説明

エレクトロクロミック表示装置及びその製造方法

【課題】エレクトロクロミック層に電解質を浸透させることが容易なエレクトロクロミック表示装置及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本エレクトロクロミック表示装置は、表示電極とエレクトロクロミック層との積層体と、前記積層体の前記表示電極側又は前記エレクトロクロミック層側の何れか一方側に設けられた貫通孔を有する膜と、前記表示電極と対向する対向電極が設けられた対向基板と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック表示装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紙に替わる電子媒体として、電子ペーパーの開発が盛んに行われている。電子ペーパーは、表示装置が紙のように用いられるところに特徴があるため、CRTや液晶ディスプレイといった従来の表示装置とは異なった特性が要求される。例えば、反射型表示装置であり、かつ、高い白反射率・高いコントラスト比を有すること、高精細な表示ができること、表示にメモリ効果があること、低電圧でも駆動できること、薄くて軽いこと、安価であること等の特性が要求される。このうち特に、表示の品質に関わる特性として、紙と同等な白反射率・コントラスト比についての要求度が高い。
【0003】
これまで、電子ペーパー用途の表示装置として、例えば反射型液晶を用いる方式、電気泳動を用いる方式、トナー泳動を用いる方式等が提案されている。しかしながら、上記の何れの方式も白反射率・コントラスト比を確保しながら多色表示を行うことは大変困難である。一般に多色表示を行うためには、カラーフィルタを設けるが、カラーフィルタを設けると、カラーフィルタ自身が光を吸収し、反射率が低下する。さらに、カラーフィルタは、一画素をレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)に3分割するため、表示装置の反射率が低下し、それに伴ってコントラスト比が低下する。白反射率・コントラスト比が大幅に低下した場合は、視認性が非常に悪くなり、電子ペーパーとして用いることが困難である。
【0004】
一方、上記のようなカラーフィルタを設けず、反射型の表示装置を実現するための有望な技術として、エレクトロクロミック現象を用いる方式がある。電圧を印加することで、可逆的に酸化還元反応が起こり、可逆的に色が変化する現象をエレクトロクロミズムという。このエレクトロクロミズム現象を引き起こすエレクトロクロミック化合物の発色/消色(以下、発消色)を利用した表示装置が、エレクトロクロミック表示装置である。このエレクトロクロミック表示装置については、反射型の表示装置であること、メモリ効果があること、低電圧で駆動できることから、電子ペーパー用途の表示装置技術の有力な候補として、材料開発からデバイス設計に至るまで、幅広く研究開発が行われている。
【0005】
但し、エレクトロクロミック表示装置には、酸化還元反応を利用して発消色を行う原理ゆえに、発消色の応答速度が遅いという欠点がある。特許文献1では、エレクトロクロミック化合物を電極近傍に固定させることによって発消色の応答速度の改善を図った例が記載されている。特許文献1の記載によれば、従来数10秒程度だった発消色に要する時間は、無色から青色への発色時間、青色から無色への消色時間は、ともに1秒程度まで向上している。但し、これで十分というわけではなく、エレクトロクロミック表示装置の研究開発に際しては、さらなる発消色の応答速度の向上が必要である。一方、エレクトロクロミック表示装置は、エレクトロクロミック化合物の構造によって様々な色を発色できるため、多色表示装置として期待されている。
【0006】
このようなエレクトロクロミック表示装置を利用した多色表示装置には、いくつか公知例がある。例えば特許文献2では、複数種のエレクトロクロミック化合物の微粒子を積層したエレクトロクロミック化合物を用いた多色表示装置が開示されている。該文献では、発色を示す電圧の異なる複数の機能性官能基を有する高分子化合物であるエレクトロクロミック化合物を複数積層し、多色表示エレクトロクロミック化合物とした多色表示装置の例が記載されている。
【0007】
また、特許文献3では、電極上に、電気化学機能層であるエレクトロクロミック層を多層に形成し、その発色に必要な電圧値や電流値の差を利用して多色を発色させる表示装置が開示されている。該文献では、異なる色を発色し、かつ、発色する閾値電圧及び発色に必要な必要電荷量が異なる複数のエレクトロクロミック化合物を、積層又は混合して形成した表示層を有する多色表示装置の例が記載されている。
【0008】
更に、特許文献4では、一対の透明電極の間にエレクトロクロミック層及び電解質を挟持した構造単位を複数積層してなる多色表示装置の例が記載されている。又、特許文献5では、特許文献4に記載された構造単位を用いてパッシブマトリクスパネル及びアクティブマトリクスパネルを構成し、RGB3色に対応する多色表示装置の例が記載されている。
【0009】
又、特許文献2〜5に記載の多色表示装置の課題を解決する、表示基板と対向電極との間に複数の表示電極を互いに隔離して設け、表示電極の各々に対応してエレクトロクロミック層を形成した構成からなる多色発色エレクトロクロミック表示装置が特許文献6に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、エレクトロクロミック表示装置を利用した表示装置においては、以下のような問題があった。
【0011】
すなわち、1991年に発表されたグレッツェルセルを応用した電気化学素子であるエレクトロクロミック表示装置は、広い表面積を有するナノポーラスな粒子層を形成し、その表面にエレクトロクロミズム反応を示す化合物を結合もしくは吸着させている。このため、ナノポーラス層表面への化合物の結合若しくは吸着工程が十分に行われない場合は化合物の面内での濃度ムラが発生する。又、その後に湿式プロセスでナノポーラス層上に異なる層を形成する場合はナノポーラス層上またはナノポーラス層中での材料の面内での濃度ムラが発生する。更に、エレクトロクロミズム反応を十分に進行させるためには電解質がこのナノポーラス層中に十分に浸透する必要があるが、ナノポーラス層を用いているために、表示素子とした際に気相が残留してしまう問題があった。
【0012】
これらのことは、結果としてエレクトロクロミック表示装置の表示ムラや応答速度ムラ・遅延などを引き起こす。この問題は、素子面積が大きくなるほど発生しやすくなる。多色発色素子とするため積層した際には、その層厚のため電解質浸透が即時に行われず、この問題が顕著に現れる場合があった。
【0013】
また、1素子で複数の電気化学機能層を積層した多機能電気化学素子においては、それぞれの層で機能発現させるために素子内に十分に電解質媒体が満たされてかつイオン移動が行われなければならない。
【0014】
本発明は、上記の点に鑑みて、エレクトロクロミック層に電解質を浸透させることが容易なエレクトロクロミック表示装置及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本エレクトロクロミック表示装置は、表示電極とエレクトロクロミック層との積層体と、前記積層体の前記表示電極側又は前記エレクトロクロミック層側の何れか一方側に設けられた貫通孔を有する膜と、前記表示電極と対向する対向電極が設けられた対向基板と、を有することを要件とする。
【0016】
本エレクトロクロミック表示装置の製造方法は、貫通孔を有する膜上に、表示電極とエレクトロクロミック層とを形成する第1工程と、対向基板に対向電極を形成する第2工程と、前記第1工程及び前記第2工程よりも後に、前記膜と前記対向基板とを電解質を挟んで貼合せる第3工程と、を有することを要件とする。
【発明の効果】
【0017】
開示の技術によれば、エレクトロクロミック層に電解質を浸透させることが容易なエレクトロクロミック表示装置及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施の形態に係るエレクトロクロミック表示装置の一例を示す断面図である。
【図2】本実施の形態に係るエレクトロクロミック表示要素及びエレクトロクロミック表示装置の他の例を示す断面図である。
【図3A】本実施の形態に係るエレクトロクロミック表示装置の構成の他の例を示す断面図(その1)である。
【図3B】本実施の形態に係るエレクトロクロミック表示装置の構成の他の例を示す断面図(その2)である。
【図3C】本実施の形態に係るエレクトロクロミック表示装置の構成の他の例を示す断面図(その3)である。
【図3D】本実施の形態に係るエレクトロクロミック表示装置の構成の他の例を示す断面図(その4)である。
【図3E】本実施の形態に係るエレクトロクロミック表示装置の構成の他の例を示す断面図(その5)である。
【図3F】本実施の形態に係るエレクトロクロミック表示装置の構成の他の例を示す断面図(その6)である。
【図3G】本実施の形態に係るエレクトロクロミック表示装置の構成の他の例を示す断面図(その7)である。
【図3H】本実施の形態に係るエレクトロクロミック表示装置の構成の他の例を示す断面図(その8)である。
【図4】本実施の形態に係るエレクトロクロミック表示装置の例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、実施の形態の説明を行う。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0020】
図1は、本実施の形態に係るエレクトロクロミック表示装置の一例を示す断面図である。図1を参照するに、エレクトロクロミック表示装置10は、表示基板11と、対向基板12と、対向電極12aと、第1の表示電極13aと、第2の表示電極13bと、第3の表示電極13cと、第1のエレクトロクロミック層14aと、第2のエレクトロクロミック層14bと、第3のエレクトロクロミック層14cと、多孔質膜15と、電解質層16と、スペーサ17とを有する。
【0021】
表示基板11は、透明な材料からなる基板である。表示基板11には多孔質膜15が設けられ、多孔質膜15には第1の表示電極13a、第2の表示電極13b、及び第3の表示電極13cが形成されている。対向基板12は、表示基板11と対向する位置に設けられ、対向基板12には、第1の表示電極13a、第2の表示電極13b、及び第3の表示電極13cに対して所定の間隔を隔てて対向して設けられている対向電極12aが形成されている。表示基板11と対向基板12とは、スペーサ17を介して貼り合わされている。
【0022】
第1の表示電極13aは、対向電極12aに対する電位を制御し、第1のエレクトロクロミック層14aを発色させるための電極である。第2の表示電極13bは、対向電極12aに対する電位を制御し、第2のエレクトロクロミック層14bを発色させるための電極である。第3の表示電極13bは、対向電極12aに対する電位を制御し、第3のエレクトロクロミック層14cを発色させるための電極である。
【0023】
第1のエレクトロクロミック層14a、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14cは、それぞれ第1の表示電極13a、第2の表示電極13b、及び第3の表示電極13cに接して設けられている。第1のエレクトロクロミック層14a、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14cは、それぞれ酸化還元反応によって発色する部分であるエレクトロクロミック化合物と、このエレクトロクロミック化合物を担持するとともに発消色を高速で行うための金属酸化物とを有し、理想的な状態である金属酸化物にエレクトロクロミック化合物の単分子が吸着した状態となっている。金属酸化物を有することにより、第1の表示電極13a等から金属酸化物を通して電子(又は正孔)をエレクトロクロミック化合物に伝えることができ、より効率的に発消色させることができる。
【0024】
但し、第1のエレクトロクロミック層14a、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14cは、それぞれエレクトロクロミック化合物が移動しないよう固定されると共に、エレクトロクロミック化合物の酸化還元に伴う電子の授受が妨げられないように電気的な接続が確保されていれば、エレクトロクロミック化合物と金属酸化物とが混合されて単一層となっていても良い。なお、第1のエレクトロクロミック層14a、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14cは、それぞれ異なる色を発色する。
【0025】
電解質層16は、第1の表示電極13a、第2の表示電極13b、及び第3の表示電極13cのそれぞれと対向電極12aとに挟まれるように設けられている。電解質層16は、電解質と溶媒を含有し、第1のエレクトロクロミック層14a、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14cが、それぞれ第1の表示電極13a、第2の表示電極13b、及び第3の表示電極13cからの電荷の授受により酸化還元反応することにより発消色する。又、第1のエレクトロクロミック層14a、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14cの対向電極12a側の各構成要素の何れかに、図示しない白色反射機能をもたせることで、反射型の表示素子とすることができる。
【0026】
なお、表示基板11の代わりに多孔質膜15に透明な封止層を設けてもよい。封止層を設けることにより、電解質層16の漏止めの効果が得られる。又、外部からの水分等の浸入を防ぎ、素子特性劣化を防ぐことができる。封止層は、ガスバリア性があるものが好ましく、ガスバリア封止材料等を用いたポリマーコート層が好適である。封止層の材料としては、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、及びそれらの混合物や適当なフィラーが加えられたもの、又、エチレン−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニリデン、環状オレフィン・コポリマー等を用いることができる。封止層を設けない場合には、表示基板11が、電解質層16を封止する透明な封止層としての機能を有する。
【0027】
第1の表示電極13a、第2の表示電極13b、及び第3の表示電極13cのそれぞれの間の電気抵抗は、第1のエレクトロクロミック層14a、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14cの膜厚等に依存する。第1の表示電極13a、第2の表示電極13b、及び第3の表示電極13cのそれぞれの間で絶縁が得られない場合は、第1のエレクトロクロミック層14aと第2の表示電極13bとの間、及び第2のエレクトロクロミック層14bと第3の表示電極13cとの間の何れか一方又は双方に絶縁層を形成することが好ましい。
【0028】
更に、第1のエレクトロクロミック層14a、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14cのそれぞれの、表示基板11と反対側の面に接して、有機高分子材料からなる保護層を形成することにより、第1のエレクトロクロミック層14a、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14cのそれぞれの、隣接層との密着性、溶剤に対する耐溶解性、各層の表示電極(第1の表示電極13a、第2の表示電極13b、及び第3の表示電極13c)間の絶縁性を向上させ、エレクトロクロミック表示装置10の耐久性を向上させることができる。
【0029】
エレクトロクロミック表示装置10は、上記説明した構造を有することにより、容易に多色表示が可能である。対向電極12aに対する第1の表示電極13aの電位、対向電極12aに対する第2の表示電極13bの電位、及び対向電極12aに対する第3の表示電極13cの電位は、独立して制御することができる。その結果、第1の表示電極13aに接して設けられた第1のエレクトロクロミック層14a、第2の表示電極13bに接して設けられた第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3の表示電極13cに接して設けられた第3のエレクトロクロミック層14cを、独立して発消色させることができる。
【0030】
第1のエレクトロクロミック層14a、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14c、は、表示基板11側に積層して設けられているため、第1のエレクトロクロミック層14a、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14cの発消色のパターンにより、第1のエレクトロクロミック層14aのみの発色、第2のエレクトロクロミック層14bのみの発色、第3のエレクトロクロミック層14cのみの発色、第1のエレクトロクロミック層14aと第2のエレクトロクロミック層14bの2層による発色、第1のエレクトロクロミック層14aと第3のエレクトロクロミック層14cの2層による発色、第2のエレクトロクロミック層14bと第3のエレクトロクロミック層14cの2層による発色、及び第1のエレクトロクロミック層14aと第2のエレクトロクロミック層14bと第3のエレクトロクロミック層14cの3層による発色に変化させることができ、多色表示が可能である。
【0031】
又、第1のエレクトロクロミック層14a、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14cとして、イエロー、マゼンダ、シアンに発色するエレクトロクロミック層を用い、第1の表示電極13a、第2の表示電極13b、及び第3の表示電極13cの電位を独立に制御することにより、エレクトロクロミック表示装置10は、フルカラー表示が可能である。
【0032】
図2は、本実施の形態に係るエレクトロクロミック表示要素及びエレクトロクロミック表示装置の他の例を示す断面図である。エレクトロクロミック表示装置21は、第1の表示電極13a、第2の表示電極13b、及び第3の表示電極13c、並びに、第1のエレクトロクロミック層14a、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14cに対して、それぞれ表示基板11、第1の多孔質膜15a、第2の多孔質膜15bが設けられていること以外はエレクトロクロミック表示装置10と同一の構成である。
【0033】
図2に示すエレクトロクロミック表示装置21は、図1に示すエレクトロクロミック表示装置10と同様の効果を奏するが、更に以下の効果を奏する。すなわち、第1の表示電極13a、第2の表示電極13b、及び第3の表示電極13c、並びに、第1のエレクトロクロミック層14a、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14cを、それぞれ表示基板11、第1の多孔質膜15a、及び第2の多孔質膜15b上に別々に形成したエレクトロクロミック表示要素20a、20b、及び20cを作製する。そして、エレクトロクロミック表示要素20a、20b、及び20cを最後に重ね合わせることで、第1の表示電極13a、第2の表示電極13b、及び第3の表示電極13cのそれぞれの間の絶縁を容易に確保することができる。又、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14cの製造工程において、酸化金属粒子層の形成を一度に行い、その後各エレクトロクロミック化合物を結合若しくは吸着させることができるため、簡便に積層エレクトロクロミック表示装置を作製することができる。
【0034】
図3A〜図3Hは、本実施の形態に係るエレクトロクロミック表示装置の構成の他の例を示す断面図である。なお、図3D等において、15cは第3の多孔質膜を示している。第1の多孔質膜15a、第2の多孔質膜15b、及び第3の多孔質膜15cは、便宜上区別しているが、何れも多孔質膜15と同等の膜である。
【0035】
図3A〜図3Hは、本実施の形態に係るエレクトロクロミック表示装置の構成例の一部を示しており、この構成のみに限定されることはない。図3A〜図3Hに示す構成のうち、どの構成を用いても図1及び図2に示すエレクトロクロミック表示装置と同様の効果を奏するが、例えば多孔質膜15の光散乱による光損失の抑制や、製造工程の簡便性などの観点から自由に構成を変更することができる。又、電気化学機能層であるエレクトロクロミック層は、発現したい機能の数により層の数を変えることもできる。
【0036】
続けて、図1〜図3を構成する各要素の材料等について詳細に説明する。
【0037】
表示基板11は、例えばガラス基板やプラスチック基板等の透明な材料からなる基板である。プラスチック基板としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリスチレン等や、ポリエステルであるポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等を用いることができる。なお、表示基板11としてプラスチックフィルムを用いると、軽量でフレキシブルなエレクトロクロミック表示装置を作製することができる。
【0038】
第1の表示電極13a、第2の表示電極13b、及び第3の表示電極13cを構成する材料としては、導電性を有する材料であれば特に限定されるものではないが、光の透過性を確保する必要があるため、透明かつ導電性に優れた透明導電性材料が用いられる。これにより、発色させる色の視認性をより高めることができる。
【0039】
透明導電性材料としては、スズをドープした酸化インジウム(以下ITO)、フッ素をドープした酸化スズ(以下FTO)、アンチモンをドープした酸化スズ(以下ATO)等の無機材料を用いることができるが、特に、真空成膜により形成されたインジウム酸化物(以下、In酸化物という)、スズ酸化物(以下、Sn酸化物という)又は亜鉛酸化物(以下、Zn酸化物という)の何れか1つを含む無機材料であることが好ましい。In酸化物、Sn酸化物及びZn酸化物は、スパッタ法により、容易に成膜が可能な材料であると共に、良好な透明性と電気伝導度が得られる材料である。又、特に好ましい材料は、InSnO、GaZnO、SnO、In2O、ZnOである。
【0040】
対向基板12の材料としては、特に限定されるものではなく、対向電極12aの材料としては、導電性を有する材料であれば、特に限定されるものではない。対向基板12として、ガラス基板、プラスチックフィルムが用いられる場合、対向電極12aの材料として、ITO、FTO、酸化亜鉛等の透明導電膜、あるいは亜鉛、白金等の導電性金属膜、更にはカーボン等が用いられる。これらの透明導電膜又は導電性金属からなる対向電極12aは、対向基板12にコーティングされ用いられる。一方、対向電極12aとして、亜鉛等の金属板が用いられる場合、対向基板12が対向電極12aを兼ねる。
【0041】
更に、対向電極12aの材料が、第1のエレクトロクロミック層14a、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14cの起こす酸化還元反応と逆の逆反応を起こす材料である場合、安定した発消色が可能である。すなわち、第1のエレクトロクロミック層14a、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14cが酸化により発色する場合は還元反応を起こし、第1のエレクトロクロミック層14a、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14cが還元により発色する場合は酸化反応を起こす材料を対向電極12aとして用いると、第1のエレクトロクロミック層14a、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14cにおける発消色の反応は、より安定となる。
【0042】
第1のエレクトロクロミック層14a、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14cには、酸化還元により色の変化を起こす材料が用いられる。このような材料として、ポリマー系、色素系、金属錯体、金属酸化物等の公知のエレクトロクロミック化合物が用いられる。
【0043】
具体的に、ポリマー系、色素系のエレクトロクロミック化合物として、アゾベンゼン系、アントラキノン系、ジアリールエテン系、ジヒドロプレン系、スチリル系、スチリルスピロピラン系、スピロオキサジン系、スピロチオピラン系、チオインジゴ系、テトラチアフルバレン系、テレフタル酸系、トリフェニルメタン系、トリフェニルアミン系、ナフトピラン系、ビオロゲン系、ピラゾリン系、フェナジン系、フェニレンジアミン系、フェノキサジン系、フェノチアジン系、フタロシアニン系、フルオラン系、フルギド系、ベンゾピラン系、メタロセン系、等の低分子系有機エレクトロクロミック化合物、ポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性高分子化合物が用いられる。
【0044】
上記中、特に、好ましくは、式[化1](一般式)で表されるジピリジン系化合物を含むことが良い。これらの材料は発消色電位が低いため、複数の表示電極を有するエレクトロクロミック表示装置を構成した場合においても、還元電位により良好な発色の色値を示す。
【0045】
【化1】

なお、一般式[化1]中、R1及びR2は、それぞれ独立に置換基を有しても良い炭素数1から8のアルキル基、又はアリール基を表し、R1又はR2の少なくとも一方は、COOH、PO(OH)、Si(OC2k+1から選ばれる置換基を有する。Xは1価のアニオンを表す。nは0、1又は2を表す。kは0、1又は2を表す。Aは置換基を有しても良い炭素数1から20のアルキル基、アリール基、複素環基を表す。
【0046】
これらの化合物は電極に接して形成されるが、特に好ましくは、ナノ構造半導体材料にエレクトロクロミック化合物が吸着又は結合して電極に接していることが良い。エレクトロクロミック化合物は、エレクトロクロミック化合物が移動しないよう固定されると共に、エレクトロクロミック化合物の酸化還元に伴う電子の授受が妨げられなければように電気的な接続が確保されていればよく、エレクトロクロミック化合物とナノ構造半導体材料とは混合されて単一層となっていても良い。
【0047】
ナノ構造半導体材料の材料としては、特に限定されるものではないが、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化アルミニウム(以下アルミナ)、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ケイ素(以下シリカ)、酸化イットリウム、酸素ホウ素、酸化マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、酸化カルシウム、フェライト、酸化ハフニウム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化バナジウム、アルミノケイ酸、リン酸カルシウム、アルミノシリケート等を主成分とする金属酸化物が用いられる。
【0048】
又、これらの金属酸化物は、単独で用いられてもよく、2種以上が混合され用いられてもよい。電気伝導性等の電気的特性や光学的性質等の物理的特性を鑑みるに、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化タングステン、から選ばれる一種、若しくはそれらの混合物が用いられたとき、発消色の応答速度に優れた多色表示が可能である。又、ナノ構造半導体材料の形状は、特に限定されるものではないが、エレクトロクロミック化合物を効率よく担持するために、単位体積当たりの表面積(以下比表面積)が大きい形状が用いられる。大きな比表面積を有することにより効率的にエレクトロクロミック化合物が担持され、発消色の表示コントラスト比に優れた表示が可能である。
【0049】
第1のエレクトロクロミック層14a、第2のエレクトロクロミック層14b、及び第3のエレクトロクロミック層14cのそれぞれの好ましい膜厚範囲は、0.2〜5.0μmである。この範囲よりも膜厚が薄い場合、発色濃度を得にくくなる。又、この範囲よりも膜厚が厚い場合、製造コストが増大すると共に、着色によって視認性が低下しやすい。
【0050】
第1の表示電極13a、第2の表示電極13b、及び第3の表示電極13cのそれぞれの間の電極間抵抗は、対向電極12aに対する一方の表示電極の電位を、対向電極12aに対する他方の表示電極の電位と独立に制御することができる程度に大きな抵抗でなくてはならないが、少なくとも第1の表示電極13a、第2の表示電極13b、及び第3の表示電極13cの何れかの各表示電極のシート抵抗よりも大きくなるように形成されなくてはならない。
【0051】
第1の表示電極13a、第2の表示電極13b、及び第3の表示電極13cのそれぞれの間の電極間抵抗が、第1の表示電極13a、第2の表示電極13b、及び第3の表示電極13cの何れかの表示電極のシート抵抗よりも小さい場合、第1の表示電極13a、第2の表示電極13b、及び第3の表示電極13cの何れかの表示電極に電圧印加をすると、同程度の電圧が他方の表示電極にも印加されてしまい、各表示電極に対応するエレクトロクロミック層を独立に消色することができない。第1の表示電極13a、第2の表示電極13b、及び第3の表示電極13cのそれぞれの間の電極間抵抗は、第1の表示電極13a、第2の表示電極13b、及び第3の表示電極13cのそれぞれのシート抵抗の500倍以上あることが好ましい。抵抗値を確保するためには絶縁層を形成することが好ましい。
【0052】
絶縁層の材料としては、多孔質であれば特に好ましいが、これに限定されるものではなく、絶縁性、耐久性及び成膜性に優れた材料を用いることができ、特に、少なくともZnSを含む材料を用いることができる。ZnSは、スパッタ法によって、エレクトロクロミック層にダメージを与えることなく高速に成膜できるという特徴を有する。更に、ZnSを主な成分として含む材料として、ZnO−SiO、ZnS−SiC、ZnS−Si、ZnS−Ge等を用いることができる。
【0053】
ここで、ZnSの含有率は、絶縁層を形成した際の結晶性を良好に保つために、約50〜90mol%とすることが好ましい。従って、特に好ましい材料は、ZnS−SiO(8/2)、ZnS−SiO(7/3)、ZnS、ZnS−ZnO−In2O−Ga(60/23/10/7)である。このような絶縁層の材料を用いることにより、薄膜で良好な絶縁効果が得られ、多層化による膜強度低下(すなわち膜のはがれ)を防止することができる。
【0054】
一方、絶縁層を多孔質膜にすることは、絶縁層を粒子膜として形成することによって行うことができる。特にZnS等をスパッタで形成する場合、予め下引き層として粒子膜を形成することによって、ZnS等の多孔質膜を形成することができる。この場合、ナノ構造半導体材料を粒子膜として形成することもできるが、絶縁層の一部としてシリカ、アルミナ等を含む多孔質粒子膜を形成することもできる。このような手法を用いて絶縁層を多孔質膜にすることにより、電解質層16が絶縁層に浸透することが可能となるため、酸化還元反応に伴う電解質層中のイオンとしての電荷の移動が容易となり、発消色の応答速度に優れた多色表示が可能である。さらに絶縁層は薄膜ポリマー層と積層、及びまたは混合することもできる。
【0055】
なお、絶縁層の膜厚は20〜500nmとすることができ、更に好ましくは20〜150nmの範囲とすることができる。この範囲よりも膜厚が薄い場合、絶縁性を得にくくなる。又、この範囲よりも膜厚が厚い場合、製造コストが増大すると共に、着色によって視認性が低下する。
【0056】
電解質層16としては、支持塩を溶媒に溶解させた層が用いられる。このため、イオン伝導度が高い。電解質層16の材料としては、支持塩として、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩や酸類、アルカリ類の支持塩を用いることができる。具体的に、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiCFSO、LiCFCOO、KCl、NaClO、NaCl、NaBF、NaSCN、KBF、Mg(ClO、Mg(BF、過塩素酸テトラブチルアンモニウム等を用いることができる。
【0057】
又、溶媒として、例えば、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、γ―ブチロラクトン、エチレンカーボネート、スルホラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1、2−ジメトキシエタン、1、2−エトキシメトキシエタン、ポリエチレングリコール、アルコール類、が用いられる。その他、支持塩を溶媒に溶解させた液体状の電解質に特に限定されるものではないため、ゲル状の電解質や、ポリマー電解質等の固体電解質も用いられる。
【0058】
電解質層16はゲル状、固体状に形成することが、素子強度向上、信頼性向上、発色拡散の防止から好ましい。固体化手法としては、電解質と溶媒をポリマー樹脂中に保持することが良い。高いイオン伝導度と固体強度が得られるためである。更に、ポリマー樹脂は光硬化可能な樹脂が良い。熱重合や、溶剤を蒸発させることにより薄膜化する方法に比べて、低温かつ短時間で素子を製造できるためである。
【0059】
樹脂としては、特に限定されないが、ウレタン、エチレングリコール、プレングリコール、ビニルアルコール、アクリル、エポキシなどのポリマーを挙げることができる。又、電解質層16中に白色顔料粒子を分散させることで、白色反射層の機能をもたせることもできる。白色の顔料粒子としては、特に限定されないが、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化セシウム、酸化イットリウム等の金属酸化物が挙げられる。光硬化樹脂により電解質層16を硬化する場合は白色顔料を増量すると光を遮蔽するため硬化不良となりやすい。電解質層16の厚さにも依存するが、好ましい含有量は10〜50wt%である。又、電解質層16の膜厚は0.1〜200μmの範囲とすることができる。好ましくは1〜50μmである。電解質層16がこれよりも厚いと電荷が拡散しやすい、又、これよりも薄いと電解質の保持が困難になるためである。
【0060】
多孔質膜15、第1の多孔質膜15a、第2の多孔質膜15b、及び第3の多孔質膜15cは、それぞれ電解質に対して不活性であり、かつ、透明な材質であればよく、機械的強度等も特に制約されないが、例えばポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリアセタール、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン等が挙げられる。この中で、化学的安定性及び電気絶縁性の点から、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン及びポリテトラフルオロエチレン等を用いることが好ましい。
【0061】
多孔質膜15、第1の多孔質膜15a、第2の多孔質膜15b、及び第3の多孔質膜15c(以降、多孔質膜15等とする)は、多数の貫通孔を有する膜である。多孔質膜15等としては、例えば、一般的な不織布や、プラスチック基板などに重イオンビームなどで多数の貫通孔を形成した自立膜などが使用できる。本願における多孔質膜の貫通孔は、一般的な多孔質膜のように膜の厚み方向や面方向や斜め方向等の様々な方向に形成されるよりも、主に膜の厚み方向に形成されることが好ましい。以下に説明する役割や効果を実現するためである。すなわち、多孔質膜の貫通孔(細孔部)は、ナノポーラス層であるエレクトロクロミック層に電解質を浸透させる際に気相を逃がす役割を果たす。多孔質膜の貫通孔(細孔部)を通して気相を逃がすことにより、気相の残留に起因するエレクトロクロミック表示装置の表示ムラや応答速度ムラ・遅延等の発生を防止することができる。又、貫通孔(細孔部)により電解質イオンを容易に透過するので、複数の多孔質膜を重ね合わせても電気化学反応を起こすことが可能となる。また、自立膜を使用することで、1素子で複数の電気化学機能層を積層した多機能電気化学素子の作製において、順次積層するプロセスが不要となるため容易に多機能電気化学素子を作製することができる。
【0062】
不織布については必ずしも限定されるものではないが、厚さは5〜500μm、より好ましくは10〜150μmの範囲、繊維径は0.2〜15μm、より好ましくは0.5〜5μm、空孔率は40〜90%、より好ましくは60〜80%である極細の繊維からなる微多孔質の均質な不織布であることが好ましい。厚みが500μmを超えるとエレクトロクロミック素子の応答性が低下し、5μm以下になると強度が弱く、取扱い、加工性が困難になる。繊維径が15μmを超えると空孔率を低下させ、0.2μm以下になると強度の低下の原因になる。空孔率90%以上では強度低下の原因になり、空孔率40%以下では電解質層のイオン導電性を低下させる。
【0063】
プラスチック基板などに形成する貫通孔の径は、例えば、0.01〜100μm程度とすると好適である。貫通孔の径が0.01μm以下だと、貫通孔が多孔質膜を完全に貫けない虞や、表示電極を形成する際に貫通孔をITO等のイオン透過性の悪い透明導電膜で塞いでしまう虞がある。又、貫通孔の径が100μm以上だと、目視できるレベル(通常のディスプレイでは1画素電極レベルの大きさ)であり、貫通孔直上に表示電極が形成できなくなるので、表示性能に不具合が生じる虞がある。このような問題を完全に回避するために、貫通孔の径を0.1〜5μm程度とすると更に好適である。また、このような多孔質膜上に表示電極を形成した場合、表面の平坦性が良いため良好な導電性を有した表示電極を形成しやすく、表示性能の良いエレクトロクロミック表示装置を製造することができる。
【0064】
多孔質膜15等の全体の面積に対する貫通孔の面積の比は、適宜設定することができるが、例えば0.01〜30%程度とすることができる。多孔質膜15等の全体の面積に対する貫通孔の面積の比が大きすぎると表示電極がない面積が広くなるので発色応答(電流のながれ)に不具合が出て発消色表示に問題が生じる虞がある。又、多孔質膜15等の全体の面積に対する貫通孔の面積の比が小さすぎると電解質イオンの浸透性が悪くなるので、同様に発消色表示に問題が生じる虞がある。
【0065】
多孔質膜15等は、エレクトロクロミック層(エレクトロクロミック化合物と前記エレクトロクロミック化合物を担持した金属酸化物)を構成する材料の一部を含んでいる。例えば、多孔質膜15等の上にエレクトロクロミック層を構成する酸化チタン微粒子の膜を成膜しようとした場合に、多孔質膜15等の貫通孔(細孔部)の中に酸化チタン微粒子が入り込み、多孔質膜15等がエレクトロクロミック層を構成する材料の一部を含んだ状態となる。電解質が保持されている多孔質膜15等の貫通孔(細孔部)にエレクトロクロミック層の少なくとも一部を含むことにより、効率的に発消色させることができる。
【0066】
このように、本実施の形態によれば、表示電極とエレクトロクロミック層との積層体の表示電極側又はエレクトロクロミック層側の何れか一方側に多孔質膜(多数の貫通孔を有する膜)を設けることにより、ナノポーラス層であるエレクトロクロミック層に電解質を浸透させる際に気相の逃げをつくっておくことが可能となり、エレクトロクロミック層に十分に電解質を浸透させることができる。その結果、エレクトロクロミック表示装置の表示ムラや応答速度ムラ・遅延等の発生を防止することができる。
【0067】
又、エレクトロクロミック層への電解質の浸透が即時に行われるため、特に、多色発色素子とするために複数のエレクトロクロミック層を積層したエレクトロクロミック表示装置において、顕著な効果を奏する。
【0068】
[実施例1]
(表示電極及びエレクトロクロミック層の形成)
まず、40mm×40mmのガラス基板(表示基板)を準備し、準備したガラス基板上にテープを用いて30mm×30mmのポリエチレン多孔質膜(サンマップLCシリーズ、日東電工株式会社)を固定し、その上面の16mm×23mmの領域に、ITO膜をスパッタ法により約100nmの厚さになるように成膜することによって、第1の表示電極を形成した。この第1の表示電極の電極端部間のシート抵抗を測定したところ、約200Ωであった。
【0069】
次に、このように第1の表示電極が形成されたガラス基板上に、酸化チタンナノ粒子分散液としてSP210(商品名:昭和タイタニウム社製)をスピンコート法により塗布し、120℃で15分間アニール処理を行うことによって、酸化チタン粒子膜を形成し、引続いて、式[化2]で表されるビオロゲン化合物の0.8wt%2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール溶液を塗布液としてスピンコートし、120℃で10分間アニール処理を行うことによって、酸化チタン粒子とエレクトロクロミック化合物からなる第1のエレクトロクロミック層を形成した。その後、第1の表示電極等が形成されたポリエチレン多孔質膜を、ガラス基板から剥離した。
【0070】
【化2】

(対向電極の形成)
第1の表示電極を形成したガラス基板とは別に、20mm×30mmのポリカーボネート基板(対向基板)を準備し、準備したポリカーボネート基板の上面の全面に、酸化スズよりなる透明導電性薄膜を成膜した。
【0071】
(エレクトロクロミック表示装置の作製)
対向基板上に第1のエレクトロクロミック層等を形成したポリエチレン多孔質膜を置き、次に過塩素酸テトラブチルアンモニウムをジメチルスルホキシドに0.1Mで溶解して調製した電解質溶液を上から滴下することでエレクトロクロミック表示装置を作製した。
【0072】
本実施例にて作製したエレクトロクロミック表示装置は、多孔質膜、第1の表示電極、第1のエレクトロクロミック層が積層された構造を有する。
【0073】
(発消色試験)
実施例1で作製されたエレクトロクロミック表示装置に電圧を印加し、発色の評価を実施した。印加電圧は3.0Vとし、印加時間は2秒とした。なお、表示電極は負極に接続され、対向電極は正極に接続された。
【0074】
図4において、Aは実施例1で作製されたエレクトロクロミック表示装置の第1の表示電極と対向電極間に電圧を印加していない『消色状態』を示しており、Bは第1の表示電極と対向電極間に電圧を印加している『発色状態』を示している。図4の『発色状態』は、青を発色している。図4に示すとおり、第1の表示電極と対向電極間に電圧を印加することによって青を発色することができ、又、一旦発色された発色を安定に保持することができた。
【0075】
[実施例2]
(表示電極及びエレクトロクロミック層の形成)
まず、40mm×40mmのガラス基板(表示基板)を準備し、準備したガラス基板上に、ITO膜をスパッタ法により約100nmの厚さになるように成膜することによって、第1の表示電極を形成した。この第1の表示電極の電極端部間のシート抵抗を測定したところ、約200Ωであった。
【0076】
次に、このように第1の表示電極が形成されたガラス基板上に、酸化チタンナノ粒子分散液としてSP210(商品名:昭和タイタニウム社製)をスピンコート法により塗布し、120℃で15分間アニール処理を行うことによって、酸化チタン粒子膜を形成し、引続いて、式[化3]で表されるビオロゲン化合物の1wt%2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール溶液を塗布液としてスピンコートし、120℃で10分間アニール処理を行うことによって、酸化チタン粒子とエレクトロクロミック化合物からなる第1のエレクトロクロミック層を形成した。
【0077】
【化3】

又、別に40mm×40mmのガラス基板を準備し、準備したガラス基板上にテープを用いて第2の多孔質膜である30mm×30mmのポリエチレン多孔質膜(サンマップLCシリーズ、日東電工株式会社)を固定し、その上面の16mm×23mmの領域に、ITO膜をスパッタ法により約100nmの厚さになるように成膜することによって、第2の表示電極を形成した。この第2の表示電極の電極端部間のシート抵抗を測定したところ、約200Ωであった。
【0078】
次に、このように第2の表示電極が形成されたガラス基板上に、酸化チタンナノ粒子分散液としてSP210(商品名:昭和タイタニウム社製)をスピンコート法により塗布し、120℃で15分間アニール処理を行うことによって、酸化チタン粒子膜を形成し、引続いて、式[化4]で表されるビオロゲン化合物の1wt%2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール溶液を塗布液としてスピンコートし、120℃で10分間アニール処理を行うことによって、酸化チタン粒子とエレクトロクロミック化合物からなる第2のエレクトロクロミック層を形成した。その後、第2の表示電極及び第2のエレクトロクロミック層が形成されたポリエチレン多孔質膜を、ガラス基板から剥離した。
【0079】
【化4】

(対向電極の形成)
第1〜第2の表示電極を形成したガラス基板とは別に、40mm×40mmのガラス基板(対向基板)を準備し、準備したガラス基板の上面の全面に、酸化スズよりなる透明導電性薄膜を成膜した。更に、この酸化スズよりなる透明導電性薄膜が全面に成膜されたガラス基板の上面に、1次粒径30nmの酸化スズ粒子(三菱マテリアル社製)を2,2,3,3−テトラフルオロプロパノールに分散させた20wt%2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール分散液を、スピンコート法により約2μmの厚さになるように塗布し、120℃15分間アニール処理を行うことによって、対向電極を形成した。
【0080】
(エレクトロクロミック表示装置の作製)
対向基板上に第2のエレクトロクロミック層を形成したポリエチレン多孔質膜を置き、次に過塩素酸テトラブチルアンモニウムをジメチルスルホキシドに0.1Mで溶解して調製した電解質溶液を上から滴下し、75μmのスペーサを介して第1のエレクトロクロミック層を形成したガラス基板を表示基板として貼り合わせ封入することでエレクトロクロミック表示装置を作製した。
【0081】
本実施例にて作製したエレクトロクロミック表示装置は、多孔質膜、第1の表示電極、第1のエレクトロクロミック層、第2の表示電極、第2のエレクトロクロミック層が積層された構造を有する。
【0082】
(電極間抵抗の測定)
作製したエレクトロクロミック表示装置について、第1の表示電極と第2の表示電極の間及び第2の表示電極と第3の表示電極の間の電極間抵抗の測定を行った。表示電極の電極端部間のシート抵抗の約500倍である100kΩ以上の良好な絶縁性が得られた。
【0083】
(発消色試験)
実施例2で作製されたエレクトロクロミック表示装置に電圧を印加し、発色の評価を実施した。印加電圧は3.0Vとし、印加時間は2秒とした。なお、表示電極は負極に接続され、対向電極は正極に接続された。
【0084】
第1の表示電極と対向電極間に電圧を印加することによって緑を、第2の表示電極と対向電極間に電圧を印加することによってマゼンタを独立して発色することができ、又、独立して一旦発色された発色を安定に保持することができた。
【0085】
[実施例3]
(表示電極及びエレクトロクロミック層の形成)
まず、40mm×40mmのガラス基板(表示基板)を準備し、準備したガラス基板上にテープを用いて30mm×30mmのポリエチレン多孔質膜(サンマップLCシリーズ、日東電工株式会社)を固定し、その上面の16mm×23mmの領域に、ITO膜をスパッタ法により約100nmの厚さになるように成膜することによって、第1の表示電極を形成した。この第1の表示電極の電極端部間のシート抵抗を測定したところ、約200Ωであった。
【0086】
次に、このように第1の表示電極が形成されたガラス基板上に、酸化チタンナノ粒子分散液としてSP210(商品名:昭和タイタニウム社製)をスピンコート法により塗布し、120℃で15分間アニール処理を行うことによって、酸化チタン粒子膜を形成し、引続いて、式[化2]で表されるビオロゲン化合物の0.8wt%2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール溶液を塗布液としてスピンコートし、120℃で10分間アニール処理を行うことによって、酸化チタン粒子とエレクトロクロミック化合物からなる第1のエレクトロクロミック層を形成した。
【0087】
次に、このように第1のエレクトロクロミック層が形成されたガラス基板上に、水性ポリエステル系ウレタン樹脂(HW350、DIC株式会社)の0.5wt%2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール溶液をスピンコート法により塗布することによって保護層を形成した。
【0088】
引続いて、8/2の組成比を有するZnS−SiOを、スパッタ法により140nmの膜厚になるように成膜することによって、無機絶縁層を形成した。更に、ZnS−SiOよりなる無機絶縁層が形成されたガラス基板の表面の10mm×20mmの領域に、ITO膜をスパッタ法により約100nmの厚さになるように成膜することによって、第2の表示電極を形成した。上記のように形成された第2の表示電極の電極端部間のシート抵抗の測定を行った。その結果、電極端部間のシート抵抗は約200Ωであった。
【0089】
次に、このように第2の表示電極までが形成されたガラス基板上に、酸化チタンナノ粒子分散液としてSP210(商品名:昭和タイタニウム社製)をスピンコート法により塗布し、120℃で15分間アニール処理を行うことによって、酸化チタン粒子膜を形成し、引続いて、式[化3]で表されるビオロゲン化合物の1.0wt%2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール溶液をスピンコート法により塗布し、120℃で10分間アニール処理を行うことによって、酸化チタン粒子とエレクトロクロミック化合物からなる第2のエレクトロクロミック層を形成した。
【0090】
次に、このように第2のエレクトロクロミック層が形成されたガラス基板上に、水性ポリエステル系ウレタン樹脂(HW350、DIC株式会社)の0.5wt%2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール溶液をスピンコート法により塗布することによって保護層を形成した。
【0091】
引続いて、8/2の組成比を有するZnS−SiOを、スパッタ法により140nmの膜厚になるように成膜することによって、無機絶縁層を形成した。更に、ZnS−SiOよりなる無機絶縁層が形成されたガラス基板の表面の10mm×20mmの領域に、ITO膜をスパッタ法により約100nmの厚さになるように成膜することによって、第3の表示電極を形成した。上記のように形成された第3の表示電極の電極端部間のシート抵抗の測定を行った。その結果、電極端部間のシート抵抗は約200Ωであった。
【0092】
次に、このように第3の表示電極までが形成されたガラス基板上に、酸化チタンナノ粒子分散液としてSP210(商品名:昭和タイタニウム社製)をスピンコート法により塗布し、120℃で15分間アニール処理を行うことによって、酸化チタン粒子膜を形成し、引続いて、式[化4]で表されるビオロゲン化合物の0.8wt%2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール溶液をスピンコート法により塗布し、120℃で10分間アニール処理を行うことによって、酸化チタン粒子とエレクトロクロミック化合物からなる第3のエレクトロクロミック層を形成した。
【0093】
次に、このように第3のエレクトロクロミック層が形成されたガラス基板上に、水性ポリエステル系ウレタン樹脂(HW350、DIC株式会社)の0.5wt%2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール溶液をスピンコート法により塗布することによって保護層を形成した。その後、第1の表示電極等が形成されたポリエチレン多孔質膜を、ガラス基板から剥離した。
【0094】
(対向電極の形成)
第1〜第3の表示電極を形成したガラス基板とは別に、30mm×30mmのガラス基板(対向基板)を準備し、準備したガラス基板の上面の全面に、酸化スズよりなる透明導電性薄膜を成膜した。更に、この酸化スズよりなる透明導電性薄膜が全面に成膜されたガラス基板の上面に、1次粒径30nmの酸化スズ粒子(三菱マテリアル社製)を2,2,3,3−テトラフルオロプロパノールに分散させた20wt%2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール分散液を、スピンコート法により約2μmの厚さになるように塗布し、120℃15分間アニール処理を行うことによって、対向電極を形成した。
【0095】
(エレクトロクロミック表示装置の作製)
対向基板上に第1〜第3のエレクトロクロミック層等を形成したポリエチレン多孔質膜を置き、次に過塩素酸テトラブチルアンモニウムをジメチルスルホキシドに0.1Mで溶解して調製した電解質溶液を上から滴下し、75μmのスペーサを介して別のガラス基板を表示基板として貼り合わせ封入することでエレクトロクロミック表示装置を作製した。
【0096】
本実施例にて作製したエレクトロクロミック表示装置は、多孔質膜、第1の表示電極、第1のエレクトロクロミック層、第1の保護層、第1の絶縁層、第2の表示電極、第2のエレクトロクロミック層、第2の保護層、第2の絶縁層、第3の表示電極、第3のエレクトロクロミック層、及び第3の保護層が積層された構造を有する。第1の表示電極や第1のエレクトロクロミック層等の構造は、前述の図1と同様である。但し、図1では、絶縁層及び保護層は図示されていない。
【0097】
(電極間抵抗の測定)
作製したエレクトロクロミック表示装置について、第1の表示電極と第2の表示電極の間及び第2の表示電極と第3の表示電極の間の電極間抵抗の測定を行った。表示電極の電極端部間のシート抵抗の約500倍である100kΩ以上の良好な絶縁性が得られた。
【0098】
(発消色試験)
実施例3で作製されたエレクトロクロミック表示装置に電圧を印加し、発色の評価を実施した。印加電圧は3.0Vとし、印加時間は2秒とした。なお、表示電極は負極に接続され、対向電極は正極に接続された。
【0099】
第1の表示電極と対向電極間に電圧を印加することによって青を、第2の表示電極と対向電極間に電圧を印加することによって緑を、第3の表示電極と対向電極間に電圧を印加することによってマゼンタを独立して発色することができ、又、独立して一旦発色された発色を安定に保持することができた。
【0100】
[実施例4]
(表示電極及びエレクトロクロミック層の形成)
まず、40mm×40mmのガラス基板を準備し、準備したガラス基板上にテープを用いて第1の多孔質膜である30mm×30mmのポリエチレン多孔質膜(サンマップLCシリーズ、日東電工株式会社)を固定し、その上面の16mm×23mmの領域に、ITO膜をスパッタ法により約100nmの厚さになるように成膜することによって、第1の表示電極を形成した。この第1の表示電極の電極端部間のシート抵抗を測定したところ、約200Ωであった。
【0101】
次に、このように第1の表示電極が形成されたガラス基板上に、酸化チタンナノ粒子分散液としてSP210(商品名:昭和タイタニウム社製)をスピンコート法により塗布し、120℃で15分間アニール処理を行うことによって、酸化チタン粒子膜を形成し、引続いて、前述の式[化2]で表されるビオロゲン化合物の1wt%2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール溶液を塗布液としてスピンコートし、120℃で10分間アニール処理を行うことによって、酸化チタン粒子とエレクトロクロミック化合物からなる第1のエレクトロクロミック層を形成した。その後、第1の表示電極及び第1のエレクトロクロミック層が形成されたポリエチレン多孔質膜を、ガラス基板から剥離した。
【0102】
又、別に40mm×40mmのガラス基板を準備し、準備したガラス基板上にテープを用いて第2の多孔質膜である30mm×30mmのポリエチレン多孔質膜(サンマップLCシリーズ、日東電工株式会社)を固定し、その上面の16mm×23mmの領域に、ITO膜をスパッタ法により約100nmの厚さになるように成膜することによって、第2の表示電極を形成した。この第2の表示電極の電極端部間のシート抵抗を測定したところ、約200Ωであった。
【0103】
次に、このように第2の表示電極が形成されたガラス基板上に、酸化チタンナノ粒子分散液としてSP210(商品名:昭和タイタニウム社製)をスピンコート法により塗布し、120℃で15分間アニール処理を行うことによって、酸化チタン粒子膜を形成し、引続いて、前述の式[化3]で表されるビオロゲン化合物の1wt%2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール溶液を塗布液としてスピンコートし、120℃で10分間アニール処理を行うことによって、酸化チタン粒子とエレクトロクロミック化合物からなる第2のエレクトロクロミック層を形成した。その後、第2の表示電極及び第2のエレクトロクロミック層が形成されたポリエチレン多孔質膜を、ガラス基板から剥離した。
【0104】
更に、別に40mm×40mmのガラス基板を準備し、準備したガラス基板上にテープを用いて第3の多孔質膜である30mm×30mmのポリエチレン多孔質膜(サンマップLCシリーズ、日東電工株式会社)を固定し、その上面の16mm×23mmの領域に、ITO膜をスパッタ法により約100nmの厚さになるように成膜することによって、第3の表示電極を形成した。この第3の表示電極の電極端部間のシート抵抗を測定したところ、約200Ωであった。
【0105】
次に、このように第3の表示電極が形成されたガラス基板上に、酸化チタンナノ粒子分散液としてSP210(商品名:昭和タイタニウム社製)をスピンコート法により塗布し、120℃で15分間アニール処理を行うことによって、酸化チタン粒子膜を形成し、引続いて、前述の式[化4]で表されるビオロゲン化合物の1wt%2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール溶液を塗布液としてスピンコートし、120℃で10分間アニール処理を行うことによって、酸化チタン粒子とエレクトロクロミック化合物からなる第3のエレクトロクロミック層を形成した。その後、第3の表示電極及び第3のエレクトロクロミック層が形成されたポリエチレン多孔質膜を、ガラス基板から剥離した。
【0106】
(対向電極の形成)
第1〜第3の表示電極等を形成したガラス基板とは別に、30mm×30mmのガラス基板(対向基板)を準備し、準備したガラス基板の上面の全面に、酸化スズよりなる透明導電性薄膜を成膜した。更に、この酸化スズよりなる透明導電性薄膜が全面に成膜されたガラス基板の上面に、1次粒径30nmの酸化スズ粒子(三菱マテリアル社製)を2,2,3,3−テトラフルオロプロパノールに分散させた20wt%2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール分散液を、スピンコート法により約2μmの厚さになるように塗布し、120℃15分間アニール処理を行うことによって、対向電極を形成した。
(エレクトロクロミック表示装置の作製)
対向基板上に第3のエレクトロクロミック層と第3の表示電極とポリエチレン多孔質膜との積層体、第2のエレクトロクロミック層と第2の表示電極とポリエチレン多孔質膜との積層体、第1のエレクトロクロミック層と第1の表示電極とポリエチレン多孔質膜との積層体を重ねて置き、次に過塩素酸テトラブチルアンモニウムをジメチルスルホキシドに0.1Mで溶解して調製した電解質溶液を上から滴下し、75μmのスペーサを介して別のガラス基板を表示基板として貼り合わせ封入することでエレクトロクロミック表示装置を作製した。
【0107】
本実施例にて作製したエレクトロクロミック表示装置は、第1の多孔質膜、第1の表示電極、第1のエレクトロクロミック層、第2の多孔質膜、第2の表示電極、第2のエレクトロクロミック層、第3の多孔質膜、第3の表示電極、第3のエレクトロクロミック層が積層された構造を有する。第1の表示電極や第1のエレクトロクロミック層等の構造は、前述の図3Hと同様である。
【0108】
(電極間抵抗の測定)
作製したエレクトロクロミック表示装置について、第1の表示電極と第2の表示電極の間及び第2の表示電極と第3の表示電極の間の電極間抵抗の測定を行った。表示電極の電極端部間のシート抵抗の約500倍である100kΩ以上の良好な絶縁性が得られた。
【0109】
(発消色試験)
実施例4で作製されたエレクトロクロミック表示装置に電圧を印加し、発色の評価を実施した。印加電圧は3.0Vとし、印加時間は2秒とした。なお、表示電極は負極に接続され、対向電極は正極に接続された。
【0110】
第1の表示電極と対向電極間に電圧を印加することによって青を、第2の表示電極と対向電極間に電圧を印加することによって緑を、第3の表示電極と対向電極間に電圧を印加することによってマゼンタを独立して発色することができ、又、独立して一旦発色された発色を安定に保持することができた。
【0111】
以上、好ましい実施の形態及び実施例について詳説したが、上述した実施の形態及び実施例に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態及び実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0112】
10、21 エレクトロクロミック表示装置
11 表示基板
12 対向基板
12a 対向電極
13a 第1の表示電極
13b 第2の表示電極
13c 第3の表示電極
14a 第1のエレクトロクロミック層
14b 第2のエレクトロクロミック層
14c 第3のエレクトロクロミック層
15 多孔質膜
15a 第1の多孔質膜
15b 第2の多孔質膜
15c 第3の多孔質膜
16 電解質層
17 スペーサ
20a、20b、20c エレクトロクロミック表示要素
【先行技術文献】
【特許文献】
【0113】
【特許文献1】特表2001−510590号公報
【特許文献2】特開2003−121883号公報
【特許文献3】特開2006−106669号公報
【特許文献4】特開2003−270671号公報
【特許文献5】特開2004−151265号公報
【特許文献6】特開2009−163005号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示電極とエレクトロクロミック層との積層体と、
前記積層体の前記表示電極側又は前記エレクトロクロミック層側の何れか一方側に設けられた貫通孔を有する膜と、
前記表示電極と対向する対向電極が設けられた対向基板と、を有するエレクトロクロミック表示装置。
【請求項2】
前記膜中の少なくとも一部に、前記エレクトロクロミック層を構成する材料の少なくとも一部を含む請求項1記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項3】
前記表示電極と前記対向電極とは電解質を挟持しており、
前記膜は、前記電解質に対して不活性であり、かつ、透明な材質から構成されている請求項1又は2記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項4】
前記積層体を複数個有する請求項1乃至3の何れか一項記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項5】
複数個の前記積層体のそれぞれの前記表示電極側又は前記エレクトロクロミック層側の何れか一方側に前記膜が設けられている請求項4記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項6】
前記エレクトロクロミック層は、エレクトロクロミック化合物と、前記エレクトロクロミック化合物を担持した金属酸化物と、を有する請求項1乃至5の何れか一項記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項7】
前記対向基板と反対側の表示面に透明な基板を有する請求項1乃至6の何れか一項記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項8】
前記透明な基板の前記対向基板側の面に透明な封止層を有する請求項7記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項9】
貫通孔を有する膜上に、表示電極とエレクトロクロミック層とを形成する第1工程と、
対向基板に対向電極を形成する第2工程と、
前記第1工程及び前記第2工程よりも後に、前記膜と前記対向基板とを電解質を挟んで貼合せる第3工程と、を有するエレクトロクロミック表示装置の製造方法。
【請求項10】
前記第1工程は、
前記膜上に、第1の表示電極と第1のエレクトロクロミック層とを形成する工程と、
前記第1の表示電極及び前記第1のエレクトロクロミック層が形成された前記膜上に、第2の表示電極と第2のエレクトロクロミック層とを形成する工程と、を含む請求項9記載のエレクトロクロミック表示装置の製造方法。
【請求項11】
前記第1工程は、
前記膜上に、第1の表示電極と第1のエレクトロクロミック層とを形成する工程と、
他の前記膜上に、第2の表示電極と第2のエレクトロクロミック層とを形成する工程と、
前記第1の表示電極及び前記第1のエレクトロクロミック層が形成された前記膜と、前記第2の表示電極及び前記第2のエレクトロクロミック層が形成された他の前記膜とを積層する工程と、を含む請求項9記載のエレクトロクロミック表示装置の製造方法。
【請求項12】
前記第1工程において、前記表示電極、前記第1の表示電極、又は前記第2の表示電極を真空成膜により形成し、
前記エレクトロクロミック層、前記第1のエレクトロクロミック層、又は前記第2のエレクトロクロミック層をスピンコート又はスクリーン印刷により形成する請求項9乃至11の何れか一項記載のエレクトロクロミック表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【図3H】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−209688(P2011−209688A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265426(P2010−265426)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】