説明

エマルジョン系塗布型制振塗料

【課題】エマルジョン系塗布型制振塗料において、5℃〜20℃の低温雰囲気下に放置されても良好な成膜性を示し、その後の焼付け乾燥においてもフクレ等の塗膜欠陥を生ずることなく、20℃〜60℃の温度範囲で優れた制振性を発揮する制振塗料組成物を提供する。
【解決手段】一種または二種以上の樹脂エマルジョンと、一種または二種以上の造膜助剤と、一種または二種以上の無機充填剤とを含有するエマルジョン系塗布型制振塗料であって、樹脂エマルジョン全体の最低造膜温度が5℃〜15℃の範囲内にあり、造膜助剤として沸点が150℃〜240℃の範囲内である有機化合物の一種または二種以上を合計で0.5重量%〜5重量%の範囲内で含有するエマルジョン系塗布型制振塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂エマルジョンと無機質充填剤とを含有し、車両のフロア等に用いられる剛性と制振性に優れ、低温における成膜性にも優れた水性エマルジョン系の塗布型制振塗料に関するものである。
【0002】
ここで、「エマルジョン(emulsion,エマルションともいう。)」とは、乳濁液ともいい、液体中に液体粒子がコロイド粒子あるいはそれより粗大な粒子として乳状をなすもの(分散系)、が本来の意味であるが(長倉三郎他編「岩波理化学辞典(第5版)」152頁,1998年2月20日株式会社岩波書店発行)、本明細書及び特許請求の範囲、図面、要約書においては、より広い意味で一般的に用いられている「液体中に固体または液体の粒子が分散しているもの」として、「エマルジョン」という用語を用いるものとする。
【背景技術】
【0003】
従来、乗用車等の車両のフロア等には振動を防止するために、アスファルトを主成分としたシート状の制振材が設置されていた。しかし、かかるシート状の制振材は車両等に用いる場合には、各車種ごとに設置する部分の形状に合わせて切断しなければならず、更にシート状制振材の設置は作業者が行わなければならないため、自動化の障害になり工程時間の短縮を阻害していた。そこで、特許文献1に示されるように、ロボットによる自動化の可能な塗装式の制振組成物(水系制振材用エマルジョン)が開発されている。
【0004】
特許文献1においては、制振材として塗布された厚い塗膜を乾燥させる場合に表面から乾燥して硬化することによって、塗膜内部の水分が蒸発する際に塗膜にフクレを生じたり、クラックが発生したりするのを防止するために、制振材として形成された塗膜の乾燥性を向上させるように、凝固率を一定範囲内に制御した水系制振材用エマルジョンの発明について開示している。
【0005】
この発明に係る水系制振材用エマルジョンは、塗装ロボットによる自動化が可能であり工程時間を短縮できるだけでなく、水系塗料であるため、施工時に従来のシート状制振材におけるアスファルト臭や有機溶剤系塗料における有機溶剤臭を発生しないという長所も兼ね備えている。しかし、この発明に係る水系塗料を塗布した車両のフロア等を20℃以下の低温環境に放置しておくと、低温での成膜性が悪いために塗膜にワレ・クラックを生ずるという問題があった。
【0006】
そこで、低温での成膜性を改良するために、特許文献2においては、相溶性調整成分(各種溶剤やロジンエステル、フェノール樹脂等)を添加した水系制振材組成物の発明について開示している。
【特許文献1】特開2004−115665号公報
【特許文献2】特開2001−152028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に係る水系制振材組成物エマルジョンにおいては、放置温度が10℃〜20℃の範囲内でしか、成膜性の改良効果が得られていない。具体的には、添加剤としてプロピレングリコール、ロジンエステル、フェノール樹脂を用いた場合には10℃において既に成膜性が不十分であり、テキサノール(2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノ(2−メチルプロパネート))では10℃においては成膜性が得られても、5℃において充分な成膜性を得ようとすると、テキサノールの沸点が255℃と高いため制振性に影響を及ぼすとともに、加熱乾燥時にフクレを生じてしまうという問題点があった。
【0008】
そこで、本発明は、塗布後〜加熱乾燥前において5℃〜20℃の低温雰囲気下に放置されても良好な成膜性を示し、塗膜のワレ・クラックを生ずることなく、かつ、その後の焼付け乾燥においてもフクレ等の塗膜欠陥を生ずることなく、20℃〜60℃の温度範囲で優れた制振性を発揮するエマルジョン系塗布型制振塗料を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明に係るエマルジョン系塗布型制振塗料は、一種または二種以上の樹脂エマルジョンと、一種または二種以上の造膜助剤と、一種または二種以上の無機質充填剤とを含有するエマルジョン系塗布型制振塗料であって、前記樹脂エマルジョン全体の最低造膜温度(MFT)が5℃〜15℃の範囲内にあり、前記造膜助剤として沸点が150℃〜240℃の範囲内である有機化合物の一種または二種以上を合計で0.5重量%〜5重量%の範囲内で含有するものである。
【0010】
ここで、「樹脂エマルジョン」としては、アクリル樹脂(メタクリル樹脂を含む)エマルジョン、アクリル酸エステル樹脂(メタクリル酸エステル樹脂を含む)エマルジョン、アクリル−スチレンエマルジョン、スチレン―ブタジエンエマルジョン、スチレン―ブタジエン−ラテックス(SBR)エマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン―酢酸ビニルエマルジョン、エチレン―アクリルエマルジョン、エポキシ樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、フェノール樹脂エマルジョン、ポリエステル樹脂エマルジョン、アクリロニトリル―ブタジエン−ラテックス(NBR)エマルジョン、等のうち一種または二種以上を用いることができる。但し、二種以上を混合して用いる場合には、混合樹脂エマルジョンの全体として、最低造膜温度(MFT)が5℃〜15℃の範囲内にあることが必要となる。
【0011】
また、「造膜助剤」としての有機化合物としては、エーテル類・エステル類・グリコール類・グリコールエーテル類またはアルコール類である、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジカルボン酸ジメチル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、3―メチル―3−メトキシブタノール、プロピレングリコール、2−ブトキシエタノール、等のうち一種または二種以上を用いることができる。
【0012】
更に、「無機質充填剤」としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、クレイ、タルク、マイカ、珪藻土、アルミナ、石膏、セメント、転炉スラグ粉末、シラス粉末、ガラス粉末、グラファイト、ヒル石、カオリナイト、ゼオライト、等を用いることができる。
【0013】
請求項2の発明に係るエマルジョン系塗布型制振塗料は、請求項1の構成において、前記樹脂エマルジョンはアクリル樹脂(メタクリル樹脂を含む)エマルジョン、アクリル酸エステル樹脂(メタクリル酸エステル樹脂を含む)エマルジョン、アクリル−スチレンエマルジョン、スチレン―ブタジエンエマルジョン、スチレン―ブタジエン−ラテックス(SBR)エマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン―酢酸ビニルエマルジョン、エチレン―アクリルエマルジョン、エポキシ樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、フェノール樹脂エマルジョン、ポリエステル樹脂エマルジョン、アクリロニトリル―ブタジエン−ラテックス(NBR)エマルジョンのうち一種または二種以上であるものである。
【0014】
請求項3の発明に係るエマルジョン系塗布型制振塗料は、請求項1または請求項2の構成において、前記造膜助剤はエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジカルボン酸ジメチル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、3―メチル―3−メトキシブタノール、プロピレングリコール、2−ブトキシエタノールから選ばれる少なくとも1つであるものである。
【0015】
請求項4の発明に係るエマルジョン系塗布型制振塗料は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つの構成において、前記無機質充填剤は炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、クレイ、タルク、マイカ、珪藻土、アルミナ、石膏、セメント、転炉スラグ粉末、シラス粉末、ガラス粉末、グラファイト、ヒル石、カオリナイト、ゼオライトから選ばれる少なくとも1つであるものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明に係るエマルジョン系塗布型制振塗料は、一種または二種以上の樹脂エマルジョンと、一種または二種以上の造膜助剤と、一種または二種以上の無機質充填剤とを含有するエマルジョン系塗布型制振塗料であって、樹脂エマルジョン全体の最低造膜温度(MFT)が5℃〜15℃の範囲内にあり、造膜助剤として沸点が150℃〜240℃の範囲内である有機化合物の一種または二種以上を合計で0.5重量%〜5重量%の範囲内で含有する。
【0017】
ここで、「樹脂エマルジョン」としては、アクリル樹脂(メタクリル樹脂を含む)エマルジョン、アクリル酸エステル樹脂(メタクリル酸エステル樹脂を含む)エマルジョン、アクリル−スチレンエマルジョン、スチレン―ブタジエンエマルジョン、スチレン―ブタジエン−ラテックス(SBR)エマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン―酢酸ビニルエマルジョン、エチレン―アクリルエマルジョン、エポキシ樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、フェノール樹脂エマルジョン、ポリエステル樹脂エマルジョン、アクリロニトリル―ブタジエン−ラテックス(NBR)エマルジョン、等のうち一種または二種以上を用いることができる。但し、二種以上を混合して用いる場合には、混合樹脂エマルジョンの全体として、最低造膜温度(MFT)が5℃〜15℃の範囲内にあることが必要となる。
【0018】
また、「造膜助剤」としての有機化合物としては、エーテル類・エステル類・グリコール類・グリコールエーテル類またはアルコール類である、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジカルボン酸ジメチル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、3―メチル―3−メトキシブタノール、プロピレングリコール、2−ブトキシエタノール、等のうち一種または二種以上を用いることができる。
【0019】
更に、「無機質充填剤」としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、クレイ、タルク、マイカ、珪藻土、アルミナ、石膏、セメント、転炉スラグ粉末、シラス粉末、ガラス粉末、グラファイト、ヒル石、カオリナイト、ゼオライト、等を用いることができる。
【0020】
本発明者らが鋭意実験研究を積み重ねた結果、樹脂エマルジョン全体の最低造膜温度(MFT)が5℃〜15℃の範囲内にあり、造膜助剤として沸点が150℃〜240℃の範囲内の有機化合物の一種または二種以上を合計で0.5重量%〜5重量%の範囲内で含有する場合には、5℃〜20℃の低温雰囲気下に放置されても良好な成膜性を示し、その後の焼付け乾燥においてもフクレ等の塗膜欠陥が発生せず、かつ、20℃〜60℃の温度範囲で優れた制振性を発揮することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0021】
すなわち、樹脂エマルジョン全体の最低造膜温度(MFT)が5℃〜15℃の範囲内であれば、エマルジョン系塗布型制振塗料の塗布後に5℃の温度下に48時間以上放置されてもワレ・クラック等を生ぜず、良好な成膜性を示し、造膜助剤の沸点が150℃〜240℃の範囲内であればその後の焼付け乾燥においてもフクレ等の塗膜欠陥が発生せず、更に造膜助剤の配合量が0.5重量%未満であると造膜助剤の効果が発現されず、一方造膜助剤の配合量が5重量%を超えると焼付け乾燥においてもフクレが発生するからである。
【0022】
このようにして、塗布後〜加熱乾燥前において5℃〜20℃の低温雰囲気下に放置されても良好な成膜性を示し、塗膜のワレ・クラックを生ずることなく、かつ、その後の焼付け乾燥においてもフクレ等の塗膜欠陥を生ずることなく、20℃〜60℃の温度範囲で優れた制振性を発揮するエマルジョン系塗布型制振塗料となる。
【0023】
請求項2の発明に係るエマルジョン系塗布型制振塗料においては、樹脂エマルジョンがアクリル樹脂(メタクリル樹脂を含む)エマルジョン、アクリル酸エステル樹脂(メタクリル酸エステル樹脂を含む)エマルジョン、アクリル−スチレンエマルジョン、スチレン―ブタジエンエマルジョン、スチレン―ブタジエン−ラテックス(SBR)エマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン―酢酸ビニルエマルジョン、エチレン―アクリルエマルジョン、エポキシ樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、フェノール樹脂エマルジョン、ポリエステル樹脂エマルジョン、アクリロニトリル―ブタジエン−ラテックス(NBR)エマルジョンのうち一種または二種以上である。
【0024】
これらの樹脂エマルジョンは、いずれも最低造膜温度(MFT)が5℃〜15℃の範囲内にあるため、これらの樹脂エマルジョンを単独で配合することによって、5℃〜20℃の低温雰囲気下に放置されても良好な成膜性を示すエマルジョン系塗布型制振塗料が得られる。また、これらの樹脂エマルジョンのうち二種以上を組み合わせても、全体の最低造膜温度(MFT)が5℃〜15℃の範囲内にあれば、同様に5℃〜20℃の低温雰囲気下に放置されても良好な成膜性を示すエマルジョン系塗布型制振塗料が得られる。
【0025】
ここで、これらの樹脂エマルジョンの配合量は、エマルジョン系塗布型制振塗料全体において、樹脂分(固形分)換算で18重量%〜26重量%であることが好ましく、更には20重量%〜24重量%であることがより好ましい。
【0026】
このようにして、塗布後〜加熱乾燥前において5℃〜20℃の低温雰囲気下に放置されても良好な成膜性を示し、塗膜のワレ・クラックを生ずることなく、かつ、その後の焼付け乾燥においてもフクレ等の塗膜欠陥を生ずることなく、20℃〜60℃の温度範囲で優れた制振性を発揮するエマルジョン系塗布型制振塗料となる。
【0027】
請求項3の発明に係るエマルジョン系塗布型制振塗料においては、造膜助剤がエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル(沸点153℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点203℃)、エチレングリコールモノプロピルエーテル(沸点150℃)、ジカルボン酸ジメチル(沸点196℃〜225℃)、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル(沸点229℃)、3―メチル―3−メトキシブタノール(沸点174℃)、プロピレングリコール(沸点187℃)、2−ブトキシエタノール(沸点168℃)から選ばれる少なくとも1つである。
【0028】
これらの有機化合物は、上述の如く、沸点がいずれも150℃〜240℃の範囲内であるため、エマルジョン系塗布型制振塗料の塗布後において、良好な塗膜を形成する。すなわち、沸点が150℃未満であると、加熱乾燥前の常温放置の間に大部分が揮発してしまうため、造膜助剤としての効果が充分に現れない。一方、沸点が240℃を超えると、加熱乾燥時に塗膜中に残存して、制振性を劣化させてしまう。したがって、造膜助剤の沸点は150℃〜240℃の範囲内である必要がある。
【0029】
このようにして、塗布後〜加熱乾燥前において5℃〜20℃の低温雰囲気下に放置されても良好な成膜性を示し、塗膜のワレ・クラックを生ずることなく、かつ、その後の焼付け乾燥においてもフクレ等の塗膜欠陥を生ずることなく、20℃〜60℃の温度範囲で優れた制振性を発揮するエマルジョン系塗布型制振塗料となる。
【0030】
請求項4の発明に係るエマルジョン系塗布型制振塗料においては、無機質充填剤が炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、クレイ、タルク、マイカ、珪藻土、アルミナ、石膏、セメント、転炉スラグ粉末、シラス粉末、ガラス粉末、グラファイト、ヒル石、カオリナイト、ゼオライトから選ばれる少なくとも1つである。
【0031】
特に、無機質充填剤が炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、マイカ、珪藻土から選ばれる少なくとも1つであることがより好ましい。これらの無機質充填剤は、いずれも入手が容易で安価であり、樹脂エマルジョンとの相性も良いので、エマルジョン系塗布型制振塗料に配合することによって、エマルジョン系塗布型制振塗料の製造コストを低減できるとともに、良好な制振特性を得ることができる。
【0032】
ここで、これらの無機質充填剤の配合量は、エマルジョン系塗布型制振塗料全体において、40重量%〜60重量%であることが好ましく、更には45重量%〜55重量%であることがより好ましい。
【0033】
このようにして、塗布後〜加熱乾燥前において5℃〜20℃の低温雰囲気下に放置されても良好な成膜性を示し、塗膜のワレ・クラックを生ずることなく、かつ、その後の焼付け乾燥においてもフクレ等の塗膜欠陥を生ずることなく、20℃〜60℃の温度範囲で優れた制振性を発揮するエマルジョン系塗布型制振塗料となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態に係るエマルジョン系塗布型制振塗料について、図1及び図2を参照して説明する。図1は本実施の形態に係るエマルジョン系塗布型制振塗料の製造方法を示すフローチャートである。図2(a)は本実施の形態に係るエマルジョン系塗布型制振塗料によって形成された塗膜の制振性能を試験するための供試体を示す斜視図、(b)は塗膜の成膜性を試験するための供試体を示す斜視図である。
【0035】
まず、本実施の形態に係るエマルジョン系塗布型制振塗料の製造方法について、図1のフローチャートを参照して説明する。図1に示されるように、まずステップS1でミキサー(脱泡攪拌機能有り)に液体状の樹脂エマルジョンを入れて、これに添加剤(分散剤・消泡剤)を添加し(ステップS2)、攪拌する(ステップS3)。次に、無機質充填剤及び造膜助剤を混入して(ステップS4)、均一になるまで攪拌・混合する(ステップS5)。そして、粘度を調整した後に、脱泡攪拌する(ステップS6)。以上の工程で、エマルジョン系塗布型制振塗料1の製造が完了する。
【0036】
次に、本実施の形態に係るエマルジョン系塗布型制振塗料の配合について説明する。樹脂エマルジョンとしてメタクリル酸エステル共重合体をエマルジョン樹脂とする樹脂エマルジョンA,B,C,Dと、アクリル−スチレン樹脂をエマルジョン樹脂とする樹脂エマルジョンEとを用い、造膜助剤としてグリコールエステル系有機化合物F,グリコールエーテル系有機化合物G,H,エステル系有機化合物I,Jを用い、無機質充填剤として炭酸カルシウム・硫酸バリウム・タルク・マイカ・珪藻土の混合物を用いた。
【0037】
また、粘度を調整するために、水及び増粘剤を配合して、総計100重量%となるようにした。これらの配合比を変えたものを実施例1〜実施例9まで製造し、更に比較のために比較例1〜比較例10をも製造して、特性試験(制振性・成膜性・加熱乾燥後のフクレの有無)を行った。実施例1〜実施例9及び比較例1〜比較例10に係るエマルジョン系塗布型制振塗料の各配合を、表1の上段にまとめて示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示されるように、実施例1〜実施例9及び比較例1〜比較例10の各配合を通して、樹脂エマルジョン(メタクリル酸エステル共重合体エマルジョンまたはアクリル−スチレン樹脂エマルジョン)の配合量は全て40重量%に統一した。これらの樹脂エマルジョンA,B,C,D,Eは、いずれも樹脂分が55%で水分が45%であるため、樹脂分(固形分)換算の配合量は全て22重量%となる。
【0040】
また、表1には示されていないが、無機質充填剤の配合量も全て51重量%に統一した。その内訳は、炭酸カルシウムが35重量%、硫酸バリウムが8重量%、珪藻土が3重量%、タルクが2重量%、マイカが3重量%である。更に、分散剤としてはアニオン性のポリカルボン酸ナトリウム塩を用いて、配合量は全て0.5重量%に統一した。また、消泡剤・増粘剤の配合量は全て合計1重量%に統一した。そして、樹脂エマルジョンA,B,C,D,Eの中に含まれる水分(全体に対して18重量%)に、図1のステップS6において粘度調製のために追加する水を合わせて、水を全体に対して18重量%〜20重量%として、総計100重量%となるようにした。
【0041】
したがって、実施例1〜実施例9及び比較例1〜比較例10の各配合において異なるのは、表1に示されるエマルジョン樹脂の種類と造膜助剤の種類及び配合量、並びにそれらの組み合わせのみである。
【0042】
表1に示されるように、実施例1及び実施例2においては、エマルジョン樹脂としてメタクリル酸エステル共重合体B(MFT=5℃)を用いており、造膜助剤としてグリコールエーテル系有機化合物H(沸点:174℃)を用いているが、造膜助剤の配合量だけが0.5重量%及び5重量%と異なっている。実施例3乃至実施例6においては、エマルジョン樹脂としてメタクリル酸エステル共重合体D(MFT=15℃)を用いており、造膜助剤としては実施例3,実施例4がグリコールエーテル系有機化合物H(沸点:174℃)を、実施例5,実施例6がグリコールエーテル系有機化合物G(沸点:150℃)を用いている。そして、造膜助剤の配合量だけが、それぞれ0.5重量%及び5重量%と異なっている。
【0043】
また、実施例7及び実施例8においては、エマルジョン樹脂として実施例1,実施例2と同じくメタクリル酸エステル共重合体B(MFT=5℃)を用いており、造膜助剤としてエステル系有機化合物I(沸点:196℃〜225℃)を用いているが、造膜助剤の配合量だけが0.5重量%及び5重量%と異なっている。そして、実施例9においては、エマルジョン樹脂としてメタクリル酸エステル共重合体C(MFT=10℃)を用いており、造膜助剤としてエステル系有機化合物I(沸点:196℃〜225℃)を3重量%配合している。
【0044】
したがって、実施例1〜実施例9に係るエマルジョン系塗布型制振塗料においては、本発明の請求項1に係る「樹脂エマルジョン全体の最低造膜温度(MFT)が5℃〜15℃の範囲内にあり、造膜助剤として沸点が150℃〜240℃の範囲内である有機化合物を合計で0.5重量%〜5重量%の範囲内で含有する」という条件を全て満たしている。
【0045】
これに対して、比較例1においては、エマルジョン樹脂としてメタクリル酸エステル共重合体A(MFT=0℃)を用いており、造膜助剤としてグリコールエステル系有機化合物F(沸点:145℃)を0.5重量%用いていて、樹脂エマルジョンのMFTも造膜助剤の沸点も、本発明の請求項1に係る条件から外れている。比較例2においては、エマルジョン樹脂としてアクリル−スチレン樹脂E(MFT=20℃)を用いており、造膜助剤としてエステル系有機化合物J(沸点:244℃)を5重量%用いていて、やはり樹脂エマルジョンのMFTも造膜助剤の沸点も、本発明の請求項1に係る条件から外れている。
【0046】
比較例3及び比較例4においては、エマルジョン樹脂として実施例1,実施例2と同じくメタクリル酸エステル共重合体B(MFT=5℃)を用いているが、造膜助剤としてグリコールエステル系有機化合物F(沸点:145℃)をそれぞれ0.5重量%及び5重量%用いていて、造膜助剤の沸点が本発明の請求項1に係る条件から外れている。比較例5及び比較例6においては、エマルジョン樹脂として実施例3乃至実施例6と同じくメタクリル酸エステル共重合体D(MFT=15℃)を用いているが、造膜助剤としてグリコールエステル系有機化合物J(沸点:244℃)をそれぞれ0.5重量%及び5重量%用いていて、やはり造膜助剤の沸点が本発明の請求項1に係る条件から外れている。
【0047】
また、比較例7乃至比較例10においては、エマルジョン樹脂として、実施例9と同じくメタクリル酸エステル共重合体C(MFT=10℃)を用いており、造膜助剤としては比較例7及び比較例8においては、実施例5,実施例6と同じくグリコールエーテル系有機化合物G(沸点:150℃)を用いており、また比較例9及び比較例10においては、実施例7乃至実施例9と同じくエステル系有機化合物I(沸点:196℃〜225℃)を用いている。しかしながら、造膜助剤の配合量が0.4重量%または6重量%であり、本発明の請求項1に係る条件(0.5重量%〜5重量%の範囲内)から外れている。
【0048】
したがって、比較例1〜比較例10に係るエマルジョン系塗布型制振塗料においては、本発明の請求項1に係る「樹脂エマルジョン全体の最低造膜温度(MFT)が5℃〜15℃の範囲内にあり、造膜助剤として沸点が150℃〜240℃の範囲内である有機化合物を合計で0.5重量%〜5重量%の範囲内で含有する」という条件のうち、いずれか1つ以上を満たしていない。
【0049】
次に、これら実施例1〜実施例9及び比較例1〜比較例10に係るエマルジョン系塗布型制振塗料を塗布して形成した塗膜の特性試験(制振性・成膜性・加熱乾燥後のフクレの有無の各試験)の試験方法について、図2を参照して説明する。
【0050】
制振性の試験は、図2(a)に示されるように、長さ220mm×幅10mm×厚さ1.6mmの防錆鋼板の表面に、長さ200mm×幅10mmでエマルジョン系塗布型制振塗料をバーコータ塗布して塗膜1Aを形成した供試体2Aを用いて行った。なお、塗膜1Aの厚さは、単位面積当たりの乾燥塗膜重量が4kg/m2 になるように塗布し、130℃で30分の2回焼付けして供試体2Aを作製した。この供試体2Aについて、20℃,40℃,60℃の各温度における損失係数を測定した。一般的に、厚さ1.6mmの供試体2Aの場合には、損失係数が0.04以上であれば、優れた制振性能を有していると判定される。
【0051】
また、成膜性・加熱乾燥後のフクレの有無の各試験は、図2(b)に示されるように、長さ150mm×幅75mm×厚さ0.8mmの電着塗装鋼板の表面に、長さ100mm×幅50mmでエマルジョン系塗布型制振塗料をバーコータ塗布して塗膜1Bを形成した供試体2Bを用いて行った。塗膜1Bの厚さは、3mmの部分と6mmの部分との二段階に分け、加熱乾燥条件は、120℃〜160℃×30分間〜120分間とした。
【0052】
成膜性については、図2(b)に示される供試体2Bを5℃及び20℃の温度に48時間放置して、素地である電着塗装鋼板の表面に至るワレが発生していなければ○、電着塗装鋼板の表面に至るワレが発生していれば×と評価した。また、加熱乾燥後のフクレについては、このように供試体2Bを5℃及び20℃の温度に48時間放置した後に、120℃〜160℃×30分間〜120分間の加熱乾燥を行って、塗膜1Bにフクレが発生していなければ○、フクレが発生していれば×と評価した。制振性・成膜性・加熱乾燥後のフクレの有無の各試験の結果を、表1の下段にまとめて示す。
【0053】
表1の下段に示されるように、実施例1〜実施例9の配合のエマルジョン系塗布型制振塗料においては、20℃,40℃,60℃のいずれの温度における損失係数も0.04〜0.17の範囲内にあり、全て0.04以上であることから、20℃〜60℃の温度範囲において優れた制振性を有していることが分かった。また、成膜性及び加熱乾燥後のフクレについても、全ての条件で○の評価であった。したがって、実施例1〜実施例9の配合に係るエマルジョン系塗布型制振塗料は、全て総合判定で○の評価となる。
【0054】
これに対して、比較例1の配合については、60℃における損失係数が0.03しかなく制振性が不足しており、また20℃の温度に48時間放置した後に加熱乾燥後のフクレが発生している。また、比較例2の配合については、制振性の基準はクリアしているが、5℃の温度に48時間放置した後に素地に至るワレが発生しており、更に5℃の温度に48時間放置した後に加熱乾燥後のフクレが発生している。更に、比較例3の配合については、制振性の基準はクリアしているが、5℃及び20℃の温度に48時間放置した後に素地に至るワレが発生している。
【0055】
また、比較例4及び比較例5の配合については、制振性の基準はクリアしているが、5℃の温度に48時間放置した後に素地に至るワレが発生している。更に、比較例6の配合については、成膜性及び加熱乾燥後のフクレの基準は全てクリアしているが、60℃における損失係数が0.03しかなく制振性が不足している。また、造膜助剤の配合量が少ない比較例7及び比較例9の配合については、いずれも5℃及び20℃の温度に48時間放置した後に素地に至るワレが発生しており、一方、造膜助剤の配合量が多い比較例8及び比較例10の配合については、いずれも加熱乾燥後のフクレが発生している。
【0056】
したがって、比較例1〜比較例10の配合のエマルジョン系塗布型制振塗料は、全て総合判定で×の評価となる。
【0057】
以上説明したように、本実施の形態に係る実施例1〜実施例9の配合のエマルジョン系塗布型制振塗料においては、塗布後〜加熱乾燥前において5℃〜20℃の低温雰囲気下に放置されても良好な成膜性を示し、塗膜のワレ・クラックを生ずることなく、かつ、その後の焼付け乾燥においてもフクレ等の塗膜欠陥を生ずることなく、20℃〜60℃の温度範囲で優れた制振性を発揮するものである。
【0058】
したがって、本実施の形態に係るエマルジョン系塗布型制振塗料(実施例1〜実施例9)は、車両のフロア部、トランクルーム、ダッシュ部等に塗装ロボット等を用いて自動施工が可能であり、揮発性有機化合物(VOC)を殆ど含有しないため環境にも優しく、より制振特性に優れた制振塗膜を得ることができるとともに、低コスト化することができる。
【0059】
本実施の形態においては、樹脂エマルジョンとしてMFT=5℃〜15℃のメタクリル酸エステル共重合体エマルジョンを用いた例について説明したが、これら以外にも、MFT=5℃〜15℃のアクリル樹脂(メタクリル樹脂を含む)エマルジョン、アクリル−スチレン樹脂エマルジョン、スチレン―ブタジエンエマルジョン、スチレン―ブタジエン−ラテックス(SBR)エマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン―酢酸ビニルエマルジョン、エチレン―アクリルエマルジョン、エポキシ樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、フェノール樹脂エマルジョン、ポリエステル樹脂エマルジョン、アクリロニトリル―ブタジエン−ラテックス(NBR)エマルジョン等を用いることができる。
【0060】
また、本実施の形態においては、造膜助剤として沸点が150℃〜240℃の範囲内であるグリコールエーテル系有機化合物G,H,エステル系有機化合物Iを用いた例について説明したが、これら以外にも、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル(沸点153℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点203℃)、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル(沸点229℃)、3―メチル―3−メトキシブタノール(沸点174℃)、プロピレングリコール(沸点187℃)、2−ブトキシエタノール(沸点168℃)等を用いることができる。
【0061】
更に、本実施の形態においては、無機質充填剤として炭酸カルシウム・硫酸バリウム・タルク・マイカ・珪藻土の混合物を用いているが、他にも、これらを単独で、またはこれらのうち二種以上の混合物として、更に炭酸マグネシウム、クレイ、アルミナ、石膏、セメント、転炉スラグ粉末、シラス粉末、ガラス粉末、グラファイト、ヒル石、カオリナイト、ゼオライト、等を単独で、または混合物として用いることができる。
【0062】
エマルジョン系塗布型制振塗料のその他の組成、成分、配合量、材質、大きさ、製造方法等についても、本実施の形態に限定されるものではない。
なお、本発明の実施の形態で上げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な数値を示すものであるから、上記数値を若干変更しても実施を否定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は本実施の形態に係るエマルジョン系塗布型制振塗料の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図2(a)は本実施の形態に係るエマルジョン系塗布型制振塗料によって形成された塗膜の制振性能を試験するための供試体を示す斜視図、(b)は塗膜の成膜性を試験するための供試体を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0064】
1 エマルジョン系塗布型制振塗料
1A,1B 制振塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一種または二種以上の樹脂エマルジョンと、一種または二種以上の造膜助剤と、一種または二種以上の無機質充填剤とを含有するエマルジョン系塗布型制振塗料であって、
前記樹脂エマルジョン全体の最低造膜温度が5℃〜15℃の範囲内にあり、前記造膜助剤として沸点が150℃〜240℃の範囲内である有機化合物の一種または二種以上を合計で0.5重量%〜5重量%の範囲内で含有することを特徴とするエマルジョン系塗布型制振塗料。
【請求項2】
前記樹脂エマルジョンはアクリル樹脂(メタクリル樹脂を含む)エマルジョン、アクリル酸エステル樹脂(メタクリル酸エステル樹脂を含む)エマルジョン、アクリル−スチレンエマルジョン、スチレン―ブタジエンエマルジョン、スチレン―ブタジエン−ラテックス(SBR)エマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン―酢酸ビニルエマルジョン、エチレン―アクリルエマルジョン、エポキシ樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、フェノール樹脂エマルジョン、ポリエステル樹脂エマルジョン、アクリロニトリル―ブタジエン−ラテックス(NBR)エマルジョンのうち一種または二種以上であることを特徴とする請求項1に記載のエマルジョン系塗布型制振塗料。
【請求項3】
前記造膜助剤はエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジカルボン酸ジメチル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、3―メチル―3−メトキシブタノール、プロピレングリコール、2−ブトキシエタノールから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエマルジョン系塗布型制振塗料。
【請求項4】
前記無機質充填剤は炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、クレイ、タルク、マイカ、珪藻土、アルミナ、石膏、セメント、転炉スラグ粉末、シラス粉末、ガラス粉末、グラファイト、ヒル石、カオリナイト、ゼオライトから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載のエマルジョン系塗布型制振塗料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−291077(P2008−291077A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136461(P2007−136461)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】