説明

エナンチオ純粋β−アミノ酸誘導体の製造方法、及びエナンチオ純粋β−アミノ酸誘導体

一般式(I)
R1-NZ-CHR2-CH2-COOR3(I)
(式中、
R1及びR2は独立して、任意に環状置換基を形成する有機残基を表し、
R3は、H又は有機残基を表し、及び
Zは、H又はアミノ官能保護基を表す。)
に対応するエナンチオ純粋β-アミノ酸誘導体の製造方法であって、
一般式(II)
R1-NZ-CHR2-CH2-COOR4(II)
(式中、
R1、R2及びZは式(I)で定義した通りであり、及び
R4は有機残渣である。)
に対応する化合物のエナンチオマーの混合物を、リパーゼの存在下で加水分解に付す工程を含む、方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、エナンチオ純粋(enantiopure)β-アミノ酸誘導体の製造方法、及びエナンチオ純粋β-アミノ酸誘導体に関する。
【0002】
いくつかのβ-アミノ酸及びそれらの誘導体は、医薬製品として用いることのできるペプチドの製造に有用である。そのようなβ-アミノ酸の具体例は、少なくとも1種の窒素ヘテロ環を含む。
活性成分を探すには、特にペプチドの薬理的活性に関与し、且つペプチド又はペプチド類似化合物の製造方法に用いることのできるアミノ酸を有することが望ましい。
米国特許第3,891,616号明細書は、2-ピロリジン酢酸を含むいくつかの生物学的活性ペプチドを記載している。この酸のN-Boc誘導体は、天然L-プロリンのジアゾメタンによる処理によって調製される。
この既知の方法は、出発物質として、エナンチオ純粋天然アミノ酸の使用を必要とする。後者は、ラセミ化の危険を伴い得る条件下で、危険な試薬による転化を受ける。
本発明は、上記の問題を改善することが目的である。
【0003】
従って、本発明は、一般式(I)
R1-NZ-CHR2-CH2-COOR3(I)
(式中、
R1及びR2は独立して、任意に環状置換基を形成する有機残基を表し、
R3は、H又は有機残基を表し、及び
Zは、H又はアミノ官能保護基を表す。)
に対応するエナンチオ純粋β-アミノ酸誘導体の製造方法であって、
一般式(II)
R1-NZ-CHR2-CH2-COOR4(II)
(式中、
R1、R2及びZは式(I)で定義した通りであり、及び
R4は有機残渣である。)
に対応する化合物のエナンチオマーの混合物を、リパーゼの存在下で加水分解に付す工程を含む方法に関する。
本発明の方法が、高収率で高エナンチオマー純度のβ-アミノ酸又はそれらの誘導体の製造を可能とすることが見出された。
【0004】
“エナンチオ純粋化合物”の語句は、本質的にエナンチオマーからなるキラル化合物を表すことを意図する。エナンチオマー過多(ee)は、以下のように定義する。
ee(%)=100(x1-x2)/(x1+x2) ただしx1>x2
(式中、x1及びx2は、エナンチオマー1又は2の混合物におけるそれぞれの含有量を表す。)
“有機残基”の語句は、特に、ヘテロ原子、例えば特にホウ素、ケイ素、窒素、酸素又は硫黄原子を含んでもよい直鎖又は分枝アルキル又はアルキレン基、シクロアルキル基、ヘテロ環又は芳香族系を表すことを意図する。有機残基は、二重又は三重結合及び官能基を含んでもよい。
有機残基は、少なくとも1個の炭素原子を含む。しばしば、少なくとも2個の炭素原子を含む。好ましくは、少なくとも3個の炭素原子を含む。特に好ましくは、少なくとも5個の炭素原子を含む。
有機残基は一般的に、多くて100個の炭素原子を含む。しばしば、多くて50個の炭素原子を含む。好ましくは多くて40個の炭素原子を含む。特に好ましくは、多くて30個の炭素原子を含む。
【0005】
“アルキル基”の語句は、特に、1〜20個の炭素原子、好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の炭素原子を含む、直鎖又は分枝アルキル置換基を表すことを意図する。そのような置換基の具体例は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、n-ヘキシル、2-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル及びベンジルである。
“シクロアルキル基”の語句は、特に、3〜10個の炭素原子、好ましくは5、6又は7個の炭素原子を含む、少なくとも1種の飽和炭素環を含む置換基を表すことを意図する。そのような置換基の具体例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル及びシクロヘプチルである。
“アルキレン基”又は“シクロアルキレン基”の語句は、特に、上記に定義した通りのアルキル又はシクロアルキル基由来の二価ラジカルを表すことを意図する。
【0006】
有機残基が、1つ以上の二重結合を含むときは、しばしば2〜20個の炭素原子、好ましくは2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の炭素原子を含むアルケニル又はシクロアルケニル基から選択される。そのような基の具体例は、ビニル、1-アリル、2-アリル、n-ブテ-2-エニル、イソブテニル、1,3-ブタジエニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル及びスチリルである。
有機残基が、1つ以上の三重結合を含むときは、しばしば2〜20個の炭素原子、好ましくは2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の炭素原子を含むアルキニル基から選択される。そのような基の具体例は、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、n-ブチ-2-イニル及び2-フェニルエチニルである。
【0007】
有機残基が、1種又は任意にそれ以上の芳香族系を含むときは、しばしば6〜24個の炭素原子、好ましくは6〜12個の炭素原子を含むアリール基である。そのような基の具体例は、フェニル、1-トリル、2-トリル、3-トリル、キシリル、1-ナフチル及び2-ナフチルである。
“ヘテロ環”の語句は、特に、少なくとも1個がヘテロ原子である、3、4、5、6、7又は8個の原子からなる少なくとも1つの飽和又は不飽和環を含む環状系を表すことを意図する。ヘテロ原子はしばしば、B、N、O、Si、P及びSから選択される。さらにしばしば、N、O及びSから選択される。
そのようなヘテロ環の具体例は、アジリジン、アゼチジン、ピロリドン、ピペリジン、モルホリン、1,2,3,4-テトラヒドロキノリン、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン、ペルヒドロキノリン、ペルヒドロイソキノリン、イソキサゾリジン、ピラゾリン、イミダゾリン、チアゾリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、ピラン、テトラヒドロピラン及びジオキサンである。
【0008】
上記に定義された有機残基は、官能基で非置換又は置換されていてもよい。“官能基”の語句は、特に、ヘテロ原子を含む又はヘテロ原子からなる置換基を表すことを意図する。ヘテロ原子はしばしば、B、N、O、Al、Si、P、S、Sn、As及びSe及びハロゲンから選択される。さらにしばしば、N、O、S及びP、特にN、O及びSから選択される。
官能基は一般的に、1、2、3、4、5又は6個の原子を含む。
官能基として挙げられ得るものは、ハロゲン、ヒドロキシル基、アルコキシ基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、カルボニル基、アシル基、任意にエステル化されたカルボキシル基、カルボキサミド基、ウレア基、ウレタン基、及びカルボニル基、ホスフィン、ホスホナート又はホスファート基、スルホキシド基、スルホン基及びスルホナート基を含む上記基のチオール誘導体である。
【0009】
本発明の方法では、一般式(I)又は(II)の化合物における置換基Zはしばしば、アミノ官能保護基である。この場合、エナンチオ純粋β-アミノ酸誘導体が未反応基質として得られ、これはさらなる修飾無しで、ペプチド合成中間体として用いることができる。
Zで表され得る、アミノ官能保護基の非限定例として挙げられ得るものは、特に、アルキル又はアラルキル型の置換又は非置換基、例えばベンジル、ジフェニルメチル、ジ(メトキシフェニル)メチル又はトリフェニルメチル(トリチル)基、アシル型の置換又は非置換基、例えばホルミル、アセチル、トリフルオロアセチル、ベンゾイル又はフタロイル基、アラルキルオキシカルボニル型の置換又は非置換基、例えばベンジルオキシカルボニル、p-クロロベンジルオキシカルボニル、p-ブロモベンジルオキシカルボニル、p-ニトロベンジルオキシカルボニル、p-メトキシベンジルオキシカルボニル、ベンズヒドリルオキシカルボニル、2-(p-ビフェニルイル)イソプロピルオキシカルボニル、2-(3,5-ジメトキシフェニル)イソプロピルオキシカルボニル、p-フェニルアゾベンジルオキシカルボニル、トリフェニルホスホノエチルオキシカルボニル又は9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基、アルキルオキシカルボニル型の置換又は非置換基、例えばtert-ブチルオキシカルボニル、tert-アミルオキシカルボニル、ジイソプロピルメチルオキシカルボニル、イソプロピルオキシカルボニル、エチルオキシカルボニル、アリルオキシカルボニル、2-メチルスルホニルエチルオキシカルボニル又は2,2,2-トリクロロエチルオキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル型の基、例えばシクロペンチルオキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニル、アダマンチルオキシカルボニル又はイソボルニルオキシカルボニル基、及びヘテロ原子を含む基、例えばベンゼンスルホニル、p-トルエンスルホニル(トシル)、メシチレンスルホニル、メトキシトリメチルフェニルスルホニル、o-ニトロフェニルスルフェニル又はトリメチルシラン基である。
これらの基Z中で、カルボニル基を含むものが好ましい。アシル、アラルキルオキシカルボニル及びアルキルオキシカルボニル基が、特に好ましい。
【0010】
保護基は、好ましくは立体障害性である。“立体障害性”の語句は、少なくとも1個の第二、第三又は第四炭素原子を含む、少なくとも3個の炭素原子、特に少なくとも4個の炭素原子を含む置換基を、特に表すことを意図する。しばしば、立体障害性の基は、多くて100、又は50個程度の炭素原子を含む。アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル及びアラルコキシカルボニル基から選択される保護基が好ましい。tert-ブチルオキシカルボニル(BOC)基が、最も好ましい。
本発明の方法では、一般式(I)の化合物における置換基R3はしばしば、水素原子である。この場合、それ自体で既知の方法を用いて、その置換基を、上記に定義した有機残基で置換することができる。
本発明の方法では、一般式(II)の化合物における置換基R4はしばしば、上記に定義したアルキル又はシクロアルキル基である。メチル又はエチル基が好ましい。
好ましい態様では、一般式(I)又は(II)の化合物における置換基R1及びR2は、基NZ-CHを有するヘテロ環を形成する。前記へテロ環は、好ましくは4,5,6,7又は8個の原子を含む。特に好ましくは、5,6又は7個の原子を含む。
この態様の変形では、ヘテロ環は、好ましくはN、O及びSから選択される少なくとも1種の付加的なヘテロ原子を含む。N及びOから選択される少なくとも1種の付加的なヘテロ原子ヘテロ環が、特に好ましい。
【0011】
本発明はまた、この態様に従うエナンチオ純粋β-アミノ酸又はエナンチオ純粋β-アミノ酸誘導体にも関する。本発明はまた、その製造方法において、本発明のエナンチオ純粋β-アミノ酸誘導体を用いて得ることのできるペプチド又はペプチド類似化合物にも関する。本発明のエナンチオ純粋β-アミノ酸誘導体のペプチドカップリングは、それ自体で既知の技術によって行うことができる。
特に好ましくは、本発明の方法を、式(III)
【化1】

(式中、Jは、C、N、O及びSから独立に選択される。Z及びR4は上記に定義した通りであり、m及びnは値0〜4を独立に有する。好ましくは、m及びnは値1、2又は3を有する。)
のエナンチオ純粋β-アミノ酸誘導体の製造に適用する。
そのようなエナンチオ純粋β-アミノ酸誘導体の具体例は、以下の化合物から選択される。
【化2】

(式中、Z及びR3は上記に定義した通りである。)
【0012】
本発明の方法では、リパーゼはしばしば、シュードモナスセパシア(cepacia)及びカンジダアンタークティカ(antarctica)リパーゼから選択される。シュードモナスセパシアリパーゼが好ましい。リパーゼは、遊離形態又は固定形態、例えばセラミックなどの支持上に固定して用いることができる。
本発明の方法では、加水分解は一般的に、0℃以上の温度で行う。この温度はしばしば、10℃以上である。この温度は、好ましくは20℃以上である。本発明の方法では、加水分解は一般的に50℃以下の温度で行う。この温度はしばしば40℃以下である。この温度は、好ましくは30℃以下である。
本発明の方法では、加水分解中は、一般的に6以上のpHに保持する。pHはしばしば、6.5以上である。好ましくは、加水分解中は、およそ7のpHに保持する。本発明の方法では、加水分解中は、一般的に6以下のpHに保持する。pHはしばしば、7.5以下である。
本発明の方法では、用いられるリパーゼの量は一般的に、10mg/mmol以上(式(II)の化合)である。この量は好ましくは、20mg/mmol以上(式(II)の化合物)である。本発明の方法では、用いられるリパーゼの量は一般的に、100mg/mmol以下(式(II)の化合物)である。この量は好ましくは、50mg/mmol以下(式(II)の化合物)である。
【0013】
本発明は、ペプチド又はペプチド類似化合物の製造方法であって、
(a)本発明の方法でエナンチオ純粋β-アミノ酸誘導体を製造し、
(b)得られたエナンチオ純粋β-アミノ酸誘導体を用いて、ペプチド又はペプチド類似化合物を製造する、
方法にも関する。
以下の例は、本発明を制限することなく説明することを意図する。
【0014】
例1 3-カルボキシメチルモルホリンのエナンチオ純粋誘導体の合成
【化3】

ラセミ3-カルボキシメチルモルホリン1を、モルホリンから出発して、N-アセチル化モルホリンの陽極メトキシ化(電気化学合成)の連続工程、TiCl4の存在下でアリルトリメチルシランとの反応によるアリル基とのメトキシ基の置換、その後の酸化的オゾン分解によって得た。
1.1 3-カルボエトキシメチルモルホリン塩酸塩の合成
【化4】

0.85mLの塩化アセチルを、0℃に冷却した10mLのエタノールに滴下した。次に、β-アミノ酸1(4mmol、1当量)の3mLエタノール溶液を加え、その混合物を3時間還流した。溶媒の蒸発後、0.83gの所望の生成物を単離した(収率98%)。
13C NMR:
δ (CDCl3) 169,0 (s, COOEt), 67,5 (s, OCH2CH), 63,5 (s, OCH2CH2), 61,6 (s, OCH2CH3), 51,2 (s, CHCH2COOEt), 43,1 (s, CH2NH), 33,1 (s, CHCH2COOEt), 14,0 (s, OCH2CH3).
1H NMR:
δ (CDCl3) 4,18 (q, 3JH-H=7,2 Hz, 2H, COOCH2CH3), 3-84-3,15 (m, 7H, CH2CH2OCH2CH), 3,11 (dd, 3JH-H=4,5 Hz, 2JH-H=17,1 Hz, 1H de CH2CO2Et), 2,79 (dd, 3JH-H=7,9 Hz, 2JH-H=17,1 Hz, 1H de CH2CO2Et), 1,26 (t, 3JH-H=7,2 Hz, 3H, COOCH2CH3).
I.R.: (KBr) 3441 (νNH), 2954 (νNH), 1727 (νCOester).
元素分析:
計算値: C 45.83%; H 7.69%; N 6.68%
測定値: C 42.13%; H 7.17%; N 6.66%
【0015】
1.2 4-tert-ブトキシカルボニル-3-カルボエトキシメチルモルホリンの合成
【化5】

2gの炭酸水素ナトリウム(24mmol、4当量)を、1.26gのβ-アミノエステル2(6mmol)の10mLのTHF及び35mLのジオキサン溶液に加えた。その溶液が均一になった時、1.75gのtert-ブチルピロカルボナート(8mmol、1.3当量)を加えた。その溶液を40℃で5時間加熱した。蒸発後、その残渣をエーテル中に入れた。水相を15mLのエーテルで3回抽出した。有機相を溜め、硫酸マグネシウムで乾燥した。有機相の蒸発後、その残渣を、シリカカラム、溶離剤4/1のシクロヘキサン/酢酸エチルでクロマトグラフィーすることによって精製した。予想化合物に対応する1.42gの固形物を単離した(収率87%)。
13C NMR:
δ (CDCl3) 171,3 (s, COOEt), 154,5 (s, NCOOt-Bu), 80,3 (s, C(CH2)3), 68,9 (s, OCH2CH), 66,9 (s, OCH2CH2N), 60,7 (s, OCH2CH3), 48,1 (s, NCH), 39,5 (s, OCH2CH2N), 33,8 (s, CH2COOEt), 28,4 (s, C(CH3)3), 14,2 (s, OCH2CH3).
1H NMR:
δ (CDCl3) 4,36 (large, 1H, NCH), 4,11 (q, 3JH-H=7,1 Hz, 2H, OCH2CH3), 3,840 (m, 3H, 1H de OCH2CH2N, 1H de OCH2CH2N, 1H de OCH2CH), 3,56 (dd, 3JH-H=2,8 Hz, 2JH-H=11,8 Hz, 1H, 1H de OCH2CH), 3,43 (td, 3JH-H=2,8 Hz, 2JH-H=12 Hz, 1H, 1H de OCH2CH2N), 3,09 (m, 1H, 1H de OCH2CH2N), 2,81 (dd, 3JH-H=8,8 Hz, 2JH-H=15 Hz, 1H, 1H de CH2COOEt), 2,54 (dd, 3JH-H=5,5 Hz, 2JH-H=15 Hz, 1H, 1H de CH2COOEt), 1,44 (s, 9H, C(CH3)3), 1,25 (t, 3JH-H=7,1 Hz, 3H, OCH2CH3).
質量分析:
M/Z゜(EI): 273 (1%) ((M)+), 217 (5%) ((M-C4H8)+), 200 (3%) ((M-CO2CH2CH3)+), 172 (24%) ((M-C5H9O2)+), 142 (43%), 130 (32%), 86 (46%), 57 (100%) ((C4H9)+), 41 (26%).
I.R.: (純粋) 1735 (νCOester), 1698 (νCOcarbamate).
元素分析:
計算値: C 57.13%; H 8.48%; N 5.12%
測定値: C 57.06%; H 8.63%; N 5.04%
【0016】
1.3 ラセミ4-tert-ブトキシカルボニル-3-カルボエトキシメチルモルホリンの酵素ラセミ開裂
100gのAmano PS(シュードモナスセパシア)酵素を、273mgのモルホリン3(1mmol)の2mLのTHF、8mLの10-2M緩衝溶液pH7、及び8mLの水の溶液に加えた。反応媒体を25℃で攪拌し、自動滴定装置により、0.1N水酸化ナトリウム溶液を加えることによって、pHを7に保持した。反応の進行は、加えられた多量の0.1N水酸化ナトリウムによって続けられた。10時間攪拌し、5mLの0.1N水酸化ナトリウムを加えた後、酵素から溶液を分離するために、その反応媒体を遠心分離した。その溶液を濃縮し、水相をエーテルで抽出した。有機相を溜め、硫酸マグネシウムで乾燥した。蒸発後、125mgのエナンチオ純粋3bが得られた(収率45%)。水相をpH3まで酸性化し、エーテルで抽出した。有機相を溜め、硫酸マグネシウムで乾燥した。蒸発後、120mgのエナンチオ純粋4-tert-ブトキシカルボニル-3-カルボキシメチルモルホリン3aが得られた(収率44%)。酸は、ヘキサン/ジイソプロピルエーテル(8/2)混合物から再結晶した。
【0017】
(3R)-4-tert-ブトキシカルボニル-3-カルボキシメチルモルホリン3a
【化6】

[α]20D = -35.7 (c = 1.94; CH2Cl2) M.p.: 82℃
13C NMR:
δ (CDCl3) 175,9 (s, COOH), 154,5 (s, NCOOtBu), 80,5 (s, OC(CH3)3), 68,8 (s, OCH2CH), 66,7 (s, OCH2CH2), 48,0 (s, OCH2CH), 39,4 (s, OCH2CH2), 33,4 (s, CH2COOH), 28,2 (s, OC(CH3)3).
1H NMR:
δ (CDCl3) 175,9 (s, COOH), 154,5 (s, NCOOtBu), 80,5 (s, OC(CH3)3), 68,8 (s, OCH2CH), 66,7 (s, OCH2CH2), 48,0 (s, OCH2CH), 39,4 (s, OCH2CH2), 33,4 (s, CH2COOH), 28,2 (s, OC(CH3)3).
質量分析:
M/Z゜(EI): 245 (7%) ((M)+), 190 (10%), 172 (17%) ((M-OC4H9)+), 144 (3%), 172 (24%) ((M-C5H9O2)+), 142 (43%), 130 (14%), 114 (12%), 86 (31%), 70 (12%), 57 (100%) ((C4H9)+), 41 (12%).
I.R.: (KBr) 3700-2500 (νOHacid), 1713 (νCOacid), 1694 (νCOcarbamate).
【0018】
(3S)-4-tert-ブトキシカルボニル-3-カルボエトキシメチルモルホリン3b
【化7】

[α]20D = +35.6 (c = 1.15; CH2Cl2)
エナンチオ過多を、ガスクロマトグラフィーインジェクション(Chirasil-DEX CBカラム)で測定した。
流速:ヘリウム1mL/分
T(オーブン):150℃等温線
tr=(S)に対して13.8分、(R)に対して14.5分
【0019】
1.4 (3S)-3-(2-フェノキシエチル)モルホリン塩酸塩の合成による、化合物3a及び3bの立体配置の同定
【化8】

-40℃において、4.2mLのDiBAl-H(4.2mL、2当量)を、570mgのβ-アミノエステル3b(2.1mmol、1当量)の20mLジエチルエーテル溶液に加える。その溶液を、-40℃で1時間及び続いて周囲温度で1時間攪拌した。その混合物を、0.5N塩酸溶液で加水分解し、次にその溶液をジエチルエーテルで抽出した。溜めた有機相を硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒の蒸発後、その残渣を、シリカゲル、溶離剤シクロヘキサン/酢酸エチルが2/3でクロマトグラフィーすることによって精製した。予想生成物に対応する、390mgの純粋なアルコールを単離した(収率80%)。
0℃において、515mgのジイソプロピルアゾジカルボキシラート(2.55mmol、1.5当量)を、390mgの前述のアルコール(1.7mmol、1当量)、160mgのフェノール(2.2mmol、1.3当量)及び670mgのトリフェニルホスフィンの、10mLのTHF溶液に加えた。その混合物を、周囲温度で2時間30分攪拌した。溶媒の蒸発後、その残渣を、シリカゲル、溶離剤シクロヘキサン/酢酸エチルが4/1でクロマトグラフィーすることによって精製した。予想生成物に対応する290mgの純粋エーテルを単離した(収率55%)。これを、酢酸エチル及び3M塩酸溶液の混合物中で、12時間50℃で加熱した。凍結乾燥後、145mgの対応塩酸塩を単離した(収率63%)。
[α]22D = -8 (c = 1.8; H2O)
(litt. Brown, G.R. et al., J. Chem. Soc. Perkin Trans. I1987, 547-551)
[α]22D = 化合物Rに対して +12 (c = 1.74; H2O)
【0020】
例2 ピロリジン-2-酢酸のエナンチオ純粋誘導体の合成
【化9】

225mgのPS Amanoリパーゼを、ピロリジンから出発して例1の手順による303mgのβ-アミノエステル4(1.18mmol)の、6mLの水、6mLの(10-2M)緩衝剤pH7、及び2mLのTHF溶液に加えた。自動滴定装置で0.1Nの水酸化ナトリウム溶液を加えることによって、pHを7保持した。6mLの0.1N水酸化ナトリウムを加え、48時間攪拌した後、その溶液を濾過及び濃縮し、次に水相をエーテルで抽出した。有機相を溜め、硫酸マグネシウムで乾燥した。蒸発後、144mgのエステル4bが得られた(収率47.5%)。水相をpH3まで酸性化し、エーテルで抽出した。有機相を溜め、硫酸マグネシウムで乾燥した。蒸発後、125mgの1-tert-ブトキシカルボニルピロリジン-2-酢酸4aが得られた(収率46.5%)。その酸をヘキサンから再結晶した。
【0021】
(2R)-1-tert-ブトキシカルボニル-2-カルボエトキシメチルピロリジン(4b)
【化10】

[α]20D = +40.6 (c = 2.50; CH2Cl2)
[α]20D = +44.1 (c = 2.01; MeOH)
【0022】
(2S)-1-tert-ブトキシカルボニル-2-カルボキシメチルピロリジン(4a)
【化11】

[α]20D = -38.6 (c = 1.41; DMF)
[α]20D = -39.5 (c = 1.9; DMF)
M.p. = 98℃ lit1: M.p. = 99-101℃
13C NMR:
δ (CDCl3): 177,0 (s, COOH), 156,0 (s, COOC(CH3)3), 79,9 (s, COOC(CH3)3), 53,9 (s, CHN), 46,3 (s, CH2CO2H ou CH2N), 39,1 (s, CH2CO2H ou CH2N), 31,2 (s, CH2CH), 28,4 (s, COOC(CH3)3), 23,5 (s, CH2CH2N).
1H NMR:
δ (CDCl3) 4,34 (s large, 1H, CH2CH), 3,30 (m, 2H, CH2N), 2,80 (m, 1H de CH2CO2H), 2,28 (dd, 3JH-H=10 Hz, 2JH-H=16 Hz, 1H de CH2CO2H), 2,00-1,76 (m, 4H, CH2CH2CH), 1,39 (s, 9H, OC(CH3)3).
質量分析:
M/Z゜(EI): 229 (5%) ((M)+), 173 (24%) ((M-C4H8)+), 156 (26%) ((M-OC4H9)+), 128 (12%) ((M-CO2C4H9)+), 114 (29%), 101 (3%), 82 (3%), 70 (97%), 57 (100%) ((C4H9)+), 41 (20%).
I.R.: (KBr) 3700-2800 (νOHacid), 1735 (νCOacid), 1655 (νCOcarbamate).
エナンチオ過多は、酢酸エチルにおけるガスクロマトグラフィーインジェクション(Chirasil-DEX CBカラム)によって測定した。
ヘリウム流速:1mL/分
T(オーブン):150℃等温線
tr=(R)に対して9.8、(S)に対して10.1
【0023】
例3 ピロリジン-2-酢酸のエナンチオ純粋誘導体の合成
エナンチオ純粋ピロリジン-2-酢酸4a及び対応するエナンチオ純粋メチルエステル4cが、例1の手順によって得られた。
以下の表は、得られたエナンチオ過多を与える。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
R1-NZ-CHR2-CH2-COOR3(I)
(式中、
R1及びR2は独立して、任意に環状置換基を形成する有機残基を表し、
R3は、H又は有機残基を表し、及び
Zは、H又はアミノ官能保護基を表す。)
に対応するエナンチオ純粋β-アミノ酸誘導体の製造方法であって、
一般式(II)
R1-NZ-CHR2-CH2-COOR4(II)
(式中、
R1、R2及びZは式(I)で定義した通りであり、及び
R4は有機残渣である。)
に対応する化合物のエナンチオマーの混合物を、リパーゼの存在下で加水分解に付す工程を含む、方法。
【請求項2】
一般式(I)及び(II)の化合物における置換基R1及びR2が、基N-Z-CHを有するヘテロ環を形成し、前記環が好ましくは4〜8個の原子、特に5〜7個の原子を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ヘテロ環が、好ましくはN、O及びSから選択される少なくとも1種の付加的なヘテロ原子を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
一般式(II)の化合物における置換基Zが、アミノ官能保護基、特にアルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基又はアラルコキシカルボニル基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
一般式(II)の化合物における置換基R4が、メチル又はエチル基である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
リパーゼが、シュードモナスセパシアリパーゼである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
加水分解が、0〜50℃の温度及び6〜8のpHで行われる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
用いられるリパーゼの量が、10〜100mg/mmol(式(II)の化合物)である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ペプチド又はペプチド類似化合物の製造方法であって、
(a)エナンチオ純粋β-アミノ酸誘導体を、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法で製造し、
(b)得られたエナンチオ純粋β-アミノ酸誘導体を用いて、ペプチド又はペプチド類似化合物を製造する、
方法。
【請求項10】
一般式(I)
R1-NZ-CHR2-CH2-COOR3(I)
(式中、置換基R1及びR2は、基N-Z-CHを有するヘテロ環を形成し、前記へテロ環は少なくとも1種の付加的なヘテロ原子を含み、
R3は、H又は有機残基を表し、及び
Zは、H又はアミノ官能保護基を表す。)
に対応する、エナンチオ純粋β-アミノ酸誘導体。
【請求項11】
ヘテロ環が、5〜7個の原子を含み、付加的なヘテロ原子が、N、O及びSから選択される、請求項10記載のエナンチオ純粋β-アミノ酸誘導体。
【請求項12】
請求項10又は11記載のエナンチオ純粋β-アミノ酸誘導体をその製造方法において用い、得ることのできる、ペプチド又はペプチド類似化合物。

【公表番号】特表2006−524043(P2006−524043A)
【公表日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505031(P2006−505031)
【出願日】平成16年4月2日(2004.4.2)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003688
【国際公開番号】WO2004/087940
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(591001248)ソルヴェイ (252)
【Fターム(参考)】