説明

エポキシド官能基を有するラテックス微粒子

本発明は、液体懸濁物状のエポキシド基官能化ラテックス微粒子を生成する組成物及び方法、並びにインクジェットインクを調製する組成物及び方法に関する。当該方法は、連続親水相と不連続疎水相を含むエマルションを形成するステップを含み得、この場合、不連続疎水相は複数のモノマーを含む。複数のモノマーは、エポキシド基形成モノマーと担体形成モノマーを含み得る。その他のステップとしては、モノマー群を共重合させて親水相内に分散されたラテックス前駆体微粒子を形成させ、そしてそのラテックス前駆体微粒子を塩基と反応させてエポキシド基官能化ラテックス微粒子を形成するステップが挙げられる。これらのラテックス微粒子は、インクジェットインク印刷用途をはじめとする、広範な用途に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、表面官能基化ラテックス微粒子及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳化重合によって得られるラテックス粒子は、粒径測定に使用される装置の較正用、粒子表面上への生物分子(タンパク質又はペプチドのような)の固定化用、新種の免疫検定法の開発用、並びにインクジェット印刷、塗装、及びコーティング用としての膜形成用、モデルコロイドとしての利用をはじめとする、様々な用途に用いることができる。生物分子、染料分子等をラテックス粒子表面に結合させるのに通常用いられる方法は、物理的又は受動的吸着によるものである。しかしながら、得られるコロイド系はそれ程安定でない傾向がある。そのような不安定性は、生物分子、染料分子等をエマルションのラテックス微粒子に共有結合することによって回避し得る。官能基化ラテックス微粒子は、上述の及びその他の分野において用途を有するが、インクジェットインクイメージング用途に関して、本発明の特異的な利点を有利に説明することができる。特に、インクジェットに適合し得るある種のラテックスポリマーを含有させることによって、インクジェットインクの耐水性の領域で大きな改善がなされている。インクジェットインクの一部として印刷されると、そのインクのラテックス成分は媒体表面上に膜を形成して、疎水性の印刷膜の内部に着色剤を捕捉し且つ保護することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
標的分子との化学反応に利用し得る官能基を表面上に有するラテックス微粒子を調製する改善された方法が絶えず必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
インクジェットインク及びその他の用途に使用し得る、表面官能基化ラテックス微粒子の調製のための製造手順を開発することは有益であろうと考えられる。例えば、着色剤に結合し得るラテックスポリマーを付加することで、耐水性、耐スミア性、及び/又は耐光性が改善され、インクジェットインク印刷物の耐久性を改善することができる。当該認識に従って、ラテックス組成物は、その中にエポキシド基官能化ラテックス微粒子が分散している水性液から構成することができる。
【0005】
他の実施形態では、エポキシド基官能化ラテックス微粒子を含んむ懸濁液を生成する方法は、連続親水相と不連続疎水相とを含むエマルションを形成するステップを包含することができ、この場合、不連続疎水相には、エポキシド基形成モノマー及び担体形成モノマーなどの複数のモノマーが含まれる。他のステップとしては、親水相内に分散されたラテックス前駆体微粒子を形成するためにモノマー群を共重合させ、そしてそのラテックス前駆体微粒子を塩基と反応させてエポキシド基官能化ラテックス微粒子を形成することが挙げられる。
【0006】
他の実施形態においては、インクジェットインク組成物は、液体ビヒクルと、その液体ビヒクル中に分散されたエポキシド基官能化ラテックス微粒子と、その液体ビヒクルに分散若しくは溶解された求核性着色剤とを含むことができる。この実施形態では、求核性着色剤の少なくとも一部は、エポキシド基官能化ラテックス微粒子と反応することができる。
【0007】
インクジェットインクを調製する方法は、求核性着色剤をラテックスと混合するステップを含み、この場合、そのラテックスは、液相と、その液相に分散されたエポキシド基官能化ラテックス微粒子とを含む。他のステップとしては、求核性着色剤をエポキシド基官能化ラテックス微粒子と相互作用させて、着色剤で修飾されたラテックス微粒子を形成することが挙げられる。
【0008】
他の実施形態では、センサー用途に用いられる組成物は、連続液相と、その連続液相に分散されたエポキシド基官能化ラテックス微粒子と、求核性薬剤又は生物検出分子とを含むことができる。この実施形態では、求核性薬剤又は生物検出分子の少なくとも一部は、エポキシド基官能化ラテックス微粒子に結合することができる。
【0009】
さらに、センサー用組成物の調製方法は、求核性薬剤又は生物分子をラテックスと混合するステップを含み、この場合、そのラテックスは、連続液相と、その液相に分散されたエポキシド基官能化ラテックス微粒子とを含む。他のステップとしては、求核性薬剤又は生物分子をエポキシド基官能化ラテックス微粒子と相互作用させて化学的又は生物的検出分子で修飾されたラテックス微粒子を形成することが挙げられる。
【0010】
本発明の他の特徴並びに利点は、例示目的で本発明の諸特徴を説明する以下の詳細な説明から明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を開示、記述する前に、本発明が、ここに開示する特定の処理ステップ並びに材料に限定されないことを理解されたい。何故なら、前述の処理ステップ並びに材料は、多少、変更し得るためである。また、ここで用いる用語は、特定の実施形態のみを記述するだけの目的で用いていることを理解されたい。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその等価物によってのみ限定され、それらの用語に限定の意はない。
【0012】
この明細書及び添付の特許請求の範囲において用いるとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、その内容が別途明確に指示されない限り、複数形の意味を包含することを理解されたい。
【0013】
同様に、複数形の使用は、必ずしも多数の組成物の使用を意味しない。例えば、複数形でモノマーを指すとき、多数の種類のモノマーが存在することを必ずしも意味せず、少なくとも1種のモノマー分子が複数存在することを意味する。しかしながら、そのような記載は、その他の種類のモノマーの存在を排除するものではない。
【0014】
ラテックス微粒子についていう「エポシキド基官能化」とは、ラテックス微粒子上にエポキシド基が存在する少なくとも1つのラテックス微粒子を表す。典型的に、エポシキド基はラテックス微粒子の表面に存在するであろうが、それは要求されない。
【0015】
エポシキド基官能化ラテックス微粒子を形成するのに使用されるモノマーについていう用語「エポシキド基形成」とは、乳化重合時に少なくとも比較的安定であり、且つエポキシド基を含むように容易に変換され得るモノマーを指す。例えば、エポシキド基形成モノマーは基−CH(OH)−CH−LGを含むことができ、ここで、LGは脱離基である。この基は、その他のモノマーとの乳化重合又は共重合時は安定であり、且つ塩基との反応によりエポキシド基を含むように容易に変換することができる。かかる反応後、脱離基が除去され、エポキシド基が形成される。エポキシド基を形成するのにこの基の変更形態も用い得ることは、当業者には分かろう。
【0016】
「ラテックス前駆体微粒子」は、塩基との相互作用又は反応によりエポシキド基へと変換され得る基を有するよう形成されたラテックス微粒子を指す。例えば、構造−CH(OH)−CH−LGを有する基を有するモノマーをラテックス微粒子の形成に用いる。この実施例では、LGは、塩基との反応により脱離基が除去され、エポキシド基が形成されるように構成された脱離基を表す。
【0017】
「担体形成モノマー」とは、本発明の実施形態に従って(塩基との反応後に)エポシキド基官能化ラテックス微粒子を形成するべくエポキシド基形成モノマーと共重合され得る1つ又は複数の種類のモノマーを指す。担体形成モノマーは、ラテックス微粒子の用途に応じて、モノマーにバルク特性を与え得るか、膜形成モノマーであり得るか、又はその他の所望の特性を与え得るものである。例えば、インクジェット用途においては、ラテックスは、媒体基材上に印刷される際に膜形成を助長する諸特性を有する担体形成モノマーを選択することが望ましいであろう。あるいはまた、生物又は化学センサー用にラテックス微粒子を形成することが望まれる場合、そのラテックスのバルク特性を維持することは望ましいであろう。
【0018】
「求核試薬」又は「求核性」とは、核を求引し、電子を供与若しくは共有する傾向のある基を有する、生物又は化学的センサー組成物、染料、添加剤、又はその他の分子のような組成物を指す。例えば、インクジェット技術においては、求核性着色剤に結合するラテックスポリマーを付加することで、耐水性、耐スミア性、及び耐光性に関するような、インクジェット印刷の耐久性が改善され得る。
【0019】
「着色剤」には、本発明の実施形態に従って液体ビヒクル中に懸濁又は溶媒和され得る染料、顔料、及び/又はその他の粒子が包含され得る。染料は、典型的に、水溶性であり、それ故、多くの実施形態に望ましく使用され得る。しかしながら、顔料も使用され得る。使用し得る顔料には、自己分散性顔料並びに分散剤分散型顔料が含まれる。自己分散性顔料は、表面を帯電させるように小分子又は高分子基によって化学的に表面修飾されたものが含まれる。この化学修飾は、顔料が液体ビヒクル中で分散状態となり且つ/又は実質的に分散状態に維持されるのを支援する。顔料はまた、分散剤分散型顔料(これはまた、通常、ポリマー分散型顔料とも呼ばれ、この場合、当該ポリマーは顔料に共有結合していない)であってもよく、それは、液体ビヒクル中に及び/又は顔料が液体ビヒクル中で分散状態となり且つ/又は実質的に分散状態に維持されるのを支援するのに物理的コーティングを利用する顔料中に、分散剤(例えば、ポリマー、オリゴマー、又は界面活性剤であり得る)を用いるものである。
【0020】
数値又は範囲についていう用語「約」は、測定時に起こり得る実験誤差から生ずる値を包含する意がある。
【0021】
ここで用いるとき、「液体ビヒクル」は、着色剤を基材へと運ぶのに用い得る液体組成物を含むものと定義される。液体ビヒクルは当分野で既知であり、且つ広範囲なインクビヒクルを本発明の実施形態に従って用いることができる。そのようなインクビヒクルは、限定はしないが、界面活性剤、溶媒、共溶媒、緩衝剤、殺生物剤、粘度修正剤、金属イオン封止剤、安定化剤、及び水をはじめとする、様々な各種薬剤の混合物から構成することができる。液体ビヒクルはまた、幾つかの実施形態において、ラテックス微粒子及びその他のポリマー、UV硬化剤、可塑剤、及び/又は共溶媒のような他の添加物も有し得る。用語「液相」及び「水性液」もまた、本発明のラテックス微粒子を保持するのに用いる液体を表すのに用いることができる。液相、液体ビヒクル、及び水性液は、互いに交換して用いることができるが、用語、液相又は水性液は、一般に、インクジェットインク実施形態以外の実施形態(例えば、求核性着色剤の含有前)、生物又は化学的センサーの実施形態等を議論するときに用いられる。
【0022】
本書では、濃度、量、及びその他の数値データを範囲形式にて表現又は提示する場合がある。そのような範囲形式は、便利且つ簡潔のために用いるものであり、範囲の限界として明記した数値を含むだけでなく、各数値及び副範囲があたかも明記されているかのようにその範囲内に包含される個別の数値又は副範囲を全て包含するものと柔軟に解釈されるべきことを理解されたい。例を示せば、「0.1wt%〜5wt%」という濃度範囲は、約0.1wt%〜5wt%という明記された濃度を含むだけでなく、その指示範囲内の個々の濃度及び副範囲を含むものと解釈すべきである。従って、1wt%、2%wt%、3wt%、及び4wt%のような個別濃度、及び0.1wt%〜1.5wt%、1wt%〜3wt%、2wt%〜4wt%、3wt%〜5wt%、等のような副範囲もまた、この数値範囲に含まれる。同じ原理は、1つの数値だけを挙げている範囲にも適用される。例えば、「5wt%未満」として挙げられた範囲は、0wt%と5wt%の間の全ての値及び副範囲を含むものと解釈されるべきである。さらに、上述の解釈は、範囲の大きさ又は記述中の諸特性とは無関係に適用されるべきである。
【0023】
このことを銘記して、表面上に反応性官能基を有するラテックスポリマー微粒子を調製するための実用的な方法を開発することが有益であろうと考えられる。詳細には、これらの反応性官能基は、多くの場合、染料及びその他の分子上に存在するような、求核試薬含有分子と反応し得るエポキシド基である。そのような求核基の例は、第一級アミン(アミノ)、第二級アミン、チオール、ヒドロキシ等である。求核基を含み得る染料以外の、且つラテックス微粒子のエポキシド基と反応し得る分子の例は、バイオセンサー又はバイオ検出、化学センサー等として用いられるもののような生体分子を含む。換言すれば、エポシキド基は、染料分子、生体分子、又はその他の有用な分子をラテックス微粒子の表面へと結合させるのに用い得る。
【0024】
一実施形態において、ラテックス組成物は、その中にエポキシド基官能化ラテックス粒子が分散している水性液から構成することができる。
【0025】
他の実施形態では、エポキシド基官能化ラテックス微粒子を含んでいる懸濁液を生成する方法は、連続親水相と不連続疎水相を含むエマルションを形成するステップを包含することができ、この場合、不連続疎水相は、エポキシド基形成モノマー及び担体形成モノマーのような複数のモノマーを含む。その他のステップは、親水相内に分散されたラテックス前駆体微粒子を形成するためにモノマー群を共重合させ、そしてそのラテックス前駆体微粒子を塩基と反応させてエポキシド基官能化ラテックス微粒子を形成することを含む。
【0026】
他の実施形態では、インクジェットインク組成物は、液体ビヒクルと、その液体ビヒクル中に分散されたエポキシド基官能化ラテックス微粒子と、その液体ビヒクルに分散又は溶解された求核性着色剤とを含むことができる。この実施形態では、求核性着色剤の少なくとも一部は、エポキシド基官能化ラテックス微粒子と反応し得る。当該インクジェットインクを媒体基材上に印刷すると、画像は、着色剤とラテックス微粒子との間の反応がない場合を除けば類似の成分から成るインクジェットインクと比較して、改善された耐久性(例えば、耐スミア性、耐湿性、乾燥擦り汚れ耐性)を示し得る。
【0027】
インクジェットインクを調製する方法は、求核性着色剤をラテックスと混合するステップを含み、この場合、そのラテックスは、液相と、その液相に分散されたエポキシド基官能化ラテックス微粒子とを含む。他のステップとしては、求核性着色剤をエポキシド基官能化ラテックス微粒子と相互作用させて、着色剤で修飾されたラテックス微粒子を形成することが挙げられる。
【0028】
他の実施形態では、センサー用途に使われる組成物は、連続液相と、その連続液相に分散されたエポキシド基官能化ラテックス微粒子と、求核性薬剤又は生物検出分子とを含むことができる。この実施形態では、求核性薬剤又は生物検出分子の少なくとも一部は、エポキシド基官能化ラテックス微粒子と結合し得る。
【0029】
さらに、センサー用組成物を調製する方法は、求核性薬剤又は生体分子をラテックスと混合するステップを含み、この場合、そのラテックスは、連続液相と、その液相に分散されたエポキシド基官能化ラテックス微粒子とを含む。その他のステップとしては、求核性薬剤又は生物分子をエポキシド基官能化ラテックス微粒子と相互作用させて、化学的又は生物検出分子で修飾されたラテックス微粒子を形成することが挙げられる。
【0030】
本発明の実施形態による代表的な例示的調製スキームを、以下の式1〜3に提示する
【0031】
【化1】

【0032】
【化2】

【0033】
【化3】

【0034】
上記の式1〜3において、x、y、及びzは、ポリマー骨格におけるモノマー単位の数を表し、種々のタイプのコポリマーを形成し得る。典型的に、ランダムコポリマーは、上に示したように調製することができる。一実施形態において、x、y、及びzの各々は、個々独立して、2〜5000であり得る。変数zは、式3にのみ適用し得る。同様に、式1〜3の各々において、nは0〜20の範囲とし得、それは、存在するメチレン単位の数を示す。即ち、nが0のとき、1つのメチレン単位があり、nが2のとき、3つのメチレン単位があることを示す。R(及び式3中のR’)は、H、若しくはアルキル、アリール、又は置換アリール基の何れかを表し得る。アルキル基の例としては、メチル、エチル、プロピル(イソプロピルを含む)、ブチル(t−ブチル及びイソブチルを含む)、ペンチル、(直鎖及び分枝鎖を含む)、ヘキシル(直鎖及び分枝鎖を含む)等が挙げられる。LGは、ハロゲン化物、−OMs、−OTs、OTf等(ここで、Msはメシチルであり、Tsはp−トルエンスルホニルであり、そしてTfはトリフルオロメタンスルホニルである)のような、脱離基を表す。それ故、塩基と反応性であり、且つ、脱離すると、エポキシド基をもたらす脱離基は何れも用いることができる。
【0035】
式1〜3には、エポキシド基官能化ラテックス微粒子の一般的な代表的実施形態を示しており、そこでは、ラテックスは、エポキシド基を形成するべく塩基と処理されるエポキシド基形成モノマーを含むコポリマーである。さらに、担体形成モノマーの具体的な種類も示され、これは、インクジェットインク技術において殊に有用であり、例えば、アクリル酸又はアクリレートモノマー及び/又はメタクリル酸又はメタクリレートモノマーである。ラテックス微粒子に膜形成特性を与えるために、これらの膜形成モノマーを含有させることができる。換言すれば、ラテックス微粒子を構成するこれらのモノマーは、媒体基材上にインクを印刷する際に膜を形成するよう作用し得る。そのような膜形成特性は、画像の耐久性に寄与し得る。しかしながら、膜形成特性を又は他の所望の特性(例えば、バルク特性)を有する他の担体形成モノマーも用い得ることに留意されたい。あるいはまた、コポリマーの調製を表した各実施形態を通して、他のモノマーが存在する必要はなく、ホモポリマーを形成し得る。何れの実施形態においても、ラテックス前駆体微粒子がコポリマーの一部であろうとホモポリマーの一部であろうと、塩基と反応すると、ラテックス微粒子中の重合したエポキシド基形成モノマーの一部乃至全部が、エポキシド基を含むように変換され得る。
【0036】
エポキシド基形成モノマー(群)は、塩基と反応しエポキシド基を形成した後は、求核試薬含有染料、化学センサー分子、生物センサー分子等のような求核試薬含有分子を、本発明の実施形態によるラテックス微粒子と反応させるための手段をもたらす。本発明の活性エステル含有ラテックス微粒子に結合し得る求核試薬含有分子の例としては、アミノ基、第二アミン基、チオール基、ヒドロキシ基などのような求核基を有する染料及び他の分子が挙げられる。換言すれば、塩基との重合及び反応によりエポキシド基を形成した後に、染料又は他の分子をラテックス微粒子に結合させることが望まれる場合には、求核成分を含むような分子を選択することができる。エポキシド基官能化ラテックス微粒子を調製する当該方法は、エマルション系に何ら薬剤を付加しないため、ラテックスエマルションは、典型的に、安定なままであり得る。
【0037】
本発明の幾つかの実施形態によるラテックス微粒子の調製は、10,000Mw〜5,000,000Mwの重量平均分子量のラテックス微粒子を含むラテックスエマルションに帰着し得る。この範囲は、単に例示するものであり、先の式1〜3に記載のモノマー数によって示すように、より広範とし得る。さらに、上記処方は、単に例示であって、特定のコポリマーを表したに過ぎない。その他のコポリマーもまた、本発明の実施形態に従って調製することができる。例えば、その他のモノマー(特に示さなかったエポキシド基形成モノマー並びに他の担体形成モノマー)を用いることができる。さらに、ブロックコポリマー、ランダムに構築されたコポリマー、架橋剤含有コポリマー等をはじめとする、種々のポリマーも形成することができる。またさらに、他の種類の官能基を有するモノマーを、官能基を有するか又は有しないその他のモノマーと様々な比で共重合させることによって、様々な結果物をもたらすこともできる。ポリマーを架橋結合するのに架橋剤を用いる場合、得られるラテックス微粒子の用途を考慮し得る。例えば、ラテックス微粒子をインクジェット印刷システムに用いる場合、モノマーに対して0.1wt%〜10wt%の架橋剤を存在させ、それと共重合させることができる。
【0038】
ラテックス微粒子及び液相を含むラテックスの調製、並びにラテックスを含むインクジェットインクの調製は、種々の方法で実施し得ることに留意されたい。一実施形態では、ラテックスの液相とインクの液体ビヒクルとが混合して、ラテックス微粒子及び着色剤を含む改良型の液体ビヒクルを形成することができる。その着色剤が染料の場合、当該染料は、典型的に、液体ビヒクル中で溶媒和される。この実施形態では、インクジェットインク中の固形物の全量は、主として、本発明の実施形態に従って調製されるラテックス微粒子の存在に起因する。一実施形態では、染料は、ラテックスのエポキシド基と反応性である求核基を含むことができ、従って、インクジェットインク中に、染料により修飾されたラテックス微粒子をもたらすことができる。あるいはまた、着色剤には顔料を用いることができる。顔料が自己分散性又は分散剤分散型顔料である場合、ラテックス微粒子と顔料の全固形物含量は、当分野で周知のように、噴射特性のために存在しなければならない相対量を決定する際に考慮すべきである。インクジェットインクを形成するのに着色剤を利用する場合、その方法は、さらに、着色剤を官能基化ラテックス微粒子と反応させて着色剤が結合したラテックス微粒子を形成するステップを包含することができる。
【0039】
あるいはまた、着色剤を使用しないで、むしろ、ラテックスを液体ビヒクルと混ぜ合わせてインク噴射可能な無色の溶液若しくは分散物を形成する場合は、インク噴射可能な保護コーティング材料を形成することができる。この実施形態では、典型的に、インクジェットインクを基材上に噴射して画像を作ることができ、そして保護用としてインク噴射可能な無色の溶液を印刷画像に対して上刷りすることができる。インクジェットインクが求核染料を含む場合、無色の溶液若しくは分散物は、インクジェットインクと無色溶液若しくは分散物層との間の界面で、又は印刷媒体上で液体が混合すると、染料と反応し得る。換言すれば、ラテックス微粒子は印刷画像の上に膜を形成することができ、そしてそのラテックス微粒子がエポキシド基で官能基化される際は、ラテックス微粒子の官能性表面が、印刷されたインクジェットインクの着色剤又はその他の成分と相互作用して、その画像に追加的な保護をもたらし得る。
【0040】
ここに記載するラテックスと共に使用し得る代表的な液体ビヒクル調合物は、水と、任意に、ペンの構造及び/又は当分野で周知の要件に応じて全体で0.1wt%〜30wt%にて存在する1つ以上の共溶媒とから構成することができる。任意に、1つ以上の非イオン、陽イオン、及び/又は陰イオン性界面活性剤を、0.1wt%〜5.0wt%の範囲で、存在させ得る。調合物の残部は、純水であるか、又は殺生物剤、粘度修正剤、pH調節物質、金属イオン封鎖剤、防腐剤等のような、当分野で周知の他のビヒクル成分であり得る。典型的に、液体ビヒクルは、主に水である。
【0041】
用い得る共溶媒の種類としては、脂肪族アルコール、芳香族アルコール、ジオール、グリコールエーテル、ポリグリコールエーテル、カプロラクタム、ホルムアミド、アセトアミド、及び長鎖アルコールが挙げられる。そのような化合物の例には、第一脂肪族アルコール、第二脂肪族アルコール、1,2−アルコール、1,3−アルコール、1,5−アルコール、エチレングリコールアルキルエーテル、プロピレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエーテルの高次同族体、N−アルキルカプロラクタム、未置換カプロラクタム、置換及び未置換の両ホルムアミド、置換及び未置換の両アセトアミド等が含まれる。用い得る溶媒の具体例としては、トリメチロールプロパン、2−ピロリジノン、及び1,5−ペンタンジオールが挙げられる。
【0042】
インク調合分野の当業者に周知のように、多くの界面活性剤のうちの1つ又は複数を用いることができ、それらは、アルキルポリエチレンオキシド、アルキルフェニルポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシドブロックコポリマー、アセチレン系ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド(ジ)エステル、ポリエチレンオキシドアミン、プロトン化ポリエチレンオキシドアミン、プロトン化ポリエチレンオキシドアミド、ジメチコンコポリオール、置換アミンオキシド等であり得る。この発明の調合物に添加される界面活性剤の量は、0wt%〜5.0wt%の範囲とし得る。
【0043】
この発明の調合物のために、その他の各種添加剤を用いて特殊用途に使えるようにインク組成物の諸特性を最適化することができる。これらの添加剤の例は、有害な微生物の成長を阻害するのに添加されるものである。これらの添加剤は、インク調合物に通常用いられる殺生物剤、殺菌剤、及びその他の微生物剤であり得る。適切な微生物剤の例としては、限定はしないが、Nuosept(Nudex,Inc.)、Ucarcide(Union Carbide Corp.)、Vancide(R.T.Vanderbilt Co.)、Proxel(ICI America)、及びそれらの組合せが挙げられる。
【0044】
重金属不純物の有害な影響を除くために、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)のような属イオン封鎖剤を含有させることができ、また、インクのpHを制御するために緩衝剤溶液を用いることができる。例えば、0wt%〜2.0wt%にて用いることができる。粘度修正剤と緩衝剤、並びに当業者に周知の他の添加剤もまた、インクの諸性質を望み通りに変性させるために存在させ得る。そのような添加剤は、0wt%〜20.0wt%にて存在させ得る。
実施例
以下の実施例において、現在知られている本発明の実施形態を説明する。従って、これらの実施例は、本発明を限定する意はなく、現行の実験データに基づいて本発明の最もよく知られた組成物をどのように作るかを単に教示するものである。そういうものとして、代表的な組成物とそれらの製造方法をここに開示する。
【実施例1】
【0045】
エポキシド基を形成する重合可能モノマーの調製
トリエチルアミンの存在下、1:1の比率で1−クロロ−2,4−ジヒドロキシブタンをメタクリロールクロリドと反応させることで、1−クロロ−2−ヒドロキシブチルメタクリレートを得る。この方法は、エポキシド基形成モノマーを有する重合可能モノマーの生成に帰着した。
【実施例2】
【0046】
エポキシド基官能化ラテックス微粒子の調製
実施例1の重合可能なエポキシド基形成モノマー(10wt%)を、メタクリル酸メチル(42wt%)、アクリル酸ヘキシル(42wt%)及びメタクリル酸(6wt%)と混合して、モノマー混合物を形成する。この実施例では架橋剤を使用しないが、架橋剤、例えば、エチレングリコールジメタクリレート(0.5〜10wt%)を用い得ることに留意されたい。該モノマー混合物(約35wt%)を、Rhodafac RS 710界面活性剤(当該モノマーに関して2.5wt%)及び残余の水を用いて乳化する。当該モノマーエマルションを、過硫酸カリウムの水溶性開始剤(当該モノマーに関して約0.4wt%)を含む熱水に滴下添加する。2時間にわたり加熱を続けた後、周囲温度に冷却する。前躯体の形で、ラテックスを水酸化カリウムで中和及び反応させて、エポキシド基を有するラテックス微粒子を得る。形成された微粒子は、ラテックス分散物又はエマルションとして存在する。
【実施例3】
【0047】
インクジェットインクの調製
実施例2で調製したラテックスエマルション(2.5gの固体ポリマーと等価)を、液体ビヒクル(20g)と共に求核染料と混合する。当該液体ビヒクルは、水、2−ピロリドン、及びエチレングリコールから構成される。染料濃度は、約3wt%である。使用に供すべく選択した染料は求核染料を含むので、染料分子がラテックス微粒子の活性エステルと反応し、それによって染料分子の少なくとも一部をラテックス微粒子に結合させる。
【0048】
特定の好ましい実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の趣旨から逸脱することなく、様々な修正、変更、省略、及び置換を成し得ることは当業者には明らかであろう。それ故、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシド基官能化ラテックス微粒子の分散した水性液を含んで成る、ラテックス組成物。
【請求項2】
前記ラテックス微粒子が、
a)共重合後に、エポキシド基を含むように少なくともその一部が変性される、エポキシド基形成モノマー;及び
b)担体形成モノマー、
を含む共重合モノマーを含んで成る、請求項1に記載のラテックス組成物。
【請求項3】
前記担体形成モノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、アクリレート、メタクリレート、及びその組合せから成る群から選択される膜形成モノマーであり、且つ前記エポシキド基形成モノマーが、−CH(OH)−CH−LG基を含み、ここで、LGは脱離基であり、前記脱離基が、塩基と反応すると除去されてエポキシド基が形成されるように構成される、請求項2に記載のラテックス組成物。
【請求項4】
前記脱離基が、ハロゲン化物、−OMs、−OTs、及び−OTf(ここで、Msはメシチルであり、Tsはp−トルエンスルホニルであり、Tfはトリフルオロメタンスルホニルである)から成る群から選択され、且つ前記塩基が、アルカリ水酸化物、アルカリ炭酸塩、トリアルキルアミン、アルカリ金属酸化物、トリエチレンジアミン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデ−7−セン(DBU)、及びその組合せから成る群から選択される、請求項3に記載のラテックス組成物。
【請求項5】
エポキシド基形成モノマー対担体形成モノマーのモル比が、1:1000〜1:10である、請求項1に記載のラテックス組成物。
【請求項6】
前記担体形成モノマーが、複数種のモノマーとして存在する、請求項1に記載のラテックス組成物。
【請求項7】
インクジェットインク組成物であって:
a)液体ビヒクル;
b)前記液体ビヒクル中に分散された前記エポキシド基官能化ラテックス微粒子を含む請求項1〜6の何れか1項に記載のラテックス組成物;及び
c)前記液体ビヒクル中に分散又は溶解している求核性着色剤、
を含んで成り、前記求核性着色剤の少なくとも一部が、前記エポキシド基官能化ラテックス微粒子と反応している、インクジェットインク。
【請求項8】
前記求核性着色剤が、アミノ、第二級アミン、チオール、及びヒドロキシから成る群から選択された求核反応性基を有する染料である、請求項7に記載のインクジェットインク。
【請求項9】
前記求核性着色剤が、アミノ、第二アミン、チオール、及びヒドロキシルから成る群から選択された求核反応性基を有する顔料であることを特徴とする、請求項7に記載のインクジェットインク。
【請求項10】
センサー用途に用いられる組成物であって:
a)請求項1〜6の何れか1項に記載のラテックス組成物であって、
i)連続液相と、
ii)前記連続液相に分散されたエポキシド基官能化ラテックス微粒子と
を含んで成るラテックス組成物;及び
b)求核性の化学的又は生物的検出分子であって、前記求核性の化学的又は生物的検出分子の少なくとも一部が、エポキシド基官能化ラテックス微粒子に結合している、組成物。
【請求項11】
エポキシド基官能化ラテックス微粒子を含む液体懸濁物を生成する方法であって:
a)連続親水相と不連続疎水相とを含むエマルションを形成するステップであって、前記不連続疎水相が複数のモノマーを含み、前記モノマーが、
i)エポキシド基形成モノマー、及び
ii)担体形成モノマー
を含む、ステップ;
b)前記モノマーを共重合させて、前記親水相内に分散されたラテックス前駆体微粒子を形成させるステップ;及び
c)前記ラテックス前駆体微粒子を塩基と反応させて、エポキシド基官能化ラテックス微粒子を形成するステップ、
を包含する、方法。
【請求項12】
前記担体形成モノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、アクリレート、メタクリレート、及びその組合せから成る群から選択された膜形成モノマーであり、且つ前記エポシキド基形成モノマーが、−CH(OH)−CH−LG基を含み、ここで、LGは脱離基であり、前記脱離基が、塩基と反応すると除去されてエポキシド基が形成されるように構成される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記脱離基が、ハロゲン化物、−OMs、−OTs、及び−OTf(ここで、Msはメシチルであり、Tsはp−トルエンスルホニルであり、Tfはトリフルオロメタンスルホニルである)から成る群から選択され、且つ前記塩基が、アルカリ水酸化物、アルカリ炭酸塩、トリアルキルアミン、アルカリ金属酸化物、トリエチレンジアミン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ〔5,4,0〕ウンデ−7−セン(DBU)、及びその組合せから成る群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
エポキシド基形成モノマー対担体形成モノマーのモル比が、1:1000〜1:10である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記担体形成モノマーが、複数種のモノマーとして存在する、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
インクジェットインクを調製する方法であって:
a)求核性着色剤をラテックスと混合させるステップであって、前記ラテックスが、請求項11〜15の何れか1項に従って調製された、液相と、前記液相中に分散されたエポキシド基官能化ラテックス微粒子とを含んで成る、ステップ;
b)前記求核性着色剤を前記エポキシド基官能化ラテックス微粒子と相互作用させて、着色剤で修飾されたラテックス微粒子を形成させるステップ、
を包含する、方法。
【請求項17】
i)前記混合させるステップが、前記ラテックスを、液体ビヒクル及び着色剤を含んで成る予備形成されたインクジェットインクと混合させることを含むか;又は
ii)前記ラテックスが、液体ビヒクルと混合され、前記ラテックスの液相が前記液体ビヒクルの一部となる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記求核性着色剤が、アミノ、第二級アミン、チオール、及びヒドロキシルから成る群から選択される求核反応性基を有する染料又は顔料である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
センサー用途に用いられる組成物を調製する方法であって:
a)求核性薬剤又は生物分子をラテックスと混合させるステップであって、前記ラテックスが、請求項11〜15の何れか1項に従って調製された、連続液相と、前記液相中に分散されたエポキシド基官能化ラテックス微粒子とを含む、ステップ;及び
b)求核性の化学的又は生物的分子をエポキシド基官能化ラテックス微粒子と相互作用させて、化学的又は生物的検出分子で修飾されたラテックス微粒子を形成させるステップ、
を包含する、方法。
【請求項20】
前記ラテックスが、複数のモノマーを乳化共重合させ、塩基で処理して前記エポキシド基官能化ラテックス微粒子を形成させることによって調製され、前記モノマーが、活性なエポキシド基形成モノマーと膜形成モノマーとを含む、請求項19に記載の方法。

【公表番号】特表2008−514765(P2008−514765A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−533769(P2007−533769)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【国際出願番号】PCT/US2005/034901
【国際公開番号】WO2006/037072
【国際公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)
【Fターム(参考)】