説明

エチレンオキシド系共重合体、重合体組成物、及びリチウム二次電池

【課題】金属塩を加えた場合のガラス転移温度の上昇が少ないエチレンオキシド系共重合、並びにその重合体組成物を提供する。
【解決手段】エチレンオキシド系共重合体は、結晶化温度が20℃以下であり、かつガラス転移温度が−64℃以下であり、結晶化熱が60mJ/mg以下であり、かつコモノマーを10モル%以上含むモノマー組成物を重合して得られ、重量平均分子量が2万以上50万以下の範囲内であるランダム共重合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の結晶化温度とガラス転移温度とを有することにより、金属塩添加によるガラス転移温度の上昇を抑制したエチレンオキシド系共重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、エチレンオキシド系共重合体は、高分子材料として、接着剤、塗料、シーリング剤、エラストマー、床剤等のポリウレタン樹脂の他、硬質、軟質もしくは半硬質のポリウレタン樹脂や、界面活性剤、サニタリー製品、脱墨剤、潤滑油、作動油、高分子電解質等といった、非常に広範囲にわたる用途で用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
これらの用途で使用されるに際して、用途ごとに求められる物性を発揮するため、分子量や共重合組成等重合体の最適化に加え、様々な添加剤の配合による機能付与が一般的に行われている。添加剤の種類は多岐に渡るが、添加剤によっては重合体と相互作用を有するため、所望の機能付与以外に重合体の物性変化を起こすことがある。中でも、靭性を増すために有機酸の金属塩を重合体に加える手法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【非特許文献1】柴田満太、斉藤政博、秋本新一共編,「アルキレンオキシド重合体−製造方法・特性および用途−」,海文堂,平成2年11月20日発行,p.25−128
【特許文献1】特開2003−73537号公報(2003年3月12日公開)
【特許文献2】特開平7−206936号公報(1995年8月8日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1、2の構成では、重合体及び組成物の材料設計が難しいという問題を生じる。具体的には、金属塩を帯電防止のためにエチレンオキシド系共重合体に加えた場合には重合体のガラス転移温度より組成物のガラス転移温度が高くなり、その結果粘度や力学的な強度といった物理的な性状の変化が起こってしまう。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属塩を加えた場合のガラス転移温度の上昇が少ないエチレンオキシド系共重合、当該共重合体を含む重合体組成物、並びに当該重合体組成物を含むリチウム二次電池を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その過程において、エチレンオキシド系共重合体と金属イオンとの相互作用を弱めることにより、金属塩添加後のガラス転移温度の上昇を抑制することができるのではないかと考え、種々の実験及び検討を重ねた。その結果、エチレンオキシド系共重合体と金属イオンとの相互作用を弱めるには、共重合体の疎水性を高めることが最も有効であることを見出した。また、本発明者は、金属塩添加前のエチレンオキシド系共重合体の結晶化温度並びにガラス転移温度が、金属塩添加前後のガラス転移温度の変化量と強い相関関係があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明に係るエチレンオキシド系共重合体は、上記課題を解決するために、結晶化温度が20℃以下であり、かつガラス転移温度が−64℃以下であることを特徴としている。
【0008】
上記の構成によれば、エチレンオキシド系共重合体の結晶化温度並びにガラス転移温度を低くするため、エチレンオキシドの重合時に疎水性のモノマーを共存させており、該共存させているモノマー(以下、「コモノマー」と記す)由来の構造により、エチレンオキシドの連鎖に由来するエチレンオキシド系共重合体の結晶の形成が阻害されることに加え、金属塩を添加した場合におけるエチレンオキシド系共重合体と金属塩との相互作用が抑制される。よって、金属塩を加えた場合におけるガラス転移温度の上昇が少ないエチレンオキシド系共重合を提供することができるという効果を奏する。
【0009】
本発明に係るエチレンオキシド系共重合体では、結晶化熱が60mJ/mg以下であることが好ましい。
【0010】
上記の構成によれば、エチレンオキシドの連鎖に由来するエチレンオキシド系共重合体の結晶の形成がより阻害されているため、金属塩を添加した場合に、金属塩との相互作用がより抑制される。よって、金属塩を加えた場合のガラス転移温度の上昇がより少ないエチレンオキシド系共重合を提供することができるという更なる効果を奏する。
【0011】
また、本発明に係るエチレンオキシド系共重合体では、コモノマーを10モル%以上含むモノマー組成物を重合して得られることが好ましい。
【0012】
更には、本発明に係るエチレンオキシド系共重合体では、重量平均分子量が2万以上50万以下の範囲内であるランダム共重合体であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る重合体組成物は、上記課題を解決するために、上記本発明に係るエチレンオキシド系共重合体と有機酸金属塩とを含むことを特徴としている。
【0014】
上記構成によれば、本発明に係るエチレンオキシド系共重合体を含んでいるため、エチレンオキシド系共重合体と重合体組成物との間のガラス転移温度の差が小さい。このため、エチレンオキシド系共重合体のガラス転移温度に基づいて容易に、重合体組成物のガラス転移温度を設計することができるという効果を奏する。
【0015】
本発明に係るリチウム二次電池は、上記課題を解決するために、本発明に係る上記重合体組成物を含むことを特徴としている。
【0016】
従来、リチウム二次電池に使用される高分子電解質は引火性のある溶媒を用いないため、高い安全性を有する全固体電解質として検討されていたが、一般に溶媒を用いる電解液と比較してイオン伝導度で劣るため、溶媒系の電池より高温条件(60℃以上)での使用にその用途は限定されてきた。
【0017】
このような課題を克服するため、カーボネート系溶媒と併用させる構成(特開2007−35646号公報、特開2006−147279号公報)や、様々な特殊な構造を有する重合体(ポリマーバッテリーの最新技術II p.108〜p.126、監修;金村聖志、株式会社 シーエムシー出版社参照)等が検討されてきた。
【0018】
高分子電解質を溶媒と併用した場合には、イオン伝導度の改善効果とともに液漏れなどの危険性は軽減できるが、当該溶媒は本質的に引火性を有するため、高分子電解質に期待される安全性が犠牲にされていた。
【0019】
また、特殊な構造体を有する重合体を用いる場合では、イオン伝導度の向上効果が認められ、全固体電解質としての応用が期待できるが、当該重合体の製造上の特殊性や取扱の難しさのため、実用には至っていない。
【0020】
これに対して、本発明に係るリチウム二次電池は、特殊なモノマーを使用することなく重合体並びにその有機酸金属塩組成物の特性に着目し重合体設計を行うことにより、これまで電池として作動するのに必須と考えられてきた60℃以上の高温条件で作動させることが不要となり、40℃といった温和な条件でも作動できるようにしたものである。
【0021】
つまり、本発明に係るリチウム二次電池は、本発明に係るエチレンオキシド系共重合体を含んでいるため、エチレンオキシド系共重合体と重合体組成物との間のガラス転移温度の差が小さく、エチレンオキシド系共重合体と金属塩との相互作用が抑制されているため、イオン伝導性に優れ、放電容量が高い。
【0022】
このため、上記構成によれば、これまで電池として作動するのに必須と考えられてきた60℃以上の高温条件が不要となり、温和な条件でも作動させることができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るエチレンオキシド系共重合体は、以上のように、結晶化温度が20℃以下であり、かつガラス転移温度が−64℃以下であることを特徴としている。
【0024】
このため、金属塩添加後のガラス転移温度の上昇が少ないエチレンオキシド系共重合を提供することができるという効果を奏する。
【0025】
本発明に係る重合体組成物は、以上のように、上記本発明に係るエチレンオキシド系共重合体と有機酸金属塩とを含むことを特徴としている。
【0026】
このため、エチレンオキシド系共重合体のガラス転移温度に基づいて容易に、重合体組成物のガラス転移温度を設計することができるという効果を奏する。
【0027】
本発明に係るリチウム二次電池は、以上のように、本発明に係る上記重合体組成物を含むことを特徴としている。
【0028】
このため、温和な条件でも作動させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明に係るエチレンオキシド系共重合体(以下、本発明の共重合体と記することがある)について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。尚、本明細書において、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを示す。
【0030】
また、本明細書で挙げられている各種物性は、特に断りの無い限り後述する実施例に記載の方法により測定した値を意味する。
【0031】
(1)エチレンオキシド系共重合体
本発明に係るエチレンオキシド系共重合体は、結晶化温度が20℃以下であり、かつガラス転移温度が−64℃以下である。
【0032】
本発明に係るエチレンオキシド系共重合体は、結晶化温度が20℃以下であり、より好ましくは−20〜18℃の範囲内であり、特に好ましくは−15〜15℃の範囲内である。
【0033】
上記結晶化温度は、共重合体におけるエチレンオキシド鎖の長さ(分子量)により調製することができ、コモノマーの含有割合を増加させることにより結晶化温度を低くすることができる。
【0034】
また、本発明に係るエチレンオキシド系共重合体は、ガラス転移温度が−64℃以下であり、より好ましくは−80〜−64℃の範囲内であり、特に好ましくは−70〜−65℃の範囲内である。
【0035】
上記ガラス転移温度は、結晶化温度と同様に、エチレンオキシドとコモノマーとの量比で調整することができる。また、共重合体に含まれるコモノマーの単独重合体のガラス転移温度が予め分かっている場合には、例えば、共重合モノマーが2種類の場合、下記式
1/Tg=w/Tg+w/Tg
(式中、Tgは共重合体のガラス転移温度、TgはコモノマーAからなる単独重合体のガラス転移温度、wはコモノマーAの共重合体における重量分率、TgはコモノマーBからなる単独重合体のガラス転移温度、wはコモノマーBの共重合体における重量分率である。ここで、式中の各ガラス転移温度は絶対温度であり、w+w=1である。)
により算出することができる。
【0036】
より具体的には、例えば、エチレンオキシド(EO)単独重合体のガラス転移温度が−63℃であり、プロピレンオキシド(PO)単独重合体のガラス転移温度が−75℃である場合、コモノマー組成が重量比でEO/PO=90/10である共重合体のガラス転移温度は−64.2℃であり、コモノマー組成が重量比でEO/PO=80/20である共重合体のガラス転移温度は−65.3℃であり、コモノマー組成が重量比でEO/PO=70/30である共重合体のガラス転移温度は−66.5℃である。
【0037】
更には、本発明に係るエチレンオキシド系共重合体は、結晶化熱が60mJ/mg以下であることが好ましく、より好ましくは0〜50mJ/mgの範囲内であり、特に好ましくは5〜40mJ/mgの範囲内である。
【0038】
結晶化熱は、結晶化した分子鎖の量に依存し、結晶化し難くすれば結晶化熱を低下させることができる。具体的には、コモノマーの量比を増加させることや、側鎖の鎖長を長くすることにより結晶化熱を低下させることができる。
【0039】
上記結晶化温度、ガラス転移温度及び結晶化熱の好ましい範囲の上限値を超える場合、エチレンオキシドの連鎖に由来する結晶形成の阻害が不十分となり、エチレンオキシド系共重合体と金属塩との相互作用が十分抑制されず、金属塩を加えた場合におけるガラス転移温度の上昇が従来のエチレンオキシド系共重合体と同等の重合体しか得られない。また、下限値より低い場合、コモノマー由来の構造が過剰に存在することになり、疎水性が高くなりすぎる結果、エチレンオキシド系共重合体と金属塩との親和性が低下し、ひいては金属塩がエチレンオキシド系共重合体に溶解できなくなり、金属塩の添加効果を得ることができなくなる。
【0040】
上記エチレンオキシド系共重合体としては、例えば、エチレンオキシドと下記一般式(I)
【0041】
【化1】

【0042】
(ただし、Rは、Ra(Raは、炭素数1〜16の、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、(メタ)アクリロイル基及びアルケニル基の中の何れか1つの置換基である)、又はCH−O−Re−Ra基(Reは、−(CH−CH−O)−の構造を有し、pは0〜10までの整数)である)
で表される構造を有する置換オキシラン化合物の少なくとも1種類を含む単量体組成物を共重合して得られる共重合体が挙げられる。尚、上記Rとしては、合成等の容易さ等から、Raであることがより好ましい。
【0043】
上記一般式(I)で表される置換オキシラン化合物としては、例えば、プロピレンオキシド、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシイソブタン、2,3−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシへキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシオクタデカン、1,2−エポキシエイコサンシクロヘキセンオキシド及びスチレンオキシド、又は、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、エチレングリコールメチルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0044】
また、置換基Rが架橋性の置換基である場合としては、エポキシブテン、3,4−エポキシ−1−ペンテン、1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエン、3,4−エポキシ−1−ビニルシクロへキセン、1,2−エポキシ−5−シクロオクテン、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、ソルビン酸グリシジル及びグリシジル−4−ヘキサノエート、又は、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、4−ビニルシクロヘキシルグリシジルエーテル、α−テルペニルグリシジルエーテル、シクロヘキセニルメチルグリシジルエーテル、4−ビニルベンジルグリシジルエーテル、4−アリルベンジルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、エチレングリコールアリルグリシジルエーテル、エチレングリコールビニルグリシジルエーテル、ジエチレングリコールアリルグリシジルエーテル、ジエチレングリコールビニルグリシジルエーテル、トリエチレングリコールアリルグリシジルエーテル、トリエチレングリコールビニルグリシジルエーテル、オリゴエチレングリコールアリルグリシジルエーテル及びオリゴエチレングリコールビニルグリシジルエーテル等が挙げられる。上述したように、これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0045】
また、トリメチルシリル等のケイ素を含有する基やフッ化アルキル基を有するエポキシ化合物も少ない添加量で疎水性を高めることができるため、好ましい。
【0046】
本発明に係るコモノマーとしては、入手のし易さや反応性の制御、効率的に疎水性を向上させるという観点から、プロピオンオキシドやブチレンオキシドを用いることが好ましい。また、架橋導入を行う場合には、同様の理由から、アリルグリシジルエーテルを用いることが好ましい。
【0047】
上述したエチレンオキシド連鎖の切断と疎水性制御、エチレンオキシド系共重合体と金属塩とのなじみ(親和性)及び金属塩のエチレンオキシド系共重合体への溶解性の観点から、使用するコモノマーの総量は、重合に用いるモノマー全体の1〜30モル%の範囲内であることが好ましい。更に好ましくは5〜28モル%の範囲内であり、特に好ましくは10〜20モル%の範囲内である。架橋性モノマー量は、特には限定されず、必要な特性が得られるように適宜設定すればよい。また、共重合するコモノマーによるエチレンオキシド連鎖の切断を効果的に行うには、ランダム共重合体が好ましい。
【0048】
本発明に係るエチレンオキシド系共重合体は、より好ましくは、エチレンオキシド/ブチレンオキシド/アリルグリシジルエーテルからなる共重合体がより好ましい。
【0049】
上記単量体組成物は、エチレンオキシド及び上記置換オキシラン化合物のみではなく、他の単量体を含む場合であってもよい。また、得られる共重合体の疎水性を効率的に向上させるという観点から、上記置換オキシラン化合物としてはプロピレンオキシド、ブチレンオキシド、1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシへキサン等のアルキレンオキシドを用いることがより好ましい。
【0050】
上述した共重合体の中でも、電池に使用する場合には特に、モノマーの汎用性及び重合性の観点から、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、及びアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される少なくとも1つのコモノマーと、エチレンオキシドとの共重合体が好ましい。
【0051】
エチレンオキシドの連鎖に由来する結晶形成を考慮すれば、エチレンオキシド系共重合体の分子量が低いほど結晶化温度、ガラス転移温度、及び結晶化熱を引き下げることが可能であるが、エチレンオキシド系共重合体としての特性を発揮させるためには、重量平均分子量は5千以上であることが好ましい。更に好ましくは1万〜100万の範囲内であり、特に好ましくは2万〜50万の範囲内である。上記好ましい範囲の上限値を上回った場合、バルク・溶液の性状に関わらず、高粘度化により取り扱いが難しくなるという問題が生じる。
【0052】
本発明に係るエチレンオキシド系共重合体の製造方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法により、オキシラン単量体を開環重合することにより所望の共重合体が得られるように重合触媒や重合溶媒を適宜選択すればよい。
【0053】
上記重合触媒としては、特に限定はされないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、カリウムアルコラート、ナトリウムアルコラート、炭酸カリウム及び炭酸ナトリウム等のアルカリ性触媒や、金属カリウム及び金属ナトリウム等の金属や、有機アルミニウム触媒、有機亜鉛触媒等が好ましく挙げられる。
【0054】
上記重合溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン及びエチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘプタン、オクタン、n−へキサン、n−ペンタン、2,2,4−トリメチルペンタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロへキサン、メチルシクロへキサン等の脂環式炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、メチルブチルエーテル等のエーテル系溶媒;ジメトキシエタン等のエチレングリコールジアルキルエーテル類の溶媒;THF(テトラヒドロフラン)、ジオキサン等の環状エーテル系溶媒;等の、水酸基等の活性水素を含まない有機溶媒が好ましく、トルエン及びキシレンがより好ましい。
【0055】
上記重合触媒と重合溶媒を用いて、エチレンオキシド系共重合体を製造する際には、単量体組成物を溶媒の中で撹拌しながら重合を行うようにする。このような重合の方法としては、例えば、溶液重合法や沈殿重合法等が好ましく挙げられ、この中でも溶液重合法が生産性に優れているためより好ましい。更には、予め仕込んだ溶媒に原料となる単量体組成物を供給しながら重合を行う溶液重合法が、反応熱を除熱しやすい等の安全性の観点から特に好ましい。
【0056】
(2)重合体組成物
本発明に係る重合体組成物は、上述したエチレンオキシド系共重合体と有機酸金属塩とを含む。
【0057】
上記有機酸金属塩としては、特には限定されず従来公知の物質を用いることができる。具体的には、酢酸やトリフルオロ酢酸等のカルボン酸類;メタンスルホン酸やトリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸類;ジシアノトリアゾール、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド等の強い酸性を示すNH化合物等の酸残基を有する、アルカリ金属塩(Li、Na、K)等が挙げられる。
【0058】
上記有機酸金属塩としては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム等のパーフルオロアルキルスルホン酸リチウム、リチウム ジシアノトリアゾレート、リチウム ビストリフルオロメチルスルホニウムイミド、リチウム ジフルオロスルホニルイミド、リチウム ヘキサフルオロホスフェート、リチウム テトラフルオロボレート、過塩素酸リチウム等のリチウム塩や、カリウムビストリフルオロメチルスルホニウムイミド等のカリウム塩や、酢酸ナトリウム等のナトリウム塩等が挙げられる。これらの中でも、リチウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、リチウム ジフルオロスルホニルイミド、リチウム ジシアノトリアゾレート、リチウム ヘキサフルオロホスフェート、リチウム テトラフルオロボレート、過塩素酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムは電池に好適に使用することができ、リチウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、リチウム ジフルオロスルホニルイミド、リチウム ジシアノトリアゾレートを特に好適に使用することができる。
【0059】
上記重合体組成物におけるエチレンオキシド系共重合体の含有量は、50〜99重量%の範囲内が好ましく、より好ましくは60〜95重量%の範囲内であり、特に好ましくは70〜90重量%の範囲内である。また、上記重合体組成物における有機酸金属塩の含有量は、1〜50重量%の範囲内が好ましく、より好ましくは5〜40重量%の範囲内であり、特に好ましくは10〜30重量%の範囲内である。
【0060】
上記重合体組成物の製造方法としては、特には限定されないが、例えば、後述する実施例に記載されているように、上述したエチレンオキシド系共重合体と有機酸金属塩とを有機溶媒に溶解させた後、有機溶媒を除去する方法等が挙げられる。またこの際、エチレンオキシド系共重合がアリル基等の反応性置換基を有する場合には、有機酸金属塩をエチレンオキシド系共重合に添加後、架橋反応を行ってもかまわない。
【0061】
上記架橋反応としては、例えば、光ラジカル重合開始剤を添加した後に紫外線照射をすることにより行ってもよい。
【0062】
本発明に係るエチレンオキシド系共重合体若しくは重合体組成物は、特に限定はされないが、具体的には、例えば、接着剤、塗料、シーリング剤、エラストマー、床材等のポリウレタン樹脂の他、硬質、軟質もしくは半硬質のポリウレタン樹脂、さらには、界面活性剤、帯電防止剤、サニタリー製品、脱墨剤、潤滑油、作動液、高分子電解質等といった広範囲な用途に対する高分子材料として好ましく使用することができる。
【0063】
以上に示したように、本発明に係るエチレンオキシド系共重合体は、言い換えれば、結晶化温度が20℃以下であり、かつガラス転移温度が−64℃以下であるエチレンオキシド系共重合体を含む、接着剤、塗料、シーリング剤、エラストマー、床材、界面活性剤、脱墨剤、潤滑油、作動液、帯電防止剤、電解質から選ばれる少なくとも1つ(以下、「接着剤等」と記す)である。これにより、金属塩を含む場合であっても、金属塩を添加する前のエチレンオキシド系共重合体と比べて、ガラス転移温度の変化が小さいため、エチレンオキシド系共重合体のガラス転移温度に基づいて容易に、接着剤等のガラス転移温度を設計することができる。
【0064】
また、上記接着剤等は、結晶化熱が60mJ/mg以下であることが好ましい。これにより、エチレンオキシド系共重合体のガラス転移温度に基づいてより精度よく、接着剤等のガラス転移温度を設計することができる。
【0065】
更には、本発明に係る重合体組成物は、言い換えれば、本発明に係るエチレンオキシド系共重合体と有機酸金属塩とを含むことを特徴とする接着剤等である。
【0066】
(3)リチウム二次電池
本実施の形態に係るリチウム二次電池は、主に電解質と、正極と、負極とから構成され、上述した重合体組成物を含む。具体的には、本実施の形態に係るリチウム二次電池では、上述した重合体組成物を電解質、正極、及び負極の少なくとも一方に含んでおり、上述した重合体組成物を電解質に含むことがより好ましい。
【0067】
本実施の形態に係るリチウム二次電池は、例えば、負極/電解質/正極の順に積層させることにより作製することができる。
【0068】
〔正極〕
上記正極は、例えば、正極を構成する材料を溶媒に溶解及び分散させて得られるスラリーを、集電体上に塗工後、乾燥させて加圧成形することにより作製することができる。
【0069】
上記正極の作製にあたって、上記重合体組成物以外に正極活物質、導電助剤、溶媒等の材料が使用される。正極活物質としては、リチウム−マンガン複合酸化物、コバルト酸リチウム、五酸化バナジウム、オリビン型リン酸鉄、ポリアセチレン、ポリピレン、ポリアニリン、ポリフェニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリピロール、ポリフラン、ポリアズレン等が挙げられる。
【0070】
また、導電助剤には、ケッチェンブラックやアセチレンブラック、グラファイト等の炭素材料を使用することができる。無溶媒で重合体組成物と正極活物質と導電助剤とを混練することで正極組成物を得ることもできるが、溶媒を用いることで容易に正極組成物を得ることができる。
【0071】
このときの溶媒としては、トルエン等の芳香族炭化水素化合物やアセトニトリルやアセトン、テトラヒドロフラン等の活性水素を含まない極性化合物を用いることができる。
【0072】
以上の材料からなるスラリーにおけるエチレンオキシド系共重合体の割合は、スラリーに対して15〜60重量%であることが好ましく、より好ましくは20〜55重量%、更に好ましくは25〜50重量%である。
【0073】
エチレンオキシド系共重合体の上記割合が上記範囲よりも低いと生産性が極端に低下するため、好ましくない。一方、上記割合が上記範囲よりも高いと粘度が高くなり、混合及び攪拌が困難になり、正極活物質と導電助剤との均一分散性を低下させる恐れがある。
【0074】
上記重合体組成物における有機酸金属塩の割合は、上記エチレンオキシド系共重合体の酸素原子と、上記有機金属塩中のリチウム原子とのモル比(O/Li)が1〜36となるようにすることが好ましく、より好ましくは3〜33、更に好ましくは6〜30である。
【0075】
有機酸金属塩が上記範囲よりも少ないとイオン伝導性が低下し電池としての性能が低下する恐れがあり、一方、有機金属塩が上記範囲よりも多いと、それ以上添加してもイオン伝導性を高める効果が得られず経済性に劣ることとなる恐れがある。
【0076】
また、正極活物質は上記エチレンオキシド系共重合体に対して重量で0.1〜50倍であることが好ましく、より好ましくは0.3〜20倍、更に好ましくは0.5〜10倍である。正極活物質が上記範囲よりも少ないと、正極としての機能が十分に発揮されない恐れがあり、上記範囲よりも多いと正極材料の成形が困難となる恐れがある。
【0077】
導電助剤は、上記正極活物質に対して0.1〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは1〜15重量%である。導電助剤が上記範囲よりも少ないと正極の導電性が不十分となり正極の性能が発揮できない恐れがあり、上記範囲よりも多いと正極材料の成形が困難となる恐れがある。
【0078】
上記のように調製した正極組成物スラリーを集電体上に塗布及び乾燥後、加圧成形することにより正極を作製することができる。集電体には、アルミニウム箔等の金属箔を使用することができる。
【0079】
〔電解質〕
上記電解質は正極と負極との短絡を防ぐため、上記重合体組成物の架橋体を膜状にして用いることが好ましい。
【0080】
上記膜の作製方法としては、重合体と有機酸リチウム塩とを混練押出により薄膜に成形した後に、重合体の反応性を活かして架橋反応させることや、重合体と有機酸リチウム塩とを溶媒に溶解した後に、テフロン(登録商標)等のシート状に塗工及び乾燥して得た膜を架橋させること等が挙げられる。
【0081】
このとき、溶媒として、トルエン等の芳香族炭化水素化合物やアセトニトリルやアセトン、テトラヒドロフラン等の活性水素を含まない極性化合物を用いることができる。
【0082】
上記重合体組成物中の有機金属塩の使用量は、上記エチレンオキシド系共重合体中の酸素原子と有機金属塩中のリチウム原子とのモル比(O/Li)が1〜36となるようにすることが好ましく、より好ましくは3〜33、更に好ましくは6〜30である。
【0083】
有機金属塩が上記範囲よりも少ないとイオン伝導性が低下し、電池としても性能が低下する恐れがあり、一方、有機酸金属塩が上記範囲よりも多いと、それ以上添加してもイオン伝導性を高める効果が得られず経済性に劣ることとなる恐れがある。
【0084】
電解質膜の作製に際しては、膜の強度等の取り扱い性を向上させるため、アエロジル(登録商標)等の微粒子を添加することも可能である。
【0085】
〔負極〕
上記負極材料としては、リチウムがグラファイトあるいはカーボンの層間に吸蔵された層間化合物、リチウム金属、リチウム−鉛合金、リチウム−ケイ素合金、リチウム−亜鉛合金、グラファイトやメソカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛、チタン酸リチウム等のリチウムを結晶構造中に吸蔵した化合物等が挙げられる。また、高いイオン伝導性を利用してアルカリ金属イオン、Cuイオン、Caイオン、及びMgイオン等の陽イオンのイオン電極の隔膜としての利用も考えられる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下では、便宜上、「重量部」を単に「部」と、「時間」を単に「h」と、「リットル」を単に「L」と記すことがある。また、「重量」を「wt」と記す(例えば、「重量%」を「wt%」と、「重量/重量」を「wt/wt」と記す。)ことがある。
【0087】
下記重合例、実施例及び比較例での、使用原料の前処理や各種測定の条件を以下に示す。このように、実施例1〜4及び比較例1〜7において得られた反応混合物について、以下に示す評価及び測定を行った。これらの結果を表1及び表2に示す。なお、各反応混合物に含まれるポリマーの重量平均分子量(Mw)並びに分子量分布(Mw/Mn)も合わせて表1に示す。
【0088】
〔モレキュラーシーブによる脱水処理〕
乾燥する原料単量体や溶媒等に対して、10wt%のモレキュラーシーブ(ユニオン昭和社製、製品名:モレキュラーシーブ(タイプ:4A 1.6))を添加後、窒素置換し、室温で12時間以上静置した。
【0089】
〔重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)の測定〕
反応後に得られた反応混合物(エチレンオキシド共重合体を含む)を、所定の溶媒に溶解後、ポリエチレンオキシドの標準分子量サンプルを用いて検量線を作成したGPC装置(東ソー社製、製品名:HLC−8220 GPC)を用いて、重量平均分子量(Mw)、並びに分子量分布(Mw/Mn)を測定した。
【0090】
〔熱分析:ガラス転移温度、結晶化温度、結晶化熱、融点〕
示差熱分析装置を用いて、下記温度パターンで、ポリマーのガラス転移温度及び結晶化温度、結晶化熱を測定した。サンプルとするエチレンオキシド系共重合体は、得られた反応混合物を減圧乾燥機で80℃、2h乾燥を行い、反応混合物中の揮発分を除くことにより調製した。
【0091】
温度パターン:分析装置(セイコー電子工業社製、製品名:熱分析装置 SSC5200Hシステム)内で100℃まで急熱(急加熱)することにより一旦ポリマーを融解後、−150℃まで急冷することにより結晶化したポリマーを5℃/minで100℃まで昇温する際の結晶の融解挙動から融点を求めた。さらに、100℃から5℃/minで−20℃まで冷却する際に現れる結晶化に伴う発熱ピークから結晶化温度を求めた。
【0092】
〔電池評価〕
電池評価における作業は、特に断りのない限り露点が−45℃以下に管理された環境下で行った。
【0093】
(1)正極の作製
(i)密閉容器中でリチウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド2.6部をアセトニトリル58部に溶解させた溶液に、エチレンオキシド系共重合体12.5部を加え、よく攪拌し均一な重合体の溶液を得た。
【0094】
(ii)(i)で得た溶液にV(新興化学社製)/ケッチェンブラック(ライオン社製、V/ケッチェンブラック=95wt%/5wt%)27部を加え、ホモミキサーで混合及び分散させて得た正極組成物のスラリーを、150メッシュ金網を備えた加圧ろ過器でろ過後、脱泡してから集電体(InteliCoat社製、carbon-coated Aluminum foil(幅:202mm with a 6mm uncoated edge)上に塗工した。
【0095】
(iii)減圧乾燥機を用いて、60℃×30分間乾燥した後、卓上プレス機を用いて60℃、30MPaで5分間加圧成形した。
【0096】
(2)高分子電解質膜(SPE)の作製
(i)密閉容器中でリチウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド2.5部、ヨシノックスBB(商品名、エーピーアイ コーポレーション社製)0.05部をアセトニトリル18部に溶解させた溶液に、ESACURE KTO46(Sartomer社製)0.1部を添加し更に攪拌し、均一な溶液とした。
【0097】
(ii)エチレンオキシド系共重合体10gを加え、アルミホイルを用いて容器に遮光を施した上でよく攪拌して得た重合体の溶液をろ過した後、テフロン(登録商標)シート上に塗工し、減圧乾燥機を用いて、60℃で30分間乾燥し、UV照射しSPE膜を架橋させた(照度;300mW/cm、450W×40秒、室温〜60℃)。
【0098】
(3)セル組立て
(i)上記(1)及び(2)の操作でそれぞれ作製した高分子電解質膜と、正極膜と、Li箔とをポンチで打ち抜いた。ここで、正極膜は精密天秤にてカソード付き集電体の重量を測定した。
【0099】
(ii)層間に空気が入らないように注意しながら、Li箔/SPE/正極膜の順番で積層させた。
【0100】
(iii)コイン電池内に積層物を入れ、バネで圧着を図りながらかしめ機でかしめた。
【0101】
(4)電池評価
温度を40℃に設定した恒温槽に、作製した上記コイン電池を設置し、c/24で3回後c/8の定電流で充放電を繰り返し、その充放電量を記録した。
【0102】
〔実施例1〕
マックスブレンド翼(住友重機械工業(株)製)、並びに添加口を備えた1Lの反応器を溶媒で洗浄した後、加熱乾燥・窒素置換を行った。この反応器に、モレキュラーシーブにより脱水処理を施したトルエン286.5部と、反応開始剤としてt−ブトキシカリウム(20wt%テトラヒドロフラン(THF)溶液)0.54部(総単量体仕込量に対して375ppm)とを順次投入した。投入後、反応器内の窒素置換を行い、反応器内の圧力が0.3MPaになるまで窒素で加圧し、マックスブレンド翼を回転させて撹拌しながら、オイルバスを用いて昇温した。
【0103】
内温が90℃になったことを確認後、エチレンオキシドと、モレキュラーシーブにより脱水処理を施したブチレンオキシド及びアリルグリシジルエーテルからなる単量体混合物(混合比(wt/wt):ブチレンオキシド/アリルグリシジルエーテル=15/3)とをそれぞれ47部/h、10.3部/hの供給速度で2.5時間定量的に供給した後、供給速度をそれぞれ23.5部/h、5.15部/hに低下させ更に5時間定量的に供給した(エチレンオキシドの供給量:計235部、単量体混合物の供給量:計51.5部)。
【0104】
尚、供給中は、重合熱による内温上昇及び内圧上昇を監視・制御しながら、100℃±5℃の範囲内の温度で反応を行った。供給終了後、さらに90℃以上100℃以下の範囲内で5時間保持して熟成して、エチレンオキシド系共重合体(A−1)を含む反応混合物を得た。
【0105】
上述した方法により、エチレンオキシド系共重合体(A−1)の分子量測定並びに熱分析を行った結果、重量平均分子量Mwは89,000であり、分子量分布Mw/Mnは1.68であり、ガラス転移温度(Tg)は−65.9℃であり、結晶化温度(Tc)は10.6℃であり、結晶化熱(ΔTc)は10.5mJ/mgであり、融点(Tm)は30.5℃であった。また、電池評価の結果を図1に示す。
【0106】
〔比較例1〕
エチレンオキシドと、ブチレンオキシド及びアリルグリシジルエーテルからなる単量体混合物(混合比(wt/wt):ブチレンオキシド/アリルグリシジルエーテル=8/3)とをそれぞれ51部/h、6.3部/hの供給速度で2.5時間定量的に供給した後、供給速度をそれぞれ25.5部/h、3.15部/hに低下させ更に5時間定量的に供給した(エチレンオキシドの供給量:計255部、単量体混合物の供給量:計31.5部)こと以外は実施例1と同様の操作を行い、エチレンオキシド系共重合体(A−2)を含む反応混合物を得た。
【0107】
上述した方法により、分子量測定並びに熱分析を行った結果、重量平均分子量Mwは91,000であり、分子量分布Mw/Mnは1.86であり、ガラス転移温度(Tg)は−62.1℃であり、結晶化温度(Tc)は21.1℃であり、結晶化熱(ΔTc)は66.8mJ/mgであり、融点(Tm)は36.9℃であった。また、電池評価の結果を図1に示す。
【0108】
〔比較例2〕
エチレンオキシド及び単量体混合物(混合比(wt/wt):ブチレンオキシド/アリルグリシジルエーテル=8/3)の供給条件を下記の通りとしたこと以外は比較例1と同様の操作を行い、エチレンオキシド系共重合体(A−3)を含む反応混合物を得た。
【0109】
上述した方法により、分子量測定並びに熱分析を行った結果、重量平均分子量Mwは104,000であり、分子量分布Mw/Mnは1.70であり、ガラス転移温度(Tg)は−62.5℃であり、結晶化温度(Tc)は20.6℃であり、結晶化熱(ΔTc)は93.8mJ/mgであり、融点(Tm)は48.0℃であった。また、電池評価の結果を図1に示す。
【0110】
<供給条件>
エチレンオキシドを51部/hで供給開始後30分経過してから、単量体混合物(混合比(wt/wt):ブチレンオキシド/アリルグリシジルエーテル=8/3)を7.5部/hの供給速度で供給を開始した。更にエチレンオキシドの供給開始2.5時間経過後、供給速度をそれぞれ25.5部/h、3.15部/hに低下させ更に5時間定量的に供給した(エチレンオキシドの供給量:計255部、単量体混合物の供給量:計31.5部)。
【0111】
〔実施例2〕
実施例1により得られた反応混合物を減圧乾燥機で80℃、2h乾燥を行い、反応混合物中の揮発分を取り除き、エチレンオキシド系共重合体(A−1)を得た。
【0112】
得られたエチレンオキシド系共重合体(A−1)9.02部にリチウムジシアノトリアゾレート(LiDCTA)0.98部、アセトニトリル50.00部及び光ラジカル重合開始剤イルガキュアー651(長瀬産業社製)を0.1部加えて攪拌溶解させた。得られた混合物溶液をテフロン(登録商標)シート上に厚さ50μmに塗布した後、減圧乾燥機で80℃、2h乾燥を行い、塗膜中の揮発分を取り除いた。
【0113】
上記乾燥後、UVを照射し(UV照射機:ウシオ電機社製、焼付用光源装置 URM−100)、UV照射条件:(出力)450W、(照射時間)40秒)、重合体組成物からなる膜を得た。得られた重合体組成物からなる膜の熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)は−51.1℃であり、結晶化温度(Tc)は−7.5℃であり、結晶化熱(ΔTc)は42.7mJ/mgであり、融点(Tm)は18.2℃であった。
【0114】
〔比較例3〕
実施例1により得られた反応混合物を用いる替わりに、比較例1により得られた反応混合物を使用すること以外は実施例2と同様の操作を行い、重合体組成物からなる膜を得た。得られた重合体組成物からなる膜の熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)は−46.1℃であり、結晶化温度(Tc)は−1.2℃であり、結晶化熱(ΔTc)は81.9mJ/mgであり、融点(Tm)は34.3℃であった。
【0115】
〔実施例3〕
実施例1により得られた反応混合物を減圧乾燥機で80℃、2h乾燥を行い、反応尾混合物中の揮発分を取り除き、エチレンオキシド系共重合体(A−1)を得た。
【0116】
得られたエチレンオキシド系共重合体(A−1)8.00部にリチウムビストリフルオロメチルスルホニウムイミド(LiTFSI)2.00部、アセトニトリル50.00部及び光ラジカル重合開始剤イルガキュアー651(長瀬産業社製)を0.1部加えて攪拌溶解させた。得られた混合物溶液をテフロン(登録商標)シート上に厚さ50μmに塗布した後、減圧乾燥機で80℃、2h乾燥を行い、塗膜中の揮発分を取り除いた。
【0117】
上記乾燥後、UVを照射し(UV照射機:ウシオ電機社製、焼付用光源装置 URM−100)、UV照射条件:(出力)450W、(照射時間)40秒)、重合体組成物からなる膜を得た。得られた重合体組成物からなる膜の熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)は−59.7℃であり、結晶化温度(Tc)は−23.9℃であり、結晶化熱(ΔTc)は9.7mJ/mgであり、融点(Tm)は14.3℃であった。
【0118】
〔比較例4〕
実施例1により得られた反応混合物を用いる替わりに、比較例1により得られた反応混合物を使用すること以外は実施例3と同様の操作を行い、重合体組成物からなる膜を得た。得られた重合体組成物からなる膜の熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)は−52.2℃であり、結晶化温度(Tc)は1.0℃であり、結晶化熱(ΔTc)は4.6mJ/mgであり、融点(Tm)は26.8℃であった。
【0119】
〔比較例5〕
実施例1により得られた反応混合物を用いる替わりに、比較例2により得られた反応混合物を使用すること以外は実施例3と同様の操作を行い、重合体組成物からなる膜を得た。得られた重合体組成物からなる膜の熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)は−45.4℃であり、結晶化温度(Tc)は−4.8℃であり、結晶化熱(ΔTc)は29.6mJ/mgであり、融点(Tm)は40.4℃であった。
【0120】
〔実施例4〕
実施例1により得られた反応混合物を減圧乾燥機で80℃、2h乾燥を行い、反応混合物中の揮発分を取り除き、エチレンオキシド系共重合体(A−1)を得た。
【0121】
得られたエチレンオキシド系共重合体(A−1)7.83部にカリウムビストリフルオロメチルスルホニウムイミド(KTFSI)2.17部及びアセトニトリル50.00部を加えて攪拌溶解させた。得られた混合物溶液をテフロン(登録商標)シート上に厚さ50μmで塗布した後、減圧乾燥機で80℃、2h乾燥を行い、塗膜中の揮発分を取り除き、重合体組成物からなる膜を得た。得られた重合体組成物からなる膜の熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)は−58.3℃であり、結晶化温度(Tc)は−32.7℃であり、結晶化熱(ΔTc)は136.0mJ/mgであり、融点(Tm)は39.3℃であった。
【0122】
〔比較例6〕
実施例1により得られた反応混合物を用いる替わりに、比較例1により得られた反応混合物を使用すること以外は実施例4と同様の操作を行い、重合体組成物からなる膜を得た。得られた重合体組成物からなる膜の熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)は−48.5℃であり、結晶化温度(Tc)は−28.4℃であり、結晶化熱(ΔTc)は90.7mJ/mgであり、融点(Tm)は39.1℃であった。
【0123】
〔比較例7〕
実施例1により得られた反応混合物を用いる替わりに、比較例2により得られた反応混合物を使用すること以外は実施例4と同様の操作を行い、重合体組成物からなる膜を得た。得られた重合体組成物からなる膜の熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)は−48.0℃であり、結晶化温度(Tc)は−23.1℃であり、結晶化熱(ΔTc)は117.0mJ/mgであり、融点(Tm)は40.1℃であった。
【0124】
〔実施例5〕
実施例1により得られた反応混合物を減圧乾燥機で80℃、2h乾燥を行い、反応尾混合物中の揮発分を取り除き、エチレンオキシド系共重合体(A−1)を得た。
【0125】
得られたエチレンオキシド系共重合体(A−1)9部に酢酸ナトリウム(CHCOONa)1部及びアセトニトリル50.00部を加えて攪拌溶解させた。得られた混合物溶液をテフロンシート上に厚さ50μmで塗布した後、減圧乾燥機で80℃、2h乾燥を行い、塗膜中の揮発分を取り除き、重合体組成物からなる膜を得た。得られた重合体組成物からなる膜の熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)は−62.2℃であり、結晶化温度(Tc)は−29.0℃であり、結晶化熱(ΔTc)は138.0mJ/mgであり、融点(Tm)は39.1℃であった。
【0126】
〔比較例8〕
実施例1により得られた反応混合物を用いる替わりに、比較例1により得られた反応混合物を使用すること以外は実施例5と同様の操作を行い、重合体組成物からなる膜を得た。得られた重合体組成物からなる膜の熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)は−57.3℃であり、結晶化温度(Tc)は−32.8℃であり、結晶化熱(ΔTc)は87.3mJ/mgであり、融点(Tm)は39.1℃であった。
【0127】
以上の結果を下記表1,2に示す。
【0128】
【表1】

【0129】
【表2】

【0130】
表1,2に示すように、同じ有機酸金属塩を用いた場合において、実施例1により得られたエチレンオキシド系共重合体(A−1)は、比較例2,3で得られたエチレンオキシド系共重合体(A−2),(A−3)と比較して、Tgの上昇幅が小さいことが確認できた。特に、実施例3では、比較例4,5と比べてTg変化幅が約1/3〜3/5であり、実施例3では比較例4,5と比べてTg変化幅が約35〜60%であり、実施例4では比較例6,7と比べてTg変化幅が50%前後であった。
【0131】
エチレンオキシド共重合体は、通常、そのガラス転移温度を1℃下げるためには、エチレンオキシドにコモノマーを5〜10重量%程度加えて共重合させる必要がある(例えば、ポリエチレンオキシドにプロピレンオキシドを共重合させる場合、ガラス転移温度を1℃下げるためには、モノマー中に約10重量%のプロピレンオキシドを含有させて共重合させる必要がある)。
【0132】
つまり、ガラス転移温度の上昇幅が1℃抑えられるだけであっても、重合時に共重合させるコモノマー量を抑制することができるため、上述した実施例で示されたガラス転移温度の上昇抑制効果から判るように、本発明に係るエチレンオキシド共重合体は、分子設計における自由度が高く、従来のエチレンオキシド共重合体と比較して有利な効果を奏するものである。
【0133】
尚、上記実施例1の重合体組成物は、潤滑油、及び作動液、電解質として使用することができ、上記実施例2〜5の重合体組成物からなる膜は、帯電防止用シート、電解質、接着剤、塗料、シーリング剤、エラストマー、並びに床材として使用することができる。
【0134】
上記用途では、接着性、凝集力、及び抵抗(伝導度)が重要な性能であるが、ガラス転移温度が下がることにより、各性能(接着性、凝集力、及び抵抗)の温度依存性が小さくなり、季節を問わない幅広い温度領域で性能を発揮させることが期待できる。
【0135】
また、図1に示すように、実施例1のエチレンオキシド系共重合体を用いて作製した電池は、比較例1、2のエチレンオキシド系共重合体を用いて作製した電池と比較して、高い放電容量を示した。特に、充放電サイクル数が増加するに従って、その差は大きくなる傾向を示した。
【0136】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明のエチレンオキシド系共重合体は、結晶化温度が20℃以下であり、かつガラス転移温度が−64℃以下であるため、金属塩を加えた場合におけるガラス転移温度の上昇が少ない。このため、接着剤、塗料、シーリング剤、エラストマー、床材、潤滑油、作動液、電解質等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】実施例で得られたエチレンオキシド系共重合体を用いて作製した電池のサイクル数に対する放電容量の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化温度が20℃以下であり、かつガラス転移温度が−64℃以下であることを特徴とするエチレンオキシド系共重合体。
【請求項2】
結晶化熱が60mJ/mg以下であることを特徴とする請求項1記載のエチレンオキシド系共重合体。
【請求項3】
コモノマーを10モル%以上含むモノマー組成物を重合して得られることを特徴とする請求項1又は2に記載のエチレンオキシド系共重合体。
【請求項4】
重量平均分子量が2万以上50万以下の範囲内であるランダム共重合体であることを特徴とする請求項3に記載のエチレンオキシド系共重合体。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載のエチレンオキシド系共重合体と、有機酸金属塩とを含むことを特徴とする重合体組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の重合体組成物を含むことを特徴とするリチウム二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2008−231408(P2008−231408A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25583(P2008−25583)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】