エネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類方法及び装置
【課題】本発明はエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類方法及び装置に関し、スペクトル同士の相関関係を求める必要がなく、高速に処理が可能なエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類方法及び装置を提供することを目的としている。
【解決手段】試料に荷電粒子ビームを照射して試料から発生したX線を所定の区画毎に検出し、検出されたX線から、横軸にエネルギー、縦軸に発生したX線の数を表わすX線スペクトルを求めるスペクトル取得手段と、該スペクトル取得手段から得られたスペクトルを横軸をM分割、縦軸をN分割して、横軸のM分割区域毎に縦軸の数値を求め、求めた数値列を各区画毎に得る数値列算出手段と、同じ数値列の区画をまとめて、同一の数値列により同一の組成と判定された区画を同じ色で着色する着色手段と、各組成と判定された個別の分布を合成して分布図を得る分布図取得手段とにより構成される。
【解決手段】試料に荷電粒子ビームを照射して試料から発生したX線を所定の区画毎に検出し、検出されたX線から、横軸にエネルギー、縦軸に発生したX線の数を表わすX線スペクトルを求めるスペクトル取得手段と、該スペクトル取得手段から得られたスペクトルを横軸をM分割、縦軸をN分割して、横軸のM分割区域毎に縦軸の数値を求め、求めた数値列を各区画毎に得る数値列算出手段と、同じ数値列の区画をまとめて、同一の数値列により同一の組成と判定された区画を同じ色で着色する着色手段と、各組成と判定された個別の分布を合成して分布図を得る分布図取得手段とにより構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類方法及び装置に関し、更に詳しくは元素マップのような元素単位での分布状態ではなく、化合物などの物質単位での分布を識別することができるようにしたエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型電子顕微鏡(SEM)と透過型電子顕微鏡(TEM)では、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を取り付けて、X線に基づくスペクトルの分類を行なうようになっている。EDSは元素の分布状況を得るための分析(以下元素マップという)を行なう。元素マップ像について統計分析の手法を用いた解析を行ない、各画素間の相関関係を求めて分布を決定することが行われている。図19は相関図を示している。例えば、横軸がA元素の強度、縦軸がB元素の強度である。これらA元素とB元素の関係をプロットすると、図19に示すような相関図が得られる。
【0003】
図20は相分布を示す図で、どういう組成を持ったものがどのように分布しているかを示すものである。前記した元素マップは、特定エネルギー範囲(以下ROIという)のX線強度を電子線走査の座標状況に基づき描画したものである。近年のEDSでは、この元素マップ像以外に、各座標でのスペクトル情報も同時に測定されている。このスペクトル情報を元に、ROIを変更して元素マップ像を再描画する。特定領域のスペクトル情報を抽出する、又は各座標のスペクトル情報を元に定量補正計算を行ない、その結果にて分布図を描画(以下定量マップという)している。
【0004】
図19と図20は、元素マップ像について統計分析の手法を用いた解析を行ない、各画素間の相関関係を求めて分布を決定したものである。または、各画素で発生するスペクトルについて統計分析の手法を用いた解析を行ない、各スペクトル間の相関関係を求めて分布を決定している。
【0005】
従来のこの種の装置としては、スペクトルデータベースを空にして測定を開始し、測定で得たX線スペクトルと前記スペクトルデータベース内のX線スペクトルとをスペクトル比較手段で比較し、データベース内に一致するX線スペクトルが存在しない場合に、測定で得たX線スペクトルをデータベースに追加登録し、指定された測定を繰り返す技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
また、入射エネルギービームに応答して試料の監視されるX線放射特性を示すX線データを得る段階と、複数の物質の組成データを含み、前記試料の物質が内部に収容されている既存のデータセットを得る段階と、前記組成データを用いて前記データセット内の物質の各々に対して予測X線データを計算する段階と、前記得られたX線データと前記予測X線データとを比較する段階と、前記比較に基づいて前記試料の物質の可能性のある素性を判定する段階とを含んだ物質同定のための方法が知られている(例えば特許文献2参照)。
【0007】
また、未知試料に赤外線を照射してスペクトルを測定し、このスペクトルを既知材料のスペクトルと比較し、スペクトルの多数の波長区分についてスペクトルの勾配または各1次微分をそれぞれ求め、求めた各勾配又は各1次微分の数値を正規化された多段階の数値範囲の1つにそれぞれ分類し、測定されたスペクトルの複数の波長区分について分類されたそれぞれの勾配クラスを、既知材料の予め評価されたスペクトルと同じ複数の波長区分において分類されたそれぞれの勾配クラスと比較し、個々の勾配クラスの類似性と相違性を勾配クラス間の勾配隔たりとして求める技術が知られている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−365246号公報(段落0016〜0017)
【特許文献2】特開2007−3532号公報(段落0032〜0045)
【特許文献3】特開平9−297062号公報(段落0019〜0046)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の装置では、元素マップ像を用いた解析では、微量な成分が見落とされやすいという問題がある。また、スペクトルを元にした解析では、大量の記憶領域を消費し、高速に処理することが困難である。本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、スペクトル同士の相関関係を求める必要がなく、高速に処理が可能なエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の問題を解決するために、本発明は以下のような構成をとっている。
(1)請求項1記載の発明は、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡に装着されるエネルギー分散型X線分析装置において、試料に荷電粒子ビームを照射して試料から発生したX線を所定の区画毎に検出し、検出されたX線から、横軸にエネルギー、縦軸にX線の数を表わすスペクトルを求め、このスペクトルを横軸をM分割、縦軸をN分割して、横軸のM分割区域毎に縦軸の数値を求め、求めた数値列を各区画毎に得、同じ数値列の区画をまとめて、同一の数値列により同一の組成と判定された区画を同じ色で着色し、各組成と判定された個別の分布を合成して分布図を得る、ことを特徴とする。
【0011】
(2)請求項2記載の発明は、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡に装着されるエネルギー分散型X線分析装置において、試料に荷電粒子ビームを照射して試料から発生したX線を所定の区画毎に検出し、検出されたX線から、横軸にエネルギー、縦軸にX線の数を表わすスペクトルを求めるスペクトル取得手段と、該スペクトル取得手段から得られたスペクトルを横軸をM分割、縦軸をN分割して、横軸のM分割区域毎に縦軸の数値を求め、求めた数値列を各区画毎に得る数値列算出手段と、同じ数値列の区画をまとめて、同一の数値列により同一の組成と判定された区画を同じ色で着色する着色手段と、各組成と判定された個別の分布を合成して分布図を得る分布図取得手段と、により構成されることを特徴とする。
【0012】
(3)請求項3記載の発明は、前記M分割の内の特定の分割領域を更に複数の領域に分割して、数値列を求めるようにしたことを特徴とする。
(4)請求項4記載の発明は、前記M分割の内の特定の複数の領域を1個の領域と考えて、数値列を求めるようにしたことを特徴とする。
【0013】
(5)請求項5記載の発明は、試料表面が凹凸形状である場合、前記スペクトルの低エネルギー部分を判断の対象から除外することを特徴とする。
(6)請求項6記載の発明は、エネルギー分散型X線分析装置の波形分解能FWHMをエネルギーE、パルスの処理時間τの関数で表わし、横軸領域を分割する際にこの関数に基づいて分割のエネルギー幅を可変させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
(1)請求項1記載の発明によれば、得られたスペクトルを横軸をM分割、縦軸をN分割して、横軸のM分割区域毎に縦軸の数値を求め、求めた数値列を各区画毎に得、同じ数値列の区画をまとめて、同一の数値列により同一の組成と判定された区画を同じ色で着色し、各組成と判定された個別の分布を合成して分布図を得るようにしているので、スペクトル同士の相関関係を求める必要がなく、高速に処理が可能なエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類方法を提供することができる。
【0015】
(2)請求項2記載の発明によれば、得られたスペクトルを横軸をM分割、縦軸をN分割して、横軸のM分割毎に縦軸の数値を求め、求めた数値列を各区画毎に得、同じ数値列の区画をまとめて、同一の数値列により同一の組成と判定された区画を同じ色で着色し、各組成と判定された個別の分布を合成して分布図を得るようにしているので、スペクトル同士の相関関係を求める必要がなく、高速に処理が可能なエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類装置を提供することができる。
【0016】
(3)請求項3記載の発明によれば、横軸の分割領域を部分的に細かくすることで、形状の特徴を結果に表すことができる。
(4)請求項4記載の発明によれば、横軸の複数の分割領域を1つの領域にすることで、情報量を低下させることなく得られる数値列を少なくすることができる。
【0017】
(5)請求項5記載の発明によれば、試料表面が凹凸であることを検出した場合には、低エネルギー部分を判断の対象から除外することで、正確なX線分析を行なうことができる。
【0018】
(6)請求項6記載の発明によれば、Fano因子やプロセスタイムを予め算出しておくことで、個々の装置で最適な横軸の分割領域のエネルギー幅を設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るエネルギー分散型X線分析装置を備える走査型電子顕微鏡の構成例を示す図である。
【図2】ある試料の観察画像の例を示す図である。
【図3】観察画像の範囲全体から観測されるスペクトルデータを示す図である。
【図4】観察領域を区画に分割した状態を示す図である。
【図5】各組成ごとのスペクトルを示す図である。
【図6】規格化したスペクトルデータを示す図である。
【図7】縦軸及び横軸をそれぞれ10の区画に分割した状態を示す図である。
【図8】区域aの評価を示す図である。
【図9】区域bの評価を示す図である。
【図10】区域cの評価を示す図である。
【図11】区域aからjについての評価を完了した状態を示す図である。
【図12】各組成の分布の合成のやり方を示す図である。
【図13】可変分割領域の説明図である。
【図14】試料表面の形状に応じたX線の放出状態を示す図である。
【図15】試料表面の違いによるスペクトルデータの違いを示す図である。
【図16】エネルギーΔEdによる分解能の違いの例を示す図である。
【図17】プロセスタイムによるスペクトルの違いを示す図である。
【図18】FWHMの関数に基づいて横軸の分割領域を不等間隔に設定した例を示す図である。
【図19】相関図を示す図である。
【図20】相分布図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係るエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を備える走査型電子顕微鏡(SEM)の構成例を示す図である。図において、1は走査コイル、2は電子線であり、走査コイル1はX,Y方向に電子線2を走査する。6は試料であり、走査コイル1により電子線2がその表面に細かく絞られて照射偏向される。
【0021】
3は偏向動作に伴って、試料6から放出されるX線を検出するX線分光器、4は同じく試料6から放出される反射電子又は2次電子を検出する電子線検出器である。5はこれらX線検出器3及び電子線検出器4の出力を受け所定の演算処理を行なう制御装置である。該制御装置5としては、例えばコンピュータが用いられる。
【0022】
7は電子線検出器4の出力を受けて電子線像を表示し、又はX線分光器3の出力を受けてX線スペクトルを表示するモニタである。該モニタ7としては、例えば液晶表示器(LCD)やCRTが用いられる。走査コイル1は、前記制御装置5により走査信号を受けるようになっている。このように構成された装置を用いて、本発明を詳細に説明すれば以下の通りである。動作の主体は制御装置5である。
(実施例1)
制御装置5は、走査コイル1に走査信号を与える。この結果、電子線2は試料6上を走査し、該試料6からはX線が放出される。このX線は制御装置5に入り、画像処理されてスペクトルデータが得られる。得られたスペクトルデータは、モニタ7に表示される。
【0023】
図2はある試料の観察画像の例を示す図である。この観察画像は、図1において、電子線検出器4で検出した信号を画像処理することで得られる。図では、(A),(B),(C)の3種類の画像が得られている状態を示している。この画像は、3種類の異なる化合物或いは単体物質からなる試料を観察した画像であるものとする。図3は観察画像の範囲全体から観測されるスペクトルデータを示す図である。横軸はエネルギー、縦軸はX線計数値である。Aが図2の(A)に、Bが図2の(B)に、Cが図2の(C)にそれぞれ対応している。
【0024】
次に、図4に示すように観察領域を細かい区画に分割し、それぞれの区画で観測されるスペクトルデータを抽出する。図4では64×48の区画に分割しているため、抽出されるスペクトルデータは3072個となる。この時、スペクトルデータの形状は組成に依存するため、図2における組成(A),(B),(C)に含まれるそれぞれの区画から抽出されたスペクトルデータの形状が、図5に示すような形状だったものとする。
【0025】
図5は各組成毎のスペクトルを示す図である。(a)は(A)の組成で収集されるスペクトルデータ、(b)は(B)の組成で収集されるスペクトルデータ、(c)は(C)の組成で収集されるスペクトルデータである。同じ組成の区画から抽出されるスペクトルデータは、ほぼ相似形になることから、以下の手順でスペクトルデータの形状を数値化する。
A)抽出されたスペクトルデータの高さについて、その最大値で規格化する。規格化したスペクトルデータは図6に示すようなものとなる。(a)は高さを規格化した図5の(a)のスペクトル、(b)は高さを規格化した図5の(b)のスペクトル、(c)は高さを規格化した図5の(c)のスペクトルである。
B)高さを規格化したスペクトルデータについて、図7に示すように横軸及び縦軸をそれぞれ10個の区域に分割する。なお、分割する区域は10個以外の数でもいいことは言うまでもない。図7では横軸をa〜jの10個の区域に、縦軸を0〜9の10個の区域にそれぞれ分割する。
C)区域aについて、その範囲内でスペクトルデータが達している最大強度を調べる。図8は区域aの評価を示す図である。図より明らかなように、最大強度は“0”となる。
D)次に区域bについて、その範囲内でスペクトルデータが達している最大強度を調べる。図9は区域bの評価を示す図である。図より明らかなように、最大強度は“0”となる。
E)次に区域cについて、その範囲内でスペクトルデータが達している最大強度を調べる。図10は区域cの評価を示す図である。図より明らかなように、最大強度は“7”となる。
F)このような操作を区域aから区域jまで行なうと、図11に示すようなものとなる。そして、決定された縦軸の区域番号を並べた数値“0079111100”がこのスペクトルの形状を表すIDとして得られる。
【0026】
手順A)〜F)を前記した3072の区画についてのスペクトルデータについて行なうと、各スペクトルデータについてIDが決定される。このIDはスペクトルデータの形状を表しており、形状が組成に依存することから、同一の組成から発生したスペクトルデータは同一のIDを持つことになる。
【0027】
同一のIDを持つことにより、同一の組成と判定された区画を同じ色で着色する。
A)各組成(A),(B),(C)と判定された区画をそれぞれ異なる色で着色した結果が図12の(a)〜(c)である。図12は、各組成の分布の合成のやりかたを示す図である。
B)個別の分布(a)〜(c)を合成すると、求めたい結果である分布図(d)が得られる。
【0028】
このようにこの実施例によれば、得られたスペクトルを横軸をM分割、縦軸をN分割して、横軸のM分割毎に縦軸の数値を求め、求めた数値列を各区画毎に得、同じ数値列の区画をまとめて、同一の数値列により同一の組成と判定された区画を同じ色で着色し、各組成と判定された個別の分布を合成して分布図を得るようにしているので、スペクトル同士の相関関係を求める必要がなく、高速に処理が可能なエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類方法及び装置を提供することができる。
(実施例2)
ピーク位置が狭い範囲に密集しているスペクトルデータの場合、等分割した区域ではピークの間隔に対して区域が広すぎるため、形状の特徴が結果に表れない。そのような場合は、自動又はユーザの指示により、横軸の分割領域を部分的に細かくする。分割領域の大小に関わらず、領域ごとに1桁の数値を割り当てることでスペクトルの形状を数値化する。
【0029】
図13は可変分割領域の説明図である。この特性では、区域Cを更に10個の区域(c0,c1,c2,…,c9)に分割している。そして、区域c内の10分割毎にスペクトルデータの数値を求める。この結果、“0000004996354000000”と、全体で19桁の数値が得られる。情報量の多い領域について細かい分割領域で詳細な情報を得ることの他に、情報量の少ない領域は分割せずに簡略化することも考えられる。
【0030】
例えば、全体のスペクトルを調べて区域e〜jに特徴的なピークの存在が認められなければ、その区域を分割せずに一つの区域とみなす。そうすると、区域a,b,c,d,e〜jの5区域と考えればよく、図13で考えた場合の結果は、“00940”と5桁の数値列となる。この結果、情報量を減らすことなく、得られる数値列を短くするこができる。
【0031】
また、分割領域の細分化と、分割領域をまとめる処理を合わせることも考えられる。即ち、区域cの細分化と、区域e〜jのまとめ処理を合わせて数値化する。このように数値化すると、数値化する区域がa,b,c0〜c9,d,e〜jの14区域と考え、
“00000049963540”という数値列を得ることができる。
(実施例3)
図14は試料表面の形状に応じたX線の放出状態を示す図である。図(b)に示すように、試料表面が凹凸の場合、図(a)のような平坦な試料に比べて試料内部で発生したX線が試料構造を通過しなければならない距離が長くなる。そのため、試料自身によりX線が吸収され、検出されるX線量が減少する。これは透過能力の低い低エネルギーのX線でより顕著なため、観測されるスペクトルデータは図15に示すように低エネルギー部分が落ち込んだ形状となる。
【0032】
こうした場合においては、同じ組成から観測されたスペクトルデータでも形状が相似形とは認識できず、異なる組成と判定してしまう。よって、試料表面が凹凸であることを検出した場合は、低エネルギー部分を判断の対象から除外することも考えられる。例えば、バックグランドの形状をモニターすることにより、低エネルギー(例えば1keV以下)を分割領域から自動的に削除することが考えられる。図15の例では、区域aを除外して区域b〜jだけで判定すれば同一の組成と判断することができる。
【0033】
この実施例によれば、試料表面が凹凸であることを検出した場合には、低エネルギー部分を判断の対象から除外することで、正確なX線分析を行なうことができる。
(実施例4)
EDSの波形分解能(FWHM)が、エネルギー(E)、パルスの処理時間(τ)の関数(FWHM=F(E,1/τ))で表せることから、前述の実施例2の領域を分割する際にこの関数にて可変させることも可能である。
【0034】
関数(FWHM=F(E,1/τ))は以下の式で表せる。検出器固有の分解能ΔEdは次式で表される。
ΔEd=2.355√ε・F・E
E:検出器への入射X線エネルギー(eV)
ε:一対の電子・正孔対を生成させるのに必要な平均エネルギー(eV)
F:ファノ因子(検出器内部で発生する電荷量の揺らぎに対して制限を与える物質固定の定数)
つまり、検知したX線のエネルギー(E)の平方根に比例した関数(√E)で表すことができる。更に、EDSで得られる分解能は、電気的な処理に伴うΔEpが加味される。検出器から発生した電荷を電圧信号に変換する電荷収集型のプリアンプ及びパルスプロセッサ(プリアンプから出力されるアナログ信号を最終的にデジタル信号に変換処理する)の分解能のことであり、主にプロセスタイム(パルスの処理時間)(τ:1個のX線信号を処理する時間)に依存した関数で表せられる。プロセスタイムを長くすれば、S/N比がよくなることから、分解能ΔEpは小さくなる。最終的にEDSの波形分解能は、
FWHM=√(ΔEd+ΔEp2)で表せる。
【0035】
図16はエネルギーΔEdによる分解能の違いの例を示す図である。(a)はAl−Kの場合を、(b)はCu−Kの場合をそれぞれ示している。図17はプロセスタイムによるスペクトルの違いを示す図である。(a)はプロセスタイムτがτ1の場合を、(b)はプロセスタイムτがτ4の場合をそれぞれ示している。ここで、τ4はτ1の約64倍のプロセスタイムで収集されている。
【0036】
このように検出するX線のエネルギー(E)やプロセスタイム(τ)により、スペクトルデータの形状を数値化する時の横軸の分割領域を可変設定させるものである。Fano因子(F)やプロセスタイム(τ)は、検出器のタイプや個体差により異なるので、予めそれを算出しておくことで、個々の装置で最適な横軸の分割領域を設定することが可能となる。
【0037】
図18はFWHMの関数に基づいて横軸の分割領域を不等間隔に設定した例を示す図である。(a)はプロセスタイムτ4の場合を、(b)はプロセスタイムτ1の場合をそれぞれ示している。プロセスタイムτ4のスペクトルの方がエネルギー分解能が高いため、プロセスタイムτ1のスペクトルでは大きいスペクトルに紛れ込んでいたCKaやOKaといった小さなスペクトルが見えている。そのため、τ1の場合よりτ4のスペクトルの場合の方がより細かく横軸の分割領域を設定している。このように、横軸の分割領域を不等間隔にすることで、低エネルギー部分の形状の特徴を正しく反映したスペクトルの分類が行なえる
本発明によれば、以下のような効果が得られる。
1)スペクトル同士の相関関係を考える必要がなく高速に処理が完了する。
2)強度を単一スペクトル内の相対強度で考えるため、分析位置によって計数率が異なる場合でも得られた特徴量は互いに比較が可能である。
3)利用者又は自動による判断で区画数を変更することで、特徴量に盛り込む情報量を調整することができる。
4)実施例2〜実施例4の方法により、スペクトルの傾向によって情報量の多いエネルギー領域に重点をおいた分析が可能である。
5)波形分解能の関数で分割領域を可変させることにより、測定モード(パルスの処理時間を可変させる)や分割領域を任意に変更した場合でもより適切に判別が可能となる。
6)低エネルギー領域を自動/手動で分割領域から省くことにより、サンプル表面が粗い場合でも異なった相として誤判定することを防止することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 走査コイル
2 電子銃
3 X線分光器
4 電子線検出器
5 制御装置
6 試料
7 モニタ
【技術分野】
【0001】
本発明はエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類方法及び装置に関し、更に詳しくは元素マップのような元素単位での分布状態ではなく、化合物などの物質単位での分布を識別することができるようにしたエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型電子顕微鏡(SEM)と透過型電子顕微鏡(TEM)では、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を取り付けて、X線に基づくスペクトルの分類を行なうようになっている。EDSは元素の分布状況を得るための分析(以下元素マップという)を行なう。元素マップ像について統計分析の手法を用いた解析を行ない、各画素間の相関関係を求めて分布を決定することが行われている。図19は相関図を示している。例えば、横軸がA元素の強度、縦軸がB元素の強度である。これらA元素とB元素の関係をプロットすると、図19に示すような相関図が得られる。
【0003】
図20は相分布を示す図で、どういう組成を持ったものがどのように分布しているかを示すものである。前記した元素マップは、特定エネルギー範囲(以下ROIという)のX線強度を電子線走査の座標状況に基づき描画したものである。近年のEDSでは、この元素マップ像以外に、各座標でのスペクトル情報も同時に測定されている。このスペクトル情報を元に、ROIを変更して元素マップ像を再描画する。特定領域のスペクトル情報を抽出する、又は各座標のスペクトル情報を元に定量補正計算を行ない、その結果にて分布図を描画(以下定量マップという)している。
【0004】
図19と図20は、元素マップ像について統計分析の手法を用いた解析を行ない、各画素間の相関関係を求めて分布を決定したものである。または、各画素で発生するスペクトルについて統計分析の手法を用いた解析を行ない、各スペクトル間の相関関係を求めて分布を決定している。
【0005】
従来のこの種の装置としては、スペクトルデータベースを空にして測定を開始し、測定で得たX線スペクトルと前記スペクトルデータベース内のX線スペクトルとをスペクトル比較手段で比較し、データベース内に一致するX線スペクトルが存在しない場合に、測定で得たX線スペクトルをデータベースに追加登録し、指定された測定を繰り返す技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
また、入射エネルギービームに応答して試料の監視されるX線放射特性を示すX線データを得る段階と、複数の物質の組成データを含み、前記試料の物質が内部に収容されている既存のデータセットを得る段階と、前記組成データを用いて前記データセット内の物質の各々に対して予測X線データを計算する段階と、前記得られたX線データと前記予測X線データとを比較する段階と、前記比較に基づいて前記試料の物質の可能性のある素性を判定する段階とを含んだ物質同定のための方法が知られている(例えば特許文献2参照)。
【0007】
また、未知試料に赤外線を照射してスペクトルを測定し、このスペクトルを既知材料のスペクトルと比較し、スペクトルの多数の波長区分についてスペクトルの勾配または各1次微分をそれぞれ求め、求めた各勾配又は各1次微分の数値を正規化された多段階の数値範囲の1つにそれぞれ分類し、測定されたスペクトルの複数の波長区分について分類されたそれぞれの勾配クラスを、既知材料の予め評価されたスペクトルと同じ複数の波長区分において分類されたそれぞれの勾配クラスと比較し、個々の勾配クラスの類似性と相違性を勾配クラス間の勾配隔たりとして求める技術が知られている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−365246号公報(段落0016〜0017)
【特許文献2】特開2007−3532号公報(段落0032〜0045)
【特許文献3】特開平9−297062号公報(段落0019〜0046)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の装置では、元素マップ像を用いた解析では、微量な成分が見落とされやすいという問題がある。また、スペクトルを元にした解析では、大量の記憶領域を消費し、高速に処理することが困難である。本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、スペクトル同士の相関関係を求める必要がなく、高速に処理が可能なエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の問題を解決するために、本発明は以下のような構成をとっている。
(1)請求項1記載の発明は、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡に装着されるエネルギー分散型X線分析装置において、試料に荷電粒子ビームを照射して試料から発生したX線を所定の区画毎に検出し、検出されたX線から、横軸にエネルギー、縦軸にX線の数を表わすスペクトルを求め、このスペクトルを横軸をM分割、縦軸をN分割して、横軸のM分割区域毎に縦軸の数値を求め、求めた数値列を各区画毎に得、同じ数値列の区画をまとめて、同一の数値列により同一の組成と判定された区画を同じ色で着色し、各組成と判定された個別の分布を合成して分布図を得る、ことを特徴とする。
【0011】
(2)請求項2記載の発明は、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡に装着されるエネルギー分散型X線分析装置において、試料に荷電粒子ビームを照射して試料から発生したX線を所定の区画毎に検出し、検出されたX線から、横軸にエネルギー、縦軸にX線の数を表わすスペクトルを求めるスペクトル取得手段と、該スペクトル取得手段から得られたスペクトルを横軸をM分割、縦軸をN分割して、横軸のM分割区域毎に縦軸の数値を求め、求めた数値列を各区画毎に得る数値列算出手段と、同じ数値列の区画をまとめて、同一の数値列により同一の組成と判定された区画を同じ色で着色する着色手段と、各組成と判定された個別の分布を合成して分布図を得る分布図取得手段と、により構成されることを特徴とする。
【0012】
(3)請求項3記載の発明は、前記M分割の内の特定の分割領域を更に複数の領域に分割して、数値列を求めるようにしたことを特徴とする。
(4)請求項4記載の発明は、前記M分割の内の特定の複数の領域を1個の領域と考えて、数値列を求めるようにしたことを特徴とする。
【0013】
(5)請求項5記載の発明は、試料表面が凹凸形状である場合、前記スペクトルの低エネルギー部分を判断の対象から除外することを特徴とする。
(6)請求項6記載の発明は、エネルギー分散型X線分析装置の波形分解能FWHMをエネルギーE、パルスの処理時間τの関数で表わし、横軸領域を分割する際にこの関数に基づいて分割のエネルギー幅を可変させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
(1)請求項1記載の発明によれば、得られたスペクトルを横軸をM分割、縦軸をN分割して、横軸のM分割区域毎に縦軸の数値を求め、求めた数値列を各区画毎に得、同じ数値列の区画をまとめて、同一の数値列により同一の組成と判定された区画を同じ色で着色し、各組成と判定された個別の分布を合成して分布図を得るようにしているので、スペクトル同士の相関関係を求める必要がなく、高速に処理が可能なエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類方法を提供することができる。
【0015】
(2)請求項2記載の発明によれば、得られたスペクトルを横軸をM分割、縦軸をN分割して、横軸のM分割毎に縦軸の数値を求め、求めた数値列を各区画毎に得、同じ数値列の区画をまとめて、同一の数値列により同一の組成と判定された区画を同じ色で着色し、各組成と判定された個別の分布を合成して分布図を得るようにしているので、スペクトル同士の相関関係を求める必要がなく、高速に処理が可能なエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類装置を提供することができる。
【0016】
(3)請求項3記載の発明によれば、横軸の分割領域を部分的に細かくすることで、形状の特徴を結果に表すことができる。
(4)請求項4記載の発明によれば、横軸の複数の分割領域を1つの領域にすることで、情報量を低下させることなく得られる数値列を少なくすることができる。
【0017】
(5)請求項5記載の発明によれば、試料表面が凹凸であることを検出した場合には、低エネルギー部分を判断の対象から除外することで、正確なX線分析を行なうことができる。
【0018】
(6)請求項6記載の発明によれば、Fano因子やプロセスタイムを予め算出しておくことで、個々の装置で最適な横軸の分割領域のエネルギー幅を設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るエネルギー分散型X線分析装置を備える走査型電子顕微鏡の構成例を示す図である。
【図2】ある試料の観察画像の例を示す図である。
【図3】観察画像の範囲全体から観測されるスペクトルデータを示す図である。
【図4】観察領域を区画に分割した状態を示す図である。
【図5】各組成ごとのスペクトルを示す図である。
【図6】規格化したスペクトルデータを示す図である。
【図7】縦軸及び横軸をそれぞれ10の区画に分割した状態を示す図である。
【図8】区域aの評価を示す図である。
【図9】区域bの評価を示す図である。
【図10】区域cの評価を示す図である。
【図11】区域aからjについての評価を完了した状態を示す図である。
【図12】各組成の分布の合成のやり方を示す図である。
【図13】可変分割領域の説明図である。
【図14】試料表面の形状に応じたX線の放出状態を示す図である。
【図15】試料表面の違いによるスペクトルデータの違いを示す図である。
【図16】エネルギーΔEdによる分解能の違いの例を示す図である。
【図17】プロセスタイムによるスペクトルの違いを示す図である。
【図18】FWHMの関数に基づいて横軸の分割領域を不等間隔に設定した例を示す図である。
【図19】相関図を示す図である。
【図20】相分布図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係るエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を備える走査型電子顕微鏡(SEM)の構成例を示す図である。図において、1は走査コイル、2は電子線であり、走査コイル1はX,Y方向に電子線2を走査する。6は試料であり、走査コイル1により電子線2がその表面に細かく絞られて照射偏向される。
【0021】
3は偏向動作に伴って、試料6から放出されるX線を検出するX線分光器、4は同じく試料6から放出される反射電子又は2次電子を検出する電子線検出器である。5はこれらX線検出器3及び電子線検出器4の出力を受け所定の演算処理を行なう制御装置である。該制御装置5としては、例えばコンピュータが用いられる。
【0022】
7は電子線検出器4の出力を受けて電子線像を表示し、又はX線分光器3の出力を受けてX線スペクトルを表示するモニタである。該モニタ7としては、例えば液晶表示器(LCD)やCRTが用いられる。走査コイル1は、前記制御装置5により走査信号を受けるようになっている。このように構成された装置を用いて、本発明を詳細に説明すれば以下の通りである。動作の主体は制御装置5である。
(実施例1)
制御装置5は、走査コイル1に走査信号を与える。この結果、電子線2は試料6上を走査し、該試料6からはX線が放出される。このX線は制御装置5に入り、画像処理されてスペクトルデータが得られる。得られたスペクトルデータは、モニタ7に表示される。
【0023】
図2はある試料の観察画像の例を示す図である。この観察画像は、図1において、電子線検出器4で検出した信号を画像処理することで得られる。図では、(A),(B),(C)の3種類の画像が得られている状態を示している。この画像は、3種類の異なる化合物或いは単体物質からなる試料を観察した画像であるものとする。図3は観察画像の範囲全体から観測されるスペクトルデータを示す図である。横軸はエネルギー、縦軸はX線計数値である。Aが図2の(A)に、Bが図2の(B)に、Cが図2の(C)にそれぞれ対応している。
【0024】
次に、図4に示すように観察領域を細かい区画に分割し、それぞれの区画で観測されるスペクトルデータを抽出する。図4では64×48の区画に分割しているため、抽出されるスペクトルデータは3072個となる。この時、スペクトルデータの形状は組成に依存するため、図2における組成(A),(B),(C)に含まれるそれぞれの区画から抽出されたスペクトルデータの形状が、図5に示すような形状だったものとする。
【0025】
図5は各組成毎のスペクトルを示す図である。(a)は(A)の組成で収集されるスペクトルデータ、(b)は(B)の組成で収集されるスペクトルデータ、(c)は(C)の組成で収集されるスペクトルデータである。同じ組成の区画から抽出されるスペクトルデータは、ほぼ相似形になることから、以下の手順でスペクトルデータの形状を数値化する。
A)抽出されたスペクトルデータの高さについて、その最大値で規格化する。規格化したスペクトルデータは図6に示すようなものとなる。(a)は高さを規格化した図5の(a)のスペクトル、(b)は高さを規格化した図5の(b)のスペクトル、(c)は高さを規格化した図5の(c)のスペクトルである。
B)高さを規格化したスペクトルデータについて、図7に示すように横軸及び縦軸をそれぞれ10個の区域に分割する。なお、分割する区域は10個以外の数でもいいことは言うまでもない。図7では横軸をa〜jの10個の区域に、縦軸を0〜9の10個の区域にそれぞれ分割する。
C)区域aについて、その範囲内でスペクトルデータが達している最大強度を調べる。図8は区域aの評価を示す図である。図より明らかなように、最大強度は“0”となる。
D)次に区域bについて、その範囲内でスペクトルデータが達している最大強度を調べる。図9は区域bの評価を示す図である。図より明らかなように、最大強度は“0”となる。
E)次に区域cについて、その範囲内でスペクトルデータが達している最大強度を調べる。図10は区域cの評価を示す図である。図より明らかなように、最大強度は“7”となる。
F)このような操作を区域aから区域jまで行なうと、図11に示すようなものとなる。そして、決定された縦軸の区域番号を並べた数値“0079111100”がこのスペクトルの形状を表すIDとして得られる。
【0026】
手順A)〜F)を前記した3072の区画についてのスペクトルデータについて行なうと、各スペクトルデータについてIDが決定される。このIDはスペクトルデータの形状を表しており、形状が組成に依存することから、同一の組成から発生したスペクトルデータは同一のIDを持つことになる。
【0027】
同一のIDを持つことにより、同一の組成と判定された区画を同じ色で着色する。
A)各組成(A),(B),(C)と判定された区画をそれぞれ異なる色で着色した結果が図12の(a)〜(c)である。図12は、各組成の分布の合成のやりかたを示す図である。
B)個別の分布(a)〜(c)を合成すると、求めたい結果である分布図(d)が得られる。
【0028】
このようにこの実施例によれば、得られたスペクトルを横軸をM分割、縦軸をN分割して、横軸のM分割毎に縦軸の数値を求め、求めた数値列を各区画毎に得、同じ数値列の区画をまとめて、同一の数値列により同一の組成と判定された区画を同じ色で着色し、各組成と判定された個別の分布を合成して分布図を得るようにしているので、スペクトル同士の相関関係を求める必要がなく、高速に処理が可能なエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類方法及び装置を提供することができる。
(実施例2)
ピーク位置が狭い範囲に密集しているスペクトルデータの場合、等分割した区域ではピークの間隔に対して区域が広すぎるため、形状の特徴が結果に表れない。そのような場合は、自動又はユーザの指示により、横軸の分割領域を部分的に細かくする。分割領域の大小に関わらず、領域ごとに1桁の数値を割り当てることでスペクトルの形状を数値化する。
【0029】
図13は可変分割領域の説明図である。この特性では、区域Cを更に10個の区域(c0,c1,c2,…,c9)に分割している。そして、区域c内の10分割毎にスペクトルデータの数値を求める。この結果、“0000004996354000000”と、全体で19桁の数値が得られる。情報量の多い領域について細かい分割領域で詳細な情報を得ることの他に、情報量の少ない領域は分割せずに簡略化することも考えられる。
【0030】
例えば、全体のスペクトルを調べて区域e〜jに特徴的なピークの存在が認められなければ、その区域を分割せずに一つの区域とみなす。そうすると、区域a,b,c,d,e〜jの5区域と考えればよく、図13で考えた場合の結果は、“00940”と5桁の数値列となる。この結果、情報量を減らすことなく、得られる数値列を短くするこができる。
【0031】
また、分割領域の細分化と、分割領域をまとめる処理を合わせることも考えられる。即ち、区域cの細分化と、区域e〜jのまとめ処理を合わせて数値化する。このように数値化すると、数値化する区域がa,b,c0〜c9,d,e〜jの14区域と考え、
“00000049963540”という数値列を得ることができる。
(実施例3)
図14は試料表面の形状に応じたX線の放出状態を示す図である。図(b)に示すように、試料表面が凹凸の場合、図(a)のような平坦な試料に比べて試料内部で発生したX線が試料構造を通過しなければならない距離が長くなる。そのため、試料自身によりX線が吸収され、検出されるX線量が減少する。これは透過能力の低い低エネルギーのX線でより顕著なため、観測されるスペクトルデータは図15に示すように低エネルギー部分が落ち込んだ形状となる。
【0032】
こうした場合においては、同じ組成から観測されたスペクトルデータでも形状が相似形とは認識できず、異なる組成と判定してしまう。よって、試料表面が凹凸であることを検出した場合は、低エネルギー部分を判断の対象から除外することも考えられる。例えば、バックグランドの形状をモニターすることにより、低エネルギー(例えば1keV以下)を分割領域から自動的に削除することが考えられる。図15の例では、区域aを除外して区域b〜jだけで判定すれば同一の組成と判断することができる。
【0033】
この実施例によれば、試料表面が凹凸であることを検出した場合には、低エネルギー部分を判断の対象から除外することで、正確なX線分析を行なうことができる。
(実施例4)
EDSの波形分解能(FWHM)が、エネルギー(E)、パルスの処理時間(τ)の関数(FWHM=F(E,1/τ))で表せることから、前述の実施例2の領域を分割する際にこの関数にて可変させることも可能である。
【0034】
関数(FWHM=F(E,1/τ))は以下の式で表せる。検出器固有の分解能ΔEdは次式で表される。
ΔEd=2.355√ε・F・E
E:検出器への入射X線エネルギー(eV)
ε:一対の電子・正孔対を生成させるのに必要な平均エネルギー(eV)
F:ファノ因子(検出器内部で発生する電荷量の揺らぎに対して制限を与える物質固定の定数)
つまり、検知したX線のエネルギー(E)の平方根に比例した関数(√E)で表すことができる。更に、EDSで得られる分解能は、電気的な処理に伴うΔEpが加味される。検出器から発生した電荷を電圧信号に変換する電荷収集型のプリアンプ及びパルスプロセッサ(プリアンプから出力されるアナログ信号を最終的にデジタル信号に変換処理する)の分解能のことであり、主にプロセスタイム(パルスの処理時間)(τ:1個のX線信号を処理する時間)に依存した関数で表せられる。プロセスタイムを長くすれば、S/N比がよくなることから、分解能ΔEpは小さくなる。最終的にEDSの波形分解能は、
FWHM=√(ΔEd+ΔEp2)で表せる。
【0035】
図16はエネルギーΔEdによる分解能の違いの例を示す図である。(a)はAl−Kの場合を、(b)はCu−Kの場合をそれぞれ示している。図17はプロセスタイムによるスペクトルの違いを示す図である。(a)はプロセスタイムτがτ1の場合を、(b)はプロセスタイムτがτ4の場合をそれぞれ示している。ここで、τ4はτ1の約64倍のプロセスタイムで収集されている。
【0036】
このように検出するX線のエネルギー(E)やプロセスタイム(τ)により、スペクトルデータの形状を数値化する時の横軸の分割領域を可変設定させるものである。Fano因子(F)やプロセスタイム(τ)は、検出器のタイプや個体差により異なるので、予めそれを算出しておくことで、個々の装置で最適な横軸の分割領域を設定することが可能となる。
【0037】
図18はFWHMの関数に基づいて横軸の分割領域を不等間隔に設定した例を示す図である。(a)はプロセスタイムτ4の場合を、(b)はプロセスタイムτ1の場合をそれぞれ示している。プロセスタイムτ4のスペクトルの方がエネルギー分解能が高いため、プロセスタイムτ1のスペクトルでは大きいスペクトルに紛れ込んでいたCKaやOKaといった小さなスペクトルが見えている。そのため、τ1の場合よりτ4のスペクトルの場合の方がより細かく横軸の分割領域を設定している。このように、横軸の分割領域を不等間隔にすることで、低エネルギー部分の形状の特徴を正しく反映したスペクトルの分類が行なえる
本発明によれば、以下のような効果が得られる。
1)スペクトル同士の相関関係を考える必要がなく高速に処理が完了する。
2)強度を単一スペクトル内の相対強度で考えるため、分析位置によって計数率が異なる場合でも得られた特徴量は互いに比較が可能である。
3)利用者又は自動による判断で区画数を変更することで、特徴量に盛り込む情報量を調整することができる。
4)実施例2〜実施例4の方法により、スペクトルの傾向によって情報量の多いエネルギー領域に重点をおいた分析が可能である。
5)波形分解能の関数で分割領域を可変させることにより、測定モード(パルスの処理時間を可変させる)や分割領域を任意に変更した場合でもより適切に判別が可能となる。
6)低エネルギー領域を自動/手動で分割領域から省くことにより、サンプル表面が粗い場合でも異なった相として誤判定することを防止することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 走査コイル
2 電子銃
3 X線分光器
4 電子線検出器
5 制御装置
6 試料
7 モニタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡に装着されるエネルギー分散型X線分析装置において、試料に荷電粒子ビームを照射して試料から発生したX線を所定の区画毎に検出し、検出されたX線から、横軸にエネルギー、縦軸にX線の数を表わすX線スペクトルを求め、
このスペクトルを横軸をM分割、縦軸をN分割して、横軸のM分割区域毎に縦軸の数値を求め、求めた数値列を各区画毎に得、
同じ数値列の区画をまとめて、同一の数値列により同一の組成と判定された区画を同じ色で着色し、
各組成と判定された個別の分布を合成して分布図を得る、
ことを特徴とするエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類方法。
【請求項2】
走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡に装着されるエネルギー分散型X線分析装置において、試料に荷電粒子ビームを照射して試料から発生したX線を所定の区画毎に検出し、検出されたX線から、横軸にエネルギー、縦軸にX線の数を表わすX線スペクトルを求めるスペクトル取得手段と、
該スペクトル取得手段から得られたスペクトルを横軸をM分割、縦軸をN分割して、横軸のM分割区域毎に縦軸の数値を求め、求めた数値列を各区画毎に得る数値列算出手段と、
同じ数値列の区画をまとめて、同一の数値列により同一の組成と判定された区画を同じ色で着色する着色手段と、
各組成と判定された個別の分布を合成して分布図を得る分布図取得手段と、
により構成されることを特徴とするエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類装置。
【請求項3】
前記M分割の内の特定の分割領域を更に複数の領域に分割して、数値列を求めるようにしたことを特徴とする請求項2記載のエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類装置。
【請求項4】
前記M分割の内の特定の複数の領域を1個の領域と考えて、数値列を求めるようにしたことを特徴とする請求項2記載のエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類装置。
【請求項5】
試料表面が凹凸形状である場合、前記スペクトルの低エネルギー部分を判断の対象から除外することを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載のエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類装置。
【請求項6】
エネルギー分散型X線分析装置の波形分解能FWHMをエネルギーE、パルスの処理時間τの関数で表わし、横軸領域を分割する際にこの関数に基づいて分割のエネルギー幅を可変させることを特徴とする請求項2乃至5の何れか1項に記載のエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類装置。
【請求項1】
走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡に装着されるエネルギー分散型X線分析装置において、試料に荷電粒子ビームを照射して試料から発生したX線を所定の区画毎に検出し、検出されたX線から、横軸にエネルギー、縦軸にX線の数を表わすX線スペクトルを求め、
このスペクトルを横軸をM分割、縦軸をN分割して、横軸のM分割区域毎に縦軸の数値を求め、求めた数値列を各区画毎に得、
同じ数値列の区画をまとめて、同一の数値列により同一の組成と判定された区画を同じ色で着色し、
各組成と判定された個別の分布を合成して分布図を得る、
ことを特徴とするエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類方法。
【請求項2】
走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡に装着されるエネルギー分散型X線分析装置において、試料に荷電粒子ビームを照射して試料から発生したX線を所定の区画毎に検出し、検出されたX線から、横軸にエネルギー、縦軸にX線の数を表わすX線スペクトルを求めるスペクトル取得手段と、
該スペクトル取得手段から得られたスペクトルを横軸をM分割、縦軸をN分割して、横軸のM分割区域毎に縦軸の数値を求め、求めた数値列を各区画毎に得る数値列算出手段と、
同じ数値列の区画をまとめて、同一の数値列により同一の組成と判定された区画を同じ色で着色する着色手段と、
各組成と判定された個別の分布を合成して分布図を得る分布図取得手段と、
により構成されることを特徴とするエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類装置。
【請求項3】
前記M分割の内の特定の分割領域を更に複数の領域に分割して、数値列を求めるようにしたことを特徴とする請求項2記載のエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類装置。
【請求項4】
前記M分割の内の特定の複数の領域を1個の領域と考えて、数値列を求めるようにしたことを特徴とする請求項2記載のエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類装置。
【請求項5】
試料表面が凹凸形状である場合、前記スペクトルの低エネルギー部分を判断の対象から除外することを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載のエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類装置。
【請求項6】
エネルギー分散型X線分析装置の波形分解能FWHMをエネルギーE、パルスの処理時間τの関数で表わし、横軸領域を分割する際にこの関数に基づいて分割のエネルギー幅を可変させることを特徴とする請求項2乃至5の何れか1項に記載のエネルギー分散型X線分析装置のスペクトルの分類装置。
【図1】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図4】
【図12】
【図19】
【図20】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図4】
【図12】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−38939(P2011−38939A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187674(P2009−187674)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
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