説明

エリオシトリン含有素材、その製造方法、並びにエリオシトリン含有素材を配合した飲食品、医薬品及び香粧品

【課題】柑橘類より抽出されるエリオシトリン含有素材において、品質を低下させる成分の含有量を低減させたエリオシトリン含有素材、その製造方法及びそのエリオシトリン含有素材を配合した飲食品、医薬品及び香粧品を提供する。
【解決手段】柑橘類の果実又はその構成成分から抽出溶媒を用いて得られたエリオシトリンを含む抽出物について、第1の多孔質合成吸着樹脂に吸着させた後、該多孔質合成吸着樹脂より第1の溶出用溶媒でエリオシトリンを溶出させる処理を1又は2回以上繰り返すことにより得られたエリオシトリン含有素材において、前記第1の多孔質合成吸着樹脂は、フェノール・ホルムアルデヒド系樹脂を主骨格とし、官能基としてアミノ基及びフェノール性水酸基を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、飲食品、医薬品及び香粧品に好適に利用される柑橘類由来のエリオシトリン含有素材、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、天然素材として例えば、柑橘類の果汁、果皮、果皮含有物及び/又は搾り粕には、ポリフェノール類としてエリオシトリン、6,8−ジ−C−グルコシルジオスメチン、6−C−グルコシルジオスメチンのような抗酸化性物質が多く含まれていることが知られている。これらの抗酸化性物質は、天然素材が由来の成分であるため、例えば飲食品、医薬品、及び香粧品等の各種工業製品に好ましく適用することができる。従来より、これらの抗酸化性物質を柑橘類から抽出する方法として、特許文献1〜3に記載される方法が知られている。
【0003】
特許文献1,2は、ポリフェノール含有素材の製造方法に関し、柑橘類原料より水、有機溶媒又はこれらの混合溶媒で抽出し、得られた抽出物を逆相樹脂処理、液体クロマトグラフィー等の精製処理を組み合わせた製造方法について開示する。
【0004】
一方、特許文献3には、エリオシトリンを高濃度に含有する高濃度エリオシトリン含有食品素材を製造する方法が開示されている。特許文献3に開示される方法では、柑橘系果実の果汁、果皮、及び果汁の搾汁粕の少なくとも一つを抽出溶媒で抽出し、該抽出液を多孔質合成吸着樹脂に供してエリオシトリンを吸着させた後、有機溶媒を用いて食品素材を分離、回収している。この方法では、不純物をさらに取り除くために、エリオシトリンを吸着させた合成吸着樹脂を水又は温水でさらに洗浄している。
【特許文献1】特開平9−48969号公報
【特許文献2】特開平10−245552号公報
【特許文献3】特開2000−217560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1、2に記載の製造方法にて製造されるポリフェノール含有素材では、純度を高めるために、高速液体クロマトグラフィーによる分取を行っており、これが煩雑な作業であり、時間も要するため製造コスト上昇の要因となっている。また、特許文献3に記載の製造方法にて製造されるポリフェノール含有素材では、不純物を効率的に取り除くために、エリオシトリン含有素材を吸着させた樹脂を水又は温水で洗浄している。しかしながら、それでもエリオシトリン含有素材を高濃度に食品に添加すると、苦味や雑味を感じるという現状がある。特に、経口摂取した際に不快な苦味や雑味の元となる成分が含有されることにより、それらの成分が不快な後味として口に長時間残るという問題を抱えていた。さらに、抽出、濃縮、精製の加工を実施する際に、各工程中において熱が加わるために漢方薬のような独特の臭み(生薬臭)を感じさせるという問題も抱えていた。加えて、これらのポリフェノール含有素材では、経時による変化臭や褐変が起こりやすかったため、高い品質を長期間保持することが難しかった。
【0006】
この発明は、本発明者らの鋭意研究の結果、柑橘類より抽出されるエリオシトリンについて、特定の多孔質合成吸着樹脂を用いて分離することにより、生薬臭や苦みを低減させることができるという知見に基づいてなされたものである。その目的とするところは、柑橘類より抽出されるエリオシトリン含有素材において、品質を低下させる成分の含有量を低減させたエリオシトリン含有素材及びその製造方法を提供することにある。別の目的とするところは、柑橘類由来のエリオシトリンを含有しつつ、高い品質を備えた飲食品、医薬品及び香粧品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、柑橘類の果実又はその構成成分から抽出溶媒を用いて得られたエリオシトリンを含む抽出物について、第1の多孔質合成吸着樹脂に吸着させた後、該多孔質合成吸着樹脂より第1の溶出用溶媒でエリオシトリンを溶出させる処理を少なくとも1又は2回以上繰り返すことにより得られたエリオシトリン含有素材において、前記第1の多孔質合成吸着樹脂は、フェノール・ホルムアルデヒド系樹脂を主骨格とし、官能基としてアミノ基及びフェノール性水酸基を有することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のエリオシトリン含有素材において、前記第1の溶出用溶媒は、エタノール濃度が20〜90容量%の含水エタノールであることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のエリオシトリン含有素材において、さらに、前記第1の多孔質合成吸着樹脂を用いる前、又は、前記第1の多孔質合成吸着樹脂を用いてエリオシトリンを吸着及び溶出した後に、スチレン系合成吸着樹脂及びアクリル系合成吸着樹脂から選ばれる少なくとも一種からなる第2の多孔質合成吸着樹脂に吸着させて、第2の溶出用溶媒で溶出させたものであることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のエリオシトリン含有素材において、前記第2の溶出用溶媒が、エタノール濃度が20〜50容量%の含水エタノールであることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明の飲食品は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のエリオシトリン含有素材を配合したことを特徴とする。
請求項6に記載の発明の医薬品は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のエリオシトリン含有素材を配合したことを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明の香粧品は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のエリオシトリン含有素材を配合したことを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、エリオシトリン含有素材の製造方法において、柑橘類由来のエリオシトリンを含有する素材を製造する方法であって、該方法は、前記柑橘類の果実又はその構成成分から抽出溶媒を用いて前記エリオシトリンを含む抽出物を得る抽出工程、及び、次に、前記抽出工程より得た抽出物を、フェノール・ホルムアルデヒド系樹脂を主骨格とし、官能基としてアミノ基及びフェノール性水酸基を有する第1の多孔質合成吸着樹脂に吸着させて、該吸着樹脂より第1の溶出用溶媒を用いてエリオシトリンを溶出させて、エリオシトリン含有画分を得る第1の分離工程を備えることを特徴とする。
【0013】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載のエリオシトリン含有素材の製造方法において、前記第1の溶出用溶媒は、エタノール濃度が20〜90容量%の含水エタノールであることを特徴とする。
【0014】
請求項10に記載の発明は、請求項8又は請求項9に記載のエリオシトリン含有素材の製造方法において、さらに、前記第1の分離工程は、2回以上繰り返されることを特徴とする。
【0015】
請求項11に記載の発明は、請求項8から請求項10のいずれか一項に記載のエリオシトリン含有素材の製造方法において、さらに、前記第1の分離工程の前又は後として、スチレン系合成吸着樹脂及びアクリル系合成吸着樹脂から選ばれる少なくとも一種からなる第2の多孔質合成吸着樹脂に吸着させて、該吸着樹脂より第2の溶出用溶媒を用いてエリオシトリンを溶出させて、前記エリオシトリンを含有する画分を得る第2の分離工程を備えていることを特徴とする。
【0016】
請求項12に記載の発明は、請求項11に記載のエリオシトリン含有素材の製造方法において、前記第2の溶出用溶媒は、エタノール濃度が20〜50容量%の含水エタノールであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、柑橘類より抽出されるエリオシトリン含有素材において、品質を低下させる成分の含有量を低減させたエリオシトリン含有素材及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、柑橘類由来のエリオシトリンを含有しつつ、高い品質を備えた飲食品、医薬品及び香粧品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明のエリオシトリン含有素材を具体化した実施形態を説明する。本実施形態のエリオシトリン含有素材は、優れた抗酸化作用を有するエリオシトリンを高い濃度で含有するものであり、主に飲食品、医薬品及び香粧品などに添加して利用される。エリオシトリン含有素材は、抽出原料として柑橘類より所定の抽出溶媒及び多孔質合成吸着樹脂等を使用することにより得られる。また、エリオシトリン含有素材は、好ましくはエリオシトリンを主成分とする。前記エリオシトリンを主成分とするとは、エリオシトリン含有素材中の可溶性固形分のうち、エリオシトリンの含有量が他のどの成分よりも高いことを指し、エリオシトリンを好ましくは20重量%以上、より好ましくは50重量%以上含有していることを指す。
【0019】
エリオシトリン含有素材の主成分であるエリオシトリン(Eriocitrin)は、構造物名がエリオディクティオール−7−ルチノサイド(Eriodictyol-7-rutinoside)であり、フラボノイド化合物のうちフラバノン類に属するエリオディクティオール(Eriodictyol;3',4',5,7-tetrahydroxyflavanone;C15126)にルチノース(L−ラムノシル−D−グルコース)が結合したフラボノイド配糖体である。
【0020】
抽出原料に用いられる柑橘類としては、レモン、ライム、シークワサー、スダチ、ユズ、ダイダイ、カボスなどの香酸柑橘類、グレープフルーツ、ネーブルオレンジ、バレンシアオレンジ、サワーオレンジ、ハッサク、温州ミカン、イヨカン、ポンカン、あま夏、ブンタンなどが挙げられる。本実施形態のエリオシトリン含有素材は、これらの柑橘類のうちの一種類又は二種類以上の柑橘類に由来するエリオシトリンを含有している。これらの柑橘類の中で、エリオシトリンの含有量の多いレモン、及びライムが好ましい。
【0021】
これらのエリオシトリンは、柑橘類の果皮に多量に含まれている。ちなみに、柑橘類の果実は、果皮、果汁、じょうのう膜、さのう及び種子を備えている。柑橘類の果皮には、前記エリオシトリン以外にも、漢方薬様の不快な臭い(生薬臭)を感じさせる臭気成分、不快な苦味や雑味を感じさせる呈味成分、視覚的に濁りを感じさせたり新鮮さを損なったりする着色成分などの成分も同時に含まれている。これら臭気成分、呈味成分及び着色成分は、一般に、水やアルコールなどの抽出溶媒によって、前記エリオシトリンとともに柑橘類の果皮から抽出されやすい。
【0022】
本実施形態のエリオシトリン含有素材は、原料より抽出溶媒及び所定の多孔質合成吸着樹脂を使用して得ることにより、従来、抽出、濃縮、精製などの加工工程において熱が加わることにより生じていた漢方薬様の不快な臭いを低減させ、経時による不快な変化臭の発生を低減させたものである。そのような官能的な特徴を有しているため、飲食品、香粧品もしくは経口剤又は経鼻剤の剤形を有する医薬品への利用に適している。さらに、本実施形態のエリオシトリン含有素材は、経口摂取する際に、不快な苦味及び雑味を感じさせにくいうえ、該苦味や雑味に起因する不快な後味を持続させにくいという味覚的な特徴を有しているため、飲食品又は経口剤の剤形を有する医薬品への利用に適している。
【0023】
エリオシトリン含有素材の製造方法は、まず柑橘類の果実又はその構成成分から抽出溶媒を用いてエリオシトリンを含む抽出物を得る抽出工程が行われる。次に、特定の多孔質合成吸着樹脂を用いた第1の分離工程が行われる。具体的には、前記抽出工程より得た抽出物を、フェノール・ホルムアルデヒド系樹脂を主骨格とし、官能基としてアミノ基及びフェノール性水酸基を有する第1の多孔質合成吸着樹脂(以下、「フェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂」ともいう)に吸着させる第1の吸着処理が行われる。続けて、フェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂より第1の溶出用溶媒を用いてエリオシトリンを溶出させて、エリオシトリン含有画分を得る第1の溶出処理が行われる。
【0024】
原料としては、柑橘類の果実又はその構成成分が使用される。果実の構成成分としては、果皮、果汁、じょうのう膜、さのう及び種子が挙げられる。これらの構成成分のうち、エリオシトリンを多量に得ることが容易であるため、好ましくは果皮又は搾汁残渣が用いられる。搾汁残渣は、果実から果汁を搾汁した後の残渣であり、果皮、じょうのう膜、さのうの一部、種子及び搾汁しきれなかった極少量の果汁が含まれている。ちなみに、抽出工程に搾汁残渣を用いる場合、剥皮により果実の外皮(フラベド)が除去されていることが好ましい。
【0025】
抽出工程に用いられる抽出溶媒としては、有機溶媒及び水が使用される。有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、及びイソプロパノール等のアルコール類、グリセリン、氷酢酸等の極性溶媒、ヘキサン、並びに酢酸エチル等の無極性溶媒が挙げられる。これらの抽出溶媒は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、エリオシトリン含有素材を飲食品、医薬品及び香粧品等に添加する場合の適用性、製造コスト及び抽出効率等の観点から水、エタノールが好ましく用いられる。抽出工程は、温度は特に限定されないが、通常は常温(5〜45℃)下において、静置もしくは撹拌して行う。また、抽出時間は、エリオシトリンを抽出溶媒中に十分に移行させるために、30分以上であることが好ましい。なお、本実施形態の抽出工程では、エリオシトリンの抽出率を高めるとともに、得られる抽出液の清澄度を上げて透明化させやすくするために、抽出溶媒中にペクチナーゼを添加してペクチンの分解を同時に実施することが好ましい。
【0026】
次に、固液分離を行い抽出溶媒に不溶な成分を分離する。固液分離には、遠心分離や膜分離などの公知の分離方法が採用可能であるが、簡便であることから遠心分離が好適に採用される。なお、遠心分離や膜分離の前に、必要に応じてメッシュ濾過もしくはデカンテーションにより、果皮等の大きな固形物を予め除去しておくことが好ましい。固液分離後の抽出液は、必要に応じて濃縮又は水希釈した後、次の分離工程(吸着処理及び溶出処理)に供される。抽出液の濃縮には、公知の減圧濃縮、膜濃縮、凍結濃縮などが採用可能である。なお、抽出用溶媒としてエタノールを用いた場合は、濃縮又は水希釈により、エタノール濃度を20容量%以下にしてから分離工程に供することが好ましい。エタノール濃度が20容量%以上になると、吸着処理においてエリオシトリンの吸着が不十分になる。
【0027】
第1の分離工程において、第1の吸着処理で用いられる多孔質合成吸着樹脂として、上述したフェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂が挙げられる。一般に、多孔質合成吸着樹脂は、樹脂内の細孔表面と被吸着物質間の物理的相互作用により溶液中から種々の有機物を吸着することができる。また、多孔質合成吸着樹脂中の多孔質構造は、活性炭の細孔に比べ、数十〜数百オングストロームと大きな細孔を持っていることから比較的大きな有機物を吸脱着することができる。本実施形態で用いられるフェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂は、物理吸着だけでなく酸性、中性域では官能基として弱塩基性基であるアミノ基及び弱酸性基であるフェノール性水酸基による吸着作用(化学吸着、イオン交換)も生ずる。市販品としては、ホクエツHS,ホクエツKS(ともに味の素ファインテクノ社製)が挙げられる。
【0028】
第1の多孔質合成吸着樹脂に吸着させる第1の吸着処理は、カラム内に充填されたフェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂に対して、エタノール含量を20容量%以下にした抽出液をアプライし、抽出液中のエリオシトリンをフェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂に吸着させるために行われる。フェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂にエリオシトリンを吸着させた後、好ましくは樹脂洗浄が行われる。
【0029】
前記の樹脂洗浄は、エリオシトリンを吸着させたカラムに洗浄用溶媒を流すことにより、フェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂を洗浄する処理であり、フェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂からエリオシトリン以外の夾雑物の多くを取り除くために行われる。前記洗浄用溶媒としては、フェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂に対してエリオシトリンが吸着した状態を維持させることが可能な溶媒が用いられる。好ましくは抽出工程に用いた水又は上記有機溶媒が用いられ、より好ましくは水又は20容量%以下のアルコール濃度の含水アルコールが用いられ、さらに好ましくは温水又は20容量%以下のアルコール濃度の含水エタノールが用いられる。この樹脂洗浄では、洗浄用溶媒存在下のフェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂に対する一部の夾雑物の吸着性が、エリオシトリンの吸着性よりも低いことにより、該夾雑物は溶出しやすくエリオシトリンは該フェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂に残存しやすいことを利用している。樹脂洗浄用溶媒の温度は特に限定されない。通常は常温(5〜40℃)下にて行われるが、エリオシトリン以外の夾雑物を効率的に取除くために、40〜100℃に加熱した状態でカラムに流してもよい。また、洗浄用溶媒が含水アルコールの場合は、該溶媒中のアルコール濃度が20容量%を超えると、前記吸着樹脂からエリオシトリンが溶出されやすくなるため、最終的な回収率の低下を招くおそれがある。
【0030】
第1の多孔質合成吸着樹脂からエリオシトリン含有画分を得る第1の溶出処理は、前記樹脂洗浄した後のカラムに第1の溶出用溶媒を流し、フェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂に吸着されているエリオシトリンを溶出させることにより行われる。この第1の溶出処理によって、エリオシトリンが第1の溶出用溶媒に溶解されてなる溶出液が得られる。第1の溶出用溶媒としては、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、及びイソプロパノール等のアルコール、アセトン、ヘキサン、クロロホルム、グリセリン、氷酢酸などの有機溶媒や水が挙げられる。これら列挙された溶出用溶媒は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、エリオシトリン含有素材を飲食品、医薬品及び香粧品等に添加する場合の適用性、製造コスト、回収効率の観点からエタノール、水が好ましく用いられる。第1の溶出用溶媒として含水エタノールを使用する場合、エタノールの濃度として20〜90容量%が好ましく、40〜85容量%がより好ましく、60〜80容量%が特に好ましい。エタノール濃度が、20容量%未満であるとフェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂からのエリオシトリンの回収率(溶出量)が低下するおそれがある。一方、エタノール濃度が、90容量%を超えるとエリオシトリン含有素材の風香味を低下させる成分の溶出量が多くなる。
【0031】
以上のように、得られた溶出液は、そのままエリオシトリン含有素材として利用することが可能であるうえ、必要に応じて濃縮、乾燥又は水希釈した状態でエリオシトリン含有素材として利用することも可能である。溶出液の濃縮及び乾燥には、公知の減圧濃縮、膜濃縮、凍結濃縮、真空乾燥又は凍結乾燥が採用可能である。
【0032】
必要により、前記第1の分離工程の前又は後に、さらに第2の分離工程が実施されてもよい。第2の分離工程を実施することにより、エリオシトリン含有素材の風香味を低下させる成分をさらに除去し、エリオシトリン含有素材中におけるエリオシトリンの品質及び含有率を高めることができる。具体的には、スチレン系合成吸着樹脂及びアクリル系合成吸着樹脂から選ばれる少なくとも一種からなる第2の多孔質合成吸着樹脂(以下、「スチレン系等吸着樹脂」ともいう)にエリオシトリンを含有する分離対象物を吸着させる処理(第2の吸着処理)が行われる。次に、必要により、スチレン系等吸着樹脂を洗浄する樹脂洗浄が行われる。次に、第2の溶出用溶媒を用いてスチレン系等吸着樹脂よりエリオシトリンを溶出させて、前記エリオシトリンを含有する画分を得る処理(第2の溶出処理)が行われる。第2の分離工程は、第1の分離工程の前又は後のいずれに実施してもよいが、第1の分離工程の前に実施する方が品質がより向上するためより好ましい。
【0033】
スチレン系等吸着樹脂としては、具体的には、デュオライトS−861、ES−865、アンバーライトXAD−4、アンバーライトXAD−7、アンバーライトXAD−16(いずれもローム・アンド・ハース社製)、ダイヤイオンHP20、ダイヤイオンHP2MG、セパビーズSP207、セパビーズSP700、セパビーズSP825(いずれも三菱化学社製)等が挙げられる。
【0034】
第2の吸着処理は、カラム内に充填されたスチレン系等吸着樹脂に対して前記抽出工程又は第1の分離工程より得られたエリオシトリンを含有する分離対象物を、エタノール含量を20容量%以下にした後にアプライし、エリオシトリンをスチレン系等吸着樹脂に吸着させることにより行われる。
【0035】
第2の分離工程での樹脂洗浄は、前記吸着処理後のカラムに洗浄用溶媒を流すことで、スチレン系等吸着樹脂を洗浄する処理であり、スチレン系等吸着樹脂からエリオシトリン以外の夾雑物の多くを取除くために行われる。前記洗浄用溶媒としては、スチレン系等吸着樹脂に対してエリオシトリンが吸着された状態を維持させることが可能な溶媒であれば特に限定されない。好ましくは抽出工程に用いた水又は上記有機溶媒が用いられ、より好ましくは水又は20容量%以下のアルコール濃度の含水アルコールが用いられ、さらに好ましくは温水又は20容量%以下のアルコール濃度の含水エタノールが用いられる。第2の分離工程での樹脂洗浄に用いられる洗浄用溶媒の温度は特に限定されない。通常は常温(5〜40℃)下にて行われるが、エリオシトリン以外の夾雑物を効率的に取除くために、40〜100℃に加熱した状態でカラムに流してもよい。また、前記洗浄用溶媒が含水アルコールの場合は、該溶媒中のアルコール濃度が20容量%を超えると、スチレン系等吸着樹脂からエリオシトリンが溶出されやすくなるため、最終的な回収率の低下を招くおそれがある。
【0036】
第2の溶出処理は、樹脂洗浄した後のカラムに第2の溶出用溶媒を流すことにより、スチレン系等吸着樹脂に吸着されているエリオシトリンを溶出させる処理であり、該エリオシトリンをカラム内から回収するために行われる。この第2の溶出処理によって、エリオシトリンが第2の溶出用溶媒に溶解されてなる溶出液が得られる。第2の溶出用溶媒としては、例えばエタノールなどのアルコール、アセトン、ヘキサン、クロロホルム、グリセリン、氷酢酸などの有機溶媒や水が挙げられる。これら列挙された第2の溶出用溶媒は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、エリオシトリン含有素材を飲食品、医薬品及び香粧品等に添加する場合の適用性、製造コスト、回収率の観点からエタノール、水が好ましく用いられる。含水エタノールが第2の溶出用溶媒に用いられる場合、エタノール濃度として20〜50容量%が好ましく、エタノール濃度として30〜40容量%がより好ましい。エタノール濃度が、20容量%未満であるとスチレン系等吸着樹脂からのエリオシトリンの回収率(溶出量)が低下する。一方、エタノール濃度が、50容量%を超えるとエリオシトリン含有素材の風香味を低下させる成分との分離が不十分となるおそれがある。
【0037】
本実施形態において分離工程を2回以上行う場合は、1回目の分離工程で得られた溶出液(分離対象物)を適宜希釈又は濃縮することによりエタノール濃度を20容量%以下に下げてから2回目の吸着処理を行うことが好ましい。
【0038】
本実施形態のエリオシトリン含有素材は、主にエリオシトリンの有する優れた抗酸化作用を効果・効能とする飲料、アルコール類、食品、健康食品、健康飲料、栄養補助食品等の飲食品、医薬品、医薬部外品、動物用医薬品、飼料、化粧品等の有効成分として配合されることにより生体に適用される。
【0039】
本実施形態のエリオシトリン含有素材を飲食品に適用する場合、飲食品としては、具体的には、清涼飲料水として、例えば紅茶、麦茶、緑茶、烏龍茶、ブレンド茶、野草茶、ハーブティー、コーヒー、果汁飲料、野菜飲料、ココア、豆乳、スポーツドリンク、炭酸飲料、及び乳飲料が挙げられ、菓子類として、例えばキャンディー、ビスケット、及びスナック菓子が挙げられ、アルコール類として、例えばカクテル、酎ハイ、サワー、ビール、及びワインが挙げられる。その他、ペクチンやカラギーナン等のゲル化剤を含有する食品、及び各種調味料等が挙げられる。また、本願発明の効果を損なわない範囲内において、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖やデキストリン、食物繊維、多糖類等の糖類、酸味料、香料、ステビア、アスパルテーム、糖アルコール等の甘味料、色素、安定剤、ビタミン類、アミノ酸類、各種ミネラル、植物性油脂及び動物性油脂等の添加剤を適宜配合してもよい。
【0040】
本実施形態のエリオシトリン含有素材を医薬品として使用する場合は、服用(経口摂取)により投与する場合の他、血管内投与、経皮投与等のあらゆる投与方法を採用することが可能である。剤形としては、特に限定されないが、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤等が挙げられる。また、添加剤として賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。
【0041】
本実施形態のエリオシトリン含有素材によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、柑橘類より抽出して得られるエリオシトリン含有素材において、フェノール・ホルムアルデヒド系樹脂を主骨格とし、官能基としてアミノ基及びフェノール性水酸基を有する第1の多孔質合成吸着樹脂(フェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂)を用いて分離を行った。したがって、柑橘類の果皮等に由来する臭気成分、苦み成分及び着色成分等の品質を低下させる成分を効率的に除去することができる。よって、品質を向上させたエリオシトリン含有素材を得ることができる。
【0042】
(2)本実施形態では、柑橘類より抽出して得られるエリオシトリン含有素材において、フェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂を用いて分離を行った。したがって、柑橘類より抽出されるエリオシトリン含有素材の経時による変化臭、苦み、渋みの増加、及び経時による褐変を防止し、エリオシトリン含有素材の経時安定性を向上させることができる。
【0043】
(3)本実施形態では、柑橘類より抽出して得られるエリオシトリン含有素材において、フェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂を用いて分離を行った。したがって、エリオシトリン含有素材中の風香味及び外観を低下させる夾雑物を除去し、エリオシトリンの含有率を高めることができる。したがって、高濃度のエリオシトリンを含有するエリオシトリン含有素材を容易に得ることができる。また、エリオシトリン含有素材を高濃度に飲食品等に配合した場合であっても、褐変等の変色を防止することができる。
【0044】
(4)本実施形態では、フェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂の使用において、第1の吸着処理後、樹脂洗浄をし、エタノール濃度が20〜90容量%の含水エタノールで第1の溶出処理を行った。したがって、エリオシトリンの回収率(溶出量)を維持しながら、エリオシトリン含有素材の風香味及び外観を低下させる成分を除去することができる。
【0045】
(5)本実施形態では、好ましくはフェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂を用いた第1の分離工程の前又は後に、さらにスチレン系合成吸着樹脂及びアクリル系合成吸着樹脂から選ばれる少なくとも一種からなる第2の多孔質合成吸着樹脂(スチレン系等吸着樹脂)を用いた第2の分離工程が行われる。したがって、エリオシトリン含有素材の風香味及び外観を低下させる成分をさらに分離及び除去することができるとともに、エリオシトリン含有素材中のエリオシトリンの含有率をさらに高めることができる。
【0046】
(6)本実施形態では、さらに好ましくはスチレン系等吸着樹脂を用いた第2の分離工程後に、フェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂を用いた第1の分離工程が行われる。したがって、エリオシトリン含有素材の風香味及び外観を低下させる成分をさらに分離及び除去することができるとともに、エリオシトリン含有素材中のエリオシトリンの含有率をさらに高めることができる。
【0047】
(7)本実施形態では、エリオシトリン含有素材を飲食品、医薬品及び香粧品等に添加して使用することができる。したがって、柑橘類由来のエリオシトリンを高い濃度で含有させた場合でも、臭い、呈味及び色調に関して高い品質の飲食品、医薬品及び香粧品等を得ることができる。従って、抗酸化作用等の優れた作用効果を有するエリオシトリンを配合した飲食品、医薬品及び香粧品等を容易に継続的に摂取又は適用することができる。
【0048】
(8)エリオシトリンを含む原料として、柑橘類の果実から果汁を搾汁した後の搾汁残渣を使用することにより、極めて容易に大量のエリオシトリンを得ることができる。さらに、前記搾汁残渣は、前記柑橘類の果汁を含む飲料品等を製造する際に大量に廃棄されるものであることから、極めて安価に入手することができるうえ、食品リサイクル法の観点からもより好ましい。
【0049】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態において、フェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂を用いたエリオシトリンの分離工程、及びスチレン系等吸着樹脂を用いた分離工程は、それぞれ処理回数は限定されず、それぞれ1回のみならず、2回以上繰り返して実施することにより、夾雑物をさらに除去してもよい。
【0050】
・このエリオシトリン含有素材の形状は、特に限定されず、液状又は粉末状等の形状であってもよい。
【実施例】
【0051】
次に、各実施例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
<エリオシトリン含有素材の製造>
(実施例1)
抽出原料として搾汁機により得られたレモン搾汁残渣2kgを粉砕し、抽出用の溶媒として10Lの水を加えて、常温にて30分間静置(浸漬)させることにより抽出工程を実施した。次に、抽出工程後の水抽出液をメッシュ濾過(メッシュサイズ;500μm/32メッシュ)した後、9000rpmで20分間遠心分離した。遠心分離後の上澄み液を分画分子量20000の限外濾過に供することにより、透明な濾液(粗抽出液)を得た。
【0052】
次に、この濾液をフェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂(ホクエツHS:味の素ファインテクノ社製)200mlを充填したカラムに通した。次に、洗浄用溶媒として水600ml及び10容量%含水エタノール600mlをカラムに順に流して洗浄処理を行った。次に、溶出用溶媒としてエタノール濃度80容量%の含水エタノール1Lで溶出処理を行った。この溶出液を減圧濃縮し、エタノール分を除去することにより実施例1のエリオシトリン含有素材を得た。
【0053】
(実施例2)
実施例1において得られたエリオシトリン含有素材について、さらに水を加え、2Lにした。これをスチレン系の多孔質合成吸着樹脂(アンバーライトXAD−16:ローム・アンド・ハース社製)200mlを充填したカラムに通した。次に、洗浄用溶媒として水600ml及び10容量%含水エタノール600mlを順に流して洗浄処理を行った。次に、溶出用溶媒としてエタノール濃度40容量%の含水エタノール1Lで溶出処理を行った。この溶出液を減圧濃縮し、エタノール分を除去することにより実施例2のエリオシトリン含有素材を得た。
【0054】
(実施例3)
抽出原料として搾汁機により得られたレモン搾汁残渣2kgを粉砕し、抽出用の溶媒として10Lの水を加えて、常温にて30分間静置(浸漬)させることにより抽出工程を実施した。次に、抽出工程後の水抽出液をメッシュ濾過(メッシュサイズ;500μm/32メッシュ)した後、9000rpmで20分間遠心分離した。遠心分離後の上澄み液を分画分子量20000の限外濾過に供することにより、透明な濾液(粗抽出液)を得た。
【0055】
次に、この濾液をフェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂(ホクエツHS:味の素ファインテクノ社製)200mlを充填したカラムに通した。次に、洗浄用溶媒として水600ml及び10容量%含水エタノール600mlをカラムに順に流して洗浄処理を行った。次に、溶出用溶媒としてエタノール濃度40容量%の含水エタノール1Lで溶出処理を行った。この溶出液を減圧濃縮し、エタノール分を除去することにより実施例3のエリオシトリン含有素材を得た。
【0056】
(実施例4)
実施例3において得られたエリオシトリン含有素材について、さらに水を加え、2Lにした。これをスチレン系の多孔質合成吸着樹脂(アンバーライトXAD−16:ローム・アンド・ハース社製)200mlを充填したカラムに通した。次に、洗浄用溶媒として水600ml及び10容量%含水エタノール600mlを順に流して洗浄処理を行った。次に、溶出用溶媒としてエタノール濃度40容量%の含水エタノール1Lで溶出処理を行った。この溶出液を減圧濃縮し、エタノール分を除去することにより実施例4のエリオシトリン含有素材を得た。
【0057】
(比較例1)
フェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂の代わりに、スチレン系の多孔質合成吸着樹脂としてアンバーライトXAD−16(ローム・アンド・ハース社製)を使用し、溶出用溶媒としてエタノール濃度40容量%の含水エタノールを使用した以外、実施例1と同様の方法によりエリオシトリン含有素材を得た。
【0058】
(実施例5)
上記比較例1で得られた濾液をフェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂(ホクエツHS:味の素ファインテクノ社製)200mlを充填したカラムに通した。次に、洗浄用溶媒として水600ml及び10容量%含水エタノール600mlをカラムに順に流して洗浄処理を行った。次に、溶出用溶媒としてエタノール濃度40容量%の含水エタノール1Lで溶出処理を行った。この溶出液を減圧濃縮し、エタノール分を除去することにより実施例5のエリオシトリン含有素材を得た。
【0059】
(実施例6)
上記比較例1で得られた濾液をフェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂(ホクエツHS:味の素ファインテクノ社製)200mlを充填したカラムに通した。次に、洗浄用溶媒として水600ml及び10容量%含水エタノール600mlをカラムに順に流して洗浄処理を行った。次に、溶出用溶媒としてエタノール濃度80容量%の含水エタノール1Lで溶出処理を行った。この溶出液を減圧濃縮し、エタノール分を除去することにより実施例6のエリオシトリン含有素材を得た。
【0060】
(比較例2)
比較例1の分離工程をさらにもう一度繰り返した。具体的には、比較例1において得られたエリオシトリン含有素材について、さらに水を加え、2Lにした。これをスチレン系の多孔質合成吸着樹脂(アンバーライトXAD−16)200mlを充填したカラムに通した。次に、洗浄用溶媒として水600ml及び10容量%含水エタノール600mlを順に流して洗浄処理を行った。次に、溶出用溶媒としてエタノール濃度40容量%の含水エタノール1Lで溶出処理を行った。この溶出液を減圧濃縮し、エタノール分を除去することにより比較例2のエリオシトリン含有素材を得た。
【0061】
(比較例3)
実施例1で得られた透明な濾液(粗抽出液)をフェノール・ホルムアルデヒド系の多孔質合成吸着樹脂としてアンバーライトXAD−761(ローム・アンド・ハース社製)200mlを充填したカラムに通した。次に、溶出用溶媒としてエタノール濃度40容量%の含水エタノール1Lで溶出処理を行った。この溶出液を減圧濃縮し、エタノール分を除去することにより比較例3のエリオシトリン含有素材を得た。尚、アンバーライトXAD−761は、フェノール・ホルムアルデヒド系樹脂を主骨格とし、イオン交換基としてフェノール性水酸基とメチロール基を有する。また、平均細孔径600オングストロームを有する。
【0062】
<エリオシトリン含有素材の品質評価>
各実施例及び比較例の各エリオシトリン含有素材について、エリオシトリン濃度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて定量した。各実施例及び比較例の各エリオシトリン含有素材について、エリオシトリン濃度を1800ppmに調整・統一後、風香味、色調を評価した。溶液の着色性について吸光度(420nm)を分光光度計(日立ダブルビーム分光光度計U−2000形)で測定するとともに、可溶性固形分濃度についてブリックス(Brix)値を測定した。風香味は、官能評価で−、±、+、++、+++、++++、+++++の7段階評価を行った。+が多いほど、風香味が強くなり、不快感が増大すること表す。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

表1に示されるようにフェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂(ホクエツHS)を使用して得た実施例1は、スチレン系の多孔質合成吸着樹脂(アンバーライトXAD−16)のみを使用した比較例1,2より、風香味の大幅な改善と着色の低下が認められた。また、さらにスチレン系の多孔質合成吸着樹脂(アンバーライトXAD−16)を、フェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂による分離工程の後に続けて使用した実施例2は、苦味成分のさらなる低下が認められた。また、実施例2は、エリオシトリン/Brix値の上昇が認められ、夾雑物が分離され、エリオシトリンの含有率が高まったことが確認された。さらに、フェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂(ホクエツHS)の溶出用溶媒である含水エタノール中のエタノール濃度を下げた実施例3、4では、実施例1,2より生薬臭、苦味が弱く、着色が低下し、エリオシトリン/Brix値が上昇することが確認された。本願発明とは官能基の異なる吸着樹脂であるフェノール・ホルムアルデヒド系の多孔質合成吸着樹脂(アンバーライトXAD−761)を使用した比較例3は、吸光度の低下が認められず、品質を低下させる着色成分の分離が全く不十分な結果であることが確認された。
【0064】
また、比較例1や比較例2のようにスチレン系の樹脂を使用して得た場合、生薬臭、苦味が強く、高い着色であり、エリオシトリン/Brix値が低い。一方、実施例5、6では、スチレン系の樹脂を使用した後に、フェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂(ホクエツHS)を使用して得られた素材は、生薬臭、苦味が弱く、着色が抑えられ、エリオシトリン/Brix値が高いエリオシトリン含有素材が得られた。このことから、フェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂(ホクエツHS)を分離工程時に1度以上使用することで、目的とするエリオシトリン含有素材が得られることが明らかとなった。
【0065】
<エリオシトリン含有素材を含むレモン風飲料の製造>
(実施例7)
透明濃縮レモン果汁(Brix40)20gにショ糖70g及びクエン酸三ナトリウム2gを配合し、実施例2において得られたエリオシトリン含有素材を最終エリオシトリン濃度が600ppmとなるように添加し、水を加えて1Lとした。これを85℃で30秒間殺菌した後、瓶内に100mLずつホットパック充填することにより実施例7のレモン風飲料を作成した。更に、得られたレモン風飲料を60℃で3日間静置し、加速度経時試料とした。その試料について、上述した方法に従い、吸光度及び風香味についての官能評価を行った。結果を表2に示す。
【0066】
(比較例4)
透明濃縮レモン果汁(Brix40)20gにショ糖70g及びクエン酸三ナトリウム2gを配合し、比較例2において得られたエリオシトリン含有素材を最終エリオシトリン濃度が600ppmとなるように添加し、水を加えて1Lとした。これを85℃で30秒間殺菌した後、瓶内に100mLずつホットパック充填することにより比較例4のレモン風飲料を作成した。更に、得られたレモン風飲料を60℃で3日間静置し、加速度経時試料とした。その試料について、上述した方法に従い、吸光度及び風香味についての官能評価を行った。結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

表2に示されるように、実施例2のエリオシトリン含有素材をレモン風飲料に配合したとしても、変色が低く抑えられ、風香味が良好に維持されることが確認された(実施例7)。一方、比較例4のレモン風飲料は、実施例7に比べいずれの品質評価も劣ることが確認された。
【0068】
<溶出用溶媒の検討>
実施例1におけるエリオシトリン含有素材の製造方法において、下記表3に示されるように溶出用溶媒である含水エタノール中のエタノール濃度を変化させることにより、各エリオシトリン含有素材を製造した。得られた各エリオシトリン含有素材について、エリオシトリン含有素材中のエリオシトリン濃度を1800ppmに調整・統一後に、上述した方法に従い吸光度及び可溶性固形分濃度Brix値を測定し、風香味について官能評価を行った。尚、本試験では、風香味は、官能評価で−、±、+、++、+++、++++、+++++の7段階評価とした。また、樹脂充填カラム溶出後の各エリオシトリン含有素材中のエリオシトリン含有量と、樹脂充填カラムに通す直前の透明な濾液(粗抽出液)中のエリオシトリン含有量をHPLCを用いて測定し、エリオシトリンの回収率を求めた。結果を表3に示す。
【0069】
【表3】

表3に示されるように、溶出用溶媒のエタノール濃度が低い場合、吸光度が低く、風香味が良好であることが確認される。しかしながら、かかる場合、エリオシトリンの回収率が低く、さらにエリオシトリン/Brix値が低いため、夾雑物の分離が十分に行われていないことが確認される。溶出用溶媒のエタノール濃度が高い場合、エリオシトリンの回収率が高いことが確認される。しかしながら、吸光度が高く、風香味の評価が不良であることが確認された。また、エリオシトリン/Brix値が低いため、夾雑物の分離が十分に行われていないことが確認される。かかる結果より、不要成分の除去、吸光度、及び回収率の観点から、溶出用溶媒として含水エタノールを使用する場合、エタノール濃度は60〜80容量%付近が特に好ましいことが確認された。
【0070】
尚、フェノール・ホルムアルデヒド系吸着樹脂として(ホクエツKS:味の素ファインテクノ社製)を使用した場合も、表3と同様の結果が得られた(データ未添付)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘類の果実又はその構成成分から抽出溶媒を用いて得られたエリオシトリンを含む抽出物について、第1の多孔質合成吸着樹脂に吸着させた後、該多孔質合成吸着樹脂より第1の溶出用溶媒でエリオシトリンを溶出させる処理を1又は2回以上繰り返すことにより得られたエリオシトリン含有素材において、
前記第1の多孔質合成吸着樹脂は、フェノール・ホルムアルデヒド系樹脂を主骨格とし、官能基としてアミノ基及びフェノール性水酸基を有することを特徴とするエリオシトリン含有素材。
【請求項2】
前記第1の溶出用溶媒は、エタノール濃度が20〜90容量%の含水エタノールであることを特徴とする請求項1に記載のエリオシトリン含有素材。
【請求項3】
さらに、前記第1の多孔質合成吸着樹脂を用いる前、又は、前記第1の多孔質合成吸着樹脂を用いてエリオシトリンを吸着及び溶出した後に、スチレン系合成吸着樹脂及びアクリル系合成吸着樹脂から選ばれる少なくとも一種からなる第2の多孔質合成吸着樹脂に吸着させて、第2の溶出用溶媒で溶出させる処理が行われたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエリオシトリン含有素材。
【請求項4】
前記第2の溶出用溶媒は、エタノール濃度が20〜50容量%の含水エタノールであることを特徴とする請求項3に記載のエリオシトリン含有素材。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のエリオシトリン含有素材を配合したことを特徴とする飲食品。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のエリオシトリン含有素材を配合したことを特徴とする医薬品。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のエリオシトリン含有素材を配合したことを特徴とする香粧品。
【請求項8】
柑橘類由来のエリオシトリンを含有する素材を製造する方法であって、
該方法は、前記柑橘類の果実又はその構成成分から抽出溶媒を用いて前記エリオシトリンを含む抽出物を得る抽出工程、及び、
次に、前記抽出工程より得た抽出物を、フェノール・ホルムアルデヒド系樹脂を主骨格とし、官能基としてアミノ基及びフェノール性水酸基を有する第1の多孔質合成吸着樹脂に吸着させて、該吸着樹脂より第1の溶出用溶媒を用いてエリオシトリンを溶出させて、エリオシトリン含有画分を得る第1の分離工程
を備えることを特徴とするエリオシトリン含有素材の製造方法。
【請求項9】
前記第1の溶出用溶媒は、エタノール濃度が20〜90容量%の含水エタノールであることを特徴とする請求項8に記載のエリオシトリン含有素材の製造方法。
【請求項10】
さらに、前記第1の分離工程は、2回以上繰り返されることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のエリオシトリン含有素材の製造方法。
【請求項11】
さらに、前記第1の分離工程の前又は後に、
スチレン系合成吸着樹脂及びアクリル系合成吸着樹脂から選ばれる少なくとも一種からなる第2の多孔質合成吸着樹脂に吸着させて、該吸着樹脂より第2の溶出用溶媒を用いてエリオシトリンを溶出させて、前記エリオシトリンを含有する画分を得る第2の分離工程
を備えていることを特徴とする請求項8から請求項10のいずれか一項に記載のエリオシトリン含有素材の製造方法。
【請求項12】
前記第2の溶出用溶媒は、エタノール濃度が20〜50容量%の含水エタノールであることを特徴とする請求項11に記載のエリオシトリン含有素材の製造方法。

【公開番号】特開2009−155298(P2009−155298A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337778(P2007−337778)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(308009277)株式会社ポッカコーポレーション (31)
【Fターム(参考)】