説明

エポキシ樹脂用硬化剤、エポキシ樹脂組成物およびエポキシ樹脂硬化物

【課題】操作性に優れるとともに、機械物性および耐熱性に優れるエポキシ樹脂硬化物を得ることができるエポキシ樹脂用硬化剤、そのエポキシ樹脂用硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物、および、そのエポキシ樹脂組成物を用いて得られるエポキシ樹脂硬化物を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂用硬化剤として、トランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを80〜95モル%の割合で含有する1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを用い、そのエポキシ樹脂用硬化剤と、エポキシ樹脂を含有する主剤とを含むエポキシ樹脂組成物を硬化させることによるエポキシ樹脂硬化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂用硬化剤、エポキシ樹脂組成物およびエポキシ樹脂硬化物に関し、詳しくは、エポキシ樹脂用硬化剤、そのエポキシ樹脂用硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物、および、そのエポキシ樹脂用組成物を用いて得られるエポキシ樹脂硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂硬化物は、通常、エポキシ樹脂に硬化剤を配合して、硬化させることにより製造されており、例えば、半導体封止材などの電気電子部品や、例えば、塗料、接着剤などの各種工業分野において、広く用いられている。
【0003】
このようなエポキシ樹脂硬化物の製造では、硬化剤として、例えば、芳香族アミン、脂肪族アミンなどのアミン類を用いることが知られている。
【0004】
とりわけ、脂肪族アミンは、その多くが常温において液体であるため、操作性に優れており、その脂肪族アミンの中でも、脂環式炭素を含む脂環族アミンは、とりわけ、耐薬品性および耐候性に優れることから、エポキシ樹脂用の硬化剤として、有用である。
【0005】
このような脂環族アミンを硬化剤として用いる方法として、例えば、ビスフェノールAのグリシジルエーテルと、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとを室温で混合し、その後、硬化させることにより、透明性および耐変色性に優れるエポキシ樹脂硬化物を製造することが、提案されている(例えば、特許文献1(Example1)参照。)。
【0006】
また、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と、シスおよびトランス型の、1,3−および1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとを混合し、その後、硬化させることにより、エポキシ樹脂硬化物を製造することが、提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3327016号明細書
【特許文献2】国際公開パンフレットWO2008/064115
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、工業的には、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを硬化剤として用いる場合において、さらなる機械物性および耐熱性の向上が、要求されている。
【0009】
本発明の目的は、操作性に優れるとともに、機械物性および耐熱性に優れるエポキシ樹脂硬化物を得ることができるエポキシ樹脂用硬化剤、そのエポキシ樹脂用硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物、および、そのエポキシ樹脂組成物を用いて得られるエポキシ樹脂硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明のエポキシ樹脂用硬化剤は、トランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを80〜95モル%の割合で含有する1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンからなることを特徴としている。
【0011】
また、本発明のエポキシ樹脂用硬化剤は、前記トランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが、テレフタル酸、テレフタル酸エステルおよびテレフタル酸アミドからなる群から選択される少なくとも1種のテレフタル酸またはその誘導体を核水素化して、水添テレフタル酸またはその誘導体を製造し、その水添テレフタル酸またはその誘導体をアンモニアと接触させて、得られた1,4−ジシアノシクロヘキサンから、トランス−1,4−ジシアノシクロヘキサンを製造し、そのトランス−1,4−ジシアノシクロヘキサンを水素と接触させることにより得られるトランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを含むことが好適である。
【0012】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記のエポキシ樹脂用硬化剤と、エポキシ樹脂からなる主剤とを含有することを特徴としている。
【0013】
また、本発明のエポキシ樹脂硬化物は、上記のエポキシ樹脂組成物を硬化させることにより得られることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエポキシ樹脂用硬化剤によれば、優れた操作性を確保するとともに、機械物性および耐熱性に優れるエポキシ樹脂硬化物、および、そのエポキシ樹脂硬化物を製造するエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0015】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物によれば、機械物性および耐熱性に優れるエポキシ樹脂硬化物を得ることができる。
【0016】
また、本発明のエポキシ樹脂硬化物は、機械物性および耐熱性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のエポキシ樹脂用硬化剤は、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンからなる。
【0018】
1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンには、シス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(以下、シス1,4体と称する場合がある。)、および、トランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(以下、トランス1,4体と称する場合がある。)の立体異性体があり、本発明では、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンは、トランス1,4体を、80〜95モル%の割合で含有している。
【0019】
このようなトランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンは、公知のトランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの製造方法により得ることができるが、好ましくは、以下に示す方法により製造する。
【0020】
すなわち、まず、テレフタル酸、テレフタル酸エステルおよびテレフタル酸アミドからなる群から選択される少なくとも1種のテレフタル酸またはその誘導体を核水素化し、水添テレフタル酸またはその誘導体を製造し(核水素化工程)、その核水素化工程により得られた水添テレフタル酸またはその誘導体をアンモニアと接触させて、得られた1,4−ジシアノシクロヘキサンから、トランス−1,4−ジシアノシクロヘキサンを製造し(シアノ化工程)、そのシアノ化工程により得られたトランス−1,4−ジシアノシクロヘキサンを水素と接触させることにより、トランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを得る(アミノメチル化工程)。
【0021】
以下において、核水素化工程、シアノ化工程およびアミノメチル化工程のそれぞれについて、詳細に説明する。
[核水素化工程]
核水素化工程では、テレフタル酸、テレフタル酸エステルおよびテレフタル酸アミドからなる群から選択される少なくとも1種のテレフタル酸またはその誘導体を核水素化し、対応する水添テレフタル酸またはその誘導体(すなわち、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸エステル、および、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸アミドからなる群から選択される少なくとも1種の水添テレフタル酸またはその誘導体)を製造する。
【0022】
核水素化工程においては、例えば,特開2001−181223号に記載の方法などを採用することができる。
【0023】
原料として用いられるテレフタル酸またはその誘導体は、工業用として市販されている程度の品質で十分であり、また、テレフタル酸の製造において一般に行われる水素化精製工程を経た、未乾燥の(水を含んだ)テレフタル酸またはその誘導体を用いることもできる。
【0024】
核水素化工程の反応は発熱反応であるため、反応熱による温度上昇を適度に抑制するために、また、反応率を高めるために、原料のテレフタル酸またはその誘導体に、この反応に不活性な溶媒を希釈剤として加え、反応液中のテレフタル酸またはその誘導体の濃度が、例えば、1〜50質量%、好ましくは、2〜30質量%となるように希釈することが好ましい。反応液中の濃度がこの範囲であると、反応速度が低下せず、また、反応器内の温度上昇が小さい点で有利である。
【0025】
このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、イソプロパノール、1,4−ジオキサンなどの水性溶媒が挙げられる。
【0026】
溶媒が水性溶媒であれば、核水素化工程の反応生成液を必要に応じて冷却し、再循環して用いることができる点で、有利である。
【0027】
この場合、その後の分離操作で回収できること、さらに反応系に余計な成分を混入させないこと、またテレフタル酸の精製工程を経た未乾燥のテレフタル酸を使用できることなどの理由により、好ましくは、水が挙げられる。
【0028】
核水素化工程において、核水素化に用いられる水素の品質は、工業的に用いられる水素で十分であり、例えば、不活性ガス(例えば、窒素、メタンなど)を含んでいてもよいが、水素濃度は50%以上であることが好ましい。
【0029】
水素の量は、原料のテレフタル酸またはその誘導体に対して、モル比で、3〜50倍程度が好ましい。
【0030】
水素の量がこの範囲であると、未反応物質が少なく、反応速度も十分で、経済的にも有利である。
【0031】
また、核水素化工程においては、公知の触媒を添加することができる。
【0032】
核水素化工程に用いられる触媒は、一般に用いられる貴金属系核水素化触媒であり、具体的には、例えば、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウムなどが挙げられ、好ましくは、パラジウム、ルテニウムが挙げられる。
【0033】
これらは担持触媒として用いるのが好ましく、このような担体としては、例えば、活性炭、アルミナ、シリカ、珪藻土などが使用され、好ましくは、活性炭、シリカが使用される。
【0034】
金属(例えば、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウムなど)の担持量は、触媒の担体を含む総量の、例えば、0.1〜10質量%、好ましくは、0.5〜10質量%である。
【0035】
金属の担持量がこの範囲にあると、触媒の質量当たりの活性が高いので、好ましい。
【0036】
触媒の形態としては、例えば、粉末、粒状、ペレット担体に担持された触媒などを使用できる。好ましくは、粉末である。触媒が粉末であるなど、触媒が適度な大きさであると、触媒内部の有効に反応に寄与する部分が多く、反応速度が低下しにくい。
【0037】
触媒量は、テレフタル酸またはその誘導体100質量部に対して、例えば、0.1〜50質量部、好ましくは、0.5〜20質量部である。
【0038】
テレフタル酸またはその誘導体は、水などの汎用溶媒に対する溶解度が高くないため、反応方式は液相懸濁反応が好ましい。
【0039】
反応器は耐圧容器が好ましい。
【0040】
原料スラリーおよび水素は、反応器の上部または下部から導入され、懸濁状態で触媒と接触する。反応後、生成物である水添テレフタル酸またはその誘導体は、高温で水などの汎用溶媒によく溶解するため,濾過で触媒との分離が可能となる。
【0041】
濾過においては、上記生成物を、例えば、公知のアルカリ性溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液など)に溶解させ、濾過した後、公知の酸性溶液(例えば、塩化水素水溶液など)により中和することもできる。
【0042】
この後、生成物を乾固あるいは濃縮、または、降温などにより結晶化させることにより、水添テレフタル酸またはその誘導体を得ることができる。
【0043】
反応温度は、通常、50〜200℃であり、好ましくは、100〜160℃である。
【0044】
反応温度がこの範囲であると、未反応物や副生物が少なく、水素化分解が起こりにくくなり、その結果収率が高くなるので有利である。
【0045】
また、反応圧力は、通常、0.5〜15MPaであり、好ましくは、2〜15MPa、より好ましくは、2〜8MPa、さらに好ましくは、2〜5MPaである。
【0046】
反応圧力がこの範囲であると、反応速度が遅くならず、副生物も少なく有利である。
【0047】
テレフタル酸またはその誘導体の転化率は、通常、95%以上、好ましくは、98%以上である。
【0048】
上記のように未反応のテレフタル酸またはその誘導体が少ないと、後処理の負荷が軽減され、有利である。
【0049】
核水素化工程により得られる水添テレフタル酸またはその誘導体は、シス体(すなわち、シス−シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、シス−シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸エステル、および/または、シス−シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸アミド)と、トランス体(すなわち、トランス−シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、トランス−シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸エステル、および/または、トランス−シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸アミド)との混合物である。
[シアノ化工程]
シアノ化工程では、上記した核水素化工程により得られた水添テレフタル酸またはその誘導体をアンモニアと接触させて、得られた1,4−ジシアノシクロヘキサンから、その中のシス体とトランス体とを分離して、トランス−1,4−ジシアノシクロヘキサンを得る。
【0050】
シアノ化工程においては、例えば、特開昭63−10752号に記載の方法などを採用することができる。
【0051】
より具体的には、シアノ化工程では、核水素化工程により得られた水添テレフタル酸またはその誘導体と、アンモニア供給源となり得る化合物(例えば、アンモニア、尿素、炭酸アンモニウムなど)(以下、アンモニア供給源化合物と略する場合がある。)とを、通常、200℃以上、350℃未満、好ましくは、230℃以上、300℃未満で加熱することにより、反応させる。
【0052】
反応温度がこの範囲にあると、反応速度が低下せず、また過度の加熱による分解などが起こりにくいため、有利である。
【0053】
また、シアノ化工程においては、本反応の反応促進剤として触媒を利用することが好ましい。
【0054】
触媒としては、例えば、塩酸、リン酸、硫酸などの鉱酸、またはアルミナ、五酸化リン、酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛などの酸化物、あるいは、酢酸、プロピオン酸、安息香酸などの有機酸などが挙げられる。
【0055】
この中でも,反応後の分離のしやすさから、酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛などの固体状酸化物を用いることが好ましい。
【0056】
触媒形態としては、粉末、粒状、ペレット担体に担持された触媒を使用できる。好ましくは、粉末である。
【0057】
触媒が粉末であるなど、触媒が適度な大きさであると、触媒内部の有効に反応に寄与する部分が多く、反応速度が低下しにくい。
【0058】
触媒量は、水添テレフタル酸またはその誘導体100質量部に対して、例えば、0.1〜50質量部、好ましくは、0.5〜20質量部である。
【0059】
また、本反応には、適宜溶媒を使用することができる。
【0060】
溶媒としては、特に制限されないが、例えば、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、デカリンなどの脂肪族炭化水素類(脂環式炭化水素類を含む)、例えば、メシチレン、テトラリン、ブチルベンゼン、p−シメン、ジエチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、トリエチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、ジペンチルベンゼン、ドデシルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、例えば、ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのアルコール類、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、o−ジメトキシベンゼン、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、o−ジエトキシベンゼンなどのエーテル類、例えば、ヨードベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、o−ジブロモベンゼン、ブロモクロロベンゼン、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、p−クロロエチルベンゼン、1−クロロナフタレンなどのハロゲン化芳香族炭化水素類、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノンなどの非プロトン性極性溶媒、例えば、本工程での生成物である1,4−ジシアノシクロヘキサンなどが挙げられる。これらの溶媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。溶媒として、反応速度の向上や、反応後の分離精製などを考慮すると、無溶媒または生成物である1,4−ジシアノシクロヘキサンを溶媒とすることが好ましい。
【0061】
溶媒の使用量としては、特に制限されないが、通常、反応基質(上記した核水素化工程により得られた水添テレフタル酸またはその誘導体を含む。)の10質量倍以下である。
【0062】
反応方式は、懸濁床による回分式、半回分式、連続式、固定床連続式など、特に限定されるものではないが、液相懸濁反応が好ましい。
【0063】
反応器は耐圧容器が好ましい。
【0064】
例えば、水添テレフタル酸またはその誘導体、および、必要であれば触媒を、反応器の上部または下部から導入し、加熱により水添テレフタル酸またはその誘導体を溶解させ、懸濁状態にしたところで、アンモニアなどのアンモニア供給源化合物を、反応器に、間欠的あるいは連続的に供給し、所定温度で反応させる。
【0065】
アンモニア供給源化合物の供給量としては、反応後のアンモニアの処理あるいは回収を容易にするという観点から、水添テレフタル酸またはその誘導体1モルに対して、例えば、1〜20モル、好ましくは、2〜10モルである。
【0066】
また、供給時間は、例えば、1〜50時間、好ましくは、2〜30時間である。
【0067】
本反応により水が生成するため、水を系外に除去することが、反応速度向上の観点からは好ましい。また、水を系外に除去するために、例えば、反応器に窒素などの不活性ガスを供給することができる。
【0068】
反応圧力は、やや加圧状態で行うことが好ましいが、常圧で反応することもできる。
【0069】
反応後、生成物である1,4−ジシアノシクロヘキサンは、シス−1,4−ジシアノシクロヘキサン(シス体)と、トランス−1,4−ジシアノシクロヘキサン(トランス体)との混合物(立体異性体混合物)として得られる。
【0070】
反応後に得られる1,4−ジシアノシクロヘキサンは、水添テレフタル酸またはその誘導体の立体異性体比によらず、反応温度における1,4−ジシアノシクロヘキサンの平衡組成比、概ね、シス体/トランス体=40/60〜60/40程度に収束する。
【0071】
この反応後の1,4−ジシアノシクロヘキサンの立体異性体混合物から、例えば、それらの溶解度の差を利用した分別沈殿法や、沸点差を利用した蒸留法などにより、トランス−1,4−ジシアノシクロヘキサンを分離する。中でも、より簡便な分別沈殿法が好ましい。
【0072】
1,4−ジシアノシクロヘキサンの立体異性体混合物からシス体とトランス体とを分離すれば、例えば、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンからシス体(シス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン)とトランス体(トランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン)とを分離するよりも、操作性および分離効率を良好とすることができる。
【0073】
分別沈殿の際に用いられる溶媒は、1,4−ジシアノシクロヘキサンのシス体とトランス体の溶解度の差が大きいものが好ましく、例えば、水、酢酸などの低級脂肪酸類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1−ブタノール、エチレングリコールなどのアルコール類、ジエチルエーテル、1,4−ジオキサンなどのエーテル類などが挙げられる。
【0074】
上記の溶媒としては、特に、生成物の乾燥工程が必要なくなるため、後述するアミノメチル化工程で使用する溶媒と同一の溶媒、とりわけ、水およびアルコール類などの水性溶媒から選択することが好ましい。
【0075】
分別沈殿においては、まず、1,4−ジシアノシクロヘキサンを上記溶媒に溶解させ、加熱し、その後、常温まで冷却する。これにより、トランス体比率の高い1,4−ジシアノシクロヘキサンが晶析する(晶析工程)。その後、晶析した1,4−ジシアノシクロヘキサンを、濾過することにより分離(濾別)することができる。
【0076】
また、分離後、必要に応じて、洗浄、乾燥し、トランス−1,4−ジシアノシクロヘキサンを固体として得ることができる。このようにして得られたトランス−1,4−ジシアノシクロヘキサンを、後述するアミノメチル化工程に供することが好ましい。
【0077】
トランス−1,4−ジシアノシクロヘキサンの純度(トランス体比率)は、分別沈殿の条件により適宜制御できるが、概ね、90%以上、好ましくは、95%以上である。
【0078】
一方、濾過後の濾液には、シス体比率の高い1,4−ジシアノシクロヘキサンが溶解している。
【0079】
この濾液から溶媒を留去し、得られるシス体比率の高い1,4−ジシアノシクロヘキサンは、再度シアノ化工程の反応器に供給することにより、水添テレフタル酸またはその誘導体とともに再度アンモニアと接触させることができる。
【0080】
これにより、シアノ化工程の反応器において、反応の所定温度での熱異性化が起こり、シス体/トランス体の平衡組成混合物となるため、ロスを小さくしてトランス−1,4−ジシアノシクロヘキサンを得ることができ、有利である。
[アミノメチル化工程]
アミノメチル化工程においては、シアノ化工程により得られたトランス−1,4−ジシアノシクロヘキサンを水素と接触させて、トランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを得る。
【0081】
アミノメチル化工程においては、例えば、特開2001−187765号に記載の方法などを採用することができる。
【0082】
アミノメチル化工程に用いられる水素の品質は、工業的に用いられる水素で十分であり、不活性ガス(例えば、窒素、メタンなど)を含んでいてもよいが、水素濃度は、50%以上であることが好ましい。
【0083】
アミノメチル化工程に用いられる水素化触媒は、公知の水素化触媒、例えば、コバルト系触媒、ニッケル系触媒、銅系触媒、貴金属系触媒をいずれも使用することができる。
【0084】
反応性、選択性の点から、ニッケル、コバルトおよび/またはルテニウムを主成分とする触媒を用いること好ましく、ラネー型触媒あるいはシリカ、アルミナ、シリカアルミナ、珪藻土、活性炭などの多孔性金属酸化物に担持した触媒を用いることがより好ましい。
【0085】
また、さらにアルミニウム、亜鉛、珪素などの金属を含有していてもよい。
【0086】
これらの水素化触媒は反応促進剤として、クロム、鉄、コバルト、マンガン、タングステン、モリブデンから選ばれる金属を含有できる。
【0087】
また、水素化触媒は、完全固体触媒として使用できるが、担持固体触媒、例えば、ニッケル、コバルト、ルテニウムなどが酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、マグネシア/アルミナなどに担持されたものを使用することもできる。
【0088】
触媒形態としては、粉末、粒状、ペレット担体に担持された触媒を使用できる。好ましくは、粉末である。触媒が粉末であるなど、触媒が適度な大きさであると、触媒内部の有効に反応に寄与する部分が多く、反応速度が低下しにくい。
【0089】
触媒の使用量は、反応性、選択性の点から、トランス−1,4−ジシアノシクロヘキサン100質量部に対して、例えば、0.1〜20質量部、好ましくは、0.5〜15質量部である。
【0090】
反応には適宜溶媒を使用することができる、このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、イソプロパノール、1−ブタノールなどのアルコール類、1,4−ジオキサンなどの水性溶媒が挙げられる。
【0091】
溶媒として、好ましくは、上記のシアノ化工程における分別沈殿(晶析工程)に用いられる溶媒と同一の溶媒が挙げられる。
【0092】
反応液中のトランス−1,4−ジシアノシクロヘキサンの濃度は、例えば、1〜50質量%、好ましくは、2〜40質量%である。
【0093】
反応液中のトランス−1,4−ジシアノシクロヘキサンの濃度がこの範囲であると、反応速度が低下せず、また、反応器内の温度上昇が小さい点で、有利である。
【0094】
また、本反応はアンモニアの存在下で行うことが好ましい。
【0095】
このアンモニアは目的とするトランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの以外の2級アミンや3級アミン、ポリアミンのような副生物の生成を抑制する働き、すなわち、反応選択性を向上させる働きを持つ。
【0096】
アンモニアの使用量は、上記副生物の生成を抑制し、水素化速度の低下を防止し、かつ反応後のアンモニアの処理あるいは回収を容易にするという観点から、トランス−1,4−ジシアノシクロヘキサン1モルに対して、例えば、0.05〜5モル、好ましくは、0.1〜2.5モルである。
【0097】
反応方式は、懸濁床による回分式、半回分式、連続式、固定床連続式など、特に限定されるものではないが、液相懸濁反応が好ましい。
【0098】
反応器は耐圧容器が好ましい。
【0099】
例えば、トランス−1,4−ジシアノシクロヘキサン、触媒、水素および必要であれば溶媒やアンモニアを、反応器の上部または下部から導入し、所定温度で反応させる。
【0100】
反応圧力は、通常、0.1〜20MPa、好ましくは、0.5〜10MPa、さらに好ましくは、0.5〜5MPa、とりわけ好ましくは、0.5〜3MPaである。
【0101】
反応温度は、反応性、選択性の観点から、例えば、50〜250℃、好ましくは、50〜200℃、さらに好ましくは、70〜150℃であり、水素化反応中に連続的または段階的に、反応温度を上昇させることが好ましい。
【0102】
反応後、反応液からトランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを分離する方法は、濾過、蒸留など、公知の方法が使用できる。
【0103】
トランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの純度(トランス体比率)は、反応や分離の条件により適宜制御できるが、概ね、80%以上、好ましくは、85%以上、より好ましくは、90%以上である。
【0104】
このトランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの製造方法は、設備面、安全面および経済面に優れており、安全に、低コストかつ高収率でトランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを得ることができる。
【0105】
そのため、この方法は、トランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの工業的な製造方法として、好適に用いることができる。
【0106】
なお、上記したトランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの製造方法は、核水素化工程、シアノ化工程およびアミノメチル化工程を備えているが、トランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの製造方法としては、例えば、出発原料として水添テレフタル酸またはその誘導体を用い、核水素化工程を省略して、シアノ化工程およびアミノメチル化工程を実施することもできる。
【0107】
このような場合において、出発原料としての水添テレフタル酸またはその誘導体は、上記した核水素化工程により得られる水添テレフタル酸またはその誘導体に限定されないが、上記した核水素化工程によれば、安全に、低コストかつ高収率で水添テレフタル酸またはその誘導体を得ることができるため、出発原料としての水添テレフタル酸またはその誘導体は、上記した核水素化工程により得ることが好ましい。
【0108】
また、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンは、上記した方法の他の方法により製造されたトランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを含むこともできる。
【0109】
そして、上記した方法により得られるトランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの純度(トランス体比率)が、本発明におけるトランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの含有割合(すなわち、80〜95モル%)の範囲である場合には、得られるトランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを、そのまま、本発明のエポキシ樹脂用硬化剤とすることができる。
【0110】
一方、上記した方法により得られるトランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの純度(トランス体比率)が、本発明におけるトランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの含有割合(すなわち、80〜95モル%)の範囲に満たない場合には、例えば、予め精製した高純度(例えば、トランス体比率が99モル%以上)のトランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを配合し、トランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの含有割合を、上記範囲に調整することができる。
【0111】
また、上記した方法により得られるトランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの純度(トランス体比率)が、本発明におけるトランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの含有割合(すなわち、80〜95モル%)の範囲を超過する場合には、例えば、トランス体比率が低い(例えば、45モル%以下)の1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを配合し、トランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの含有割合を、上記範囲に調整することができる。
【0112】
本発明において、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン中のトランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの含有割合は、上記したように、80〜95モル%、好ましくは、80〜92モル%、より好ましくは、83〜92モル%である。
【0113】
トランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの含有割合が上記範囲未満である場合には、このエポキシ樹脂硬化剤を用いて得られるエポキシ樹脂硬化物の耐熱性、曲げ強度などが低下するという不具合がある。
【0114】
一方、トランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの含有割合が上記範囲を超過する場合には、このエポキシ樹脂硬化剤を用いて得られるエポキシ樹脂硬化物の耐衝撃性などが低下するという不具合がある。
【0115】
これに対して、トランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの含有割合が上記範囲であれば、機械物性および耐熱性に優れるエポキシ樹脂硬化物、および、そのエポキシ樹脂硬化物を製造するエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0116】
また、このようなエポキシ樹脂硬化剤は、常温において液体である1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(脂環式アミン)からなるため、操作性にも優れる。
【0117】
そして、本発明は、上記のエポキシ樹脂硬化剤と、エポキシ樹脂からなる主剤とを含有するエポキシ樹脂組成物を、含んでいる。
【0118】
エポキシ樹脂としては、特に制限されないが、例えば、グリシジルエーテル型エポキシド、グリシジルエステル型エポキシド、グリシジルアミン型エポキシド、脂環式エポキシドなどが挙げられる。
【0119】
グリシジルエーテル型エポキシドとしては、例えば、多価フェノールのグリシジルエーテル、多価アルコールのグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0120】
多価フェノールのグリシジルエーテルとしては、例えば、2価フェノールのグリシジルエーテル、3価以上のフェノールのグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0121】
2価フェノールのグリシジルエーテルとしては、例えば、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0122】
3価以上のフェノールのグリシジルエーテルとしては、例えば、ジヒドロキシナフチルクレゾールトリグリシジルエーテル、トリス(ヒドロキシフェニル)メタントリグリシジルエーテル、ジナフチルトリオールトリグリシジルエーテル、フェノールノボラックグリシジルエーテル、クレゾールノボラックグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0123】
多価アルコールのグリシジルエーテルとしては、例えば、2価アルコールのグリシジルエーテル、3価以上のアルコールのグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0124】
2価アルコールのグリシジルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール(重量平均分子量(以下、Mw):150〜4000)ジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール(Mw:180〜5000)ジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0125】
3価以上のアルコールのグリシジルエーテルとしては、例えば、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールヘキサグリシジルエーテル、ポリ(重合度2〜5)グリセリンポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0126】
グリシジルエステル型エポキシドとしては、例えば、カルボン酸のグリシジルエステルなどが挙げられる。
【0127】
カルボン酸のグリシジルエステルとしては、例えば、グリシジルメタクリレート、フタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル及びトリメリット酸トリグリシジルエステルなどが挙げられる。
【0128】
また、グリシジルエステル型エポキシドとしては、さらに、グリシジルエステル型ポリエポキシドも含まれる。
【0129】
グリシジルアミン型エポキシドとしては、例えば、グリシジル芳香族アミン、グリシジル脂環式アミン、グリシジル複素環式アミンなどが用いられる。
【0130】
グリシジル芳香族アミンとしては、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジルトルイジン、N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホン、N,N,N’,N’−テトラグリシジルジエチルジフェニルメタンなどが挙げられる。
【0131】
グリシジル脂環式アミンとしては、ビス(N,N−ジグリシジルアミノシクロヘキシル)メタン(N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの水添化合物)、N,N,N’,N’−テトラグリシジル ジメチルシクロヘキシレンジアミン(N,N,N’,N’−テトラグリシジルキシリレンジアミンの水添化合物)などが挙げられる。
【0132】
グリシジル複素環式アミンとしては、トリスグリシジルメラミン、N−グリシジル−4−グリシジルオキシピロリドンなどが挙げられる。
【0133】
脂環式エポキシドとしては、例えば、ビニルシクロヘキセンジオキシド、リモネンジオキシド、ジシクロペンタジエンジオキシド、ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、エチレングリコールビスエポキシジシクロペンチルエーテル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3’、4’−エポキシ−6’−メチルシクロヘキサンカルボキシレートなどが挙げられる。
【0134】
これらエポキシ樹脂は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0135】
エポキシ樹脂として、好ましくは、グリシジルエーテル型エポキシド、より好ましくは、多価フェノールのグリシジルエーテル、さらに好ましくは、2価フェノールのグリシジルエーテルが挙げられる。
【0136】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、例えば、100〜5000、好ましくは、100〜1000、さらに好ましくは、150〜500である。
【0137】
そして、エポキシ樹脂用硬化剤と主剤とを公知の方法で配合することにより、本発明のエポキシ樹脂組成物を得ることができ、また、そのエポキシ樹脂組成物を硬化させることにより、本発明のエポキシ樹脂硬化物を得ることができる。
【0138】
エポキシ樹脂用硬化剤と主剤との配合では、それらを、例えば、エポキシ樹脂用硬化剤のアミン当量と、主剤のエポキシ当量とがほぼ等量となるように、配合する。
【0139】
エポキシ樹脂用硬化剤と主剤との配合割合は、主剤100質量部に対して、エポキシ樹脂用硬化剤が、例えば、3〜60質量部、好ましくは、5〜50質量部、より好ましくは、10〜40質量部である。
【0140】
また、配合条件としては、温度が、例えば、10〜120℃、好ましくは、20〜80℃である。また、配合後、例えば、減圧などの公知の方法により、エポキシ樹脂組成物を脱泡処理することもできる。
【0141】
また、このようにして得られたエポキシ樹脂組成物を硬化させるには、例えば、エポキシ樹脂組成物を公知の型に注入し、その型内において、常圧下、エポキシ樹脂組成物を加熱する。
【0142】
加熱条件としては、加熱温度が、例えば、80〜250℃、好ましくは、100〜180℃であり、加熱時間が、例えば、10〜300分間、好ましくは、15〜240分間である。
【0143】
これにより、機械物性および耐熱性に優れるエポキシ樹脂硬化物を得ることができる。
【0144】
より具体的には、エポキシ樹脂硬化物の耐衝撃性(JIS K 7110に準拠)は、例えば、1kJ/m以上、好ましくは、2kJ/m以上、より好ましくは、2.5kJ/m以上、さらに好ましくは、3kJ/m以上、通常、10kJ/m以下である。
【0145】
また、エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度(JIS K 7203に準拠)は、例えば、98MPa以上、好ましくは、135MPa以上、より好ましくは、140MPa以上、さらに好ましくは、150MPa以上、通常、400MPa以下である。
【0146】
また、エポキシ樹脂硬化物の熱変形温度(JIS K 7207に準拠)は、例えば、80℃以上、好ましくは、120℃以上、より好ましくは、145℃以上、さらに好ましくは、148℃以上、通常、200℃以下である。
【0147】
そして、本発明のエポキシ樹脂用硬化剤によれば、優れた操作性を確保するとともに、機械物性および耐熱性に優れるエポキシ樹脂硬化物、および、そのエポキシ樹脂硬化物を製造するエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0148】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物によれば、機械物性および耐熱性に優れるエポキシ樹脂硬化物を得ることができる。
【0149】
また、本発明のエポキシ樹脂硬化物は、機械物性および耐熱性に優れる。
【0150】
そのため、本発明のエポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂組成物およびエポキシ樹脂硬化物は、半導体封止材などの電気電子部品や、車両用部材、航空機部材、さらには、例えば、塗料、接着剤など、機械物性および耐熱性が要求される各種工業分野において好適に用いることができる。
【実施例】
【0151】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、以下において「部」および「%」は、いずれも質量基準である。
【0152】
なお、以下において、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンおよび1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの、トランス異性体比率およびシス異性体比率は、13C−NMR測定におけるトランス異性体およびシス異性体に基づく炭素の積算値を測定することにより求めた。
(調製例1)
1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン−A(1,4−BAC−A)の調製
[核水素化工程]
撹拌装置を具備した耐圧反応機に、テレフタル酸250部、パラジウム系触媒(NEケムキャット社製、10%Pd/C)28部、および、イオン交換水1000部を仕込み、十分に窒素置換した後、常圧で400rpmの撹拌下、150℃に加熱した。
【0153】
150℃に到達した時点で、圧力が3.5MPaになるように、間欠的に水素を供給し、水素の吸収が無くなるまで反応を継続した。反応終了後、室温まで冷却し、反応液を採取後、これに仕込んだテレフタル酸に対して、2.5倍モルの水酸化ナトリウムに相当する5N−NaOH水溶液を添加し、撹拌した。該反応液をろ過することにより、触媒を除去した。
[シアノ化工程]
次いで、上記触媒を除去した反応液を、加熱減圧し、得られた1,4−シクロヘキサンジカルボン酸93部、および触媒である酸化スズ(II)1.3部を仕込み、400rpmで撹拌しながら、170℃に加熱し、上記のカルボン酸を溶解した。
【0154】
その後、アンモニアガスを1L/時の速度で流通しながら270℃に昇温し、該温度にて15時間反応させた。反応終了後、室温まで冷却し、固化した反応物をメタノールに懸濁させ、ろ過することにより、触媒を除去した。
【0155】
次に、上記ろ過液から減圧蒸留して得られた、トランス体およびシス体混合の1,4−ジシアノシクロヘキサン80部に、n−ブタノールを190部加えて、80℃に加熱し、該化合物を溶解させた。その後、室温まで冷却させた。この懸濁液をろ過し、ろ過物をさらに同量のn−ブタノールで洗浄した。該操作を2回繰り返すことにより、白色固体の1,4−ジシアノシクロヘキサンを得た。その異性体比率を分析した結果、トランス異性体比率は98モル%であった。
【0156】
[アミノメチル化工程]
該1,4−ジシアノシクロヘキサンを350部、触媒(川研ファインケミカル社製、マンガン含有ラネーコバルト)35部、28%アンモニア水390部、および、メタノール730部を仕込み、十分に窒素置換後、常圧状態で撹拌しながら、100℃に加熱した。
【0157】
100℃到達した時点で、圧力が0.97MPaになるように、間欠的に水素を供給し、水素の吸収が無くなるまで反応を継続した。反応終了後、室温まで冷却し、ろ過することにより、触媒を除去した。さらに、140〜160℃、1.33kPa以下で減圧蒸留を行うことにより、反応生成物を得た。
【0158】
該反応液をガスクロマトグラフィ−質量分析法(GC−MS)で分析した結果、反応液が、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(以下、1,4−BAC−A)であり、そのトランス異性体比率は96モル%、シス異性体比率は4モル%であることが確認された。
(調製例2)
1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン−Bの調製
試薬(東京化成社製)の1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(以下、1,4−BAC−B)を用意した。
【0159】
1,4−BAC−Bを分析した結果、そのトランス異性体比率は41モル%、シス異性体比率は59モル%であることが確認された。
(調製例3)
1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,3−BAC)
試薬(三菱ガス化学社製)の1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(以下、1,3−BAC)を用意した。
【0160】
1,3−BACを分析した結果、そのトランス異性体比率は23モル%、シス異性体比率は77モル%であることが確認された。
<エポキシ樹脂硬化剤>
(実施例1)エポキシ樹脂硬化剤A
調製例1の1,4−BAC−A 100部と、調製例2の1,4−BAC−B 30.95部とを窒素雰囲気下、常温で撹拌混合し、エポキシ樹脂硬化剤Aとした。
【0161】
エポキシ樹脂硬化剤Aにおける1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのトランス異性体比率は83モル%、シス異性体比率は17モル%であった。
(実施例2)エポキシ樹脂硬化剤B
調製例1の1,4−BAC−A 100部と、調製例2の1,4−BAC−B 7.84部とを窒素雰囲気下、常温で撹拌混合し、エポキシ樹脂硬化剤Bとした。
【0162】
エポキシ樹脂硬化剤Bにおける1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのトランス異性体比率は92モル%、シス異性体比率は8モル%であった。
(比較例1)エポキシ樹脂硬化剤C
調製例1の1,4−BAC−A 100部と、調製例2の1,4−BAC−B 77.42部とを窒素雰囲気下、常温で撹拌混合し、エポキシ樹脂硬化剤Cとした。
【0163】
エポキシ樹脂硬化剤Cにおける1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのトランス異性体比率は72モル%、シス異性体比率は28モル%であった。
(比較例2)エポキシ樹脂硬化剤D
調製例1の1,4−BAC−Aを用意し、これをエポキシ樹脂硬化剤Dとした。
(比較例3)エポキシ樹脂硬化剤E
実施例1のエポキシ樹脂硬化剤A(トランス異性体比率83モル%、シス異性体比率17モル%)9.4部、および、調製例3の1,3−BAC(トランス異性体比率23モル%、シス異性体比率77モル%)9.4部を窒素雰囲気下、常温で撹拌混合し、これをエポキシ樹脂硬化剤Eとした。
【0164】
エポキシ樹脂硬化剤E中において、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのトランス異性体比率は41.5モル%、シス異性体比率は8.5モル%、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのトランス異性体比率は11.5モル%、シス異性体比率は38.5モル%であった。
(比較例4)エポキシ樹脂硬化剤F
実施例1のエポキシ樹脂硬化剤A(トランス異性体比率83モル%、シス異性体比率17モル%)16.2部、および、調製例3の1,3−BAC(トランス異性体比率23モル%、シス異性体比率77モル%)2.64部を窒素雰囲気下、常温で撹拌混合し、これをエポキシ樹脂硬化剤Fとした。
【0165】
エポキシ樹脂硬化剤F中において、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのトランス異性体比率は71.4モル%、シス異性体比率は14.6モル%、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのトランス異性体比率は3.2モル%、シス異性体比率は10.8モル%であった。
<エポキシ樹脂組成物およびエポキシ樹脂硬化物>
(実施例3)
(1)エポキシ樹脂組成物Aの製造
エポキシ樹脂硬化剤A18.8部と、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名:エピコート828、ジャパンエポキシレジン社製)100部とを、常温において均一に混合し、減圧下で脱泡することにより、反応混合液として、エポキシ樹脂組成物Aを得た。
(2)エポキシ樹脂硬化物Aの製造
上記で得られたエポキシ樹脂組成物Bを、予め、80℃に加熱した型に流し込み、同温度で2時間加熱後、引き続き、150℃で2時間加熱硬化させた。これにより、エポキシ樹脂硬化物Aを得た。
【0166】
その後、型からエポキシ樹脂硬化物Aを取り出し、23℃、55%相対湿度の実験室で静置後に、下記に示す方法によって物性測定した。
(実施例4)
エポキシ樹脂硬化剤Aに代えて、エポキシ樹脂硬化剤Bを用いた以外は、実施例3と同様の操作により、エポキシ樹脂組成物Bおよびエポキシ樹脂硬化物Bを得た。
【0167】
その後、型からエポキシ樹脂硬化物Bを取り出し、実施例1と同様の操作により、物性測定した。その結果を表1に示す。
(比較例5)
エポキシ樹脂硬化剤Aに代えて、エポキシ樹脂硬化剤Cを用いた以外は、実施例3と同様の操作により、エポキシ樹脂組成物Cおよびエポキシ樹脂硬化物Cを得た。
【0168】
その後、型からエポキシ樹脂硬化物Cを取り出し、実施例1と同様の操作により、物性測定した。
(比較例6)
エポキシ樹脂硬化剤Aに代えて、エポキシ樹脂硬化剤Dを用いた以外は、実施例3と同様の操作により、エポキシ樹脂組成物Dおよびエポキシ樹脂硬化物Dを得た。
【0169】
その後、型からエポキシ樹脂硬化物Dを取り出し、実施例1と同様の操作により、物性測定した。
(比較例7)
エポキシ樹脂硬化剤Aに代えて、エポキシ樹脂硬化剤Eを用いた以外は、実施例3と同様の操作により、エポキシ樹脂組成物Eおよびエポキシ樹脂硬化物Eを得た。
【0170】
その後、型からエポキシ樹脂硬化物Eを取り出し、実施例1と同様の操作により、物性測定した。
(比較例8)
エポキシ樹脂硬化剤Aに代えて、エポキシ樹脂硬化剤Fを用いた以外は、実施例3と同様の操作により、エポキシ樹脂組成物Fおよびエポキシ樹脂硬化物Fを得た。
【0171】
その後、型からエポキシ樹脂硬化物Fを取り出し、実施例1と同様の操作により、物性測定した。
【0172】
評価
<熱変形温度(単位:℃)>
各実施例および比較例において得られたエポキシ樹脂硬化物を、厚み3mm、幅13mmおよび長さ110mmの試験片とし、JIS K−7207に準拠した方法(昇温速度2℃/min)により、熱変形温度を測定した。その結果を表1に示す。
<耐衝撃性(単位:kJ/m)>
各実施例および比較例において得られたエポキシ樹脂硬化物の、ノッチ付アイゾット試験片を用いて、JIS K−7110に準拠した方法により、23℃、相対湿度50%にて、耐衝撃性を測定した。その結果を表1に示す。
<曲げ強度(単位:MPa)>
各実施例および比較例において得られたエポキシ樹脂硬化物の曲げ強度を、JIS K−7203に準拠した方法により、23℃、相対湿度50%にて測定した。その結果を表1に示す。
【0173】
【表1】

【0174】
<考察>
エポキシ樹脂硬化剤における1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのトランス異性体比率が80モル%未満である72モル%である場合(比較例5)には、エポキシ樹脂硬化物の熱変形温度や曲げ強度が低下することが確認された。
【0175】
また、エポキシ樹脂硬化剤における1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのトランス異性体比率が95モル%超である96モル%である場合(比較例6)には、エポキシ樹脂硬化物の耐衝撃性が低下することが確認された。
【0176】
一方、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンおよび1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの混合物をエポキシ樹脂硬化剤として用いると(比較例7および8)、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのトランス異性体比が80〜95モル%の範囲(83モル%)であっても、熱変形温度および曲げ強度が低下することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを80〜95モル%の割合で含有する1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンからなることを特徴とする、エポキシ樹脂用硬化剤。
【請求項2】
前記トランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが、
テレフタル酸、テレフタル酸エステルおよびテレフタル酸アミドからなる群から選択される少なくとも1種のテレフタル酸またはその誘導体を核水素化して、水添テレフタル酸またはその誘導体を製造し、
その水添テレフタル酸またはその誘導体をアンモニアと接触させて、得られた1,4−ジシアノシクロヘキサンから、トランス−1,4−ジシアノシクロヘキサンを製造し、
そのトランス−1,4−ジシアノシクロヘキサンを水素と接触させることにより得られるトランス−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン
を含むことを特徴とする、請求項1に記載のエポキシ樹脂用硬化剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエポキシ樹脂用硬化剤と、
エポキシ樹脂からなる主剤と
を含有することを特徴とする、エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させることにより得られることを特徴とする、エポキシ樹脂硬化物。

【公開番号】特開2011−252083(P2011−252083A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126649(P2010−126649)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】