するために使用した蒸留水の総容量(ml)であり;Mferm(g(IDM)で表示される)は、酵素溶液が抽出された乾燥生成物の初期質量に相当する。
【0138】
プロテアーゼ活性
このアッセイは、「タンパク質の精製方法−実践的なアプローチ」,Harris E.L.V.及びAngal S.(編集者),IPL-Press,Oxford University Press,1-66 (1989) に記載のBeinon法を使用して、アゾカゼインについて開発された。この基質のプロテアーゼによる減成は、アゾ基(340nmでUVを吸収する)の放出を生ずる。このタンパク質の加水分解の間における吸光度の変動は、反応の程度を表示する。
【0139】
反応混合物は、次の成分を含有する。
−1%、pH5.0のアゾカゼイン溶液 1000μl
−酵素溶液 200μl
【0140】
アゾカゼイン(Sigma,セントルイス,米国)を、pH5.0の0.1モルL-1酢酸塩緩衝液に溶解させる。アゾカゼインは、より低いpH値では、この酢酸塩緩衝液には不溶であるため、このpHにおいてプロテアーゼ活性をアッセイした。酵素反応を60℃において行う。5分毎にサンプルを20分間集め、5%トリクロロ酢酸(TCA)と混合して反応を停止させる。
【0141】
1プロテアーゼ活性単位(PU)は、上述の条件下でのアゾ基の放出によって発生される1分間当たり0.01単位A340nmの増加に必要な酵素の量に相当する。この活性(下記の式に基づいて算定される)は、初期乾燥物質に関して(PU gIDM-1)又はグルコアミラーゼ活性に関して(PU・GU-1)表される。
【数2】

ここで、Aは、PU・glDM-1で表されるプロテアーゼ活性に相当し;Pは、0.01単位A340nm・分-1の増大として表されるアゾ基の放出率に相当し;Venzは、アッセイした酵素溶液の容量(ml)を表し;Vfermは、酵素溶液を抽出するために使用した蒸留水の総容量(ml)であり;Mfermは、酵素溶液が抽出された乾燥生成物の初期質量(g(IDM)として表される)に相当する。
【0142】
キシラナーゼ活性
この酵素活性を証明するため、GA調製品を可溶性キシラン溶液と反応させ、放出された還元糖をDNS法によって測定した。
【0143】
反応混合物は、次の成分を含有する。
−2%、pH4.5のキシラン溶液 1900μl
−酵素溶液 100μl
【0144】
カラマツのキシランの0.1Mクエン酸塩緩衝剤(pH4.5)溶液(1%,Sigma)を調製し、アスペルギルス・ニーガーの場合には60℃で、アスペルギルス・オリザエの場合には50℃で反応させる。2分毎に10分間で、反応混合物のサンプル200μlを集め、DNS 500μl及びクエン酸塩緩衝液(pH4.5)300μlと混合する。ついで、全体を100℃において5分間加熱し、迅速に冷却し、ついで、DNS 500μl及びクエン酸緩衝液500μl(pH4.5)の混合物からなるブランクに対して、540 nmにおいてアッセイする。
【0145】
1キシラナーゼ活性単位(XU)は、1分間当たり還元糖1μモルを放出するに必要な酵素の量に相当する。この活性は、初期乾燥物質に関して(XU・g-1IDM)又はグルコアミラーゼ活性に関して(XU・GU-1)表される。この活性を算定するため、GA活性の算定について定められた式を使用する。式中、Aは、XU・glDM-1で表されるキシラナーゼ活性(μモル・分-1・glDM-1)に相当し;Pは、キシロース当量放出率(μモル・分-1)に相当し;該式における他の用語については変更なしである。
【0146】
下記の実施例は、本発明、特に、同時糖化‐発酵法における本発明による発酵ふすまの使用によって提供される利点を説明するために例示するものであり、本発明はこれらに限定されない。
【実施例1】
【0147】
窒素栄養剤の効果
同時糖化‐発酵工程の間に生成されるエタノールの量について、市販の応酵素調製品(Spirizyme(登録商標)Fuel)を、又は非特定の窒素栄養剤又は本発明による窒素栄養剤と共に、同じ酵素調製品を導入して比較研究した。
【0148】
これらの実験において、反応器(1L)において、乾燥物質32%を含有する小麦粉麦汁750gを調製した。85℃、pH5.5において液化2時間後、麦汁を、3個のErlemeyerフラスコ(0.5L)に分けて、それぞれ、麦汁200gを収容するように入れ、グルコアミラーゼ活性を下記のように調製した:
−フラスコ1:Spirizyme Fule(精製グルコアミラーゼ溶液, Novozymes);
−フラスコ2:Spirizyme Fuel及び窒素栄養剤、すなわち、リン酸塩及び硫酸ジアンモニウム:各生成物3g/L;
−フラスコ3:米国特許出願公開第20020037342号に記載された方法により、アスペルギルス・ニーガーの菌株ATCC 76061にて発酵させたふすま。
【0149】
3個のフラスコにおける麦汁の初期pHを4.5に調整し、温度を32℃とした。
【0150】
フラスコ2への窒素質生成物の導入によって、pH6.2のアルカリ化が生じたため、同時糖化−発酵用の麦汁の初期pHを4.5とするために、濃塩酸をさらに添加する必要があった。麦汁に、麦汁1ml当たり酵母107 CFUを接種した。実施例で使用した酵母は、サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)である。
【0151】
麦汁におけるグルコースの最大理論濃度は、デンプンの完全酵素加水分解後303g/Lである。
【0152】
表1に示すように、最良のエタノール製造は、72時間発酵させたふすまを使用する場合に達成される。Spirizyme Fuelは、窒素栄養剤と共に使用する場合であって、96時間後、最大エタノール59%を達成するのみである。窒素を配合しない場合、エタノールの製造は非常に低く、非常に高いグルコース濃度が観察される。
【0153】
従って、同時糖化‐発酵反応器の温度においても、小麦からのエタノールの製造について、糸状菌によって発酵させたふすまを使用する場合に、顕著な利点が認められる。Spirizyme Fuelとの比較では、非特定の窒素栄養剤は、性能の改善について部分的にのみ機能することを示している。
【0154】
【表1】

【0155】
これらの実験は、同時糖化‐発酵法による小麦からのエタノールの製造に関する発酵ふすまの適合性を証明している。
【実施例2】
【0156】
本発明による栄養剤の緩衝効果
この実施例は、同時糖化‐アルコール発酵の促進に関する、本発明による栄養剤の使用の利点を証明するものである。この実施例は、特に、同時糖化‐発酵培養基に対する本発明による栄養剤の緩衝効果に関する。
【0157】
これらの実験では、反応器(1L)において、撹拌下、乾燥物質32%を含有する小麦粉から麦汁750gを調製した。250 rpmで撹拌しながら、85℃、pH5.5で1時間半液化を行った後、麦汁をErlenmeyerフラスコ(250 ml)2個に分け入れた。各フラスコは、乾燥物質32%を含有する液化麦汁100g及び乾燥物質23%を含有する麦汁を得るように滅菌水40gを収容している。次に、各麦汁に下記の成分を添加した:
−フラスコ1:米国特許出願公開第20020037342号に記載のプロセスに従って、アスペルギルス・ニーガーの菌株ATCC76061にて発酵させたふすま0.5g;
−フラスコ2:Spirizyme Fuel(精製グルコアミラーゼ溶液,Novozymes)16.7μl。
【0158】
2個のフラスコにおける麦汁の初期pHを4に調整した。麦汁に、麦汁1ml当たり酵母Ethanol Red(登録商標;Lesaffre)5×10CFUを接種した。
【0159】
フラスコ2に、アンモニア水の形の外来窒素を、小麦1kg当たり窒素1gの量で添加した。
【0160】
実験の全期間中、麦汁を温度30℃、100 rpmの撹拌下に維持した。
【0161】
所望のエタノール濃度は、麦汁1L当たりエタノール87gであり(11%v/v)、これは、デンプンのエタノールへの転化収率81%に相当する。
【0162】
表2は、同時糖化‐発酵の期間を関数とする麦汁におけるエタノール濃度及び麦汁のpHの変動を示す。
【0163】
表1におけると同様に、表2は、同時糖化‐発酵培養基における本発明の栄養剤の使用によって、外来の窒素供給にもかかわらず、従来の酵素よりも短い期間で、より高いエタノール濃度が得られることを表している。
【0164】
さらに、表2は、フラスコ2へのアンモニアの配合がpHを約2.8に低下させることを示している。
【0165】
より良いエタノール収率を得るためには、麦汁のpHが3.5−5を維持することが重要である。実際、同時糖化−発酵を約30℃で行っているため、過剰に高い、特に5より大のpHは麦汁の汚染の危険の原因となる。過剰に低いpH値、特に3.5未満は、アルコール発酵の収率の低減の原因となる。
【0166】
同時糖化‐発酵培養基において、外来の窒素源が添加された酵素調製品を使用する場合には、pH調節装置を使用して、pH値を3.5‐4.5に維持することが必要である。
【0167】
【表2】

【0168】
本発明による栄養剤は、同時糖化‐発酵における麦汁のpHに対する緩衝効果を有しており、従って、pH調節装置が不要となる。
【実施例3】
【0169】
バイオスティミュレーション
この実施例は、本発明による栄養剤のバイオスティミュレーション効果を説明するものである。この実施例の実験は、窒素補足及び麦汁のpHの約4での安定化の効果が、同時糖化‐発酵培養基への導入の間におけるエタノール生産に関する酵母の能力の改善を部分的にのみ説明するものであることを示している。
【0170】
これらの実験では、乾燥物質32%を含有する小麦粉から麦汁を調製した。250 rpmで撹拌しながら、85℃、pH5.5で1時間半液化を行った後、麦汁をバイオリアクター(4L)2個に分け入れた。各バイオリアクターは、乾燥物質29.8%を含有する麦汁1.7kgを収容する。各バイオリアクターにおける麦汁は、液化に由来する乾燥物質32%を含有する麦汁を、乾燥物質27%を含有する蒸留残渣と混合することによって得られたものである。
【0171】
麦汁を希釈するために使用した蒸留残渣は、小麦のアルコール発酵プロセスの終了時に得られた蒸留残渣である。
【0172】
乾燥物質29.8%を含有する麦汁1.7kgに、下記の成分を補足した:
−バイオリアクター1:Spirizyme Fuel(精製グルコアミラーゼ溶液,Novozyme)199μl及びViscozym Wheat(登録商標:Novozyme)(粘性低下酵素)59μl;
−バイオリアクター2:米国特許出願公開第20020037342号に記載のプロセスに従って、アスペルギルス・ニーガーの菌株ATCC76061にて発酵させたふすま5.7g。
【0173】
2個のバイオリアクターにおける麦汁の初期pHを4.1に調節し、温度を30℃とし、ついで、麦汁を100 rpmにて撹拌した。
【0174】
ついで、麦汁に、麦汁1ml当たり酵母(Ethanol Red,Lesaffre)5×10CFUを接種した。
【0175】
小麦1kg当たり窒素1gの含量となるように、バイオリアクター1に、アンモニア水の形の外来窒素を分けて添加した。
【0176】
発酵した穀類からの麦汁に由来する蒸留残渣は、特定量のファイバーを含有する、これらを麦汁と混合することによって、麦汁のpHの緩衝効果が得られる。
【0177】
所望のエタノール濃度は、麦汁1L当たりエタノール87gであり、これはデンプンのエタノールへの転化収率81%に相当する。
【0178】
表3は、同時糖化‐発酵の期間を関数とする麦汁におけるエタノール濃度及び麦汁のpHの変動を示す。
【0179】
外来窒素供給と蒸留残渣とを分離したことにより、バイオリアクター1におけるpHが約4で安定化される。
【0180】
表3に示されるように、本発明による栄養剤を添加したバイオリアクターでは、28時間で、ほぼ所望のエタノール濃度が達成されるが、酵素調製品を添加したバイオリアクターにおいて同等の濃度を達成するためには、44時間が必要である。さらに、68時間後でも、エタノール濃度は、酵素調製品を添加したバイオリアクターにおけるよりも、本発明による栄養剤を添加したバイオリアクターにおいて、より高いものであった。
【0181】
表3は、従来の酵素調製品と比べて、本発明による栄養剤の使用が明らかに有利であることを表している。これらの実験の結果は、窒素の補足及びpH制御が、本発明による栄養剤の性能を部分的にのみ説明するものであることを示している。
【0182】
これらの実験は、本発明による栄養剤の組成にリンクする酵母のバイオスティミュレーション効果を証明している。
【0183】
【表3】

【実施例4】
【0184】
蒸留残渣の好気的発酵
プレ発酵培養基における乾燥物質含量を関数とするプレ発酵培養基の酵母濃度の変動の比較研究を行った。
【0185】
これらの実験を、バッフルフラスコ(250 ml)内のプレ発酵培養基100gについて実施した。プレ発酵培養基を30℃で恒温とし、130 rpmでの撹拌下に置き、培養基1ml当たり酵母(Ethanol Red)2.5×10個を接種した。培養基の初期pHは4.2−4.4である。
【0186】
各プレ発酵培養基は、下記のような組成である(質量%):
−フラスコ1:乾燥物質28%を含有する蒸留残渣1.2%及び水約98.8%;
−フラスコ2:乾燥物質28%を含有する蒸留残渣10%及び水約90%;
−フラスコ3:乾燥物質28%を含有する蒸留残渣20%及び水約80%;
−フラスコ4:乾燥物質28%を含有する蒸留残渣40%及び水約60%;
−フラスコ5:コントロール培養基(グルコース及び酵母エキス)
フラスコを撹拌して、培養液に酸素を供給し、酵母を増殖させた。
【0187】
各プレ発酵培養基における酵母濃度の変動を測定した。
【0188】
フラスコ内の培養基の組成及び酵母濃度の変動を、下記の表4に示す。
【0189】
【表4】

【0190】
表4において示されるように、乾燥物質28質量%を含有する蒸留残渣40質量%を含むプレ発酵培養基、すなわち、乾燥物質11.2質量%を含有する培養基では、5時間で、酵母量が16.6倍となった。これに比べて、コントロール培養基における同じ期間の倍数は約2である。
【0191】
好気的培養24時間後では、蒸留残渣40質量%を含む培養基における酵母の濃度は、コントロール培養基における酵母濃度の2.5倍以上である。
【0192】
理論的に裏付けされてはいないが、これらの結果は、乾燥物質における、グルコース以外の酵母によって同化される炭素源としての蒸留残渣の存在によるものと考えられる。蒸留残渣の乾燥物質は、主としてグルコース又は残留デンプンの形の発酵可能な糖約10%を含有することが示された。酵母の初期濃度は培養基1L当たり酵母約0.62gに相当し、一方、最終濃度は、培養基1L当たり約13.8gに相当する。従って、培養基1L当たり酵母約13.2gが発酵されたことになり、これは、グルコース約26.4gの消費に相当する。フラスコ4では、グルコースの初期濃度は、培養基1L当たり約11.2gである。従って、得られる酵母の量は、グルコース以外の他の炭素源、例えば、蒸留残渣におけるグリセロールの存在にリンクする。
【0193】
当然ながら、本発明は、実施例として示した具体例に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0194】
【図1】本発明によるエタノールの製法の第1の具体例のダイアグラムを示す。
【図2】本発明によるエタノールの製法の他の具体例のダイアグラムを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭水化物原料からのアルコール発酵培養基用の栄養剤であって、糸状菌による発酵に由来する、粗製状態又は抽出された形の有効成分を含んでなる、栄養剤。
【請求項2】
炭水化物原料がデンプン質原料である、請求項1記載の栄養剤。
【請求項3】
糸状菌にて発酵されたふすまを含んでなる、請求項1又は2記載の栄養剤。
【請求項4】
酵素活性値:
グルコース:乾燥物質1g当たり、少なくとも500 GU;
タンパク質分解酵素:乾燥物質1g当たり、少なくとも100 PU;
キシラナーゼ:乾燥物質1g当たり、少なくとも100 XU
の少なく1つを有する、請求項1‐3のいずれか1項記載の栄養剤。
【請求項5】
有効成分が、エルゴステロール、N-アセチルグルコサミン、ビタミン、核酸、アミノ酸及びこれらの混合物からなる群から選ばれるものである、請求項1‐4のいずれか1項記載の栄養剤。
【請求項6】
アスペルギルス・ニーガーの菌株ATCC 201202、ATCC 76060、ATCC 76061、MUCL 28815、MUCL 28816、NRRL 3112から又はアスペルギルス・オリザエの菌株ATCC 22788及びATCC 42149から選ばれる糸状菌でのふすまの発酵によって得られたものである、請求項1‐5のいずれか1項記載の栄養剤。
【請求項7】
下記工程:
i)ふすまを用意する工程、
ii)前記ふすまを加湿し、pH4‐5に酸性化し、及び熱処理して、ふすまを殺菌又は無菌化する工程、
iii)得られたふすまに、ATCC 201202、ATCC 76060、ATCC 76061、MUCL 28815、MUCL 28816、NRRL 3112から選ばれるアスペルギルス・ニーガーの菌株又はATCC 22788及びATCC 42149から選ばれるアスペルギルス・オリザエの菌株を接種する工程、
iv)反応器において、定期的に撹拌し、湿度を45‐65質量%に維持しながら、ふすまにおける二酸化炭素の恒久的な蓄積を回避するために通気条件下で、温度28‐38℃において、発酵生成物が、次の酵素活性値:
グルコース:乾燥物質1g当たり、少なくとも500 GU、及び任意に、
タンパク質分解酵素:乾燥物質1g当たり、少なくとも100 PU、
キシラナーゼ:乾燥物質1g当たり、少なくとも100 XU
を有するようになるまで、固体状態のふすまを発酵する工程
を含んでなる方法によって得られたものである、請求項1‐6のいずれか1項記載の栄養剤。
【請求項8】
工程ii)の置ける熱処理を、好ましくは加湿に続いて行う、請求項7記載の栄養剤。
【請求項9】
グルコアミラーゼ活性が、乾燥物質1g当たり、少なくとも750 GUである、請求項1‐8のいずれか1項記載の栄養剤。
【請求項10】
グルコアミラーゼ活性が、乾燥物質1g当たり、少なくとも1500 GUである、請求項9記載の栄養剤。
【請求項11】
エルゴステロール、N-アセチルグルコサミン、ビタミン、核酸、アミノ酸を含んでなる、請求項1‐10のいずれか1項記載の栄養剤。
【請求項12】
ビタミンBを含んでなる、請求項1‐11のいずれか1項記載の栄養剤。
【請求項13】
アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、バリン、ロイシン及びグルタミン酸から選ばれる1以上のアミノ酸を含んでなる、請求項1‐12のいずれか1項記載の栄養剤。
【請求項14】
炭水化物からエタノールを製造する方法であって、請求項1‐13のいずれか1項記載の栄養剤の存在下での発酵工程を含むことを特徴とする、エタノールの製法。
【請求項15】
炭水化物がデンプン質物質であり、液化工程及び任意にプレ糖化工程後、同時糖化‐発酵工程の開始時のグルコース含量が、前記デンプン質物質のデンプンに相当するグルコース等価物多くとも95%である同時糖化‐発酵工程培養基における同時糖化‐発酵工程を含んでなり、同時糖化‐発酵培養基に栄養剤を導入する、請求項14記載の製法。
【請求項16】
同時糖化‐発酵工程の開始時のグルコース含量が、デンプン質物質のデンプンに相当するグルコース均等物多くとも3%である、請求項15記載の製法。
【請求項17】
栄養剤の量が、デンプン1トン当たり、乾燥物質4kg以上、60kg以下である、請求項15又は16記載の製法。
【請求項18】
栄養剤が、同時糖化‐発酵培養基における酵母の主栄養源及び/又はエルゴステロールの主な源及び/又は窒素及び/又はアミノ酸及び/又はリン及び/又はイオウ及び/又はビタミンの主な源を構成する、請求項15‐17のいずれか1項記載の製法。
【請求項19】
同時糖化‐発酵を、完全に、空気又は酸素供給の不存在下で行う、請求項15‐18のいずれか1項記載の製法。
【請求項20】
同時糖化‐発酵が初期好気的相を含んでなる、請求項15‐18のいずれか1項記載の製法。
【請求項21】
同時糖化‐発酵を、次の条件下:
−温度:30‐35℃、
−pH:同時糖化‐発酵工程の開始時、約3.5‐約5に調節、
−酵母の接種:同時糖化‐発酵培養基1ml当たり約10‐約5×10CFU、
−DM20‐35%、
−滞留時間:20‐72時間
で行う、請求項15‐20のいずれか1項記載の製法。
【請求項22】
請求項14‐21のいずれか1項に記載のエタノールの製法からのビールの醸造粕であって、ビールの醸造粕の乾燥物質1トン当たり、エルゴステロール5g以上を含有することを特徴とする、ビールの醸造粕。
【請求項23】
乾燥物質基準の百分率として、粗製タンパク質40%以上、好ましくは50%以上を含有する、請求項22記載のビールの醸造粕。
【請求項24】
乾燥物質基準の百分率として、粗製タンパク質50%以上を含有する、請求項22記載のビールの醸造粕。
【請求項25】
請求項1‐13のいずれか1項記載の栄養剤の、アルコール発酵又は酵母の製造を目的とする発酵を促進するための使用。
【請求項26】
プレ発酵槽において好気的条件下で酵母を製造する方法であって、炭水化物原料からアルコール発酵によるアルコールの製法を実施する間に得られる精製蒸留残渣及び/又は濃縮蒸留残渣を、前記プレ発酵槽に添加することを特徴とする、酵母の製法。
【請求項27】
蒸留残渣が、請求項1‐13のいずれか1項に記載の栄養剤を導入してエタノールの製法を実施する間に得られるものである、請求項16記載の製法。
【請求項28】
蒸留残渣が、請求項14‐21のいずれか1項記載の製法を実施する間に得られるものである、請求項26又は27記載の製法。
【請求項29】
請求項26又は27記載の酵母の製法によって得られた酵母を、エタノールの製法から得られた蒸留残渣を使用するエタノール発酵に使用する、請求項14‐21のいずれか1項記載の製法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−529903(P2009−529903A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−500893(P2009−500893)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【国際出願番号】PCT/FR2007/050937
【国際公開番号】WO2007/113417
【国際公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(508280461)
【氏名又は名称原語表記】ETABLISSMENTS J.SOUFFLET
【住所又は居所原語表記】QUAI DU GENERAL SARRAIL,F−10400 NOGENT SUR SEINE,FRANCE
【Fターム(参考)】