説明

エポキシド系組成物

【課題】硬化可能なエポキシド系組成物の提供。
【解決手段】エポキシド及び硬化剤の組み合わせを含み、エポキシドがフェニルグリシジルエーテル系ポリエポキシドから選択され、硬化剤がN−アルカノールピペリジン及びカルボン酸からなる塩化合物であるエポキシド系組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硬化性エポキシド系組成物に関する。より詳細には、本発明は、液体であって、より長いポットライフを有する硬化性エポキシド系組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシド及び硬化剤を組み合わせることにより調製される硬化前の段階におけるエポキシ組成物については、エポキシド及び硬化剤を混合した後も粘度が基本的に長期間変化しないことが好ましい。これは、そのような組成物が、組成物のコーティング、ラミネート加工、注入、ポッティング又は含浸などの使用目的に従って、次の工程を促進できるからである。この性質を有する組成物は理想の実施形態の1つであるから、それらは、次の「硬化」段階を円滑に達成できる。
【0003】
一般に、エポキシド組成物及びポリアミン系硬化剤の混合物が、長期間に亘って残っているときに、それらの材料間で反応が起こり、組成物自体の粘度が上昇して固化をひき起こす現象が起こる。したがって、その組成物は、コーティング、ラミネート加工、注入、ポッティング又は含浸などの実際の使用に供することについて時間的限界を有する。所望の使用手順を行なうことができる状態を維持するために、極限粘度になっていない一定の粘度が保持されている時間を「ポットライフ」、又は可使時間という。より長いポットライフは、長期間の使用が安全に確保できるという点において、好ましい性質である。
【0004】
この点では、固形エポキシド成分及び類似の固形硬化剤成分を含む混合組成物が、長いポットライフ(又は保管寿命)を有することが知られている。これは、硬化の開始が2つの成分の熱溶融に依存しているからである。さらに、液体エポキシド成分中に固形硬化剤成分を分散することにより得られた多数の半液体型組成物が知られており、また、この場合には、硬化剤成分が固体であるから、硬化の開始は、硬化剤成分の熱溶融又は相互溶解による2つの成分の混合に依存している。
【0005】
しかし、この種類の混合組成物は、少なくとも1つの成分が固体であるという事実に起因する欠点を有する。より具体的には、複合材料(例えば、樹脂バインダー及び繊維を含む繊維強化プラスチック)の場合には、樹脂バインダーは、繊維束中に侵入する必要があるが、固体成分が使用されるとき、繊維によるろ過現象が起こり、バインダー成分間の分離を引き起こし、結果として、硬化の失敗をもたらすであろう。そのような失敗が起こると、硬化時間をどのくらい長く維持するか、又は熱量をどのくらい多量に与えるかというような設計を考慮した目的は達成できない。強化材料のために織布などを用いる場合にも同じことが言える。このために、液体エポキシド成分及び液体硬化剤成分を含む完全な液体型組成物の存在が、そのような問題を解決できる材料として非常に重要である。
【0006】
ちなみに、多くの性能を有し、エポキシド及びポリアミン硬化剤成分を含む通常の組成物のポットライフは短く、かつ具体的には数時間に制限される。一般に、短いポットライフを有する組成物では、反応は突然に起こり、硬化状態に達するまでの時間も短い。一方で、長いポットライフを有する組成物では、硬化のために必要な時間は長い。この点において、数十時間程度のポットライフを有し、100℃以下の比較的低い温度範囲(中程度の温度範囲)では硬化性であり、かつ60℃以上に達するガラス転移温度を有する硬化生成物を与える液体エポキシド系組成物は、ほとんど市販されていないので、そのような組成物の開発が必要とされている。
【0007】
共に液体であるエポキシド及び硬化剤を含む上記のような組成物の存在が、給水管、下水管又は他の工業用液体輸送管の内面を保護するためのペイントコーティングか、又は、例えば、有機又は無機繊維若しくはフィルムなどを用いることにより、パイプ強化材としても機能する保護ライニングなどを積層するための屋外構築物を可能にする。具体的には、この組成物は、既に地下に埋まっている液体輸送管を掘り出すことなく行なわれる管の内面の修繕作業などに有効である。
【0008】
通常、作業の一単位としてマンホールとマンホールの間の区画を定めることにより、これらの埋設管の修繕作業が行なわれる。作業手順は、順に、管の内側に残っている古いコーティングの機械的除去、水による洗浄、乾燥、樹脂成分のコーティング、温風又は温水を用いることによる反転した繊維又はフィルムの散布、及び温風又は温水による所定の温度の維持を含む。繊維又はフィルムを用いて修繕作業を行なう際に、短い作業区画の場合には、管の内側への接着剤のコーティング及び反転した円筒状繊維又はフィルムの散布によるラミネート加工は、組成物のポットライフが短いときでさえも、深刻な問題を起こさずに行なわれるが、長い作業区画の場合には、数十時間に亘る長時間を要し、接着剤は、接着剤をコーティングして繊維又はフィルムを散布するプロセスの全期間を通して、安定状態を維持し、かつ次の適度な温度範囲において必要な性能を有する程度まで十分に硬化しなければならない。この性質を実現するには困難を伴う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
水又は他の流体媒質を輸送するために使われる管の修繕については、そのような管の鉄又はコンクリートの内壁に適用される複合系に適したバインダーがない。現在の技術は、適切な可使時間(ポットライフ)を提供できず、バインダー中で利用された化学物質(例えば、メルカプタン、アクリロニトリル)から臭気又は毒性の問題を招き、その硬化プロセス(例えば、UV硬化)のために多層及び不透明なフィルム/複合体に適用できない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるエポキシド系組成物は、エポキシド成分(成分A)及び硬化剤成分(成分B)を含む:
(A) フェニルグリシジルエーテルポリエポキシドを含むエポキシド成分;並びに
(B) N−アルカノールピペリジン及びカルボン酸から形成された少なくとも1つの塩化合物を含む硬化剤成分。
【0011】
また、本発明によるエポキシド系組成物は、フェニルグリシジルエーテルポリエポキシドと組み合わされるべき成分としてその分子内にオキシラン環を有する少なくとも1つの1官能又は多官能エポキシドを含んでよい。
【0012】
本発明による硬化性エポキシド系組成物は、エポキシ成分及び硬化剤成分の混合後でさえも、長期間に亘って混合物の未硬化状態を維持することができ、それによって、次の工程(又は操作)における組成物の使用まで、組成物が長期間に亘り安定状態で粘度を維持することができるようにするという利点を有する。さらに、その硬化では、本発明による硬化性エポキシド系組成物は、適度な(又は中程度の)温度範囲での加熱下でさえも、十分な性能を示すことができる。
【0013】
本エポキシド系組成物は、エポキシド成分及び硬化剤成分の混合後の未硬化状態が長期間維持され、コーティング、挟み込み、含浸及び注入などの次のプロセスが緩やかに行なわれ、さらに後の硬化が100℃以下の比較的低温でさえも行なわれることを確実にするで、埋設管の修繕及び修復作業には非常に重要かつ有用である。
【0014】
本発明は、流動性(未ゲル化)状態が、エポキシド成分及び硬化成分の混合後に長期間(例えば、24時間以下の期間)維持され、かつ16時間以内の粘度の変化が混合時のものの2倍を超えないことを確実にするエポキシド系組成物を提供し、その組成物の次の適用及び塗布を促進するであろう。また、本発明は、エポキシド系組成物が「好ましい」流動性状態を維持した後に、適度な温度範囲の熱水又は熱気などの熱媒体を用いることによって、その組成物を硬化できるようなエポキシド系組成物も提供する。
【0015】
本発明由来のバインダー系は、流体状態を維持しながら大気温度で24時間以下のポットライフを提供し、100℃以下で硬化し、最終系として70℃のTgを達成し、そして混合バインダーとして良好な接着力をコンクリート及び鉄の物質に提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によるエポキシド系組成物は、エポキシド化合物及び硬化剤成分の混合後に、流動性状態が長期間(例えば、24時間以下の期間)維持され、かつ16時間以内の粘度の変化が混合時のものの2倍を超えないことを確実にし、そして組成物の次の適用及び拡散を促進できる。
【0017】
さらに、エポキシド系組成物が「好ましい」流体状態を維持した後、適度な温度範囲の温水又は温風などの熱媒体を用いることにより、その組成物を硬化できる。
【0018】
したがって、本発明によるエポキシド系組成物は、高温域での硬化により性能が悪くなる様々な電気部品への適用、又は様々な液体のための導管のような埋設管の修繕作業への適用を可能にする。
【0019】
さらに、本発明によるエポキシド系組成物は、埋設管を掘り出すことなく行なわれる修繕作業、それから高温での硬化によって製品の高温性能が悪くなる電子部品などの製造への使用に効果的である。
【0020】
以下では、本発明を詳細に説明するものである。次の説明では、定量的な割合又は比率を表している「%」及び「部」は、特に示さない限り、質量に基づくものである。
【0021】
本発明によるエポキシド系組成物は、エポキシド成分(成分A)及び硬化剤成分(成分B)を含むが、エポキシド成分はフェニルグリシジルエーテル系ポリエポキシドを含み;そして硬化剤成分はN−アルカノールピペリジン及びカルボン酸から形成された少なくとも1つの塩化合物を含む。
【0022】
本発明によるエポキシド系組成物は、次の性質(1)〜(3)を有してよい。
【0023】
性質1
実施例で使用される条件下では、16時間以内の本発明によるエポキシド系組成物の粘度の変化が、成分A及びBの混合時のものの2.2倍以下(好ましくは1.9倍以下、特に1.4倍以下)である。
【0024】
性質2
実施例で使用される条件下では、本発明によるエポキシド系組成物のTg(ガラス転移温度)が、60℃で24時間の硬化後に、少なくとも60℃、より好ましくは、少なくとも70℃でよい。80℃で16時間の硬化後のエポキシド系組成物のTg(ガラス転移温度)は70℃、より好ましくは80℃でよい。
【0025】
性質3
実施例で使用される条件下では、60℃で24時間の硬化後の本発明によるエポキシド系組成物のせん断接着強度は、10N/mm以上、好ましくは13N/mm以上でよい。
【0026】
本発明の組成物のエポキシド成分(A)は、分子内に複数のオキシラン構造を有し、かつアミンとの反応性を有するフェニルグリシジルエーテルエポキシドであり、その例は、次のものを含んでよい:
【0027】
ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF又はビフェノールなどのジフェノールをエピクロロヒドリンと反応させることにより生成する芳香族ジグリシジルエーテル;フェノールノボラック、クレゾールノボラック、エチルフェノールノボラック、プロピルフェノールノボラック、ブチルフェノールノボラック、ペンチルフェノールノボラック、オクチルフェノールノボラック又はノニルフェノールノボラックなどのノボラックをエピクロロヒドリンと反応させることにより得られるグリシジルエーテル;及びカテコール、レゾルシン、トリヒドロキシビフェノール、ジヒドロキシベンゾフェノン、ビスレゾルシノール、ヒドロキノン、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン、テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタン又はビスフェノールなどの多価フェノールをエピクロロヒドリンと反応させることにより得られるグリシジルエーテル。
【0028】
上記エポキシ化合物の中で、本発明で好ましく使用されるエポキシは、ビスフェノールA及びビスフェノールFのジグリシジルエーテルである。
【0029】
フェニルグリシジルエーテルエポキシドと併用できるエポキシドの例は、必要に応じて、次のものを含んでよい:
【0030】
(1)グリコール、ネオペンチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサングリコール、ポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールなどの脂肪族多価アルコールをエピクロロヒドリンと反応させることにより生成するポリグリシジルエーテル;
【0031】
(2)p−オキシ安息香酸又はβ−オキシナフトエ酸などのヒドロキシカルボン酸をエピクロロヒドリンと反応させることにより生成するグリシジルエーテルエステル;
【0032】
(3)フタル酸、メチルフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロキシフタル酸、ヘキサヒドロキシフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、エンドメチレンヘキサヒドロキシドロフタル酸、トリメリット酸、ダイマー酸又は重合脂肪酸などのポリカルボン酸をエピクロロヒドリンと反応させることにより生成するポリグリシジルエステル;
【0033】
(4)アミノ安息香酸をエピクロロヒドリンと反応させることにより生成するジグリシジルアミノエステル;及び
【0034】
(5)アニリン、トルイジン、m−キシレンジアミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、4,4−ジアミノジフェニルエーテル、4,4−ジアミノジフェニルメタン、4,4−ジアミノジフェニルスルホン、ヒダントイン、アルキルヒダントイン又はシアヌル酸をエピクロロヒドリンと反応させることにより生成するポリグリシジルアミン。
【0035】
また、必要に応じて、分子内に1つのオキシラン環を有するモノエポキシド(それは、必要不可欠なエポキシド組成物ではない)を併用してよい。このモノエポキシドの例は、ブチルグリシジルエーテル、C8−C18脂肪族アルコールのグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アルキルフェニルグリシジルエーテル及び安息香酸グリシジルエステルを含んでよい。
【0036】
本発明のエポキシド系組成物を構成している硬化剤成分(成分B)は、三級アミン塩であり、N−アルカノールピペリジン(成分B1)及びカルボン酸(成分B2)の塩形成物でよい。
【0037】
成分B1
N−アルカノールピペリジン(成分B1)は、ピペリジン分子の窒素原子に対するC2−C4アルカノール基の直接結合により調製してよい。本合成分野で周知なように、この成分は、C2−C4アルキレンオキシド、特にエチレンオキシド又はプロピレンオキシドをピペリジンに付加反応させることにより生成できる。
【0038】
好ましい三級アミンは、N−エタノールピペリジン及びN−プロパノールピペリジンを含む。
【0039】
成分B2
本発明の硬化剤成分としての三級アミン塩のカルボン酸(成分B2)は、1価又は多価有機カルボン酸でよく、その例は次のものを含んでよい:
【0040】
酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノレイン酸、酸、合成脂肪酸、脂肪酸の粗原料(例えば、ココナッツ油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、トール油脂肪酸、ぬか油脂肪酸、大豆油脂肪酸、牛脂脂肪酸など)、及びこれら由来の重合脂肪酸(ダイマー酸);並びに
【0041】
二塩基酸(例えば、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二塩基酸、リノレン酸若しくはリノレイン酸など)、又はこれらのディールズ・アルダー反応物から合成されるか、若しくはアクリル酸によって重合されるか、若しくはブタジエン及びスチレンのコポリマーに由来する多塩基酸。
【0042】
成分B2と等価のカルボン酸が、成分B1としてのN−アルカノールピペリジンの1モル当たり0.2〜1.1当量である関係を満たすように、本発明のエポキシド系組成物の構成成分としての成分Bを規定してよい。この関係を除いて規定された硬化剤の場合には、長いポットライフ及び次の100℃以下での円滑な硬化(これは本発明の目的である)を期待できない。
【0043】
エポキシド成分(A)と硬化剤成分(B)の比については、硬化剤成分(B)の量は、ポリエポキシド成分(A)100重量部当たり1〜50重量部、又は5〜20重量部である。成分Bの量が上記の範囲未満であるならば、成分(A)及び成分(B)の混合後の非常に長いポットライフを期待してよいが、次の硬化には長時間かかり、実用的ではない。一方、硬化剤成分(B)が上記の範囲を超えて混合されるならば、成分(A)及び成分(B)の混合後の硬化は迅速に進むかもしれないが、作業に必要なポットライフは短くなり、実用的ではない。
【0044】
粘度を調整するための溶媒を、本発明の組成物に加えてよい。溶媒の例は、ヘプタン、ヘキサン及びシクロヘキサンなどの脂肪族溶媒;トルエン、キシレン、エチルベンゼン及びアルキルベンゼンなどの芳香族溶媒;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソ−プロパノール、n−ブタノール、イソ−ブタノール、s−ブタノール、エチレングリコール、エチレングリコールのモノ又はジ−アルキルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールのモノ又はジ−アルキルエーテル、ベンジルアルコール及びシロクヘキシルアルコールなどのアルコール;並びにメチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンなどのケトンを含んでよい。
【0045】
さらに、本発明の組成物には、必要に応じて、可塑剤、充填剤、色材、増量剤、顔料、有機又は無機繊維、シリコーン、管本体への接着を高めるためのチタン酸塩若しくはアルミニウムカップリング剤、チキソトロピー剤などを併用してよい。
【実施例】
【0046】
硬化剤Aの調製
反応容器内で市販のアゼライン酸(9.4g)及び12.9gのN−エタノールピペリジン(NHEP)を混ぜて、70℃の加熱下で振とうすることにより完全に混合した。生成物は黄褐色の液体であり、25℃で3,300ミリパスカル・秒(mPa・s)の粘度を有した。
【0047】
硬化剤Bの調製
同様に、4.7gのアゼライン酸、6.15gの2−エチルヘキサン酸及び12.9gのN−エタノールピペリジンを加え、70℃の加熱下で振とうすることにより完全に混合した。生成物は黄褐色であり、610mPa・sの粘度を有した。
【0048】
硬化剤C〜Pの調製
硬化剤A及びBと同様に、選択した脂肪酸及びN−エタノールピペリジンを反応させた。全ての生成物は、黄褐色〜黒褐色の範囲の液体であった。処方によって変わる25℃の粘度、及び得られた結果を表1に示す。
【0049】
実施例では、選択したエポキシド(これは単体又は混合物として使用された)及び硬化剤の調製例において調製された硬化剤を含む組成物を、性能について試験した。
【0050】
実施例で使用されたエポキシ化合物は次の通りである:
・エポキシドA:Epikote828、ビスフェノールA−型ジエポキシド、日本エポキシ株式会社製、W.P.E:約190
・エポキシドB:Epiclon830、ビスフェノールF−型ジエポキシド、DIC社製、W.P.E:約175
・エポキシドC:Epodil757、ブタンジグリコールジエポキシド、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製、W.P.E.:約166
・エポキシドD:Epodil748、12〜14の炭素数を有するアルキルモノエポキシド、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製、W.P.E.:約230
【0051】
ポットライフとしての粘度の試験
合計約20gのエポキシド及び硬化剤を紙コップに秤量し、コンディショニング・ミキサーMX−201(THINKY社製)を用いて完全に混合した。その後に、ブルックフィールドE−型粘度計を用いて、25℃での粘度を測定し、混合の初期段階における粘度として使用した。この混合物を25℃に保ち、16時間後、再び粘度を測定した。その結果から、16時間後の粘度と初期粘度の間の変化率を決定した。
【0052】
硬化性試験としてのガラス転移温度(Tg)の試験
示差走査熱量測定(DSC)のために、粘度の試験で混合した直後のサンプルをアルミニウム容器に秤量(ほぼ0.02g)して、加熱オーブン内において60℃で24時間又は80℃で16時間硬化させた。加熱の終了後、これを完全に冷却して、DSC測定のサンプルとして使用した。室温から120℃まで10℃/分の温度上昇速度の加熱条件下で、DSCの走査を行なった。
【0053】
せん断接着強度の試験
ポットライフの試験のサンプルを調製したとき、そのサンプルを用いて、せん断接着強度試験のための試料を調製した。その試料のために、JIS G 3141で特定された軟鋼板を紙やすりで研磨して使用した。60℃及び24時間の硬化条件を用いた。その後に、シナズ(Shinazu)社製の自動記録試験装置を用いることにより、ヘッドスピードの単位として10℃/分の試験で、25℃の室内で破壊試験を行なった。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例1
表2に示したように、Epikote828エポキシ樹脂(16g)、Epodil757エポキシ樹脂(4g)及び硬化剤処方例A(2g)を紙コップに秤量して、完全に混合した。混合物の初期粘度を試験して、16時間後の粘度も試験した。さらに、上記の混合直後のサンプルからDSC試験用サンプルを調製し、同時に、せん断接着強度のための試料を形成した。結果を表2に示す。
【0056】
実施例2〜18
エポキシド樹脂及び原料並びにそれらの比を変えることにより合成された硬化剤について、実施例1と同じ試験を行なった。結果を表2及び表3に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
下記の通り、先行技術で説明されている埋設管の修繕のためのエポキシド系組成物について、比較例を実行したところ、結果は本発明の優位性を明示している。
【0060】
比較例1
Epikote828エポキシ樹脂(16g)、Epodil757エポキシ樹脂(4g)及びAncamide2050硬化剤(3.8g)(エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製)を紙コップに秤量し、ミキサーを用いて完全に混合した。この混合物を実施例と同じ手法で粘度の変化率について試験したところ、結果として、初期粘度は2,890mPa・sであったが、16時間後に固化が起こった。
【0061】
比較例2
比較例1と同様に、Epikote828エポキシ樹脂(16g)、Epodil757エポキシ樹脂(4g)及びAncamide375A硬化剤(2.15g)(エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製)を紙コップに秤量し、ミキサーを用いて完全に混合した。この混合物を実施例と同じ手法で粘度の変化率について試験したところ、結果として、初期粘度は2,920mPa・sであったが、16時間後に固化が起こった。
【0062】
比較例3
16gのEpikote828エポキシ樹脂及び4gのEpodil757エポキシ樹脂、並びに38gのN−アミノエチルピペラジン、71gのジメチルアミノプロピルアミン及び130gのブチルグリシジルエーテルから合成された硬化剤(6g)の混合物を紙コップに秤量し、ミキサーを用いて完全に混合した。この混合物の粘度を測定したところ、540mPa・sであることが分かったが、16時間後に固化が起こった。
【0063】
比較例4
16gのEpikote828エポキシ樹脂及び4gのEpodil757エポキシ樹脂と、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール及び2−エチルヘキサン酸からなる60gの塩化合物(Ancamine K16B)、100gのビスフェノール−A並びに70gのベンジルアルコールから合成された硬化剤(4g)との混合物を紙コップに秤量して、ミキサーを完全に混合した。この混合物の初期粘度は1,970mPa・sであり、16時間後の粘度は6,460Pa・sであり、変化率は3.3倍であった。
【0064】
比較例5
16gのEpikote828エポキシ樹脂及び4gのEpodil757エポキシ樹脂、並びに85gのピペリジン、272gのベンジルアルコール、60gのEpikote828エポキシ樹脂及び217gのビスフェノール−Aから合成された硬化剤(3.0g)の混合物を紙コップに秤量して、ミキサーを用いて完全に混合した。この混合物の初期粘度は1,620mPa・sであり、16時間後の粘度は7,000mPa・sであり、変化率は4.3倍であった。
【0065】
表2及び表3に示した結果から明らかなように、エポキシド及びN−アルカノールピペリジンとカルボン酸の塩からなる組成物は、初期粘度で比較したときに、エポキシ成分及び硬化剤成分の混合後16時間以内で粘度の変化率を約2倍以下に保ち、さらには24時間の経過後でさえも液体状態が保持されるほど長いポットライフを示した。さらに、100℃以下の温度で硬化した組成物は、得られたガラス転移温度が実用域の70℃以上であるものとして十分に硬化する。さらに、上記組成物から選択された同一組成物について軟鋼板を用いて行なわれたせん断接着試験の結果は、十分に高い接着強度を示す。
【0066】
一方で、先行技術で示された全ての市販の硬化性エポキシド系組成物は、16時間後の粘度の変化率について2倍以上の数値を示しており、これらの組成物のポットライフが十分ではないことが分かった。また、硬化生成物のガラス転移温度も不十分であった。
【0067】
本発明のエポキシド系化合物は、その性能に関して新規性を有することが、これらの結果から明らかである。本発明の組成物は、特異的に長いポットライフを有し、そして100℃以下の低温域における事後的な硬化を達成し、かつ70℃以上に達する実用温度になっているガラス転移温度を有する硬化生成物を与えることを可能にする。
【0068】
さらに、本発明の組成物は液体であり、それ故に、織布、繊維などを併用する複合材料に対するバインダーとして利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子内にオキシラン構造の少なくとも1つのエポキシド基を有する少なくとも1つのフェニルグリシジルエーテルポリエポキシドを含むエポキシド成分;及び
(B)N−アルカノールピペリジン及びカルボン酸から形成された少なくとも1つの塩化合物を含む硬化剤成分
を含み、
硬化剤成分(B)の量が、エポキシド成分(A)100重量部当たり1〜50重量部である、エポキシド系組成物。
【請求項2】
エポキシド成分(A)が、フェニルグリシジルエーテルポリエポキシド以外のエポキシド化合物をさらに含む、請求項1に記載のエポキシド系組成物。
【請求項3】
他のエポキシド化合物が、グリシジルエーテル、グリシジルエステル及びグリシジルアミンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物である、請求項2に記載のエポキシド系組成物。
【請求項4】
N−アルカノールピペリジンが、N−ピペリジンエタノール及びN−ピペリジンプロパノールからなる群から選択される、請求項1に記載のエポキシド系組成物。
【請求項5】
N−アルカノールピペリジンが、N−ピペリジンエタノール及びN−ピペリジンプロパノールからなる群から選択される、請求項2に記載のエポキシド系組成物。
【請求項6】
N−アルカノールピペリジンが、N−ピペリジンエタノール及びN−ピペリジンプロパノールからなる群から選択される、請求項3に記載のエポキシド系組成物。
【請求項7】
硬化剤成分を構成しているN−ピペリジンアルカノールがN−ピペリジンエタノールである、請求項4に記載のエポキシド系組成物。
【請求項8】
N−ピペリジンアルカノールがN−ピペリジンエタノールである、請求項5に記載のエポキシド系組成物。
【請求項9】
N−ピペリジンアルカノールがN−ピペリジンエタノールである、請求項6に記載のエポキシド系組成物。
【請求項10】
(A)分子内にオキシラン構造の少なくとも1つのエポキシド基を有する少なくとも1つのフェニルグリシジルエーテルポリエポキシドを含むエポキシド成分;及び
(B)N−アルカノールピペリジン及びカルボン酸から形成された少なくとも1つの塩化合物を含む硬化剤成分
を含み、
硬化剤成分(B)の量が、エポキシド成分(A)100重量部当たり5〜20重量部である、エポキシド系組成物。

【公開番号】特開2010−202874(P2010−202874A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−43738(P2010−43738)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】