説明

エポキシ基を有するポリオキシアルキレン系重合体および、その硬化性組成物

【課題】末端にエポキシ基を有するポリオキシアルキレン系重合体を経済的に安価に製造する方法を提供する。
【解決手段】末端に不飽和基を有する数平均分子量が3,000以上のポリオキシアルキレン系重合体(a)を酸化することにより製造されることを特徴とする、下記一般式(1)で表される基を主鎖末端に有する数平均分子量が3,000以上のポリオキシアルキレン系重合体(A)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末端にエポキシ基を有するポリオキシアルキレン系重合体の製造方法および、その硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機重合体の中で、ポリオキシアルキレン系重合体は、比較的粘度が低いために作業性が優れ、得られる硬化物も良好なゴム弾性を示すことが特徴である。このようなことから、末端に加水分解性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体は、シーリング材、接着剤、塗料などの用途に広く使用されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
ポリオキシアルキレン系重合体の末端官能基としては、上記加水分解性シリル基の他に(メタ)アクリロイルオキシ基(特許文献2)、エポキシ基(特許文献3)などUV、電子線、加熱等の活性エネルギー線を照射することにより反応が進行する官能基が導入され、使用されている。またポリオキシアルキレン系重合体の硬化物の機械特性は、重合体の分子量により大きく影響される。一般的に、硬化物を形成する3次元網目構造において、架橋点間分子量が大きいと、良好な伸縮性が得られる傾向にある。架橋点間分子量が大きい硬化物を得るためには、分子量が大きい重合体を使用することが挙げられる。しかしながら、エポキシ基を有し、分子量が大きいポリオキシアルキレン系重合体は、特許文献3に見られるのみであり、光硬化性組成物に限定しなければ特許文献4〜6に見られるのみで、一般的には、分子量が小さい重合体が使用されている。このような分子量が小さい重合体から得られる硬化物は、伸縮性が劣る傾向にある。また、特許文献3に見られるエポキシ基を有するポリオキシアルキレン系重合体の製造では、ヒドロシリル基とエポキシ基の両方を有する化合物を、末端不飽和基とヒドロシリル化反応させることによりエポキシ基を導入している。しかしヒドロシリル基とエポキシ基の両方を有する化合物を合成するため工業的に不利である。またヒドロシリル化反応には非常に高価な遷移金属触媒を使用するため、経済的にも不利である。また重合体両末端にエポキシ基を1つずつ導入する際は、ヒドロシリル基とエポキシ基をそれぞれ1つずつ有する化合物を合成する必要があり製造工程が長くなるし、選択性の問題から収率が向上しないという課題があった。さらにヒドロシリル基を含有する化合物を使用するため、低分子環状シロキサンを含み、電気・電子用途では電気絶縁性が低下する課題があった。また、特許文献4に見られるエポキシ基を有するポリエーテルは、エポキシ基がランダムに導入されているため、例え分子量の大きいポリオキシアルキレン系重合体を使用しても、架橋点間分子量は決して大きいとは限らないために硬化物物性(特に伸縮性)が良好でないことが課題であった。さらに特許文献5では、高分子量のポリエーテルにエポキシ基を導入しているが、熱可塑性ポリエーテルのために加温設備が必要となるという課題があった。また文献5では、エポキシ基の導入反応が制御するのが難しく、またエポキシ基含有ポリヒドロキシポリエーテル樹脂の分子構造も制御されていない。最後に特許文献6では、イソシアネート基を使用してエポキシ基含有ポリエーテル等を合成しているが、有毒性のイソシアネート化合物を使用しなければならず、また極性基のウレタン結合が生成するために同一分子量で比較した場合に高粘度になる傾向があり、取り扱いが困難であるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭52−73998号公報
【特許文献2】特開平4−7330号公報
【特許文献3】特開2004−143200公報
【特許文献4】特開2003−176326公報
【特許文献5】特開平7−258383公報
【特許文献6】特開平1−48928公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、エポキシ基を末端に有するポリオキシアルキレン系重合体およびその硬化性組成物を、効率的かつ経済的に安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記の課題を解決するため鋭意検討した結果、以下のことを見出して本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は以下のものである。
【0008】
(I)
末端に不飽和基を有する数平均分子量が3,000以上のポリオキシアルキレン系重合体(a)を酸化することにより製造されることを特徴とする、エポキシ基を主鎖末端に有する数平均分子量が3,000以上のポリオキシアルキレン系重合体(A)。
【0009】
(II)
末端に不飽和基を有する数平均分子量が3,000以上のポリオキシアルキレン系重合体(a)が、末端に水酸基を有するポリオキシアルキレン系重合体の末端水酸基をオキシメタル化後、一般式(2):
X−R4−C(R3)=CR12 (2)
(式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜10の1価の炭化水素基、又は、2つの炭化水素基がエーテル結合もしくはエステル結合で結合されてなる炭素数1〜10の1価の基を表すが、R1及びR2、又はR2及びR3の他端が相互に結合し、環構造を形成していても構わない。R4は直接結合または炭素数1〜20の2価の炭化水素基、又は、2つの炭化水素基がエーテル結合もしくはエステル結合で結合されてなる炭素数1〜10の2価の基を表し、R2及びR4、又はR3及びR4の他端が相互に結合し、環構造を形成していても構わない。Xはハロゲン原子。)
で示される不飽和基含有化合物を反応させることにより製造されることを特徴とするポリオキシアルキレン系重合体(A)。
【0010】
(III)
エポキシ基を主鎖末端に有するポリオキシアルキレン系重合体(A)、及びエポキシ樹脂系硬化剤(B)を含むことを特徴とするエポキシ樹脂系組成物。
【0011】
(IV)
エポキシ基を主鎖末端に有するポリオキシアルキレン系重合体(A)、及びカチオン系光開始剤(E)を含むことを特徴とする光硬化性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、簡便なプロセスにより、また低コストでエポキシ末端ポリオキシアルキレン系重合体および、その硬化性組成物を与える。この硬化性組成物は優れた靭性を有する硬化物を与える。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0014】
本発明は末端に不飽和基を有する数平均分子量が3,000以上のポリオキシアルキレン系重合体(a)を酸化することにより製造されることを特徴とする、下記一般式(1)で表される基を主鎖末端に有する数平均分子量が3,000以上のポリオキシアルキレン系重合体(A)である。
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜10の1価の炭化水素基、又は、2つの炭化水素基がエーテル結合もしくはエステル結合で結合されてなる炭素数1〜10の1価の基を表すが、R1及びR2、又はR2及びR3の他端が相互に結合し、環構造を形成していても構わない。R4は直接結合または炭素数1〜20の2価の炭化水素基、又は、2つの炭化水素基がエーテル結合もしくはエステル結合で結合されてなる炭素数1〜10の2価の基を表し、R2及びR4、又はR3及びR4の他端が相互に結合し、環構造を形成していても構わない。)
一般式(1)で表されるエポキシ基は、特に限定されるものではないが、反応性の点から、一般式(3)〜(6)であることが好ましく、更には一般式(3)、(5)で表される構造が原料の入手性の点から、より好ましい。
【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
【化4】

【0020】
【化5】

【0021】
ポリオキシアルキレン系重合体(A)の主鎖骨格としては、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシテトラメチレン、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシプロピレン−ポリオキシブチレン共重合体などを使用することができる。
【0022】
ポリオキシアルキレン系重合体(A)は直鎖状、または分岐を有しても良く、その数平均分子量はGPCにおけるポリスチレン換算において3,000から100,000、より好ましくは3,000から50,000であり、特に好ましくは3,000から30,000である。数平均分子量が3,000未満では、硬化物の伸縮性の点で不都合な傾向があり、100,000を越えると、高粘度となる為に作業性の点で不都合な傾向がある。
【0023】
ポリオキシアルキレン系重合体(A)の分子量分布は特に限定されないが、狭いことが好ましく、2.00未満が好ましく、1.60以下がより好ましく、1.40以下が特に好ましい。分子量分布が大きくなると、粘度が高くなり、それゆえ作業性が悪くなる傾向がある。
【0024】
ポリオキシアルキレン系重合体(A)のガラス転移温度は、特に限定は無いが、20℃以下であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましく、−20℃以下であることが特に好ましい。ガラス転移温度が20℃を上回ると、冬季または寒冷地での粘度が高くなり、取り扱い難くなる可能性があり、また、硬化物の柔軟性が低下し、伸びが低下する可能性がある。前記ガラス転移温度はJISK7121規定の測定方法に則ったDSCの測定により求めることができる。
【0025】
ポリオキシアルキレン系重合体は、本質的に一般式(7):
−R11−O− (7)
(式中、R11は炭素原子数1から14の直鎖状もしくは分岐アルキレン基である。)で記載される繰り返し単位を有する重合体であり、一般式(7)中に記載のR11は、炭素原子数1から14の直鎖状もしくは分岐状アルキレン基が好まく、2から4の直鎖状、もしくは、分岐状アルキレン基がより好ましい。一般式(7)に記載の繰り返し単位としては、特に限定はなく、例えば、
【0026】
【化6】

【0027】
などが挙げられる。ポリオキシアルキレン系重合体(A)の主鎖骨格は、1種類だけの繰り返し単位からなっても良いし、2種類以上の繰り返し単位からなっても良い。特に粘接着製品などに使用される場合には、プロピレンオキシド重合体を主成分とする重合体から成るものが、非晶質であることや比較的低粘度であることから好ましい。
【0028】
ポリオキシアルキレン系重合体の合成法としては、特に限定されず、例えば、KOHのようなアルカリ触媒による重合法、特開昭61−215623号公報に示される有機アルミニウム化合物とポルフィリンとを反応させて得られる錯体のような遷移金属化合物−ポルフィリン錯体触媒による重合法、特公昭46−27250号、特公昭59−15336号、米国特許3278457号、米国特許3278458号、米国特許3278459号、米国特許3427256号、米国特許3427334号、米国特許3427335号などの各公報に示される複合金属シアン化物錯体触媒による重合法、特開平10−273512号公報に示されるポリホスファゼン塩からなる触媒を用いる重合法、特開平11060722号公報に示されるホスファゼン化合物からなる触媒を用いる重合法などが挙げられる。
【0029】
末端に不飽和基、水酸基を有するポリオキシアルキレン系重合体の主鎖の骨格、合成法についても、上記のポリオキシアルキレン系重合体(A)と同様のことが言える。
この他、オキシアルキレン系重合体の主鎖骨格は、水酸基末端オキシアルキレン系重合体を塩基性化合物、例えばKOH、NaOH、KOCH3、NaOCH3等の存在下、2官能以上のハロゲン化アルキル、例えばCH2Cl2、CH2Br2等による鎖延長等によっても得ることができる。
【0030】
さらに、上記オキシアルキレン系重合体の主鎖骨格中にはオキシアルキレン系重合体の特性を大きく損なわない範囲でエステル結合成分等の他の成分を含んでもよい。
末端に不飽和基を有する数平均分子量が3,000以上のポリオキシアルキレン系重合体(a)の製造方法としては、一般に知られている方法で問題なく、特に限定されるものではないが、上記重合法によって得られた水酸基末端オキシアルキレン系重合体に、不飽和結合を有する化合物を反応させて、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合などにより導入させる方法が挙げられる。
【0031】
例えば、上記重合法によって得られた水酸基末端オキシアルキレン系重合体を不飽和基末端に変換する場合は、水酸基末端を塩基性化合物、例えばKOH、NaOH、KOCH3、NaOCH3等により−ONaや−OKなどのオキシメタル基にした後、一般式(2):
X−R4−C(R3)=CR12 (2)
(式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜10の1価の炭化水素基、又は、2つの炭化水素基がエーテル結合もしくはエステル結合で結合されてなる炭素数1〜10の1価の基を表すが、R1及びR2、又はR2及びR3の他端が相互に結合し、環構造を形成していても構わない。R4は炭素数1〜20の2価の有機基。Xはハロゲン原子。)で示される不飽和基含有化合物を反応させる方法が挙げられる。
【0032】
一般式(2)で示される不飽和基含有化合物としては、特に限定されるものではないが、例えばCH2=CH−CH2−Cl、CH2=CH−CH2−Br、CH2=CH−(CH22−Cl、CH2=CH−(CH22−Br、CH2=CH−(CH23−Cl、CH2=CH−(CH23−Br、CH2=C(CH3)−CH2−Cl、CH2=C(CH3)−CH2−Br、CH2=C(CH2CH3)−CH2−Cl、CH2=C(CH2CH3)−CH2−Br、一般式(8)〜(15)等が挙げられ、特に反応性と入手性の点から、CH2=CH−CH2−Cl、CH2=C(CH3)−CH2−Cl、一般式(8)〜(15)が好ましい。
【0033】
【化7】

【0034】
【化8】

【0035】
【化9】

【0036】
【化10】

【0037】
【化11】

【0038】
【化12】

【0039】
【化13】

【0040】
【化14】

【0041】
不飽和基の導入法としては、これ以外にアリル基やシクロヘキセニル基等を有するイソシアネート化合物、カルボン酸、エポキシ化合物を用いることができる。
末端不飽和基の酸化方法としては、一般に知られている方法で問題なく、特に限定されるものではないが、酸素、オゾン、過酸、過酸化物などを酸化剤として用いる方法が挙げられる。これらの酸化剤の中でも、反応性の観点から過酸が好ましく、過酸としては、特に限定されるものではないが、具体的には過硫酸、過炭酸、過燐酸、次過塩素酸、過酢酸、過安息香酸、メタクロロ過安息香酸が挙げられ、反応性と入手性の点から過酢酸、メタクロロ過安息香酸が特に好ましい。
【0042】
本発明の一般式(1)で表される基を主鎖末端に有するポリオキシアルキレン系重合体(A)は、これを成分とするエポキシ樹脂系組成物にすることができる。この組成物は、一般に以下の2成分:一般式(1)で表される基を主鎖末端に有するポリオキシアルキレン系重合体(A)、及びエポキシ樹脂系硬化剤(B)を含むものである。
【0043】
ポリオキシアルキレン系重合体(A)は単独で用いても2種類以上を混合して用いてもよい。エポキシ樹脂系硬化剤(B)としては特に限定されないが、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、BASF社製ラミロンC−260、CIBA社製Araldit HY−964、ロームアンドハース社製メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、m−キシレンジアミン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の1級アミン、直鎖状ジアミンとしては例えば(CH32N(CH2nN(CH32(式中nは1〜10の整数)、(CH32N(CH2nCH3、N{(CH2nCH33(式中nは1〜10の整数)、テトラメチルグアニジンで示される第3級アミン、トリエタノールアミン、ピペリジン、N,N’−ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、ピリジン、ピコリン、ジアザビシクロウンデセン、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の第2級または第3級アミン、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸等の酸無水物、各種ポリアミド樹脂、ジシアンジアミドおよびその誘導体、各種イミダゾール類、等が挙げられる。
【0044】
本発明のエポキシ樹脂系組成物には、従来公知なエポキシ樹脂を併用して用いることもできる。このようなエポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えばビスフェノールA、ビスフェノールF,テトラブロモビスフェノールA等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、p−オキシ安息香酸グリシジルエーテルエステル型エポキシ樹脂、m−アミノフェノール型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン系エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、各種脂環式エポキシ樹脂、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o―トルイジン、トリグリシジルイソシアヌレート、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンのような多価アルコールのグリシジルエーテル、ヒダントイン型エポキシ樹脂、石油樹脂などのような不飽和重合体のエポキシ化物などが例示されるが、これらに限定されるものではない。また、これらエポキシ樹脂は単独もしくは2種以上を混合して用いることができる。
【0045】
本発明のエポキシ樹脂系組成物には、必要に応じてエポキシ基を有する化合物(C)および/またはオキセタン基を有する化合物(D)を含有することができる。エポキシ基を有する化合物(C)は、硬化物の硬化性や機械的強度を向上することができ、以下のものが例示できる。例えば、エポキシ基を1個有する化合物としては、フェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル等があり、エポキシ基を2個以上有する化合物としては、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラック型エポキシ化合物等が挙げられる。また脂環式エポキシ基を有する化合物も問題なく使用できる。
【0046】
これらの(C)成分は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。また(A)成分の主鎖骨格により相溶性が異なるため、(A)成分に適した化合物を選択することが好ましい。本発明の樹脂組成物における(C)成分の含有割合は、通常1〜70重量部、好ましくは1〜50重量部である。(C)成分の添加は、組成物の硬化性、接着性、耐熱性を改良させるのに有効である。
【0047】
本発明におけるオキセタン環を有する化合物(D)は、オキセタン環を少なくとも1つ有する化合物であればいずれでも使用することができる。これらオキセタン環を有する化合物としては、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−ヘキシロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−{[3−(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、1,4−ビス{[3−エチル−(3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、3,3’−ジメチル−2−(p−メトキシフェニル)−オキセタン等の化合物が挙げられる。
【0048】
これらの(D)成分は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。また(A)成分の主鎖骨格により相溶性が異なるため、(A)成分に適した化合物を選択することが好ましい。本発明の樹脂組成物における(D)成分の含有割合は、通常1〜70重量部、好ましくは1〜50重量部である。(D)成分の添加は、組成物の高速硬化性、高分子量化に有効である。
【0049】
本発明のカチオン系光開始剤(E)は、光により(A)成分のカチオン重合を開始する化合物であれば、特に限定はなく、いずれでも使用することができる。例えばカチオン系光開始剤の好ましい例として下記一般式(3)で表される構造が挙げられる。
[R7a8b9c10dW]x+[MZx+yy- (3)
(式中、Wは、S、Se、Te、P、As、Sb、Bi、O、I、Br、Cl、Ti、Zr、Fe、Ru、OsまたはN≡Nであり、R7、R8、R9、およびR10は同一または異なる有機基であり、a、b、cおよびdはそれぞれ0〜3の整数であって、(a+b+c+d)はWの価数に等しい。Mは、錯体[MZx+y]の中心原子を構成する金属またはメタロイドであり、B、P、As、Sb、Fe、Sn、Bi、Al、Ca、In、Ti、Zn、Sc、V、Cr、MnおよびCoから選ばれる金属またはメタロイドである。Zは、Mに配位する配位子で、ハロゲン原子または有機基である。xは錯体イオンの正味の電荷である。yはMの原子価である。)
【0050】
またカチオン系光開始剤(E)が、オニウム塩、スルホン酸のジアリールヨードニウム塩、スルホン酸のトリアリールスルホニウム塩、ボロン酸のジアリールヨードニウム塩またはボロン酸のトリアリールスルホニウム塩から選ばれるカチオン系開始剤であることが入手性の点から好ましい。
【0051】
これらのオニウム塩の具体例としては、ジフェニルヨードニウム、4−メトキシジフェニルヨードニウム。ビス(4−メチルフェニル)ヨードニウム、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム、トリルクミルヨードニウム、トリフェニルスルホニウム、ジフェニル−4−チオフェノキシフェニルスルホニウム、ビス[4−(ジフェニルスルフォニオ)−フェニル]スルフィド、ビス[4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル)スルホニオ)−フェニル]スルフィド、η−5−2,4−(シクロペンタジエニル)[1,2,3,4,5,6−η―(メチルエチル)ベンゼン]−鉄(+1)などが挙げられる。一般式(3)の陰イオンの具体例としては、テトラフルオロボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサクロロアンチモネート等が挙げられる。これらのカチオン系光開始剤(E)は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
また上記のオニウム塩以外にも、デカメチルフェロセン/テトラキス(3,5−ジフルオロフェニル)ボラート、デカメチルフェロセン/テトラキス(3,5−ジフルオロメチルフェニル)ボラート、デカメチルフェロセン/テトラキス[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ボラートなど特開平11−49791、特開2000−226396等に記載の開始剤を使用することが可能であり、組成物の安定性向上などの効果がある。
本発明の樹脂組成物における(E)成分の含有割合は、通常0.1〜10重量部であり、好ましくは0.3〜3重量部である。(E)成分の含有割合が0.1重量部以下であると硬化不良になりやすく、また10部以上になると硬化後に(E)成分の溶出および経済的にも不利となり好ましくない。
【0053】
本発明の光硬化性樹脂組成物には、(E)成分に加え増感剤を使用することができる。増感剤としては、特に限定はなく、一般のカチオン系光開始剤に用いられる増感剤なら問題なく使用できる。具体例としては、ジアリールヨードニウムやトリアリールスルホニウム塩の増感にはアントラセン、ピレン、ペリレンなどの芳香族炭化水素が、ジアリールヨードニウム塩の増感にはベンゾフェノン、キサントン、チオキサントン、ミヒラーケトン、9,10−フェナントラキノンなどの芳香族ケトン、エオシン、ケトクマリン、アクリジン染料などが、トリアリールスルホニウム塩の増感には芳香族アミン、芳香族3級アミン、クマリン、イソベンゾフランなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
また本発明の光硬化性樹脂組成物には、他の光カチオン重合性化合物を含有することができる。他の光カチオン重合性化合物としては、例えば環状アセタール化合物、環状ラクトン化合物、チイラン化合物、チエタン化合物、スピロオルソエステル化合物、ビニルエーテル化合物、エチレン性不飽和化合物、環状エーテル化合物、環状チオエーテル化合物、ビニル化合物などが挙げられる。これらは、1個単独でも複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0055】
本発明の硬化性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、他のシランカップリング剤、充填剤、改質剤、安定剤、他の樹脂成分などのその他の成分を含有することができる。
【0056】
シランカップリング剤とは、エポキシ基、カルボキシル基、(メタ)アクリロイル基、イソシアネート基等の反応性基を有するシラン化合物が挙げられる。具体的には、トリメトキシシリル安息香酸、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ―イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらの成分は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明の樹脂組成物におけるシランカップリング剤成分の含有割合は、特に限定はないが通常0.1〜20重量部であり、好ましくは0.3〜10重量部である。0.1〜20重量部の範囲では、接着性の向上の効果と経済性のバランスの点で優れている。
【0057】
充填剤としては、例えば、微粒子シリカ、ガラスビーズ、タルク、スチレン系ポリマー粒子、メタクリレート系ポリマー粒子、エチレン系ポリマー粒子、プロピレン系ポリマー粒子などが挙げられ、中でも無機充填剤が好ましく使用でき、特に微粒子シリカが好ましい。これらは1種単独でも複数種を組み合わせて使用してもよい。これらの無機充填剤を使用することにより、高強度化、耐透湿性や接着性を向上させることができる。
【0058】
改質剤としては、例えば重合開始剤、レベリング剤、濡れ性改良剤、界面活性剤、可塑剤などが挙げられる。これらは1種単独でも複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0059】
安定剤としては、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤などが挙げられる。これらは1種単独でも複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
他の樹脂成分としては、例えばポリアミド、ポリウレタン、ポリブタジエン、ポリエステル、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂などの樹脂成分が挙げられる。
【0061】
本発明の光硬化性樹脂組成物に光エネルギー源を照射することにより、硬化物を得ることができる。光エネルギー源としては、一般に光硬化反応に用いられるものを特に制限なく使用できるが、紫外線、電子線、可視光などを挙げることができる。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら制限を受けるものではない。
【0063】
(製造例1)
分子量約2,000のポリオキシプロピレンジオールを開始剤とし、亜鉛ヘキサシアノコバルテートグライム錯体触媒にてプロピレンオキシドの重合を行い、末端が水酸基である数平均分子量約14,500(送液システムとして東ソー製HLC−8120GPCを用い、カラムは東ソー製TSK−GEL Hタイプを用い、溶媒はTHFを用いて測定したポリスチレン換算分子量)のポリオキシプロピレンを得た。続いて、この水酸基末端ポリオキシプロピレンの水酸基に対して1.2倍当量のNaOMeのメタノール溶液を添加してメタノールを留去し、更に塩化アリルを添加して末端の水酸基をアリル基に変換した。未反応の塩化アリルを減圧脱揮により除去した。得られた未精製のアリル基末端ポリオキシプロピレン100重量部に対し、n−ヘキサン300重量部と、水300重量部を混合攪拌した後、遠心分離により水を除去し、得られたヘキサン溶液に更に水300重量部を混合攪拌し、再度遠心分離により水を除去した後、ヘキサンを減圧脱揮により除去した。以上により、末端がアリル基である数平均分子量約14,500の2官能ポリオキシプロピレン(I)を得た。
【0064】
(実施例1)エポキシ末端ポリプロピレンオキシドの合成例
製造例1で得られたアリル基を末端に有するポリプロピレンオキシド(I)100gに対し、ジクロロメタン100mLを加え、50℃に加熱した。ここに、メタクロロ過安息香酸(mCPBA)11.5g(和光純薬社製、水分含有、純度69〜75%)(末端アリル基に対して3当量)をジクロロメタン200mLに溶解させた溶液を滴下し、50℃で3時間攪拌した。攪拌終了後、亜硫酸ナトリウム水で洗浄し、過剰のmCPBAを分解した。その後、炭酸ナトリウム水で洗浄し、安息香酸を除去した。ジクロロメタンを減圧脱揮により除去した。1H−NMR(Bruker製AvanceIII 400MHz NMRシステム)による測定により、ポリプロピレンオキシド(I)のアリル基に由来するピークが減少し、エポキシ基のメチレン、メチンプロトンに由来するピーク(3.1、2.8、2.6ppm)が現れ、エポキシ基を有するポリプロピレンオキシド(A−1)が得られたことを確認した。
【0065】
1H−NMRスペクトルにおいて、主鎖中のメチル基に由来するピークの積分値とエポキシ基が結合した炭素上のプロトンに由来するピークの積分値の比から算出したエポキシ基の導入率は75%であった。これによりポリプロピレンオキシド(A−1)は1分子あたり平均して、1.5個のエポキシ基を含有することがわかった。また、GPCにより求めた分子量は14,500であった。
【0066】
(参考例1)
分子量2,000のポリオキシプロピレンジオールを使用し、合成例1と同様の方法で、末端にアリル基を有するポリプロピレンオキシドを得た。実施例1と同様の方法で末端アリル基をエポキシ化した。ここで得られたエポキシ基を有するポリプロピレンオキシド(X−1)のエポキシ基の導入率は80%であり、1分子あたり平均して1.6個のエポキシ基を含有することがわかった。また、分子量は2,000であった。
【0067】
(実施例2〜5、比較例1、2)
表1に示したように、実施例1で得られたエポキシ基末端ポリプロピレンオキシド(A−1)または参考例1で得られた(X−1)に、カチオン系光開始剤などを充分に攪拌し、光硬化性樹脂組成物を調製した。次に、厚さ2mmのシート状型枠に組成物を充填し、フュージョンUVシステム製UV照射装置(機種:LIGHT HAMMER 6、光源:水銀灯ランプ、積算光量:1500mJ/cm2)にて照射を行い、シート状硬化物を作製した。靭性については手で触って確認した。結果を表1に示す。表中の○は靭性が良いことを、×は靭性が良くないことを意味する。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示したように、本発明の硬化性組成物は、適正なUV照射量で良好な硬化物を得ることができ、さらに、その硬化物は分子量が小さいポリプロピレンオキシド(X−1)を使用した硬化物に比べ、優れた靭性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端に不飽和基を有する数平均分子量が3,000以上のポリオキシアルキレン系重合体(a)を酸化することにより製造されることを特徴とする、下記一般式(1)で表される基を主鎖末端に有する数平均分子量が3,000以上のポリオキシアルキレン系重合体(A)。
【化1】

(式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜10の1価の炭化水素基、又は、2つの炭化水素基がエーテル結合もしくはエステル結合で結合されてなる炭素数1〜10の1価の基を表すが、R1及びR2、又はR2及びR3の他端が相互に結合し、環構造を形成していても構わない。R4は直接結合または炭素数1〜20の2価の炭化水素基、又は、2つの炭化水素基がエーテル結合もしくはエステル結合で結合されてなる炭素数1〜10の2価の基を表し、R2及びR4、又はR3及びR4の他端が相互に結合し、環構造を形成していても構わない。)
【請求項2】
末端に不飽和基を有する数平均分子量が3,000以上のポリオキシアルキレン系重合体(a)を過酸と反応することにより製造されることを特徴とする、一般式(1)で表される基を主鎖末端に有する数平均分子量が3,000以上のポリオキシアルキレン系重合体(A)。
【請求項3】
末端に不飽和基を有する数平均分子量が3,000以上のポリオキシアルキレン系重合体(a)が、末端に水酸基を有するポリオキシアルキレン系重合体の末端水酸基をオキシメタル化後、一般式(2):
X−R4−C(R3)=CR12 (2)
(式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜10の1価の炭化水素基、又は、2つの炭化水素基がエーテル結合もしくはエステル結合で結合されてなる炭素数1〜10の1価の基を表すが、R1及びR2、又はR2及びR3の他端が相互に結合し、環構造を形成していても構わない。R4は炭素数1〜20の2価の有機基。Xはハロゲン原子。)
で示される不飽和基含有化合物を反応させることにより製造されることを特徴とする請求項1または2に記載の重合体(A)。
【請求項4】
ポリオキシアルキレン系重合体の主鎖骨格がポリオキシプロピレン系重合体である請求項1から3のいずれかに記載の重合体(A)。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の一般式(1)で表される基を主鎖末端に有するポリオキシアルキレン系重合体(A)、及びエポキシ樹脂系硬化剤(B)を含むことを特徴とするエポキシ樹脂系組成物。
【請求項6】
エポキシ基含有化合物(C)、オキセタン基含有化合物(D)から選ばれる少なくとも1種をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載のエポキシ樹脂系組成物。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の一般式(1)で表される基を主鎖末端に有するポリオキシアルキレン系重合体(A)、及びカチオン系光開始剤(E)を含むことを特徴とする光硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
カチオン系光開始剤(E)が、一般式(3)で表される構造であることを特徴とする請求項7に記載の光硬化性樹脂組成物。
[R7a8b9c10dW]x+[MZx+yy- (3)
(式中、Wは、S、Se、Te、P、As、Sb、Bi、O、I、Br、Cl、Ti、Zr、Fe、Ru、OsまたはN≡Nであり、R7、R8、R9、およびR10は同一または異なる有機基であり、a、b、cおよびdはそれぞれ0〜3の整数であって、(a+b+c+d)はWの価数に等しい。Mは、錯体[MZx+y]の中心原子を構成する金属またはメタロイドであり、B、P、As、Sb、Fe、Sn、Bi、Al、Ca、In、Ti、Zn、Sc、V、Cr、MnおよびCoから選ばれる金属またはメタロイドである。Zは、Mに配位する配位子で、ハロゲン原子または有機基である。xは錯体イオンの正味の電荷である。yはMの原子価である。)
【請求項9】
カチオン系光開始剤(E)が、オニウム塩、スルホン酸のジアリールヨードニウム塩、スルホン酸のトリアリールスルホニウム塩、ボロン酸のジアリールヨードニウム塩またはボロン酸のトリアリールスルホニウム塩から選ばれるカチオン系開始剤であることを特徴とする請求項7記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
(C)エポキシ基含有化合物、(D)オキセタン基含有化合物から選ばれる少なくとも1種をさらに含むことを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−80012(P2011−80012A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235427(P2009−235427)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】