説明

エッチング液組成物

【課題】基板上に下地膜なしに形成されたITO透明導電膜のみならず基板上の下地膜上に形成されたITO透明導電膜についても、エッチング残渣除去性能に優れ、しかも発泡を抑制することができるエッチング液組成物を提供する。
【解決の手段】シュウ酸、フッ化アルキル基含有燐酸系界面活性剤、ポリエチレンオキサイドアルキルエーテル型ノニオン系界面活性剤及び水を含有する酸化インジウムスズ透明導電膜用のエッチング液組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ(LCD)やエレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイなどの表示装置に使用される酸化インジウムスズ(ITO)透明導電膜のエッチング液に関する。
【背景技術】
【0002】
LCDやELディスプレイ等の表示装置において、画素の表示電極等に透明導電膜が用いられており、透明導電膜としてITO膜が広く使用されている。ITO膜は、例えば、スパッタリング法等の成膜プロセスを用いて、ガラス等の基板上に形成され、レジスト等をマスクにしてITO膜をエッチングすることで電極パターンが形成される。このエッチング工程には湿式と乾式があるが、湿式ではエッチング液が使用される。
【0003】
従来、多結晶ITO膜の湿式エッチングには、通常、塩酸系の強酸が用いられているが、エッチングの際にアルミニウム配線等の腐食が生じ、さらに、ITOの結晶粒界から選択的にエッチングが進行するために、加工精度よくパターニングすることが困難であった。
【0004】
そこで、近年、非晶質ITO膜を透明導電膜として使用し、弱酸、特に、シュウ酸水溶液を用いてエッチングする方法が試みられている。しかしながら、シュウ酸水溶液を用いてITO膜をエッチングした場合には、エッチング残渣が基板上に残るという問題があった。この問題を解決するために、シュウ酸水溶液にアルキルベンゼンスルホン酸を添加することが検討され、例えば、特許文献1には、シュウ酸とドデシルベンゼンスルホン酸と水を配合してなるエッチング液が開示されている。
【0005】
しかし、エッチング液にドデシルベンゼンスルホン酸等の界面活性剤を添加すると、エッチング残渣は生じにくくなるものの、エッチング液の発泡が著しくなる。発泡が著しいと泡が基板を押し上げたり、泡が基板上に発生するとエッチング液との接触を妨げてエッチングを妨害することにより、エッチングが正確に行われなくなる等、配線パターンに欠陥が生じる原因となる。
【0006】
シュウ酸水溶液にパーフルオロアルキル基含有リン酸エステル塩を添加したエッチング液も知られている(例えば、特許文献2参照。)。この技術によれば、発泡は抑制されているのであるが、しかしながら、残渣除去能力が必ずしも充分ではない場合がある。
【0007】
他方において、特にLCDの分野においては、ガラス基板からの金属不純物の混入を防ぐため、基板上に窒化ケイ素膜等の下地膜を形成して、その上に非結晶ITO膜を形成することが行われている。また、開口部の開口率を向上させるために、平坦化膜を形成してその上に非結晶ITO膜を形成する事が行われている。しかし、これらの下地膜上に形成されたITO膜をエッチングする場合には、基板上に下地膜を使用せずにITO膜を形成する場合と比べてエッチング残渣が生じやすく、従来のエッチング液では充分な残渣除去が困難な場合がある。
【特許文献1】特開平7−141932号公報
【特許文献2】特開2005−11654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の現状に鑑みて、本発明は、基板上に下地膜なしに形成されたITO透明導電膜のみならず基板上の下地膜上に形成されたITO透明導電膜についても、エッチング残渣除去性能に優れ、しかも発泡を抑制することができるエッチング液組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、シュウ酸とフッ化アルキル基含有燐酸系界面活性剤及びポリエチレンオキサイドアルキルエーテル型ノニオン系界面活性剤を組み合わせることにより、上記課題が解決可能であることを見いだし、本発明を完成した。すなわち、本発明は、シュウ酸、フッ化アルキル基含有燐酸系界面活性剤、ポリエチレンオキサイドアルキルエーテル型ノニオン系界面活性剤及び水を含有する酸化インジウムスズ透明導電膜用のエッチング液組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上述の構成により、界面活性剤を含有しながら、泡立ちが抑制されており、透明導電膜付き基板の製造プロセスにおけるエッチング工程に好適に適用することができる。
本発明はまた、上述の構成により、ガラス基板上に成膜されたITO膜に適用しても、また、窒化ケイ素膜等の下地膜上に成膜されたITO膜に適用しても、良好な残渣除去能力を発揮することができ、従来、比較的困難であった下地膜上のITO膜の高品位エッチングが可能である。
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のエッチング液組成物は、シュウ酸、フッ化アルキル基含有燐酸系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤及び水を必須成分として含有する。なお、本明細書中、フッ化アルキル基とは、アルキル基の水素原子の全部又は一部をフッ素原子で置き換えた構造の基をいい、パーフルオロ基を含む。
【0012】
本発明に使用されるフッ化アルキル基含有燐酸系界面活性剤としてはフッ化アルキル基を含有する燐酸系界面活性剤であれば特に限定されず、例えば、フッ化アルキル基含有燐酸、フッ化アルキル基含有亜燐酸;フッ化アルキル基含有燐酸塩(例えば、アンモニウム塩、カリウム塩、ナトナウム塩等)、フッ化アルキル基含有亜燐酸塩(例えば、アンモニウム塩、カリウム塩、ナトナウム塩等);フッ化アルキル基含有燐酸エステル、又は、フッ化アルキル基含有燐酸エステル塩、例えば、下記一般式(1):
(C2n+12mO)x−P(O)−(OA)y (1)
(式中、Aは、H、NH、K又はNaを表し、nは6〜10の整数であり、mは0〜2の整数であり、x、yは、それぞれ、1又は2であり、かつ、x+yは3である。)で表されるフッ化アルキル基含有燐酸エステル又はフッ化アルキル基含有燐酸エステル塩;フッ化アルキル基含有亜燐酸エステル、又は、フッ化アルキル基含有亜燐酸エステル塩、例えば、下記一般式(2):
(C2n+12mO)x−PH(O)−(OA)y (2)
(式中、Aは、H、NH、K又はNaを表し、nは6〜10の整数であり、mは0〜2の整数であり、xは、1又は2であり、yは、0又は1であり、かつ、x+yは2である。)で表されるフッ化アルキル基含有亜燐酸エステル又はフッ化アルキル基含有亜燐酸エステル塩等を挙げることができる。フッ化アルキル基含有燐酸系界面活性剤としては、上市されているものを使用することもでき、例えば、大日本インキ化学工業株式会社製メガファックF−491(商品名)等は上記一般式(1)を満たすフッ化アルキル基含有燐酸系界面活性剤である。これらフッ化アルキル基含有燐酸系界面活性剤は1種を使用してもよく又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0013】
これらのうち、炭素数6〜12のフッ化アルキル基を一つ有する化合物の1種若しくは2種以上の組合せ、炭素数6〜12のフッ化アルキル基を二つ有する化合物の1種若しくは2種以上の組合せ、又は、炭素数6〜12のフッ化アルキル基を一つ有する化合物の1種若しくは2種以上と炭素数6〜12のフッ化アルキル基を二つ有する化合物の1種若しくは2種以上との組み合わせを好ましく使用することができる。
【0014】
フッ化アルキル基含有燐酸系界面活性剤の配合量としては、シュウ酸、フッ化アルキル基含有燐酸系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤及び水の合計配合量を100重量%とした場合に、好ましくは0.0001〜1重量%である。この範囲未満であると、残渣除去能力が不充分の場合があり、一方、この範囲を超えて配合しても残渣除去能力はあまり向上せず、過剰に配合すると発泡の不都合が生じる。より好ましくは0.005〜0.1重量%である。
【0015】
本発明に使用されるポリエチレンオキサイドアルキルエーテル型ノニオン系界面活性剤としては特に限定されず、例えば、下記一般式(3):
(C2n+1O)x−(CH)yCHO−(CHCHO)z−H (3)
(式中、nは8〜21の整数、xは1〜3の整数、yは0〜2の整数であり、かつ、x+yは3であり、zは6〜100の整数である。)で表される化合物を挙げることができる。このようなものとしては、例えば、ポリ(例えば、N=20〜60)エチレングリコールアルキル(例えば、セチル、オレイル、ドデシル等)エーテル等を挙げることができる。このような界面活性剤としては上市されているものを使用することもでき、例えば、第一工業製薬株式会社製ノイゲンTDS−500F(商品名)、日光ケミカルズ株式会社製NIKKOL BO−50V、NIKKOL MYS−55V等は上記式を満たすノニオン系界面活性剤である。これらポリエチレンオキサイドアルキルエーテル型ノニオン系界面活性剤は1種を使用してもよく又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0016】
ポリエチレンオキサイドアルキルエーテル型ノニオン系界面活性剤の配合量としては、シュウ酸、フッ化アルキル基含有燐酸系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤及び水の合計配合量を100重量%とした場合に、0.001〜10重量%が好ましい。この範囲未満であると、残渣除去能力が不充分の場合があり、一方、この範囲を超えて配合しても残渣除去能力はあまり向上せず、かえって、過剰に配合するとエッチング速度を低下させたり、発泡が著しくなりリンス工程に不都合が生じたり、また配線欠陥の原因となるおそれがある。より好ましくは0.01〜1重量%である。
【0017】
本発明に使用されるシュウ酸の配合量は、エッチング液組成物中、水に対する溶解度以内であればよく、下限は、エッチング速度の観点から、シュウ酸、フッ化アルキル基含有燐酸系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤及び水の合計配合量を100重量%とした場合に好ましくは0.5重量%以上である。
【0018】
本発明に使用される水の配合量は、シュウ酸、フッ化アルキル基含有燐酸系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤及び水の合計配合量を100重量%とした場合に、シュウ酸、フッ化アルキル基含有燐酸系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤の配合量の残部である。
【0019】
本発明のエッチング液組成物は、本発明の目的を妨げない範囲で、その他の成分(例えば、スルホン酸及びスルホン酸化合物、カルボン酸及びカルボン酸化合物、燐酸及び燐酸化合物、塩酸及び塩化物、硝酸、低級アルコール等)を必要に応じて適宜配合することを妨げない。
【0020】
本発明のエッチング液組成物は、上記各成分の所要量を常法により混合することにより調製することができる。
【0021】
本発明のエッチング液組成物は、基板(例えば、ガラス等)上にスパッタリング等の手法で形成されたITO膜のエッチングによるパターニングに使用することができる。また、基板上に、下地膜を形成した上に形成されたITO膜のエッチングにも好適に使用することができる。なお、本明細書中、下地膜とは、基板上に、ITO膜の下に、ITO膜の形成に先立って形成され、その上にITO膜が形成される膜をいい、例えば、窒化ケイ素(SiN)膜等であってよい。
【0022】
エッチング工程においては、本発明のエッチング液組成物は、室温で又は加熱して、例えば、25〜50℃で、使用することができる。エッチングに要する時間は、ITO膜の膜厚等により異なるが、一般には、例えば、1〜30分程度である。エッチングの後、必要に応じて、リンス工程で洗浄することができる。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を示して、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の表中の略号は下記のとおり。また、PEGはポリエチレングリコールを意味する。
F−491:フッ化アルキル基含有燐酸系界面活性剤メガファックF−491(大日本インキ化学工業株式会社製)
MYS−55V:NIKKOL MYS−55V、ポリエチレングリコールアルキルエーテル(ステアリン酸PEG55)(日光ケミカルズ株式会社製)
BO−50V:NIKKOL BO−50V、ポリエチレングリコールアルキルエーテル(オレイルPEG50)(日光ケミカルズ株式会社製)
TDS−500F:ノイゲンTDS−500F、ポリエチレングリコールアルキルエーテル(第一工業製薬株式会社製)
LT−270:ライポンLT−270、アルキルベンゼンスルホン酸(ライオン株式会社製)
【0024】
実施例1〜7及び比較例1〜4
表1の配合でエッチング液を調製した。これらのエッチング液を用いて、以下の評価をした。結果を表2に示した。
【0025】
残渣除去能力
1.ガラス基板上
ガラス基板上にITO膜を形成した基板を、エッチング速度から算出されるジャストエッチッグ時間の1.4倍の時間、エッチング処理した。水洗、窒素ブロー後、処理後のサンプルを電子顕微鏡観察をおこない、エッチング後の残渣を評価した。
2.下地膜上
ガラス基板上に窒化ケイ素膜を形成し、さらに、ITO膜を形成した基板を、エッチング速度から算出されるジャストエッチッグ時間の1.4倍の時間、エッチング処理した。水洗、窒素ブロー後、処理後のサンプルを電子顕微鏡観察をおこない、エッチング後の残渣を評価した。なお、合格は◎及び○である。
評価は以下の基準で行った。
◎:残渣なし
○:ごくわずかに残渣あり
△:多数ではないがかなり残渣あり
×:多数の残渣あり
【0026】
泡立ち
100mlの比色管にエッチング液を30ml入れ、TS式シェーカーにセットし、2分間震盪した。震盪停止後、1分後に、泡高さ(mm)を測定し、発泡性を評価した。なお、泡高さ5mm未満の場合には、泡の発生が実質的になくエッチング装置の運転に支障はなく、5〜15mmの場合には多少の泡の発生があるもののエッチング装置の運転に実質的支障は生じない。しかし、15mmを超える場合には泡の発生により装置の運転に支障が生じるおそれが大きい。なお、合格は◎及び○である。
◎:泡高さ5mm未満
○:泡高さ5〜15mm
×:泡高さ15mmを超える
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
上記実施例1〜7から、本発明のエッチング液によると、ガラス基板上のみならず下地膜上でも残渣除去能力に優れていることがわかる。一方、比較例3、4は残渣除去能力はあるものの、泡立ちが著しかった。また、比較例2は、泡立ち、ガラス基板上残渣除去能力とも問題なかったが、下地膜上の残渣除去能力に問題があった。さらに、アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤を使用した比較例5は、残渣除去能力はあるものの、泡立ちが著しかった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、従来技術に比べて残渣除去能力が一層向上しており、エッチング装置稼働に適合したエッチング液であるので、パターニングの歩留り、精度向上に寄与することができ、電子部品の製造に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュウ酸、フッ化アルキル基含有燐酸系界面活性剤、ポリエチレンオキサイドアルキルエーテル型ノニオン系界面活性剤及び水を含有する、酸化インジウムスズ透明導電膜用のエッチング液組成物。
【請求項2】
フッ化アルキル基含有燐酸系界面活性剤が、フッ化アルキル基含有燐酸、フッ化アルキル基含有亜燐酸、フッ化アルキル基含有燐酸エステル、フッ化アルキル基含有亜燐酸エステル、フッ化アルキル基含有燐酸塩、フッ化アルキル基含有亜燐酸塩、フッ化アルキル基含有燐酸エステル塩及びフッ化アルキル基含有亜燐酸エステル塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
フッ化アルキル基含有燐酸系界面活性剤が、炭素数6〜12のフッ化アルキル基を一つ有する化合物及び/又は炭素数6〜12のフッ化アルキル基を二つ有する化合物である請求項1又は2記載の組成物。

【公開番号】特開2007−214190(P2007−214190A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29789(P2006−29789)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】