説明

エダラボンの精製方法及び高純度エダラボン

【課題】注射用の原薬として供し得る高純度エダラボンを、工業的に有利に得る方法と、その結果物である高純度エダラボンを提供することにある
【解決手段】還元剤の存在下で粗製のエダラボンを有機溶媒から再結晶することを特徴とするエダラボンの精製方法と、エダラボンの純度が99.9%以上である高純度エダラボン、さらには不純物としてエダラボンの酸化的重合体を実質的に含まないか、その含有率が0.1%以下である高純度エダラボンを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記の化学構造式で示される脳保護剤エダラボン(一般的名称)の精製方法と高純度エダラボンに関する。
【化1】

【背景技術】
【0002】
エダラボンは、生理食塩水に溶かした点滴液として血液中へ直接投与されるため、不純物による副作用の発現を避ける意味でも、その製剤に使用する原薬は、できるだけ高純度であることが望ましく、実質的に100%であることが理想的である。
従来の技術としてエダラボンの製剤や製造方法に関する報告は多数存在するが(非特許文献1〜3等)、その純度に関する具体的な記載がない。
そこで、市販のエダラボン(化学名:3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン)の純度についてHPLC分析したところ、99.3%〜99.8%であることが判明した。
【0003】
【非特許文献1】「薬学雑誌」、第124巻、第3号、2004年、p.99−111
【非特許文献2】「ジャーナル・オブ・ヘテロサイクリック・ケミストリー(Journal of Heterocyclic Chemistry)」、1984年、第21巻、p.1747−1752
【非特許文献3】「トレンズ・イン・ヘテロサイクリック・ケミストリー(Trends in Heterocyclic Chemistry)」、1990年、第1号、p.55−62
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、生理食塩水に溶かした点滴液用の原薬として供し得る高純度エダラボンを工業的に有利に得る方法と、その結果物である高純度エダラボンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、医薬原薬の工業的製造方法としては簡便なほど好ましいことから、精製方法として最も簡単な再結晶法について最良の条件を探すことにより、前記課題を解決することができないかと考え、鋭意検討した。
しかし、溶媒の選択、酸性化合物やアルカリ性化合物の添加、シリカクロマト処理、温度条件等によっては、粗製品に含まれる酸化的重合体を首尾よく除去できず、または、再結晶操作中に惹起されるエダラボンの酸化的重合反応等の副反応が避けられず、99.8%より高純度のエダラボンを得ることはできないとの結論に達した。
ところが、有機溶媒に少量の還元剤を添加し、通常の操作により粗製エダラボンの再結晶を試みたところ、99.9%の高純度エダラボンを得ることができた。
そこで、好ましい反応条件等について、さらに検討を加え、所期の目的を達成する本発明を完成することができた。
【0006】
すなわち、本発明によれば、下記の方法及び高純度エダラボンを提供することができる。
(1)還元剤の存在下で粗製のエダラボンを有機溶媒から再結晶することを特徴とするエダラボンの精製方法。
(2)還元剤が水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム又は水素化ホウ素リチウムである前記(1)に記載の方法。
(3)有機溶媒がエタノール又は含水エタノールである前記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)エダラボンの純度が99.9%以上である高純度エダラボン。
(5)不純物として酸化的重合体を実質的に含まないか、その含有率が0.1%以下である前記(4)に記載の高純度エダラボン。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、有機溶媒中に存在する還元剤により、粗製エダラボンに含まれる酸化的重合体の還元により、有機溶媒への可溶化が起こるか、若しくは粗製エダラボンの溶解操作中や結晶析出までの間に起こり得る酸化的重合等の副反応が抑えられ、99.9%以上の高純度エダラボンを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、「粗製のエダラボン」とは、従来の方法により容易に得ることができるエダラボンであって、その純度が99.8%程度までのものを意味する。 また、本発明において使用する還元剤としては、緩和な還元剤が好ましく、例えば水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム等を挙げることができる。その使用量は、微量でよく、例えばエダラボン1モルに対し還元剤は0.01倍モルから0.05倍モル程度が好ましい。
使用する有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセタミド、ジメチルスルホキシド、これらの含水溶媒等を挙げることができる。これらの有機溶媒中、エタノールが好ましく、なかでも50%以下の水を含有するエタノールが好ましい。使用する有機溶媒の量は、有機溶媒の種類により適宜増減し、好ましい量を選ぶことができるが、通常、粗製エダラボン1重量部に対し、1重量部〜10重量部程度が好ましく、エタノールあるいは含水エタノールの場合は3重量部程度である。
再結晶の方法としては、特に困難はなく、常法にしたがって粗製エダラボンを有機溶媒に加温溶解し、室温放置ないし冷却することにより結晶を析出させることができる。
なお、本発明において表示するエダラボンの純度やその酸化的重合体の含有率は、通常の高速液体クロマトグラフィーによる測定結果から導き出される数値を表わすものである。
【実施例】
【0009】
以下、実施例によって説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0010】
実施例1
粗製エダラボン169.52g(純度99.83%)をエタノール510mlに加熱溶解し、この溶液へ水素化ホウ素ナトリウム1.11gを熱時、撹拌下に加えて一晩撹拌した。析出した結晶をエタノールから再結晶したところ、エダラボンの純度が99.963%、エダラボンの酸化的重合体の含有率が0.006%の高純度エダラボン(回収率56%)が得られた。
【0011】
実施例2
前記実施例1で使用した水素化ホウ素ナトリウムに代えてシアノ水素化ホウ素ナトリウム66.2mgを使用し、粗製のエダラボン1.74g(純度99.84%)を同様に処理して、エダラボンの純度が99.956%、エダラボンの酸化的重合体が0.009%の高純度エダラボン(回収率63%)を得た。
【0012】
参考例1
アセト酢酸メチルエステル122.23g(純度95%:ナカライテスク株式会社)(1.00モル)にフェニルヒドラジン114.70g(純度99%:ナカライテスク株式会社)、または、82−84℃/0.8mmHg減圧蒸留品)(1.05モル) を撹拌下に30℃以下で徐々に加え、滴下終了後0.5時間撹拌した。次いで、湯浴温度を100℃に上げて窒素雰囲気下で2時間加熱した。反応中間体である3−(2−フェニルヒドラゾノ)ブタン酸メチルエステルの消失をTLC分析により確認した後、反応液を熱時に50%含水エタノール320mlで希釈し、室温にて一晩撹拌した。析出した結晶を吸引濾取し、50%含水エタノールにて洗浄、室温にて減圧乾燥したところ、目的としたエダラボン169.53g(純度99.83%)(収率:97.4%)が得られた。
【0013】
融点:129.5℃
IR(cm−1;KBr):3130,1600,1520,1500,1160,804,692
元素分析:実測値(%)C:69.01、H:5.83、N:16.02
計算値(%)C:68.95、H:5.79、N:16.08
FAB−MS(m/z):実測値 175.08783([MH]
計算値 175.08715([MH]
H−NMR(CDCl)δ(ppm):2.17(3H,s),3.40(2H,s),7.17(1H,br t,J=8Hz),7.39(2H,br t,J=8Hz),7.85(2H,br t,J=8Hz)
13C−NMR(CDCl)δ(ppm):17,43,119,125,129,138,157,171
【0014】
参考例2
参考例1において、反応液を50%含水エタノールに溶解することにより、目的としたエダラボンを収率97.4%で単離したが、その際の濾液を濃縮後、残留物をシリカゲルカラム(クロロホルム−メタノール系)にかけて分離することにより、下記の酸化的重合物を単離することができた。
【0015】
融点:323−326℃(分解)
IR(cm−1;KBr):3069,1593,1560,1491,1402,1365,1308,1294,1220,831,746
FAB−MS(m/z):実測値 347.15149([MH]
計算値 347.15080([MH]
H−NMR(DMSO−d)δ(ppm):2.16(6H,brs),7.23(2H,br t,J=8Hz),7.46(4H,br t,J=8Hz),7.77(4H,br d,J=8Hz),11.53(2H,br)
【0016】
比較例1
粗製のエダラボン5.23g(純度99.73%)をエタノール15mlから再結晶をしたところ、エダラボンの純度99.83%(エダラボンの酸化的重合体の含有率が0.025%)品が回収率72.3%で得られた。
【0017】
比較例2
比較例1の操作を繰り返したが、エダラボンの純度が99.84%より高純度(エダラボンの酸化的重合体の含有率が0.1%以下)のものを得ることができなかった。
【0018】
前記エダラボンの純度及び酸化的重合体の含有比率は、下記条件で測定した高速液体クロマトグラフの面積比から算出したものである。
測定機器:島津LC−10ATシステム
測定条件:カラム:コスモシル5C18 AR−11
カラム温度:40℃
移動相:0.05モル・リン酸水素アンモニウム−リン酸系緩衝液
pH3.00:メタノール(70:30 → 50:50 →
70:30のグラジュエントシステム)
測定波長:243nm
流速:1.0ml/分
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明によれば、単に有機溶媒からの再結晶する方法を繰り返すことによっては得られない高度に精製されたエダラボンを容易に得ることができるので、工業的生産に有利である。
また、本発明により得られる99.9%以上の高純度エダラボンは、より安全な生理食塩水に溶かした点滴液の製造に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元剤の存在下で粗製のエダラボンを有機溶媒から再結晶することを特徴とするエダラボンの精製方法。
【請求項2】
還元剤が水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム又は水素化ホウ素リチウムである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機溶媒がエタノール又は含水エタノールである請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
エダラボンの純度が99.9%以上である高純度エダラボン。
【請求項5】
不純物として酸化的重合体を実質的に含まないか、その含有率が0.1%以下である請求項4に記載の高純度エダラボン。

【公開番号】特開2008−201740(P2008−201740A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41029(P2007−41029)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(593030071)大原薬品工業株式会社 (40)
【Fターム(参考)】