説明

エピクロロヒドリンの製造方法

本発明は、第一の反応段階でクロロプロパン含有塩化アリル過剰量を過酸化水素と反応させるエピクロロヒドリンの製造法に関する。未反応の塩化アリルを分離して反応に戻すが、分離した塩化アリルの一部は第二の反応段階に加えて過酸化水素と反応させ、過酸化水素量は第二の反応段階で塩化アリルが大部分反応するように選択される。クロロプロパン類は、蒸留により第二の反応段階の反応混合物から分離されプロセスから除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化アリルを過酸化水素と反応させてエピクロロヒドリンを調製するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
エピクロロヒドリン(クロロメチルオキシラン)は、例えば樹脂の製造などに用いられる、重要な化学中間体である。
【0003】
エピクロロヒドリンの調製に適したプロセスは、EP−A0100119に記載される、チタン含有ゼオライト触媒の存在下での、塩化アリルと過酸化水素の反応である。この反応でエピクロロヒドリン選択性を高めるために、例えば、WO2004/043941に記載されるように、塩化アリルを過酸化水素に対して化学量論上過剰に用いなければならない。未反応の塩化アリルは、例えば、WO02/00634またはWO02/14298に記載されるように、蒸留により分離してエポキシ化反応に戻すことができる。
【0004】
工業品質の塩化アリルには、一般に1−クロロプロパンおよび/または2−クロロプロパンが混入している。この不純物は両方とも塩化アリルと同じような沸点を有する:
塩化アリル:45℃
1−クロロプロパン:47℃
2−クロロプロパン:36℃
従って、この2種のクロロプロパンは、多大な苦労をもって蒸留により塩化アリルから分離するしかない。従って、クロロプロパン類が混入した工業品質の塩化アリルを塩化アリルと過酸化水素の反応に用い、未反応の塩化アリルを蒸留により分離してエポキシ化反応に戻すことは、プロセス中にクロロプロパン類が蓄積されて行く結果となる。
【0005】
回収した未反応オレフィン中に不純物が望ましくない高濃度に蓄積されていくことは、回収したオレフィンの一部をプロセスから取り出すことにより防ぐことができると、WO02/00634およびWO02/14298に記載されている。しかしながら、取り出された副流はオレフィンを高い割合で含んでおり、取り出した結果、損失となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0100119号明細書
【特許文献2】国際公開第2004/043941号
【特許文献3】国際公開第02/00634号
【特許文献4】国際公開第02/14298号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、既知のプロセスと比較して、エピクロロヒドリン選択性を高め、用いた塩化アリルの変換率を改善した、クロロプロパン類を含有する塩化アリルの反応によるエピクロロヒドリンの調製プロセスが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、本発明のプロセスにより達成される。本発明のプロセスは、第一の反応段階で、クロロプロパン類を含有する塩化アリルを過剰量で過酸化水素と反応させる。未反応塩化アリルは分離されて反応に戻されるが、分離された塩化アリルの一部は第二の反応段階に進んで過酸化水素と反応させられる。第二の反応段階での過酸化水素の量は、塩化アリルが大部分、好ましくは実質的に完全に反応するように選択される。そうして、塩化アリルを損失することなくクロロプロパン類を蒸留により第二の反応段階の反応混合物から分離することができる。本発明のプロセスでは、塩化アリルの大部分が塩化アリルの過剰な中で反応し、塩化アリルの量が過小または化学量論量である中で反応する塩化アリルは少量にすぎないため、塩化アリルが過剰であることによりもたらされる高いエピクロロヒドリン選択性が保持される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】特許請求のプロセスの好適な実施形態を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
従って、本発明は以下を含むエピクロロヒドリンの調製プロセスを提供する。
【0011】
a)第一の反応段階で、チタン含有ゼオライト触媒の存在下、塩化アリルと過酸化水素を、少なくとも1.5:1の塩化アリル対過酸化水素のモル比で反応させる、ここで用いる塩化アリルは1−クロロプロパンおよび/または2−クロロプロパンである、と
b)第一の反応段階で形成された反応混合物を、蒸留で、未反応塩化アリルおよび1−クロロプロパンおよび/または2−クロロプロパンを含む混合物(A)と、エピクロロヒドリンを含む混合物(B)とに分離する、と
c)混合物(A)を、第一の反応段階に戻す混合物(A1)と、混合物(A2)に分割する、と
d)第二の反応段階で、チタン含有ゼオライト触媒の存在下、0.5:1から1.25:1の範囲の塩化アリル対過酸化水素のモル比で、混合物(A2)を、過酸化水素と反応させる、と
e)第二の反応段階で形成された反応混合物を、蒸留で、1−クロロプロパンおよび/または2−クロロプロパンを含む混合物(C)と、エピクロロヒドリンを含む混合物(D)とに分離する、および
f)混合物(C)をプロセスから除去する。
【0012】
本発明のプロセスでは、チタン含有ゼオライト触媒の存在下、塩化アリルと過酸化水素を反応させてエピクロロヒドリンを得る。ここで用いる塩化アリルは、1−クロロプロパンおよび/または2−クロロプロパンを含有する。従って、本発明のプロセスについては、塩化アリルの工業調製の副生成物として1−クロロプロパンおよび/または2−クロロプロパンを含む工業品質の塩化アリルを用いることが可能である。用いる塩化アリルの1−クロロプロパンおよび2−クロロプロパン含量は、好ましくは0.01から2重量%の範囲、より好ましくは0.05から0.8重量%の範囲である。
【0013】
過酸化水素は、水溶液として用いることができ、水溶液の場合、過酸化水素を好ましくは1から90重量%、より好ましくは10から80重量%、さらに好ましくは30から70重量%の範囲で含有する。過酸化水素は、標準的な市販の安定化溶液を用いることができる。同様に好ましいのは、アントラキノンプロセスで調製した、安定化していない過酸化水素で、この過酸化水素はさらに精製することなく用いることができる。WO2004/028962に記載される過酸化水素を用いることが好ましく、この過酸化水素は、過酸化水素の重量を基準としてそれぞれ、アルカリ金属とアルカリ土類金属を50ppm未満、pK4.5未満の塩基を50ppm未満、およびアニオンを少なくとも100ppm含む。
【0014】
さらに好適な実施形態において、過酸化水素のメタノール溶液が用いられ、この溶液は好ましくは、メタノール中パラジウム触媒を用いて水素と酸素を反応させることにより調製される。WO2006/108784の請求項9に記載の過酸化水素のメタノール溶液を用いることがさらに好ましく、この溶液は、過酸化水素2から15重量%、水0.5から20重量%、メタノール60から95重量%、臭化物10−6から10−2mol/l、および硫酸ジメチルおよび/または硫酸モノメチル10−6から0.1mol/lを含む。
【0015】
使用可能なチタン含有ゼオライト触媒は、先行技術で既知のチタン含有ゼオライトでオレフィンと過酸化水素の反応に触媒活性を有すればいずれのものでもよい。好ましくは、用いるチタン含有ゼオライト触媒は、結晶構造がMFIまたはMELのケイ酸チタンである。組成が(TiO(SiO1−x(式中、xは0.001から0.05の範囲である。)のケイ酸チタンを用いることが特に好ましい。WO01/64581のプロセスまたはWO01/64582のプロセスにより製造したケイ酸チタンが最も好ましい。
【0016】
チタン含有ゼオライト触媒は、本発明のプロセスにおいて、懸濁液触媒の形で用いることができる。この場合、反応は、反応混合物に懸濁した触媒が、例えば、ろ過または沈降により第一の反応段階中に保たれ、その結果、工程b)の蒸留で分離される反応混合物は触媒を含有しないように行なわれるのが好ましい。
【0017】
しかし、好ましくは、本発明のプロセスにおけるチタン含有ゼオライト触媒は、固定床触媒の形で用いられる。特に適しているのは、押し出しにより成形した直径1から5mmの押出品の形の固定床触媒で、好ましくは結合剤をチタン含有ゼオライトに基づいて1から99重量%、より好ましくは1から40重量%含む。反応条件下、用いる過酸化水素とも形成されるエピクロロヒドリンとも反応しない結合剤は全て、この場合に適している。特に適した結合剤はシリカである。押し出しについては、ヒュームドシリカ、コロイド状シリカゾル、もしくはオルトケイ酸テトラアルキルエステル、またはこれらの成分のうち2種の組合せが結合剤の前駆体として用いられている固定床触媒が特に好ましい。WO01/72419に記載のプロセスにより、凝固曲線(curd curve)の20から90mmの範囲にプラトー値を有する成型塊を成型することにより製造した固定床触媒も同様に特に好ましい。
【0018】
本発明のプロセスにおいて、工程a)の第一の反応段階では、塩化アリルと過酸化水素を、少なくとも1.5:1の塩化アリル対過酸化水素のモル比で反応させる。この場合、塩化アリル対過酸化水素のモル比は、上限100:1まで可能である。好ましくは、モル比は1.5:1から5:1の範囲である。特に好ましくは、塩化アリル対過酸化水素のモル比は、2:1から4:1である。モル比が低くなると、第一の反応段階でのエピクロロヒドリン選択性が低下する。モル比が高くなると、それだけ多い量の未反応塩化アリルを、相応のエネルギー支出をもって、分離して回収しなければならず不利である。
【0019】
本発明のプロセスの工程d)において、第二の反応段階では、塩化アリルと過酸化水素を、0.5:1から1.25:1の範囲の塩化アリル対過酸化水素のモル比で反応させる。好ましくは、塩化アリル対過酸化水素のモル比は0.8:1から1.15:1である。前記範囲のモル比を採用することにより、第二の反応段階で塩化アリルを完全にまたは大部分変換することが可能となり、その結果、工程e)で得られる混合物(C)および工程f)のプロセスから取り出される混合物(C)にはごくわずかしか用いた塩化アリルが含まれない。
【0020】
塩化アリルと過酸化水素の反応は、工程a)と工程d)で、好ましくは溶媒の存在下、行なわれる。反応条件下、塩化アリルと過酸化水素を溶解し、過酸化水素またはエピクロロヒドリンとたとえ反応しても少量にすぎないものである溶媒が特に好ましい。適した溶媒は、例えば、アルコール(メタノール、エタノール、またはtert−ブタノールなど);グリコール(例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、または1,3−プロパンジオールなど);環状エーテル(例えば、テトラヒドロフランまたはジオキサンなど);グリコールエーテル(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、またはプロピレングリコールモノメチルエーテルなど);およびケトン(例えば、アセトンまたは2−ブタノンなど)である。好適な溶媒は1から4個の炭素原子を有する脂肪族アルコールである。溶媒としてメタノールを用いることが特に好ましい。反応混合物中の溶媒の割合は、第一の反応段階では、好ましくは10から95重量%、より好ましくは30から80重量%であり、第二の反応段階では、好ましくは10から95重量%、より好ましくは30から80重量%である。
【0021】
塩化アリルと過酸化水素の反応は、第一の反応段階で、好ましくは0℃から100℃、より好ましくは30℃から65℃の範囲の温度で、第二の反応段階では、好ましくは0℃から100℃、より好ましくは30℃から65℃の範囲の温度で行なわれる。反応工程の圧力は、広範囲な中から自由に選択することができ、好ましくは、採用した圧力下での塩化アリルの沸点が採用した反応温度と同じかこれより高いように選択される。
【0022】
第一の反応段階での反応条件は、好ましくは過酸化水素の変換が50%から100%、好ましくは80%から99.8%達成されるように選択される。第二の反応段階では、反応条件は、好ましくは、塩化アリルおよび過酸化水素の構成成分のうち、化学量論のモル量で用いた構成成分が70%から100%、好ましくは90%から99%反応するように選択される。
【0023】
工程a)および工程d)での塩化アリルと過酸化水素の反応について、液相反応を行なうのに適した任意の反応器を用いることができる。ここでの反応は、バッチ式または連続してのいずれかで行なうことができ、連続反応が好ましい。
【0024】
工程a)および工程d)での反応は、好ましくは固定床反応器で連続して行なわれ、この場合、過酸化水素、および場合により溶媒、および塩化アリルまたは混合物(A2)を含む混合物を、チタン含有ゼオライト触媒の固定床に通過させる。用いる固定床反応器は、好ましくは外部から冷却する管状反応器、詳細には管群反応器である。固定床反応器は、上昇流または下降流のいずれかで操作することができ、この場合滴下床(trickle bed)配置で下降流の操作が好ましい。
【0025】
工程a)および工程d)の両方において、反応は2つ以上直列に連結した反応器で行なうことができる。好ましくは、工程a)において、2つ直列に連結した反応器が用いられる。工程a)および工程d)の両方において、触媒の再生のために1つの反応器を操作から取り外すことができ平行に連結した反応器で反応を継続することができるように、平行に配置した2つ以上の反応器を用いることができる。
【0026】
第一の反応段階で形成された反応混合物は、本発明のプロセスの工程b)で、蒸留して、未反応塩化アリルおよび1−クロロプロパンおよび/または2−クロロプロパンを含む混合物(A)と、エピクロロヒドリンを含む混合物(B)とに分離される。蒸留は、好ましくは連続精留として行なわれ、この場合、第一の反応段階で形成された反応混合物は、精留カラムの中央部に通され、カラムの頂部から混合物(A)が、カラムの底部から混合物(B)が取り出される。理論段数が10から50の精留カラムを用いることが好ましい。精留は、好ましくはカラムの頂部で0.2から3barの範囲の圧力で、好ましくは0.5から5の還流比で行なわれる。
【0027】
蒸留は、好ましくは、得られる混合物(A)が、塩化アリルを、導入した反応混合物中95%より多く含み、得られる混合物(B)が、エピクロロヒドリンを、導入した反応混合物中95%より多く含むように操作される。
【0028】
本発明のプロセスの工程c)において、混合物(A)を、第一の反応段階に戻す混合物(A1)と、第二の反応段階に戻す混合物(A2)とに分割する。
【0029】
混合物(A)は、好ましくは、混合物(A)に存在する塩化アリルの50%から98%、より好ましくは70%から95%が、混合物(A1)とともに第一の反応段階に戻されるように、分割される。
【0030】
好適な実施形態において、混合物(A)は蒸留により分離され、その結果、混合物(A)に存在するクロロプロパン類は、混合物(A2)の方に濃縮される。
【0031】
本発明のプロセスの工程e)において、第二の反応段階で形成される反応混合物は、蒸留で、1−クロロプロパンおよび/または2−クロロプロパンを含む混合物(C)と、エピクロロヒドリンを含む混合物(D)とに分離される。蒸留は、好ましくは連続精留として行なわれ、この場合、第二の反応段階で形成された反応混合物は、精留カラムの中央部に通され、カラムの頂部から混合物(C)が、カラムの底部から混合物(D)が取り出される。好ましくは、理論段数が10から50の精留カラムが用いられる。精留は、好ましくはカラムの頂部で0.5から3barの範囲の圧力で、好ましくは0.5から5の還流比で行なわれる。
【0032】
蒸留は、好ましくは、得られる混合物(C)が、クロロプロパン類を、導入した反応混合物中90%より多く含み、得られる混合物(D)が、エピクロロヒドリンを、導入した反応混合物中95%より多く含むように操作される。
【0033】
好適な実施形態において、本発明のプロセスの工程e)で得られる混合物(D)は、第一の反応段階に戻される。この実施形態は、工程d)において、過酸化水素をモル過剰に用い、混合物(D)が依然として未反応過酸化水素を含む場合に、特に有利である。第一の反応段階に再利用する結果、この未反応過酸化水素はさらなる塩化アリルのエポキシ化になおも利用することができる。特に好適な実施形態において、第一の反応段階は直列に連結した2つの反応器で行なわれ、混合物(D)は第二の反応器に戻される。
【0034】
さらなる実施形態において、本発明のプロセスの工程d)および工程e)は、反応蒸留の形で同時に行なわれる。この実施形態において、第二の反応段階のチタン含有ゼオライト触媒は、精留カラムの反応区分に配置され、混合物(A2)は反応区分より下の点でカラムに導入され、過酸化水素は反応区分より上の点で導入される。混合物(C)はカラムの頂部から取り出され、混合物(D)はカラムの底部から取り出される。
【0035】
図1は、特許請求のプロセスの好適な実施形態を模式的に表し、図中、工程a)および工程d)の反応は固定床反応器で行なわれ、工程b)および工程e)の蒸留は蒸留カラムで行なわれる。プロセスを行なうために必要な補助装置(ポンプ、熱交換器、エバポレータ、および冷却器など)は図示しない。図1のプロセスでは、工程a)および工程e)において、可燃性ガス混合物の形成を防ぐ目的で、窒素を不活性ガスとして追加する。過酸化水素(1)、塩化アリル(2)、メタノール(3)、および窒素(4)を第一の固定床反応器(a)に導入する。第一の固定床反応器(a)で得られる反応混合物を、蒸留カラム(b)で、塩化アリルおよび未反応クロロプロパン類を含む頂部生成物(7)(混合物A)、エピクロロヒドリンを含む底部生成物(5)(混合物B)、ならびに廃棄ガス流(6)に分離する。次いで、混合物Aを、(c)で、第一の固定床反応器(a)に戻される流れ(8)(混合物A1)と、第二の固定床反応器(d)に供給される流れ(9)(混合物A2)に分割し、第二の固定床反応器(d)で流れ(9)はさらに過酸化水素(10)と反応する。第二の固定床反応器(d)で得られる反応混合物は、蒸留カラム(e)で、クロロプロパン類を含む頂部生成物(12)(混合物C)と、エピクロロヒドリンを含み第一の固定床反応器(a)に戻される底部生成物(13)(混合物D)とに分離する。窒素(11)を蒸留カラム(e)にさらに供給する。
【0036】
実施例
【実施例1】
【0037】
反応の選択性における塩化アリル対過酸化水素のモル比の影響
MFI構造を持つケイ酸チタン触媒を用いて、溶媒メタノール中、塩化アリルを過酸化水素と反応させた。反応は、直列に連結した2本の管状反応器で行ない、反応器は冷却マントルで冷却した。触媒は、押出品の形で固定床として用いた。第一の反応器には、触媒21.5gが入っており、第二の反応器は20.7gが入っていた。塩化アリル、および過酸化水素水溶液とメタノールの混合物を、第一の反応器に連続して導入した。計量定量流(metered quantitative stream)、混合物の組成、および出発物質中の塩化アリル対過酸化水素のモル比を表1に示す。反応器は、上昇流操作で操作し、反応器中の圧力は7から8barに保ち、第一の反応器を36℃に加熱して第二の反応器を38℃に加熱した。得られる反応混合物において、過酸化水素の含量は酸化還元滴定で求め、塩化アリルおよびエピクロロヒドリンの含量はガスクロマトグラフィーで求めた。過酸化水素の変換、およびこれらの含量から反応した塩化アリルに基づいて計算したエピクロロヒドリン選択性を表1に示す。表1は、塩化アリルがモル過剰になるほどエピクロロヒドリン選択性が増加することを示す。
【0038】
【表1】

【実施例2】
【0039】
図1によるプロセス
図1のプロセスについて、固定床反応器(a)および(d)での反応を、実施例1に相当する管状反応器で、塩化アリル対過酸化水素のモル比を反応器(a)で4.0および反応器(b)で1.1として、実験的に再現した。この目的で、触媒42.6gを入れた反応器を40℃に加熱した。計量定量流、過酸化水素、水、およびメタノールの混合物の組成、および出発物質中の塩化アリル対過酸化水素のモル比を表2に示す。選択した値は、図1のプロセスの結果に基づいたものである。次いで、実験的に求めた選択性および塩化アリルと比較した1−クロロプロパンの反応性の見積もりを用い、シミュレーションプログラムAspen Plus(Aspentech)で図1のプロセスについて定量流1から13の組成を計算した。結果を表3に示す。
【0040】
図1のプロセスでは、エピクロロヒドリン1モルを調製するのに塩化アリル1.12molが必要である。対照的に、流れ9に存在する塩化アリルの量がプロセスから排除されている従来技術に対応するプロセスでは、エピクロロヒドリン1モルを調製するのに塩化アリル1.35molが必要である。
【0041】
【表2】

【0042】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)第一の反応段階で、チタン含有ゼオライト触媒の存在下、塩化アリルと過酸化水素を、少なくとも1.5:1の塩化アリル対過酸化水素のモル比で反応させる、ここで用いる塩化アリルは1−クロロプロパンおよび/または2−クロロプロパンである、と
b)第一の反応段階で形成された反応混合物を、蒸留で、未反応塩化アリルおよび1−クロロプロパンおよび/または2−クロロプロパンを含む混合物(A)と、エピクロロヒドリンを含む混合物(B)とに分離する、と
c)混合物(A)を、第一の反応段階に戻す混合物(A1)と、混合物(A2)に分割する、と
d)第二の反応段階で、チタン含有ゼオライト触媒の存在下、0.5:1から1.25:1の範囲の塩化アリル対過酸化水素のモル比で、混合物(A2)を、過酸化水素と反応させる、と
e)第二の反応段階で形成された反応混合物を、蒸留で、1−クロロプロパンおよび/または2−クロロプロパンを含む混合物(C)と、エピクロロヒドリンを含む混合物(D)とに分離する、および
f)混合物(C)をプロセスから除去する、
を含むエピクロロヒドリンの調製プロセス。
【請求項2】
工程a)および工程d)での塩化アリルと過酸化水素との反応は、溶媒の存在下で行なわれることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
溶媒はメタノールであることを特徴とする、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
過酸化水素は過酸化水素のメタノール溶液の形で用いられることを特徴とする、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
工程a)において、塩化アリル対過酸化水素のモル比は1.5:1から5:1の範囲であることを特徴とする、請求項1から4の一項に記載のプロセス。
【請求項6】
工程c)での混合物(A)の分割は蒸留により行なわれ、混合物(A)中に存在するクロロプロパン類は混合物(A2)に濃縮されることを特徴とする、請求項1から5の一項に記載のプロセス。
【請求項7】
混合物(D)は第一の反応段階に戻されることを特徴とする、請求項1から6の一項に記載のプロセス。
【請求項8】
第一の反応段階は直列に連結された2つの反応器で行なわれ、混合物(D)は第二の反応器に戻されることを特徴とする、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
工程d)および工程e)は反応蒸留で同時に行なわれることを特徴とする、請求項1から8の一項に記載のプロセス。

【図1】
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【公表番号】特表2011−515350(P2011−515350A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500055(P2011−500055)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067584
【国際公開番号】WO2009/115152
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(510249623)ヘキソン・スペシヤルテイ・ケミカルズ・ゲー・エム・ベー・ハー (1)
【Fターム(参考)】