説明

エフェクタT細胞に優先的に関連する分子及びそれらの使用法

本発明は、少なくとも部分的に、例えばプロテインキナーゼCシータ(PKCシータ)など、T調節性細胞上には存在せず、エフェクタ細胞(Th1及びTh2)上には存在する特定の遺伝子の発見に基づく。さらに、炎症性サイトカインの産生や、炎症性のエフェクタT細胞の細胞増殖にとって重要な経路は、調節性T細胞によっては用いられていない。従って、ある局面では、本発明は、免疫細胞中の
調節性T細胞機能をエフェクタT細胞機能に対して促進する方法を提供するものであり、本方法は、免疫細胞を、この免疫細胞中のプロテインキナーゼCシータ経路を阻害する作用薬に接触させるステップを含む。
別の局面では、本発明は、対象における調節性T細胞機能をエフェクタT細胞機能に対して促進すると有益であろう状態を有する対象を治療する方法を提供し、本方法は、対象における免疫細胞中のプロテインキナーゼCシータ経路を阻害する作用薬を投与するステップを含む。更に別の局面では、本発明は、調節性T細胞機能を調節することなく、エフェクタT細胞機能を特異的に調節する化合物をスクリーニングするための検定法を提供するものであり、本検定法は、プロテインキナーゼCシータ経路分子を検査化合物に接触させるステップと、該検査化合物の、プロテインキナーゼCシータ経路分子活性の調節能を判定するステップとを含み、プロテインキナーゼCシータ経路分子活性の調節は、当該検査化合物が、エフェクタT細胞機能の特異的モジュレータであることの指標である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願
本出願は、2003年5月2日出願の標題「エフェクタT細胞機能に対して免疫細胞中の調節性T細胞機能を促進する方法」の米国仮出願第60/467,477号に基づく優先権を主張するものである。この出願は、さらに、2002年11月8日出願の標題「Th1及び/又はTh2細胞の細胞内タンパク質及び免疫応答の調節」の米国仮出願第60/424,777号に基づく優先権を主張するものである。これらの出願の各々の内容全体を、引用をもってここに援用することとする。
【0002】
発明の背景
プロテインキナーゼC(PKC)は、1,2-ジアシルグリセロール(DAG) 及び他の脂質によって生理学的に活性化する酵素の一ファ入りである。活性化すると、このイソ酵素は膜リン脂質に結合するか、又は、膜受容体に結合して、この酵素を細胞レベル下区画に繋ぎ止める
(reviewed in Liu and Heckman, Cell. Signal., 1998, 10,
529-542)。
【0003】
プロテインキナーゼCイソ酵素は、異なる細胞系及び組織において、数及び発現レベルが異なる。今日までのところ、11種の異なるイソ酵素(アルファ、ベータI、ベータII、ガンマ、デルタ、イプシロン、ニュー、ラムダ、ミュー、シータ及び及びゼータ)が同定されており、これらはそれらの示差的な発現パターン及びコファクタ要件に基づいて、3つのグループに分類されている。治療薬ターゲットとしてのプロテインキナーゼへの関心は、それが主要な細胞受容体であり、この受容体を介して、ホルボールエステルと呼ばれる一クラスの腫瘍促進因子が、それらの多面発現作用を細胞に及ぼしているという発見により生まれた (Liu and Heckman, Cell. Signal., 1998, 10, 529-542)。
【0004】
プロテインキナーゼ Cシータ(PKC-シータ、PKCT、PRKCT、nPKC-シータ及びPRKCQとしても知られる)は、新規なセリン/スレオニンプロテインキナーゼCアイソフォーム(nPKC)の1つであり、数々の組織で広汎に発現し、T細胞及び胸腺細胞を含め、造血細胞系で最も高いレベルで見られる (Baier et al., J. Biol. Chem., 1993, 268, 4997-5004;
Keenan et al., Immunology, 1997, 90, 557-563; Meller et al.,
Cell. Immunol., 1999, 193, 185-193; Wang et al., Biochem. Biophys. Res.
Commun., 1993, 191, 240-246)。このイソ酵素は、末梢T細胞において抗原により誘導される活性化事象を特異的に担うことが示されている。プロテインキナーゼCシータ・ノックアウトマウスが、正常な数の末梢T細胞を発生させるように、プロテインキナーゼCシータは胸腺中のT細胞の発生に必要ではない。しかしながら、これらのマウスに抗原刺激を与えた場合には、これらはT細胞応答を行えない。
【0005】
発明の概要
本発明は、少なくとも部分的に、特定の分子がエフェクタT細胞 (Th1及びTh2) 又は調節性T細胞に優先的に関連するという発見に基づく。例えば、プロテインキナーゼCシータ(PKCシータ)はTh1及びTh2 系譜の細胞によって優先的に発現することが見出されている。従って、一方又は他方のサブセットの細胞による免疫応答を優先的に調節することができる。本発明は、調節性T細胞及びエフェクタT細胞の間の活性化の間のバランスを、調節(例えば上方もしくは下方調節するなど)することで、免疫応答を調節する方法などに関し、そして、このような応答を調節する上で有用な組成物にも関する。さらに本発明は、対象においてエフェクタT細胞機能を調節性T細胞機能に対して調節したり、あるいは、調節性T細胞機能をエフェクタT細胞機能に対して調節すると有益であろう状態を診断、治療又は予防する上で有用な方法にも関する。当該の方法及び組成物は、当該状態に関連する抗原に対するエフェクタT細胞応答が強すぎることを特徴とする状態の診断、治療又は予防、エフェクタT細胞応答が弱いことを特徴とする状態の診断、治療又は予防、あるいは、調節性T細胞応答が弱いことを特徴とする状態の診断、治療又は予防において特に有用である。
【0006】
従って、ある局面では、本発明は、プロテインキナーゼCシータ経路成分の発現又は活性を調節する作用薬を投与するステップを含む、このような治療を必要とする対象における状態を治療する方法に関し、但しこのような治療の効果は、対象においてエフェクタT細胞機能の調節性T細胞機能に対するバランスを調節することである。ある実施態様では、該成分は、
配列番号1,3、5、7、9、及び11から成る群より選択される核酸である。別の実施態様では、該成分は、配列番号:2、4、6、8、10、及び12から成る群より選択されるポリペプチドである。さらに別の実施態様では、該作用薬は、タンパク質、ペプチド、低分子又は核酸である。更なる実施態様では、該状態は移植、アレルギ疾患、自己免疫疾患、ウィルス感染、細菌感染、寄生虫感染又は癌である。
【0007】
別の局面では、本発明は、細胞集団を、PKCシータ経路成分の発現又は活性を調節する作用薬に接触させるステップを含む、プロテインキナーゼCシータ経路成分の発現又は活性を調節する方法に関し、但し前記細胞集団は、以下
T細胞;未刺激T細胞;調節性T細胞;エフェクタT細胞;又は末梢血リンパ球のうちの1つ以上を含み、またこのような接触の効果は、当該細胞集団においてエフェクタT細胞機能の調節性T細胞機能に対するバランスを調節することである。ある実施態様では、本方法は、さらに、ある作用薬に接触させてある細胞集団を、ある状態に罹患している対象に投与するステップを含み、その効果が前記状態を治療することである。別の実施態様では、該作用薬は、タンパク質、ペプチド、低分子又は核酸である。更なる実施態様では、該状態は、移植、アレルギ疾患、自己免疫疾患、ウィルス感染、細菌感染、寄生虫感染又は癌である。
【0008】
別の局面では、本発明は、プロテインキナーゼCシータ経路成分の発現又は活性を調節する作用薬を特定する検定法に関し、該検定法は、プロテインキナーゼCシータ経路成分を含む指標組成物を複数の検査作用薬に接触させるステップと;前記検査作用薬の、プロテインキナーゼCシータ経路成分の発現又は活性の調節能を判定するステップと、を含み、但し、特定される該作用薬は、エフェクタT細胞機能の調節性T細胞機能に対するバランスを調節することができるものである。ある実施態様では、該作用薬は、タンパク質、ペプチド、低分子又は核酸である。別の実施態様では、該指標組成物は、プロテインキナーゼCシータ経路成分発現細胞である。
【0009】
発明の詳細な説明
伝統的な免疫応答においては、エフェクタT細胞(Teff)応答が、調節性細胞 (Treg) の応答よりも優勢になって、抗原が除去される。寛容は、伝統的活性化経路と同じステップ(即ち、抗原提示及びT細胞活性化)で開始するが、抗原の豊富度、T細胞にそれが提示される手段、CD4+細胞支援の相対的利用能を含む、しかしこれらに限定はしないが、といった因子が、調節性T細胞と呼ばれる、異なるクラスのリンパ球の増殖を引き起こす。エフェクタT細胞が伝統的な免疫応答を媒介するのと同様に、調節性T細胞は寛容原性応答を媒介する。しかしながら、例えばアレルギ、自己免疫疾患、臓器拒絶、治療的タンパク質の慢性投与又は等に伴うものなど、不要なもしくは方向の誤った応答は、望ましくなく、かつ、場合によっては致命的になることもある身体内の状態に結び付くことがある。調節性T細胞のエフェクタT細胞に対するバランスが優勢になる又はシフトする。抗原が保持され、免疫寛容が起きる。
【0010】
本発明は、少なくとも部分的には、エフェクタT細胞 (Th1 及びTh2) 及び調節性T細胞間で示差的に発現する遺伝子の同定に基づく。エフェクタT細胞が優先的に発現する遺伝の中に、PKCシータ の遺伝子や、T細胞においてNFκBを通じたPKCシータからのシグナル伝達に必要であることが公知の他のタンパク質メンバの遺伝子がある(図1)。PKCシータ経路のタンパク質メンバは、PKCシータを含め、限定はしないが、望ましくない免疫応答を遮断することのできるであろう化合物を含む種々の化合物を同定するために用いることができる。同定された化合物の所望の特性には、限定はしないが、調節性T細胞媒介性応答が優勢となるような、エフェクタT細胞及び調節性T細胞間のバランスへの影響能がある。このような調節性応答が優勢に発生すると、将来の望ましくない免疫応答を制御及び/又は予防することができるであろう。
【0011】
調節性T細胞は、T細胞受容体刺激に対して活性化及び分裂することができるが、PKCシータシグナル伝達系を用いていないようであるため、PKCシータ及びこの経路のメンバを選択的に標的にし、下方調節するなど調節する化合物は、エフェクタT細胞応答の優先的モジュレータとして有用である。これらの化合物は、エフェクタT細胞機能を促進するなど、優先的な調節を行うと有益であろう状態の治療又は予防に有用である。ある実施態様では、このような化合物は、対象において調節性T細胞応答機能を調節しない(あるいは、例えば付加的な作用薬又はプロトコルの使用を通じて、このような応答を好ましい方向で調節する)。同様に、これらの化合物は、当該状態に関連する抗原に対して、
エフェクタT細胞応答が強すぎることを特徴とすると同時に、調節性T細胞の応答が強固になると助けられるであろう状態の治療又は予防において有用である。
【0012】
本発明のある実施態様では、PKCシータ経路のメンバのいずれか(例えば図1を参照されたい)を発現させ、高スループットのスクリーニング検定法などのスクリーニング検定で用いて、これらのタンパク質に結合してその機能を阻害するであろう化合物を同定できよう。この経路を遮断すると、炎症性応答が優先的に阻害される。従って、この経路を狙った化合物は、臓器移植片の破壊など、望ましくない炎症性応答を軽減、予防又は停止させると共に、T 調節性細胞集団への影響を抑えるか、あるいは、T 調節性集団へ正味で正の効果を与えることができるであろう。ある実施態様では、このような化合物は、調節性T細胞集団の好ましい展開を可能にし、ひいては、移植臓器への将来のあらゆる攻撃を、付加的な化合物を用いることなく最終的に制御することになるであろう。
【0013】
さらにこれらの化合物は、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、又は炎症性腸疾患などの数多くの疾患における自己免疫攻撃を停止させる上でも有用であろう。例えば移植片拒絶の場合と同様に、これらの薬物は、エフェクタT細胞による組織破壊を停止させると同時に、免疫系の調節部門に優勢を発揮し直させ、最終的には付加的な薬物治療なくとも当該疾患を制御することを可能にするであろう。
【0014】
調節性T細胞はまた、抗体応答を制御する働きもすることが示されている。いくつかの自己免疫疾患は、大部分を自己抗体によって媒介されている。この治療法は、エフェクタT細胞によりB細胞に提供されるT細胞支援を阻害するため、重症筋無力症などの自己抗体媒介性自己免疫疾患を治療する上でも有用であろう。
【0015】
本発明のある実施態様では、現在用いられている免疫抑制剤とは異なり、ここで解説された化合物は、恒常性免疫調節機序の発生を促すため、望ましくない免疫応答を制御するためにも、中期の治療法や、又は、長期間もしくは長いコースの治療法ではなく、ある短期間、投与するだけでよい。本発明のある実施態様では、ここで解説された化合物を、複数回の短期間治療法で投与してよい。ここで解説された化合物を、2回の治療法、又は3回の治療法、あるいは4回以上の治療法で投与してもよい。本発明の別の実施態様では、検査を、本治療を受けている患者に行って、前記治療法の効験を判定し、更なる治療期間が必要であるかを判定してもよい。行われる前記検査には、限定はしないが、生検、血液検査、腎臓移植片が適正に機能しているかを判定する検定、X線、MRI又は身体検査、が含まれよう。その結果の免疫調節が天然のT細胞機序によって媒介されと考えられるため、免疫調節を維持するために付加的な薬物が必要になる必要性は、調節性T細胞応答の優勢がいったん確立されれば、低減又はなくすことができる。ある実施態様では、免疫抑制剤による長期又は生涯の治療をなくすことができ、自己免疫性及び臓器移植などの治療法に現在伴う副作用の、全てではないにしてもその数多くが無くなるであろう。
【0016】
図1に見られるように、T細胞の活性化には、抗原(TCR)及びCD28のためのT細胞受容体の両方を通じたシグナル伝達が必要である。CD4分子は付加的なキナーゼ・シグナルとなり、完全で強力な細胞応答が行われる。これらの初期T細胞活性化事象によりリン酸化する分子の中に、アダプタタンパク質vavがある。リン酸化vav は、接着分子を相互作用して細胞の形状を変え、またPKCシータを活性化する役目もすることが示されている。活性化したPKCシータは細胞膜に遊走してそこでスカフォードタンパク質CARMA1に付着する。さらにCARMA1 と相互作用するのはタンパク質Bcl 10である。Bcl 10 はPKCシータによりリン酸化した後、阻害性分子であるIκBをNFκBから遊離させることができ、こうしてNFκBを活性化させることができる。こうして活性化したNFκBは核内に入り、そこでDNA上の特異的部位に結合して、炎症性免疫応答に特徴的であり、かつ炎症性免疫応答を媒介する分子の数多くをコードする遺伝子のmRNAの転写を起こさせる。
【0017】
I. 定義
ここで用いられる用語「プロテインキナーゼCシータ」とは、PKCT、PRKCT、nPKC-シータ及びPRKCQとしても公知のセリン/スレオニンプロテインキナーゼを言う。プロテインキナーゼCシータのヌクレオチド配列を配列番号:1に示し、そしてプロテインキナーゼCシータのアミノ酸配列を配列番号:2に示す。PKCシータは種々の組織に広汎に発現するが高レベルで見られるのは、T細胞及び胸腺細胞を含む造血細胞系である (Baier et al., J. Biol. Chem., 1993, 268, 4997-5004;
Keenan et al., Immunology, 1997, 90, 557-563; Meller et al.,
Cell. Immunol., 1999, 193, 185-193; Wang, et al., Biochem. Biophys.
Res. Commun., 1993, 191, 240-246)。このイソ酵素は、カルシウム独立的な態様で働き、当該タンパク質をがマウス胸腺腫細胞で一過性に過剰発現させたところ、
インターロイキン2プロモータ誘導性コンストラクトが転写活性化した (Baier et
al., Eur. J. Biochem., 1994, 225, 195-203)。
【0018】
用語「プロテインキナーゼCシータ経路」は、細胞が細胞外からの影響又はシグナル(例えばサイトカイン受容体又は抗原受容体など、細胞の表面上の受容体により伝達されるシグナル)を細胞応答(例えば遺伝子転写の調節)に変換する手段を包含するものであり、PKCシータは、当該シグナルの転写に関与する分子の1つである。ここで用いられる「PKCシータ経路成分」又は「経路成分」は、細胞外からの影響又はシグナルを細胞応答に伝達することに関与する、例えばPKCシータや、又は、PKCシータの上流もしくは下流の分子など、PKCシータに関与するシグナル伝達経路中の分子を包含する。好ましくは、PKCシータ経路成分が調節されると、PKCシータの生物学的活性の調節が起きるとよい。PKCシータ経路の成分の例は当業者に公知であり、概略的には図1に概観されているが、その中には、PKCシータ、vav、CARMA1、Bcl10、IκB及びNFκB、がある。vavのヌクレオチド配列を配列番号:3に示し、そしてvav のアミノ酸配列を配列番号:4に示す;CARMA1のヌクレオチド配列を配列番号:5に示し、そしてCARMA1のアミノ酸配列を配列番号:6に示す;Bcl 10のヌクレオチド配列を配列番号:7に示し、そしてBcl 10 のアミノ酸配列を配列番号:8に示す;IκBのヌクレオチド配列を配列番号:9に示し、そしてIκBのアミノ酸配列を配列番号:10に示す;NFκBのヌクレオチド配列を 配列番号:11に示し、そしてNFκBのアミノ酸配列を配列番号:12に示す。
【0019】
ここで用いられる場合の用語「CARMA1」とは、TCR誘導性NFκB活性化及びCD28共刺激依存的 Jnk活性化の脂質ラフト関連調節因子を言い、CARD 11としても公知である。CARMA はスカフォードタンパク質である。CARMA1 は、細胞膜の特化した領域で多重タンパク質複合体が集合するための分子スカフォードとして働く一クラスのタンパク質である膜結合グアニル酸キナーゼ (MAGUK) ファミリに属する。このタンパク質は、特徴的なカスパーゼ関連動員ドメイン(CARD)を持つことで定義される、CARDタンパク質ファミリのメンバでもある。このタンパク質は、CARD14 タンパク質のそれと同様なドメイン構造を有する。両タンパク質のCARDドメインは、細胞アポトーシス及びNF-κB活性化の正の調節因子として働くことが公知のタンパク質であるBCL10と特異的に相互作用することが示されている。このタンパク質は、細胞内で発現すると、NF-カッパBを活性化し、BCL10のリン酸化を誘導した。
Gaide, O.et al. Nat. Immunol. 3 (9), 836-843
(2002) Wang, D., et al. Nat. Immunol. 3 (9), 830-835 (2002); Gaide, O., et
al. FEBS Lett. 496 (2-3), 121-127 (2001); Bertin, J., et al. J. Biol.
Chem. 276 (15), 11877-11882 (2001)
【0020】
ここで用いられる用語「Bcl 10」とは、カスパーゼ動員ドメイン(CARD)を含有するタンパク質を言い、アポトーシスを誘導し、NF-カッパBを活性化することが示されている。このタンパク質は、NF-カッパBシグナル伝達において上流の調節因子として働くと考えられている、CARD9、10、11 及び14を含むタンパク質を含有する他のCARDドメインと相互作用すると報告されている。Bcl10 遺伝子は、粘膜関連リンパ系組織(MALT)リンパ腫の場合のその転座により、同定された。このタンパク質は、MALTリンパ腫で転座していることが公知の別の遺伝子にコードされたタンパク質であるMALT1と複合体を形成することが見出されている。MALT1 及びこのタンパク質は、NF-カッパBの活性化において相乗作用すると考えられており、これらのいずれの調節不能も、悪性病変につながる同じ病原性プロセスに寄与しているかも知れない(例えば GenBank 登録番号NM_003921; Maes, B. et al. Blood 99 (4), 1398-1404 (2002);
Kawano, T. et al. Anticancer Res. 22 (1A), 305-309 (2002); Wang, L., et
al. J. Biol. Chem. 276 (24), 21405-21409 (2001); Lucas, P.C., et al.
J. Biol. Chem. 276 (22), 19012-19019 (2001); Bertin, J., et al. J. Biol. Chem. 276 (15),
11877-11882 (2001); Ruland, J., et al. Cell 104 (1), 33-42 (2001);
Bertin, J., et al. J. Biol.
Chem. 275 (52), 41082-41086 (2000))を参照されたい。
【0021】
ここで用いられる用語「エフェクタT細胞」は、(例えば他の細胞の活性化を調節するサイトカインを産生したり、あるいは細胞傷害性活性により)抗原を消失させる働きをするT細胞を包含するものである。用語「エフェクタT細胞」は、Tヘルパ細胞(例えばTh1 及びTh2 細部)及び細胞傷害性T細胞を包含する。Th1細胞は、遅延型過敏反応やマクロファージ活性化を媒介するが、他方 Th2細胞は、B細胞を支援し、アレルギ反応において重要である (Mosmann and
Coffman, 1989, Annu. Rev. Immunol. 7, 145-173; Paul and Seder, 1994, Cell
76, 241-251; Arthur and Mason, 1986, J. Exp. Med. 163, 774-786;
Paliard et al., 1988, J. Immunol. 141, 849-855; Finkelman et
al., 1988, J. Immunol. 141, 2335-2341)。
【0022】
ここで用いられる用語「Tヘルパ1型応答」
(Th1応答) とは、IFN-γ、IL-2、TNF、及びリンホトキシン (LT) や、Th2細胞でなくTh1細胞によって優先的又は排他的に産生される他のサイトカイン、から選択される一種以上のサイトカインの産生を特徴とする応答を言う。ここで用いられる「Tヘルパ2型応答」 (Th2応答) とは、IL-4、IL-5、IL-6 及びIL-10から選択される一種以上のサイトカインの産生を特徴とすると共に、Th2細胞により提供される効率的なB細胞「支援」(例えば、IgG1及び/又はIgE産生の亢進など)と関連するCD4T細胞による応答を言う。
【0023】
ここで用いられる用語「調節性T細胞」は、低レベルのIL-2、IL-4、IL-5、及びIL-12を産生するT細胞を包含する。調節性T細胞は、TNFα、TGFβ、IFN-γ、及びIL-10を、エフェクタT細胞よりは低レベルではあるが、産生する。TGFβは、調節性T細胞により産生される主なサイトカインであるが、このサイトカインは、例えばTh1又はTh2細胞よりも一桁少ないなど、Th1 又はTh2 細胞が産生するそれよりも低いレベル又は同等なレベルで、産生される。調節性T細胞は、CD4+CD25+集団の細胞に見えることができる(例えば Waldmann and Cobbold. 2001.
Immunity. 14:399を参照されたい)。調節性T細胞活性は、培養において活性化シグナル(例えば抗原及び抗原提示細胞で、又は、抗CD3抗体や、抗CD28抗体など、MHCの関係で抗原を模倣するシグナルで)で刺激を受けたTh1、Th2, 又は未刺激T細胞の増殖及びサイトカイン産生を能動的に抑制する。
【0024】
ここで用いられる文言「調節性T細胞機能のエフェクタT細胞機能に対するバランスを調節する」又は「調節性T細胞機能をエフェクタT細胞機能に対して調節する」は、Tエフェクタ/T調節性細胞活性のバランスが治療前のバランスに比較してシフトしているように、少なくとも1つの調節性T細胞機能(Tエフェクタ細胞及びT調節性細胞の両方を含む一細胞集団において)を優先的に変化させることを包含する。
【0025】
ここで用いられる文言「エフェクタT細胞機能の調節性T細胞機能に対するバランスを調節する」又は「エフェクタT細胞機能を調節性T細胞機能に対して調節する」は、
Tエフェクタ/T調節性細胞活性のバランスが、治療前のバランスに比較してシフトしているように、少なくとも1つのエフェクタT細胞機能(Tエフェクタ細胞及びT調節性細胞の両方を含む一細胞集団において)を優先的に変化させることを包含する。
【0026】
ここで用いる用語「作用薬」は、本発明の分子の発現及び/又は活性を、例えば上方調節もしくは刺激したり、そして下方調節もしくは阻害するなど、調節する化合物を包含する。ここで用いられる用語「阻害剤」又は「阻害性作用薬」は、本発明の分子の発現及び/又は活性を阻害する作用薬を包含するものである。阻害剤の例には、抗体、RNAi、RNAi を媒介する化合物(例えばsiRNA)、アンチセンスRNA、本発明の分子のドミナント/ネガティブ変異体、ペプチド、及び/又はペプチドミメティック、がある。
【0027】
用語「刺激因子」又は「刺激剤」には、本発明の分子の発現及び/又は活性を増加させる、アゴニストなごの作用薬が含まれる。刺激剤の例には、活性タンパク質及び核酸分子や、本発明の分子のペプチド及びペプチドミメティックがある。本発明の作用薬は、本発明の分子の発現及び/又は活性を、増加又は減少させるなど、直接調節することができる。作用薬の例はここに解説されているか、又は、以下に詳述するように、このような化合物を選抜するスクリーニング検定法を用いて同定することができる。
【0028】
本発明のスクリーニング検定法に関し、好ましくは、スクリーニングされる「検査化合物又は作用薬」には、例えばTエフェクタ細胞の相対的活性をT調節性細胞の相対的活性に比較して、あるいはその逆など、T細胞活性化のバランスを調節することが当業で公知でない分子が含まれる。好ましくは、複数の作用薬を本方法を用いて検査するとよい。
【0029】
ある実施態様では、本発明のスクリーニング検定法を、活性化剤の存在下で行うことができる。ここで用いられる用語「活性化剤」は、T細胞活性化(例えばサイトカイン産生、標的細胞の増殖、及び/又は溶解などのエフェクタ機能)を刺激する一種以上の作用薬を包含する。活性化剤の例は当業で公知であり、その中には、限定はしないが、例えばマイトジェン(例えばフィトヘムアグルチニン又はコンカナバリンA)、T細胞受容体又はCD3と(ときには、抗原提示細胞又はCD28と反応する抗体と組み合わされて)反応する抗体、又は、抗原や抗原提示細胞がある。
【0030】
好ましくは、本発明の調節性作用薬を、長期又は長い治療期間ではなく、短期の治療期間にわたって用いるとよい。ここで用いられる言語「短期の治療」には、治療しようとする疾病の経過に対して、比較的に短期の治療計画が包含される。例えば、短期の治療は、約1週間から約8週間の間、続くかも知れない。対照的に、「中期の治療」には、短期の治療よりも長い期間の治療計画が含まれる。例えば、中期の治療は、2ヶ月を越えて約4ヶ月まで続くかも知れない(例えば約8乃至約16週など)。「長期の治療」には、例えば約5ヶ月以上など、約4ヶ月よりも長く続く治療計画が含まれる。例えば、長期の治療は、約6ヶ月続く場合から、疾病が続く限り長く続く場合まであるであろう。ある一個体に対する、上述した治療経過のうちの1つ以上の妥当性は当業者であれば容易に判断することができる。加えて、ある対象にとって適当な治療は必要に応じて、時間と共に変わるであろう。
【0031】
ここで用いる用語「寛容」には、活性化性の受容体が媒介する刺激に対する不応性が包含される。このような不応性は、一般に抗原特異的であり、寛容性抗原への曝露が終わった後も続く。例えば寛容は、IL-2などのサイトカイン産生がないことを特徴とする。寛容は自己抗原や、又は外来抗原に対しても起き得る。
【0032】
ここで用いる場合の用語「T細胞」(即ちTリンパ球)には、胸腺細胞、未熟T細胞、成熟T細胞等を含め、哺乳動物(例えばヒト)由来のT細胞系譜のあらゆる細胞が含まれるものと、意図されている。好ましくは、T細胞は、CD4又はCD8の両者ではなくいずれかと、T細胞受容体とを発現する成熟T細胞であるとよい。ここで解説された多様なT細胞集団を、それらのサイトカイン・プロフィール及びそれらの機能に基づいて、定義することができる。
【0033】
ここで用いる用語「未刺激T細胞」は、コグネート抗原に曝露されておらず、従って活性化もしくは記憶細胞ではないT細胞を包含する。未刺激T細胞は循環しておらず、そしてヒト未刺激T細胞はCD45RA+である。未刺激T細胞が抗原を認識し、限定はしないが抗原量、投与経路及び投与のタイミングに応じて付加的なシグナルを受け取ると、これらは増殖及び分化して、エフェクタT細胞など、多様なT細胞のサブセットになることができる。
【0034】
ここで用いる用語「記憶T細胞」は、抗原への曝露後に、機能的に休止期になり、かつ、抗原の非存在下でも長期間、生存することのできるリンパ球を包含する。ヒト記憶T細胞はCD45RA−である。
【0035】
「本発明の分子」(例えば核酸又はポリペプチド分子)は、特定の細胞種、例えば エフェクタT細胞又は調節性T細胞で優先的に発現する(及び/又は、Tエフェクタ細胞及びT調節性細胞の間のバランスを調節する上で優先的に活性である)とよい。このような分子は、この細胞種の分化につながるプロセスで必要であってもよく、そして、この細胞種の分化の前又は初期段階で発現するものでもよい。このような分子は、細胞によって分泌されても、細胞外(細胞表面上で発現)に分泌されても、あるいは細胞内で発現してもよく、分化につながるシグナル伝達経路に関与していてもよい。本発明のモジュレータ分子には、本発明の分子や、本発明の分子の発現をを調節する分子(例えば薬物)が含まれる。
【0036】
ここで用いる用語「Tエフェクタ(Teff)分子」には、エフェクタT細胞中で優先的に発現する、及び/又は、優先的に活性な分子が含まれる。
【0037】
ここで用いる用語「T調節性(Treg)分子」には、調節性T細胞中で優先的に発現する、及び/又は、優先的な活性な分子が含まれる。
【0038】
ある実施態様では、低分子を検査化合物として用いることができる。用語「低分子」は、当業の用語であり、約1000分子量未満、又は、約500分子量未満、である分子を包含する。ある実施態様では、低分子はペプチド結合を排他的に含まない。別の実施態様では、低分子はオリゴマではない。活性についてスクリーニングすることのできる低分子化合物の例には、限定はしないが、ペプチド、ペプチドミメティック、核酸、糖、低有機分子(例えばポリケチド) (Cane et al. 1998. Science 282:63)、及び天然生成物抽出ライブラリ、がある。別の実施態様では、当該の化合物は、低分子の、有機非ペプチド性化合物である。更なる実施態様では、低分子は生合成によるものではない。
【0039】
ここで用いる用語「オリゴヌクレオチド」は、結合(例えばホストジエステル結合)又は置換結合により互いに共有結合した2つ以上のヌクレオチドを含む。
【0040】
ここで用いる用語「ペプチド」は、ペプチド結合により連結したアミノ酸の比較的に短い鎖を包含する。用語「ペプチドミメテック」は、ペプチドを模倣又は拮抗することのできる非ペプチド性構造要素を含有する化合物を包含する。
【0041】
ここで用いる用語「レポータ遺伝子」は、RNA又はタンパク質でよい検出可能な遺伝子産物を発現する遺伝子を包含する。好適なレポータ遺伝子は、容易に検出可能なものである。当該のレポータ遺伝子は、さらに、所望の転写調節配列を含む遺伝子との融合遺伝子や、又は、他の所望の特性を示す遺伝子との融合遺伝子の形のコンストラクト中に含まれていてもよい。レポータ遺伝子の例には、限定はしないが、CAT (chloramphenicol acetyl transferase) (Alton and Vapnek (1979), Nature
282: 864-869) ルシフェラーゼ、及び他の酵素検出系、例えばベータ-ガラクトシダーゼ;ホタルルシフェラーゼ
(deWet et al. (1987), Mol. Cell. Biol. 7:725-737);細菌ルシフェラーゼ (Engebrecht and Silverman (1984), Proc.
Natl. Acad. Sci., USA 1: 4154-4158; Baldwin et al. (1984), Biochemistry
23: 3663-3667);アルカリホスファターゼ
(Toh et al. (1989) Eur. J. Biochem. 182: 231-238, Hall et al.
(1983) J. Mol. Appl. Gen. 2: 101)、ヒト胎盤分泌性アルカリホスファターゼ (Cullen and Malim (1992) Methods in Enzymol. 216:362-368) 及び緑色蛍光タンパク質 (米国特許第5,491,084号; WO 96/23898)、がある。
【0042】
ここで用いられる「治療」は、ある疾患もしくは異常、疾患もしくは異常の症状、あるいは、ある疾患もしくは異常に対する素因、を有する患者への、又は、前記患者由来の摘出組織又は細胞株への、前記疾患もしくは異常、疾患もしくは異常の少なくとも1つの症状、を治癒させる、治す、軽減する、緩和する、変化させる、治療する、改善させる、向上させる又は影響したり、あるいはエフェクタT細胞機能の調節性T細胞機能に対するバランスを調節することを目的とした、治療薬の適用又は投与であると、定義しておく。
【0043】
II. 調節性作用薬
A. 刺激剤
本発明の調節法では、 細胞内のプロテインキナーゼCシータ経路の発現及び/又は活性、及び/又は、プロテインキナーゼCシータ経路成分の発現及び/又は活性を、前記細胞を刺激剤に接触させることにより、刺激する。このような刺激剤の例には、細胞内のプロテインキナーゼCシータ経路成分の発現及び/又は活性を増加させるために前記細胞に導入される活性タンパク質及び核酸分子が含まれる。
【0044】
好適な刺激剤は、プロテインキナーゼCシータ経路成分のタンパク質産物をコードする核酸分子であり、この場合、前記核酸分子を、細胞内に、この細胞内でのプロテインキナーゼCシータ経路の活性化タンパク質の発現に適した形で導入する。細胞内であるタンパク質を発現させるためには、典型的には、経路成分の一ポリペプチドをコードする核酸分子をまず組換え発現ベクタ内に、ここで解説されたものなど、標準的な分子学技術を用いて導入する。ある経路成分の一ポリペプチドをコードする核酸分子は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用い、経路成分のヌクレオチド配列に基づいたプライマを用いた増幅などにより、得ることができる。ある経路成分の一ポリペプチドをコードする核酸分子を単離又は増幅後に、このDNA断片を発現ベクタ内に導入し、標的細胞に、ここで解説した通りの標準的な方法により、トランスフェクトする。
【0045】
生物活性を保持したポリペプチドをコードする、ここで解説されたヌクレオチド配列のバリアントも、本発明の包含するところである。例えば、開示された核酸分子と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子。ここで用いる用語「高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、互いに実質的な相同性(例えば典型的には70%を越える)を有するヌクレオチド配列が互いに安定にハイブリダイズしたままであるようなハイブリダイゼーション及び洗浄の条件を記述するものと、意図されている。高ストリンジェントな条件の好適な非限定的例は、約45℃の温度の6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)を含有するハイブリダイゼーション緩衝液で数時間乃至一晩、ハイブリダイゼーションした後、約50乃至65℃の温度の0.2×SSC、0.1% SDSを含有する洗浄緩衝液中で1回以上、洗浄する、というものである。
【0046】
本発明の別の局面は、融合タンパク質を作製する際の使用に適したポリペプチド断片を含め、プロテインキナーゼCシータ経路成分の生物学的に活性な部分(即ち、対生物活性断片)を特徴とする。
【0047】
ある実施態様では、プロテインキナーゼCシータ経路成分又はその対生物活性断片を、細胞又は組織源から、適した精製スキームにより、標準的なタンパク質精製技術を用いて得ることができる。別の実施態様では、経路成分イムノゲン又は対生物活性断片を組換えDNA技術により、作製する。組換え発現の代わりに、経路成分又は対生物活性断片を、標準的なペプチド合成技術を用いて化学合成することもできる。
【0048】
ここで用いられるポリペプチド、対生物活性断片又は融合タンパク質は、好ましくは、「単離されている」か、又は「精製されている」とよい。用語「単離された」及び「精製された」はここでは交換可能に用いられている。「単離された」又は「精製された」とは、当該のポリペプチド、対生物活性断片又は融合タンパク質が、そのポリペプチドの元の細胞又は組織由来の細胞物質又は他の混入タンパク質を実質的に含まないか、消化混合物中の不要な断片などの他のタンパク質断片を実質的に含まないか、あるいは、化学合成された場合には、化学的前駆体又は他の化学物質を実質的に含まないことを意味する。言語「細胞物質を実質的に含まない」は、当該ポリペプチドが、それが単離された又は組換えにより作製された元の細胞の他の成分から分離されているような製剤を包含する。ある実施態様では、言語「細胞物質を実質的に含まない」は、(乾燥重量で)約30%未満の混入タンパク質、より好ましくは約20%未満の混入タンパク質、さらにより好ましくは約10%未満の混入タンパク質、さらにより好ましくは約10%未満の混入タンパク質、そして最も好ましくは約5%未満の混入タンパク質を有するポリペプチドの製剤を包含する。ポリペプチドを組換えにより作製した場合、それが培養基を実質的に含まないことも好ましく、即ち培養基がポリペプチド製剤の体積の約20%未満、より好ましくは約10%未満、そして最も好ましくは約5%未満を占めるとよい。ポリペプチドを化学的もしくは酵素処理などにより、単離されたもしくは精製されたタンパク質から作製する場合は、当該製材は、好ましくは、酵素反応成分又は化学反応成分を実質的に含まず、また、不要な断片を含まないとよく、即ち所望のポリペプチドが、製剤の(乾燥重量で)少なくとも75%を占め、好ましくは製剤の少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、そしてさらにより好ましくは少なくとも90%、95%、99%、又はそれ以上を占めるとよい。
【0049】
言語「化学的前駆体又は他の化学物質を実質的に含まない」は、当該のポリペプチドが、当該ポリペプチドの合成に関与した化学的前駆体又は他の化学物質から分離されているようなポリペプチドの製剤を包含する。ある実施態様では、言語「化学的前駆体又は他の化学物質を実質的に含まない」は、(乾燥重量で)約30%未満の化学的前駆体又は試薬、より好ましくは約20%未満の化学的前駆体又は試薬、さらにより好ましくは約10%未満の化学的前駆体又は試薬、そして最も好ましくは約5%未満の化学的前駆体又は試薬を有する製剤を包含する。
【0050】
プロテインキナーゼCシータ経路成分のポリペプチドの対生物活性断片は、完全長タンパク質よりは少ないアミノ酸を含有すると共に、完全長タンパク質の少なくとも1つの生物学的活性を示すような、ある経路成分のポリペプチドのアミノ酸配列と充分同一な、又は、由来とする、アミノ酸配列を含むポリペプチドを包含する。典型的には、生物学的活性部分は、完全長タンパク質の少なくとも1つの活性を持つドメイン又はモチーフを含む。本発明のポリペプチドの生物学的活性部分は、例えば10、20、30、40、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000又はそれ以上のアミノ酸長であるポリペプチドであってよい。さらに、当該タンパク質の他の領域が欠失しているような他の生物学的活性部分も組換え技術により作製でき、本来のタンパク質の機能的活性のうちの1つ以上について、評価することができる。変異体を検定試薬として用いることもでき、
例えば、生物学的特性を減少させた、高めた又は変化させた変異体を、ここで解説された活性検定のうちの1つで同定することができる。
【0051】
生物活性を保持した、プロテインキナーゼCシータ経路成分のポリペプチド分子のバリアントも、本発明の包含するところである。ある実施態様では、このようなバリアント・ポリペプチドは、少なくとも約80%、85%、90%、95%、98% の同一性を有する。
【0052】
二つのアミノ酸配列(又は2つのヌクレオチド又はアミノ酸配列)間のパーセント同一性を決定するには、これら配列を最適な比較ができるようにアライメントする(例えば、最適にアライメントするには、第一及び第二のアミノ酸にギャップを導入することができる)。次に、相当するアミノ酸位置又はヌクレオチド位置にあるアミノ酸残基又はヌクレオチドを比較する。第一の配列中のある位置に、第二の配列中の相当する位置にあるのと同じ残基が来ていれば、これら分子はその位置において同一である。二つの配列間のパーセント同一性は、導入したギャップの数、及び/又は、導入したギャップの長さを、選択的にペナルティーとして得点に科したときの、これら配列に共通の同一位置の数の関数である(即ち、%相同性=同一位置の数/位置の総数×100)。
【0053】
二つの配列間の配列の比較及びパーセント同一性の決定は、数学的アルゴリズムを用いて行うことができる。ある実施態様では、該アライメントは、充分な同一性を有するようないアライメントされたある特定の部分にわたっては行われるが、同一性の程度の低い部分にわたっては行われない(即ち局部的アライメント)。配列の比較のために用いられる局部的アライメント・アルゴリズムの好適な非限定的例は、カーリン及びアルチュル (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77の通りに改良したカーリン及びアルチュル (1990) Proc. Natl.
Acad. Sci. USA 87:2264-68のアルゴリズムである。このようなアルチュルのアルゴリズムを、Altschul, et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10 のBLASTプログラム(ヴァージョン2.0) に導入する。ある経路成分のポリペプチドの配列又はその一部分をクエリーとして用いて、スコア=50、ワード長=3として、BLASTアライメントを作製し、パーセント同一性を、BLASTタンパク質検索(例えばXBLASTプログラム)を用いて計算することができる。
【0054】
別の実施態様では、適したギャップを導入することによりアライメントを最適化し、パーセント同一性を、このアライメント後の配列の長さにわたって決定する(即ちギャップのあるアライメント)。比較を目的としてギャップのあるアライメントを行うには、Gapped BLAST をAltschul et
al., (1997) Nucleic Acids Res. 25(17):3389-3402が解説するとおりに利用できる。別の実施態様では、適したギャップを導入することによりアライメントを最適化し、パーセント同一性を、このアライメント後の配列の全長にわたって決定する
(即ち包括的アライメント)。配列の包括的な比較のために用いられる数学的アルゴリズムの好適な非限定的例は、Myers and Miller, CABIOS (1989)のアルゴリズムである。このようなアルゴリズムを、GCG配列アライメント・ソフトウェア・パッケージの一部であるALIGN プログラム(ヴァージョン2.0)に導入する。ALIGNプログラムをアミノ酸配列の比較のために用いる場合、PAM120ウェイト残基表、12のギャップ長ペナルティ、及び4のギャップ・ペナルティを用いることができる。
【0055】
さらに本発明は、プロテインキナーゼCシータ経路成分のキメラ又は融合タンパク質を提供するものである。ここで用いられる「キメラタンパク質」又は「融合タンパク質」は、ある経路成分のあるポリペプチド
を、異なるポリペプチドに作動的に連結させて含む。ある融合タンパク質内に、ある経路成分のポリペプチド全体が存在していても、あるいは、当該ポリペプチドの対生物活性部分が存在していてもよい。このような融合タンパク質は、プロテインキナーゼCシータ経路成分の活性を変調するために用いることができる。
【0056】
好ましくは、本発明のキメラ又は融合タンパク質を、標準的な組換えDNA技術により作製するとよい。例えば、異なるポリペプチド配列をコードするDNA断片を、平滑末端又は付着末端を連結に用いたり、適した末端にする制限酵素消化、適当な場合の付着末端の充填、望ましくない接合を避けるためにアルカリホスファターゼ処理、及び酵素連結などの従来技術に従って、相互にイン-フレームで連結する。別の実施態様では、自動DNA合成装置を含む従来技術により、融合遺伝子を合成することができる。代替的には、遺伝子断片のPCR増幅を、2つの連続した遺伝子断片の間に相補な張り出し部分を生じさせるアンカー・プライマを用いて行った後、これらの張り出し部分をアニールし、再増幅することで、キメラ遺伝子配列を作製することもできる(例えばCurrent Protocols in Molecular Biology,
eds. Ausubel et al. John Wiley & Sons: 1992を参照されたい)。さらに、融合部分を既にコードしている数多くの発現ベクタが市販されている。ある経路成分のポリペプチドをコードする核酸分子を、このような発現ベクタ内に、このような融合部分がある経路成分のポリペプチドにイン-フレームで連結しているように、クローニングすることができる。
【0057】
プロテインキナーゼCシータ経路成分タンパク質の活性を刺激するために用いることのできる他の刺激剤は、細胞内のある経路成分の発現又は活性を刺激する化合物であり、例えば、ある経路成分のタンパク質産物を直接、刺激する化合物や、ある経路成分のタンパク質産物と、基質又は標的DNA結合部位との間の相互作用を促進する化合物である。このような化合物は、以下に詳述するように、このような化合物を選抜するスクリーニング検定を用いて、同定することができる。
【0058】
B. 阻害剤
本発明の阻害剤には、例えば、あるPKCθ経路成分の発現又は活性を阻害するよう作用する細胞内結合分子であってよい。細胞内で発現する分子については、細胞内結合分子は、発現及び/又は活性を調節するために用いることができる。ここで用いる用語「細胞内結合分子」には、当該タンパク質自体に結合したり、当該タンパク質をコードする核酸(例えばmRNA分子)に結合したり、あるいは、当該タンパク質が通常相互作用する相手である標的に(例えば、マーカが結合する先のDNA標的配列に)結合することで、このタンパク質の発現又は活性を阻害するよう細胞内で作用する分子を包含するものと、意図されている。以下にさらに詳述される、細胞内結合分子の例には、アンチセンス・マーカ核酸分子(例えばmRNAの翻訳を阻害するため)、細胞内抗体(例えばタンパク質の活性を阻害するため)、及び、当該の経路成分タンパク質のドミナント・ネガティブ変異体、がある。細胞表面上に分泌又は発現する分子の場合、細胞内結合分子(例えばアンチセンス核酸分子、又は、RNAiを媒介する分子)による阻害に加えて、このような分子の活性を、例えばリガンドと、抗体などのその受容体との間の結合を破壊するなど、細胞外で作用する作用薬を用いて阻害することができる。
【0059】
ある実施態様では、本発明の阻害剤は、プロテインキナーゼCシータ経路成分をコードする遺伝子もしくは前記遺伝子の一部分に対して相補的なアンチセンス核酸分子、あるいは、前記アンチセンス核酸分子をコードする発現ベクタ、である。
細胞内である特定のタンパク質の発現を下方調節するためのアンチセンス核酸の使用は当業で公知である(例えば Weintraub, H. et al., Antisense RNA as a molecular tool for
genetic analysis, Reviews - Trends in Genetics, Vol. 1(1) 1986; Askari,
F.K. and McDonnell, W.M. (1996) N. Eng. J. Med. 334:316-318; Bennett,
M.R. and Schwartz, S.M. (1995) Circulation 92:1981-1993; Mercola, D. and
Cohen, J.S. (1995) Cancer Gene Ther. 2:47-59; Rossi, J.J. (1995) Br.
Med. Bull. 51:217-225; Wagner, R.W. (1994) Nature 372:333-335を参照されたい)。アンチセンス核酸分子は、別の核酸分子のコーディング鎖に対して相補的なヌクレオチド配列(例えばmRNA配列)を含み、従って、他方の核酸分子のコーディング鎖に水素結合することができる。あるmRNAの配列に対して相補的なアンチセンス配列は、当該mRNAのコーディング領域中、当該mRNAの5'側もしくは3'側非翻訳領域中、又は、コーディング領域と非翻訳領域との間の橋渡しをしている領域中(例えば、5'側非翻訳領域とコーディング領域との間の接合部)、に見られる一配列に相補的であってよい。さらに、アンチセンス核酸は、例えば転写開始配列又は調節因子など、当該mRNAをコードする遺伝子のうちの一調節領域に対して配列上、相補的であってよい。好ましくは、アンチセンス核酸は、コーディング鎖上の開始コドン、又は、mRNAの3'側非翻訳領域、の前、又はこれに延びる領域に対して相補的であるようにデザインされているとよい。細胞内でタンパク質発現を阻害するためのアンチセンス核酸分子は、ワトソン及びクリックの塩基対の規則に従って構築されたタンパク質をコードするヌクレオチド配列に基づいて、デザインすることができる。
【0060】
アンチセンス核酸分子は、様々な形で存在し得る。例えば、当該のアンチセンス核酸は、ある遺伝子の一部分に対してのみ、相補的なオリゴヌクレオチドであってよい。アンチセンス・オリゴヌクレオチドは、当業で公知の化学合成法を用いて構築することができる。アンチセンス・オリゴヌクレオチドは、天然型ヌクレオチドを用いても、あるいは、当該分子の生物学的安定性を高めるように、又は、アンチセンス及びセンス核酸の間で形成される二重鎖の物理的安定性を高めるように、デザインされた様々に修飾されたヌクレオチドを用いても、化学合成することができ、例えばホスホロチオエート誘導体及びアクリジン置換ヌクレオチドを用いることができる。培養細胞での発現を阻害するためには、1つ以上のアンチセンス・オリゴヌクレオチドを、典型的には約200μgのオリゴヌクレオチド/mlなどで、培養基中の細胞に添加することができる。
【0061】
代替的には、アンチセンス核酸分子を、核酸がアンチセンス方向で中にサブクローニングしてある発現ベクタを用いて生物学的に作製することができる(即ち、挿入された核酸から転写される核酸は、目的の標的核酸に対してアンチセンス方向になる)。アンチセンス方向でクローニングされた核酸に作動的に連結した調節配列としては、目的細胞内で当該アンチセンスRNA分子の発現を命令するものを選ぶことができ、アンチセンスRNAの構成的、組織特異的又は誘導性発現を命令するようなプロモータ及び/又はエンハンサ又は他の調節配列を選ぶことができる。例えば、アンチセンスRNAの誘導性発現には、Tet 系(例えばGossen, M. and Bujard, H. (1992) Proc.
Natl. Acad. Sci. USA 89:5547-5551; Gossen, M. et al. (1995) Science
268:1766-1769; PCT 公報No. WO
94/29442; 及びPCT公報 No. WO 96/01313に解説されているように)などの誘導性真核性調節系を用いることができる。当該のアンチセンス発現ベクタは、組換え発現ベクタに関して以下に解説されていように調製されるが、例外としてcDNA(又はその部分)は、アンチセンス方向でベクタ内にクローニングされる。当該のアンチセンス発現ベクタは、例えば組換えプラスミド、ファージミド又は弱毒化ウィルスなどの形であってよい。当該のアンチセンス発現ベクタは、組換え発現ベクタに関してここで解説するように、標準的なトランスフェクション技術を用いて細胞内に導入される。
【0062】
別の実施態様では、RNAiを媒介する化合物を用いてプロテインキナーゼCシータ経路成分を阻害することができる。RNA干渉は、二本鎖RNA(dsRNA)を用いて、このdsRNAと同じ配列を含有するメッセンジャRNA(mRNA)を破壊する、転写後の標的決定された遺伝子サイレンシング技術である (Sharp, P.A. and Zamore, P.D. 287, 2431-2432 (2000); Zamore, P.D., et
al. Cell 101, 25-33 (2000).
Tuschl, T. et al. Genes Dev. 13, 3191-3197 (1999))。このプロセスは、内因性のリボヌクレアーゼが、長いdsRNA配列を、小型干渉RNA又はsiRNAと呼ばれる、より短い21乃至22ヌクレオチド長のRNAに切断するときに起きる。その後、この小型のRNAセグメントは、標的mRNAの分解を媒介する。RNAiの合成のためのキットが、例えばニューイングランド・バイオラブズ社及びアンビオン社から市販されている。ある実施態様では、アンチセンスRNAに関して上述した化学法の1つ以上を用いることができる。
【0063】
別の実施態様では、阻害剤として用いられるアンチセンス核酸はリボ酵素である。リボ酵素は、それらが相補的な領域を有する相手のmRNAなどの一本鎖核酸を切断することのできるリボヌクレアーゼ活性を持つ触媒性RNA分子である。(リボ酵素のレビューについては、例えばOhkawa, J. et al. (1995) J. Biochem. 118:251-258;
Sigurdsson, S.T. and Eckstein, F. (1995) Trends Biotechnol. 13:286-289;
Rossi, J.J. (1995) Trends Biotechnol. 13:301-306; Kiehntopf, M. et
al. (1995) J. Mol. Med. 73:65-71を参照されたい)。ある経路成分のmRNAに対して特異性を有するリボ酵素は、プロテインキナーゼCシータ経路成分 cDNA配列のヌクレオチド配列に基づいてデザインすることができる。例えば、活性部位の塩基配列が、ある経路成分のmRNA中で切断しようとする塩基配列に対して相補的になっているようなテトラヒメナL-19 IVS RNA の誘導体を構築することができる。例えば両者ともCechらの米国特許第4,987,071号及び第5,116,742号を参照されたい。代替的には、経路成分 mRNAを用いて、特異的リボヌクレアーゼ活性を有する触媒性RNAを、RNA分子のプールから選抜することができる。例えばBartel, D. and Szostak,
J.W. (1993) Science 261: 1411-1418を参照されたい。
【0064】
プロテインキナーゼCシータ経路成分、又は、プロテインキナーゼCシータ経路成分の一部分又は断片、のポリペプチド分子をイムノゲンとして用いることで、ポリクローナル及びモノクローナル抗体調製のための標準的技術を用いて、経路成分に結合したり、又は、経路成分結合を遮断する抗体を作製することもできる。
【0065】
抗体を作製するためには、完全長ポリペプチドを用いることもできるが、あるいは代替的に本発明は、イムノゲンとして用いるための抗原性ペプチド断片を提供するものである。好ましくは、当該ペプチドに対して生じた抗体が、ある経路成分のポリペプチドと特異的に免疫複合体を形成するように、抗原性断片は、あるプロテインキナーゼCシータ経路成分のあるポリペプチドのアミノ酸配列のうちで少なくとも8個のアミノ酸残基を含み、
そして当該ポリペプチドのエピトープを包含するとよい。好ましくは、該抗原性ペプチドが、少なくとも10個のアミノ酸残基、より好ましくは少なくとも15個のアミノ酸残基、さらにより好ましくは、少なくとも20個のアミノ酸残基、そして最も好ましくは少なくとも30個のアミノ酸残基を含むとよい。該抗原性ペプチドに包含される好適なエピトープは、親水性領域など、当該タンパク質の表面上に位置するポリペプチド領域である。このような領域は、当業で公知の方法を用いて容易に特定することができる。
【0066】
イムノゲンは、典型的には、適した対象(例えばウサギ、ヤギ、マウス又は他の哺乳動物)をイムノゲンで免疫することにより、抗体を調製するために用いられる。適した免疫原性製剤には、例えば、組換え発現させたポリペプチド又は化学合成したポリペプチドなどを含めることができる。当該の製剤には、さらに、フロイント完全もしくは不完全アジュバントなどのアジュバント、又は、同様の免疫刺激剤を含めることもできる。免疫原性製剤で適した対象を免疫すると、それぞれポリクローナル抗体応答が誘導される。
【0067】
ある実施態様では、本発明の阻害化合物は抗体又は修飾された抗体分子である。用語「抗体」はここで用いられる場合、免疫グロブリン分子、及び、免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、即ち、抗原と特異的に結合(免疫反応)する抗原結合部位を含有する分子、を言う。免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分の例には、
ペプシンなどの酵素で抗体を処理すると作製することのできるF(ab) 及びF(ab’)2断片や、抗体分子からクローニングすることができると共に、ミニボディ又はジアボディなどの修飾された抗原結合分子を作製するために用いることもできるVH及びVLドメインがある。
【0068】
本発明はポリクローナル及びモノクローナル抗体を提供するものである。用語「モノクローナル抗体」又は「モノクローナル抗体組成物」は、ここで用いられる場合、ある抗原の特定のエピトープと免疫反応することができる抗原結合部位を一種のみ、含有する抗体分子の集団を言う。モノクローナル抗体組成物は、このように、典型的には、それが免疫反応する相手である特定の抗原又はポリペプチドに対して単一の結合親和性を示す。
【0069】
ポリクローナル抗体は、適した対象をイムノゲンで免疫することにより、上述したように調製することができる。免疫後の対象の抗体価は、固定した抗原を用いた酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)など、標準的な技術により、経時的に観察することができる。必要に応じ、抗体分子を哺乳動物から(例えば血液から)単離し、IgG画分を得るためのプロテインAクロマトグラフィなど、公知の技術により更に精製することができる。免疫から適当な時間後、例えば抗体価が最高になったとき、に、抗体産生細胞を対象から得、例えばケーラー及びミルスタインが最初に解説したハイブリドーマ技術 (1975) Nature 256:495-497) (Brown et al. (1981) J.
Immunol. 127:539-46; Brown et al. (1980) J. Biol. Chem .255:4980-83; Yeh et al.
(1976) PNAS 76:2927-31; and Yeh et al. (1982) Int. J. Cancer
29:269-75も参照されたい)、より最近のヒトB細胞ハイブリドーマ技術 (Kozbor et al. (1983)
Immunol Today 4:72)、EBV-ハイブリドーマ技術 (Cole et al. (1985), Monoclonal
Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96) 又はトリオーマ技術など、標準的な技術によりモノクローナル抗体を調製するために用いることができる。モノクローナル抗体ハイブリドーマを作製する技術は公知である(概略的にはR. H. Kenneth, in Monoclonal Antibodies: A New Dimension In
Biological Analyses, Plenum Publishing Corp., New York, New York (1980); E.
A. Lerner (1981) Yale J. Biol. Med., 54:387-402; M. L. Gefter et al.
(1977) Somatic Cell Genet. 3:231-36を参照されたい)。簡単に説明すると、不死細胞株(典型的には骨髄腫)を、上述したようにイムノゲンで免疫した動物由来のリンパ球(典型的は脾細胞)に融合させ、その結果できたハイブリドーマ細胞の培養上清をスクリーニングして、当該抗原に結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを特定する。
【0070】
リンパ球及び不死化細胞株を融合させるために用いられる数多くある公知のプロトコルのいずれも、モノクローナル抗体を作製する目的で応用することができる(例えばG. Galfre et al. (1977) Nature 266:55052; 上に引用したGefter et al. Somatic Cell
Genet.;上に引用した Lerner, Yale
J. Biol. Med.; 上に引用したKenneth, Monoclonal
Antibodiesを参照されたい)。さらに、当業者であれば、有用であるこのような方法の数多くの変更例があることを認識されよう。典型手には、不死細胞株(例えば骨髄腫細胞株)は、リンパ球と同じ哺乳動物種を由来とする。例えば、マウスハイブリドーマは、本発明の免疫原性製剤で免疫したマウス由来のリンパ球を、不死化させたマウス細胞株と融合させることにより、作製することができる。
好適な不死細胞株は、ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含有する培養基(「培養媒質」)に対して感受性あるマウス骨髄腫細胞株である。P3-NS1/1-Ag4-1、P3-x63-Ag8.653 又は Sp2/O-Ag14 骨髄腫株など、数多くの骨髄腫細胞株のいずれも、標準的な技術に従って融合相手として用いることができる。これらの骨髄腫株はATCCから入手可能である。典型的には、HAT感受性マウス骨髄腫細胞をマウス脾細胞にポリエチレングリコール(「PEG」)を用いて融合させる。次にこの融合で出来たハイブリドーマ細胞を、未融合の骨髄腫細胞及び非生産的に融合した骨髄腫細胞(未融合の脾細胞は形質転換していないために数日後に死滅する)を致死させるHAT培地を用いて選抜する。プロテインキナーゼCシータ経路のモノクローナル抗体を産生しているハイブリドーマ細胞を、例えば標準的なELISA検定法を用いるなどして、当該抗原に結合する抗体について、ハイブリドーマ培養上清をスクリーニングすることにより、検出する。
【0071】
モノクローナル抗体分泌性ハイブリドーマを調製する代わりに、組換えコンビナトリアル免疫グロブリン・ライブラリ(例えば抗体ファージ・ディスプレイ・ライブラリ)を抗原でスクリーニングして、この抗原に結合する免疫グロブリン・ライブラリ・メンバを単離することでも、モノクローナル抗体を同定及び単離することができる。ファージ・ディスプレイ・ライブラリを作製し、スクリーニングするためのキットは市販されている(例えばファルマシア・リコンビナント・ファージ抗体系、カタログ番号27-9400-01; 及びストラータジーンSurfZAPTM ファージ・ディスプレイ・キット、カタログ番号240612)。加えて、抗体ディスプレイ・ライブラリを作製し、スクリーニングする上での使用に特に適した方法及び試薬の例は、例えば Ladner et al. 米国特許第5,223,409号;Kang et al. PCT 国際公報 No. WO 92/18619;Dower et al. PCT国際公報 No. WO 91/17271; Winter et al. PCT 国際公報 WO 92/20791;Markland et al. PCT 国際公報 No. WO 92/15679;Breitling et
al. PCT 国際公報 WO 93/01288;
McCafferty et al. PCT 国際公報No. WO 92/01047; Garrard et al. PCT 国際公報No. WO 92/09690; Ladner et al. PCT 国際公報No. WO 90/02809; Fuchs et al. (1991)
Bio/Technology 9:1370-1372; Hay et al. (1992) Hum. Antibod.
Hybridomas 3:81-85; Huse et al. (1989) Science 246:1275-1281;
Griffiths et al. (1993) EMBO J 12:725-734; Hawkins et al.
(1992) J. Mol. Biol. 226:889-896; Clarkson et al. (1991) Nature
352:624-628; Gram et al. (1992) PNAS 89:3576-3580; Garrad et
al. (1991) Bio/Technology 9:1373-1377; Hoogenboom et al.
(1991) Nuc. Acid Res. 19:4133-4137; Barbas et al. (1991) PNAS
88:7978-7982; 及び McCafferty et
al. Nature (1990) 348:552-554に見ることができる。
【0072】
細胞内のプロテインキナーゼCシータ経路の発現及び/又は活性を阻害するために用いることのできる別の種類の阻害剤は、プロテインキナーゼCシータ経路に特異的な細胞内抗体、好ましくは本発明の細胞内分子、である。細胞内のタンパク質機能を阻害するための細胞内抗体の使用は当業において公知である(例えばCarlson, J. R. (1988) Mol. Cell. Biol. 8:2638-2646; Biocca,
S. et al. (1990) EMBO J. 9:101-108; Werge, T.M. et al.
(1990) FEBS Letters 274:193-198; Carlson, J.R. (1993) Proc. Natl.
Acad. Sci. USA 90:7427-7428; Marasco, W.A. et al. (1993) Proc.
Natl. Acad. Sci. USA 90:7889-7893; Biocca, S. et al. (1994) Bio/Technology
12:396-399; Chen, S-Y. et al. (1994) Human Gene Therapy 5:595-601;
Duan, L et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:5075-5079;
Chen, S-Y. et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:5932-5936;
Beerli, R.R. et al. (1994) J. Biol. Chem. 269:23931-23936;
Beerli, R.R. et al. (1994) Biochem. Biophys. Res. Commun.
204:666-672; Mhashilkar, A.M. et al. (1995) EMBO J. 14:1542-1551;
Richardson, J.H. et al. (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA
92:3137-3141; PCT 公報No. WO
94/02610 by Marasco et al.; 及びPCT 公報 No. WO
95/03832 by Duan et al.を参照されたい)。
【0073】
細胞内抗体を用いて活性を阻害するためには、ベクタを細胞内に導入すると、抗体鎖がこの細胞の細胞区画内で機能的抗体として発現するような形の抗体鎖をコードする組換え発現ベクタを調製する。本発明の阻害法に従ってプロテインキナーゼCシータ経路の活性を阻害するためには、プロテインキナーゼCシータ経路のタンパク質産物に特異的に結合する細胞内抗体を、当該細胞の細胞質内で発現させる。細胞内抗体発現ベクタを調製するためには、目的の標的タンパク質に特異的な抗体鎖をコードする抗体軽鎖及び重鎖cDNAを、典型的には当該プロテインキナーゼCシータ経路に特異的なモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマから単離する。抗プロテインキナーゼCシータ経路モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ、又は、組換えモノクローナル抗体、は、以下に解説するように調製することができる。マーカタンパク質に特異的なモノクローナル抗体を同定したら(例えばハイブリドーマ由来モノクローナル抗体、又は、コンビナトリアル・ライブラリ由来の組換え抗体など)、このモノクローナル抗体の軽鎖及び重鎖をコードするDNAを標準的な分子生物学技術により、単離する。ハイブリドーマ由来抗体の場合、軽鎖及び重鎖 cDNAを、例えばPCR増幅又はcDNAライブラリ・スクリーニングにより、得ることができる。ファージ・ディスプレイ・ライブラリなどを由来とする組換え抗体の場合、軽鎖及び重鎖をコードする cDNA を、当該ライブラリ・スクリーニング・プロセスで単離されたディスプレイ・パッケージ(例えばファージ)から回収することができる。PCRプライマ又はcDNAライブラリ・プローブを調製することのできる元となる抗体軽鎖及び重鎖遺伝子のヌクレオチド配列は当業で公知である。例えば、数多くのこのような配列がKabat, E.A., et al. (1991) Sequences of Proteins of
Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human
Services, NIH Publication No. 91-3242 及び「Vbase」ヒト生殖細胞系配列データベースに開示されている。
【0074】
得られた抗体軽鎖及び重鎖配列を組換え発現ベクタ内に標準的な方法を用い手クローニングする。この軽鎖及び重鎖の細胞質内発現を可能にするため、軽鎖及び重鎖の疎水性リーダをコードするヌクレオチド配列を取り除く。細胞内抗体発現ベクタには、いくつか様々な形の1つで細胞内抗体をコードさせることができる。例えば、ある実施態様では、完全長抗体が細胞内で発現するように、当該ベクタは完全長抗体軽鎖及び重鎖をコードする。別の実施態様では、当該ベクタは、完全長軽鎖はコードしているが、Fab断片が細胞内で発現するように、重鎖はVH/CH1領域しかコードしていない。最も好適な実施態様では、当該のベクタは一本鎖抗体 (scFv) をコードしているが、この場合、軽鎖及び重鎖の可変領域は、可撓性のペプチド・リンカ(例えば(Gly4Ser)3)により連結されており、胃一本鎖抗体として発現する。細胞内のプロテインキナーゼCシータ経路の活性を阻害するためには、細胞内抗体をコードする発現ベクタを、ここで解説するように、標準的なトランスフェクション法により、細胞内に導入する。
【0075】
本発明の阻害剤のさらに別の形は、例えばドミナント・ネガティブ阻害剤など、プロテインキナーゼCシータ経路のポリペプチドの阻害形である。例えば、ある実施態様では、活性部位(例えば酵素活性部位又はDNA結合ドメイン)を変異させることができる。このようなドミナント・ネガティブタンパク質は、標準的なトランスフェクション法により細胞内に導入される、当該タンパク質をコードする組換え発現ベクタを用いて、細胞内で発現させることができる。
【0076】
マーカタンパク質の活性を阻害するために使用できる他の阻害剤は、マーカ活性を直接、阻害する、あるいは、マーカと、標的DNA又は別のタンパク質との間の相互作用を阻害する 、化合物である。このような化合物は、以下に詳述するように、このような化合物を選抜するスクリーニング検定法を用いて、同定することができる。
【0077】
III. スクリーニング検定法
本発明は、調節性T細胞に対し、エフェクタT細胞中で、プロテインキナーゼCシータ経路成分に対して調節効果を有するモジュレータ、即ち候補又は検査化合物又は作用薬(例えばペプチド、ペプチドミメティック、低分子又は他の薬物)、を同定する方法(ここでは「スクリーニング検定法」とも呼ばれる)を提供するものである。
【0078】
A. 無細胞検定法
ある実施態様では、本スクリーニング検定法を無細胞の形で行うことができる。例えばPKCシータや、又は、PKCシータに関与する経路中のPKCシータの上流又は下流で作用する非PKCシータポリペプチドなど、プロテインキナーゼCシータ経路成分、例えばPKCシータ、例えばCARMA1、vav 又は Bcl 10を、ホスト細胞内で組換え法により発現させ、このポリペプチドを、ホスト細胞培養基から、例えばイオン交換クロマトグラフィ、ゲル濾過クロマトグラフィ、限外濾過、電気泳動、及び/又は、無細胞組成物中で用いることのできるタンパク質を作製するためにプロテインキナーゼCシータ経路成分に特異的な抗体を用いたイムノアフィニティ精製法など、ポリペプチドを精製するための標準的な方法を用いて単離することができる。代替的には、ある経路成分の抽出物、又は、ある経路成分を発現する細胞、を、無細胞組成物として用いるために調製することもできる。
【0079】
ある実施態様では、次に当該のプロテインキナーゼCシータ経路成分を検査化合物に接触させ、この検査化合物の経路成分又はその対生物活性断片への結合能を判定する。検査化合物の経路成分への結合は、例えば、検査化合物の経路成分への結合を、標識された化合物又は経路成分を複合体中で検出することで判定できるように、検査化合物又は経路成分(例えばポリペプチド又はその断片)を酵素標識又は放射性同位体標識に結び付けることにより達成することができる。例えば、検査化合物又は経路成分(例えばポリペプチド)は、
125I、35S、14C、又は3H、 で、直接又は間接的に標識することができ、該放射性同位体を、電波放出を直接計数したり、あるいはシンチレーション計数により、検出することができる。代替的には、検査化合物又は経路成分(例えばポリペプチド)を、例えば西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、又はルシフェラーゼで酵素標識し、この酵素標識を、適した基質の生成物への転化を判定することにより、検出することができる。
【0080】
検査化合物のプロテインキナーゼCシータ経路成分への結合は、リアルタイム・バイオモラキュラー・インターアクション・アナリシス(BIA)などの技術を用いても達成することができる。Sjolander, S. and Urbaniczky, C. (1991) Anal. Chem.
63:2338-2345 and Szabo et al. (1995) Curr. Opin. Struct. Biol.
5:699-705。ここで用いられる「BIA」は、相互作用物質のいずれも標識することなく、生物特異的な相互作用をリアルタイムで研究する技術である(例えばBIAcoreTM)。表面プラスモン共鳴(SPR)の光学的現象の変化を、生物分子間のリアルタイム反応の指標として用いることができる。ある好適な実施態様では、当該の検定は、ポリペプチド経路成分又はその生物学的に活性な部分を、経路成分の標的分子に接触させて検定混合物を形成するステップと、該検定混合物を検査化合物に接触させるステップと、検査化合物のポリペプチド経路成分との相互作用能を判定するステップとを含み、但し、検査化合物の経路成分との相互作用能を判定する該ステップは、検査化合物が、コントロール分子に比較して経路成分又はその対生物活性部分に優先的に結合する能力を判定するステップを含む。別の実施態様では、当該の検定は、ポリペプチド経路成分又はその生物学的に活性な部分を経路成分の標的分子に接触させて検定混合物を形成するステップと、該検定混合物を検査化合物に接触させるステップと、検査化合物の、ポリペプチドプロテインキナーゼCシータ経路成分と当該ポリペプチドの公知のモジュレータとの間の結合の調節能を判定するステップを含む。
【0081】
別の実施態様では、例えばvav、CARMA1、及びBcl 10など、本発明の分子の結合相手が既知である場合、この結合相手をスクリーニング検定法で用いて、モジュレータ化合物を同定することができる。
【0082】
別の実施態様では、当該の検定は、ポリペプチド経路成分又はその対生物活性部分を検査化合物に接触させ、この検査化合物の、ポリペプチド経路成分又はその生物学的に活性な部分の活性の調節(例えば刺激又は阻害)能を判定するような無細胞検定である。本発明のこの実施態様は、当該経路成分が細胞内分子であり、その活性を無細胞系で測定することができる場合に特に有用である。
【0083】
さらに別の実施態様では、該無細胞検定は、ポリペプチドプロテインキナーゼCシータ経路成分又はその生物学的に活性な部分を、プロテインキナーゼCシータ経路成分
が結合する相手(例えば既知の結合相手)である分子に接触させて検定混合物を形成するステップと、該検定混合物を検査化合物に接触させるステップと、コントロール化合物に比較したときの検査化合物の、経路成分の活性の調節能を判定するステップとを含む。標的分子の活性は、例えば、vav又はBcl 10などの適した基質のリン酸化を検出したり、標的の触媒/酵素活性を適した基質を用いて検出したり、(ルシフェラーゼなどの検出可能なマーカをコードする核酸に作動的に連結させた標的応答性調節因子を含む)レポータ遺伝子の誘導を検出したり、あるいは、標的により調節される細胞応答を検出するなどにより、判定することができる。
【0084】
ある実施態様では、検査化合物の存在下におけるプロテインキナーゼCシータ経路成分の標的分子への結合量は、検査化合物の非存在下におけるプロテインキナーゼCシータ経路成分の標的分子への結合量よりも多く、この場合、該検査化合物は、プロテインキナーゼCシータ経路成分の結合を促進する化合物として同定される。別の実施態様では、検査化合物の存在下におけるプロテインキナーゼCシータ経路成分の標的分子への結合量は、検査化合物の非存在下におけるプロテインキナーゼCシータ経路成分の標的分子への結合量よりも少なく、この場合、該検査化合物は、プロテインキナーゼCシータ経路成分の結合を阻害する化合物として同定される。
【0085】
該検査化合物のポリペプチド プロテインキナーゼCシータ経路成分への結合は、上述したように直接でも、又は間接的にも判定することができる。
【0086】
ポリペプチド経路成分と標的分子の間の相互作用を調節する検査化合物を同定する本発明の方法においては、完全長ポリペプチド経路成分を本方法に用いてもよいが、あるいは代替的には、経路成分の数部分のみを用いてもよい。ポリペプチド経路成分と標的分子との間の相互作用の程度は、例えば、当該のポリペプチドの1つは、検出可能な物質(例えば放射性標識)で標識し、未標識のポリペプチドを単離し、未標識のポリペプチドと関連付けられた検出可能な物質を提供することにより、判定することができる。本検定は、経路成分タンパク質と標的分子との間の相互作用を刺激又は阻害する検査化合物を同定するために用いることができる。アゴニストなど、ポリペプチド経路成分と標的分子との間の相互作用を刺激する検査化合物は、ポリペプチド経路成分と標的分子との間の相互作用の程度を、検査化合物の非存在下での相互作用の程度と比較して増加させるその能力に基づいて同定される。アンタゴニストなど、ポリペプチド経路成分と標的分子との間の相互作用を阻害する検査化合物は、ポリペプチド経路成分と標的分子との間の相互作用の程度を、検査化合物の非存在下での相互作用の程度と比較して減少させるその能力に基づいて同定される。
【0087】
本発明の検定の2つ以上の実施態様において、プロテインキナーゼCシータ経路成分 又は経路成分標的分子のいずれかを固定することが、例えば当該ポリペプチドの一方又は両方の未複合体形成型からの複合体形成型の分離を容易にしたり、あるいは、検定の自動化に適合させるために、好ましいであろう。検査化合物のポリペプチド経路成分への結合、あるいは、ポリペプチド経路成分と経路成分標的分子との相互作用を、検査化合物の存在下及び非存在下で行わせるには、反応体を容れるのに適していればいずれの容器でも可能である。このような容器の例には、微量定量プレート、試験管、及びマイクロ遠心管、がある。ある実施態様では、当該ポリペプチドのうちの一方又は両方をマトリックスに結合できるようにするドメインを加えた融合タンパク質を提供することができる。例えば、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ/経路成分融合タンパク質又はグルタチオン-S-トランスフェラーゼ/標的タンパク質をグルタチオン・セファロース・ビーズ(ミズーリ州セントルイス、シグマケミカル社)又はグルタチオン誘導体化微量定量プレートに吸着させることができ、その後、検査化合物か、又は、検査化合物と吸着させていない標的ポリペプチドもしくはポリペプチド経路成分に配合し、この混合物を、複合体形成につながる条件下(例えば塩及びpHに関して生理条件)でインキュベートする。インキュベート後、このビーズ又は微量定量プレートのウェルを洗浄して未結合の成分を取り除き、ビーズの場合には当該マトリックスを固定し、そして複合体形成を、直接又は間接的に、例えば上述した通りに判定する。代替的には、当該複合体をマトリックスから解離させ、経路成分の結合又は活性レベルを、標準的な技術を用いて判定することができる。
【0088】
ポリペプチドをマトリックス上に固定する他の技術も、本発明のスクリーニング検定法で用いることができる。例えば、ポリペプチド経路成分又は経路成分標的分子を、ビオチン及びストレプトアビジンの結合を利用して固定することができる。ビオチン化ポリペプチド経路成分又は標的分子を、当業で公知の技術を用いてビオチン-NHS(N-ヒドロキシ-スクシンイミド)から調製し(例えばイリノイ州ロックフォード、ピアース・ケミカルズ社のビオチン化キット)、ストレプトアビジンで被覆した96ウェル・プレート(ピアース・ケミカル社)のウェルに固定することができる。代替的には、経路成分又は標的分子に対しては反応性であるが、経路成分のその標的分子への結合には干渉しないような抗体をプレートのウェルに誘導体化することができ、未結合の標識又は経路成分を抗体結合によりウェル内に捕捉する。GST固定化複合体に関して上述したものに加え、このような複合体を検出する方法には、経路成分又は標的分子と反応性の抗体を用いた、複合体の免疫検出や、ポリペプチド経路成分又は標的分子に関連する酵素活性の検出に依拠する酵素結合検定法がある。
【0089】
B.細胞ベースの検定
ある実施態様では、プロテインキナーゼCシータ経路成分を天然で発現する細胞、又は、より好ましくは、当該ポリペプチドをコードする発現ベクタを細胞内に導入するなどにより発現するように操作された細胞を、本発明のスクリーニング法で用いるとよい。代替的には、ポリペプチド経路成分(例えばプロテインキナーゼCシータ経路成分発現細胞からの細胞抽出物、又は、天然もしくは組換えのプロテインキナーゼCシータ経路成分の精製済み分子を含む組成物)を用いることができる。
【0090】
プロテインキナーゼCシータ経路成分(又は、プロテインキナーゼCシータ経路成分の上流又は下流で作用する分子)の発現及び/又は活性を調節する化合物は、多様な「リード・アウト」を用いて同定することができる。経路成分の発現、及び/又は、発現プロファイル、の変化を検出する方法は当業で公知であり、その中には、例えば、示差的ディスプレイ法、ノーザン・ブロット分析、定量的RT-PCR、及びウェスタン・ブロット分析、がある。
【0091】
「リード・アウト」の一例は、発現ベクタでトランスフェクトし、検査化合物の存在下及び非存在下でインキュベートし、当該化合物の、経路成分の発現に及ぼす効果、又は、経路成分により調節される生物学的応答に及ぼす効果、を判定することのできる指標細胞の使用である。生物学的活性には、各プロテインキナーゼCシータ経路成分について標準的な技術に従ってin vivo又は in vitroで判定される活性がある。生物学的活性は直接的な活性でも、又は、間接的な活性でもよい。このような活性の例には、PKCシータの細胞膜への泳動、Bcl
10などの適した基質のリン酸化の検出、あるいはNFκBの活性化、又は、その核への転位の検出、あるいは、転写がNFκBにより調節される遺伝子の転写の検出、(例えばmRNAが測定される場合、遺伝子産物が測定される場合、あるいは、レポータ遺伝子の転写が測定される場合)、がある。
【0092】
ある実施態様では、例えばBcl 10のリン酸化、NFκBの活性化もしくはその核への転位、あるいはサイトカイン産生など、本発明の分子の1つの生物学的活性が調節される。別の実施態様では、例えばサイトカイン産生及び
Bcl 10のリン酸化など、本発明の分子の2つの生物学的活性が調節される。
【0093】
ある検査化合物の、プロテインキナーゼCシータ経路成分の標的分子への結合の調節能、又は、それ自体への結合の調節能、を判定することもできる。検査化合物の、プロテインキナーゼCシータ経路成分の標的分子(例えば結合相手、例えば vav 又はCARMA1)への結合の調節能の判定は、標識された経路成分-標的分子の複合体を複合体中で検出することにより検査化合物の経路成分への結合が判定されるように、経路成分の標的分子を放射性同位体、酵素又は蛍光標識に結合させることにより、上述したように達成することができる。
【0094】
別の実施態様では、経路成分に関与する経路中の上流又は下流で作用する異なる分子(即ち、経路成分ではない分子)を、スクリーニング検定法で用いる指標組成物中に含めることができる。上流又は下流の指標として用いてもよい分子の非限定的な例には、NF-カッパB及びNFATシグナル伝達経路のメンバがある。このような分子を用いたスクリーニング検定法で同定される化合物は、間接的ではあっても、本発明の分子の活性を調節する上でも有用であろう。
【0095】
本検定で用いられる細胞は、真核性由来でも、又は原核性由来でもよい。
【0096】
あるポリペプチド、又は、当該経路成分の上流又は下流で作用する非ポリペプチド経路成分を指標細胞内で発現させるために使用できる組換え発現ベクタは当業で公知である。ある実施態様では、この発現ベクタ内で、コーディング配列を、指標細胞内での当該ポリペプチドの誘導性又は構成的発現を可能にする調節配列に作動的に連結させる(例えばサイトメガロ・プロモータ/エンハンサなどのウィルス調節配列を用いることができる)。指標細胞内での当該ポリペプチドの誘導性又は構成的発現を可能にする組換え発現ベクタの使用は、プロテインキナーゼCシータ経路成分の活性を亢進又は阻害する化合物の同定にとって好ましい。ある代替的な実施態様では、この発現ベクタ内で、コーディング配列を、内因性遺伝子の調節配列(即ち、内因性経路成分遺伝子を由来とするプロモータ調節領域)に作動的に連結させる。発現が内因性調節配列により制御されるような組換え発現ベクタの使用は、プロテインキナーゼCシータ経路成分の転写発現を亢進又は阻害する化合物の同定にとって好ましい。
【0097】
ある実施態様では、検定は細胞ベースの検定法であり、この場合、プロテインキナーゼCシータ経路成分を発現する細胞を検査化合物に接触させ、この検査化合物の、経路成分の活性の調節能を判定する。当該の細胞は、例えば、哺乳動物由来でも、又は酵母細胞由来でもよい。本成分(例えばポリペプチド経路成分、又はその生物学的に活性な部分)は、例えば、細胞にとって異種のものを発現させることも、又は天然のものを発現させることもできる。
当該検査化合物の、本成分の活性の調節能の判定は、ここで解説されたように、プロテインキナーゼCシータ経路成分の活性のいずれかを検定することにより、行うことができる。
【0098】
例えば、当該検査化合物の、あるポリペプチド経路成分の活性の調節能の判定は、例えばプロテインキナーゼCシータ経路成分又はその標的分子の活性を検定することにより、行うことができる。別の実施態様では、当該検査化合物の、あるポリペプチド又はその生物学的に活性な部分の活性の調節能の判定は、標的分子又はその対生物活性部分への結合能について検定することにより、行うことができる。ある好適な実施態様では、あるポリペプチド又はその生物学的に活性な部分を発現する該細胞は、さらに標的分子又はその生物学的活性な部分を発現する。別の好適な実施態様では、当該細胞は、三種以上のプロテインキナーゼCシータ経路成分又はその生物学的に活性な部分を発現する。
【0099】
本発明のための細胞ベースの検定法によれば、当該検査化合物の、あるポリペプチド又はその生物学的に活性な部分の活性の調節能の判定は、あるポリペプチドの天然の活性のいずれかについて検定したり、あるいは、ここで解説するように、あるポリペプチドの活性と一致する間接的な活性、例えばサイトカイン産生や、又は、未刺激T細胞のエフェクタT細胞への分化など、を検定したり、あるいは、応答因子を有する遺伝子にコードされたタンパク質の活性を検定することにより、行うことができる。
【0100】
さらに、当該検査化合物の、あるポリペプチド又はその生物学的に活性な部分の活性の調節能の判定は、当該ポリペプチドにとって天然ではないが、そのために細胞が組換え操作されているような活性について検定することにより、行うことができる。例えば、当該細胞は、本発明のポリペプチドの調節を受ける遺伝子に作動的に連結されたレポータ・タンパク質をコードするDNAを含むレポータ遺伝子コンストラクトを発現するように、操作することができる。さらに、好適な実施態様では、本発明の細胞ベースの検定法は、経路成分活性のモジュレータとして当該化合物を同定する最終ステップを含む。
【0101】
ここで交換可能に用いられているように、用語「作動的に連結された」及び「作動的に連結された」は、当該ヌクレオチド配列が、ホスト細胞内(又は細胞抽出物により)でこのヌクレオチド配列の発現が可能な態様で調節配列に連結されていることを意味するものと、意図されている。調節配列は当業で公知であり、所望のポリペプチドを適したホスト細胞内で直接発現させるように、選択することができる。調節配列という用語には、プロモータ、エンハンサ、ポリアデニレーション・シグナル、及び他の発現調節配列が含まれるものと、意図されている。このような調節配列は当業で公知であり、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA
(1990)に解説されている。発現ベクタのデザインは、トランスフェクトしようとするホスト細胞、及び/又は、発現させたいポリペプチドの種類及び/又は量、などの因子に応じるであろうことは理解されねばならない。
【0102】
多種のレポータ遺伝子が当業で公知であり、本発明のスクリーニング検定法で用いるために適している。適したレポータ遺伝子の例には、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ又はルシフェラーゼをコードするものが含まれる。これらの遺伝子産物の活性を測定するための標準的な方法は当業で公知である。
【0103】
本発明の更に別の局面では、ポリペプチド経路成分を二種ハイブリッド検定法又は三種ハイブリッド検定法で「ベイト・タンパク質」として用いて(例えば米国特許第5,283,317号; Zervos et
al. (1993) Cell 72:223-232; Madura et al. (1993) J. Biol.
Chem. 268:12046-12054; Bartel et al. (1993) Biotechniques 14:920-924;
Iwabuchi et al. (1993) Oncogene 8:1693-1696; 及びBrent WO94/10300を参照されたい)、PKCシータ経路成分に結合又は相互作用すると共に、当該経路成分の活性に関与する他のタンパク質を同定することができる。このような経路成分−標的分子も、一ポリペプチド経路成分により調節される細胞活性の調節に関与している可能性が高い。
【0104】
少なくとも1例の二種ハイブリッド系は、分離可能なDNA結合ドメイン及び活性化ドメインから成る、大半の転写因子のモジュール性に基づく。簡単に説明すると、本検定は、2つの異なるDNAコンストラクトを利用する。1つのコンストラクトでは、あるポリペプチド経路成分をコードする遺伝子を、公知の転写因子(例えばGAL-4)のDNA結合ドメインをコードする遺伝子に融合させる。他方のコンストラクトでは、未同定のタンパク質(「プレイ」又は「試料」)をコードする、DNA配列のライブラリ由来の DNA配列を、公知の転写因子の活性化ドメインをコードする遺伝子に融合させる。該「ベイト」及び「プレイ」タンパク質がin vivoで相互作用して経路成分依存的複合体を形成することができれば、該転写因子の該DNA結合ドメイン及び活性化ドメインは近くに来ている。この近さにより、該転写因子に対して応答性の転写調節部位に作動的に連結されたレポータ遺伝子(例えばLacZ) の転写が可能である。このレポータ遺伝子の発現を検出し、機能的転写因子を含有する細胞コロニを単離し、ポリペプチド経路成分と相互作用するタンパク質をコードするクローニングされた遺伝子を得ることができる。
【0105】
当業でCytoTrapTMシステムと呼ばれる、別の二種ハイブリッド系の例は、Rasシグナル伝達カスケードの分子のモジュール性に基づくものである。簡単に説明すると、該検定法は、「ベイト」タンパク質 及び Son-of-Sevenless (SOS) 及び未同定のタンパク質(「プレイ」タンパク質)のcDNAを、ミリスチル化標的タンパク質をコードするベクタ内に含む融合タンパク質を特徴とする。適したベイト-プレイの組合せが発現すると、SOS が細胞膜に転位して、そこでRasを活性化させる。Rasシグナリング経路を細胞質で再構築させると、PKCシータ経路成分タンパク質など、目的のベイトタンパク質と相互作用するタンパク質の同定が可能である。
更なる哺乳動物二種ハイブリッド系も当業で公知であり、経路成分と相互作用するタンパク質を同定するために利用することができる。
【0106】
別の局面では、本発明は、ここで解説された2つ以上の検定法の組合せに関する。例えば、調節性作用薬を細胞ベースの検定法又は無細胞検定法を用いて同定することができ、この作用薬の、経路成分タンパク質の活性及び/又は発現の調節能を、当業で公知の技術や、又は、ここで解説する通りに、細胞培養などのin vitro系や、あるいは、炎症の動物モデルなどの動物などin vivoで、確認することができる。
【0107】
本発明のスクリーニング検定法ある実施態様においては、ある検査化合物がPKCシータ経路成分を調節すると明らかになったら、この検査化合物の効果を、T調節性細胞機能に対するエフェクタT細胞機能の調節能について検定し、例えば in vitro (例えば細胞株又は対象由来の細胞を用いて) 又は in vivo (例えば動物モデルを用いて)のいずれかで、免疫細胞における効果の測定に基づいて、エフェクタT細胞モジュレータとして確認することができる。従って、本発明のスクリーニング法には、さらに、少なくとも1つのTエフェクタ細胞活性及び/又は少なくとも1つのT調節性活性に対する当該化合物の効果を判定し、それにより、ある化合物が所望の効果を有することを確認するステップを含めることができる。
【0108】
ある実施態様では、化合物を、例えばTエフェクタ細胞による増殖又はサイトカイン産生又は細胞傷害性など、Tエフェクタ細胞に関連する活性の調節能についてさらに検定する。更なる実施態様では、化合物の能力を、さらに、調節性T細胞による増殖又はサイトカイン産生など、T調節性細胞に関連する活性の調節能、Tエフェクタ細胞の下方調節能又は寛容の誘導能について、検定する。例えば、ある検査化合物の寛容調節能の判定は、二次T細胞応答を検定することにより、行うことができる。T細胞がIL-2合成及び/又はT細胞増殖で判断される、後続の活性化の試みに無応答であれば、寛容状態が誘導されたことになり、例えばT調節性細胞が活性化したことになる。反対に、IL-2 合成が刺激され、T細胞が増殖すれば、Tエフェクタ細胞が活性化したことになる。本発明に基づく検定での基礎として用いることのできる検定系などについては、例えばGimmi, C.D. et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90,
6586-6590; 及びSchwartz (1990) Science,
248, 1349-1356 を参照されたい。T細胞増殖は、例えば [3H] チミジン取り込みや、MAPキナーゼ・カスケードのメンバのタンパク質レベルを測定する方法や、又は、AP-1複合体の活性化でも、測定することができる。サイトカイン・レベルは、限定はしないがカリフォルニア州ラ・ホーヤのストラータジーン社を含め、免疫検定用に市販されているキットのいかなる数によっても、検定することができる。寛容化したT細胞は、刺激を受けたT細胞に比べて減少したIL-2産生を有するであろう。寛容化T細胞の減衰した活性を測定する方法には、限定はしないが、細胞内カルシウム移動を測定する、MAPキナーゼ・カスケードのメンバ、NFATカスケードのメンバ、のタンパク質レベルを測定する、及び/又は、そのT細胞受容体との結合時のT細胞中の転写因子のAP-1複合体の活性を測定する、方法がある。
【0109】
別の実施態様では、T調節性及び/又はTエフェクタ細胞の集団の増殖の検定は、ここで解説された技術又は当業で公知の技術を用いて、一方又は他方の集団に関連するマーカを発現している細胞を検出することによる。
【0110】
代替的には, ここで解説されたとおりに同定されたプロテインキナーゼCシータ経路成分のモジュレータを動物モデルで用いて、このようなモジュレータの作用機序を判定することができる。例えば、作用薬を、ヒト疾患の公知の動物モデル(例えば多発性硬化症のモデルとしてのEAE、及び、糖尿病のモデルとしてのNODマウスなど)や、又は、ヒト自己免疫疾患のよく特徴付けられた他の動物モデルで、検査することができる。このような動物モデルには、全身性エリテマトーデスのモデルであるmrl/lpr/lpr マウス、リウマチ性関節炎のモデルであるマウスコラーゲン誘導性関節炎、及びマウス実験的重症筋無力症(Paul ed., Fundamental Immunology, Raven Press, New York,
1989, pp. 840-856を参照されたい)、がある。本発明の調節性(即ち刺激性もしくは阻害性)作用薬を検査動物に投与することができ、その後、この検査動物での疾患の経過を、用いる特定のモデルにとって標準的な方法を用いて観察することができる。調節性作用薬の有効性は、未治療の動物(又はコントロール作用薬で治療した動物)に比較したときの、当該作用薬で治療した動物における疾患状態の改善が証左となる。
【0111】
このような化合物を細胞に接触させる前に、これらを(上に解説した)医薬組成物として調合することが好ましいだろうと理解されよう。
【0112】
ある局面では、ここに解説したような細胞ベースの系を用いて、例えばエフェクタT細胞機能をT調節性細胞機能に対して調節するように作用するであろう作用薬を同定できよう。例えば、このような細胞系を、エフェクタT細胞機能をT調節性細胞機能に対して調節する能力を示すと思われる作用薬に、曝露された細胞で応答を惹起するために充分な濃度、及び充分な時間、曝露してもよい。曝露後、細胞を調べて、一つ以上の応答が変化したかを判定する。
【0113】
加えて、ある実施態様では、化合物の、エフェクタT細胞マーカ及び/又はエフェクタT細胞マーカの調節能を測定することができる。
【0114】
加えて、ここで解説したものなど、動物ベースの疾患系を、例えばエフェクタT細胞機能をT調節性細胞機能に対して調節することの出来る作用薬を同定するなどのために用いてよい。このような動物モデルを、エフェクタT細胞機能をT調節性細胞機能に対して調節する上で有効であろう薬物、医薬、治療法及び介入の特定のための検査基体として用いてよい。加えて、ここで解説された通りに同定された作用薬(例えば本発明の分子の調節性作用薬)を動物モデルで用いて、このような作用薬を用いた治療の効験、毒性、又は副作用を判定することもできる。代替的には、ここで解説された通りに同定された作用薬を動物モデルで用いて、このような作用薬の作用機序を判定することができる。
【0115】
加えて、遺伝子発現パターンを用いて、ある作用薬の、エフェクタT細胞機能をT調節性細胞機能に対して調節する能力を評価することもできよう。例えば、一つ以上の遺伝子の発現パターンが、「発現プロファイル」又は「転写プロファイル」の一部を成していることがあり、この場合、これらプロファイルをこのような評価で用いてもよい。「遺伝子発現プロファイル」又は「転写プロファイル」は、ここで用いる場合、特定の組合せの条件下で特定の組織又は細胞種で得られるmRNA発現パターンを包含する。遺伝子発現プロファイルは、例えば、示差的ディスプレイ法、ノーザン分析及び/又はRT-PCRを用いるなどにより、作製できよう。
【0116】
ある実施態様では、本発明の分子の配列を、このような遺伝子発現プロファイルの作製及び確証のためのプローブ及び/又はPCRプライマとして用いてよい。
【0117】
遺伝子発現プロファイルは、細胞もしくは動物ベースのモデル系内の既知の状態に関して特徴付けられよう。次に、検査作用薬が有する、このような遺伝子発現プロファイルを修飾する効果を確認したり、そして、このプロファイルを、より好ましいプロファイルのそれにより似たものにするために、これらの既知の遺伝子発現プロファイルを比較してもよいだろう。
【0118】
更に、本発明は、ここで解説した通りの治療に関する上述のスクリーニング検定法により同定された新規な作用薬の使用に関する。
【0119】
IV. 検査化合物
本発明の検査化合物又は作用薬は、生物学的ライブラリ;空間指定可能なパラレル固相又は液相ライブラリ;逆重畳積分を要する合成ライブラリ法;「ワン-ビーズ・ワン-コンパウンド」ライブラリ法;及びアフィニティ・クロマトグラフィ選抜法を用いた合成ライブラリ法、を含め、当業で公知のコンビナトリアル・ライブラリ法における数多くのアプローチのいずれかを用いて得ることができる。生物学的・ライブラリ・アプローチはペプチド・ライブラリに限られているが、他の4つのアプローチは、化合物のペプチド、非ペプチド・オリゴマ又は低分子ライブラリに応用可能である (Lam, K. S. (1997) Anticancer Drug Des. 12:145)。
【0120】
分子ライブラリの合成の方法の例は、例えばDeWitt
et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6909; Erb et al.
(1994) Proc. Natl. Acad. Sci.,
USA 91:11422; Zuckermann et al. (1994) J. Med. Chem. 37:2678;
Cho et al. (1993) Science 261:1303; Carrell et al. (1994) Angew.
Chem. Int. Ed. Engl. 33:2059; Carell et al. (1994) Angew. Chem.
Int. Ed. Engl. 33:2061; and in Gallop et al. (1994) J. Med. Chem.
37:1233でなど、当業に見ることができる。
【0121】
化合物のライブラリは、溶液中(例えばHoughten
(1992) Biotechniques 13:412-421)、又はビーズ上 (Lam (1991) Nature 354:82-84)、チップ上 (Fodor (1993) Nature 364:555-556)、細菌(Ladner USP 5,223,409)、胞子 (Ladner USP '409)、プラスミド (Cull et al. (1992) Proc.
Natl. Acad. Sci., USA 89:1865-1869) 又はファージ上 (Scott and Smith (1990) Science 249:386-390); (Devlin (1990)
Science 249:404-406); (Cwirla et al. (1990) Proc.
Natl. Acad. Sci., USA 87:6378-6382); (Felici (1991) J. Mol. Biol.
222:301-310); (Ladner supra.)に提示させることができる。ある好適な実施態様では、本ライブラリは天然生成物ライブラリである。
【0122】
活性に関してスクリーニングすることのできる化合物の非限定的な例には、限定はしないが、ペプチド、核酸、糖、低有機分子、及び天然生成物抽出物ライブラリ、がある。
【0123】
候補/検査化合物又は作用薬には、例えば、1)ペプチド、例えば Igを尾に持つ融合ペプチド及びランダム・ペプチド・ライブラリ(例えば, Lam, K.S. et al. (1991) Nature 354:82-84; Houghten, R. et al. (1991) Nature 354:84-86を参照されたい)並びにD型 及び/又は L型立体配置アミノ酸から作製されたコンビナトリアル化学由来分子ライブラリを含む可溶性ペプチド;2)ホスホペプチド
(例えばランダム及び部分的に縮重した、配向したホスホペプチド・ライブラリのメンバ、例えばSongyang,
Z. et al. (1993) Cell
72:767-778を参照されたい);3)抗体(例えばポリクローナル、モノクローナル、ヒト化、抗イディオタイプ、キメラ、及び一本鎖抗体や、抗体のFab、F(ab')2、Fab発現ライブラリ断片、及びエピトープ結合断片);4)低有機及び無機分子(例えば、コンビナトリアル及び天然生成物ライブラリから得られる分子);5)酵素
(例えばエンドリボヌクレアーゼ、ヒドロラーゼ、ヌクレアーゼ、プロテアーゼ、シンタターゼ、イソメラーゼ、ポリメラーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、オキシド-レダクターゼ及びATPases)、6)プロテインキナーゼCシータ経路成分の変異型、例えばプロテインキナーゼCシータ経路成分のドミナント・ネガティブ変異型、及び7)アンチセンスRNA分子、又は、RNAiを媒介する分子、がある。
【0124】
構造ベースの薬物をデザインする当業で公知の技術を用いても、1つ以上のプロテインキナーゼCシータ経路成分の発現又は活性を調節する化合物を同定することができる。
【0125】
V. 診断検定法
さらに本発明は、生物学的試料(血液、血清、細胞、組織など)の関連から、プロテインキナーゼCシータ経路成分の発現を判定して、ある個体が疾患又は異常に罹患しているか、あるいは、このような疾患又は異常を発症するリスクがあるかを判定したり、あるいは、治療の効験及び/又は疾患の寛解を評価する観察法としての使用に向けた、診断検定法も特徴とする。さらに本発明は、ある個体に、このような異常(例えばプロテインキナーゼCシータ経路成分の発現又は活性に関連する異常)のリスクがあるかどうかを判定する予後(又は予測)検定法、あるいは、疾患又は異常の再発を防ぐ方法、を提供するものである。このような検定法は、予後又は予測目的で、ひいては、ある疾患又は異常の発症前に個体を予防的に治療するために用いることができる。プロテインキナーゼCシータ経路成分タンパク質を検出するために好適な作用薬は、経路成分タンパク質に結合することのできる抗体、好ましくは、経路成分をコードする遺伝子を増幅するための検出可能な標識又はプライマの付いた抗体、である。用語「生物試料」は、対象から単離された組織、細胞及び生物学的流体や、対象内に存在する流体を包含するものと、意図されている。さらに本発明は、対象において特定の抗原に対するT
エフェクタ細胞とT調節性細胞との間のバランスを評価するために、生物試料中の経路成分の発現又は活性を検出するためのキットも包含する。例えば、該キットには、生物試料中の経路成分又はその活性を検出することのできる標識済み化合物又は作用薬;生物試料中の経路成分の量を判定するための手段;及び/又は、試料中の経路成分の量を標準と比較するための手段、を含めることができる。該化合物又は作用薬を適した容器内に梱包することができる。該キットには、さらに、該キットを用いるために指示も含めることができる。
【0126】
VI. 組換え発現ベクタ
本発明の別の局面は、本発明のタンパク質試薬(例えば融合タンパク質試薬)を作製したり、あるいは、プロテインキナーゼCシータ経路成分を、in vitro 又は in vivoなどの患者の細胞など、細胞内で発現させるための、ベクタ、好ましくは発現ベクタ、に関する。ここで用いる用語「ベクタ」とは、連結された先の別の核酸を輸送することのできる核酸分子を言う。好適なベクタは、付加的なDNAセグメントをライゲートすることのできる環状の二本鎖DNAループを言う「プラスミド」である。プラスミドが最も普通に用いられている形のベクタであるため、本明細書において、「プラスミド」及び「ベクタ」は交換可能に用いられている場合がある。好適なタンパク質試薬には、プロテインキナーゼCシータ経路成分のポリペプチド又はその対生物活性断片、が含まれる。
【0127】
本発明の組換え発現ベクタは、本発明のポリペプチドをコードする核酸を、ホスト細胞内でこの核酸が発現するために適した形で含むが、このことは、当該の組換え発現ベクタが、発現に用いようとするホスト細胞に基づいて選択されると共に、発現させようとする核酸配列に作動的に連結された一つ以上の調節配列を含むことを意味する。組換え発現ベクタにおいて、「作動的に連結された」とは、目的のヌクレオチド配列が、このヌクレオチド配列の発現が可能な態様で(例えば
in vitro 転写/翻訳系で、又は、ベクタをホスト細胞内に導入する場合にはホスト細胞内で)調節配列に連結されていることを意味するものと、意図されている。用語「調節配列」には、プロモータ、エンハンサ及び他の発現制御配列(例えばポリアデニレーション・シグナル)が含まれるものと、意図されている。当該の発現ベクタをホスト細胞内に導入し、それにより、融合タンパク質又はペプチドを含むタンパク質を作製することができる。代替的には, レトロウィルス発現ベクタ及び/又はアデノウィルス発現ベクタを利用しても、本発明のタンパク質を発現させることができる。
【0128】
本発明の組換え発現ベクタを、原核もしくは真核細胞でのポリペプチドの発現用にデザインすることができる。例えば、ポリペプチドを E. coliなどの細菌細胞、昆虫細胞(バキュロウィルス発現ベクタを用いて)酵母細胞又は哺乳動物細胞で発現させることができる。適したホスト細胞はさらにGoeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA
(1990)に論じられている。
【0129】
原核生物でのタンパク質発現は、融合もしくは非融合タンパク質の発現を命令する構成的又は誘導性プロモータを含有するベクタを持つE. coli内で最も頻繁に行われている。融合ベクタは、その中にコードされたタンパク質に数多くのアミノ酸を、通常は組換えタンパク質のアミノ末端に付け加える。このような融合タンパク質は、典型的に、3つの目的に役立つ:1)組換えタンパク質の発現を増加させる;2)組換えタンパク質の可溶性を増す;及び3)アフィニティ精製時のリガンドとして作用することにより、組換えタンパク質の精製を助ける。しばしば、融合発現ベクタにおいては、原核性のタンパク質切断部位を融合部分と組換えタンパク質部分との間の接合部に導入して、融合タンパク質の精製後に、この融合部分から組換えタンパク質を分離できるようにする。精製済みの融合タンパク質は、本発明の無細胞検定法において特に有用である。
【0130】
さらに別の実施態様では、プロテインキナーゼCシータ経路成分のポリペプチドをコードする核酸分子を、例えばここで解説された細胞ベースの検定で用いるなどのために、哺乳動物細胞で発現させる。哺乳動物細胞で用いる場合の発現ベクタの制御機能は、しばしば、ウィルス調節配列に提供させる。別の実施態様では、当該の組換え哺乳動物発現ベクタは、特定の細胞種で優先的に核酸の発現を命令することができる(例えば組織特異的調節配列を用いて核酸を発現させる)。
【0131】
本発明の別の局面は、組換え発現ベクタが導入された検定細胞に関する。検定細胞は原核性でも、又は真核性でもよいが、好ましくは真核性である。好適な検定細胞はT細胞、例えばヒトT細胞、である。T細胞をヒト血液から得、本発明の検定での使用前にex vivoで増殖させることができる。ベクタDNAは、原核もしくは真核細胞に従来の形質転換又はトランスフェクション技術により導入することができる。ホスト細胞を形質転換又はトランスフェクトするために適した方法は、Sambrook, et al. (Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd, ed., Cold
Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring
Harbor, NY, 1989)、及び他の研究室用手引きに見ることができる。
【0132】
VII. 発明の方法
A.使用の方法
本発明の調節法は、(例えば細胞を本作用薬と一緒に培養するか、又は、本作用薬を培養細胞に導入することにより) in vitroで行うことも、あるいは代替的には(例えば対象に本作用薬を投与したり、あるいは、本作用薬を対象の細胞に、例えば遺伝子治療法などにより、導入することにより) in vivoで行うこともできる。
【0133】
ある実施態様では、対象を、TエフェクタT調節性細胞との間のバランスの調節を、PKCシータ経路成分を調節する治療の前に行うと有益であろうものとして特定する。例えば、ある実施態様では、T調節性及びTエフェクタ細胞の相対的活性を測定することができる。別の実施態様では、Tエフェクタ細胞及びT調節性細胞の相対数を計算することができる。別の実施態様では、Tエフェクタ及びT調節性細胞の存在を、移植の部位など、特定の部位で検出することができる。
【0134】
ある実施態様では、Tエフェクタ又はT調節性細胞の調節を行うと有益であろう対象を特定するために、対象の細胞を、経路成分のうちの一つ以上の活性及び/又は発現について、(ここで解説された通りに同定された)経路成分のモジュレータによる治療の前に、検定する。
【0135】
別の実施態様では、対象を、従来の免疫調節性試薬による治療後に観察して、この患者にとって、Tエフェクタ及びT調節性細胞間のバランスの調節を行うと有益であろうかどうかを判断することができる。
【0136】
別の実施態様では、抗原への曝露前、又は、抗原への曝露と同時に、経路成分のモジュレータを in vivo 又はin vitro で対象に投与する。ある実施態様では、本治療法は、VIII因子治療など、反復投与のための治療的タンパク質である。
【0137】
in vitroで調節法を実施するためには、細胞を標準的な方法で対象から得、この細胞内での経路成分の活性を調節するために、in vitro で本発明の調節性作用薬と一緒にインキュベート(即ち培養)する。例えば、末梢血単核細胞(PBMC)を対象から得、フィッコール/ハイパックなどの密度勾配遠心分離法により、単離することができる。標準的な方法を用いて特定の細胞集団を枯渇させたり、又は濃縮することができる。例えば、特異一次モノクローナル抗体(mAb)と一緒に細胞をインキュベートした後、mAbに結合する細胞を、この一次mAbに結合する二次抗体で被覆した磁気ビーズを用いて単離するなど、T細胞表面マーカに対する抗体を用いた正の選抜法により、T細胞を濃縮することができる。特定の細胞集団は、標準的な方法に従った蛍光活性化セル・ソーティング法によっても、単離することができる。必要に応じ、本発明の調節性作用薬でin vitroで処理された細胞を対象に再投与することができる。対象への投与に際し、まず細胞由来の残余物質を培養物から取り除いてから、これらを対象に投与することが好ましいであろう。これは、例えば細胞のフィッコール/ハイパック勾配遠心分子法などによって、行うことができる。細胞をex vivoで遺伝子改変した後、対象に再投与することに関する更なる議論については、W.F. Anderson らによる米国特許第
5,399,346号も参照されたい。
【0138】
対象において本調節法をin vivoで実施する場合は、本調節性作用薬を、対象に、この対象の細胞内で経路成分の活性が調節されるように、投与することができる。用語「対象」には、免疫応答を惹起することのできる生物が包含されるものと、意図されている。好適な対象は哺乳動物である。対象の例にはヒト、サル、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ヤギ及びヒツジがある。
【0139】
(マーカタンパク質、アンチセンスRNA、細胞内抗体又はドミナント・ネガティブ阻害剤をコードする組換え発現ベクタを含む)核酸を含む刺激剤又は阻害剤の場合、本作用薬を、対象の細胞内に、核酸(例えばDNA)をin vivoの細胞に導入するための当業で公知の方法を用いて、導入することができる。このような方法の例は、以下、非ウィルス法及びウィルス法の両方を包含する:
直接の注射:裸のDNAをin vivoの細胞内に、当該DNAを細胞に直接注射することにより、導入することができる(例えば Acsadi et
al. (1991) Nature 332:815-818; Wolff, et al. (1990) Science
247:1465-1468を参照されたい)。例えば、DNAをin vivoの細胞に注射する送達器具(例えば「遺伝子ガン」)を用いることができる。このような器具は(例えばバイオラド社から)市販されている。
陽イオンリピド:裸のDNAをin vivoの細胞内に、 このDNAを陽イオンリピドと複合体形成させたり、あるいは、このDNAを陽イオン性リポソームに封入することにより、導入することができる。適した陽イオンリピド調合物の例には、N-[-1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]N,N,N-トリエチルアンモニウムクロリド (DOTMA) 及び1:1 のモル比の1,2-ジミリスチルオキシ-プロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミド (DMRIE) 及びジオレオイルホスファチジルエタノールアミン (DOPE) (例えば Logan, J.J.
et al. (1995) Gene Therapy 2:38-49; San, H. et al. (1993) Human
Gene Therapy 4:781-788を参照されたい)。
受容体媒介性DNA取り込み:さらに、裸のDNAをin vivoの細胞内に、細胞表面受容体に対するリガンドに結合させたポリリジンなどの陽イオンにDNAを複合体形成させることでも、導入することができる(例えば Wu, G. and Wu,
C.H. (1988) J. Biol. Chem. 263:14621; Wilson, et al. (1992) J.
Biol. Chem. 267:963-967;及び米国特許第5,166,320号を参照されたい)。受容体へのDNA-リガンド複合体を結合により、受容体媒介性エンドサイトーシスにより、DNAの取り込みが促される。天然でエンドソームを破壊することで、細胞質内に物質を放出するアデノウィルス・カプシドに連結させたDNA-リガンド複合体を用いると、細胞内ライソゾームによる複合体の分解を避けることができる(例えば Curiel, et al. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci., USA
88:8850; Cristiano, et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci., USA
90:2122-2126を参照されたい)。
レトロウィルス: 欠陥レトロウィルスは、遺伝子治療を目的とした遺伝子輸送での使用に関し、よく特徴付けられている(レビューについてはMiller, A.D. (1990) Blood 76:271を参照されたい)。目的のヌクレオチド配列を、レトロウィルスゲノムに取り入れて有する組換えレトロウィルスを構築することができる。加えて、レトロウィルス・ゲノムの数部分を取り除いて、このレトロウィルスを複製欠陥にすることができる。次にこの複製欠陥レトロウィルスをビリオンにパッケージすれば、このビリオンを用いて、標準的な技術によりヘルパウィルスの使用を通じて標的細胞を感染させることができる。組換えレトロウィルスを作製するためのプロトコルや、in vitro 又は in vivo の細胞をこのようなウィルスに感染させるためのプロトコルは、 Current
Protocols in Molecular Biology, Ausubel, F.M. et
al. (eds.) Greene Publishing Associates, (1989), Sections 9.10-9.14 及び他の標準的な研究室用手引きに見ることができる。適したレトロウィルスの例には、当業者に公知の pLJ、pZIP、pWE 及びpEM がある。適したパッケージング・ウィルス系の例には、ΨCrip、ΨCre、ψ2及びψAm、がある。レトロウィルスは、
in vitro 及び/又は in vivoの上皮細胞、内皮細胞、リンパ球、筋原細胞、肝細胞、骨髄細胞を、含む多種の様々な細胞種に遺伝子を導入するために用いられてきた(例えば Eglitis, et al. (1985) Science 230:1395-1398; Danos
and Mulligan (1988) Proc. Natl. Acad. Sci., USA 85:6460-6464; Wilson et
al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci., USA 85:3014-3018; Armentano et
al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci., USA 87:6141-6145; Huber et al.
(1991) Proc. Natl. Acad. Sci., USA 88:8039-8043; Ferry, et al.
(1991) Proc. Natl. Acad. Sci., USA 88:8377-8381; Chowdhury, et al.
(1991) Science 254:1802-1805; van Beusechem, et al. (1992) Proc.
Natl. Acad. Sci., USA 89:7640-7644; Kay, et al. (1992) Human Gene
Therapy 3:641-647; Dai, et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci., USA
89:10892-10895; Hwu, et al. (1993) J. Immunol. 150:4104-4115;米国特許第4,868,116号;米国特許第4,980,286号; PCT 出願WO 89/07136; PCT 出願WO 89/02468; PCT 出願WO 89/05345; 及び PCT 出願WO 92/07573を参照されたい)。レトロウィルス・ベクタには、レトロウィルス・ゲノム(及びそれに挿入された外来核酸)がホストゲノムに組み込まれて細胞内に核酸を安定に導入するためには、標的細胞の分裂が必要である。このように、標的細胞の複製を刺激する必要があるであろう。
アデノウィルス:アデノウィルスのゲノムは、目的の遺伝子産物をコードし、発現はするが、通常の溶解によるウィルス生命周期という点でのその複製能が不活性化しているように操作することができる。例えばBerkner, et al. (1988) BioTechniques 6:616; Rosenfeld,
et al. (1991) Science 252:431-434; and Rosenfeld et al.
(1992) Cell 68:143-155を参照されたい。アデノウィルス株 Ad タイプ5 dl324 又は他のアデノウィルス株(例えばAd2、Ad3、及びAd7等)を由来とする適したアデノウィルス株は当業者に公知である。組換えアデノウィルスは、有効な遺伝子送達賦形剤となるためにも分裂細胞を必要としないため有利であり、気道上皮 (Rosenfeld, et al. (1992) cited supra)、内皮細胞(Lemarchand, et al. (1992) Proc.
Natl. Acad. Sci., USA 89:6482-6486)、肝細胞 (Herz and Gerard (1993) Proc. Natl. Acad. Sci., USA 90:2812-2816)
及び筋細胞(Quantin, et al.
(1992) Proc. Natl. Acad. Sci., USA 89:2581-2584)を含め、多種の細胞種を感染させるために用いることができる。加えて、導入されたアデノウィルスDNA(及びそこに含まれた外来のDNA)はホスト細胞のゲノムに組み込まれず、エピソームのまま留まるため、導入されたDNAがホストゲノム(例えばレトロウィルスDNA)に組み込まれた場合の挿入的変異誘発の結果起きかねない潜在的問題が避けられる。さらに、外来のDNAのためのアデノウィルス・ゲノムの運搬能力は他の遺伝子送達ベクタに比較して大きい(最高で8キロベース) (Berkner, et al. cited supra; Haj-Ahmand and Graham
(1986) J. Virol. 57:267)。現在用いられている大半の複製欠陥アデノウィルス・ベクタは、ウィルスE1及びE3 遺伝子の全部又は一部を欠失させてあるが、アデノウィルス遺伝物質の80%もを留めている。
アデノ随伴ウィルス: アデノ随伴ウィルス
(AAV) は、アデノウィルス又は疱疹ウィルスなどの別のウィルスを、効率的な複製及び増殖能ある生命周期のためのヘルパウィルスとして必要とする天然で発生する欠陥ウィルスである。(レビューについてはMuzyczka, et al. Curr. Topics in Micro. Immunol.
(1992) 158:97-129を参照されたい)。それはまた、非分裂細胞にそのDNAを組み込ませ、高頻度で安定した組込みを示す数少ないウィルスのうちの1つでもある(例えば Flotte, et al. (1992) Am. J. Respir. Cell. Mol. Biol.
7:349-356; Samulski et al. (1989) J. Virol. 63:3822-3828; 及びMcLaughlin, et al. (1989) J.
Virol. 62:1963-1973を参照されたい)。300塩基対といった少ないAAVを含有するベクタをパッケージし、組み込むことができる。外因性のDNAのためのスペースは、約4,5kbと限られている。Tratschin, et al. (1985) Mol.
Cell. Biol. 5:3251-3260 に解説されたものなどのAAVベクタは、DNAを細胞に導入するために用いることができる。多種の核酸が様々な細胞種に、AAVベクタを用いて導入されてきた。(例えばHermonat, et al. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci., USA 81:6466-6470;
Tratschin, et al. (1985) Mol. Cell. Biol. 4:2072-2081;
Wondisford, et al. (1988) Mol. Endocrinol. 2:32-39; Tratschin, et
al. (1984) J. Virol. 51:611-619; 及び Flotte, et al. (1993) J. Biol. Chem. 268:3781-3790を参照されたい)。
【0140】
特定の発現ベクタ系の効験や、核酸を細胞に導入する方法は、当業で慣例的に用いられている標準的なアプローチにより、評価することができる。例えば、細胞に導入されたDNAは、フィルタ・ハイブリダイゼーション技術(例えばサザン・ブロット法)により検出することができ、導入されたDNAの転写で生じるRNAは、例えばノーザン・ブロット法、RNase保護法又はリバース-トランスクリプターゼ-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)になどにより、検出することができる。遺伝子産物は、適した検定法、例えば特異抗体による産生したタンパク質の免疫学的抗体、あるいは、遺伝子産物の機能的活性を検出する機能検定法などにより、検出することができる。
【0141】
ある実施態様では、マーカをコードするレトロウィルス発現ベクタを用いて、マーカタンパク質をin vivoの細胞内で発現させることで、マーカタンパク質のin vivoでの発現又は活性を刺激する。このようなレトロウィルス・ベクタは、(例えば上述したように)当業で公知の標準的な方法に従って調製することができる。
【0142】
化合物などの調節性作用薬を対象に医薬組成物として投与することもできる。このような組成物は、典型的に、本調節性作用薬と薬学的に許容可能な担体とを含む。ここで用いられる用語「薬学的に許容可能な担体」には、医薬投与に適合性あるあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗カビ剤、等張剤及び吸収遅延剤等が含まれるものと、意図されている。薬学的に活性な物質のためのこのような媒質及び薬剤の使用は、当業で公知である。従来の媒質又は薬剤が当該活性化合物に対して不適合でない限り、組成物中へのその使用は考察されたところである。補助的な活性化合物も本組成物中に取り入れることができる。医薬組成物は下記のように調製することができる。
【0143】
B. 治療の方法
エフェクタT細胞機能が優勢なことに関連する数多くの疾患状態が公知であり、該疾患状態に罹患した個体で生じた応答の種類を調節すると有益であろう。本方法には、調節性作用薬を、このような治療を必要とする対象に直接、投与することや、又は、当該対象から得られた細胞を作用薬でex vivo処理した後、この細胞を対象へ再投与することを含めることができる。該治療を、さらに、他の免疫調節性作用薬を投与することで向上させてもよい。本発明の免疫調節性作用薬のこのような疾患への応用は、以下で更に詳述する。
【0144】
数多くの自己免疫異常は、活性化Tエフェクタ細胞の不適切又は望ましくない活性化が原因で、当該疾患の病理に関与するサイトカイン及び自己抗体が産生した結果である。加えて、Tエフェクタ細胞機能は移植片拒絶にも関与している。アレルギもまた、Tエフェクタ細胞によって媒介される。従って、エフェクタT細胞又は抗体応答を低下させたい場合、本発明の方法を用いて、例えば少なくとも1つのTエフェクタ細胞機能が少なくとも1つのT調節性細胞機能に対して下方調節されるように、Tエフェクタ細胞に優先的に関連する分子の発現及び/又は活性を下方調節することができる。別の実施態様では、このような異常を、例えば少なくとも1つのT調節性細胞機能が
少なくとも1つのTエフェクタ細胞機能に対して上方調節されるように、T調節性細胞に優先的に関連する分子の発現及び/又は活性を上方調節することにより、改善することができる。
【0145】
対照的に、Tエフェクタ細胞の少なくとも1つの活性を高める、及び/又は、 T調節性細胞の少なくとも1つの活性を下方調節する、と有益であろう状態もある。例えば、免疫エフェクタ細胞は、癌細胞に対して有効に反応することがしばしばできない。従って、エフェクタT細胞又は抗体応答の亢進が好ましい場合、本発明の方法を用いることで、例えば少なくとも1つのTエフェクタ細胞機能が少なくとも1つのT調節性細胞機能に対して上方調節されるように、Tエフェクタ細胞に優先的に関する分子の発現及び/又は活性を上方調節することができる。
【0146】
ある実施態様では、これらの調節法をある1つの抗原と組み合わせて用いて、この抗原に対する免疫応答を高める又は軽減することができる。例えば、Tエフェクタ細胞応答を、ワクチン製剤において高めたり、あるいは、VIII因子など、対象に慢性的に投与せねばならない治療的タンパク質に対するエフェクタ細胞応答を減らすために、軽減することができる。
【0147】
より具体的には、対象において調節性T細胞機能の少なくとも1つの活性を調節することに比べ、エフェクタT細胞の少なくとも1つの活性を優先的に下方調節することは、例えば皮膚、組織及び臓器移植、移植片対宿主疾患(GVHD)、あるいは、全身性エリテマトーデス及び多発性硬化症などの自己免疫疾患に場合などに有用である。例えば、調節性T細胞機能を優先的に促進する、及び/又は、エフェクタT細胞機能を低下させると、組織移植において組織破壊が減少する。典型的には、組織移植片において、組織片の拒絶は、それが免疫細胞によって異物と認識されることで惹起され、この移植片を破壊する免疫反応が起きる。ここで解説された通りの作用薬又はモジュレータを、単独又は別の免疫調節性作用薬と組み合わせて、移植前又は移植時に投与すると、対象におけるエフェクタT細胞機能や調節性T細胞機能を調節することができる。
【0148】
数多くの自己免疫異常は、自己組織に対して反応性であると共に、この疾患の病理に関与するサイトカイン及び自己抗体の産生を促進する免疫細胞の不適切な活性化が原因である。自己反応性の免疫細胞の活性化を妨げると、疾患の症状が軽減又は消失するであろう。自己免疫異常を防止又は軽減する上での試薬の効験は、ヒト自己免疫疾患の良く特徴付けられた多くの動物モデルを用いて判断することができる。例には、マウス実験的自己免疫脳炎、MRL/lpr/lpr マウス又はNZBハイブリッド・マウスの全身性エリテマトーデス、あるいは、マウス自己免疫コラーゲン性関節炎、NOD マウス及びBB ラットの糖尿病、及びマウス実験的重症筋無力症(Paul ed., Fundamental
Immunology, Raven Press, New York, 1989, pp. 840-856を参照されたい)。
【0149】
ここで用いる用語「自己免疫性」とは、対象の免疫系(例えばT及びB細胞)が彼又は彼女自身の組織に対して反応を始める状態を言う。
本発明に従って治療できると思われる自己免疫成分を有する自己免疫疾患及び異常の非限定的例には、1型糖尿病、(リウマチ性関節炎、若年性リウマチ性関節炎、乾癬性関節炎を含む)関節炎、多発性硬化症、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、自己免疫甲状腺炎、(アトピー性皮膚炎及び湿疹性皮膚炎を含む)皮膚炎、乾癬、シェーグレン症候群に続発する乾性角結膜炎を含むシェーグレン症候群、円形脱毛症、節足動物の咬創を原因とするアレルギー性応答、クローン病、虹彩炎、結膜炎、角結膜炎、潰瘍性大腸炎、喘息、アレルギー性喘息、皮膚性エリテマトーデス、強皮症、薬疹、らい反転反応、らい性結節性紅斑、自己免疫ブドウ膜炎、アレルギー性脳脊髄炎、急性壊死性出血性脳症、特発性両側性進行性感音性難聴、再生不良性貧血、真性赤血球性貧血、特発性血小板減少症、多発性軟骨炎、ウェグナー肉芽腫症、慢性進行性肝炎、スティーブンス-ジョンソン症候群、特発性スプルー、扁平苔癬、クローン病、グレーブズ眼症、サルコイドーシス、原発性胆汁性肝硬変、後部ブドウ膜炎、及び間質性肺線維症、がある。
【0150】
好ましくは、エフェクタ細胞機能の阻害が、例えばIgE産生を阻害するなどにより、アレルギー及びアレルギー性反応の治療において治療上、有用であるとよい。 エフェクタT細胞機能の阻害、及び/又は、調節性T細胞機能の促進は、適したMHC分子と共に、アレルゲンへの曝露に伴わせることができる。アレルギー性反応は、アレルゲンの進入経路や、マスト細胞又は好塩基球上のIgEの付着パターンに応じて、本来全身性でも、又は局所性でもよい。このように、エフェクタT細胞媒介性アレルギ性応答の阻害は、作用薬又は阻害剤の投与により、局所的でも、又は全身でも、起き得る。
【0151】
好ましくは、少なくとも1つのエフェクタT細胞機能の阻害が、免疫細胞のウィルス感染においても治療上有用であるとよい。例えば、後天性免疫不全症候群(AIDS)においては、ウィルスの複製は、免疫細胞の活性化により刺激される。エフェクタT細胞機能を阻害するとウィルス複製が阻害され、ひいてはAIDSの経過が改善するであろう。
【0152】
Tエフェクタ細胞の上方調節も治療において有用である。少なくとも1つのTエフェクタ活性の上方調節は、既存の免疫応答を高めたり、あるいは、最初の免疫応答を惹起する上で有用であろう。例えば、好ましくは少なくとも1つの
Tエフェクタ細胞活性を、エフェクタT細胞中の本発明の分子を刺激する作用薬を用いて増加させることが、細菌、ウィルス、又は寄生虫などの微生物感染の場合に有用である。これらには、疱疹又は帯状ヘルペスなどのウィルス性皮膚疾患が含まれ、この場合、このような作用薬を皮膚に局所的に送達することができる。加えて、インフルエンザ、通常の風邪、及び脳炎などの全身性ウィルス性疾患は、このような作用薬の全身投与により、軽減するであろう。別の実施態様では、T調節性細胞に関連する本発明の少なくとも1つの分子の発現及び/又は活性を下方調節することができる。
【0153】
ウィルスなどの病原体に対する免疫性は、ウィルスタンパク質に、適したアジュバントに入れたエフェクタT細胞機能を活性化する作用薬を一緒にしてワクチン接種することにより、誘導することができる。核酸ワクチンは、例えば注射(例えば筋肉内、皮内、あるいは、粒子加速器又は圧縮ガスを用いて粒子を皮膚に注射する銃を用いて、DNAで被覆された金粒子を上皮にバイオリスティック注射するなど)多種の手段により投与することができる (Haynes et al. 1996.
J. Biotechnol.
44:37))。代替的には, 核酸ワクチンを非侵襲的手段で投与することもできる。例えば、純粋なもしくは脂質で調合されたDNAを呼吸系又は標的決定された他の箇所に送達することができ、例えばペイヤーズ・パッチは、DNAの経口送達である(Schubbert. 1997. Proc. Natl. Acad. Sci., USA 94:961)。弱毒化した微生物は、粘膜表面への送達に用いることができる(Sizemore et
al. (1995) Science. 270:29)。ワクチンが有用であろう病原体には、B型肝炎、C型肝炎、エプスタイン-バーウィルス、サイトメガロウィルス、HIV-1、HIV-2、結核、マラリア及び住血吸虫がある。
【0154】
別の用途では、 少なくとも1つの エフェクタT細胞機能の優先的上方調節又は亢進は、腫瘍免疫の誘導において有用である。別の実施態様では、免疫応答を活性化シグナルの伝播により刺激することができる。例えば、腫瘍特異抗原などの自己由来抗原など、対象が充分な免疫応答を生じられないような抗原に対する免疫応答をこの態様で誘導することができる。
【0155】
本発明は、少なくとも1つの エフェクタT細胞機能を優先的に調節しながらも、T調節性応答にはほとんど効果を有さない、あるいはその逆を行うと有用であろう異常の危険性のある(又は易罹患性の)、あるいは、疾患、異常又は状態を有する、対象を治療する予防法及び治療法の両方を提供するものである。予防的作用薬の投与は、疾患又は異常が予防、又は代替的には、その進行が遅らされるように、症状の発現前に行うことができる。
【0156】
これらの作用薬を in vitro (例えば細胞を本作用薬に接触させるなどにより) で投与することも、あるいは代替的には、in vivo (例えば本作用薬を対象に投与するなどにより)で投与することもできる。従って、本発明は、Tエフェクタ細胞を上方もしくは下方調節しながらも、調節性T細胞には影響しないと有益であろう疾患又は異常に罹患した個体を治療する方法を提供するものである。
【0157】
本発明の調節性作用薬は単独で投与することも、あるいは、一つ以上の付加的な作用薬と組み合わせて投与することもできる。例えば、ある実施態様では、ここで解説された2つの作用薬を対象に投与することができる。別の実施態様では、ここで解説された作用薬を、他の免疫調節性作用薬と組み合わせて投与することができる。他の免疫調節性試薬の例には、共刺激シグナルを遮断する抗体、(例えば抗CD28、ICOS)、阻害性シグナルをCTLA4を介して活性化する抗体、及び/又は、他の免疫細胞マーカに対する抗体(例えば抗CD40、抗CD40リガンド、又は抗サイトカイン)、融合タンパク質(例えばCTLA4-Fc、PD-1-Fc)、及び免疫抑制剤、(例えばラパマイシン、シクロスポリンA又はFK506)、がある。場合によっては、免疫応答を惹起又は増強するために、T細胞活性化シグナルを送達する作用薬など、免疫応答を上方調節する他の作用薬を更に投与することが好ましいであろう。
【0158】
現在の免疫抑制剤とは異なり、ここで解説された作用薬又は阻害剤は、恒常性免疫調節機序の発生を促すため、望ましくない免疫応答を制御するために、長期治療ではなく、短期投与(例えば数週間から数ヶ月間)を要するであろう。本作用薬又は阻害剤による、又は一般的な免疫抑制剤による、長期治療は、対象に、当該状態に関連する抗原(例えばドナー抗原、自己抗原)に対する強固な調節性T細胞応答が生ずるために不要である。その結果の免疫調節は天然のT細胞機序により媒介されるため、調節性T細胞応答がいったん優勢に生ずれば、免疫調節を維持するためにも薬物は必要でないであろう。免疫抑制剤による生涯にわたる治療を無くすことで、自己免疫の治療及び臓器移植に現在伴う副作用が、全部ではないにしても、その多くが無くなるであろう。
【0159】
ある実施態様では、患者から免疫細胞を取り出し、免疫細胞をin vitro で、エフェクタT細胞機能を活性化する作用薬に接触させ、この in vitro で刺激を受けた免疫細胞を患者に再導入することにより、感染患者における免疫応答を高めることができる。
【0160】
VIII. 医薬組成物
ここで解説した通りの阻害剤又は刺激剤など、調節性作用薬を、投与に適した医薬組成物に取り入れることができる。このような組成物は、典型的には、本作用薬と、薬学的に許容可能な担体とを含む。ここで用いる言語「薬学的に許容可能な担体」には、医薬投与に適合性あるあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗カビ剤、等張剤及び吸収遅延剤等が含まれるものと、意図されている。薬学的に活性な物質のためのこのような媒質及び薬剤の使用は、当業で公知である。従来の媒質又は薬剤が当該活性化合物に対して不適合でない限り、組成物中へのその使用は考察されたところである。補助的な活性化合物も本組成物中に取り入れることができる。
【0161】
本発明の医薬組成物は、それに意図された投与経路と適合性があるように調合される。投与経路の例には、非経口、例えば静脈内、皮内、筋肉内、皮下、経口(例えば吸入)、経皮(局所)、経粘膜、及び直腸投与がある。非経口、皮内、又は皮下用途に用いられる溶液又は懸濁液には、以下の成分を含めることができる:無菌の希釈剤、例えば注射用の水、生理食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒;抗菌剤、例えばベンジルアルコール又はメチルパラベン;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウム;キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸;緩衝剤、例えば酢酸、クエン酸又はリン酸並びに塩化ナトリウム又はデキストロースなど、張性の調節用の薬剤。pHは、塩酸又は水酸化ナトリウムなどの酸又は塩基で調節することができる。非経口用製剤は、ガラス製又はプラスチック製のアンプル、使い捨て用シリンジ又は多人数用バイアルに封入することができる。
【0162】
注射による使用に適した医薬組成物には、無菌の水溶液(水溶性の場合)又は分散液、及び、無菌の注射用溶液又は分散液の即時調製用の無菌粉末、がある。静脈内投与の場合、適した担体には、生理食塩水、静菌水、Cremophor ELTM(ニュージャージー州パーシパニー、BASF社)又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、がある。いずれの場合も、当該組成物は無菌でなくてはならず、注射筒への注入が容易な程度に流動性でなくてはならない。それは製造及び保管条件下で安定でなくてはならず、細菌及び真菌などの微生物の汚染作用から保護されていなければならない。当該担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール等)、及びこれらの適した混合物を含有する溶媒又は分散媒であってよい。適正な流動性は、例えばレシチンなどのコーティングを用いたり、分散液の場合には必要な粒子サイズを維持したり、界面活性剤を用いるなどして、維持することができる。微生物の活動を防止するには、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等の多様な抗菌剤及び抗カビ剤により、達成することができる。多くの場合、例えば糖類、マンニトールなどの多価アルコール、ソルビトール、及び塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物中に含めることが好ましい。注射用組成物の吸収を長引かせるには、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなど、吸収を遅らせる薬剤を組成物中に含めることで、可能である。
【0163】
無菌の注射用溶液は、必要量の活性化合物を適した溶媒に、必要に応じて上に列挙した成分の1つ又は組み合わせと一緒に加えた後、滅菌マイクロ濾過を行うことにより、調製できる。分散液は一般的には、塩基性の分散媒と、上に列挙したものの中で必要な他の成分とを含有する無菌の賦形剤に当該活性化合物を加えることで、調製されている。無菌の注射用溶液の調製用の無菌粉末の場合、好適な調製法は真空乾燥及び凍結乾燥であり、その結果、活性成分及び付加的な所望の成分の粉末が、予め殺菌濾過されたその溶液から生じる。
【0164】
経口用組成物は一般に、不活性の希釈剤及び食用の担体を含む。これらをゼラチン・カプセルに封入することも、又は圧縮して錠剤にすることもできる。経口による治療的投与の場合、活性化合物を医薬品添加物と一緒に取り入れ、錠剤、トローチ、又はカプセルの形で用いることができる。経口用組成物は、さらに、口内洗浄剤として用いる流動性の担体を用いて調製することができ、この場合、この流動性の担体中の化合物は経口利用され、さっと口に入れて喀出されるか、又は飲み込まれる。薬学的に適合性ある結合剤、及び/又は、アジュバント物質を、組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸剤、カプセル、トローチ等は以下の成分、又は同様の性質の化合物のいずれかを含有することができる:微結晶セルロース、トラガカントゴム又はゼラチンなどの結合剤;でんぷん又はラクトースなどの医薬品添加物、アルギン酸、Primogel、又はコーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム又はSterotesなどの潤滑剤;コロイド状二酸化珪素などの推進剤;ショ糖又はサッカリンなどの甘味料;又は、ペパーミント、サリチル酸メチル、又はオレンジ着香料などの着香料。
【0165】
吸入による投与の場合、当該化合物を、二酸化炭素などのガスなど、適した推進剤を含有する加圧された容器又はディスペンサや、又はネブライザからのエーロゾル・スプレーの形で送達する。
【0166】
全身投与はまた、経粘膜又は経皮手段によってもよい。経粘膜又は経皮投与の場合、透過させようとする障壁に適した浸透剤を調合物中に用いる。このような浸透剤は一般に当業で公知であるが、その中には、例えば、経粘膜投与用の場合、界面活性剤、胆汁酸塩、及びフシジン酸誘導体、がある。経粘膜投与は、鼻孔用スプレー又は座薬の使用を通じて行うことができる。経皮投与の場合、当該活性化合物を、当業で広く公知のように、軟膏、軟膏剤、ゲル、又はクリームに調合する。
【0167】
さらに本化合物を(例えばココアバター及び多のグリセリドなどの従来の座薬用基剤を用いて)座薬の形で調製することも、又は、直腸送達用の停留浣腸剤の形で調製することもできる。
【0168】
ある実施態様では、調節性作用薬を、インプラント及びマイクロ封入送達系を含め、制御放出調合物など、身体から当該化合物が急速に失われないように保護するであろう担体と一緒に調製する。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸など、生分解性で生体適合性あるポリマを用いることができる。このような調合物の調製法が数多く、当業者には明白なはずである。
当該材料はアルザ・コーポレーション及びノヴァ・ファーマシューティカルズ社から市販のものも得ることができる。リポソーム性懸濁液は、薬学的に許容可能な担体として用いることもできる。これらは、例えば米国特許第4,522,811号に解説されているように、当業者に公知の方法に従って調製することができる。
【0169】
投与の容易さ及び投薬量の均一性のためには、経口又は非経口用組成物を単位剤形で調合することが特に有利である。ここで用いる単位剤形とは、治療しようとする対象にとって単位型の投薬量として調整された物理的に別個の単位を言う。各単位は、必要な薬品用担体との関連から所望の治療効果を生ずるよう計算された所定量の活性化合物を含有する。本発明の単位剤形の詳細は、活性化合物の固有の特徴、及び、達成しようとする特定の治療効果、及びこのような活性化合物を、個体の治療に向けて配合する技術に内在する限界、によって決定され、またこれらに直接依存する。
【0170】
このような化合物の毒性及び治療上の効験は、例えばLD50(集団の50%にとって致命的な用量)及びED50(集団の50%において治療上有効な用量)を決定するためなど、細胞培養又は実験動物での標準的薬学的手法により、判定することができる。毒性効果及び治療効果の間の用量比が治療指数であり、それを比LD50/ED50で表すことができる。大きな治療指数を示す化合物が好ましい。毒性の副作用を示す化合物を用いることも可能であるが、非感染細胞への潜在的損害を抑え、ひいては副作用を減らすために、罹患組織の部位をこのような化合物が標的とする送達系をデザインするように注意せねばならない。
【0171】
細胞培養検定及び動物研究から得られたデータを、ヒトでの使用に向けた一定の範囲の投薬量を処方する上で用いることができる。このような化合物の投薬量は、好ましくは、毒性が少ないか、又は全くない、ED50を含むような血中濃度の範囲内であるとよい。投薬量は、用いる剤形及び利用する投与経路に応じて、この範囲内で様々であってよい。本発明の方法で用いられるいずれの化合物についても、治療上の有効量は、細胞培養検定からまず、推定することができる。用量を動物モデルで調合して、細胞培養で判定されたIC50(即ち、症状の半分から最大の阻害を達成する検査化合物の濃度)を含むような循環血漿濃度範囲
を達成することができる。このような上方は、ヒトで有用な用量をより精確に決定するためにも、用いることができる。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィにより、測定することができる。
【0172】
本医薬組成物を、投与に関する指示と一緒に容器、パック、又はディスペンサ内に含めることができる。
【0173】
IX. 調節性作用薬の投与
本発明の調節性作用薬は、in vivoでの医薬投与に適した生物学的に適合性ある形で対象に投与される。「in vivoでの医薬投与に適した生物学的に適合性ある形 」とは、毒性の効果が、当該作用薬の治療効果よりも小さいような作用薬の形を意味する。
【0174】
本発明の治療用組成物の治療上有効量の投与とは、所望の結果を達成するために必要な投薬量及び期間で有効である量と、定義しておく。例えば、作用薬の治療上有効量は、個体の疾患状態、年齢、性別、及び体重や、その個体において所望の応答を惹起する上での作用薬の能力に応じて様々であろう。投薬計画を、最適な治療上の応答が得られるように調節することができる。例えば、複数回に分けた用量を毎日投与することも、あるいは、治療状況の緊急度が示す場合には、用量を比例的に減少させることもできる。
【0175】
本作用薬は、例えば注射(皮下、静脈内など)、経口投与、経皮適用、又は直腸投与など、便利な態様で投与することができる。投与経路によっては、活性化合物を、この化合物を失活させかねない酵素、酸及び他の天然条件の作用から保護する物質で被覆することができる。例えば、非経口投与以外で本作用薬を投与するには、本作用薬を、その失活を防ぐ物質で被覆したり、又は、一緒に同時投与することが好ましいであろう。
【0176】
作用薬を、酵素阻害剤と一緒に投与することも、あるいはリポソームなどの適した担体に入れて投与することもできる。薬学的に許容可能な希釈剤には生理食塩水及び水性の緩衝剤水溶液がある。アジュバントはその最も広い意味で用いられており、その中には、インターフェロンなど、いずれかの免疫刺激性化合物が含まれる。ここで考察されるアジュバントには、レゾルシノール、ポリオキシエチレンオレイルエーテル及びn-ヘキサデシルポリエチレンエーテルなどの非イオン性界面活性剤が含まれる。酵素阻害剤には、膵臓トリプシン阻害剤、ジイソプロピルフルオロホスフェート(DEEP)及びトラジロールがある。リポソームには、水中油中水乳濁液や、従来のリポソームがある (Sterna et al. (1984) J. Neuroimmunol. 7:27)。
【0177】
また、本活性化合物を非経口投与しても、又は腹腔内投与してもよい。懸濁液はグリセロール、液体ポリエチレングリコール、及びこれらの混合物中や、油中に調製することもできる。通常の保管及び使用条件下では、これらに製剤に、微生物の成長を防ぐ保存剤を含めてもよい。
【0178】
活性化合物が上述したように適宜保護されていれば、本作用薬を、例えば不活性の希釈剤又は同和可能な食用の担体と一緒に経口投与することができる。ここで用いられる「薬学的に許容可能な担体」には、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗カビ剤、等張剤及び吸収遅延剤等が含まれる。薬学的に活性な物質のためのこのような媒質及び薬剤の使用は、当業で公知である。従来の媒質又は薬剤が当該活性化合物に対して不適合でない限り、治療用組成物中へのその使用は考察されたところである。補助的な活性化合物も本組成物中に取り入れることができる。
【0179】
本発明をさらに以下の実施例で説明することとするが、以下の実施例を限定的なものと捉えられてはならない。本出願全体を通じて引用された全参考文献、特許及び公開済み特許出願の内容や、図面及び添付物を、引用をもってここに援用することとする。
【0180】
実施例
実施例1: Tエフェクタ細胞又はT調節性細胞内で優先的に発現する遺伝子の、AffymetrixTM遺伝子チップを用いた特定
この実施例では、特定のT細胞種には存在するが、他のT細胞種では存在しない遺伝子の特定を解説する。具体的には、エフェクタT細胞 (Th1 及びTh2) 及び調節性T細胞の間で示差的に用いられる遺伝子を特定する。
【0181】
方法
T細胞株の培養
分化細胞株を、ヒト臍帯血又は末梢血CD4+CD45RA+
未刺激T細胞から調製された細胞から、フローサイトメトリ及び磁気ビーズ分離法を含む様々な方法で作製した。開始集団の純度は95%を越えた。次に、細胞を、10%FCS 及び1% ヒトAB 血清を加え、サイトカイン及び抗サイトカイン中和化抗体の規定混合物を加えたCD3及びCD28 抗体のRPMI 1640 溶液で刺激して、分化細胞種を生じさせた。Th1細胞は、IL12
(62U/ml) 及び抗IL4 (0.2ug/ml)との培養により生じさせた。Th2細胞は、IL4(145U/ml) 及び抗IL12
(10ug/ml) 及び抗IFNγ(10ug/ml)中での培養により生じさせた。そして調節性T細胞は、TGFβ(32U/ml)、IL9 (42U/ml)、抗IL4 (10ug/ml) 及び抗IL12 (10ug/ml)
及び抗IFNγ(10ug/ml)中での培養により生じさせた。
(注:抗IL12はすべての実験で用いた訳ではない)。全ての培養物にIL2 (65U/ml) 及びIL15(4500U/ml)を添加した。細胞を、細胞分裂で可能になったときにより大きな培養皿に分割した。一回目の細胞分化の終了時(7乃至12日目)に、細胞を、遺伝子チップ実験で用いるための全RNAの調製用に採集した。
【0182】
AffymetrixTM遺伝子チップ実験
各細胞種由来のRNAを、QiagenTM RNeasyキットをメーカの解説通りに用いて調製した。高品質の全RNAを各細胞種から単離した後、このRNAをビオチン標識し、AffymetrixTMが推奨する通りにAffymetrixTM遺伝子チップで用いるように断片化した。簡単に説明すると、RNAをSuperscriptTM II ポリメラーゼ及びT7 プライマを用いてコピーしてcDNAにした。次にその相補鎖を、E. coli DNA ポリメラーゼ Iを用いて合成した。その産物であるdsDNAをフェノール/クロロホルム抽出し、エタノール沈降させた。次に、in vitro 転写を、ビオチン化させたヌクレオチドを用いて行わせて増幅し、ENZOTM
バイオアレイ高収率 RNA 転写産物ラベリング・キットを用いてRNAを増幅した。標識済みの産物を、Qiagen RNeasy キットに解説された清浄法を用いて清浄にした。標識済みのRNAを 200mM Tris アセテート、500mM 酢酸カリウム及び150mM 酢酸マグネシウム中でのインキュベーションで断片化し、推奨された量を AffymetrixTM
Hu133 遺伝子アレイのチップA 及びBに載せた。AffymetrixTM チップを、メーカの指示通りにハイブリダイズさせ、AffymetrixTM 自動化チップ洗浄機に推奨された通りに洗浄した。ビオチン化RNA断片の洗浄及び蛍光体による標識後に、チップをAffymetrixTM チップ・リーダで読み取った。
【0183】
各細胞種及び各チップ毎に、ほぼ合計34,000個のヒト遺伝子を表す全プローブ・セットを、チップのセンス及び非センス部分上の蛍光シグナルの統計学的分析に基づき、 AffymetrixTM マイクロアレイ・スーツ・ソフトウェアを用いて「有り」又は「無し」と採点した。各プローブセットに対するこれらの「有り」及び「無し」のコールは、シグナル輝度と一緒に MicrosoftTM アクセス・データベースに送った。クエリを用いて、各細胞種に関して有りと採点された全遺伝子のデータファイルを作製した。全部の細胞種で有りと採点された遺伝子を、クエリを用いたその後の研究から取り除いた。ある細胞種に固有であるか、あるいは、別のものに対してある細胞種で優先的に発現する遺伝子のデータファイルをクエリを用いて作製して、Th1、Th2又は調節性T細胞上でのみ、有りと採点された遺伝子を選抜した。加えて、エフェクタ(Th1 及びTh2)細胞でのみ存在し、調節性T細胞では存在しないか、あるいは、調節性T細胞でのみ存在し、エフェクタT細胞では存在しない遺伝子のデータファイルも作製した。
【0184】
調節性T細胞に対して活性化エフェクタT細胞で優先的に用いられていると思われた遺伝子の中に、プロテインキナーゼCシータを通じた活性化T細胞でのシグナル伝達に必要であることが公知の一連のタンパク質のための遺伝子があった。PKCシータシグナリング経路に関連する遺伝子の存在に関して得られたデータを調べると、エフェクタT細胞
は、この経路で用いられる分子に関するメッセージを活発に転写しているようであるが、調節性T細胞はそうではないことが明らかになった。
図2は、関連するプローブセットに関する遺伝子チップ発現データを示す。
【0185】
実施例2: PKCシータは、調節性T細胞を活性化するためには必要ではない
PKCシータシグナリングが、調節性T細胞よりもエフェクタT細胞で優先的に用いられており、エフェクタT細胞活性化には必要であるが、調節性細胞活性化には必要でないことを証明するために、実験を行った。一番目の実験では、調節性T細胞におけるPKCシータタンパク質の発現の現象が証明された。Th1、Th2及び調節性T細胞の集団は上述の通りに調製された。これらの細胞を、顕微鏡用スライドに向かって遠心分離し、TCR 及びPKCシータに特異的な抗体を用いて染色した。様々な細胞種を検査したところ(図3)、細胞種のすべてがTCRを発現していたが、PKCシータは、末梢血T細胞及びTh2細胞でのみ、強く発現され、他方、それは、Th1細胞の細胞質全体に散らばって発現していることも明らかになった。調節性T細胞ではほとんど、乃至全く、発現は見られなかった。
【0186】
機能的PKCシータにとっての必要条件が調節性T細胞にないことを、Th1、Th2 及び調節性T細胞を、新規なプロテインキナーゼC酵素(PKCθ及びPKCδ)の市販の阻害剤であるロットルリン(原語:Rottlerin)で処理して実証した。上述のように調製した分化細胞を、CD3 及びCD28を、一定の濃度範囲の市販の阻害剤ロットルリンの存在下で用いて再刺激した。3つの実験のうち3つで、ロットルリンはTh1 及びTh2細胞による細胞分裂を、5uM で阻害したが、調節性T細胞の増殖は阻害しなかった(図4)。
【0187】
実施例3: PKCθを阻害すると、Th1及びTh2細胞増殖が選択的に阻害される。
プロテインキナーゼCシータの化学的阻害剤であるロットルリンは、より高い濃度では、細胞分裂にとって重要な他の細胞内酵素に対しても更なる阻害効果を有することが示されている(Davies, SP, et al. (2000) Biochem. J. 351:95-105)。従って、PKCθ阻害剤が、TGFβ由来Treg細胞よりもより完全にTh1及びTh2細胞の増殖を阻害する能力を有することを実証するために、より選択的な分子を利用した。
【0188】
in vitroにおいて、PKCθのPDPK1 (配列番号:13及び配列番号:14)相互作用部分を由来とするペプチドが、PKCθ活性を特異的に阻害できることが示されている (Ghosh, S. and,D’Acquisto F., WO
03/004612)。これらのペプチドの特異性は、入手可能ないずれの低分子阻害剤について実証された特異性よりも遙かに大きく、これらのペプチドは、他のPKCファミリ・メンバに比較してPKCθを特異的に阻害することが示されている。
【0189】
しかしながら、細胞内酵素のペプチド阻害剤は細胞膜を透過せず、従って、全細胞を用いたin vitro 検定では有効ではない。この問題を避けるために、そのN末端でアンテナペディア・ホメオドメインの第三ヘリックスに付着させたPKCθ阻害性ペプチドを合成することができる。このペプチドは、細胞には何の明白な損傷を与えることなく、ペプチド及びタンパク質の生体膜を通った進入を可能にするものである(Fenton, M., et al. (1998) J. Immunol. Methods 212:41-48; Dostmann, WRG, et al.
(2000) Proc. Natl. Acad. Sci., USA 97:14772-14777)。これらの研究で用いたペプチドの配列は:
NH2-RQIKIWFQNRRMKWKKMDQNMFRNFSFNMP-COOH
(配列番号:15)
だった。
【0190】
TGFβ由来Treg細胞の増殖は阻害せず、Th1及びTh2の増殖を選択的に阻害するというこのアンテナペディア-PKCθペプチドの能力を検査するために、分化細胞をCD3及びCD28で被覆したウェル内で、当業で公知のプロトコルに従い、該ペプチド阻害剤の存在下又は非存在下で培養した。この培養開始から3日後に、各細胞種に対して各条件に関する3つの複製組織培養ウェルに、3H-チミジンを含有する媒質を与えて細胞分裂を観察した。
ウェルから18時間後に採集し、取り込まれた3Hを、 シンチレーション計数により測定した。複製ウェルを平均化し、阻害剤を加えない細胞と、次第に濃度を高くした阻害剤を加えた細胞との間で、各細胞種に関して、増殖の比較を行ったところ、アンテナペディア-PKCθ阻害性ペプチドが、Th1及びTh2細胞の増殖を、コントロール・レベルの16%まで阻害し、TGFβ由来Treg細胞は、それらのコントロール・レベルの50乃至80%の間、増殖したことが見出された(図5)。
【0191】
均等物
当業者であれば、日常的な実験によって、ここに解説した本発明の具体的な実施態様の均等物を数多く、認識し、又は確認できることであろう。このような均等物は以下の請求の範囲の包含するところと、意図されている。


【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1】図1は、T細胞活性化経路の図である。
【図2】図2A−Cは、AffymetrixTM遺伝子チップ上で観察されたシグナルを描いたグラフを示し、3つの細胞種、Th1、Th2、及び調節性T細胞中でのPKCシータシグナリング経路に関連する遺伝子の発現を示す。図1Aは、調節性T細胞ではなく、Th1及びTh2細胞でのPKCシータの発現を示す。図1Bは、調節性T細胞ではなく、Th1及びTh2細胞での Bcl 10 の発現を示す。図1Cは、調節性T細胞ではなく、Th1細胞での CARMA1 の発現を示す。「無し」のコールは、シグナル無しとして示されている。
【図3】図3は、末梢血リンパ球 (PBL)、Th1、Th2、及び調節性T細胞における抗TCR及び抗PKCシータ抗体によるヒトリンパ球の染色結果を示す。PBL又は分化Th1、Th2 及び調節性T細胞を、FITC- 抗-TCR 又はHRP-anti-PKCシータで染色した後、TRITC 抗HRPで染色した。
【図4】図4は、調節性T細胞でなく、PKC酵素の市販の阻害剤であるロットルリンによる、Th1及びTh2細胞の増殖阻害を示す。分化細胞を、CD3 及びCD28で、PKC阻害剤ロットルリンの存在下又は非存在下で刺激した。3H-チミジンの取り込みを用いて細胞増殖を観察した。各細胞種の増殖を、阻害剤の非存在下で観察された増殖に正規化した。
【図5】図5は、アンテナペディア-PKCθペプチドが、TGFβ由来Treg細胞ではなく、Th1及びTh2の増殖を選択的に阻害することを示す代表的データを図解により示す。
【配列表】



















【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテインキナーゼCシータ経路成分の発現又は活性を調節する作用薬を投与するステップを含む、このような治療を必要とする対象における状態を治療する方法であって、但しこのような治療の効果は、対象においてエフェクタT細胞機能の調節性T細胞機能に対するバランスを調節することである、方法。
【請求項2】
前記成分が、 配列番号1,3、5、7、9、及び11から成る群より選択される核酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記成分が、配列番号:2、4、6、8、10、及び12から成る群より選択されるポリペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記作用薬が、タンパク質、ペプチド、低分子又は核酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記状態が移植、アレルギ異常、自己免疫異常、ウィルス感染、微生物感染、寄生虫感染又は癌である、請求項1、2、3又は4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
細胞集団を、PKCシータ経路成分の発現又は活性を調節する作用薬に接触させるステップを含む、プロテインキナーゼCシータ経路成分の発現又は活性を調節する方法であって、但し前記細胞集団が、T細胞;未刺激T細胞;調節性T細胞;エフェクタT細胞;又は末梢血リンパ球のうちの1つ以上を含み、またこのような接触の効果は、前記細胞集団においてエフェクタT細胞機能の調節性T細胞機能に対するバランスを調節することである、方法。
【請求項7】
ある作用薬に接触させてある細胞集団を、ある状態に罹患している対象に投与するステップを更に含み、その効果が前記状態を治療することである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記作用薬が、タンパク質、ペプチド、低分子又は核酸である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記状態が、移植、アレルギ異常、自己免疫異常、ウィルス感染、微生物感染、寄生虫感染又は癌である、請求項6、7又は8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
プロテインキナーゼCシータ経路成分の発現又は活性を調節する作用薬を特定する検定法であって、
プロテインキナーゼCシータ経路成分を含む指標組成物を複数の検査作用薬に接触させるステップと;
前記検査作用薬の、プロテインキナーゼCシータ経路成分の発現又は活性の調節能を判定するステップと
を含み、但し、特定される前記作用薬は、エフェクタT細胞機能の調節性T細胞機能に対するバランスを調節することができるものである、
検定法。
【請求項11】
前記作用薬が、タンパク質、ペプチド、低分子又は核酸である、請求項10に記載の検定法。
【請求項12】
前記指標組成物が、PKCシータ経路成分発現細胞である、請求項10に記載の検定法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−508191(P2006−508191A)
【公表日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507126(P2005−507126)
【出願日】平成15年11月10日(2003.11.10)
【国際出願番号】PCT/US2003/035719
【国際公開番号】WO2004/043386
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(505131946)トーラーレックス, インク. (6)
【氏名又は名称原語表記】TOLERRX, INC.
【住所又は居所原語表記】300 Technology Square,Cambridge, MA 02139 (US).
【Fターム(参考)】