エッチング液およびシリコン基板の表面加工方法
【課題】イソプロピルアルコール等の従来のエッチング抑制剤を使用することなく、微細なピラミッド状の凹凸(テクスチャー構造)を有するシリコン基板を安定的に形成することが可能なエッチング液を提供する。
【解決手段】シリコン基板を浸漬して、該基板表面にピラミッド状の凹凸を形成させるエッチング液であって、
下記一般式(1)で表わされる化合物(A)又はそのアルカリ塩より選択される1種以上と、濃度が0.1重量%以上30重量%以下である水酸化アルカリ(B)とを含有することを特徴とするエッチング液。
【化1】
(式中、Rは、炭素数4以上15以下のアルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基のいずれかを表し、Xは、スルホン酸基を表す。)
該エッチング液を使用することにより、シリコン基板表面に微細なテクスチャー構造を形成することができる。
【解決手段】シリコン基板を浸漬して、該基板表面にピラミッド状の凹凸を形成させるエッチング液であって、
下記一般式(1)で表わされる化合物(A)又はそのアルカリ塩より選択される1種以上と、濃度が0.1重量%以上30重量%以下である水酸化アルカリ(B)とを含有することを特徴とするエッチング液。
【化1】
(式中、Rは、炭素数4以上15以下のアルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基のいずれかを表し、Xは、スルホン酸基を表す。)
該エッチング液を使用することにより、シリコン基板表面に微細なテクスチャー構造を形成することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板表面にピラミッド状の凹凸構造を形成するためのエッチング液および該エッチング液を使用したシリコン基板の表面加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶シリコン太陽電池に使用されるシリコン基板表面には、テクスチャー構造と呼ばれる微細なピラミッド状の凹凸が形成されている。照射された光はこのテクスチャー構造により表面で多重反射することでシリコン基板への入射の機会が増加し、効率よく太陽電池内部に吸収される。
【0003】
テクスチャー構造を有するシリコン基板は、シリコンインゴットをワイヤーソー等によりスライスして得られるシリコン基板をエッチングすることにより製造される。
シリコン基板のエッチングは、いずれもアルカリ性のエッチング液を用いた湿式エッチングにより行うことができる。このエッチングは水酸化ナトリウム溶液中の場合、以下の反応式(1)、(2)、(3)等の反応によって進行する。
Si+2NaOH+H2O → Na2SiO3+2H2 反応式(1)
2Si+2NaOH+3H2O → Na2Si2O5+4H2 反応式(2)
3Si+4NaOH+4H2O → Na4Si3O8+6H2 反応式(3)
【0004】
シリコン基板の表面にテクスチャー構造を形成するために、通常はエッチング速度を制御したエッチング液を使用することにより異方性エッチングを行う。
エッチングの目的は、原料であるスライス後のシリコン基板の表面に存在するスライス加工に起因する歪みや欠損が生じたダメージ層の除去と、テクスチャー構造の形成にある。ダメージ層の除去とテクスチャー構造の形成を同じエッチング液で実施しても良いし、生産性の観点からはダメージ層の除去とテクスチャーの形成に異なるエッチング液を使用した2段階のエッチング処理を行っても良い。
2段階のエッチング処理は、先ず、比較的エッチング速度の速いアルカリ性のエッチング液によってダメージ層除去エッチングを行い、次いで、テクスチャーエッチングとしてエッチング速度を制御したエッチング液を使用することにより異方性エッチングを行う処理方法である。
いずれの方法においてもシリコン基板の表面へのテクスチャー構造の形成は、以下のメカニズムに基づく。
シリコン基板のアルカリ水溶液によるエッチング速度は、シリコンの(100)面が最も早く、(111)面が最も遅い。そのため、アルカリ水溶液にエッチング速度を低下させることができる特定の添加剤(以下、「エッチング抑制剤」ということもある。)を添加することによってテクスチャーエッチングの速度を抑制すると、シリコンの(100)面等のエッチングされやすい結晶面が優先的にエッチングされ、エッチング速度の遅い(111)面が表面に残存する。この(111)面は、(100)面に対して約54度の傾斜を持つためにプロセスの最終段階では(111)面とその等価な面で構成されるピラミッド状の凹凸が形成される。
【0005】
ダメージ層除去エッチングには、一般的な強アルカリ薬液からなるエッチング液を用いることができるのに対し、テクスチャーエッチングにおいては、上記のエッチング抑制剤を添加し、溶液温度などの諸条件を制御することにより、エッチング速度をコントロールする必要がある。
【0006】
通常、テクスチャーエッチング用エッチング液として、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に、エッチング抑制剤としてイソプロピルアルコール(以下、「IPA」と称する場合がある。)を添加したエッチング液が使用されている。このエッチング液を60〜80℃程度に加温し、(100)面のシリコン基板を10〜30分間浸漬させる方法がとられてきた(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
さらに、45%水酸化カリウム(KOH)を水で1:1に希釈した液を85℃に加温し、シリコン基板を30分浸漬することでダメージ層を除去した後に、水酸化カリウム(KOH)水溶液に、エッチング抑制剤としてIPAを添加したエッチング液を使用してテクスチャーエッチングを行う方法も開示されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0007】
一方で、IPAは揮発性が高いため、揮発量に相当するIPAをテクスチャーエッチング液中に随時添加する必要があり、IPAの消費量が増加することによるエッチング費用の増大が問題になっている。さらに、揮発性の高いIPAを多量使用することは安全性、環境面でも好ましくなく、揮発したIPAを回収する装置を付設したとしても、エッチング処理設備の製作費用が増大すると共に、設備運転費用も増加するという問題があった。
【0008】
そのため、IPAの代替となるエッチング抑制剤を含むテクスチャーエッチング液の開発が行われている。例えば、特許文献2及び特許文献3には、脂肪族カルボン酸あるいはその塩を添加したテクスチャーエッチング液が開示されている。また、特許文献4には、無機塩を含むテクスチャーエッチング液が開示されている。
また、特許文献5には、ベンゼン環を含む化合物をエッチング抑制剤として含有するエッチング液が開示されている。
また、特許文献6には、炭素数12のアルキルスルホン酸エステル(C12H25-O-SO3Na)を含有するエッチング液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−96772号公報
【特許文献2】特開2002−57139号公報
【特許文献3】国際公開第06/046601号パンフレット
【特許文献4】特開2000−183378号公報
【特許文献5】特開2007−258656号公報
【特許文献6】中国特許CN101570897号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「Uniform Pyramid Formation on Alkaline-etched Polished Monocrystalline (100) Silicon Wafers 」 Progress in Photovoltaics , Vol.4 , 435-438 (1996)
【非特許文献2】「EXPERIMENTAL OPTIMIZATION OF AN ANISOTROPIC ETCHING PROCESS FOR RANDOM TEXTURIZATION OF SILICON SOLAR CELLS」CONFERENCE RECORD OF THE IEEE PHOTOVOLTAIC SPECIALISTS CONFERENCE , P303-308 (1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献2及び特許文献3で開示された脂肪族カルボン酸を使用する方法では、原料コストが高く、廃液処理の際に中和すると脂肪族カルボン酸が遊離し、別途油水分離工程が必要となると共に特有の悪臭が生じるという問題がある。また、廃液処理にコストがかかり、製造コストの上昇にもつながるといった問題がある。
また、特許文献4の方法では、重金属や塩類の不純物濃度を必要なレベルに抑制するには、高価なNa2CO3を使用する必要がある。また、系内の塩濃度が高くなり、シリコンのエッチングの際に副生する珪酸塩の溶解量が減少するため、テクスチャーエッチング液を頻繁に交換しなければならない。
【0012】
また、特許文献5のベンゼン環を含む化合物をエッチング抑制剤は、単純な鎖状構造の化合物に比較し、毒性及び生分解性に劣るため排水処理ならびに環境の観点から好ましくない。
【0013】
また、特許文献6には、炭素数12のアルキルスルホン酸エステル(C12H25-O-SO3Na)を添加する記載があるものの、特許文献2にも記載してある様に強アルカリの環境下ではエステル部分が徐々に加水分解を受けて、炭素数12のアルコールと硫酸水素ナトリウムが生成し、界面活性剤本来の機能を長期にわたって期待できず、微細なテクスチャー構造を再現良く形成出来ない。これらの理由で、エステル構造を有する界面活性剤を工業的に用いることは好ましくない。
【0014】
以上のように、従来のエッチング液では、シリコン基板状に微細なテクスチャー構造を再現性良く形成することができ、かつ、廃液処理や作業環境の面を含めて工業的に満足できる性能を有するエッチング液は未だ見出されていないのが実情である。
かかる状況下、本発明の目的は、IPA等の従来のエッチング抑制剤を使用することなく、微細なテクスチャー構造を有するシリコン基板を安定的に形成することが可能なエッチング液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> シリコン基板を浸漬して、該基板表面にピラミッド状の凹凸を形成させるエッチング液であって、
下記一般式(1)で表わされる化合物(A)又はそのアルカリ塩より選択される1種以上と、濃度が0.1重量%以上30重量%以下である水酸化アルカリ(B)とを含有するエッチング液。
【化1】
(式中、Rは、炭素数4以上15以下のアルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基のいずれかを表し、Xは、スルホン酸基を表す。)
<2> 化合物(A)における一般式(1)中のRが、炭素数5以上12以下のアルキル基であり、水酸化アルカリ(B)の濃度が0.5重量%以上20重量%以下である前記<1>記載のエッチング液。
<3> 化合物(A)の濃度が、0.0001重量%以上10重量%以下の範囲である前記<1>又は<2>記載のエッチング液。
<4> 水酸化アルカリ(B)が、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムである前記<1>から<3>のいずれかに記載のエッチング液。
<5> さらに珪酸塩化合物(C)を含有することを前記<1>から<4>のいずれかに記載のエッチング液。
<6> 珪酸塩化合物(C)が、ナトリウム又はカリウムの珪酸塩である前記<5>記載のエッチング液。
<7> 珪酸塩化合物(C)の濃度が、Si換算濃度として10重量%以下である前記<5>または<6>に記載のエッチング液。
<8> 前記<1>から<7>のいずれかに記載のエッチング液にシリコン基板を浸漬して、該基板表面にピラミッド状の凹凸を形成させる工程を含むことを特徴とするシリコン基板の表面加工方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のエッチング液を使用すると、シリコン基板の表面に、太陽電池用の光閉じ込めに適した微細なテクスチャー構造を再現性よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例2のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例3のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例4のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例5のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例6のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例7のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例9のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図9】比較例1のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図10】比較例2のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図11】比較例3のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図12】参考例1のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明につき詳細に説明する。
本発明は、シリコン基板を浸漬して、該基板表面にピラミッド状の凹凸を形成(以下、テクスチャー構造という。)させるエッチング液であって、下記一般式(1)で表わされる化合物(A)又はそのアルカリ塩より選択される1種以上と、濃度が0.1重量%以上30重量%以下である水酸化アルカリ(B)とを含有するエッチング液に関するものである。
【化2】
(式中、Rは、炭素数4以上15以下のアルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基のいずれかを表し、Xは、スルホン酸基を表す。)
【0020】
本発明において、「シリコン基板」とは、単結晶シリコン基板および多結晶シリコン基板を含むが、本発明のエッチング液は、単結晶シリコン基板、特に(100)面を表面に有する単結晶シリコン基板のエッチングに適する。
【0021】
化合物(A)又はそのアルカリ塩は、従来のエッチング抑制剤であるIPAと同等以上のエッチング抑制効果を示し、かつ、後述するように適用可能な濃度範囲が広いという利点がある。そのため、本発明のエッチング液を使用することによって、シリコン基板の表面にピラミッド状の凹凸の大きさ、形状を好適な範囲に制御することができる。
化合物(A)は、一般式(1)中のRが、炭素数4〜15のアルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基のいずれかである化合物であり、例えば、アルキル基構造を有する化合物として、具体的には、ブチル(C:4)スルホン酸、ペンチル(C:5)スルホン酸、ヘキシル(C:6)スルホン酸、ヘプチル(C:7)スルホン酸、オクチル(C:8)スルホン酸、ノニル(C:9)スルホン酸、デシル(C:10)スルホン酸、ウンデシル(C:11)スルホン酸、ドデシル(C:12)スルホン酸、トリデシル(C:13)スルホン酸、テトラデシル(C:14)スルホン酸、ペンタデカン(C:15)スルホン酸;
アルケニル基構造を有する化合物として、ブテン(C:4)スルホン酸、ペンテン(C:5)スルホン酸、ヘキセン(C:6)スルホン酸、ヘプテン(C:7)スルホン酸、オクテン(C:8)スルホン酸、ノネン(C:9)スルホン酸、デセン(C:10)スルホン酸、ウンデセン(C:11)スルホン酸、ドデセン(C:12)スルホン酸、トリデセン(C:13)スルホン酸、テトラデセン(C:14)スルホン酸、ペンタデセン(C:15)スルホン酸;
アルキニル基構造を有する化合物として、ブチン(C:4)スルホン酸、ペンチン(C:5)スルホン酸、ヘキシン(C:6)スルホン酸、ヘプチン(C:7)スルホン酸、オクチン(C:8)スルホン酸、ノニン(C:9)スルホン酸、デシン(C:10)スルホン酸、ウンデシン(C:11)スルホン酸、ドデシン(C:12)スルホン酸、トリデシン(C:13)スルホン酸、テトラデシン(C:14)スルホン酸、ペンタデシン(C:15)スルホン酸;
などが挙げられる。
【0022】
なお、化合物(A)のアルカリ塩におけるアルカリ成分としては、第1族元素、第2族元素が使用でき、この中でも、特に水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムは、入手が容易でコスト面でも優れるため好適である。
【0023】
化合物(A)として、好適には一般式(1)中のRが、炭素数5〜12のアルキル基である化合物である。具体的には、ペンチル(C:5)スルホン酸、ヘキシル(C:6)スルホン酸、ヘプチル(C:7)スルホン酸、オクチル(C:8)スルホン酸、ノニル(C:9)スルホン酸、デシル(C:10)スルホン酸、ウンデシル(C:11)スルホン酸、ドデシル(C:12)スルホン酸が挙げられる。
この中でも、特に均一なテクスチャー構造が得られるという観点から、好ましくは、炭素数6〜10のアルキル基である化合物である。具体的には、ヘキシル(C:6)スルホン酸、ヘプチル(C:7)スルホン酸、オクチル(C:8)スルホン酸、ノニル(C:9)スルホン酸、デシル(C:10)スルホン酸である。
【0024】
化合物(A)の濃度は、シリコン基板の表面に微細なテクスチャー構造を形成することができ、工業的に有効なエッチング速度の範囲で選択され、好ましくは0.0001重量%以上10重量%以下であり、特に好ましくは、0.0005重量%以上10重量%以下であり、さらに好ましくは、0.001重量%以上5重量%以下である。
上記範囲であると、該基板の表面を異方エッチングし、該基板の表面に微細なテクスチャー構造を形成することができる。
化合物(A)の濃度が、0.0001重量%未満の場合には、エッチングの抑制効果が不十分になるおそれがあり、また、濃度が低すぎ、エッチング液中の濃度管理が難しく再現性良く微細なテクスチャー構造を有するシリコン基板を製造することが困難となる。一方、10重量%より大きい場合には、エッチング抑制効果が強くなり過ぎて長時間を要することと薬剤コスト、水洗回数、廃液処理コストが増大するため好ましくない。
【0025】
本発明において用いる水酸化アルカリ(B)としては、第1族元素の水酸化物、第2族元素の水酸化物が使用できる。例えば、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ルビジウム(RbOH)、水酸化セシウム(CsOH)、水酸化ベリリウム(Be(OH)2)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH)2)、水酸化バリウム(Ba(OH)2)、水酸化アンモニウム(NH4OH)等が挙げられ、これらを単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。この中でも、特に水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムは、入手が容易でコスト面でも優れるため好適である。また、これらの水酸化アルカリは任意の割合で混合して使用してもよい。
【0026】
本発明のエッチング液において、エッチング液中の水酸化アルカリ(B)の濃度は、0.1重量%以上30重量%以下であることを必須とし、0.5重量%以上20重量%以下が好ましい。
この範囲であれば、エッチングが好適に進行し、シリコン基板の表面に微細なテクスチャー構造を形成することができる。アルカリ濃度が、0.1重量%未満では、エッチング速度が十分でなく、30重量%より大きいと、エッチング速度が著しく速くなりテクスチャー形成が困難になる。
【0027】
なお、本発明のエッチング液には、化合物(A)、水酸化アルカリ(B)以外に珪酸塩化合物(C)を含有させることもできる。
珪酸塩化合物(C)として具体的には、オルト珪酸リチウム(Li4SiO4・nH2O)、メタ珪酸リチウム(Li2SiO3・nH2O)、ピロ珪酸リチウム(Li6Si2O7・nH2O)、メタ二珪酸リチウム(Li2Si2O5・nH2O)、メタ三珪酸リチウム(Li4Si3O8・nH2O)、オルト珪酸ナトリウム(Na4SiO4・nH2O)、メタ珪酸ナトリウム(Na2SiO3・nH2O)、ピロ珪酸ナトリウム(Na6Si2O7・nH2O)、メタ二珪酸ナトリウム(Na2Si2O5・nH2O)、メタ三珪酸ナトリウム(Na4Si3O8・nH2O)、オルト珪酸カリウム(K4SiO4・nH2O)、メタ珪酸カリウム(K2SiO3・nH2O)、ピロ珪酸カリウム(K6Si2O7・nH2O)、メタ二珪酸カリウム(K2Si2O5・nH2O)、メタ三珪酸カリウム(K4Si3O8・nH2O)が挙げられる。
これら珪酸塩化合物(C)は、化合物そのものをエッチング液に添加して用いることも可能であるし、シリコンウェハ、シリコンインゴット、シリコン切削粉等のケイ素材料または二酸化珪素を直接、水酸化アルカリ(B)に溶解させて反応物として得られる珪酸塩化合物を珪酸塩化合物(C)として用いても構わない。
珪酸塩化合物(C)にはシリコンのエッチングを抑制する作用があるため、本発明のエッチング液に珪酸塩化合物(C)を含有させることにより、化合物(A)のエッチング抑制作用を補助することができ、テクスチャー構造の形成に適したエッチング速度の制御がより適切に行うことが可能となる。
珪酸塩化合物(C)の濃度が高すぎると、エッチング速度が著しく低下すること及び液粘度の上昇、更には珪酸塩化合物(C)の析出が起こりやすく、当該基板表面に正常なテクスチャー構造を形成することができなくなり、太陽電池用基板としての使用が困難となる。このため、エッチング液中の珪酸塩濃度は、Si換算濃度で10重量%以下の範囲が好適である。ここで、「Si換算濃度」とは、珪酸塩に含まれるシリコン(Si)原子換算での濃度を意味する。
なお、珪酸塩化合物(C)は太陽電池用シリコン基板のエッチング時の副生成物としても生成するため、繰り返しのエッチング操作によりエッチング液中の珪酸塩化合物(C)の濃度はシリコン基板処理数量とともに増加してくることになる。この時、エッチング液中の珪酸塩化合物(C)の濃度が、Si換算濃度で10重量%を超える場合には、水などの他の成分を補充して希釈するか、溶液を交換することが好ましい。
【0028】
以上の様に、本発明のエッチング液は、化合物(A)、水酸化アルカリ(B)、珪酸塩化合物(C)を上記濃度範囲(珪酸塩化合物(C)は、未含有の場合を含む)で含有しており、それぞれの濃度は目的とする太陽電池用シリコン基板表面に正常なテクスチャー構造が形成でき得る範囲で適宜設定することが可能である。
【0029】
なお、本発明のエッチング液には、他の成分として、本発明の目的、効果を損なわない範囲で、化合物(A)、水酸化アルカリ(B)及び珪酸塩化合物(C)以外の成分を含んでもよい。
このような成分としては、緩衝剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤などが挙げられる。
【0030】
本発明のエッチング液は、常法によって、上記化合物(A)及び水酸化アルカリ(B)、並びに必要に応じて珪酸塩化合物(C)を溶媒である水に溶解することで得ることができる。なお、エッチング液を製造する温度は、0℃〜100℃、好ましくは20℃〜40℃であり、通常、室温である。
なお、本発明のエッチング液の溶媒としての水は、正常なテクスチャー構造を形成することができれば特に限定されないが、不純物を除去した水が好ましく、通常、イオン交換水または蒸留水が好適に用いられる。具体的には、25℃で測定した電気伝導度が1mS/cm以下(特に、100μS/cm以下)のイオン交換水または蒸留水が好適である。
【0031】
以下、本発明のエッチング液を用いて、シリコン基板にテクスチャー構造を形成させる方法について説明する。
【0032】
シリコン基板は、いかなる製法で形成された単結晶および多結晶シリコン基板を使用しても良いが、単結晶シリコン基板が好ましく、特に表面の面方位が(100)である単結晶シリコン基板が好ましい。これは上述のようにアルカリ水溶液によるシリコン基板のエッチングは異方性エッチングであるため、表面の面方位が(100)のシリコン基板は、微細なテクスチャー構造を形成し低反射率のものが得られ、セル化した時のエネルギー変換効率が高くなるためである。
【0033】
本発明のエッチング液において、エッチング方法は特に限定されないものであり、所定の温度に加熱保持したエッチング液を用いて、シリコン基板を所定の時間、浸漬等することにより、シリコン基板の表面に微細なテクスチャー構造を形成することができる。
【0034】
エッチング液の使用温度は特に限定されないが、0℃〜100℃の温度域において使用することができ、エッチング効率の観点からは、80℃〜100℃が好ましい。エッチング時間も特に限定されないが、通常、1分〜120分(好適には20分〜40分)である。
【0035】
上述の本発明のエッチング液を使用したシリコン基板の表面加工方法により、シリコン基板表面に微細なテクスチャー構造を有するシリコン基板を得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
(1)エッチング液の作製
表1に作製したエッチング液の組成を示す。
実施例1,2,4〜6及び8,9のエッチング液は、最初に室温下で水に所定量のNaOH(水酸化アルカリ(B))を溶解したのち、単結晶シリコン基板を浸漬して90℃に加熱しながら溶解させて珪酸塩化合物(C)を生成させた。それぞれのエッチング液につき、溶液中のSi換算濃度が表1に示す濃度になるまでエッチングを繰り返した後に、該溶液を室温まで冷却し、次いで、表1に示す化合物(A)のナトリウム塩を表1に示す濃度になるように添加して均一になるまで混合することにより各々のエッチング液を作製した。なお、溶解したSi量は、シリコン基板のエッチング前後の重量減から求めた。また、Siが溶解したエッチング液中のSi濃度をICP発光分析でも測定したが、得られたSi濃度は、前記のシリコン基板のエッチング前後の重量から算出した値と良い整合性を示した。
なお、表1において、エッチング液中のNaOHの濃度は、便宜上、以下を前提として算出した値である。
すなわち、エッチングにより得られる珪酸塩化合物(C)の形態を、上述した反応式(2)に示す反応で生成する「Na2Si2O5」とみなし、初期仕込みのNaOH量から反応式(2)に示す反応により消費されるNaOH量を差し引いた値をエッチング液中のNaOH濃度とした。
珪酸塩化合物(C)を含有しない実施例3,7及び比較例1のエッチング液は、室温下で水にNaOH(水酸化アルカリ(B))を表1に示す濃度に溶解した溶液に表1に示す化合物(A)のナトリウム塩を表1に示す濃度になるように添加して、完全に溶解するまで攪拌することで作製した。
化合物(A)及び珪酸塩化合物(C)を含有しない比較例2のエッチング液は、室温下で水にNaOH(水酸化アルカリ(B))を表1に示す濃度に溶解することで作製した。
化合物(A)を含有しない比較例3のエッチング液は、室温下で水に所定量のNaOH(水酸化アルカリ(B))を溶解して得られる溶液を90℃に加熱して、表1のSi換算濃度となるようにシリコン基板を溶解させて珪酸塩化合物(C)を生成させることで作製した。
参考例1のエッチング液は、エッチング抑制剤として、化合物(A)の代わりに従来のイソプロピルアルコール(IPA)を使用し、表1の組成になるように室温下で水にNaOH(水酸化アルカリ(B))とIPAを添加することによって作製した。
参考例2のエッチング液は、エッチング抑制剤として、化合物(A)の代わりIPAを使用し、室温下で水にNaOH(水酸化アルカリ(B))に溶解して得られる溶液を90℃に加熱して、表1のSi換算濃度となるようにシリコン基板を溶解させて珪酸塩化合物(C)を生成させたのちに、所定量のIPAを添加することで作製した。
【0038】
【表1】
【0039】
(2)シリコン基板のエッチング
表2にテクスチャー構造の形成処理条件及びそれにより得られた太陽電池用シリコン基板の物性等の結果を示す。
(実施例1、参考例1)
P型単結晶シリコンインゴットを切断加工して作製した50×50mm、厚さ約180μmの単結晶シリコン基板(表面結晶面:(100)面)を使用し、表1に示す組成のエッチング液に浸漬して、表2に示す条件でテクスチャーエッチングを行った。
(実施例2〜7、比較例1〜3)
当該基板を80℃に加温された25重量%の水酸化ナトリウム溶液に約15分間浸漬し、シリコン基板表面の付着物及び加工変性層を除去した後に水洗を行った以外は、実施例1と同様に表1に示す組成のエッチング液に浸漬して、表2に示す条件でテクスチャーエッチングを行った。
(実施例8)
当該基板を80℃に加温された48重量%の水酸化ナトリウム溶液に約10分間浸漬し、シリコン基板表面の付着物及び加工変性層を除去した後に水洗を行った以外は、実施例1と同様に表1に示す組成のエッチング液に浸漬して、表2に示す条件でテクスチャーエッチングを行った。
(実施例9)
156×156mmのシリコン基板を用いた以外は実施例1と同様に表1に示す組成のエッチング液に浸漬して、表2に示す条件でテクスチャーエッチングを行った。
(参考例2)
当該基板を80℃に加温された3.5重量%の水酸化ナトリウム溶液に約2分間浸漬し、シリコン基板表面の付着物及び加工変性層を除去した後に水洗を行った以外は、実施例9と同様に表1に示す組成のエッチング液に浸漬して、表2に示す条件でテクスチャーエッチングを行った。
ここで、表2におけるエッチング量は、テクスチャーエッチング前後のシリコン基板の重量を測定し、その重量差から算出した基板片面あたりのエッチング厚みであり、エッチングレートとは、前記エッチング量をエッチング時間で除したエッチング速度を表す。
【0040】
(3)エッチング後のシリコン基板の評価
テクスチャーエッチング後のシリコン基板に対して、目視での外観評価、電子顕微鏡観察、表面反射率測定並びに変換効率測定を行った。なお、電子顕微鏡観察は、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−6510)、表面反射率測定には、紫外・可視・近赤外分光光度計(株式会社島津製作所製、UV−3150)を使用した。
各シリコン基板の外観評価及び波長600nmにおける反射率の結果を表2、電子顕微鏡写真を図1〜12に示す。なお、目視での外観評価の基準は以下の通りである。
○:基板全面が一様にエッチングされている。
△:わずかな斑点又はムラが存在するが、基板全面としてエッチング均一性は高い。
×:斑点又は、ムラが確認される。
【0041】
また、実施例9及び参考例2のエッチング液を使用してテクスチャーエッチングを行ったシリコン基板に対しては、太陽電池セルを製作し変換効率を測定した結果を表2に併せて示す。なお、測定に用いた太陽電池セルは以下の手順で製作した。
それぞれのシリコン基板に対して、拡散炉にてオキシ塩化リン(POCl3)をドーパントとして用いて基板表面にn+層を形成した。続いてプラズマで励起した腐食性ガスで基板端面をエッチングしてPN分離を行った後、フッ化水素酸で基板表面のPSGを除去し、受光面となる面にCVDにてシリコン窒化膜を90nmの厚みで形成した。最後に受光面となる面に銀ペーストを用いて櫛型のグリット電極、受光面の裏面にはアルミペーストもしくはアルミ−銀ペーストを印刷塗布し、840℃で焼成して裏面電極を形成することにより太陽電池セルを得た。
【0042】
【表2】
【0043】
実施例1〜8のエッチング液を使用してエッチングを行ったシリコン基板の外観の均一性は、従来のIPAを使用したエッチング液(参考例1)と同等以上であった。さらに、電子顕微鏡観察によって、これらのシリコン基板の表面に微細なテクスチャー構造が形成されているのが確認された。また、反射率もそれぞれ太陽電池として使用でき得る十分な値であった。
さらに、実施例9のエッチング液を使用してエッチングを行ったシリコン基板の太陽電池セルとしての変換効率は、従来のIPAを使用したエッチング液(参考例2)より優れた結果であった。
一方、化合物(A)のナトリウム塩として、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを使用した比較例1のエッチング液は、エッチング速度は非常に遅く、エッチング後の基板外観は白色のムラが強く発生していた。また、化合物(A)を添加しなかった比較例2及び3は、鏡面に近い外観であり、電子顕微鏡による観察でも微細なテクスチャー構造は確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、シリコン基板表面に微細凹凸を形成することができ、該シリコン基板を使用した太陽電池の高効率化を実現することができるとともに、排ガス、廃水処理面での環境負荷低減及び低コスト化が可能であるため、工業的に有望である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板表面にピラミッド状の凹凸構造を形成するためのエッチング液および該エッチング液を使用したシリコン基板の表面加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶シリコン太陽電池に使用されるシリコン基板表面には、テクスチャー構造と呼ばれる微細なピラミッド状の凹凸が形成されている。照射された光はこのテクスチャー構造により表面で多重反射することでシリコン基板への入射の機会が増加し、効率よく太陽電池内部に吸収される。
【0003】
テクスチャー構造を有するシリコン基板は、シリコンインゴットをワイヤーソー等によりスライスして得られるシリコン基板をエッチングすることにより製造される。
シリコン基板のエッチングは、いずれもアルカリ性のエッチング液を用いた湿式エッチングにより行うことができる。このエッチングは水酸化ナトリウム溶液中の場合、以下の反応式(1)、(2)、(3)等の反応によって進行する。
Si+2NaOH+H2O → Na2SiO3+2H2 反応式(1)
2Si+2NaOH+3H2O → Na2Si2O5+4H2 反応式(2)
3Si+4NaOH+4H2O → Na4Si3O8+6H2 反応式(3)
【0004】
シリコン基板の表面にテクスチャー構造を形成するために、通常はエッチング速度を制御したエッチング液を使用することにより異方性エッチングを行う。
エッチングの目的は、原料であるスライス後のシリコン基板の表面に存在するスライス加工に起因する歪みや欠損が生じたダメージ層の除去と、テクスチャー構造の形成にある。ダメージ層の除去とテクスチャー構造の形成を同じエッチング液で実施しても良いし、生産性の観点からはダメージ層の除去とテクスチャーの形成に異なるエッチング液を使用した2段階のエッチング処理を行っても良い。
2段階のエッチング処理は、先ず、比較的エッチング速度の速いアルカリ性のエッチング液によってダメージ層除去エッチングを行い、次いで、テクスチャーエッチングとしてエッチング速度を制御したエッチング液を使用することにより異方性エッチングを行う処理方法である。
いずれの方法においてもシリコン基板の表面へのテクスチャー構造の形成は、以下のメカニズムに基づく。
シリコン基板のアルカリ水溶液によるエッチング速度は、シリコンの(100)面が最も早く、(111)面が最も遅い。そのため、アルカリ水溶液にエッチング速度を低下させることができる特定の添加剤(以下、「エッチング抑制剤」ということもある。)を添加することによってテクスチャーエッチングの速度を抑制すると、シリコンの(100)面等のエッチングされやすい結晶面が優先的にエッチングされ、エッチング速度の遅い(111)面が表面に残存する。この(111)面は、(100)面に対して約54度の傾斜を持つためにプロセスの最終段階では(111)面とその等価な面で構成されるピラミッド状の凹凸が形成される。
【0005】
ダメージ層除去エッチングには、一般的な強アルカリ薬液からなるエッチング液を用いることができるのに対し、テクスチャーエッチングにおいては、上記のエッチング抑制剤を添加し、溶液温度などの諸条件を制御することにより、エッチング速度をコントロールする必要がある。
【0006】
通常、テクスチャーエッチング用エッチング液として、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に、エッチング抑制剤としてイソプロピルアルコール(以下、「IPA」と称する場合がある。)を添加したエッチング液が使用されている。このエッチング液を60〜80℃程度に加温し、(100)面のシリコン基板を10〜30分間浸漬させる方法がとられてきた(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
さらに、45%水酸化カリウム(KOH)を水で1:1に希釈した液を85℃に加温し、シリコン基板を30分浸漬することでダメージ層を除去した後に、水酸化カリウム(KOH)水溶液に、エッチング抑制剤としてIPAを添加したエッチング液を使用してテクスチャーエッチングを行う方法も開示されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0007】
一方で、IPAは揮発性が高いため、揮発量に相当するIPAをテクスチャーエッチング液中に随時添加する必要があり、IPAの消費量が増加することによるエッチング費用の増大が問題になっている。さらに、揮発性の高いIPAを多量使用することは安全性、環境面でも好ましくなく、揮発したIPAを回収する装置を付設したとしても、エッチング処理設備の製作費用が増大すると共に、設備運転費用も増加するという問題があった。
【0008】
そのため、IPAの代替となるエッチング抑制剤を含むテクスチャーエッチング液の開発が行われている。例えば、特許文献2及び特許文献3には、脂肪族カルボン酸あるいはその塩を添加したテクスチャーエッチング液が開示されている。また、特許文献4には、無機塩を含むテクスチャーエッチング液が開示されている。
また、特許文献5には、ベンゼン環を含む化合物をエッチング抑制剤として含有するエッチング液が開示されている。
また、特許文献6には、炭素数12のアルキルスルホン酸エステル(C12H25-O-SO3Na)を含有するエッチング液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−96772号公報
【特許文献2】特開2002−57139号公報
【特許文献3】国際公開第06/046601号パンフレット
【特許文献4】特開2000−183378号公報
【特許文献5】特開2007−258656号公報
【特許文献6】中国特許CN101570897号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「Uniform Pyramid Formation on Alkaline-etched Polished Monocrystalline (100) Silicon Wafers 」 Progress in Photovoltaics , Vol.4 , 435-438 (1996)
【非特許文献2】「EXPERIMENTAL OPTIMIZATION OF AN ANISOTROPIC ETCHING PROCESS FOR RANDOM TEXTURIZATION OF SILICON SOLAR CELLS」CONFERENCE RECORD OF THE IEEE PHOTOVOLTAIC SPECIALISTS CONFERENCE , P303-308 (1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献2及び特許文献3で開示された脂肪族カルボン酸を使用する方法では、原料コストが高く、廃液処理の際に中和すると脂肪族カルボン酸が遊離し、別途油水分離工程が必要となると共に特有の悪臭が生じるという問題がある。また、廃液処理にコストがかかり、製造コストの上昇にもつながるといった問題がある。
また、特許文献4の方法では、重金属や塩類の不純物濃度を必要なレベルに抑制するには、高価なNa2CO3を使用する必要がある。また、系内の塩濃度が高くなり、シリコンのエッチングの際に副生する珪酸塩の溶解量が減少するため、テクスチャーエッチング液を頻繁に交換しなければならない。
【0012】
また、特許文献5のベンゼン環を含む化合物をエッチング抑制剤は、単純な鎖状構造の化合物に比較し、毒性及び生分解性に劣るため排水処理ならびに環境の観点から好ましくない。
【0013】
また、特許文献6には、炭素数12のアルキルスルホン酸エステル(C12H25-O-SO3Na)を添加する記載があるものの、特許文献2にも記載してある様に強アルカリの環境下ではエステル部分が徐々に加水分解を受けて、炭素数12のアルコールと硫酸水素ナトリウムが生成し、界面活性剤本来の機能を長期にわたって期待できず、微細なテクスチャー構造を再現良く形成出来ない。これらの理由で、エステル構造を有する界面活性剤を工業的に用いることは好ましくない。
【0014】
以上のように、従来のエッチング液では、シリコン基板状に微細なテクスチャー構造を再現性良く形成することができ、かつ、廃液処理や作業環境の面を含めて工業的に満足できる性能を有するエッチング液は未だ見出されていないのが実情である。
かかる状況下、本発明の目的は、IPA等の従来のエッチング抑制剤を使用することなく、微細なテクスチャー構造を有するシリコン基板を安定的に形成することが可能なエッチング液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> シリコン基板を浸漬して、該基板表面にピラミッド状の凹凸を形成させるエッチング液であって、
下記一般式(1)で表わされる化合物(A)又はそのアルカリ塩より選択される1種以上と、濃度が0.1重量%以上30重量%以下である水酸化アルカリ(B)とを含有するエッチング液。
【化1】
(式中、Rは、炭素数4以上15以下のアルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基のいずれかを表し、Xは、スルホン酸基を表す。)
<2> 化合物(A)における一般式(1)中のRが、炭素数5以上12以下のアルキル基であり、水酸化アルカリ(B)の濃度が0.5重量%以上20重量%以下である前記<1>記載のエッチング液。
<3> 化合物(A)の濃度が、0.0001重量%以上10重量%以下の範囲である前記<1>又は<2>記載のエッチング液。
<4> 水酸化アルカリ(B)が、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムである前記<1>から<3>のいずれかに記載のエッチング液。
<5> さらに珪酸塩化合物(C)を含有することを前記<1>から<4>のいずれかに記載のエッチング液。
<6> 珪酸塩化合物(C)が、ナトリウム又はカリウムの珪酸塩である前記<5>記載のエッチング液。
<7> 珪酸塩化合物(C)の濃度が、Si換算濃度として10重量%以下である前記<5>または<6>に記載のエッチング液。
<8> 前記<1>から<7>のいずれかに記載のエッチング液にシリコン基板を浸漬して、該基板表面にピラミッド状の凹凸を形成させる工程を含むことを特徴とするシリコン基板の表面加工方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のエッチング液を使用すると、シリコン基板の表面に、太陽電池用の光閉じ込めに適した微細なテクスチャー構造を再現性よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例2のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例3のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例4のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例5のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例6のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例7のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例9のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図9】比較例1のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図10】比較例2のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図11】比較例3のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図12】参考例1のエッチング液を使用して、エッチングを行った後のシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明につき詳細に説明する。
本発明は、シリコン基板を浸漬して、該基板表面にピラミッド状の凹凸を形成(以下、テクスチャー構造という。)させるエッチング液であって、下記一般式(1)で表わされる化合物(A)又はそのアルカリ塩より選択される1種以上と、濃度が0.1重量%以上30重量%以下である水酸化アルカリ(B)とを含有するエッチング液に関するものである。
【化2】
(式中、Rは、炭素数4以上15以下のアルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基のいずれかを表し、Xは、スルホン酸基を表す。)
【0020】
本発明において、「シリコン基板」とは、単結晶シリコン基板および多結晶シリコン基板を含むが、本発明のエッチング液は、単結晶シリコン基板、特に(100)面を表面に有する単結晶シリコン基板のエッチングに適する。
【0021】
化合物(A)又はそのアルカリ塩は、従来のエッチング抑制剤であるIPAと同等以上のエッチング抑制効果を示し、かつ、後述するように適用可能な濃度範囲が広いという利点がある。そのため、本発明のエッチング液を使用することによって、シリコン基板の表面にピラミッド状の凹凸の大きさ、形状を好適な範囲に制御することができる。
化合物(A)は、一般式(1)中のRが、炭素数4〜15のアルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基のいずれかである化合物であり、例えば、アルキル基構造を有する化合物として、具体的には、ブチル(C:4)スルホン酸、ペンチル(C:5)スルホン酸、ヘキシル(C:6)スルホン酸、ヘプチル(C:7)スルホン酸、オクチル(C:8)スルホン酸、ノニル(C:9)スルホン酸、デシル(C:10)スルホン酸、ウンデシル(C:11)スルホン酸、ドデシル(C:12)スルホン酸、トリデシル(C:13)スルホン酸、テトラデシル(C:14)スルホン酸、ペンタデカン(C:15)スルホン酸;
アルケニル基構造を有する化合物として、ブテン(C:4)スルホン酸、ペンテン(C:5)スルホン酸、ヘキセン(C:6)スルホン酸、ヘプテン(C:7)スルホン酸、オクテン(C:8)スルホン酸、ノネン(C:9)スルホン酸、デセン(C:10)スルホン酸、ウンデセン(C:11)スルホン酸、ドデセン(C:12)スルホン酸、トリデセン(C:13)スルホン酸、テトラデセン(C:14)スルホン酸、ペンタデセン(C:15)スルホン酸;
アルキニル基構造を有する化合物として、ブチン(C:4)スルホン酸、ペンチン(C:5)スルホン酸、ヘキシン(C:6)スルホン酸、ヘプチン(C:7)スルホン酸、オクチン(C:8)スルホン酸、ノニン(C:9)スルホン酸、デシン(C:10)スルホン酸、ウンデシン(C:11)スルホン酸、ドデシン(C:12)スルホン酸、トリデシン(C:13)スルホン酸、テトラデシン(C:14)スルホン酸、ペンタデシン(C:15)スルホン酸;
などが挙げられる。
【0022】
なお、化合物(A)のアルカリ塩におけるアルカリ成分としては、第1族元素、第2族元素が使用でき、この中でも、特に水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムは、入手が容易でコスト面でも優れるため好適である。
【0023】
化合物(A)として、好適には一般式(1)中のRが、炭素数5〜12のアルキル基である化合物である。具体的には、ペンチル(C:5)スルホン酸、ヘキシル(C:6)スルホン酸、ヘプチル(C:7)スルホン酸、オクチル(C:8)スルホン酸、ノニル(C:9)スルホン酸、デシル(C:10)スルホン酸、ウンデシル(C:11)スルホン酸、ドデシル(C:12)スルホン酸が挙げられる。
この中でも、特に均一なテクスチャー構造が得られるという観点から、好ましくは、炭素数6〜10のアルキル基である化合物である。具体的には、ヘキシル(C:6)スルホン酸、ヘプチル(C:7)スルホン酸、オクチル(C:8)スルホン酸、ノニル(C:9)スルホン酸、デシル(C:10)スルホン酸である。
【0024】
化合物(A)の濃度は、シリコン基板の表面に微細なテクスチャー構造を形成することができ、工業的に有効なエッチング速度の範囲で選択され、好ましくは0.0001重量%以上10重量%以下であり、特に好ましくは、0.0005重量%以上10重量%以下であり、さらに好ましくは、0.001重量%以上5重量%以下である。
上記範囲であると、該基板の表面を異方エッチングし、該基板の表面に微細なテクスチャー構造を形成することができる。
化合物(A)の濃度が、0.0001重量%未満の場合には、エッチングの抑制効果が不十分になるおそれがあり、また、濃度が低すぎ、エッチング液中の濃度管理が難しく再現性良く微細なテクスチャー構造を有するシリコン基板を製造することが困難となる。一方、10重量%より大きい場合には、エッチング抑制効果が強くなり過ぎて長時間を要することと薬剤コスト、水洗回数、廃液処理コストが増大するため好ましくない。
【0025】
本発明において用いる水酸化アルカリ(B)としては、第1族元素の水酸化物、第2族元素の水酸化物が使用できる。例えば、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ルビジウム(RbOH)、水酸化セシウム(CsOH)、水酸化ベリリウム(Be(OH)2)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH)2)、水酸化バリウム(Ba(OH)2)、水酸化アンモニウム(NH4OH)等が挙げられ、これらを単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。この中でも、特に水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムは、入手が容易でコスト面でも優れるため好適である。また、これらの水酸化アルカリは任意の割合で混合して使用してもよい。
【0026】
本発明のエッチング液において、エッチング液中の水酸化アルカリ(B)の濃度は、0.1重量%以上30重量%以下であることを必須とし、0.5重量%以上20重量%以下が好ましい。
この範囲であれば、エッチングが好適に進行し、シリコン基板の表面に微細なテクスチャー構造を形成することができる。アルカリ濃度が、0.1重量%未満では、エッチング速度が十分でなく、30重量%より大きいと、エッチング速度が著しく速くなりテクスチャー形成が困難になる。
【0027】
なお、本発明のエッチング液には、化合物(A)、水酸化アルカリ(B)以外に珪酸塩化合物(C)を含有させることもできる。
珪酸塩化合物(C)として具体的には、オルト珪酸リチウム(Li4SiO4・nH2O)、メタ珪酸リチウム(Li2SiO3・nH2O)、ピロ珪酸リチウム(Li6Si2O7・nH2O)、メタ二珪酸リチウム(Li2Si2O5・nH2O)、メタ三珪酸リチウム(Li4Si3O8・nH2O)、オルト珪酸ナトリウム(Na4SiO4・nH2O)、メタ珪酸ナトリウム(Na2SiO3・nH2O)、ピロ珪酸ナトリウム(Na6Si2O7・nH2O)、メタ二珪酸ナトリウム(Na2Si2O5・nH2O)、メタ三珪酸ナトリウム(Na4Si3O8・nH2O)、オルト珪酸カリウム(K4SiO4・nH2O)、メタ珪酸カリウム(K2SiO3・nH2O)、ピロ珪酸カリウム(K6Si2O7・nH2O)、メタ二珪酸カリウム(K2Si2O5・nH2O)、メタ三珪酸カリウム(K4Si3O8・nH2O)が挙げられる。
これら珪酸塩化合物(C)は、化合物そのものをエッチング液に添加して用いることも可能であるし、シリコンウェハ、シリコンインゴット、シリコン切削粉等のケイ素材料または二酸化珪素を直接、水酸化アルカリ(B)に溶解させて反応物として得られる珪酸塩化合物を珪酸塩化合物(C)として用いても構わない。
珪酸塩化合物(C)にはシリコンのエッチングを抑制する作用があるため、本発明のエッチング液に珪酸塩化合物(C)を含有させることにより、化合物(A)のエッチング抑制作用を補助することができ、テクスチャー構造の形成に適したエッチング速度の制御がより適切に行うことが可能となる。
珪酸塩化合物(C)の濃度が高すぎると、エッチング速度が著しく低下すること及び液粘度の上昇、更には珪酸塩化合物(C)の析出が起こりやすく、当該基板表面に正常なテクスチャー構造を形成することができなくなり、太陽電池用基板としての使用が困難となる。このため、エッチング液中の珪酸塩濃度は、Si換算濃度で10重量%以下の範囲が好適である。ここで、「Si換算濃度」とは、珪酸塩に含まれるシリコン(Si)原子換算での濃度を意味する。
なお、珪酸塩化合物(C)は太陽電池用シリコン基板のエッチング時の副生成物としても生成するため、繰り返しのエッチング操作によりエッチング液中の珪酸塩化合物(C)の濃度はシリコン基板処理数量とともに増加してくることになる。この時、エッチング液中の珪酸塩化合物(C)の濃度が、Si換算濃度で10重量%を超える場合には、水などの他の成分を補充して希釈するか、溶液を交換することが好ましい。
【0028】
以上の様に、本発明のエッチング液は、化合物(A)、水酸化アルカリ(B)、珪酸塩化合物(C)を上記濃度範囲(珪酸塩化合物(C)は、未含有の場合を含む)で含有しており、それぞれの濃度は目的とする太陽電池用シリコン基板表面に正常なテクスチャー構造が形成でき得る範囲で適宜設定することが可能である。
【0029】
なお、本発明のエッチング液には、他の成分として、本発明の目的、効果を損なわない範囲で、化合物(A)、水酸化アルカリ(B)及び珪酸塩化合物(C)以外の成分を含んでもよい。
このような成分としては、緩衝剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤などが挙げられる。
【0030】
本発明のエッチング液は、常法によって、上記化合物(A)及び水酸化アルカリ(B)、並びに必要に応じて珪酸塩化合物(C)を溶媒である水に溶解することで得ることができる。なお、エッチング液を製造する温度は、0℃〜100℃、好ましくは20℃〜40℃であり、通常、室温である。
なお、本発明のエッチング液の溶媒としての水は、正常なテクスチャー構造を形成することができれば特に限定されないが、不純物を除去した水が好ましく、通常、イオン交換水または蒸留水が好適に用いられる。具体的には、25℃で測定した電気伝導度が1mS/cm以下(特に、100μS/cm以下)のイオン交換水または蒸留水が好適である。
【0031】
以下、本発明のエッチング液を用いて、シリコン基板にテクスチャー構造を形成させる方法について説明する。
【0032】
シリコン基板は、いかなる製法で形成された単結晶および多結晶シリコン基板を使用しても良いが、単結晶シリコン基板が好ましく、特に表面の面方位が(100)である単結晶シリコン基板が好ましい。これは上述のようにアルカリ水溶液によるシリコン基板のエッチングは異方性エッチングであるため、表面の面方位が(100)のシリコン基板は、微細なテクスチャー構造を形成し低反射率のものが得られ、セル化した時のエネルギー変換効率が高くなるためである。
【0033】
本発明のエッチング液において、エッチング方法は特に限定されないものであり、所定の温度に加熱保持したエッチング液を用いて、シリコン基板を所定の時間、浸漬等することにより、シリコン基板の表面に微細なテクスチャー構造を形成することができる。
【0034】
エッチング液の使用温度は特に限定されないが、0℃〜100℃の温度域において使用することができ、エッチング効率の観点からは、80℃〜100℃が好ましい。エッチング時間も特に限定されないが、通常、1分〜120分(好適には20分〜40分)である。
【0035】
上述の本発明のエッチング液を使用したシリコン基板の表面加工方法により、シリコン基板表面に微細なテクスチャー構造を有するシリコン基板を得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
(1)エッチング液の作製
表1に作製したエッチング液の組成を示す。
実施例1,2,4〜6及び8,9のエッチング液は、最初に室温下で水に所定量のNaOH(水酸化アルカリ(B))を溶解したのち、単結晶シリコン基板を浸漬して90℃に加熱しながら溶解させて珪酸塩化合物(C)を生成させた。それぞれのエッチング液につき、溶液中のSi換算濃度が表1に示す濃度になるまでエッチングを繰り返した後に、該溶液を室温まで冷却し、次いで、表1に示す化合物(A)のナトリウム塩を表1に示す濃度になるように添加して均一になるまで混合することにより各々のエッチング液を作製した。なお、溶解したSi量は、シリコン基板のエッチング前後の重量減から求めた。また、Siが溶解したエッチング液中のSi濃度をICP発光分析でも測定したが、得られたSi濃度は、前記のシリコン基板のエッチング前後の重量から算出した値と良い整合性を示した。
なお、表1において、エッチング液中のNaOHの濃度は、便宜上、以下を前提として算出した値である。
すなわち、エッチングにより得られる珪酸塩化合物(C)の形態を、上述した反応式(2)に示す反応で生成する「Na2Si2O5」とみなし、初期仕込みのNaOH量から反応式(2)に示す反応により消費されるNaOH量を差し引いた値をエッチング液中のNaOH濃度とした。
珪酸塩化合物(C)を含有しない実施例3,7及び比較例1のエッチング液は、室温下で水にNaOH(水酸化アルカリ(B))を表1に示す濃度に溶解した溶液に表1に示す化合物(A)のナトリウム塩を表1に示す濃度になるように添加して、完全に溶解するまで攪拌することで作製した。
化合物(A)及び珪酸塩化合物(C)を含有しない比較例2のエッチング液は、室温下で水にNaOH(水酸化アルカリ(B))を表1に示す濃度に溶解することで作製した。
化合物(A)を含有しない比較例3のエッチング液は、室温下で水に所定量のNaOH(水酸化アルカリ(B))を溶解して得られる溶液を90℃に加熱して、表1のSi換算濃度となるようにシリコン基板を溶解させて珪酸塩化合物(C)を生成させることで作製した。
参考例1のエッチング液は、エッチング抑制剤として、化合物(A)の代わりに従来のイソプロピルアルコール(IPA)を使用し、表1の組成になるように室温下で水にNaOH(水酸化アルカリ(B))とIPAを添加することによって作製した。
参考例2のエッチング液は、エッチング抑制剤として、化合物(A)の代わりIPAを使用し、室温下で水にNaOH(水酸化アルカリ(B))に溶解して得られる溶液を90℃に加熱して、表1のSi換算濃度となるようにシリコン基板を溶解させて珪酸塩化合物(C)を生成させたのちに、所定量のIPAを添加することで作製した。
【0038】
【表1】
【0039】
(2)シリコン基板のエッチング
表2にテクスチャー構造の形成処理条件及びそれにより得られた太陽電池用シリコン基板の物性等の結果を示す。
(実施例1、参考例1)
P型単結晶シリコンインゴットを切断加工して作製した50×50mm、厚さ約180μmの単結晶シリコン基板(表面結晶面:(100)面)を使用し、表1に示す組成のエッチング液に浸漬して、表2に示す条件でテクスチャーエッチングを行った。
(実施例2〜7、比較例1〜3)
当該基板を80℃に加温された25重量%の水酸化ナトリウム溶液に約15分間浸漬し、シリコン基板表面の付着物及び加工変性層を除去した後に水洗を行った以外は、実施例1と同様に表1に示す組成のエッチング液に浸漬して、表2に示す条件でテクスチャーエッチングを行った。
(実施例8)
当該基板を80℃に加温された48重量%の水酸化ナトリウム溶液に約10分間浸漬し、シリコン基板表面の付着物及び加工変性層を除去した後に水洗を行った以外は、実施例1と同様に表1に示す組成のエッチング液に浸漬して、表2に示す条件でテクスチャーエッチングを行った。
(実施例9)
156×156mmのシリコン基板を用いた以外は実施例1と同様に表1に示す組成のエッチング液に浸漬して、表2に示す条件でテクスチャーエッチングを行った。
(参考例2)
当該基板を80℃に加温された3.5重量%の水酸化ナトリウム溶液に約2分間浸漬し、シリコン基板表面の付着物及び加工変性層を除去した後に水洗を行った以外は、実施例9と同様に表1に示す組成のエッチング液に浸漬して、表2に示す条件でテクスチャーエッチングを行った。
ここで、表2におけるエッチング量は、テクスチャーエッチング前後のシリコン基板の重量を測定し、その重量差から算出した基板片面あたりのエッチング厚みであり、エッチングレートとは、前記エッチング量をエッチング時間で除したエッチング速度を表す。
【0040】
(3)エッチング後のシリコン基板の評価
テクスチャーエッチング後のシリコン基板に対して、目視での外観評価、電子顕微鏡観察、表面反射率測定並びに変換効率測定を行った。なお、電子顕微鏡観察は、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−6510)、表面反射率測定には、紫外・可視・近赤外分光光度計(株式会社島津製作所製、UV−3150)を使用した。
各シリコン基板の外観評価及び波長600nmにおける反射率の結果を表2、電子顕微鏡写真を図1〜12に示す。なお、目視での外観評価の基準は以下の通りである。
○:基板全面が一様にエッチングされている。
△:わずかな斑点又はムラが存在するが、基板全面としてエッチング均一性は高い。
×:斑点又は、ムラが確認される。
【0041】
また、実施例9及び参考例2のエッチング液を使用してテクスチャーエッチングを行ったシリコン基板に対しては、太陽電池セルを製作し変換効率を測定した結果を表2に併せて示す。なお、測定に用いた太陽電池セルは以下の手順で製作した。
それぞれのシリコン基板に対して、拡散炉にてオキシ塩化リン(POCl3)をドーパントとして用いて基板表面にn+層を形成した。続いてプラズマで励起した腐食性ガスで基板端面をエッチングしてPN分離を行った後、フッ化水素酸で基板表面のPSGを除去し、受光面となる面にCVDにてシリコン窒化膜を90nmの厚みで形成した。最後に受光面となる面に銀ペーストを用いて櫛型のグリット電極、受光面の裏面にはアルミペーストもしくはアルミ−銀ペーストを印刷塗布し、840℃で焼成して裏面電極を形成することにより太陽電池セルを得た。
【0042】
【表2】
【0043】
実施例1〜8のエッチング液を使用してエッチングを行ったシリコン基板の外観の均一性は、従来のIPAを使用したエッチング液(参考例1)と同等以上であった。さらに、電子顕微鏡観察によって、これらのシリコン基板の表面に微細なテクスチャー構造が形成されているのが確認された。また、反射率もそれぞれ太陽電池として使用でき得る十分な値であった。
さらに、実施例9のエッチング液を使用してエッチングを行ったシリコン基板の太陽電池セルとしての変換効率は、従来のIPAを使用したエッチング液(参考例2)より優れた結果であった。
一方、化合物(A)のナトリウム塩として、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを使用した比較例1のエッチング液は、エッチング速度は非常に遅く、エッチング後の基板外観は白色のムラが強く発生していた。また、化合物(A)を添加しなかった比較例2及び3は、鏡面に近い外観であり、電子顕微鏡による観察でも微細なテクスチャー構造は確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、シリコン基板表面に微細凹凸を形成することができ、該シリコン基板を使用した太陽電池の高効率化を実現することができるとともに、排ガス、廃水処理面での環境負荷低減及び低コスト化が可能であるため、工業的に有望である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板を浸漬して、該基板表面にピラミッド状の凹凸を形成させるエッチング液であって、
下記一般式(1)で表わされる化合物(A)又はそのアルカリ塩より選択される1種以上と、濃度が0.1重量%以上30重量%以下である水酸化アルカリ(B)とを含有することを特徴とするエッチング液。
【化1】
(式中、Rは、炭素数4以上15以下のアルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基のいずれかを表し、Xは、スルホン酸基を表す。)
【請求項2】
化合物(A)における一般式(1)中のRが、炭素数5以上12以下のアルキル基であり、水酸化アルカリ(B)の濃度が0.5重量%以上20重量%以下である請求項1記載のエッチング液。
【請求項3】
化合物(A)の濃度が、0.0001重量%以上10重量%以下の範囲である請求項1又は2記載のエッチング液。
【請求項4】
水酸化アルカリ(B)が、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムである請求項1から3のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項5】
さらに珪酸塩化合物(C)を含有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項6】
珪酸塩化合物(C)が、ナトリウム又はカリウムの珪酸塩である請求項5記載のエッチング液。
【請求項7】
珪酸塩化合物(C)の濃度が、Si換算濃度として10重量%以下である請求項5または6に記載のエッチング液。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のエッチング液にシリコン基板を浸漬して、該基板表面にピラミッド状の凹凸を形成させる工程を含むことを特徴とするシリコン基板の表面加工方法。
【請求項1】
シリコン基板を浸漬して、該基板表面にピラミッド状の凹凸を形成させるエッチング液であって、
下記一般式(1)で表わされる化合物(A)又はそのアルカリ塩より選択される1種以上と、濃度が0.1重量%以上30重量%以下である水酸化アルカリ(B)とを含有することを特徴とするエッチング液。
【化1】
(式中、Rは、炭素数4以上15以下のアルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基のいずれかを表し、Xは、スルホン酸基を表す。)
【請求項2】
化合物(A)における一般式(1)中のRが、炭素数5以上12以下のアルキル基であり、水酸化アルカリ(B)の濃度が0.5重量%以上20重量%以下である請求項1記載のエッチング液。
【請求項3】
化合物(A)の濃度が、0.0001重量%以上10重量%以下の範囲である請求項1又は2記載のエッチング液。
【請求項4】
水酸化アルカリ(B)が、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムである請求項1から3のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項5】
さらに珪酸塩化合物(C)を含有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項6】
珪酸塩化合物(C)が、ナトリウム又はカリウムの珪酸塩である請求項5記載のエッチング液。
【請求項7】
珪酸塩化合物(C)の濃度が、Si換算濃度として10重量%以下である請求項5または6に記載のエッチング液。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のエッチング液にシリコン基板を浸漬して、該基板表面にピラミッド状の凹凸を形成させる工程を含むことを特徴とするシリコン基板の表面加工方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−4528(P2012−4528A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239923(P2010−239923)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(594146179)株式会社新菱 (19)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(594146179)株式会社新菱 (19)
【Fターム(参考)】
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